説明

透明導電性フィルム

【課題】 本発明は、高温高湿条件下に長時間曝露した後でも、オリゴマーの析出による白濁を生じず、且つ、良好な導電性及び可撓性を保持する透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 透明基材フィルムの両面にオリゴマー析出ブロック層を積層し、次いで、そのいずれか一方の面に導電性薄膜層を積層してなる透明導電性フィルムであって、該オリゴマー析出ブロック層は、プラズマCVD法によって蒸着された炭素含有酸化珪素蒸着膜からなる層であることを特徴とする透明導電性フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関し、より詳細には、高温高湿条件下に長時間曝露した後でも、オリゴマーの析出による白濁を生じず、且つ、良好な導電性及び可撓性を保持する透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LCD、PDP等のディスプレイ、タッチパネル、太陽電池等の透明電極として、透明かつ導電性の薄膜が用いられている。この薄膜としては、ガラス基材上に酸化インジウムスズ(ITO)等からなる導電膜を積層した透明導電性薄板が用いられてきたが、可撓性に劣るため、近年、その代替として、ポリエステル(PET)フィルム等の可撓性樹脂フィルムを基材とする透明導電性フィルムが注目されている。
【0003】
しかし、樹脂フィルム上に直接導電膜を積層すると、十分な層間密着性が得られず、また均一な積層が困難であり、基材の曲げに伴いクラックが生じやすく、また良好な導電性が得られない。
【0004】
また、樹脂フィルムは、高温環境下でフィルム表面にオリゴマーを析出する。したがって、樹脂フィルムを基材とする透明導電性フィルムは、その製造工程中のアニール処理により、オリゴマーの析出が生じ、白濁・白化する問題があった。同様に、樹脂フィルムを基材とする透明導電性フィルムを用いた太陽電池やカーナビゲーション用ディスプレイは、直射日光下や車中の高温環境下で、オリゴマーの析出により白濁・白化するため、使用する環境が制限されるという問題があった。
【0005】
これに対し、樹脂フィルム基材上に、導電膜を積層する前に、他層との接着性を高めるための平滑化層や易接着層、オリゴマーの析出を抑制するための層等の種々の層を設けると、多層化によりフィルムの総厚が厚くなり、その光学的特性及び可撓性が低下するという問題があった。
【0006】
また、樹脂フィルムの材料となるポリエステルやその重合方法を改良することによりオリゴマー析出による白濁の抑制を試みた例があるが、例えば、固相重合により原料中に含まれるオリゴマーの低減をはかる方法の場合は、ポリマーの重合度が上がるため、押出機への負荷が大きくなり、製造コストが上がる、重合時に発生した高粘度のポリエステル粉によりフィルム内部に輝点欠点が生じるなどの問題があった(特許文献1、2)。
【0007】
さらに、コーティング膜や物理蒸着法による蒸着膜等のオリゴマー析出ブロック層を設けた例があるが、次工程で接着可能な他の機能性樹脂やフィルムが制限されたり、易接着層等のさらなる層を積層する必要があったり、樹脂フィルムとの密着性が弱いためにその抑制効果が不十分であったりする問題があった(特許文献3、4)。
【0008】
また、易接着層やオリゴマー析出ブロック層として有機材料からなる層を積層すると、該層から有機物が溶出し、フィルムの白濁・白化が起こるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−136987
【特許文献2】特開2006−212815
【特許文献3】特開2000−289168
【特許文献4】特開2000−272070
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決して、優れた透明性を有し、高温高湿条件下に長時間曝露した後でも、オリゴマーの析出による白濁を生じず、且つ、良好な導電性及び可撓性を保持する透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々研究の結果、透明基材フィルムの両面にオリゴマー析出ブロック層を積層し、次いで、そのいずれか一方の面に導電性薄膜層を積層してなる透明導電性フィルムであって、該オリゴマー析出ブロック層は、プラズマ化学気相成長法(以下「プラズマCVD法」又は単に「CVD法」ということがある)によって蒸着された炭素含有酸化珪素蒸着膜からなる層であることを特徴とする上記透明導電性フィルムが、上記の目的を達成することを見出した。
