説明

透明塗布液の塗布具合の検査システム

【課題】本発明の目的は、透明塗布液に検出剤を添加せずに塗布具合を検査するシステムおよび方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の検査システム10は、基材12および塗布液14から放射される赤外線を検知し、赤外線を基材12および塗布液14の表面温度に変換して画像を生成する赤外線サーモグラフ16と、その画像から塗布液14が基材12の所定位置に所定形状で塗布されているか否かを判断する判断手段18とを含む。塗布液14には何ら検出剤は添加しないで塗布液14の検査をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明の塗布液を塗布した後にその塗布具合を検査するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1をはじめとして種々のバイオセンサが開示されている。例えば図8にバイオセンサー50の一部を示す。PET樹脂26の上に2本の白金導体線28が積層されている。酵素を含む塗布液14が2本の導体線28の上にディスペンサにより塗布され、膜が形成されている。酵素と血液などが反応することによって2本の導体線28が導通し、血糖値などを検査することができる。この酵素の膜が所定の位置に形成されていないと検査ができなかったり不正確になったりする。特にディスペンサ内で酵素が沈殿したり目づまりしたりすると正確に塗布液14を塗布できなくなる。したがって、塗布液14が所定の位置に所定の形状・膜厚で塗布されているか否かを検査する必要がある。
【0003】
塗布液14が可視光に対して透明の場合があり、塗布液14の塗布具合の検査が目視や通常の画像処理では難しい。透明の塗布液14の塗布具合を検査する方法として、(1)透明塗布液14に色素を混ぜて着色し、その塗布液14の塗布具合をCCDカメラにて撮像し、画像処理装置で処理・判断する方法、(2)透明塗布液14に蛍光作用、燐光作用を持つ物質を混ぜて、その塗布部に蛍光作用、燐光作用を発生させる特定波長域の光を当て、蛍光現象、燐光現象をCCDカメラにて撮像し、画像処理装置で処理・判断する方法、(3)透明塗布液14に紫外線吸収作用、赤外線吸収作用を持つ物質を混ぜて、その塗布部に光吸収作用を発生させる特定波長域の光を当て、光吸収現象をその波長域に感度を有する撮像器にて撮像し画像処理装置で処理・判断する方法など、検出剤を混ぜて検査する方法が考えられている。
【0004】
しかし、酵素を有する透明塗布液14に検出剤を添加した場合、酵素本来の機能を阻害するおそれがある。検出剤を添加せずに塗布液14の塗布具合を検査するシステムや方法が求められている。
【0005】
なお、特許文献2では透明材料膜に染料が添加されているが、電子部品への適用である。バイオセンサにおいては上記のように酵素の機能を阻害するおそれがあるので、特許文献2の方法をバイオセンサに適用することはできない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−43122号公報
【特許文献2】特開2005−315702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、透明塗布液に検出剤を添加せずに塗布具合を検査するシステムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透明塗布膜の検査システムは、基材に対して塗布された可視光に対して透明の塗布液の塗布具合を検査するために、前記塗布液が基材に塗布されてから乾燥されるまでの間に、基材および塗布液から放射される赤外線を検知し、該赤外線の基材および塗布液の放射率の違いを利用して基材と塗布液とが区別できる画像を生成する赤外線サーモグラフと、前記画像から塗布液が基材の所定位置に所定形状で塗布されているか否かを判断する手段と、を含む。
【0009】
赤外線サーモグラフが、塗布液を基材に塗布してから乾燥されるまでの間に基材と塗布液の赤外線による画像を生成する。基材と塗布液とがほぼ同じ温度であっても、基材は赤外線の放射率が低いために表面温度が実際の温度よりも低くなる。塗布液は赤外線の放射率が高いために表面温度が実際の温度に近く表される。したがって、判断する手段は、画像において基材と塗布液とを明確に分離することができ、塗布液が基材の所定位置に所定形状で塗布されていることが判断できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の検査システムは、塗布液に何も検出剤を添加せずに、塗布液が基材の所定位置に所定形状で塗布されていることを判断できる。したがって、塗布液の当初の機能を損なうおそれが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の透明塗布液の塗布具合の検査システムについて図面を使用して説明する。検査システムは、透明塗布液に対して検出剤を添加せずに検査をおこなうものである。
