説明

透明導電性フィルム及びその製造方法

【課題】タッチパネルに用いた際の高温高湿条件下での抵抗値安定性、およびペン入力耐久性に優れる透明導電性フィルム及びその効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量が連続的に、および/または、段階的に減少していて、かつ、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜60質量%多く、かつ透明導電膜の全体の厚みが16〜50nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上である透明導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明プラスチックフィルム基材に酸化インジウムを主とした透明導電膜を積層した透明導電性フィルム及びその製造方法に関し、特にカーナビゲーション用タッチパネルに用いた際に、高温高湿条件での抵抗値安定性に優れており、また、ペン入力耐久性に優れた透明導電性フィルムとその効率的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明プラスチック基材に、透明でかつ抵抗が小さい薄膜を積層した透明導電性フィルムは、その導電性を利用した用途、例えば、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のようなフラットパネルディスプレイや、タッチパネルの透明電極等として、電気・電子分野の用途に広く使用されている。
【0003】
近年、タッチパネル付きカーナビゲーションの普及により、高温高湿条件85℃85%R.H.下においても抵抗値変動が少ない透明導電性フィルムが求められている。また、ペン入力耐久性に優れた透明導電性フィルムも求められている。例えば、透明導電性フィルムの高温高湿条件85℃85%R.H.下における抵抗値変動は、高温高湿安定性試験前の抵抗値で、高温高湿安定性試験後の抵抗値を除した信頼度係数の値として表すことができる。信頼度係数は0.8〜1.2の範囲であることが望ましい。一方、ペン入力耐久性試験は、5.0Nの荷重で35万回直線摺動を実施した後、摺動部の外観や電気特性を調べ
る試験が行われている。摺動部の外観や電気特性がペン入力耐久性試験前と比較して変わらなければ良好という試験結果になる。ペン入力耐久性試験が良好な結果となる透明導電性フィルムとしては、透明導電膜を結晶性にしたものが知られている。透明導電膜が結晶性で、信頼度係数を1に近づけるための方法が検討されている(特許文献1、2ご参照)。特許文献1、2ともに、透明導電膜が結晶性であるので、ペン入力耐久性は比較的良いと考えられるが、これら特許文献において透明導電性フィルムの高温高湿条件下での抵抗値安定性に関しては以下のように考察される。
【0004】
特許文献1には、透明導電性薄膜を成膜する前に、プラスチックフィルム基材を加熱することで、熱収縮率を低減した透明導電性フィルムが記載されている。しかしながら、プラスチックフィルム基材を成膜前加熱するには、加熱工程を準備しなければならず、工程数が増加し好ましくない。また、特許文献1に記載される透明導電性フィルムでは85℃85%R.H.500時間後の抵抗値が未処理状態での抵抗値の2倍程度(前記の信頼度係数が約2である)となり、高温高湿条件下においても抵抗値安定性が不十分であった。
【0005】
特許文献2には、透明導電膜に窒素を含有させる透明導電性フィルムが記載されている。しかしながら、透明導電性薄膜をスパッタリング法などの真空成膜法で成膜するときには、プラスチックフィルムから窒素が放出されるので、特許文献2に記載されるように(窒素)/(アルゴン+窒素)の値を恒常的に3000〜13000ppmになるように制
御することは非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−133839号公報
【特許文献2】特開2007−200823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の従来の問題点に鑑み、タッチパネルに用いた際の高温高湿条件下での抵抗値安定性、およびペン入力耐久性に優れる透明導電性フィルムとその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような状況に鑑みなされたものであって、上記の課題を解決することができた透明導電性フィルムとその製造方法は、以下の構成よりなる。
1. 透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量が連続的に、および/または、段階的に減少していて、かつ、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜60質量%多く、かつ透明導電膜の全体の厚みが16〜50nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上であることを特徴とする透明導電性フィルム。
2. 透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムの製造方法であって、透明導電膜の原材料となるスパッタリングターゲットが、酸化インジウムの他、酸化スズを0.5〜68質量%含み、前記スパッタリングターゲットを2枚以上用い、酸化スズの含有量が高いスパッタリングターゲットから順に透明プラスチック基材に成膜し、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットに含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットより最初に成膜に用いた酸化スズの含有量が20〜60質量%多く、かつ、透明導電膜成膜時の基板温度が−60〜50℃であり、かつ成膜用の反応性ガスとして酸素を用い、酸素分圧を1.0×10−3〜50×10−3Pa、不活性ガスに対する水分圧の比が8.0×10−4〜3×10−3にしてスパッタリング法にて成膜することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温高湿条件85℃85%R.H.下での抵抗値安定性、およびペン入力耐久性に優れた透明導電性フィルムとその効率的な製造を行うことができる製造方法が提供される。得られた透明導電性フィルムは、カーナビゲーション用タッチパネルやその他タッチパネル等の用途に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】透明導電膜への酸化スズ濃度を連続的に減少させる方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の透明導電性フィルムは、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量が連続的に、および/または、段階的に減少していて、かつ、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜60質量%多く、かつ透明導電膜の全体の厚みが16〜50nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上であることを特徴とする透明導電性フィルムであることが好ましい。
