説明

透明ハイガスバリア膜用コーティング液及びそれを用いて得られるコーティング膜並びに積層フィルム

【課題】透明ハイガスバリア膜用コーティング液及びそれを用いて得られるコーティング膜並びに積層フィルムを提供する。
【解決手段】合成スメクタイトとカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を主な固体成分とし、溶媒としての水又は水とアルコールを主な液体成分とするコーティング液を、プラスチックフィルムなどの基材上に塗布し、乾燥して密着させたコーティング膜、さらに本コーティング膜に無機質を真空蒸着法などにより積層してなる積層フィルム。
【効果】食品、医薬品、化学薬品、精密電子部品などの包装材料、表面保護材料において、ガスバリア性を有し、かつ透明性、柔軟性に優れたコーティング膜を提供できるコーティング液及びそれを用いて得られるコーティング膜並びに水蒸気バリア性を有する積層フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や医薬品などの包装材料、日用品や工業用品に使用されるプラスチックフィルム、シート、容器に関するものであり、さらに詳しくは、特に、高い透明性と高いガスバリア性を要求される分野で利用することができるコーティング液と、それを塗布してなるコーティング膜並びに水蒸気バリア性のある積層フィルムに関するものである。本発明は、透明ハイガスバリア膜用コーティング液及びそれを用いて得られるコーティング膜並びに積層フィルムであって、食品、医薬品、化学薬品、電子部品、精密機械部品などに用いられる包装材料として有用な新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化学薬品、電子部品、精密機械部品などに用いられる包装材料は、内容物の視認性や美観性、あるいは品質面から、高い透明性が要求されるとともに、内容物の吸湿や酸化などによる変質などを防止するために、高いガスバリア性が必要である。特に、食品については、タンパク質や油脂類の酸化、変質を抑制し、鮮度保持のために、また、医薬品においては、その効能を維持するために、高いガスバリア性が求められている。さらに、電子部品や精密機械部品においても、内容物に影響を及ぼすガスや湿気を遮断するとともに、内容物が確認できる透明性の包装材料が求められており、同時に、表面の汚れ防止、微細な傷防止のために、保護膜としての機能も要求されている。
【0003】
食品、医薬品、化学薬品などに用いられる透明なプラスチックフィルムは、包装された内容物の変質を防ぐために、酸素、水蒸気などのガス透過率の小さい材質のものが用いられている。例えば、食品包装用には、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリオレフィン(PO)系ラップフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ナイロン系多層フィルムなどが利用されている。
【0004】
医薬品用としては、錠剤の包装にポリプロピレン(PP)が、また、工業用としては、防錆を目的に、ポリビニルアルコール(PVA)が広く利用されている。酸素ガスバリア材として包装用に用いられているものに、ナイロン類、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などが代表例として挙げられる。ちなみに、EVOHの酸素ガスの透過度は、0.3cc/m・day/atm(厚さ15μm、23℃、0%RH)、PVDCの酸素ガス透過度は、1.0cc/m・day/atm(厚さ25μm、23℃、0%RH)とされている(出典:いずれも「包材構成分析 改訂版」東洋紡PPS)。
【0005】
また、これらのプラスチック類を、ラミネート又はコーティングすることにより、積層体とした、包装材料に用いられる包装フィルムは、比較的ガスバリア性を有している。しかしながら、この種の包装フィルムは、温度、湿度の影響を受けやすく、高温又は高湿下においてバリア性の低下がみられ、この種の包装フィルムは、長期的な保存には適さない。
【0006】
さらに、ガスあるいは水蒸気のバリア性を上げるために、プラスチックフィルムを基材として、これに、酸化ケイ素や酸化アルミ、酸化マグネシウムなどの無機酸化物、セラミックスの膜を、蒸着、スパッタリング、CVDなどにより形成する方法がとられている(例えば、特許文献1、2)。この方法では、透明なプラスチック基材を用いることにより、内容物の視認性はあるが、この種の基材は、屈曲性に弱く、基材との密着性や可撓性が悪いために、バリア性能が低下しやすい。
【0007】
また、クラックなどを防止し、ガスバリア性能の低下を防ぐために、プラスチックフィルムの表面に、無機酸化物を積層した後、その外表面に、保護膜として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン膜を熱圧着し、複合フィルムとすることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、このような保護膜を形成しても、より高度のガスバリア性を得ようとして、無機酸化物層を厚くすれば、無機酸化物層は脆くなり、容易にクラックやピンホールが発生し、ガスバリア性が失われ、ガスバリア性能には限界があった。
