説明

透明リサイクルシートの製造方法、および透明リサイクルシート

【課題】基材層と表面層とがともに結晶性樹脂からなる積層シートをリサイクル樹脂として用いても透明性を維持できる透明リサイクルシートの製造方法、および透明リサイクルシートを提供する。
【解決手段】ともに結晶性樹脂を含んでなる基材層と表面層とが積層された積層シートをリサイクル樹脂として用いて、透明リサイクルシートを製造する方法であって、結晶性樹脂からなるバージン樹脂と、前記リサイクル樹脂と、MFRが0.5g/10分以上6g/10分以下のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体と、を混合して溶融押出した原反シートを冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明リサイクルシートの製造方法、および透明リサイクルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表される結晶性樹脂は、その結晶性の高さ(結晶化度、結晶化速度、球晶サイズ等)から通常の製膜方法では不透明である。透明な結晶性樹脂のフィルムあるいはシートを得ようとした場合、例えば特許文献1に記載のように、添加剤処方(造核剤)により、微細結晶を多量に造り、球晶の成長を抑えるといったポリマーデザインの手法が一般的に採られている。その他の透明性の発現手段として、例えば特許文献2に記載のようなベルトプロセスを用いた急冷法が挙げられる。このベルトプロセスを用いた急冷法では、ポリプロピレンを溶融状態から低温に保持したベルトおよびロールで挟圧し、急冷する製膜工程で透明性を付与している。すなわち、急冷することにより、結晶の成長が抑制され低結晶化および微細球晶化が図られ、造核剤を添加せずともそれ以上の透明性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3725955号公報
【特許文献2】特許第4237275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、シート製造プロセスにおいては、製造ロスやスリットロスが大量に発生する。これらのロス品を廃棄すると製造コストが非常に高くなってしまうため、ロス品のリサイクルを行うことが多い。すなわちロス品を適当な方法で粉砕してフラフとし、それを原料であるバージン樹脂と混合してシートを製造するのである。しかしながら、特許文献1、2のような高透明なシートであっても、ロス品のリサイクルを行うと透明性が低下してしまう。また、複数の異なった層からなる積層シートをリサイクル樹脂(回収原料)として用いてリサイクルシートを製造した場合も透明性が低下しやすい。特に、基材層と表面層とがともに結晶性樹脂であるような積層シートをリサイクル樹脂として用いた場合、製造後のリサイクルシートは透明性が著しく低下する。
【0005】
本発明は、基材層と表面層とがともに結晶性樹脂からなる積層シートをリサイクル樹脂として用いても透明性を維持できる透明リサイクルシートの製造方法、および透明リサイクルシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ベルトプロセスや水冷法による押出製膜急冷プロセスを経たシートを偏光顕微鏡や位相差顕微鏡等によって確認してみると、シート表面近傍に数多くの球晶が認められる。この球晶の存在が透明性を阻害する要因のひとつであり、この球晶の生成を少なくすることで更なる透明性発現が期待できる。また、樹脂の押出時にかかる応力を制御する事で、その後の急冷によってできる結晶に変化を起こすことが分かっている。
基材層と表面層とからなる積層シートを用いた場合、樹脂の押出時に掛かる応力を調整するには、ダイスとの接触面に基材層より低粘度の表面層を積層させる方法があるが、基材層と表面層の粘度差が原因となって、当該シートをリサイクルすると透明性が著しく低下してしまう。本発明者は、鋭意研究の結果、リサイクルを行う回収層の球晶成長を制御することで、積層シート由来の回収原料を含んだリサイクルシートであっても透明性を維持できることを見いだした。本発明はこの新たな知見にもとづくものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のような透明リサイクルシートの製造方法、および透明リサイクルシートを提供するものである。
(1)ともに結晶性樹脂を含んでなる基材層と表面層とが積層された積層シートをリサイクル樹脂として用いて、透明リサイクルシートを製造する方法であって、
結晶性樹脂からなるバージン樹脂と、前記リサイクル樹脂と、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が0.5g/10分以上6g/10分以下のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体と、を混合してなる混合樹脂を溶融押出した原反シートを冷却することを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
(2)上述の(1)に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記積層シートとして、結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された基材層と、この基材層の少なくとも一面に設けられ、前記基材層のバージン樹脂をなす結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短い結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された表面層と、が積層されたものを用いることを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【0008】
(3)上述の(1)または(2)に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、当該透明リサイクルシートを基材層として用い、前記基材層に結晶性樹脂を含んでなる表面層を積層したことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか1つに記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記原反シートを結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理することを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記原反シートに含まれる前記メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を、前記原反シート基準で、0.1質量%以上20質量%以下含むことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
