説明

透明ガスバリア性フィルム

【課題】加工時や使用時に生じる熱による寸法変化が起こりにくく、且つ変質しにくく、したがって、長期にわたり高く安定したガスバリア性を保持することができる透明ガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】プラスチックフィルムを加熱処理し、特定の熱収縮率となるように収縮させてプラスチック基材フィルムとし、該プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に蒸着膜を設けて蒸着フィルムとし、さらに、該蒸着フィルムを加熱処理して、特定の熱収縮率となるように収縮させ、該収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面に、ガスバリア性塗布膜を設けることを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリア性フィルムに関し、詳しくは、加工時や使用時に生じる熱による寸法変化が起こりにくく、且つ変質しにくく、したがって、長期にわたり高く安定したガスバリア性を保持することができる透明ガスバリア性フィルムに関する。また、本発明は、該透明ガスバリア性フィルムを備えた電子デバイスに関する。
【0002】
本明細書において、配合を示す「比」、「%」などは特に記載のない限り質量基準である。
また、JIS−K6900では、シートとは薄く一般にその厚さが長さと幅の割りには小さい平らな製品をいい、フィルムとは長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品をいうものと定義されているが、本明細書ではシート及びフィルムの両方を含めて「フィルム」と呼ぶ。
本明細書において、MD方向とは、押出し成形時の機械におけるフィルムの流れ方向、すなわち長手方向であり、TD方向とは、MD方向と直角の方向である。
本明細書において、「透明」とは、製品化した際にその用途に支障がない程度に、十分な可視光透過性を有することを意味し、有色で透明なものも無色で透明なものも、いずれも含む。
【背景技術】
【0003】
太陽電池や、液晶、有機または無機エレクトロルミネッセンス(以下「EL」と称す)等の種々のディスプレイ、並びに電子ペーパーなどの電子デバイスにおいて、その内部構造を保護し、外部からの酸素や水蒸気を遮断するための封止材として、一般的にはガラス基板が使用されている。しかしながら、薄型化や軽量化の目的で、またはフレキシブルな製品を提供するために、従来のガラス基板に代わって、プラスチックフィルムを基材とする透明ガスバリア性フィルムの使用が検討されつつある。
このようなプラスチックフィルムを基材とする透明ガスバリア性フィルムとして、プラスチックフィルム上に金属薄膜などのガスバリア層を形成したものが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかしながら、プラスチックフィルムは一般的に耐熱性及び耐湿性が十分ではなく、製品化への加工工程において付される種々の加熱処理や水溶液との接触、例えば蒸着膜の形成工程における加熱、熱硬化性樹脂塗料のコーティング後の硬化工程における加熱、または蒸着膜のエッチング工程もしくはレジストの現像工程における水溶液との接触、あるいは高温高湿環境下での長期使用などにより、変形及び変質を起こし易い。したがって、このようなプラスチックフィルムからなる透明ガスバリア性フィルムは、基材であるプラスチックフィルムとその上に積層された蒸着膜との間でズレが生じ易く、それにより、蒸着膜にクラックやデラミネーションが発生する。そのため、該透明ガスバリア性フィルムは、特にそのガスバリア能に関して、経時劣化の進行が速く、このような透明ガスバリア性フィルムを使用した太陽電池や種々のディスプレイ、電子ペーパーなどの電子デバイスは、内部構造が水蒸気や酸素に触れ易くなるため、製品寿命が短いという難点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−251429号公報
【特許文献2】特開平6−124785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題を解決し、加工時や使用時に生じる熱による寸法変化が起こりにくく、且つ変質しにくく、したがって、長期にわたり高く安定したガスバリア性を保持することができる透明ガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。さらに、この透明ガスバリア性フィルムを用いて、長期間使用しても劣化しにくい電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、プラスチックフィルムを加熱処理し、TD方向の熱収縮率(S1)が、基準熱収縮率(Sb)の10〜90%の値となるように収縮させてプラスチック基材フィルムとし、該プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に蒸着膜を設けて蒸着フィルムとし、さらに、該蒸着フィルムを加熱処理して、TD方向の熱収縮率(S2)が、0.1〜2.0%となるように収縮させ、該収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面に、ガスバリア性塗布膜を設けることを特徴とする透明ガスバリア性フィルム、を提供する。
また、該透明ガスバリア性フィルムを備える電子デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を進め、プラスチックフィルムを、その上に蒸着膜を設ける前に、加熱処理によって特定の収縮率で予め収縮させ、さらに蒸着膜を設けた後でもう一度収縮させ、さらに、該蒸着膜を設けた面に、ガスバリア性の塗布膜を設けることにより、耐熱性及び耐水性に優れ、経時劣化の生じにくい透明ガスバリア性フィルムが得られることを見出した。
【0009】
本発明の透明ガスバリア性フィルムは、製品化工程において種々の加熱処理に付したり、種々の薬品と接触させたり、高温高湿環境下で長期にわたって使用した場合であっても、伸びやたわみが生じ難く、変形及び変質を起こしにくい。したがって、プラスチックフィルムを収縮させて得られる基材と蒸着膜との間で起きる応力集中によるクラック、デラミネーションの発生が抑制され、ガスバリア能の低下が防がれる。
また、本発明において、蒸着前後の二段階でフィルムを収縮させることにより、緻密で、隙間の少ない蒸着膜が得られるため、本発明の透明ガスバリア性フィルムは、極めて高いガスバリア性を示す。
さらに、蒸着膜の上に、ガスバリア性塗布膜を設けることにより、蒸着膜の緻密な状態が維持され、さらに平滑な塗膜表面が得られる。したがって、別のフィルム等をラミネートした場合に生じ得る密着強度の不足に起因するデラミネーションやガスバリア性の劣化を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る透明ガスバリア性フィルムの層構成を示す概略的断面図である。
【図2】低温プラズマ化学気相成長装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【図3】巻き取り式真空蒸着装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の透明ガスバリア性フィルムについて具体的に説明する。
1.本発明の透明ガスバリア性フィルムの構造
本発明に係る透明ガスバリア性フィルムは、プラスチック基材フィルム1のいずれか一方の面に、蒸着膜2及びガスバリア性塗布膜3を順に設けた3層構成を基本構造とするものである(図1)。