【0012】
85℃85%R.H.高温高湿条件下で抵抗値安定性、およびペン入力耐久性に優れた透明導電膜を作製するためには、透明導電膜を次のような構成にすることが望ましい。即ち、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明プラスチック基材側に酸化スズの濃度が高い透明導電膜を配置し、次に、表層側に向かって、連続的に、および/または、段階的に酸化スズの濃度が低い透明導電膜を積層していく構成である。前記の透明導電膜の膜厚方向の酸化スズの濃度変化させる理由については、後述する。
【0013】
まず、透明導電膜の全体の膜厚が16〜50nmにおける酸化スズ添加酸化インジウム透明導電膜の物性と酸化スズ濃度の関係について説明する。酸化スズ添加酸化インジウムの酸化スズ濃度が低いとき、酸化スズ添加酸化インジウムは結晶質になり易く、物理的耐久性に優れるため、ペン入力耐久性に優れる。ここで結晶質の透明導電膜の定義を示す。透過型電子顕微鏡下で透明導電膜層を観察したときに、多角形状の領域を持つものが結晶であり、それ以外は非晶である。結晶質部に対する非晶質部の比が0.00〜0.16の透明導電膜を結晶質と呼ぶことにする。また、結晶質部に対する非晶質部の比を見積もる方法は、透過型電子顕微鏡下で観察したときの結晶質部と非晶質部の面積比から算出することができる。酸化スズの含有量を増加させると、酸化インジウムに対して酸化スズは不純物であるため、非晶質になり易い。しかし、酸化スズは化学的安定性に優れるため、酸化スズ含有量の増加に従い、酸化スズ添加酸化インジウムの化学的安定性が向上する。酸化スズ添加酸化インジウムの抵抗値変化は、85℃85%R.H.高温高湿条件下で、酸化インジウムの酸素欠損部分が酸化して消失するため、キャリアが減少して抵抗値が増加する。化学的安定性の高い酸化スズが多く添加されている酸化インジウムは、酸化スズによる被覆効果により酸化インジウムの酸化を防止するため、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性に優れる。よって、透明導電膜の全体の膜厚16〜50nmのときの酸化スズ添加酸化インジウム透明導電膜において、単純に酸化スズ濃度を変化させた単層の透明導電膜では、ペン入力耐久性と85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性を両立させることは困難である。
【0014】
ペン入力耐久性と85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性の両立をさせるために、ペン入力耐久性の高い酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウムと、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性に優れる酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウムを単純に組み合わせる方法が考えられるが、前記のような単純な組み合わせだと、次のような問題が発生する場合がありあまり好ましくない。酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウムと酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウムの組み合わせに、ペン入力耐久性試験を実施すると、透明プラスチック基材側の酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウムが非晶質であるため、透明導電膜が削れたり、透明プラスチック基材から剥離したりする恐れがある。また、酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウムと酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウムの組み合わせたものに、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性試験を実施すると、酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウム部分は優れるが、酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウム部分が悪化する場合があり、透明導電膜全体としては抵抗値安定性が低くなり易くあまり好ましくない。また、酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウムと、酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウムの組み合わせの、透明導電膜の膜厚方向の酸化スズの濃度変化を逆にして、−60℃〜50℃の基板温度で、透明導電膜の全体の膜厚16〜50nmで成膜すると、結晶化が困難になる問題があり好ましくない。なぜなら、基板温度が低温で、膜厚が薄いというだけで、透明導電膜を結晶化させることが難しくなるが、さらに、透明プラスチック基材に近い側に酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウムを薄い膜厚で成膜することにより、透明プラスチック基材からの放出ガスなどの影響が大きく、酸化スズ含有量が少なくても結晶化が難しくなる、また、酸化スズ含有量の少ない酸化スズ添加酸化インジウムの上に酸化スズ含有量の多い酸化スズ添加酸化インジウムを成膜しても、酸化スズの含有量が多いため結晶化は難しい。
