説明

透明なパテ状下地調整材組成物

【課題】壁面などへの塗工の際の作業性に優れ、なおかつ該組成物が硬化することによって形成された樹脂含有層が透明であり、硬化前後の収縮(肉やせ)が少ない、パテ状下地調整材組成物を提供すること。
【解決手段】(A)中実ガラス球体と(B)反応性樹脂とを含有する透明なパテ状下地調整材組成物であって、(B)反応性樹脂が、(b1)加水分解性シリル基の加水分解縮合反応、及び/又は(b2)水酸基とイソシアネート基とのウレタン結合形成反応によって硬化するものであり、且つ(B)反応性樹脂100質量部に対して、(A)中実ガラス球体を100〜400質量部含有することを特徴とする、透明なパテ状下地調整材組成物を用いる。(A)中実ガラス球体は、平均粒子径は20〜200μmであることが好ましく、ホウ珪酸ガラスを主成分とするものであることが特に好ましい。(B)反応性樹脂はアクリルシリコーン系樹脂であることが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なパテ状下地調整材組成物に関し、具体的には壁面などへの塗工の際の作業性に優れ、なおかつ該組成物が硬化することによって形成された樹脂含有層が透明であり、硬化後の収縮(肉やせ)が少ない、パテ状下地調整材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内外壁面や床面における不陸(凹凸)を調整するために「下地調整材」と呼ばれる材料が用いられる。これら下地調整材としては、従来はセメントやモルタル等の無機材料が用いられてきたが、近年は2液混合硬化型のエポキシ樹脂等をバインダーとし、これに充填材等を配合した有機系材料も用いられている。このような下地調整材には施工の精度(平滑度や寸法安定性)を出すために硬化前後の体積収縮が少ないことが強く求められている。
下地調整材を用いて不陸調整を行う目的は、その後工程である壁材や床材の接着施工をより確実なものにするためであったり、不陸調整後に一般に仕上げ材と呼ばれる塗材を施工して表面美装を施したりするためである。したがって、従来の不陸調整材は後工程で施工される表層材によって覆い隠されてしまうものであった。
【0003】
ところで、従来から建築物外壁の補修・補強工法として、例えば建物外壁面にネット又はシートをモルタル又は樹脂(例えばポリエステル樹脂やエポキシ樹脂)で貼り付け、塗り込めることによって繊維強化モルタル層や繊維強化樹脂層を形成する方法や、さらに形成された繊維強化層にピンを打ち込み、建物本体・外壁・補修層を一体化する方法などが知られている(例えば特許文献1や2)。
【0004】
近年、これら補修・補強業界においては、単に補修・補強を行うのみではなく、なるべく建築物の外観(例えばタイルやレンガ貼りの外観・意匠性)を損ないたくないというニーズが多くなってきている。そこで本発明者らは、建築物の外壁補修工法において、特定材料からなるネット及び塗材を用いることによって、形成された繊維強化樹脂層が透明乃至略透明となり、建物の外観を損なわずに実用的な補強強度が得られることを見出し特許出願した(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平1−290864号公報
【特許文献2】特開昭63−197765号公報
【特許文献3】特開2008−2183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らがこのような透明な樹脂層を形成することによる外壁の補修・補強工法の実用化を検討していたところ、従来は思いもかけなかった新たな課題が見出された。
それは、透明な樹脂層を形成することによる外壁の補修・補強工法においては、目地部などの窪み部や外壁面の不陸に対して下地調整材を適用しようにも、従来から用いられてきた有色の下地調整材は使用できないことである。なぜなら、表層に形成される補強層が透明であるので下地調整材が見えてしまい、結果として建築物の外観・意匠性を損なってしまうためである。
すなわち、本発明者らは改めて、従来の下地調整材は後工程で施工される表層材によって覆い隠されることを前提にしており、下地調整材自体が人目に触れた際の美観や意匠性については全く課題として意識されていなかったということに気づいたのである。
【0007】
そこで、本発明者らは透明な下地調整材の開発に着手した。しかし、下地調整材として十分な性能を発揮しつつ、なおかつ無色透明乃至略透明でなければならないために使用できる原料は自ずと制約された。さらに、有機系の樹脂原料(特に溶剤含有樹脂原料)を用いると程度の差こそあれ硬化収縮(肉やせ)が発生することも問題となった。
本発明者らは建築物の外観・意匠性を損なわずに下地調整を行うためには、下地調整材自体が(1)透明であること、(2)硬化収縮(肉やせ)が少ないこと、(3)壁面などの塗工作業性がよいこと(垂直面でたれない、コテなどで充填しやすい)が要求されると考えた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはその後も鋭意研究を重ね、充填材としてガラスビーズを用いることによって上記の課題を同時に解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の第1〜第8の発明から構成される。