また、プラスチック基材フィルム1のいずれか一方の面に蒸着膜2、ガスバリア性塗布膜3を順に設け、もう一方の面にも蒸着膜2’、ガスバリア性塗布膜3’を順に設けた5層構成とすることもできる。
蒸着膜2、2’及びガスバリア性塗布膜3、3’はそれぞれ、2層以上の多層膜からなってもよい。
【0012】
2.プラスチックフィルム
本発明において用いるプラスチックフィルムとしては、化学的または物理的強度に優れ、種々の蒸着法によって蒸着膜を形成する条件に耐え得るプラスチック材料からなる透明フィルムを使用することができる。
このようなプラスチック材料からなる透明フィルムとしては、具体的には、ポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等の各種のプラスチック材料からなる透明フィルムを使用することができる。
【0013】
本発明において、上記の各種フィルムは、上記の各種の樹脂1種またはそれ以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の製膜化法を用いて、上記の各種の樹脂を単独で製膜化する方法、あるいは、2種以上の各種の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化する方法、さらには、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等により、各種のフィルムを製造し、さらに、所望により、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸した各種のフィルムとすることができる。
電子デバイスへの適用のためには、優れた機械的強度を示す2軸延伸フィルムが特に好ましい。
【0014】
なお、上記各種の樹脂1種またはそれ以上を使用し、その製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料等を使用することができ、さらには、改質用樹脂等も使用することができる。
また、本発明において、上記プラスチックフィルムの表面には、後述する蒸着膜との密接着性等を向上させるために、予め、所望の表面処理層を設けておくこともできる。
【0015】
本発明において、上記の表面処理層としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を任意に施し、例えば、コロナ処理層、オゾン処理層、プラズマ処理層、酸化処理層、その他を形成しておくことができる。
上記の表面前処理は、プラスチックフィルムと後述する蒸着膜との密接着性等を改善するためのものであるが、上記の密接着性を改善する方法として、その他、例えば、プラスチックフィルムの表面に、予め、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート剤層等を任意に形成して、表面処理層とすることもできる。
上記の前処理のコート剤層としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0016】
また、本発明に用いられるプラスチックフィルムの厚みは、電子デバイスへの適用に必要な自己支持性を付与できる範囲であれば特に限定されない。なかでも本発明に用いられるプラスチックフィルムの厚みは6μm〜188μmの範囲内であることが好ましく、特に9μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。プラスチックフィルムの厚みが上記の範囲よりも薄いと、必要な自己支持性を付与することができない場合があり、また、上記の範囲よりも厚いと、ロールでの製造が困難となる場合がある。
【0017】
3.プラスチックフィルムの加熱処理(第一の加熱処理)
本発明にしたがって、プラスチックフィルム及び後述の蒸着フィルムの収縮程度を正確に調整することにより、耐熱性及び耐水性に優れ、経時劣化の生じにくい本発明の透明ガスバリア性フィルムを得ることができる。ここで、本発明においては、電子デバイスへの適用においてMD方向より重要なファクターとなり得るTD方向の寸法変化により、両フィルムの収縮程度を定義する。
本発明において、上記プラスチックフィルムを第一の加熱処理に付し、TD方向の熱収縮率(S1)が、以下の式
TD方向の熱収縮率(S1)/基準熱収縮率(Sb)×100=10〜90(%)
のように、基準熱収縮率(Sb)の10〜90%の値となるように、好ましくは15〜80%の値となるように収縮させて、プラスチック基材フィルムとする。ここで、TD方向の熱収縮率(S1)は、以下の式により表される:
1=(L10−L11)/L10 ×100
1:TD方向の熱収縮率(%)
10:第一の加熱処理前のTD方向の寸法
11:第一の加熱処理後のTD方向の寸法
【0018】
また、本発明において、基準熱収縮率(Sb)は、以下の方法によってJIS C 2151に基き測定される。プラスチックフィルムから、試験片(100mm×100mm)2枚を切出し、各試験片にフィルムのTD方向またはMD方向を示す印をつける。次いで、該印をつけた試験片を、180℃の熱風循環式恒温槽内に無荷重状態で吊り下げ、30分間熱処理する。2枚の試験片について、室温に冷却後、TD方向の寸法(Lb、単位mm)及び熱収縮率(100−Lb)を測定し、測定値の平均を基準熱収縮率(Sb)とする。
【0019】
TD方向の熱収縮率(S1)が、基準熱収縮率(Sb)の10%を下回ると、その後の製品化工程等において、高温及び/または高湿環境下に置かれたときに、プラスチック基材フィルムが変形または変質し、該プラスチック基材フィルムと蒸着膜との間にクラックやデラミネーションが発生するため、本発明の効果が得られない。一方、90%を上回ると、熱収縮の異方性から、巻取り加工時に熱しわが発生するため、好ましくない。
加熱温度及び加熱時間は、加熱処理に付すプラスチックフィルムの組成に応じて、適宜設定することができるが、加熱温度は、室温以上〜200℃の範囲内、より好ましくは、55℃〜150℃の範囲である。加熱温度が室温以下であると、蒸着フィルムの膜質に変化がなく、防湿性の向上効果が得られない。一方、200℃より高いと、プラスチック基材フィルムが溶融し得るため好ましくない。加熱時間は、TD方向の熱収縮率(S1)が所望の値に至った時点で加熱を終了すればよく、例えば5秒間以上〜30分間の範囲、より好ましくは10秒以上〜1分間の範囲であってよい。加熱方法としては、通常の電気抵抗加熱によるオーブン加熱、真空式オーブン加熱、温水を利用した加熱、赤外線ヒータによる加熱、超音波振動による加熱など、種々の加熱方法を用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0020】
4.蒸着膜の形成
本発明において、上記プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に、蒸着膜を設けて蒸着フィルムとする。このような蒸着膜は、例えば、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)、真空蒸着法(抵抗加熱、誘電加熱、電子ビーム加熱方式)、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)のいずれかを用いて、またはこれらのうちの幾つかを併用して、プラスチック基材フィルム上に形成することができる。これらの蒸着法は、成膜材料の種類、成膜のし易さ、工程効率等に応じて適宜選択することができる。
【0021】
