説明

透明フィルム

【課題】リタデーションが小さく、液晶ディスプレイ等に好適に用いることができる透明フィルムを提供する。
【解決手段】ガラス繊維の基材に透明樹脂組成物を含浸し硬化して形成される透明フィルムに関する。前記透明樹脂組成物にエポキシ樹脂が配合されていると共に、前記ガラス繊維がアクリロキシ系カップリング剤で表面処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイの基板等に用いられる透明フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの薄型、軽量化が進んでいるが、これをさらに進める手段としてガラス基板のプラスチックフィルムへの置き換えが検討されている。ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えることで、より薄くより軽くすることができるとともに、割れにくさやフレキシビリティー(柔軟性)といった性質を付与することができる。
【0003】
さらに、このような一般の透明プラスチックフィルムの特性に加えて、耐熱性が高く、温度や湿度に対する寸法安定性が高いものとして、透明樹脂及びガラス繊維の基材からなる透明フィルムが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
この透明フィルムを製造する際には、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように樹脂組成物を調製する。そしてガラス繊維の基材に樹脂組成物を含浸し、乾燥して半硬化することによりプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形することにより透明フィルムが製造される。高屈折率樹脂及び低屈折率樹脂としては、エポキシ樹脂等が用いられている。
【0005】
このように、基材を構成するガラス繊維の屈折率とマトリクス樹脂(樹脂組成物)の屈折率とを合わせることにより、透明フィルム内での光の屈折を抑え、視認性に優れたディスプレイの透明フィルムとして用いることができる。
【0006】
そしてこの透明フィルムは、液晶ディスプレイ等に要求される透明性、耐熱性、寸法安定性といった一般的な物性に加えて、ITO膜等の導電膜との密着性、表面平滑性、ガスバリア性等の性能も付与し得る材料として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−307851号公報
【特許文献2】特開2009−066931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この透明樹脂及びガラス繊維の基材からなる透明フィルムは、リタデーションについて改善の余地があった。すなわち、この透明フィルムをガラス基板に代替するものとして液晶ディスプレイ等に用いる場合には、複屈折性により透過光に位相のずれとして大きなリタデーションが発生し、表示品質の低下を招くという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、リタデーションが小さく、液晶ディスプレイ等に好適に用いることができる透明フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る透明フィルムは、ガラス繊維の基材に透明樹脂組成物を含浸し硬化して形成される透明フィルムにおいて、前記透明樹脂組成物にエポキシ樹脂が配合されていると共に、前記ガラス繊維がアクリロキシ系カップリング剤で表面処理されていることを特徴とするものである。
【0011】
前記透明フィルムにおいて、アクリロキシ系カップリング剤が(CHO)SiCOC=OCH=CHであることが好ましい。
【0012】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物にシアネートエステル樹脂が配合されていることが好ましい。
【0013】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物に硬化開始剤として金属キレート及び金属塩から選ばれるものが配合されていることが好ましい。
【0014】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物に硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛が配合されていることが好ましい。
【0015】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物に硬化開始剤としてカチオン系硬化開始剤が配合されていることが好ましい。
【0016】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂として下記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂が配合されていることが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂として下記式(I-a)で表される3官能のエポキシ樹脂が配合されていることが好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物の硬化後のガラス転移温度が220℃以上であることが好ましい。