(6)上述の(2)から(5)までのいずれか1つに記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記原反シートに含まれるリサイクル樹脂のうち、前記積層シートの表面層に由来する結晶性樹脂を、前記原反シート全量基準で、0.1質量%以上含むことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【0009】
(7)上述の(1)から(6)までのいずれか1つに記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記混合樹脂が、前記結晶性樹脂からなるバージン樹脂ペレットと、前記積層シートをフラフ状に粉砕したリサイクル樹脂と、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体のバージン樹脂ペレットとをドライブレンドしたものである
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
(8)上述の(1)から(7)までのいずれか1つに記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記結晶性樹脂がプロピレン系樹脂であることを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
(9)上述の(1)から(8)までのいずれか1つに記載の透明リサイクルシートの製造方法において、前記メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【0010】
(10)ともに結晶性樹脂を含んでなる基材層と表面層とを含む積層シートをリサイクル樹脂として含む透明リサイクルシートであって、さらに、結晶性樹脂からなるバージン樹脂と、MFRが0.5g/10分以上6g/10分以下のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体と、を含んでなることを特徴とする透明リサイクルシート。
(11)上述の(10)に記載の透明リサイクルシートにおいて、前記積層シートとして、結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された基材層と、この基材層の少なくとも一面に設けられ、前記基材層のバージン樹脂をなす結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短い結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された表面層と、が積層されたものを用いることを特徴とする透明リサイクルシート。
(12)上述の(10)または(11)に記載の透明リサイクルシートにおいて、当該透明リサイクルシートを基材層とし、前記基材層に結晶性樹脂を含んでなる表面層が積層されていること特徴とする透明リサイクルシート。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、積層シートをリサイクル樹脂(回収原料)としてバージン樹脂に混合してリサイクルシートを製造する際に、メタロセン触媒を用いて製造した特定のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を含有させる。
このため、リサイクル樹脂が、ともに結晶性樹脂を含んでなる基材層と表面層とからなるものであっても、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体によって結晶性樹脂の球晶の巨大化を防止することができる。特に、積層シートとして、基材層を形成するバージン樹脂中の結晶性樹脂よりMFRが大きく、かつ緩和時間が短い結晶性樹脂で形成された表面層が積層され、表面層に起因する球晶の巨大化が起こりやすい積層シートをリサイクルしても、球晶の巨大化を効果的に防止することができる。よって、球晶による光の散乱が減少するので、リサイクルシートであっても透明性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかる透明リサイクルシートの製造装置を示す概略図。
【図2】上記製造装置における引き取り部を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかる透明リサイクルシートの製造方法を、図1を参照して説明する。
なお、本実施形態では、透明リサイクルシートを形成する結晶性樹脂として、プロピレン系樹脂を例示して説明するが、この限りではない。例えば、各種プロピレン系樹脂以外の結晶性樹脂を利用できる。
【0014】
[製造装置の構成]
図1において、製造装置1は、原料樹脂を溶融混練してシート状に押し出し、急冷する原反シート成形装置10と、この原反シート成形装置10にて製造された原反シート2(図2参照)を熱処理して透明リサイクルシート3を製造する熱処理装置20とを備えている。
ここで、原反シート2は、詳細は後述するが、図2に示すように、シート状の基材層2Aの両面に表面層2Bが設けられた2種3層構造である。
また、本実施形態では、原反シート2自体あるいは透明リサイクルシート3自体をリサイクル樹脂として回収使用している。
【0015】
原反シート成形装置10は、Tダイ押出装置100と、冷却押圧装置110とを備えている。Tダイ押出装置100は、押出機101と、Tダイ102とを備えている。
押出機101としては、例えば単軸押出機や多軸押出機などが用いられる。押出機101は、原反シート2の基材層2Aに対応したものと、表面層2Bに対応したものと、複数設けられる。
Tダイ102は、各押出機101の先端に着脱可能に取り付けられ、押出機101からそれぞれ押し出される溶融樹脂2Cをシート状に積層する状態で成形する。このTダイ102は、例えば、コートハンガーダイおよびスロットダイなどが例示できる。なお、Tダイ102は、多層シートを形成できるダイスであれば、コートハンガーダイおよびスロットダイに限られない。また、押出機から溶融した原料樹脂を積層させる構成としては、例えば、フィードブロック方式またはマルチマニホールドダイ方式が例示できる。
【0016】
原反シート成形装置10の冷却押圧装置110は、Tダイ102にてシート状に積層して押出成形された溶融樹脂2Cを、冷却しつつ原反シート2に押圧成形する。この冷却押圧装置110は、図1および図2に示すように、第一冷却ロール111、第二冷却ロール112、第三冷却ロール113、第四冷却ロール114、冷却用無端ベルト115、冷却水吹き付けノズル116、水槽117、吸水ロール118、および剥離ロール119を備えている。
第一冷却ロール111、第二冷却ロール112、第三冷却ロール113、および第四冷却ロール114は、回転可能に軸支され、熱伝導性に優れた材質の金属製ロールである。そして、第一冷却ロール111と、第三冷却ロール113と、第四冷却ロール114とのうちの少なくともいずれか一つは、その回転軸が図示しない回転駆動手段と連結され、回転駆動手段の駆動により回転される。
なお、第一冷却ロール111、第二冷却ロール112、第三冷却ロール113および第四冷却ロール114は、冷却用無端ベルト115の耐久性の点で径寸法が大きい方が好ましく、実用上特に直径が100〜1500mmに設計されたものが好ましい。
【0017】