蒸着膜の材料としては、ガスバリア性及び透明性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化バリウム等の無機酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化マグネシウム等の無機窒化物;炭化珪素等の無機炭化物、硫化物等が適用できる。また、それらから選ばれた2種以上の複合体である、無機酸化窒化物や、さらに炭素を含有してなる無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等も適用できる。
【0022】
好ましいのは、酸化アルミニウム、酸化硅素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機酸化物(MOx)、無機窒化物(MNy)、無機炭化物(MCz)、無機酸化炭化物(MOxCz)、無機窒化炭化物(MNyCz)、無機酸化窒化物(MOxNy)、無機酸化窒化炭化物(MOxNyCz)であり、電子デバイスへの適用において特に好ましくは、必要とされるガスバリア性及びコスト等の観点から、無機酸化物(MOx)、無機窒化物(MNy)、無機酸化窒化物(MOxNy)である。ここで、好ましいMは、Si、Al、Tiなどの金属元素である。また、それらに金属や半導体等を添加あるいは置換したもの、またはそれらの混合物等である。
【0023】
本発明において、蒸着膜は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造である場合は、同一組成からなる層が積層された構成であってもよく、または、異なる組成からなる層が積層された構成であってもよい。
蒸着膜の膜厚は、ガスバリア能が発揮され得る厚さであれば特に制限はないが、好ましくは30〜10000Å、さらに好ましくは70〜8000Å、特に好ましくは100〜5000Åである。30Å未満では、必要なガスバリア性が得られにくく、10000Åを超えると、それ自身の応力が大きくなり、フレキシビリティが損なわれる。なお、蒸着膜が複層構造である場合は、上記膜厚とは、複層全体の膜厚を意味する。
【0024】
本発明の好ましい1つの態様において、化学気相成長法により、炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成する。本発明においては、具体的には、プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成することができる。上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができ、而して、本発明においては、高活性の安定したプラズマを得るためには、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0025】
具体的に、上記の低温プラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素の蒸着膜の形成法についてその一例を例示して説明すると、図2は、上記の低温プラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素の蒸着膜の形成法についてその概要を示す低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。図2に示すように、本発明においては、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバー22内に配置された送り出しロール23からプラスチック基材フィルム1を繰り出し、更に、該プラスチック基材フィルム1を、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。而して、本発明においては、ガス供給装置26、27および、原料揮発供給装置28等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しなから原料供給ノズル29を通して真空チャンバー22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送されたプラスチック基材フィルム1の上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、炭素含有酸化珪素の蒸着膜を製膜化する。本発明においては、その際に、冷却・電極ドラム25は、真空チャンバー22の外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、上記で炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成した基材フィルム1は、補助ロール33を介して巻き取りロール34に巻き取って、本発明にかかる低温プラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成することができるものである。なお、図中、35は、真空ポンプを表す。
【0026】
また、上記のプラズマ化学気相成長装置21において、炭素含有酸化珪素の蒸着膜の形成は、基材フィルム1の上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながら薄膜状に形成されるので、当該形成される炭素含有酸化珪素の蒸着膜は、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となるものであり、従って、炭素含有酸化珪素の蒸着膜のバリア性は、従来の真空蒸着法等によって形成される蒸着膜と比較してはるかに高いものとなり、薄い膜厚で十分なバリア性を得ることができるものである。また、本発明においては、プラズマによりプラスチック基材フィルム1の表面が、清浄化され、プラスチック基材フィルム1の表面に、極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される炭素含有酸化珪素の蒸着膜とプラスチック基材フィルム1との密接着性が高いものとなるという利点を有するものである。
【0027】
上記において、炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成する有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。
【0028】
また、本発明の好ましい1つの態様において、物理気相成長法により、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を形成する。具体的に、その方法について一例を挙げて説明すると、図3は、巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。図3に示すように、巻き取り式真空蒸着装置41の真空チャンバー42の中で、送り出しロール43から繰り出すプラスチック基材フィルム1は、ガイドロール44、45を介して、冷却したコーティングドラム46に案内される。而して、上記の冷却したコーティングドラム46上に案内されたプラスチック基材フィルム1の上に、るつぼ47で熱せられた蒸着源48、例えば、金属アルミニウム、あるいは、酸化アルミニウム等を蒸発させ、更に、必要ならば、酸素ガス吹出口49より酸素ガス等を噴出し、これを供給しながら、マスク50を介して、例えば、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を成膜化するものである。次いで、本発明においては、上記において、例えば、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を形成したプラスチック基材フィルム1をガイドロール51、52等を介して巻き取りロール53等に巻き取って、蒸着フィルムを製造することができる。なお、本発明においては、上記のような巻き取り式真空蒸着装置を用いて、まず、第1層の無機酸化物の蒸着膜を形成し、次いで、同様にして、該無機酸化物の蒸着膜の上に、更に、無機酸化物の蒸着膜を形成するか、あるいは、上記のような巻き取り式真空蒸着装置を用いて、これを2連に連接し、連続的に、無機酸化物の蒸着膜を形成することにより、2層以上の多層膜からなる無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0029】
