透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ、その製造方法およびプローブ顕微鏡装置
光学的に透明な基板の表面にカンチレバーを形成したプローブを使用し、しかも、のぞき窓の機能を併せ持つ小型で精度が向上した透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ、その製造方法およびプローブ顕微鏡装置を提供する。可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板1201,1203の片方の表面に該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバー1202,1204を有するプローブを備え、前記透明基板1201は、容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持つとともに、前記カンチレバー1202,1204を前記透明基板1201,1203の裏面から光学的に観察または計測し、また光学的に駆動可能に構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンチレバーを光学的に駆動および測定できる、透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ、その製造方法およびプローブ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プローブ顕微鏡は原子間力顕微鏡や走査トンネル顕微鏡などを総称するものであり、トンネル電流を直接検出する走査トンネル顕微鏡のようにカンチレバーを必要としないプローブ顕微鏡も存在するが、ここで扱うプローブ顕微鏡装置は、カンチレバーを有するプローブを利用するプローブ顕微鏡に関するものとする。
【0003】
図1は従来のプローブ顕微鏡のプローブの斜視図であり、図1(A)は三角形のカンチレバーを、図1(B)は長方形のカンチレバーを持つプローブをそれぞれ示している。
【0004】
図1(A)においては、プローブの基部2301から三角形のカンチレバー2302が突出しており、その先端には探針2303が取り付けられている。また、図1(B)においては、プローブの基部2304から長方形のカンチレバー2305が突出しており、その先端には探針2306が取り付けられている。
【0005】
プローブの基部は、プローブを取り扱ったり、プローブ顕微鏡装置に固定するために使われ、その長さは数mm程度である。また、カンチレバーの長さは100μmから数百μm程度であり、厚さは数μm程度である。
【0006】
以下、原子間力顕微鏡を例に取り、簡単にその動作を説明する。
【0007】
原子間力顕微鏡では、探針と試料間の力学的な相互作用(原子間力)によるカンチレバーの撓みを検出するか、あるいはカンチレバーの共振周波数の変化を検出することで、上記原子間力の大きさを知ることができる。原子間力顕微鏡は、試料の表面を走査しながら上記の原子間力の検出を行うことで、原子間力を通して観察した試料表面の像を拡大表示する装置である。
【0008】
また、例えば、上記した原子間力顕微鏡の探針を強磁性体に変更すれば、試料の磁化状態を知ることができる。このように、探針などを変更することで様々な物理量を扱うプローブ顕微鏡となる。
【0009】
カンチレバーを通した力の検出に最もよく使われるのが光梃子である。
【0010】
図2はかかる光梃子を利用する場合のプローブの使用形態を示している。
【0011】
この図において、プローブの基部2401はプローブ顕微鏡装置に取り付けられる。探針2403はプローブの基部2401から突出するカンチレバー2402先端に取り付けられ、試料2404はプローブ顕微鏡装置に設置される。探針2403と試料2404の間に働く力によってカンチレバー2402が撓むとき、この撓みによるカンチレバー2402の角度変化を検出するために光梃子が利用される。レーザ光2405をカンチレバー2402の背面に照射し、反射したレーザ光2406の方向を、フォトダイオード2407で検出する。フォトダイオード2407は、2つのチップが隣接して形成されており、レーザスポットの位置によって2つのチップの出力電流比が変わるので、スポット位置を知ることができる。カンチレバー2402からフォトダイオード2407までの距離を数cm程度に大きくすることで、カンチレバー2402の僅かな角度変化を拡大して検出することができる。
【0012】
図3は従来の試料とプローブの位置関係を示す断面図である。
【0013】
この図において、2501はプローブの基部、2502はプローブのカンチレバーである。試料2503がうねっていたり傾斜して取り付けられていると、探針2505以外の箇所でもプローブ2501と試料2503が接触する危険性がある。これを避けるため、試料2503に対するプローブ2501の取付け角度2504を10°程度傾ける場合が多い。
【0014】
探針と試料の間に働く力に非線形性があると、カンチレバーの共振周波数の変化が生じる。これを検出するには、カンチレバーを振動させ、共振周波数の変化を捉える必要がある。この場合、光梃子以外にも反射光のドップラーシフトを利用して速度を捉える方法が使える。
【0015】
図4は従来のレーザドップラー速度計を利用する場合のプローブの使用形態を示している。
【0016】
この図において、レーザ光2603が光学系2602を通してカンチレバー2601背面に反射し、再び光学系2602を通してレーザドップラー速度計(図示なし)に戻る。
【特許文献1】特開平6−267408号公報(第3−4頁 図1)
【非特許文献1】M.V.Andres,K.W.H.Foulds,and M.J.Tudor,“Optical Activation of A Silicon Vibrating Sensor”,Electronics Letters 9th October 1986 Vol.22 No.21
【非特許文献2】K.Hane,K.Suzuki,“Self−excited vibration of a self−supporting thin film caused by laser irradiation”,Sensors and Actuators A51(1996)176−182
【発明の開示】
【0017】
しかしながら、上記した従来のプローブの構造は、試料が真空中や液中や有毒ガス中にあったり、高温または極低温などの環境(ここでは以降、これらをまとめて特殊環境と呼ぶことにする)にある場合、光学系を試料と同じ特殊環境に設置するか、あるいはプローブを試料と同じ特殊環境に設置しながら光学系は大気中に設置し、のぞき窓を通して光学的な検出を行う必要があった。
【0018】
図5は真空中に光梃子を入れる場合の装置の断面模式図である。
【0019】
この図において、2705は真空容器およびガスケットであり、その内部2704は真空になっている。試料2702とプローブ2701は真空中にあり、試料2702は3次元走査機構2703に取り付けられている。光梃子を構成するレーザ光源2707およびフォトダイオード2708は真空中に設置されている。光梃子の調整は、レーザ光源2707の位置を調節することで行う。ここでは、レーザ光源2707が3次元微動機構2709によって微動できるものとする。レーザ光源2707と3次元微動機構2709は真空中に設置されているので、レーザスポットの反射光がフォトダイオード2708の中心にあたるように調整するには、フォトダイオード2708の出力電流を計器(表示装置)2711によってモニターしながら3次元微動機構2709を機械的または電気的な手段2710で操作してレーザ光源2707の方向を調節しなければならない。このとき、レーザスポットの位置はのぞき窓2706から目視できる場合もあるが、光学系がすべて大気中にある場合に比べて調整は難しい。特にレーザスポットがプローブ2701やフォトダイオード2708にあたっていない場合、その状況が目視で確認できないと計器(表示装置)2711も使えないので、調整には非常に手間がかかる。
【0020】
このように、光学系を全部真空中やガス中に入れることは可能であるが、例えば、液中や高温環境に入れることは光学部品にとって好ましくない。次に、光学部品を大気中に設置した装置の2つの例を図6と図7に示す。
【0021】
図6はのぞき窓を通して光梃子を構成している装置の断面模式図である。
【0022】
この図において、2805は真空容器およびガスケットであり、その内部2804は真空、有毒ガス、液体、極低温、または高温などの特殊環境である。
【0023】
試料2802とプローブ2801は上記の特殊環境中にあり、試料2802は3次元走査機構2803に取り付けられている。一方、レーザ光源2807およびフォトダイオード2808は大気中に設置されていて、のぞき窓2806を介して光梃子を構成する。この構成ではのぞき窓2806によって光線が屈折するので、のぞき窓2806が装置内外の圧力差や温度差で変形すると、光梃子がこの変形も検出してしまう。のぞき窓2806の面積を小さくし、板厚を厚くするとこの問題は緩和されるが、装置内部2804が観察し難くなる上に、のぞき窓2806のガラス板をはずした開口部からプローブ2801の交換を行うことが難しくなる。
【0024】
図7はドップラー速度計の光学部品を大気中に設置した装置の断面模式図である。
【0025】
この図において、2905は容器およびガスケットであり、その内部2904は真空、有毒ガス、液体、極低温、または高温などの特殊環境である。試料2902とプローブ2901は特殊環境中にあり、試料2902は3次元走査機構2903に取り付けられている。のぞき窓2906越しに光学顕微鏡の対物レンズ2907の焦点をプローブ2901のカンチレバー背面に結ばせ、この対物レンズ2907を通してドップラー速度計(図示なし)でカンチレバーの速度を検出する。高い倍率の対物レンズ2907ほど焦点距離が短くなるので、倍率を上げるためにはカンチレバー背面と対物レンズ2907の距離2908はなるべく接近させる必要があるが、プローブ2901の取付け機構を考慮すると、この距離2908を5mm以下にすることは容易ではない。特に、内部が真空の場合にはのぞき窓2906に圧力がかかるため、板厚を厚くするか面積を小さくする必要がある。しかし、面積を小さくすると装置内部2904が観察し難くなる上に、のぞき窓2906のガラス板をはずした開口部からプローブ2901の交換を行うことが難しくなり、また、厚い材料を使うと距離2908を小さくできない。
【0026】
以上の課題を整理すると、特殊環境にある試料を観察するための従来の技術によるプローブ顕微鏡には、次のような問題があった。
(1)光学系を試料とともに特殊環境に入れることは装置の複雑化、大型化を招き、光学系の調整が難しくなる。
(2)光学系が大気中に設置され、試料とプローブが特殊環境中に設置されている装置では、プローブと光学系の間にあるのぞき窓が光学系の設計に制約を加えたり、光学的に歪みの原因になることがある。
(3)特殊環境中に設置されるプローブの交換が容易にできない。
(4)多数のカンチレバーを光学的に観察したり測定することに難がある。
【0027】
本発明は、上記状況に鑑みて、光学的に透明な基板の表面にカンチレバーを形成したプローブを使用し、しかも、のぞき窓の機能を併せ持つ小型で精度が向上した透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ、その製造方法およびプローブ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【0028】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板の片方の表面に、該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバーを有するプローブを備え、前記透明基板は、容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持ち、前記透明基板の裏面から光学的に観察または計測し、また光学的に駆動可能に構成することを特徴とする。
【0029】
〔2〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の一部にマイクロレンズが形成され、前記カンチレバーの光学的観察または計測、または光学的駆動のための光線を、前記マイクロレンズによりカンチレバーの裏面に収束させることを特徴とする。
【0030】
〔3〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の表面での反射光と裏面での反射光の間の光の干渉を防止するために透明基板の厚さに僅かな傾斜を持たせることを特徴とする。
【0031】
〔4〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板が1/4波長板を兼ねることを特徴とする。
【0032】
〔5〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記カンチレバーに内部応力を持たせることによって、該カンチレバーと前記透明基板の間隔が前記カンチレバーの付け根から先端に向けて徐々に広がっていることを特徴とする。
【0033】
〔6〕透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法において、SOI基板の単結晶シリコン薄膜層にカンチレバーを製作し、このSOI基板を裏返しにガラス基板に接合し、前記SOI基板のハンドリングウエハと埋め込み酸化膜を除去することを特徴とする。
【0034】
〔7〕上記〔6〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法において、ウェットエッチングを利用して前記カンチレバー先端に探針を形成することを特徴とする。
【0035】
〔8〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔1〕から〔5〕の何れか一項に記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブを用い、試料との相互作用による前記カンチレバーの変形または振動特性を、前記透明基板の裏面から光学的に測定することを特徴とする。
【0036】
〔9〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔8〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーと前記透明基板の間の光の干渉による反射光の強度変化から、前記カンチレバーの変形または振動特性を検出することを特徴とする。
【0037】
〔10〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔8〕記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーの共振周波数に一致した周波数で強度が変動する光線を前記透明基板裏面から照射することによって前記カンチレバーに振動を励起することを特徴とする。
【0038】
