説明

透明レーザーマーキング多層シート

【課題】レーザーマーキング性に優れ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性を兼ね揃えた透明レーザーマーキング多層シートを提供する。
【解決手段】スキン層3a、コア層3bを有する少なくとも3層からなる共押出して成形された透明レーザーマーキング多層シート1である。多層シートの両最外層であるスキン層3aは、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層からなり、コア層3bは、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物層からなり、多層シートの全厚みが50〜300μmからなり、かつ、コア層3bの厚さの、多層シートの全厚さに対して占める割合が20〜80%である透明レーザーマーキング多層シート1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング多層シートに関する。とりわけ、レーザー光線照射により該多層シートに損傷なくマーキングされ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られ、耐熱性及び耐磨耗性にも優れたレーザーマーキング多層シートに関するものであり、電子パスポートまたはプラスチックカード等に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
国際交流が進展する中で、人材の移動も活発化している昨今、個人を特定し身元を証明する手段として、個人情報を記録したIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証(身元照明証等)、とくに、公的機関や信頼性の高い団体の発行する身分証の重要性が高まっている。
【0003】
とりわけ、2001年9月の世界同時多発テロ事件以降、各国の入出国管理を厳しくする等の対応策が講じられている。たとえば、国連の専門機関 ICAO(International Civil Aviation Organization)が標準規格を制定し、個人情報を書き込み、読み取り可能なICチップを組み込んだ電子パスポート導入の取り組みが開始されている。また、個人を特定するのに多量な情報を記録したIDカード、ICカード等も登場するに至っている。これらのIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証では、個人情報を書き込みしたICチップの他に、カード本体やシート本体等に個人名、記号、文字、写真等の個人情報を表示したものが一般的となっている。
【0004】
ところで、このようなIDカード、ICカード、或いはパスポート等は、個人を特定し証明し得るものであるから、公的機関や信頼性の高い団体以外の第三者が、個人情報の改竄や偽造等を容易に行えるものであれば、身分証への信頼性は落ち、国際交流の進展や人材の世界規模での移動に支障を与えることになりかねない。
【0005】
そこで、前述の電子パスポート、IDカード、ICカード等のいわゆる身分証では、如何に改竄や偽造を防止するがが重要な問題となっている。すなわち、軽薄短小な電子パスポート、IDカード、ICカード等に如何にしてコントラストが高く、鮮明な表示が得られるかは、改竄や偽造等防止にも繋がるため重要となる。
【0006】
このような問題に対して、個人名、記号、文字、写真などをレーザーマーキングする技術、具体的にはレーザーマーキング用多層シートが注目されており、たとえば、以下の特許文献1、2がある。
【0007】
特許文献1では、外観の損傷がなく、コントラストが良好で、表面平滑性の優れたレーザーマーキングできる多層シートを得ることを目的に、少なくとも表層及び内層からなる多層シートであって、(A)透明の熱可塑性樹脂からなる表層と、(B)(b−1)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(b−2)レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体0.01〜5重量部および(b−3)着色剤0.5〜7重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる内層とを、溶融共押し出しにて形成したレーザーマーキング用多層シートが開示されている。
【0008】
特許文献2では、外観の損傷がなく、コントラストが良好で、表面平滑性の優れたレーザーマーキングでき、耐熱性の優れた多層シートを得ることを目的に、第一の表層/内層/第二の表層からなる多層シートであって、(A)透明の熱可塑性樹脂100重量部に対
し、雲母及び/又はカーボンブラックを0.001〜5重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる透明な第一及び第二の表層と、(B)熱可塑性樹脂100重量部に対し、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体0.001〜3重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる内層とから形成され、第一の表層/内層/第二の表層のシートの厚み構成比が1:4:1〜1:10:1であり、第一の表層/内層/第二の表層を、溶融共押し出しにて形成したレーザーマーキング用多層シートが開示されている。
【0009】
確かに、特許文献1、2におけるレーザーマーキング用多層シートでは、これらの多層シート同士や例えば、PETGシートやABS樹脂シート等の熱可塑性樹脂シートとの加熱融着性に優れ、レーザー光照射によるレーザーマーキングにより文字、数字を印字するには充分な印字性が得られ、評価に値するものである。しかし、特許文献1では内層に着色剤0.5〜7重量部を含有しており、前述のような個人情報を記録したIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証では中間層であるインレイ層に印刷をする場合が一般的であり、その場合には最外層(オーバーレイ)に該多層シートを用いると着色剤含有の影響で透明性が充分でないために印刷部分の画像鮮明性が阻害されるという問題があった。特許文献2ではこれらの多層シートでは表層にもレーザー光吸収剤である雲母及び/又はカーボンブラックが含有されているで、前述のような個人情報を記録したIDカード、ICカード、或いはパスポート等のいわゆる身分証の最外層(オーバーレイ)に該多層シートを用いると、レーザー光照射により表層に含有されているこれらレーザー光吸収剤がレーザー光エネルギーを吸収して発泡等の現象が生じるため、表面の平滑性が低下する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−273832号公報
