透明導電体およびその製造方法
【課題】高導電性の導電体、およびその簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度10万〜20万G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させることを特徴とする透明導電体の製造方法、およびその方法により得られる透明導電体。
【解決手段】カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度10万〜20万G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させることを特徴とする透明導電体の製造方法、およびその方法により得られる透明導電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体およびその製造方法に関し、より詳しくは、高導電性の透明導電体およびその簡便な製造方法に関する。本発明における透明導電性フィルムは、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、中でも特に2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、自体が優れた真性の導電性を有し、導電性材料として使用されることが期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブを用いた導電性フィルムは公知である。カーボンナノチューブを用いた導電性フィルムを作製するために、カーボンナノチューブを均一に分散媒中に分散する場合は、一般的には分散性に優れた分散剤を用いることで、高濃度のカーボンナノチューブ集合体の分散体を与え得るカーボンナノチューブ集合体が得られ、均一な導電体を作製することができる。
【0004】
しかし、カーボンナノチューブ集合体の分散体にはさまざまな長さのカーボンナノチューブが共存し、短いカーボンナノチューブは導電体の導電性を低下させてしまう。また、分散剤は一般的に絶縁性物質であり、カーボンナノチューブの導電性を低下させてしまう。以上より、高い導電性を有する透明導電体を作成する際には、分散液に含まれる短いカーボンナノチューブ、さらに分散に寄与しない余剰分散剤を、透明導電体上より取り除く必要がある。
【0005】
カーボンナノチューブ分散液をフィルム上に塗布後、余剰な分散剤を水によるリンスで除去することで、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、かつ高導電性の導電性フィルム、その製造方法が報告されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
中空糸を用いた内圧型循環濾過で単層カーボンナノチューブ分散液から長さ1.5μm以下のバンドルを形成している単層カーボンナノチューブを取り除くことで、従来の単層カーボンナノチューブからなる透明導電膜に比べ、透明性と電気伝導性に共に優れた透明導電フィルム、その製造方法が報告されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−149516号公報
【特許文献2】特開2008−251273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術においては、水によるリンス工程が必須であり、このことは、量産性、量産安定化の大きな課題となりうる。
【0009】
特許文献2には、短い単層カーボンナノチューブ除去に関する記載はあるものの、余剰分散剤除去に関する記載がない。
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高導電性の導電体、またその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する過程において、超遠心分離により分散液の上清部に長さの短い平均2.0μm以下の長さのカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を分離することで、分散液の沈澱部のカーボンナノチューブ長さを増加させた結果、透明導電性が向上することを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち本発明に係る透明導電体の製造方法は、カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度100.000〜200.000G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、該塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させることを特徴とする方法からなる。
【0013】
上記本発明に係る透明導電体の製造方法においては、上記透明導電体の製造方法における分散剤が、イオン性分散剤であることが好ましい。
【0014】
また、上記透明導電体の製造方法における分散剤が、カルボキシメチルセルロース(以降、CMCと略すこともある。)であることが好ましい。
【0015】
また、上記透明導電体の製造方法における分散媒が、水であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る透明導電体は、透明基材上に、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)0.5〜3.0で含有する導電層を有する導電体であり、前記カーボンナノチューブの一本当たりの長さの平均が2.1μm以上であり、かつ導電層中でのカーボンナノチューブ分散体の直径が2.0nm以下であることを特徴とするものからなる。
【0017】
この本発明に係る透明導電体においては、上記カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むことが好ましい。
【0018】
また、上記透明導電体の分散剤が、イオン性分散剤であることが好ましい。
【0019】
また、上記透明導電体の分散剤が、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超遠心処理により、長さの短いカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を上清部に分離し、沈澱部のカーボンナノチューブの長さを増加させることで、透明導電性に優れた透明導電体を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】比較例1bの透明導電体のマイカ基板上AFM(Atomic Force Microscope,原子間力顕微鏡)像を示す図である。
【図2】実施例1の透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図3】比較例1aの透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図4】比較例1b−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図5】実施例1−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図6】比較例1a−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図7】比較例2bの透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図8】実施例2の透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図9】比較例2aの透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図10】比較例2b−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図11】実施例2−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図12】比較例2a−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図13】被処理分散液1の超遠心分離後の遠心用チューブを観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明においては、透明導電体を製造するにあたり、カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度10万〜20万G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、該塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させる。
【0023】
このような工程を経て導電体の製造を行うことにより、長さの短い平均2.0μm以下の長さのカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を上清部に分離し、沈澱部のカーボンナノチューブの長さを増加させることで、透明導電性に優れた透明導電体が得られることを見出したものである。
【0024】
[カーボンナノチューブ]
本発明において用いられるカーボンナノチューブは、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するものであれば特に限定されず、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ、多層に巻いた多層カーボンナノチューブいずれも適用できる。中でもカーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むことが好ましい。2層カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を2層に巻いたカーボンナノチューブであり、これを50%以上含むとは、カーボンナノチューブ100本中50本以上であることをいう。カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むとカーボンナノチューブの導電性ならびに塗布用分散液中でのカーボンナノチューブの分散性が極めて高くなることから好ましい。さらに好ましくは100本中75本以上が二層カーボンナノチューブ、最も好ましくは100本中80本以上が二層カーボンナノチューブである。また、2層カーボンナノチューブは酸処理などによって表面が官能基化されても導電性などの本来の機能が損なわれない点からも好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと前記触媒を500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理することにより得られる。すなわち上記カーボンナノチューブの合成法により、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブは、製造した後、酸化処理を施すことにより単層〜5層の割合を、特に2層〜5層の割合を増加させることができる。酸化処理は例えば、硝酸処理する方法により行われる。硝酸処理法としては、本発明におけるカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、140℃のオイルバス中で行われる。硝酸処理時間は特に限定されないが、5時間〜50時間の範囲であることが望ましい。