【0012】
そして、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.透明基材フィルムの両面にオリゴマー析出ブロック層を積層し、次いで、そのいずれか一方の面に導電性薄膜層を積層してなる透明導電性フィルムであって、該オリゴマー析出ブロック層は、プラズマCVD法によって蒸着された炭素含有酸化珪素蒸着膜からなる層であることを特徴とする、上記透明導電性フィルム。
2.前記オリゴマー析出ブロック層の層厚が、5〜100nmであることを特徴とする、上記1に記載の透明導電性フィルム。
3.前記炭素含有酸化珪素蒸着膜中の炭素含有率が5〜50原子%であることを特徴とする、上記1または2に記載の透明導電性フィルム。
4.85℃、85%RH(相対湿度)の条件下に1000時間曝した後のヘイズ値が、1.0%以下であることを特徴とする、上記1〜3のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
5.85℃、85%RHの条件下に曝す前の導電性薄膜層の表面抵抗値が500〜10,000Ω/□(square)であり、該条件下に1000時間曝した後の表面抵抗値の変化率が、50%以下であることを特徴とする、上記1〜4のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
6.透明基材フィルムの両面に、プラズマCVD法によって炭素含有酸化珪素蒸着膜を積層し、次いで、そのいずれか一方の面に、導電性微粒子からなる薄膜を積層することを特徴とする、上記1〜5のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
7.上記1〜5のいずれかに記載の透明導電性フィルムからなる透明電極を含むことを特徴とするタッチパネル。
8.上記1〜5のいずれかに記載の透明導電性フィルムからなる透明電極を含むことを特徴とする太陽電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明のオリゴマー析出ブロック層として用いられる蒸着膜は、有機珪素化合物を蒸着モノマー材料として含むガス組成物を原料にしてプラズマCVD法により形成された炭素含有酸化珪素蒸着膜であって、透明基材フィルム表面と化学的な結合を形成して極めて強固に密接着し、かつ剥離しにくく、該透明基材フィルムの内部から表面へのオリゴマーの析出を長期にわたりブロックする。
【0014】
また、該蒸着膜は、導電性薄膜層及びその他の種々の機能性層とも高い層間密着性を示すため、該蒸着膜を介して積層された導電性薄膜層やその他の機能性層は、基材の曲げに伴うクラックの発生が生じにくく、また導電性薄膜層については、良好な導電性を発揮する。
【0015】
さらに、該蒸着膜は、優れた熱安定性を示し、高温高湿下に長時間曝した後であっても収縮しにくく、寸法安定性に優れ、機能劣化が生じにくい。また、有機物を溶出することもなく、ヘイズの増加を防ぐことができる。さらに、有機珪素化合物に由来する有機成分を含有する蒸着膜であるため、撥水性を示し、フィルムに防湿性を付与することができる。
【0016】
また、本発明の透明導電性フィルムは、透明基材フィルムと導電性薄膜層との間に、上記蒸着膜からなるオリゴマー析出ブロック層のみを含み、これらは互いに優れた層間密着性を示すため、良好な光学的特性、可撓性及び耐クラック性を示す。
【0017】
蒸着膜中の炭素含有率を5〜50原子%にすることにより、フィルムの可撓性を一層高めることができ、このような蒸着膜を介して積層された導電性薄膜は、基材フィルムの動きに柔軟に追従し、クラックを発生することなく高い導電性を維持することができる。
【0018】
本発明において、オリゴマー析出ブロック層を形成する炭素含有酸化珪素蒸着膜中には、C−H結合又はSi−C結合を有する化合物、蒸着原料のモノマーである有機珪素化合物やそれらの誘導体などの有機成分を化学結合等によって含有させることができ、これらの有機成分の存在により、オリゴマーの析出が抑えられる。該蒸着膜中には、特に、CH3部位を持つハイドロカーボンを基本構造とする化合物が、好ましく含有される。
【0019】
本発明において、オリゴマー析出ブロック層は、プラズマCVD法により形成されるため、該層は薄く緻密な蒸着膜からなり、またその膜厚は正確に制御され、均一性に優れている。
【0020】
