説明

透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムおよびそれからなる振動板ならびにそれらからなる透明プロジェクションスクリーンスピーカー

【課題】プロジェクションスクリーンとして、視認者側から投影される投影光を散乱反射することによって散乱反射光による視認性を高め、また高透明性も有することで視認者と反対側の映像についても優れた透過視認性を有しており、同時に優れた音響効果を有するスピーカーとしての機能も兼ね備えた、透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムおよびそれからなる振動板ならびにそれらからなる透明プロジェクションスクリーンスピーカーを提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするマトリックス相及び分散相からなる層Aを含む配向ポリエステルフィルムであり、層Aにおけるマトリックス相の屈折率と分散相の屈折率との差がフィルム平面内でマトリックス相の屈折率がもっとも高いx方向において0.1を超え、フィルム平面内でx方向と直交するy方向および厚み方向であるz方向において両相の屈折率差が特定範囲にあり、y方向と平行な直線偏光をフィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線透過率が85%以上かつ平行光線透過率が65%以上であり、無偏光状態の光をフィルム面に垂直に入射した際の全光線反射率が30%未満であって、層Aのヤング率が前記x方向において8GPa以上15GPa以下である透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムおよびおよびそれからなる振動板ならびにそれらからなる透明プロジェクションスクリーンスピーカーに関する。さらに詳しくは、視認者側から投影される投影光を散乱反射することによって散乱反射光による視認性を高め、また高透明性も有することで視認者と反対側の映像についても優れた透過視認性を有し、同時に優れた音響効果を有するスピーカーとしての機能も兼ね備えた、透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムおよびそれからなる振動板ならびにそれらからなる透明プロジェクションスクリーンスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストアなどの商店の窓、デパートなどのショウウインドウ、イベントスペースなどに設置された透明パーティションなどに、その透過視認性を保持したまま、商品情報、広告などのさまざまなコンテンツを投影表示するディスプレイ手法が近年取り入れられている。具体的な形態として、例えば、窓、ショウウインドウに透明なプロジェクションスクリーンを貼合し、プロジェクターからコンテンツ画像を投影することが行われている。
【0003】
また、自動車、バイクなどの乗り物には、運転者(操縦者)などに走行速度などの各種情報を知らせるための様々な機器が設けられている。自動車には、この他、ナビゲーション情報を知らせるためのナビゲーション装置が設けられることもある。
自動車においては、これらの情報表示のための機器の多くは、フロントウィンドウ下方に配置されているため、運転中に運転者がフロントウィンドウ下方の機器を見て情報を読み取る時は、視点を比較的大きく移動させている。そこで安全運転のために視点の移動距離を小さくすべく、ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置と呼ばれる表示装置が提案されている。HUD装置としては、透明なプロジェクションスクリーンをフロントウィンドウ下部のウィンドウガラス面や、ウィンドウ近くの運転席(操縦席)内部に配置し、プロジェクターからコンテンツ画像をスクリーンに投影して、情報を表示するものが提案されている。
【0004】
従来のプロジェクションスクリーンは、プロジェクターからの投影光を強く散乱反射することで視野角依存性の少ない良好な投影画像を得るものであるが、上述のような使用形態の場合には、窓やショウウインドウなどの透明基材が本来有している透過視認性を損なわずに、プロジェクションスクリーンとしての良好な散乱反射性を発現させる、という相反する特性が求められる。
そこで、従来の散乱反射タイプに代わり、高透明な反射型スクリーンに適したフィルムが検討されるようになってきている(特許文献1、2)。
【0005】
一方、ディスプレイ装置に用いられる音響設備については、現行ではほとんどの場合、既存スピーカーユニットの別設置となっている。透明な平面スピーカーが実現できれば、ディスプレイ装置との一体化により表示スペースの効率的な利用ができ、設計面、デザイン面での自由度向上が期待できる。また、ディスプレイ以外にも、建物窓、ショウウィンドウなど、透明であることで機能を発現する建材に透明な平面スピーカーを貼り合せることができれば、建材に音響機能を付与させることができ、設計面、デザイン面での自由度向上が期待できる。
【0006】
平面スピーカーの検討において、振動板要素の振動伝搬特性を高め、伝達ロスによる音響特性低下を防止することが検討されており、プラスチックフィルムによる振動板要素の軽量化、高弾性率化、特にポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(PEN)からなる二軸延伸フィルムが検討されている(特許文献3)。
また、特許文献4には音響振動板としての音響再現性に優れるフィルムとして、高い内部損失特性及び層間密着性に優れる音響振動板用配向多層積層フィルムが記載されているが、振動伝播特性を高めたり、高透明化することについては検討されていない。
このように透明プロジェクションスクリーンと平面スピーカーとは、機能が異なることからいまだ別設備であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−112040号公報
【特許文献2】WO2006/009293号パンフレット
【特許文献3】特開2008−219739号公報
【特許文献4】特開2009−96116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プロジェクションスクリーンとして、視認者側から投影される投影光を散乱反射することによって散乱反射光による視認性を高め、また高透明性も有することで視認者と反対側の映像についても優れた透過視認性を有しており、同時に優れた音響効果を有するスピーカーとしての機能も兼ね備えた、透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムおよびそれからなる振動板ならびにそれらからなる透明プロジェクションスクリーンスピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来は別設備であった透明プロジェクションスクリーンと平面スピーカーとを一体化させた新規な透明プロジェクションスクリーンスピーカー部材に適したフィルムを提供するにあたり、透明プロジェクションスクリーン用途に検討されてきた、一方の直線偏光に対して散乱反射性が高く、その直交方向の直線偏光に対して透過性の高いという、偏光方向により散乱性が異なる海島型配向フィルムのマトリックス成分としてポリエチレンナフタレートを用い、しかも、散乱反射性の高い軸方向、すなわちマトリックス相と分散相の屈折率差の大きい方向のヤング率を高めることにより、両部材の機能を兼ね備えるフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするマトリックス相及び分散相からなる層Aを含む配向ポリエステルフィルムであり、層Aにおけるマトリックス相の屈折率と分散相の屈折率とが下記式(1)および(2)の関係を満たし、y方向と平行な直線偏光をフィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線透過率が85%以上かつ平行光線透過率が65%以上であり、無偏光状態の光をフィルム面に垂直に入射した際の全光線反射率が30%未満であって、層Aのヤング率が前記x方向において8GPa以上15GPa以下である透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムによって達成される。
|(Ny+Nz)/2−(ny+nz)/2|≦0.05・・・(1)
|nx−Nx|>0.1・・・(2)
(ここで、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nxはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向のマトリックス屈折率、nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nzはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nxはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
【0011】
また、本発明の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、層Aの少なくとも片面に層Bを積層してなるフィルムであり、該フィルムの25℃における100Hzの伸縮変位に対する内部損失が0.03以上であること、層Bがポリエステルを主成分としてなり、該ポリエステルの全繰り返し単位の75〜97モル%がエチレンテレフタレート成分であること、層Aと層Bとが交互に積層された3層以上の多層構成であること、層Bからなる少なくとも一方の最外層を介して透明基材と貼りあわされること、配向ポリエステルフィルムが示差走査熱量測定において結晶化発熱ピークを有していないこと、y方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hyとx方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hxとの比R(Hy/Hx)が0.5以下であること、分散相がマトリックス相と異なる熱可塑性樹脂であること、分散相成分の含有量が層Aの重量を基準として0.01重量%以上30重量%以下であること、振動板として用いられること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【0012】