〔11〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔8〕記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記透明基板裏面から照射した一定強度の光線によって前記カンチレバーを自励振動させることを特徴とする。
【0039】
従来の技術では、特殊環境にある試料を観察・測定対象とするプローブ顕微鏡装置を実現するためには、内部が特殊環境になっている容器の内外の環境を仕切りながら、光学的に容器内部を観察したり測定することができるように、透明な材料からなるのぞき窓を設置し、それを通してプローブや試料の観察あるいは測定を行う必要があった。また、光学的な特性を優先するためには、光学部品やレーザ光源やフォトダイオードなどを特殊環境中に設置する必要があった。これに対して、
(1)請求項1記載の発明によれば、プローブは透明基板を透過して裏面から光学的にカンチレバーを観察したり測定できるというのぞき窓の機能を併せ持つので、プローブ自体で容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にする。その結果、装置の構造が簡単になり、小型化が達成できる。
【0040】
また、カンチレバーは、透明基板の表面に直接取り付けられているため、透明基板裏面からカンチレバーおよび試料までの距離は必要最小限に抑えられ、その結果、従来技術によるプローブ顕微鏡装置よりも倍率の高い光学顕微鏡の対物レンズが使用できる。
【0041】
また、透明基板上のカンチレバーの位置が明確に決まっているため、光学系の調整が容易になる。また、その結果として、透明基板の面積は必要最小限とすることができる。従来技術による装置ののぞき窓は、小さくても直径2cm程度必要であったが、本発明のプローブの透明基板は、直径数mmまで小型化することが可能になる。その結果、容器内外の圧力が同じならば透明基板の厚さを従来ののぞき窓の厚さよりも薄くすることができ、より高い倍率の顕微鏡の対物レンズが使用できる。
【0042】
透明基板の面積が小さいほど容器内外の圧力差や温度差による透明基板の歪みが小さく、厚さが薄いほど透明基板を透過する光線に与える歪みの影響が小さく抑えられる。
【0043】
さらに、プローブは、透明基板ごと交換できるので、従来技術のように取り替えに手間がかからない。また、多数のカンチレバーを有するプローブは、最小限のスペースに用意された予備カンチレバーとして使用でき、その際、すべてのカンチレバーの角度が揃っているため光学系の再調整が容易である。
【0044】
また、非常に多数のカンチレバーを有するプローブでも全てのカンチレバーの位置と角度が揃っているため、全部のカンチレバーを使用して同時に測定したり、あるいはカンチレバーを選択して測定するプローブ顕微鏡装置が容易に構成できる。なお、本発明の光学スキャナでカンチレバーを選択して測定できるプローブ顕微鏡装置は、従来技術では容易に構成することができない。
(2)請求項2記載の発明によれば、マイクロレンズ付きのプローブを使用するため、対物レンズ等の光学系の一部を省略することが可能である。
(3)両面が平行な透明基板を用いると、干渉が生じる可能性がある。すなわち、入射光が透明基板の上面で反射した光線と下面で反射した光線は同一方向に進行するので干渉し合う。干渉が生じると、光学的な測定の誤差要因になる。
【0045】
これに対して、請求項3記載の発明によれば、透明基板の厚さに僅かな傾斜を持たせることで、入射光が透明基板の上面で反射した光線と下面で反射した光線は進行方向が異なるために、干渉を生じない。
(4)請求項4記載の発明によれば、ビームスプリッターによって入射光と出射光を異なる光路に導く光学的手法において、光学系に1/4波長板を挿入する必要がない。特に、請求項2記載のマイクロレンズと請求項4記載の1/4波長板の両方の機能を兼ね備えたプローブを用いると、従来技術によるプローブ顕微鏡装置よりも光学系を大幅に簡略化できるので、プローブ顕微鏡装置を非常に小型にすることができる。
(5)基板と平行なカンチレバーを使用して、凹凸が激しい、あるいは傾いた試料を測定する場合、試料の角が基板に接触する可能性がある。これに対して、請求項5記載の発明によれば、基板に対して下に反ったカンチレバーを使用するので、凹凸が激しい、あるいは傾いた試料を測定する際に、探針以外の部分が基板に接触し難い。
(6)請求項6記載の発明によれば、接合を利用することによって工程を簡潔にすることができる。また、接合後のカンチレバーと透明基板の間隔を作るために、SOI基板上で単結晶シリコン薄膜に厚さの差をつけておくか、基板上に予め凹みを作っておくことにより、その工程を容易にしている。もし、接合を用いないならば、何らかの方法でカンチレバーの下側に加工を施すか、あるいは犠牲層を用いる必要があり、工程が複雑になる。また、カンチレバーの下にある透明基板をフッ化水素酸などでエッチングすると、エッチングした面は平面にならないため、裏面から光学的にカンチレバーを観察したり測定するのに都合が悪い。
【0046】
また、単結晶シリコンからなるカンチレバーは、欠陥が少なく機械的なQ値が高いという利点があるが、予めカンチレバーの下に犠牲層を設置しておく方法は、カンチレバーの材料が単結晶シリコンの場合には難しい。その理由は、犠牲層の上にシリコンをエピタキシャル成長させなければならないからである。
(7)請求項7記載の発明によれば、単結晶シリコン薄膜の結晶異方性を利用しており、必ずカンチレバーの先端に探針が形成され、また先端の鋭さがリソグラフィーの精度に依存し難い。
(8)光の干渉を利用してカンチレバーの変形を測定する方法は、光ファイバーの端面とカンチレバーの間で干渉を生じさせる従来技術が存在する。しかし、この方法によれば、光ファイバーとカンチレバーの位置合わせと距離の調整が必要であった。これに対し、請求項9記載の発明によれば、カンチレバーと透明基板の間隔がプローブの製造時に決定されているのでその調整の必要がない。
(9)請求項10記載の発明によれば、共振周波数の変化からカンチレバーに作用している原子間力などを測定する場合、照射光の強度変調によってカンチレバーが光学的に励振できるので、励振用の圧電素子が不要になる。
【0047】
また、圧電素子は極低温や高温では特性が変化したり、使用できなくなったりするが、請求項10記載の発明によれば、光学的に駆動できるのでその問題が生じない。また、光による励振方法は配線が不要なので、装置を非常に小さく作ることができるようになる。また、多数のカンチレバーを有するプローブを用いる場合、圧電素子では使用しているカンチレバーだけを振動させることは難しく、プローブ全体を振動させることになり効率が悪いが、光による励振では光学スキャナと組み合わせることによって、現在使用しているカンチレバーだけを駆動することができる。
(10)請求項11記載の発明によれば、一定強度の光の照射による駆動を用いると、上記した請求項10記載のプローブ顕微鏡装置と同様の効果に加えて次の利点がある。
【0048】
カンチレバー個々の共振周波数が不明であっても、自励振動が生じるため、光学的に検出した振動をスペクトルアナライザーで解析するだけで振動特性が判明する。さらに、非常に多数のカンチレバーを有するプローブを使用する場合に、プローブ全体に励振用の光を照射しておくと、全てのカンチレバーをそれぞれの共振周波数で振動させることができるので、プローブ全体から戻ってくる光を受光素子で受けて電気信号に変換し、それをスペクトルアナライザーで解析するだけで全てのカンチレバーの振動特性を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来のプローブ顕微鏡のプローブの斜視図である。
【図2】従来の光梃子を利用する場合のプローブの使用形態を示す図である。
【図3】従来の試料とプローブの位置関係を示す断面図である。
【図4】従来のレーザドップラー速度計を利用する場合のプローブの使用形態を示す図である。
【図5】従来技術のプローブ顕微鏡の形態の例を示す図である。
【図6】従来技術のプローブ顕微鏡の形態の例を示す図である。
【図7】従来技術のプローブ顕微鏡の形態の例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施例を示すプローブの斜視図である。
【図9】非常に多数のカンチレバーを持つ本発明の第1実施例のプローブの斜視図である。
【図10】本発明の第2実施例を示すプローブの一部破断斜視図である。
【図11】本発明の第2実施例のプローブの別の例を示す一部破断斜視図である。
【図12】本発明の第3実施例のプローブの構造を示す断面図である。
【図13】本発明の第4実施例のプローブの構造を示す断面図である。
【図14】本発明の第5実施例のプローブの構造を示す断面図である。
【図15】図14で示したカンチレバーによって試料を観察している状態を説明する断面図である。
【図16】本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その1)である。
【図17】本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その2)である。
【図18】本発明の第7実施例のプローブの探針の形成工程を示す斜視図である。
【図19】本発明の第8実施例のプローブを示す構成図である。
【図20】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その1)である。
【図21】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その2)である。
【図22】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡の動作原理を示す図である。
【図23】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その3)である。
【図24】非常に多数のカンチレバーを有するプローブの実施形態の例を示す図である。
【図25】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その4)である。
【図26】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その5)である。
【図27】本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置において、カンチレバーの振動が励起される原理の説明図である。
【図28】本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図である。
【図29】本発明の第11実施例を示すプローブ顕微鏡装置のカンチレバーの駆動方法の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板の片方の表面に該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバーを有し、プローブ自体で容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持ち、前記カンチレバーを前記透明基板の裏面から光学的に観察または計測し、または光学的に駆動可能にする。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0052】
図8は本発明の第1実施例を示すプローブの斜視図である(請求項1にかかる発明に対応)。なお、以下の実施例の説明においては、便宜上、カンチレバーが設置される側の基板面を基板表面、カンチレバーが設置されない側の基板面を基板裏面と呼ぶ。
【0053】
この図に示すように、可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる基板、つまり光学的に透明な基板(以下、単に透明基板という)101の表面に、この表面から所定の間隔102を保持して、薄膜からなるカンチレバー103が支持されている。カンチレバー103の先端には、必要に応じて適切な材料からなる探針104が設置されている。この探針104の材料としては、例えば原子間力顕微鏡に使用する場合はシリコン、酸化シリコン、窒化シリコンなどの材料が、また、磁力顕微鏡に使用する場合は、鉄、ニッケル、コバルト、またはこれらを含む合金などの材料が用いられる。カンチレバー103の形状は図示されている通り、長方形や三角形など様々である。
【0054】
カンチレバー103の個数は一つの基板に対して1個の場合もあるし、複数の場合もある。
【0055】
図9は非常に多数のカンチレバーを持つ本発明の第1実施例のプローブの斜視図である。可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる基板201の表面に、この表面から所定の間隔を保持して、薄膜からなるカンチレバー202が多数支持されている。
【0056】
図8および図9に示したプローブは、透明基板101または201の裏面から光学的にカンチレバーを観察したり、その変形量や共振周波数を計測したり、または光学的な刺激を与えて運動させたりすることが可能である。
【実施例2】
【0057】
図10は本発明の第2実施例を示すプローブの一部破断斜視図である(請求項2にかかる発明に対応)。
【0058】
この図に示すように、透明基板301の裏面にマイクロレンズ302が設置されており、その光軸303はカンチレバー304の裏面(探針が設置されていない方の面)に一致している。このマイクロレンズ302によって、カンチレバー304の光学的観察、計測、および駆動のための光線をカンチレバー304の裏面に収束させることができる。マイクロレンズ302は透明基板301と同一の部材を加工して作製したものでもよいし、フォトレジストや透明樹脂によって作ったものでもよい。
【0059】
図11は本発明の第2実施例のプローブの別の例を示す一部破断斜視図である。
【0060】
この図において、透明基板401の表面にマイクロレンズ402が設置されており、その光軸403はカンチレバー404の裏面に一致している。このマイクロレンズ402によって、カンチレバー404の光学的観察、計測、および駆動のための光線をカンチレバー404の裏面に収束させることができる。
【0061】
このような構成とすることで、プローブ顕微鏡装置の光学系の一部を省略することができる。
【実施例3】
【0062】
図12は本発明の第3実施例のプローブの構造を示す断面図である(請求項3にかかる発明に対応)。図12(A)は透明基板の表面と裏面とが平行でない場合、図12(B)は比較のために示した透明基板の両面が平行である場合を示す図である。
【0063】
このように、図12(A)においては、透明基板501の表面503にカンチレバー502が設置されている。透明基板501の表面503と裏面504とは平行ではなく、わずかに傾斜している。つまり、裏面504は表面503に対して(水平面に対して)角度θを有している。
【0064】
一方、図12(B)においては、透明基板508の表面510にカンチレバー509が設置されている。透明基板508の表面510と裏面511とは平行である。なお、これらの図において、505,512は入射光、506,513は表面503,510での反射光、507,514は裏面504,511での反射光をそれぞれ示している。
【0065】
図12(B)に示すように、透明基板508の表面510と裏面511が平行な場合、入射光512の反射光513,514は進行方向が同じであるため干渉が生じてしまう。
【0066】
