説明

透明ガスバリアフィルム、透明ガスバリアフィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池

【課題】 ガスバリア層が単層であってもガスバリア性に優れ、かつ高い透明性を有しているガスバリアフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂基板上に透明ガスバリア層が形成されたガスバリアフィルムであって、前記透明ガスバリア層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方、酸素、炭素、および、窒素を含み、前記樹脂基板において、ガラス転移点が130℃以上300℃以下の範囲であり、かつ、150℃で0.5時間における熱収縮率が0%を超え0.5%以下の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリアフィルム、透明ガスバリアフィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、電子ペーパー、太陽電池、薄膜リチウムイオン電池等の各種エレクトロニクスデバイスは、近年、軽量化・薄型化が進んでいる。これらデバイスの多くは大気中の水蒸気によって変質して劣化することがわかっている。
【0003】
従来、これらデバイスにはその支持基板としてガラス基板が用いられてきたが、軽量性、耐衝撃性、屈曲性等の各種特性に優れるという理由により、ガラス基板に代えて樹脂基板の使用が検討されている。樹脂基板は、一般には、ガラス等の無機材料から形成された基板と比較して、水蒸気等のガス透過性が著しく大きいという性質をもつ。したがって、上記用途においては、樹脂基板のガスバリア性を、その光透過性を維持しつつ向上させることが要求される。
【0004】
ところで、エレクトロニクスデバイスのガスバリア性は、食品包装でのそれに比べ、桁違いに高いレベルが要求されている。ガスバリア性は、例えば水蒸気透過速度(Water Vapor Transmission Rate 以下WVTR)で表される。従来の食品パッケージ用途でのWVTRの値は1〜10g・m−2・day−1程度であるのに対し、例えば薄膜シリコン太陽電池や化合物薄膜系太陽電池用途の基板に必要なWVTRは0.01g・m−2・day−1以下、さらには有機EL用途の基板に必要なそれは1×10−5g・m−2・day−1以下と考えられている。このような非常に高いガスバリア性の要求に対し、樹脂基板上にガスバリア層を形成させる方法が、種々提案されている。
【0005】
例えば、高温(樹脂基板の耐熱性を超える温度)に加熱することなくガスバリア効果を得る手段として、炭化シリコンをスパッタした薄膜を形成することが提案されている。炭化シリコン薄膜は光吸収が大きいため着色が生じるが、スパッタ時に窒素や酸素を加えることで光透過性が付与できるとされている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この技術に代表される真空プロセスにより形成される無機膜のガスバリア性は、上記の要求を満足させるものではなかった。
【0006】
そこで、無機層とポリマー層とを交互に複数層積層させてハイブリッド化することによりガスバリア性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。しかしながら、異なる材料の層を異なるプロセスにより形成するため、生産効率やコストの観点からは好ましいものとはいえない。また、十分なガスバリア性を得るためには積層の数を増やしたり、各層を厚く形成する必要があり、そのために製造効率が低下するという問題があった。また積層させる層の材質や積層数により光学吸収が大きくなり、透明性が低下しやすくなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−151528号公報
【特許文献2】特許第2996516号公報
【特許文献3】特開2007−230115号公報
【特許文献4】特開2009−23284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、前記先行技術文献では指摘されていないが、ガスバリア層のクラックの問題があり、このクラックの問題は、ガスバリアに影響を及ぼす。そこで、本発明は、ガスバリア層が単層であってもガスバリア性に優れ、かつ高い透明性を有しているガスバリアフィルムおよびその製造方法を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、樹脂基板上に透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、
前記透明ガスバリア層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方、酸素、炭素、および、窒素を含み、
前記樹脂基板において、ガラス転移点が130℃以上300℃以下の範囲であり、かつ、150℃で0.5時間における熱収縮率が0%を超え0.5%以下の範囲であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法は、樹脂基板上に透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリアフィルムの製造方法であって、
アーク放電プラズマを発生させ、反応ガスの存在下で金属酸化物および半金属酸化物の少なくとも一方を樹脂基板に蒸着させて透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリア層形成工程を含み、
前記樹脂基板として、ガラス転移点が130℃以上300℃以下の範囲であり、かつ、150℃で0.5時間における熱収縮率が0%を超え0.5%以下の範囲である透明樹脂フィルムを用い、
