説明

透明固形石鹸

【課題】透明性が高く、泡立ち、特に硬水に対しての泡立ちが良好であり、固形石鹸としての適度な硬さを有し、経時的な匂いの劣化及びふやけの問題がなく、しかも生産性が高く、所望の形状に容易に成形し得る透明固形石鹸を提供することである。
【解決手段】炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸及び/又はその塩(A)を含有し、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有しない透明固形石鹸であって、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれる1種又は2種以上(B)、無機塩(C)及び水(D)を含有し、固形石鹸の全量に対して、(A)成分を構成する脂肪酸の含有量が20〜40質量%、(A)成分を構成する脂肪酸と(B)成分との質量比が30:70〜45:55、(C)成分の含有量が0.5〜5質量%、及び(D)成分の含有量が残部であり、(A)成分を構成する炭素数12の脂肪酸と炭素数16及び炭素数18の脂肪酸の合計量との質量比が30:70〜60:40の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸との質量比が20:80〜80:20の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量が固形石鹸の全量に対して14〜22質量%である透明固形石鹸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明固形石鹸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高級脂肪酸のナトリウム塩を主剤にした脂肪酸石鹸の中には、グリセリン、ソルビトール、ショ糖などの透明化剤を加えることで石鹸の結晶化を抑制して微細結晶化させ、透明な外観とした透明固形石鹸が知られている。かかる透明固形石鹸は保湿剤でもある多価アルコールや糖類が多量に含有されるため、皮膚の保護作用に優れ、使用感が温和であり、洗顔用として主に用いられる。
従来から、透明固形石鹸は脂肪酸石鹸に透明化剤を配合し、エチルアルコール等の低級アルコールと水の混合溶媒に加熱溶解した後、型枠に流し込み、溶媒を数十日かけて徐々に揮発させて固化させる、いわゆる枠練り法によって製造されている(特許文献1及び2参照)。この方法により得られる透明固形石鹸は透明度が高いという利点を有する一方、生産性に劣るという欠点がある。また枠練り法は、型枠の形状に固化したものを切断し、更に製品形状に型打ちして製品とするため、別途成形工程を必要とし、また、石鹸くずが出るなどの欠点があった。
【0003】
一方、脂肪酸石鹸に電解質と特定の非イオン性界面活性剤とを配合した機械練り透明固形石鹸組成物が提案されている(特許文献3参照)。この発明によれば、使用時及び使用後の溶け崩れを改善でき、透明性に優れる透明固形石鹸が得られたとしている。しかしながら、この方法では、非イオン性界面活性剤を均一に混合することは困難であり、透明度の点で不十分であった。また、機械練りによる方法では、通常、棒状に押し出し成型して、これを更に型打ちして製品化するために、上記と同様に別途成形工程を必要とし、また、石鹸くずが出るなどの課題を有していた。
【0004】
また、飽和分岐脂肪酸塩及び/又は不飽和脂肪酸塩とアルキレンオキシド誘導体とを含有する枠練り型固形洗浄料が提案されている(特許文献4参照)。この発明によれば、泡立ち、すずき性、使用感が良好で、固形石鹸として十分な硬さと安定性を有する皮膚洗浄料が得られたとしている。しかしながら、この枠練り型固形洗浄料は、通常の脂肪酸石鹸に比べて硬さが不十分であった。さらに、枠練り法であるため、製造に時間を要し、生産性が低いという問題点は解決しておらず、また用いられる分岐脂肪酸や不飽和脂肪酸に起因する匂いの問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−30798号公報
【特許文献2】特開2002−80896号公報
【特許文献3】特開平8−283795号公報
【特許文献4】特開2004−143114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点に対し、透明性が高く、泡立ち、特に硬水に対しての泡立ちが良好であり、固形石鹸としての適度な硬さを有し、経時的な匂いの劣化の問題がない透明固形石鹸、及び該透明固形石鹸を所望の形状に生産性高く製造し得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有しない、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸塩を含む透明固形石鹸であって、脂肪酸の配合比率及び透明化作用を有する剤の配合比率を特定の範囲に制御し、かつ特定量の無機塩を含有させることで上