【0021】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂及びガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂が配合され、ガラス繊維の屈折率が1.55〜1.57、硬化後の高屈折率樹脂の屈折率が1.58〜1.63、硬化後の低屈折率樹脂の屈折率が1.47〜1.53であることが好ましい。
【0022】
前記透明フィルムにおいて、透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂及びガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂が配合され、ガラス繊維の屈折率が1.50〜1.53、硬化後の高屈折率樹脂の屈折率が1.54〜1.63、硬化後の低屈折率樹脂の屈折率が1.47〜ガラス繊維の屈折率であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る透明フィルムによれば、透明樹脂組成物にエポキシ樹脂が配合されていると共に、ガラス繊維がアクリロキシ系カップリング剤で表面処理されていることによって、透明フィルムのリタデーションを小さく抑えることができ、液晶ディスプレイ等に好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
本発明において透明フィルムは、エポキシ樹脂が配合された透明樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し硬化して形成される。このように、透明フィルムは、ガラス繊維の基材に透明樹脂組成物が保持されている透明複合シートであるが、具体的には、ガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂と、ガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように調製された透明樹脂組成物を、ガラス繊維の基材に含浸し硬化して形成することができる。
【0026】
透明樹脂組成物に配合される高屈折率樹脂としては、シアネートエステル樹脂や上記式(I)で表される3官能以上の多官能エポキシ樹脂を用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0027】
シアネートエステル樹脂としては、例えば、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)エタン、これらの誘導体、芳香族シアネートエステル化合物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
シアネートエステル樹脂は、エポキシ樹脂とともに硬化反応をさせることでトリアジン環やオキサゾリン環を生成し、エポキシ樹脂の架橋密度を高め、剛直な構造を形成することで硬化物に高いガラス転移温度を付与することができる。また、シアネートエステル樹脂は常温で固形であるため、後述のように透明樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し乾燥することによりプリプレグを調製する際に、指触乾燥することが容易になり、プリプレグの取扱い性が良好になる。
【0029】
透明樹脂組成物におけるシアネートエステル樹脂の配合量は、高屈折率樹脂及び低屈折率樹脂の全量に対して、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは25〜35質量%である。上記配合量が10質量%よりも少な過ぎるとガラス転移温度が十分に向上しない場合があり、上記配合量が40質量%よりも多過ぎると溶解度が不足し、シアネートエステル樹脂が含浸工程や保存中にワニス中から析出する場合がある。
【0030】
上記式(I)で表される3官能以上の多官能エポキシ樹脂は、これを用いることで、高い透明性を維持しつつ、ガラス転移温度が高く硬化物の耐熱性を高めることができ、さらに熱による変色も抑制することができる。
【0031】
式(I)におけるRの2価の有機基としては、例えば、フェニレン基等の置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換のアリーレン基と炭素原子または炭素鎖とが結合した構造を持つ基等が挙げられる。炭素原子または炭素鎖としては、例えば、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基等のアルキレン基、カルボニル基等が挙げられる。
【0032】
の2価の有機基としては、式(I)の右側のグリシジルオキシ基にフェニレン基が結合してグリシジルオキシフェニル基を構成する基が好ましく用いられる。また、熱による透明フィルムの変色抑制の点から、アリーレン基同士の間に介在する炭素原子または炭素鎖に、メチレン基(−CH−)を含まないものが好ましく用いられる。
【0033】
の2価の有機基としては、例えば、下記の構造(四角括弧内)が挙げられる。