【特許文献2】特許第3889431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、レーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、多層シートの積層工程における加熱融着性に優れ、更には、全光線透過率の点からの透明性の向上、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性、耐摩耗性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートを提供することにある。とりわけ、改竄防止、偽造防止に優れている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、以下のレーザーマーキング多層シートが提供される。
【0013】
[1] スキン層、コア層を有する少なくとも3層からなる共押出して成形されたレーザーマーキング多層シートであって、前記多層シートの両最外層である前記スキン層は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層からなり、前記コア層は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物層からなり、前記多層シートの全厚みが50〜300μmからなり、かつ、前記コア層の厚さの、前記多層シートの全厚さに対して占める割合が20〜80%である透明レーザーマーキング多層シート。
【0014】
[2] 前記多層シートの全光線透過率が70%以上である[1]に記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【0015】
[3] 前記レーザー光エネルギー吸収材が、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物からなる少なくとも1種または2種以上を含有してなる[1]又は[2]に記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【0016】
[4] 前記カーボンブラック、前記チタンブラック、前記金属酸化物、前記金属窒化物、前記金属硫化物は、平均粒子径150nm未満である[1]〜[3]のいずれかに記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【0017】
[5] 前記スキン層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部含んでなる透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、さらに、前記スキン層及び/またはコア層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する[1]〜[4]のいずれかに記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【0018】
[6] 前記溶融共押出成形レーザーマーキング透明多層シートの表面には平均粗さ(Ra)0.1〜5μmのマット加工が施されている[1]〜[5]のいずれかに記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レーザーマーキング性に優れ、かつ、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られるとともに、多層シートの積層工程における加熱融着性に優れ、更には、全光線透過率の点からの透明性の向上、シートの搬送性、熱プレス後の金型からの離型性、耐熱性、折り曲げ性,耐摩耗性を兼ね揃えたレーザーマーキング多層シートを提供できるという優れた効果を奏する。とりわけ、改竄防止、偽造防止に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のレーザーマーキング多層シートの一実施形態を示す模式図であって、断面図である。
【図2A】本発明のレーザーマーキング多層シートを、非接触ICカードに使用する場合の一例を示す模式図であって断面図である。
【図2B】図2Aのレーザーマーキング多層シートに、レーザー光線を照射した際の状態を示す模式図であって断面図である。
【図3A】本発明のレーザーマーキング多層シートを、電子パスポート用多層積層体に使用する場合の一例を示す模式図であって、断面図である。
【図3B】図3Aのレーザーマーキング多層シートに、レーザー光線を照射した際の状態を示す模式図であって断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のレーザーマーキング多層シートを実施するための形態について具体的に説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備えるレーザーマーキング多層シートを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[1]本発明のレーザーマーキング多層シート1は、図1に示されるように、スキン層3a、コア層3bを有する少なくとも3層からなる共押出して成形されたレーザーマーキング多層シートであって、前記多層シートの両最外層である前記スキン層3aは、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層からなり、前記コア層3bは、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物層からなり、前記多層シートの全厚みが50〜300μmからなり、かつ、前記コア層3bの厚さの、前記多層シート1の全厚さに対して占める割合が20〜80%である透明レーザーマーキング多層シート1として構成される。
【0023】
[A]多層シートの構成:
本発明の溶融共押出成形透明レーザーマーキング多層シートは、スキン層とコア層を少なくとも3層から構成され、溶融共押出成形により積層される透明多層シートである。
【0024】
[A−1]3層シート:
本実施形態における多層シートは、図1に示されるように、スキン層3aとコア層3bとからなる少なくとも3層構造のシートとして構成され、溶融共押出成形により積層形成される。なお、本実施形態に係る3層シートは、「少なくとも3層」であって、3層構造のシートに限られたものではない。すなわち、本実施形態の透明レーザーマーキング多層シートにおいて、「3層シート」と言うのは、説明の便宜を図るものであり、「3層シート」とは「少なくとも3層以上の層からなるシート」を意味するものであって、「3層」から成るシートに限定する趣旨ではない。換言すれば、3層以上の構成からなれば、5層から構成されても、7層から構成されても、或いは、それ以上の奇数層から形成されていても、本実施形態の多層シートに含まれる。
【0025】
ただし、上述した多層構造から本実施形態の多層シートが構成される場合にも、後述するスキン層は、多層構造から構成されるシートの最も外側の位置に配されるとともに、そのシートの両側に配され、さらに、両スキン層(の間)に、コア層が挟まれるように配されることが必要となる。なお、スキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、より好ましいのは、後述の所定範囲の厚さに形成されることである。
【0026】