【0026】
[分散剤]
本発明で用いる分散剤は、本発明における所定の分散性が得られる限り、カーボンナノチューブの分散能があれば、低分子、高分子、またイオン性分散剤、非イオン性分散剤など種類を問わないが、分散性、分散安定性から高分子であることが好ましい。その中で、多糖類または芳香族の構造を骨格中に有するポリマーまたは低分子のアニオン性界面活性剤は、特に分散性に優れるため好ましい。以下、多糖類の構造を骨格中に有するポリマーを多糖類ポリマー、芳香族の構造を骨格中に有するポリマーを芳香族性ポリマー、低分子のアニオン性界面活性剤をアニオン性界面活性剤と記す。かかる分散剤がカーボンナノチューブを分散媒中に均一に孤立に分散させる理由については、次のように考えている。カーボンナノチューブは、強固な束や互いに絡まり合い強固な凝集体を形成するため、溶媒中に孤立に分散させることが非常に困難である。カーボンナノチューブを溶媒中で孤立分散させるためには、カーボンナノチューブのグラファイトとπ電子相互作用し束や凝集を解すこと、もしくはカーボンナノチューブとの疎水性相互作用により束や凝集を解すことが必要である。本発明においては、上記より孤立したカーボンナノチューブ分散液を得られるという観点から、多糖類ポリマーや芳香族性ポリマーが有効に作用しているものと推測される。
【0027】
本発明において用いられる分散剤に好ましく用いられる多糖類ポリマーとしては、例えばカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロースおよびその誘導体、キシランおよびその誘導体があげられる。中でも、分散性の観点から、カルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体が好ましく、さらには、イオン性である、カルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体の塩の使用が、好ましい。分散剤として上記のカルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体の塩を用いる場合、塩を構成するカチオン性の物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムイオン、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミンのオニウムイオン、または、これらのポリエチレンオキシド付加物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明において用いられる分散剤に好ましく用いられる芳香族性ポリマーとしては、例えば芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ビニル樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリスチレンスルホン酸、ポリ−α−メチルスチレンスルホン酸等のポリスチレンスルホン酸の誘導体があげられる。中でも、分散性の観点から、ポリスチレンスルホン酸もしくはその誘導体の使用が好ましく、さらには、イオン性である、ポリスチレンスルホン酸もしくはその誘導体の塩の使用が、好ましい。
【0029】
本発明において用いられる分散剤に好ましく用いられるアニオン性界面活性剤としては、例えばオクチルベンゼンスルホン酸塩、ノニルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、モノイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、ジブチルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。中でも、分散性の観点から、コール酸ナトリウム、またはドデシルベンゼンスルホン酸塩の使用が好ましい。
【0030】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0031】
上記の分散剤のうち、例えば溶媒として水を用いた場合、特に親水基であるカルボン酸基、スルホン酸基、水酸基が含まれたポリマーによる、カーボンナノチューブ分散が好ましい。特に、多糖類であるカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0032】
本発明において、カルボキシメチルセルロースの誘導体の塩を用いる場合、塩を構成するカチオン性の物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムイオン、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミンのオニウムイオン、または、これらのポリエチレンオキシド付加物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
[分散剤の分子量]
分散剤の分子量は100以上が好ましい。100以上であればカーボンナノチューブと相互作用できカーボンナノチューブの分散がより良好となる。分子量はカーボンナノチューブの長さにもよるが大きいほどカーボンナノチューブと相互作用し分散性が向上する。例えば、ポリマーの場合であれば、ポリマー鎖が長くなるとポリマーがカーボンナノチューブにからみつき非常に安定に分散することができる。しかし、分子量が大きすぎると逆に分散性が低下するので好ましくは重量平均分子量1000万以下であり、さらに好ましくは、重量平均分子量100万以下である。最も好ましくは重量平均分子量1万〜50万である。
【0034】
[分散媒]
本発明において用いられる分散媒は、上記分散剤を溶解できる水系、また非水系の分散媒を用いることができる。廃液の処理や環境や防災上の観点から、水が好ましい。
【0035】
非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0036】
[被処理分散液]
本発明において用いる塗布用分散液の調製方法は、特に限定されないが、例えば次のような手順で行うことができる。分散時の処理時間が短縮できることから、一旦、分散媒中にカーボンナノチューブを0.003〜0.15質量%の濃度範囲で含まれる分散溶液を調製した後、希釈することで、所定の濃度とすることが好ましい。本発明において、カーボンナノチューブ[A]に対する分散剤[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)(以降、単に「質量比([B]/[A])」と略す)は0.5〜9.0である。質量比([B]/[A])が0.5より少ない場合は、均一に分散させることが困難になる。一方、質量比([B]/[A])が9より多い場合は、分散剤の増加による導電性の低下の影響が大きくなり、長さの増加による導電性向上のメリットが失われてしまう。かかる観点より、質量比([B]/[A])は、1.0〜9.0であることが好ましい。調製時の分散手段としては、カーボンナノチューブと分散剤を分散媒中で塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター(登録商標)、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合することが挙げられる。中でも、超音波装置を用いて分散する方法が、得られる塗布用分散液中のカーボンナノチューブの分散性が良好であることから好ましい。
【0037】
[超遠心分離]
本発明において、上記で作成した被処理分散液を、超遠心分離機を用いることで、余剰分散剤、また短い長さのカーボンナノチューブを分離することができる。カーボンナノチューブは、その両端部に親水基が多数存在するため、短いカーボンナノチューブの方が溶解性に優れている。よって、短いカーボンナノチューブは溶液中で凝集体を作りにくいため、超遠心分離により、上清部分に多数の短いカーボンナノチューブを移動させることができる。また、一般的にイオン性分散剤は、カーボンナノチューブと比較して密度が低いため、カーボンナノチューブと相互作用していない分散に寄与しない余剰分散剤を、超遠心分離により上清に分離することができる。
【0038】
上清部と沈澱部は、遠心管中に含まれる分散液の濃度により目視にて判別することができる。つまり、上清部はカーボンナノチューブの量が少なく濃度が薄いため透き通っているのに対して、沈殿部はカーボンナノチューブの量が増加して濃度が高いため透き通っていないことから判別可能である。
【0039】
超遠心分離機の種類は、処理容量やローターや遠心用チューブ等の種類に限定されず用いることができる。超遠心分離時の遠心加速度は、分離能と超遠心分離機の装置性能等の観点より、10万〜20万Gであることが好ましい。超遠心分離の処理時間は、分離能と生産性の観点より、1〜10時間であることが好ましい。
【0040】
[超遠心後の分散剤量]
本発明において、塗布用分散液の分散剤量比については、導電性を向上させるために、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを、[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])を0.5〜3.0の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])が0.5〜1.0の範囲である。[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])を、3.0以下とすることにより、絶縁物であるイオン性分散剤による導電性の悪化を抑制することができる。[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])の下限については、上記観点からは、低ければ低い程良いが、超遠心分離後沈殿物の塗布用分散液の分散性の観点から、0.5以上であることが好ましい。
【0041】
濾過により除去された分散剤量を定量するために、分散剤の種類に応じた分析方法を適宜適用すればよい。分散剤として、好ましく用いることができるカルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体、又はその塩の場合には、糖類の定量法の一つであるアントロン硫酸法が挙げられる。この分析方法では濃硫酸により多糖のグリコシド結合を加水分解し、さらに脱水することでフルフラールやその誘導体にした後、これらとアントロンを反応させて青緑色を呈する錯体を形成し、吸光度測定により糖類の定量を行なう。
【0042】
[透明基材]
本発明においては、以上のようにして得た、塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させて透明導電性体を製造する。透明基材とは、少なくとも波長550nmの光を50%以上透過させる性能を有するものをいう。かかる特性を満たしていれば、形態としては特に限定されず、例えば厚み250μm以下で巻き取り可能な透明フィルムであっても厚み250μmを超える透明基板等を適用することもできる。
【0043】