第一冷却ロール111の周面には、弾性材111Aが被覆されている。弾性材としては、例えばニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、フッ素系ゴム、ポリシロキサン系ゴム、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン共重合体)などが用いられる。
この弾性材111Aは、弾性変形して良好な面圧を得るために、例えば硬度(JIS K 6301Aに準拠した方法で測定)が80度以下、厚さが10mm程度であることが好ましい。
【0018】
第二冷却ロール112は、周面の表面粗さ(JIS B 0601「表面粗さ-定義および表示」に基づく表面粗さ:Rmax)が、0.3μm以下の鏡面とされた金属製ロール(鏡面冷却ロール)である。第二冷却ロール112の内部には、表面の温度調節を可能にするために、図示しない水冷式などの冷却手段が内蔵されている。第二冷却ロール112の表面粗さ(Rmax)が0.3μmを超えると、得られる原反シート2の光沢度や透明性が低下するおそれがあるためである。
このような第二冷却ロール112は、ステンレスなどにて形成された金属製の冷却用無端ベルト115を介して第一冷却ロール111との間に、Tダイ102から溶融押出された基材層2Aおよび表面層2Bを挟むように配置されている。
【0019】
冷却用無端ベルト115は、例えばステンレス、炭素鋼、チタン合金などにて無端ベルト状に形成され、第一冷却ロール111と、第三冷却ロール113と、第四冷却ロール114とに巻装されている。この冷却用無端ベルト115は、外周面すなわちTダイ102から溶融押出された基材層2Aおよび表面層2Bと接する面の表面粗さ(Rmax)が0.3μm以下の鏡面に形成されている。
なお、第三冷却ロール113および第四冷却ロール114は、内部に図示しない水冷式などの冷却手段を内蔵させることにより、冷却用無端ベルト115の温度調節が可能となるようにすることができる。
【0020】
冷却水吹き付けノズル116は、第二冷却ロール112の鉛直方向における下方に位置して、冷却用無端ベルト115の裏面に冷却水116Aを吹き付ける状態で配設されている。冷却水吹き付けノズル116は、冷却水116Aを吹き付けることで、冷却用無端ベルト115を急冷するとともに、第一冷却ロール111および第二冷却ロール112により面状圧接された基材層2Aおよび表面層2Bをも急冷する。
【0021】
水槽117は、上面が開口した箱状に形成され、第二冷却ロール112の下面全体を覆うように設けられ、冷却用無端ベルト115の裏面に吹き付けられた冷却水116Aを回収する。水槽117には、回収した水117Aを水槽117の下面から排出する排水口117Bが設けられている。
吸水ロール118は、第二冷却ロール112における第三冷却ロール113側の側面部に、冷却用無端ベルト115に接するように設置されている。吸水ロール118は、冷却用無端ベルト115の裏面に付着した余分な冷却水を除去するためのものである。
【0022】
剥離ロール119は、基材層2Aおよび表面層2Bを第三冷却ロール113、および冷却用無端ベルト115にガイドするように配置されるとともに、冷却終了後の原反シート2を冷却用無端ベルト115から剥離するものである。
なお、剥離ロール119は、原反シート2を第三冷却ロール113側に圧接するように配置してもよいが、図示するように第三冷却ロール113に対して離間して配置し、原反シート2を圧接しないようにするのが好ましい。
【0023】
製造装置1の熱処理装置20は、予熱装置210と、熱処理装置本体220と、冷却装置230とを備えている。
予熱装置210は、原反シート成形装置10にて成形された原反シート2を加温して予熱する。この予熱装置210は、図1に示すように、第一予熱ロール211と、第二予熱ロール212と、第三予熱ロール213とを備えている。これら第一予熱ロール211、第二予熱ロール212および第三予熱ロール213は、例えば金属などの熱伝導性に優れた材質のものが用いられる。
これら第一予熱ロール211、第二予熱ロール212および第三予熱ロール213には、表面の温度調整を可能とする蒸気加熱式などの図示しない温度調整手段が設けられている。なお、温度調整手段としては、各予熱ロール211〜213に直接設ける構成に限らず、別途予熱専用のロールを設けたり、外部に設けた予熱装置により予熱する構成としたりしてもよい。
なお、予熱装置210は、これら3つの予熱ロール211〜213を配設した構成に限られるものではなく、1つあるいは複数の予熱ロールを設けた構成や無端ベルトを用いる構成など、原反シート2を予熱可能ないずれの構成でもできる。
【0024】
熱処理装置20の熱処理装置本体220は、予熱装置210にて予熱された原反シート2を加熱しつつ走行する。この熱処理装置本体220は、第一加熱ロール221と、第二加熱ロール222と、第三加熱ロール223と、第四加熱ロール224と、加圧ロールであるラバーロール225と、ガイドロール226と、金属製の加熱用無端ベルト227と、図示しない駆動手段とを備えている。
そして、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222、第三加熱ロール223、第四加熱ロール224およびガイドロール226は、金属などの熱伝導性に優れた材質のものが用いられる。また、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222、第三加熱ロール223および第四加熱ロール224は、金属製の加熱用無端ベルト227の耐久性の点で径寸法が大きい方が好ましく、実用上特に直径が100〜1500mmに設計されたものが好ましい。
これら第一加熱ロール221、第二加熱ロール222、第三加熱ロール223および第四加熱ロール224には、表面の温度調整を可能とする蒸気加熱式などの図示しない温度調整手段が設けられている。なお、温度調整手段としては、各加熱ロール221〜224に直接設ける構成に限らず、別途加熱専用のロールを設けたり、外部に設けた加熱装置により加熱する構成としたりしてもよい。
そして、加熱の条件は、原反シート2の結晶化温度以上融点以下の温度、例えば原反シート2が上述したプロピレン系樹脂およびメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を含んでなるものである場合には、原反シート2の表面温度が120℃以上融点未満となる条件である。
また、駆動手段は、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222および第三加熱ロール223のうちの少なくともいずれか1つに連結されている。そして、駆動手段は、駆動により連結された第一加熱ロール221、第二加熱ロール222および第三加熱ロール223のうちの少なくともいずれか1つを回転させる。
【0025】
加熱用無端ベルト227は、例えばステンレス、炭素鋼、チタン合金などにて無端ベルト状に形成されている。なお、厚さ寸法は、任意に設定できるが、強度的に0.3mm以上が好ましい。
そして、この加熱用無端ベルト227は、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222および第三加熱ロール223に掛け渡され、駆動手段の駆動により回転移動する。なお、駆動手段は、加熱用無端ベルト227の移動速度が、上述した冷却押圧装置110の駆動手段の駆動により回転移動する冷却用無端ベルト115の移動速度と略同一となるように駆動制御される。