他方、多層シートが上述の「それ以上の奇数層」から構成される場合であっても、あまりに多層構造からなる場合には、配されるスキン層とコア層との一層あたりの層厚が薄くなり過ぎてしまうと、積層時の加熱プレス工程での、いわゆる金型スティックが発生してしまうおそれがある。したがって、好ましいのは5層から、より好ましいのは3層から構成される多層シートである。
【0027】
ここで、本実施形態における多層シートが前述のように奇数層から構成されるのは、偶数層からなる多層シートは、必ず奇数層からなる多層シートと同じ構成となるからである。例えば、4層からなる多層シートでは、スキン層(PC)/コア層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配置となり、結局のところ、奇数層から構成される多層シートと同様の構成となるからである。
【0028】
また、たとえば、3層から構成される多層シートを例にすると、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、その2つのスキン層に挟まれるように、コア層が1層配されて多層シートが形成されることになる。また、5層から構成される多層シートを例にすると、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)、といった層の配列がなされるように、一方と他方の両最外側に2つのスキン層が配され、かつ、交互にスキン層とコア層を配列して、多層シートを形成してもよい。このように多層構造を有する多層シートを形成することにより、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」)を抑制でき、更に、コア層マーキング部分の上層にスキン層を積層させているため、スキン層の無い場合と比較して、格段にマーキング部分の耐磨耗性を向上させることができる。
【0029】
また、3層シートの全厚さ(総厚さ)は、50〜300μmからなるともに、全厚さに対して占める前記コア層の厚さの割合が20%以上、80%未満からなることが望ましい。3層シートの全厚さが、50μm未満であると、コア層厚みが40μ未満となり、レーザーマーキング性が不十分である。また、3層シートの全厚さが300μmを超えると、その300μmを超えた3層シートを用いて電子パスポート用多層シート及びプラスチックカードを多層積層成型した場合、これらの厚み規格である全最大厚さ800μmを超えてしまう虞があるため、汎用性が乏しく実用困難となる。さらに、多層シートは、全厚さに対して占める前記コア層の厚さの割合が20%以上、80%未満からなることが望ましい。スキン層の厚さが20%未満であると、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡によるいわゆる「フクレ」を抑制できず、加えて、マーキング部分の耐磨耗性も低減するため好ましくない。他方、スキン層の厚さがあまりにも大きすぎると、後述するコア層レーザーマーキング部分の厚さが、必然的に薄くなってしまい、レーザーマーキング性が劣るため好ましくない。
【0030】
このように3層シート全体の厚さを所望の厚さとすることにより、多層シートのレーザーマーキング性とレーザーマーキング部の耐磨耗性(シートの外部摩擦等によるマーキング部破壊による視認性の低下)に優れるという特性を引き出しやすくなる。さらに、この3層シート全体の総厚さだけに限らず、3層シートを構成するスキン層及びコア層の3層シートに占める厚さの割合も前述の所望の割合にすることにより、3層シート全体の厚さを所望範囲内にすることと相俟って、レーザーマーキング性を向上させやすくなる等、本願の効果をより発揮させるため好ましい。
【0031】
さらに、前記多層シートの全光線透過率が70%以上であることが好ましい。たとえば、本願発明の透明レーザーマーキング多層シートを、電子パスポート用の積層体シートや、プラスチックカードの積層体に使用する場合、これらの用途では印刷を施すことが一般的である。そのため、本願発明の透明レーザーマーキング多層シートの下部に、たとえば白色シートを積層するなどして、最外層である透明レーザーマーキング多層シートにレーザー光を照射し、黒色発色させて、画像や文字をマーキングさせるとよい。このように組み合わせて製造し使用することで、その下地層が白い故に、黒/白コントラストにより鮮明な画像を得ることができる。すなわち、白色シート等を積層する場合には、この最外層の透明性を前述の所望範囲の全光線透過率にすることにより、黒/白コントラストの鮮明性を際立たせることができる。換言すれば、この最外層の透明性はこの黒/白コントラストの鮮明性を確保する上で重要であり、全光線透過率が70%未満では黒/白コントラストが不十分となり充分なマーキング性が確保できない問題が生じることと、印刷は下地白色シート上に施すために、この印刷の視認性に問題を生じるため好ましくない。
【0032】
ここで、「全光線透過率」とは、膜等に入射した光のうち、透過する光の割合を示す指標であり、入射した光がすべて透過する場合の全光線透過率は100%である。なお、本明細書中の、「全光線透過率」は、JIS−K7105(光線透過率及び全光線反射率)に準拠して測定した値を示したものであり、この全光線透過率の測定は、たとえば、日本電色工業製のヘイズメーター(商品名:「NDH 2000」)、分光光度計(商品名「EYE7000」マクベス社製)等を用いて測定できる。
【0033】
[A−1−1]多層シートにおけるスキン層:
多層シートにおけるスキン層は、3層シートの外側に配される両最外層として構成される。すなわち、このスキン層は、後述する多層シートにおけるコア層の両端面側(外側)から、挟み込むように配される、3層シートの表層(両最外層)としての役割を担っている。
【0034】
スキン層の厚さは、それぞれ同一であることが好ましい。それぞれ異なる厚さのスキン層から多層シートを構成すると、電子パスポート用多層積層体やカードでは表と裏からレーザーマーキングする事が一般的であり、その場合に前記積層体の最表層と最裏層であるスキン層の厚みが異なる事で、レーザー光照射によるコア層マーキングの発泡による、いわゆる「フクレ」抑制効果及びマーキング部の耐磨耗性効果が異なるため、好ましくないからである。また、例えば、スキン層(PC)/コア層(PC)/スキン層(PC)といった3層から多層シートが構成される場合であって、コア層の厚さが20%以上、80%未満である場合には、スキン層は両側で20%以上、80%未満となる。スキン層の厚さが20%未満であると、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」が抑制及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上する効果が十分でない。他方、スキン層の厚さがあまりにも大きすぎると、レーザーマーキング層であるコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまい、レーザーマーキング性が劣るため好ましくない。
【0035】