【0009】
すなわち、第1の発明は、(A)中実ガラス球体と(B)反応性樹脂とを含有する透明なパテ状下地調整材組成物であって、(B)反応性樹脂が、(b1)加水分解性シリル基の加水分解縮合反応、及び/又は(b2)水酸基とイソシアネート基とのウレタン結合形成反応によって硬化するものであり、且つ(B)反応性樹脂100質量部に対して、(A)中実ガラス球体を100〜400質量部含有することを特徴とする、透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
また、第2の発明は、さらに(C)揮発性溶剤を含有することを特徴とする、第1の発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
【0010】
第3の発明は、(A)中実ガラス球体の平均粒子径が20〜200μmであることを特徴とする、第1又は第2の発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
また、第4の発明は、(A)中実ガラス球体が、ホウ珪酸ガラスを主成分とするものであることを特徴とする、第3の発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
【0011】
また、第5の発明は、(B)反応性樹脂が、アクリルシリコーン系樹脂であることを特徴とする、第1〜第4のいずれかの発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
【0012】
第6の発明は、(B)反応性樹脂と(C)揮発性溶剤の総和100質量部に対して、(A)中実ガラス球体が50〜200質量部含有することを特徴とする、第2〜第5のいずれかの発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
第7の発明は、透明な樹脂層を形成することによる外壁の補修・補強工法に用いられる、第1〜第6のいずれかの発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物は、壁面などへの塗工の際の作業性に優れ、なおかつ該組成物が硬化することによって形成された樹脂含有層が透明乃至略透明であり、硬化前後の収縮(肉やせ)が少ないという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の
変更を加え得ることは勿論である。
【0015】
[透明なパテ状下地調整材組成物について]
本発明の透明なパテ状下地調整材組成物は、(A)中実ガラス球体と(B)反応性樹脂とを従来公知の任意の混合撹拌装置を用いて混練することによって得ることができる。
以下、本発明の透明なパテ状下地調整材組成物を得るための原料について説明する。
【0016】
[(A)中実ガラス球体について]
本発明に使用される(A)中実ガラス球体とは、ガラスを主成分とする微小な粒子状ガラスを指し、各粒子中に空洞が存在しないものをいう。その製造方法は特に問わないが、なるべく粒子径が均一で略球状の形状をしたものであることが望ましい。ガラスを主成分とする微小粉体乃至微小粒子としては他にヒュームドシリカ(平均一次粒径50nm未満)やいわゆるガラスバルーン(中空体)が知られているが、これらは本発明の(A)中実ガラス球体には該当しない。
【0017】
硬化収縮(肉やせ)を抑制するためには、硬化前の下地調整材組成物の全体積に対して最終的に揮発などにより硬化皮膜組成物外に出ていく成分の体積を極力減らせばよい。そのためには、揮発性成分の配合量を減らすか、体積収縮に関与しない充填材の配合量を極力増やせばよい。しかし、ヒュームドシリカは非常に粒子径が小さく増粘効果が大きいために硬化収縮を抑制できるだけの配合量を配合すると良好な作業性が得られず、ガラスバルーンは硬化収縮の抑制効果と作業性は得られるが、粒子内が中空であるので光が乱反射するため透明性が得られないことから、本発明ではヒュームドシリカやガラスバルーンは使用することができない。
この点(A)中実ガラス球体は、適度な粒子径と増粘効果を奏し、硬化収縮の抑制効果と作業性を両立できるとともに透明な下地調整材が得られる。
【0018】
(A)中実ガラス球体の材質としては、従来公知のソーダ石灰系やホウ珪酸系などのガラスを用いることができる。再生ガラスなどを原料としたものでも差し支えないが、着色しやすく品質もばらつく可能性がある。より透明なパテ状下地調整材組成物が得られやすいことからホウ珪酸ガラスを主成分とするものであることが特に好ましい。
