説明

透明導電性フィルム、並びにこれを用いた液晶表示素子、有機EL素子および有機薄膜太陽電池

【課題】 水分に対する高いガスバリア性を有するにもかかわらず、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の除去が容易であり、表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくい、表示素子などへの用途に適した透明導電性フィルムを提供する。
【解決手段】 基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m/day以上としたことを特徴とする透明導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、有機薄膜太陽電池等の用途に適した、ガスバリア機能を有する透明導電性フィルム、およびこの透明導電性フィルムを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の電子機器に用いられる液晶表示素子、有機EL素子等の各種ディスプレイ、および有機薄膜太陽電池などにおいては、軽量性、屈曲性、耐衝撃性などに優れていることから、従来用いられてきた透明導電性のガラス基板に代わって、プラスチックフィルム基材上に透明導電層を形成した透明導電性フィルムを用いた素子の需要が増加しつつある。しかしながら、プラスチックフィルム基材は、ガラス基板と比較して、水蒸気や酸素に対するガスバリア性が劣り、これを用いた表示素子における表示性能などに支障をきたすおそれがあるという問題があった。
【0003】
このようなプラスチックフィルム基材の欠点を補う方法として、プラスチックフィルム基材にガスバリア層を形成することが提案されている。このガスバリア層としては、透明性を維持するために、SiO薄膜またはAl薄膜が用いられている。また、ガスバリア層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ成膜法、イオンプレーティング法などの真空成膜プロセスが採用されている。
【0004】
また、このプラスチックフィルム基材に透明導電性の機能を付与する方法としては、例えば、プラスチックフィルム基材にガスバリア層を真空成膜プロセスで形成した後、プラスチックフィルム基材のガスバリア層の反対面にインジウムスズ酸化物(以下「ITO」と略記することがある)膜などの透明導電層を真空成膜プロセスにより形成する方法が知られている。
【0005】
そして、このようなプラスチックフィルム基材にガスバリア層と透明導電層とを形成した透明導電性フィルムにおいて、特に、ガスバリア性の劣化が生じるという問題を解決して、高いガスバリア性を維持するための、種々の工夫が提案されている。例えば、特許文献1においては、一面にガスバリア層を形成し他面に透明導電層を形成したプラスチックフィルム基材のガスバリア層側に、別のプラスチックフィルムを接着剤により積層した透明導電性フィルムが開示されている。また、特許文献2においては、一面にガスバリア層を形成し他面に透明導電層を形成したプラスチックフィルム基材のガスバリア層側に、ガスバリア層を形成した別のプラスチックフィルムを、ガスバリア層を内側にして接着剤により積層した透明導電性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−337208号公報
【特許文献2】特開平5−333326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような高いガスバリア性を維持するための構成の透明導電性フィルムにおいても、以下のような課題がある。上記のプラスチックフィルム基材の一面にガスバリア層を形成し他面にITO膜などの透明導電層を形成した透明導電性フィルムにおいては、ITO膜などの透明導電層もガスバリア性を有するため、プラスチックフィルムが吸湿し含有している水分を除去し難いという問題がある。そして、このプラスチックフィルムの含有している水分が、これを用いた液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子における表示性能に支障をきたすという問題がある。
【0008】