本発明はまた、かかる透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムを用いた振動板に関するものである。
本発明はさらにかかる振動板を含む透明プロジェクションスクリーンスピーカーに関するものであり、その好ましい態様として、振動板の端部にアクチュエーターが設置されてなること、振動板が展張固定されてなること、ディスプレイまたは透明建材と張り合わせて用いられること、インサート成形法により透明建材と張り合わされてなること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムは、偏光光の一方向を散乱反射し、その直交方向の偏光光の透過性が高いため、視認者側から投影される投影光を散乱反射して視認でき、かつフィルムを介して視認者と反対側の映像についても優れた透過視認性を有している。しかも、かかるフィルム自体が音響特性に優れることから、アクチュエーターを振動板の端部に直接設置する透明平面スピーカーモジュールの振動板としての機能も有していることから、透明プロジェクションスクリーンスピーカーという新規な複合部材を提供することができる。かかる透明プロジェクションスクリーンスピーカーによる、表示と音響機能を融合させた複合機能を発現できる用途として、デジタルサイネージなどの大型表示から、薄型テレビなど、さらには携帯電話などの携帯機器にいたる新たな使用形態を創出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<配向ポリエステルフィルム>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、層Aを含む配向ポリエステルフィルムである。かかる配向ポリエステルフィルムとして、層Aの1層からなる配向ポリエステルフィルムが挙げられる。また、層Aの少なくとも片面にさらに層Bを有する積層フィルムであってもよい。
【0015】
(層A)
本発明の配向ポリエステルフィルムの層Aは、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするマトリックス相及び分散相からなる。
また、層Aにおけるマトリックス相の屈折率と分散相の屈折率は下記式(1)および(2)の関係を満たす。
|(Ny+Nz)/2−(ny+nz)/2|≦0.05・・・(1)
|nx−Nx|>0.1・・・(2)
(ここで、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nxはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向のマトリックス屈折率、nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nzはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nxはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
【0016】
さらに、層Aのヤング率が前記x方向において8GPa以上15GPa以下である。かかる層を有することにより、一方の光源、すなわち視認者側から投影される直線偏光に対して散乱反射性を有し、該直線偏光と直交する直線偏光については反射することなく高い透過性を有するとともに、フィルム自体が高い音響特性を有する、高透明プロジェクションスクリーンスピーカーに適したフィルムを得ることができる。本発明のフィルムの層Aの具体的態様について、以下に詳述する。
【0017】
(マトリックス相)
マトリックス相を形成するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される。ここで「主たる成分」とは、層Aの重量を基準として70重量%以上、好ましくは72重量%以上、特に好ましくは75重量%以上である。また、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの含有量の上限値は、好ましくは99.99重量%、より好ましくは99.95重量%、さらに好ましくは99.9重量%である。
ナフタレンジカルボン酸としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、中でも2,6−ナフタレンジカルボン酸が特に好ましい。
【0018】
層Aのマトリックス相の樹脂としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いることにより、分散相との屈折率の関係を式(1)(2)を満たすように制御して本発明で規定する偏光光の方向に応じた散乱反射特性と透過特性を得ることができ、同時に本発明で規定する高ヤング率化が可能となり、音響伝播特性を高めることができる。
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ホモポリマーであっても共重合体であってもよい。共重合成分は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを構成する全繰返し単位の10モル%以下以下であることが好ましく、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0019】
共重合成分として、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物などのジオール成分を用いることができる。また共重合成分として、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分を用いることができる。これらの化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0020】
これらの共重合成分の中で、酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸を、グリコール成分としてはジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物を好ましい例として挙げることができる。
【0021】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、チタン化合物またはゲルマニウム化合物を触媒として製造されたものであることが好ましい。触媒がアンチモン化合物である場合、製造条件によっては還元反応によるアンチモン金属析出が生じ、透明性が低下することがある。
【0022】
層Aの固有粘度は、o−クロロフェノール中、35℃において、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることが更に好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満では、低分子量ゆえ結晶化速度が著しく速くなり、球晶が発生して透明性が損なわれることがある。また固有粘度が0.9dl/gより高いと溶融粘度が高いため溶融押出が困難であるうえ、重合時間が長く不経済である。
【0023】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、ジオールとジカルボン酸をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0024】
(分散相)
層Aを構成する分散相は、粒子の凝集体またはマトリックス相と異なる熱可塑性樹脂のいずれかであることが好ましい。これら粒子の凝集体または熱可塑性樹脂は、マトリックス相との屈折率差の観点から、モノマー成分としてスチレン残基を含有する高分子を主成分とするものであることが好ましい。
【0025】
粒子としては、1次粒径が0.01〜10μmである粒子が例示される。かかる粒子は、透明な有機粒子あるいは無機粒子であれば特に制限は無い。好ましくはフィルムを延伸したときにボイドの生じにくい有機粒子である。ここで1次粒径とは粒子の最小単位の大きさである。1次粒径が0.01μmに満たない場合は散乱反射性能が生じない可能性が高く、10μmを越える場合は延伸時にボイドが生じやすくなる。かかる粒子は、延伸後のマトリックス相のy方向、z方向の屈折率と同じか屈折率差が0.035以下である屈折率を有することがさらに好ましい。
【0026】
有機系の粒子の種類として、例えばアクリル粒子、スチレン粒子、シリコーン粒子、スチレン−ブタジエンゴム粒子、アクリル−アクリルコアシェル型粒子、アクリル−スチレン−ブタジエンコアシェル粒子が挙げられる。特にコアシェル型粒子はシェル部がゴム弾性を有するため延伸によるボイド生成をさらに抑制することができ、本発明の諸光学特性を得やすい。これらの中でも、特にポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、メタクリレート−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体が好ましい粒子として例示される。
【0027】
マトリックス相と異なる熱可塑性樹脂としては、高透明でマトリックス相を形成する熱可塑性樹脂と非相溶の熱可塑性樹脂であれば特に制限されないが、延伸後のマトリックス相のy方向、z方向の屈折率と同じか屈折率差が0.035以下となるような屈折率を有することが好ましい。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、メタクリレート−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体が好ましいものとして例示される。
【0028】
分散相成分の含有量は、層Aの重量を基準として0.01重量%以上30重量%以下であることが好ましい。分散相の含有量は、かかる範囲内において増加するに従い、散乱光を多重に散乱して散乱反射光が正面方向になりやすくなる。また分散相の含有量はかかる範囲内において減少するに従い、多重散乱を減らしシャープな反射パターンを得ることが可能となる。
【0029】
