説明

透明フィルム並びにその製造方法及び使用方法

【課題】柔軟で、かつイエローシフトの発生を抑制できる透明フィルムを提供する。
【解決手段】鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含む透明フィルムを調製する。前記オレフィン系エラストマーは非晶性であってもよい。前記鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体は、α−鎖状C2−4オレフィンと多環式オレフィンとを重合成分とする共重合体であり、両者のモル比は、α−鎖状C2−4オレフィン/多環式オレフィン=80/20〜99/1程度であってもよい。前記青色系無機顔料の割合は、フィルム全体に対して10〜50ppm程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器又は光学機器などに利用され、柔軟性を要求される透明フィルム並びにその製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯機器、家電機器、制御機器などの小型化や高度化に伴って、電気・電子機器又は光学機器の入力部に利用されるスイッチ部材として、薄膜シートで形成されたシート状スイッチ部材、例えば、押しボタンスイッチ、メンブレンスイッチ、センサースイッチ、タッチパネルなどを構成するためのキートップシートや導光シートなどが汎用されている。これらのシート状スイッチ部材には、導光性(光を透過させるための透明性)、成形性、操作性(クリック感など)、機械的強度(繰り返し操作に対する耐久性など)、耐久性(耐光性、耐熱性、耐水性、耐加水分解性など)、印刷性(操作盤として利用するための印刷性など)などが要求され、特に、携帯電話の操作盤などに用いられるキートップシートは、手などで押圧されて撓むための弾力性及び柔軟性が要求されるため、主としてプラスチック又はエラストマーで構成された透明フィルムが使用されている。
【0003】
このような透明フィルムとしては、シリコーンエラストマーや熱可塑性ポリウレタンエラストマーが知られている。熱可塑性ポリウレタンエラストマーのうち、無黄変熱可塑性ポリウレタンエラストマーは原料樹脂が高価であり、フィルムの経済性が低い。一方、難黄変熱可塑性ポリウレタンエラストマーは比較的安価であるが、耐光性が低く、変色が大きかった。さらに、硬化性無黄変ポリウレタンエラストマーも検討されているが、経済性を克服できていない。
【0004】
一方、安価な熱可塑性ポリオレフィン系のエラストマーはポリプロピレンやポリエチレンの衝撃改良剤として使用されていたが、キートップシートなどに利用する場合には、耐熱性が低い。耐熱性が高いオレフィン系エラストマーとしては、環状オレフィン系エラストマーが知られており、特許第3274702号公報(特許文献1)には、ガラス転移温度が30℃以下である環状オレフィン系共重合体を含有する層と、合成高分子、天然高分子、金属、金属酸化物及びこれらの混合物から選ばれる少なくとも一種の材料からなる層又は成形体とからなる多層材料が提案されている。この文献には、多層材料がフィルム、シート、容器、包装材料、自動車部品、電気・電子部品、建築材料、土木材料などの様々な分野で使用できることが記載されている。
【0005】
しかし、この文献に記載の環状オレフィン系エラストマーをキートップシートや導光シートとして利用した場合には、白色光源の光の色相が変化して黄味がかって見えるイエローシフト(黄変色、夕焼け)が発生する。特に、本発明者らが検討した結果、厚み方向に透過した光にイエローシフトが発生しない場合であっても、フィルムの面方向に沿って入射した光ではイエローシフトが発生する。例えば、前記キートップシートや導光シートとして利用した場合、光をフィルム端面(断面)から入れて光路長(80mm)を通すと白色LEDの光にイエローシフトが発生するため、高度な透明性が要求される。イエローシフトの原因としては、環状オレフィン系エラストマーには、環状オレフィン単位に加えて、鎖状オレフィン単位が含まれるが、鎖状オレフィン単位による微結晶性が影響していると推定される。
【0006】
イエローシフトを抑制する方法としては、ブルーイング剤を用いる方法が知られている。例えば、特開2009−59583号公報(特許文献2)には、ポリカーボネート系樹脂で形成されたシート状導光体に蛍光増白剤又はブルーイング剤を含有させ、吸収した紫外部のエネルギーを可視部に放射することにより、出射光の色調を白色又は青白色に改善する方法が開示されている。この文献には、ポリカーボネート系樹脂は、分子構造中にベンゼン環構造を含むため、光を照射した場合、紫外線領域(青色)の光を吸収して、その補色である黄色味が際だって見える現象(イエローシフト)が観察されると記載されている。また、ブルーイング剤として、キナクドリン系化合物、アントラキノン系化合物などの有機色素が記載されている。
【0007】
しかし、ポリカーボネート系樹脂は硬質であるため、キートップシートでクリック感を出す場合は薄肉化し、キートップシート部でクリック感を持たせなければならない。さらに、ポリカーボネートを薄肉化すると、割れ易くなるため、機械的特性も充分ではなかった。
【0008】
また、特開2004−131661号公報(特許文献3)には、白色フィルムの白さを強調するためのブルーイングマスターバッチの製造方法として、二酸化チタン30〜70重量%、群青としてウルトラマリンバイオレット、ウルトラマリンピンクから選ばれる一種以上1〜5.5重量%、ステアリン酸亜鉛1〜5重量%及び熱可塑性樹脂を少なくとも配合した混合物を、−0.09MPa以下の減圧かつ180〜250℃の樹脂温度条件にて溶融混練、成形し、水分含量を900ppm以下にする製造方法が開示されている。この文献には、熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂が記載されている。
【0009】
しかし、この文献には、導光シートなどの透明シートは開示されていない。なお、ブルーイング剤は、溶融加工樹脂用着色剤として市販されているが、その形態は、分散剤に加えてエチレンビスステアリルアミドなどのアミド系滑剤を混合した形態で市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3274702号公報(特許請求の範囲、段落[0019][0057]、実施例)
【特許文献2】特開2009−59583号公報(請求項1、段落[0014][0018][0019][0026])