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸及び/又はその塩(A)を含有し、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有しない透明固形石鹸であって、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれる1種又は2種以上(B)、無機塩(C)及び水(D)を含有し、固形石鹸の全量に対して、(A)成分を構成する脂肪酸の含有量が20〜40質量%、(A)成分を構成する脂肪酸と(B)成分との質量比が30:70〜45:55、(C)成分の含有量が0.5〜5質量%、及び(D)成分の含有量が残部であり、(A)成分を構成する炭素数12の脂肪酸と炭素数16及び炭素数18の脂肪酸の合計量との質量比が30:70〜60:40の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸との質量比が20:80〜80:20の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量が固形石鹸の全量に対して14〜22質量%である透明固形石鹸を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸及び/又はその塩(A)と、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれる1種又は2種以上(B)、無機塩(C)、及び水(D)を含有する石鹸組成物から透明固形石鹸を製造する方法であって、前記石鹸組成物が、前記(A)成分を構成する脂肪酸の含有量が石鹸組成物の全量に対して20〜40質量%であり、(A)成分を構成する炭素数12の脂肪酸と炭素数16及び炭素数18の脂肪酸の合計量との質量比が30:70〜60:40の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸との質量比が20:80〜80:20の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量が石鹸組成物の全量に対して14〜22質量%であり、前記(A)成分を構成する脂肪酸と前記(B)成分との質量比が30:70〜45:55の範囲であり、(C)成分の含有量が0.5〜5質量%であり、(D)成分の含有量が残部であり、前記石鹸組成物を、加熱溶融し、均一になった後、成形用の型に注入し、冷却・固化して、成形された固形石鹸を得る、透明固形石鹸の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の透明固形石鹸は、透明性が高く、泡立ち、特に硬水に対しての泡立ちが良好であり、固形石鹸としての適度な硬さを有し、経時的な匂いの劣化の問題がない。また、溶融した石鹸組成物を所望の形状の型に流し込み、冷却するだけで容易に製造することができるため、所望の形に成形された製品を生産性高く製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の透明固形石鹸は、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸及び/又はその塩(A)を主剤とし、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有しない。このような構成を選ぶことによって、冷却するだけで短時間の硬化が可能であり、生産性を飛躍的に向上させることができる。さらに、本発明の透明固形石鹸は、注型法により製造することができるため、型を最終製品の形状としておき、これに溶融した石鹸組成物を注入、冷却・固化することで、所望の形状の固形石鹸を効率的に製造することができる。
分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩は、従来の固形石鹸組成物において、透明性を向上させる効果を有するために用いられていたが、一方で、硬さについては柔らかくする方向に働く。これに対し、本発明の透明固形石鹸は、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有せず、硬さが良好である。さらに、分岐脂肪酸及び不飽和脂肪酸を含有しないため匂いの安定性の点でも優れる。なお、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有しないとは、本発明の透明固形石鹸組成物中に2質量%以下であることを言う。
【0012】
本発明の透明固形石鹸は、(A)成分を構成する脂肪酸の組成が、(1)炭素数12の脂肪酸と炭素数16及び炭素数18の脂肪酸の合計量との質量比(脂肪酸としての質量比率を示す。以下(A)成分の質量に関する記載については、(A)成分を構成する脂肪酸の質量に基づいて記載する。)(C12:(C16+C18))が30:70〜60:40の範囲であり、(2)炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸との質量比(C12:C14)が20:80〜80:20の範囲であり、かつ(3)炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量が固形石鹸の全量に対して14〜22質量%である。