ただし分散相の含有量が上限値を超える場合は、過度に多重散乱するため偏光分離効果が低下する傾向にある。また分散相の含有量が下限値に満たない場合は散乱が著しく少なく、この場合も偏光分離性能を確保することが難しくなる。分散相の含有量は、y方向の直線偏光を十分に透過させ、非偏光状態の全光線反射率を小さくして透明性を確保する目的から、下限はさらに好ましくは0.05重量%以上、特に好ましくは0.1重量%以上であり、上限は好ましくは28重量%以下である。
【0030】
分散相は、下記式(3)を満たしていることがより好ましい。
10≦α≦200・・・(3)
(上式中、αはπ・d/λで表される散乱パラメータを表す。dは分散相の長径、λは可視光の波長である。)
【0031】
本発明のフィルムは、好ましくは少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことにより得られることから、本発明の分散相は、延伸方向に長軸を有する楕円球状(以下島状と称することがある)であることが好ましい。上式(3)中、dは高延伸倍率方向、すなわちx方向における分散相の粒径を指し、楕円球状の長径に相等する。
【0032】
一般に散乱効率には波長依存性があるため、例えばサブミクロンオーダーの非常に小さい粒子の場合、短波長の光ほど散乱されやすい。したがって、光の入射角の違いによりフィルム中の光路長が異なる際に散乱光の波長分布が異なってくる可能性があり、甚だしい場合にはスクリーン上の投影範囲内で色味がずれる(色ずれ)結果となる。色ずれは、特にナビゲーション装置のような比較的複雑な画像を扱う場合には認識しずらくなることがある。そこで散乱パラメータαが上式(3)の範囲を満たすことが好ましい。
【0033】
分散相の長径の平均値は0.1〜400μmであることが好ましい。長径の平均値は、より好ましくは0.5〜50μmである。長径の平均径が下限に満たない場合は、光学的な作用を生じないことがあり、また上限を超える場合は散乱の異方性が不十分となることがある。
【0034】
(屈折率特性)
本発明のフィルムの層Aは、マトリックス相の屈折率と分散相の屈折率とが下記式(1)(2)
|(Ny+Nz)/2−(ny+nz)/2|≦0.05 ・・・(1)
|nx−Nx|>0.1・・・(2)
(ここで、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nxはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向のマトリックス屈折率、nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nzはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nxはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
を満たす必要がある。
【0035】
層Aは、x、y、z方向のマトリックス相および分散相の屈折率がそれぞれ式(1)、(2)を満たす場合に、x方向と平行な直線偏光を強く散乱し、一方y方向と平行な直線偏光は散乱せずに透過させるという光学特性を発現する。上式中、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表す。nxはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向のマトリックス屈折率を表し、本発明においては高延伸倍率方向と一致する。nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nzはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nxはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す。またx方向と平行な直線偏光は、x方向の振動面をもつ直線偏光と同義であり、y方向と平行な直線偏光はy方向の振動面をもつ直線偏光と同義である。また本発明のフィルムのx方向は、一方の光源、すなわち視認者側から投影される直線偏光と平行に配置される。
【0036】
上記式(1)において、|(Ny+Nz)/2−(ny+nz)/2|>0.05の場合は、yz平面内において、マトリックス相と分散相の屈折率差が大きいため、x方向以外での散乱が増加してしまい、外光による映像をフィルムを通じて明瞭に視認できなくなる。なお|(Ny+Nz)/2−(ny+nz)/2|は、0.025以下であることが好ましい。
【0037】
また上記式(2)において、|nx−Nx|≦0.1の場合は、x方向の散乱性能が不十分で視認者側から投影される直線偏光に対する散乱反射性に乏しくなるため、視認者側から投影される映像の視認性が低下すると同時に、かかる範囲ではx方向のヤング率特性を具備することができない。式(2)で表わされるnxとNxとの差の絶対値は、0.1を超える範囲で両相の屈折率差が大きい方がよりx方向の散乱性能が高まり、好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.25以上である。一方、|nx−Nx|の上限値は延伸倍率や機械特性などの点で0.35以下であることが好ましい。
【0038】
本発明のフィルムの層Aは、yz平面内でマトリックス相と分散相の屈折率の平均がほぼ一致し((1)式)、かつx方向においてマトリックス相と分散相の屈折率の差が大きく、差の絶対値が0.1を越えることにより、フィルム中を透過する光の中で多く存在するフィルム面内に対して斜め入射する偏光に対しても高い散乱異方性を示す。したがって、マトリックス相の屈折率は、yz平面内においては等方的に近いほど好ましく、下記式(4)を満足することがより好ましい。
0.90<ny/nz≦1.10・・・(4)
【0039】
かかる屈折率特性は、マトリックス相および分散相の構成物質を含む熱可塑性樹脂組成物を溶融押出法により未延伸シートを作成し、該未延伸シートを後述する製膜条件で少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことにより得られる。さらに、マトリックス相および分散相の構成物質として、前述の組み合わせから選択することが好ましい。
【0040】
(ヤング率)
本発明の配向フィルムは、層Aのヤング率がx方向において8GPa以上15GPa以下である。さらに、かかる層Aのヤング率は、x方向において好ましくは8GPa以上13GPa以下、さらに好ましくは9GPa以上13GPa以下である。
【0041】
本発明の透明プロジェクションスクリーンスピーカーのモジュール構成として、スクリーン部分の透明性確保の観点から、アクチュエーターを振動板の端部に直接取り付ける構成が好ましく、かかるモジュール構成において、振動板の端部に取り付けられたアクチュエーターからの音響振動を振動板の全域に渡って十分に伝播させるために、従来の平面スピーカーに用いられている振動板の材料よりもさらに高ヤング率特性が必要となる。
x方向に層Aのヤング率が下限値に満たないと、アクチュエータの取り付け位置から離れた部位にまで十分に音響振動が伝播せず、振動板として十分な音響伝播特性効果を奏しない。層Aのヤング率特性は、かかる範囲内でより高い方が好ましいものの、ヤング率が上限値を超えるような過配向のフィルムは、破断伸度が不足するため製造工程におけるハンドリング性に劣り、現実的でない。
【0042】
また、高ヤング率の層Aがフィルム層構成に含まれることにより、アクチュエーターを振動板の端部に直接取り付ける透明プロジェクションスクリーンスピーカーモジュールの振動板に適した音響伝播特性が得られることに加え、さらに吸音性を高めるために一定の内部損失特性を有する層Bを含む積層フィルムの場合においても高い音響伝播特性を発現することができる。
これら層Aのヤング率特性は、層Aを構成するマトリックス相の樹脂としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用い、かつx方向に4.5倍〜8倍の高延伸倍率で延伸を行うことによって得られる。
【0043】
(層B)
本発明の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムは、層Aの少なくとも片面にさらに層Bを有する積層フィルムであることが好ましく、層Bをさらに有する場合のフィルムの25℃における100Hzの伸縮変位に対する内部損失が0.03以上であることが好ましい。フィルムの内部損失が0.03以上となるような層Bを有することにより、層Aによる音響伝播特性のみならず、層Bによる音切れ性などの音響再現性特性の向上につながる。
【0044】
フィルムの光線透過率特性を満たしつつ、同時に該内部損失を具備するために、層Bがポリエステルを主成分としてなり、該ポリエステルの全繰り返し単位の75〜97モル%がエチレンテレフタレート成分であることが好ましい。エチレンテレフタレート成分量が下限値に満たない場合、共押出法によって層Aと層Bを積層できないことがある。またエチレンテレフタレート成分量が上限値を超える場合、内部損失が0.03に満たないことがある。
【0045】
また、層Bを構成するポリエステルは、ポリエステルの全繰り返し単位の75〜85モル%がエチレンテレフタレート成分であることにより、さらに示差走査熱量測定によるフィルムの結晶化発熱ピークが生じないため、フィルム加熱による透明性低下がなく好ましい。
ここで「主成分」とは、層Bの重量を基準として該ポリエステルの含有量が90重量%以上100重量%以下であることを指し、さらに好ましくは95重量%以上100重量%以下であること、特に好ましくは98重量%以上100重量%以下であることをいう。
【0046】
フィルムの内部損失特性は主としてポリエステルの共重合量に起因する特性である。層Bを構成するポリエステルの共重合成分の種類は特に制限されないが、例えばトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物などのジオール成分;アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分を用いることができる。
また、フィルム加熱後も高透明性を得るためには、ポリエステルの結晶性を抑制する成分が好ましく、エチレンテレフタレート成分の再配列を抑制するような共重合成分が好ましい。詳しくは、分子の大きいもの、エステル結合性官能基がエチレンテレフタレート成分と大きく異なる位置にあるもの、などを挙げることができ、好ましい例としては、ナフタレンジカルボン酸成分、イソフタル酸成分挙げることができ、特にナフタレンジカルボン酸成分とイソフタル酸成分との併用が、フィルム加熱後もひきつづき高透明性を得るために好ましい例として挙げることができる。