一方、図12(A)に示すように、透明基板501の表面503と裏面504が平行でない場合、入射光505が透明基板501の表面503で反射した光線506と、裏面504で反射した光線507は進行方向が異なるために、干渉を生じることがなくなる。
【実施例4】
【0067】
図13は本発明の第4実施例のプローブの構造を示す断面図である(請求項4にかかる発明に対応)。図13(A)は所定の波長の光に対する1/4波長板601自体を透明基板として使用する場合を、また、図13(B)は所定の波長に対する1/4波長板606を透明基板605に接着した場合を、それぞれ示している。
【0068】
この実施例では、1/4波長板の性質により、上記所定の波長を有し直線偏光している入射光603または608の偏光方向(紙面に垂直に偏光しているものとする)に対して、カンチレバー602または607で反射して戻る光線604または609の偏光方向は90°旋回する(紙面に対して平行になる)。
【実施例5】
【0069】
図14は本発明の第5実施例のプローブの構造を示す断面図である(請求項5にかかる発明に対応)。図14(A)は本発明の第5実施例のプローブの断面図であり、また、図14(B)は比較のために示したカンチレバーに内部応力が入っていないプローブを示す断面図である。
【0070】
図14(B)に示すように、内部応力が入っていないカンチレバー708は、透明基板707の表面707Aと平行であり、透明基板707の表面707Aとカンチレバー708との間隔は、根元の近くでの間隔709も先端に近い部分の間隔710も互いに等しい。これに対して、図14(A)に示すように、カンチレバー702に内部応力が入っているプローブは、透明基板701の表面701Aに設置されるカンチレバー702において、このカンチレバー702の表面705には裏面706に対して引っ張り応力が入っている。その結果、カンチレバー702は上側に反り、透明基板701の表面701Aとカンチレバー702との間隔は、根元に近い部分での間隔703から徐々に広がって先端に近い部分の間隔704の方が大きくなっている。
【0071】
内部応力を持つカンチレバーの製作方法としては、例えばシリコンと窒化シリコンの2層構造で製作し、犠牲層を除去して窒化シリコンの内部応力で反るようにしたり、図14(B)の状態で完成しているカンチレバーに引っ張り応力が入る部材を蒸着することで製造することができる。また、引っ張り応力を与える不純物をカンチレバー表面からドープするようにしてもよい。
【0072】
図15は図14で示したカンチレバーによって試料を観察している状態を説明する断面図である。図15(A)は図14(A)の内部応力が入っているカンチレバーで凹凸が激しく傾斜した試料を観察している状態を示しており、図15(B)は図14(B)の内部応力が入っていないカンチレバーで凹凸が激しく傾斜した試料を観察している状態を示している。
【0073】
これらの図において、803,807は凹凸が激しく傾斜した試料、801,805は透明基板、802は内部応力が入っていないカンチレバー、806は内部応力が入っているカンチレバーをそれぞれ示す。
【0074】
これらの図からわかるように、図15(B)の構成では、探針で試料803上を走査する時に、透明基板801が試料803の角804と接触する恐れがあるのに対し、図15(A)の構成とすることで試料807と接触し難くなる。
【実施例6】
【0075】
図16は本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その1)である(請求項6にかかる発明に対応)。この実施例は、カンチレバーと基板の間隔を設けるため、カンチレバー側に加工を施す。
【0076】
(1)まず、図16(A)に示すように、SOI基板901を用意する。ここで、904はハンドリングウエハ、903は埋め込み酸化膜、902は単結晶シリコン薄膜層である。
【0077】
(2)次に、図16(B−1)および図16(B−2:斜視図)に示すように、単結晶シリコン薄膜層902の一部を厚さが薄くなるように加工し、かつ薄く加工された部分を更にカンチレバー905および906の外形になるように加工する。また、単結晶シリコン薄膜層902の一部は元の厚さのままでカンチレバーの透明基板への取り付け部分907として残す。
【0078】
(3)次に、図16(C)に示すように、上記のSOI基板901を裏返しにして取り付け部分907を透明基板909に接合する。例えば、透明基板909の材質として硼珪酸ガラス〔パイレックス(登録商標)ガラス〕を使用した場合は、陽極接合によって接合することができる。
【0079】
(4)次に、図16(D−1)および図16(D−2:斜視図)に示すように、SOI基板901の埋め込み酸化膜903およびハンドリングウエハ904をエッチングによって除去することで、単結晶シリコン薄膜層902からなるカンチレバー905および906が透明基板909表面から間隔910を保って支持された、プローブが完成する。
【0080】
図80は本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その2)である(請求項6にかかる発明に対応)。この実施例は、カンチレバーと基板の間隔を設けるため、カンチレバー側および透明基板側にそれぞれ加工を施すことが特徴である。
【0081】
(1)まず、図17(A)に示すように、SOI基板1001を用意する。ここで、1004はハンドリングウエハ、1003は埋め込み酸化膜、1002は単結晶シリコン薄膜層である。
【0082】
(2)次に、図17(B−1)および図17(B−2:斜視図)に示すように、単結晶シリコン薄膜層1002の一部をカンチレバー1005および1006の外形になるように加工する。また、単結晶シリコン薄膜層の一部は、透明基板に対する取り付け部分1007として残す。
【0083】
(3)次に、図17(C)に示すように、上記SOI基板1001を裏返しにして取り付け部分1007を透明基板1009に接合する。例えば、透明基板1009の材質として硼珪酸ガラス〔パイレックス(登録商標)ガラス〕を使用した場合は、陽極接合によって接合することができる。この透明基板1009には凹み1010をあらかじめ加工しておく。
【0084】
(4)次に、図17(D−1)および図17(D−2:斜視図)に示すように、SOI基板1001の埋め込み酸化膜1003およびハンドリングウエハ1004をエッチングによって除去することで、単結晶シリコン薄膜層1002からなるカンチレバー1005および1006が、透明基板1009表面から凹み1010の深さ分の間隔を保って支持された、プローブが完成する。
【実施例7】
【0085】
図18は本発明の第7実施例のプローブの探針の形成工程を示す斜視図である(請求項7にかかる発明に対応)。これらは、三角形のカンチレバー(例えば906や1006)または先端が尖った形状のカンチレバーの先端だけを拡大した図である。
【0086】
(1)まず、図18(A)に示すように、カンチレバーの先端1101は単結晶シリコン薄膜からなり、その形成には上記した第6実施例の製造方法を用いるものとする。
ただし、この単結晶シリコン薄膜は(100)面からなり、カンチレバーの先端1101方向が〈110〉方位である必要がある。このカンチレバーの側面1102および裏面(紙面裏側に相当)は窒化シリコン膜または酸化シリコン膜で保護する。この膜の形成には、膜をカンチレバーの全体に堆積した後エッチバックするか、または図16(B)あるいは図17(B)の工程の後に堆積しておいた膜を利用することができる。
【0087】
(2)次に、図18(B)に示すように、アルカリ性水溶液によってウェットエッチングを行うとカンチレバーが薄くなるので、所定の厚さまでウェットエッチングを行う。この工程によってカンチレバーの先端1101を起点とする(111)面1103が現れる。
【0088】
(3)次に、図18(C)に示すように、側面1102と裏面を保護していた酸化シリコン膜または窒化シリコン膜を除去すると、鋭利な先端1104を持つ探針が完成する。
【0089】
以上の工程を行った後、低温熱酸化によって表面に酸化シリコンを作り、これをフッ化水素酸で除去することで探針先端を更に鋭利にすることができる。
【実施例8】
【0090】
図19は本発明の第8実施例のプローブを示す構成図であり(請求項8にかかる発明に対応)、図19(A)は1個のカンチレバーを有するプローブの斜視図、図19(B)は複数個のカンチレバーを有するプローブの斜視図、図19(C)はそれらのプローブの側面図である。
【0091】
このプローブは後述の図20および図21に示すプローブ顕微鏡装置のプローブとして用いる。
【0092】
図19(A)において、1201は円板状の透明基板、1202はその透明基板1201の表面に設けられた1個のカンチレバーである。
【0093】
また、図19(B)において、1203は円板状の透明基板、1204はその透明基板1203の表面に設けられた複数個のカンチレバー1204である。
【0094】
これらのプローブは上記第1〜5に記載したいずれかのプローブよりなる。
【0095】
このように構成することにより、プローブ自体をのぞき窓として機能させ、プローブ自体で容器の内外の環境を仕切りながらカンチレバーの光学的な観察や測定を可能にする。その結果、装置の構造が簡単になり、小型化が達成できる。
【0096】
また、カンチレバーは、透明基板の表面に直接取り付けられているため、透明基板裏面からカンチレバーおよび試料までの距離は必要最小限に抑えられ、その結果、従来技術によるプローブ顕微鏡装置よりも倍率の高い光学顕微鏡の対物レンズが使用できる。
【実施例9】
【0097】
図20は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その1)である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0098】
ここで用いるカンチレバーおよび探針は、検出しようとする物理量(例えば、原子間力や磁力)と試料の性質(例えば非常に柔らかいとか凹凸が激しいとか)によって適切な寸法と材質を使用するものとする。
【0099】
ここでは、光梃子によってプローブの裏面からカンチレバーの変形または振動特性を光学的に測定するプローブ顕微鏡を示している。使用するプローブ1305は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。1301は容器およびガスケットであり、その内部1302は特殊環境になっている場合もある。試料1303は3次元微動機構1304に取り付けられている。レーザ光源1314から出たレーザ光1315は、プローブ1305の透明基板を透過してカンチレバー1307の裏面で反射し、反射光1317は再び透明基板を透過して2分割フォトダイオード1316上にレーザスポットを作る。
【0100】
また、光学レンズ1313と撮像素子1308によって、カンチレバー1307と試料1303の像を映像モニター1309に表示する装置を取り付けると、カンチレバー1307の像1312と試料1303の像1310とレーザスポットの像1311を、映像モニター1309で確認できる。
【0101】
ただし、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板(図示なし)が不要になる。また、カンチレバー1307を振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1305に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1305を取り付ける場合もある。
【0102】
図21は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その2)である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0103】
ここでは、第1実施例または第2実施例に記載したプローブを使用し、レーザドップラー速度計によってこのプローブの裏面からカンチレバーの変形または振動特性を光学的に測定するプローブ顕微鏡の実施形態の例を示している。
【0104】
使用するプローブ1405は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。1401は容器およびガスケットであり、その内部1402は特殊環境になっている場合もある。試料1403は3次元微動機構1404に取り付けられている。レーザドップラー速度計1415から出射されたレーザ光はビームスプリッター1414と1/4波長板1416と光学レンズ1413を通って、カンチレバー1407の裏面で反射し、再び光学レンズ1413と1/4波長板1416とビームスプリッター1414を通過してレーザドップラー速度計1415に戻る。
【0105】
また、撮像素子1408によってカンチレバー1407と試料1403の像を映像モニター1409に表示する装置を取り付けると、カンチレバー1407の像1412と試料1403の像1410とレーザスポットの像1411を映像モニター1409で確認できる。
【0106】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1413が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は、1/4波長板1416が不要になる。
【0107】
また、カンチレバー1407を振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1405に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1405を取り付ける場合もある。
【0108】
図22は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡の動作原理を示す図である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0109】
図22(A)はそのプローブ顕微鏡のプローブの断面図であり、透明基板1501の表面にカンチレバー1502が設置されている。透明基板1501の裏面からレーザ光1503を入射すると、透明基板1501の表面1507で反射されて上方へ戻る光線1505とカンチレバー1502の裏面で反射されて上方へ戻る光線1504が生じる。これらは互いに干渉し、実際に上方へ戻る光の強度はカンチレバー1502と透明基板1501の間隔1506によって変化する。間隔1506と戻り光強度の関係の一例を図22(B)に示す。間隔と波長の関係を、戻り光強度の変化率が最大になる(1508)ように選ぶと、戻り光強度はカンチレバーの変形にほぼ比例する。
【0110】
上記した第9実施例に記載したプローブ顕微鏡装置は、上記の戻り光強度を受光素子で検出することによって、カンチレバーの変形や振動特性の検出を行う。
【0111】
図23は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その3)である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0112】