【0015】
上記の問題を解決するために、本発明では、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量が連続的に、および/または、段階的に減少していて、かつ、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜60質量%多く、かつ透明導電膜の全体の厚みが16〜50nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上である透明導電性フィルムの構成を取っていることが好ましい。この構成により、ペン入力耐久性については、酸化スズの含有量が少ない表層側の透明導電膜が結晶化し、さらに酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させて透明導電膜を成膜させたことにより、透明導電膜の積層界面近傍での格子歪に伴う内部応力が適度に蓄積して、透明導電膜全体の硬さが増加するために、ペン入力耐久性を大幅に向上させることができる。また、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性については、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させた部分が、85℃85%R.H.高温高湿条件下で結晶化が進むことにより、酸化インジウムのインジウムサイトへスズが入ることで、キャリアが発生し、酸化インジウムの酸素欠損部分の酸化によるキャリア消失を補填し、抵抗値安定性を保つ。透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させる構成が、前記のキャリア補填を行われ易くさせている。ポイントは2つある。1つ目のポイントは、すでに結晶化している表層側の透明導電膜が、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させた部分の85℃85%R.H.高温高湿下での結晶成長を促進するシード層となっていることである。2つ目のポイントは、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させている部分が、透明導電膜の膜厚方向に対して、表層側から透明プラスチックフィルム基材側に向かって、85℃85%R.H.高温高湿下で徐々に結晶化しやすい構成になっていることである。その結果として、この構成は、85℃85%R.H.高温高湿下での抵抗値安定性を有する。
【0016】
本発明において、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%含まれることが望ましい。表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5質量%未満だと、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズ濃度が低すぎるため、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が乏しいので望ましくない。表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が8質量%より多いと、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズ濃度が高すぎるため、結晶化が阻害され、ペン入力耐久性が乏しいので望ましくない。より好ましくは、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が2〜7質量%含まれることである。
【0017】
本発明において、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜60質量%多く含まれることが望ましい。透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20質量%未満多い場合、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させた部分に含まれる酸化スズの含有量が少ないため、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が乏しいので望ましくない。透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より60質量%より多く含まれると、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量を連続的に、および/または、段階的に減少させた部分に含まれる酸化スズの含有量が多いため、結晶化が阻害され、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が乏しくなるので望ましくない。また、透明導電膜の積層界面近傍での格子歪に伴う内部応力が非常に大きくなるため、ペン入力耐久性試験を実施すると、ペン摺動部の透明導電膜が破壊され、ペン摺動部が白化するので望ましくない。より好ましくは、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜50質量%多く含まれることである。
【0018】
本発明において、透明導電膜の全体の厚みは16〜50nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上であることが望ましい。より好ましくは15nm以上である。酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm未満だと、結晶化が阻害され、ペン入力耐久性が乏しくなり易くあまり好ましくない。酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みの上限は、透明導電膜全体の厚みにもよるが、48nm以下であることが好ましく、更に好ましくは46nm以下である。また、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が乏しくなるのであまり望ましくない。透明導電膜の全体の厚みが16nm未満だと、透明導電膜の全体の膜厚が薄いため、85℃85%R.H.高温高湿試験を実施すると、影響を受けやすくなり、抵抗値安定性が乏しくなるので望ましくない。透明導電膜の厚みが50nmより厚くなると、全光線透過率が実用的な水準より低くなるので望ましくない。なお、本発明の透明導電性フィルムの全光線透過率は75〜95%が望ましい。より好ましくは、透明導電膜の全体の厚みが18〜40nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上であることである。
