説明

透明ゴム変性スチレン系樹脂シート

【目的】 グラフト共重合型透明HIPSシートのより優れた耐衝撃性等の実用強度を発揮するシートを提供すること。
【構成】 グラフト共重合型透明HIPSに、これとの屈折率の差異が0.02以下のb−SBRをブレンドした材料からなるシートを中間層とし、その両面に、b−SBRをブレンドしていないグラフト共重合型の透明HIPSからなるシート又はフイルム層が積層されていることを特徴とする。
【効果】 中間層がシートの機械的強度を分担し、表面層がシートの光沢、平滑性の機能を分担する。これによって透明性と表面平滑性を維持すると同時に耐衝撃性等の実用強度物性を簡単に改良できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は飲食品等の透明包装材、容器等に広く使用できる透明ゴム変性スチレン系樹脂シート及びその成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】透明なゴム変性スチレン系樹脂(以下HIPSと記す)としては、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合ゴム(以下b−SBRと記す)とスチレン系樹脂とのブレンド型又はスチレン・ブタジエン・ブロック共重合樹脂とスチレン系樹脂とのブレンド型透明HIPSと、ゴム質重合体の存在下でスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステル等をグラフト共重合して得られるグラフト共重合型透明HIPSに大別される。
【0003】このうちブレンド型透明HIPSは、2乃至4種類の各種スチレン系重合体の混合材料であるが、混合比率が多少変わっても得られるシート自体の透明性の変化は少ない。また、ブレンド型透明HIPSを使用して得られたシート及びその加熱成形品は、表面平滑性が良好で透明性にも優れている。又ブレンド型透明HIPSの場合、ゴム成分の含有率が5〜20%程度と広範囲で物性強度面の要求には、多種類の材料の組み合わせ配合で対処できることから利用範囲も広い。しかしながらブレンド型透明HIPSは、シート押出方向(MD方向)と直角方向(TD方向)の引っ張り強度や引っ張り弾性率等の物性バランスが悪いという欠点を有する。
【0004】これに対して近年開発されたグラフト共重合型透明HIPSは、かかるブレンド型透明HIPSの欠点を改善しており、シート製品にした場合、他の材料よりバランスのとれた物性を武器に食品包装容器や各種トレー等の需要が期待されている(化学経済1994.3月号P.68〜74参照)。またかかるグラフト共重合型HIPSを主体とした第一層と該グラフト共重合型HIPS以外の樹脂を主体とした第二層とを積層した耐油性に優れた積層体も知られている(特開平6−182948号公報参照)。かかるグラフト共重合型透明HIPSは、近年開発されたばかりで、市販品のグレードも少なく材料の入手が容易でないため詳細は不明であるが、ゴム成分の含有率は通常5〜10Wt%程度である。そのためかグラフト共重合型透明HIPSを加工したシート或いは熱成形品では、実用強度が不足することがある。この場合の対策として、シートの肉厚を増すか、重合時の原料ゴム成分の添加率を増やす方法が考えられるが、前者は耐衝撃性向上への有効性には限界があり、後者は重合プロセス上の制限があるうえグレード数が増加する欠点がある。
【0005】またこのグラフト共重合型透明HIPSは、分散相のゴム成分と連続相のスチレン系重合体との屈折率を合わせることで透明性を実現しているため、グラフト共重合型透明HIPSに他の樹脂が少量混入しても材料に曇りが発生することが多い。例えば最も簡単な耐衝撃性向上の手段として、グラフト共重合型透明HIPSに第2成分としてゴム成分を配合する方法が考えられるが、得られるシートが乳白色になったり、ゴム成分の配合率増加により、加工したシートの表面平滑性が急激に悪化し曇りガラス状となり、見掛けの透明性が低下する欠点がある。
【0006】表面平滑性を向上させるために、シート製造時に冷却ロールでシートを強く圧着しシート表面の平滑度を向上する手段も一般に用いられている。この方法では、冷却ロールの剛性等の点から限度があること、得られたシートが熱成形する時の加熱段階で艶戻りすること等の欠点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明では、グラフト共重合型透明HIPSシート本来の優れた透明性と表面平滑性を維持し、より優れた耐衝撃性等の実用強度を発揮するシートを容易に且つ広範囲に選択できる透明ゴム変性スチレン系樹脂シート及びその成形品を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、グラフト共重合型透明HIPSの耐衝撃性向上方法と、表面平滑性向上方法について種々研究した結果本発明を完成した。即ち本発明は、グラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂に、これとの屈折率の差異が0.02以下のスチレン・ブタジエン・ブロック共重合型のゴム質重合体(b−SBR)をブレンドした材料からなるシートを中間層とし、その両面に、b−SBRをブレンドしていないグラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂からなるシート又はフイルム層が積層されていることを特徴とする透明ゴム変性スチレン系樹脂シートである。
