説明

透明ガスバリアフィルム及びその製造方法

【課題】高いガスバリア性を有し、かつ、ガスバリア層と積層する薄膜層との密着性に優れた透明ガスバリアフィルム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層が積層された透明ガスバリアフィルムであって、該珪素酸化物からなる薄膜層の表面がアルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理されてなるものであることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリアフィルム及びその製造方法に関し、詳しくは、有機ELや太陽電池などの用途に好適に用いられる透明ガスバリアフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチックフィルムを基材とし、その表面に酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の無機薄膜を形成したガスバリアフィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装に広く利用されている。また、このガスバリアフィルムについては、包装用途以外にも、近年、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、EL用基板、カラーフィルター等で使用する透明導電シートとしての新しい用途にも注目されている。
このような無機薄膜を形成してなるガスバリアフィルムに関しては、ガスバリア性の低下防止あるいは更にガスバリア性を高めること、無機薄膜と他の薄膜層との密着性などを目的として種々の改良が検討されており、例えば、特許文献1では、高いガスバリア性と、ガスバリア層と導電性薄膜との密着性に優れた透明導電性ガスバリアフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−211575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のガスバリアフィルムでは、ガスバリア層の上に積層する導電性薄膜との密着性があまり良好ではない。
すなわち、本発明の課題は、高いガスバリア性を有し、かつ、ガスバリア層と積層する薄膜層との密着性に優れた透明ガスバリアフィルム、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討を重ねた結果、ガスバリア層の表面に特定のイオン照射処理を行うことで本発明の上記課題を解決しうることを見出した。また、そのようなイオン照射処理の後に、該ガスバリア層上に無機酸化物あるいは有機化合物の薄膜を積層することで、更に上記課題を有効に解決しうることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層が積層された透明ガスバリアフィルムであって、該珪素酸化物からなる薄膜層の表面がアルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理されてなるものであることを特徴とする透明ガスバリアフィルム、
(2)(a)高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層を積層する工程、及び(b)該珪素酸化物からなる薄膜層の表面に、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理を行う工程、を有することを特徴とする透明ガスバリアフィルムの製造方法、及び
(3)前記工程(b)の後に、(c)無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を積層する工程、を有する前記(2)記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高いガスバリア性を有し、かつ、ガスバリア層と積層する無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層との密着性が向上した透明ガスバリアフィルム、及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
<透明ガスバリアフィルム>
本発明の透明ガスバリアフィルムは、高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層が積層された透明ガスバリアフィルムであって、該珪素酸化物からなる薄膜層の表面がアルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理されてなるものである。また、本発明の透明ガスバリアフィルムは、前記イオン照射処理がされた珪素酸化物からなる薄膜層上に、イオン照射処理後に設けられた無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を有するものである。
【0009】
(高分子基材フィルム)
珪素酸化物からなる薄膜層を形成する高分子基材フィルムとしては、熱可塑性高分子フィルムが好ましく、その原料としては、通常の包装材料等に使用しうる樹脂であれば特に制限なく用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体などのポリオレフィン、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、フッ素樹脂、アクリレート樹脂、生分解性樹脂及びこれら2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中では、フィルム強度、コストなどの点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、生分解性樹脂が好ましい。
また、上記基材フィルムは、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0010】
上記高分子基材フィルムとしての熱可塑性高分子フィルムは、上記の原料を用いて成形してなるものであるが、基材として用いる際は、未延伸であってもよいし延伸したものであってもよい。また、他のプラスチック基材と積層されていてもよい。かかる基材フィルムは、従来公知の方法により製造することができ、例えば、原料樹脂を押出機により溶融し、環状ダイやTダイにより押出して、急冷することにより実質的に無定型で配向していない未延伸フィルムを製造することができる。この未延伸フィルムを一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、フィルムの流れ(縦軸)方向又はフィルムの流れ方向とそれに直角な(横軸)方向に延伸することにより、一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムを製造することができる。
【0011】
