説明

透明導電体の製造方法、透明導電体、デバイス及び電子機器

【課題】低コストで低抵抗化を実現可能な透明導電体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板11上に設けられた透明導電体の製造方法であって、透明導電体は、アナターゼ型TiOの酸素をフッ素に置換して得られるアナターゼ型結晶構造を有するF:TiOであり、パルスレーザ堆積法を用い、制御された酸素分圧の雰囲気下において、TiとFとからなる化合物にパルスレーザを照射し、300℃以上650℃以下加熱された基板11上に反応生成物をエピタキシャル成長させることにより行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体の製造方法、透明導電体、デバイス及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示パネルなどの画像表示装置の大型化、および小型携帯化へのニーズが高くなっている。これを実現するためには、可視光線透過率が高く、かつ抵抗値が低い透明電極を画素電極として適用することが不可欠である。
【0003】
また、最近実用化されつつある有機エレクトロルミネッセンス素子や、市場に広まっているプラズマディスプレイパネル(PDP)、さらには次世代のディスプレイとして開発されつつあるフィールドエミッションディスプレイ(FED)であっても同様に、透明電極を画素電極として用いている。
【0004】
透明導電性薄膜の代表例は、スズをドープした酸化インジウムからなるインジウム・ティン・オキサイド膜(以下、ITO膜という)である。ITO膜は透明性に優れ、且つ高い導電性を有しており、上述の画像表示装置の画素電極に適している。しかし、原料として含まれるインジウムは、地殻での含有率が50ppbと少なく、資源の枯渇が懸念されており、将来的な原料コストの上昇が予想されている。そのため近年では、ITOに代わる透明導電性材料について、種々の検討が成されている。
【0005】
このような、ITOに代わる透明導電材料として、耐薬品性および耐久性を兼ね備えた二酸化チタン(TiO)が注目されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、TiOとフッ素原子供給化合物とを分散媒中に分散させてペースト状にしたものを、色素増感型太陽電池の電極表面に塗布し焼成することにより、電極表面に、電荷輸送特性が改善されたTiOの多孔質膜を形成する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、基板上に、アナターゼ型結晶構造を有するM:TiO(MはNb、Taなど)からなる金属酸化物層を成膜して透明導電体を得る方法が提案されている。ここでは、エピタキシャル成長により成膜した、アナターゼ型結晶構造を有するM:TiOの単結晶薄膜(固溶体)が、透明性を維持しつつ電気伝導度を著しく向上させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−25637号公報
【特許文献2】国際公開第2006/016608号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1では、太陽電池の変換効率が向上していることから、電子輸送特性が改善されたTiOが得られたとしている。しかし、上記方法では、フッ素をドープしたTiO膜が多孔質膜として得られている。この構成は、色素増感型の太陽電池の電極に適用すると、細孔中にルテニウム(Ru)色素を含浸させることで、色素と電極との接触面積を増やすことができ好適であるものの、特許文献1に記載の多孔質膜を上述の画像表示装置の画素電極に適応しても、細孔での散乱光が増加し、目的とする透明性が得られないことが容易に予想される。したがって、特許文献1の構成では、画素電極として適応可能な、高い透明性と高い導電性とを両立する透明電極を得ることはできない。
【0009】
また、上記特許文献1では、太陽電池の変換効率から電子輸送特性が改善したとしているが、電気伝導性の定量的な評価を行っているものではなく、画像表示装置の画素電極として求める高い導電性を有しているか明らかとなっていない。
【0010】
