説明

透明ポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】透明性および耐熱性の求められる製品又は一部材を形成するためのフィルム材料として有用なポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを個別に重合した後、混合し末端を反応させることで、周期的構造を有するポリアミド酸を合成し、該ポリアミド酸を用いてフィルム化することで光線透過率の高く、濁り、黄味の少ない透明性・耐熱性に優れたポリイミドフィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性かつ高い透明性を有し、濁りや黄味の少ない透明ポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されるようになってきた。これらのデバイスにはガラス板上に様々な電子素子、例えば、薄型トランジスタや透明電極等が形成されているが、このガラス材料をフィルム材料に変えることにより、パネル自体のフレキシブル化、薄型化や軽量化が図れる。しかしながら電子素子の形成プロセスの高い温度に耐えられるフィルム材料がこれまで存在しなかった。
【0003】
ポリイミドは高い絶縁性能と共に耐熱性を有することから、半導体や電子部品への応用がなされてきた。このポリイミドの物性を改善するために、性質の異なるポリイミド同士を混合することが考えられるが、ポリイミドは分子凝集力が大きいことから、単なるブレンドでは相分離構造をとりやすく白濁し透明性が損なわれるという問題があった。
【0004】
これに対し、特許文献1では相分離を抑制するために、ポリイミド同士が緩やかに絡み合い結合したポリイミド混交フィルムが提案されている。しかし、この方法では原理が解明されていないため必ずしも相分離を抑制できるとは限らないという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には脂環式構造を有する新規なポリイミド共重合体に関する記載があるが、アミド酸を個別に重合しておくということと、それにより透明性が向上するという効果も開示されていない。
【0006】
以上のように、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等の部材に用いることのできる、透明無色で耐熱性を有するプラスチックフィルムはこれまで存在せず、これら電子デバイスの耐破損性の向上、薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化を阻む要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−240744
【特許文献2】特開2003−155342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、耐熱性、更には透明性等が優れるポリイミドフィルムを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の構成は以下のものである。
【0010】
1). 脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを同一分子鎖に有する透明ポリイミドフィルム。
【0011】
2). 脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを個別に重合しておくことを特徴とする1)に記載の透明ポリイミドフィルム。
【0012】
3). 脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを互いに反応させることにより、同一分子鎖にそれぞれのユニットが交互に配列した周期的共重合体を形成することを特徴とする1)又は2)に記載の透明ポリイミドフィルム。
【0013】
4). 脂環式構造を含むユニットが脂環式構造を有する酸二無水物と芳香族ジアミンからなる1)乃至3)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【0014】
5). 脂環式構造を含むユニットが下記式(1)で表されることを特徴とする、1)乃至4)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式中Rは下記一般式(2)から選択される4価の有機基を示す。
【0017】
【化2】

【0018】
6). 一般式(1)で表される繰り返し単位として、前記Rの構造が下記式(3)から選択される4価の有機基であることを特徴とする5)に記載の透明ポリイミドフィルム。
【0019】
【化3】

【0020】
7). 脂環式構造を含まないユニットが下記一般式(4)で表されることを特徴とする、1)乃至6)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【0021】
【化4】

【0022】
一般式中Rは下記式(5)から選択される4価の有機基を示す。
【0023】
【化5】

【0024】
8). 一般式(4)で表される繰り返し単位として、前記Rの構造が下記一般式(6)から選択される4価の有機基であることを特徴とする7)に記載の透明ポリイミドフィルム。
【0025】
【化6】