前記反応ガスとして、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様の透明ガスバリアフィルムは、前記本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。
【0013】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、ガスバリア層が単層であっても、光透過性および優れたガスバリア性の両方を兼ね備えている。また、本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によると、光透過性および優れた透明ガスバリア層を、速い蒸着速度で効率的に形成することができる。本発明の透明ガスバリアフィルムは、ガスバリア層が単層である場合に限られず、複数層を積層していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の透明ガスバリアフィルムをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の透明ガスバリアフィルムを連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法において、
前記蒸着工程において、金属酸化物および半金属酸化物の少なくとも一方に代えて、金属および半金属の少なくとも一方を蒸着させ、
前記反応ガスとして、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスに代えて、酸素含有ガス、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを使用することができる。
【0018】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記積層体の少なくとも一部が、さらに前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることが好ましい。
【0019】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0020】
本発明の透明ガスバリアフィルムにおける透明ガスバリア層は、アーク放電プラズマを利用した蒸着法を用いて形成される。蒸着法は、成膜速度が非常に速いプロセスであり、生産性の高いプロセスである。またアーク放電プラズマは、通常使用されるグロー放電プラズマとは異なり、非常に高い電子密度であることがわかっている。蒸着法にアーク放電プラズマを用いることで、反応性を高くすることができ、非常に緻密な透明ガスバリア層が形成できる。
【0021】
アーク放電プラズマは、例えば、圧力勾配型プラズマガン、直流放電プラズマ発生装置、高周波放電プラズマ発生装置などで形成可能であるが、中でも蒸着中でも安定して高密度なプラズマを発生することが可能な圧力勾配型プラズマガンを用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明のガスバリアフィルムは、形成される透明ガスバリア層の成分が、金属および半金属の少なくとも一方、酸素、炭素および窒素のいずれをも含んでいる。金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、インジウム、マグネシウムなどであり、半金属では、例えば、ケイ素、ビスマス、ゲルマニウムなどである。ガスバリア性の向上には、透明ガスバリア層内におけるネットワーク構造(網目状の構造)を緻密にするような炭素、窒素が必要である。炭素および窒素が、単独ではなく、両方が透明ガスバリア層に含まれることによりその効果が発揮される。さらに透明性を向上させるために、酸素の含有が必要となる。さらに、透明ガスバリア層中に炭素および酸素が存在することによって、透明ガスバリア層の応力を抑えることができ、後述する樹脂基板と組み合わせることでクラックを効果的に防止することができ、良好なガスバリア性が得られる。透明ガスバリア層の応力についても、炭素および酸素が、単独ではなく、両方が透明ガスバリア層に含まれることによりその効果が発揮される。酸素、炭素および窒素は、化合物の形で含まれていてもよいし、原子の状態で含まれていてもよい。例えば、酸素の場合、金属酸化物または半金属酸化物の状態で含まれていてもよいし、酸化物を形成せずに酸素原子として含まれていてもよい。炭素および窒素についても同様である。
【0023】
前記透明ガスバリア層の成分につき、金属および半金属の少なくとも一方としては、ケイ素であることが最も好ましい。金属および半金属の少なくとも一方がケイ素である場合、組成比(原子数比)としては、ケイ素を1とした場合、酸素が1.1〜1.4、炭素が0.1〜0.6、窒素が0.1〜0.8の各範囲内であることが好ましい。前記組成比は、ケイ素を1とした場合、酸素が1.1〜1.3、炭素が0.3〜0.5、窒素が0.3〜0.7の各範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
前記透明ガスバリア層の厚みは、ガスバリア性、透明性、蒸着時間および層の内部応力を考慮して、50〜400nmが好ましく、さらに好ましくは80〜250nmである。前記透明ガスバリア層は、単層でもよいが、複数層を積層したものであってもよい。
【0025】