(A)中実ガラス球体の平均粒子径は、20〜200μmであることが好ましい。平均粒子径が20μmを下回ると、下地調整材組成物として調製した際に充填材としての増粘効果が大きくなり作業性が低下する傾向にあり所望の配合量を配合しにくくなる。平均粒子径が200μmを上回ると、下地調整材組成物としての表面外観が損なわれたり、充填材としての皮膜補強効果が低下したりする傾向にあり所望の硬化皮膜性能が得られにくくなる。
なお、本発明における(A)中実ガラス球体の平均粒子径は、一般にコールターカウンターと呼ばれる装置を用いて、コールター原理(細孔電気抵抗法)を用いた粒子計数分析で、例えば以下の手順にて測定することができる。
中実ガラス球体を電解液中に分散させ、吸引力を使って電気が流れている細孔を通過させる。細孔はそれ自体大きな抵抗を有しており、中実ガラス球体の体積分だけ電解液が置換され、より抵抗が増加し、中実ガラス球体の体積に比例した電圧パルスが生じ、この電圧パルスの高さと数とを電気的に測定することにより中実ガラス球体の数と個々の粒子体積が測定される。その個々の粒子体積と個数より平均粒径を算出する。
【0019】
(A)中実ガラス球体としては市販品を用いることができる。市販品としては、ユニビーズシリーズ(ユニチカ製商品名)、汎用ガラスビーズGBシリーズ、EGBシリーズ(ポッターズ・バロティーニ(株)製商品名)などが挙げられる。
【0020】
[(B)反応性樹脂について]
本発明に使用される(B)反応性樹脂とは、その分子中に反応性基を有する樹脂又は樹脂組成物を指し、特に常温で液状のものが取り扱いが容易であることから好ましい。また、樹脂自体が液状であるもののみならず、例えば固形の反応性基含有樹脂を各種溶剤(後述の(C)揮発性溶剤を含む)に溶解又は分散し、液状として取り扱える状態で提供されるものも含まれる。
(B)反応性樹脂の硬化機構は、(b1)加水分解性シリル基の加水分解縮合反応、及び/又は(b2)水酸基とイソシアネート基とのウレタン結合形成反応によって硬化するものであることが好ましい。上記(b1)としては、例えばメチルジメトキシシリル基やトリメトキシシリル基等のアルコキシシリル基の加水分解縮合反応が挙げられる。また、上記(b2)としてはその分子内に水酸基を有する(B)反応性樹脂に対して、例えばポリイソシアネート化合物を含有する硬化剤を配合する方法が挙げられる。硬化の際に気体の発生を伴わないことから、該硬化機構としては上記(b1)であることが特に好ましい。また、耐候性や透明性の観点から主鎖骨格がアクリル系ポリマーであるアクリルシリコーン系樹脂が特に好ましい。
【0021】
アクリルシリコーン系樹脂としては、エマルジョン型や溶剤型が市販されているが、特に溶剤型のアクリルシリコーン系樹脂に対して(A)中実ガラス球体を配合することで優れた透明性が得られる。この溶剤型のアクリルシリコーン系樹脂は、主剤と硬化剤とからなる2液混合型である。主剤は、加水分解性シリル基を含有するもので、加水分解性シリル基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体とを共重合したアクリルシリコーン系樹脂を主成分する。硬化剤は、加水分解性シリル基の硬化触媒を含有するもので、少なくとも加水分解性シリル基の脱水縮合触媒として有機スズ化合物が配合されているものである。アクリルシリコーン系樹脂には、側鎖中に水酸基を導入し、架橋剤としてイソシアネートを用いるものも市販されており、必要に応じてこれを使用することもできる。
【0022】
アクリルシリコーン系樹脂は、耐候性が良く、紫外線による劣化で黄変することがなく、ひび割れやチョーキングもほとんど発生しないことから好ましい。なお、アクリルシリコーンに由来する耐候性を損なわない限り、例えば、アクリルシリコーン系樹脂主剤にポリオールやエポキシ硬化剤を配合し、アクリルシリコーン系樹脂硬化剤にイソシアネートやエポキシ樹脂を配合して、混合する際にアクリルシリコーン系樹脂以外の他の硬化形態を導入することもできる。
(B)反応性樹脂としては市販品を用いることができる。市販品としては、ゼムラックシリーズ((株)カネカ製商品名/反応性基は加水分解性シリル基/固形分50質量%(揮発性溶剤溶液))、アクリディックシリーズ(大日本インキ化学工業(株)製商品名/反応性基は加水分解性シリル基/固形分30質量%(揮発性溶剤溶液))、ARUFON−UHシリーズ(東亞合成(株)製商品名/反応性基は水酸基)、ARUFON−USシリーズ(東亞合成(株)製商品名/反応性基は加水分解性シリル基)、タケネートシリーズ(三井化学ポリウレタン(株)製/反応性基はイソシアネート)、デュラネートシリーズ(旭化成ケミカルズ(株)製商品名/反応性基はイソシアネート基)などが挙げられる。
【0023】
[(C)揮発性溶剤について]
(C)揮発性溶剤は、従来公知の溶剤(有機系溶剤又は水)であり、下地調整材組成物を得る際に任意に配合してもよいし、例えば市販の(B)反応性樹脂の溶媒・分散媒として配合されてもよい。本発明における(C)揮発性溶剤は下地調整材組成物には含まれる場合があるが、下地調整材が硬化した後に形成される層には基本的に残存しないものである。