本発明の透明導電性フィルムは、アニール処理や夏場の車中などの高温多湿環境下に曝しても、オリゴマーの析出による白濁・白化がなく、外観不良、ヘイズの上昇、光学的特性の低下、可撓性及び導電性の低下、層間剥離などの問題が生じにくい。また、特殊な層構成を採用することもなく、煩雑な工程、厳密な管理を経ることなく、単純な工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の透明導電性フィルムの層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【図2】プラズマ化学気相成長装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記の本発明について以下に更に詳しく説明する。
【0023】
<I>本発明の透明導電性フィルムの層構成
図1は、本発明の透明導電性フィルムの層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
図1に示されるように、本発明の透明導電性フィルムは、透明基材フィルム1と、その両面に積層されたオリゴマー析出ブロック層2a、2bと、そのいずれか一方の面に積層された導電性薄膜層3とからなる構成を基本とする。
【0024】
以下、本発明において使用される樹脂名は、業界において慣用されるものが用いられる。また、本発明において、密度はJIS K7112に準拠して測定した。
【0025】
<II>透明基材フィルム
本発明において、透明基材フィルムとしては、化学的ないし物理的強度に優れ、オリゴマー析出ブロック層及び導電性薄膜層を形成する条件に耐え、これらの層の特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる二軸延伸ポリエステルフィルムを使用することが好適である。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート等の樹脂からなるフィルムである。しかし、これらに限定されるものではなく、オリゴマーが残存し得る樹脂材料からなるフィルムであって、CVD法により化学結合した酸化物膜を形成し得る材料で、透明電極に用いることができる樹脂からなるフィルムであれば、本発明の透明基材フィルムとして用いることができる。
【0026】
透明基材フィルムは、製膜時のフィルムの巻取り性や搬送性等を良くするため、必要に応じて滑剤としての有機または無機の微粒子で処理してもよい。かかる微粒子としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等が例示される。
【0027】
また、微粒子以外にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、潤滑剤、触媒、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ポリマー、オレフィン系アイオノマーのような他の樹脂等も透明性を損なわない範囲で、原料樹脂中に任意に加えることができる。
【0028】
本発明において、オリゴマー析出ブロック層との密接着性を向上させるために、必要に応じて、透明基材フィルム表面に予め所望の表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を施すことができる。
【0029】
透明基材フィルムとオリゴマー析出ブロック層との密接着性を一層高めるために、透明基材フィルム上に、例えば、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層等を設けてもよい。
【0030】
上記の前処理のコート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂等を使用することができる。
【0031】
透明電極に用いる透明基材フィルムは、光量が確保できるヘイズ値を有するものであって、ヘイズ値としては1.0%以下のものが好ましく用いられる。フィルムの厚さは特に限定されないが、取り扱い性、強度、ヘイズ値などへの影響がないような厚さのもので、通常10〜300μm、より好ましくは20〜150μmが好ましい。
【0032】
本発明の透明基材フィルムの製造法として、特に限定されるものではなく、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、インフレーション法等の従来から一般に知られているフィルムの製法を適宜採用して製造することができる。また、2種以上の樹脂を使用して多層製膜化する方法、更には、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等により、多層化してもよい。