本発明において用いられる透明基材の素材としては、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスを組み合わせた基材、2種以上の樹脂を積層した基材などの複合基材であってもよい。樹脂フィルムにハードコートを設けたようなものであっても良い。透明基材の種類は上述に限定されることはなく、用途に応じて透明性や耐久性やコスト等から最適なものを選ぶことができる。
【0044】
[塗布用分散液の基材への塗布]
本発明に係る導電体の製造方法における未処理導電層の形成工程では、上記方法により得た塗布用分散液を基材に塗布し、その後分散媒を乾燥させてカーボンナノチューブを基材上に固定して未処理導電層を形成する。
【0045】
本発明において、塗布用分散液を基材上に塗布する方法は特に限定されない。既知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、複数回に分けて行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
【0046】
[濡れ剤]
塗布用分散液を基材上に塗布する際、塗布ムラを抑制するため、塗布用分散液中に濡れ剤を添加してもよい。本発明に係る製造方法において、塗布用分散液の分散媒に水を選択し非親水性の表面を有する基材上に塗布する場合には、界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を塗布用分散液に添加することで、基材上で塗布用分散液がはじかれることなく塗布用分散液を塗布することができる。濡れ剤としては、アルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いてもよい。
【0047】
[塗布厚みの調整]
塗布用分散液を透明基板上に塗布する際の塗布厚み(ウェット厚み)は塗布用分散液の濃度にも依存するため、望む光線透過率、表面抵抗値が得られるように適宜調整すればよい。本発明におけるカーボンナノチューブの塗布量は、透明導電性を必要とする種々の用途を達成するために、容易に調整可能であり、例えば膜厚を厚くすることにより表面抵抗は低くなり、膜厚を薄くすることにより高くなる傾向にあり、カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m2〜40mg/m2であれば、(透明導電性フィルムの550nmの光線透過率)/(基材の550nmの光線透過率)を50%以上とすることができる。基材の550nmの光線透過率とは、基材に表面樹脂層がある場合は、表面樹脂層も含めた光線透過率をいう。また、カーボンナノチューブの塗布量を40mg/m2以下とすれば50%以上とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量を30mg/m2以下とすれば60%以上とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量を20mg/m2以下であれば70%以上、カーボンナノチューブの塗布量を10mg/m2以下であれば80%以上とすることができ好ましい。
【0048】
また、カーボンナノチューブの塗布量により透明導電体の表面抵抗値も容易に調整可能であり、カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m2〜40mg/m2であれば表面抵抗値は1×100〜1×104Ω/□とすることができ、好ましい。さらに、イオン性分散剤の含有量にもよるが、カーボンナノチューブの塗布量を40mg/m2以下とすれば表面抵抗値を1×101Ω/□以下とすることができる。カーボンナノチューブの塗布量を30mg/m2以下とすればフィルムの表面抵抗値を1×102Ω/□以下とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量が20mg/m2以下であれば、1×103Ω/□以下、カーボンナノチューブの塗布量を10mg/m2以下であれば1×104Ω/□以下とすることができる。
【0049】
[透明導電体]
本発明に係る透明導電体の製造方法により得られる透明導電体は、透明基材上に、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)0.5〜3.0で含有する導電層を有する導電体である。また、本発明に係る製造方法により、長さが短いカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を上清部に分離することができるので、前記カーボンナノチューブの一本当たりの長さの平均が2.1μm以上であり、かつ導電層中でのカーボンナノチューブ分散体の直径が2.0nm以下であるカーボンナノチューブから構成される導電層を得ることができる。かかる構成とすることで透明導電体とすることで、次に示すような優れた透明導電性を得ることができる。
【0050】
[透明導電性]
本発明に係る透明導電体の透明導電性について、(透明導電体の550nmの光線透過率)/(透明基材の550nm光線透過率)が50%以上、表面抵抗値が1×100〜1×104Ω/□であることが好ましい。かかる表面抵抗値の範囲は、カーボンナノチューブの塗布量により調整することができる。表面抵抗値がこの範囲内にあることで、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどの導電膜付き基材として好ましく用いることができる。すなわち、1×100Ω/□以上であれば、上記の基材として消費電力を少なくすることができ、1×104Ω/□以下であれば、タッチパネルの上記の座標読み取り時における誤差の影響が小さくすることができる。
【0051】
このようにして得られる本発明に係る透明導電体は、全光線透過率87.0%における表面抵抗値が500〜1000Ω/□であることが、透明性と導電性が高く、好ましい。通常透明性と導電性はトレードオフの関係にあるが本発明の透明導電複合体はこれらを高いレベルで両立することができるものである。なお、全光線透過率87.0%における表面抵抗値は、全光線透過率が87.0%以上89.0%以下のサンプルと、84.0%以上87.0%未満のサンプルを、それぞれ1水準作成し、各々の表面抵抗値、全光線透過率を測定して得たデータから、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を内挿して算出する。このように、上記全光線透過率範囲のサンプル2点から内挿で求めるのは、上述の如く、通常透明性と導電性はトレードオフの関係にある(例えば導電層が厚くなれば透明性が低下し導電性は増加する)ところ、全光線透過率87.0%のサンプルを±0.1%の精度で得ることが困難であるからである。すなわち、コントロール可能な上記全光線透過率の範囲内で得たデータから内挿することにより、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を得るのである。
【0052】
[本発明における透明導電性フィルムの用途]
本発明における透明導電性フィルムは、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。特に断らない限り、測定n数は1で行った。
【0054】
(1)全光線透過率87.0%における表面抵抗値
表面抵抗値の測定は、5cm×10cmにサンプリングした透明導電体の導電面の中央部を4端子法で測定した。用いた測定器はダイアインスツルメンツ(株)製の抵抗率計MCP−T360型、4探針プローブはダイアインスツルメンツ(株)製MCP−TPO3Pを用いた。
【0055】
表面抵抗値の測定に供するサンプルは全光線透過率87.0%以上89.0%以下のサンプルと、84.0%以上87.0%未満のサンプルを、それぞれ1水準作成し、各々の表面抵抗値、全光線透過率を測定、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を内挿して算出した。
【0056】
次に、カーボンナノチューブ透明導電体の作成方法および評価結果を示す。
【0057】
(2)カーボンナノチューブ長さ測定
濃度0.003wt%に調整したカーボンナノチューブ分散液を、マイカ基板上にスピンコートしたのち、AFM(Shimadzu,SPM9600M)により、カーボンナノチューブ分散体の直径を1.5nm以下に限りカーボンナノチューブ長さを測定した。
【0058】
(3)カーボンナノチューブ分散体の直径測定
カーボンナノチューブを分散した被測定液のカーボンナノチューブの濃度を0.003wt%に調整し、マイカ基板上にスピンコートしたのち、AFM(Shimadzu,SPM9600M)により、ランダムに約100本のカーボンナノチューブ分散体の直径を測定した。
【0059】
(4)分散液中の分散剤定量
遠心後の被処理分散液の上清、沈殿物の質量を測定したのち5mlメスフラスコに水で洗い入れ、5mlにメスアップした。上記試料2mlにアントロン硫酸試験液(水34mLに硫酸66mLを加え、冷却後アントロン50mgを加えて溶解し、次にチオ尿素1gを加えて溶解させた溶液)を10ml加え、沸騰浴中で10分間加熱した後、冷水中で急冷し、620nmの吸光度を測定した。その吸光度を標準希釈液の吸光度から作成した検量線にプロットすることで検体等のCMC含有量を求めた。
【0060】
(5)分散剤の分子量測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、島津製作所、10Aシリーズ(ポンプ、インジェクター等)LC Solution、使用カラム、昭和電工(株)社製 Shodex(登録商標)/Asahi GF−7M HQ)を用い、臭化リチウム水溶液(10mmol/l)をサンプル濃度0.48mg/ml、注入量100μl、Flow rate1.0ml/min、時間30minにて重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0061】
[触媒調製例]
約24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業(株)社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷化学工業(株)社製MJ−30)を約1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。密閉した状態で160℃に加熱し6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物中に少量含まれる水分は120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分を乳鉢で細粒化し、篩いを用いて、20〜32メッシュの範囲の粒径のものを回収した。このようにして得た顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。かさ密度は0.32g/mLであった。また、濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.39質量%であった。
【0062】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造工程1]