本発明は直鎖飽和脂肪酸の鎖長分布を上記(1)〜(3)に示すように制御することによって、高い透明性と十分な泡立ちを達成するものである。
なお、(A)成分を構成する脂肪酸とは、(A)成分が塩である場合には、当該塩を塩基で中和する前の脂肪酸を意味する。
【0013】
上記(1)の要件について、炭素数12の脂肪酸(ラウリン酸)と炭素数16(パルミチン酸)及び炭素数18の脂肪酸(ステアリン酸)の合計量との質量比は、更に30:70〜50:50の範囲であることが好ましい。
【0014】
上記(2)の要件について、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸(ミリスチン酸)の質量比は、30:70〜80:20の範囲がより好ましく、50:50〜75:25の範囲であることがさらに好ましい。
【0015】
上記(3)の要件について、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量は、更に16〜22質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の透明固形石鹸中での(A)成分を構成する脂肪酸の含有量は、固形石鹸の全量に対して、20〜40質量%の範囲が好ましく、特に25〜35質量%の範囲が好ましい。この範囲内であると後に詳述する、脂肪酸石鹸の結晶化を抑える作用を有する(B)成分、耐硬水性を付与する(C)成分、さらには中和剤及び溶解に必要な水とのバランスがよく、本発明の目的が効果的に達成される。
【0017】
本発明において、上記の直鎖飽和脂肪酸は、通常用いられる塩基によって中和塩となるが、例えば、アルカリ金属塩、アミン塩、アルカノールアミン塩、塩基性アミノ酸塩等が例示できる。中でも、ナトリウム塩又はカリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましく、特にはナトリウム塩が好ましい。ここで用いられる中和剤の添加量としては、脂肪酸がほぼ100%中和される量である。
【0018】
本発明の透明固形石鹸における(B)成分は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれ、1種又は2種以上含まれる。これらの成分は、冷却・固化により固形石鹸を製造する際に、脂肪酸石鹸の結晶化を抑制する機能を有し、透明性に寄与するものである。
【0019】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、親水基としてエチレンオキシドの平均付加モル数が6〜150、好ましくは10〜50のポリオキシエチレン基を有する化合物を挙げることができる。このような化合物の中でも、疎水基として炭素数10〜18、好ましくは12〜14のアルキル基を有し、かつ8以上、好ましくは10以上のHLB値(Hydrophile Lipophile Balance)を有する化合物を挙げることができる。
【0020】
例えば、HLBが14のポリオキシエチレン(20)ソルビタンラウリン酸エステル(レオドールスーパーTW−L120(商品名)、花王株式会社製)、HLBが13のポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテル(エマルゲン2020G(商品名)、花王株式会社製又はエマレックスOD−20(商品名)、日本エマルジョン株式会社製)、HLBが13.7のポリエチレングリコールモノラウレート(エマノーン1112(商品名)、花王株式会社製)、HLBが16.9のポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(エマルゲン123P(商品名)、花王株式会社製)、HLBが18のポリオキシエチレン(30)ラウリルエーテル(エマレックス730(商品名)、日本エマルジョン株式会社製)等を好ましい例として挙げることができる。なお、ここで記載のHLB値は、メーカーによるカタログ値である。
【0021】
両性界面活性剤としては、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、イミダゾリン型界面活性剤、アミンオキサイド型界面活性剤等が挙げられ、ベタイン型界面活性剤が、泡立ち及び透明性を向上させる点で好ましい。
【0022】
上記非イオン性界面活性剤の透明固形石鹸中の含有量は、3〜15質量%の範囲が好ましい。この範囲とすることで、良好な透明性を与えるとともに、固形石鹸としての適度な硬さを得ることができる。同様の観点から、非イオン性界面活性剤の含有量は、5〜10質量%の範囲がさらに好ましい。