さらに、特許文献2の方法に記載されたアナターゼ型結晶構造を有するM:TiOの単結晶薄膜は、Tiと置換する金属がNbやTaなどのレアメタルであり、資源枯渇に対する課題はITOと共通している。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、資源が豊富な元素を用い、且つ低コストで低抵抗化を実現可能な透明導電体の製造方法、透明導電体、デバイス及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の透明導電体の製造方法は、基板上に設けられた透明導電体の製造方法であって、前記透明導電体は、アナターゼ型TiOの酸素をフッ素に置換して得られるアナターゼ型結晶構造を有するF:TiOであり、パルスレーザ堆積法を用い、制御された酸素分圧の雰囲気下において、TiとFとからなる化合物にパルスレーザを照射し、300℃以上650℃以下加熱された前記基板上に反応生成物をエピタキシャル成長させることにより行うことを特徴とする。
【0013】
本発明では、透明導電体として、TiOのOサイトがFで置換されたものを形成しており、このような結晶構造を本明細書では「F:TiO」と表す。この方法によれば、酸素分圧と基板温度とを所定の範囲に制御した条件下でパルスレーザ堆積法を実施することにより、結晶構造がアナターゼ型結晶構造に制御されたF:TiOからなる透明導電体を容易に得ることができる。そのため、従来用いられてきた透明導電膜であるITOと比べ、安価な材料であるTiOに地殻含有率が高いフッ素をドーピングしてなる低コストである透明導電体を容易に製造することができる。酸素分圧の範囲はレーザーパルスのエネルギー、繰り返し周波数、ターゲット焼結密度に依存して多少変化するが、1×10−6Torr以上1×10−3Torr以下となるように制御することが好ましい。
【0014】
本発明においては、加熱された前記基板の温度が、400℃以上500℃以下であることが望ましい。
この方法によれば、不純物相の生成を抑制し、良好な結晶構造の透明導電体を製造することができる。
【0015】
本発明においては、前記基板はペロブスカイト型酸化物であることが望ましい。
この方法によれば、基板表面から成長する透明導電体が、基板表面と格子整合した結晶軸方向に優先して成長するため、アナターゼ型の結晶構造を取りやすく、容易に目的とする結晶構造の透明導電体を形成することができる。
【0016】
また、本発明の透明導電体は、金属酸化物を形成材料とする透明導電体であって、前記金属酸化物が、アナターゼ型TiOの酸素をフッ素に置換して得られるアナターゼ型結晶構造を有するF:TiOであることを特徴とする。
この構成によれば、アナターゼ型TiOの酸素を、酸素と同等のイオン半径を有し、且つ酸素よりも電子が多いフッ素イオンで置換することにより、アナターゼ型TiOの透明性を保ったまま導電性を高めた透明導電体とすることができる。そのため、従来用いられてきた透明導電膜であるITOと比べ、安価な材料であるTiOを主原料として用い、地殻含有率が高いフッ素をドーピングして電気伝導性を高めることにより、低コストで低抵抗化を実現する透明導電体を提供することができる。
【0017】
本発明においては、前記透明導電体が、基板上に設けられており、前記基板は、前記透明導電体との界面が該透明導電体と格子整合したペロブスカイト型酸化物であることが望ましい。
この構成によれば、基板上に形成される透明導電体の結晶性を向上させることができるため、低抵抗の透明導電体を容易に得ることができる。
【0018】
また、本発明のデバイスは、上述の透明導電体を備えることを特徴とする。
この構成によれば、低コストで低抵抗化を実現させた透明導電体を備えることとしたので、電気特性の高いデバイスを低コストで得ることができる。
【0019】
また、本発明の電子機器は、上述のデバイスを備えることを特徴とする。
この構成によれば、電気特性が高く低コストのデバイスを備えることとしたので、良質の電子機器を安価で提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低コストで低抵抗化が実現可能な透明導電体、透明導電体の製造方法、デバイス及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る透明導電体を示す概略図である。
【図2】パルスレーザ装置の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例に係る結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例に係る結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図7を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0023】