【0008】
一方、アルミニウムなどの金属又は金属化合物からなる金属箔やそれらの金属蒸着フィルムなどからなる包装材料は、温度や湿度に対する影響が少なく、ガスバリア性に優れていることから、レトルト処理包装材料として広く用いられ、内容物の品質保持にも優れている。しかしながら、金属箔や金属蒸着フィルムなどからなる包装材料は、包装材料を介して内容物を確認することができない。しかも、これらの包装材料は、成形加工時での加熱による熱ダメージや応力により、耐屈曲性などの問題もあり、ピンホールやしわが発生しやすく、結果的に、予定したガスバリア性能を十分に得られないことがある。
【0009】
近年、当技術分野において、先行技術として、例えば、粘土粒子を利用した、耐熱性のガスバリア性の薄膜が提案されており、ガスバリア性の薄膜は、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、包装材、封止材、ディスプレイ材などの分野に適応されることが報告されている(特許文献4)。また、本発明者らは、この粘土粒子を利用した耐熱性のガスバリア性の薄膜を適用し、ガスバリア性積層紙を開発している(特許文献5)。このガスバリア性積層紙は、基材紙、樹脂層、粘土層の順に積層され、容器として使用可能であり、電子レンジにも対応できるものである。上記特許文献4のガスバリア性薄膜は、自立膜であり、食品用包装材料としては、さらに高い耐クラック性が必要である。また、上記特許文献5のガスバリア性積層紙は、ガスバリア性を特徴とするものであり、透明性については何も触れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭53−12953号公報
【特許文献2】特公昭63−28017号公報
【特許文献3】特開昭60−23037号公報
【特許文献4】特許第3855004号公報
【特許文献5】特開2009−18525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ガスバリア性を有し、かつ透明性、柔軽性に優れたコーティング膜を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、上記粘土粒子のコーティング液を利用することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、上記粘土粒子の薄膜に着目して開発された新規コーティング技術に係るものであって、食品、医薬品、化学薬品、精密電子部品などの包装材料、表面保護材料において、ガスバリア性を有し、かつ透明性、柔軟性に優れたコーティング膜を得るためのコーティング液及びそれを用いて得られるコーティング膜並びに水蒸気バリア性を有する積層フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)合成スメクタイトとカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を主な固体成分とし、溶媒としての水又は水とアルコールを主な液体成分とするコーティング液あって、1)合成スメクタイト/カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量比が40/60〜60/40であり、2)上記水とアルコールを主な液体成分とする場合、水に対するアルコール濃度が0超〜30重量%からなり、3)固液比が1〜10重量%であり、4)粘度10〜1000m・Pa・sである、ことを特徴とする高分散性コーティング液。
(2)前記合成スメクタイトが、製造過程で生ずる過剰な副生電解質である少なくとも硫酸ナトリウムを除去したものである、前記(1)に記載のコーティング液。
(3)前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の分子量が大きくても10万である、前記(1)に記載のコーティング液。
(4)前記アルコールが、エタノール、メタノール、プロパノール、及びイソプロパノールの1種又は2種以上である、前記(1)に記載のコーティング液。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のコーティング液を、基材上に塗布し、乾燥して基材に密着させたことを特徴とするコーティング膜。
(6)酸素ガスバリア材として包装用に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)以上のレベルのハイガスバリア性を有し、膜厚が0.5μmのコーティング膜の酸素の透過度が、高くても0.5cc/m・day・atm(23℃、ドライ酸素)である、前記(5)に記載のコーティング膜。
(7)ポリエチレンテレフタレート(PET)レベルの透明性を有し、基材の透明性を阻害しない、前記(5)に記載のコーティング膜。
(8)基材との密着性に優れ、耐クラック性があり、180度折り曲げ試験で、剥離やクラックが発生せず、折り曲げ試験後も、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)以上のレベルのガスバリア性を有する、前記(5)に記載のコーティング膜。