具体的には、プラスチックフィルムは吸湿性があり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの場合、標準状態で重量比0.2〜0.3%程度の水分を保持する。厚み100μmのフィルムの場合、1mあたり0.2〜0.3gの水分を保持することを意味する。そして、上記のようなガスバリア層と透明導電層とを形成した透明導電性フィルムにおいては、表示素子の製造に使用されるまでの搬送および保管の期間において徐々に大気中の水分を吸湿し含有している。そして、この含有水分が、これを用いた液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子の表示性能を劣化させるという問題があるため、表示素子の組立時には、この含有水分を除去する必要がある。しかし、上記の透明導電性フィルムを乾燥し含有水分を除去するためには、ITO膜などの透明導電層もガスバリア性を有するため、短時間では困難であり、極めて長時間を必要とする。つまり、上記透明導電性フィルムの透明導電層の水蒸気透過度(WVTR:Water Vapor Transmission Rate)が0.1g/m/dayで、ガスバリア層の水蒸気透過度(WVTR)が0.01g/m/dayである場合、約2〜3日間の乾燥日数が必要である。この問題は、形成した膜の水蒸気透過度(WVTR)が小さければ小さいほど、また、フィルムの吸水率が高ければ高いほど顕著になる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するもので、水分に対する高いガスバリア性を有するにもかかわらず、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の除去が容易であり、表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくい、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適した透明導電性フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の透明導電性フィルムは、基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m/day以上としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電性フィルムによれば、ガスバリア機能層の水蒸気透過度を極めて小さくしているので、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性を確保することができる。一方、透明導電層の水蒸気透過度を大きくしているので、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の除去が容易であり、短時間の乾燥で水分除去が可能である。そして、乾燥後、これを用いて表示素子として組み立てた場合には、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性が維持され、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくく、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適した透明導電性フィルムとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の透明導電性フィルムについて、以下に詳細に説明する。本発明の透明導電性フィルムは、基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する構成としたものである。そして、ガスバリア機能層の水蒸気透過度が0.01g/m/day以下とし、透明導電層の水蒸気透過度が1.0g/m/day以上とした透明導電性フィルムである。
【0013】
本発明で用いられるプラスチックフィルムの材質は、透明性または透光性を有するものであれば特に限定されず、各種プラスチックフィルムを用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のプラスチックフィルムを用いることができ、これらの中でも、安価でかつ強度に優れ、透明性と柔軟性とを兼ね備えている等の観点から、PETフィルムまたはPENフィルムが好ましく、より高品質が求められる用途には、耐熱性ほか諸特性に優れているPENフィルムが特に好ましい。また、プラスチックフィルムの厚さは、25〜200μmが好ましい。なお、本発明では、ガスバリア機能層および透明導電層を形成したプラスチックフィルムを基材プラスチックフィルムと称し、透明導電層を形成していない他のプラスチックフィルムをカバープラスチックフィルムと称している。そして、基材プラスチックフィルムおよびカバープラスチックフィルムの材質および厚さは、それぞれ異なっても良いが、生産性や品質の安定性の面から同一であることが好ましい。
【0014】
本発明の透明導電性フィルムにおけるガスバリア機能層は、基材プラスチックフィルムの一面に設けるものであるが、その形成方法としては、ガスバリア層が形成されたプラスチックフィルム複数枚を、貼り合わせて形成することが好ましい。ガスバリア層を複数枚貼り合わせることにより、水蒸気透過度を極めて小さくでき、水分に対する高いガスバリア性を確保できる。また、貼り合わせは、ガスバリア層側同士を向い合せになるように粘着層で貼り合わせた方が、ガスバリア層が表面に出ず、損傷しにくくなるので、好ましい。そして、ガスバリア層の厚さは、薄すぎると水蒸気透過度が大きくなりまた厚すぎると柔軟性が低下するので好ましくなく、一層あたり30〜100nmの範囲が好ましい。