ここで、使用するプローブ1605は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。1601は容器およびガスケットであり、その内部1602は特殊環境になっている場合もある。試料1603は3次元微動機構1604に取り付けられている。レーザ光源1615から出たレーザ光は、2つのビームスプリッター1614と1/4波長板1617と光学レンズ1613を通ってカンチレバー1607の裏面と透明基板の間で干渉し、戻り光は再び光学レンズ1613と1/4波長板1617とビームスプリッター1614を通って受光素子1616に到達する。
【0113】
また、撮像素子1608によってカンチレバー1607と試料1603の像を映像モニター1609に表示する装置を取り付けると、カンチレバー1607の像1612と試料1603の像1610とレーザスポットの像1611を映像モニター1609で確認できる。
【0114】
また、カンチレバー1607を振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1605に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1605を取り付ける場合もある。
【0115】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1613が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合には1/4波長板1617が不要になる。
【0116】
図24は非常に多数のカンチレバーを有するプローブの実施形態の例を示す図であり、図24(A)はその多数のカンチレバーを有するプローブの斜視図、図24(B)はその多数のカンチレバーを有するプローブの側面図である。光学的に透明な基板1701の表面に非常に多数(たとえば10000個)のカンチレバー1702が設置されている。
【0117】
次に、図25と図26を使って、このような非常に多数のカンチレバーを持つプローブを使用するプローブ顕微鏡の実施形態の例を示す。
【0118】
図25は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その4)である。
【0119】
この実施例では、図23に示した装置に図24で示したプローブ1805を使用し、光学スキャナ1817を追加したものである。1801は容器およびガスケットであり、その内部1802は特殊環境になっている場合もある。試料1803は3次元微動機構1804に取り付けられている。レーザ光源1815から出たレーザ光線は、2つのビームスプリッター1814と1/4波長板1818を通った後、光学スキャナ1817で所定の方向に向けられ、光学レンズ1813を通って多数あるカンチレバーの中の所望のカンチレバーに導かれる。そのカンチレバーで反射したレーザ光線は、再び光学レンズ1813と光学スキャナ1817と1/4波長板1818を通り、ビームスプリッター1814によって受光素子1816へ導かれる。
【0120】
以上の動作によって選択された1つのカンチレバーの変形または振動特性が検出できる。
【0121】
また、撮像素子1808によってカンチレバーと試料1803の像を映像モニター1809に表示する装置を取り付けることもできる。
【0122】
また、カンチレバーを振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1805に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1805を取り付ける場合もある。
【0123】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1813が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板1818が不要になる。
【0124】
図26は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その5)である。
【0125】
この実施例は、図21に示した装置に図24で示したプローブ1905を使用し、光学スキャナ1915を追加したものである。1901は容器およびガスケットであり、その内部1902は特殊環境になっている場合もある。試料1903は3次元微動機構1904に取り付けられている。レーザドップラー速度計1906から出射されたレーザ光はビームスプリッター1914と1/4波長板1916を通った後、光学スキャナ1915で所定の方向に向けられ、光学レンズ1913を通って多数あるカンチレバー中の所望のカンチレバーに導かれる。そのカンチレバーで反射したレーザ光線は、再び光学レンズ1913と光学スキャナ1915と1/4波長板1916を通り、ビームスプリッター1914を通ってレーザドップラー速度計1906へ導かれる。
【0126】
以上の動作によって選択された1つのカンチレバーの変形または振動特性が検出できる。
【0127】
また、撮像素子1908によってカンチレバーと試料1903の像を映像モニター1909に表示する装置を取り付けることもできる。
【0128】
また、カンチレバーを振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1905に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1905を取り付ける場合もある。
【0129】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1913が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板1916が不要になる。
【実施例10】
【0130】
図27は本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置において、カンチレバーの振動が励起される原理の説明図である(請求項10にかかる発明に対応)。
【0131】
この図において、2001は透明基板であり、その表面にカンチレバー2002が設置されている状態を断面で示している。図19(A)に示すように、レーザ光2005を透明基板2001を通してカンチレバー2002に照射すると、カンチレバー2002がこのレーザ光2005のエネルギーを吸収して発熱し、熱膨張するが、発熱量はカンチレバー上面2003において下面2004よりも多いので、曲げモーメント2006が発生してカンチレバー2002は下側に反る。
【0132】
レーザ光2005の照射を止めると、図19(B)に示すようにカンチレバー2002は真っ直ぐな形に戻る。上記の反りは僅かなものであるが、レーザ光2005を点滅させる周波数をカンチレバー2002の共振周波数と一致させると振動を励起することができる。点滅する光による機械的振動の励振については上記非特許文献1に記載されている。
【0133】
図28は本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図である(請求項10にかかる発明に対応)。
【0134】
ここで、使用するプローブ2105は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。2101は容器およびガスケットであり、その内部2102は特殊環境になっている場合もある。試料2103は3次元微動機構2104に取り付けられている。レーザドップラー速度計2115から出射されたレーザ光は2つのビームスプリッター2114と1/4波長板2118と光学レンズ2113を通ってカンチレバー2107の裏面で反射し、再び光学レンズ2113と1/4波長板2118とビームスプリッター2114を通ってレーザドップラー速度計2115に戻る。
【0135】
電気信号によって強度変調できるレーザ光源2116から出射されるレーザ光線も同様に、2つのビームスプリッター2114と1/4波長板2118と光学レンズ2113を通ってカンチレバー2107に照射される。励振用レーザ光の照射位置およびスポット径と、前記したレーザドップラー速度計2115が発生するレーザ光の照射位置およびスポット径は、独立に調整することができる。
【0136】
また、撮像素子2108によってカンチレバー2107と試料2103の像を映像モニター2109に表示する装置を取り付けると、カンチレバー2107の像2112と試料2103の像2110とレーザドップラー速度計2115のレーザスポットの像2111と励振用レーザ光のレーザスポットの像2106を映像モニター2109で確認できる。
【0137】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ2113が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板2118が不要になる。
【0138】
励振用レーザ光の強度変調周波数は励振周波数信号発生器2117の周波数によって決定される。この周波数を、ある時点におけるカンチレバー2107の共振周波数に一致させておくと、カンチレバー2107の共振周波数が変化するに伴って振動の振幅が低下するので、共振周波数の変化を知ることができる。また、レーザドップラー速度計2115の出力信号を増幅し、フィルタを通した後に、励振周波数信号発生器2117の代わりに使用すると、自励発振を起こさせることもでき、その発振周波数変化を検出することで共振周波数の変化を知ることもできる。
【0139】
上記の例は、点滅光によるカンチレバーの励振方法をレーザドップラー速度計と組み合わせたプローブ顕微鏡装置の例であるが、点滅光によるカンチレバーの励振方法を光梃子または第9実施例に記載した方法と組み合わせたプローブ顕微鏡装置として構成することも可能である。
【実施例11】
【0140】
次に、本発明の第11実施例を示すプローブ顕微鏡装置のカンチレバーの駆動方法について説明する。
【0141】
図29に示すように、基板2201上に、この基板2201と平行に支持されている薄膜構造(カンチレバー)2202を有している。レーザ光2204が上方から照射されると、薄膜構造(カンチレバー)2202がその一部を吸収するが、残りは透過して基板2201の表面に達する。薄膜構造2202と基板2201の間の空間が、一種のファブリー・ペロー共振器のような構造となり、光の定在波2203が発生する。
【0142】
薄膜2202が光から吸収するエネルギー量は、定在波2203の振幅に比例する。光の吸収量が薄膜2202の上下で異なると曲げモーメントが発生して薄膜2202が曲がるが、定在波2203が存在するため、曲がった結果として、光の吸収量も変化する。定在波2203の振幅と位置が適当な条件を満たすと、薄膜構造2202が自励振動を起こすことが知られている。この現象については上記非特許文献2に記載されている。
【0143】
本発明に係るプローブは透明基板を使用するので、図29の下方からのレーザ光2205が透明基板を透過し、同様の自励振動を発生させることができる。
【0144】
この現象を利用してカンチレバーに自励振動を発生させるプローブ顕微鏡装置の実施形態は、例えば図23と全く同じ形態であって、レーザ光源1615の強度および波長とカンチレバー1607と透明基板の間隔を適当に調節することで実現できる。また、図28とほぼ同じ形態で、励振用レーザ光源2116を一定強度のレーザ光源に変更し、その強度および波長とカンチレバー2107と基板の間隔を適当に調節することで実現できる。また、光梃子と組み合わせることもできる。
【0145】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、精度の高いプローブを有するプローブ顕微鏡に適している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンチレバーを光学的に駆動および測定できる、透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ、その製造方法およびプローブ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プローブ顕微鏡は原子間力顕微鏡や走査トンネル顕微鏡などを総称するものであり、トンネル電流を直接検出する走査トンネル顕微鏡のようにカンチレバーを必要としないプローブ顕微鏡も存在するが、ここで扱うプローブ顕微鏡装置は、カンチレバーを有するプローブを利用するプローブ顕微鏡に関するものとする。
【0003】
図1は従来のプローブ顕微鏡のプローブの斜視図であり、図1(A)は三角形のカンチレバーを、図1(B)は長方形のカンチレバーを持つプローブをそれぞれ示している。
【0004】
図1(A)においては、プローブの基部2301から三角形のカンチレバー2302が突出しており、その先端には探針2303が取り付けられている。また、図1(B)においては、プローブの基部2304から長方形のカンチレバー2305が突出しており、その先端には探針2306が取り付けられている。
【0005】
プローブの基部は、プローブを取り扱ったり、プローブ顕微鏡装置に固定するために使われ、その長さは数mm程度である。また、カンチレバーの長さは100μmから数百μm程度であり、厚さは数μm程度である。
【0006】
以下、原子間力顕微鏡を例に取り、簡単にその動作を説明する。
【0007】
原子間力顕微鏡では、探針と試料間の力学的な相互作用(原子間力)によるカンチレバーの撓みを検出するか、あるいはカンチレバーの共振周波数の変化を検出することで、上記原子間力の大きさを知ることができる。原子間力顕微鏡は、試料の表面を走査しながら上記の原子間力の検出を行うことで、原子間力を通して観察した試料表面の像を拡大表示する装置である。
【0008】
また、例えば、上記した原子間力顕微鏡の探針を強磁性体に変更すれば、試料の磁化状態を知ることができる。このように、探針などを変更することで様々な物理量を扱うプローブ顕微鏡となる。
【0009】
カンチレバーを通した力の検出に最もよく使われるのが光梃子である。
【0010】
図2はかかる光梃子を利用する場合のプローブの使用形態を示している。
【0011】
この図において、プローブの基部2401はプローブ顕微鏡装置に取り付けられる。探針2403はプローブの基部2401から突出するカンチレバー2402先端に取り付けられ、試料2404はプローブ顕微鏡装置に設置される。探針2403と試料2404の間に働く力によってカンチレバー2402が撓むとき、この撓みによるカンチレバー2402の角度変化を検出するために光梃子が利用される。レーザ光2405をカンチレバー2402の背面に照射し、反射したレーザ光2406の方向を、フォトダイオード2407で検出する。フォトダイオード2407は、2つのチップが隣接して形成されており、レーザスポットの位置によって2つのチップの出力電流比が変わるので、スポット位置を知ることができる。カンチレバー2402からフォトダイオード2407までの距離を数cm程度に大きくすることで、カンチレバー2402の僅かな角度変化を拡大して検出することができる。
【0012】
図3は従来の試料とプローブの位置関係を示す断面図である。
【0013】
この図において、2501はプローブの基部、2502はプローブのカンチレバーである。試料2503がうねっていたり傾斜して取り付けられていると、探針2505以外の箇所でもプローブ2501と試料2503が接触する危険性がある。これを避けるため、試料2503に対するプローブ2501の取付け角度2504を10°程度傾ける場合が多い。