【特許文献3】特開2004−131661号公報(請求項1、段落[0023]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、柔軟で、かつイエローシフトの発生を抑制できる透明フィルム並びにその製造方法及び使用方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、耐熱性及び耐光性などの耐久性に優れた透明フィルム並びにその製造方法及び使用方法を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、簡便にイエローシフトを抑制でき、かつブルーイング剤や添加剤のブリードアウトによる外観の低下を抑制できる透明フィルム並びにその製造方法及び使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため、まず、透明フィルムを形成する樹脂として、耐熱性及び柔軟性に優れる鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーを選定し、導光シートの調製を試みたが、前述のように、鎖状オレフィン単位による微結晶性により、レイリー散乱が生じるためか、イエローシフトが発生した。そこで、環状オレフィン系エラストマーのフィルム成形条件を検討し、フィルム成形後に急冷することにより、微結晶を抑制し、レイリー散乱によるイエローシフトと光損失を改善することに成功した。しかし、透過光は、完全な白色ではないため、次にブルーイング剤の添加を検討し、着色力のある青色染料を配合したが、オレフィン系材料との相溶性がなく外観を損なうブリードアウトが発生した。また、有機顔料としてフタロシアニンブルーを配合したが、着色力が強すぎて、調色が困難であった。さらに、無機顔料として、市販の溶融加工樹脂用着色剤を配合した結果、着色剤に分散剤として含まれる脂肪酸金属塩やアミド系滑剤がブリードアウトするが、外観を損なうのはアミド系滑剤を含む着色剤のみであることが判明した。
【0015】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー中に青色系無機顔料を非アミド系滑剤で分散させて調製した透明フィルムが、柔軟で、かつイエローシフトの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の透明フィルムは、鎖状オレフィンと環状オレフィンとを重合成分とする鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含む。前記鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーの結晶化度は20〜30%程度であってもよい前記鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーは、α−鎖状C2−4オレフィンと多環式オレフィンとを重合成分とする共重合体であり、両者のモル比は、α−鎖状C2−4オレフィン/多環式オレフィン=80/20〜99/1程度であってもよい。前記青色系無機顔料は、ウルトラマリンブルー及び/又はコバルトブルーであってもよい。前記非アミド系滑剤は、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級アルコール及びワックスからなる群から選択された少なくとも一種であってもよい。前記青色系無機顔料の割合は、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤の総量に対して10〜50ppm程度であってもよい。前記非アミド系滑剤の割合は、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤の総量に対して1〜1000ppm程度であってもよい。本発明の透明フィルムは、ヘーズが10%以下であってもよい。本発明の透明フィルムは、キートップシート又は導光シートであってもよい。
【0017】
本発明には、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含む樹脂組成物をフィルム成形する前記透明フィルムの製造方法も含まれる。本発明の製造方法において、樹脂組成物を押出成形後、50℃以下で冷却してもよい。本発明の製造方法において、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含むマスターバッチと、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー及び非アミド系滑剤を含む樹脂組成物とを混合して押出成形してもよい。前記マスターバッチにおいて、非アミド系滑剤の割合が、青色系無機顔料100重量部に対して10〜100重量部程度であり、かつ前記樹脂組成物において、非アミド系滑剤の割合が、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー100重量部に対して1〜1000ppm程度であってもよい。
【0018】
本発明には、前記透明フィルムをキートップシート又は導光シートとして使用する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー中に青色系無機顔料が非アミド系滑剤で分散されているため、柔軟で、かつイエローシフトの発生を抑制できる。また、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体からなるオレフィン系エラストマーで形成されているため、ポリエチレンが主成分の鎖状オレフィン系エラストマーなどに比べ耐熱性及び耐光性などの耐久性も向上できる。さらに、青色系無機顔料を、分散剤を用いて分散させているため、簡便にイエローシフトを抑制でき、また非アミド系滑剤で分散させているため、ブルーイング剤や添加剤のブリードアウトによる外観の低下を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[透明フィルム]
本発明の透明フィルムは、鎖状オレフィンと環状オレフィンとを重合成分とする鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含む。
【0021】
(鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー)
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーは、鎖状オレフィンと環状オレフィンとを重合成分として含む共重合体であり、適度な柔軟性及び弾性を有するとともに、環状オレフィン骨格により、ポリエチレンを主成分とする汎用のオレフィン系樹脂に比べて高い耐熱性を有する。
【0022】
鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの鎖状C2−10オレフィン類などが挙げられる。これらの鎖状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの鎖状オレフィンのうち、好ましくはα−鎖状C2−8オレフィン類であり、さらに好ましくはα−鎖状C2−4オレフィン類(特に、エチレン)である。
【0023】
環状オレフィンは、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンであればよく、単環式オレフィン(例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの環状C4−12シクロオレフィン類など)であってもよいが、多環式オレフィンが好ましい。
【0024】
代表的な多環式オレフィンとしては、例えば、ノルボルネン、置換基を有するノルボルネン(2−ノルボルネン)、シクロペンタジエンの多量体、置換基を有するシクロペンタジエンの多量体などが例示できる。前記置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、アミド基、ハロゲン原子などが例示できる。これらの置換基は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0025】
具体的に、多環式オレフィンとしては、例えば、2−ノルボルネン;5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネンなどのアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデン−2−ノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンなどのアルコキシカルボニル基を有するノルボルネン類;5−シアノ−2−ノルボルネンなどのシアノ基を有するノルボルネン類;5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネンなどのアリール基を有するノルボルネン類;ジシクロペンタジエン;2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、メタノオクタヒドロフルオレン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、ジメタノシクロペンタジエノナフタレン、メタノオクタヒドロシクロペンタジエノナフタレンなどの誘導体;6−エチル−オクタヒドロナフタレンなどの置換基を有する誘導体;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデンなどとの付加物、シクロペンタジエンの3〜4量体などが例示できる。
【0026】
これらの環状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィンのうち、ノルボルネン類などの多環式オレフィンが好ましい。
【0027】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体において、透明性と柔軟性とを両立する点から、鎖状オレフィン(特に、エチレンなどのα−鎖状C2−4オレフィン)と環状オレフィン(特に、ノルボルネンなどの多環式オレフィン)との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=80/20〜99/1(例えば、82/18〜97/3)、好ましくは85/15〜95/5、さらに好ましくは88/12〜94/6(特に90/10〜93/7)程度である。
【0028】
他の共重合性単量体としては、例えば、ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど);ジエン系単量体(例えば、ブタジエン、イソプレンなど);(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、又はこれらの誘導体((メタ)アクリル酸エステルなど)など]などが例示できる。これらの他の共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの他の共重合性単量体の含有量は、共重合体に対して、例えば、5モル%以下、好ましくは1モル%以下である。特に、芳香族環や極性基を有していないモノマーでポリマーを形成すると、耐光性を向上できる。
【0029】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーは、付加重合により得られたエラストマーであってもよく、開環重合(開環メタセシス重合など)により得られたエラストマーであってもよい。また、開環メタセシス重合により得られた重合体エラストマーは、水素添加された水添物であってもよい。鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーの重合方法は、慣用の方法、例えば、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合、チーグラー型触媒を用いた付加重合、メタロセン系触媒を用いた付加重合(通常、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合)などを利用できる。
【0030】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーは適度な結晶性を示し、結晶化度(フィルム成形後の結晶化度)は20〜30%の範囲から選択でき、好ましくは20〜25%程度である。結晶化度が小さすぎると、フィルムの耐熱性が低下し易く、結晶化度が大きすぎると、フィルムが白濁化するとともに、イエローシフトが発生し易い。本発明では、結晶化度を制御することにより、短波長(450nm付近)における光散乱を抑制でき、フィルムの面方向における導光性(フィルムの一方の端面から対向する他方の端面までの導光性)を向上でき、出射光の色相を改善できる。結晶化度は、示差走査熱量計を用いて測定した融解熱量を、完全結晶体の融解熱量で除することにより求めることができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0031】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーのガラス転移温度(フィルム成形前のガラス転移温度)(Tg)は30℃以下程度の範囲から選択でき、例えば、−25℃〜30℃、好ましくは−20℃〜20℃、さらに好ましくは−15℃〜10℃程度である。