【0015】
なお、本発明では、複数のガスバリア層および透明導電層を形成していないカバープラスチックフィルムを含めて、ガスバリア機能層と称している。そして、本発明の透明導電性フィルムにおけるガスバリア機能層の水蒸気透過度は0.01g/m/day以下であることが好ましい。ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m/day以下とすることにより、本発明の目的の透明導電性フィルムが得られる。
【0016】
上記のガスバリア層は、金属酸化物を主成分とする透明な薄膜であり、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムの群より選ばれた1種または2種以上の金属酸化物から構成される。金属酸化物を主成分とする透明薄膜のガスバリア層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などのPVD法(物理蒸着法)、あるいはCVD法(化学蒸着法)など一般的な種々の方法により行うことができる。
【0017】
さらに、ガスバリア層は、有機膜と無機膜とを交互に積層した構造とすることや、2層以上の金属酸化物の層を積層した構造とすることも、水蒸気バリア性を高め、水蒸気透過度を極めて小さくできるので、好ましい。
【0018】
本発明の透明導電性フィルムにおける透明導電層は、上記のガスバリア機能層とは反対の基材プラスチックフィルムの他の一面に設けるものであるが、この透明導電層の水蒸気透過度は1.0g/m/day以上であることが好ましい。また、その形成方法としては、プラスチックフィルムに導電性微粒子とバインダー成分とをコーティングして形成することが好ましい。何故ならば、導電性微粒子とバインダー成分とで形成した透明導電層は、水蒸気透過度が大きく、透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m/day以上とすることができ、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の乾燥による除去が容易となり、本発明の目的の透明導電性フィルムが得られるからである。なお、コーティングの方式としては、ワイヤーバー、ディップコート、スピンコート、スロットダイ、グラビア、スリットリバース、リバースグラビアなどが挙げられる。
【0019】
なお、透明導電層の形成に用いられる導電性微粒子としては、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウムなどの金属微粒子、カーボンナノチューブ、および、インジウム錫酸化物(ITO)微粒子、インジウム亜鉛酸化物(IZO)微粒子、インジウムタングステン酸化物(IWO)微粒子、インジウムチタン酸化物(ITiO)微粒子などの金属酸化物微粒子等が挙げられるが、透明性と導電性を具備していれば良く、これらに限定されない。また、バインダー成分としては、導電性微粒子同士を結合させて膜の導電性と強度を高め、ベースフィルムと透明導電層との密着力を確保するものであり、この働き満たすように、ベースフィルム、導電性微粒子、透明導電層の形成条件等に応じて適宜選択すればよい。
【0020】
そして、上記の本発明の透明導電性フィルムを用いて組み立てた液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などは、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性が維持され、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題が無く、高品質を有するものとなる。
【0021】
以下に、本発明の透明導電性フィルムについて、実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
本実施例において、本発明の透明導電性フィルムは、以下のような工程で作製した。まず、プラスチックフィルムにガスバリア機能層を形成したプラスチックフィルム(ガスバリアフィルム)を3種作製した。これら3種のガスバリアフィルムを用い、プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、透明導電層を形成した。上記3種のガスバリアフィルムそれぞれについて、本実施例の透明導電層の形成方法として、3種の方法および条件で行い、本実施例の透明導電性フィルムを9種作製した。なお、以下の説明における実施例においては、プラスチックフィルムとしていずれも、厚さ100μmのPENフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)を用いた。