図1は、本発明の透明導電体12を有する導電体基板1の構成を示す断面図である。図に示すように、導電体基板1において、透明導電体12は基板11上に設けられている。
【0024】
基板11は、例えばガラスなどの非晶質材料からなる基板である。基板11としては、この他、例えば単結晶材料、多結晶材料、またはアモルファス材料でもよく、これらの結晶状態が混在する材料でも良い。
【0025】
具体的には、基板11としては、アナターゼ型TiOの(001)面と格子整合(格子定数が同じ)したペロブスカイト関連構造の酸化物を用いることができる。例として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)や、LaAlO、SrLaAlO、(LaAlO0.3(SrAl0.5Ta0.50.7(LAST)などの単結晶基板を挙げることができる。ここでは、SrTiOの単結晶基板を用いる。
【0026】
他にも、使用可能な基板11として、上述の酸化物の多結晶からなる基板、ペロブスカイト型結晶構造と類似構造を有する岩塩型結晶からなる単結晶基板または多結晶基板、水晶基板、ノンアルカリガラス(例えば旭硝子社製、製品名:AN100)等のガラス基板、プラスチック基板、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板(熱酸化Si基板)等の半導体基板等が挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない範囲でドーパント、不純物などが含まれていても良い。
【0027】
これらの基板を用いる場合には、透明導電体12との界面となる基板表面に、形成する透明導電体12と格子整合し結晶成長を制御するためのバッファ層を設けておくことにより、結晶配向が制御された状態で透明導電体12を形成することができる。バッファ層の形成材料としては、ZnO,ZnO,SrTiO,MgO,LaAlO,CeO,ZrO,Alを用いることができる。
【0028】
本発明においては基板11の形状は特に限定されない。例えば板状の基板11であってもよく、プラスチックフィルム等のフィルム状であっても構わない。
【0029】
また、基板11の厚さも特に限定されない。基板11の透明性が要求される場合には例えば1mm以下が好ましい。板状の基板において機械的強度が求められ、透過率を多少犠牲にしても良い場合であれば、1mmより厚くても良い。基板11の厚さは、例えば0.2〜1mmが好ましい。なお、本明細書において「透明」とは、波長が400〜700nmである可視領域の光に対する透過率が50%以上であることをいう。
【0030】
さらに、基板11は、必要に応じて表面を研磨したものを用いることができる。SrTiO基板等の結晶性を有する基板は、研磨して用いることが好ましい。例えば、研磨材としてダイヤモンドスラリーを使用して機械研磨する。該機械研磨では、使用するダイヤモンドスラリーの粒径を徐々に微細化してゆき、最後に粒径約0.5μmのダイヤモンドスラリーで鏡面研磨することが好ましい。その後、更にコロイダルシリカを用いて研磨することにより、表面粗さの二乗平均粗さ(rms)が10Å(1nm)以下となるまで平坦化させても良い。
【0031】
加えて、透明導電体12を形成する前に、基板11を前処理しても良い。該前処理は例えば以下の手順で行うことができる。
【0032】
まず基板をアセトン、エタノール等により洗浄する。次に、基板を高純度塩酸(例えば、ELグレード、濃度36質量%、関東化学社製)中に2分間浸す。次に、基板を純水中に移して塩酸等をすすぐ。次に、基板を新たな純水中に移し、ここで超音波洗浄を5分間行う。次に、基板を純水中から取り出し、窒素ガスを基板表面に吹き付けて水分を基板表面から除去することにより、前処理が完了する。
【0033】
これらの処理は例えば室温で行う。これらの処理により、基板表面から酸化物、有機物等が除去されると考えられる。上記の例では塩酸を使用したが、これに代えて王水、フッ酸等の酸を使用しても良い。また、上述の前処理は室温下で行っても良いし、加熱した酸を使用しても良い。
【0034】
透明導電体12は、基板11上に設けられており、F:TiOで構成される。このF:TiOは、アナターゼ型TiOのOサイトをFで置換したものである。透明導電体12は、基板表面上にエピタキシャル成長されて形成される。この透明導電体12の厚さは、例えば40〜50nmであるが、かかる場合に限定されるものではない。