5.蒸着フィルムの加熱処理(第二の加熱処理)
本発明において、プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に蒸着膜を設けて得られる蒸着フィルムを、さらに加熱処理し、TD方向の熱収縮率(S2)が、0.1〜2.0%となるように収縮させることにより、プラスチック基材フィルムが収縮すると共に、その上に積層された蒸着膜が緊密化するため、蒸着膜の防湿性を一層向上させることができる。
ここで、TD方向の熱収縮率(S2)は、以下の式により表される:
2=(L20−L21)/L20 ×100
2:TD方向の熱収縮率(%)
20:第二の加熱処理前のTD方向の寸法
21:第二の加熱処理後のTD方向の寸法
【0030】
TD方向の熱収縮率(S2)が、0.1%を下回ると、防湿性の向上効果が得られない。一方、2.0%を上回ると、蒸着膜にクラックが生じる恐れがあるため、好ましくない。
加熱温度及び加熱時間は、加熱処理に付す蒸着フィルムを構成するプラスチックフィルムや蒸着膜の組成に応じて、適宜設定することができるが、例えば、加熱温度は、室温以上〜200℃の範囲内、より好ましくは、55℃〜150℃の範囲である。加熱温度が室温以下であると、蒸着フィルムの膜質に変化がなく、防湿性の向上効果が得られない。一方、200℃より高いと、プラスチック基材フィルムが溶融し得るため好ましくない。加熱時間は、TD方向の熱収縮率(S2)が所望の値に至った時点で加熱を終了すればよく、例えば5秒以上〜30分間の範囲、より好ましくは10秒以上〜1分間の範囲であってよい。加熱方法としては、通常の電気抵抗加熱によるオーブン加熱、真空式オーブン加熱、温水を利用した加熱、赤外線ヒータによる加熱、超音波振動による加熱など、種々の加熱方法を用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0031】
6.ガスバリア性塗布膜の形成
本発明において、第二の加熱処理により収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面に、ガスバリア性塗布膜を設けることにより、蒸着膜のクラック等の発生を防ぎ、これにより、酸素ガス、水蒸気等の透過を阻止するバリア性に優れた透明ガスバリア性フィルムを得ることができる。
本発明で使用するガスバリア性塗布膜としては、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種類のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合してなるガスバリア性組成物からなる塗布膜であり、該組成物を上記第二の加熱処理により収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面上に塗工し、乾燥させることによって塗工膜を設け、20℃〜200℃で、かつ使用したプラスチックフィルムの融点より低い温度で10秒〜10分間加熱処理して硬化させることにより形成することができる。
【0032】
また、上記第二の加熱処理により収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面上に前記ガスバリア性組成物を塗工し、乾燥させる工程を2回またはそれ以上繰り返し、2層またはそれ以上の塗工膜を設け、その後に20℃〜200℃、かつ使用したプラスチックフィルムの融点より低い温度で10秒〜10分間加熱処理することにより、より高い本発明の効果を得ることができる。
なお、本発明のガスバリア性組成物の硬化工程における上記加熱条件下では、本発明の第一及び第二の加熱処理を経て得られた該蒸着フィルムは、変形及び変質を起こさないため、蒸着膜の緻密な状態が維持され、さらに平滑な塗膜表面が得られる。
【0033】
上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの加水分解物、アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができ、また、上記アルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されるものに限定されず、1個以上が加水分解されているもの、および、その混合物であってもよく、更に、加水分解の縮合物としては、アルコキシドの加水分解物の2量体以上のもの、具体的には、2〜6量体のものを使用してもよい。
上記一般式R1nM(OR2m中、R1としては、分枝を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などを挙げることができる。
【0034】
2としては、分枝を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等を挙げることができる。なお、同一分子中に複数の(OR2)が存在する場合には、(OR2)は同一であっても、異なってもよい。
Mで表される金属原子としては、珪素、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム等を例示することができるが、本発明においては珪素であることが好ましい。この場合、本発明で好ましく使用できるアルコキシドとしては、上記一般式R1nM(OR2mにおいてn=0の場合には、一般式Si(ORa)4(ただし、式中、Raは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が用いられる。このようなアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等を例示することができる。
【0035】
また、nが1以上の場合には、一般式RbnSi(ORc)4-m(ただし、式中、mは、1、2、3の整数を表し、Rb、Rcは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他を表わす。)で表されるアルキルアルコキシシランを使用することができる。このようなアルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32、ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252等を使用することができる。本発明では、上記のアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、本発明において、上記のアルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的には、例えば、ポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエトキシシラン等を使用することができる。
本発明では、上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。例えばアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いると、得られる透明ガスバリア性フィルムの靭性、耐熱性等を向上させることができる。
また、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性塗布膜の熱伝導率が低くなり、耐熱性が著しく向上する。