【0026】
第四加熱ロール224は、外周面が加熱用無端ベルト227の外周面に対向し、第一加熱ロール221および第二加熱ロール222の外側接線に交差する状態で配置されている。第四加熱ロール224は、この第四加熱ロール224の外周面と加熱用無端ベルト227の外周面との間に、予熱装置210で予熱された原反シート2を導入可能に、回転自在に配設されている。
【0027】
ラバーロール225は、外周面が第一加熱ロール221に巻き付く状態で掛け渡された部分の加熱用無端ベルト227の外周面に対向する。
そして、ラバーロール225は、少なくとも外周面に図示しないクッション材が被覆形成されている。このクッション材は、冷却押圧装置110の第二冷却ロール112と同様の材料が用いられる。なお、ラバーロール225は、クッション材を外周面のほぼ全体に被覆形成したり、ほぼ全体がクッション材にて形成したりしたものなどでもできる。
そして、ラバーロール225は、予熱装置210からの原反シート2を加熱用無端ベルト227の外周面に押圧して熱密着させる。すなわち、ラバーロール225は、予熱された原反シート2および加熱用無端ベルト227を介して第一加熱ロール221に接触する状態に配設されている。そして、原反シート2は、加熱用無端ベルト227に密着した状態で走行し、次いで第四加熱ロール224で押圧挟持されて走行する。
【0028】
ガイドロール226は、外周面が加熱用無端ベルト227の外周面に対向して回転自在に配設され、加熱用無端ベルト227および第四加熱ロール224間で加熱および押圧されたシート状の透明リサイクルシート3をガイドする。すなわち、ガイドロール226は、透明リサイクルシート3の移動方向の下流側である製造下流側に位置する第二加熱ロール222を介して第四加熱ロール224より製造下流側に位置して配設されている。
このことにより、ガイドロール226は、加熱用無端ベルト227および第四加熱ロール224間で加熱および押圧されて得られた透明リサイクルシート3を、第四加熱ロール224の外周面から剥離させた後に加熱用無端ベルト227の外周面から剥離するようにガイドする。
【0029】
熱処理装置20の冷却装置230は、熱処理装置本体220にて熱処理された透明リサイクルシート3を冷却する。この冷却装置230は、第一冷却ガイドロール231と、第二冷却ガイドロール232と、一対の案内ロール233とを備えている。これら第一冷却ガイドロール231、第二冷却ガイドロール232および一対の案内ロール233は、例えば金属などの熱伝導性に優れた材質のものが用いられる。
第一冷却ガイドロール231、第二冷却ガイドロール232および一対の案内ロール233は、熱処理装置本体220にて熱処理された透明リサイクルシート3を蛇行するように掛け渡す状態に略直線上に位置して配設されている。これら第一冷却ガイドロール231および第二冷却ガイドロール232には、表面の温度調整を可能とする蒸気加熱式などの図示しない温度調整手段が設けられている。なお、温度調整手段としては、各冷却ガイドロール231,232に直接設ける構成に限らず、別途冷却専用のロールを設けたり、外部に設けた冷却装置により冷却する構成としたりしてもよい。
また、一対の案内ロール233は、第二冷却ガイドロール232の製造下流側に位置して配設されている。そして、これら案内ロール233は、外周面が対向し外周面間に冷却された透明リサイクルシート3を挟持する状態に、透明リサイクルシート3の移動方向に対して交差する上下方向に並設されている。
なお、冷却装置230は、第一冷却ガイドロール231、第二冷却ガイドロール232および一対の案内ロール233を配設した構成に限られるものではなく、1つあるいは複数のロールを設けた構成や無端ベルトを用いる構成など、透明リサイクルシート3を冷却可能ないずれの構成でもできる。
【0030】
[原反シートの構成]
次に、上記製造装置1で透明リサイクルシート3を製造する原反シート2の構成を説明する。原反シート2は、例えば、シート状の基材層2Aの両面に表面層2Bが設けられた2種3層構造である。
基材層2Aは、リサイクル樹脂と、バージン樹脂と、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の混合樹脂により形成される。
バージン樹脂としての結晶性樹脂は、本実施形態ではプロピレン系樹脂であり、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5g/10分以下であることが好ましい。さらに、アイソタクチックペンタッド分率が90%以上99%以下、MFRが2g/10分以上4g/10分以下であることがより好ましい。
ここで、アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。
また、MFRについては、JIS K 7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16Kgで測定すればよい。
【0031】
そして、上述したプロピレン系樹脂は、アイソタクチックペンタッド分率が85%より低いと、当該シートを成形品とした場合に剛性が不足するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率が99%より高いと、透明性が低下するおそれがある。このため、上述のプロピレン系樹脂は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下に設定されることが好ましい。
また、プロピレン系樹脂は、MFRが0.5g/10分より小さいと、押出成形時のダイスリップ部でのせん断応力が強くなり、結晶化を促進して透明性が低下するおそれがある。一方、MFRが5g/10分より大きいと、熱成形時にドローダウンが大きくなって成形性が低下するおそれがある。このため、上述のプロピレン系樹脂は、MFRが0.5g/10分以上5g/10分以下に設定されることが好ましい。
【0032】
一方、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体は、メタロセン触媒を用いて製造され、MFRが0.5g/10分以上6g/10分以下である。また、密度が898kg/m以上913kg/m以下のものが好ましく用いられる。
ここで、MFRの測定については、JIS K 7210に準拠し、測定温度190℃、荷重2.16kgfで測定できる。密度は、試験温度23℃で、JIS K 7112の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度および比重の測定方法」に準拠して測定できる。
【0033】
そして、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体としては、プロピレン系樹脂との屈折率がほぼ同等の材料、特に、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。このメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体は、密度が898kg/mより小さい、もしくは密度が913kg/mより大きいと、マトリックスのプロピレン系樹脂との屈折率が合わなくなり、プロピレン系樹脂とメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体との界面で光の屈折が大きくなって透明性を損なうおそれがある。それ故、プロピレン系樹脂と、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体との屈折率がほぼ同じであると、製造される透明リサイクルシート3の透明性が向上する。