また、このスキン層は、ポリカーボネート樹脂(PC)、特に透明なポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層から形成される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。このようにスキン層を、ポリカーボネート樹脂(PC)を主成分とする透明樹脂層から形成することによって、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」が抑制及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上させることができる。
【0036】
スキン層は高い透明性を有している事が重要であり、ポリカーボネート樹脂の透明性を阻害しない樹脂、フィラー等であれば特に制限はないが、スキン層の耐傷性を向上または耐熱性を向上させる目的で、汎用ポリカーボネート樹脂と特殊ポリカーボネート樹脂とのブレンドまたはポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とのブレンド等が挙げられる。
【0037】
[A−1−2]多層シートにおけるコア層:
コア層は、3層シートの中心に配される、いわゆる核層として構成される。すなわち、このコア層は、最外側に配された2つのスキン層に挟み込まれるように、3層シートの中核層として形成されている。このコア層の厚さとしては、全シート中に占める厚さの割合が、20%以上、80%未満になるよう形成されることが望ましい。好ましいのは40%以上80%未満である。コア層の厚み比率が20%以上となると、レーザー光照射によるコア層マーキング部の厚み効果により下地白色層による未発色部とのコントラストが高まり、マーキング部の視認性、鮮明性が向上する。他方、コア層の厚み比率が80%を超えると、レーザー光照射によるコア層マーキングの発泡による、いわゆる「フクレ」抑制効果及びレーザー光照射によるマーキング部分の耐磨耗性が向上する効果が十分でない。また、コア層の厚み比率が20%未満では、前記の逆に、レーザーマーキング層であるコア層の厚さが、必然的に薄くなってしまい、レーザーマーキング性が劣るため好ましくない。
【0038】
コア層を構成する材料(素材)としては、ポリカーボネート樹脂、特に透明なポリカーボネート樹脂が使用される。ただし、使用されるポリカーボネート樹脂は特に制限はないが、メルトボリュームレイトが4〜20のものを好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4未満では、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが20を超えると、シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。
【0039】
[A−1−3]レーザー光エネルギー吸収材:
また、コア層には、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部が含まれることが望ましい。このように構成することにより、レーザーマークした際のレーザー発色性に優れ、生地色と印字部とのコントラストが高くなり、鮮明な文字、記号、画像が得られるので望ましい。
【0040】
レーザー光エネルギー吸収材としては、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。より好ましいのは、レーザー光エネルギー吸収材が、コア層にカーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物からなる少なくとも1種または2種以上を含有しているものである。
【0041】
ここで、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の平均粒子径は、150nm未満であることが好ましく、より好ましいのは100nm未満であり、さらに、平均粒径が10〜90nmで、ジブチルフタレート(DBT)吸油量60〜170ml/100grのカーボンブラックまたは該カーボンブラックと平均粒子径は、150nm未満のチタンブラックまたは金属酸化物の併用が好ましい。他方、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の平均粒径が150nmを超えるとシートの透明性が低下したり、シート表面に大きな凹凸が発生したりする事があり好ましくない。さらに、カーボンブラックの平均粒径が10nm未満ではレーザー発色性が低下すると共に、微細すぎて取扱いに難があり、好ましくない。また、DBT吸油量が60ml/100gr未満では分散性が悪く、170ml/100grを超えると隠蔽性に劣るため好ましくない。
【0042】
金属酸化物としては、酸化物を形成する金属として、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、鉄、チタン、珪素、アンチモン、錫、銅、マンガン、コバルト、ビスマス、バナジウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、タングステン、パラジウム、銀、白金などが挙げられる。更に、複合金属酸化物としてITO、ATO、AZO等が挙げられる。
【0043】
金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化カドミニウムなどが挙げられる。さらに、金属窒化物としては窒化チタンなどが挙げられる。
【0044】
このように、エネルギー吸収体としては、カーボンブラック、チタンブラック及び金属酸化物、複合金属酸化物が好適に用いられ、各々単独または併用して用いられる。
【0045】
また、エネルギー吸収体の添加量(配合量)は、カーボンブラックを0.0005〜1質量部添加(配合)され、より好ましくは0.001〜1質量部である。また、カーボンブラックと平均粒子径150nm未満の金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物から選ばれた少なくとも1種とを併用する場合にはその混合物の配合量が0.005〜5質量部配合され、より好ましくは0.005〜1質量部である。
【0046】
このように、エネルギー吸収体の添加量(配合量)を所望量に調製するのは、多層シートは透明であることが好ましいからである。すなわち、多層シートのコア層に、着色、画像、文字等の印刷を施す場合が多く、その場合に前述のコア層上に積層されるスキン層の透明性が劣ると、印刷された着色、画像、文字等が不鮮明となり実用上問題となる。そのために平均粒子径の小さいカーボンブラックが好ましく用いられ、また、カーボンブラックと他の金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物から選ばれた少なくとも1種との混合物をレーザーエネルギー吸収剤として用いる場合も、これら金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の平均粒子径が少なくとも150nm未満、好ましくは100nm未満とするのである。
【0047】