【0037】
本発明で使用するポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、いずれかを単独で使用しても、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用してもよい。本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することにより、ガスバリア性、耐水性、耐候性等の物性を著しく向上させることができる。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができ、例えば、株式会社クラレ製のRSポリマーである「RS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、同社製の「クラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を例示することができる。
また、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができ、例えば、株式会社クラレ製、「エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)」、日本合成化学工業株式会社製、「ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)」等を例示することができる。
【0038】
本発明において、上記ガスバリア性組成物を調製するに際し、シランカップリング剤等を添加してもよい。本発明で好適に使用できるシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを広く使用することができ、例えば、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適である。なお、シランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部の範囲内である。20質量部を超えて使用すると、形成されるガスバリア性塗布膜の剛性と脆性とが大きくなり、また、ガスバリア性塗布膜の絶縁性および加工性が低下する場合がある。
また、ゾルゲル法触媒とは、主として、重縮合触媒として使用される触媒であり、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三級アミンなどの塩基性物質が用いられる。例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができる。本発明においては、特に、N,N−ジメチルべンジルアミンが好適である。その使用量は、アルコキシド、および、シランカップリング剤の合計量100質量部当り、0.01〜1.0質量部である。
また、上記ガスバリア性組成物において用いられる「酸」としては、上記ゾルゲル法において、主として、アルコキシドやシランカップリング剤などの加水分解のための触媒として用いられる。例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに、酢酸、酒石酸などの有機酸を使用することができる。上記酸の使用量は、アルコキシドおよびシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総モル量に対し0.001〜0.05モルを使用することが好ましい。
【0039】
更に、上記のガスバリア性組成物においては、上記のアルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは0.8〜2モルの割合の水を用いることにより、アルコキシシランと金属アルコキシドとから、結晶性を有する直鎖状ポリマーが生成し、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造が得られる。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高く分子鎖剛性も高いため、特にガスバリア性(O2、N2、H2O、CO2等の透過を遮断、阻止する)に優れる。しかしながら、水の量が100モルを越えると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、更に、この球状粒子同士が3次元的に架橋し、密度の低い、多孔性のポリマーとなり、そのような多孔性のポリマーは、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性を改善することができなくなる。また、上記の水の量が0.1モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなる場合がある。
【0040】
本発明のガスバリア性組成物において用いられる有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等を用いることができる。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記アルコキシドやシランカップリング剤などを含む塗工液中で溶解した状態で取り扱われることが好ましく、上記有機溶媒の中から適宜選択することができる。なお、溶媒中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することもでき、例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名「ソアノール」などを好適に使用することができる。上記の有機溶媒の使用量は、通常、上記アルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、酸およびゾルゲル法触媒の合計量100質量に対して30〜500質量部である。
【0041】
本発明において、ガスバリア性塗布膜は、以下の方法で設けることができる。
まず、アルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾルゲル法触媒、酸、水、有機溶媒、および、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合し、ガスバリア性組成物を調製する。混合により、ガスバリア性組成物(塗工液)は、重縮合反応が開始および進行する。
次いで、第二の加熱処理により収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面に、例えば、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディッピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗布手段により、ガスバリア性組成物を塗布し、乾燥させる。この乾燥工程によって、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤およびポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体等の重縮合が更に進行し、塗工膜が形成される。第一の塗工膜の上に、更に上記塗布操作及び乾燥操作を繰り返して、塗工膜を2層以上積層してもよい。
次いで、上記ガスバリア性組成物を塗布した蒸着膜を20℃〜200℃、かつプラスチックフィルムの融点より低い温度、好ましくは、50℃〜160℃の範囲の温度で、10秒〜10分間加熱処理する。これによって、蒸着膜の上に、上記ガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を形成した透明ガスバリア性フィルムを製造することができる。