高分子基材フィルムの厚さは、本発明の透明ガスバリアフィルムの基材としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、その用途に応じ、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で選択され、厚さが大きいシート状のものも含む。また、フィルムの幅や長さについては特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
【0012】
(珪素酸化物からなる薄膜層)
上記高分子基材フィルム上に設けられる珪素酸化物からなる薄膜層としては、本発明においては、SiOxで表される酸化珪素からなるものが好ましく用いられる。ガスバリア性の点から、xは好ましくは0.5〜2.0であるが、より好ましくは1.0〜1.8である。また、ガスバリア性と基材フィルムとの密着性の点から、更に窒素を含有する珪素酸化物(SiOxy)が好ましく、ここで、yは好ましくは0.1〜0.7であるが、より好ましくは0.3〜0.5である。
【0013】
珪素酸化物からなる薄膜層の形成方法としては、蒸着法、コーティング法などの方法がいずれも使用できるが、ガスバリア性の高い均一な薄膜が得られるという点で蒸着法が好ましい。この蒸着法には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどのPVD(物理的気相蒸着)、あるいはプラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等のCVD(化学的気相蒸着)等の方法が含まれる。
【0014】
蒸着法においては、上記珪素酸化物からなる薄膜層の形成は、緻密な薄膜を形成するため減圧下で、好ましくはフィルムを搬送しながら行う。薄膜層を形成する際の圧力は真空排気能力とバリア性の観点から1×10-7〜1Pa、さらに好ましくは1×10-6〜1×10-1Paの範囲が好ましい。上記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、無機薄膜に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れている。
珪素酸化物からなる薄膜層の厚さは、一般に0.1〜500nmであるが、ガスバリア性、フィルムの生産性の点から、好ましくは0.5〜100nm、さらに好ましくは1〜50nmである。上記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、薄膜層に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れている。
【0015】
(イオン照射処理)
本発明の透明ガスバリアフィルムにおいては、上記珪素酸化物からなる薄膜層は、その表面が、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理されたものである。
イオン照射処理とは、原子をイオン化し加速器を用いて加速させ、対象物質に照射することにより、対象物質の表面を改質させる処理をいう。本発明においては、ガスバリアフィルムのガスバリア性と珪素酸化物からなる層との密着性の点及び安全にイオンを引き出せる点から、イオン照射処理に用いられるイオンとしては、N2+やAr+が用いられ、その原料として、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスが用いられる。
【0016】
イオン照射処理におけるアルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスの混合比については特に制限はないが、 処理面のプリクリーニングと活性化の観点からは、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスを容量比(Ar/N2)で0.1〜10で使用することができ、0.1〜5で使用することが好ましく、より好ましくは0.1〜2であり、更に好ましくは0.1〜1である。
本発明では、イオン照射処理を行うことにより、ガスバリア性の劣化を生じることなく高いガスバリア性を有し、かつ、珪素酸化物からなる薄膜層の処理面と無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層との密着性を向上させることができる。これは、イオンを照射することにより、珪素酸化物からなる薄膜層表面にそのイオンを含む、あるいは構造の変化した新しい膜ができ、該薄膜に新たな物性を与えるか、又は珪素酸化物からなる薄膜層表面を改質させ、密着性を向上させることができることによると思われる。
【0017】
イオン照射処理は、公知のイオン照射装置を用いて行うことができる。本発明においては、イオンの加速電圧は50〜3000V程度であることが望ましい。加速電圧を小さくすれば表面付近のみが処理され、大きくすれば深さ方向まで浸透して処理される。本発明においては、その目的、用いる無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層の種類や膜厚などにより、所望の加速電圧を選択することができ、また薄膜の損傷などを考慮すると加速電圧は100〜2000Vであることが好ましく、より好ましくは200〜1000Vである。また、本発明においては、イオン照射処理を行った後に熱処理を行っても良い。
【0018】
本発明においては、上記イオン照射処理の際、該イオン照射と同時に、ニュートラライザーから処理面に電子を照射することが好ましい。このような電子の照射により、チャージアップ防止の効果が得られる。
上記観点から、電子の照射は、照射量を調節する機能を持つ装置により、処理面上に残存するイオンを電気的に中和しうる条件で行うことが好ましい。
【0019】
(透明ガスバリアフィルム)
本発明の透明ガスバリアフィルムは、前述の通り、高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層が積層されたものであって、該珪素酸化物からなる薄膜層の表面がアルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理されてなるものであるが、更に、本発明の効果を奏するうえで、前記イオン照射処理がなされた珪素酸化物からなる薄膜層上に、無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を有するものであることが好ましい。
薄膜層を形成する無機酸化物あるいは有機化合物としては、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、水素化炭素等の酸化物が挙げられるが、ガスバリア性の点から、好ましくは酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムであり、酸化珪素、酸化アルミニウムが、高いガスバリア性が安定に維持できる点でより好ましい。
【0020】