また、上記両性界面活性剤の透明固形石鹸中の含有量は、非イオン性界面活性剤における理由と同様の理由により、0〜10質量%の範囲が好ましく、0〜5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0023】
上記非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を併用する場合、それらの透明固形石鹸中の含有量は、両者の合計量として5〜20質量%の範囲が好ましい。この範囲とすることで、界面活性剤としての効果を十分に発揮することができ、固形石鹸としての適度な硬さを得ることができる。同様の観点から、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を併用する場合の透明固形石鹸中の含有量は5〜15質量%の範囲がさらに好ましい。
【0024】
常温で液状の多価アルコール類とは、多価アルコール及びグリコールエーテルを包含するものであり、特にグリコール類(グリコール又はグリコールエーテル)が好ましい。具体的には、イソプレングリコール(IOB;2.00)、ジプロピレングリコール(IOB;1.83)、エトキシジグリコール(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)(IOB;1.63)、1,3−ブチレングリコール(IOB;2.50)等のIOBが3以下のものが、得られる固形石鹸の透明性の点と泡立ち性向上の点より好ましい。
【0025】
なお、IOB(Inorganic Organic Balance)とは、有機概念図(藤田穆、有機化合物の予測と有機概念図、化学の領域 Vol.11,No.10(1957) 719-725)に基づき求められる無機性値及び有機性値の比を表わすもので、下記式(I)により求められる。
【0026】
IOB=無機性値/有機性値 (I)
【0027】
常温で液状の多価アルコール類の透明固形石鹸中の含有量は、5〜50質量%の範囲であることが好ましい。この範囲とすることで、得られる固形石鹸の泡立ち、透明性の向上とともに、糖類の結晶化の抑制及び製造時の石鹸組成物の粘度低下による生産性の向上の点でも有利である。また、得られる固形石鹸の硬度の維持や泡立ちの向上の点でも有利である。同様の観点から、常温で液状の多価アルコール類の含有量は、10〜40質量%の範囲がより好ましい。なお、プロピレングリコール(IOB;3.33)、グリセリン(IOB;5.00)などIOBが3以上の多価アルコールを透明性及び泡立ちの損なわれない範囲で併用することができる。
【0028】
糖類としては、常温で固形のものが好ましく、マンニトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール等の4〜6炭糖の単糖又は二糖の糖アルコールが好ましい。糖類は、石鹸中での結晶化の抑制効果が高く、固形石鹸の透明化に大きく寄与する。また、泡立ち性向上効果があり好ましい。その他これらの糖類は、固形石鹸の製造途中の中和工程において、カラメル反応による着色が生じにくいという効果をも有する。これらの糖類は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これら糖類の透明固形石鹸中での含有量は10〜30質量%の範囲が好ましい。この範囲とすることで、上記添加効果が発揮され、固形石鹸の保存中に内部で結晶化が生じにくく、透明性を損なうことがない。同様の観点から糖類の含有量は10〜20質量%の範囲がさらに好ましい。
【0029】
本発明の透明固形石鹸において(B)成分として列挙される化合物は、該固形石鹸に透明性を付与する機能を有するとともに、種々の異なる性質を有する。従って、これら異種の化合物を組み合わせることで、透明化度合いに加えて、それぞれの化合物の特性を生かして、泡立ち、硬度、使用感等をも併せて制御するものであり、要求に応じて適宜最適な配合をとることができる。(B)成分は、常温で液状の多価アルコール類と界面活性剤類、或いは、常温で液状の多価アルコール類と糖類の組み合わせが好ましく、更には、常温で液状の多価アルコール類、界面活性剤類及び糖類を組み合わせることが好ましい。
【0030】
前記(A)成分(脂肪酸としての質量)と(B)成分との質量比は30:70〜45:55の範囲である。この範囲とすることで、固形石鹸の十分な透明性を得ることができ、また、使用時には、固形石鹸の泡立ちが十分となる。同様の観点から、(A)成分(脂肪酸としての質量)と(B)成分の質量比は40:60〜45:55の範囲が好ましい。
【0031】
本発明の透明固形石鹸中での(B)成分の含有量は20〜50質量%の範囲が好ましく、特に30〜45質量%の範囲が好ましい。この範囲とすることで、上記(A)成分、後に詳述する(C)成分、さらには中和剤及び溶解に必要な精製水とのバランスがよく、本発明の目的が効果的に達成される。
【0032】
本発明の透明固形石鹸は無機塩(C)を含有し、その含有量が0.5〜5質量%である。この範囲とすることで、耐硬水性が上がり、例えば4度の硬水に対しても十分な泡立ちを与える一方で、十分な透明性を得ることができる。同様の観点から、その含有量は、1〜3質量%が好ましい。