【0035】
次に、上記のように構成された導電体基板1の製造方法を説明する。導電体基板1は、基板11上にパルスレーザ堆積(Pulsed Laser Deposition:PLD)法を用いて透明導電体12を形成することによって製造される。透明導電体12は、他にも、例えばMOCVD法等の化学気相蒸着(CVD)法、ゾルゲル法、化学溶液法等の溶液からの合成プロセスによる成膜法を用いて形成しても構わない。ここでは、PLD法により基板11上に透明導電体12を形成する方法について説明する。
【0036】
図2は、透明導電体12の製造に好適に用いられるPLD装置30の例を示した概略構成図である。このPLD装置30は、チャンバ31内に、基板11とターゲット39とが対向して、かつ対向面が互いにほぼ平行となるように配置されるようになっている。チャンバ31は、適切な真空度を維持すると共に、外部からの不純物混入を防止することにより、高品質な薄膜を作製できるようになっている。
【0037】
基板11は、図示しないモーターにより、基板11の表面に垂直な回転軸35を中心に回転可能となっている。またターゲット39も、図示しないモーターにより、その表面39aに垂直な回転軸38を中心に回転可能となっている。
【0038】
チャンバ31内には、基板11を加熱するための赤外線ランプ36が設置されている。
基板11の温度は窓31bを介して、チャンバ31外部に設置された放射温度計37によってモニターされており、常に一定温度となるように制御されている。
【0039】
チャンバ31の外部にはガス供給部44が設けられており、酸素ガスの流量を調節するための酸素ガス流量調整弁45を介して、チャンバ31内へ酸素ガスを注入できるようになっている。また減圧下における製膜を実現するため、チャンバ31にはターボ分子ポンプ42および圧力弁43が連結されている。
【0040】
このようなチャンバ31内の圧力は、酸素ガス流量調整弁45および圧力弁43を用いて制御される。なお、ターボ分子ポンプ42には、油回転ポンプ40と逆流防止弁41が連結されており、ターボ分子ポンプ42の排気側の圧力は常に1×10−3Torr(1.33×10−1Pa)以下に保たれる。
【0041】
チャンバ31の外部には光発振器32が設けられており、該光発振器32により発振されたパルスレーザ光が、照射位置を調節するための反射鏡33、スポット径を制御するためのレンズ34、およびチャンバ31の窓31aを介して、ターゲット39の基板11と対向する表面39aに入射されるようになっている。光発振器32は、上記パルスレーザ光として、例えばパルス周波数が1〜10Hzであり、レーザフルエンス(レーザパワー)が1〜2J/cmであり、波長が248nmであるKrFエキシマレーザを発振する。
【0042】
発振されたパルスレーザ光は、反射鏡33およびレンズ34により焦点位置がターゲット39近傍となるようにスポット調整され、ターゲット39の表面39aに対して約45°の角度で入射される。
【0043】
ターゲット39は、TiとFとを含む化合物の焼結体を用いることができる。ここでは、ホットプレスによって作成した三フッ化チタン(TiF)の焼結体を用いた。他にも、ターゲット39の形成材料として、四フッ化チタン(TiF)を用いることも可能である。
【0044】
PLD装置30を用いて透明導電体12を形成するには、まず、基板11をチャンバ31内に設置する。この際、基板表面の不純物を取り除き、原子レベルで平坦な表面を出すため、酸素分圧1×10−5Torr(1.33×10−3Pa)、基板温度500℃の条件下で前処理アニールを行っても良い。該前処理アニールは、例えば1時間以上行うことが好ましい。ここで、本発明におけるアニールとは、基板11を所定の温度(アニール温度)まで上昇させた後、温度を下げる操作をいう。
【0045】
次に、チャンバ31内の酸素分圧および基板温度を所定の範囲に設定し、基板11を回転駆動させる。またターゲット39を回転駆動させつつ、上記パルスレーザ光を断続的に照射することにより、ターゲット39表面の温度を急激に上昇させ、アブレーションプラズマを発生させる。このアブレーションプラズマ中に含まれるTi原子、F原子は、チャンバ31中の酸素ガスとの衝突反応等を繰り返しながら状態を徐々に変化させて基板11へ移動する。そして基板11へ到達したTi原子、F原子、O原子を含む粒子は、そのまま基板11の表面に拡散し、薄膜化される。こうして基板11上に透明導電体12が形成される。