【0047】
また、層Bを構成する樹脂として、上述の共重合ポリエステルの他に、非晶性樹脂も例示される。非晶性樹脂の場合は、共押出法による層Aとの積層化が難しいことがあり、他の方法による積層化が好ましい。かかる非晶性樹脂として、共重合アクリル、アタクチックポリスチレン、各種の分岐タイプポリオレフィン、エチレンビニルアルコール(EVA)、可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)が例示される。このような非晶性樹脂を用いることにより、フィルムとしての内部損失特性および高透明性を得ることができる。
また、層Bを構成する樹脂のガラス転移点は25〜100℃であることが好ましく、60〜100℃であることがさらに好ましい。層Bを構成する樹脂のガラス転移点がかかる範囲にあることにより、層Aを構成するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移点を補完して幅広い周波数領域で吸音特性を発現することができる。
【0048】
(添加剤)
本発明の配向ポリエステルフィルムには、透明性向上の観点から粒子を含有しないか、または粒子を含有するとしてもフィルム全重量に対して0.01重量%未満の範囲であることが必要である。また積層フィルムの場合、かかる範囲内であれば、粒子は層A、層Bのどちらに含有されていてもよいが、最外層を構成する層に含有されていることがフィルムの滑り性向上の点で好ましい。粒子を添加する場合、粒子の平均粒径は0.001〜0.2μmの範囲が好ましい。
具体的な粒子として、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
本発明のフィルムには、必要に応じてさらに難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤等の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0049】
<フィルム特性>
(フィルムの光線透過率及び光線反射率)
本発明のフィルムは、層Aが屈折率特性が上式(1)(2)を満たすだけでなく、フィルムの全光線透過率、平行光線透過率および全光線反射率がそれぞれ後述の特性をも満たすことによって、初めて視認者側から両映像を視認することが可能となる。
すなわち本発明のフィルムは、y方向と平行な直線偏光をフィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線透過率が85%以上であることが必要である。ここで全光線透過率とは、JISK7105に準拠して、積分球式測定装置を用いて全光線透過量を測定することによって求められる。
【0050】
また本発明のフィルムは、y方向と平行な直線偏光をフィルム面に垂直に入射した際の平行光線透過率が65%以上であることが必要である。ここで平行光線透過率とは、入射光線と同一正線上で測定される平行光線透過率であり、JISK7105に準拠して、全光線透過率から拡散透過率を差し引いて求められる。なお、該平行光線透過率は70%以上が好ましい。
【0051】
さらに本発明のフィルムは、無偏光状態の光をフィルム面に垂直に入射した際の全光線反射率が30%未満であることが必要である。ここで全光線反射率とは、JISK7105に準拠して求められ、入射光に対する鏡面反射率と拡散反射率とを合わせたものである。また無偏光状態とは、該測定において用いられる光源を偏光成分に分解することなく、そのまま用いることを意味する。
【0052】
y方向と平行な直線偏光、すなわち視認者側から投影される直線偏光と直交する直線偏光については視認者側から投影される映像は含んでおらず、散乱反射することなく高い透過性を有する。同時に、フィルムを通じて視認者と反対側の外光による映像をより明瞭に視認することが可能となる。これらの光線透過率が上述の範囲を下回る場合、フィルムを通じて外光による映像を明瞭に視認しにくくなる。かかる光線透過率は、マトリックス相と分散相のy方向、z方向の屈折率特性が式(1)を満たすこと、分散相の含有量がフィルムの重量を基準として上限を超えないことによって達成される。
【0053】
また無偏光状態の光をフィルム面に垂直に入射した際の全光線反射率は、30%未満の範囲内であり、小さければ小さい程、フィルムを通じた外光映像の視認性を高めることができる。該全光線反射率の下限は3%であり、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上である。かかる全光線反射率が30%以上の場合、視認者側から投影される映像と関係のない外光をも散乱反射させてしまい、映像投影時にコントラストが低下する一因となる他、非投影時にはスクリーンが白っぽく透明性に劣るため、フィルムを通じた外光映像の透過視認性に乏しくなる。かかる全光線反射率が下限に満たない場合、外光映像の視認性は高いものの、視認者側から投影される映像の視認性が低下しやすい。
【0054】
該全光線反射率をかかる範囲にするためには、分散相の含有量によって制御することができ、含有量が少ない程、該全光線反射率を小さくすることができる。
これらの光線透過率及び光線反射率は、フィルムの一方の面についての特性ではなく、フィルム両面について同様の特性が得られる。
【0055】
(内部損失)
本発明の配向ポリエステルフィルムは、層Aの少なくとも片面に層Bを積層してなるフィルム積層体であってよく、かかる積層体の場合には25℃における100Hzの伸縮変位に対する内部損失が、0.03以上であることが音響再現性上好ましい。
ここで内部損失とは、フィルム積層体の動的粘弾性特性である、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’との比であり、損失正接(tanδ)で表わされる。該内部損失は、より好ましくは0.04以上、さらに好ましくは0.045以上である。内部損失の値が下限値に満たない場合は、振動を受けて振動板自体が響いてしまい、余韻が残って音切れ性が十分でないことがある。該内部損失tanδは、より高い方が振動吸収能が高いが、本発明を構成する樹脂の性質上、上限値は0.15である。
【0056】
かかる内部損失特性を得るためには、層Bを構成する樹脂として層Bの説明で述べた共重合系ポリエチレンテレフタレートを用い、かつフィルム製膜時に200℃〜240℃で熱固定処理を行うことにより層Bの分子配向を低くする方法や、ポリエステル以外に層Bを構成するポリマーとして非晶性樹脂を用いる方法が挙げられる。
【0057】
(結晶化発熱ピーク)
本発明の配向ポリエステルフィルムは、示差走査熱量測定において結晶化発熱ピークを有していないことが好ましい。配向ポリエステルフィルムが結晶化発熱ピークを有していないことにより、後工程被熱や長時間経時によるフィルム中の球晶状構造の成長を抑制することができ、フィルム加熱後も白濁を生じることなく初期の高透明性が維持される。
一方、フィルムが結晶化発熱ピークを有する場合は、フィルム加熱により結晶化が生じ、フィルムが白濁化して初期の高透明性を維持できないことがある。なお、本発明における結晶化発熱ピークとは、示差走査熱量測定によりフィルムサンプルを昇温加熱させた際に生じる結晶化発熱ピークを指す。
【0058】
結晶化発熱ピークが生じないようにするためには、フィルム製膜工程でポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主成分とする層Aの結晶化が十分に進むよう、200〜240℃の温度範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。また層Bを含む場合は、層Bがフィルム製膜後の加熱に対して結晶化を生じて白濁が生じないよう、層Bを構成する共重合ポリエチレンテレフタレートの共重合量が15〜25モル%であることが好ましく、さらにその共重合成分としてナフタレンジカルボン酸成分、イソフタル酸成分の少なくとも1種類を用いることが好ましく、特にナフタレンジカルボン酸成分とイソフタル酸成分とを併用することがフィルム加熱後の高透明性を得るために好ましい。また、層Bを構成する樹脂として、上述の共重合ポリエステルの他、非晶性樹脂であってもよい。
【0059】
(ヘーズ)
本発明の配向ポリエステルフィルムは、y方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hyとx方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hxとの比R(Hy/Hx)が0.7未満であることが好ましく、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.3以下である。ここで、ヘーズ値とは、JISK7105に準拠して下記式(5)により求められる。
H=(拡散透過率/全光線透過率)×100 ・・・(5)
【0060】
y方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hy、x方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hxは、それぞれの方向の直線偏光について上式により求められる。
ヘーズ値の偏光成分ごとの比Rが0.7以上の場合は、(i)x方向のマトリックス相と分散相との屈折率差が式(2)より小さくなる、(ii)yz平面内においてマトリックス相と分散相の屈折率差が式(1)より大きくなるという、少なくとも(i)(ii)のいずれか一方に該当するため、x方向と平行な直線偏光の散乱性能が不十分となったり、y方向と平行な直線偏光の透過性能が不十分となることがあり、映像の鮮鋭性が十分でないことがある。かかるヘーズ値特性は、マトリックス相と分散相のx方向、y方向、z方向の屈折率がそれぞれ式(1)、式(2)を満たすこと、すなわちマトリックス相と分散相の屈折率特性に着目したそれぞれの材料の組み合わせと、後述する製膜条件で少なくとも一方向に延伸して一軸延伸に近い延伸を行うことにより得られる。また、かかる範囲内でさらにヘーズ値が小さいことにより、x方向の散乱性能を高め、かつy方向の透過性能を高めることができる。
【0061】
(フィルム厚み)