(9)厚みが、0.06〜0.5μmである、前記(5)に記載のコーティング膜。
(10)バーコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ラミナーフローコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、カーテンコーティング、ロッドコーティング、エアードクターコーティング、ブレードコーティング、コンマコーティングのいずれかのコーティング方法により、基材上に塗布したものである、前記(5)に記載のコーティング膜。
(11)前記(5)に記載のコーティング膜上に、無機物を積層した構造を有することを特徴とする積層フィルム。
(12)真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法及びプラズマCVD法のいずれかの積層方法により、コーティング膜上に無機物を積層したものである、前記(11)に記載の積層フィルム。
【0014】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明は、透明性の高い合成粘土と、透明性の高い水可溶性の高分子を、水あるいは水を主成分とする液に分散させ、ダマを含まない均一なコーティング液を作製すること、このコーティング液を、表面が平坦な基材、例えば、プラスチックフィルムなどに、一般的なコーティング方法により塗布し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を加熱蒸発法などにより乾燥除去し、コーティング膜を作製することを特徴とするものであり、それにより、基材との密着性に優れ、透明性があって、基材の透明性を阻害しない、しかも、粘土粒子が配向して積層された状態になっている、ガスバリア性に優れ、耐熱性も優れたコーティング膜を作製し、提供するものである。
【0015】
本発明では、水分散型の粘土分散液として調製される粘土で、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどで示されるスメクタイト系のうちの一種以上からなるものが使用される。このような粘土を使用したときに、製膜性に優れ、ピンホールが存在せず、高いバリア性を得ることができる。また、透明性を向上させるために、好適には合成粘土、さらに好適には合成スメクタイト系が使用される。ここで、製膜性に優れ、とは、フレキシビリティーを有し、加工性に優れ、ロールトゥロールプロセスの適用が可能であることを意味し、ピンホールが存在せず、とは、ガスバリア性を低下させる連続した貫通孔がないこと、高いバリア性、とは、通過するガス量が非常に少ないことを意味する。
【0016】
合成粘土は、耐クラック性、バリア性に劣るが、これを克服するために、本発明では、水可溶性高分子を添加している。水可溶性の高分子としては、例えば、セルロース系樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、カルボキシルメチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、メトキシメチル化ポリアミド樹脂、メトキシエチレンマレイン酸系樹脂、テトラメチルアンモニウムクロリド樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カプロラプタム、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリアミノ樹脂、ポリ乳酸、スルフォン酸ポリマー、ブチルラバー、ポリイソブチレン、ラテックスポリマー等が挙げられ、このうちの一種以上が使用される。
【0017】
特に、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、カルボキシルメチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、メトキシメチル化ポリアミド樹脂、メトキシエチレンマレイン酸系樹脂、テトラメチルアンモニウムクロリド樹脂、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カプロラプタム、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ乳酸、スルフォン酸ポリマーのうちの一種以上からなるものを使用することが好ましい。本発明においては、各種水溶性高分子を検討した結果、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、CMCNaと示す)が、最も優れた耐クラック性を示すことが分かった。
【0018】
本発明のコーティング液の組成としては、固体成分である、合成スメクタイト/CMCNaの重量比が20/80〜80/20であり、より好ましくは40/60〜60/40である。CMCNaの量が少ない場合は、バインダーとしての効果が小さくなり、コーティング膜に微小のクラックが発生する。反面、CMCNaの量が多くなると、過剰のCMCNaが粘土粒子間に存在し、ガスバリア性が低下する。CMCNaの分子量は、10万以下が好適である。合成スメクタイトは、粘性を下げるために、あらかじめ、増粘効果のある過剰な副生電解質である硫酸ナトリウムなどを除いておくことが望ましい。