【0014】
探針と試料の間に働く力に非線形性があると、カンチレバーの共振周波数の変化が生じる。これを検出するには、カンチレバーを振動させ、共振周波数の変化を捉える必要がある。この場合、光梃子以外にも反射光のドップラーシフトを利用して速度を捉える方法が使える。
【0015】
図4は従来のレーザドップラー速度計を利用する場合のプローブの使用形態を示している。
【0016】
この図において、レーザ光2603が光学系2602を通してカンチレバー2601背面に反射し、再び光学系2602を通してレーザドップラー速度計(図示なし)に戻る。
【特許文献1】特開平6−267408号公報(第3−4頁 図1)
【非特許文献1】M.V.Andres,K.W.H.Foulds,and M.J.Tudor,“Optical Activation of A Silicon Vibrating Sensor”,Electronics Letters 9th October 1986 Vol.22 No.21
【非特許文献2】K.Hane,K.Suzuki,“Self−excited vibration of a self−supporting thin film caused by laser irradiation”,Sensors and Actuators A51(1996)176−182
【発明の開示】
【0017】
しかしながら、上記した従来のプローブの構造は、試料が真空中や液中や有毒ガス中にあったり、高温または極低温などの環境(ここでは以降、これらをまとめて特殊環境と呼ぶことにする)にある場合、光学系を試料と同じ特殊環境に設置するか、あるいはプローブを試料と同じ特殊環境に設置しながら光学系は大気中に設置し、のぞき窓を通して光学的な検出を行う必要があった。
【0018】
図5は真空中に光梃子を入れる場合の装置の断面模式図である。
【0019】
この図において、2705は真空容器およびガスケットであり、その内部2704は真空になっている。試料2702とプローブ2701は真空中にあり、試料2702は3次元走査機構2703に取り付けられている。光梃子を構成するレーザ光源2707およびフォトダイオード2708は真空中に設置されている。光梃子の調整は、レーザ光源2707の位置を調節することで行う。ここでは、レーザ光源2707が3次元微動機構2709によって微動できるものとする。レーザ光源2707と3次元微動機構2709は真空中に設置されているので、レーザスポットの反射光がフォトダイオード2708の中心にあたるように調整するには、フォトダイオード2708の出力電流を計器(表示装置)2711によってモニターしながら3次元微動機構2709を機械的または電気的な手段2710で操作してレーザ光源2707の方向を調節しなければならない。このとき、レーザスポットの位置はのぞき窓2706から目視できる場合もあるが、光学系がすべて大気中にある場合に比べて調整は難しい。特にレーザスポットがプローブ2701やフォトダイオード2708にあたっていない場合、その状況が目視で確認できないと計器(表示装置)2711も使えないので、調整には非常に手間がかかる。
【0020】
このように、光学系を全部真空中やガス中に入れることは可能であるが、例えば、液中や高温環境に入れることは光学部品にとって好ましくない。次に、光学部品を大気中に設置した装置の2つの例を図6と図7に示す。
【0021】
図6はのぞき窓を通して光梃子を構成している装置の断面模式図である。
【0022】
この図において、2805は真空容器およびガスケットであり、その内部2804は真空、有毒ガス、液体、極低温、または高温などの特殊環境である。
【0023】
試料2802とプローブ2801は上記の特殊環境中にあり、試料2802は3次元走査機構2803に取り付けられている。一方、レーザ光源2807およびフォトダイオード2808は大気中に設置されていて、のぞき窓2806を介して光梃子を構成する。この構成ではのぞき窓2806によって光線が屈折するので、のぞき窓2806が装置内外の圧力差や温度差で変形すると、光梃子がこの変形も検出してしまう。のぞき窓2806の面積を小さくし、板厚を厚くするとこの問題は緩和されるが、装置内部2804が観察し難くなる上に、のぞき窓2806のガラス板をはずした開口部からプローブ2801の交換を行うことが難しくなる。
【0024】
図7はドップラー速度計の光学部品を大気中に設置した装置の断面模式図である。
【0025】
この図において、2905は容器およびガスケットであり、その内部2904は真空、有毒ガス、液体、極低温、または高温などの特殊環境である。試料2902とプローブ2901は特殊環境中にあり、試料2902は3次元走査機構2903に取り付けられている。のぞき窓2906越しに光学顕微鏡の対物レンズ2907の焦点をプローブ2901のカンチレバー背面に結ばせ、この対物レンズ2907を通してドップラー速度計(図示なし)でカンチレバーの速度を検出する。高い倍率の対物レンズ2907ほど焦点距離が短くなるので、倍率を上げるためにはカンチレバー背面と対物レンズ2907の距離2908はなるべく接近させる必要があるが、プローブ2901の取付け機構を考慮すると、この距離2908を5mm以下にすることは容易ではない。特に、内部が真空の場合にはのぞき窓2906に圧力がかかるため、板厚を厚くするか面積を小さくする必要がある。しかし、面積を小さくすると装置内部2904が観察し難くなる上に、のぞき窓2906のガラス板をはずした開口部からプローブ2901の交換を行うことが難しくなり、また、厚い材料を使うと距離2908を小さくできない。
【0026】
以上の課題を整理すると、特殊環境にある試料を観察するための従来の技術によるプローブ顕微鏡には、次のような問題があった。
(1)光学系を試料とともに特殊環境に入れることは装置の複雑化、大型化を招き、光学系の調整が難しくなる。
(2)光学系が大気中に設置され、試料とプローブが特殊環境中に設置されている装置では、プローブと光学系の間にあるのぞき窓が光学系の設計に制約を加えたり、光学的に歪みの原因になることがある。
(3)特殊環境中に設置されるプローブの交換が容易にできない。
(4)多数のカンチレバーを光学的に観察したり測定することに難がある。
【0027】
本発明は、上記状況に鑑みて、光学的に透明な基板の表面にカンチレバーを形成したプローブを使用し、しかも、のぞき窓の機能を併せ持つ小型で精度が向上した透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ、その製造方法およびプローブ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【0028】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板の片方の表面に、該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバーを有するプローブを備え、前記透明基板は、容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持ち、前記透明基板の裏面から光学的に観察または計測し、また光学的に駆動可能に構成することを特徴とする。
【0029】
〔2〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の一部にマイクロレンズが形成され、前記カンチレバーの光学的観察または計測、または光学的駆動のための光線を、前記マイクロレンズによりカンチレバーの裏面に収束させることを特徴とする。
【0030】
〔3〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の表面での反射光と裏面での反射光の間の光の干渉を防止するために透明基板の厚さに僅かな傾斜を持たせることを特徴とする。
【0031】
〔4〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板が1/4波長板を兼ねることを特徴とする。
【0032】
〔5〕上記〔1〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記カンチレバーに内部応力を持たせることによって、該カンチレバーと前記透明基板の間隔が前記カンチレバーの付け根から先端に向けて徐々に広がっていることを特徴とする。
【0033】
〔6〕透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法において、SOI基板の単結晶シリコン薄膜層にカンチレバーを製作し、このSOI基板を裏返しにガラス基板に接合し、前記SOI基板のハンドリングウエハと埋め込み酸化膜を除去することを特徴とする。
【0034】
〔7〕上記〔6〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法において、ウェットエッチングを利用して前記カンチレバー先端に探針を形成することを特徴とする。
【0035】
〔8〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔1〕から〔5〕の何れか一項に記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブを用い、試料との相互作用による前記カンチレバーの変形または振動特性を、前記透明基板の裏面から光学的に測定することを特徴とする。
【0036】
〔9〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔8〕記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーと前記透明基板の間の光の干渉による反射光の強度変化から、前記カンチレバーの変形または振動特性を検出することを特徴とする。
【0037】
〔10〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔8〕記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーの共振周波数に一致した周波数で強度が変動する光線を前記透明基板裏面から照射することによって前記カンチレバーに振動を励起することを特徴とする。
【0038】
〔11〕プローブ顕微鏡装置において、上記〔8〕記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記透明基板裏面から照射した一定強度の光線によって前記カンチレバーを自励振動させることを特徴とする。
【0039】
従来の技術では、特殊環境にある試料を観察・測定対象とするプローブ顕微鏡装置を実現するためには、内部が特殊環境になっている容器の内外の環境を仕切りながら、光学的に容器内部を観察したり測定することができるように、透明な材料からなるのぞき窓を設置し、それを通してプローブや試料の観察あるいは測定を行う必要があった。また、光学的な特性を優先するためには、光学部品やレーザ光源やフォトダイオードなどを特殊環境中に設置する必要があった。これに対して、
(1)請求項1記載の発明によれば、プローブは透明基板を透過して裏面から光学的にカンチレバーを観察したり測定できるというのぞき窓の機能を併せ持つので、プローブ自体で容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にする。その結果、装置の構造が簡単になり、小型化が達成できる。
【0040】
また、カンチレバーは、透明基板の表面に直接取り付けられているため、透明基板裏面からカンチレバーおよび試料までの距離は必要最小限に抑えられ、その結果、従来技術によるプローブ顕微鏡装置よりも倍率の高い光学顕微鏡の対物レンズが使用できる。
【0041】
また、透明基板上のカンチレバーの位置が明確に決まっているため、光学系の調整が容易になる。また、その結果として、透明基板の面積は必要最小限とすることができる。従来技術による装置ののぞき窓は、小さくても直径2cm程度必要であったが、本発明のプローブの透明基板は、直径数mmまで小型化することが可能になる。その結果、容器内外の圧力が同じならば透明基板の厚さを従来ののぞき窓の厚さよりも薄くすることができ、より高い倍率の顕微鏡の対物レンズが使用できる。
【0042】
透明基板の面積が小さいほど容器内外の圧力差や温度差による透明基板の歪みが小さく、厚さが薄いほど透明基板を透過する光線に与える歪みの影響が小さく抑えられる。
【0043】
さらに、プローブは、透明基板ごと交換できるので、従来技術のように取り替えに手間がかからない。また、多数のカンチレバーを有するプローブは、最小限のスペースに用意された予備カンチレバーとして使用でき、その際、すべてのカンチレバーの角度が揃っているため光学系の再調整が容易である。
【0044】
また、非常に多数のカンチレバーを有するプローブでも全てのカンチレバーの位置と角度が揃っているため、全部のカンチレバーを使用して同時に測定したり、あるいはカンチレバーを選択して測定するプローブ顕微鏡装置が容易に構成できる。なお、本発明の光学スキャナでカンチレバーを選択して測定できるプローブ顕微鏡装置は、従来技術では容易に構成することができない。
(2)請求項2記載の発明によれば、マイクロレンズ付きのプローブを使用するため、対物レンズ等の光学系の一部を省略することが可能である。
(3)両面が平行な透明基板を用いると、干渉が生じる可能性がある。すなわち、入射光が透明基板の上面で反射した光線と下面で反射した光線は同一方向に進行するので干渉し合う。干渉が生じると、光学的な測定の誤差要因になる。
【0045】
これに対して、請求項3記載の発明によれば、透明基板の厚さに僅かな傾斜を持たせることで、入射光が透明基板の上面で反射した光線と下面で反射した光線は進行方向が異なるために、干渉を生じない。
(4)請求項4記載の発明によれば、ビームスプリッターによって入射光と出射光を異なる光路に導く光学的手法において、光学系に1/4波長板を挿入する必要がない。特に、請求項2記載のマイクロレンズと請求項4記載の1/4波長板の両方の機能を兼ね備えたプローブを用いると、従来技術によるプローブ顕微鏡装置よりも光学系を大幅に簡略化できるので、プローブ顕微鏡装置を非常に小型にすることができる。
(5)基板と平行なカンチレバーを使用して、凹凸が激しい、あるいは傾いた試料を測定する場合、試料の角が基板に接触する可能性がある。これに対して、請求項5記載の発明によれば、基板に対して下に反ったカンチレバーを使用するので、凹凸が激しい、あるいは傾いた試料を測定する際に、探針以外の部分が基板に接触し難い。
(6)請求項6記載の発明によれば、接合を利用することによって工程を簡潔にすることができる。また、接合後のカンチレバーと透明基板の間隔を作るために、SOI基板上で単結晶シリコン薄膜に厚さの差をつけておくか、基板上に予め凹みを作っておくことにより、その工程を容易にしている。もし、接合を用いないならば、何らかの方法でカンチレバーの下側に加工を施すか、あるいは犠牲層を用いる必要があり、工程が複雑になる。また、カンチレバーの下にある透明基板をフッ化水素酸などでエッチングすると、エッチングした面は平面にならないため、裏面から光学的にカンチレバーを観察したり測定するのに都合が悪い。
【0046】