したがって、これらレーザーエネルギー吸収体の平均粒子径が150nmを超えると透明レーザーマーキング多層シートAの透明性が低下して好ましくない。また、これらレーザーエネルギー吸収体の配合量も1質量部を超えると多層シートの透明性が低下すると共に、吸収エネルギー量が多過ぎてしまい、樹脂を劣化させてしまう。その結果、充分なコントラストが得られない。他方、レーザーエネルギー吸収体の添加量が0.0005質量部未満では充分なコントラストが得られず好ましくない。
【0048】
[A−1−4]滑材、酸化防止剤及び/または着色防止剤:
また、本実施形態では、スキン層に滑剤を含有させることが好ましい。滑剤を含有させることにより、加熱プレス時にプレス板に融着を防ぐことができるからである。さらに、本実施形態では、スキン層及び/またはコア層に、必要に応じて、酸化防止剤及び/又は着色防止剤、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含有させることも好ましい。酸化防止剤及び/または着色防止剤の添加(配合)は成形加工時における分子量低下による物性低下及び色相安定化に有効に作用する。この酸化防止剤及び/又は着色防止剤としては、フェノール系酸化防止剤や亜燐酸エステル系着色防止剤が使用される。また、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の添加(配合)は透明多層シートの保管時及び最終製品である電子パスポートまたはプラスチックカードの実際の使用時における耐光劣化性を抑制に有効に作用する。
【0049】
フェノール系酸化防止剤の例としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン;ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンなどが挙げられる。
【0050】
なお、これらの例示の中でも、とりわけ、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが好適であり、特にn−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好適である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0051】
亜燐酸エステル系着色防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0052】
さらに、他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0053】
上記の中でもトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。亜燐酸エステル系着色防止剤は、1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。また、フェノール系酸化防止剤と併用してもよい。
【0054】
紫外線吸収剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系化合物を挙げることができる。
【0055】
更に、紫外線吸収剤としては、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなどのヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0056】
さらに、紫外線吸収剤としては、例えば、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−p,p’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などの環状イミノエステル系化合物を挙げることができる。
【0057】
また、光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系のも含むことができ、かかる光安定剤は前記紫外線吸収剤や場合によっては各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0058】
滑材としては、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩が挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種の滑剤が添加されることが好ましい。
【0059】
脂肪酸エステル系滑剤としては、ブチルステアレート、セチルパルミレート、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、モンタンワックス酸のエステル、ロウエステル、ジカルボン酸エステル、複合エステル等が挙げられ、脂肪酸アマイド系滑剤としては、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリルアマイド等が挙げられる。また、脂肪酸金属塩系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミウム、ステアリン酸バリウム等が挙げられる。
【0060】
より好ましいのは、スキン層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部含んでなる透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、さらに、前記スキン層及び/またはコア層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有することである。ここで、滑剤の添加量としては0.01〜3質量部、好ましくは0.05〜1.5質量部である。0.01質量部未満では加熱プレス時にプレス板に融着してしまい、3質量部を超えると電子パスポートやカードの多層積層加熱プレス時に層間熱融着性に問題が生じるため好ましくない。さらに、酸化防止剤及び/又は着色防止剤が0.1質量部未満では、溶融押出成形工程でのポリカーボネート樹脂の熱酸化反応及びそれに起因する熱変色といった不具合が生じやすく、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。さらに、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤が、0.1質量部未満では、その効果に乏しく耐光劣化、それに伴う変色といった不具合が生じやすく、5質量部を超えると、これら添加剤のブリードといった不具合が生じやすいため好ましくない。
【0061】
[A−1−5]マット加工:
また、多層シートの両面には、マット加工が施され、平均粗さ(Ra)0.1〜5μmであることが好ましい。このように、多層シートの表面にマット加工を形成する理由は、例えば、本実施形態のレーザーマーキング多層シートの構成が、本実施形態の多層シート/別の多層シートBにて加熱プレス成形した場合、本実施形態の多層シートと別の多層シートBの間の空気が抜けやすくなり、これら多層シートを積層工程に搬送する場合に、吸引・吸着して搬送した後、これら多層シートを位置合わせして積層した後、空気を注入して多層シートを脱着する際、マット加工していないと脱着困難であったり、脱着できても積層位置がずれたりするなどの問題が生じやすい傾向がある。また、マット加工の平均粗さ(Ra)が5μmを超えると、本実施形態の透明レーザーマーキング多層シート/別の多層シートの熱融着性が低下しやすくなる傾向がある。