【0019】
分散液は、水又は水とアルコールの混合溶媒からなり、水70〜100wt%(重量%)、残りがアルコールであり、水に対するアルコール濃度が0超〜30wt%である。アルコールは、コーティング液塗布後の乾燥時間を短縮し、かつ溶媒の粘性を下げる効果があり、固液比を上げることができる。スメクタイト系は、水分散型であり、アルコールが30wt%を超えると、粘性が急激に上がり、50wt%を超えると、固体成分の沈殿が生じ、好ましくない。アルコールの種類は、特に限定されるものでないが、低粘性のエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノールの1種又は2種以上であることが好ましい。
【0020】
コーティング液の固液比は、1〜10wt%であり、粘度は、10〜1000m・Pa・sである。固液比1wt%未満では、溶媒の蒸発に時間とエネルギーを要し、現実的ではない。表1に、本発明のコーティング液の固液比と粘度の関係を示すが、コーティング液の固液比が10wt%を超えると、粘度が700m・Pa・s以上となり、1時間静置後では、1000m・Pa・s超える。粘度が高すぎると、高速での塗工が不可能になる。
【0021】
【表1】

【0022】
コーティング液を作製するには、粘土に水又は水とアルコールの混合溶媒を加え、数分から数時間振盪し、粘土を完全に分散させ、そこに、CMCNaを所定量入れ、さらに、数分から数時間振盪・撹拌し、コーティング液を作製する。このコーティング液を、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)シートに塗布し、30〜120℃のヒーターなどの加熱方式などにより乾燥させ、0.1秒から数十分間乾燥して、コーティング膜を作製する。
【0023】
コーティング液の塗布は、基材の形状によるが、フィルムやシートの場合には、バーコーティング、ロールコーティング、スピンコーティング、ラミナーフローコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティングなどの方法がある。容器などの形状が平面でない基材には、ディップコーティング、スプレーコーティングなどが好適である。
【0024】
本コーティング液の用途によっては、より接着性を上げるために、本コーティング液を塗布する前に、あらかじめ、基材に接着剤などのアンカーコートを行うことができる。乾燥条件は、特に限定されるものではないが、強制送風式オーブンやホットプレート上で30〜120℃の温度条件、好ましくは50℃〜100℃の温度条件で乾燥する。乾燥時間は、コーティング膜厚にもよるが、0.1秒〜数十分で十分であり、これらの条件により、透明性に優れたコーティング膜が得られる。
【0025】
乾燥後のコーティング膜の厚さは、コーティング液の濃度、塗布時の膜厚によって任意に設定できるが、好適には、0.06〜0.5μmである。コーティング膜の厚さが、例えば、0.5μmでは、酸素の透過度は、0.026cc/m・day・atm(23℃、ドライ酸素)であり、高くても0.5cc/m・day・atm(23℃、ドライ酸素)であり、ヘイズは3.44である。厚さ12μmのPETシートは、同一条件下で、酸素透過度174.7cc/m・day・atmであり、ヘイズは2.98であり、コーティング膜が、高いガスバリア性と高い透明性を示している。
【0026】
耐クラック性は、コーティング膜を塗工した基材を、180度折り曲げ、その後、元に戻し、電子顕微鏡によってクラック発生や剥離の有無の観察(倍率:1000倍)と酸素透過度を測定して、評価を行うことで、決定する。コーティングの膜厚が0.5μm以下であれば、クラックは認められず、酸素の透過度の変化もなく、柔軟性に優れていることが示された。
【0027】
前述したように、プラスチックフィルムを基材として、アルミニウムなどの金属又は金属化合物、酸化ケイ素や酸化チタンなどの無機酸化物などの無機質を積層してなる積層フィルムは、ガスバリア性、水蒸気バリア性の効果を有する。一方、本発明のコーティング液は、水分散型の粘土分散液として調製されたもので、それから得られるコーティング膜は、粘土層間に湿気を多量に保持する性質を持ち、したがって、多少の水分は、コーティング膜内に閉じ込められて、透過を防ぐ効果がある。
【0028】
基材に、本発明のコーティング膜を形成させた後に、金属、金属化合物、無機酸化物などの無機質を、真空蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、プラズマ気相成長法(CVD)などにより形成した積層フィルムは、ガスバリア性とともに、水蒸気バリア性を有する。この積層フィルムでは、何らかの理由で、金属膜や無機酸化物層にピンホールや微小のクラックが生じても、僅かな水蒸気は、コーティング膜に捕えられ、基材より外部に抜けることを防ぐことができる。本発明のコーティング膜の主要成分である合成スメクタイトは、吸水によって膨潤する。仮に、コーティング膜自体にピンホールや微小のクラックが生じたとしても、膨潤圧効果により、即、塞いでしまう自己修復の機能を持っている。本発明のコーティング膜がなく、無機質層とプラスチックフィルムからなる場合と比較して、本発明のコーティング膜を積層した積層フィルムは、水蒸気透過度を大幅に抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)合成スメクタイトとCMCNaを主成分とし、溶媒が、水又は水とアルコールからなるコーティング液であって、このコーティング液をプラスチックフィルム、シートなどのフレキシブルな基材上に塗布し、乾燥させて密着させたコーティング膜からなるフィルム又はシートを提供できる。