【0046】
ここで、チャンバ31内の酸素分圧は、1×10−5Torr以上1×10−4Torr以下(1.33×10−3Pa以上1.33×10−2Pa以下)に制御する。酸素分圧がこの範囲よりも低いと、原料としての酸素が不足し、良好にアナターゼ型結晶構造を有するF:TiOを得ることが出来なくなる。酸素分圧がこの範囲よりも高いと、PLD法の反応条件として好ましくない。酸素分圧の範囲はレーザーパルスのエネルギー、繰り返し周波数、ターゲット焼結密度に依存して多少変化するが、1×10−6Torr以上1×10−3Torr以下となるように制御することが好ましい。
【0047】
また、基板11の温度は、300℃以上650℃以下に制御する。また、400℃以上500℃以下に制御すると、不純物相の生成を抑制し、低い電気抵抗率を有する透明導電体12とすることができるため好ましい。
【0048】
このような条件下でパルスレーザ堆積法による反応を行うと、基板11上に反応生成物がエピタキシャル成長して積層し、透明導電体12が得られる。基板11がSrTiOのようなペロブスカイト型酸化物であると、基板11の表面から成長する透明導電体12が、基板11表面と格子整合した結晶軸方向に優先して成長するため、目的とするアナターゼ型の結晶構造を取りやすく、容易に目的とする結晶構造の透明導電体12を形成することができ好ましい。
【0049】
ここで、発明者の検討により、上述のPLD法を用いた形成方法においては、F源を雰囲気ガスに求めることとし、雰囲気ガスとしてFまたはCFを導入した場合は、透明導電体12を形成することができないことを確認している。Fガスを用いた場合、基板との化学反応により表面平坦性が悪化し、アナターゼTiOの結晶成長が進行しない。CFガスを用いた場合は、TiOにおけるOサイトのF原子置換が進まず、透明導電体12を形成することができなかった。
【0050】
以上のような構成の透明導電体の製造方法によれば、酸素分圧と基板温度とを所定の範囲に制御した条件下でパルスレーザ堆積法によって透明導電体12を形成することにより、結晶構造がアナターゼ型結晶構造に制御されたF:TiOからなる透明導電体12を容易に得ることができ、低コストで低抵抗の透明導電体を製造することができる。
【0051】
また、以上のような構成の透明導電体によれば、従来用いられてきた透明導電膜であるITOと比べ、安価な材料であるTiOを主原料として用い、資源の豊富なフッ素をドーピングして電気伝導性を高めることにより、低コストで低抵抗化を実現する透明導電体を提供することができる。
【0052】
本発明の透明導電体は適用範囲が広く、銅酸化物系の高温超電導体薄膜をテープ基板上に形成するための中間層の作製や、非晶質基板上への発光ダイオード、半導体レーザなどの薄膜デバイス形成などに用いることができる。また、透明導電体薄膜を用いた非晶質基板上への透明回路としても用いることができる。
【0053】
例えばガラスやプラスチック基板上への薄膜を形成することにより、一層のコストダウンを見込むことができる。例えば銅酸化物系の高温超電導体線材などに用いる場合、低コスト化によって得られる利益は大きいといえる。コストダウンに加えて、ガラスやプラスチック基板上での高機能薄膜デバイスを形成することができる。例えば酸化亜鉛系の発光ダイオードなどを形成することができ、更にはフレキシブルデバイスを実現させることができる。
【0054】
上記のほかにも、例えばフラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極へ適用が考えられる。また、反射防止膜に用いられる電磁波の遮蔽、静電気により埃がつかないようにするフィルム、帯電防止膜、熱線反射ガラス、紫外線反射ガラスへ適用も考えられる。SiOからなる層とFをドープしたTiO層とからなる多層膜を作製すれば反射防止膜としても適用できる。
【0055】
用途の例として、色素増感太陽電池の電極;ディスプレイパネル、有機ELパネル、発光素子、発光ダイオード(LED)、白色LEDやレーザの透明電極;面発光レーザの透明電極;照明装置;通信装置;特定の波長範囲だけ光を通すというアプリケーションも考えられる。
【0056】