【0032】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーの融点(フィルム成形前の融点)(Tm)は50℃以上程度の範囲から選択でき、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは70〜120℃(特に75〜100℃)程度である。
【0033】
なお、ガラス転移温度及び融点は、単量体の割合、単量体の置換基、重合体の分子量などを調整して制御することができる。
【0034】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーの数平均分子量は、例えば、15000〜200000、好ましくは20000〜100000、さらに好ましくは30000〜80000(特に40000〜70000)程度である。
【0035】
(青色系無機顔料)
本発明では、ブルーイング剤として青色系無機顔料を用いる。青色系無機顔料を用いることにより、ブリードアウトによる外観の低下を抑制できるとともに、耐光性も向上できる。さらに、適度な着色力を有しているため、添加量の微調整により透明フィルムの微妙な調色が可能となる。さらに、ブリードアウトによる外観の低下を起こすアミド系滑剤を用いることなく、非アミド系滑剤のみで共重合体エラストマー中に均一に分散できる。
【0036】
本発明の青色系無機顔料(青緑色系無機顔料)には、青色無機顔料に加えて、緑色無機顔料も含まれる。
【0037】
青色無機顔料としては、例えば、鉄とシアンの錯体で構成された紺青(ミロリブルー、プルシアンブルー、アイアンブルーなど)、含硫黄ナトリウムアルミノシリケート錯体で構成された群青(ウルトラマリンブルー、ウルトラマリンバイオレット、ウルトラマリンピンクなど)、コバルトとアルミニウムとの複合酸化物で構成された複合酸化物ブルー(コバルトブルーなど)などが挙げられる。これらの青色無機顔料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
緑色無機顔料としては、例えば、純粋な酸化クロム(III)で構成された酸化クロムグリーン(クロムオキサイドグリーン)、Co−Zn−Ni−TiやCo−Al−Crなどの複合酸化物で構成された複合酸化物グリーン(コバルトグリーンなど)などが挙げられる。これらの緑色無機顔料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
これらの青色系無機顔料のうち、適度な着色力を有する点から、青色無機顔料、特に、ウルトラマリンブルー、コバルトブルーが好ましい。
【0040】
青色系無機顔料の平均粒径は、例えば、0.01〜10μm、好ましくは0.03〜5μm、さらに好ましくは0.05〜3μm(特に0.1〜2μm)程度である。
【0041】
青色系無機顔料の割合は、フィルム全体(鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤の総量)に対して、例えば、10〜50ppm、好ましくは12〜40ppm、さらに好ましくは15〜35ppm(特に20〜30ppm)程度である。青色系無機顔料の割合が少なすぎると、黄色が残存して、イエローシフトの発生を抑制できず、多すぎると、透明性が低下して、光量ロスが多くなる。
【0042】
(非アミド系滑剤)
本発明では、分散剤として、分散作用に優れ、前記青色系無機顔料を共重合体エラストマー中に均一に分散でき、かつブリードアウトしても外観の低下を抑制できる点から、非アミド系滑剤を用いる。
【0043】
非アミド系滑剤としては、アミド単位(アミド基及び/又はアミド結合)を有さない滑剤であればよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級アルコール、ワックスなどが挙げられる。これらの非アミド系滑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0044】
高級脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれでもよく、通常、飽和高級脂肪酸が使用される。高級脂肪酸としては、例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの炭素数が8〜30(例えば、10〜30)、好ましくは12〜30(例えば、12〜28)、さらに好ましくは14〜24(例えば、16〜22)程度の飽和脂肪族モノカルボン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などのC8−30不飽和高級モノカルボン酸(好ましくはC14−30不飽和モノカルボン酸、さらに好ましくはC16−22不飽和モノカルボン酸)、リシノール酸、サビニン酸などの脂肪族飽和又は不飽和ヒドロキシカルボン酸、ナフテン酸など環状基(シクロアルキル基など)を有する脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸、2−エチルヘキセン酸などの分岐脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸などが例示できる。これらの高級脂肪酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ステアリン酸、ベヘン酸などの炭素数12〜28、好ましくは14〜24、特に16〜22程度の飽和脂肪族モノカルボン酸(例えば、ステアリン酸、ベヘン酸)が好ましい。なお、高級脂肪酸金属塩及び高級脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としてもこれらの高級脂肪酸が例示できる。
【0045】
高級脂肪酸金属塩における金属塩の種類としては、種々の金属塩、例えば、周期表第Ia族(例えば、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)、IIa族(例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)、VIII族(例えば、鉄、ニッケル、コバルト)、Ib族(例えば、銅、銀、金)、IIb族(例えば、亜鉛、カドミウム)、IIIb族(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム)、IVb族(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛)などの金属塩が例示できる。これらのうち、多価金属塩(例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのIIa族、銅などのIb族、亜鉛などのIIb族、アルミニウムなどのIIIb族、鉛などのIVb族の金属塩)などが好ましい。