【0042】
本発明で使用するガスバリア性塗布膜の製造法について、アルコキシドとしてアルコキシシランを使用し、より詳細に説明する。
ガスバリア性組成物として配合されたアルコキシシランや金属アルコキシドは、添加された水によって加水分解される。加水分解の際には、酸が加水分解の触媒として作用する。次いで、ゾルゲル法触媒の働きによって、加水分解によって生じた水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合する。このとき、酸触媒により同時にシランカップリング剤も加水分解されて、アルコキシ基が水酸基となる。
【0043】
また、塩基触媒の働きによりエポキシ基の開環も起こり、水酸基が生じる。また、加水分解されたシランカップリング剤と加水分解されたアルコキシドとの重縮合反応も進行する。反応系にはポリビニルアルコール系樹脂、または、エチレン・ビニルアルコール共重合体、または、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体が存在するため、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が有する水酸基との反応も生じる。なお、生成する重縮合物は、例えば、Si−O−Si、Si−O−Zr、Si−O−Ti等の結合からなる無機質部分と、シランカップリング剤に起因する有機部分とを含有する複合ポリマーである。
上記の反応は常温で進行し、ガスバリア性組成物は、調製中に粘度が増加する。このガスバリア性組成物を、蒸着フィルム上の蒸着膜の上に塗布し、加熱して溶媒および重縮合反応により生成したアルコールを除去すると重縮合反応が完結し、透明な塗布膜が形成される。なお、上記の塗布膜を複数層積層する場合には、層間の塗布膜中の複合ポリマー同士も縮合し、層と層との間が強固に結合する。
【0044】
更に、シランカップリング剤の有機反応性基や、加水分解によって生じた水酸基が、蒸着膜の表面の水酸基等と結合するため、蒸着膜表面と、ガスバリア性塗布膜との接着性も良好なものとなる。このように、本発明においては、蒸着膜とガスバリア性塗布膜とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成するため、蒸着膜とガスバリア性塗布膜との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得る。
本発明において、ガスバリア性塗布膜の乾燥膜厚は、ガスバリア性及びフレキシビリティの観点から、0.01〜30μm、好ましくは0.1〜10μmであってよい。
【0045】
7.電子デバイスへの利用
本発明の透明ガスバリア性フィルムは、太陽電池、液晶、有機または無機エレクトロルミネッセンス(以下「EL」と称す)等の種々のディスプレイ、並びに電子ペーパーなどの電子デバイスにおいて、ガラス基板の代わりに使用するのに特に適している。
具体的には、ガスバリア性塗布膜を設けた面へ、透明電極層や補助電極層等を設けることで、ディスプレイ用基板とすることができる。また、耐湿性が求められたり、内容物保護が必要となったりする太陽電池、例えば有機太陽電池、色素増感太陽電池等への適用にも好適である。本発明の透明ガスバリア性フィルムをディスプレイ用基板として用い、各々のディスプレイの方式において必要な層を、透明ガスバリア性フィルムのガスバリア性塗布膜側又はプラスチック基材フィルム側のいずれかに積層し、ディスプレイとして使用することができる。本発明の透明ガスバリア性フィルムを適用するディスプレイとしては、種々のものがあるが、代表的なものとして、液晶ディスプレイおよび有機EL素子があり得る。
【0046】
液晶ディスプレイは、一般的には、2枚のガラス基板に、いずれも内側に透明電極を配置し、配向層等を伴なった間に液晶が挟まれ、周囲がシールされたものであり、カラー化するためのカラーフィルターを伴なう。このような液晶ディスプレイのガラス基板の外側に、本発明の透明ガスバリア性フィルムを適用することができ、あるいは、ガラス基板の代りに、本発明の透明ガスバリア性フィルムを用いることもできる。特に、2枚のガラス基板を、いずれも、本発明の透明ガスバリア性フィルムで置き換えれば、全体がフレキシブルなディスプレイとすることができる。
【0047】
有機ELディスプレイは、やはり、2枚の基板に、いずれも内側に透明電極を配置し、間に、例えば、(a)注入機能、(b)輸送機能、および(c)発光機能の各機能を持つ層を積層した複合層等からなる有機EL素子層が挟まれ、周囲がシールされたものである。液晶ディスプレイにおけるのと同様、ガラス基板の外側に、本発明の透明ガスバリア性フィルムを適用することができ、あるいは、ガラス基板の代りに、本発明の透明ガスバリア性フィルムを用いることもでき、2枚のガラス基板を、いずれも本発明の透明ガスバリア性フィルムで置き換えれば、全体がフレキシブルなディスプレイとすることができる。特に、有機EL素子は、蛍光発光を利用するために化学的に不安定であり、また、湿気に極度に弱いため、製品となった後の高度な水蒸気バリア性が望まれる。したがって、製品に高い水蒸気バリア性を付与することができる本発明の透明ガスバリア性フィルムの使用は特に好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の透明ガスバリア性フィルムを、具体的な実施例を挙げてさらに説明する。
[実施例1]
プラスチックフィルムとして、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、この基準熱収縮率(Sb)を180℃、30分で測定したところ、2.0%であった。
その後、上記の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、150℃の乾燥条件下で、30秒間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を0.3%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、該プラスチック基材フィルムを、巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着し、これを繰り出し、そのコロナ放電処理面に、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、以下の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成した。
(蒸着条件)
酸素ガス導入後の蒸着チャンバー内の真空度:2×10-4mbar
巻き取りチャンバー内の真空度:2×10-2mbar
電子ビーム電力:25kW
フィルムの搬送速度:240m/分
蒸着面:コロナ放電処理面
【0049】
その後、酸化アルミニウムの蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行い、酸化アルミニウムの蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。
次いで、上記の蒸着フィルムを、150℃の乾燥条件で1分間加熱処理を行って収縮させ、TD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とした。
次いで、以下に示す組成に従って、組成a.正珪酸エチル(多摩化学工業株式会社製)、イソプロピルアルコール、0.5規定塩酸水溶液、イオン交換水、シランカップリング剤からなる加水分解液に、予め調製した組成b.のポリビニルアルコール水溶液を加えて攪拌し 、無色透明のガスバリア性組成物を得た。
組成a.