無機塩の種類としては特に制限はないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなどが挙げられ、これらのうち、十分な硬度が得られ、かつ、入手が容易で取り扱いが容易であるという点より塩化ナトリウムが好ましい。
【0033】
また、本発明の透明固形石鹸は、低温での泡立ち性やスカムの分散性を向上させるために、非石鹸系のアニオン性界面活性剤を含有することができる。このようなアニオン性界面活性剤としては、アルカノイルイセチオン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、N−アシルサルコシネート塩、N−アシル化アミノ酸塩、(ジ)アルキルスルフォサクシネート塩、モノアルキルリン酸塩、等を使用することができる。
【0034】
また、本発明の透明固形石鹸は、香りの安定化のために脂肪酸以外の有機酸類を含有することができる。このような有機酸としては、乳酸、グルコン酸等を挙げることができる。有機酸の透明固形石鹸中の含有量は0.01〜3質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0035】
その他に、本発明の透明固形石鹸は、上記必須成分及び必要に応じて使用される他の成分を均一な溶融物とするための媒体として、水(D)を含有する。その含有量は10〜40質量%程度である。なお、この水は、本発明の石鹸組成物が迅速に固化するので、製造直後の透明固形石鹸製品中にもほぼ同じ割合で含有されている。
【0036】
また、本発明の透明固形石鹸は、上述の成分の他に、従来の枠練り石鹸において使用されているような成分、例えば、抗菌剤、香料、顔料、染料、油剤、低刺激化剤等を含有することができる。ここで、抗菌剤としては、トリクロサンやトリクロロカルバニリドなどを挙げることができ、その含有量は、通常0.01〜2質量%である。また、香料、顔料あるいは染料などの含有量は、通常0.02〜5質量%である。油剤としては、ラノリン、パラフィン、ワセリン、ミリスチン酸イソプロピルなどを挙げることができ、一般に0.05〜5質量%の含有量である。
【0037】
本発明の透明固形石鹸の製造方法は、上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分及び(D)成分を含有する溶融状態の石鹸組成物を、製品形状を有する成形用の型に注入し、冷却・固化して、該製品形状に成形された透明固形石鹸を製造するものである。
水に溶解している脂肪酸塩は、無機塩の存在下で塩析し結晶化しようとするが、脂肪酸組成が、本願発明のような組成比率を構成する場合、準安定化した状態となり結晶化が進まない。しかし、その状態に、(B)成分が存在する場合、冷却の過程で、(B)成分周辺で(A)成分の結晶化が一気に促進される。そのため、(A)成分の結晶が微細化し、透明性の高い固形石鹸が製造されると考えられる。そのため、短時間による製造が可能になった。また、この結果、非常に微細で密な構造をとることができ、水に対するふやけ、硬度不足といった課題が解決できる。
従来の枠練り法では、溶融状態の石鹸組成物を型枠に入れ、エタノールや水を揮散させて透明度を上げる工程を必須とし、固化させるために2カ月程の時間を要したが、本発明の製造方法においては、このような工程を要しない。
【0038】
炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸と、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれる1種又は2種以上(B)、無機塩(C)及び水(D)を所定量混合し、加熱融解する。一部の水に希釈された塩基を加え、脂肪酸を中和する。均一透明になったことを確認する。又は、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸と、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、1種又は2種以上(B)、及び水(D)を所定量混合し、加熱融解する。一部の水に希釈された塩基を加え、脂肪酸を中和する。均一透明になったことを確認し、一部の水に溶解された無機塩(C)及び糖類(B)を加え、均一溶解する。
溶融状態の石鹸組成物の調製過程においては、所定成分を加熱下に混合するが、その加熱温度は、通常60〜90℃程度である。
【0039】
調製された石鹸組成物は、従来の枠練り石鹸と同様の型枠にて成形することができるが、本発明における石鹸組成物は、冷却・固化するだけで、非常に短時間に固形石鹸が得られることが特徴である。
従って、溶融した石鹸組成物を、最終製品の形状を有する成形用の型に直接注入し、冷却・固化して成形することができるため、短時間で所望の形状の透明固形石鹸が得られる。なお、冷却・固化時間については、脂肪酸の組成及び配合量、透明化剤の配合量等により適宜決定される。また、成形型の材質や温度、型のサイズと充填量、外気温、冷却水の有無等によって変化するものであるが、通常10〜60分程度である。