(C)揮発性溶剤の配合量は任意であるが、硬化収縮(肉やせ)を少なくするという観点からすれば下地調整材組成物の全量に占める(C)揮発性溶剤の含有量は0〜40質量%程度が適当である。
【0024】
[その他の成分について]
本発明の透明なパテ状下地調整材組成物には、本発明の効果、特に透明性を損なわない範囲において、従来公知の任意の化合物乃至物質を配合することができる。例えば、有機金属系化合物、三フッ化ホウ素系化合物等の硬化促進剤、親水性又は疎水性シリカ系粉体、アクリル系等の有機系粉体、有機系・無機系のバルーン等の充填材、フェノール樹脂等の粘着付与剤、アマイドワックス等の揺変剤、ビニルシラン等の脱水剤、希釈剤、可塑剤、難燃剤、機能性オリゴマー、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、3−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジ−4−イルオキシ)プロピルトリエトキシシラン等の老化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ブロックドポリイソシアネート等の耐水性向上剤、乾性油等を配合することができる。
【0025】
本発明の透明なパテ状下地調整材組成物は、(B)反応性樹脂100質量部に対して(A)中実ガラス球体を100〜400質量部含有することが好ましい。(A)中実ガラス球体が100質量部を下回ると充填材としての(A)中実ガラス球体の皮膜補強効果の点において不具合が生じやすく、400質量部を上回るとバインダーとしての(B)反応性樹脂が少なくなる点において不具合が生じやすい。
また、(B)反応性樹脂と(C)揮発性溶剤の総和100質量部に対しては、(A)中実ガラス球体が50〜200質量部含有することが好ましい。50質量部を下回ると硬化収縮(肉やせ)の防止効果が十分ではなく、200質量部を上回ると充填材以外のその他の成分が少なくなりすぎて下地調整材組成物がパサついたり、下地調整材としての所望の性能を発揮しにくくなる。
【0026】
本発明の透明なパテ状下地調整材組成物は、壁面などへの良好な塗工作業性と、硬化収縮(肉やせ)が少ないという効果を奏するものである。
ここで、壁面などの塗工作業性に優れるとは、下地調整材を左官ゴテやヘラ、ペイントローラーなどで目地などの不陸(凹凸)部を有する壁面に塗布する際に十分な流動性を有し、一方で塗工後は垂れ止め性、いわゆるチクソトロピックであることである。
また、一方で本発明の透明なパテ状下地調整材組成物は(C)揮発性溶剤を含有するものであるから、できる限り充填剤の配合量を多くすることで硬化収縮(肉やせ)を少なくすることができる。(A)中実ガラス球体が上記の配合範囲にあればこれらの性能を両立することができる。
【0027】
本発明の透明なパテ状下地調整材組成物は、通常は二液型又は一液型で供給される。
二液型とする場合には、(A)中実ガラス球体、(B)反応性樹脂などを混練した主剤と、(B)反応性樹脂の硬化触媒を含有する硬化剤とを、各々密閉容器に収容して供給される。保管乃至搬送中は気密に密封した状態で取り扱い、使用時には開封して主剤と硬化剤とを所定の混合割合で混合した後、任意の箇所に適用する。
一液型とする場合には、通常は空気中の水分などが硬化開始のトリガーとなるため、下地調整材組成物を調製後、密閉容器に収容し、保管乃至搬送中は気密に密封した状態で取り扱う。使用時には開封してそのまま任意の箇所に適用する。
本発明の透明なパテ状下地調整材組成物は、上述した透明な樹脂層を形成することによる外壁の補修・補強工法における下地調整材としては勿論のこと、従来工法における下地調整材としても使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(評価項目及び評価方法)
・透明性
透明性の評価方法は以下のように行い、以下の基準に基づいて評価した。
各実施例又は比較例に示す配合割合で混合した主剤と硬化剤の混合物を、ガラス板上に厚さ2mmに塗布し、7日間養生した。黒色で文字(フォントサイズ11ポイント)を印刷した上質紙をガラス板下に置き、その文字の見え方によって透明性を4段階で評価した。以下のうち、評価が◎、○又は△であるものが使用可能であると判断される。
◎ : 文字が明確に見え、容易に判別できる(使用可能)
○ : 文字がややぼやけるが、容易に判別できる(使用可能)
△ : 文字がぼやけて見えるが、判別は可能(使用可能)
× : 文字の判別が不可能
・硬化収縮(肉やせ)
硬化収縮(肉やせ)の評価方法は以下のように行い、以下の基準に基づいて評価した。
各実施例又は比較例に示す配合割合で混合した主剤と硬化剤の混合物を、ガラス板上に硬化前の厚さが2mmとなるように塗布し、7日間養生した。硬化後の皮膜の厚さを測定し、その厚さによって硬化収縮を4段階で評価した。以下のうち、評価が◎、○又は△であるものが使用可能であると判断される。
◎ : 硬化物の厚さが1.8mm以上(使用可能)