【0009】以下本発明を詳細に説明する。本発明におけるグラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂とは、ポリブタジエンやスチレンーブタジエン等のゴム質重合体の存在型下でスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステルの一種又は二種を必須成分としてグラフト共重合して得られたものである。このグラフト共重合型樹脂は、通常分散層を形成するゴム成分と連続層を形成するスチレン系共重合体とそれらの界面のグラフト共重合体からなる構造を有するものであり、分散層を形成するゴム成分の平均粒子径は通常1μm以下好ましくは0.1〜0.6μmであることが透明性と表面平滑性の面で重要である。
【0010】ここでスチレン系モノマーとしては、スチレン,α−メチルスチレン,ο−メチルスチレン,р−メチルスチレン,エチルスチレン,イソブルスチレン等が挙げられるがなかでもスチレンが好ましい。なお本発明ではその他スチレン系モノマーと共重合しうるアクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のビニルシアン化物や(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸類、マレイミド類等を透明性を損なわない範囲でスチレン系モノマーに配合することができる。必須成分として配合する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタアクリル酸メチル,メタアクリル酸エチル,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸プロピル,アクリル酸−n−ブチル,アクリル酸−iso−ブチル,アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0011】これらはスチレン系モノマーと単独で又は2種以上の組み合わせで共重合させることができる。特にスチレン系モノマーとメタアクリル酸メチル及びアクリル酸−n−ブチルの三元系からなる組み合わせが好ましい。ゴム質重合体としては、ポリブタジエンゴム,スチレン−ブタジエン共重合ゴム等が利用できる。グラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂は、上記したゴム質重合体とスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステルの一種又は二種とを、適宜熱重合もしくは有機過酸化物触媒の存在下にて、塊状重合法や、溶液重合法等によってグラフト共重合させることによって得られる。
【0012】本発明では、かかるグラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂のより優れた耐衝撃性を発揮させるために、屈折率の差異が0.02以下のスチレン・ブタジエン・ブロック共重合型のゴム質重合体(b−SBR)をブレンドする。屈折率の相違が0.02以上になると、中間層が乳白色を帯び透明性が著しく低下する。この場合に配合するゴム質重合体(b−SBR)としては、スチレン含有率が30〜50Wt%のものが好ましい。b−SBRの配合量としては、両者は相互に屈折率が近く透明性を悪化させることがないので特に限定するものではない。ただしあまり配合量が多くなると、中間層としてのシートの表面平滑性に支障となるので、b−SBRの配合率は30Wt%以下好ましくは1〜15Wt%の範囲内である。
【0013】b−SBRを配合した中間層の材料からなる単層のシート製造方法は、通常のTダイ法を利用することができる。中間層のシートの厚みは、特に限定するものではないが、表裏両面層との積層体として真空成形や圧空成形等に利用できる程度であればよくかかる観点からは、0.2〜1.0mmが好ましい。なお本発明でいう屈折率の相違が0.02以下のb−SBRを配合した中間層の材料からなる単層のシートだけでは、曇りガラス状になり、見掛けの透明性が劣るためこのままでは利用できない。そこで本発明では、かかる単層のシートの両面に、上記したb−SBRを配合していないグラフト共重合型透明HIPSのフイルム又はシートの表面層を積層することによってかかる欠点を解決するものである。
【0014】この場合のフイルム又はシートの製造法としては、Tダイ法、インフレーション法等があり、これらのシート・フイルムの厚みは、0.01〜0.2mm程度の範囲内が好ましい。即ち本発明では中間層がシートの機械的強度を分担し、表面層がシートの光沢、平滑性の機能を分担するものである。シート積層体を得る方法としては、特に限定するものではなく、例えば中間層シートと表面層となるシートまたはフイルムとを接着剤なしに通常の加熱ロール等で加熱圧着する方法、中間層シート面に表面層を押し出しラミネートする方法、中間層シートと表面層とを共押出しする方法等が挙げられる。特に好ましくは、共押出し方法又は押し出しラミネート方法である。本発明では、中間層に対して表面層の肉厚は小さくてよいが、中間層と表面層の各々の肉厚及び或いは肉厚比率は特に限定するものではない。
【0015】
【実施例】以下、実施例及び比較例によって、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお各物性測定は以下の方法により求めた。