樹脂基板は、ガラス転移点(Tg)が130℃以上300℃以下の範囲であり、かつ、150℃で0.5時間における熱収縮率が0%を超え0.5%以下の範囲であるものである。このような樹脂基板を用い、前述の透明ガスバリア層を形成することで、ガスバリア性および透明性に優れた透明ガスバリアフィルムが得られる。前記Tgは、130℃以上200℃以下の範囲であることが好ましい。また、前記熱収縮率は、0.3%以下の範囲であることが好ましい。樹脂基板としては、樹脂フィルムを用いることができる。透明ガスバリア層形成時に、アーク放電プラズマや蒸着源からの輻射熱により樹脂フィルムは加熱されるため、耐熱性、特にTgと熱収縮性が重要となる。Tgが低く、または、熱収縮性が大きい場合、蒸着の際に樹脂フィルムに歪が発生し、透明ガスバリア層にクラックなどが生じてガスバリア性が劣化することが考えられる。したがって、樹脂フィルムとしては耐熱性の高いものを用いる必要がある。熱収縮率は0.5%以下であって小さいほど好ましいが、0%(熱収縮が全くない状態)であると、十分なガスバリア性を得ることができない。なお、本発明におけるTgはフィルム状態での数値を表わし、樹脂のバルク状態のものではない。フィルムの収縮の方向としては、フィルム製造時の幅方向(TD)と流れ方向(MD)とで規定できるが、本発明における樹脂基材としての樹脂フィルムは、両方向について熱収縮率が0.5%以下である。具体的な樹脂フィルムの材質としては、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサルファイド、ポリフェニルサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドなどがあげられる。またその厚みは20〜200μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。
【0026】
本発明における樹脂基板は、透明ガスバリア層の形成前にその表面を、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理またはイオンエッチング(RIE)処理を行ったものであってもよい。また平滑層や接着層として無機物やポリマーの層を、真空プロセスや塗布により形成したものであってもよい。
【0027】
本発明において、透明ガスバリア層に含まれる酸素、炭素および窒素は、反応ガスの存在下でアーク放電プラズマを発生させて、蒸着を行うことによって、導入することができる。前記蒸着における蒸着材料として、金属酸化物および半金属酸化物の少なくとも一方を用いるときは、反応ガスとして、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを用いる。前記蒸着における蒸着材料として、金属および半金属の少なくとも一方を用いるときは、反応ガスとして、酸素含有ガス、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを用いる。前記のうち、蒸着材料として、金属酸化物および半金属酸化物の少なくとも一方を用い、反応ガスとして、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを用いるほうが、蒸着時における効率をより向上させることができ、また、条件も制御しやすいため、好ましい。
【0028】
酸素含有ガスとしては酸素(O)、酸化二窒化(NO)、一酸化窒素(NO)、窒素含有ガスとしては窒素(N)、アンモニア(NH)、一酸化窒素(NO)、炭化水素含有ガスとしてはメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、エチレン(C)、アセチレン(C)などがあげられる。
【0029】
前記蒸着材料を蒸発させる手段としては、抵抗加熱、電子ビーム、アーク放電プラズマのいずれかを蒸着材料(蒸着源)に導入する方法を用いることができる。中でも、高速蒸着が可能である電子ビームあるいはアーク放電プラズマによる方法であることが好ましい。これらの方法は、併用してもよい。
【0030】
前記透明ガスバリアフィルムは、バッチ方式でも連続生産方式(Roll−to−roll方式)でも製造することができる。
【0031】
図1に、本発明における透明ガスバリアフィルムをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図示のとおり、この製造装置100は、真空槽1、圧力勾配型プラズマガン2、反射電極5、収束電極6、蒸着源7、放電ガス供給手段11、反応ガス供給手段12、真空ポンプ20を主要な構成部材として有する。真空槽1内には、基板加熱ヒータ13が配置され、前記基板加熱ヒータ13に樹脂基板(例えば、透明樹脂フィルム)3が設置されている。蒸着源7は、基板加熱ヒータ13と対向するように、真空槽1の底部に設置されている。蒸着源7の上面には、蒸着材料8が装着されている。前記真空ポンプ20は、前記真空槽1の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されており、これにより、前記真空槽1内を減圧することが可能となっている。前記放電ガス供給手段11および前記反応ガス供給手段12は、前記真空槽1の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されている。前記放電ガス供給手段11は、放電ガス用ガスボンベ21に接続されており、これにより、適度な圧力の放電ガス(例えば、アルゴンガス)を、前記真空槽1内に供給することが可能となっている。前記反応ガス供給手段12は、反応ガス用ガスボンベ22に接続されており、これにより、適度な圧力の反応ガス(例えば、酸素ガス、窒素ガス、メタンガス)を、前記真空槽1内に供給することが可能となっている。基板加熱ヒータ13には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。これにより、基板加熱ヒータ13の表面温度を調整することで、樹脂基板13の温度を、所定の範囲とすることが可能となっている。前記温度制御手段としては、例えば、シリコーンオイル等を循環する熱媒循環装置等があげられる。
