透光性遮熱シートの製造方法、該製造方法により製造した透光性遮熱シート、これを利用した障子シート、ブラインドのスラット、開口建具用のシートおよび開口建具
【課題】採光性と断熱性に加え、日射遮蔽係数に優れた、繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法、該製造方法により製造した透光性遮熱シートと、これを用いた部材の提供。
【解決手段】本発明に係る透光性遮熱シートは繊維構造体からなり、この繊維構造体は、少なくとも光反射性の繊維が三次元的に配置されていることにより通気性を有し、繊維構造体の一方の面側から他方の面側が透けて見えることがないように形成されている。光反射性の繊維が三次元的に配置されて形成された通気性を有する繊維構造体からなり、可視光透過率が15%以上、熱伝導率が0.045W/m・K以下、日射熱取得率が0.4以下である。
【解決手段】本発明に係る透光性遮熱シートは繊維構造体からなり、この繊維構造体は、少なくとも光反射性の繊維が三次元的に配置されていることにより通気性を有し、繊維構造体の一方の面側から他方の面側が透けて見えることがないように形成されている。光反射性の繊維が三次元的に配置されて形成された通気性を有する繊維構造体からなり、可視光透過率が15%以上、熱伝導率が0.045W/m・K以下、日射熱取得率が0.4以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性と断熱性を有し遮熱性すなわち日射遮蔽率の高いシートの製造方法、該製造方法を利用した障子シート、ブラインドのスラット、開口建具用のシートおよび開口建具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内部への熱負荷を小さくするために、屋根や壁の断熱性が改良されてきており、これに比べて相対的に窓の断熱性が劣った状態になっている。また、窓は屋根や壁とは異なり、室内への採光を前提としているため、特に夏季は日射による熱の取得が室内環境を悪化させ、冷房負荷を大きなものにしている。つまり、窓の断熱性や遮熱性を向上させることは、建物内部への熱負荷を小さくすることに繋がり、室内環境を改善するための非常に重要な技術となっている。
【0003】
例えば、窓ガラスを複層化することで窓の断熱性を高める技術が広く知られている。また、窓ガラスそのものに日射を遮蔽する性能を付与したものがあるが、かなり高価である。このように窓ガラスの構造や材質等を改良することで、窓の断熱性や遮熱性を向上する技術が広く知られているが、窓ガラスは建物の一部であり、その取替えは困難であることから、例えば夏季とは逆に冬季には日射をできるだけ取り入れたいというように、季節によって窓の性能を変えたいという要求を満たすために、カーテンやブラインド、和室においては和障子などが利用されている。
【0004】
カーテンやブラインド、和障子などの中には、2以上の性能を兼ね備えているものが知られており、例えば特許文献1には、ポリエステル生地の基布の少なくとも片面に、主としてポリウレタン樹脂からなる多孔質膜を形成することで製造され、断熱性と遮光性を兼ね備えたカーテン用素材としてのシートが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、可視光透過性と遮熱性を有する遮熱シートが開示されている。この遮熱シートは、熱線吸収剤または熱線反射剤を熱可塑性樹脂のフィラメントに塗布、印刷または練り込んだ後に、熱線(赤外線)吸収性又は反射性を有するシートとして形成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−068586号公報
【特許文献2】特開2004−238784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の遮光性カーテン用素材では、ポリウレタンの多孔質膜により断熱性は得られるが、日射が遮断されるため遮熱性は得られるものの可視光まで遮断されて、カーテンを閉めた状態では当然に採光性が得られない。
【0008】
また、特許文献2の遮熱シートでは、日射に含まれる熱線(赤外線)が吸収・反射され可視光は通し遮熱性と採光性は得られるが、通風性の確保を前提としており高い断熱性は期待できない。
【0009】
このように、透光性と遮熱性、さらに断熱性をバランスよく兼ね備えているものは知られていない。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、採光性と断熱性に加え、日射遮蔽係数に優れた、繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法、該製造方法により製造した透光性遮熱シート、これを用いた部材を提供することを目的としている。日射遮蔽係数は、太陽光に含まれる熱線(赤外線)をカットする割合で、この係数が高ければ高いほど建物への冷房負荷が小さいものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定のシートを用いることにより、上記課題を解決されることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る透光性遮熱シートの製造方法は、光反射性の繊維が三次元的に配置されて形成された繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法であって、前記繊維構造体の厚みに応じて変化する前記繊維構造体の密度と日射熱取得率の関係において、該日射熱取得率が0.4以下となる範囲で、前記繊維構造体の厚みと密度を選択することにより、所望の日射熱取得率に設定して、可視光透過率が15%以上、熱伝導率が0.045W/m・K以下、日射熱取得率が0.4以下、密度が0.05〜0.2g重/cm3であり、且つ、厚みが10〜1mmとなるように、前記繊維構造体を製造することを特徴とする。
【0013】
さらに、上記製造方法により製造した透光性遮熱シートからなる障子シートとしてもよいし、上記透光性遮熱シートからなるブラインドのスラットとしてもよい。
【0014】
上記透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより光反射率が高い反射材とを使用して2層構造とした開口建具用のシートとしてもよい。
【0015】
また、上記透光性遮熱シートと、透光性遮熱シートより高密度の透光性遮熱シートとを使用して2層構造とした開口建具用のシートとしてもよい。
【0016】
さらに、上記透光性遮熱シートを有し、該透光性遮熱シートの表面側と裏面側の密度が異なる開口建具用のシートとしてもよい。
【0017】
本発明に係る開口建具は、上記いずれかの開口建具用のシートが表裏反転可能に取り付けられたことを特徴とする。
【0018】
前記繊維構造体の引っ張り強力(よこ)が4800N/m以上であり、引っ張り強力(たて)が19800N/m以上である透光性遮熱シートとしてもよいし、前記繊維構造体の破裂強力が1000kPa以上である透光性遮熱シートとしてもよい。
【0019】
前記繊維構造体の繊維が湿熱接着性繊維であり、該湿熱接着性繊維がエチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる繊維としもよい。
【0020】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体とからなり、各々の成分の質量比が90/10〜10/90であり、なおかつ該エチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部を長さ方向に連続して占めるように構成してもよい。
【0021】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が芯鞘型複合繊維であり、このうち鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体からなり、かつ該繊維形成性重合体がポリエステルであるものとしてもよい。
【0022】
なお、本出願において繊維構造体とは、繊維が三次元的に配置されて形成されたものをいう。またシートとは、前記繊維構造体である不織布それ自体やこの不織布を用いたものであり、例えば前記不織布に合成樹脂のフィルムや塗膜を積層したもの、前記不織布に合成樹脂板を積層したもの等も含まれる。
【0023】
このシートの各性質や形状等は限定されず、一定の厚みを有したものに加え、一部に開口があるものや肉厚が一様でないものも含み、平板状のものに限られない。上記合成樹脂のフィルム、塗膜や合成樹脂板については、不透明なものでは前記繊維構造体を通過した可視光が遮られることとなってしまうので透光性の良いもの、特に透明なものが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る透光性遮熱シートの製造方法によれば、採光性と断熱性に加え、とくに日射遮蔽係数に優れた透光性遮熱シートを提供できる。
【0025】
本発明に係る透光性遮熱シートは繊維構造体からなり、この繊維構造体は、繊維が三次元的に配置されて形成され、繊維構造体中の繊維間の空隙により断熱性が発現する。
【0026】
さらに、繊維構造体が通気性を有し、前記繊維構造体を形成する繊維が光を反射又は乱反射する性質を有しているため、直達光が繊維構造体の表側から裏側に向けて繊維構造体をそのまま透過することがない。例えば上記繊維構造体を、窓枠を覆うようなシートとして用いた場合に、太陽光等の直達光がそのままシートを透過せず、一部は室外側へ反射され、一部は繊維構造体内部の連通空間を繊維に反射しながら室内へ届く。このため、直達光が室内に直射することを防止できる一方で、室内は明るい状態とすることができる。
【0027】
よって、採光性かつ断熱性に加えて遮熱性、すなわち日射遮蔽係数に優れた透光性遮熱シートを提供することができる。さらに本発明に係る透光性遮熱シートを用いることで、断熱性を有し日射遮蔽係数に優れた製品(ブラインドのスラットや、ブラインドカーテン、障子紙等)も提供することができる。
【0028】
また、繊維構造体の繊維表面に親水基を有しているものであれば、親水基に水分子が集まるため、この繊維に光が反射する際に、繊維の親水基に集まった水分子により直達光中の赤外線(主に近赤外光)が吸収される一方で、可視光は屈折しながらも通過するため、より採光性と遮熱性が得られる。
【0029】
本発明に係る透光性遮熱シートの製造方法によれば、所望の日射熱取得率の透光性遮熱シートを確実に製造することができる。これにより、透光性遮熱シートからなる障子シートやブラインドのスラットについて、それぞれで求められる所望の性能を満たすものを確実に製造することができる。例えば、温暖地域や寒冷地域といったように使用環境で異なった性能のブラインド等が要求されるときに、この要求を満たすブラインドや障子を確実に製造することができる。
【0030】
また、上記いずれかの透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより光反射率が高い、反射材又は高密度の別の透光性遮熱シートを使用して、2層構造とした開口建具用のシートとすることにより、以下のように夏季と冬季で室内の暖房や冷房効率を高めることができる。
【0031】
具体的には、夏季の日射が射し込む窓際に開口建具を設け、2層構造のうち高光反射率の層を室外側とするとともに低光反射率の層を室内側とした場合、日射に含まれる熱線が高光反射率の層により効率よく反射される。また、反射しきれなかった熱線は隣接する低光反射率の層で吸収される。このため、熱線が室内に届きにくいものとなる。
【0032】
逆に、冬季にこのシートを表裏反転して使用すると、例えば室内の赤外線ヒータからの近赤外線が高光反射率の層により効率よく反射される。また、反射しきれなかった熱線は隣接する低光反射率の層で吸収される。このため、室内の熱が逃げにくいものとなる。このように、暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0033】
さらに、上記透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより高密度の透光性遮熱シートとを使用して2層構造のシートとする場合、つまり高密度とすることで高光反射率である層を実現し、低密度とすることで低光反射率の層を実現した場合には、上記効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0034】
上述した夏季の場合では、室外側の高密度・高光反射率の層、つまり親水性の繊維構造体が高密度の層として存在することから、外気の湿気が室内側に移動しにくく、透湿抑止効果が得られる。さらに室内側の低密度・低光反射率の層が空気を多く含むことにより、断熱効果が得られ室内エアコン等からの冷熱が室外へ漏出しにくい。
【0035】
逆に、冬季に2層構造のシートを表裏反転した場合、室内側の高密度・高光反射の層により、上記と同様の理由から室内の湿気が室外側に移動しにくく、透湿抑止効果が得られる。さらに室外側の低密度・低光反射率の層が空気を多く含むことにより、断熱効果が得られ外気からの冷気が室内へ侵入しにくい。さらに冬の日射が室外側の低密度・低光反射の層に直射され、ここに熱が吸収され蓄熱される。
【0036】
このように、暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0037】
上記透光性遮熱シートの表面側と裏面側の密度とを異ならせても、同様に暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0038】
さらに、上記開口建具用のシートを表裏反転可能に取り付けられた開口建具とすることで、季節や天候に合わせて必要に応じて開口建具用のシートを表裏反転できるので季節や天候に応じて簡単に上記暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0039】
また、上記した繊維構造体を引っ張り強力(よこ)が4800N/m以上、且つ、引っ張り強力(たて)が19800N/m以上のものとすれば、より変形しにくい障子紙やブラインドのスラットを提供することができる。
【0040】
さらに、上記繊維構造体を破裂強力が1000kPa以上のものとすれば、より破れにくい障子紙やブラインドのスラットを提供することができる。
【0041】
さらに、前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる透光性遮熱シートとすることで、繊維構造体の加工性を確保できる。これは、ビニルアルコール単位のモル%が多いほど、繊維が柔らかくなることによる。
【0042】
さらに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体の各成分の質量比が90:10〜10:90であることにより、所望の性質を有する繊維とすることができる。
【0043】
また、このエチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部が長さ方向に連続して占める構成とすれば、繊維同士の接着がより確実となる。
【0044】
繊維構造体における湿熱接着性繊維が芯鞘型複合繊維であり、このうち鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体であることにより、芯成分の繊維形成性重合体にさまざまな共重合体を選択することができ、透光性遮熱シートとしての性質を所望の性質(柔らかさなど)とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る実施例1〜10の繊維構造体の目付、厚み、密度及び可視光透過率を示す表である。
【図2】本発明に係る実施例1〜6の繊維構造体の可視光透過率と目付(2mm厚一定)との関係を各実施例から得られた累積近似式(CAL式1)により示す図である。
【図3】本発明に係る実施例11〜13の繊維構造体の密度と熱伝導率を示す表である。
【図4】本発明に係る実施例11〜13の近似式(CAL式2)により算出した密度別の熱伝導率データを示す表である。
【図5】本発明に係る実施例11〜13の繊維構造体の密度と熱伝導率の関係、各実施例から得られた図3の実測値、この近似式(CAL式2)、およびその算出データ(図4)を示す図である。
【図6】本発明に係る実施例14〜21と比較例1〜3の繊維構造体の密度と日射透過率、日射反射率、日射熱取得率(夏、冬、夏冬平均値)を示す表である。
【図7】本発明に係る実施例14〜21の繊維構造体の密度と日射熱取得率(夏、冬)の関係、各実施例から得られた近似式(CAL式3〜6)を示す図である。
【図8】本発明に係る実施例22〜29と参照例1〜3の繊維構造体の厚み(mm)、各実施例の夏冬平均の日射熱取得率を示す図である。
【図9】本発明に係る実施例22〜29、参照例1〜3の繊維構造体の厚み(mm)と日射熱取得率(夏冬平均値)の関係と、各例から得られた近似線を示す図である。
【図10】本発明に係る繊維構造体の密度と各要素との関係を示す図である。
【図11】本発明に係る実施例30〜39、各実施例から得た近似式(CAL式7)の算出データ、比較例1〜5のそれぞれの密度と透光性を示す表である。
【図12】図11の各データをプロットした目付および密度と透光性の関係とその近似式(CAL式7)を示すグラフである。
【図13】本発明に係る実施例40,41と比較例6〜10の各繊維構造体の波長域別の光特性を示す表である。
【図14】本発明に係る実施例42,43と比較例11〜15の繊維構造体の引張強力と破裂強力を示す表である。
【図15】本発明に係る実施例44〜47、比較例16〜20の繊維構造体の各通気度、可視光透過率(CAL)、日射熱取得率、熱伝導率、曲げ応力、1.5倍変位応力を示す表である。
【図16】図15の各例の障子紙を用いた障子の特性を示す表である(比較例26を除く)。
【図17】(A)本発明に係る実施例48および比較例23の各障子(室内側の面)の夏季の温度分布を示す図である。(B)本発明に係る実施例48および比較例23の冬季の温度分布を示す図である。
【図18】(A)本発明に係る実施例48の障子の電顕写真(表面)を示す図である。(B)比較例23の障子の電顕写真(表面)を示す図である。(C)本発明に係る実施例48の障子の電顕写真(断面)を示す図である。(D)比較例23の障子の電顕写真(断面)を示す図である。
【図19】(A)本発明に係る実施例52のバーチカルブラインドを窓枠に取り付けた状態を示した図である。(B)(A)のブラインドのスラットをフック取り付けの吊り下げタイプとした場合のバーチカルブラインドのスラットを示す。
【図20】(A)〜(F)実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドについて、照射開始後(4分後,30分後,1時間後)の室内側の各ブラインド表面の温度分布を示す図である。
【図21】(A)図20の測定箇所の温度を示す表である。(B)(A)のグラフを示した図である。
【図22】(A)実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドに照射開始後(4分後,30分後,1時間後)の室内中央の温度を示す表である。(B)(A)のグラフを示した図である。
【図23】実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドに照射開始後(4分後,30分後,1時間後)の室内の床面温度を示す表である。
【図24】(A)実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドに照射時の各ブラインドの垂直面照度、水平面照度を示す表である。(B)(A)ブラインドの垂直面照度を示す表である。
【図25】繊維構造体の密度と厚みを変化させた場合に得られる日射の反射率、吸収率、透過率をそれぞれ示した図である。
【図26】実施例54に係るブラインドスラットを示す斜視図である。
【図27】(A)は、夏季の日射が差し込む室内外を仕切る窓の室内側に実施例54のブラインドスラットを配置した状態の作用を説明する図である。(B)は、冬季に(A)のブラインドスラットを表裏反転した状態の作用を説明する図である。