【0019】
透明導電性フィルムのペン入力耐久性の向上、および85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性の向上させるために、所望により、透明導電性フィルムに熱処理を実施することも好ましい。熱処理温度は110〜160℃であることが望ましく、かつ熱処理時間は20〜120分が望ましい。熱処理温度が110℃未満だと、透明導電膜を結晶化させる温度としては不十分になる可能性があり、ペン入力耐久性が乏しくなる可能性があり、また、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が乏しくなる可能性があるので望ましくない。また、熱処理温度が160℃より高いと、透明プラスチック基材が変形してしまうため、実用上望ましくない。なお、本発明の透明導電性フィルムの熱処理温度は120〜150℃が望ましい。熱処理時間については、20分未満だと、透明導電膜を結晶化させるのに必要な時間としては不十分になる可能性があり、ペン入力耐久性が乏しくなる可能性があり、また、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が乏しくなる可能性があるので望ましくない。また、熱処理時間が120分を超えると、生産効率が低下するため実用上望ましくない。なお、本発明の透明導電性フィルムの熱処理時間は30〜90分が望ましい。もちろん、前記の説明は、熱処理しない態様を排除するものではない。
【0020】
85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性およびペン入力耐久性に優れた透明導電性フィルムの製造方法を鋭意検討した結果、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムの製造方法であって、透明導電膜の原材料となるスパッタリングターゲットが、酸化インジウムの他、酸化スズを0.5〜68質量%含み、前記スパッタリングターゲットを2枚以上用い、酸化スズの含有量が高いスパッタリングターゲットから順に透明プラスチック基材に成膜し、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットに含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットより最初に成膜に用いた酸化スズの含有量が20〜60質量%多く、かつ、透明導電膜成膜時の基板温度が−60〜50℃であり、かつ成膜用の反応性ガスとして酸素を用い、酸素分圧を1.0×10−3〜50×10−3Pa、不活性ガスに対する水分圧の比が8.0×10−4〜3×10−3にしてスパッタリング法にて成膜する透明導電性フィルムの製造方法が好ましい。
【0021】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムの製造方法であって、透明導電膜の原材料となるスパッタリングターゲットが、酸化インジウムの他、酸化スズを0.5〜68質量%含み、前記スパッタリングターゲットを2枚以上用い、酸化スズの含有量が高いスパッタリングターゲットから順に透明プラスチック基材に成膜し、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットに含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットより最初に成膜に用いた酸化スズの含有量が20〜60質量%多くして透明導電性フィルムを製造することが良い理由については、上記で述べた通りであり、本発明の透明導電膜の構成になるように、複数のスパッタリングターゲットの構成や成膜順序などを選択することが好ましい。
【0022】
酸化インジウムの他、酸化スズ0.5〜68質量%含んだ透明導電膜の原材料となるスパッタリングターゲットを使用する枚数は、好ましくは2枚以上であり、3枚であることが好ましく、4枚であることが更に好ましい。即ち、3枚以上であることや、4枚以上であることも好ましいが、あまりにスパッタリングターゲットの枚数が多いと製造上煩雑になるので、10枚以下でよい。前記スパッタリングターゲットを用いる順序は、酸化スズの質量%が高いものから使用することが好ましい。
【0023】
前記のように、酸化スズの質量%が高いものから順にスパッタリングターゲットを用いれば、段階的に基材側から表層側に向かって透明導電膜中の酸化スズの含有量が減少する態様となる。一方、連続的に基材側から表層側に向かって透明導電膜中の酸化スズの含有量が減少する態様とするには、例えば、DCデュアルマグネトロンスパッタリング法、もしくは、DCデュアルマグネトロンスパッタリング法とDCマグネトロンスパッタリング法により、透明導電膜を成膜することが挙げられる。デュアルマグネトロンスパッタリング法を適用するにあたり、一般的に、同じターゲットを2枚装着するが、酸化スズ濃度が異なる酸化インジウム焼結ターゲットを酸化スズ濃度が高い順に装着し、酸化スズ濃度の異なる酸化インジウム焼結ターゲットが隣同士で交互に放電するので、透明導電膜の膜厚方向の酸化スズ濃度を連続的に変化させることができる。
【0024】
本来、透明導電膜中において、厚み方向の酸化スズ濃度はなめらかに連続的に変化していることが、その膜の一体性の観点から望ましいといえる。従って、厚み方向の酸化スズ濃度を段階的に変化させる場合には、透明導電膜が酸化スズ濃度が異なる2層からなっていてもよいが、3層からなっていることが好ましく、4層からなっていることがより好ましい。即ち、好ましくは透明導電膜が酸化スズ濃度が異なる3層以上、更に好ましくは4層以上からなっていることである。しかしながら、あまりにも酸化スズ濃度の異なる層を多数にすると、ターゲット枚数が増えて製造上煩雑になるので、層数を10層以下にすることが望ましい。
【0025】