【0032】
図1に示す製造装置を使用した場合の製造プロセスの一例は、次のとおりである。真空槽1内を10−3Pa以下に排気した後、アーク放電プラズマ発生源である圧力勾配型プラズマガン2に、放電ガス供給手段11から放電ガスとしてアルゴンを導入し、一定電圧を印加して、樹脂基板3が曝されるようにプラズマビーム4を反射電極5に向かって照射する。プラズマビーム4は収束電極6によって一定の形状になるよう制御される。アーク放電プラズマの出力は、例えば、1〜10kWである。一方、反応ガス供給手段12から反応ガスを導入する。また、蒸着源7に設置した蒸着材料8に電子ビーム9を照射し基板3に向かって材料を蒸発させる。反応ガスが存在する状態で、蒸着を行い、基板3上に所定の透明ガスバリア層を形成させる。透明ガスバリア層の形成速度(蒸着速度)は基板3付近に設置した水晶モニター10によって計測、制御される。蒸発開始から蒸着速度が安定化するまでの間は、基板3を覆うシャッター(図示せず)を閉じておき、蒸着速度が安定してから前記シャッターを開けて、透明ガスバリア層の形成を行うことが好ましい。透明ガスバリア層として、複数層を積層する透明ガスバリア層を製造する場合には、この工程を繰り返し所定の積層体を形成させる。このとき系内圧力は、例えば、0.01Pa〜0.1Paの範囲内であり、0.02Pa〜0.05Paの範囲内であることが好ましい。また、基板温度は、例えば、20℃〜200℃の範囲内であり、80℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。なお、前記アーク放電プラズマの発生と反応ガスの導入は同時または前後してもよく、反応ガス導入と前記プラズマ発生を同時に行ってもよいし、反応ガス導入後に前記プラズマを発生させてもよく、前記プラズマ発生後に反応ガスを導入してもよい。反応ガスは、透明ガスバリア層形成時に系内に存在すればよい。
【0033】
図2に、本発明の透明ガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。連続生産方式は、前記透明ガスバリア層形成時に真空槽内において、前記透明樹脂フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記透明樹脂フィルムの上に前記透明ガスバリア層を形成する方式である。図2において、図1と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、基板加熱ヒータ13に代えて、真空槽31内に、巻出ロール33a、キャンロール35、巻取ロール33b、および二つの補助ロール34a、34bが配置されている。巻出ロール33aから、巻取ロール33bにわたり、キャンロール35および二つの補助ロール34a、34bを介して、透明樹脂フィルム32が掛け渡されている。これら以外は、図1と同様の構成である。キャンロール35には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。前記温度制御手段としては、基板加熱ヒータ13の場合と同様のものがあげられる。
【0034】
本装置による連続生産は、フィルムを連続して装置内に導入し、フィルムを移動させながら反応ガスの存在下でアーク放電プラズマビームに曝して蒸着を行い、連続して透明ガスバリア層を形成すること以外は、バッチ生産方式で製造する装置と同様に実施できる。
【0035】
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有するものであって、前記基板が本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。前記陽極層としては、例えば、透明電極層として使用できる、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(登録商標、Indium Zinc Oxide)の層が形成される。前記有機発光層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。陰極層としては、反射層を兼ねてアルミニウム層、マグネシウム/アルミニウム層、マグネシウム/銀層等が形成される。この積層体を大気に曝さないようにこの上から金属、ガラス、樹脂等により封止を行う。
【0036】
本発明の有機EL素子は、前記積層体の少なくとも一部が、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていてもよい。すなわち、本発明の透明ガスバリアフィルムは有機EL素子の背面封止部材としても適用可能である。この場合、本透明ガスバリアフィルムを前記積層体上に接着剤を用いて、または、ヒートシールなどにより設置することで十分に封止性を保つことが可能である。
【0037】
有機EL素子の基板として、本発明の透明ガスバリアフィルムを用いると、有機EL素子の軽量化、薄型化および柔軟化が可能となる。したがって、ディスプレイとしての有機EL素子はフレキシブルなものとなり、これを丸めるなどして、電子ペーパーのように使用することも可能となる。また、本発明の透明ガスバリアフィルムを背面封止部材として用いると、被覆が容易であり、また、有機EL素子の薄型化も可能となる。
【0038】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含み、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されている。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは、太陽電池の受光側フロントシートおよび保護用バックシートとしても好適に使用できる。太陽電池の構造の一例としては、薄膜シリコンやCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)薄膜により形成した太陽電池セルを、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂により封止し、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムにより挟み込むことで構成されるものがあげられる。前記樹脂による封止をせずに、本発明の透明ガスバリアフィルムで直接挟み込んでもよい。