【実施例】
【0040】
実施例1
第1表に記載する脂肪酸、常温で液状の多価アルコール類及び界面活性剤を混合し、80℃で溶融させた。これに5質量%の水で希釈した48%水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下し、中和した。透明均一になった後、別途、塩化ナトリウム、糖類及び精製水を混合し、80℃に加温した該溶液を該中和溶液に添加し、さらに80℃で15分間混合し、溶融状態の石鹸組成物を得た。
【0041】
得られた石鹸組成物を用いて、以下の方法にて評価した。結果を第1表に示す。
(評価方法)
1.透明性
溶融状態の石鹸組成物5mLを、80℃でバランスディッシュ(35×35×10mm)に流し込み、放冷して固化した固形石鹸を取り出した。室温(25℃)での放冷・固化に要した時間は約20分であった。該固形石鹸を黒写真台紙の上に置き、コニカミノルタホールディングス株式会社色彩色差計(MINOLTA CR-200)を用いて測定し、L***におけるL*値(明度)で透明性を評価した。L*値が38以下であれば透明性が良好で、固形石鹸を通して5ポイント以下の文字が読み取り可能であり、透明性が良好であると判断される。なお、市販の枠練り透明石鹸の同方法により測定したL*値は33であり、市販の固形石鹸(例えば、花王株式会社「ホワイト」、白色不透明)のL*値は70であった。
【0042】
2.泡立ち
MgCl2を使用して調製した4度硬水を用いて、前記石鹸組成物の1%水溶液を得た。該水溶液を200mLのメスシリンダーに5g充填し、30℃で、50回振盪後の泡の高さ(mm)を測定した。なお、この試験による泡量は、パネラーによる官能評価と以下のような相関があり、20mm以上であれば泡立ちが良好と判断される。
25mm以上;パネラー10名中9名〜10名が泡立ちが良いと感じる。
20mm以上25mm未満;パネラー10名中6名〜8名が泡立ちが良いと感じる。
15mm以上20mm未満;10名中2名〜5名が泡立ちが良いと感じる。
15mm未満;10名中泡立ちが良いと感じるのは1名以下。
【0043】
3.固形石鹸の硬さ
溶融状態の石鹸組成物を成形用の型に流し込み、冷却・固化した後、固形石鹸を型から取り出した。冷却・固化に要した時間は約60分であった。固化後の固形石鹸の厚さ15mmの中心部に対して、硬度計(高分子計器株式会社製、アスカーゴム硬度計Type C, JIS K 7312)を用いて固形石鹸の硬さを測定した。なお、この方法により測定した一般の石鹸(例えば、花王株式会社「ホワイト」)の硬さは85〜95であり、柔らかめの石鹸(例えば、花王株式会社「ピュアホイップソープ」)では70〜75である。従って、この硬さが70〜95程度であると、固形石鹸として適度な硬さであると判断される。
【0044】
4.固まる速さ
「3.固形石鹸の硬さ」と同様に製造された固形石鹸を、成形用の型に流し込み後25℃で空冷した時の、30分後、60分後、90分後の硬度を測定した。この時の硬度が、30分から60分で変化しなかったものをA、60分から90分で変化しなくなったものをB、90分から120分で変化しなくなったものをCとした。効率の良い製造の為には、60分以内で固化することが好ましい。
【0045】
5.匂いの安定性
冷却、固化後の固形石鹸を型から取り出し、アルミピローに密封後、5℃と50℃の恒温槽に静置した。1ヵ月後恒温槽から取り出し、匂いの専門パネルにより匂いの変化を判定した。5℃と50℃で匂いがわずかに変化しているが異臭がせず、許容範囲な場合をA、変化が大きいが異臭がせず、許容範囲な場合をB、変化が大きく異臭があり許容範囲外の場合をCとした。
【0046】
6.ふやけにくさ
冷却、固化後の固形石鹸を型から取り出し、石鹸皿に載せ40℃、75%RHの恒温槽に静置した。2週間後取り出した直後の固形石鹸の外観より判定した。外観に変化がない場合をA、わずかにふやけが生じているが許容範囲の場合をB、ふやけが生じ、石鹸皿に固形石鹸が付着している場合をCとした。
【0047】
実施例2〜5、及び比較例1〜9
第1表に示す組成を用いたこと以外は実施例1と同様にして石鹸組成物を得た。実施例1と同様の方法で評価した結果を第1表に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例6〜15
実施例1と同様にして、下記の組成の石鹸組成物を得ることができる。実施例1と同様に良好な評価結果を示す。
【0050】
実施例6 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 2.8
ミリスチン酸(C14) 11.2
パルミチン酸(C16) 0.9
ステアリン酸(C18) 0.9
48%水酸化ナトリウム 5.8
イソプレングルコール 10
キシリトール 9.3
塩化ナトリウム 1.1