85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性およびペン入力耐久性を向上させるために、透明導電膜を成膜するときの基板温度を−60〜50℃にすることが好ましい。ここで基板温度は、基板温度を制御しているチラーの温媒の温度で代用する。透明プラスチックフィルム基材は、ガラスや金属などの無機基材と異なり、有機成分や水を多く含有している。そのため、基材温度を50℃より高くすると、透明導電膜を成膜するときに、透明プラスチック基材から、有機ガスや水が大量に放出されるために、これらのガスと透明導電膜が反応し、不安定で不均質な透明導電膜ができる場合がありあまり好ましくない。よって、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性が必ずしも十分にならず、かつ、ペン入力耐久性も不十分になり易いのであまり好ましくない。基材温度が50℃以下であれば、透明プラスチック基材から、有機ガスや水が放出されにくくなるために、安定で均質な透明導電膜を成膜でき、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性およびペン入力耐久性が良好となる。基板温度を−60℃より低くするためには、一般的なチラーでは対応できづらく、経済的にあまり好ましくない。より好ましくは、基板温度は−20〜0℃である。理由は以下の通りである。水の融点である0℃以下だとガス放出が非常に少なくなり望ましい。また、汎用チラーは最低温度が−20℃以上のものが多いため、経済的な面から−20℃以上が望ましい。
【0026】
85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性およびペン入力耐久性を向上させるために、成膜用の反応性ガスとして酸素を用い、酸素分圧を1.0×10−3〜50×10−3Paにして成膜することが好ましい。酸素分圧が1.0×10−3Pa未満で酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜を成膜すると、透明導電膜内の酸素欠損が非常に多い不安定な膜になり易くあまり好ましくない。酸素欠損が多い酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜を、85℃85%R.H.高温高湿条件下におくと、酸素欠損部分が反応するため、抵抗値が時間とともに増大するため、抵抗値安定性が不十分となり易くあまり好ましくない。また、酸素欠損の多い酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜は、結晶質になりにくいため、ペン入力耐久性試験を実施すると、ペン摺動部が白化し易く、好ましくない。より好ましくは、酸素分圧の下限は2.0×10−3である。酸素分圧が50×10−3Paより多い値で成膜すると、表面抵抗値が実用的な水準より高くなるので望ましくない。なお、本発明の透明導電性フィルムの表面抵抗値は100〜900Ω/
□が望ましい。より好ましくは、酸素分圧の上限は40×10−3Paである。
【0027】
85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗値安定性およびペン入力耐久性を向上させるために、不活性ガスに対する水分圧の比が8.0×10−4〜3×10−3にして成膜することが好ましい。スパッタリング時の成膜雰囲気の不活性ガスに対する水分圧の比については、ガス分析装置(インフィコン社製、トランスペクターXPR3)を用いて測定した。不活性ガスに対する水分圧の比が8.0×10−4未満で成膜するためには、長時間の真空引きを実施するか、もしくは非常に能力の高い真空ポンプが必要となり、経済的に実施が難しくなるので、好ましくない。不活性ガスに対する水分圧の比が3×10−3より大きい状態で成膜すると、成膜雰囲気中の水分量が多いため、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜の結晶化が阻害され、ペン入力耐久性試験を実施すると、ペン摺動部が白化し、好ましくない。不活性ガスに対する水分圧の比の好ましい範囲は8.0×10−4〜2.5×10−3である。
【0028】
<透明プラスチックフィルム基材>
本発明で用いる透明プラスチックフィルム基材とは、有機高分子をフィルム状に溶融押出し又は溶液押出しをして、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムであり、有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルファン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー等が挙げられる。
【0029】
これらの有機高分子のなかで、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレート等が好適である。また、これらの有機高分子は他の有機重合体の単量体を少量共重合したり、他の有機高分子をブレンドしてもよい。
【0030】
本発明で用いる透明プラスチックフィルム基材の厚みは、10〜300μmの範囲であることが好ましく、70〜260μmの範囲が特に好ましい。プラスチックフィルムの厚みが10μm未満では機械的強度が不足し、特にタッチパネルに用いた際のペン入力に対する変形が大きくなる傾向があり、耐久性が不十分となりやすい。一方、厚みが300μmを超えると、タッチパネルに用いた際に、フィルムを変形させるためのペン荷重が大きくなりやすく、好ましくない。
【0031】
本発明で用いる透明プラスチックフィルム基材は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記フィルムをコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理等の表面活性化処理を施してもよい。
【0032】
透明プラスチックフィルム基材に硬化型樹脂層を塗布し、かつその硬化型樹脂層の表面を凹凸にした上に透明導電膜を成膜すると、ペン摺動耐久性の向上を期待することができる。この効果は主に2点ある。1点目は透明導電性薄膜と硬化型樹脂層の付着力が増すことにより、ペン摺動による透明導電膜の剥がれの防止をできるためペン摺動耐久性が向上するという点である。2点目はペン摺動により透明導電薄膜がガラスと接触するときの真の接触面積が減少し、ガラス面と透明導電膜との滑り性が良くなるためペン摺動耐久性が向上するという点である。硬化型樹脂層の詳細について以下に記載する。