【0039】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されている。薄膜電池としては、薄膜リチウムイオン電池などがあげられる。前記薄膜電池としては、基板上に金属を用いた集電層、金属無機膜を用いた陽極層、固体電解質層、陰極層、金属を用いた集電層を順次積層させた構成が代表的である。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは薄膜電池の基板としても使用することができる。
【実施例】
【0040】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0041】
(水蒸気透過速度)
水蒸気透過速度(WVTR)は、JIS K7126に規定される水蒸気透過速度測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN)にて、温度40℃、湿度90%RHの環境下で測定した。なお、前記水蒸気透過率測定装置の測定範囲は0.01g・m−2・day−1以上である。
【0042】
(光線透過率)
光線(可視光)透過率は、株式会社日立製作所製のUV−可視光分光光度計(商品名:U4000)を使用して測定し、550nmの透過率で表した。
【0043】
(透明ガスバリア層の厚み)
透明ガスバリア層の厚みは、透明ガスバリアフィルムの断面を、株式会社日立製作所製の透過型電子顕微鏡(TEM、商品名:HF−2000)にて観察し、基板(フィルム)表面から透明ガスバリア層表面までの長さを測長し、算出した。
【0044】
[実施例1]
〔透明樹脂フィルムの準備〕
透明樹脂フィルム(樹脂基板)として、帝人デュポンフィルム社製のポリエチレンナフタレートフィルム(厚み100μm)を準備した。
【0045】
〔透明ガスバリア層形成工程〕
つぎに、前記ポリエチレンナフタレートフィルムを、図1に示す製造装置に装着した。圧力勾配型プラズマガン内にアルゴンガス20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)を導入し、前記プラズマガン内の陰極に10kWの放電出力を印加しアーク放電プラズマを発生させた。反応ガスとして、窒素(純度5N:99.999%)、メタン(同 3N)をそれぞれ10sccm(10×1.69×10−3Pa・m/秒)、50sccm(50×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で真空槽内に導入し、この状態で、蒸着材料である一酸化シリコンタブレット(純度3N:99.9%)を電子ビーム(加速電圧 6kV、印加電流 50mA)により蒸着速度100nm/minとなるように蒸発させて、基板上に透明ガスバリア層を厚み100nmとなるように蒸着した。このとき系内圧力が2.0×10−2Paで、基板加熱ヒータ温度は100℃とした。
【0046】
[実施例2]
透明ガスバリア層の蒸着材料をシリコン粒(純度3N:99.9%)とし、反応ガスとして酸素(純度5N:99.999%)、窒素(同 5N)、メタン(同 3N)をそれぞれ1sccm(1×1.69×10−3Pa・m/秒)、5sccm(5×1.69×10−3Pa・m/秒)、40sccm(40×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0047】
[実施例3]
透明ガスバリア層の蒸着材料をアルミニウム粒(純度 3N)とし、反応ガスとして酸素、窒素、メタンをそれぞれ10sccm(10×1.69×10−3Pa・m/秒)、10sccm(10×1.69×10−3Pa・m/秒)、50sccm(50×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0048】
[比較例1]
反応ガスとして酸素のみを10sccm(10×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0049】
[比較例2]
反応ガスとして窒素のみを20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0050】
[比較例3]
反応ガスとしてメタンのみを20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0051】
[比較例4]
樹脂基板をポリエチレンテレフタレートフィルム(Tg=100℃、熱収縮率:MD方向2.0%、TD方向0.5%)とした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0052】
実施例1〜3および比較例1〜4で得られた透明ガスバリアフィルムについて、水蒸気透過速度(WVTR)および550nmの波長における光線透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