【0023】
一方、上記の実施例のほかに、上記3種のガスバリアフィルムそれぞれについて、比較例の透明導電層の形成方法として、2種の方法および条件で行い、比較例の透明導電性フィルムを6種作製した。作製した9種の本実施例の透明導電性フィルムおよび6種の比較例の透明導電性フィルムの内容と作製方法について、以下に説明する。
【0024】
〔ガスバリアフィルムの作製〕
まず、作製した3種のガスバリアフィルムNo.1〜3の内容と作製方法について、具体的に説明する。
【0025】
ガスバリアフィルムNo.1は、以下のようにして作製した。まず、プラスチックフィルムとして、厚さ100μmのPENフィルムを準備した。このPENフィルムの一面に、乾燥膜厚100nmのウレタンアクリレートを形成し、これにパーヒドロポリシラザンを塗布し加水分解して酸化ケイ素を主成分とする50nmの膜を形成して、平坦化コーティングを施した。PENフィルムに平坦化コーティング(UC)を施した後、スパッタリング法で酸化ケイ素(SiOx)を膜厚100nm積層し、ガスバリア層を形成したフィルムを得た。得られたフィルムを2枚用意し、ガスバリア層側同士を、アクリル系接着層25μmを介して貼り付けて、ガスバリアフィルムNo.1を作製した。
【0026】
具体的には、ガスバリアフィルムNo.1は、PENフィルム/UC/スパッタリングSiOx100nm/接着層/スパッタリングSiOx100nm/UC/PENフィルムという構成である。そして、このガスバリアフィルムNo.1の水蒸気透過度は、0.0001g/m/day未満であった。
【0027】
ガスバリアフィルムNo.2も、ほぼガスバリアフィルムNo.1と同様な方法および条件で作製した。ガスバリアフィルムNo.2の作製条件が、ガスバリアフィルムNo.1と異なるところは、平坦化コーティング(UC)を施した後のスパッタリング法で積層した酸化ケイ素(SiOx)の膜厚であり、ガスバリアフィルムNo.2では、スパッタリング法で酸化ケイ素(SiOx)を膜厚30nm積層した。
【0028】
具体的には、ガスバリアフィルムNo.2は、PENフィルム/UC/スパッタリングSiOx30nm/接着層/スパッタリングSiOx30nm/UC/PENフィルムという構成である。そして、このガスバリアフィルムNo.2の水蒸気透過度は、0.001g/m/dayであった。
【0029】
ガスバリアフィルムNo.3も、ほぼガスバリアフィルムNo.1と同様な方法および条件で作製した。ガスバリアフィルムNo.3の作製条件が、ガスバリアフィルムNo.1と異なるところは、平坦化コーティング(UC)を施した後の酸化ケイ素(SiOx)の積層方法と膜厚であり、ガスバリアフィルムNo.3では、高周波誘導加熱真空蒸着法で酸化ケイ素(SiOx)を膜厚30nm積層した。
【0030】
具体的には、ガスバリアフィルムNo.3は、PENフィルム/UC/蒸着SiOx30nm/接着層/蒸着SiOx30nm/UC/PENフィルムという構成である。そして、このガスバリアフィルムNo.3の水蒸気透過度は、0.01g/m/dayであった。
【0031】
〔透明導電層の形成方法〕
次に、実施例の3種の透明導電層の形成方法(透明導電層No.1〜3)の内容と、比較例の2種の透明導電層の形成方法(透明導電層No.4、5)の内容について、具体的に説明する。
【0032】
透明導電層No.1は、以下のようにして形成した。基材プラスチックフィルムの一面に、銀ナノ粒子水分散液(銀ナノ粒子は平均直径100nm、平均長10μm、バインダーはUV硬化タイプのアクリル系バインダー、溶媒は水、固形分2.5vol%)をワイヤーバーにてウェット膜厚が20μmになるように塗布して、UV照射し硬化し、膜厚500nmの透明導電層No.1を形成した。また、一方で、透明導電層No.1の水蒸気透過度を評価するために、厚さ100μmのPENフィルムの一面に透明導電層No.1を形成した透明導電層No.1形成フィルムを作製した。透明導電層No.1形成フィルムの水蒸気透過度は1.5g/m/dayであった。
【0033】
透明導電層No.2は、以下のようにして形成した。基材プラスチックフィルムの一面に、単層カーボンナノチューブ(CNT)水分散液(CNTは直径0.1nm、長さ100nm、0.5wt%)をワイヤーバーにてウェット膜厚が4μmになるように塗布し、乾燥させた。CNT膜の乾燥膜厚は20nmであった。その後、CNT膜の密着性を得るために、PETフィルムのCNT膜の上に、UV硬化樹脂(荒川化学製、固形分20vol%)をワイヤーバーでウェット膜厚が25μmになるように塗工し、UV照射し硬化させ、透明導電層No.2を形成した。UV硬化樹脂を含めた透明導電層No.2の膜厚は5μmであった。また、一方で、透明導電層No.2の水蒸気透過度を評価するために、厚さ100μmのPENフィルムの一面に透明導電層No.2を形成した透明導電層No.2形成フィルムを作製した。透明導電層No.2形成フィルムの水蒸気透過度は1.5g/m/dayであった。