触媒調製例に従い調製した固体触媒体132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けてマスフローコントローラーを用いて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにマスフローコントローラーを用いてメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。この際の固体触媒体の質量をメタンの流量で割った接触時間(W/F)は、169min・g/L、メタンを含むガスの線速は6.55cm/secであった。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却した。
【0063】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を取り出した。
【0064】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造工程2]
カーボンナノチューブ含有組成物製造工程1で得られた触媒付きカーボンナノチューブ組成物を115g用いて4.8Nの塩酸水溶液2000mL中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液400mLに投入し脱MgO処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返し、触媒が除去されたカーボンナノチューブ組成物を得た。上記のカーボンナノチューブ組成物を約300倍の質量の濃硝酸(和光純薬工業(株)社製 1級 Assay60〜61%)中に投入した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このカーボンナノチューブ組成物の平均直径は1.7nmであった。また2層カーボンナノチューブの割合は100本中90本であり、波長633nmで測定したラマンG/D比は79であり、燃焼ピーク温度は725℃であった。
【0065】
[被処理分散液1の調製]
20mLの容器に上記製造工程1,2を経て得られた含水ウェット状態のカーボンナノチューブ組成物を乾燥時換算で15mg分秤量し、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル社製40kDa,50〜200cps)水溶液1.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。アンモニアを用いてpHを10.0に合わせ、氷冷下で超音波ホモジナイザーを用い、出力20Wで7.5分間分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この上清液にイオン交換水を添加し、カーボンナノチューブが0.04wt%となるように濃度を調整し被処理分散液1を得た。
【0066】
[被処理分散液2の調製]
20mLの容器に上記製造工程1,2を経て得られた含水ウェット状態のカーボンナノチューブ組成物を乾燥時換算で15mg分秤量し、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル社製11kDa,50〜200cps)水溶液9.0gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。アンモニアを用いてpHを10.0に合わせ、氷冷下で超音波ホモジナイザーを用い、出力20Wで7.5分間分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この上清液にイオン交換水を添加し、カーボンナノチューブが0.04wt%となるように濃度を調整し被処理分散液2を得た。
【0067】
[塗布用分散液塗布]
上記被処理分散液1または2、また遠心分離後の上清部、沈澱部に、イオン交換水を添加してそれぞれ0.04wt%に調整後、基材としてコロナ処理を行ったPETフィルム(東レ(株)製ルミラー(登録商標)U46)を用い、該PETフィルム上にワイヤーバー#5を用いて塗布して、125℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。以下の各実施例では、本処方で作成したものをカーボンナノチューブ塗布フィルムとして用いた。
【0068】
(実施例1)
被処理分散液1を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、5時間の処理を行った。処理後、沈澱部を回収し、以下の測定を行った。図13に、被処理分散液1の超遠心分離後の遠心用チューブについて、沈澱部が現れている様子を観察した一例を示す。
実施例1−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
実施例1−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
実施例1−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
実施例1−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0069】
(比較例1a)
被処理分散液1を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、5時間の処理を行った。処理後、上清部を回収し、以下の測定を行った。
比較例1a−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例1a−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例1a−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
比較例1a−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0070】
(実施例2)
被処理分散液2を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、8時間の処理を行った。処理後、沈澱部を回収し、以下の測定を行った。
実施例2−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
実施例2−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
実施例2−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
実施例2−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0071】
(比較例2a)
被処理分散液2を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、8時間の処理を行った。処理後、上清部を回収し、以下の測定を行った。
比較例2a−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例2a−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例2a−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
比較例2a−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0072】
(比較例1b)
被処理分散液1について、以下の測定を行った。
比較例1b−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例1b−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例1b−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
【0073】
(比較例2b)
被処理分散液2について、以下の測定を行った。
比較例2b−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例2b−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例2b−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
【0074】
以上、発明の実施例について述べてきたが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことができる。
【0075】
実施例1,2、比較例1a,1b,2a,2bの各結果を表1にまとめた。
【0076】
【表1】
【0077】
図1〜3に、質量比([B]/[A])が1の被処理分散液(比較例1b)、遠心処理後沈澱部(実施例1)、遠心処理後上清部(比較例1a)のマイカ基板上のAFM像を示す。
【0078】
図4〜6に、質量比([B]/[A])が1の被処理分散液(比較例1b−1)、遠心処理後沈澱部(実施例1−1)、遠心処理後上清部(比較例1a−1)のカーボンナノチューブ長さ測定の結果をヒストグラムで示す。
【0079】
図7〜9に、質量比([B]/[A])が6の被処理分散液(比較例2b)、遠心処理後沈澱部(実施例2)、遠心処理後上清部(比較例2a)のAFM像を示す。
【0080】
図10〜12に、質量比([B]/[A])が6の被処理分散液(比較例2b−1)、遠心処理後沈澱部(実施例2−1)、遠心処理後上清部(比較例2a−1)のカーボンナノチューブ長さ測定の結果をヒストグラムで示す。
【0081】
比較例1a−3、2a−3で透明導電性が測定できなかった理由は、比較例1a−4、2a−4から分かるように、分散液に含まれる分散剤の比[B]/[A]がそれぞれ6.4、65と増加した点、また比較例1a−1、2a−1から分かるように、長さがそれぞれ1.0、2.0μmと短くなったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る導電体は、各種の導電性材料として利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体およびその製造方法に関し、より詳しくは、高導電性の透明導電体およびその簡便な製造方法に関する。本発明における透明導電性フィルムは、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、中でも特に2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、自体が優れた真性の導電性を有し、導電性材料として使用されることが期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブを用いた導電性フィルムは公知である。カーボンナノチューブを用いた導電性フィルムを作製するために、カーボンナノチューブを均一に分散媒中に分散する場合は、一般的には分散性に優れた分散剤を用いることで、高濃度のカーボンナノチューブ集合体の分散体を与え得るカーボンナノチューブ集合体が得られ、均一な導電体を作製することができる。
【0004】
しかし、カーボンナノチューブ集合体の分散体にはさまざまな長さのカーボンナノチューブが共存し、短いカーボンナノチューブは導電体の導電性を低下させてしまう。また、分散剤は一般的に絶縁性物質であり、カーボンナノチューブの導電性を低下させてしまう。以上より、高い導電性を有する透明導電体を作成する際には、分散液に含まれる短いカーボンナノチューブ、さらに分散に寄与しない余剰分散剤を、透明導電体上より取り除く必要がある。
【0005】