正珪酸エチル 16.00
イソプロピルアルコール 3.90
0.5規定塩酸水溶液 0.50
2O 21.80
シランカップリング剤 1.60
(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
組成b.
ポリビニルアルコール 2.30
(RS−110:株式会社クラレ製、ケン化度=99%、重合度=1,000)
イソプロピルアルコール 2.700
2O 51.20
合計 100.000 (wt%)
【0050】
次に、蒸着膜のプラズマ処理面に、上記で製造したガスバリア性組成物をグラビアロールコート法によりコーティングし、150℃で60秒間加熱処理し、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成して、本発明の透明ガスバリア性フィルムを製造した。
【0051】
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じ、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを、150℃の乾燥条件下で、1分間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を0.8%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、得られたプラスチック基材フィルム上に、実施例1と同様にして、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成し、得られた蒸着フィルムにプラズマ処理面を形成し、次いでこれを加熱処理に付してTD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0052】
[実施例3]
実施例1で用いたものと同じ、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを、150℃の乾燥条件下で、3分間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を1.6%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、得られたプラスチック基材フィルム上に、実施例1と同様にして、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成し、得られた蒸着フィルムにプラズマ処理面を形成し、次いでこれを加熱処理に付してTD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0053】
[実施例4]
実施例1で用いたものと同じ、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを、150℃の乾燥条件下で、30秒間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を0.3%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、該プラスチック基材フィルムを、プラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、これを繰り出し、そのコロナ放電処理面に、以下の蒸着条件により、膜厚200Åの炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成した。
(蒸着条件)
反応ガス混合比:ヘキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1.2:5.0:2.5(単位:slm)
到達圧力:5.0×10-5mbar
製膜圧力:7.0×10-2mbar
フィルムの搬送速度:150m/min
パワー:35kW
【0054】
その後、炭素含有酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kW、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行い、炭素含有酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。
次いで、実施例1と同様にして、上記の蒸着フィルムを加熱処理に付してTD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0055】
[実施例5]
実施例1で用いたものと同じ、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを、150℃の乾燥条件下で、3分間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を1.6%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、得られたプラスチック基材フィルム上に、実施例4と同様にして、膜厚200Åの炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成し、得られた蒸着フィルムにプラズマ処理面を形成し、次いでこれを加熱処理に付してTD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0056】
[実施例6]
実施例1で用いたものと同じ、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを、150℃の乾燥条件下で、30秒間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を0.3%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、該プラスチック基材フィルムを、マグネトロンスパッタリング装置の送り出しロールに装着し、これを繰り出し、そのコロナ放電処理面に、以下の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化窒化珪素の蒸着膜を形成した。
(蒸着条件)
到達圧力:5.0×10-5mbar
成膜圧力:5.0×10-3mbar
アルゴンガス流量:800sccm
窒素ガス流量:300sccm
印加電力:4.5kW
フィルムの搬送速度:0.2m/min
【0057】
その後、酸化窒化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kW、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行い、酸化窒化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。
次いで、実施例1と同様にして、上記の蒸着フィルムを加熱処理に付してTD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0058】
[実施例7]
プラスチックフィルムとして、厚さ15μmの2軸延伸ポリアミドフィルムを使用し、まず、この基準熱収縮率(Sb)を、180℃、30分で測定したところ、4.0%であった。
その後、上記の2軸延伸ポリアミドフィルムを、150℃の乾燥条件下で30秒間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を0.4%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、該プラスチック基材フィルムを、巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着し、これを繰り出し、そのコロナ放電処理面に、酸化珪素を蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、以下の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した。
(蒸着条件)
酸素ガス導入後の蒸着チャンバー内の真空度:2×10-4mbar
巻き取りチヤンバー内の真空度:2×10-2mbar
電子ビーム電力:35kW
フィルムの搬送速度:180m/分
蒸着面:コロナ放電処理面
【0059】
その後、酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行い、酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。
次いで、実施例1と同様にして、上記の蒸着フィルムを加熱処理に付してTD方向の熱収縮率(S2)を0.1%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0060】
[実施例8]