【0012】
図1に示す本発明の検査システム10は、基材12および塗布液14から放射される赤外線を検知し、赤外線を基材12および塗布液14の表面温度に変換して画像を生成する赤外線サーモグラフ16と、その画像から塗布液14が基材12の所定位置に所定形状で塗布されているか否かを判断する判断手段18とを含む。
【0013】
基材12への塗布液14の塗布はディスペンサーロボット20によっておこなわれる。基材12が台座22の上に置かれ、ディスペンサー24に入れられた塗布液14が基材12に塗布される。基材12に対する塗布液14の塗布位置の位置決めは、台座22、ディスペンサー24、またはその両方が移動することによっておこなう。基材12にアライメントマークを設け、CCDカメラで基材12を撮影して、画像処理によって基材12と塗布位置の位置決めをおこなっても良い。
【0014】
基材12は図2に示すように、平面状の部材26の上に、複数の導体線28が平行に積層されたものである。平面状の部材26は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂からなる電気絶縁性の部材である。導体線28は白金の薄膜で形成されている。導体線28は2本で1組となるようになっており、例えば導体線28の幅は約1mmであり、間隔は約0.5mmである。ディスペンサー24によって導体線28の上の所定位置に塗布液14が塗布される。例えば、図3のように、2本の導体線28の同じ位置に同じ形状で塗布される。バイオセンサーで使用するために、塗布液14の乾燥後に所定形状に切り抜かれる。
【0015】
赤外線サーモグラフ16は、物体から放射される赤外線を検知し、その赤外線を物体の表面温度に変換して画像生成するものである。物体の表面温度がT(K)、赤外線の放射率がεであると、物体から放射される赤外線の熱エネルギーは、E=εσT(W/m)となる。このときσは定数である。赤外線サーモグラフ16はこの赤外線の熱エネルギーを検知して、物体の表面温度に変換して画像を生成する。
【0016】
表面温度への変換は、表面温度と赤外線熱エネルギーの関係を示したテーブルを用意しておき、テーブル変換によって表面温度に変換する。また、赤外線熱エネルギーから表面温度への変換をおこなう近似式を用いても良い。これらは、ソフト、回路、またはその両方で実現する。
【0017】
全ての物体は、赤外線の反射率(ρ)と放射率(ε)の和は1となる。金属や樹脂などで表面が乾燥した鏡面状(または滑らか)になっていると赤外線の反射率が高くなってしまい、放射率が下がってしまう。このためその物体から放射される赤外線の熱エネルギーも下がることとなり、熱エネルギーを表面温度に変換しても、実際よりも低くなり、場合によっては0かあるいはそれに近くなってしまう。液体(水分)の放射率は1に近いため、液体の表面温度は実際の温度に近く変換することができる。本発明で使用する基材12はPET樹脂26と白金28で構成されており、赤外線の反射率が放射率よりも高いものである。例えば、赤外線の反射率は約0.9である。また、塗布液14は乾燥するにしたがって水分が無くなるため、放射率が下がってしまう。さらに、バイオセンサーであれば塗布液14の厚みが一定になるため表面が滑らかになり、乾燥すると、約0.9あった放射率が約0.1に減少してしまう。したがって、赤外線サーモグラフ16は、塗布液14が塗布されてから乾燥する前に、基材12と塗布液14との画像を生成する。塗布した直後であれば、塗布液14の放射率は高く、実際の表面温度に近く変換できる。画像は、表面温度が低い基材12の中に表面温度が実際に近い塗布液14があることとなる。
【0018】