カーボンナノチューブ分散液をフィルム上に塗布後、余剰な分散剤を水によるリンスで除去することで、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、かつ高導電性の導電性フィルム、その製造方法が報告されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
中空糸を用いた内圧型循環濾過で単層カーボンナノチューブ分散液から長さ1.5μm以下のバンドルを形成している単層カーボンナノチューブを取り除くことで、従来の単層カーボンナノチューブからなる透明導電膜に比べ、透明性と電気伝導性に共に優れた透明導電フィルム、その製造方法が報告されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−149516号公報
【特許文献2】特開2008−251273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術においては、水によるリンス工程が必須であり、このことは、量産性、量産安定化の大きな課題となりうる。
【0009】
特許文献2には、短い単層カーボンナノチューブ除去に関する記載はあるものの、余剰分散剤除去に関する記載がない。
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高導電性の導電体、またその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する過程において、超遠心分離により分散液の上清部に長さの短い平均2.0μm以下の長さのカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を分離することで、分散液の沈澱部のカーボンナノチューブ長さを増加させた結果、透明導電性が向上することを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち本発明に係る透明導電体の製造方法は、カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度100.000〜200.000G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、該塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させることを特徴とする方法からなる。
【0013】
上記本発明に係る透明導電体の製造方法においては、上記透明導電体の製造方法における分散剤が、イオン性分散剤であることが好ましい。
【0014】
また、上記透明導電体の製造方法における分散剤が、カルボキシメチルセルロース(以降、CMCと略すこともある。)であることが好ましい。
【0015】
また、上記透明導電体の製造方法における分散媒が、水であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る透明導電体は、透明基材上に、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)0.5〜3.0で含有する導電層を有する導電体であり、前記カーボンナノチューブの一本当たりの長さの平均が2.1μm以上であり、かつ導電層中でのカーボンナノチューブ分散体の直径が2.0nm以下であることを特徴とするものからなる。
【0017】
この本発明に係る透明導電体においては、上記カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むことが好ましい。
【0018】
また、上記透明導電体の分散剤が、イオン性分散剤であることが好ましい。
【0019】
また、上記透明導電体の分散剤が、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超遠心処理により、長さの短いカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を上清部に分離し、沈澱部のカーボンナノチューブの長さを増加させることで、透明導電性に優れた透明導電体を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】比較例1bの透明導電体のマイカ基板上AFM(Atomic Force Microscope,原子間力顕微鏡)像を示す図である。
【図2】実施例1の透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図3】比較例1aの透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図4】比較例1b−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図5】実施例1−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図6】比較例1a−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図7】比較例2bの透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図8】実施例2の透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図9】比較例2aの透明導電体のマイカ基板上AFM像を示す図である。
【図10】比較例2b−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図11】実施例2−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図12】比較例2a−1のカーボンナノチューブ長さ測定のヒストグラムである。
【図13】被処理分散液1の超遠心分離後の遠心用チューブを観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明においては、透明導電体を製造するにあたり、カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度10万〜20万G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、該塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させる。
【0023】
このような工程を経て導電体の製造を行うことにより、長さの短い平均2.0μm以下の長さのカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を上清部に分離し、沈澱部のカーボンナノチューブの長さを増加させることで、透明導電性に優れた透明導電体が得られることを見出したものである。
【0024】
[カーボンナノチューブ]
本発明において用いられるカーボンナノチューブは、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するものであれば特に限定されず、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ、多層に巻いた多層カーボンナノチューブいずれも適用できる。中でもカーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むことが好ましい。2層カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を2層に巻いたカーボンナノチューブであり、これを50%以上含むとは、カーボンナノチューブ100本中50本以上であることをいう。カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むとカーボンナノチューブの導電性ならびに塗布用分散液中でのカーボンナノチューブの分散性が極めて高くなることから好ましい。さらに好ましくは100本中75本以上が二層カーボンナノチューブ、最も好ましくは100本中80本以上が二層カーボンナノチューブである。また、2層カーボンナノチューブは酸処理などによって表面が官能基化されても導電性などの本来の機能が損なわれない点からも好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと前記触媒を500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理することにより得られる。すなわち上記カーボンナノチューブの合成法により、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブは、製造した後、酸化処理を施すことにより単層〜5層の割合を、特に2層〜5層の割合を増加させることができる。酸化処理は例えば、硝酸処理する方法により行われる。硝酸処理法としては、本発明におけるカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、140℃のオイルバス中で行われる。硝酸処理時間は特に限定されないが、5時間〜50時間の範囲であることが望ましい。
【0026】
[分散剤]
本発明で用いる分散剤は、本発明における所定の分散性が得られる限り、カーボンナノチューブの分散能があれば、低分子、高分子、またイオン性分散剤、非イオン性分散剤など種類を問わないが、分散性、分散安定性から高分子であることが好ましい。その中で、多糖類または芳香族の構造を骨格中に有するポリマーまたは低分子のアニオン性界面活性剤は、特に分散性に優れるため好ましい。以下、多糖類の構造を骨格中に有するポリマーを多糖類ポリマー、芳香族の構造を骨格中に有するポリマーを芳香族性ポリマー、低分子のアニオン性界面活性剤をアニオン性界面活性剤と記す。かかる分散剤がカーボンナノチューブを分散媒中に均一に孤立に分散させる理由については、次のように考えている。カーボンナノチューブは、強固な束や互いに絡まり合い強固な凝集体を形成するため、溶媒中に孤立に分散させることが非常に困難である。カーボンナノチューブを溶媒中で孤立分散させるためには、カーボンナノチューブのグラファイトとπ電子相互作用し束や凝集を解すこと、もしくはカーボンナノチューブとの疎水性相互作用により束や凝集を解すことが必要である。本発明においては、上記より孤立したカーボンナノチューブ分散液を得られるという観点から、多糖類ポリマーや芳香族性ポリマーが有効に作用しているものと推測される。
【0027】