実施例1で用いたものと同じ、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを、150℃の乾燥条件下で、30秒間加熱処理を行って収縮させて、TD方向の熱収縮率(S1)を0.3%とし、所望のプラスチック基材フィルムを得た。
次いで、得られたプラスチック基材フィルム上に、実施例1と同様にして、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成し、得られた蒸着フィルムにプラズマ処理面を形成し、次いでこれを180℃の乾燥条件で1分間加熱処理を行って収縮させ、TD方向の熱収縮率(S2)を1.8%とし、蒸着膜のプラズマ処理面にガスバリア性塗布膜を形成し、本発明の透明ガスバリア性フィルムを得た。
【0061】
[比較例1]
第一の加熱処理を施さない以外は、実施例1と同様の方法で、透明ガスバリア性フィルムを製造した。
【0062】
[比較例2]
第一の加熱処理を施さない以外は、実施例4と同様の方法で、透明ガスバリア性フィルムを製造した。
【0063】
[比較例3]
第一の加熱処理により、TD方向の熱収縮率(S1)を0.1%とした以外は、実施例4と同様の方法で、透明ガスバリア性フィルムを製造した。
【0064】
[比較例4]
上記実施例1で記載した厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、第一の加熱処理により、TD方向の熱収縮率(S1)を2.0%としたところ、巻取り中に多数のしわが発生したため、その後の加工工程に付すことができなかった。
【0065】
[比較例5]
第二の加熱処理により、TD方向の熱収縮率(S2)を2.3%とした以外は、実施例3と同様の方法で、透明ガスバリア性フィルムを製造した。
【0066】
[性能試験]
実施例1〜8及び比較例1〜3、5で作成した透明ガスバリア性フィルムの両面に、厚さ50μmのポリエチレンフィルムをドライラミネーションし、積層体サンプルを作成した。各積層体サンプルを、85℃、85%RHの高温高湿環境下で1000時間保管し、その前後での酸素透過度、水蒸気透過度を以下の方法で測定し、性能を評価した。
(a)酸素透過度測定:酸素透過度を、25℃、100%RHの雰囲気下で、酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製、MOCON OXIRAN)を使用して、JIS K7126に準じて測定した。
(b)水蒸気透過度測定:水蒸気透過度を、40℃、90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製、MOCON PARMATRAN)を使用して、JIS K7129に準じて測定した。
結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
本発明の透明ガスバリア性フィルムからなる積層サンプルは、高温高湿環境下で長期間保管した後も、酸素及び水蒸気に対して、保管前とほぼ変わらない高いガスバリア性を示した。これに対し、比較例1〜3及び5の透明ガスバリア性フィルムからなる積層サンプルは、高温高湿環境下で長期間保管した後は、ガスバリア性の著しい低下が見られた。また、比較例4の透明ガスバリア性フィルムは、巻取り中に多くのしわが発生し、外観不良を生じた。
【符号の説明】
【0069】
1:プラスチック基材フィルム
2:蒸着膜
3:ガスバリア性塗布膜
21:低温プラズマ化学気相成長装置
22、42:真空チャンバー
23、43:送り出しロール
24、33:補助ロール
25:冷却・電極ドラム
26、27:ガス供給装置
28:原料揮発供給装置
29:原料供給ノズル
30:グロー放電プラズマ
31:電源
32:マグネット
34、53:巻き取りロール
35:真空ポンプ
41:巻き取り式真空蒸着装置
44、45、51、52:ガイドロール
46:コーティングドラム
47:るつぼ
48:蒸着源
49:酸素ガス吹出口
50:マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムを加熱処理し、TD方向の熱収縮率(S1)が、基準熱収縮率(Sb)の10〜90%の値となるように収縮させてプラスチック基材フィルムとし、
該プラスチック基材フィルムの少なくとも一方の面に蒸着膜を設けて蒸着フィルムとし、
さらに、該蒸着フィルムを加熱処理して、TD方向の熱収縮率(S2)が、0.1〜2.0%となるように収縮させ、
該収縮させた蒸着フィルムの蒸着膜が設けられた面に、ガスバリア性塗布膜を設けることを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
プラスチックフィルムが、2軸延伸加工した樹脂のフィルムであることを特徴とする、請求項1に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項3】
少なくとも1つの蒸着膜が、無機酸化物、無機窒化物または無機酸化窒化物の蒸着膜であることを特徴とする、請求項1または2に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項4】
少なくとも1つの蒸着膜が、物理気相成長法により形成された酸化アルミニウムの蒸着膜であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項5】
少なくとも1つの蒸着膜が、化学気相成長法により形成された炭素含有酸化珪素の蒸着膜であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項6】
ガスバリア性塗布膜が、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種類のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及びエチレン・ビニルアルコール共重合体の少なくともいずれか一方とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物からなる膜であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項7】
一般式R1nM(OR2m中のMが、珪素、ジルコニウム、チタニウム、または、アルミニウムから選択される金属原子を表すことを特徴とする、請求項6に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項8】
アルコキシドが、アルコキシラン、アルコキシドの加水分解物、または、アルコキシドの加水分解縮合物からなることを特徴とする、請求項6または7に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項9】
ガスバリア性組成物が、シランカップリング剤を含むことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項10】
ガスバリア性塗布膜が、ガスバリア性組成物を塗工し、乾燥させて得られる塗工膜を、20℃〜200℃で、かつ、上記プラスチックフィルムの融点より低い温度で10秒〜10分間加熱処理して得られる硬化膜からなることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項11】
塗工膜が、2層またはそれ以上積層されてなることを特徴とする、請求項10に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項12】
ガスバリア性組成物が、水に不溶であり、かつ、有機溶媒に可溶な第三級アミンからなるゾルゲル法触媒を使用するゾルゲル法によって重縮合して得られることを特徴とする、請求項6〜11のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項13】
第三級アミンが、N,N−ジメチルベンジルアミンであることを特徴とする、請求項12記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項14】
ガスバリア性組成物が、アルコキシド1モルに対して0.1〜100モルの水を使用するゾルゲル法によって重縮合して得られることを特徴とする、請求項6〜13のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の透明ガスバリア性フィルムを備えることを特徴とする電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253861(P2010−253861A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108578(P2009−108578)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】