また、珪素化合物、アルミニウム化合物、硼素化合物も使用することができ、珪素化合物として、シラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、テトラメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、テトライソシアナートシラン、トリエトキシフルオロシラン、ベンジルトリメチルシラン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、メチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。また、アルミニウム化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート等が挙げられる。さらに、硼素化合物としては、ジボラン、テトラボラン、フッ化硼素、塩化硼素、臭化硼素等が挙げられる。
上記化合物としては、ガスバリア性や、基材フィルム上の珪素酸化物からなる薄膜層との密着性の点から、好ましくは珪素化合物である。
無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層としては、通常無機酸化物及び/又は有機化合物の単層からなるものであってもよいが、複数の層から構成されていてもよい。
【0021】
前記の無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層の成膜方法は、目的の薄膜を形成できる方法であれば特に制限はなく、いかなる方法でも良いが、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどのPVD(物理的気相蒸着)、あるいはプラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等のCVD(化学的気相蒸着)等の方法が使用できる。
上記無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層の膜厚は、その用途に応じて5〜150nmの範囲内であることが好ましい。5nm以上であれば、連続な薄膜が形成可能であり、150nm以下であれば可視光域の十分な透過度が維持される。上記観点から、上記薄膜層の膜厚は、10〜100nmであることが好ましく、20〜50nmであることがより好ましい。
【0022】
上記無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層は、その用途として、有機ELや太陽電池等の透明・軽量・フレキシブル膜であってもよく、高バリア性・高密着性の観点から、劣化防止層であることが、本発明の効果の観点から好ましい。
本発明の透明ガスバリアフィルムは、そのガスバリア性が40℃、90%RHでの水蒸気透過率で、0.1(g/m2・day)以下であることが好ましく、0.08(g/m2・day)以下であることがより好ましく、0.05(g/m2・day)以下であることが更に好ましい。水蒸気透過率の測定は、後述の方法で行うことができる。
本発明のガスバリアフィルムは透明であるが、その全光線透過率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。上記全光線透過率はヘーズメーターにより測定することができる。
【0023】
<透明ガスバリアフィルムの製造方法>
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法は、(a)高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層を積層する工程、及び(b)該珪素酸化物からなる薄膜層の表面に、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理を行う工程、を有する。また、本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法は、好ましくは、前記工程(b)の後に、(c)無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を積層する工程を有する。
【0024】
(a)高分子基材フィルム上に少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層を積層する工程、更に(b)珪素酸化物からなる薄膜層の表面に、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理を行う工程については、前述の通りである。また、(b)のイオン照射処理工程の後に、好ましく行われる(c)無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を積層する工程についても前述の通りであるが、処理後の表面汚染が進む前及び/又は表面の活性が失活する前、具体的には、イオン照射処理後、好ましくは1分以内に、より好ましくは、10秒以内に無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を積層することが好ましい。イオン照射処理工程の後に工程(c)を行うことにより、バリア性が高く、かつ、密着性が良好となる点で好ましい。
【0025】
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法においては、前記工程(b)において、原料混合ガス中のアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスの混合比(Ar/N2)が、容量比で0.1〜10、好ましくは0.1〜5であり、かつイオン加速電圧が100〜2000Vであることが好ましい。また、前記工程(b)のイオン照射処理を行うと同時に、ニュートラライザーから処理面に電子を照射することが好ましい。その詳細については、前述の通りである。
【0026】
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法においては、前記各々の工程を、単一のロール上に高分子基材フィルムを沿わせて走行させながら行うことが好ましい。すなわち、(a)高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層を積層する工程、(b)該珪素酸化物からなる薄膜層の表面に、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理を行う工程、及び上記イオン照射処理工程の後に好ましく行われる(c)無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を積層する工程、はいずれも単一のロール上に高分子基材フィルムを沿わせて走行させながら行うことが好ましい。
なお、工程(b)及び(c)の各々においては、高分子基材フィルムは、珪素酸化物からなる薄膜層を積層したものである。上記単一のロールは、処理中の高分子基材フィルムの熱劣化防止の点から、冷却ロールであることが好ましい。このような方法により、シワなどのフィルムの変形を防ぎ、さらに、フィルムの透明性、バリア性、密着性の低下を防ぐ効果が得られ好ましい。
【0027】