【0026】
9). 全光線透過率が80%以上かつYIが20以下であることを特徴とする1)乃至8)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【0027】
10). 光波長400nmでの透過率が15%以上かつ光波長420nmでの透過率が40%以上であることを特徴とする1)乃至9)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【0028】
11). 脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを反応させて得られるポリアミド酸にイミド化剤と脱水触媒を用いてイミド化することを特徴とする、1)乃至10)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【0029】
12). 脱水剤の添加量が脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01であることを特徴とする11)に記載の透明ポリイミドフィルム。
【0030】
13). イミド化剤の添加量がイミド化剤/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01であることを特徴とする11)又は12)に記載の透明ポリイミドフィルム。
【0031】
14). 脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットから成る1)乃至13)のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば耐熱性さらには透明性に優れた濁りや黄味の少ない透明ポリイミドフィルムが得られるため、耐熱性、透明性が有効とされる分野・製品に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下において本発明を詳しく説明する。
本発明は脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを個別に重合した後、反応させて得られる各ユニットが相互に繰り返して結合されている周期的共重合体から成る透明ポリイミドフィルムである。
本発明で製造されるポリイミドフィルムは、一般式(1)で示される脂環式構造を有するユニットおよび/または一般式(4)で示される脂環式構造を有しないユニットで表される繰り返し単位を含むポリイミドフィルムがあげられる。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
一般式(1)中のRは一般式(2)から選択される特定構造を有する4価の有機基である。
【0037】
【化9】

【0038】
一般式(2)にあげる4価の有機基のうち、特に一般式(3)に示すシクロヘキサンもしくはビシクロヘキサンが好ましい。
【0039】
【化10】

【0040】
一般式(1)および/又は(4)の繰り返し単位を含むポリイミドフィルは、RあるいはRの構造を有する酸二無水物化合物と、例えば2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)の様な3フッ化メチル基を有する特定構造のジアミンを用いて脂環式構造を含むポリアミド酸ユニットと脂環式構造を含まないポリアミド酸ユニットを合成し、その後、両ユニットを反応させて得られたポリアミド酸の周期的共重合体(ブロック共重合体)をイミド化して得ることができる。
【0041】
シクロヘキサンもしくはビスシクロヘキサンを有する酸二無水物の具体的化合物としては、例えば1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0042】
前記一般式(1)は酸成分全部が一般式(2)の構造を有する酸二無水物を用いて製造されるのが好ましいが、上記一般式(2)の構造のみならず、1種以上の一般式(2)の構造を有さない酸二無水物を併用して用いることができる。一般式(2)の構造を有さない併用可能な他の酸二無水物は酸二無水物の70モル%、好ましくは50モル%、さらには25モル%を超えない範囲で用いても良い。酸二無水物を2種以上用いる場合、それらは、規則的に配列されていてもよいし、ランダムにポリイミド中に存在していてもよい。
【0043】
併用可能な他の酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’−ビス[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0044】
一般式(4)中のRは一般式(5)に挙げられる特定構造を有する4価の有機基である。
【0045】
【化11】

【0046】
一般式(5)にあげる4価の有機基を有する酸二無水物は2種以上を併用して用いることができる。一般式(5)にあげる4価の有機基のうち、特に一般式(6)に示すベンゼンもしくはビフェニルが好ましい。
【0047】
【化12】