・屈折率 JIS K7105・全光線透過率 JIS K7105・曇価 JIS K7105・落錘衝撃強さ JIS K7211に準拠して50%破壊エネルギーを測定重錘の先端部の直径=38mm・ゴム含有率 二重結合に臭素を付加して測定する。WIJS法により測定。
【0016】実施例 1屈折率1.543のグラフト共重合型透明HIPS(ゴム含有率7.3Wt%)95部と屈折率1.550のスチレン含有率40Wt%のb−SBR 5部とを配合した材料から得られた厚み0.5mmのシートを中間層とし、グラフト共重合型透明HIPS=100%から得られた厚み0.05mmのシートを表面層とする3層シートを共押出し方法にて製造した。得られた積層シートについて各物性値の測定結果を表1に示す。又この積層シートは熱成形時における加熱段階で艶戻りすることなく耐衝撃性に優れ、表面平滑性、透明性共に良好であった。
【0017】実施例 2実施例1と同じグラフト共重合型透明HIPS 90部、スチレン含有率40Wt%のスチレン・ブタジエン・ブロック共重合体 10部からなるブレンド材料に変えた外は実施例1と同じ積層シートにて同じく各物性値の測定結果を表1に示す。又この積層シートは熱成形時における加熱段階で艶戻りすることなく耐衝撃性に優れ、表面平滑性、透明性共に良好であった。
【0018】比較例 1実施例1と同じグラフト共重合型透明HIPS 95部、スチレン含有率40Wt%のスチレン・ブタジエン・ブロック共重合体 5部からなる材料を使用し、肉厚=0.6mmの単層シートを製造した。得られたシートは耐衝撃性が実施例1のシートより優れていたが、表面平滑性が悪く曇りガラス状であり、見掛けの透明性が明らかに低いものであった。各物性値の測定結果を表1に示す。
【0019】比較例 2実施例1で使用したグラフト共重合型透明HIPSのみを使用し肉厚=0.6mmの単層シートを製造した。得られたシートは表面平滑性良好で、透明性良好であったが、耐衝撃性が著しく低かった。各物性値の測定結果を表1に示す。
【0020】比較例 3屈折率1.543のグラフト共重合型透明HIPS 95部、屈折率1.573のスチレン含有率75Wt%のスチレン・ブタジエン・ブロック共重合体 5部からなる材料を使用し、肉厚=0.6mmの単層シートを製造した。得られたシートは耐衝撃性が実施例1のシートと同等であったが、透明性が明らかに低いものであった。各物性値の測定結果を表1に示す。
【0021】比較例 4屈折率1.543のグラフト共重合型透明HIPS 95部、屈折率1.590のGPPS 5部からなる材料を使用し、肉厚=0.6mmの単層シートを製造した。得られたシートは乳白色であった。各物性値の測定結果を表1に示す。以上の実施例1、2比較例1〜4で製造したシートの表1にまとめて示す透明性、耐衝撃性等の評価結果から、本願発明の優れた効果が明らかである。
【0022】
【表1】


【0023】
【発明の効果】本発明によれば、中間層がシートの機械的強度を分担し、表面層がシートの光沢、平滑性の機能を分担する。これによってグラフト共重合型透明HIPSシート本来の透明性と表面平滑性を維持すると同時に耐衝撃性等の実用強度物性を簡単に改良することができる。従ってゴム成分等を添加して加工した従来のシートより格段に透明性に優れ、商品価値の高いシートが得られる。また積層した透明性材料シートは、中間層と表面層を構成する材料とが充分な親和性があり、シートに加工した状態で全く層間剥離しない。さらにスチレン・ブタジエン・ブロック共重合体は、微量残存する重合溶媒その他に起因する臭いが食品包装容器で問題になる場合があるが、本発明は臭気問題が殆どないグラフト共重合型透明HIPSを表面層とするため、中間層の臭い成分の拡散が抑えられる利点もある。本発明のHIPSシートは、透明性と耐衝撃性などが要求されるトレー、容器などの飲食品包装分野、建材等の工業分野、電子部品分野等に広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 グラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂に、これとの屈折率の差異が0.02以下のスチレン・ブタジエン・ブロック共重合型のゴム質重合体をブレンドした材料からなるシートを中間層とし、その両面に、ゴム質重合体をブレンドしていないグラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂からなるシート又はフイルム層が積層されていることを特徴とする透明ゴム変性スチレン系樹脂シート。
【請求項2】 グラフト共重合型の透明ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム質重合体の存在下でスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステルの一種又は二種とをグラフト共重合したものである請求項1記載の透明ゴム変性スチレン系樹脂シート。
【請求項3】 屈折率の差異が0.02以下のゴム質重合体は、スチレン含有率が30〜50Wt%のものである請求項1記載の透明ゴム変性スチレン系樹脂シート。

【公開番号】特開平8−244179
【公開日】平成8年(1996)9月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−50016
【出願日】平成7年(1995)3月9日
【出願人】(591128017)新日化ポリマー株式会社 (1)