本発明において用いられる分散剤に好ましく用いられる多糖類ポリマーとしては、例えばカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロースおよびその誘導体、キシランおよびその誘導体があげられる。中でも、分散性の観点から、カルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体が好ましく、さらには、イオン性である、カルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体の塩の使用が、好ましい。分散剤として上記のカルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体の塩を用いる場合、塩を構成するカチオン性の物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムイオン、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミンのオニウムイオン、または、これらのポリエチレンオキシド付加物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明において用いられる分散剤に好ましく用いられる芳香族性ポリマーとしては、例えば芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ビニル樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリスチレンスルホン酸、ポリ−α−メチルスチレンスルホン酸等のポリスチレンスルホン酸の誘導体があげられる。中でも、分散性の観点から、ポリスチレンスルホン酸もしくはその誘導体の使用が好ましく、さらには、イオン性である、ポリスチレンスルホン酸もしくはその誘導体の塩の使用が、好ましい。
【0029】
本発明において用いられる分散剤に好ましく用いられるアニオン性界面活性剤としては、例えばオクチルベンゼンスルホン酸塩、ノニルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、モノイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、ジブチルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。中でも、分散性の観点から、コール酸ナトリウム、またはドデシルベンゼンスルホン酸塩の使用が好ましい。
【0030】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0031】
上記の分散剤のうち、例えば溶媒として水を用いた場合、特に親水基であるカルボン酸基、スルホン酸基、水酸基が含まれたポリマーによる、カーボンナノチューブ分散が好ましい。特に、多糖類であるカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0032】
本発明において、カルボキシメチルセルロースの誘導体の塩を用いる場合、塩を構成するカチオン性の物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムイオン、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミンのオニウムイオン、または、これらのポリエチレンオキシド付加物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
[分散剤の分子量]
分散剤の分子量は100以上が好ましい。100以上であればカーボンナノチューブと相互作用できカーボンナノチューブの分散がより良好となる。分子量はカーボンナノチューブの長さにもよるが大きいほどカーボンナノチューブと相互作用し分散性が向上する。例えば、ポリマーの場合であれば、ポリマー鎖が長くなるとポリマーがカーボンナノチューブにからみつき非常に安定に分散することができる。しかし、分子量が大きすぎると逆に分散性が低下するので好ましくは重量平均分子量1000万以下であり、さらに好ましくは、重量平均分子量100万以下である。最も好ましくは重量平均分子量1万〜50万である。
【0034】
[分散媒]
本発明において用いられる分散媒は、上記分散剤を溶解できる水系、また非水系の分散媒を用いることができる。廃液の処理や環境や防災上の観点から、水が好ましい。
【0035】
非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0036】
[被処理分散液]
本発明において用いる塗布用分散液の調製方法は、特に限定されないが、例えば次のような手順で行うことができる。分散時の処理時間が短縮できることから、一旦、分散媒中にカーボンナノチューブを0.003〜0.15質量%の濃度範囲で含まれる分散溶液を調製した後、希釈することで、所定の濃度とすることが好ましい。本発明において、カーボンナノチューブ[A]に対する分散剤[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)(以降、単に「質量比([B]/[A])」と略す)は0.5〜9.0である。質量比([B]/[A])が0.5より少ない場合は、均一に分散させることが困難になる。一方、質量比([B]/[A])が9より多い場合は、分散剤の増加による導電性の低下の影響が大きくなり、長さの増加による導電性向上のメリットが失われてしまう。かかる観点より、質量比([B]/[A])は、1.0〜9.0であることが好ましい。調製時の分散手段としては、カーボンナノチューブと分散剤を分散媒中で塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター(登録商標)、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合することが挙げられる。中でも、超音波装置を用いて分散する方法が、得られる塗布用分散液中のカーボンナノチューブの分散性が良好であることから好ましい。
【0037】
[超遠心分離]
本発明において、上記で作成した被処理分散液を、超遠心分離機を用いることで、余剰分散剤、また短い長さのカーボンナノチューブを分離することができる。カーボンナノチューブは、その両端部に親水基が多数存在するため、短いカーボンナノチューブの方が溶解性に優れている。よって、短いカーボンナノチューブは溶液中で凝集体を作りにくいため、超遠心分離により、上清部分に多数の短いカーボンナノチューブを移動させることができる。また、一般的にイオン性分散剤は、カーボンナノチューブと比較して密度が低いため、カーボンナノチューブと相互作用していない分散に寄与しない余剰分散剤を、超遠心分離により上清に分離することができる。
【0038】
上清部と沈澱部は、遠心管中に含まれる分散液の濃度により目視にて判別することができる。つまり、上清部はカーボンナノチューブの量が少なく濃度が薄いため透き通っているのに対して、沈殿部はカーボンナノチューブの量が増加して濃度が高いため透き通っていないことから判別可能である。
【0039】
超遠心分離機の種類は、処理容量やローターや遠心用チューブ等の種類に限定されず用いることができる。超遠心分離時の遠心加速度は、分離能と超遠心分離機の装置性能等の観点より、10万〜20万Gであることが好ましい。超遠心分離の処理時間は、分離能と生産性の観点より、1〜10時間であることが好ましい。
【0040】
[超遠心後の分散剤量]
本発明において、塗布用分散液の分散剤量比については、導電性を向上させるために、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを、[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])を0.5〜3.0の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])が0.5〜1.0の範囲である。[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])を、3.0以下とすることにより、絶縁物であるイオン性分散剤による導電性の悪化を抑制することができる。[A]に対する[B]の質量比([B]/[A])の下限については、上記観点からは、低ければ低い程良いが、超遠心分離後沈殿物の塗布用分散液の分散性の観点から、0.5以上であることが好ましい。
【0041】
濾過により除去された分散剤量を定量するために、分散剤の種類に応じた分析方法を適宜適用すればよい。分散剤として、好ましく用いることができるカルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体、又はその塩の場合には、糖類の定量法の一つであるアントロン硫酸法が挙げられる。この分析方法では濃硫酸により多糖のグリコシド結合を加水分解し、さらに脱水することでフルフラールやその誘導体にした後、これらとアントロンを反応させて青緑色を呈する錯体を形成し、吸光度測定により糖類の定量を行なう。
【0042】
[透明基材]
本発明においては、以上のようにして得た、塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させて透明導電性体を製造する。透明基材とは、少なくとも波長550nmの光を50%以上透過させる性能を有するものをいう。かかる特性を満たしていれば、形態としては特に限定されず、例えば厚み250μm以下で巻き取り可能な透明フィルムであっても厚み250μmを超える透明基板等を適用することもできる。
【0043】
本発明において用いられる透明基材の素材としては、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスを組み合わせた基材、2種以上の樹脂を積層した基材などの複合基材であってもよい。樹脂フィルムにハードコートを設けたようなものであっても良い。透明基材の種類は上述に限定されることはなく、用途に応じて透明性や耐久性やコスト等から最適なものを選ぶことができる。
【0044】
[塗布用分散液の基材への塗布]
本発明に係る導電体の製造方法における未処理導電層の形成工程では、上記方法により得た塗布用分散液を基材に塗布し、その後分散媒を乾燥させてカーボンナノチューブを基材上に固定して未処理導電層を形成する。
【0045】
本発明において、塗布用分散液を基材上に塗布する方法は特に限定されない。既知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、複数回に分けて行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
【0046】
[濡れ剤]
塗布用分散液を基材上に塗布する際、塗布ムラを抑制するため、塗布用分散液中に濡れ剤を添加してもよい。本発明に係る製造方法において、塗布用分散液の分散媒に水を選択し非親水性の表面を有する基材上に塗布する場合には、界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を塗布用分散液に添加することで、基材上で塗布用分散液がはじかれることなく塗布用分散液を塗布することができる。濡れ剤としては、アルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いてもよい。
【0047】
[塗布厚みの調整]
塗布用分散液を透明基板上に塗布する際の塗布厚み(ウェット厚み)は塗布用分散液の濃度にも依存するため、望む光線透過率、表面抵抗値が得られるように適宜調整すればよい。本発明におけるカーボンナノチューブの塗布量は、透明導電性を必要とする種々の用途を達成するために、容易に調整可能であり、例えば膜厚を厚くすることにより表面抵抗は低くなり、膜厚を薄くすることにより高くなる傾向にあり、カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m2〜40mg/m2であれば、(透明導電性フィルムの550nmの光線透過率)/(基材の550nmの光線透過率)を50%以上とすることができる。基材の550nmの光線透過率とは、基材に表面樹脂層がある場合は、表面樹脂層も含めた光線透過率をいう。また、カーボンナノチューブの塗布量を40mg/m2以下とすれば50%以上とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量を30mg/m2以下とすれば60%以上とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量を20mg/m2以下であれば70%以上、カーボンナノチューブの塗布量を10mg/m2以下であれば80%以上とすることができ好ましい。