【0048】
ベンゼンもしくはビフェニルを有する具体的化合物としてはそれぞれ、ピロメリット酸二無水物、および、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をあげることができるが、中でも3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0049】
前記一般式(4)は用いる酸二無水物成分全部が一般式(5)の構造を有する酸二無水物を用いて製造されるのが好ましいが、上記一般式(5)の構造のみならず、1種以上の一般式(5)の構造を有さない酸二無水物を併用して用いることができる。一般式(5)の構造を有さない併用可能な他の酸二無水物は酸二無水物の70モル%、好ましくは50モル%、さらには25モル%を超えない範囲で用いても良い。酸二無水物を2種以上用いる場合、それらは、規則的に配列されていてもよいし、ランダムにポリイミド中に存在していてもよい。
【0050】
併用可能な他の酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’−ビス[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0051】
一般式(1)中のRと一般式(4)中のRの割合は、95〜15:5〜85の割合であることが好ましい。さらには、85〜35:15〜65が好ましい。中でも透過率、YIの面からRが50を越えることが好ましい。その中でもRとRの割合が、85〜65:15〜35が好ましく、特には85〜75:15〜25であることが好ましい。
【0052】
本発明のポリイミドを製造する方法としては、酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を合成し、これに脱水剤やイミド化剤を添加してポリイミドフィルムを得る手法あるいは、ポリアミド酸の状態で成形し、その後、脱水剤やイミド化剤を用いずに加熱によりイミド化を行う手法が挙げられる。中でも脱水剤やイミド化剤を添加してポリイミドフィルムを得る手法がフィルムの成形性や物性をコントロールする上で好ましい。
【0053】
イミド化剤としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の第三級アミンが好適に用いられる。中でも、ピリジン、ピコリン、イソキノリン、ジエチルピリジンのいずれかを使用することが好ましい。これら触媒は、単独で、あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0054】
脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、およびフタル酸無水物などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これら脱水剤は、単独で、あるいは混合して使用することが好ましい。中でもコスト、入手のし易さ、溶解性などの点から脂肪族酸無水物が好ましい。
【0055】
脱水剤およびイミド化剤の添加量については、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましく、イミド化剤/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましい。更に好ましくは、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましく、イミド化剤/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましい。
【0056】
脱水剤とイミド化剤は直接ポリアミド酸に混ぜ込むことが好ましい。ポリアミド酸フィルムを脱水剤やイミド化剤の溶液に浸漬する方法では、フィルム全体に脱水剤やイミド化剤が浸透するのに時間がかかり、表面と深部でのイミド化率が異なり不均一なフィルムになりやすく、本発明にかかるポリイミドフィルムが得難くなる。
【0057】
本発明にかかるポリイミドフィルムの全光線透過率は80%以上であるフィルムを得ることが可能であるが、脱水剤および化学イミド化剤の量や焼成条件の適正化により83%以上、さらには86%以上のフィルムも得ることも可能である。全光線透過率が低いと、フィルムの透明性が損なわれる可能性がある。光線透過率はポリイミドフィルムの厚さが概ね5〜200μmの範囲で保持することが可能である。
【0058】
本発明にかかるポリイミドフィルムのヘイズは20%以下であるフィルムを得ることが可能であるが、脱水剤および化学イミド化剤の量や焼成条件の適正化により15%以下、さらには10%以上以下のフィルムも得ることも可能である。ヘイズが高いとフィルムの透明性が損なわれる可能性がある。ヘイズはポリイミドフィルムの厚さが概ね5〜200μmの範囲で保持することが可能である。
【0059】
本発明にかかるポリイミドフィルムは光の波長400nmかつ420nmのでの透過率はそれぞれ15%以上かつ40%以上であるフィルムを得ることが可能であるが、脱水剤および化学イミド化剤の量や焼成条件の適正化によりそれぞれ18%以上かつ45%以上、さらにはそれぞれ20%以上かつ50%以上のフィルムも得ることも可能である。400nmかつ420nmでの透過率が低いと、フィルムの透明性が損なわれる可能性がある。400nmかつ420nmでの透過率はポリイミドフィルムの厚さが概ね5〜200μmの範囲で保持することが可能である。また、本発明にかかるポリイミドフィルムは400nmかつ420nmでの透過率が上記の通り良好であることも可能である。
【0060】
本発明にかかるポリイミドフィルムのYI(イエローインデックス)は20以下であるフィルムを得ることが可能であるが、焼成条件の適正化により18以下、さらには15以下のフィルムも得ることもが可能である。YIが高いと、フィルムが黄色くなり透明性が損なわれる可能性がある。
【0061】
次に、本発明に係るポリイミドを合成する手法をこれより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂環式構造を含むユニットの酸成分として例えば1,1’−ビシクロヘキサン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA−H)、ジアミン成分として例えば2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を用いてポリイミドを合成する例を述べる。先ず、TFMBを溶解させたジメチルアセトアミド(DMAc)を攪拌しつつ、TFMBのモル数よりも少ないBPDA−Hを徐々に加えてアミン末端のポリアミド酸を得ることができる。
【0062】
脂環式構造を含まないユニットの酸成分として例えば3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ジアミン成分として例えば2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を用いてポリイミドを合成する例を述べる。先ず、TFMBを溶解させたDMAcを攪拌しつつ、TFMBのモル数よりも多いBPDAを徐々に加えて酸末端のポリアミド酸を得ることができる。
【0063】
得られた脂環式構造を含むユニットのポリアミド酸と脂環式構造を含まないユニットのポリアミド酸を混合することにより、周期的共重合体のポリアミド酸を得、0℃以下の低温にした後、イミド化剤、脱水剤、DMAc溶液を加えて激しく攪拌することで得ることができる。
【0064】
以上のようにして得られたポリアミド酸は、ガラス、フィルム、ベルトなどの基板上に塗布、乾燥し、塗膜を成形させ、加熱することでフィルム状のポリイミドが得ることができる。
【0065】
基板上に塗布等を行うにあたって、ポリアミド酸は真空下もしくは遠心沈殿機等を用いて脱泡しておくことが好ましい。
加熱に際しては、例えば200℃〜400℃、さらには220〜350℃、特には240〜320℃の範囲で加熱することでフィルム状のポリイミドが得ることができる。加熱温度が400℃を超える場合、フィルム内で分子の再配列がおこり結晶化が加速され、フィルムの透明性が確保できなくなる場合があるので避けることが好ましい。また、加熱温度が200℃以下の場合、フィルム内の溶剤が完全に揮発しない可能性があるので、避けることが好ましい。
【実施例】
【0066】
[YIの評価]
日本電色工業株式会社製Spectro Color Meter SE−2000を用い測定した。
【0067】
[ヘイズおよび全光線透過率の評価]
日本電色工業株式会社製NDH−300Aを用いて実施した。測定は三回行い平均値をフィルムの測定値とした。
【0068】
[420nmでの透過率の評価]
日本分光株式会社製紫外可視分光光度計V−560を用いて測定した。
【0069】
[フィルムの作成]
前駆体溶液の合成で得られたポリアミド酸溶液を0℃にした後に、無水酢酸/β−ピコリン/DMAc(重量比35/7/8)からなる混合溶液(脱水剤/ポリアミド酸中アミド基モル数=3.75、イミド化剤/ポリアミド酸中アミド基モル数=0.75)をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、0℃に保ったまま激しく攪拌し、アルミ箔上に流延した。この樹脂膜を100℃×10分加熱した後、アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、100℃×10分、200℃×10分、250℃×30分乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0070】