○ : 硬化物の厚さが1.6〜1.8mm未満(使用可能)
△ : 硬化物の厚さが1.4〜1.6mm未満(使用可能)
× : 硬化物の厚さが1.4mm未満
・作業性
作業性の評価方法は以下のように行い、以下の基準に基づいて評価した。
各実施例又は比較例に示す配合割合で混合した主剤と硬化剤の混合物を、幅5mm、深さ2mmのタイル目地に金ゴテを用いて充填していく作業において、手に感じる抵抗感(重さ)を作業性として以下の3段階で評価した。以下のうち、評価が○又は△であるものが使用可能であると判断される。
○ : 抵抗感が軽く、塗布しやすい(使用可能)
△ : 抵抗感があるが、塗布可能である(使用可能)
× : 抵抗感が強く、重くて作業できない
【0029】
[実施例1]
(A)中実ガラス球体としてユニビーズUB06MF(ユニチカ製/ホウ珪酸ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径45μm以下)、(B)反応性樹脂としてゼムラックYC4805(カネカ製/水酸基含有アクリルシリコーン系樹脂/固形分50質量%であり残り50質量%は(C)揮発性溶剤としてのミネラルスピリット)を用意した。
上記ユニビーズ50質量部と上記ゼムラック100質量部(内訳:樹脂分50質量部と溶剤分50質量部)とを、プラネタリーミキサーを用いて混練し、下地調整材組成物の主剤を得た。すなわち、(A)/(B)=100/100であり、(A)/[(B)+(C)]=50/100である。
下地調整材組成物の硬化剤として、UCM405(カネカ製/スズ系触媒、ポリイソシアネート化合物及びミネラルスピリットの混合物)を用意した。
上記の主剤組成物中(B)反応性成分であるアクリルシリコーンに対し、硬化剤UCM405を質量比で5:2の割合で混合し、得られた下地調整材組成物及びそれから得られる下地調整材硬化層について評価を行った。
[実施例2]
ユニビーズの配合量を100質量部に変更した以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例3]
ユニビーズの配合量を200質量部に変更した以外は実施例1と同様に主剤を調製し、
評価を行った。すなわち、(A)/(B)=400/100であり、(A)/[(B)+(C)]=200/100である。
【0030】
[比較例1]
ユニビーズの配合量を25質量部に変更した以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=50/100であり、(A)/[(B)+(C)]=25/100である。
[比較例2]
ユニビーズの配合量を300質量部に変更した以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=600/100であり、(A)/[(B)+(C)]=300/100である。
【0031】
[実施例4]
ユニビーズをユニビーズUB67L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/粒子径90〜106μm)に変更した以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=100/100であり、(A)/[(B)+(C)]=50/100である。
[実施例5]
ユニビーズをユニビーズUB67Lに変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例6]
ユニビーズをユニビーズUB67Lに変更した以外は実施例3と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=400/100であり、(A)/[(B)+(C)]=200/100である。
【0032】
[比較例3]
ユニビーズをユニビーズUB67Lに変更した以外は比較例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=50/100であり、(A)/[(B)+(C)]=25/100である。
[比較例4]
ユニビーズをユニビーズUB67Lに変更した以外は比較例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=600/100であり、(A)/[(B)+(C)]=300/100である。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1〜3並びに比較例1及び2と、実施例4〜6並びに比較例3及び4とにおいては(A)中実ガラス球体の配合量を変えて検討を行った。実施例1〜6及び比較例1〜4における主剤配合と評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように(A)中実ガラス球体の配合量が本発明の範囲を外れて少ない場合には硬化収縮の抑制効果が得られない。一方、(A)中実ガラス球体の配合量が本発明の範囲を外れて多い場合には透明性が得られず、作業性もよくない。