本発明の配向ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが5μm以上125μm以下であることが好ましく、より好ましくは7μm以上100μm以下、さらに好ましくは10μm以上50μm以下である。フィルム厚みが下限値に満たない場合、プロジェクションスクリーンスピーカーの基板フィルムとして音質再現性が十分でないことがある。一方フィルム厚みが上限値を超える場合、ハンドリング性が低下することがある。
積層フィルムの場合、フィルム厚みに対する層Aの厚み比は0.1〜1であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.8、特に好ましくは0.3〜0.7である。層Aの厚み比が下限値に満たない場合、フィルムとしてのヤング率特性が十分でないことがあり、音響伝搬特性は発現するもののその効果が十分でないことがある。一方、層Aの厚み比が上限値を超える場合、音響伝搬特性は優れるものの、周波数によっては音響再現性に乏しいことがある。
【0062】
<積層構成>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、層Aの1層からなる配向ポリエステルフィルムであってもよく、また、層Aの少なくとも片面にさらに層Bを有する積層フィルムであってもよい。積層フィルムの場合、層Aと層Bとが、A|B|A|B・・・のように3層以上交互に積層されたものも好ましい形態のひとつである。本発明はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートをマトリックス相成分とする高ヤング率層Aを有することにより、アクチュエーターを振動板の端部に直接取り付けるモジュール形態のプロジェクションスクリーンスピーカー振動板に適した音響伝播特性効果を奏する。また層Bを有し、フィルムとしての内部損失が0.03以上であることにより、さらに音切れ性といった音響再現特性も向上する。
【0063】
A|Bのような2層、A|B|AまたはB|A|Bといった3層、などの単純な層構造は、設備導入の容易さの点で優れている。
また、層Aと層Bとが11層以上に交互積層された多層構造の場合、さらに破断伸度の向上や層間剥離の防止などの効果も得ることができるが、本発明の高透明性を維持するため、多層構造化による反射機能が生じない範囲内での多層化が好ましい。具体的には、(i)1層あたりの層厚みを50nm以下に薄くしたり、(ii)可視光の透過率が低下しないように、すなわち可視波長域に反射光波長がかからないように両層の屈折率に応じて層厚みを調整することが挙げられる。
【0064】
(ii)について、詳しくは、
ii−1)下記式(6)において、任意の自然数mがいかなる値をとる場合でも、主反射光波長λが380nm未満または800nmを超えるよう、両層の屈折率と層厚みを調整すること、
λ=(2/m)×(n×d+n×d) ・・・(6)
(上式中、λは主反射光波長、mは主反射波長の倍音波長/主反射波長で表わされる次数、nは層Aの屈折率、dは層Aの厚み(nm)、nは層Bの屈折率、dは層Bの厚み(nm)をそれぞれ表わす)
または、ii−2)下記式(7)において、任意の自然数mおよびm未満の自然数pがいかなる値をとる場合でも、層Aの光学厚み比率fが0.9〜1.1の範囲にあるようにすることが挙げられる。
=(m/p)×(n×d)/(n×d+n×d) ・・・(7)
(上式中、fは光学厚み比率、mは主反射波長の倍音波長/主反射波長で表わされる次数、pは主反射波長の倍音波長/主反射波長で表わされる次数でm未満の次数、nは層Aの屈折率、dは層Aの厚み(nm)、nは層Bの屈折率、dは層Bの厚み(nm)をそれぞれ表わす)
【0065】
高透明性を損なわない範囲内であれば、層数の上限値は特に限定されないが、層A用、層B用の両樹脂の合流装置のサイズの都合上、2001層が好ましく、より好ましくは1001層、さらに好ましくは201層である。一方、(i)または(ii)などの方法を用いた高透明化が難しい場合は、積層フィルムの層数は10層以下の範囲にとどめることが好ましい。
層Aと層Bとの交互積層体の最外層は、層A、層Bのいずれであってもよい。層Bが最外層の場合は、層Bからなる最外層を透明基材と貼り合せる際の接着層として熱圧着させることができる。
【0066】
本発明の配向ポリエステルフィルムは、透明基材や機能性層と貼り合せる場合の接着性を高める目的で、易接着層を設けたり、表面加工されていてもよい。易接着層として、例えばポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系などのバインダー成分を含む易接着層を用いることができる。また、表面加工の方法は特に限定されないが、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられ、これらの表面加工は、フィルム製膜工程で行っても、また製膜工程とは別の工程で行ってもよい。
【0067】
<フィルムの製造方法>
(溶融押出キャスティング)
本発明の配向ポリエステルフィルムは、溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸を行うことによって得られる。本発明のフィルムは、映像の視認性を高めるために、一軸延伸に近い延伸を行うことが好ましい。
溶融押出には従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥した層Aの組成物材料を押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、組成物材料を供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
【0068】
積層フィルムを共押出法によって製造する場合、第1の押出機より供給された層A用組成物材料と、第2の押出機より供給された層B用組成物材料とを、多層フィードブロック装置を用いて溶融状態で交互に重ね合わせ、その後、ダイを用いて該溶融積層体を回転するドラム上にキャストすることにより、シート状物(多層積層の未延伸フィルム)とする方法が例示される。なお層A、層Bの各層厚みはフィードブロックによって調整される。
【0069】
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
冷却用ロールの表面温度は、単層の場合は層Aのポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移点(Tg)に対し、積層の場合は層Bを構成する樹脂のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0070】
(延伸)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸を行うことによってフィルムの光学特性などを本発明の目的と合致させることができ、さらに視認性を高めるためには一軸延伸に近い延伸を行うことが好ましい。
かかる延伸の方法は、逐次延伸機または同時延伸機を用いて行うことができる。また高い生産性を得るためには、本発明のフィルムは、上述のシート製造に引続く連続的工程にて製造されることが好ましい。以下、延伸方法を例示する。
例えば、縦方向(製膜方向、長手方向、MDと記載することがある。)に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
【0071】
また、幅方向(製膜方向と垂直な方向、横方向、TDと記載することがある。)に延伸する場合は、クリップなどにより端部を把持する方式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。
【0072】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移点Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTgに満たない場合は延伸自体が困難であり、一方延伸温度が上限値を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、分子鎖の配向が不足し、上述したような諸特性を確保できなくなってしまうことがある。延伸温度のより好ましい範囲は、Tg〜(Tg+20℃)である。
【0073】
(延伸倍率)
延伸倍率のコントロールは、本発明の屈折率特性、および好ましくはヘーズ特性をも発現する上で一軸延伸に近い延伸フィルムとすることが好ましい。
延伸倍率は、RMD>RTDまたはRTD>RMDである。RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率を示す。これは、RMDとRTDとが等しくなく、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きいことを意味する。また、これは必ずしも一軸延伸や、MD方向とTD方向の延伸倍率が異なる二軸延伸のみを意味するものではなく、延伸直交方向がフリーの状態で一軸延伸により直交方向が実質的に収縮する場合、具体的にはRMD>RTDであるときのRTD、あるいはRTD>RMDであるときのRMDの値が1未満になる場合を包含する。
さらには、テンター方式延伸装置などを用いてむしろ積極的に直交方向を収縮させる場合をも包含する。なお、フィルム特性で定義されるx方向は高延伸方向に相当する。従って、RMD>RTDの場合には、製膜時のMD方向がフィルムのx方向に、TD方向がy方向に該当する。またRTD>RMDの場合には、製膜時のTD方向がフィルムのx方向に、MD方向がy方向に該当する。
【0074】
MD/RTDまたはRTD/RMDが1.0、すなわちRMD=RTDの場合、得られたフィルムのマトリックス相と分散相との屈折率の関係は式(1)または(2)の一方の関係を満足するものの、両方とも満足することが難しく、ヘーズ特性が低下することがある。
また、高延伸方向(x方向)の延伸倍率について、層Aのヤング率特性も満たすために、4.5倍〜8倍の範囲で延伸を行う。高延伸方向の延伸倍率が下限値に満たないと、かかる方向の層Aのヤング率が8GPaより低くなる。
【0075】
延伸倍率は、さらに好ましくは、RMD>RTDの場合にはRMD/RTDが2.0倍を超え7.0以下であり、かつRTDが0.7以上2.0以下の範囲である。またRTD>RMDの場合にはRTD/RMDが2.0倍を超え7.0以下であり、かつRMDが0.7以上2.0以下の範囲であることが好ましい。