【図28】実施例55〜58、比較例31,32の各構成における日射の遮蔽率、透過率、反射率をそれぞれ示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る繊維構造体(透光性遮熱シート)を具体的に説明する。
【0047】
本発明に係る透光性遮熱シートは繊維構造体からなり、この繊維構造体は、少なくとも光反射性の繊維が三次元的に配置されていることにより通気性を有し、繊維構造体の一方の面側から他方の面側が透けて見えることがないように形成されている。
【0048】
本発明における繊維構造体を構成する繊維は、光を反射する性質を有することが重要である。すなわち、繊維構造体を形成した場合に明るい色になるものが好ましく、特に好ましくは白色系である。
【0049】
また、不織繊維構造として上記繊維構造体を実現する場合は、湿熱接着性繊維を原料繊維として用いたウェブに高温水蒸気を作用させることで、各々の繊維同士を該接着性樹脂の乾燥時における融点以下の温度にて繊維同士がいわば「スクラム」を組むように湿熱接着させることができ、これにより繊維構造体を得ることで、より高い採光性かつ断熱性に加えて遮熱性、すなわち日射熱取得率の小さい、透光性と遮熱性に加えて軽量性を実現できる。
【0050】
このようにすれば、通常の不織布では得られない「曲げ挙動」と「軽量性」とを両立し、さらに折れ難く、形態保持性および通気性をも同時に確保できる。また、通気性と密接に関連する吸音性にも優れた繊維構造体となる。
【0051】
すなわち、この繊維構造体をシートとして和障子やブラインドなどに適用した場合に、換気用空気をより透過させることができる。また、窓ガラスの窓枠を覆うようにシートを配置して、窓ガラスとシート間の空間とシートを組み合わせて使用することにより、より優れた吸音体とすることもできる。
<繊維構造体の材質>
本発明に用いる上記湿熱接着性繊維を構成する樹脂は、熱により軟化して自己接着または他の繊維に接着するものであり、特に約95〜100℃の熱水で軟化して接着するものが好ましい。例えば、アクリルアミドを一成分とする共重合体、ポリ乳酸、エチレン−ビニルアルコール系共重合体などが挙げられる。
【0052】
また、高温水蒸気により容易に実現できる温度において、流動ないし容易に変形して接着機能を発現可能な、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン系エラストマー樹脂なども含まれる。このうち、特に好ましく用いることができるのはエチレン−ビニルアルコール系共重合体である。
【0053】
ここで、湿熱接着性繊維あるいは湿熱接着性成分として好ましく用いられるエチレン−ビニルアルコール系共重合体として、ポリビニルアルコールにエチレン単位が10〜60モル%共重合されたものが用いられる。特にエチレン単位が30〜50モル%共重合されたものが、繊維構造体の加工性を確保する上で好ましい。また、ビニルアルコール部分は95モル%以上のケン化度を有するものが好ましい。
【0054】
エチレン単位が多いことにより、湿熱接着性を有するが熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。重合度は必要に応じて選択できるが、通常は400〜1500程度である。
【0055】
エチレン単位の含有量が10モル%未満の場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の水で容易に膨潤・ゲル化してしまい、水に一度濡れると形態が変わってしまう場合がある。また、60モル%を超えると吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現しにくくなるため、実用性のある物性を確保できなくなる場合がある。
【0056】
これらの樹脂からなる湿熱接着性繊維の断面形状は、特に限定はなく、一般的な中実断面形状である丸断面や異型断面形状に限らず、中空断面形状等、種々の断面形状とすることができる。
【0057】
さらには、他の重合体との複合繊維であってもよく、その複合形態においては、湿熱接着性樹脂が繊維表面において、その一部あるいは全部が長さ方向に連続して存在するものであれば特に限定はない。
【0058】
例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、多層貼合型、ランダム複合、放射状貼合型等を挙げることができる。あるいは他の繊維形成性重合体からなる繊維に湿熱接着性を有する樹脂をコートした繊維でもよい。
【0059】
複合繊維とした場合の湿熱接着性樹脂以外の樹脂あるいは、湿熱接着性樹脂をコートする相手の繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン等からなる樹脂成分あるいは繊維を挙げることができるが、耐熱性、寸法安定性等の点で融点がエチレン−ビニルアルコール系共重合体より高いポリエステル、ポリアミド等が好ましく用いられる。
【0060】
ポリエステルとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボフェノキシ)エタン、4,4−ジカルボキシジフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオールからなる繊維形成性のポリエステルを挙げることができ、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが好ましい。
【0061】
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12を主成分とする脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドを挙げることができ、少量の第3成分を含有するポリアミドでもよい。
【0062】
また、前記ポリエステル、ポリアミド以外の繊維形成性重合体との複合繊維の場合は、この繊維を構成する湿熱接着性樹脂の該複合繊維における質量比が90を超えると、他の樹脂が繊維の形態を保持できなくなり、複合繊維そのものの強度を充分に確保することが困難となる。
【0063】
逆に、湿熱接着性樹脂の該複合繊維における質量比が10未満であると、湿熱接着性樹脂の量が少ないために、この樹脂層が繊維形態を保持できなくなり、長さ方向に連続した樹脂層を保持することが極めて困難になるばかりか、この比率では充分な繊維接着強度を確保することができなくなる。これは、湿熱接着性樹脂を繊維にコートする場合においても同様である。
【0064】
次に、このような湿熱接着性繊維のみの単一の繊維あるいは湿熱接着性樹脂を一成分とする複合繊維を後述する繊維構造体の製造方法によりウェブ化し、繊維固定して目的の繊維構造体とするが、この際に繊維構造体は、繊維が三次元的に配置されており、表面側から裏面側が透けて見えないことが重要である。
【0065】
このようなウェブを製造する際、必要に応じて他の繊維を混合してもよいが、この場合、湿熱接着性繊維の混率は、20質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。湿熱接着性繊維の割合が多いほど、硬質な繊維構造体に仕上げることが容易になる。この繊維が20質量%未満になると、充分な硬度を確保することができなくなるばかりか、繊維構造体としての取扱性を保持することさえも困難になる。
【0066】
上記したように繊維同士が「スクラム」を組んだような構造を有し、かかる構造が厚み方向に沿って均一に分布するような形態であることが望ましい。このようにすることにより、シートの厚み方向に沿って配向している繊維が減って繊維配列の乱れが抑制され繊維構造体内に不要な空隙が減り、繊維構造体の硬度を低減しにくいものとなる。
【0067】
これら構成繊維は、各々その接点で接着しているのであるが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が繊維構造体表面から中央、そして反対側の表面に至るまで、厚み方向に沿って均一に分布していることが好ましい。
【0068】
また、繊維構造体の曲げ応力について、曲げ応力が大きいほど硬い構造体であるということができる。また、測定対象となる構造体を破壊するまでの曲げ量(変位)が大きいほどよく曲がる構造体であるといえる。繊維構造体を湿熱繊維の不織構造とすると、少なくとも一方向における曲げ応力が0.05MPa以上とすることができる。
【0069】
この曲げ量(変位)とそれによる曲げ応力との相関を見ると、最初、曲げ量の増加とともに応力も増加する。
【0070】
本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、測定サンプル固有の曲げ量に到達すると、その後は徐々に応力が低くなる。すなわち、上に凸の放物線状のカーブを描く相関を示す。
【0071】
本発明の繊維構造体は、曲げ応力のピークを超えて、さらに曲げようとした場合においても、急激な応力降下を生じることなく、いわゆる「粘り」を有することも特徴の一つである。かかる「粘り」をあらわす指標として、本発明者らは、曲げ応力のピーク時の変位を超えた状態において残っている曲げ応力を用いた。
【0072】
すなわち、繊維構造体を湿熱繊維の不織構造とすることで、曲げ応力のピークを示す変位の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(以下、「1.5倍変位応力」と表現することがある)を、ピーク応力値の1/10以上に維持させることができる。
<繊維構造体の性能>
上述したように本発明における繊維構造体を構成する繊維は、光を反射する性質を有し、この繊維を用いた本発明に係る繊維構造体は、繊維が三次元的に配置されており、表面側から裏面側が透けて見えることがなく、繊維構造体を形成した場合に効果的に日射光を反射し、日射遮蔽係数に優れている。
【0073】
また、本発明における繊維構造体は繊維間に空隙を有し、この空隙は、スポンジのような樹脂発泡体と異なり各々が独立したものではなく連続し、繊維構造体の一方側から他方側へ連通している。このため、本発明に係る繊維構造体は、優れた通気性、断熱性や軽量性を確保できる。
【0074】
このような構造は、繊維構造体を不織繊維構造とする場合には、樹脂を含浸したり、繊維構造体表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成させるという、これまでの一般的な不織布を硬質化する手法では、製造することが極めて困難なものである。
<繊維構造体の形態>
本発明に係る繊維構造体は、それ自体あるいはそれと他の部材との組合せで使用することができる。たとえば、上述したように密度、目付、厚みを所定の範囲とした繊維構造体それ自体を用いて、カーテンやブラインドのスラットを形成することもできるし、本発明における湿熱接着性繊維を含み不織繊維構造を有する繊維構造体と和障子の枠に接着した状態としてもよい。
【0075】
その際、貼り付けた和障子の接着剤が表面の構成繊維に貼り付くとともに、繊維空隙に楔の如く入り込むことで強固な接着を実現できるというメリットもある。
【0076】
これら接着に用いる接着剤は、酢酸ビニル系接着剤など、当該面材、当該繊維構造体、仕上げ材、反射体等が強力に接着され、出来上がった透光性遮熱シートの性能を損ねないものであればよい。また、接着剤は接着箇所によって種類を換えて使用しても差し支えない。接着材に変えて両面粘着テープ等を使用して接着することも可能である。
【0077】
この他に、本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、すでに述べたように繊維接着点を厚み方向に均一に有することにより、良好な形態保持性も有している。
【0078】
すなわち、通常の不織繊維構造の繊維構造体では、バインダー等により必要な曲げ硬さを確保できたとしても、基本的に繊維同士の接着が少ないため、例えば5mm角程度の小片にカットした場合、わずかな外力により繊維構造体を構成する繊維が離脱し、最終的にはバラバラになってしまう。
【0079】
これに対し、本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、繊維同士が緻密にかつ均一に接着しているため、小片にカットした場合でも繊維がバラバラにならず、十分に形態を保持できる。これは繊維構造体を切断した際の発塵性が小さいことを意味している。
【0080】
本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、一般的な不織布と同程度の低密度でありながら、極めて高い曲げ強度を有し、かつ通気性も有しており、このような性能を利用して、採光遮熱シート以外の多くの用途に応用できる。例えば、窓ガラスと空気層を介して設置することにより、効果の大きい吸音性パネルとしても使用できる。
<繊維構造体の製造方法>
その概略は以下における実施例等で明らかであるが、詳細には以下の方法である。
【0081】
本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体を製造する方法については、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。
【0082】
ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。
【0083】
これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。これらのウェブのうち、束状融着繊維の割合を多くする場合には、セミランダムウェブ、パラレルウェブが好ましい。
【0084】
次に、得られた繊維ウェブを、ベルトコンベアにより次工程へ送り、次いで過熱又は飽和の高温水蒸気(高圧スチーム)流に晒すことにより、本発明の不織繊維構造を有する成形体が得られる。
【0085】
すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、前記蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により繊維同士が三次元的に接着される。
【0086】
また、繊維構造体を構成する繊維の配列状態等を調整することにより、例えば構成繊維が概ね不織布(シート)面に対して平行に配列し、さらにこれら繊維同士をできるだけそれらの交点において接着させることで、上記ウェブから、より曲げ硬さと軽量性をバランスよく備えた繊維構造体を得ることもできる。
<透光性遮熱シート>
本発明に係る透光性遮熱シートは、上記繊維構造体のみからなるシートとするとともに、この上記繊維構造体であるシートを、0.05〜0.2g重/cm3の密度(目付50〜2000g重/m2、および厚み10〜1mm)とすることで、シートを可視光透過率10%以上、熱伝導率0.045W/m・K以下、および日射熱取得率を0.4以下とすることができる。このシートの密度、目付、厚みについては、シート全体に渡って一様でなくともよい。
(密度)
シートの密度は0.05〜0.20g重/cm3が好ましく、0.07〜0.15g重/cm3、さらに好ましくは0.10〜0.15g重/cm3である。シートの密度が0.05g重/cm3未満の場合には、軽量性を有するものの、十分な曲げ硬さの確保やシートの形状を保持することが難しくなる。逆に、シートの密度が0.20g重/cm3を超えると、シートの硬さは十分確保できるが十分な透光性を得るのが難くなる。
【0087】
この密度は、シートの引張強力に主に影響を与えるが、シートの引張強力については、2620N/m以上であることが好ましい。(目付)シートの目付は、50〜2000g/m2の範囲にあることが好ましく、より好ましくは150〜1000g/m2であり、さらに好ましくは200〜600g/m2である。シートの目付が50g/m2未満の場合は、シートの硬さを確保することが難しく、また、目付が2000g/m2を超えると、後述する工程において、ウェブが厚くなって、高温水蒸気が十分にウェブ内部へ入り込みにくいことによる。
【0088】
この目付はシートの可視光透過率に主として影響を与え、このシートの可視光透過率は10%未満であると障子やブラインド等の製品とした場合に採光不足となり好ましくない。(厚み)また、シートの厚みは1〜10mmの範囲にあることが重要であり、好ましくは1.5〜7mmであり、より好ましくは1.5〜5mmである。シートの厚みが1mmより薄い場合には十分な断熱性が得にくく、十分な断熱性を得るために例えばシートの密度を上けると、シートの他の性能に影響が及ぶ。
【0089】
逆に、シート厚みが10mmより厚い場合には十分な透光性が得にくく、十分な透光性を得るためにシートの密度等を下げると、シートの他の性能に影響が及ぶ。
(熱伝導率)
シートの熱伝導率は、0.045W/m・K以下であることが好ましく、0.040W/m・K以下であることがより好ましい。繊維構造体の熱伝導率が0.045W/m・Kを超えると日射により加熱されて高温となったシートの日射面の熱が室内側に多量に伝達されることとなり好ましくない。
(日射熱取得率)
さらに冷房負荷の指標であるシートの日射熱取得率は0.4以下であることが好ましい。シートの日射熱取得率が0.4を超えると室内に熱が多く進入することとなる。さらに、本発明に係る透光性遮熱シートを、湿熱性繊維を用いて上述したように製造した不織繊維構造の繊維構造体のみを用いたものとすれば、より適した圧縮強度、曲げ強度といった機械的強度を有する透光性遮熱シートが得られる。これにより透光性遮熱シートを軽量かつ安価にすることができる。
(密度と日射との関係)
図25に示すように、繊維構造体を用いて例えばバーチカルブラインドのスラットを形成し、厚みを5mmの一定としてスラットの密度を変更していくと、スラットの密度に応じてスラットに差し込む日射の反射率、吸収率、透過率が変化する。
【0090】
繊維構造体の密度を変更することにより、所望の性能を発揮するバーチカルブラインド等の開口建具を製造することができる。
【0091】
本発明の透光性遮熱シートは、上記のような特長を有しているので、透光性遮熱シート単体として有効に使用される他、枠体や他の面状体と組み合わせることにより、透光のある窓間仕切りパネル、可動間仕切りパネル、天井材、床材、衝立、ドア、屏風などにも有効に使用することができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明に係る透光性遮熱シートを実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下の方法により測定した。なお、各実施例の試験数(n)は3としてこれを平均した。(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトインデックス(MI)JISK6760に準じ、190℃、21.2N荷重の条件下、メルトインデクサーを用いて測定した。(2)目付(g/m2)JISL1913に準じて測定した。(3)厚み(mm)、密度(g重/cm3)JISL1913に準じて厚みを測定し、この値と(2)の方法で測定した目付とから密度を算出した。(4)通気度(cm3/cm2/秒)JISL1096に準じ、フラジール形法にて測定した。(5)曲げ応力(MPa)JISK7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは25mm幅×80mm長のものを用い、支点間距離50mm、試験速度2mm/分にて測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大応力(ピーク応力)を曲げ応力とした。なお、曲げ応力測定は、MD方向およびCD方向について行った。ここで、MD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるよう測定サンプルを採取して測定した状態をいい、一方、CD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるよう測定サンプルを採取し、測定した状態をいう。(6)1.5倍変位応力(MPa)(5)における曲げ応力の測定において、曲げピーク応力を示す変位を超え、さらにその変位の1.5倍の変位まで曲げ続けたときの応力を1.5倍変位応力とした。(7)可視光透過率分光光度計により、全波長域平均法により測定した。可視光線として400〜800nmの波長域を用いた。使用機器は、日本分光(株)、V−570型分光光度計INS−470型積分球を用いた。(8)熱伝導率JISA1412−2(熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法−第2部:熱流計法(HFM法))に従った。(9)日射熱取得率(η)、日射遮蔽係数(SC値)日射熱取得率(η)は、ガラスに入射する日射を1.0とした場合、室内に流入する熱量(直接透過と室内側再放射の和)の割合を示す数値である。