【0034】
【化3】

【0035】
式(I)におけるR〜R10の置換基としては、特に限定されないが、例えば、低級アルキル基等の炭化水素基、その他の有機基等が挙げられる。R〜R10のエポキシ基含有の分子鎖としては、例えば、下記の構造(四角括弧内)が挙げられる。
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、pは正の整数を示す。)
式(I)で表される3官能以上の多官能エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(I-a)、(I-b)、(I-c)で表される多官能エポキシ樹脂を用いることができる。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
(式中、qは正の整数を示す。)
【0041】
【化7】

【0042】
特に高屈折率樹脂としては、上記式(I-a)で表される3官能のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。これにより、他の式(I)で表される3官能以上の多官能エポキシ樹脂を用いる場合に比べて、高い透明性を維持しつつ、ガラス転移温度が高く硬化物の耐熱性を高めることができ、さらに熱による変色も抑制することができる。
【0043】
高屈折率樹脂としての、シアネートエステル樹脂、式(I)で表される3官能以上の多官能エポキシ樹脂、あるいはこれらの混合物の屈折率は、好ましくは1.58〜1.63である。例えば、ガラス繊維の屈折率が1.563(Eガラス)である場合、高屈折率樹脂は屈折率が1.6前後のものが好ましく、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n+0.03〜n+0.06の範囲のものが好ましい。
【0044】
なお、本発明において、樹脂の屈折率は、いずれも硬化した樹脂の状態(硬化樹脂)での屈折率を意味するものであり、ASTM D542に従って試験した値である。
【0045】
他方、透明樹脂組成物に配合される低屈折率樹脂としては、エポキシ樹脂を用いることができる。中でも、多官能エポキシ樹脂が好ましく用いられる。多官能エポキシ樹脂としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールに1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサンを付加して得られるものを用いることができる。具体的には、例えば、下記式(II-a)で表されるものを用いることができる。このような多官能エポキシ樹脂は、脂環式で透明性が高く、ガラス転移温度が高く硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0046】
【化8】

【0047】
(式中、3つのnはそれぞれ独立に正の整数を示す。)
この多官能エポキシ樹脂は、例えば、融点が85℃程度であり、分子量は、特に限定されないが、例えば、2000〜3000程度である。
【0048】
また、低屈折率樹脂としては、式(II-a)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂の他、例えば、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることができる。水添ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型等のものを用いることができる。好ましくは、常温で固形の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂が用いられる。常温で液状の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることもできるが、透明樹脂組成物をガラス繊維の基材に含浸し乾燥することによりプリプレグを調製する際に、指触で粘着性のある状態にまでしか乾燥することができないことが多く、プリプレグの取扱い性が悪くなる場合がある。
【0049】
低屈折率樹脂の屈折率は、好ましくは1.47〜1.53である。例えば、ガラス繊維の屈折率が1.563である場合、低屈折率樹脂は屈折率が1.5前後のものが好ましく、ガラス繊維の屈折率をnとすると、n−0.04〜n−0.08の範囲のものが好ましい。
【0050】
本発明では、上述のような高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とを混合して、屈折率がガラス繊維の屈折率に近似するように、透明樹脂組成物を調製することができる。ここで、ガラス繊維の屈折率n1と透明樹脂組成物の屈折率n2とが0.001≦n2−n1≦0.007の関係を満たし、透明フィルムの透過率が最大となる光の波長が600〜780nmの範囲となるように、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂との配合を調整することが好ましい。高屈折率樹脂と低屈折率樹脂との配合をこのように調整することで、透明フィルムの高い透明性を維持しながらリタデーションを低くすることができる。