【0034】
また、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体は、MFRが0.5g/10分より小さいと、マトリックスのプロピレン系樹脂の分子中への分散がしにくくなり、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の分散径が大きくなって光の散乱が生じ、透明性が損なわれるおそれがある。一方、MFRが6g/10分より大きいと、マトリックスのプロピレン系樹脂との相溶性が悪くなり、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体が分散しきれずに巨大な粒子として存在してしまう。このような状態では、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の粒子によって光の散乱が生じ、透明性が損なわれるおそれがある。
【0035】
メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の配合量は、原反シート2基準で、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の配合量が多すぎると、得られる原反シート2の剛性が低下するおそれがある。一方、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の配合量が少なすぎると、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体がプロピレン系樹脂中に十分に分散されず、球晶の成長の抑制が不十分となって、透明性の向上が得られにくくなるおそれがある。
【0036】
また、基材層2Aには、バージン樹脂やメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の他にリサイクル樹脂が含まれる。
なお、本実施形態では、原反シート2自体や透明リサイクルシート3自体を回収利用する結果、このリサイクル樹脂として、結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された基材層と、この基材層の少なくとも一面に設けられ、前記基材層のバージン樹脂をなす結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短い結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された表面層と、が積層された積層シートを粉砕してフラフ化したものを用いたことになる。
基材層2Aに占めるリサイクル樹脂の割合は押し出しが可能な濃度まで混入することができるが、50質量%以下であることがより好ましい。この割合が50質量%を超えると原反シート2あるいは透明リサイクルシート3の黄色度が強くなり、外観が悪化するおそれがある。
そして、リサイクル樹脂には、表面層2Bに起因する低粘度の結晶性樹脂(プロピレン系樹脂)が含まれるが、この割合は原反シート2基準で0.1質量%以上が好ましい。この割合が0.1質量%より少ないと、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を配合しても透明性維持効果が低くなるためである。
【0037】
一方、表面層2Bは、基材層2Aに用いられるバージン樹脂としてのプロピレン系樹脂よりMFRが大きく、かつ、緩和時間が短い結晶性樹脂により形成される。本実施形態ではこの結晶性樹脂はプロピレン系樹脂である。
具体的には、表面層2Bに用いられるプロピレン系樹脂のMFRは、基材層2Aに用いられるバージン樹脂としてのプロピレン系樹脂のMFRより1.5倍以上大きいことが好ましい。このMFRが1.5倍未満では、透明性の改善効果が小さいからである。さらに、表面層2Bを形成するプロピレン系樹脂のMFRは、基材層に含まれるバージン樹脂としてのプロピレン系樹脂のMFRに比べて大きく、緩和時間が短いものである。この緩和時間は、基材層2Aに用いられるバージン樹脂としてのプロピレン系樹脂のそれに対して80%以下であることが好ましい。この緩和時間が80%より大きいと透明性の改善効果が小さいからである。
【0038】
MFRの測定については、JIS K 7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16kgfで測定すればよい。
また、緩和時間(τ)は、レオメトリックス社製回転型レオメーターにおいて、コーンプレートを25mmφ、コーンアングルを0.1ラジアン(rad)とし、温度175℃において周波数分散測定を行った時の角周波数ω=0.01rad/秒における緩和時間を求めた。具体的には、樹脂ペレットについて測定した複素弾性率G*(iω)を下記式(1)に示すように、応力σと歪γによりσ/γで定義し、緩和時間τは下記式(2)により求めた。
(iω)=σ/γ=G’(ω)+IG”(ω) ・・・(1)
τ(ω)=G’(ω)/(ωG”(ω)) ・・・(2)
(式中、G’は貯蔵弾性率を示し、G”は損失弾性率を示す。)
【0039】
ここで、緩和時間(τ)について説明する。
平衡状態にある物質系に外力を加え、新しい平衡状態または定常状態に達した後、外力を取り去ると、その系の内部運動によって、系が初めの平衡状態に回復する現象を緩和現象といい、緩和に要する時間の目安となる特性的な時間定数を緩和時間という。高分子の成形加工(例えば押出成形)の場合、溶融した高分子を流動させるが、この時に分子鎖は流動方向に引き伸ばされて引き揃えられる(配向する)。そして、流動が終了し、冷却が始まると、分子に加わる応力がなくなり、各分子鎖は動き出し、やがて勝手な方向に向いてしまう(これを分子鎖の緩和という)。緩和時間は、押出成形時において、押出方向に配向した分子鎖の戻りやすさに関係しており、緩和時間が短い場合には、元に戻りやすいことを示している。
【0040】
なお、本実施形態では、原反シート2は、2種3層としたが、これに限らず、単層でもよく、基材層2Aの片面のみに表面層2Bを形成した2層としてもよい。結晶性樹脂としては、プロピレン系樹脂に限られない。また、リサイクル樹脂としては、本実施形態の原反シート2自体や透明リサイクルシート3自体を用いる必要はない。
【0041】
[透明リサイクルシートの製造方法]
次に、上記製造装置1によりシート状の透明リサイクルシート3を製造する動作を説明する。
【0042】
まず、原反シート成形装置10の冷却押圧装置110の冷却用無端ベルト115および第三冷却ロール113の外周面温度が、溶融樹脂2Cの露点以上50℃以下に保たれるように、温度調整手段にて温度制御する。ここで、温度が50℃を超える場合には、原反シート2の良好な透明性が得られなくなるとともに、α晶が多くなって熱成形しにくくなる可能性がある。このため、50℃以下、好ましくは30℃以下に制御する。また、露点より低い場合には、表面に結露が生じてシートに水滴斑が発生し均一な製膜が困難になる可能性があるため、露点以上に制御される。