また、単結晶シリコンからなるカンチレバーは、欠陥が少なく機械的なQ値が高いという利点があるが、予めカンチレバーの下に犠牲層を設置しておく方法は、カンチレバーの材料が単結晶シリコンの場合には難しい。その理由は、犠牲層の上にシリコンをエピタキシャル成長させなければならないからである。
(7)請求項7記載の発明によれば、単結晶シリコン薄膜の結晶異方性を利用しており、必ずカンチレバーの先端に探針が形成され、また先端の鋭さがリソグラフィーの精度に依存し難い。
(8)光の干渉を利用してカンチレバーの変形を測定する方法は、光ファイバーの端面とカンチレバーの間で干渉を生じさせる従来技術が存在する。しかし、この方法によれば、光ファイバーとカンチレバーの位置合わせと距離の調整が必要であった。これに対し、請求項9記載の発明によれば、カンチレバーと透明基板の間隔がプローブの製造時に決定されているのでその調整の必要がない。
(9)請求項10記載の発明によれば、共振周波数の変化からカンチレバーに作用している原子間力などを測定する場合、照射光の強度変調によってカンチレバーが光学的に励振できるので、励振用の圧電素子が不要になる。
【0047】
また、圧電素子は極低温や高温では特性が変化したり、使用できなくなったりするが、請求項10記載の発明によれば、光学的に駆動できるのでその問題が生じない。また、光による励振方法は配線が不要なので、装置を非常に小さく作ることができるようになる。また、多数のカンチレバーを有するプローブを用いる場合、圧電素子では使用しているカンチレバーだけを振動させることは難しく、プローブ全体を振動させることになり効率が悪いが、光による励振では光学スキャナと組み合わせることによって、現在使用しているカンチレバーだけを駆動することができる。
(10)請求項11記載の発明によれば、一定強度の光の照射による駆動を用いると、上記した請求項10記載のプローブ顕微鏡装置と同様の効果に加えて次の利点がある。
【0048】
カンチレバー個々の共振周波数が不明であっても、自励振動が生じるため、光学的に検出した振動をスペクトルアナライザーで解析するだけで振動特性が判明する。さらに、非常に多数のカンチレバーを有するプローブを使用する場合に、プローブ全体に励振用の光を照射しておくと、全てのカンチレバーをそれぞれの共振周波数で振動させることができるので、プローブ全体から戻ってくる光を受光素子で受けて電気信号に変換し、それをスペクトルアナライザーで解析するだけで全てのカンチレバーの振動特性を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来のプローブ顕微鏡のプローブの斜視図である。
【図2】従来の光梃子を利用する場合のプローブの使用形態を示す図である。
【図3】従来の試料とプローブの位置関係を示す断面図である。
【図4】従来のレーザドップラー速度計を利用する場合のプローブの使用形態を示す図である。
【図5】従来技術のプローブ顕微鏡の形態の例を示す図である。
【図6】従来技術のプローブ顕微鏡の形態の例を示す図である。
【図7】従来技術のプローブ顕微鏡の形態の例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施例を示すプローブの斜視図である。
【図9】非常に多数のカンチレバーを持つ本発明の第1実施例のプローブの斜視図である。
【図10】本発明の第2実施例を示すプローブの一部破断斜視図である。
【図11】本発明の第2実施例のプローブの別の例を示す一部破断斜視図である。
【図12】本発明の第3実施例のプローブの構造を示す断面図である。
【図13】本発明の第4実施例のプローブの構造を示す断面図である。
【図14】本発明の第5実施例のプローブの構造を示す断面図である。
【図15】図14で示したカンチレバーによって試料を観察している状態を説明する断面図である。
【図16】本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その1)である。
【図17】本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その2)である。
【図18】本発明の第7実施例のプローブの探針の形成工程を示す斜視図である。
【図19】本発明の第8実施例のプローブを示す構成図である。
【図20】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その1)である。
【図21】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その2)である。
【図22】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡の動作原理を示す図である。
【図23】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その3)である。
【図24】非常に多数のカンチレバーを有するプローブの実施形態の例を示す図である。
【図25】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その4)である。
【図26】本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その5)である。
【図27】本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置において、カンチレバーの振動が励起される原理の説明図である。
【図28】本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図である。
【図29】本発明の第11実施例を示すプローブ顕微鏡装置のカンチレバーの駆動方法の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板の片方の表面に該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバーを有し、プローブ自体で容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持ち、前記カンチレバーを前記透明基板の裏面から光学的に観察または計測し、または光学的に駆動可能にする。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0052】
図8は本発明の第1実施例を示すプローブの斜視図である(請求項1にかかる発明に対応)。なお、以下の実施例の説明においては、便宜上、カンチレバーが設置される側の基板面を基板表面、カンチレバーが設置されない側の基板面を基板裏面と呼ぶ。
【0053】
この図に示すように、可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる基板、つまり光学的に透明な基板(以下、単に透明基板という)101の表面に、この表面から所定の間隔102を保持して、薄膜からなるカンチレバー103が支持されている。カンチレバー103の先端には、必要に応じて適切な材料からなる探針104が設置されている。この探針104の材料としては、例えば原子間力顕微鏡に使用する場合はシリコン、酸化シリコン、窒化シリコンなどの材料が、また、磁力顕微鏡に使用する場合は、鉄、ニッケル、コバルト、またはこれらを含む合金などの材料が用いられる。カンチレバー103の形状は図示されている通り、長方形や三角形など様々である。
【0054】
カンチレバー103の個数は一つの基板に対して1個の場合もあるし、複数の場合もある。
【0055】
図9は非常に多数のカンチレバーを持つ本発明の第1実施例のプローブの斜視図である。可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる基板201の表面に、この表面から所定の間隔を保持して、薄膜からなるカンチレバー202が多数支持されている。
【0056】
図8および図9に示したプローブは、透明基板101または201の裏面から光学的にカンチレバーを観察したり、その変形量や共振周波数を計測したり、または光学的な刺激を与えて運動させたりすることが可能である。
【実施例2】
【0057】
図10は本発明の第2実施例を示すプローブの一部破断斜視図である(請求項2にかかる発明に対応)。
【0058】
この図に示すように、透明基板301の裏面にマイクロレンズ302が設置されており、その光軸303はカンチレバー304の裏面(探針が設置されていない方の面)に一致している。このマイクロレンズ302によって、カンチレバー304の光学的観察、計測、および駆動のための光線をカンチレバー304の裏面に収束させることができる。マイクロレンズ302は透明基板301と同一の部材を加工して作製したものでもよいし、フォトレジストや透明樹脂によって作ったものでもよい。
【0059】
図11は本発明の第2実施例のプローブの別の例を示す一部破断斜視図である。
【0060】
この図において、透明基板401の表面にマイクロレンズ402が設置されており、その光軸403はカンチレバー404の裏面に一致している。このマイクロレンズ402によって、カンチレバー404の光学的観察、計測、および駆動のための光線をカンチレバー404の裏面に収束させることができる。
【0061】
このような構成とすることで、プローブ顕微鏡装置の光学系の一部を省略することができる。
【実施例3】
【0062】
図12は本発明の第3実施例のプローブの構造を示す断面図である(請求項3にかかる発明に対応)。図12(A)は透明基板の表面と裏面とが平行でない場合、図12(B)は比較のために示した透明基板の両面が平行である場合を示す図である。
【0063】
このように、図12(A)においては、透明基板501の表面503にカンチレバー502が設置されている。透明基板501の表面503と裏面504とは平行ではなく、わずかに傾斜している。つまり、裏面504は表面503に対して(水平面に対して)角度θを有している。
【0064】
一方、図12(B)においては、透明基板508の表面510にカンチレバー509が設置されている。透明基板508の表面510と裏面511とは平行である。なお、これらの図において、505,512は入射光、506,513は表面503,510での反射光、507,514は裏面504,511での反射光をそれぞれ示している。
【0065】
図12(B)に示すように、透明基板508の表面510と裏面511が平行な場合、入射光512の反射光513,514は進行方向が同じであるため干渉が生じてしまう。
【0066】
一方、図12(A)に示すように、透明基板501の表面503と裏面504が平行でない場合、入射光505が透明基板501の表面503で反射した光線506と、裏面504で反射した光線507は進行方向が異なるために、干渉を生じることがなくなる。
【実施例4】
【0067】
図13は本発明の第4実施例のプローブの構造を示す断面図である(請求項4にかかる発明に対応)。図13(A)は所定の波長の光に対する1/4波長板601自体を透明基板として使用する場合を、また、図13(B)は所定の波長に対する1/4波長板606を透明基板605に接着した場合を、それぞれ示している。
【0068】
この実施例では、1/4波長板の性質により、上記所定の波長を有し直線偏光している入射光603または608の偏光方向(紙面に垂直に偏光しているものとする)に対して、カンチレバー602または607で反射して戻る光線604または609の偏光方向は90°旋回する(紙面に対して平行になる)。
【実施例5】
【0069】
図14は本発明の第5実施例のプローブの構造を示す断面図である(請求項5にかかる発明に対応)。図14(A)は本発明の第5実施例のプローブの断面図であり、また、図14(B)は比較のために示したカンチレバーに内部応力が入っていないプローブを示す断面図である。
【0070】
図14(B)に示すように、内部応力が入っていないカンチレバー708は、透明基板707の表面707Aと平行であり、透明基板707の表面707Aとカンチレバー708との間隔は、根元の近くでの間隔709も先端に近い部分の間隔710も互いに等しい。これに対して、図14(A)に示すように、カンチレバー702に内部応力が入っているプローブは、透明基板701の表面701Aに設置されるカンチレバー702において、このカンチレバー702の表面705には裏面706に対して引っ張り応力が入っている。その結果、カンチレバー702は上側に反り、透明基板701の表面701Aとカンチレバー702との間隔は、根元に近い部分での間隔703から徐々に広がって先端に近い部分の間隔704の方が大きくなっている。
【0071】
内部応力を持つカンチレバーの製作方法としては、例えばシリコンと窒化シリコンの2層構造で製作し、犠牲層を除去して窒化シリコンの内部応力で反るようにしたり、図14(B)の状態で完成しているカンチレバーに引っ張り応力が入る部材を蒸着することで製造することができる。また、引っ張り応力を与える不純物をカンチレバー表面からドープするようにしてもよい。
【0072】
図15は図14で示したカンチレバーによって試料を観察している状態を説明する断面図である。図15(A)は図14(A)の内部応力が入っているカンチレバーで凹凸が激しく傾斜した試料を観察している状態を示しており、図15(B)は図14(B)の内部応力が入っていないカンチレバーで凹凸が激しく傾斜した試料を観察している状態を示している。
【0073】
これらの図において、803,807は凹凸が激しく傾斜した試料、801,805は透明基板、802は内部応力が入っていないカンチレバー、806は内部応力が入っているカンチレバーをそれぞれ示す。
【0074】
これらの図からわかるように、図15(B)の構成では、探針で試料803上を走査する時に、透明基板801が試料803の角804と接触する恐れがあるのに対し、図15(A)の構成とすることで試料807と接触し難くなる。
【実施例6】
【0075】
図16は本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その1)である(請求項6にかかる発明に対応)。この実施例は、カンチレバーと基板の間隔を設けるため、カンチレバー側に加工を施す。
【0076】
(1)まず、図16(A)に示すように、SOI基板901を用意する。ここで、904はハンドリングウエハ、903は埋め込み酸化膜、902は単結晶シリコン薄膜層である。
【0077】
(2)次に、図16(B−1)および図16(B−2:斜視図)に示すように、単結晶シリコン薄膜層902の一部を厚さが薄くなるように加工し、かつ薄く加工された部分を更にカンチレバー905および906の外形になるように加工する。また、単結晶シリコン薄膜層902の一部は元の厚さのままでカンチレバーの透明基板への取り付け部分907として残す。
【0078】
(3)次に、図16(C)に示すように、上記のSOI基板901を裏返しにして取り付け部分907を透明基板909に接合する。例えば、透明基板909の材質として硼珪酸ガラス〔パイレックス(登録商標)ガラス〕を使用した場合は、陽極接合によって接合することができる。
【0079】
(4)次に、図16(D−1)および図16(D−2:斜視図)に示すように、SOI基板901の埋め込み酸化膜903およびハンドリングウエハ904をエッチングによって除去することで、単結晶シリコン薄膜層902からなるカンチレバー905および906が透明基板909表面から間隔910を保って支持された、プローブが完成する。
【0080】