詳細には、透明樹脂組成物の屈折率n2をガラス繊維の屈折率n1より若干高めに設定することが好ましい。これは、ガラス繊維の基材に保持されている透明樹脂組成物は硬化する際に張力がかかっており、ガラス繊維の基材に保持されていない場合に比べて局所的に屈折率が小さい状態で硬化することになるためである。よって、透明樹脂組成物の屈折率を若干高めに設定することで、硬化時には透明樹脂組成物の屈折率とガラス繊維の屈折率とをマクロに略一致させることができる。また、基材に保持されていない透明樹脂組成物の屈折率とガラス繊維の屈折率とを完全一致させるようにした場合、透明フィルムの透過率が最大となる光の波長は通常550nm付近である。しかし、ガラス繊維の屈折率n1と透明樹脂組成物の屈折率n2とが0.001≦n2−n1≦0.007の関係を満たす場合には、透明フィルムの透過率が最大となる光の波長が600nm以降にシフトする。
【0051】
本発明における好ましい態様では、ガラス繊維として安価で供給品質が安定しているEガラス繊維を用い、高屈折率樹脂としてシアネートエステル樹脂及び上記式(I)で表される3官能以上の多官能エポキシ樹脂を用い、低屈折率樹脂として上記式(II-a)で表される構造を有する多官能エポキシ樹脂を用い、透明樹脂組成物における高屈折率樹脂及び低屈折率樹脂の合計量に対する低屈折率樹脂の配合量を38〜43質量%とする。このようにすることで、透明フィルムの高い透明性を維持しながらリタデーションを例えば1.5nm未満、さらには1.4nm未満にすることができ、さらに耐熱性も大幅に高めることができる。
【0052】
透明樹脂組成物の硬化後のガラス転移温度(Tg)は220℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、235℃以上であることが最も好ましい。このように、硬化樹脂の高いガラス転移温度により、透明フィルムの耐熱性を高めることができる。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、実用的には280℃程度が上限である。なお、本発明においてガラス転移温度は、JIS C6481 TMA法に従って測定した値である。
【0053】
本発明において、透明樹脂組成物には、硬化開始剤(硬化剤)を配合することができる。硬化開始剤としては、金属キレート及び有機金属塩等の金属塩から選ばれるものを用いることが好ましい。金属キレートとしては、例えば、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。他方、金属塩、特に有機金属塩としては、例えば、オクタン酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸等の有機酸と、Zn、Cu、Fe等の金属との塩等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このように、硬化開始剤として金属キレート及び金属塩から選ばれるものを用いることにより、硬化樹脂のガラス転移温度を高めることができる。中でも、硬化開始剤としてはオクタン酸亜鉛を用いることが好ましい。このように、硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛を用いることにより、他の金属キレート又は金属塩を用いる場合に比べて、硬化樹脂のガラス転移温度をより高めることができる。透明樹脂組成物における金属キレート及びオクタン酸亜鉛等の金属塩の配合量は、好ましくは0.01〜0.1PHRの範囲である。
【0054】
また、硬化開始剤としては、カチオン系硬化開始剤を用いることも好ましい。カチオン系硬化開始剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。このように、硬化開始剤としてカチオン系硬化開始剤を用いることにより、硬化樹脂の透明性を高めることができる。透明樹脂組成物におけるカチオン系硬化開始剤の配合量は、好ましくは0.2〜3.0PHRの範囲である。
【0055】
さらに硬化開始剤として、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン、2−エチル−4−イミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の硬化触媒を用いることもできる。透明樹脂組成物におけるこれらの硬化触媒の配合量は、好ましくは0.5〜5.0PHRの範囲である。
【0056】
そして、本発明においては、ガラス繊維がアクリロキシ系カップリング剤で表面処理されている。このように、透明樹脂組成物にエポキシ樹脂が配合されていると共に、ガラス繊維がアクリロキシ系カップリング剤で表面処理されていることによって、透明フィルムのリタデーションを小さく抑えることができ、液晶ディスプレイ等に好適に用いることができるものである。
【0057】