【0046】
高級脂肪酸エステルとしては、例えば、メタノール、エタノール、ヘキサノールなどのC1−24モノアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどの(ポリ)C2−6アルキレングリコール、(ポリ)グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタンなどの多価(例えば、3〜8価)アルコールなどのアルコールとのエステルが挙げられる。これらのうち、(ポリ)グリセリンやペンタエリスリトールなどの3以上(例えば、3〜6、好ましくは3〜4)のヒドロキシル基を有するアルコールとのエステルが汎用される。
【0047】
高級アルコールとしては、前記高級脂肪酸の脂肪族骨格と同様の脂肪族骨格を有する高級アルコールなどが利用できる。
【0048】
ワックスとしては、脂肪族炭化水素系ワックス(例えば、ポリエチレンワックス、エチレン共重合体ワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリC2−4オレフィン系ワックス、天然パラフィンや合成パラフィンなどのパラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックスなど)、植物性又は動物性ワックス(例えば、カルナウバワックス、ミツロウ、セラックワックス、モンタンワックスなど)などが挙げられる。
【0049】
これらの非アミド系滑剤のうち、室温で固体の滑剤が好ましく、例えば、融点40℃以上(例えば、60〜250℃)、好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは100〜180℃(特に120〜160℃)程度であってもよい。具体的には、高級脂肪酸金属塩やポリC2−4オレフィン系ワックス(ポリエチレンワックスなど)が汎用され、高級脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸などの炭素数12〜28(特に16〜22)の飽和脂肪族モノカルボン酸と、多価金属(マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などのIIb族金属)との塩は安価な方法で製造でき、生産性が高い点から好ましい。ポリC2−4オレフィン系ワックスの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で、例えば、1000〜30000、好ましくは2000〜20000、さらに好ましくは3000〜15000(特に5000〜10000)程度であってもよい。
【0050】
非アミド系滑剤の割合は、フィルム全体(鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤の総量)に対して、例えば、1〜1000ppm程度の範囲から選択できるが、無機顔料の分散性に加えて、成形性も向上させる点から、例えば、100〜1000ppm、好ましくは200〜800ppm、さらに好ましくは300〜700ppm程度であってもよい。非アミド系滑剤の割合が少なすぎると、無機顔料を均一に分散できず、成形性も向上できない。一方、非アミド系滑剤の割が多すぎると、透明性が低下する。
【0051】
(他の添加剤)
本発明の透明フィルムは、透明性や柔軟性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、他の染顔料、他の分散剤、難燃剤、充填剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
本発明の透明フィルムは、前記脂肪族金属塩を用いることにより、青色系無機顔料を前記共重合体エラストマー中に均一に分散できるため、ブリードアウトを抑制する点から、他の分散剤を実質的に含有しないのが好ましい。特に、本発明の透明フィルムは、アミド系滑剤(例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドなどのアルキレンビス脂肪酸アミドなど)を実質的に含有しないのが好ましい。
【0053】
(透明フィルムの特性)
本発明の透明フィルムは、透明性に優れており、ヘーズ(曇価)が、JIS K7105に準拠した方法において、例えば、10%以下であってもよく、例えば、0.1〜10%、好ましくは0.2〜5%、さらに好ましくは0.3〜3%(特に0.5〜2%)程度である。本発明の透明フィルムは、耐久性に優れ、実施例に記載の耐久試験後のヘーズも小さく、例えば、0.1〜10%、好ましくは0.5〜8%、さらに好ましくは1〜5%程度であってもよい。
【0054】
全光線透過率は、例えば、84〜94%、好ましくは86〜93%、さらに好ましくは88〜92%程度である。
【0055】
本発明の透明フィルムは、弾性及び柔軟性に優れており、25℃における損失弾性率E′が、例えば、30〜300MPa、好ましくは50〜200MPa、さらに好ましくは60〜180MPa(特に80〜150MPa)程度である。そのため、加工時や使用時の機械的ストレスや温湿度変化による寸法変化なども緩和できる。
【0056】
また、JIS K7127に準拠した引張試験(厚み100μmのフィルム)において、破断伸度が500%以上程度であってもよく、例えば、500〜2500%、好ましくは600〜2000%、さらに好ましくは800〜1800%(特に1000〜1500%)程度であってもよい。さらに、本発明の透明フィルムは、弾性変形性を示すため、キートップシートに利用した際のクリック性(操作性及び耐久性)に優れ、前記引張試験において、降伏点を示さないのが好ましい。
【0057】
透明フィルムの厚みは、用途に応じて1〜1000μm程度の範囲から選択でき、例えば、10〜500μm、好ましくは30〜400μm、さらに好ましくは50〜300μm程度である。
【0058】
透明フィルムは、複数の透明フィルムを積層してもよく、他の層(例えば、保護層、ハードコート層、光散乱層などの機能層など)と積層してもよい。
【0059】
[透明フィルムの製造方法]
本発明の透明フィルムの製造方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、押出成形、射出成形、プレス成形、ブロー成形、圧縮成形などを利用でき、簡便性の点から、プレス成形法、エキストルージョン法[ダイ(フラット状、T状(Tダイ)、円筒状(サーキュラダイ)など)法、インフレーション法など]などの押出成形法、テンター方式、チューブ方式、インフレーション方式などによる延伸法などが好ましく、押出成形法が特に好ましい。