また、熱処理装置20の熱処理装置本体220では、加熱用無端ベルト227または第四加熱ロール224の外周面温度が、原反シート2の結晶化温度以上融点以下に保たれるように、温度調整手段にて温度制御する。なお、熱処理装置20の予熱装置210では、原反シート成形装置10の冷却押圧装置110にて冷却された温度である50℃以上結晶化温度以下に予熱するように温度制御するとよい。
【0043】
この状態で、Tダイ押出装置100のTダイ102から、基材層2Aおよび表面層2Bの溶融樹脂2Cをシート状に積層する状態で押し出し、冷却押圧装置110の回転移動する冷却用無端ベルト115および回転する第二冷却ロール112の外周面間に導入させる。
この導入された基材層2Aおよび表面層2Bのシート状で積層する溶融樹脂2Cは、面状圧接するとともに急冷される。
この急冷の際、第一冷却ロール111および第二冷却ロール112間の押圧力で弾性材111Aが圧縮される状態に弾性変形する。そして、溶融樹脂2Cは、弾性材111Aが弾性変形している第一冷却ロール111および第二冷却ロール112の中心からの角度θ1部分(図2参照)において、冷却用無端ベルト115とともに挾持されて弾性材111Aの復元力により面状押圧される。
なお、この際の面圧は、0.1MPa以上20MPa以下が好ましい。ここで、面圧が0.1MPaより低くなると、冷却用無端ベルト115と第二冷却ロール112と溶融樹脂2Cとの間に空気を巻き込み、シート外観が不良となるおそれがある。一方、面圧が20MPaより高くなると、冷却用無端ベルト115の寿命の点から好ましくない。このことから、面状押圧の面圧を0.1MPa以上20MPa以下に設定する。
【0044】
続いて、第二冷却ロール112と、冷却用無端ベルト115との間に挟まれた基材層2Aおよび表面層2Bは、第二冷却ロール112の略下半周に対応する円弧部分において、第二冷却ロール112と、冷却用無端ベルト115とにより面状圧接される。また、基材層2Aおよび表面層2Bは、冷却水吹き付けノズル116による冷却用無端ベルト115の裏面側への冷却水116Aの吹き付けにより、さらに急冷される。
なお、このときの面圧は、0.01MPa以上0.5MPa以下に設定することが好ましい。また、冷却水116Aの温度は、0℃以上30℃以下に設定することが好ましい。なお、吹き付けられた冷却水116Aは、水槽117に回収されるとともに、回収された水117Aは排水口117Bより排出される。
ここで、面圧が0.01MPaより低くなると、冷却用無端ベルト115の蛇行制御が困難となり、安定生産できなくなるおそれがある。一方、面圧が0.5MPaより高くなると、冷却用無端ベルト115に作用する張力が高くなって寿命の点から好ましくない。
【0045】
このようにして、第二冷却ロール112と、冷却用無端ベルト115との間で、基材層2Aおよび表面層2Bに対して面状圧接と、冷却がなされた後、冷却用無端ベルト115に密着した基材層2Aおよび表面層2Bは、冷却用無端ベルト115の回転移動とともに第三冷却ロール113上に移動される。そして、剥離ロール119によりガイドされた基材層2Aおよび表面層2Bは、冷却用無端ベルト115を介して第三冷却ロール113で冷却される。
なお、冷却用無端ベルト115の裏面に付着した水は、第二冷却ロール112から第三冷却ロール113への移動途中に設けられている吸水ロール118により除去される。
【0046】
第三冷却ロール113上で冷却された基材層2Aおよび表面層2Bは、剥離ロール119により冷却用無端ベルト115から剥離され、原反シート2が成形される。
この得られた原反シート2は、内部ヘイズが20%以下で、かつ少なくとも片面の表面粗さがRmax=0.5μm以下となっている。すなわち、冷却押圧装置110では、内部ヘイズが20%以下で、かつ少なくとも片面の表面粗さがRmax=0.5μm以下に原反シート2が得られる条件で急冷および面状圧接することが好ましい。
ここで、ヘイズ(曇り度)は、JIS K 7105に準拠して、原反シート2に光を照射して透過した光線の全量を表す全光線透過率(Tt)と、原反シート2によって拡散された透過した拡散光線透過率(Td)との比によって、下記式(3)で求められる。なお、全光線透過率(Tt)は、入射光と同軸のまま透過した平行光線透過率(Tp)と拡散光線透過率(Td)との和である。
ヘイズ(H)=(Td/Tt)×100 ・・・(3)
【0047】
また、内部ヘイズとは、シート表面粗さに影響されずに、シート内部の透明性を測定するため、シート表面にシリコーンを塗布し、ヘイズを測定したものである。ここで、内部ヘイズの値が20%より大きい場合、後段での熱処理装置本体220による加熱および面状押圧の処理を施しても、内部ヘイズが高くなり、高透明な透明リサイクルシート3が得られなくなるおそれがある。一方、表面粗さがRmax=0.5μmより粗いと、後段での熱処理装置本体220における第四加熱ロール224および加熱用無端ベルト227に熱密着する際に空気を巻き込んでいわゆるブリスタを生じるおそれがある。このため、内部ヘイズが20%以下、表面粗さがRmax=0.5μm以下となるように原反シート2を成形することが好ましい。
【0048】
次に、冷却押圧装置110にて成形された原反シート2を、予熱装置210の第一予熱ロール211、第二予熱ロール212および第三予熱ロール213の外周面に掛け渡して移動させ、予熱する。
そして、予熱装置210で予熱した原反シート2を、熱処理装置本体220のラバーロール225および加熱用無端ベルト227の外周面間に導入する。この導入された原反シート2は、ラバーロール225により加熱用無端ベルト227の外周面に面状押圧されて熱密着される。この熱密着された原反シート2を、回転移動する加熱用無端ベルト227とともに移動させ、加熱用無端ベルト227および第四加熱ロール224の外周面間に導入する。この導入された原反シート2は、原反シート2を介在する第四加熱ロール224と、この第四加熱ロール224により張力が作用する加熱用無端ベルト227とに、面状圧接される。
この原反シート2の熱処理における加熱温度は、原反シート2の結晶化温度以上融点以下である。原反シート2が上述したプロピレン系樹脂およびメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体からなるものである場合、原反シート2の表面温度が120℃以上融点未満となる条件で加熱する。また、熱処理時の面圧は、成形する形状に応じて適宜設定される。
ここで、原反シート2の結晶化温度より低い温度では、原反シート2の熱処理が十分ではない。一方、原反シート2の融点より高い温度では、冷却押圧装置110における急冷で得られた高次構造が破壊され、白濁して透明性が得られなくなるおそれがある。
この後、原反シート2は、第四加熱ロール224の外周面から剥離され、加熱用無端ベルト227に密着する状態で移動されつつ加熱される。そして、加熱された原反シート2は、ガイドロール226のガイドにより、加熱用無端ベルト227から剥離されて、シート状の透明リサイクルシート3として繰り出される。