図80は本発明の第6実施例のプローブの製造工程図(その2)である(請求項6にかかる発明に対応)。この実施例は、カンチレバーと基板の間隔を設けるため、カンチレバー側および透明基板側にそれぞれ加工を施すことが特徴である。
【0081】
(1)まず、図17(A)に示すように、SOI基板1001を用意する。ここで、1004はハンドリングウエハ、1003は埋め込み酸化膜、1002は単結晶シリコン薄膜層である。
【0082】
(2)次に、図17(B−1)および図17(B−2:斜視図)に示すように、単結晶シリコン薄膜層1002の一部をカンチレバー1005および1006の外形になるように加工する。また、単結晶シリコン薄膜層の一部は、透明基板に対する取り付け部分1007として残す。
【0083】
(3)次に、図17(C)に示すように、上記SOI基板1001を裏返しにして取り付け部分1007を透明基板1009に接合する。例えば、透明基板1009の材質として硼珪酸ガラス〔パイレックス(登録商標)ガラス〕を使用した場合は、陽極接合によって接合することができる。この透明基板1009には凹み1010をあらかじめ加工しておく。
【0084】
(4)次に、図17(D−1)および図17(D−2:斜視図)に示すように、SOI基板1001の埋め込み酸化膜1003およびハンドリングウエハ1004をエッチングによって除去することで、単結晶シリコン薄膜層1002からなるカンチレバー1005および1006が、透明基板1009表面から凹み1010の深さ分の間隔を保って支持された、プローブが完成する。
【実施例7】
【0085】
図18は本発明の第7実施例のプローブの探針の形成工程を示す斜視図である(請求項7にかかる発明に対応)。これらは、三角形のカンチレバー(例えば906や1006)または先端が尖った形状のカンチレバーの先端だけを拡大した図である。
【0086】
(1)まず、図18(A)に示すように、カンチレバーの先端1101は単結晶シリコン薄膜からなり、その形成には上記した第6実施例の製造方法を用いるものとする。
ただし、この単結晶シリコン薄膜は(100)面からなり、カンチレバーの先端1101方向が〈110〉方位である必要がある。このカンチレバーの側面1102および裏面(紙面裏側に相当)は窒化シリコン膜または酸化シリコン膜で保護する。この膜の形成には、膜をカンチレバーの全体に堆積した後エッチバックするか、または図16(B)あるいは図17(B)の工程の後に堆積しておいた膜を利用することができる。
【0087】
(2)次に、図18(B)に示すように、アルカリ性水溶液によってウェットエッチングを行うとカンチレバーが薄くなるので、所定の厚さまでウェットエッチングを行う。この工程によってカンチレバーの先端1101を起点とする(111)面1103が現れる。
【0088】
(3)次に、図18(C)に示すように、側面1102と裏面を保護していた酸化シリコン膜または窒化シリコン膜を除去すると、鋭利な先端1104を持つ探針が完成する。
【0089】
以上の工程を行った後、低温熱酸化によって表面に酸化シリコンを作り、これをフッ化水素酸で除去することで探針先端を更に鋭利にすることができる。
【実施例8】
【0090】
図19は本発明の第8実施例のプローブを示す構成図であり(請求項8にかかる発明に対応)、図19(A)は1個のカンチレバーを有するプローブの斜視図、図19(B)は複数個のカンチレバーを有するプローブの斜視図、図19(C)はそれらのプローブの側面図である。
【0091】
このプローブは後述の図20および図21に示すプローブ顕微鏡装置のプローブとして用いる。
【0092】
図19(A)において、1201は円板状の透明基板、1202はその透明基板1201の表面に設けられた1個のカンチレバーである。
【0093】
また、図19(B)において、1203は円板状の透明基板、1204はその透明基板1203の表面に設けられた複数個のカンチレバー1204である。
【0094】
これらのプローブは上記第1〜5に記載したいずれかのプローブよりなる。
【0095】
このように構成することにより、プローブ自体をのぞき窓として機能させ、プローブ自体で容器の内外の環境を仕切りながらカンチレバーの光学的な観察や測定を可能にする。その結果、装置の構造が簡単になり、小型化が達成できる。
【0096】
また、カンチレバーは、透明基板の表面に直接取り付けられているため、透明基板裏面からカンチレバーおよび試料までの距離は必要最小限に抑えられ、その結果、従来技術によるプローブ顕微鏡装置よりも倍率の高い光学顕微鏡の対物レンズが使用できる。
【実施例9】
【0097】
図20は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その1)である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0098】
ここで用いるカンチレバーおよび探針は、検出しようとする物理量(例えば、原子間力や磁力)と試料の性質(例えば非常に柔らかいとか凹凸が激しいとか)によって適切な寸法と材質を使用するものとする。
【0099】
ここでは、光梃子によってプローブの裏面からカンチレバーの変形または振動特性を光学的に測定するプローブ顕微鏡を示している。使用するプローブ1305は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。1301は容器およびガスケットであり、その内部1302は特殊環境になっている場合もある。試料1303は3次元微動機構1304に取り付けられている。レーザ光源1314から出たレーザ光1315は、プローブ1305の透明基板を透過してカンチレバー1307の裏面で反射し、反射光1317は再び透明基板を透過して2分割フォトダイオード1316上にレーザスポットを作る。
【0100】
また、光学レンズ1313と撮像素子1308によって、カンチレバー1307と試料1303の像を映像モニター1309に表示する装置を取り付けると、カンチレバー1307の像1312と試料1303の像1310とレーザスポットの像1311を、映像モニター1309で確認できる。
【0101】
ただし、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板(図示なし)が不要になる。また、カンチレバー1307を振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1305に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1305を取り付ける場合もある。
【0102】
図21は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その2)である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0103】
ここでは、第1実施例または第2実施例に記載したプローブを使用し、レーザドップラー速度計によってこのプローブの裏面からカンチレバーの変形または振動特性を光学的に測定するプローブ顕微鏡の実施形態の例を示している。
【0104】
使用するプローブ1405は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。1401は容器およびガスケットであり、その内部1402は特殊環境になっている場合もある。試料1403は3次元微動機構1404に取り付けられている。レーザドップラー速度計1415から出射されたレーザ光はビームスプリッター1414と1/4波長板1416と光学レンズ1413を通って、カンチレバー1407の裏面で反射し、再び光学レンズ1413と1/4波長板1416とビームスプリッター1414を通過してレーザドップラー速度計1415に戻る。
【0105】
また、撮像素子1408によってカンチレバー1407と試料1403の像を映像モニター1409に表示する装置を取り付けると、カンチレバー1407の像1412と試料1403の像1410とレーザスポットの像1411を映像モニター1409で確認できる。
【0106】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1413が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は、1/4波長板1416が不要になる。
【0107】
また、カンチレバー1407を振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1405に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1405を取り付ける場合もある。
【0108】
図22は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡の動作原理を示す図である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0109】
図22(A)はそのプローブ顕微鏡のプローブの断面図であり、透明基板1501の表面にカンチレバー1502が設置されている。透明基板1501の裏面からレーザ光1503を入射すると、透明基板1501の表面1507で反射されて上方へ戻る光線1505とカンチレバー1502の裏面で反射されて上方へ戻る光線1504が生じる。これらは互いに干渉し、実際に上方へ戻る光の強度はカンチレバー1502と透明基板1501の間隔1506によって変化する。間隔1506と戻り光強度の関係の一例を図22(B)に示す。間隔と波長の関係を、戻り光強度の変化率が最大になる(1508)ように選ぶと、戻り光強度はカンチレバーの変形にほぼ比例する。
【0110】
上記した第9実施例に記載したプローブ顕微鏡装置は、上記の戻り光強度を受光素子で検出することによって、カンチレバーの変形や振動特性の検出を行う。
【0111】
図23は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その3)である(請求項9にかかる発明に対応)。
【0112】
ここで、使用するプローブ1605は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。1601は容器およびガスケットであり、その内部1602は特殊環境になっている場合もある。試料1603は3次元微動機構1604に取り付けられている。レーザ光源1615から出たレーザ光は、2つのビームスプリッター1614と1/4波長板1617と光学レンズ1613を通ってカンチレバー1607の裏面と透明基板の間で干渉し、戻り光は再び光学レンズ1613と1/4波長板1617とビームスプリッター1614を通って受光素子1616に到達する。
【0113】
また、撮像素子1608によってカンチレバー1607と試料1603の像を映像モニター1609に表示する装置を取り付けると、カンチレバー1607の像1612と試料1603の像1610とレーザスポットの像1611を映像モニター1609で確認できる。
【0114】
また、カンチレバー1607を振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1605に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1605を取り付ける場合もある。
【0115】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1613が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合には1/4波長板1617が不要になる。
【0116】
図24は非常に多数のカンチレバーを有するプローブの実施形態の例を示す図であり、図24(A)はその多数のカンチレバーを有するプローブの斜視図、図24(B)はその多数のカンチレバーを有するプローブの側面図である。光学的に透明な基板1701の表面に非常に多数(たとえば10000個)のカンチレバー1702が設置されている。
【0117】
次に、図25と図26を使って、このような非常に多数のカンチレバーを持つプローブを使用するプローブ顕微鏡の実施形態の例を示す。
【0118】
図25は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その4)である。
【0119】
この実施例では、図23に示した装置に図24で示したプローブ1805を使用し、光学スキャナ1817を追加したものである。1801は容器およびガスケットであり、その内部1802は特殊環境になっている場合もある。試料1803は3次元微動機構1804に取り付けられている。レーザ光源1815から出たレーザ光線は、2つのビームスプリッター1814と1/4波長板1818を通った後、光学スキャナ1817で所定の方向に向けられ、光学レンズ1813を通って多数あるカンチレバーの中の所望のカンチレバーに導かれる。そのカンチレバーで反射したレーザ光線は、再び光学レンズ1813と光学スキャナ1817と1/4波長板1818を通り、ビームスプリッター1814によって受光素子1816へ導かれる。
【0120】
以上の動作によって選択された1つのカンチレバーの変形または振動特性が検出できる。
【0121】
また、撮像素子1808によってカンチレバーと試料1803の像を映像モニター1809に表示する装置を取り付けることもできる。
【0122】
また、カンチレバーを振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1805に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1805を取り付ける場合もある。
【0123】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1813が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板1818が不要になる。
【0124】
図26は本発明の第9実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図(その5)である。
【0125】
この実施例は、図21に示した装置に図24で示したプローブ1905を使用し、光学スキャナ1915を追加したものである。1901は容器およびガスケットであり、その内部1902は特殊環境になっている場合もある。試料1903は3次元微動機構1904に取り付けられている。レーザドップラー速度計1906から出射されたレーザ光はビームスプリッター1914と1/4波長板1916を通った後、光学スキャナ1915で所定の方向に向けられ、光学レンズ1913を通って多数あるカンチレバー中の所望のカンチレバーに導かれる。そのカンチレバーで反射したレーザ光線は、再び光学レンズ1913と光学スキャナ1915と1/4波長板1916を通り、ビームスプリッター1914を通ってレーザドップラー速度計1906へ導かれる。
【0126】
以上の動作によって選択された1つのカンチレバーの変形または振動特性が検出できる。
【0127】
また、撮像素子1908によってカンチレバーと試料1903の像を映像モニター1909に表示する装置を取り付けることもできる。
【0128】
また、カンチレバーを振動させる目的で、必要に応じて圧電素子や電極などをプローブ1905に取り付けるか、または、圧電素子などにプローブ1905を取り付ける場合もある。