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0051】
実施例7 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 2.8
ミリスチン酸(C14) 11.2
パルミチン酸(C16) 3.5
ステアリン酸(C18) 3
48%水酸化ナトリウム 7.2
イソプレングルコール 10
プロピレングリコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 7.8
塩化ナトリウム 1.2
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0052】
実施例8 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 2.8
ミリスチン酸(C14) 11.2
パルミチン酸(C16) 3.5
ステアリン酸(C18) 3
48%水酸化ナトリウム 7.2
イソプレングルコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 5
塩化ナトリウム 1.4
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0053】
実施例9 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 11.2
ミリスチン酸(C14) 2.8
パルミチン酸(C16) 6.1
ステアリン酸(C18) 6
48%水酸化ナトリウム 9.4
イソプレングルコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 1.9
塩化ナトリウム 1.3
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0054】
実施例10 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 11.2
ミリスチン酸(C14) 2.8
パルミチン酸(C16) 6.1
ステアリン酸(C18) 6
48%水酸化ナトリウム 9.4
イソプレングルコール 10
プロピレングリコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
POE(20)オクチルドデシルエーテル 10.9
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 10
塩化ナトリウム 1.2
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0055】
実施例11 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 5.5
ミリスチン酸(C14) 16.5
パルミチン酸(C16) 6.1
ステアリン酸(C18) 6
48%水酸化ナトリウム 9.4
イソプレングルコール 10
プロピレングリコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
POE(20)オクチルドデシルエーテル 10.9
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 10
塩化ナトリウム 1.2
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0056】
実施例12 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 5.5
ミリスチン酸(C14) 16.5
パルミチン酸(C16) 6
ステアリン酸(C18) 6.8
48%水酸化ナトリウム 12.2
イソプレングルコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
POE(20)オクチルドデシルエーテル 10
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 2
塩化ナトリウム 1.3
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0057】
実施例13 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 16.5
ミリスチン酸(C14) 5.5
パルミチン酸(C16) 5.5
ステアリン酸(C18) 5.5
48%水酸化ナトリウム 12.2
イソプレングルコール 10
プロピレングリコール 3
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
POE(20)オクチルドデシルエーテル 10
塩化ナトリウム 1.5
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0058】