前記表1に示すとおり、実施例で得られた透明ガスバリアフィルムは、水蒸気透過速度の検出限界に至らない良好なガスバリア性と、85%以上の良好な光線透過率を有しており、単層の透明ガスバリア層の形成で好適な特性を有する透明ガスバリアフィルムが得られていることがわかる。また、実施例1では、他の実施例に比べて、蒸着時における効率が良く、蒸着速度がより安定であって、制御が容易であった。一方、反応ガスに酸素ガス、窒素ガスおよびメタンガスのいずれかを混合していない比較例1〜3では、水蒸気透過速度が0.05g・m−2・day−1以上と大きく、ガスバリア性に劣っていることがわかる。また、反応ガスに酸素ガスおよび窒素ガスを用いていない比較例3では、光線透過率が75%と、光透過性は十分とはいえなかった。また、樹脂基板であるフィルムのTgが低く、また、熱収縮率が大きい比較例4では、水蒸気透過速度が0.1g・m−2・day−1と大きく、ガスバリア性に劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、光透過性および優れたガスバリア性の両方を兼ね備えている。また、本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によれば、光透過性および優れた透明ガスバリア層を、速い蒸着速度で効率的に形成することができる。本発明の透明ガスバリアフィルムは、例えば有機EL表示装置、フィールドエミッション表示装置ないし液晶表示装置等の各種の表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、薄膜電池、電気二重層コンデンサ等の各種の電気素子・電気素子の基板ないし封止材料等として使用することができ、その用途は限定されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1、31 真空槽
2 圧力勾配型プラズマガン(アーク放電プラズマ発生源)
3 樹脂基板
4 プラズマビーム
5 反射電極
6 収束電極
7 蒸着源
8 蒸着材料
9 電子ビーム
10 水晶モニター
11 放電ガス供給手段
12 反応ガス供給手段
13 基板加熱ヒータ
20 真空ポンプ
21 放電ガス用ガスボンベ
22 反応ガス用ガスボンベ
32 透明樹脂フィルム
33a 巻出ロール
33b 巻取ロール
34a、34b 補助ロール
35 キャンロール
100、200 製造装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上に透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、
前記透明ガスバリア層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方、酸素、炭素、および、窒素を含み、
前記樹脂基板において、ガラス転移点が130℃以上300℃以下の範囲であり、かつ、150℃で0.5時間における熱収縮率が0%を超え0.5%以下の範囲であることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項2】
樹脂基板上に透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリアフィルムの製造方法であって、
アーク放電プラズマを発生させ、反応ガスの存在下で金属酸化物および半金属酸化物の少なくとも一方を樹脂基板に蒸着させて透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリア層形成工程を含み、
前記樹脂基板として、ガラス転移点が130℃以上300℃以下の範囲であり、かつ、150℃で0.5時間における熱収縮率が0%を超え0.5%以下の範囲である透明樹脂フィルムを用い、
前記反応ガスとして、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを用いることを特徴とする透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記透明ガスバリア層形成工程において、金属酸化物および半金属酸化物の少なくとも一方に代えて、金属および半金属の少なくとも一方を蒸着させ、
前記反応ガスとして、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスに代えて、酸素含有ガス、窒素含有ガスおよび炭化水素含有ガスの混合ガスを用いることを特徴とする、請求項2記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項5】
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板が、請求項1または4記載の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記積層体の少なくとも一部が、さらに請求項1または4記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする、請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、請求項1または4記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする太陽電池。
【請求項8】
集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、請求項1または4記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする薄膜電池。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179762(P2012−179762A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43284(P2011−43284)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】