実施例1(BPDA/BPDA−H/TFMB=60/40/100)
TFMB5.2g(16.2mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、32gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA5.5g(18.7mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液A1を得た。
【0071】
TFMB4.8g(15.0mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、26gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA−H3.8g(12.4mmol)を添加し、100℃で10分間攪拌後、室温で1時間撹拌し、前駆体溶液B1を得た。
得られた前駆体溶液A1およびB1を室温で40時間混合し、周期的共重合体のポリアミド酸を得、上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
実施例2(BPDA/BPDA−H/TFMB=30/70/100)
TFMB1.6g(5.0mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、13gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA2.8g(9.5mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液A2を得た。
【0073】
TFMB8.4g(26.2mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、45gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA−H6.7g(21.9mmol)を添加し、100℃で10分間攪拌後、室温で1時間撹拌し、前駆体溶液B2を得た。
【0074】
得られた前駆体溶液A2およびB2を上記のように混合し、周期的共重合体のポリアミド酸を得、上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
実施例3(BPDA/BPDA−H/TFMB=20/80/100)
TFMB0.8g(2.5mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、7gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA1.5g(5.1mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液A3を得た。
【0076】
TFMB7.2g(22.5mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、40gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA−H6.1g(19.9mmol)を添加し、100℃で10分間攪拌後、室温で1時間撹拌し、前駆体溶液B3を得た。
得られた前駆体溶液A3およびB3を上記のように混合し、周期的共重合体のポリアミド酸を得、上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
比較例1(BPDA/BPDA−H/TFMB=60/40/100)
TFMB4.5g(14.1mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、17gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA4.1g(14.1mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液A4を得た。
【0078】
TFMB3g(9.4mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、19gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA−H2.9g(9.4mmol)を添加し、100℃で10分間攪拌後、室温で1時間撹拌し、前駆体溶液B4を得た。
得られた前駆体溶液A4とB4を上記のように混合した後、上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2(BPDA/BPDA−H/TFMB=30/70/100)
TFMB4.5g(14.0mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、17gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA4.2g(14.0mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液A5を得た。
【0080】
TFMB10.5g(32.7mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、44gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA−H10.0g(32.7mmol)を添加し、100℃で10分間攪拌後、室温で1時間撹拌し、前駆体溶液B5を得た。
得られた前駆体溶液A5とB5を上記のように混合した後、上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
比較例3(BPDA/BPDA−H/TFMB=20/80/100)
TFMB2.2g(7.0mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、9gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA2.1g(7.0mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液A6を得た。
【0082】
TFMB9.0g(28.0mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、38gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA−H8.6g(28.0mmol)を添加し、100℃で10分間攪拌後、室温で1時間撹拌し、前駆体溶液Bを得た。
得られた前駆体溶液A6とB6を上記のように混合した後、上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
比較例4(BPDA/TFMB=100/100)
TFMB10.0g(31.2mmol)を100mlのセパラブルフラスコに投入し、40gの脱水されたDMAcに溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、BPDA9.2g(31.2mmol)を添加し、添加終了後、40時間撹拌し、前駆体溶液を得た。
得られた前駆体溶液を上記フィルム作成方法によりフィルム化し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1の結果より、本発明のポリイミドフィルムは、耐熱性・透明性が良好なフィルムである為、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、無機薄膜や無機微細構造物を表面に有するフィルム部材、例えば、シリコン、もしくは金属酸化物、もしくは有機物から形成される薄膜トランジスタ用フィルム、カラーフィルターフィルム、透明電極付きフィルム、ガスバリアフィルム、無機ガラスもしくは有機ガラスを積層したフィルムなどに適応できる。これらの部材は、例えば、液晶ディスプレイ用フィルム、有機EL等フィルム、電子ペーパー用フィルム、太陽電池用フィルム、タッチパネル用フィルムなどに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを同一分子鎖に有する透明ポリイミドフィルム。
【請求項2】
脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを個別に重合しておくことを特徴とする請求項1に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項3】
脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを互いに反応させることにより、同一分子鎖にそれぞれのユニットが交互に配列した周期的共重合体を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項4】
脂環式構造を含むユニットが脂環式構造を有する酸二無水物と芳香族ジアミンからなる請求項1乃至3のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項5】
脂環式構造を含むユニットが下記式(1)で表されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【化1】