【0048】
また、カーボンナノチューブの塗布量により透明導電体の表面抵抗値も容易に調整可能であり、カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m2〜40mg/m2であれば表面抵抗値は1×100〜1×104Ω/□とすることができ、好ましい。さらに、イオン性分散剤の含有量にもよるが、カーボンナノチューブの塗布量を40mg/m2以下とすれば表面抵抗値を1×101Ω/□以下とすることができる。カーボンナノチューブの塗布量を30mg/m2以下とすればフィルムの表面抵抗値を1×102Ω/□以下とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量が20mg/m2以下であれば、1×103Ω/□以下、カーボンナノチューブの塗布量を10mg/m2以下であれば1×104Ω/□以下とすることができる。
【0049】
[透明導電体]
本発明に係る透明導電体の製造方法により得られる透明導電体は、透明基材上に、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)0.5〜3.0で含有する導電層を有する導電体である。また、本発明に係る製造方法により、長さが短いカーボンナノチューブと分散に寄与しない余剰分散剤を上清部に分離することができるので、前記カーボンナノチューブの一本当たりの長さの平均が2.1μm以上であり、かつ導電層中でのカーボンナノチューブ分散体の直径が2.0nm以下であるカーボンナノチューブから構成される導電層を得ることができる。かかる構成とすることで透明導電体とすることで、次に示すような優れた透明導電性を得ることができる。
【0050】
[透明導電性]
本発明に係る透明導電体の透明導電性について、(透明導電体の550nmの光線透過率)/(透明基材の550nm光線透過率)が50%以上、表面抵抗値が1×100〜1×104Ω/□であることが好ましい。かかる表面抵抗値の範囲は、カーボンナノチューブの塗布量により調整することができる。表面抵抗値がこの範囲内にあることで、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどの導電膜付き基材として好ましく用いることができる。すなわち、1×100Ω/□以上であれば、上記の基材として消費電力を少なくすることができ、1×104Ω/□以下であれば、タッチパネルの上記の座標読み取り時における誤差の影響が小さくすることができる。
【0051】
このようにして得られる本発明に係る透明導電体は、全光線透過率87.0%における表面抵抗値が500〜1000Ω/□であることが、透明性と導電性が高く、好ましい。通常透明性と導電性はトレードオフの関係にあるが本発明の透明導電複合体はこれらを高いレベルで両立することができるものである。なお、全光線透過率87.0%における表面抵抗値は、全光線透過率が87.0%以上89.0%以下のサンプルと、84.0%以上87.0%未満のサンプルを、それぞれ1水準作成し、各々の表面抵抗値、全光線透過率を測定して得たデータから、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を内挿して算出する。このように、上記全光線透過率範囲のサンプル2点から内挿で求めるのは、上述の如く、通常透明性と導電性はトレードオフの関係にある(例えば導電層が厚くなれば透明性が低下し導電性は増加する)ところ、全光線透過率87.0%のサンプルを±0.1%の精度で得ることが困難であるからである。すなわち、コントロール可能な上記全光線透過率の範囲内で得たデータから内挿することにより、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を得るのである。
【0052】
[本発明における透明導電性フィルムの用途]
本発明における透明導電性フィルムは、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。特に断らない限り、測定n数は1で行った。
【0054】
(1)全光線透過率87.0%における表面抵抗値
表面抵抗値の測定は、5cm×10cmにサンプリングした透明導電体の導電面の中央部を4端子法で測定した。用いた測定器はダイアインスツルメンツ(株)製の抵抗率計MCP−T360型、4探針プローブはダイアインスツルメンツ(株)製MCP−TPO3Pを用いた。
【0055】
表面抵抗値の測定に供するサンプルは全光線透過率87.0%以上89.0%以下のサンプルと、84.0%以上87.0%未満のサンプルを、それぞれ1水準作成し、各々の表面抵抗値、全光線透過率を測定、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を内挿して算出した。
【0056】
次に、カーボンナノチューブ透明導電体の作成方法および評価結果を示す。
【0057】
(2)カーボンナノチューブ長さ測定
濃度0.003wt%に調整したカーボンナノチューブ分散液を、マイカ基板上にスピンコートしたのち、AFM(Shimadzu,SPM9600M)により、カーボンナノチューブ分散体の直径を1.5nm以下に限りカーボンナノチューブ長さを測定した。
【0058】
(3)カーボンナノチューブ分散体の直径測定
カーボンナノチューブを分散した被測定液のカーボンナノチューブの濃度を0.003wt%に調整し、マイカ基板上にスピンコートしたのち、AFM(Shimadzu,SPM9600M)により、ランダムに約100本のカーボンナノチューブ分散体の直径を測定した。
【0059】
(4)分散液中の分散剤定量
遠心後の被処理分散液の上清、沈殿物の質量を測定したのち5mlメスフラスコに水で洗い入れ、5mlにメスアップした。上記試料2mlにアントロン硫酸試験液(水34mLに硫酸66mLを加え、冷却後アントロン50mgを加えて溶解し、次にチオ尿素1gを加えて溶解させた溶液)を10ml加え、沸騰浴中で10分間加熱した後、冷水中で急冷し、620nmの吸光度を測定した。その吸光度を標準希釈液の吸光度から作成した検量線にプロットすることで検体等のCMC含有量を求めた。
【0060】
(5)分散剤の分子量測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、島津製作所、10Aシリーズ(ポンプ、インジェクター等)LC Solution、使用カラム、昭和電工(株)社製 Shodex(登録商標)/Asahi GF−7M HQ)を用い、臭化リチウム水溶液(10mmol/l)をサンプル濃度0.48mg/ml、注入量100μl、Flow rate1.0ml/min、時間30minにて重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0061】
[触媒調製例]
約24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業(株)社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷化学工業(株)社製MJ−30)を約1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。密閉した状態で160℃に加熱し6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物中に少量含まれる水分は120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分を乳鉢で細粒化し、篩いを用いて、20〜32メッシュの範囲の粒径のものを回収した。このようにして得た顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。かさ密度は0.32g/mLであった。また、濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.39質量%であった。
【0062】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造工程1]
触媒調製例に従い調製した固体触媒体132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けてマスフローコントローラーを用いて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにマスフローコントローラーを用いてメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。この際の固体触媒体の質量をメタンの流量で割った接触時間(W/F)は、169min・g/L、メタンを含むガスの線速は6.55cm/secであった。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却した。
【0063】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を取り出した。
【0064】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造工程2]
カーボンナノチューブ含有組成物製造工程1で得られた触媒付きカーボンナノチューブ組成物を115g用いて4.8Nの塩酸水溶液2000mL中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液400mLに投入し脱MgO処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返し、触媒が除去されたカーボンナノチューブ組成物を得た。上記のカーボンナノチューブ組成物を約300倍の質量の濃硝酸(和光純薬工業(株)社製 1級 Assay60〜61%)中に投入した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このカーボンナノチューブ組成物の平均直径は1.7nmであった。また2層カーボンナノチューブの割合は100本中90本であり、波長633nmで測定したラマンG/D比は79であり、燃焼ピーク温度は725℃であった。
【0065】
[被処理分散液1の調製]
20mLの容器に上記製造工程1,2を経て得られた含水ウェット状態のカーボンナノチューブ組成物を乾燥時換算で15mg分秤量し、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル社製40kDa,50〜200cps)水溶液1.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。アンモニアを用いてpHを10.0に合わせ、氷冷下で超音波ホモジナイザーを用い、出力20Wで7.5分間分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この上清液にイオン交換水を添加し、カーボンナノチューブが0.04wt%となるように濃度を調整し被処理分散液1を得た。
【0066】
[被処理分散液2の調製]