【0033】
<硬化型樹脂層>
また、本発明で用いる前記硬化型樹脂は、加熱、紫外線照射、電子線照射等のエネルギー印加により硬化する樹脂であれば特に制限はなく、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。生産性の観点からは、紫外線硬化型樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0034】
このような紫外線硬化型樹脂としては、例えば、多価アルコールのアクリル酸又はメタクリル酸エステルのような多官能性のアクリレート樹脂、ジイソシアネート、多価アルコール及びアクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル等から合成されるような多官能性のウレタンアクリレート樹脂等を挙げることができる。必要に応じて、これらの多官能性の樹脂に単官能性の単量体、例えば、ビニルピロリドン、メチルメタクリレート、スチレン等を加えて共重合させることができる。
【0035】
また、透明導電性薄膜と硬化型樹脂層との付着力を向上するために、硬化型樹脂層の表面を表面処理することが有効である。具体的な手法としては、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基を増加するためにグロー又はコロナ放電を照射する放電処理法、アミノ基、水酸基、カルボニル基等の極性基を増加させるために酸又はアルカリで処理する化学薬品処理法等が挙げられる。
【0036】
紫外線硬化型樹脂は、通常、光重合開始剤を添加して使用される。光重合開始剤としては、紫外線を吸収してラジカルを発生する公知の化合物を特に制限なく使用することができ、このような光重合開始剤としては、例えば、各種ベンゾイン類、フェニルケトン類、ベンゾフェノン類等を挙げることができる。光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化型樹脂100質量部当たり通常1〜5質量部とすることが好ましい。
【0037】
また、本発明において硬化型樹脂層には、主たる構成成分である硬化型樹脂のほかに、硬化型樹脂に非相溶な樹脂を併用することが好ましい。マトリックスの硬化型樹脂に非相溶な樹脂を少量併用することで、硬化型樹脂中で相分離が起こり非相溶樹脂を粒子状に分散させることができる。この非相溶樹脂の分散粒子により、硬化型樹脂表面に凹凸を形成させ、広領域における表面粗さを向上させることができる。
【0038】
硬化型樹脂が前記の紫外線硬化型樹脂の場合、非相溶樹脂としてはポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等が例示される。
【0039】
本発明において、硬化型樹脂層の主たる構成成分である硬化型樹脂として紫外線硬化型樹脂を用い、硬化型樹脂に非相溶な高分子樹脂として高分子量のポリエステル樹脂を用いる場合、それらの配合割合は、紫外線硬化型樹脂100質量部当たりポリエステル樹脂0.1〜20質量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜10質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部である。
【0040】
前記ポリエステル樹脂の配合量が紫外線硬化型樹脂100質量部当たり0.1質量部未満であると、硬化型樹脂層表面に形成される凸部が小さくなったり、凸部が減少する傾向にあり表面粗さが向上せず、ペン摺動耐久性のさらなる改良効果が発現せず好ましくない。一方、前記ポリエステル樹脂の配合量が紫外線硬化型樹脂100質量部当たり20質量部を超えると、この硬化型樹脂層の強度が低下し、耐薬品性が悪化しやすくなる。
【0041】
しかしながら、ポリエステル樹脂は紫外線硬化型樹脂と屈折率に差異があるため、硬化型樹脂層のヘーズ値が上昇し透明性を悪化させる傾向があるので好ましくない。逆に、高分子量のポリエステル樹脂の分散粒子による透明性の悪化を積極的に利用し、ヘーズ値が高く防眩機能を有する防眩フィルムとして使用することもできる。
【0042】
前記の紫外線硬化型樹脂、光重合開始剤及び高分子量のポリエステル樹脂は、それぞれに共通の溶剤に溶解して塗布液を調製する。使用する溶剤には特に制限はなく、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のようなアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル系溶剤、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のようなエーテル系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のようなケトン系溶剤、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等のような芳香族炭化水素系溶剤等を単独に、あるいは混合して使用することができる。
【0043】
塗布液中の樹脂成分の濃度は、コーティング法に応じた粘度等を考慮して適切に選択することができる。例えば、塗布液中に紫外線硬化型樹脂、光重合開始剤及び高分子量のポリエステル樹脂の合計量が占める割合は、通常は20〜80質量%である。また、この塗布液には、必要に応じて、その他の公知の添加剤、例えば、シリコーン系レベリング剤等を添加してもよい。
【0044】
本発明において、調製された塗布液は透明プラスチックフィルム基材にコーティングされる。コーティング法には特に制限はなく、バーコート法、グラビアコート法、リバースコート法等の従来から知られている方法を使用することができる。
【0045】
コーティングされた塗布液は、次の乾燥工程で溶剤が蒸発除去される。この工程で、塗布液中で均一に溶解していた高分子量のポリエステル樹脂は微粒子となって紫外線硬化型樹脂中に析出する。塗膜を乾燥した後、プラスチックフィルムに紫外線を照射することにより、紫外線硬化型樹脂が架橋・硬化して硬化型樹脂層を形成する。この硬化の工程で、高分子量のポリエステル樹脂の微粒子はハードコート層中に固定されるとともに、硬化型樹脂層の表面に突起を形成し広領域における表面粗さを向上させる。
【0046】
また、硬化型樹脂層の厚みは0.1〜15μmの範囲であることが好ましい。より好ましくは0.5〜10μmの範囲であり、特に好ましくは1〜8μmの範囲である。硬化型樹脂層の厚みが0.1μm未満の場合には、突起が十分に形成されにくくなる。一方、15μmを超える場合には生産性の観点から好ましくない。