【0093】
日射遮蔽係数(SC値)は、窓面の日射の遮蔽性能を示す。日射熱取得率を用いた指標なので、日射遮蔽係数が大きいほど遮蔽効果は小さい。日射熱取得率が小さいほど日射遮蔽係数が小さく、冷房負荷が小さい。
【0094】
日射遮蔽係数、日射熱取得率については、JISR3106(ガラス類の透過率・反射率・日射熱取得率の試験方法)に準拠した。日射熱取得率(η)を用い、厚み3mmの透明ガラスを基準に下記式により、日射遮蔽係数(SC値)を求めた。
【0095】
SC=η(試料)/η(厚み3mm透明ガラス)
η(厚み3mm透明ガラス)=0.86
(繊維構造体の製造)
[製造例1]
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%、芯鞘比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(クラレ社製、「ソフィスタ」、3dtex、51mm長、捲縮数21個/インチ、捲縮率13.5%)を準備した。上記芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約300g/m2のカード(くしけずり)したパラレルのウェブを作成した。
【0096】
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレス金網を装備したベルトコンベアに移送した。なお、該ベルトコンベアの金網の上方には同じ金網が対向するように装備されており、それぞれが同じ速度で上流から下流へと同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。この間隔により繊維構造体の厚みを調節できる。
【0097】
また、繊維構造体の密度については、このベルト間に入れるウェブの重量を加減して制御して行う。例えば、重量500g/m2のウェブをベルト間10mmの条件で処理すれば、密度0.05g/ cm3の繊維構造体を作成できる。
【0098】
次いで、ベルトコンベアに備えられた蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、該装置から0.4MPaの飽和の高温水蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して蒸気処理を施し、その後乾燥させて本発明に係る硬質の繊維構造体を得た。
【0099】
該蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に、コンベアネットを介して飽和の高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるように過熱水蒸気噴射ノズルが設置され、もう一方のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向下流側には、ノズルとサクション装置の配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一つ設置されていた。
【0100】
なお、過熱水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、該ノズルがコンベア幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられたものを使用した。加工速度は3m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は5mmとした。
【0101】
得られた繊維構造体は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べ非常に硬く、曲げ応力ピークを超えても破壊せず、極端な応力の低下もなかった。また、形態保持性試験を行っても形状の変化はなく、質量も減少せず、きわめて良好な結果が得られた。得られた繊維構造体の性能等については次のとおりである。
<繊維構造体>
(可視光透過率)
[実施例1〜6]
製造例1で図1(上の表)に示すように厚みを2mmの一定とし、目付(g/m2)を調節することで密度(g重/cm3)を変化させて不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の可視光透過率(%)を測定した。
[実施例7〜10]
製造例1で図1に示すように密度と厚みを変化させて不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の可視光透過率(%)を測定した。
【0102】
厚みを2mmの一定として密度変化させた実施例1〜6の可視光透過率のそれぞれについて、累積近似したところ、非常に高い相関を示した。この累積近似式をCAL1式として図2に示す。図2から目付400g/m2以下(密度0.2g重/cm3以下)で可視光透過率の変化率が大きく、可視光透過率が高い。
【0103】
実施例7〜10から、繊維構造体の目付を変えずに厚みのみを増していくと厚みが増すかわりに密度が下がるため、略同じ可視光透過率となる。目付を一定にすれば略同じ可視光透過率を維持したまま繊維構造体の厚みを変えることもできる。
(熱伝導率)
[実施例11〜13]
製造例1で図3の表に示すように厚みを約10mmの一定とし、密度(g重/cm3)を変化させて不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の熱伝導率を評価した。
【0104】
厚みを10mmの一定として密度変化させた実施例11〜13の熱伝導率のそれぞれについて線形近似したところ、非常に高い相関を示した。この近似式をCAL式2として図5に示し、CAL式算出データとして図4に示す。厚み10mmでは密度0.20g重/cm3以下で熱伝導率0.045W/(m・K)未満を達成できる。
(日射熱取得率)
[実施例14〜21]
実施例14〜21では、図6の表に示す条件(厚み、密度)にて製造例1で不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の密度と日射熱取得率の関係を厚み別(約10mm、約5mm、2mm、1mm)に示した(実施例14〜21)。
【0105】
図7に示すように、密度0.20g重/cm3以下で日射熱取得率の変化率が大きい。また、図7から分かるように、繊維構造体の厚み変化によって繊維構造体の日射熱取得率が大きく変化する。
【0106】
なお、この図7では、たとえば厚み10mmや1mmついては、それぞれ一点のみのプロット(実施例14、実施例21)であり、これを通過するように近似線が示されているが、これらの近似は後述する実施例22〜32により担保されている。
【0107】
繊維構造体の厚みが10mmの場合は、少なくとも密度0.05g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が約0.2以下となる。厚み5mmの場合は、少なくとも密度約0.05g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が0.3以下となる。厚み2mmの場合は、密度約0.06g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が0.4以下となる。厚み1mmの場合は、密度約0.175g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が0.4以下となる。
【0108】
厚みが1mmや2mmの場合でも密度を選択することで日射熱取得率を0.4以下とすることができる。
[実施例22〜29]
実施例22〜29では、製造例1で図8に示す目付、密度、厚みで繊維構造体を形成し、各繊維構造体の夏季と冬季の日射熱取得率(平均値)を評価した。図9に密度別の実施例22〜29、参照例1〜3と、密度別の近似線を示し、密度別の厚みと日射熱取得率との関係を示す。
(各要素の総合比較)
図10にCAL式1、2、5を示し、繊維構造体の密度に応じた各要素(熱伝導率、熱取得率、遮蔽係数、可視透過率)の変化を示す。なお、図10中の矢印は繊維構造体の厚み変化でCAL式1,5の線がシフトすることを示している。
【0109】
まず、エアコン負荷の指標ともなる日射熱取得率(η)、日射遮蔽係数を低いものとするには、密度に応じた変化量が底打ち横ばいとなる密度0.05g重/cm3以上が好ましい。しかし、密度が大きくなると可視光透過率が低下するため、この変化量が特に底打ちとなる前の密度0.20g重/cm3付近までとするのが好ましい。熱伝導率については線形に変化するため、上記の2つの要素で決定された密度範囲内(0.20〜0.05g重/cm3)で選択することが好ましい。
<障子紙>
(透光性)
[実施例30〜39]
実施例30〜39では、繊維構造体の目付及び密度と透光性の関係を示すため、製造例1で図11に示すような目付、厚み、密度で繊維構造体を形成し、各繊維構造体について透光性(%)を上記試験方法に従って調べた。各条件と結果は図11,12に示す通りである。図12に示すように、実施例30〜39の透光性(%)の結果を累積近似したところ、高い相関をしめた。これをCAL式7として図12に示す。
[比較例1〜5]
比較例1として塩化ビニル樹脂を和紙の両面にラミネートした「ワーロン障子」(ワーロン社製)、比較例2として高密度ポリエチレンの不織布「タイベック」(デュポン社製、商標登録)を用いた「クール障子」(日本テキスタイル株式会社)、比較例3としてポリエステル70%、パルプ20%、ビニロンバインダー10%の「4倍破れにくい障子」(アサヒペン社製)、比較例4として「モルザ障子」(モルザ社製)、比較例5として「明るく・貼りやすい障子」(アサヒペン社製)のそれぞれについて透光性を評価した。各結果を図11,図12に示す。
【0110】
密度0.05〜0.20g重/cm3の範囲で、繊維構造体の目付(密度)に応じて高い透光性の変化率を示し、これは厚み違いでも略同じ近似線と略同じ位置となる(図11、12参照)。CAL式7から、密度0.05g重/ cm3では20%近い透光性が予想される(図12参照)が、これより低い密度とすると上述したように他の性能(日射熱取得率等)がその分低下する。密度0.20g重/cm3付近では透光性の変化が底打ちとなる少し手前であるため、密度0.05g重/ cm3から密度0.20g重/ cm3までの範囲とするのが望ましい。
[実施例40,41]
実施例40,41では、製造例1で図13に示す通りの条件(目付、厚み)で繊維構造体を製造し、近赤外線(IR:800〜2000nm)、紫外線(UV:280〜400nm)、可視光線(VL:400〜800nm)を透過性について評価した。
【0111】
なお、紫外線遮蔽率の測定と算出は、紫外線カット素材の加工効果統一評価方法(日本化学繊維協会)分光光度計・全波長域平均法を用い、バンドパスフィルターを積分球と検出器の間に設置して行った。また、分光透過率・分光反射率の評価は、上記分光光度計・全波長域平均法で行い、試験機は日本分光社製V−570型分光光度計、INS−470型積分球を用いた。
[比較例6〜10]
比較例6では「クールスクリーン」(タイベック社製)、比較例7では「ワーロン障子」(ワーロン社製)、比較例8では「モルザ障子」(モルザ社製)、比較例9では一般的な和紙の障子、比較例10では「4倍破れにくい障子」(アサヒペン社製)をそれぞれ用いて、図13に示す条件(目付、厚み)にて実施例40と同様に各波長域の透過性について評価した。
【0112】
各実施例40,41と比較例6〜10の結果を図13に示す。
【0113】
実施例40は、厚みが2mmであり比較例6〜10の約10倍の厚みであるが、厚みの割に可視光の透過率が比較的高く、採光性をあまり損ねずに厚みを増して断熱性を確保できる。これは、実施例41のものについても同様である。
[実施例42]
実施例42では、製造例1にて図14の条件(目付,厚み,密度)の繊維構造体を製造し、これを切断してサンプルサイズ15mm幅×150mm長の試験片を3枚作成した。この試験片の端部を試験用の2つのチャックにそれぞれ把持させて試験片を引張し、引張強力(たて、よこ)の評価を行った。なお、この評価は各試験片について行い、チャック間は100mmに設定した。また、試験時の引張のスピードは100mm/分とし、このときのデータをオートグラフで記録した。ここで、「たて」とは試験片の長尺方向の引張強力(MD)をいい、「よこ」(CD)とは試験片の横断方向の引張強力をさす。
【0114】
次に、上記同様に製造例1にて製造した繊維構造体を切断してサンプルサイズ60mm×60mmの試験片を3枚作成し、各試験片についてミューレン低圧形試験機(テスター社製)を使用してJISP8112に従って破断強力(kPa)を測定し平均した。結果を図14に示す。
[実施例43]
実施例43では、図14に示すように、実施例42とは異なる条件(目付,厚み,密度)で製造例1にて繊維構造体を製造し、それ以外は実施例42と同様にして引張強力(N/m)と破断強力(kPa)について評価した。各条件と結果を図14に示す。
[比較例11〜15]
比較例11〜15では、それぞれ図14に示す「クール障子」(比較例11、日本テキスタイル株式会社)、「4倍破れにくい障子」(比較例12、アサヒペン社製)、「ワーロンシート」(比較例13、ワーロン社製)、「明るく・貼りやすい障子」(比較例14、アサヒペン社製)、「モルザ障子」(比較例15、モルザ社製)を実施例42と同様に引張強力(N/m)と破断強力(kPa)について評価した。各結果を図14に示す。
【0115】
実施例42、43のものは、比較例11〜15のものよりも低密度で厚みがあり柔質であるが、比較例のものよりも引張しにくい・破裂しにくい特性を有する。
(曲げ強度)
[実施例44〜47]
図15の表に示す条件(密度、厚み、目付)とし、それ以外は製造例1と同様に不織繊維構造の繊維構造体を製造した。これを障子紙として図15に示す項目(通気度、可視光透過率、日射熱取得率、熱伝導率、曲げ応力、1.5倍変位応力)について評価した(図15参照)。
[比較例16]
製造例1で密度0.25(g重/cm3)とする等、図15に示す条件で不織繊維構造の繊維構造体を製造し、障子紙として実施例44と同様に評価した。
[比較例17]
製造例1で密度0.045(g重/cm3)、厚み20(mm)とする等、図15に示す条件(密度、厚み、目付)で不織繊維構造の繊維構造体を製造し、これを障子紙として実施例44と同様に評価した。
[比較例18]
図15に示す条件(密度、厚み、目付)の「4倍破れにくい障子」(アサヒペン社製)の障子紙について、図15に示す日射熱取得率、熱伝導率及び1.5倍変位応力以外の項目を実施例44と同様に評価した。
[比較例19]
図15に示す条件(密度、厚み、目付)の不織布「タイベック」(デュポン社製、商標登録)を用いた「クール障子」(日本テキスタイル株式会社)について図15に示す日射熱取得率以外の項目を実施例44と同様に評価した。
[比較例20]
図15に示す条件(密度、厚み、目付)の「ワーロン障子」(ワーロン社製)を障子紙について可視光透過率、日射熱取得率について実施例44と同様に評価した(図15参照)。
【0116】
比較例19の各障子紙(クール障子)は、殆ど曲げ強度や1.5倍変位応力を示さないが、実施例44〜47のものは曲げ強度を示し、実施例44〜47の障子紙は比較例18,19の障子紙に比べ曲げに強い(図15参照)。
【0117】
また、比較例19、20のものは、可視光透過率は高いが通気度を殆ど有していない。さらに、比較例16では、密度0.25g重/cm3を超えるものであり、通気性および先述したように可視光透過率を犠牲とし、各性能面でのバランスがとれず好ましくない。比較例17についても同様で密度0.05g重/cm3を下回るものとすると、曲げ応力が低く性能面でのバランスが低い。
<障子>
[実施例48]
次に、実施例44で製造した繊維構造体の障子紙をハサミで切断成形して、障子枠に両面テープで貼り付けて障子とし、この障子について以下のように冬季と夏季に分けてそれぞれ照射試験を行った。
(夏季照射試験)
夏季については、日射しが差し込む部屋の構造や日照などの条件が一定(南向きの4.5畳相当等)の部屋を使用して照射試験を行った。この部屋には約1.8m×1.8m程度のペアサッシが室内外を仕切るように設けられており、上記障子を室内側の窓面に対向するように設置して、室内を略密閉空間とするとともに、窓面と室外側障子面との空間とを略密閉空間とした。
【0118】
また、室内側障子面を撮影可能な状態にサーモカメラを設置し、照度計、室温計を室内照度や室内温度が測定可能な所定の位置に取り付け、日射しが差し込んでから一定時間経過後に遠隔でサーモカメラの撮影と室温等の測定を行った。また、この撮影と測定は外気温が約27〜28℃の条件となる時とした。また、撮影時のペアサッシの外ガラス面の温度は42℃であった。
【0119】
なお、サーモカメラで撮影した床から0.6mの高さ位置の障子面の温度を障子面温度とし、サーモカメラで撮影した障子面からから50cm室内奥の温度を床温度とした(図17参照)。
【0120】
この位置の温度を床温度として計測するのは、冬季においては、室内の窓付近の冷気が降りてくるためコールドドラフトのような現象になり、50cm室内奥でも窓の影響を受けて床温度が下がることによる。また、床温度は室内の奥に行けばいくほど暖かくなっており、50cm(窓付近)が最も冷えていることにもよる。
(冬季照射試験)
冬季については、窓枠を有する試験用部屋のユニット(4畳弱等)を恒温槽内に完全に包まれるように設置等し、障子による冬季の室内の保温性、断熱性を評価した。この試験用部屋の窓枠には室内外を仕切るシングルガラス(約1.8m×1.8m)を設置した。この室内側の窓面に対向するように上記障子を夏季照射試験の場合と同様に取り付け、さらに、上記のような測定・撮影が可能なようにサーモカメラ等を設置し、恒温槽の温度(部屋の外気温度)を5℃に設定した。
【0121】
外気温が5℃となった後、室内暖房を22℃設定(電気ストーブ800Wをサーモスタッドで22℃になるように制御)で7時間行った後、暖房を”切”にしてから1時間後の障子面温度(上記と同じ障子部分)と室内温度をサーモカメラで撮影して計測した。
【0122】
さらにそのままの状態として暖房を”切”にしてから7時間後にも同様の測定し、室温低下を調べた。
【0123】
各条件と結果を図16に示し、サーモカメラで撮影した夏季と冬季の障子の温度分布については図17に示す。
[実施例49〜51]
実施例49では、実施例45で製造した繊維構造体を成形して障子紙として用いて障子とし、実施例48と同様に夏季照射試験を行い、室内照度のみを評価した(図16参照)。また、実施例50,51では、それぞれ実施例46,47で製造した繊維構造体を成形して障子紙として用い、夏季の室内照度と室内温度を実施例48と同様に測定した(図16参照)。
[比較例21,22]
次に比較例21,22では、比較例16、17で製造した繊維構造体を障子紙としたものを用いて障子として夏季照射試験を行い、室内照度と室内温度を実施例48と同様に測定した。
[比較例23〜25]
比較例23〜25では、比較例18〜20の障子紙を用いて障子とし、夏季照射試験と冬季照射試験を行い、各項目を実施例48と同様に測定した(図16参照)。また、比較例23については、サーモカメラで撮影した夏季照射試験と冬季照射試験での障子の温度分布を図17に示した。[比較例26]窓ガラスと障子を取り付けずに、窓を全開にした状態とした以外は実施例48と同様に冬季照射試験を行い、室内温度低下の測定を行った(図16参照)。
(夏効果について)