なお、特許第3728441号公報には、アクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン(アクリルシラン)を用いた透明シートが記載されているが、上記公報に記載された発明においては、樹脂がアクリル系であるためにアクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン(アクリルシラン)を用いることは当然の設計であると考えられ、またそのリタデーション低減効果については全く記載されていない。これに対して、本発明は、エポキシ樹脂が配合された透明樹脂組成物に対して、アクリロキシ系カップリング剤を用いた透明フィルムのリタデーションが小さくなるという知見に基づいてなされたものである。特にエポキシ樹脂やシアネートエステル樹脂を用いる場合には、アクリロキシ系カップリング剤を用いることは通常なされない特殊な設計であり、この設計においてリタデーション低減効果を発揮する事実は重要な発見であると考えられる。
【0058】
特にアクリロキシ系カップリング剤としては、(CHO)SiCOC=OCH=CH(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を用いることが好ましい。
【0059】
透明樹脂組成物は、アクリロキシ系カップリング剤、高屈折率樹脂、低屈折率樹脂、必要に応じて硬化開始剤等を配合することにより調製することができる。この透明樹脂組成物は、必要に応じて溶媒で希釈してワニスとして調製することができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、N,N’−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0060】
基材を構成するガラス繊維としては、透明フィルムの耐衝撃性を高める点や、安価で供給品質が安定している点等から、Eガラス、NEガラス、Tガラスの繊維が好ましく用いられる。Eガラス繊維は無アルカリガラス繊維とも称され、樹脂強化用ガラス繊維として汎用されるガラス繊維であり、NEガラスはNewEガラスのことである。
【0061】
また、ガラス繊維には、耐衝撃性を向上させる目的で、ガラス繊維処理剤として通常用いられているシランカップリング剤により表面処理しておくことが好ましい。ガラス繊維の屈折率は、好ましくは1.55〜1.57、より好ましくは1.555〜1.565である。この場合、硬化後の高屈折率樹脂の屈折率は1.58〜1.63、硬化後の低屈折率樹脂の屈折率は1.47〜1.53であることが好ましい。ガラス繊維、高屈折率樹脂及び低屈折率樹脂の屈折率が上記の範囲であれば、視認性に優れた透明フィルムを低コストで得ることができる。あるいはガラス繊維の屈折率が1.50〜1.53、硬化後の高屈折率樹脂の屈折率が1.54〜1.63、硬化後の低屈折率樹脂の屈折率が1.47〜ガラス繊維の屈折率であることも好ましい。この場合、よりリタデーションが低く、視認性に優れた透明フィルムを得ることができる。ガラス繊維の基材としては、ガラス繊維の織布あるいは不織布を用いることができる。
【0062】
そしてガラス繊維の基材に透明樹脂組成物のワニスを含浸し、加熱して乾燥することにより、プリプレグを調製することができる。乾燥条件は、特に限定されないが、乾燥温度100〜160℃、乾燥時間1〜10分間の範囲が好ましい。
【0063】
次にこのプリプレグを1枚、あるいは複数枚重ね、加熱加圧成形することにより、透明樹脂組成物を硬化させて透明フィルムを得ることができる。加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、温度150〜200℃、圧力1〜4MPa、時間10〜120分間の範囲が好ましい。
【0064】
上記のようにして得られる透明フィルムにおいて、高屈折率樹脂と低屈折率樹脂とが重合して形成される樹脂マトリクスは、ガラス転移温度が高いものであり、耐熱性に優れた透明フィルムを得ることができる。
【0065】
また、上記に例示したような高屈折率樹脂と低屈折率樹脂は、透明性に優れるものであり、高い透明性を確保した透明フィルムを得ることができる。この透明フィルムにおいて、ガラス繊維の基材の含有率は25〜65質量%の範囲が好ましく、より好ましくは35〜60質量%の範囲である。この範囲であれば、ガラス繊維による補強効果で高い耐衝撃性を得ることができるとともに、十分な透明性を得ることができる。また、ガラス繊維が多過ぎると表面の凹凸が大きくなり、透明性も低下する。一方、ガラス繊維が少な過ぎると透明フィルムの熱膨張係数が大きくなる場合がある。
【0066】
なお、ガラス繊維の基材は、透明性を高く得るために、厚みの薄いものを複数枚重ねて用いることができる。具体的には、ガラス繊維の基材として厚み50μm以下のものを用い、これを2枚以上重ねて用いることができる。ガラス繊維の基材の厚みは、特に限定されないが、10μm程度が実用上の下限である。また、ガラス繊維の基材の枚数も特に限定されないが、20枚程度が実用上の上限である。このように複数枚のガラス繊維の基材を用いて透明フィルムを製造する場合、各々のガラス繊維の基材に透明樹脂組成物を含浸、乾燥してプリプレグを作製し、このプリプレグを複数枚重ねて加熱加圧成形することにより透明フィルムを得ることができるが、複数枚のガラス繊維の基材を重ねた状態で透明樹脂組成物を含浸、乾燥してプリプレグを作製し、このプリプレグを加熱加圧成形して透明フィルムを得るようにしてもよい。
【0067】