一般式中Rは下記一般式(2)から選択される4価の有機基を示す。
【化2】

【請求項6】
一般式(1)で表される繰り返し単位として、前記Rの構造が下記式(3)から選択される4価の有機基であることを特徴とする請求項5に記載の透明ポリイミドフィルム。
【化3】

【請求項7】
脂環式構造を含まないユニットが下記一般式(4)で表されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【化4】

一般式中Rは下記式(5)から選択される4価の有機基を示す。
【化5】

【請求項8】
一般式(4)で表される繰り返し単位として、前記Rの構造が下記一般式(6)から選択される4価の有機基であることを特徴とする請求項7に記載の透明ポリイミドフィルム。
【化6】

【請求項9】
全光線透過率が80%以上かつYIが20以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項10】
光波長400nmでの透過率が15%以上かつ光波長420nmでの透過率が40%以上であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項11】
脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットを反応させて得られるポリアミド酸にイミド化剤と脱水触媒を用いてイミド化することを特徴とする、請求項1乃至10のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項12】
脱水剤の添加量が脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01であることを特徴とする請求項11に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項13】
イミド化剤の添加量がイミド化剤/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01であることを特徴とする請求項11又は12に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項14】
脂環式構造を含むユニットと脂環式構造を含まないユニットから成る請求項1乃至13のいずれかに記載の透明ポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−82774(P2013−82774A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222182(P2011−222182)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】