図17(A)のサーモグラフィの図を参照して、夏季において、比較例23では障子の全面に渡り約44℃の一様な温度分布を示し高温で室温上昇が激しく冷房負荷が大きい。これに対し実施例48では障子の7,8割の領域が34℃〜37℃でひやり感があり冷房負荷が小さい。
(冬効果について)
図16を参照して、実施例48のものは、比較例23〜25の他の障子に比べて、室内暖房を“切”にしてから室内温度が低下しにくい結果となり、冬季の暖房負荷を低減する効果を有する。
【0124】
図17(B)を参照して、比較例23では障子の全面に渡り12〜13℃の一様な温度分布を示し低温で室温低下が激しく、暖房負荷が大きい。これに対し実施例48では障子の7,8割が14℃〜15℃の領域でぬくもり感がある。暖房を“切”にしてから1時間後でもより通気度が低い4倍破れにくい障子(比較例23)より暖かで外の冷気をシャットアウトする効果がある。これは、上述したように繊維構造体が図18に示すように空隙を有していることによる。
<ブラインド>
[実施例52]
実施例52では、製造例1に従って厚み5mm、密度(0.1g重/ cm3)、サイズ(巾90mm,長さ1800mm)のバーチカルブラインドのスラットの形状に加工成形した繊維構造体を製造し、これを複数用いてバーチカルブラインドを形成した。
【0125】
次に、人工気象室(恒温槽内)内に試験用の部屋のユニット(室内間取りは4畳弱で窓を有する)を設置し、窓をシングルサッシでガラス面の大きさは1.8m×1.8mとして設置した。この室内外を仕切る窓に上記のバーチカルブラインドを設置した(図19(A)参照)。
【0126】
その後、恒温槽内(室外側)の外気温度を30℃に設定し、夏至の西日相当のランプ600W/mで窓を介して室内へ照射を開始した。照射開始から4分後、30分後、1時間後にバーチカルブラインドの室内側の面をサーモカメラで撮影し、その温度を計測した。また、床温度、室内中央温度の計測は、実施例48と同様とした。また、照度計を用いてブラインドの各照度(水平、垂直)を計測した。なお、室内の換気は0.5回/時間(h)で行った。各結果を図20(C),図21〜24に示す。
[実施例53]
実施例53では、実施例52のバーチカルブラインドのスラットをレースの袋に入れて、これを実施例52のバーチカルブラインドのスラットの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(B),図21〜24参照)。
【0127】
使用したレースについては、ポリエステルの難燃加工品のトリコット編地(斜め綾調柄)のものを用い、下端に錘(おもり)を取り付けたものを用いた。
[比較例27]
比較例27では、「ハニカム・サーモスクリーン 標準タイプ(パールホワイト)」(セイキ産業社製)を実施例52のバーチカルブラインドの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(A),図21〜24参照)。
[比較例28]
比較例28では、遮熱ブラインド「セレーノ25Q(AX-25Q)C011S(ホワイト)」(ニチベイ社製)を実施例52のバーチカルブラインドの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(D),図21〜24参照)。
[比較例29]
比較例29では、実施例52のバーチカルブラインドを取り外してブラインド等を何も取り付けていない状態で実施例52と同様に試験を行った(図20(E)参照、図21〜24参照)。
[比較例30]
比較例30では、一般バーチカルブラインドとして「ハープ89」(ヨコタ社製)を実施例52のバーチカルブラインドの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(F),図21〜24参照)。
(遮熱性)
(室内側ブラインド面温度)
室内側ブラインド面温度(℃)は、図21に示すように、全体的に一般バーチカル(比較例30)>遮熱ブラインド(比較例28)>ハニカム(比較例27)>FLXレース(実施例53)>FLX(実施例52)となった。
【0128】
実施例52のものは比較例27〜30(比較例29を除く。)よりも室内側ブラインド面の温度が上昇しにくく優れている(図20(B)、21(B)参照)。さらに、実施例52のものにレースを併用した実施例53のものは、ブラインド面の温度が同レベルに低いものなった(図20(B)と他の比較参照、図21参照)。
(室内中央温度)
図22を参照して、室内中央温度(℃)は、全体的に障子無し(比較例29)>ハニカム(比較例27)>FLX(実施例52)>遮熱ブラインド(比較例28)>一般バーチカル(比較例30)>FLXレース(実施例53)となった。
【0129】
照射開始から1時間後には、ハニカムサーモスクリーンを用いた比較例27は一般バーチカルブラインドの比較例30以上に室内中央温度が上昇している。
【0130】
遮熱ブラインドの比較例28については、遮熱性を有するものであるが、1時間日射を浴びると一般バーチカルブラインドの比較例30と変わらない温度となる(図21〜23参照)。これらと比較してFLXレースの実施例53のものはより低い室内中央温度を維持した。
(床温度)
図23を参照して、照射開始から1時間経過した時点の試験室内の床温度(℃)は、障子無し(比較例29)>ハニカム(比較例27)>一般バーチカル(比較例30)>遮熱ブラインド(比較例28)>FLX(実施例52)>FLXレース(実施例53)となった。
【0131】
照射開始から1時間後には、ハニカムサーモスクリーンを用いた比較例27は一般バーチカルブラインドの比較例30以上に床温度が上昇している。
【0132】
夏季においては、ハニカムサーモスクリーンの比較例27より実施例52,53の床温度が低く特に優れているといえる。
<採光性>
(水平面照度, 垂直面照度)
図24を参照して、水平面照度と垂直面照度は、それぞれで障子無し(比較例30)>>ハニカム(比較例27)>一般バーチカル(比較例29)>FLX(実施例52)>FLXレース(実施例53)>遮熱ブラインド(比較例28)となった。
【0133】
照度は比較例27のハニカムサーモスクリーンが最も明るいが、逆に熱を帯び温度上昇の原因となるため性能面でのバランスが低い。遮熱ブラインドについても同様で、遮熱性について照射開始から間もない時点(4分後)の初期性能は高いが、最終的に室温が一般のバーチカルブラインドと同程度となり(図22(A)参照)、また各照度(水平、垂直)は低く暗いものとなる(図24参照)。
(総合評価)
実施例52,53のものは、遮熱ブラインドより明るく、一般バーチカル(比較例30)やハニカム(比較例27)より遮熱性に優れる傾向にあり、性能面でのバランスがよい。
[実施例54]
図26に実施例54のスラットの説明図を示す。
【0134】
実施例54では、製造例1に従って、開口建具として窓際に設置するためのバーチカルブラインド(図19(A)参照)用の繊維構造体からなるスラット2,3をそれぞれ形成した(図26参照)。
【0135】
この際に、スラット2の密度を0.1g/ cm3よりも高く設定し、スラット3の密度を0.1g/ cm3より低く設定して、高密度のスラット2と低密度のスラット3とした。また、スラット2の厚み1mm、スラット3の厚み4mmとし、スラット2,3をほぼ同形状に形成した。
【0136】
そして、このスラット2,3を熱溶着により互いに接合して、一体の二層構造とした。さらに、一体化したスラット2、3の上端部を、可撓性を有するホルダー4の凹部4aに圧入することにより、スラット2、3をホルダー4に把持させた。
【0137】
このホルダー4の中央部には別の凹部4bおよび被把持部4cが形成されており、被把持部4cをバーチカルブラインド1のランナー6の把持部材5に把持させることにより、ホルダー4をランナー6に接続して、図19(A)に示すようにスラット2,3を垂下させた。
【0138】
バーチカルブラインド1は、スラット2,3とこれを把持するホルダー4とを除いて一般のバーチカルブラインドと同様の構成であり、ランナー6の回転により、スラット2、3もランナー6と一体に回転してスラット2,3の室外側と室内側の位置が入れ替わる。つまり、表裏反転可能となっている。
【0139】
以下、実施例54のバーチカルブラインドの作用、効果について説明する。
(夏季)
図27(A)は、夏の日射が差し込む窓Wに実施例54のバーチカルブラインド1を設け、室外側に高密度のスラット2、室内側に低密度のスラット3を配置した状態を示している。なお、符号Wは室内外を仕切る仕切り窓を示している。
【0140】
夏の日射が窓Wを介してバーチカルブラインド1の室外側のスラット2に当たると、このスラット2が日射に含まれる熱線(赤外線)を効率よく反射する。また、スラット2は熱伝導率が低いため、日射熱が室内側に伝わりにくい(図25、図27参照)。
【0141】
スラット2により反射されずにスラット2を通過した熱線は、隣接する室内側のスラット3により吸収される。そのため、室内側には日射に含まれる熱線や熱が到達しにくいものとなる。これにより、熱線が通過する方向に沿って一様な密度(スラット3と同一の密度)で形成したスラットよりも、高い日射の遮蔽効果を得ることができる。
【0142】
また、例えば窓Wを少し開けた場合、室外側のスラット2が高密度であるために、高温多湿の外気がスラット2を通過しにくく、室内の保冷効果、透湿抑止効果が得られる。
【0143】
さらに、例えば室内エアコンにより室内の冷房を行っている場合には、低密度で高い断熱性が高いスラット3の断熱効果により、室内エアコンの冷熱が室外側へ漏出しにくいものとなる。
(冬季)
図27(B)は、冬の日射が差し込む窓Wに実施例54のバーチカルブラインド1を設け、図27(A)に示す状態から、スラットを表裏反転させた状態、すなわち、室外側に低密度のスラット3、室内側に高密度のスラット2を配置した状態を示している。
【0144】
冬の日射が窓Wを介してバーチカルブラインド1の室外側のスラット3に当たると、このスラット3が日射に含まれる熱線(赤外線)を効率よく吸収して蓄熱保持する(図26参照)、スラット3により吸収されずにスラット3を通過した熱線は、隣接する室内側のスラット2の外側面により反射されスラット3により吸収される。そのため、冬の日射に含まれる熱を効率よく吸収して蓄熱効果が得られる。このため、熱線が通過する方向に沿って一様な密度(スラット2と同一の密度)で形成したスラットよりも、高い日射の蓄熱効果が得られる。
【0145】
また、例えば窓Wを少し開けた場合、室内の暖かい空気がスラットの上部を通じて室外へと移動しようとするが、室内側のスラット2が高密度であり親水性の繊維構造体が高密度で存在するために、室内側からの湿気がスラット2を通過しにくく、透湿抑止効果が得られるので、窓Wの面が結露しにくく、室内の空気の保湿効果が得られる。
【0146】
さらに、例えば赤外線ヒータHにより室内の暖房を行っている場合には、高密度で高光反射性の室内側のスラット2により、赤外線ヒータHからの熱線を室内側へ反射する。そのため、熱線が室外へ漏出しにくく暖房効率が高まる。また、スラット2は熱伝導しにくいので室内の熱が奪われにくい。
【0147】
従来の熱線反射縦型ブラインドに使用されている生地は、薄いアルミ製のものであるため熱反射するが、十分な透光性、断熱性を有していない。上記構成によれば、可視光を通し十分な透光性、高い断性性を有する素材である上記繊維構造体において、さらに遮熱・断熱効果を高めることができる。
【0148】
なお、スラットの表面と裏面の密度が異なればよいことから、実施例54のスラット2の代わりに、スラット3より光反射率が高いフィルム等の反射材を用いて、後述するようにバーチカルブラインドのスラットを構成してもよいし、また、二層構造のスラットでなくとも表面側と裏面側の密度が異なる一層構造のスラットを製造して実施例54に係る上記効果を得るようにしてもよい。
[実施例55]
実施例55では、実施例54のスラット3と、透光性を有する熱線遮蔽フィルムとを用いて2層構造のバーチカルブランド用のスラットを形成した。このフィルムとしては反射材としての「熱線遮蔽フィルムマルチレイヤーNANO」シリーズの商品「3MTMスコッチティントTMガラスフィルム製品スペックNANO90S(ナノ90S)」(住友3M社製)を使用した(図28参照)。
【0149】
なお、このフィルムの熱伝導率と密度は、0.2〜0.33W/m・K、1.27〜1.4g/ cm3である。
【0150】
その後、形成したスラットを用いて、図19、図28に示すように、バーチカルブラインドを構成して室内外を仕切る窓を有する試験部屋の窓の室内側に設け、以下のような照射試験を行った。
(照射試験)
照射試験では、日射に相当する全波長の光源ランプを用いて、室外側から試験部屋の窓を介して一定の照射強度で室内を照射した。この照射の際に、バーチカルブラインドのスラットにより遮蔽される紫外線、可視光線及び近赤外線の割合から、各波長域についてのスラットの遮蔽率(%)を決定した(図28参照)。
【0151】
同様に各波長域について、スラットの日射に対する反射率(%)、透過率(%)を決定した。なお、図28中の「ガラス」との表記は室内外を仕切る窓のガラス(窓ガラス)を意味する。
[実施例56]
実施例56では、実施例55の窓ガラスを除去した状態、つまり、実施例55のスラット(フィルムとスラット3)自体の遮熱性能について実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。
[実施例57]
実施例57では、実施例54のスラット3のみを用いて実施例55と同様に窓ガラスを介した照射等をして照射試験を行った(図28参照)。
[実施例58]
実施例57の窓ガラスを除去し、スラット3のみを取り付けた状態で実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。
[比較例31]
窓ガラスのみを取り付けた状態として、実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。
[比較例32]
窓ガラスの室内側の面にフィルム「ナノ90S」の接着のみをした状態(比較例32)とし、実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。(結果)図28に示すように、比較例31で窓ガラスのみを取り付けた状態では、可視光透過率は89%、熱線を遮蔽する全体量の指標となる近赤外線の遮蔽率は16%となった。これに対して、実施例57で窓ガラスの室内側に透光性遮熱シートのスラット3を取り付けると、可視光透過率は89%から22%に低下するが、近赤外線の遮蔽率は16%から83%に上昇する。
【0152】
この透光性遮熱シートのスラット3に対して、さらに反射材やフィルムを取り付けて窓の日射遮蔽性能を高める場合、近赤外線の遮蔽率を高めつつ、可視光透過率を極力損ねないフィルムを取り付ける必要がある。
【0153】
実施例55では、窓ガラスと透光性遮熱シートとの間に、フィルム「ナノ90S」(住友3M社製)を配置し、これをスラット3の室外側の面に貼着して被覆したところ、実施例57に比し、可視光透過率は21%とほぼ維持され、近赤外線の遮蔽率が5%上昇して88%となった。
【0154】
ところで、窓ガラスは僅かに日射遮蔽性能を有し、また、例えば換気目的で窓を開放している場合、透光性遮熱シートのみで日射を遮蔽することになる。そのため、窓ガラスを取り付けない状態で透光性遮熱シートのみを取り付けた状態として、スラット単体(フィルム有・無)での日射遮蔽性能を調べる照射試験を行った(実施例56,58)。
【0155】
その結果、実施例58では、窓ガラスがない状態でも近赤外線の遮蔽率は83%、可視光透過率は20%となったことから、透光性遮熱シート単体でも十分に近赤外線の遮蔽性能を有することができることが分かる。
【0156】
さらに、この透光性遮熱シートに対して、上記同様にフィルムを取り付けたところ(実施例56)、近赤外線の遮蔽率は約3%上昇して86%となり、可視光透過率は約4%上昇して24%となった。この可視光透過率の上昇は、フィルムの貼着による影響と考えられる。
【0157】
一方、この透光性遮熱シートのみを取り外した状態、つまり、窓ガラスとフィルムのみの状態で日射遮蔽性能を調べたところ(比較例32)、近赤外線の遮蔽率は、ガラス単体(比較例31)と比し約22%程度上昇したが38%程度にとどまり、近赤外線を十分に遮蔽することはできなかった。
【0158】
実施例55〜57及び比較例31、32の結果から、バーチカルブラインド等(開口建具)の一部として日射遮蔽に用いる透光性遮熱シートに対して、所定以上の透光性や光反射率を有するフィルムを貼着して2層構造のスラット等とすることにより、開口建具の採光性を損ねずに日射遮蔽性能を高めることができる。
【0159】
以上、本発明の繊維構造体(透光性遮熱シート)、これを利用いた障子用のシートや障子、ブラインドのスラット、ブラインド等の開口建具や開口建具のシートを実施例1〜58に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0160】
例えば、実施例52,53のバーチカルブラインドについては、図19(B)に示すようなフックで取り付けて吊り下げるようなものを用いてもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性と断熱性を有し遮熱性すなわち日射遮蔽率の高いシートの製造方法、該製造方法を利用した障子シート、ブラインドのスラット、開口建具用のシートおよび開口建具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内部への熱負荷を小さくするために、屋根や壁の断熱性が改良されてきており、これに比べて相対的に窓の断熱性が劣った状態になっている。また、窓は屋根や壁とは異なり、室内への採光を前提としているため、特に夏季は日射による熱の取得が室内環境を悪化させ、冷房負荷を大きなものにしている。つまり、窓の断熱性や遮熱性を向上させることは、建物内部への熱負荷を小さくすることに繋がり、室内環境を改善するための非常に重要な技術となっている。
【0003】
例えば、窓ガラスを複層化することで窓の断熱性を高める技術が広く知られている。また、窓ガラスそのものに日射を遮蔽する性能を付与したものがあるが、かなり高価である。このように窓ガラスの構造や材質等を改良することで、窓の断熱性や遮熱性を向上する技術が広く知られているが、窓ガラスは建物の一部であり、その取替えは困難であることから、例えば夏季とは逆に冬季には日射をできるだけ取り入れたいというように、季節によって窓の性能を変えたいという要求を満たすために、カーテンやブラインド、和室においては和障子などが利用されている。
【0004】
カーテンやブラインド、和障子などの中には、2以上の性能を兼ね備えているものが知られており、例えば特許文献1には、ポリエステル生地の基布の少なくとも片面に、主としてポリウレタン樹脂からなる多孔質膜を形成することで製造され、断熱性と遮光性を兼ね備えたカーテン用素材としてのシートが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、可視光透過性と遮熱性を有する遮熱シートが開示されている。この遮熱シートは、熱線吸収剤または熱線反射剤を熱可塑性樹脂のフィラメントに塗布、印刷または練り込んだ後に、熱線(赤外線)吸収性又は反射性を有するシートとして形成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−068586号公報
【特許文献2】特開2004−238784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の遮光性カーテン用素材では、ポリウレタンの多孔質膜により断熱性は得られるが、日射が遮断されるため遮熱性は得られるものの可視光まで遮断されて、カーテンを閉めた状態では当然に採光性が得られない。
【0008】
また、特許文献2の遮熱シートでは、日射に含まれる熱線(赤外線)が吸収・反射され可視光は通し遮熱性と採光性は得られるが、通風性の確保を前提としており高い断熱性は期待できない。
【0009】