MD>RTDの場合のRMD/RTD、あるいはRTD>RMDの場合のRTD/RMDが、7.0を超える場合、本発明の屈折率特性が得られなくなり、また延伸倍率の低い方向の機械特性が低下して脆くなる可能性がある。
MD>RTDの場合のRTD、あるいはRTD>RMDの場合のRMDが0.7に満たない場合、すなわち延伸直交方向がフリーな場合に、延伸直交方向が極端に収縮すると、フィルムの平面性や均一性を損なうばかりか、この場合も延伸倍率の低い方向の機械特性が低下し脆くなる可能性がある。一方、RMD>RTDの場合のRTD、あるいはRTD>RMDの場合のRMDが2.0を超える場合、マトリックス相の屈折率バランスのうち、特にny/nzの値が本発明に規定した範囲にならないことがある。
【0076】
(延伸速度)
延伸速度は5〜500000%/分であることが好ましい。
【0077】
(熱固定温度)
かかる延伸方法によって得られたフィルムに、さらに200℃以上240℃以下の温度範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理温度は、さらに好ましくは200℃以上235℃以下である。
かかる温度範囲で熱固定処理を行うことによって、高温での寸法安定性を良好なものにすることができ、また透明性がさらに向上する。また、共重合系ポリエチレンテレフタレートを含む層Bを共押出法により積層させた積層フィルムの場合、かかる熱固定温度範囲で熱処理を行うことにより、層Bの分子配向を低下させることができ、本発明の内部損失特性を得ることができる。
また、熱固定処理後にさらに熱弛緩処理を行ってもよく、170℃〜200℃の温度範囲内で、かつ0.1〜5%の弛緩率の範囲で行うことが好ましい。
【0078】
(フィルム後加工)
得られた配向ポリエステルフィルムは、透明基板などの他部材と貼合する際の接着性向上など、必要に応じて、フィルム表面の活性化処理(コーティング、コロナ放電、プラズマ処理など)といった後加工を施しても良い。この後加工は、フィルム延伸工程中に行ってもよく、また別工程で行ってもよい。
【0079】
(後工程ラミネートによるフィルム積層体の製造)
本発明の積層フィルムは、上述した共押出法による製造のほか、層Aと層Bとを後工程ラミネートによって製造することもでき、特に層Bとして非晶性樹脂を用いる場合には、かかる方法で積層させることが好ましい。
この場合、層Bを構成する材料として接着剤機能を奏する非晶性樹脂を用いて層Aと層Bを直接ラミネートさせてもよく、層Aと層Bとを接着剤を介してラミネートさせてもよい。
【0080】
<振動板>
本発明の配向ポリエステルフィルムは、透明プロジェクションスクリーンと透明平面スピーカーの機能を兼ねた透明プロジェクションスクリーンスピーカーモジュールの振動板として用いることができる。本発明のフィルムをかかるモジュールの振動板として用いることにより、アクチュエーターを振動板の端部に直接設置する構造で使用した場合に、アクチュエーターの設置位置から離れた部分にまで十分に音を伝搬することができ、優れた音響伝搬特性が発現する。また、本発明の配向ポリエステルフィルムを振動板として用いることにより、アクチュエーターの設置位置を振動板の端部にすることができ、かつフィルム自体の透明性が高いため、音響伝搬特性とともにプロジェクションスクリーンスピーカー全域にわたって高透明化が可能であり、プロジェクションスクリーンとしての映像視認性も確保できる。
【0081】
<透明プロジェクションスクリーンスピーカー>
本発明は、かかる配向ポリエステルフィルムを振動板として用い、該振動板を含む透明プロジェクションスクリーンスピーカーも包含される。かかる透明プロジェクションスクリーンスピーカーは、振動板の端部にアクチュエーターを備えた構造であることが好ましい。また振動板が展張固定されていてもよい。
【0082】
本発明の透明プロジェクションスクリーンスピーカーは、振動板が透明でかつ音響伝播特性に優れており、しかもアクチュエーターが振動板の端部に設けられる構造であるため、振動板の背面にボイスコイルなどの音源がない。そのため、ディスプレイ機能や透明建材の透明性を損なうことなく、かかるプロジェクションスクリーンスピーカーとディスプレイや透明建材などとを貼り合せて一体化させることができ、プロジェクションスクリーンとして映像を表示しつつ、スクリーンの向こう側の映像も同時に視認でき、さらにスクリーン自体がスピーカーとして機能するため、スピーカーを別設備として設ける必要がない。
【0083】
透明建材として、透明壁、ショウウィンドウ、パーティション、窓が例示される。また、ディスプレイとしてデジタルサイネージ、薄型テレビ、携帯電話などのディスプレイにも使用することができる。これら透明基材は、ガラス、樹脂のいずれでもよい。
また、これらディスプレイや透明建材などとの貼り合せに際し、透明性を損なわない範囲で接着剤、粘着剤、接着シート、粘着シートなどを介して貼り合せることができ、またシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂を主体とするゲル状物などを粘着材として用い、枠状に塗布してかかる振動吸収性枠状粘着材を介して貼りあわせてもよい。
これらディスプレイや透明建材などとプロジェクションスクリーンスピーカーとを貼り合せる他の方法として、インサート成形法による貼り合せが挙げられる。かかる場合、透明基材の材質は樹脂であることが好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0085】
(1)ポリエステル成分量
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステルの成分および共重合成分及び各成分量を特定した。
【0086】
(2)屈折率
層Aについて、波長473nm、633nm、830nmの3種のレーザー光を使用し、屈折率計(Metricon社製、プリズムカプラ)によって3方向における屈折率nx、ny、nzを測定した。この屈折率を下記のCauchyの屈折率波長分散フィッティング式
ni(λ)=a/λ+b/λ+c
(ここで、ni(λ):波長λ(nm)における各方向の屈折率(i=x、y、z)、a、b、c:定数、をそれぞれ示す。添字j(j=1,2)は、本測定時に観測される2種類の屈折率値に便宜的につけた番号である)
に代入し、得られた3つの式からa、b、cの定数を求めた。しかる後に589.3nmにおける屈折率(nx(589.3)、ny(589.3)、nz(589.3))を算出した。 各方向それぞれにおいて、niおよびniのいずれかがマトリックス相の屈折率n、他方が分散相の屈折率Nであるが、これらは下記の方法により各相単独の屈折率n’i、N’を測定し、これに近い値を選択することにより判別した。
【0087】
(2−1)マトリックス相の屈折率
各実施例、比較例で使用したマトリックス相の熱可塑性樹脂を用いて、各実施例、比較例と同じ条件でフィルムを作成し、上記(1)と同じ方法で3方向における屈折率n’i(i=x、y、z)を測定した。
【0088】
(2−2)分散相の屈折率
(2−2a)分散相が粒子の凝集体からなる場合
浸液法にて、粒子の凝集体単独の屈折率N’を直接測定した。屈折率が既知の標準液を準備し、スライドガラスとカバーガラス間に少量のサンプル粉体とともに挟んで液膜とし、アナライザーをはずした偏光顕微鏡にセットする。光源としてNaD線を用い、光量を絞った状態で観察すると、サンプルと標準液の屈折率が異なる場合、サンプル粉体の周囲にBecke線が観測される。顕微鏡のサンプルステージを下から上にごくわずかに動かした際に、サンプルの屈折率の方が標準液のものより高い場合はBecke線がサンプル粉体から標準液の方に移動し、逆の場合は、Becke線は逆方向に移動する。各実施例、比較例で使用した分散相の種類に応じて順次標準液の屈折率を変えながら測定を繰り返し、Becke線が観測されなくなったときの標準液の屈折率を分散相単独の屈折率N’とした。
【0089】
(2−2b)分散相が熱可塑性樹脂である場合
該熱可塑性樹脂単独の板状サンプルを作成し、上記(1)と同じ方法で3方向における屈折率N’i(i=x、y、z)を測定し、さらにこれらを平均して分散相単独の屈折率N’を算出した。
該熱可塑性樹脂単独の板状サンプルは、該熱可塑性樹脂の樹脂ペレット少量を2枚のテフロン(登録商標)シート間に挟んで加熱ステージのついたプレス機にセットし、該熱可塑性樹脂の熱分解温度より10℃以上低く、かつガラス転移温度または融点より十分高い温度で、0.5MPaの圧力で1分プレスした後、ガラス転移温度以下に急冷して作成した。
【0090】
(3)フィルムの光線透過率(全光線透過率、平行光線透過率)、ヘーズ
市販の偏光フィルムを用い、偏光フィルムの透過軸を得られたフィルムの最大屈折率方向(x方向)およびその直交方向(y方向)と平行になるように重ね合せて、それぞれの積層サンプルを作成した。
得られた積層サンプルを、ヘーズメーター(日本精密光学(株)製、POICヘーズメーター SEP−HS−D1)内に、偏光フィルムを光源側に、かつ偏光フィルムの透過軸方向が鉛直となるようにセットし、JISK7105に準拠して、全光線透過率(%)、平行光線透過率(%)及びヘーズ(%)を測定した。
【0091】
(4)フィルムの全光線反射率
得られたフィルムを用い、JISK7105に準拠して全光線反射率(%)を測定した。
【0092】
(5)ヤング率
フィルムサンプルのx方向が測定方向になるように幅10mm、長さ150mmに切り出し、チャック間100mmにサンプルを装着し、JIS−C2151に従って引張速度10mm/minの条件で引張試験を行い、得られた荷重―伸び曲線の立ち上り部接線の傾きよりヤング率を計算した。測定は5回行い、平均値を結果とした。測定は温度23±2℃、湿度50±5%に調節された室内において行った。測定装置としてオリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いた。
積層フィルムの場合は、層Aについて同様のヤング率測定を行った。具体的には積層フィルムから層Aを単離可能な場合は他の層を剥離して層Aについて測定した。また、層Aの単離が難しい場合は、層Aの組成を原料とする層Aの単層フィルムを作成して測定する方法によりヤング率を求めた。
【0093】
(6)内部損失