【実施例】
【0047】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、実施例における各種測定評価は下記の方法により行った。
【0048】
(1)全光線透過率
JIS−K7136に準拠し、日本電色工業(株)製NDH−2000を用いて、全光線透過率を測定した。
【0049】
(2)表面抵抗値
表面抵抗をJIS−K7194に準拠し、4端子法にて測定した。測定機は、三菱油化(株)製 LorestaMP MCP−T350を用いた。
【0050】
(3)透明導電膜の全体の厚み(膜厚)
透明導電性薄膜層を積層したフィルム試料片を1mm×10mmの大きさに切り出し、電子顕微鏡用エポキシ樹脂に包埋した。これをウルトラミクロトームの試料ホルダに固定し、包埋した試料片の短辺に平行な断面薄切片を作製した。次いで、この切片の薄膜の著しい損傷がない部位において、透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM−2010)を用い、加速電圧200kV、明視野で観察倍率1万倍にて写真撮影を行って得られた写真から膜厚を求めた。
【0051】
(4)高温高湿安定性試験
高温高湿条件下での抵抗値安定性を確認するために、85℃85%R.H.条件下で1000時間放置した。温度は±2℃、湿度は±2%で管理した。85℃85%R.H.条件下で1000時間放置をする前の抵抗値で、85℃85%R.H.条件下で1000時間放置した後の抵抗値を除した値(信頼度係数という)で、抵抗値安定性を確認した。ただし、高温高湿安定性試験後の抵抗値測定は、85℃85%R.H.の恒温恒湿槽から透明導電性フィルムを取り出し、25℃60%の状態で30分放置後に抵抗測定を実施した。信頼度係数は0.8〜1.2の範囲が望ましい。
【0052】
(5)ペン入力耐久性試験
透明導電性フィルムを一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚みが20nmのインジウム−スズ複合酸化物薄膜(酸化スズ含有量:10質量%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製、S500)を用いた。この2枚のパネル板を透明導電性薄膜が対向するように、直径30μmのエポキシビーズを介して、配置しタッチパネルを作製した。次にポリアセタール製のペン(先端の形状:0.8mmR)に5.0Nの荷重をかけ、35万回(往復17.5万回)の直線摺動試験をタッチパネルに行った。この時の摺動距離は30mm、摺動速度は60mm/秒とした。この摺動耐久性試験後に、まず、摺動部が白化しているかを目視によって観察した。さらに、ペン荷重0.5Nで摺動部を押さえた際の、ON抵抗(可動電極(フィルム電極)と固定電極とが接触した時の抵抗値)を測定した。ON抵抗は100kΩ以下であるのが望ましい。さらに望ましくは、10kΩ以下である。
【0053】
(6)透明導電膜の膜厚方向に変化する酸化スズの含有量の測定
測定には、アルバック・ファイ社製ESCA5801MCを使用した。試料は予備排気を十分に行った後、測定室に投入した。光電子脱出角度を45度、分析径を800μmとし評価を行った。エッチング時のイオン種にはArイオンを用いた。表面から1nmごとに
酸化スズの含有量を測定した。表面、およびエッチング面の組成比は、In3d5/2、Sn3d5/2、O1s、C1sを用いた。また、バックグラウンドはShirley法
にて引いた。表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量とは、1nmエッチングした
ときの測定のデータを使用する。また、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量とは、(3)透明導電膜の全体の厚み(膜厚)で測定した厚みに相当する値より1nm少ない厚みまで、エッチングしたときの測定データを使用する。また、本測定で、酸化スズの含有量ごとの透明導電膜の厚みや、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量が連続的に、もしくは段階的に変化しているかを確認した。
【0054】
(7)透明導電膜の結晶質部に対する非晶部の割合
透明導電性薄膜層を積層したフィルム試料片を1mm×10mmの大きさに切り出し、導電性薄膜面を外向きにして適当な樹脂ブロックの上面に貼り付けた。これをトリミングしたのち、一般的なウルトラミクロトームの技法によってフィルム表面にほぼ平行な超薄切片を作製した。
この切片を透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM−2010)で観察して著しい損傷がない導電性薄膜表面部分を選び、加速電圧200kV、直接倍率40000倍で写真撮影を行った。
透過型電子顕微鏡下で観察したときの結晶質部と非晶質部の面積比から算出した。
【0055】
実施例、比較例において使用した透明プラスチックフィルム基材は、両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)である。硬化型樹脂層として、光重合開始剤含有アクリル系樹脂(大日精化工業社製、セイカビーム(登録商標)EXF−01J)100質量部に、共重合ポリエステル樹脂(東洋紡績社製、バイロン(登録商標)200、重量平均分子量18,000)を3質量部配合し、溶剤としてトルエン/MEK(8/2:質量比)の混合溶媒を、固形分濃度が50質量%になるように加え、撹拌して均一に溶解し塗布液を調製した。塗膜の厚みが5μmになるように、調製した塗布液をマイヤーバーを用いて塗布した。80℃で1分間乾燥を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB042−5AM−W型)を用いて紫外線を照射(光量:300mJ/cm)し、塗膜を硬化させた。
【0056】
(実施例1〜12)
実施例における透明導電膜作製条件は表1に記載した。また、各実施例において共通の作製条件は以下の通りである。
真空槽に透明プラスチックフィルムを投入し、2.0×10−4Paまで真空引きをした。次に表1の酸素分圧の値になるように酸素を導入し、その後不活性ガスとしてアルゴンを導入し全圧を0.5Paにした。