このようにして得られる本発明の透明フィルムは、透明性及び耐熱性に優れ、さらにリタデーションも低いものとなる。透明フィルムの白色光透過率は、例えば88%以上とすることができる。また、透明フィルムの表面にITOにより導電性を付与することも可能であり、液晶ディスプレイ等に適している。
【0068】
また、本発明の透明フィルムは寸法安定性も高く、特に面方向(XY方向)において低い熱膨張係数(CTE)を有している。例えば、50〜150℃における面方向の熱膨張係数を30ppm/℃以下とすることができる。
【0069】
また、本発明の透明フィルムの表面は平滑であり、例えば、表面粗さ(Rz)を1μm以下とすることができる。
【0070】
本発明の透明フィルムの少なくとも片面にはハードコート層を設けることができる。ハードコート層としては、従来のプラスチックフィルム等のハードコート層として知られている構成を適用することもできるが、例えば、透明フィルムの表面にラミネート転写工法で数μmのエポキシ樹脂層を形成することで、表面が平滑なハードコート層を得ることができる。具体的には、まずキャリアフィルムとなるPETフィルム等に、溶媒に溶解した分子量の大きいエポキシ樹脂を塗工する。次にこのフィルムを真空ラミネータを用いて透明フィルムの表面にラミネートする。その後、紫外線照射あるいは熱処理でエポキシ樹脂を硬化させ、最後にキャリアフィルムを除去することで平滑なハードコート層を得ることができる。
【0071】
また、本発明の透明フィルムの少なくとも片面にはガスバリア層を設けることができる。例えば、透明フィルムの表面に、SiOやSiONの薄膜をスパッタリング等により形成することで、あるいはこれらの無機薄膜と、アクリル樹脂若しくはエポキシ樹脂又はこれらの混合物等の有機樹脂膜とを積層することで、平滑なガスバリア層を得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1の配合量は質量部を示す。
【0073】
実施例及び比較例の配合成分として以下のものを用いた。
【0074】
1.高屈折率樹脂
・テクモアVG3101、(株)プリンテック製、上記式(I-a)で表される分子構造を有する3官能エポキシ樹脂、屈折率1.59
・BADCy、Lonza社製、固形のシアネートエステル樹脂、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、屈折率1.59
2.低屈折率樹脂
・EHPE3150、ダイセル化学工業(株)製、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、エポキシ当量185、分子量2234、屈折率1.51
3.硬化開始剤
・オクタン酸亜鉛
・SI−150L、三新化学工業(株)製、カチオン系硬化開始剤(SbF系スルホニウム塩)
4.カップリング剤
・KBM−5103、信越化学工業(株)製、アクリロキシ系カップリング剤(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
・KBM−1003、信越化学工業(株)製、ビニル系カップリング剤(ビニルトリメトキシシラン)
・KBM−403、信越化学工業(株)製、エポキシ系カップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)
・KBM−503、信越化学工業(株)製、メタクリロキシ系カップリング剤(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
・KBM−603、信越化学工業(株)製、アミノ系カップリング剤(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)
上記の高屈折率樹脂及び低屈折率樹脂を表1に示す量(質量部)で配合し、さらに硬化開始剤を配合し、これに溶媒であるトルエン50質量部及びメチルエチルケトン50質量部を添加して、温度70℃で攪拌溶解することにより、透明樹脂組成物のワニスを調製した。なお、透明樹脂組成物の屈折率n2をASTM D542に従って測定し、ガラス繊維の屈折率n1と透明樹脂組成物の屈折率n2とが0.001≦n2−n1≦0.007の関係を満たしていることを確認した。
【0075】
他方、上記の各カップリング剤を0.3質量%含有するカップリング剤水溶液に後述する2種類のガラスクロスを浸漬した後、絞液することによって、ガラスクロスのガラス繊維を表面処理した。なお、表面処理後のガラスクロスにおいて、ガラス繊維100質量部に対して各カップリング剤の付着量は0.3質量部であった。
【0076】
次に、実施例1、2及び比較例1〜8については、厚み25μmのガラスクロス(旭化成エレクトロニクス(株)製、品番「1037」、Eガラス繊維、屈折率1.563)に、上記の透明樹脂組成物のワニスを含浸し、150℃で5分間加熱することにより、溶媒を除去するとともに樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。
【0077】
また、実施例3及び比較例9〜12については、厚み25μmのガラスクロス(日東紡績(株)製、品番「WTX1037」、Tガラス繊維、屈折率1.528)に、上記の樹脂組成物のワニスを含浸し、150℃で5分間加熱することにより、溶媒を除去するとともに樹脂を半硬化させてプリプレグを作製した。