【0062】
さらに、表面の平均粗さ(Ra)が0.1μm未満では前述したようにシート搬送時・積層時に、シートが搬送機に貼りつくという問題等が発生しやすい傾向がある。
【0063】
[2]用途:
また、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シートは、電子パスポート用、プラスチックカード用、特にこれらの最外層であるオーバーレイに好適に用いることができる。
【0064】
たとえば、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シートを、非接触ICカードとして用いる場合には、図2A、2Bに示されるような非接触ICカードを一例として挙げることができる。具体的には、図2Aに示されるように、インレットとしてのIC−chiP・Antenna層23を、非接触ICカード21の中核とし、そのIC−chiP・Antenna層23の両側に、さらに、インレイ(白)として印刷層25,25を積層する。さらに、インレイ(白)として印刷層25,25の両側に、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シート1を、オーバーレイとするレーザーマーキング層として積層して、非接触ICカード21を成形するとよい。このように非接触ICカードを成形すると、レーザー光線7を照射した際に、図2Bに示されるように、インレイ(白)として印刷層25,25に文字、図等を鮮明に印刷できる。なお、図2A、2Bは、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シートを、非接触ICカードとして用いた際の、断面を模式的に示した図である。
【0065】
さらに、たとえば、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シートを、電子パスポート用多層積層体として用いる場合には、図3A,3Bに示されるような電子パスポート用多層積層体31を一例として挙げることができる。具体的には、図3A,3Bに示されるように、テールシート33を、電子パスポート用多層積層体31の中核とし、そのテールシート33の両側に、さらに、インレイ(白)として印刷層35,35を積層する。さらに、インレイ(白)として印刷層35,35の両側に、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シート1を、オーバーレイとするレーザーマーキング層として積層して、電子パスポート用多層積層体31を成形するとよい。このように電子パスポート用多層積層体を成形すると、レーザー光線7を照射した際に、図3Bに示されるように、インレイ(白)として印刷層35,35に文字、図等を鮮明に印刷できる。なお、図3Bは、本実施形態における透明レーザーマーキング多層シートを、電子パスポート用多層積層体として用いた際の、断面を模式的に示した図である。
【0066】
なお、前述した非接触ICカード及び電子パスポート用多層積層体の具体例は、一例であって、これらの例に限られるものでない。
【0067】
[3]多層シートの成形方法:
本発明において、3層の透明レーザーマーキング多層シートを得るには、各層の樹脂組成物を溶融共押出成形して積層する共押出法により積層することが望ましい。
【0068】
具体的には、各層の樹脂組成物をそれぞれ配合し、あるいは必要に応じてペレット状にして、Tダイを共有連結した3層Tダイ押出機の各ホッパーにそれぞれ投入し、温度200℃〜280℃の範囲で溶融して3層Tダイ共押出し、冷却ロール等で冷却固化して、3層積層体を形成することができる。なお、本発明の溶融共押出成形透明レーザーマーキング多層シートは、上記方法に限定されることなく、公知の方法により形成することができ、例えば、特開平10−71763号第(6)〜(7)頁の記載に従って得ることができる。
【0069】
[4]レーザーマーキング方法:
本実施形態におけるレーザーマーキング多層シートは、レーザー光線を照射して発色させるものであるが、レーザー光としては、He−Neレーザー、Arレーザー、COレーザー、エキシマレーザー等の気体レーザー、YAGレーザー、Nd・YVOレーザー等の固体レーザー、半導体レーザー、色素レーザー等が挙げられる。これらのうち、YAGレーザー、Nd・YVOレーザーが好ましい。
【0070】
なお、前述したように、上記樹脂組成物には、必要に応じて、その特性を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、強化剤などを添加することができる。
【0071】
本実施形態のレーザーマーキング方法において、レーザー光線としては、レーザビームは、シングルモードでもマルチモードでもよく、また、ビーム径が20〜40μmのように絞ったもののほか、ビーム径が80〜100μmのごとく広いものについても用いることができるが、シングルモードで、ビーム径が20〜40μmの方が、印字発色部と下地のコントラストを3以上とし、コントラストが良好な印字品質を得る点で好ましい。
【0072】
このように本実施形態のレーザーマーキング多層シートに、レーザー光線を照射すると、レーザーマーキング多層シートを構成する多層シートA、更に詳しくはレーザー光エネルギー吸収剤を含有せしめたコア層が発色することによって、容易かつ鮮明に画像等を描くことができる。更に、そのコア層上に同樹脂の透明層がスキン層を形成しているため、異種樹脂のスキン層と異なり、コア層とスキン層の屈折率差が生じないためコア層にマーキングされた画像、文字等の鮮明性に優れる効果及び高パワーでレーザー光照射してマーキングしたとしても透明スキン層があるためにマーキング部の発泡による、いわゆる「フクレ」を抑制する効果もある。更に、マーキング部上に透明スキン層が形成されているため、例えば、他の金属、ガラスプラスチック等と繰り返し摩擦を受けた場合に、例え、スキン層が摩耗したとしてもマーキング部に損傷がないためマーキング部の画像、文字等の鮮明性が維持できる効果がある。したがって、本実施形態のレーザーマーキング多層シートは、レーザーマーキング性に優れ、その表面、又は支持体と被覆体の界面部にレーザー光線で白下地層の上に黒発色させることにより鮮明な画像、文字等を容易かつ鮮明に描くことが出来、電子パスポートやプラスチックICカードにおける個人情報等を鮮明にマーキングすることが可能となる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における「部」は特に断りのない限り質量部および質量%を意味する。また、実施例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
【0074】
[1]透明レーザーマーキング多層シートの透明性:
レーザーマーキング透明多層シートの全光線透過率を、分光光度計(商品名「EYE7000」マクベス社製)を用いて測定した。
◎:全光線透過率80%以上、○:全光線透過率60%以上80%未満、
×:全光線透過率60%未満。