20mLの容器に上記製造工程1,2を経て得られた含水ウェット状態のカーボンナノチューブ組成物を乾燥時換算で15mg分秤量し、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル社製11kDa,50〜200cps)水溶液9.0gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。アンモニアを用いてpHを10.0に合わせ、氷冷下で超音波ホモジナイザーを用い、出力20Wで7.5分間分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この上清液にイオン交換水を添加し、カーボンナノチューブが0.04wt%となるように濃度を調整し被処理分散液2を得た。
【0067】
[塗布用分散液塗布]
上記被処理分散液1または2、また遠心分離後の上清部、沈澱部に、イオン交換水を添加してそれぞれ0.04wt%に調整後、基材としてコロナ処理を行ったPETフィルム(東レ(株)製ルミラー(登録商標)U46)を用い、該PETフィルム上にワイヤーバー#5を用いて塗布して、125℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。以下の各実施例では、本処方で作成したものをカーボンナノチューブ塗布フィルムとして用いた。
【0068】
(実施例1)
被処理分散液1を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、5時間の処理を行った。処理後、沈澱部を回収し、以下の測定を行った。図13に、被処理分散液1の超遠心分離後の遠心用チューブについて、沈澱部が現れている様子を観察した一例を示す。
実施例1−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
実施例1−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
実施例1−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
実施例1−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0069】
(比較例1a)
被処理分散液1を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、5時間の処理を行った。処理後、上清部を回収し、以下の測定を行った。
比較例1a−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例1a−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例1a−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
比較例1a−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0070】
(実施例2)
被処理分散液2を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、8時間の処理を行った。処理後、沈澱部を回収し、以下の測定を行った。
実施例2−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
実施例2−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
実施例2−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
実施例2−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0071】
(比較例2a)
被処理分散液2を4本の遠心分離用チューブにそれぞれ3mlずつ加えスイングロータにセットし、分離用超遠心機(日立工機、himac(登録商標)、CP−WX)で遠心加速度147.000G、8時間の処理を行った。処理後、上清部を回収し、以下の測定を行った。
比較例2a−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例2a−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例2a−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
比較例2a−4;分散液中の分散剤定量を行った。
【0072】
(比較例1b)
被処理分散液1について、以下の測定を行った。
比較例1b−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例1b−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例1b−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
【0073】
(比較例2b)
被処理分散液2について、以下の測定を行った。
比較例2b−1;カーボンナノチューブ長さ測定を行った。
比較例2b−2;カーボンナノチューブ分散体直径測定行った。
比較例2b−3;上記の条件で塗布後、表面抵抗値、また550nm透過率測定を行った。
【0074】
以上、発明の実施例について述べてきたが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことができる。
【0075】
実施例1,2、比較例1a,1b,2a,2bの各結果を表1にまとめた。
【0076】
【表1】
【0077】
図1〜3に、質量比([B]/[A])が1の被処理分散液(比較例1b)、遠心処理後沈澱部(実施例1)、遠心処理後上清部(比較例1a)のマイカ基板上のAFM像を示す。
【0078】
図4〜6に、質量比([B]/[A])が1の被処理分散液(比較例1b−1)、遠心処理後沈澱部(実施例1−1)、遠心処理後上清部(比較例1a−1)のカーボンナノチューブ長さ測定の結果をヒストグラムで示す。
【0079】
図7〜9に、質量比([B]/[A])が6の被処理分散液(比較例2b)、遠心処理後沈澱部(実施例2)、遠心処理後上清部(比較例2a)のAFM像を示す。
【0080】
図10〜12に、質量比([B]/[A])が6の被処理分散液(比較例2b−1)、遠心処理後沈澱部(実施例2−1)、遠心処理後上清部(比較例2a−1)のカーボンナノチューブ長さ測定の結果をヒストグラムで示す。
【0081】
比較例1a−3、2a−3で透明導電性が測定できなかった理由は、比較例1a−4、2a−4から分かるように、分散液に含まれる分散剤の比[B]/[A]がそれぞれ6.4、65と増加した点、また比較例1a−1、2a−1から分かるように、長さがそれぞれ1.0、2.0μmと短くなったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る導電体は、各種の導電性材料として利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度10万〜20万G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、該塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させることを特徴とする透明導電体の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤がイオン性分散剤である、請求項1に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤がカルボキシメチルセルロースである、請求項1または2に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒が水である、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電体の製造方法。
【請求項5】
透明基材上に、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)0.5〜3.0で含有する導電層を有する導電体であり、前記カーボンナノチューブの一本当たりの長さの平均が2.1μm以上であり、かつ導電層中でのカーボンナノチューブ分散体の直径が2.0nm以下であることを特徴とする透明導電体。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含む、請求項5に記載の透明導電体。
【請求項7】
前記分散剤がイオン性分散剤である、請求項5または6に記載の透明導電体。
【請求項8】
前記分散剤がカルボキシメチルセルロースである、請求項5〜7のいずれかに記載の透明導電体。
【請求項1】
カーボンナノチューブ[A]と、分散剤[B]と、分散媒[C]とが、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が1.0〜9.0で含まれる被処理分散液を、遠心加速度10万〜20万G、1〜10時間の超遠心分離することにより作成された、[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)が0.5〜3.0で含まれる遠心後の沈澱部を用いて塗布用分散液を調製し、該塗布用分散液を透明基材上に塗布した後、乾燥させることを特徴とする透明導電体の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤がイオン性分散剤である、請求項1に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤がカルボキシメチルセルロースである、請求項1または2に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒が水である、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電体の製造方法。
【請求項5】
透明基材上に、カーボンナノチューブ[A]と分散剤[B]とを[A]に対する[B]の質量比([B]の含有量/[A]の含有量)0.5〜3.0で含有する導電層を有する導電体であり、前記カーボンナノチューブの一本当たりの長さの平均が2.1μm以上であり、かつ導電層中でのカーボンナノチューブ分散体の直径が2.0nm以下であることを特徴とする透明導電体。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含む、請求項5に記載の透明導電体。
【請求項7】
前記分散剤がイオン性分散剤である、請求項5または6に記載の透明導電体。
【請求項8】
前記分散剤がカルボキシメチルセルロースである、請求項5〜7のいずれかに記載の透明導電体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−216284(P2012−216284A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78810(P2011−78810)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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