実施例14 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 4
ミリスチン酸(C14) 12
パルミチン酸(C16) 4.5
ステアリン酸(C18) 4.5
48%水酸化ナトリウム 8.8
イソプレングルコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
塩化ナトリウム 1.3
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【0059】
実施例15 透明石鹸 質量%
ラウリン酸(C12) 9
ミリスチン酸(C14) 9
パルミチン酸(C16) 8
ステアリン酸(C18) 6
48%水酸化ナトリウム 12.2
イソプレングルコール 10
キシリトール 10
POE(20)ソルビタンラウリン酸エステル 10
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 2.7
塩化ナトリウム 1.4
精製水 バランス
────────────────────────────────────────
合計 100
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、透明性が高く、泡立ち、特に硬水に対しての泡立ちが良好であり、固形石鹸としての適度な硬さを有し、経時的な匂いの劣化の問題がない透明固形石鹸が得られる。しかも、該透明固形石鹸の製造においては、注型法などによって、溶解した石鹸組成物を所望の形状の型に流し込み、冷却するだけで容易にかつ短時間で製造することができるため、所望の形に成形された製品を生産性高く製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸及び/又はその塩(A)を含有し、分岐脂肪酸塩及び不飽和脂肪酸塩を実質的に含有しない透明固形石鹸であって、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれる1種又は2種以上(B)、無機塩(C)及び水(D)を含有し、固形石鹸の全量に対して、(A)成分を構成する脂肪酸の含有量が20〜40質量%、(A)成分を構成する脂肪酸と(B)成分との質量比が30:70〜45:55、(C)成分の含有量が0.5〜5質量%、及び(D)成分の含有量が残部であり、(A)成分を構成する炭素数12の脂肪酸と炭素数16及び炭素数18の脂肪酸の合計量との質量比が30:70〜60:40の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸との質量比が20:80〜80:20の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量が固形石鹸の全量に対して14〜22質量%である透明固形石鹸。
【請求項2】
前記(B)成分の含有量が、固形石鹸の全量に対して、20〜50質量%である請求項1に記載の透明固形石鹸。
【請求項3】
前記(D)成分の含有量が、固形石鹸の全量に対して、10〜40質量%である請求項1又は2に記載の透明固形石鹸。
【請求項4】
炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸及び/又はその塩(A)と、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、常温で液状の多価アルコール類、及び糖類から選ばれる1種又は2種以上(B)、無機塩(C)、及び水(D)を含有する石鹸組成物から透明固形石鹸を製造する方法であって、前記石鹸組成物が、前記(A)成分を構成する脂肪酸の含有量が石鹸組成物の全量に対して20〜40質量%であり、(A)成分を構成する炭素数12の脂肪酸と炭素数16及び炭素数18の脂肪酸の合計量との質量比が30:70〜60:40の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸との質量比が20:80〜80:20の範囲であり、炭素数12の脂肪酸と炭素数14の脂肪酸の合計量が石鹸組成物の全量に対して14〜22質量%であり、前記(A)成分を構成する脂肪酸と前記(B)成分との質量比が30:70〜45:55の範囲であり、(C)成分の含有量が0.5〜5質量%であり、(D)成分の含有量が残部であり、前記石鹸組成物を、加熱溶融し、均一になった後、成形用の型に注入し、冷却・固化して、成形された固形石鹸を得る、透明固形石鹸の製造方法。
【請求項5】
前記(D)成分の含有量が、石鹸組成物の全量に対して、10〜40質量%である請求項4に記載の透明固形石鹸の製造方法。

【公開番号】特開2009−13404(P2009−13404A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148410(P2008−148410)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】