【0034】
透明導電層No.3は、以下のようにして形成した。基材プラスチックフィルムの一面に、ITO微粒子イソプロピルアルコール分散液(ITO微粒子は直径50nm、バインダーはセルロースバインダー、溶媒はイソプロピルアルコール、固形分20vol%)をワイヤーバーにてウェット膜厚が20μmになるように塗布し、乾燥して、膜厚4μmの透明導電層No.3を形成した。また、一方で、透明導電層No.3の水蒸気透過度を評価するために、厚さ100μmのPENフィルムの一面に透明導電層No.3を形成した透明導電層No.3形成フィルムを作製した。透明導電層No.3形成フィルムの水蒸気透過度は1.0g/m/dayであった。
【0035】
透明導電層No.4は、以下のようにして作製した。基材プラスチックフィルムの一面に、スパッタリング法で膜厚40nmのITO(SnO10%)薄膜を積層して、透明導電層No.4を形成した。また、一方で、透明導電層No.4の水蒸気透過度を評価するために、厚さ100μmのPENフィルムの一面に透明導電層No.4を形成した透明導電層No.4形成フィルムを作製した。透明導電層No.4形成フィルムの水蒸気透過度は0.2g/m/dayであった。
【0036】
透明導電層No.5は、以下のようにして作製した。基材プラスチックフィルムの一面に、スパッタリング法で膜厚400nmのITO(SnO10%)薄膜を積層して、透明導電層No.5を形成した。また、一方で、透明導電層No.5の水蒸気透過度を評価するために、厚さ100μmのPENフィルムの一面に透明導電層No.5を形成した透明導電層No.5形成フィルムを作製した。透明導電層No.5形成フィルムの水蒸気透過度は0.02g/m/dayであった。
【0037】
〔透明導電性フィルムの作製〕
本実施例で作製した9種の透明導電性フィルムの具体的な内容と作製方法は、以下とおりである。
【0038】
まず、上記で作製したガスバリアフィルムNo.1を用い、基材プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、上記の透明導電層No.1〜3のそれぞれを形成して、実施例1〜3の3種の透明導電性フィルムを作製した。具体的には、ガスバリアフィルムNo.1に透明導電層No.1を形成した透明導電性フィルムの試料No.を実施例1とし、透明導電層No.2を形成したものを実施例2とし、透明導電層No.3を形成したものを実施例3とした。
【0039】
同様にして、上記で作製したガスバリアフィルムNo.2を用い、基材プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、上記の透明導電層No.1〜3のそれぞれを形成して、実施例4〜6の3種の透明導電性フィルムを作製した。具体的には、ガスバリアフィルムNo.2に透明導電層No.1を形成した透明導電性フィルムの試料No.を実施例4とし、透明導電層No.2を形成したものを実施例5とし、透明導電層No.3を形成したものを実施例6とした。
【0040】
続いて、上記で作製したガスバリアフィルムNo.3を用い、基材プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、上記の透明導電層No.1〜3のそれぞれを形成して、実施例7〜9の3種の透明導電性フィルムを作製した。具体的には、ガスバリアフィルムNo.3に透明導電層No.1を形成した透明導電性フィルムの試料No.を実施例7とし、透明導電層No.2を形成したものを実施例8とし、透明導電層No.3を形成したものを実施例9とした。
【0041】
比較例で作製した6種の透明導電性フィルムの具体的な内容と作製方法は、以下とおりである。
【0042】
まず、上記で作製したガスバリアフィルムNo.1を用い、基材プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、上記の透明導電層No.4、5のそれぞれを形成して、比較例1、2の2種の透明導電性フィルムを作製した。具体的には、ガスバリアフィルムNo.1に透明導電層No.4を形成した透明導電性フィルムの試料No.を比較例1とし、透明導電層No.5を形成したものを比較例2とした。
【0043】
同様にして、上記で作製したガスバリアフィルムNo.2を用い、基材プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、上記の透明導電層No.4、5のそれぞれを形成して、比較例3、4の2種の透明導電性フィルムを作製した。具体的には、ガスバリアフィルムNo.2に透明導電層No.4を形成した透明導電性フィルムの試料No.を比較例3とし、透明導電層No.5を形成したものを比較例4とした。さらに、上記で作製したガスバリアフィルムNo.3を用い、基材プラスチックフィルムのガスバリア機能層の反対面に、上記の透明導電層No.4、5のそれぞれを形成して、比較例5、6の2種の透明導電性フィルムを作製した。具体的には、ガスバリアフィルムNo.3に透明導電層No.4を形成した透明導電性フィルムの試料No.を比較例5とし、透明導電層No.5を形成したものを比較例6とした。