【0075】
[2]シートの搬送性:
透明レーザーマーキング多層シートを100×300mmにカットした後、シート搬送機で搬送し、加熱プレス機金型に該シートを所定位置に載せる際、以下の判定基準にてシート搬送性を評価した。
○:問題なし、
△:シートを吸着→搬送→脱着時、シートが吸着部より脱着しにくくシートがずれる、
×:シートが吸着部より脱着困難。
【0076】
[3]積層加熱プレス成形後の離型性:
真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いて、積層したシートを2枚のクロムメッキ鋼板で挟み、プレス温度100℃で2分間予熱後、170℃、実面圧力12kgf/cmにて2分間保持した。その後、室温まで冷却した後、クロムメッキ鋼板で挟んだ試料をクロムメッキ鋼板ごと取り出し、試料からクロムメッキ鋼板を引き剥がした際の金型離型性を以下のように評価した。
○:容易にはくり可、△:金型にわずかに付着し、剥がす事は可能であるがシート表面に傷が生じて使用不可、×:金型に付着。
【0077】
[4]気泡抜け性:
前記のように加熱プレス後の積層体中の残存気泡状態を観察して、気泡抜け性を以下のように評価した。
○:積層体中に気泡なし、△:積層体中わずかに気泡残存、×:積層体中に多量の気泡残存。
【0078】
[5]加熱誘着性:
透明レーザーマーキング(多層)シートAと多層シートBの一端に離型剤を塗布した後、2枚のクロムメッキ鋼板で挟み、真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いてプレス温度100℃で2分間予熱後、170℃、実面圧力12kgf/cmにて2分間保持した。その後、室温まで冷却した後、積層体シートを取り出し、離型剤塗布部分から手で引き剥がして積層体間の加熱融着性を以下の様に評価した。
○:はくりが無く加熱融着性に優れる。
△:部分的にはくりが発生、×:全面はくり、××:小さい力で全面はくり。
【0079】
[6]レーザーマーキング性:
前記加熱積層体シートを用いて、 Nd・YVOレーザー(商品名「LT−100SA」、レーザーテクノロジー社製及び、商品名「RSM103D」、ロフィンシナール社製)を使用して、レーザーマーキング性を評価した。具体的には、レーザーマーキング性は800mm/secのレーザー照射速度にてマーキングを行い、画像の鮮明性とマーキング部の表面状態から以下のように判定した。
◎:鮮明性に優れる、レーザー光照射部のフクレ等異常無し、
○:鮮明性良好、レーザー光照射部のフクレ等異常無し、
△:鮮明性不十分、または、レーザー光照射部にわずかなフクレ、
×:鮮明性悪い、 または レーザー光照射部のフクレ大。
【0080】
[7]透明レーザーマーキング多層シートの耐磨耗性:
前記[5]の透明レーザーマーキング多層及び単層シートとコアシート加熱融着積層体を前記[5]においてレーザー光を照射させた黒色レーザーマーキング部の耐磨耗性をラビングテスター(井元製作所製)を用いて、#00スチールウール(荷重500gr)にて80回(40往復)行い、テスト前後の状態を目視評価にて判定した。
◎:マーキング部の異常がみられず、画像の鮮明性、視認性に変化なし。
○:マーキング部の削れはあるが、画像の鮮明性、視認性が良好。
△:マーキング部の削れが進行しており、画像の鮮明性、視認性が低下。
×:マーキング部の削れ大で、画像の鮮明性、視認性が著しく低下。
【0081】
(製造例1)透明レーザーマーキング多層シートA:
スキン層として、ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、コア層として、上記ポリカーボネートに、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体としてカーボンブラック(三菱化学製#10、平均粒子径75nm、DBP吸油量86ml/100gr)を0.0015質量部を配合すると共に、フェノール系酸化防止剤として、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名「イルガノックス1076」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製))を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を、0.2部配合して、Tダイ共押出法によりスキン層/コア層/スキン層の3層の透明レーザーマーキング多層シートAを得た。シートの総厚さは100μmであり、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(18μm)/コア層(64μm)/スキン層(18μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を64%にした。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された3層透明レーザーマーキング多層シートAを得た。
【0082】
(製造例2)透明レーザーマーキング多層シートB:
シートの総厚さは100μmで、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(28μm)/コア層(44μm)/スキン層(28μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を44%にした他は製造例1同様にして、透明レーザーマーキング多層シートBを得た。
【0083】
(製造例3)透明レーザーマーキング多層シートC:
シートの総厚さは100μmで、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(5μm)/コア層(90μm)/スキン層(5μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を90%にした他は製造例1同様にして、透明レーザーマーキング多層シートCを得た。
【0084】
(製造例4)透明レーザーマーキング多層シートD:
シートの総厚さは100μmで、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとするとともに、層の構成をスキン層(45μm)/コア層(10μm)/スキン層(45μm)の構成にして、コア層の厚さ比率を10%にした他は製造例1同様にして、透明レーザーマーキング多層シートDを得た。
【0085】
(製造例5)コアシートE:
スキン層として、非結晶性ポリエステル(商品名「イースターGN071」イーストマンケミカル社製、EG/CHDM=70/30モル%)を、コア層としてポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2部、及び酸化チタン5部を配合して、Tダイ共押出法によりスキン層/コア層/スキン層の3層のコアシートEを得た。さらに、シートの総厚さ150μmにするとともに、表裏のスキン層の厚さを同じ厚さとし、層の構成をスキン層(20μm)/コア層(110μm)/スキン層(20μm)の構成にするとともに、コア層の厚さを比率73%にした。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施されたコアシートEを得た。