このように、透光性と遮熱性、さらに断熱性をバランスよく兼ね備えているものは知られていない。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、採光性と断熱性に加え、日射遮蔽係数に優れた、繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法、該製造方法により製造した透光性遮熱シート、これを用いた部材を提供することを目的としている。日射遮蔽係数は、太陽光に含まれる熱線(赤外線)をカットする割合で、この係数が高ければ高いほど建物への冷房負荷が小さいものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定のシートを用いることにより、上記課題を解決されることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る透光性遮熱シートの製造方法は、光反射性の繊維が三次元的に配置されて形成された繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法であって、前記繊維構造体の厚みに応じて変化する前記繊維構造体の密度と日射熱取得率の関係において、該日射熱取得率が0.4以下となる範囲で、前記繊維構造体の厚みと密度を選択することにより、所望の日射熱取得率に設定して、可視光透過率が15%以上、熱伝導率が0.045W/m・K以下、日射熱取得率が0.4以下、密度が0.05〜0.2g重/cm3であり、且つ、厚みが10〜1mmとなるように、前記繊維構造体を製造することを特徴とする。
【0013】
さらに、上記製造方法により製造した透光性遮熱シートからなる障子シートとしてもよいし、上記透光性遮熱シートからなるブラインドのスラットとしてもよい。
【0014】
上記透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより光反射率が高い反射材とを使用して2層構造とした開口建具用のシートとしてもよい。
【0015】
また、上記透光性遮熱シートと、透光性遮熱シートより高密度の透光性遮熱シートとを使用して2層構造とした開口建具用のシートとしてもよい。
【0016】
さらに、上記透光性遮熱シートを有し、該透光性遮熱シートの表面側と裏面側の密度が異なる開口建具用のシートとしてもよい。
【0017】
本発明に係る開口建具は、上記いずれかの開口建具用のシートが表裏反転可能に取り付けられたことを特徴とする。
【0018】
前記繊維構造体の引っ張り強力(よこ)が4800N/m以上であり、引っ張り強力(たて)が19800N/m以上である透光性遮熱シートとしてもよいし、前記繊維構造体の破裂強力が1000kPa以上である透光性遮熱シートとしてもよい。
【0019】
前記繊維構造体の繊維が湿熱接着性繊維であり、該湿熱接着性繊維がエチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる繊維としもよい。
【0020】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体とからなり、各々の成分の質量比が90/10〜10/90であり、なおかつ該エチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部を長さ方向に連続して占めるように構成してもよい。
【0021】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が芯鞘型複合繊維であり、このうち鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体からなり、かつ該繊維形成性重合体がポリエステルであるものとしてもよい。
【0022】
なお、本出願において繊維構造体とは、繊維が三次元的に配置されて形成されたものをいう。またシートとは、前記繊維構造体である不織布それ自体やこの不織布を用いたものであり、例えば前記不織布に合成樹脂のフィルムや塗膜を積層したもの、前記不織布に合成樹脂板を積層したもの等も含まれる。
【0023】
このシートの各性質や形状等は限定されず、一定の厚みを有したものに加え、一部に開口があるものや肉厚が一様でないものも含み、平板状のものに限られない。上記合成樹脂のフィルム、塗膜や合成樹脂板については、不透明なものでは前記繊維構造体を通過した可視光が遮られることとなってしまうので透光性の良いもの、特に透明なものが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る透光性遮熱シートの製造方法によれば、採光性と断熱性に加え、とくに日射遮蔽係数に優れた透光性遮熱シートを提供できる。
【0025】
本発明に係る透光性遮熱シートは繊維構造体からなり、この繊維構造体は、繊維が三次元的に配置されて形成され、繊維構造体中の繊維間の空隙により断熱性が発現する。
【0026】
さらに、繊維構造体が通気性を有し、前記繊維構造体を形成する繊維が光を反射又は乱反射する性質を有しているため、直達光が繊維構造体の表側から裏側に向けて繊維構造体をそのまま透過することがない。例えば上記繊維構造体を、窓枠を覆うようなシートとして用いた場合に、太陽光等の直達光がそのままシートを透過せず、一部は室外側へ反射され、一部は繊維構造体内部の連通空間を繊維に反射しながら室内へ届く。このため、直達光が室内に直射することを防止できる一方で、室内は明るい状態とすることができる。
【0027】
よって、採光性かつ断熱性に加えて遮熱性、すなわち日射遮蔽係数に優れた透光性遮熱シートを提供することができる。さらに本発明に係る透光性遮熱シートを用いることで、断熱性を有し日射遮蔽係数に優れた製品(ブラインドのスラットや、ブラインドカーテン、障子紙等)も提供することができる。
【0028】
また、繊維構造体の繊維表面に親水基を有しているものであれば、親水基に水分子が集まるため、この繊維に光が反射する際に、繊維の親水基に集まった水分子により直達光中の赤外線(主に近赤外光)が吸収される一方で、可視光は屈折しながらも通過するため、より採光性と遮熱性が得られる。
【0029】
本発明に係る透光性遮熱シートの製造方法によれば、所望の日射熱取得率の透光性遮熱シートを確実に製造することができる。これにより、透光性遮熱シートからなる障子シートやブラインドのスラットについて、それぞれで求められる所望の性能を満たすものを確実に製造することができる。例えば、温暖地域や寒冷地域といったように使用環境で異なった性能のブラインド等が要求されるときに、この要求を満たすブラインドや障子を確実に製造することができる。
【0030】
また、上記いずれかの透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより光反射率が高い、反射材又は高密度の別の透光性遮熱シートを使用して、2層構造とした開口建具用のシートとすることにより、以下のように夏季と冬季で室内の暖房や冷房効率を高めることができる。
【0031】
具体的には、夏季の日射が射し込む窓際に開口建具を設け、2層構造のうち高光反射率の層を室外側とするとともに低光反射率の層を室内側とした場合、日射に含まれる熱線が高光反射率の層により効率よく反射される。また、反射しきれなかった熱線は隣接する低光反射率の層で吸収される。このため、熱線が室内に届きにくいものとなる。
【0032】
逆に、冬季にこのシートを表裏反転して使用すると、例えば室内の赤外線ヒータからの近赤外線が高光反射率の層により効率よく反射される。また、反射しきれなかった熱線は隣接する低光反射率の層で吸収される。このため、室内の熱が逃げにくいものとなる。このように、暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0033】
さらに、上記透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより高密度の透光性遮熱シートとを使用して2層構造のシートとする場合、つまり高密度とすることで高光反射率である層を実現し、低密度とすることで低光反射率の層を実現した場合には、上記効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0034】
上述した夏季の場合では、室外側の高密度・高光反射率の層、つまり親水性の繊維構造体が高密度の層として存在することから、外気の湿気が室内側に移動しにくく、透湿抑止効果が得られる。さらに室内側の低密度・低光反射率の層が空気を多く含むことにより、断熱効果が得られ室内エアコン等からの冷熱が室外へ漏出しにくい。
【0035】
逆に、冬季に2層構造のシートを表裏反転した場合、室内側の高密度・高光反射の層により、上記と同様の理由から室内の湿気が室外側に移動しにくく、透湿抑止効果が得られる。さらに室外側の低密度・低光反射率の層が空気を多く含むことにより、断熱効果が得られ外気からの冷気が室内へ侵入しにくい。さらに冬の日射が室外側の低密度・低光反射の層に直射され、ここに熱が吸収され蓄熱される。
【0036】
このように、暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0037】
上記透光性遮熱シートの表面側と裏面側の密度とを異ならせても、同様に暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0038】
さらに、上記開口建具用のシートを表裏反転可能に取り付けられた開口建具とすることで、季節や天候に合わせて必要に応じて開口建具用のシートを表裏反転できるので季節や天候に応じて簡単に上記暖房や冷房効率を高める効果を得ることができる。
【0039】
また、上記した繊維構造体を引っ張り強力(よこ)が4800N/m以上、且つ、引っ張り強力(たて)が19800N/m以上のものとすれば、より変形しにくい障子紙やブラインドのスラットを提供することができる。
【0040】
さらに、上記繊維構造体を破裂強力が1000kPa以上のものとすれば、より破れにくい障子紙やブラインドのスラットを提供することができる。
【0041】
さらに、前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなる透光性遮熱シートとすることで、繊維構造体の加工性を確保できる。これは、ビニルアルコール単位のモル%が多いほど、繊維が柔らかくなることによる。
【0042】
さらに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体の各成分の質量比が90:10〜10:90であることにより、所望の性質を有する繊維とすることができる。
【0043】
また、このエチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部が長さ方向に連続して占める構成とすれば、繊維同士の接着がより確実となる。
【0044】
繊維構造体における湿熱接着性繊維が芯鞘型複合繊維であり、このうち鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体であることにより、芯成分の繊維形成性重合体にさまざまな共重合体を選択することができ、透光性遮熱シートとしての性質を所望の性質(柔らかさなど)とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る実施例1〜10の繊維構造体の目付、厚み、密度及び可視光透過率を示す表である。
【図2】本発明に係る実施例1〜6の繊維構造体の可視光透過率と目付(2mm厚一定)との関係を各実施例から得られた累積近似式(CAL式1)により示す図である。
【図3】本発明に係る実施例11〜13の繊維構造体の密度と熱伝導率を示す表である。
【図4】本発明に係る実施例11〜13の近似式(CAL式2)により算出した密度別の熱伝導率データを示す表である。
【図5】本発明に係る実施例11〜13の繊維構造体の密度と熱伝導率の関係、各実施例から得られた図3の実測値、この近似式(CAL式2)、およびその算出データ(図4)を示す図である。
【図6】本発明に係る実施例14〜21と比較例1〜3の繊維構造体の密度と日射透過率、日射反射率、日射熱取得率(夏、冬、夏冬平均値)を示す表である。
【図7】本発明に係る実施例14〜21の繊維構造体の密度と日射熱取得率(夏、冬)の関係、各実施例から得られた近似式(CAL式3〜6)を示す図である。
【図8】本発明に係る実施例22〜29と参照例1〜3の繊維構造体の厚み(mm)、各実施例の夏冬平均の日射熱取得率を示す図である。
【図9】本発明に係る実施例22〜29、参照例1〜3の繊維構造体の厚み(mm)と日射熱取得率(夏冬平均値)の関係と、各例から得られた近似線を示す図である。
【図10】本発明に係る繊維構造体の密度と各要素との関係を示す図である。
【図11】本発明に係る実施例30〜39、各実施例から得た近似式(CAL式7)の算出データ、比較例1〜5のそれぞれの密度と透光性を示す表である。
【図12】図11の各データをプロットした目付および密度と透光性の関係とその近似式(CAL式7)を示すグラフである。
【図13】本発明に係る実施例40,41と比較例6〜10の各繊維構造体の波長域別の光特性を示す表である。
【図14】本発明に係る実施例42,43と比較例11〜15の繊維構造体の引張強力と破裂強力を示す表である。
【図15】本発明に係る実施例44〜47、比較例16〜20の繊維構造体の各通気度、可視光透過率(CAL)、日射熱取得率、熱伝導率、曲げ応力、1.5倍変位応力を示す表である。
【図16】図15の各例の障子紙を用いた障子の特性を示す表である(比較例26を除く)。
【図17】(A)本発明に係る実施例48および比較例23の各障子(室内側の面)の夏季の温度分布を示す図である。(B)本発明に係る実施例48および比較例23の冬季の温度分布を示す図である。
【図18】(A)本発明に係る実施例48の障子の電顕写真(表面)を示す図である。(B)比較例23の障子の電顕写真(表面)を示す図である。(C)本発明に係る実施例48の障子の電顕写真(断面)を示す図である。(D)比較例23の障子の電顕写真(断面)を示す図である。
【図19】(A)本発明に係る実施例52のバーチカルブラインドを窓枠に取り付けた状態を示した図である。(B)(A)のブラインドのスラットをフック取り付けの吊り下げタイプとした場合のバーチカルブラインドのスラットを示す。
【図20】(A)〜(F)実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドについて、照射開始後(4分後,30分後,1時間後)の室内側の各ブラインド表面の温度分布を示す図である。
【図21】(A)図20の測定箇所の温度を示す表である。(B)(A)のグラフを示した図である。
【図22】(A)実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドに照射開始後(4分後,30分後,1時間後)の室内中央の温度を示す表である。(B)(A)のグラフを示した図である。
【図23】実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドに照射開始後(4分後,30分後,1時間後)の室内の床面温度を示す表である。
【図24】(A)実施例52,53及び比較例27〜30の各ブラインドに照射時の各ブラインドの垂直面照度、水平面照度を示す表である。(B)(A)ブラインドの垂直面照度を示す表である。
【図25】繊維構造体の密度と厚みを変化させた場合に得られる日射の反射率、吸収率、透過率をそれぞれ示した図である。
【図26】実施例54に係るブラインドスラットを示す斜視図である。
【図27】(A)は、夏季の日射が差し込む室内外を仕切る窓の室内側に実施例54のブラインドスラットを配置した状態の作用を説明する図である。(B)は、冬季に(A)のブラインドスラットを表裏反転した状態の作用を説明する図である。
【図28】実施例55〜58、比較例31,32の各構成における日射の遮蔽率、透過率、反射率をそれぞれ示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る繊維構造体(透光性遮熱シート)を具体的に説明する。
【0047】
本発明に係る透光性遮熱シートは繊維構造体からなり、この繊維構造体は、少なくとも光反射性の繊維が三次元的に配置されていることにより通気性を有し、繊維構造体の一方の面側から他方の面側が透けて見えることがないように形成されている。
【0048】
本発明における繊維構造体を構成する繊維は、光を反射する性質を有することが重要である。すなわち、繊維構造体を形成した場合に明るい色になるものが好ましく、特に好ましくは白色系である。
【0049】
また、不織繊維構造として上記繊維構造体を実現する場合は、湿熱接着性繊維を原料繊維として用いたウェブに高温水蒸気を作用させることで、各々の繊維同士を該接着性樹脂の乾燥時における融点以下の温度にて繊維同士がいわば「スクラム」を組むように湿熱接着させることができ、これにより繊維構造体を得ることで、より高い採光性かつ断熱性に加えて遮熱性、すなわち日射熱取得率の小さい、透光性と遮熱性に加えて軽量性を実現できる。
【0050】
このようにすれば、通常の不織布では得られない「曲げ挙動」と「軽量性」とを両立し、さらに折れ難く、形態保持性および通気性をも同時に確保できる。また、通気性と密接に関連する吸音性にも優れた繊維構造体となる。
【0051】
すなわち、この繊維構造体をシートとして和障子やブラインドなどに適用した場合に、換気用空気をより透過させることができる。また、窓ガラスの窓枠を覆うようにシートを配置して、窓ガラスとシート間の空間とシートを組み合わせて使用することにより、より優れた吸音体とすることもできる。
<繊維構造体の材質>
本発明に用いる上記湿熱接着性繊維を構成する樹脂は、熱により軟化して自己接着または他の繊維に接着するものであり、特に約95〜100℃の熱水で軟化して接着するものが好ましい。例えば、アクリルアミドを一成分とする共重合体、ポリ乳酸、エチレン−ビニルアルコール系共重合体などが挙げられる。
【0052】
また、高温水蒸気により容易に実現できる温度において、流動ないし容易に変形して接着機能を発現可能な、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン系エラストマー樹脂なども含まれる。このうち、特に好ましく用いることができるのはエチレン−ビニルアルコール系共重合体である。
【0053】
ここで、湿熱接着性繊維あるいは湿熱接着性成分として好ましく用いられるエチレン−ビニルアルコール系共重合体として、ポリビニルアルコールにエチレン単位が10〜60モル%共重合されたものが用いられる。特にエチレン単位が30〜50モル%共重合されたものが、繊維構造体の加工性を確保する上で好ましい。また、ビニルアルコール部分は95モル%以上のケン化度を有するものが好ましい。
【0054】
エチレン単位が多いことにより、湿熱接着性を有するが熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。重合度は必要に応じて選択できるが、通常は400〜1500程度である。
【0055】
エチレン単位の含有量が10モル%未満の場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の水で容易に膨潤・ゲル化してしまい、水に一度濡れると形態が変わってしまう場合がある。また、60モル%を超えると吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現しにくくなるため、実用性のある物性を確保できなくなる場合がある。
【0056】
これらの樹脂からなる湿熱接着性繊維の断面形状は、特に限定はなく、一般的な中実断面形状である丸断面や異型断面形状に限らず、中空断面形状等、種々の断面形状とすることができる。
【0057】
さらには、他の重合体との複合繊維であってもよく、その複合形態においては、湿熱接着性樹脂が繊維表面において、その一部あるいは全部が長さ方向に連続して存在するものであれば特に限定はない。
【0058】
例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、多層貼合型、ランダム複合、放射状貼合型等を挙げることができる。あるいは他の繊維形成性重合体からなる繊維に湿熱接着性を有する樹脂をコートした繊維でもよい。