【0044】
〔透明導電性フィルムの評価〕
以上により作製した、本実施例の9種の透明導電性フィルム、および比較例の6種の透明導電性フィルムについて、その特性として、水蒸気透過度(単位:g/m/day)、シート抵抗値(単位:Ω/□)、および全光線透過率(単位:%)を評価した。その評価結果を、その透明導電性フィルムの試料No.および試料の構成の内容とともに、(表1)に示す。
【0045】
なお、水蒸気透過度は、差圧式の測定装置DELTAPERMを用いて測定した。測定は、以下のようにして行った。測定試料である透明導電性フィルムは、予め100℃のオーブン中に一日放置して予備乾燥した。この測定試料を、測定装置にセットした後、85℃、0%RHの条件で24時間放置して前処理した。次に、40℃、90%RHの条件で、試料の水蒸気透過度の測定をした。なお、上述において示した、ガスバリアフィルムおよび透明導電層形成フィルムの水蒸気透過度の値についても、同様の方法で測定した測定値である。
【0046】
また、シート抵抗値は、(株)三菱化学アナリテック製MCP−T610を用い、JIS K7194に準じて測定した。全光線透過率は、日本電色工業(株)製NDH2000を用い、JIS K7105に準じて測定した。
【0047】
【表1】















【0048】
(表1)に示したように、実施例1〜9の透明導電性フィルムの水蒸気透過度は、いずれも用いた3種のガスバリアフィルムNo.1〜3のそれぞれのガスバリアフィルムのみの水蒸気透過度と同じ値が得られ、0.01g/m/day以下の極めて小さな水蒸気透過度となった。この結果は、実施例1〜9の透明導電性フィルムにおいて形成した透明導電層No.1〜3は、いずれも水蒸気透過度が大きく、透明導電層の水蒸気透過度が1.0g/m/day以上であり、このために、フィルムが吸湿した含有水分の除去が容易となり、水蒸気透過度の測定前の予備乾燥および前処理によりフィルム中の水分が完全に除去できたためである。
【0049】
そして、これら実施例1〜9の透明導電性フィルムの水蒸気透過度は、短時間の乾燥でも、これを用いて表示素子として組み立てた場合、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性が維持され、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくく、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適した水蒸気透過度であり、本発明の目的とする透明導電性フィルムとして、望ましい水蒸気透過度が得られた。
【0050】
一方、(表1)に示したように、比較例1〜6の透明導電性フィルムの水蒸気透過度は、いずれも用いた3種のガスバリアフィルムNo.1〜3のそれぞれのガスバリアフィルムのみの水蒸気透過度よりも大きな値となり、形成した透明導電層と同じ値の水蒸気透過度となった。これは、比較例1〜6の透明導電性フィルムにおいて形成した透明導電層No.4および5は、いずれも水蒸気透過度が小さく、透明導電層No.4では0.2g/m/dayであり、透明導電層No.5では0.02g/m/dayであった。このために、フィルムが吸湿した含有水分が抜けにくく、水蒸気透過度の測定前の予備乾燥および前処理だけでは、フィルム中の水分の除去が不十分であったため、比較例1〜6の透明導電性フィルムの水蒸気透過度の測定時においては、残存していたフィルム中の水分が検出されたものと考えられる。
【0051】
そして、これら比較例1〜6の透明導電性フィルムは、これを用いて表示素子として組み立てた場合には、短時間の乾燥では、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題を生ずる危険性があり、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に用いる場合には、極めて長時間の乾燥が必要である。したがって、比較例1〜6の透明導電性フィルムは、本発明の目的とする透明導電性フィルムとして望ましいものではなかった。
【0052】
また、(表1)に示したように、実施例1〜9の透明導電性フィルムのシート抵抗値は、10〜500Ω/□であり、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適したシート抵抗値が得られた。特に、シート抵抗値が10Ω/□の実施例1、4、7の透明導電性フィルムは、太陽電池や有機ELなどのデバイスの用途に適した特性である。また、シート抵抗値が500Ω/□の他の実施例の透明導電性フィルムも、タッチパネルや電子ペーパーなどに応用することが可能であり、透明導電性フィルムとして種々のデバイスに応用可能なシート抵抗値であることが確認できた。