図3では所定位置に正確に塗布液14が塗布されており、基材12に対して塗布液14の位置がわかるようになっている。塗布液14の量が多くて2カ所の塗布液14が繋がってしまうと図4のようになる。ディスペンサー24に酵素が沈殿して塗布液14の出方が不足したり、台座22やディスペンサー24の動きが正常でなくなると図5のように正確な位置に塗布できなくなる。また、塗布液14が乾燥してから赤外線サーモグラフ16で画像を生成しても、塗布液14の赤外線の放射率が下がり、図6のように基材12との表面温度が同じになってしまう。そのため基材12と塗布液14との区別がしにくくなり、後述する判断手段18の判断ができなくなる。なお、基材12のPET樹脂26と導体線28は放射率が0またはそれに近いため、あまり区別がつかなくなる。
【0019】
検査システム10に含まれる赤外線サーモグラフ16は、図1のようにディスペンサーロボット20に取り付けられても良いし、独立した装置であっても良い。基材12がラインで流されるのであれば、その途中に赤外線サーモグラフ16を設置しても良い。
【0020】
判断手段18は、生成された画像から塗布液14が基材12の所定位置に所定形状で塗布されているか否かを判断するものである。例えば、所定形状であるか否かの判断は、画像のエッジ検出をおこなって塗布液14の形状を抽出し、抽出された形状と所定形状とのパターンマッチングおこない、形状が一致すれば所定形状であると判断する。また、所定位置の判断は、画像に基準点を設けておき、抽出された形状と基準点との縦と横の距離を算出し、距離が予め決定された所定の距離であれば所定位置であると判断する。なお、基材12にアライメントマークを設けて基材12と塗布位置の位置決めをおこなうのであれば、そのアライメントマークを上記の基準点としても良い。上記の所定位置や所定形状はメモリなどの記憶素子に記憶しておく。
【0021】
判断手段18がおこなう画像処理の方法について一例を示したが、塗布液14の位置や形状を判断できるのであれば、上記の画像処理の方法に限定されることはない。また、塗布液14の位置や形状を判断するにあたって一定の閾値を設けておき、閾値の範囲内に入れば位置や形状が正確であると判断するようにしても良い。
【0022】
本発明のシステム10は、図3に示すように、塗布液14と基材12の画像が、見かけ上の表面温度の差により明瞭に区別できるので、塗布液14の形状や位置を検査することができる。
【0023】
判断手段18によって得られた結果は、判断手段18に接続されたモニター30に表示しても良い。モニター30には画像も一緒に表示する。また、塗布液14が所定形状や所定位置でないと判断した場合、警報装置32が作動して監視者がディスペンサーロボット22を停止させるようにしても良いし、自動的にディスペンサーロボット22が停止するようにしても良い。上記の所定位置などを変更したり判断手段18を制御したりするためのキーボードなどの入力機器34を取り付けておいても良い。
【0024】
以上のように、本発明は、基材12は赤外線の放射率が低く、塗布液14は乾燥するまでは赤外線の放射率が高いことを利用している。このことを利用すると、酵素の添加された透明塗布液14に対して検出剤を添加することなく、塗布された塗布液14の位置と形状を検出することができる。酵素の機能を阻害することもない。
【0025】
以上、本発明の実施形態を上述したが本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、塗布液14の位置や形状以外にも塗布量を検査するようにしても良い。図2に示すように、複数の導体線28がPET樹脂26の上に積層されており、各導体線28に塗布液14が塗布される。すなわち、1つの基材12の複数箇所に同じ形状に透明の塗布液14が塗布される。この塗布液14が複数箇所に塗布されることを利用する。塗布量を検査するために、検査システム10が、塗布液14の乾燥途中に赤外線サーモグラフ16の赤外線画像から、少なくとも2カ所に塗布された塗布液14の見かけ上の表面温度の違いを比較し、比較から塗布液14の乾燥速度の違いを判断し、その判断から塗布量の違いを判断する手段とを含むようにする。
【0026】
比較は、上記した画像処理によって抽出された塗布形状を利用して、この塗布形状内の見かけの表面温度を比較するものである。図7(a)、(b)に示すように、左側の塗布液14Lの方が塗布量が多くなっており、乾燥が遅れているので、基材12と塗布液14Lとの判別が容易である。右側の塗布液14Rは塗布量が少ないために乾燥してしまい、基材12との表面温度差が小さくなっている。ある1点について比較をおこなっても良いし、抽出された形状全体について比較をおこなっても良い。
【0027】