さらに、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して一軸ないし二軸延伸処理してもよい。
【0033】
<III>オリゴマー析出ブロック層
本発明において、オリゴマー析出ブロック層は、プラズマCVD法によって蒸着された炭素含有酸化珪素蒸着膜からなる層である。炭素含有酸化珪素蒸着膜とは、プラズマCVD法において用いられるプラズマ化学気相成長装置中で、有機珪素化合物からなる蒸着用モノマーガスと酸素ガス等からなる酸素供給ガスとが化学反応し、その反応生成物が透明基材フィルムの両面に密着し、緻密な、柔軟性等に富む連続薄膜を形成したものである。
さらに詳しくは、炭素、酸素及び珪素を含有する有機成分からなる蒸着膜であって、可撓性の観点から、膜中の炭素原子(C)、酸素原子(O)及び珪素原子(Si)の組成比率に基づき、炭素含有率が、5〜50原子%、より好ましくは10〜50原子%である。膜中の炭素含有率が5原子%未満であると可撓性が著しく低下し、また50原子%より大きいと膜密度が低下し、オリゴマー析出ブロック層としての効果が不十分となり、好ましくない。
【0034】
炭素含有率は、X線光電子分光分析法(Xray Photoelectron Spectroscopy、XPS)を用いて、膜中に含まれる炭素、酸素及び珪素の相対比を測定し、該測定値から算出される値である。本発明の実施例においては、炭素含有量は、島津製作所製X線光電子分光分析装置ESCA3400を用いて測定される。
【0035】
本発明において、オリゴマー析出ブロック層の厚さとしては、5〜100nmの範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。
その厚さが5nm以下であると、蒸着膜の平面密度が低下して透明基材フィルムが表面に露出することとなり、オリゴマーの析出を防止する機能が低下し、オリゴマーの析出を抑えることができない。一方、100nmより厚くなると、剛性が高まり、可撓性が損なわれ、クラック等が発生し易くなるので好ましくない。必要以上に厚くすることは、蒸着膜の形成速度と関係し、生産性の低下、コスト高にもなる。
【0036】
膜厚は、例えば、株式会社リガク製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、測定することができる。
本発明において、オリゴマー析出ブロック層は、具体的には、透明基材フィルムの両面に、原料となる有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスと、酸素ガス、オゾンガス、笑気ガス(N2O)、最も好ましくは酸素ガス、等の酸素供給ガスと、キャリアガスとしてのアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスとを含有するガス組成物を使用し、プラズマ発生装置等を利用するプラズマCVD法により蒸着膜を化学気相成長させて形成される。
【0037】
該蒸着膜中に、C−H結合又はSi−C結合を有する化合物、蒸着原料のモノマーである有機珪素化合物やそれらの誘導体等を化学結合等によって含有させることができ、これらの有機成分の存在は、オリゴマー析出の抑制に寄与する。蒸着膜中には、特に、メチル基又はエチル基を有するハイドロカーボンを基本構造とする化合物が、好ましく含有される。これらの化合物を含有する炭素含有酸化珪素蒸着膜は、プラズマCVD法において、蒸着用モノマーガス、酸素供給ガス及びキャリアガスからなるガス組成物の組成比、供給量等を調節することにより、好適に調製することができる。
【0038】
該組成比としては、好ましくは、蒸着用モノマーガス100質量部に対して酸素供給ガス10質量部〜1000質量部である。蒸着用モノマーガス100質量部に対して酸素供給ガスが10質量部未満であると、炭素含有酸化珪素蒸着膜を形成することができず、また1000質量部を超えると、メチル基やエチル基などの有機成分が酸素と反応してCO2やH2Oとなって消失し、炭素含有酸化珪素蒸着膜の中にメチル基又はエチル基が含まれなくなるので好ましくない。
プラズマCVD法以外の、物理蒸着法等の蒸着法では、有機成分としてメチル基又はエチル基を含む膜を形成することはできない。
【0039】
本発明のオリゴマー析出ブロック層を形成するために使用する有機珪素化合物としては、メチル基又はエチル基を含み、且つSiを主鎖とする、次のようなモノマー材料、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン(MTMOS)、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。