【0049】
この得られた透明リサイクルシート3を、冷却装置230の第一冷却ガイドロール231および第二冷却ガイドロール232の外周面に掛け渡して蛇行するように移動して冷却し、一対の案内ロール233間から送り出す。
なお、送り出された製品である透明リサイクルシート3は、例えば図示しない巻取装置に巻き取る。
【0050】
以上の製造方法により、得られる透明リサイクルシート3の総厚さ寸法は、100μm以上800μm以下とすることが好ましく、160μm以上500μm以下とすることがより好ましい。透明リサイクルシート3の総厚さ寸法が100μmより薄い場合、冷却押圧装置110の各冷却ロール111〜114による急冷効果が十分に得られ、敢えて積層する必要性がない程度に透明性が得られるためである。一方、透明リサイクルシート3の総厚さ寸法が800μm以上の場合、熱伝導による急冷効果が期待できず、結果として積層の効果が発現できないためである。
【0051】
得られた透明リサイクルシート3の耳ロスあるいは製造時(運転開始時や運転停止時等)のシートロスは、図示しない粉砕装置によりフラフ化され、基材層(回収層)2Aへのリサイクル樹脂として用いられる。なお、熱処理を行う前の原反シート2の一部をリサイクル樹脂として同様にフラフ化してもよい。
【0052】
[実施形態の作用効果]
上記実施形態では、バージン樹脂とリサイクル樹脂とメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の混合樹脂により基材層2Aが形成され、この基材層2Aの両面に、バージン樹脂中の結晶性樹脂(プロピレン系樹脂)よりメルトフローレートが大きく、かつ緩和時間が短い結晶性樹脂(プロピレン系樹脂)により、表面層2Bを形成する。
ここで、基材層2A中にはメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体が混合されているため、基材層2Aと表面層2Bとからなる積層シート(原反シート2あるいは透明リサイクルシート3)をリサイクルして基材層(回収層)2Aに混合使用しても、リサイクル樹脂に含まれる低粘度の表面層2Bによって引き起こされる球晶の巨大化を防止することができる。したがって、球晶による光の散乱が減少するので、積層シートをリサイクルした場合であっても透明性を維持できる。
【0053】
また、基材層2Aおよび表面層2Bのそれぞれの原料樹脂を溶融状態で押し出してシート状に積層する状態で冷却して原反シート2を形成し、この原反シート2を結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理する。このため、冷却により得られた良好な結晶化度の原反シート2における高次構造が破壊されて透明性が損なわれる不都合がなく、良好にシート状に形成でき、より高透明性な透明リサイクルシート3が得られる。
【0054】
そして、基材層2Aとして用いられるバージン樹脂は、好ましい態様としてアイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5g/10分以下のプロピレン系樹脂80質量%以上99.5質量%以下が用いられる。
また、基材層2Aに用いられるメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体は、メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m以上913kg/m以下、MFRが0.5g/10分以上6g/10分以下のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。この範囲とすることで、基材層2Aにおけるプロピレン系樹脂と球晶成長を抑制するメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体との屈折率をほぼ同程度にでき、リサイクルによっても透明性を維持できる。
【0055】
また、シート状の基材層2Aの両面に表面層2Bを設けた2種3層構造に原反シート2を形成している。
このため、片面に設ける場合に比して、基材層2Aの押し出し時にかかる応力をより緩和でき、残留応力をより低減でき、透明性の維持がより容易となる。
【0056】
また、本実施形態の製造装置1では、冷却押圧装置110で原反シート2を製造し、そのまま熱処理装置20で熱処理して透明リサイクルシート3を一連に製造している。このため、所望とする高透明性の透明リサイクルシート3を効率よく製造できる。
【0057】
[変形例]
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではない。本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良は、本発明の内容に含まれるものである。
例えば、原反シート2を製造した後に巻き取り、別体の熱処理装置20に製造した原反シート2を供給して熱処理し、透明リサイクルシート3を製造してもよく、製造装置1の構成は、上記実施形態に限られるものではない。
その他、プロピレン系樹脂やメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体の物性や配合量など、結晶性樹脂の基材層2Aに対して表面層2BのMFRが大きく緩和時間が短い条件であれば、所望とする透明リサイクルシート3に応じて適宜設定できる。
また、原反シート2として、基材層2Aの両面に表面層2Bを設けた構成としたが、基材層2Aの片面のみに表面層2Bを設けた2層構成としてもよい。もちろん、基材層2A単層でもよい。
【実施例】
【0058】
〔実施例1〜6、比較例1〜4〕
上記実施形態において、製造装置および製造方法の具体的条件を下記の通りとした。また、各実施例並びに各比較例における原料樹脂を表1に、層構成を表2〜4に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示す原料樹脂(基材層用、表面層用)を用いて、積層シートを製造した。そして、バージンシートの製造が安定した後、積層シートの耳ロスおよびシートロスを粉砕してフラフ化した後、所定量を基材層(回収層)にリサイクルした。リサイクルシートの製造が安定したときの層構成を表2に示す。具体的製造条件は、以下の通りである(熱処理は行わなかった)。
◎押出機:
・基材層(回収層)用;直径65mm
・表面層用;直径50mm
◎コートハンガーダイの幅寸法:900mm
(フィードブロック方式による溶融樹脂2Cの積層(表面層/基材層/表面層からなる2種3層))
◎冷却ロールの表面粗さ:Rmax=0.1μm
◎冷却用無端ベルト:
・材質;析出硬化系ステンレススチール
・表面粗さ;Rmax=0.1μm
・幅寸法;900mm
・長さ寸法;4600mm
・厚さ寸法;0.6mm
◎溶融樹脂2Cが冷却押圧装置110に導入される冷却用無端ベルト115と第三冷却ロール113の温度:20℃
◎原反シート2の引き取り速度:4.5m/分
◎原反シート2の幅寸法:600mm
【0061】
【表2】

【0062】