塗布量にバラツキがあれば乾燥する速度にバラツキを生じ、塗布された塗布液14に含まれる水分量も異なるようになる。したがって、赤外線の放射率が変化し、少なくとも2カ所に塗布された塗布液14の表面温度を比較することにより塗布量のバラツキがわかる。バイオセンサーであれば、塗布量の違いによって正確な測定ができなくなるので、塗布量の違いが規格外であると判断すれば、モニター30に表示したり、警報装置32を作動するようにする。
【0028】
ディスペンサーロボット20や検査システム10のある部屋が一定温度で一定湿度であれば、基材12に塗布液14を塗布してから乾燥するまでの時間は同じになる。したがって、塗布してから乾燥するまでの間のある時間の表面温度は一定になる。そのことを利用して塗布量を検査するようにしても良い。すなわち、塗布液14を塗布してから乾燥するまでの所定時間において、赤外線サーモグラフ16で生成された画像から塗布液14を抽出後、その抽出された塗布液14の表面温度をチェックする手段を設ける。また、そのときの塗布液14の形状に対してパターンマッチングをおこない、所定形状であるか否かを判断する手段を設けても良い。塗布液14の厚みが一定でないと、乾燥する速度が変化し、表面温度の形状が変化するためである。
【0029】
上述した2つの塗布液14の厚みを検査する方法を併用しても良い。さらには、塗布液14の位置と形状の検査と厚みの検査を同時におこなうようにしても良い。検査する回数は1回に限られない。塗布してから乾燥するまでの間に複数回検査をおこなうようにしても良い。検査精度が向上する。
【0030】
酵素の添加された塗布液14について実施形態を説明したが、透明の液体であれば他の液体でも本発明のシステム10を適用することができる。基本的には、基材12の赤外線の放射率が低く、塗布液14の赤外線の放射率が高いことが条件であり、塗布液14が乾燥するまでに検査をおこなうことが必要である。また、判定手段18などのおこなう画像処理は、回路、ソフト、またはその両方で実現されるものであれば、種々のものが利用可能である。
【0031】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の検査システムの構成を示す図である。
【図2】PET樹脂の上に複数の白金導体線が積層された基材の上面図である。
【図3】塗布液が正確に塗布されている状態を示す図である。
【図4】塗布液がはみ出して塗布されている状態を示す図である。
【図5】塗布液が位置ずれをおこして塗布されている状態を示す図である。
【図6】塗布液が乾燥したときの表面温度を示す図である。
【図7】塗布量がばらついたときの図であり、(a)は熱画像であり、(b)は(a)のX−X線断面図である。
【図8】バイオセンサーの一部を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)はY−Y線断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10:検査システム
12:基材
14:塗布液
16:赤外線サーモグラフ
18:判断手段
20:ディスペンサーロボット
22:台座
24:ディスペンサー
26:平面状の部材
28:導体線
30:モニタ
32:警報装置
34:入力装置
50:バイオセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対して塗布された可視光に対して透明の塗布液の塗布具合を検査するために、
前記塗布液が基材に塗布されてから乾燥されるまでの間に、基材および塗布液から放射される赤外線を検知し、該赤外線の基材および塗布液の放射率の違いを利用して基材と塗布液とが区別できる画像を生成する赤外線サーモグラフと、
前記画像から塗布液が基材の所定位置に所定形状で塗布されているか否かを判断する手段と、
を含む検査システム。
【請求項2】
前記基材の複数箇所に同じ形状に可視光に対して透明の塗布液が塗布され、前記塗布液の乾燥途中に赤外線サーモグラフで生成された画像から、少なくとも2カ所に塗布された塗布液の部分の画像の違いを比較し、該比較から塗布液の塗布量の違いを判断する手段を含む請求項1の検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−224464(P2008−224464A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64272(P2007−64272)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】