【0040】
モノマー材料には、上記の例に関わらず、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含む有機珪素化合物で、常温で適当な蒸気圧を持ち、CVD法を実施することが可能な材料であれば、どのような材料でも構わない。
【0041】
本発明においては、有機珪素化合物として、特に、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料として使用することが、その取り扱い性、形成された有機珪素酸化物の蒸着膜の透明基材フィルムとの接着性等の観点から特に好ましい。
【0042】
本発明において用いるプラズマ発生装置として、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用するが、高活性の安定したプラズマを得るために、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0043】
本発明における、プラズマCVD法による炭素含有酸化珪素蒸着膜の形成法について、その一例を挙げて説明する。図2は、上記のプラズマCVD法において使用されるプラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
【0044】
本発明においては、図2に示すように、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバ22内に配置された巻き出しロール23から、被蒸着フィルム(透明基材フィルム)1を繰り出し、更に、該被蒸着フィルム1を、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。ガス供給装置26、27及び、原料揮発供給装置28から酸素ガス、不活性ガス、蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しながら原料供給ノズル29を通して真空チャンバ22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送された、被蒸着フィルム1の上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、炭素含有酸化珪素蒸着膜を形成する。その際に、冷却・電極ドラム25は、真空チャンバ22の外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生を促進している。次いで、被蒸着フィルム1は、表面に炭素含有酸化珪素蒸着膜を形成した後、所定の巻き取りスピードで補助ロール33を介して巻き取りロール34に巻き取られる。なお、図中、35は真空ポンプを表す。
【0045】
上記の例示は、プラズマCVD法の一例を示すものであり、これによって本発明は限定されるものではない。図示しないが、本発明において、オリゴマー析出ブロック層を形成する炭素含有酸化珪素蒸着膜は、蒸着膜の1層だけではなく、その2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよく、また、使用する材料も1種又は2種以上の混合物で使用し、また異種の材質を混合した有機珪素酸化物の連続薄膜層を構成することもできる。
【0046】
上記プラズマCVD法における蒸着条件について、さらに説明すると、真空チャンバ22内を真空ポンプ35により減圧し、真空度1×10-1〜1×10-8Torr、好ましくは、真空度1×10-3〜1×10-7Torrに調整することが好ましく、また、基材の搬送速度は、形成する蒸着膜の膜厚、密度、生産性等に関係し、通常は10〜500m/分、好ましくは、50〜350m/分に調整することが好ましい。またプラズマ発生電圧は、形成する蒸着膜の膜厚、密度、生産性等に関係し、通常10〜50kWに調整することが好ましい。
【0047】
<IV>導電性薄膜層
本発明において、導電性薄膜層は、透明基材フィルムの両面に設けられたオリゴマー析出ブロック層のいずれか一方の面に積層される層であって、透明性を保持し且つ、所望の導電性を示すように、導電性物質を成膜することにより形成される。
【0048】
透明導電性フィルムとして必要な導電性は、透明導電性フィルムの用途に応じて適宜に設定することができるが、本発明においては、タッチパネル用または太陽電池用の透明電極として使用するために、透明性及びフレキシビリティとの兼ね合いから、例えば、表面抵抗値で500〜10,000Ω/□となるように形成される。