【0059】
複合繊維とした場合の湿熱接着性樹脂以外の樹脂あるいは、湿熱接着性樹脂をコートする相手の繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン等からなる樹脂成分あるいは繊維を挙げることができるが、耐熱性、寸法安定性等の点で融点がエチレン−ビニルアルコール系共重合体より高いポリエステル、ポリアミド等が好ましく用いられる。
【0060】
ポリエステルとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボフェノキシ)エタン、4,4−ジカルボキシジフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオールからなる繊維形成性のポリエステルを挙げることができ、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが好ましい。
【0061】
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12を主成分とする脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドを挙げることができ、少量の第3成分を含有するポリアミドでもよい。
【0062】
また、前記ポリエステル、ポリアミド以外の繊維形成性重合体との複合繊維の場合は、この繊維を構成する湿熱接着性樹脂の該複合繊維における質量比が90を超えると、他の樹脂が繊維の形態を保持できなくなり、複合繊維そのものの強度を充分に確保することが困難となる。
【0063】
逆に、湿熱接着性樹脂の該複合繊維における質量比が10未満であると、湿熱接着性樹脂の量が少ないために、この樹脂層が繊維形態を保持できなくなり、長さ方向に連続した樹脂層を保持することが極めて困難になるばかりか、この比率では充分な繊維接着強度を確保することができなくなる。これは、湿熱接着性樹脂を繊維にコートする場合においても同様である。
【0064】
次に、このような湿熱接着性繊維のみの単一の繊維あるいは湿熱接着性樹脂を一成分とする複合繊維を後述する繊維構造体の製造方法によりウェブ化し、繊維固定して目的の繊維構造体とするが、この際に繊維構造体は、繊維が三次元的に配置されており、表面側から裏面側が透けて見えないことが重要である。
【0065】
このようなウェブを製造する際、必要に応じて他の繊維を混合してもよいが、この場合、湿熱接着性繊維の混率は、20質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。湿熱接着性繊維の割合が多いほど、硬質な繊維構造体に仕上げることが容易になる。この繊維が20質量%未満になると、充分な硬度を確保することができなくなるばかりか、繊維構造体としての取扱性を保持することさえも困難になる。
【0066】
上記したように繊維同士が「スクラム」を組んだような構造を有し、かかる構造が厚み方向に沿って均一に分布するような形態であることが望ましい。このようにすることにより、シートの厚み方向に沿って配向している繊維が減って繊維配列の乱れが抑制され繊維構造体内に不要な空隙が減り、繊維構造体の硬度を低減しにくいものとなる。
【0067】
これら構成繊維は、各々その接点で接着しているのであるが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が繊維構造体表面から中央、そして反対側の表面に至るまで、厚み方向に沿って均一に分布していることが好ましい。
【0068】
また、繊維構造体の曲げ応力について、曲げ応力が大きいほど硬い構造体であるということができる。また、測定対象となる構造体を破壊するまでの曲げ量(変位)が大きいほどよく曲がる構造体であるといえる。繊維構造体を湿熱繊維の不織構造とすると、少なくとも一方向における曲げ応力が0.05MPa以上とすることができる。
【0069】
この曲げ量(変位)とそれによる曲げ応力との相関を見ると、最初、曲げ量の増加とともに応力も増加する。
【0070】
本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、測定サンプル固有の曲げ量に到達すると、その後は徐々に応力が低くなる。すなわち、上に凸の放物線状のカーブを描く相関を示す。
【0071】
本発明の繊維構造体は、曲げ応力のピークを超えて、さらに曲げようとした場合においても、急激な応力降下を生じることなく、いわゆる「粘り」を有することも特徴の一つである。かかる「粘り」をあらわす指標として、本発明者らは、曲げ応力のピーク時の変位を超えた状態において残っている曲げ応力を用いた。
【0072】
すなわち、繊維構造体を湿熱繊維の不織構造とすることで、曲げ応力のピークを示す変位の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(以下、「1.5倍変位応力」と表現することがある)を、ピーク応力値の1/10以上に維持させることができる。
<繊維構造体の性能>
上述したように本発明における繊維構造体を構成する繊維は、光を反射する性質を有し、この繊維を用いた本発明に係る繊維構造体は、繊維が三次元的に配置されており、表面側から裏面側が透けて見えることがなく、繊維構造体を形成した場合に効果的に日射光を反射し、日射遮蔽係数に優れている。
【0073】
また、本発明における繊維構造体は繊維間に空隙を有し、この空隙は、スポンジのような樹脂発泡体と異なり各々が独立したものではなく連続し、繊維構造体の一方側から他方側へ連通している。このため、本発明に係る繊維構造体は、優れた通気性、断熱性や軽量性を確保できる。
【0074】
このような構造は、繊維構造体を不織繊維構造とする場合には、樹脂を含浸したり、繊維構造体表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成させるという、これまでの一般的な不織布を硬質化する手法では、製造することが極めて困難なものである。
<繊維構造体の形態>
本発明に係る繊維構造体は、それ自体あるいはそれと他の部材との組合せで使用することができる。たとえば、上述したように密度、目付、厚みを所定の範囲とした繊維構造体それ自体を用いて、カーテンやブラインドのスラットを形成することもできるし、本発明における湿熱接着性繊維を含み不織繊維構造を有する繊維構造体と和障子の枠に接着した状態としてもよい。
【0075】
その際、貼り付けた和障子の接着剤が表面の構成繊維に貼り付くとともに、繊維空隙に楔の如く入り込むことで強固な接着を実現できるというメリットもある。
【0076】
これら接着に用いる接着剤は、酢酸ビニル系接着剤など、当該面材、当該繊維構造体、仕上げ材、反射体等が強力に接着され、出来上がった透光性遮熱シートの性能を損ねないものであればよい。また、接着剤は接着箇所によって種類を換えて使用しても差し支えない。接着材に変えて両面粘着テープ等を使用して接着することも可能である。
【0077】
この他に、本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、すでに述べたように繊維接着点を厚み方向に均一に有することにより、良好な形態保持性も有している。
【0078】
すなわち、通常の不織繊維構造の繊維構造体では、バインダー等により必要な曲げ硬さを確保できたとしても、基本的に繊維同士の接着が少ないため、例えば5mm角程度の小片にカットした場合、わずかな外力により繊維構造体を構成する繊維が離脱し、最終的にはバラバラになってしまう。
【0079】
これに対し、本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、繊維同士が緻密にかつ均一に接着しているため、小片にカットした場合でも繊維がバラバラにならず、十分に形態を保持できる。これは繊維構造体を切断した際の発塵性が小さいことを意味している。
【0080】
本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体は、一般的な不織布と同程度の低密度でありながら、極めて高い曲げ強度を有し、かつ通気性も有しており、このような性能を利用して、採光遮熱シート以外の多くの用途に応用できる。例えば、窓ガラスと空気層を介して設置することにより、効果の大きい吸音性パネルとしても使用できる。
<繊維構造体の製造方法>
その概略は以下における実施例等で明らかであるが、詳細には以下の方法である。
【0081】
本発明に係る不織繊維構造の繊維構造体を製造する方法については、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。
【0082】
ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。
【0083】
これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。これらのウェブのうち、束状融着繊維の割合を多くする場合には、セミランダムウェブ、パラレルウェブが好ましい。
【0084】
次に、得られた繊維ウェブを、ベルトコンベアにより次工程へ送り、次いで過熱又は飽和の高温水蒸気(高圧スチーム)流に晒すことにより、本発明の不織繊維構造を有する成形体が得られる。
【0085】
すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、前記蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により繊維同士が三次元的に接着される。
【0086】
また、繊維構造体を構成する繊維の配列状態等を調整することにより、例えば構成繊維が概ね不織布(シート)面に対して平行に配列し、さらにこれら繊維同士をできるだけそれらの交点において接着させることで、上記ウェブから、より曲げ硬さと軽量性をバランスよく備えた繊維構造体を得ることもできる。
<透光性遮熱シート>
本発明に係る透光性遮熱シートは、上記繊維構造体のみからなるシートとするとともに、この上記繊維構造体であるシートを、0.05〜0.2g重/cm3の密度(目付50〜2000g重/m2、および厚み10〜1mm)とすることで、シートを可視光透過率10%以上、熱伝導率0.045W/m・K以下、および日射熱取得率を0.4以下とすることができる。このシートの密度、目付、厚みについては、シート全体に渡って一様でなくともよい。
(密度)
シートの密度は0.05〜0.20g重/cm3が好ましく、0.07〜0.15g重/cm3、さらに好ましくは0.10〜0.15g重/cm3である。シートの密度が0.05g重/cm3未満の場合には、軽量性を有するものの、十分な曲げ硬さの確保やシートの形状を保持することが難しくなる。逆に、シートの密度が0.20g重/cm3を超えると、シートの硬さは十分確保できるが十分な透光性を得るのが難くなる。
【0087】
この密度は、シートの引張強力に主に影響を与えるが、シートの引張強力については、2620N/m以上であることが好ましい。(目付)シートの目付は、50〜2000g/m2の範囲にあることが好ましく、より好ましくは150〜1000g/m2であり、さらに好ましくは200〜600g/m2である。シートの目付が50g/m2未満の場合は、シートの硬さを確保することが難しく、また、目付が2000g/m2を超えると、後述する工程において、ウェブが厚くなって、高温水蒸気が十分にウェブ内部へ入り込みにくいことによる。
【0088】
この目付はシートの可視光透過率に主として影響を与え、このシートの可視光透過率は10%未満であると障子やブラインド等の製品とした場合に採光不足となり好ましくない。(厚み)また、シートの厚みは1〜10mmの範囲にあることが重要であり、好ましくは1.5〜7mmであり、より好ましくは1.5〜5mmである。シートの厚みが1mmより薄い場合には十分な断熱性が得にくく、十分な断熱性を得るために例えばシートの密度を上けると、シートの他の性能に影響が及ぶ。
【0089】
逆に、シート厚みが10mmより厚い場合には十分な透光性が得にくく、十分な透光性を得るためにシートの密度等を下げると、シートの他の性能に影響が及ぶ。
(熱伝導率)
シートの熱伝導率は、0.045W/m・K以下であることが好ましく、0.040W/m・K以下であることがより好ましい。繊維構造体の熱伝導率が0.045W/m・Kを超えると日射により加熱されて高温となったシートの日射面の熱が室内側に多量に伝達されることとなり好ましくない。
(日射熱取得率)
さらに冷房負荷の指標であるシートの日射熱取得率は0.4以下であることが好ましい。シートの日射熱取得率が0.4を超えると室内に熱が多く進入することとなる。さらに、本発明に係る透光性遮熱シートを、湿熱性繊維を用いて上述したように製造した不織繊維構造の繊維構造体のみを用いたものとすれば、より適した圧縮強度、曲げ強度といった機械的強度を有する透光性遮熱シートが得られる。これにより透光性遮熱シートを軽量かつ安価にすることができる。
(密度と日射との関係)
図25に示すように、繊維構造体を用いて例えばバーチカルブラインドのスラットを形成し、厚みを5mmの一定としてスラットの密度を変更していくと、スラットの密度に応じてスラットに差し込む日射の反射率、吸収率、透過率が変化する。
【0090】
繊維構造体の密度を変更することにより、所望の性能を発揮するバーチカルブラインド等の開口建具を製造することができる。
【0091】
本発明の透光性遮熱シートは、上記のような特長を有しているので、透光性遮熱シート単体として有効に使用される他、枠体や他の面状体と組み合わせることにより、透光のある窓間仕切りパネル、可動間仕切りパネル、天井材、床材、衝立、ドア、屏風などにも有効に使用することができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明に係る透光性遮熱シートを実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下の方法により測定した。なお、各実施例の試験数(n)は3としてこれを平均した。(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトインデックス(MI)JISK6760に準じ、190℃、21.2N荷重の条件下、メルトインデクサーを用いて測定した。(2)目付(g/m2)JISL1913に準じて測定した。(3)厚み(mm)、密度(g重/cm3)JISL1913に準じて厚みを測定し、この値と(2)の方法で測定した目付とから密度を算出した。(4)通気度(cm3/cm2/秒)JISL1096に準じ、フラジール形法にて測定した。(5)曲げ応力(MPa)JISK7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは25mm幅×80mm長のものを用い、支点間距離50mm、試験速度2mm/分にて測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大応力(ピーク応力)を曲げ応力とした。なお、曲げ応力測定は、MD方向およびCD方向について行った。ここで、MD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるよう測定サンプルを採取して測定した状態をいい、一方、CD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるよう測定サンプルを採取し、測定した状態をいう。(6)1.5倍変位応力(MPa)(5)における曲げ応力の測定において、曲げピーク応力を示す変位を超え、さらにその変位の1.5倍の変位まで曲げ続けたときの応力を1.5倍変位応力とした。(7)可視光透過率分光光度計により、全波長域平均法により測定した。可視光線として400〜800nmの波長域を用いた。使用機器は、日本分光(株)、V−570型分光光度計INS−470型積分球を用いた。(8)熱伝導率JISA1412−2(熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法−第2部:熱流計法(HFM法))に従った。(9)日射熱取得率(η)、日射遮蔽係数(SC値)日射熱取得率(η)は、ガラスに入射する日射を1.0とした場合、室内に流入する熱量(直接透過と室内側再放射の和)の割合を示す数値である。
【0093】
日射遮蔽係数(SC値)は、窓面の日射の遮蔽性能を示す。日射熱取得率を用いた指標なので、日射遮蔽係数が大きいほど遮蔽効果は小さい。日射熱取得率が小さいほど日射遮蔽係数が小さく、冷房負荷が小さい。
【0094】
日射遮蔽係数、日射熱取得率については、JISR3106(ガラス類の透過率・反射率・日射熱取得率の試験方法)に準拠した。日射熱取得率(η)を用い、厚み3mmの透明ガラスを基準に下記式により、日射遮蔽係数(SC値)を求めた。
【0095】
SC=η(試料)/η(厚み3mm透明ガラス)
η(厚み3mm透明ガラス)=0.86
(繊維構造体の製造)
[製造例1]
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%、芯鞘比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(クラレ社製、「ソフィスタ」、3dtex、51mm長、捲縮数21個/インチ、捲縮率13.5%)を準備した。上記芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約300g/m2のカード(くしけずり)したパラレルのウェブを作成した。
【0096】
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレス金網を装備したベルトコンベアに移送した。なお、該ベルトコンベアの金網の上方には同じ金網が対向するように装備されており、それぞれが同じ速度で上流から下流へと同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。この間隔により繊維構造体の厚みを調節できる。
【0097】
また、繊維構造体の密度については、このベルト間に入れるウェブの重量を加減して制御して行う。例えば、重量500g/m2のウェブをベルト間10mmの条件で処理すれば、密度0.05g/ cm3の繊維構造体を作成できる。
【0098】
次いで、ベルトコンベアに備えられた蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、該装置から0.4MPaの飽和の高温水蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して蒸気処理を施し、その後乾燥させて本発明に係る硬質の繊維構造体を得た。
【0099】
該蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に、コンベアネットを介して飽和の高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるように過熱水蒸気噴射ノズルが設置され、もう一方のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向下流側には、ノズルとサクション装置の配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一つ設置されていた。
【0100】
なお、過熱水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、該ノズルがコンベア幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられたものを使用した。加工速度は3m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は5mmとした。
【0101】
得られた繊維構造体は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べ非常に硬く、曲げ応力ピークを超えても破壊せず、極端な応力の低下もなかった。また、形態保持性試験を行っても形状の変化はなく、質量も減少せず、きわめて良好な結果が得られた。得られた繊維構造体の性能等については次のとおりである。