そして、得られた原反シート2のヘイズ(全ヘイズ、内部ヘイズ、および外部ヘイズ)を測定した。ここで、ヘイズは、ヘイズ測定機(NDH-300A、日本電色工業株式会社製)を使用して測定した。内部ヘイズは、シートの両面にシリコーンオイルを塗布した後、ガラス板でこのシートの両面を挟み、シート外側の影響を消去してヘイズ測定機で測定した。測定結果を表3、4に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
[結果]
表3、4に示す結果から、所定のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を基材層に添加した本発明のリサイクルシート(実施例1〜6)では、リサイクルシートではない比較例1と同様に、透明性が良好であることがわかる。一方、比較例2、3は、基材層にメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を含まないので、リサイクルシートの透明性が悪い。また、比較例4は、基材層にメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を含んではいるが、MFRが高すぎるのでリサイクルシートとしたときに透明性が悪化する。
ここで、比較例1は、リサイクルシートではなくて、基材層にメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を含まないバージンシートである。実施例5は、基材層にわずか0.1質量%の所定のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を含むだけのリサイクルシートであるが、比較例1のバージンシートよりも外部ヘイズ、内部ヘイズともに低い(透明性がよい)ことは特筆すべきことである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば食品、医薬品、化粧品などの包装用途の他、透明性が要求される各種用途に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1……製造装置
2……原反シート
2A…基材層
2B…表面層
3……透明リサイクルシート
10……原反シート成形装置
20……熱処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ともに結晶性樹脂を含んでなる基材層と表面層とが積層された積層シートをリサイクル樹脂として用いて、透明リサイクルシートを製造する方法であって、
結晶性樹脂からなるバージン樹脂と、前記リサイクル樹脂と、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が0.5g/10分以上6g/10分以下のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体と、を混合した混合樹脂を溶融押出した原反シートを冷却する
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記積層シートとして、
結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された基材層と、
この基材層の少なくとも一面に設けられ、前記基材層のバージン樹脂をなす結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短い結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された表面層と、が積層されたものを用いる
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
当該透明リサイクルシートを基材層として用い、前記基材層に結晶性樹脂を含んでなる表面層を積層した
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記原反シートを結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理する
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記原反シートに含まれる前記メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体を、前記原反シート基準で、0.1質量%以上20質量%以下含む
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記原反シートに含まれるリサイクル樹脂のうち、前記積層シートの表面層に由来する結晶性樹脂を、前記原反シート全量基準で、0.1質量%以上含む
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記混合樹脂が、前記結晶性樹脂からなるバージン樹脂ペレットと、前記積層シートをフラフ状に粉砕したリサイクル樹脂と、メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体のバージン樹脂ペレットとをドライブレンドしたものである
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記結晶性樹脂がプロピレン系樹脂である
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の透明リサイクルシートの製造方法において、
前記メタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体が直鎖状低密度ポリエチレンである
ことを特徴とする透明リサイクルシートの製造方法。
【請求項10】
ともに結晶性樹脂を含んでなる基材層と表面層とを含む積層シートをリサイクル樹脂として含む透明リサイクルシートであって、
さらに、結晶性樹脂からなるバージン樹脂と、MFRが0.5g/10分以上6g/10分以下のメタロセン系エチレン-α-オレフィン共重合体と、を含んでなることを特徴とする透明リサイクルシート。
【請求項11】
請求項10に記載の透明リサイクルシートにおいて、
前記積層シートとして、結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された基材層と、この基材層の少なくとも一面に設けられ、前記基材層のバージン樹脂をなす結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短い結晶性樹脂からなるバージン樹脂により形成された表面層と、が積層されたものを用いる
ことを特徴とする透明リサイクルシート。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の透明リサイクルシートにおいて、
当該透明リサイクルシートを基材層とし、前記基材層に結晶性樹脂を含んでなる表面層が積層されていること特徴とする透明リサイクルシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−213995(P2012−213995A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82269(P2011−82269)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】