【0053】
さらに、(表1)に示したように、実施例1〜9の透明導電性フィルムの全光線透過率は、78〜88%であり、透明導電性フィルムとして液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池など種々のデバイスに応用可能な全光線透過率であることが確認できた。
【0054】
なお、上記の実施例において、本発明の透明導電性フィルムの作製方法として、プラスチックフィルムにガスバリア機能層を形成したガスバリアフィルムを用い、このフィルムのガスバリア機能層の反対面に透明導電層を形成した方法を説明したが、必ずしもこの方法でなくとも良い。
【0055】
すなわち、プラスチックフィルムの一面に透明導電層を形成し、このフィルムの透明導電層の反対面にガスバリア層を形成した後、このフィルムのガスバリア層側に、ガスバリア層を形成した他のフィルムを貼り合わせてガスバリア機能層を形成して本発明の透明導電性フィルムを作製することもできる。また、プラスチックフィルムの一面にガスバリア層を形成し、このフィルムのガスバリア層の反対面に透明導電層を形成した後、このフィルムのガスバリア層側に、ガスバリア層を形成した他のフィルムを貼り合わせてガスバリア機能層を形成して本発明の透明導電性フィルムを作製することもできる。
【0056】
以上説明したように、本発明の透明導電性フィルムは、基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m/day以上としている。
【0057】
そして、上記の構成により、本発明の透明導電性フィルムは、ガスバリア機能層の水蒸気透過度を極めて小さくしているので、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性を確保することができる。一方、透明導電層の水蒸気透過度を大きくしているので、プラスチックフィルムが吸湿した含有水分の除去が容易であり、短時間の乾燥で水分除去が可能である。そして、乾燥後、これを用いて表示素子として組み立てた場合には、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性が維持され、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくく、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などへの用途に適した透明導電性フィルムとなる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る透明導電性フィルムは、ガスバリア機能層によって水分に対する高いバリア性が維持され、プラスチックフィルムの吸湿水分に由来する表示素子の表示性能の低下などの問題が生じにくいので、液晶表示素子、有機EL素子等の表示素子、および有機薄膜太陽電池などに使用される透明導電性フィルムとして、特に有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材プラスチックフィルムの一方の面にガスバリア機能層を有し、他方の面に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア機能層の水蒸気透過度を0.01g/m/day以下とし、前記透明導電層の水蒸気透過度を1.0g/m/day以上としたことを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
ガスバリア機能層は、基材プラスチックフィルムに形成したガスバリア層とカバープラスチックフィルムに形成したガスバリア層とを貼り合わせて構成したことを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
透明導電層は、導電性微粒子とバインダー成分とをコーティングして形成したものであることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを用いてなることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを用いてなることを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを用いてなることを特徴とする有機薄膜太陽電池。


【公開番号】特開2012−111141(P2012−111141A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262460(P2010−262460)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】