実施例1〜12では、酸化スズを含む酸化インジウム焼結ターゲットに1W/cmの電力密度で電力を投入し、DCマグネトロンスパッタリング法により、透明プラスチック基材の硬化型樹脂層を塗布した面に透明導電膜を成膜した。このとき、所望の透明導電膜の組成を得られるように、表1のように、各種スパッタリングターゲットを選択し、順に成膜した。膜厚についてはフィルムがターゲット上を通過するときの速度を変えて制御した。
透明導電膜を成膜したフィルムは、表1に記載の条件で熱処理した後(ただし、実施例10は熱処理していない。)、各評価項目の測定を実施した。測定結果を表2に示した。
【0057】
(実施例13〜15)
実施例13〜15では、酸化スズを含む酸化インジウム焼結ターゲットにそれぞれ1W/cmの電力密度で電力を投入し、DCデュアルマグネトロンスパッタリング法、もしくは、DCデュアルマグネトロンスパッタリング法とDCマグネトロンスパッタリング法により、透明プラスチック基材の硬化型樹脂層を塗布した面に透明導電膜を成膜した。デュアルマグネトロンスパッタリング法を適用するにあたり、一般的に、同じターゲットを2枚装着するが、本実施例では、酸化スズ濃度が異なる酸化インジウム焼結ターゲットを酸化スズ濃度が高い順に装着した。これにより、酸化スズ濃度の異なる酸化インジウム焼結ターゲットが隣同士で交互に放電するので、図1のように、透明導電膜の膜厚方向の酸化スズ濃度を連続的に変化させることができる。図1の詳細を説明する。酸化スズ濃度がA質量%のターゲットとB質量%のターゲットが隣接して配置されているものとする(酸化スズ濃度:A>B)。位置aでは酸化スズ濃度がA質量%になる。位置bでは1のターゲットから飛来する粒子がほとんどで2のターゲットから飛来する粒子がわずかなため、位置bの酸化スズ濃度はAより少し低い程度になる。位置cでは1のターゲットから飛来する粒子と、2のターゲットから飛来する粒子の量がほぼ同一なため、位置cの酸化スズ濃度はAとBのほぼ中間の程度になる。位置dでは1のターゲットから飛来する粒子がわずかで2のターゲットから飛来する粒子が多いため、位置dの酸化スズ濃度はBより少し高い程度になる。もちろん、位置eでは酸化スズ濃度がB質量%になる。所望の透明導電膜の組成を得られるように、表1のように、各種スパッタリングターゲットを選択し、順に成膜した。膜厚についてはフィルムがターゲット上を通過するときの速度を変えて制御した。
透明導電膜を成膜したフィルムは、表1に記載の条件で熱処理した後(していない水準もある)、各評価項目の測定を実施した。測定結果を表2に示した。
【0058】
(比較例1〜9)
これらの比較例の透明導電膜作製条件については、表1に記載した。上記実施例説明における固定条件は、比較例についても同一条件を採用している。透明導電膜を成膜したフィルムは、表1に記載の条件で熱処理した後、各評価項目の測定を実施した。測定結果を表2に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1及び2に記載のとおり、実施例1〜15記載の透明導電性フィルムは、信頼度係数は1.0〜1.2となっており、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗安定性に優れている。また、全光線透過率、表面抵抗値も実用的な水準であり使用に適しており、ペン入力耐久性にも優れている。表1〜2の結果にある比較例1〜9については、全光線透過率、表面抵抗値、信頼度係数、ペン入力耐久性等の性能のいずれかが不満足になり、好ましいものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上記の通り、本発明によれば、85℃85%R.H.高温高湿条件下での抵抗安定性、およびペン入力耐久性に優れた透明導電性フィルムを提供でき、これはカーナビゲーション用タッチパネルやその他タッチパネルの用途に極めて有効である。
【符号の説明】
【0063】
1:酸化スズの含有量がA質量%の酸化インジウムターゲット
2:酸化スズの含有量がB質量%の酸化インジウムターゲット
3:透明プラスチックフィルム
4:スパッタリングによりターゲット1から粒子が飛来するエリア
5:スパッタリングによりターゲット2から粒子が飛来するエリア
a:位置a
b:位置b
c:位置c
d:位置d
e:位置e

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムであって、透明導電膜の膜厚方向に対して、透明プラスチックフィルム基材側から表層側に向かって酸化スズの含有量が連続的に、および/または、段階的に減少していて、かつ、表層側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、透明プラスチック基材側の透明導電膜に含まれる酸化スズの含有量が表層側の含有量より20〜60質量%多く、かつ透明導電膜の全体の厚みが16〜50nmであり、かつ酸化スズの含有量が0.5〜8質量%の透明導電膜の厚みが15nm以上であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、酸化スズ添加酸化インジウムの透明導電膜が積層された透明導電性フィルムの製造方法であって、透明導電膜の原材料となるスパッタリングターゲットが、酸化インジウムの他、酸化スズを0.5〜68質量%含み、前記スパッタリングターゲットを2枚以上用い、酸化スズの含有量が高いスパッタリングターゲットから順に透明プラスチック基材に成膜し、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットに含まれる酸化スズの含有量が0.5〜8質量%であり、かつ、最後に成膜に用いたスパッタリングターゲットより最初に成膜に用いた酸化スズの含有量が20〜60質量%多く、かつ、透明導電膜成膜時の基板温度が−60〜50℃であり、かつ成膜用の反応性ガスとして酸素を用い、酸素分圧を1.0×10−3〜50×10−3Pa、不活性ガスに対する水分圧の比が8.0×10−4〜3×10−3にしてスパッタリング法にて成膜することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−84542(P2013−84542A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285257(P2011−285257)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】