【0060】
押出成形法において、エラストマー成分、青色系無機顔料、非アミド系滑剤をそのまま押出成形に供してもよいが、青色系無機顔料がエラストマー成分中に均一に混練し易い点から、エラストマー成分及び青色系無機顔料を含むマスターバッチ(さらに非アミド系滑剤を含むマスターバッチ)を予め調製するのが好ましい。
【0061】
マスターバッチの調製方法において、溶融混練は、慣用の方法、すなわち、慣用の溶融混練機、例えば、一軸又はベント式二軸押出機などを用いて行うことができる。また、溶融混練に先だって、慣用の方法、例えば、混合機(タンブラー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサー、リボンミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機など)を用いて、エラストマー成分と青色系無機顔料と非アミド系滑剤とを予備混合してもよい。なお、溶融混練温度は、エラストマー成分の種類に応じて、100〜300℃程度の範囲から選択でき、例えば、120〜250℃、好ましくは150〜220℃、さらに好ましくは160〜210℃程度であってもよい。
【0062】
マスターバッチは、目的とする透明フィルムにおける青色系無機顔料の含有量に対して、5〜100倍、好ましくは10〜50倍、さらに好ましくは10〜30程度の含有量となるように調製してもよい。
【0063】
マスターバッチにおいて、非アミド系滑剤の割合は、青色系無機顔料100重量部に対して、1〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部(特に40〜60重量部)程度である。
【0064】
本発明では、マスターバッチを希釈するためのエラストマー成分に、成形助剤として非アミド系滑剤を含有させるのが好ましい。非アミド系滑剤の割合は、前記エラストマー成分に対して、1〜1000ppm、好ましくは10〜800ppm、さらに好ましくは100〜700ppm程度である。非アミド系滑剤の配合方法としては、前記混合機を用いて配合してもよい。
【0065】
透明フィルムを形成するための樹脂組成物(例えば、前記マスターバッチとマスターバッチを希釈するための樹脂組成物との混合ペレットなど)は、押出成形機(例えば、一軸又はベント式二軸押出機など)を使用してフィルム状に製造され、通常、ペレットを押出成形機内で溶融混練し、押出成形機の先端部の口金(ダイ)のスリットから押出すことにより成形される。前記口金(ダイ)は、インフレーション成形に利用されるリングダイであってもよいが、通常、マルチマニホールドダイなどのTダイまたはフラットダイなどが使用できる。さらに、押出成形されたシートは、冷却ロールにより冷却されて、シート巻き取り機に巻き取ることができる。
【0066】
押出成形の条件は、押出成形機や結晶性樹脂の種類などに応じて選択でき、通常、成形温度は、エラストマー成分の種類に応じて、100〜300℃程度の範囲から選択でき、例えば、120〜250℃、好ましくは150〜220℃、さらに好ましくは160〜210℃程度であってもよい。
【0067】
本発明では、透明フィルムの微結晶化を抑制するために、冷却ロールにより冷却温度をコールするのが好ましい。特に、冷却ロールによる冷却温度を低くして急冷することにより、微結晶化を抑制するのが好ましく、例えば、冷却ロールによる冷却温度は、例えば、60℃以下であってもよく、例えば、50℃以下(例えば、0〜50℃)、好ましくは0〜40℃、さらに好ましくは0〜30℃程度であり、常温付近の温度、例えば、10〜35℃程度であってもよい。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、エラストマーのガラス転移温度及び融点、透明フィルムの外観、出射光の色相(紫外可視吸収スペクトル及び評価)、耐久試験、ヘーズは、以下の方法で測定した。
【0069】
(ガラス転移温度)
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製「DSC6200」)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定を行った。
【0070】
(ヘーズ)
実施例及び比較例で得られたフィルム状試験片について、JIS K 7136に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、NDH−500)を用いて、ヘーズを測定した。
【0071】
(出射光の色相)
厚み:200μm、幅:20mm、長さ80mmのフィルムの端部から青色LEDとYAG蛍光体を組み合わせた白色LED(日亜化学工業(株)製、商品名「NSPB500S」、460nm青色中心波長454nm、蛍光体中心波長550nm)の白色光を入射させ、フィルム中を透過(光路長:80mm)して反対側端部からの出射光をファイバースコープタイプの分光光度計(浜松ホトニクス(株)製、マルチチャンネル分光器 PMA−11)を使用して、紫外可視スペクトルを測定した。なお、分光光度計のスペクトルデータを、減衰が大きい青色ピークのスペクトル(454nm)を補色の橙色スペクトル(605nm)に対するスペクトル比で変色(白色)度合い評価した。スペクトル比が220〜440の範囲にあると、白色光とみなすことができる。さらに、目視観察した結果も示す。
【0072】
(耐久性)
オーブン((株)田中化学機械製造所製「電気低温乾燥機」)を用い、85℃×ドライ×1000hrの耐久試験を行って、耐久試験後のフィルム外観を評価し、ヘーズを測定した。
【0073】
(結晶化度)
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製「DSC6200」)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定を行った。測定した融解熱量と、完全結晶体融解熱量とから、下記式に基づいて結晶化度を算出した。なお、完全結晶体融解熱量とは、結晶欠陥がなく、すべてが結晶格子の配列に結晶化したときの融解熱量の理論値である。
【0074】
結晶化度(%)=[(測定融解熱量)/(完全結晶体融解熱量)]×100
HDPE完全結晶体融解熱量:294J/g:TA Instrument社・文献値を引用。
【0075】
(エラストマー成分)
製造例1(エチレン−ノルボルネン共重合体エラストマー1、COE1)