<繊維構造体>
(可視光透過率)
[実施例1〜6]
製造例1で図1(上の表)に示すように厚みを2mmの一定とし、目付(g/m2)を調節することで密度(g重/cm3)を変化させて不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の可視光透過率(%)を測定した。
[実施例7〜10]
製造例1で図1に示すように密度と厚みを変化させて不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の可視光透過率(%)を測定した。
【0102】
厚みを2mmの一定として密度変化させた実施例1〜6の可視光透過率のそれぞれについて、累積近似したところ、非常に高い相関を示した。この累積近似式をCAL1式として図2に示す。図2から目付400g/m2以下(密度0.2g重/cm3以下)で可視光透過率の変化率が大きく、可視光透過率が高い。
【0103】
実施例7〜10から、繊維構造体の目付を変えずに厚みのみを増していくと厚みが増すかわりに密度が下がるため、略同じ可視光透過率となる。目付を一定にすれば略同じ可視光透過率を維持したまま繊維構造体の厚みを変えることもできる。
(熱伝導率)
[実施例11〜13]
製造例1で図3の表に示すように厚みを約10mmの一定とし、密度(g重/cm3)を変化させて不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の熱伝導率を評価した。
【0104】
厚みを10mmの一定として密度変化させた実施例11〜13の熱伝導率のそれぞれについて線形近似したところ、非常に高い相関を示した。この近似式をCAL式2として図5に示し、CAL式算出データとして図4に示す。厚み10mmでは密度0.20g重/cm3以下で熱伝導率0.045W/(m・K)未満を達成できる。
(日射熱取得率)
[実施例14〜21]
実施例14〜21では、図6の表に示す条件(厚み、密度)にて製造例1で不織繊維構造の繊維構造体を製造し、各繊維構造体の密度と日射熱取得率の関係を厚み別(約10mm、約5mm、2mm、1mm)に示した(実施例14〜21)。
【0105】
図7に示すように、密度0.20g重/cm3以下で日射熱取得率の変化率が大きい。また、図7から分かるように、繊維構造体の厚み変化によって繊維構造体の日射熱取得率が大きく変化する。
【0106】
なお、この図7では、たとえば厚み10mmや1mmついては、それぞれ一点のみのプロット(実施例14、実施例21)であり、これを通過するように近似線が示されているが、これらの近似は後述する実施例22〜32により担保されている。
【0107】
繊維構造体の厚みが10mmの場合は、少なくとも密度0.05g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が約0.2以下となる。厚み5mmの場合は、少なくとも密度約0.05g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が0.3以下となる。厚み2mmの場合は、密度約0.06g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が0.4以下となる。厚み1mmの場合は、密度約0.175g重/cm3以上の場合に日射熱取得率が0.4以下となる。
【0108】
厚みが1mmや2mmの場合でも密度を選択することで日射熱取得率を0.4以下とすることができる。
[実施例22〜29]
実施例22〜29では、製造例1で図8に示す目付、密度、厚みで繊維構造体を形成し、各繊維構造体の夏季と冬季の日射熱取得率(平均値)を評価した。図9に密度別の実施例22〜29、参照例1〜3と、密度別の近似線を示し、密度別の厚みと日射熱取得率との関係を示す。
(各要素の総合比較)
図10にCAL式1、2、5を示し、繊維構造体の密度に応じた各要素(熱伝導率、熱取得率、遮蔽係数、可視透過率)の変化を示す。なお、図10中の矢印は繊維構造体の厚み変化でCAL式1,5の線がシフトすることを示している。
【0109】
まず、エアコン負荷の指標ともなる日射熱取得率(η)、日射遮蔽係数を低いものとするには、密度に応じた変化量が底打ち横ばいとなる密度0.05g重/cm3以上が好ましい。しかし、密度が大きくなると可視光透過率が低下するため、この変化量が特に底打ちとなる前の密度0.20g重/cm3付近までとするのが好ましい。熱伝導率については線形に変化するため、上記の2つの要素で決定された密度範囲内(0.20〜0.05g重/cm3)で選択することが好ましい。
<障子紙>
(透光性)
[実施例30〜39]
実施例30〜39では、繊維構造体の目付及び密度と透光性の関係を示すため、製造例1で図11に示すような目付、厚み、密度で繊維構造体を形成し、各繊維構造体について透光性(%)を上記試験方法に従って調べた。各条件と結果は図11,12に示す通りである。図12に示すように、実施例30〜39の透光性(%)の結果を累積近似したところ、高い相関をしめた。これをCAL式7として図12に示す。
[比較例1〜5]
比較例1として塩化ビニル樹脂を和紙の両面にラミネートした「ワーロン障子」(ワーロン社製)、比較例2として高密度ポリエチレンの不織布「タイベック」(デュポン社製、商標登録)を用いた「クール障子」(日本テキスタイル株式会社)、比較例3としてポリエステル70%、パルプ20%、ビニロンバインダー10%の「4倍破れにくい障子」(アサヒペン社製)、比較例4として「モルザ障子」(モルザ社製)、比較例5として「明るく・貼りやすい障子」(アサヒペン社製)のそれぞれについて透光性を評価した。各結果を図11,図12に示す。
【0110】
密度0.05〜0.20g重/cm3の範囲で、繊維構造体の目付(密度)に応じて高い透光性の変化率を示し、これは厚み違いでも略同じ近似線と略同じ位置となる(図11、12参照)。CAL式7から、密度0.05g重/ cm3では20%近い透光性が予想される(図12参照)が、これより低い密度とすると上述したように他の性能(日射熱取得率等)がその分低下する。密度0.20g重/cm3付近では透光性の変化が底打ちとなる少し手前であるため、密度0.05g重/ cm3から密度0.20g重/ cm3までの範囲とするのが望ましい。
[実施例40,41]
実施例40,41では、製造例1で図13に示す通りの条件(目付、厚み)で繊維構造体を製造し、近赤外線(IR:800〜2000nm)、紫外線(UV:280〜400nm)、可視光線(VL:400〜800nm)を透過性について評価した。
【0111】
なお、紫外線遮蔽率の測定と算出は、紫外線カット素材の加工効果統一評価方法(日本化学繊維協会)分光光度計・全波長域平均法を用い、バンドパスフィルターを積分球と検出器の間に設置して行った。また、分光透過率・分光反射率の評価は、上記分光光度計・全波長域平均法で行い、試験機は日本分光社製V−570型分光光度計、INS−470型積分球を用いた。
[比較例6〜10]
比較例6では「クールスクリーン」(タイベック社製)、比較例7では「ワーロン障子」(ワーロン社製)、比較例8では「モルザ障子」(モルザ社製)、比較例9では一般的な和紙の障子、比較例10では「4倍破れにくい障子」(アサヒペン社製)をそれぞれ用いて、図13に示す条件(目付、厚み)にて実施例40と同様に各波長域の透過性について評価した。
【0112】
各実施例40,41と比較例6〜10の結果を図13に示す。
【0113】
実施例40は、厚みが2mmであり比較例6〜10の約10倍の厚みであるが、厚みの割に可視光の透過率が比較的高く、採光性をあまり損ねずに厚みを増して断熱性を確保できる。これは、実施例41のものについても同様である。
[実施例42]
実施例42では、製造例1にて図14の条件(目付,厚み,密度)の繊維構造体を製造し、これを切断してサンプルサイズ15mm幅×150mm長の試験片を3枚作成した。この試験片の端部を試験用の2つのチャックにそれぞれ把持させて試験片を引張し、引張強力(たて、よこ)の評価を行った。なお、この評価は各試験片について行い、チャック間は100mmに設定した。また、試験時の引張のスピードは100mm/分とし、このときのデータをオートグラフで記録した。ここで、「たて」とは試験片の長尺方向の引張強力(MD)をいい、「よこ」(CD)とは試験片の横断方向の引張強力をさす。
【0114】
次に、上記同様に製造例1にて製造した繊維構造体を切断してサンプルサイズ60mm×60mmの試験片を3枚作成し、各試験片についてミューレン低圧形試験機(テスター社製)を使用してJISP8112に従って破断強力(kPa)を測定し平均した。結果を図14に示す。
[実施例43]
実施例43では、図14に示すように、実施例42とは異なる条件(目付,厚み,密度)で製造例1にて繊維構造体を製造し、それ以外は実施例42と同様にして引張強力(N/m)と破断強力(kPa)について評価した。各条件と結果を図14に示す。
[比較例11〜15]
比較例11〜15では、それぞれ図14に示す「クール障子」(比較例11、日本テキスタイル株式会社)、「4倍破れにくい障子」(比較例12、アサヒペン社製)、「ワーロンシート」(比較例13、ワーロン社製)、「明るく・貼りやすい障子」(比較例14、アサヒペン社製)、「モルザ障子」(比較例15、モルザ社製)を実施例42と同様に引張強力(N/m)と破断強力(kPa)について評価した。各結果を図14に示す。
【0115】
実施例42、43のものは、比較例11〜15のものよりも低密度で厚みがあり柔質であるが、比較例のものよりも引張しにくい・破裂しにくい特性を有する。
(曲げ強度)
[実施例44〜47]
図15の表に示す条件(密度、厚み、目付)とし、それ以外は製造例1と同様に不織繊維構造の繊維構造体を製造した。これを障子紙として図15に示す項目(通気度、可視光透過率、日射熱取得率、熱伝導率、曲げ応力、1.5倍変位応力)について評価した(図15参照)。
[比較例16]
製造例1で密度0.25(g重/cm3)とする等、図15に示す条件で不織繊維構造の繊維構造体を製造し、障子紙として実施例44と同様に評価した。
[比較例17]
製造例1で密度0.045(g重/cm3)、厚み20(mm)とする等、図15に示す条件(密度、厚み、目付)で不織繊維構造の繊維構造体を製造し、これを障子紙として実施例44と同様に評価した。
[比較例18]
図15に示す条件(密度、厚み、目付)の「4倍破れにくい障子」(アサヒペン社製)の障子紙について、図15に示す日射熱取得率、熱伝導率及び1.5倍変位応力以外の項目を実施例44と同様に評価した。
[比較例19]
図15に示す条件(密度、厚み、目付)の不織布「タイベック」(デュポン社製、商標登録)を用いた「クール障子」(日本テキスタイル株式会社)について図15に示す日射熱取得率以外の項目を実施例44と同様に評価した。
[比較例20]
図15に示す条件(密度、厚み、目付)の「ワーロン障子」(ワーロン社製)を障子紙について可視光透過率、日射熱取得率について実施例44と同様に評価した(図15参照)。
【0116】
比較例19の各障子紙(クール障子)は、殆ど曲げ強度や1.5倍変位応力を示さないが、実施例44〜47のものは曲げ強度を示し、実施例44〜47の障子紙は比較例18,19の障子紙に比べ曲げに強い(図15参照)。
【0117】
また、比較例19、20のものは、可視光透過率は高いが通気度を殆ど有していない。さらに、比較例16では、密度0.25g重/cm3を超えるものであり、通気性および先述したように可視光透過率を犠牲とし、各性能面でのバランスがとれず好ましくない。比較例17についても同様で密度0.05g重/cm3を下回るものとすると、曲げ応力が低く性能面でのバランスが低い。
<障子>
[実施例48]
次に、実施例44で製造した繊維構造体の障子紙をハサミで切断成形して、障子枠に両面テープで貼り付けて障子とし、この障子について以下のように冬季と夏季に分けてそれぞれ照射試験を行った。
(夏季照射試験)
夏季については、日射しが差し込む部屋の構造や日照などの条件が一定(南向きの4.5畳相当等)の部屋を使用して照射試験を行った。この部屋には約1.8m×1.8m程度のペアサッシが室内外を仕切るように設けられており、上記障子を室内側の窓面に対向するように設置して、室内を略密閉空間とするとともに、窓面と室外側障子面との空間とを略密閉空間とした。
【0118】
また、室内側障子面を撮影可能な状態にサーモカメラを設置し、照度計、室温計を室内照度や室内温度が測定可能な所定の位置に取り付け、日射しが差し込んでから一定時間経過後に遠隔でサーモカメラの撮影と室温等の測定を行った。また、この撮影と測定は外気温が約27〜28℃の条件となる時とした。また、撮影時のペアサッシの外ガラス面の温度は42℃であった。
【0119】
なお、サーモカメラで撮影した床から0.6mの高さ位置の障子面の温度を障子面温度とし、サーモカメラで撮影した障子面からから50cm室内奥の温度を床温度とした(図17参照)。
【0120】
この位置の温度を床温度として計測するのは、冬季においては、室内の窓付近の冷気が降りてくるためコールドドラフトのような現象になり、50cm室内奥でも窓の影響を受けて床温度が下がることによる。また、床温度は室内の奥に行けばいくほど暖かくなっており、50cm(窓付近)が最も冷えていることにもよる。
(冬季照射試験)
冬季については、窓枠を有する試験用部屋のユニット(4畳弱等)を恒温槽内に完全に包まれるように設置等し、障子による冬季の室内の保温性、断熱性を評価した。この試験用部屋の窓枠には室内外を仕切るシングルガラス(約1.8m×1.8m)を設置した。この室内側の窓面に対向するように上記障子を夏季照射試験の場合と同様に取り付け、さらに、上記のような測定・撮影が可能なようにサーモカメラ等を設置し、恒温槽の温度(部屋の外気温度)を5℃に設定した。
【0121】
外気温が5℃となった後、室内暖房を22℃設定(電気ストーブ800Wをサーモスタッドで22℃になるように制御)で7時間行った後、暖房を”切”にしてから1時間後の障子面温度(上記と同じ障子部分)と室内温度をサーモカメラで撮影して計測した。
【0122】
さらにそのままの状態として暖房を”切”にしてから7時間後にも同様の測定し、室温低下を調べた。
【0123】
各条件と結果を図16に示し、サーモカメラで撮影した夏季と冬季の障子の温度分布については図17に示す。
[実施例49〜51]
実施例49では、実施例45で製造した繊維構造体を成形して障子紙として用いて障子とし、実施例48と同様に夏季照射試験を行い、室内照度のみを評価した(図16参照)。また、実施例50,51では、それぞれ実施例46,47で製造した繊維構造体を成形して障子紙として用い、夏季の室内照度と室内温度を実施例48と同様に測定した(図16参照)。
[比較例21,22]
次に比較例21,22では、比較例16、17で製造した繊維構造体を障子紙としたものを用いて障子として夏季照射試験を行い、室内照度と室内温度を実施例48と同様に測定した。
[比較例23〜25]
比較例23〜25では、比較例18〜20の障子紙を用いて障子とし、夏季照射試験と冬季照射試験を行い、各項目を実施例48と同様に測定した(図16参照)。また、比較例23については、サーモカメラで撮影した夏季照射試験と冬季照射試験での障子の温度分布を図17に示した。[比較例26]窓ガラスと障子を取り付けずに、窓を全開にした状態とした以外は実施例48と同様に冬季照射試験を行い、室内温度低下の測定を行った(図16参照)。
(夏効果について)
図17(A)のサーモグラフィの図を参照して、夏季において、比較例23では障子の全面に渡り約44℃の一様な温度分布を示し高温で室温上昇が激しく冷房負荷が大きい。これに対し実施例48では障子の7,8割の領域が34℃〜37℃でひやり感があり冷房負荷が小さい。
(冬効果について)
図16を参照して、実施例48のものは、比較例23〜25の他の障子に比べて、室内暖房を“切”にしてから室内温度が低下しにくい結果となり、冬季の暖房負荷を低減する効果を有する。
【0124】
図17(B)を参照して、比較例23では障子の全面に渡り12〜13℃の一様な温度分布を示し低温で室温低下が激しく、暖房負荷が大きい。これに対し実施例48では障子の7,8割が14℃〜15℃の領域でぬくもり感がある。暖房を“切”にしてから1時間後でもより通気度が低い4倍破れにくい障子(比較例23)より暖かで外の冷気をシャットアウトする効果がある。これは、上述したように繊維構造体が図18に示すように空隙を有していることによる。
<ブラインド>
[実施例52]
実施例52では、製造例1に従って厚み5mm、密度(0.1g重/ cm3)、サイズ(巾90mm,長さ1800mm)のバーチカルブラインドのスラットの形状に加工成形した繊維構造体を製造し、これを複数用いてバーチカルブラインドを形成した。
【0125】
次に、人工気象室(恒温槽内)内に試験用の部屋のユニット(室内間取りは4畳弱で窓を有する)を設置し、窓をシングルサッシでガラス面の大きさは1.8m×1.8mとして設置した。この室内外を仕切る窓に上記のバーチカルブラインドを設置した(図19(A)参照)。
【0126】
その後、恒温槽内(室外側)の外気温度を30℃に設定し、夏至の西日相当のランプ600W/mで窓を介して室内へ照射を開始した。照射開始から4分後、30分後、1時間後にバーチカルブラインドの室内側の面をサーモカメラで撮影し、その温度を計測した。また、床温度、室内中央温度の計測は、実施例48と同様とした。また、照度計を用いてブラインドの各照度(水平、垂直)を計測した。なお、室内の換気は0.5回/時間(h)で行った。各結果を図20(C),図21〜24に示す。
[実施例53]
実施例53では、実施例52のバーチカルブラインドのスラットをレースの袋に入れて、これを実施例52のバーチカルブラインドのスラットの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(B),図21〜24参照)。
【0127】
使用したレースについては、ポリエステルの難燃加工品のトリコット編地(斜め綾調柄)のものを用い、下端に錘(おもり)を取り付けたものを用いた。
[比較例27]
比較例27では、「ハニカム・サーモスクリーン 標準タイプ(パールホワイト)」(セイキ産業社製)を実施例52のバーチカルブラインドの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(A),図21〜24参照)。
[比較例28]
比較例28では、遮熱ブラインド「セレーノ25Q(AX-25Q)C011S(ホワイト)」(ニチベイ社製)を実施例52のバーチカルブラインドの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(D),図21〜24参照)。
[比較例29]
比較例29では、実施例52のバーチカルブラインドを取り外してブラインド等を何も取り付けていない状態で実施例52と同様に試験を行った(図20(E)参照、図21〜24参照)。
[比較例30]
比較例30では、一般バーチカルブラインドとして「ハープ89」(ヨコタ社製)を実施例52のバーチカルブラインドの代わりに設置して実施例52と同様に試験を行った(図20(F),図21〜24参照)。
(遮熱性)
(室内側ブラインド面温度)
室内側ブラインド面温度(℃)は、図21に示すように、全体的に一般バーチカル(比較例30)>遮熱ブラインド(比較例28)>ハニカム(比較例27)>FLXレース(実施例53)>FLX(実施例52)となった。
【0128】
実施例52のものは比較例27〜30(比較例29を除く。)よりも室内側ブラインド面の温度が上昇しにくく優れている(図20(B)、21(B)参照)。さらに、実施例52のものにレースを併用した実施例53のものは、ブラインド面の温度が同レベルに低いものなった(図20(B)と他の比較参照、図21参照)。
(室内中央温度)
図22を参照して、室内中央温度(℃)は、全体的に障子無し(比較例29)>ハニカム(比較例27)>FLX(実施例52)>遮熱ブラインド(比較例28)>一般バーチカル(比較例30)>FLXレース(実施例53)となった。
【0129】
照射開始から1時間後には、ハニカムサーモスクリーンを用いた比較例27は一般バーチカルブラインドの比較例30以上に室内中央温度が上昇している。