【0078】
そしてこのプリプレグを2枚重ねて、プレス機にセットし、170℃、2MPa、15分の条件で加熱加圧成形することにより、樹脂の含有率が63質量%、厚み70μmの透明フィルムを得た。
【0079】
このようにして得られた実施例及び比較例の透明フィルムについて、次の測定及び評価を行った。
【0080】
[透明性(ヘイズ)]
JIS K7136に従って透明フィルムのヘイズ値を測定し、透明性を評価した。
【0081】
[硬化樹脂のガラス転移温度]
透明樹脂組成物が硬化した硬化樹脂のガラス転移温度(Tg)をJIS C6481 TMA法に従って測定した。
【0082】
[リタデーション]
(株)東京インスツルメンツ製複屈折測定装置「Abrio」を用い、測定範囲:11mm×8mm、動作モード:透過の条件で、リタデーションを測定した。なお、リタデーションは、透明フィルムの面内の光学異方性を示す遅相軸と進相軸の屈折率差△nに透明フィルムの厚みd(=70μm)をかけた値△n・d(nm)である。
【0083】
これらの測定及び評価の結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1と比較例1〜4とを対比すると、実施例1の方が透明フィルムのリタデーションを小さく抑えることができることが確認された。
【0086】
また、実施例2と比較例5〜8とを対比すると、実施例2の方が透明フィルムのリタデーションを小さく抑えることができることが確認された。
【0087】
また、実施例3と比較例9〜12とを対比すると、実施例3の方が透明フィルムのリタデーションを小さく抑えることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の基材に透明樹脂組成物を含浸し硬化して形成される透明フィルムにおいて、前記透明樹脂組成物にエポキシ樹脂が配合されていると共に、前記ガラス繊維がアクリロキシ系カップリング剤で表面処理されていることを特徴とする透明フィルム。
【請求項2】
アクリロキシ系カップリング剤が(CHO)SiCOC=OCH=CHであることを特徴とする請求項1に記載の透明フィルム。
【請求項3】
透明樹脂組成物にシアネートエステル樹脂が配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明フィルム。
【請求項4】
透明樹脂組成物に硬化開始剤として金属キレート及び金属塩から選ばれるものが配合されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項5】
透明樹脂組成物に硬化開始剤としてオクタン酸亜鉛が配合されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項6】
透明樹脂組成物に硬化開始剤としてカチオン系硬化開始剤が配合されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項7】
透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂として下記式(I)で表される3官能以上のエポキシ樹脂が配合されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【化1】

【請求項8】
透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂として下記式(I-a)で表される3官能のエポキシ樹脂が配合されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【化2】

【請求項9】
透明樹脂組成物の硬化後のガラス転移温度が220℃以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項10】
透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂及びガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂が配合され、ガラス繊維の屈折率が1.55〜1.57、硬化後の高屈折率樹脂の屈折率が1.58〜1.63、硬化後の低屈折率樹脂の屈折率が1.47〜1.53であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項11】
透明樹脂組成物にガラス繊維よりも屈折率の大きい高屈折率樹脂及びガラス繊維よりも屈折率の小さい低屈折率樹脂が配合され、ガラス繊維の屈折率が1.50〜1.53、硬化後の高屈折率樹脂の屈折率が1.54〜1.63、硬化後の低屈折率樹脂の屈折率が1.47〜ガラス繊維の屈折率であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の透明フィルム。

【公開番号】特開2011−246597(P2011−246597A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120944(P2010−120944)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】