窒素雰囲気下、室温において30リットルのオートクレーブに、トルエン15リットル、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)15ミリモル、四塩化ジルコニウム0.75ミリモル、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸アニリニウム0.75ミリモルをこの順番に投入し、続いてノルボルネンを70重量%含有するトルエン溶液1.5リットルを加えた。50℃に昇温した後、エチレン分圧が5kgf/cmになるように、連続的にエチレンを導入しつつ、60分間の反応を行った。反応終了後ポリマー溶液を15リットルのメタノール中に投入し、ポリマーを析出させた。このポリマーを濾別、乾燥し、エチレン−ノルボルネン共重合体1を得た。収量は3.58kg、重合活性は52kg/gZr(ジルコニウム1g当りの収量)であった。
【0076】
13C−NMRにおいて、エチレン単位にもとづくピークとノルボルネン単位の5及び6位のメチレンにもとづくピークの和(30ppm付近)と、ノルボルネン単位の7位メチレン基にもとづくピーク(32.5ppm付近)との比から求めたノルボルネン含量は7.3モル%であった。セイコー電子製DSC6200シリーズで10℃/分の昇温速度で測定した、ガラス転移温度は0.5℃、融点は90℃であった。
【0077】
製造例2(エチレン−ノルボルネン共重合体エラストマー2、COE2)
製造例1において、四塩化ジルコニウムの代わりにビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム0.75ミリモルを用いた以外は、製造例1と同様にエチレンとノルボルネンとの共重合を行った。その結果3.30kg、得られたエチレン−ノルボルネン共重合体2のノルボルネン含量は10モル%、ガラス転移温度は2.0℃、融点は81℃、収量は3.30kgであった。
【0078】
(マスターバッチ)
製造例1(マスターバッチPBb1)
青色無機顔料のウルトラマリン(第一化成(株)製「ウルトラマリンブルーNo.H2000」、C.I.Name Pigment Blue 29)、ステアリン酸亜鉛、アミド系滑剤(エチレンビスステアリルアミド)をそれぞれ60重量%、30重量%、10重量%の比率で小型振動ボールミルを用いて分散混合した。得られた混合粉末を、エラストマー成分に対してウルトラマリンの割合が500ppmの濃度になるようにタンブラー式混合機を使用して混合分散した混合物を二軸押出機((株)池貝製「PCM35」)に供給して、190℃で溶融押出し、マスターバッチを作成した。
【0079】
製造例2(マスターバッチPBb2)
青色無機顔料のウルトラマリン(第一化成(株)製「ウルトラマリンブルーNo.H2000」、C.I.Name Pigment Blue 29)、ステアリン酸亜鉛をそれぞれ65重量%、35重量%の比率で小型振動ボールミルを用いて分散混合した。得られた混合粉末を、エラストマー成分に対してウルトラマリンの割合が500ppmの濃度になるように、タンブラー式混合機を使用して混合分散した混合物を二軸押出機((株)池貝製「PCM35」)に供給して、190℃で溶融押出し、マスターバッチを作成した。
【0080】
製造例3(マスターバッチPBb3)
ステアリン酸亜鉛の代わりにステアリン酸カルシウムを用いる以外は製造例2と同様にしてマスターバッチを作成した。
【0081】
製造例4(マスターバッチPBb4)
ステアリン酸亜鉛の代わりにステアリン酸マグネシウムを用いる以外は製造例2と同様にしてマスターバッチを作成した。
【0082】
製造例5(マスターバッチPBb5)
ステアリン酸亜鉛の代わりにポリエチレンワックス(重量平均分子量:8000)を用いる以外は製造例2と同様にしてマスターバッチを作成した。
【0083】
製造例6(マスターバッチPBb6)
ウルトラマリンの代わりに青色無機顔料のコバルトブルー(大日精化(株)製「ダイピロキサイド ブルー#9453」、C.I.Name Pigment Blue 36)を用いる以外は製造例2と同様にしてマスターバッチを作成した。
【0084】
製造例7(マスターバッチPBb7)
エラストマー成分に対して青色無機顔料のウルトラマリン(第一化成(株)製「ウルトラマリンブルーNo.H2000」、C.I.Name Pigment Blue 29)の割合が500ppmの濃度になるように、タンブラー式混合機を使用して両成分を混合分散した混合物を二軸押出機((株)池貝製「PCM35」)に供給して、190℃で溶融押出し、マスターバッチを作成した。得られたマスターバッチにはウルトラマリン粉末の凝集が発生した。
【0085】
製造例8(マスターバッチPBb8)
ウルトラマリンの代わりに赤色無機顔料の酸化鉄(日本光研工業(株)製「サンケミカルC33−2199」)を用いる以外は製造例2と同様にしてマスターバッチを作成した。
【0086】
製造例9(マスターバッチPBb9)
ウルトラマリンの代わりに白色無機顔料の酸化チタン(日本光研工業(株)製「サンケミカルC47−051」)を用いる以外は製造例2と同様にしてマスターバッチを作成した。
【0087】
なお、製造例1〜9において、エラストマー成分としては、実施例で使用されるマスターバッチを希釈するためのエラストマーと同一のエラストマー成分を使用した。
【0088】
実施例1
製造例1で得られたエラストマー(COE1)100重量部と、マスターバッチ(PBb2)5重量部とをタンブラー式混合機を使用した混合分散した。得られた混合物を、幅400mmTダイを取り付けた40mmφの単軸押出成形機((株)中央機械製作所製「PLASTIC EXTRUDUR VC40」)を用いて、冷却ロール温度30℃で巻き取って、厚み200μmの透明フィルムを得た。得られた透明フィルムには、フィッシュアイが見られた。
【0089】
実施例2
マスターバッチを希釈するためのエラストマーとして、製造例1で得られたエラストマー(COE1)に対して、高級脂肪酸金属塩(ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、又はステアリン酸マグネシウム)の割合が500ppmの濃度になるように、高級脂肪酸金属塩を成形助剤(FM)として配合した混合物を用いる以外は実施例1と同様にして、透明フィルムを得た。得られた透明フィルムには、フィッシュアイが見られなかった。
【0090】
実施例3
マスターバッチの使用量を3重量部に変更する以外は実施例2と同様にして、透明フィルムを得た。得られた透明フィルムには、フィッシュアイが見られなかった。
【0091】
実施例4
エラストマー成分として、製造例2で得られたエラストマー(COE2)を使用する以外は実施例2と同様にして、透明フィルムを得た。得られた透明フィルムには、フィッシュアイが見られなかった。
【0092】
実施例5〜8
マスターバッチとして、表1に示すマスターバッチを使用する以外は実施例2と同様にして、透明フィルムを得た。得られた透明フィルムには、フィッシュアイが見られなかった。