さらに具体的な用途として、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)における透明導電膜、カラーフィルタ部における透明導電性膜、EL(EL:Electro Luminescence)ディスプレイにおける透明導電性膜、プラズマディスプレイ(PDP)における透明導電膜、PDP光学フィルタ、電磁波遮蔽のための透明導電膜、近赤外線遮蔽のための透明導電膜、表面反射防止のための透明導電膜、色再現性の向上のための透明導電膜、破損対策のための透明導電膜、光学フィルタ、タッチパネル、抵抗膜式タッチパネル、電磁誘導式タッチパネル、超音波式タッチパネル、光学式タッチパネル、静電容量式タッチパネル、携帯情報端末向け抵抗膜式タッチパネル、ディスプレイと一体化したタッチパネル(インナータッチパネル)、太陽電池、アモルファスシリコン(a−Si)系太陽電池、微結晶Si薄膜太陽電池、CIGS太陽電池、色素増感太陽電池(DSC)、電子部品の静電気対策用透明導電材料、帯電防止用透明導電材、調光材料、調光ミラー、発熱体(面ヒーター、電熱ガラス)、電磁波遮蔽ガラス、等を挙げることができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、発明の効果を確認するため、SrLaAlO基板の上に透明導電体を形成し、各評価を行った。
【0059】
複数の反応条件で成膜した透明導電体について各評価を行った。透明導電体は、上述のPLD法を用いて形成し、反応条件として、温度条件はTs=300℃、400℃、500℃、650℃、酸素分圧条件はPO2=1×10−4Torr、1×10−5Torr、1×10−6Torrとした。
【0060】
図3〜7は、上述の方法によって形成した透明導電体についての各種測定結果を示す図である。以下、各測定結果を参照しながら、得られた透明導電体について説明する。
【0061】
(結晶構造の評価)
図3は、作成した透明導電体の結晶構造をX線回折(XRD)測定により評価した結果を示す。図3に示すXRDスペクトルは、成膜時の基板温度(Ts)=400℃、酸素分圧(PO2)=1×10−5Torrの条件において、50nmの厚さとなるまで作成した透明導電体の、θ−2θプロットである。
【0062】
図に示すXRDスペクトルによれば、図中丸印で示すSrLaAlOの回折ピークの他には、三角印で示すアナターゼ型TiOの(004)回折ピーク(2θ=約38°)のみが確認される。これは、透明導電体として、(001)配向したアナターゼ型TiOと同じ結晶構造を示す層が、基板11上に単層でエピタキシャル成長していることを示すものである。
【0063】
同様の評価を、複数の反応条件で成膜した透明導電体についてそれぞれに行った。その結果、PO2=1×10−4Torr且つTs=300℃の条件、及びPO2=1×10−5Torr且つTs=650℃の条件では、(001)配向したアナターゼTiOに加え、若干の不純物相の生成が見られ、好ましい透明導電体を得ることができなかった。また、PO2=1×10−6Torr且つTs=500℃の条件では、アナターゼTiOの成長は確認できなかった。
【0064】
(透明導電体中のフッ素量の評価)
図4,5は、二次イオン質量分析(SIMS)による測定結果を示す図であり、50nmの厚さに形成した透明導電体におけるフッ素量を測定した結果である。図4は、PO2=1×10−4Torr且つTs=500℃の条件で形成した透明導電体について測定した結果を示し、図5は、PO2=1×10−4Torr且つTs=650℃の条件で形成した透明導電体について測定した結果を示している。いずれも対照試料として、アナターゼTiO(001)薄膜に対し、イオン打ち込みにより結晶中にフッ素をドーピングしたものを用いてフッ素量を評価した。
【0065】
測定の結果、図4,5のいずれにおいても、表面からの深さが50nm(透明導電体の厚さに相当)に達するまではFおよびTiOが測定されており、透明導電体全体に概ね一定量のFが含まれていることが分かった。得られた結果より、添加されているF量は、1019atoms/cm−3〜1021atoms/cm−3程度(0.03〜3atom%程度)であることが確認できた。
【0066】
(電子輸送特性の評価)
図6は、成膜条件を変化させた複数の透明導電体についての、電子輸送特性についての評価結果を示す表である。
【0067】
ここでは、4端子電気抵抗測定によって透明導電体の電気抵抗率を評価した後、ホール効果測定によってキャリア濃度および電子移動度を測定した。また、抵抗率の算出のために必要な膜厚は、触針式膜厚計によって評価した値を用いた。
【0068】
図6に示すように、作成したF:TiO組成の透明導電体は、PO2=1×10−4Torr、Ts=650℃の条件のものを除いて、いずれも10−3Ωcm台の電気抵抗率を示した。