本発明の透明ガスバリアフィルム及びその製造方法は、高バリア性・高密着性の観点から、有機ELや太陽電池の分野において、劣化防止層に使用することが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例及び比較例により本発明は制限を受けるものではない。なお、種々の物性の測定および評価は次のようにして行った。
【0029】
<評価項目>
(1)水蒸気バリア性
ガスバリアフィルムの水蒸気バリア性は40℃90%の条件下で水蒸気透過率測定装置(Technolox社製 Deltaperm)を用いて、水蒸気透過率として測定した。
(2)密着性
密着性は、JIS K5600−5−6に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行った。すなわち、セロハンテープ(ニチバン社製)を用い、指の腹でガスバリアフィルムに密着させた後剥離した。判定は100マスの内、積層した薄膜層が剥離しないマス目の数で表した。
【0030】
(3)総合評価
◎:水分進入による劣化がなく、屈曲利用によるはく離がなく好適に利用できる
○:利用期間が短く、また、屈曲負荷も少ない分野で好適に利用できる
×:水分進入による劣化、あるいは、屈曲利用によるはく離があり利用不可
【0031】
実施例1
厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に珪素酸化物(SiOx:x=1.6)の薄膜層を真空蒸着法(条件:操作圧力0.005Pa、抵抗加熱)により厚さ20nmで形成し、その表面にイオン照射装置(Veeco社製 ALS−340L)によりイオン照射処理を施した。このイオン照射装置にはArとN2の混合ガス(混合容量比Ar/N2=10/90=0.11)を導入し、プラズマ化したArとN2のイオンを加速電圧1kVで照射した。この後、無機酸化物層としてDCマグネトロンスパッタリング法(条件:操作圧力0.4Pa、DC300W)で酸化アルミニウム薄膜層を厚さ20nmで積層した。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、0.04g/m2/dayであった。
【0032】
実施例2
イオン照射処理後、有機化合物層としてプラズマCVD法(条件:操作圧力25Pa、RF13.56MHz、200W)でTMS(テトラメチルシラン)薄膜層を20nmで積層した以外は、実施例1と同様に透明ガスバリアフィルムを作成した。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、0.05g/m2/dayであった。
【0033】
実施例3
イオン照射装置にArとN2の混合ガス(混合容量比Ar/N2=80/20=4)を導入した以外は、実施例1と同様に透明ガスバリアフィルムを作成した。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、0.08g/m2/dayであった。
【0034】
比較例1
イオン照射装置にガスを導入せず、加速電圧を0Vとしたこと以外は実施例1と同様の方法で透明ガスバリアフィルム得た。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、1.0g/m2/dayであった。
【0035】
比較例2
イオン照射装置にArガスのみを導入しこと以外は実施例1と同様の方法で透明ガスバリアフィルム得た。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、0.1g/m2/dayであった。
【0036】
比較例3
イオン照射装置にArとO2の混合ガス(混合容量比Ar/O2=90/10=9)を導入したこと以外は実施例1と同様の方法で透明ガスバリアフィルム得た。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、0.2g/m2/dayであった。
【0037】
比較例4
イオン照射装置にN2ガスのみを導入しこと以外は実施例1と同様の方法で透明ガスバリアフィルム得た。形成した透明ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、0.6g/m2/dayであった。

以上の結果を表1に示した。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層が積層された透明ガスバリアフィルムであって、該珪素酸化物からなる薄膜層の表面がアルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理されてなるものであることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記イオン照射処理がされた珪素酸化物からなる薄膜層上に、上記イオン照射処理後に設けられた無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を有する請求項1記載の透明ガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記混合ガスが、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスを容量比(Ar/N2)0.1〜5で含有する請求項1又は2に記載の透明ガスバリアフィルム。
【請求項4】
(a)高分子基材フィルム上に、少なくとも珪素酸化物からなる薄膜層を積層する工程、及び(b)該珪素酸化物からなる薄膜層の表面に、アルゴン(Ar)と窒素(N2)の混合ガスを原料とするイオン照射処理を行う工程、を有することを特徴とする透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)の後に、(c)無機酸化物あるいは有機化合物からなる薄膜層を積層する工程、を有する請求項4記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、原料混合ガス中のアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスの混合比(Ar/N2)が、容量比で0.1〜5であり、かつイオン加速電圧が100〜2000Vである請求項4又は5に記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、イオン照射処理を行うと同時に、ニュートラライザーから処理面に電子を照射する請求項4〜6のいずれかに記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記請求項4〜7の各々に記載の工程を、単一のロール上に高分子基材フィルムを沿わせて走行させながら行う透明ガスバリアフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−214849(P2012−214849A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81277(P2011−81277)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】