【0093】
比較例1
製造例1で得られたエラストマー(COE1)に対して、ステアリン酸亜鉛の割合が500ppmの濃度になるように、ステアリン酸亜鉛を成形助剤として配合した混合物を、幅400mmTダイを取り付けた40mmφの単軸押出成形機((株)中央機械製作所製「PLASTIC EXTRUDUR VC40」)を用いて、冷却ロール温度70℃で巻き取って、厚み200μmの透明フィルムを得た。
【0094】
比較例2
冷却ロールの温度を30℃にしてフィルムを急冷する以外は比較例1と同様にして、透明フィルムを得た。
【0095】
比較例3〜6
マスターバッチとして、表1に示すマスターバッチを使用する以外は実施例2と同様にして、透明フィルムを得た。
【0096】
【表1】

【0097】
表1の結果から明らかなように、実施例の透明フィルムが透明でイエローシフトが見られず、耐久試験後も透明で低いヘーズを保持している。
【0098】
これに対して、比較例1〜3及び5〜6のフィルムでは、フィルムの外観に色ムラや、イエローシフトが発生している。
【0099】
さらに、実施例1、比較例2及び比較例4の耐久試験前後の表面をX線電子分光法(XPS)により分析した。実施例1及び比較例2の耐久試験後サンプル表面からは、成形助剤のステアリン酸亜鉛に由来する亜鉛のピークが耐久試験前より増加していることが観察された。これに対して、比較例4の耐久試験後サンプル表面からは、ステアリン酸亜鉛に由来する亜鉛のピーク、アミド系滑剤に由来する窒素のピークが耐久試験前より増加していることが観察されたが、硫黄を含んだケイ酸ナトリウムの錯体であるウルトラマリンに由来するアルミニウムのピークや硫黄のピークの増加は観察されなかった。ヘーズが20まで増加した曇りの激しい部分ではアミド系滑剤に由来する窒素のピークが曇りの少ない部分より強く観察された。これらの事実から、分散剤及び成形助剤として添加した高級脂肪酸金属塩はブリードしても外観変化には影響与えないが、アミド系滑剤が、ブリードアウトすると外観が低下することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の透明フィルムは、各種の電気・電子機器又は光学機器、例えば、携帯機器、家電機器、制御機器などの導光シート又はフィルムとして利用できる。特に、イエローシフトを抑制でき、柔軟性に優れるため、照光式キーなどに利用される用途、例えば、携帯電話、遊戯機器、モバイル機器、タッチパネルなどの操作盤に用いられるキートップシート(例えば、携帯電話のキートップシート)、導光シートに有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖状オレフィンと環状オレフィンとを重合成分とする鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含む透明フィルム。
【請求項2】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーの結晶化度が20〜30%である請求項1記載の透明フィルム。
【請求項3】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマーが、α−鎖状C2−4オレフィンと多環式オレフィンとを重合成分とする共重合体であり、両者のモル比が、α−鎖状C2−4オレフィン/多環式オレフィン=80/20〜99/1である請求項1又は2記載の透明フィルム。
【請求項4】
青色系無機顔料がウルトラマリンブルー及び/又はコバルトブルーである請求項1〜3のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項5】
非アミド系滑剤が、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級アルコール及びワックスからなる群から選択された少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項6】
青色系無機顔料の割合が、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤の総量に対して10〜50ppmである請求項1〜5のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項7】
非アミド系滑剤の割合が、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤の総量に対して1〜1000ppmである請求項1〜6のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項8】
ヘーズが10%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項9】
キートップシート又は導光シートである請求項1〜8のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項10】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含む樹脂組成物をフィルム成形する請求項1記載の透明フィルムの製造方法。
【請求項11】
樹脂組成物を押出成形後、50℃以下で冷却する請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー、青色系無機顔料及び非アミド系滑剤を含むマスターバッチと、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー及び非アミド系滑剤を含む樹脂組成物とを混合して押出成形する請求項10又は11記載の製造方法。
【請求項13】
マスターバッチにおいて、非アミド系滑剤の割合が、青色系無機顔料100重量部に対して10〜100重量部であり、かつ樹脂組成物において、非アミド系滑剤の割合が、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体エラストマー100重量部に対して1〜1000ppmである請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の透明フィルムをキートップシート又は導光シートとして使用する方法。

【公開番号】特開2013−14729(P2013−14729A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150278(P2011−150278)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】