【0069】
この測定結果、および成膜時における不純物相の生成の有無より、透明導電体の成膜条件としては、PO2=1×10−4Torrから1×10−5Torr、且つTs=400℃から500℃であることが好ましいことが分かる。中でも、PO2=1×10−5Torr、Ts=400℃の条件にて形成した透明導電体は、測定サンプル中で最低となる1.6×10−3Ωcmの電気抵抗率を示した。
【0070】
また、上述した好適な形成条件にて作成した透明導電体については、キャリア濃度は、3.5×1019cm−3〜5.0×1020cm−3を示した。
【0071】
(透明導電体の光学特性の評価)
図7は、透明導電体についての光学特性についての評価結果を示すグラフである。図には、透明導電体の好適な成膜条件である、PO2=1×10−4Torr、Ts=400℃および500℃の2条件で形成した透明導電体についての測定結果を示している。図中、Ts=400℃で形成した透明導電体の評価結果を符号A、Ts=500℃で形成した透明導電体の評価結果を符号Bで示す。また、可視光領域の結果については、一部拡大したグラフを併せて示している。
【0072】
光学特性の評価は、紫外−可視−近赤外分光光度計を用いて、試料の透過率Tおよび反射率Rを測定することにより行った。ここでは、可視光領域における透明導電体の光吸収を評価するため、入射光の強度をI、透過光の強度をI、反射光の強度をIとし、全光透過率TをT=I/I、全光反射率RをR=I/I、として、可視光領域における透明導電体での内部透過率Tinを、以下の式1より求めた。
【0073】
【数1】

【0074】
測定の結果、いずれの透明導電体であっても400nmから800nmの可視光領域において、内部透過率が95%以上となり、優れた透明性を示すことが確認できた。
【0075】
以上の測定結果から、本発明の透明導電体は、高い可視光透明性と良好な電気伝導性とを両立していることが確かめられた。
【符号の説明】
【0076】
1…導電体基板、11…基板、12…透明導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた透明導電体の製造方法であって、
前記透明導電体は、アナターゼ型TiOの酸素をフッ素に置換して得られるアナターゼ型結晶構造を有するF:TiOであり、
パルスレーザ堆積法を用い、制御された酸素分圧の雰囲気下において、TiとFとからなる化合物にパルスレーザを照射し、300℃以上650℃以下加熱された前記基板上に反応生成物をエピタキシャル成長させることにより行うことを特徴とする透明導電体の製造方法。
【請求項2】
加熱された前記基板の温度が、400℃以上500℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項3】
前記基板は、ペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電体の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物を形成材料とする透明導電体であって、
前記金属酸化物が、アナターゼ型TiOの酸素をフッ素に置換して得られるアナターゼ型結晶構造を有するF:TiOであることを特徴とする透明導電体。
【請求項5】
前記透明導電体が、基板上に設けられており、
前記基板は、前記透明導電体との界面が該透明導電体と格子整合したペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項4に記載の透明導電体。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の透明導電体を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項6に記載のデバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−60448(P2011−60448A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205913(P2009−205913)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、元素戦略プロジェクト、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】