【0130】
遮熱ブラインドの比較例28については、遮熱性を有するものであるが、1時間日射を浴びると一般バーチカルブラインドの比較例30と変わらない温度となる(図21〜23参照)。これらと比較してFLXレースの実施例53のものはより低い室内中央温度を維持した。
(床温度)
図23を参照して、照射開始から1時間経過した時点の試験室内の床温度(℃)は、障子無し(比較例29)>ハニカム(比較例27)>一般バーチカル(比較例30)>遮熱ブラインド(比較例28)>FLX(実施例52)>FLXレース(実施例53)となった。
【0131】
照射開始から1時間後には、ハニカムサーモスクリーンを用いた比較例27は一般バーチカルブラインドの比較例30以上に床温度が上昇している。
【0132】
夏季においては、ハニカムサーモスクリーンの比較例27より実施例52,53の床温度が低く特に優れているといえる。
<採光性>
(水平面照度, 垂直面照度)
図24を参照して、水平面照度と垂直面照度は、それぞれで障子無し(比較例30)>>ハニカム(比較例27)>一般バーチカル(比較例29)>FLX(実施例52)>FLXレース(実施例53)>遮熱ブラインド(比較例28)となった。
【0133】
照度は比較例27のハニカムサーモスクリーンが最も明るいが、逆に熱を帯び温度上昇の原因となるため性能面でのバランスが低い。遮熱ブラインドについても同様で、遮熱性について照射開始から間もない時点(4分後)の初期性能は高いが、最終的に室温が一般のバーチカルブラインドと同程度となり(図22(A)参照)、また各照度(水平、垂直)は低く暗いものとなる(図24参照)。
(総合評価)
実施例52,53のものは、遮熱ブラインドより明るく、一般バーチカル(比較例30)やハニカム(比較例27)より遮熱性に優れる傾向にあり、性能面でのバランスがよい。
[実施例54]
図26に実施例54のスラットの説明図を示す。
【0134】
実施例54では、製造例1に従って、開口建具として窓際に設置するためのバーチカルブラインド(図19(A)参照)用の繊維構造体からなるスラット2,3をそれぞれ形成した(図26参照)。
【0135】
この際に、スラット2の密度を0.1g/ cm3よりも高く設定し、スラット3の密度を0.1g/ cm3より低く設定して、高密度のスラット2と低密度のスラット3とした。また、スラット2の厚み1mm、スラット3の厚み4mmとし、スラット2,3をほぼ同形状に形成した。
【0136】
そして、このスラット2,3を熱溶着により互いに接合して、一体の二層構造とした。さらに、一体化したスラット2、3の上端部を、可撓性を有するホルダー4の凹部4aに圧入することにより、スラット2、3をホルダー4に把持させた。
【0137】
このホルダー4の中央部には別の凹部4bおよび被把持部4cが形成されており、被把持部4cをバーチカルブラインド1のランナー6の把持部材5に把持させることにより、ホルダー4をランナー6に接続して、図19(A)に示すようにスラット2,3を垂下させた。
【0138】
バーチカルブラインド1は、スラット2,3とこれを把持するホルダー4とを除いて一般のバーチカルブラインドと同様の構成であり、ランナー6の回転により、スラット2、3もランナー6と一体に回転してスラット2,3の室外側と室内側の位置が入れ替わる。つまり、表裏反転可能となっている。
【0139】
以下、実施例54のバーチカルブラインドの作用、効果について説明する。
(夏季)
図27(A)は、夏の日射が差し込む窓Wに実施例54のバーチカルブラインド1を設け、室外側に高密度のスラット2、室内側に低密度のスラット3を配置した状態を示している。なお、符号Wは室内外を仕切る仕切り窓を示している。
【0140】
夏の日射が窓Wを介してバーチカルブラインド1の室外側のスラット2に当たると、このスラット2が日射に含まれる熱線(赤外線)を効率よく反射する。また、スラット2は熱伝導率が低いため、日射熱が室内側に伝わりにくい(図25、図27参照)。
【0141】
スラット2により反射されずにスラット2を通過した熱線は、隣接する室内側のスラット3により吸収される。そのため、室内側には日射に含まれる熱線や熱が到達しにくいものとなる。これにより、熱線が通過する方向に沿って一様な密度(スラット3と同一の密度)で形成したスラットよりも、高い日射の遮蔽効果を得ることができる。
【0142】
また、例えば窓Wを少し開けた場合、室外側のスラット2が高密度であるために、高温多湿の外気がスラット2を通過しにくく、室内の保冷効果、透湿抑止効果が得られる。
【0143】
さらに、例えば室内エアコンにより室内の冷房を行っている場合には、低密度で高い断熱性が高いスラット3の断熱効果により、室内エアコンの冷熱が室外側へ漏出しにくいものとなる。
(冬季)
図27(B)は、冬の日射が差し込む窓Wに実施例54のバーチカルブラインド1を設け、図27(A)に示す状態から、スラットを表裏反転させた状態、すなわち、室外側に低密度のスラット3、室内側に高密度のスラット2を配置した状態を示している。
【0144】
冬の日射が窓Wを介してバーチカルブラインド1の室外側のスラット3に当たると、このスラット3が日射に含まれる熱線(赤外線)を効率よく吸収して蓄熱保持する(図26参照)、スラット3により吸収されずにスラット3を通過した熱線は、隣接する室内側のスラット2の外側面により反射されスラット3により吸収される。そのため、冬の日射に含まれる熱を効率よく吸収して蓄熱効果が得られる。このため、熱線が通過する方向に沿って一様な密度(スラット2と同一の密度)で形成したスラットよりも、高い日射の蓄熱効果が得られる。
【0145】
また、例えば窓Wを少し開けた場合、室内の暖かい空気がスラットの上部を通じて室外へと移動しようとするが、室内側のスラット2が高密度であり親水性の繊維構造体が高密度で存在するために、室内側からの湿気がスラット2を通過しにくく、透湿抑止効果が得られるので、窓Wの面が結露しにくく、室内の空気の保湿効果が得られる。
【0146】
さらに、例えば赤外線ヒータHにより室内の暖房を行っている場合には、高密度で高光反射性の室内側のスラット2により、赤外線ヒータHからの熱線を室内側へ反射する。そのため、熱線が室外へ漏出しにくく暖房効率が高まる。また、スラット2は熱伝導しにくいので室内の熱が奪われにくい。
【0147】
従来の熱線反射縦型ブラインドに使用されている生地は、薄いアルミ製のものであるため熱反射するが、十分な透光性、断熱性を有していない。上記構成によれば、可視光を通し十分な透光性、高い断性性を有する素材である上記繊維構造体において、さらに遮熱・断熱効果を高めることができる。
【0148】
なお、スラットの表面と裏面の密度が異なればよいことから、実施例54のスラット2の代わりに、スラット3より光反射率が高いフィルム等の反射材を用いて、後述するようにバーチカルブラインドのスラットを構成してもよいし、また、二層構造のスラットでなくとも表面側と裏面側の密度が異なる一層構造のスラットを製造して実施例54に係る上記効果を得るようにしてもよい。
[実施例55]
実施例55では、実施例54のスラット3と、透光性を有する熱線遮蔽フィルムとを用いて2層構造のバーチカルブランド用のスラットを形成した。このフィルムとしては反射材としての「熱線遮蔽フィルムマルチレイヤーNANO」シリーズの商品「3MTMスコッチティントTMガラスフィルム製品スペックNANO90S(ナノ90S)」(住友3M社製)を使用した(図28参照)。
【0149】
なお、このフィルムの熱伝導率と密度は、0.2〜0.33W/m・K、1.27〜1.4g/ cm3である。
【0150】
その後、形成したスラットを用いて、図19、図28に示すように、バーチカルブラインドを構成して室内外を仕切る窓を有する試験部屋の窓の室内側に設け、以下のような照射試験を行った。
(照射試験)
照射試験では、日射に相当する全波長の光源ランプを用いて、室外側から試験部屋の窓を介して一定の照射強度で室内を照射した。この照射の際に、バーチカルブラインドのスラットにより遮蔽される紫外線、可視光線及び近赤外線の割合から、各波長域についてのスラットの遮蔽率(%)を決定した(図28参照)。
【0151】
同様に各波長域について、スラットの日射に対する反射率(%)、透過率(%)を決定した。なお、図28中の「ガラス」との表記は室内外を仕切る窓のガラス(窓ガラス)を意味する。
[実施例56]
実施例56では、実施例55の窓ガラスを除去した状態、つまり、実施例55のスラット(フィルムとスラット3)自体の遮熱性能について実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。
[実施例57]
実施例57では、実施例54のスラット3のみを用いて実施例55と同様に窓ガラスを介した照射等をして照射試験を行った(図28参照)。
[実施例58]
実施例57の窓ガラスを除去し、スラット3のみを取り付けた状態で実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。
[比較例31]
窓ガラスのみを取り付けた状態として、実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。
[比較例32]
窓ガラスの室内側の面にフィルム「ナノ90S」の接着のみをした状態(比較例32)とし、実施例55と同様に照射試験を行った(図28参照)。(結果)図28に示すように、比較例31で窓ガラスのみを取り付けた状態では、可視光透過率は89%、熱線を遮蔽する全体量の指標となる近赤外線の遮蔽率は16%となった。これに対して、実施例57で窓ガラスの室内側に透光性遮熱シートのスラット3を取り付けると、可視光透過率は89%から22%に低下するが、近赤外線の遮蔽率は16%から83%に上昇する。
【0152】
この透光性遮熱シートのスラット3に対して、さらに反射材やフィルムを取り付けて窓の日射遮蔽性能を高める場合、近赤外線の遮蔽率を高めつつ、可視光透過率を極力損ねないフィルムを取り付ける必要がある。
【0153】
実施例55では、窓ガラスと透光性遮熱シートとの間に、フィルム「ナノ90S」(住友3M社製)を配置し、これをスラット3の室外側の面に貼着して被覆したところ、実施例57に比し、可視光透過率は21%とほぼ維持され、近赤外線の遮蔽率が5%上昇して88%となった。
【0154】
ところで、窓ガラスは僅かに日射遮蔽性能を有し、また、例えば換気目的で窓を開放している場合、透光性遮熱シートのみで日射を遮蔽することになる。そのため、窓ガラスを取り付けない状態で透光性遮熱シートのみを取り付けた状態として、スラット単体(フィルム有・無)での日射遮蔽性能を調べる照射試験を行った(実施例56,58)。
【0155】
その結果、実施例58では、窓ガラスがない状態でも近赤外線の遮蔽率は83%、可視光透過率は20%となったことから、透光性遮熱シート単体でも十分に近赤外線の遮蔽性能を有することができることが分かる。
【0156】
さらに、この透光性遮熱シートに対して、上記同様にフィルムを取り付けたところ(実施例56)、近赤外線の遮蔽率は約3%上昇して86%となり、可視光透過率は約4%上昇して24%となった。この可視光透過率の上昇は、フィルムの貼着による影響と考えられる。
【0157】
一方、この透光性遮熱シートのみを取り外した状態、つまり、窓ガラスとフィルムのみの状態で日射遮蔽性能を調べたところ(比較例32)、近赤外線の遮蔽率は、ガラス単体(比較例31)と比し約22%程度上昇したが38%程度にとどまり、近赤外線を十分に遮蔽することはできなかった。
【0158】
実施例55〜57及び比較例31、32の結果から、バーチカルブラインド等(開口建具)の一部として日射遮蔽に用いる透光性遮熱シートに対して、所定以上の透光性や光反射率を有するフィルムを貼着して2層構造のスラット等とすることにより、開口建具の採光性を損ねずに日射遮蔽性能を高めることができる。
【0159】
以上、本発明の繊維構造体(透光性遮熱シート)、これを利用いた障子用のシートや障子、ブラインドのスラット、ブラインド等の開口建具や開口建具のシートを実施例1〜58に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0160】
例えば、実施例52,53のバーチカルブラインドについては、図19(B)に示すようなフックで取り付けて吊り下げるようなものを用いてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性の繊維が三次元的に配置されて形成された繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法であって、
前記繊維構造体の厚みに応じて変化する前記繊維構造体の密度と日射熱取得率の関係において、該日射熱取得率が0.4以下となる範囲で、前記繊維構造体の厚みと密度を選択することにより、所望の日射熱取得率に設定して、可視光透過率が15%以上、熱伝導率が0.045W/m・K以下、日射熱取得率が0.4以下、密度が0.05〜0.2g重/cm3であり、且つ、厚みが10〜1mmとなるように、前記繊維構造体を製造することを特徴とする透光性遮熱シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透光性遮熱シートの製造方法により製造されていることを特徴とする透光性遮熱シート。
【請求項3】
請求項2に記載の透光性遮熱シートからなることを特徴とする障子シート。
【請求項4】
請求項2に記載の透光性遮熱シートからなることを特徴とするブラインドのスラット。
【請求項5】
請求項2に記載の透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより光反射率が高い反射材とを使用して2層構造としたことを特徴とする開口建具用のシート。
【請求項6】
請求項2に記載の透光性遮熱シートと、透光性遮熱シートより高密度の透光性遮熱シートとを使用して2層構造としたことを特徴とする開口建具用のシート。
【請求項7】
請求項2に記載の透光性遮熱シートを有し、該透光性遮熱シートの表面側と裏面側の密度が異なることを特徴とする開口建具用のシート。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の開口建具用のシートが表裏反転可能に取り付けられたことを特徴とする開口建具。
【請求項9】
前記繊維構造体の引っ張り強力(よこ)が4800N/m以上であり、引っ張り強力(たて)が19800N/m以上であることを特徴とする請求項2に記載の透光性遮熱シート。
【請求項10】
前記繊維構造体の破裂強力が1000kPa以上であることを特徴とする請求項2又は9に記載の透光性遮熱シート。
【請求項11】
前記繊維構造体の繊維が湿熱接着性繊維であり、該湿熱接着性繊維がエチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなることを特徴とする請求項2,9及び10のいずれか1項に記載の透光性遮熱シート。
【請求項12】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体とからなり、各々の成分の質量比が90/10〜10/90であり、なおかつ該エチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部を長さ方向に連続して占めることを特徴とする請求項11に記載の透光性遮熱シート。
【請求項13】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が芯鞘型複合繊維であり、このうち鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体からなり、かつ該繊維形成性重合体がポリエステルであることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の透光性遮熱シート。
【請求項1】
光反射性の繊維が三次元的に配置されて形成された繊維構造体からなる透光性遮熱シートの製造方法であって、
前記繊維構造体の厚みに応じて変化する前記繊維構造体の密度と日射熱取得率の関係において、該日射熱取得率が0.4以下となる範囲で、前記繊維構造体の厚みと密度を選択することにより、所望の日射熱取得率に設定して、可視光透過率が15%以上、熱伝導率が0.045W/m・K以下、日射熱取得率が0.4以下、密度が0.05〜0.2g重/cm3であり、且つ、厚みが10〜1mmとなるように、前記繊維構造体を製造することを特徴とする透光性遮熱シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透光性遮熱シートの製造方法により製造されていることを特徴とする透光性遮熱シート。
【請求項3】
請求項2に記載の透光性遮熱シートからなることを特徴とする障子シート。
【請求項4】
請求項2に記載の透光性遮熱シートからなることを特徴とするブラインドのスラット。
【請求項5】
請求項2に記載の透光性遮熱シートと、この透光性遮熱シートより光反射率が高い反射材とを使用して2層構造としたことを特徴とする開口建具用のシート。
【請求項6】
請求項2に記載の透光性遮熱シートと、透光性遮熱シートより高密度の透光性遮熱シートとを使用して2層構造としたことを特徴とする開口建具用のシート。
【請求項7】
請求項2に記載の透光性遮熱シートを有し、該透光性遮熱シートの表面側と裏面側の密度が異なることを特徴とする開口建具用のシート。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の開口建具用のシートが表裏反転可能に取り付けられたことを特徴とする開口建具。
【請求項9】
前記繊維構造体の引っ張り強力(よこ)が4800N/m以上であり、引っ張り強力(たて)が19800N/m以上であることを特徴とする請求項2に記載の透光性遮熱シート。
【請求項10】
前記繊維構造体の破裂強力が1000kPa以上であることを特徴とする請求項2又は9に記載の透光性遮熱シート。
【請求項11】
前記繊維構造体の繊維が湿熱接着性繊維であり、該湿熱接着性繊維がエチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなることを特徴とする請求項2,9及び10のいずれか1項に記載の透光性遮熱シート。
【請求項12】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が10〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体と、これとは異なる繊維形成性重合体とからなり、各々の成分の質量比が90/10〜10/90であり、なおかつ該エチレン−ビニルアルコール系共重合体が繊維表面の一部を長さ方向に連続して占めることを特徴とする請求項11に記載の透光性遮熱シート。
【請求項13】
前記繊維構造体における湿熱接着性繊維が芯鞘型複合繊維であり、このうち鞘成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなり、芯成分が繊維形成性重合体からなり、かつ該繊維形成性重合体がポリエステルであることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の透光性遮熱シート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−21256(P2012−21256A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182535(P2011−182535)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【分割の表示】特願2011−40101(P2011−40101)の分割
【原出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【分割の表示】特願2011−40101(P2011−40101)の分割
【原出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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