【0086】
(製造例6)透明レーザーマーキング単層シートF:
ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2500A」出光興産製、メルトボリュームレイト=8cm/10min)を用い、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体としてカーボンブラック(三菱化学製#10、平均粒子径75nm、DBP吸油量86ml/100gr)を0.0015質量部を配合すると共に、フェノール系酸化防止剤として、(n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(「イルガノックス1076」チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1部、及び、紫外線吸収剤として、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名「チヌビン327」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2部、Tダイ共押出法によりシートの総厚さは100μmの透明レーザーマーキング単層シートFを得た。さらに、両面の平均表面粗さ(Ra)については、0.5〜1.8μm、になるようマット加工が施された透明レーザーマーキング単層シートFを得た。
【0087】
上述の製造例1〜6を、表1に示す構成により、真空プレス機(日精樹脂工業製)を用いて170℃にて加熱融着させ、実施例1〜2及び、比較例1〜3として、各種評価を行った。その結果を表1、2に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
(考察)
表1〜2に示すように、実施例1、2では、いずれもシートの透明性、搬送性、積層加熱プレス後の離型性、気泡抜け性に優れ、かつ、優れたレーザーマーキング性とマーキング部の耐磨耗性を有するものであった。なお、マット加工がないという点以外で実施例1と同様に製造したシートを用いて、実験を行ったが使用に関して問題はなかった。ただし、歩留まり率の向上という点では、実施例1に見られるようにマット加工したものの方が好ましいことが裏づけられた。
【0090】
これに対して、比較例1では透明レーザーマーキング多層シートCのスキン層の厚みが5μm(厚み比率10%)であったため、かつ、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡抑制効果が実施例に比べて低下がみられ、更に、マーキング部の耐磨耗性も不十分であった。比較例2は透明レーザーマーキング多層シートDのコア層の厚み比率が10%であったため、レーザーマーキング層の発色性が劣るものであった。比較例3では透明レーザーマーキング単層シートFが単層であったため、レーザー光照射によるコア層マーキング部の発泡抑制効果が実施例に比べて低下がみられ、かつ、マーキング部の耐磨耗性にも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の透明レーザーマーキング多層シートは非PVC系の多層シートであり、該透明レーザーマーキング多層シートを電子パスポート積層体シート及びプラスチック非接触、接触ICカードの最外層であるオーバーレイに使用する事で、レーザー光照射により文字、数字のみならず画像についても鮮明で優れたレーザーマーキング性を有し、多層シートの積層、加熱プレス工程においても、シートの搬送性、積層性、加熱融着性及び積層体シートの変形“ソリ”もなく耐熱性に優れた多層シートであり、電子パスポート用多層シートやプラスチックカードとして好適に使用できるものである。
【符号の説明】
【0092】
1:レーザーマーキング多層シート、3a:スキン層、3b:コア層、7:レーザー光線、21:非接触ICカード、23:IC−chiP・Antenna層、25:印刷層、31:電子パスポート用多層積層体、33:テールシート、35:印刷層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキン層、コア層を有する少なくとも3層からなる共押出して成形されたレーザーマーキング多層シートであって、
前記多層シートの両最外層である前記スキン層は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂層からなり、
前記コア層は、ポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収材を0.0005〜1質量部を含む透明ポリカーボネート樹脂組成物層からなり、
前記多層シートの全厚みが50〜300μmからなり、かつ、前記コア層の厚さの、前記多層シートの全厚さに対して占める割合が20〜80%である透明レーザーマーキング多層シート。
【請求項2】
前記多層シートの全光線透過率が70%以上である請求項1に記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【請求項3】
前記レーザー光エネルギー吸収材が、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物からなる少なくとも1種または2種以上を含有してなる請求項1又は2に記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【請求項4】
前記カーボンブラック、前記チタンブラック、前記金属酸化物、前記金属窒化物、前記金属硫化物は、平均粒子径150nm未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【請求項5】
前記スキン層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、滑剤0.01〜3質量部含んでなる透明ポリカーボネート樹脂組成物からなり、
さらに、前記スキン層及び/またはコア層がポリカーボネート樹脂を主成分とする透明樹脂100質量部に対して、酸化防止剤及び/又は着色防止剤0.1〜5質量部、及び紫外線吸収剤及び/又は光安定剤0.1〜5質量部含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明レーザーマーキング多層シート。
【請求項6】
前記溶融共押出成形レーザーマーキング透明多層シートの表面には平均粗さ(Ra)0.1〜5μmのマット加工が施されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明レーザーマーキング多層シート。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2010−194757(P2010−194757A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39797(P2009−39797)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】