フィルムサンプルを幅3mm、長さ40mmに切り出し、動的粘弾性測定装置(オリエンテック社製、DDV−01FP)を用い、チャック間30mmにサンプルを装着し、25℃にて、100Hzの伸縮変位を加え(変位振幅25μm)、フィルムサンプルの貯蔵弾性率E’および損失弾性率E”を測定した。得られたE’、E”より損失正接tanδを算出し、内部損失の値とした。製膜方向、幅方向それぞれ評価し、平均値を算出した。
【0094】
(7)結晶化発熱ピーク
フィルムサンプルを10mgサンプリングし、DSC装置(TAインスツルメンツ社製、商品名:DSC2920)にて、20℃/min.の昇温速度で昇温し、DSCチャートをもとに結晶化発熱ピークの有無を確認した。
【0095】
(8)各層厚み、層数
フィルムサンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S、製造元:ライヘルト社)で製膜方向と厚み方向を含む面に沿って切断し、厚さ50nmの薄膜切片にした。得られた薄膜切片を、透過型電子顕微鏡(製造元:日本電子(株)、商品名:JEM2010)を用いて、加速電圧100kVにて観察・撮影し、写真から層A、層Bの各層の厚みおよび層数を測定し、それぞれについて平均値より各層厚みを求めた。
【0096】
(9)フィルム全層厚み
フィルムの全層厚みは、電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにて10箇所測定し、それらの平均値より求めた。
【0097】
(10)フィルム全層厚みに占める層Aの総厚み比
(8)の方法で得られた層Aの層厚みの平均値に層Aの層数を乗じて層Aの層厚みの総計を求めた。一方、フィルム全層厚みは(9)の方法に準じて求め、全層厚みに占める第Aの層の総厚み比を算出した。
【0098】
(11)音響特性
20cm×30cmのフィルムサンプルの一方の短辺の端部かつ20cm幅の中央部に平面スピーカー用アクチュエータとして、ダイヤトーンACT−1(三菱電機株式会社製)を設置した。かかるフィルムサンプルの四頂点から対角線方向に展張した状態で、無響室において、フィルムサンプル長辺を鉛直方向にし、アクチュエータを取り付けた短辺が下になるようにフィルムサンプルを配置し、音圧測定を実施した。得られた指向性データ、周波数特性データから、以下の音響特性を評価した。
【0099】
(i)音響伝播特性
鉛直方向に配置したサンプル面から50cm離れた位置で、アクチュエーター取付位置と同じ高さを測定位置(ア)とする。また、位置(ア)と同じくサンプル面から50cm離れた位置で、位置(ア)から30cm上方を測定位置(イ)とする。
◎: 位置(ア)での測定音圧に対し、位置(イ)での測定音圧の乖離が10%以内であり、測定全面から同じ音圧で音が聞こえる状態
○: 位置(ア)対比、位置(イ)での測定音圧の乖離が10%を超え15%以内
△: 位置(ア)対比、位置(イ)での測定音圧の乖離が15%を超え20%以内
×: 位置(ア)対比、位置(イ)での測定音圧の乖離が20%を超える
【0100】
(ii)音響再現性
◎: 全ての周波数帯について85%以上の入力信号再現率が観察された
○: 1kHz以上の全ての周波数帯について85%以上の入力信号再現率が観察され、1kHz未満においては80%以上85%未満の再現率を示す周波数帯が観察された
△: 1kHz未満だけでなく1kHz以上においても80%以上85%未満の再現率を示す周波数帯が観察された
×: 80%未満の再現率を示す周波数帯が観察された
【0101】
(12)透明基材との貼り合せ
透明基材としてポリカーボネート板を用い、シリコーンゴムからなる振動吸収性枠状粘着剤でポリカーボネート板とフィルムサンプルを貼り合せ、20cm×30cmの積層部材を作成した。フィルムサンプルの一方の短辺の端部かつ20cm幅の中央部に平面スピーカー用アクチュエータとして、ダイヤトーンACT−1(三菱電機株式会社製)を設置したものを用い、(11)と同様にサンプルを無響室に配置し、(11)に記載した音響特性を評価した。
【0102】
(13)透過視認性、散乱反射性
測定方法(12)で作成した、ポリカーボネート板とフィルムサンプルとの積層部材を用い、明るい室内でこの積層部材を垂直に設置し、手前45°下方より、市販の液晶プロジェクターから画像(黒字に緑色の文字)を投影し、同時に、積層部材よりも2m先の物体を観察した。
参照サンプルとして、ポリカーボネート板を用い、下記の基準にて評価した。
◎: 参照サンプルと較べて投影画像がより鮮鋭に認識でき、かつ2m先の物体も十分視認できる。
○: 投影画像の認識は可能だが鮮鋭さに欠ける、および/または2m先の物体を視認可能だが鮮鋭さに欠ける。
×: 投影画像が参照サンプルと同様に殆ど認識できない、および/または2m先の物体を視認できない。
【0103】
(14)加熱後のフィルム白濁
フィルムサンプルを150℃で30分加熱し、その後室温雰囲気下で自然放冷した後、加熱前のフィルムサンプルと目視で相対比較し、白濁の発生有無を確認した。
【0104】
[実施例1]
マトリックスを構成する熱可塑性樹脂成分として、ゲルマニウム触媒を用いて製造された固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、分散相を構成する成分として、90℃で10時間乾燥したシンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光石油化学製、商品名「ザレック81AC」)1.0重量%(層Aの重量基準)と混合して押出機に投入し、295℃で溶融混練して290℃のダイスよりシート状に成形した。この溶融物を、表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み156μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に1.25倍で延伸し、60℃のロール群で冷却した。この縦一軸延伸フィルムの片面に、以下のポリエステル1 65重量%/アクリル1 30重量%/濡れ剤5重量%からなる塗剤の濃度8%水性塗液をロールコーターで均一に塗布し、易接着性塗布層を形成した。
続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に5.0倍で延伸した。その後テンタ−内で230℃の熱固定を行い、180℃で3%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、25μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
フィルムと透明基材が貼りあわされた複合部材について、音響特性、透過視認性、散乱反射性を評価した結果を表1に示す。
【0105】
<塗剤組成>
(ポリエステル1)
酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸65モル%/イソフタル酸30モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されている(Tg=80℃、平均分子量13000)。
かかるポリエステル1は、特開平06−116487号公報の実施例1に記載の方法に準じて下記の通り製造した。即ち、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル44部、イソフタル酸ジメチル16部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4部、エチレングリコール34部、ジエチレングリコール2部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行った。
【0106】
(アクリル1)
メチルメタクリレート30モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されている(Tg=50℃)。
かかるアクリル1は特開昭63−37167号公報の製造例1〜3に記載の方法に準じて下記の通り製造した。即ち、四つ口フラスコに、界面活性剤としてラウリルスルホン酸ナトリウム3部、およびイオン交換水181部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、更にモノマー類である、メタクリル酸メチル23.3部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン22.6部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸40.7部、アクリルアミド13.3部の混合物を3時間にわたり、液温が60〜70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、撹拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が35%のアクリル1の水分散体を得た。
【0107】
(濡れ剤)
ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名ナロアクティーN−70)
【0108】
[実施例2]
分散相を構成する成分を、アクリロニトリル−スチレン共重合体(ダイセルポリマー製、商品名「セビアンN」)とした以外は、実施例1と同様の方法によって25μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0109】
[実施例3]
層A用の樹脂として、固有粘度0.61dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂を層Aの重量を基準として1.0重量%混合したものを押出機に投入し、295℃で溶融混練した。一方、層B用の樹脂として、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸を7.5モル%ずつ共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.62dl/g)を170℃ドライヤーで6時間乾燥後、他方の押出機に投入し、それぞれ溶融した状態でフィードブロック装置を用いてA|B|A(吐出比率層A:層B:層A=1:2:1)となるよう3層に積層し、かかる積層構造を維持した状態でダイスよりシート状に成形したのち、実施例1と同様にして未延伸フィルム積層体を得、実施例1と同様の条件で、延伸フィルム積層体を得た。得られたフィルム積層体の特性を表1に示す。