【0049】
表面抵抗値は、導電性物質の種類、層厚、薄膜の形成方法等により変化し、一般的に、層厚を厚くすることにより、表面抵抗値の小さい導電性薄膜層を得ることができる。本発明の導電性薄膜層の層厚は、特に限定するものではないが、15〜100nmであることが好ましく、より好ましくは20〜40nmである。導電性物質の種類や形成方法によっても異なるが、この範囲の層厚で導電性薄膜層を形成することにより、所望の導電性(表面抵抗値で500〜10,000Ω/□)、透明性及びフレキシビリティが達成され得る。層厚を15nm未満とすると、十分な導電性が得られず、100nmを超えると、それ自身の応力が大きくなり、透明性が失われ、またフレキシビリティが損なわれ得る。さらに生産性にも影響を与える。
【0050】
本発明において好適に使用される導電性物質は、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、ATO、IZO又は銀などの透明性かつ導電性を有するものであれば、特に限定されない。
導電性薄膜層を形成する方法としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等のドライコート法、メッキ法、印刷法、スプレーコート法等のウェットコート法を用いることができる。
【0051】
<V>透明性
本発明の透明導電性フィルムは、オリゴマー析出ブロック層が、透明基材フィルム内部からその表面へのオリゴマーの析出をブロックするため、白濁・白化が起こりにくい。また、有機物を溶出することもなく、ヘイズの増加が防がれる。そして、この効果は、種々の高温高湿環境下、例えば製造工程中のアニール処理環境下、直射日光下、車中の高温環境下等に長時間曝露した後であっても達成される。したがって、本発明の透明導電性フィルムは、85℃、85%RHの条件下に1000時間曝した後であっても、そのヘイズ値は、1.0%以下である。なお、本発明において、ヘイズ値は、後述する実施例において記載した方法により測定される値である。
【0052】
<VI>表面抵抗値の変化率
本発明の透明導電性フィルムは、透明基材フィルム、オリゴマー析出ブロック層、及び導電性薄膜層が互いに優れた層間密着性を示し、かつ、オリゴマー析出ブロック層が、緻密な撥水性の連続蒸着膜からなるため、高温高湿下に長時間曝露した後であっても、良好な導電性を示すことができ、且つ、曝露の前後で、表面抵抗値の増減変化が小さい。したがって、本発明の透明導電性フィルムは、85℃、85%RHの条件下に1000時間曝した後であっても、その表面抵抗値の変化率は、50%以下である。なお、本発明において、表面抵抗値の変化率とは、後述する実施例において記載した方法により測定される値である。
【0053】
<VII>用途
本発明の透明導電性フィルムは、透明性及び導電性が要求される任意の用途に使用することができ、例えば、タッチパネル、太陽電池、ディスプレイ等の透明電極として好適に使用することができる。
【実施例】
【0054】
次に本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
なお、本発明の透明導電性フィルムの物性等の測定及び評価は、下記の方法により行った。
【0055】
(炭素含有率の測定)
炭素含有率の測定は、X線光電子分光分析法により、島津製作所製X線光電子分光分析装置ESCA3400を用いて行った。
【0056】
(ヘイズ値の測定)
ヘイズ値の測定は、スガ試験機製ヘイズメーターを使用して、JIS K−7105に準拠して行った。
高温高湿下に長時間曝した後のヘイズ値(H1)については、85℃、85%RHの恒温恒湿槽中にフィルムサンプルを1000時間保管した後で、上記のとおり測定を行った。
【0057】
(表面抵抗値の測定)
表面抵抗値の測定は、高抵抗率計(ハイレスタ・HT−210、商品名、三菱油化(株)製)を用い、印加電圧500V、10秒にてフィルム最表面の測定を行った。
高温高湿下に長時間曝した後の表面抵抗値の変化率については、フィルムの初期表面抵抗値(R0)を上記のとおり測定し、次いで、フィルムを85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に1000時間保管し、回収したフィルムについて、同様に表面抵抗値(R1)を測定した。これらの測定値から、表面抵抗値の変化率(%)=|(R1−R0)|/R0×100を算出した。
【0058】
(フレキシブル適性の評価)