【0035】
[実施例7]
ユニビーズをユニビーズUB01L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径30μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=10
0/100である。
[実施例8]
ユニビーズをユニビーズUB02MF(ユニチカ製/ホウ珪酸ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径35μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例9]
ユニビーズをユニビーズUB02L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径35μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
【0036】
[実施例10]
ユニビーズをユニビーズUB03L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径42μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例11]
ユニビーズをユニビーズUB06L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径50μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例12]
ユニビーズをユニビーズUB46L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径68μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
【0037】
[実施例13]
ユニビーズをユニビーズUB68L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径110μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例14]
ユニビーズをユニビーズUB79L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径132μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
[実施例15]
ユニビーズをユニビーズUB810L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径152μm)に変更した以外は実施例2と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、(A)/(B)=200/100であり、(A)/[(B)+(C)]=100/100である。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例7〜15においては、(A)中実ガラス球体の粒子径を変えて検討を行った。実施例7〜15における主剤配合と評価結果を表2に示す。
表2から明らかなように(A)中実ガラス球体の平均粒子径が本発明の好ましい範囲内においては、本発明の効果である透明性、硬化収縮の抑制、作業性が発揮されることが分かる。
【0040】
[比較例5]
充填材として中空体ガラスバルーンであるフジバルーンS35(富士シリシア化学製/平均粒子径40μm)25質量部を用いた以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、充填材成分/(B)=50/100であり、充填材成分/[(B)+(C)]=25/100であり、充填材は本発明における(A)中実ガラス球体に該当しない。
[比較例6]
充填材として珪砂7号(平均粒子径250μm)100質量部を用いた以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、充填材成分/(B)=200/100であり、充填材成分/[(B)+(C)]=100/100であるが、充填材は本発明における(A)中実ガラス球体に該当しない。
[比較例7]
充填材としてアエロジルRY200S(日本アエロジル製/ヒュームドシリカ/平均一次粒子径16nm)15質量部を用いた以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、充填材成分/(B)=30/100であり、充填材成分/[(B)+(C)]=15/100であり、充填材は本発明における(A)中実ガラス球体に該当しない。
【0041】
[比較例8]
アエロジルRY200Sの配合量を100質量部に変更した以外は実施例1と同様に主剤を調製することを試みたが、充填材量に対してその他の液状成分が少なすぎ製造できなかった。すなわち、充填材成分/(B)=200/100であり、充填材成分/[(B)+(C)]=100/100であるが、充填材は本発明における(A)中実ガラス球体に該当しない。