【0110】
[実施例4]
層A、層Bとしてそれぞれ実施例3と同じ樹脂を用いて々の押出機に投入し、それぞれ溶融した状態で層A用樹脂を101層、層B用樹脂を100層に分岐させた後、第1の層と第2の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して201層に積層し(吐出比率 層A合計:層B合計=1:1)、その積層状態を保持した状態でダイスよりシート状に成形したのち、実施例1と同様にして未延伸フィルム積層体を得、実施例1と同様の条件で、延伸フィルム積層体を得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0111】
[実施例5]
実施例2で得られた延伸フィルムのコーティング側の面同士を、ポリエステル系接着剤(東洋紡績(株)製;バイロン)を介して圧着し、A|B|Aの3層フィルム積層体を得た。得られたフィルム積層体の特性を表1に示す。
【0112】
[実施例6]
層B用の樹脂として、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸を6モル%ずつ共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.62dl/g)に変更した以外は実施例3と同様にして延伸フィルム積層体を得た。得られたフィルム積層体の特性を表1に示す。
【0113】
[実施例7]
延伸倍率を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0114】
[実施例8]
分散相の成分量を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0115】
[比較例1]
分散相を構成する成分として用いるアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂の混合比を35重量%とした以外は実施例2と同様の操作を繰り返して延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0116】
[比較例2]
未延伸フィルムの厚みを50μmとし、横延伸倍率を1.5倍とした以外は実施例1と同様の操作を繰り返して延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0117】
[比較例3]
イソフタル酸を12モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.62dl/g)を層A用の樹脂として用いた以外は、実施例1と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。ヤング率が不足するため、音響伝播特性が十分ではなかった。また、x方向におけるマトリックス相と分散相との屈折率差が十分ではなく、投影画像を十分に認識できなかった。
【0118】
[比較例4]
未延伸フィルム厚みを248μm、延伸倍率を縦×横方向=3.1×3.2とした以外は、実施例2と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。ヤング率が不足するため、音響伝播特性が十分ではなかった。また、y方向とz方向の屈折率の関係が式(1)の関係を満たしておらず、投影画像を十分に認識できなかった。
【0119】
[比較例5]
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに代えてポリエチレンテレフタレート(固有粘度 0.62dl/g)を層A用の樹脂として用いた以外は、実施例2と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。屈折率特性および投影画像の視認性は良好であったが、ヤング率が不足するため、音響伝播特性が十分ではなかった。
【0120】
[比較例6]
重合工程で平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子を0.1%添加した以外は、実施例2と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。y方向およびz方向の屈折率の関係が式(1)の関係を満たしておらず、また平行光線透過率および全光線透過率が不足し、投影画像を十分に認識できなかった。またプロジェクションスクリーンスピーカーの反対側の映像の透過視認性に劣っていた。
【0121】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムは、偏光光の一方向を散乱反射し、その直交方向の偏光光の透過性が高いため、視認者側から投影される投影光を散乱反射して視認でき、かつフィルムを介して視認者と反対側の映像についても優れた透過視認性を有している。しかも、かかるフィルム自体が音響特性に優れることから、アクチュエーターを振動板の端部に直接設置する透明平面スピーカーモジュールの振動板としての機能も有しており、透明プロジェクションスクリーンスピーカーという新規な複合部材を提供することができる。かかる透明プロジェクションスクリーンスピーカーによる、表示と音響機能を融合させた複合機能を発現できる用途として、デジタルサイネージなどの大型表示から、薄型テレビなど、さらには携帯電話などの携帯機器にいたる新たな使用形態を創出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするマトリックス相及び分散相からなる層Aを含む配向ポリエステルフィルムであり、層Aにおけるマトリックス相の屈折率と分散相の屈折率とが下記式(1)および(2)の関係を満たし、y方向と平行な直線偏光をフィルム面に垂直に入射した際のフィルムの全光線透過率が85%以上かつ平行光線透過率が65%以上であり、無偏光状態の光をフィルム面に垂直に入射した際の全光線反射率が30%未満であって、層Aのヤング率が前記x方向において8GPa以上15GPa以下であることを特徴とする透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
|(Ny+Nz)/2−(ny+nz)/2|≦0.05・・・(1)
|nx−Nx|>0.1・・・(2)
(ここで、nはマトリックスの屈折率、Nは分散相の屈折率をそれぞれ表し、nxはフィルム平面内でもっとも屈折率が高い方向のマトリックス屈折率、nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向のマトリックス屈折率、nzはフィルム厚み方向のマトリックス屈折率、Nxはx方向の分散相屈折率、Nyはフィルム平面内でx方向と直交するy方向の分散相屈折率、Nzはフィルム厚み方向の分散相屈折率をそれぞれ表す)
【請求項2】
層Aの少なくとも片面に層Bを積層してなるフィルムであり、該フィルムの25℃における100Hzの伸縮変位に対する内部損失が0.03以上である請求項1に記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
層Bがポリエステルを主成分としてなり、該ポリエステルの全繰り返し単位の75〜97モル%がエチレンテレフタレート成分である請求項2に記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
層Aと層Bとが交互に積層された3層以上の多層構成である請求項2または3に記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
層Bからなる少なくとも一方の最外層を介して透明基材と貼りあわされる請求項2〜4のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
配向ポリエステルフィルムが示差走査熱量測定において結晶化発熱ピークを有していない、請求項1〜5のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
y方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hyとx方向と平行な直線偏光に対するヘーズ値Hxとの比R(Hy/Hx)が0.5以下である請求項1〜6のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
分散相がマトリックス相と異なる熱可塑性樹脂である請求項1〜7のいずれかにに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】
分散相成分の含有量が層Aの重量を基準として0.01重量%以上30重量%以下である請求項1〜8のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項10】
振動板として用いられる請求項1〜9のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー用配向ポリエステルフィルムを用いた振動板。
【請求項12】
請求項11に記載の振動板を含む透明プロジェクションスクリーンスピーカー。
【請求項13】
振動板の端部にアクチュエーターが設置されてなる請求項12に記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー。
【請求項14】
振動板が展張固定されてなる請求項12または13に記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー。
【請求項15】
ディスプレイまたは透明建材と張り合わせて用いられる請求項12〜14のいずれかに記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー。
【請求項16】
インサート成形法により透明建材と張り合わされてなる請求項15に記載の透明プロジェクションスクリーンスピーカー。

【公開番号】特開2011−213817(P2011−213817A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81939(P2010−81939)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】