(2)上記フィルム又はシートは、これまでにない、ハイガスバリア性を有し、密着性に優れ、剥離がなく、耐クラック性を有し、透明性があって、基材の透明性あるいは色彩を阻害しない効果がある。
(3)容器などの形状が平面でない基材においても、塗布方法をディップコーティングやスプレーコーティングにすることによって、同様の効果が得られ、保護膜としての機能を持たせることができる。
(4)上記コーティング膜に、金属、金属酸化物、無機酸化物などの無機質を積層してなる積層フィルムは、水蒸気バリア性が出現し、湿気を嫌う食品、医薬品、精密機械部品・材料など、日用品、工業用品の包装材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明におけるCMCNa添加量と酸素透過度の関係を示すグラフである。
【図2】本発明におけるエタノールの添加量と粘度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものでない。
【実施例1】
【0032】
あらかじめ硫酸塩などの副生電解質を洗浄し、除去した、合成スメクタイト(クニミネ工業(株)製、合成粘土、低粘性スメクトン)1.4gに、蒸留水198.6gを入れ、2時間振盪を行い、水分散液を作製した。そこに、CMCNa(ダイセル化学工業(株)製)を1.4g加えて、さらに2時間振盪を行い、コーティング液を作製した。このコーティング液を、厚さ12μmのPETフィルム上に、ワイヤーバーでバーコーティングし、乾燥することにより、コーティング膜を作製した。
【0033】
上記コーティング膜の作製方法において、ワイヤーバーの種類を換えて、厚みの異なった7種類のコーティング膜を、PETフィルム上にコートし、50℃のホットプレート上で、数十秒間から数十分間乾燥させた。作製したコーティング膜について、酸素透過度、ヘイズ、耐クラック性を評価した。耐クラック性は、コーティング膜を180度折り曲げ、その後、元に戻し、電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示されるように、コーティング膜の厚さは、0.5μm以下であると、耐クラック性を有し、クラックの発生はないことが分かる。この場合、剥離についても観察されなかった。また、折り曲げ後のコーティング膜の酸素透過度を計測した結果、ほぼ同一の値を示し、柔軟性に優れていることを確認した。
<比較例1>
【0036】
比較のために、PETフィルムの酸素透過度、ヘイズを評価した。その結果を表2に示す。表2に示されるように、PETフィルムの酸素透過度は、本願発明のコーティング膜と比べて、4桁大きい結果であった。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同様に処理した合成スメクタイト(クニミネ工業(株)製、合成粘土、低粘性スメクトン)に、蒸留水を入れ、2時間振盪を行い、水分散液を作製した。そこに、CMCNa(ダイセル化学工業(株)製)を加えて、さらに2時間振盪を行うことにより、コーティング液を作製した。合成スメクタイト、CMCNa、蒸留水の各配合は、表3に示す通りとした。
【0038】
比較のために、CMCNaだけの組成と、合成スメクタイトだけの組成のコーティング膜を作製し、PETフィルムとコーティング膜間の接着力を評価した。接着力の評価は、JIS K 5600−5.6を参考にして行った。
【0039】
【表3】

【0040】
12μmのPETフィルムに、膜厚0.24μmのコーティング膜を作製した場合のCMCNa添加比率に対する酸素透過度の測定結果を、図1に示す。CMCNa添加比率が40〜60%で、酸素透過度が0.1cc/m・day・atm(23℃、ドライ「酸素)以下となることが分かる。表4に、CMCNaの添加比率、コーティング膜厚を変えた場合の接着性の評価結果(剥離の有無)を示す。
【0041】
【表4】

【0042】
CMCNaの添加比率が高いほど、接着力は高いことが分かる。
【0043】
<比較例2>
比較のために、CMCNaだけの組成と、合成スメクタイトだけの組成のコーティング膜を作製し、PETフィルムとコーティング膜間の接着力を評価した。表4に示したように、CMCNa無添加の場合は、すべてのコーティング膜厚で剥離があった。
【実施例3】
【0044】
次に、実施例1、2と同じ合成スメクタイトに、蒸留水を入れ、2時間振盪を行い、水分散液を作製し、そこに、CMCNaを添加し、さらに2時間振盪を行った。これに、エタノール(和光純薬製、試薬特級)を2wt%から50wt%加え、さらに、1時間振盪を行うことにより、コーティング液を作製した。その組成を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