[比較例9]
充填材としてサイロフォービック200(富士シリシア化学製/微粉末シリカ/平均粒子径3.9μm)15質量部を用いた以外は実施例1と同様に主剤を調製し、評価を行った。すなわち、充填材成分/(B)=30/100であり、充填材成分/[(B)+(C)]=15/100であり、充填材は本発明における(A)中実ガラス球体に該当しない。
【0042】
[比較例10]
反応性樹脂としてjER828(ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールA型エポキシ)100質量部、揮発性溶剤としてメタノール50質量部、充填材としてユニビーズUB−06L(ユニチカ製/ソーダ石灰ガラス系ガラスビーズ/平均粒子径50μm)120質量部を、プラネタリーミキサーを用いて混練し、下地調整材組成物の主剤を得た。すなわち、充填材成分/反応性樹脂=120/100であり、充填材成分/[反応性樹脂+揮発性溶剤]=80/100であるが、反応性樹脂は本発明における(B)反応性樹脂に該当しない。
下地調整材組成物の硬化剤として、アンカミン2075(エアープロダクツジャパン(株)製、変性脂環式ポリアミン)を用意した。
上記の主剤と硬化剤を質量比で270:60(エポキシとアミンが等量)の割合で混合し、得られた下地調整材組成物及びそれから得られる下地調整材硬化層について評価を行った。
【0043】
【表3】

【0044】
比較例5〜9においては中実ガラス球体以外の充填材について検討した。また、比較例10では反応性樹脂としてエポキシ樹脂を用いたものについて検討した。比較例5〜10における主剤配合と評価結果を表3に示す。
中空体であるガラスバルーン(比較例5)及び珪砂(比較例6)を用いた場合には透明性が得られなかった。また、シリカ系充填材(比較例7〜9)を用いた場合には、これらの充填材の増粘効果が著しいために作業性が良好な配合量領域では硬化収縮の抑制効果が十分ではなく、逆に配合量を増すと作業性が得られなかった。
反応性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合(比較例10)には、中実ガラス球体を用いても透明性が得られなかった。これは中実ガラス球体とエポキシ樹脂との屈折率の差が大きいためであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る透明なパテ状下地調整材組成物は、従来下地調整材が用いられてきた全ての用途に使用できる。特に、透明な樹脂層を形成することによる外壁の補修・補強工法などの下地調整部分が人目に触れる可能性がある場合に特に効果的に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)中実ガラス球体と(B)反応性樹脂とを含有する透明なパテ状下地調整材組成物であって、
(B)反応性樹脂が、(b1)加水分解性シリル基の加水分解縮合反応、及び/又は(b2)水酸基とイソシアネート基とのウレタン結合形成反応によって硬化するものであり、且つ(B)反応性樹脂100質量部に対して、(A)中実ガラス球体を100〜400質量部含有することを特徴とする、透明なパテ状下地調整材組成物。
【請求項2】
さらに(C)揮発性溶剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の透明なパテ状下地調整材組成物。
【請求項3】
(A)中実ガラス球体の平均粒子径が20〜200μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明なパテ状下地調整材組成物。
【請求項4】
(A)中実ガラス球体が、ホウ珪酸ガラスを主成分とするものであることを特徴とする、請求項3に記載の透明なパテ状下地調整材組成物。
【請求項5】
(B)反応性樹脂が、アクリルシリコーン系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明なパテ状下地調整材組成物。
【請求項6】
(B)反応性樹脂と(C)揮発性溶剤の総和100質量部に対して、(A)中実ガラス球体が50〜200質量部含有することを特徴とする、請求項2〜5のいずれか一項に記載の透明なパテ状下地調整材組成物。
【請求項7】
透明な樹脂層を形成することによる外壁の補修・補強工法に用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の透明なパテ状下地調整材組成物。

【公開番号】特開2009−215752(P2009−215752A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59290(P2008−59290)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)