【0129】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ1913が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板1916が不要になる。
【実施例10】
【0130】
図27は本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置において、カンチレバーの振動が励起される原理の説明図である(請求項10にかかる発明に対応)。
【0131】
この図において、2001は透明基板であり、その表面にカンチレバー2002が設置されている状態を断面で示している。図19(A)に示すように、レーザ光2005を透明基板2001を通してカンチレバー2002に照射すると、カンチレバー2002がこのレーザ光2005のエネルギーを吸収して発熱し、熱膨張するが、発熱量はカンチレバー上面2003において下面2004よりも多いので、曲げモーメント2006が発生してカンチレバー2002は下側に反る。
【0132】
レーザ光2005の照射を止めると、図19(B)に示すようにカンチレバー2002は真っ直ぐな形に戻る。上記の反りは僅かなものであるが、レーザ光2005を点滅させる周波数をカンチレバー2002の共振周波数と一致させると振動を励起することができる。点滅する光による機械的振動の励振については上記非特許文献1に記載されている。
【0133】
図28は本発明の第10実施例を示すプローブ顕微鏡装置の模式図である(請求項10にかかる発明に対応)。
【0134】
ここで、使用するプローブ2105は、図19(A)に示すようにカンチレバーが1個の場合もあるし、図19(B)に示すようにカンチレバーが複数の場合もある。2101は容器およびガスケットであり、その内部2102は特殊環境になっている場合もある。試料2103は3次元微動機構2104に取り付けられている。レーザドップラー速度計2115から出射されたレーザ光は2つのビームスプリッター2114と1/4波長板2118と光学レンズ2113を通ってカンチレバー2107の裏面で反射し、再び光学レンズ2113と1/4波長板2118とビームスプリッター2114を通ってレーザドップラー速度計2115に戻る。
【0135】
電気信号によって強度変調できるレーザ光源2116から出射されるレーザ光線も同様に、2つのビームスプリッター2114と1/4波長板2118と光学レンズ2113を通ってカンチレバー2107に照射される。励振用レーザ光の照射位置およびスポット径と、前記したレーザドップラー速度計2115が発生するレーザ光の照射位置およびスポット径は、独立に調整することができる。
【0136】
また、撮像素子2108によってカンチレバー2107と試料2103の像を映像モニター2109に表示する装置を取り付けると、カンチレバー2107の像2112と試料2103の像2110とレーザドップラー速度計2115のレーザスポットの像2111と励振用レーザ光のレーザスポットの像2106を映像モニター2109で確認できる。
【0137】
ただし、第2実施例に記載したプローブを用いる場合は光学レンズ2113が不要になる場合がある。また、第4実施例に記載したプローブを用いる場合は1/4波長板2118が不要になる。
【0138】
励振用レーザ光の強度変調周波数は励振周波数信号発生器2117の周波数によって決定される。この周波数を、ある時点におけるカンチレバー2107の共振周波数に一致させておくと、カンチレバー2107の共振周波数が変化するに伴って振動の振幅が低下するので、共振周波数の変化を知ることができる。また、レーザドップラー速度計2115の出力信号を増幅し、フィルタを通した後に、励振周波数信号発生器2117の代わりに使用すると、自励発振を起こさせることもでき、その発振周波数変化を検出することで共振周波数の変化を知ることもできる。
【0139】
上記の例は、点滅光によるカンチレバーの励振方法をレーザドップラー速度計と組み合わせたプローブ顕微鏡装置の例であるが、点滅光によるカンチレバーの励振方法を光梃子または第9実施例に記載した方法と組み合わせたプローブ顕微鏡装置として構成することも可能である。
【実施例11】
【0140】
次に、本発明の第11実施例を示すプローブ顕微鏡装置のカンチレバーの駆動方法について説明する。
【0141】
図29に示すように、基板2201上に、この基板2201と平行に支持されている薄膜構造(カンチレバー)2202を有している。レーザ光2204が上方から照射されると、薄膜構造(カンチレバー)2202がその一部を吸収するが、残りは透過して基板2201の表面に達する。薄膜構造2202と基板2201の間の空間が、一種のファブリー・ペロー共振器のような構造となり、光の定在波2203が発生する。
【0142】
薄膜2202が光から吸収するエネルギー量は、定在波2203の振幅に比例する。光の吸収量が薄膜2202の上下で異なると曲げモーメントが発生して薄膜2202が曲がるが、定在波2203が存在するため、曲がった結果として、光の吸収量も変化する。定在波2203の振幅と位置が適当な条件を満たすと、薄膜構造2202が自励振動を起こすことが知られている。この現象については上記非特許文献2に記載されている。
【0143】
本発明に係るプローブは透明基板を使用するので、図29の下方からのレーザ光2205が透明基板を透過し、同様の自励振動を発生させることができる。
【0144】
この現象を利用してカンチレバーに自励振動を発生させるプローブ顕微鏡装置の実施形態は、例えば図23と全く同じ形態であって、レーザ光源1615の強度および波長とカンチレバー1607と透明基板の間隔を適当に調節することで実現できる。また、図28とほぼ同じ形態で、励振用レーザ光源2116を一定強度のレーザ光源に変更し、その強度および波長とカンチレバー2107と基板の間隔を適当に調節することで実現できる。また、光梃子と組み合わせることもできる。
【0145】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、精度の高いプローブを有するプローブ顕微鏡に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板の片方の表面に、該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバーを有するプローブを備え、前記透明基板は、容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持ち、前記透明基板の裏面から光学的に観察または計測し、また光学的に駆動可能に構成することを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項2】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の一部にマイクロレンズが形成され、前記カンチレバーの光学的観察または計測、または光学的駆動のための光線を、前記マイクロレンズによりカンチレバーの裏面に収束させることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項3】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の表面での反射光と裏面での反射光間の光の干渉を防止するために透明基板の厚さに僅かな傾斜を持たせることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項4】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板が1/4波長板を兼ねることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項5】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記カンチレバーに内部応力を持たせることによって、該カンチレバーと前記透明基板の間隔が前記カンチレバーの付け根から先端に向けて徐々に広がっていることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項6】
(a)SOI基板の単結晶シリコン薄膜層にカンチレバーを製作し、
(b)該SOI基板を裏返しにガラス基板に接合し、
(c)前記SOI基板のハンドリングウエハと埋め込み酸化膜を除去することを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法において、ウェットエッチングを利用して前記カンチレバー先端に探針を形成することを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法。
【請求項8】
請求項1から5の何れか一項に記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブを用い、試料との相互作用による前記カンチレバーの変形または振動特性を、前記透明基板の裏面から光学的に測定することを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項9】
請求項8記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーと前記透明基板の間の光の干渉による反射光の強度変化から、前記カンチレバーの変形または振動特性を検出することを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項10】
請求項8記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーの共振周波数に一致した周波数で強度が変動する光線を前記透明基板裏面から照射することによって前記カンチレバーに振動を励起することを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項11】
請求項8記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記透明基板裏面から照射した一定強度の光線によって前記カンチレバーを自励振動させることを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項1】
可視光または近赤外光に対して透明な材質からなる透明基板の片方の表面に、該表面から所定の間隔を保持して支持されている薄膜からなる1個または複数のカンチレバーを有するプローブを備え、前記透明基板は、容器の内外の環境を仕切りながら光学的な観察や測定を可能にするのぞき窓の機能を併せ持ち、前記透明基板の裏面から光学的に観察または計測し、また光学的に駆動可能に構成することを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項2】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の一部にマイクロレンズが形成され、前記カンチレバーの光学的観察または計測、または光学的駆動のための光線を、前記マイクロレンズによりカンチレバーの裏面に収束させることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項3】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板の表面での反射光と裏面での反射光間の光の干渉を防止するために透明基板の厚さに僅かな傾斜を持たせることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項4】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記透明基板が1/4波長板を兼ねることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項5】
請求項1記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブにおいて、前記カンチレバーに内部応力を持たせることによって、該カンチレバーと前記透明基板の間隔が前記カンチレバーの付け根から先端に向けて徐々に広がっていることを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブ。
【請求項6】
(a)SOI基板の単結晶シリコン薄膜層にカンチレバーを製作し、
(b)該SOI基板を裏返しにガラス基板に接合し、
(c)前記SOI基板のハンドリングウエハと埋め込み酸化膜を除去することを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法において、ウェットエッチングを利用して前記カンチレバー先端に探針を形成することを特徴とする透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブの製造方法。
【請求項8】
請求項1から5の何れか一項に記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡のプローブを用い、試料との相互作用による前記カンチレバーの変形または振動特性を、前記透明基板の裏面から光学的に測定することを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項9】
請求項8記載の透明基板を用いるプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーと前記透明基板の間の光の干渉による反射光の強度変化から、前記カンチレバーの変形または振動特性を検出することを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項10】
請求項8記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記カンチレバーの共振周波数に一致した周波数で強度が変動する光線を前記透明基板裏面から照射することによって前記カンチレバーに振動を励起することを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【請求項11】
請求項8記載のプローブ顕微鏡装置を用い、前記透明基板裏面から照射した一定強度の光線によって前記カンチレバーを自励振動させることを特徴とするプローブ顕微鏡装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【国際公開番号】WO2005/015570
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512970(P2005−512970)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011351
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/011351
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
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