作製したコーティング液の粘度を、B型粘度計(東機産業(株)、TV−22型)によって測定した。その結果を図2に示す。エタノールの添加に伴い、コーティング液の粘度は、エタノール無添加のコーティング液に比較し、粘度は下がる傾向を示し、エタノール濃度20〜30%から、粘度は上昇することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明は、透明ハイガスバリア膜用コーティング液及びそれを用いて得られるコーティング膜並びに積層フィルムに係るものであり、本発明のコーティング液を塗布して得られるコーティング膜は、ガスバリア性、透明性、基材への密着性、耐クラック性があり、柔軟性にも優れ、該コーティング液は、包装材料や、日用品や工業用品に使用されるプラスチックフィルム、シートなどに適用でき、かつ形状が平面でない基材にも使用可能である。
【0048】
本発明のコーティング膜の製品例としては、野菜、根菜、魚類、水産物などの生鮮食品、加工食品などの食料品包装材・食品容器、農薬、肥料、液体パック、医薬品、酸化性薬品などの包装材、半導体電子部品、精密機械部品・材料などの工業用品の包装材として有用であり、さらに、本発明は、透明性を生かし、基材あるいは成形品の美観を強調するパッケージ、また、表面の保護膜として、広範な用途に適用されるコーティング膜を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成スメクタイトとカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を主な固体成分とし、溶媒としての水又は水とアルコールを主な液体成分とするコーティング液あって、(1)合成スメクタイト/カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量比が40/60〜60/40であり、(2)上記水とアルコールを主な液体成分とする場合、水に対するアルコール濃度が0超〜30重量%からなり、(3)固液比が1〜10重量%であり、(4)粘度10〜1000m・Pa・sである、ことを特徴とする高分散性コーティング液。
【請求項2】
前記合成スメクタイトが、製造過程で生ずる過剰な副生電解質である少なくとも硫酸ナトリウムを除去したものである、請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の分子量が大きくても10万である、請求項1に記載のコーティング液。
【請求項4】
前記アルコールが、エタノール、メタノール、プロパノール、及びイソプロパノールの1種又は2種以上である、請求項1に記載のコーティング液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコーティング液を、基材上に塗布し、乾燥して基材に密着させたことを特徴とするコーティング膜。
【請求項6】
酸素ガスバリア材として包装用に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)以上のレベルのハイガスバリア性を有し、膜厚が0.5μmのコーティング膜の酸素の透過度が、高くても0.5cc/m・day・atm(23℃、ドライ酸素)である、請求項5に記載のコーティング膜。
【請求項7】
ポリエチレンテレフタレート(PET)レベルの透明性を有し、基材の透明性を阻害しない、請求項5に記載のコーティング膜。
【請求項8】
基材との密着性に優れ、耐クラック性があり、180度折り曲げ試験で、剥離やクラックが発生せず、折り曲げ試験後も、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)以上のレベルのガスバリア性を有する、請求項5に記載のコーティング膜。
【請求項9】
厚みが、0.06〜0.5μmである、請求項5に記載のコーティング膜。
【請求項10】
バーコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ラミナーフローコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、カーテンコーティング、ロッドコーティング、エアードクターコーティング、ブレードコーティング、コンマコーティングのいずれかのコーティング方法により、基材上に塗布したものである、請求項5に記載のコーティング膜。
【請求項11】
請求項5に記載のコーティング膜上に、無機物を積層した構造を有することを特徴とする積層フィルム。
【請求項12】
真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法及びプラズマCVD法のいずれかの積層方法により、コーティング膜上に無機物を積層したものである、請求項11に記載の積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−157523(P2011−157523A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22130(P2010−22130)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】