10cm×10cmサイズにカットしたフィルムサンプルについて、その初期表面抵抗値(R0)を上記のとおり測定し、次いで、筒状に10回曲げた後のフィルムについて、同様に表面抵抗値(R2)を測定した。これらの測定値から、表面抵抗値の変化率(%)=|(R2−R0)|/R0×100を算出した。この変化率により、フィルムのフレキシブル適性を評価した。
【0059】
[実施例1]
厚さ188μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製ルミラーU34)の両面に、プラズマCVD法により、下記の成膜条件にて厚さ50nmの炭素含有酸化珪素蒸着膜を形成後、その蒸着膜の片面側に反応性スパッタ法により、厚さ40nmのITO膜を形成した。
【0060】
(プラズマCVD法による成膜条件)
供給ガス:へキサメチルジシロキサン:酸素=1:3.5(単位:slm)のガス組成物
プラズマ出力:8kW
ライン速度:25m/min
【0061】
(スパッタ条件)
ターゲット:ITO(酸化インジウムIn23:酸化スズSnO2=9:1)
投入電力:760W
ライン速度:1m/min
上記フィルム上に形成したITO膜を150℃で1時間熱処理し、ITO膜を完全に結晶化させて、本発明の透明導電性フィルムを作製した。
【0062】
[実施例2]
ガス組成物の混合比を、へキサメチルジシロキサン:酸素=1:2(単位:slm)とした以外は実施例1と同条件にして、本発明の透明導電性フィルムを作製した。
【0063】
[比較例1]
プラズマCVD法により蒸着膜を形成する際に、供給ガスを、ヘキサメチルジシロキサンのみ(酸素なし)とした以外は実施例1と同条件にして、透明導電性フィルムを作製した。
【0064】
[比較例2]
厚さ188μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製ルミラーU34)の両面に、反応性スパッタ法により、下記の成膜条件にて厚さ50nmの酸化珪素膜(SiOx)を形成後、その膜の片面側に実施例1と同条件にてITO膜を形成し、透明導電性フィルムを作製した。
【0065】
(反応性スパッタ法による成膜条件)
ターゲット:酸化珪素(SiO2
投入電力:760W
ライン速度:1.5m/min
【0066】
[結果]
実施例1、2及び比較例1、2の透明導電性フィルムについて、炭素含有率、高温高湿下に長時間曝した後のヘイズ値(H1)、初期表面抵抗値(R0)、高温高湿下に長時間曝した後の表面抵抗値(R1)、10回曲げた後の表面抵抗値(R2)を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1、2の透明導電性フィルムは、高温高湿下に長時間曝した後も、フィルムの白濁・白化や有機物の溶出は観察されず、優れた透明性を保持しており、ヘイズ値の増加が見られなかった。また、表面抵抗値の変化率も小さく、初期とほぼ変わらない導電性を示した。さらに、優れたフレキシブル適性を示し、フィルムを10回曲げた後も、導電性薄膜層にクラックは生じず、緻密な層表面を保持していた。
【0069】
これに対し、比較例1、2の透明導電性フィルムは、高温高湿下に長時間曝した後に、フィルムの白濁・白化が観察され、ヘイズ値が増加した。また、表面抵抗値が著しく増加した。さらに、フィルムを10回曲げた後に、導電性薄膜層にクラックが生じ、表面抵抗値が著しく増加した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の透明導電性フィルムは、透明電極として、使用環境を選ばないタッチパネル、太陽電池、及びLCD、PDP、携帯電話、携帯オーディオ等のモバイル機器、ナビゲーションシステムのディスプレイ等の各種用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 透明基材フィルムまたは被蒸着フィルム
2a、2b オリゴマー析出ブロック層
3 導電性薄膜層
21 低温プラズマ化学気相成長装置
22 真空チャンバ
23 巻き出しロール
24、33 補助ロール
25 冷却・電極ドラム
26、27 ガス供給装置
28 原料揮発供給装置
29 原料供給ノズル
30 グロー放電プラズマ
31 電源
32 マグネット
34 巻き取りロール
35 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの両面にオリゴマー析出ブロック層を積層し、次いで、そのいずれか一方の面に導電性薄膜層を積層してなる透明導電性フィルムであって、該オリゴマー析出ブロック層は、プラズマCVD法によって蒸着された炭素含有酸化珪素蒸着膜からなる層であることを特徴とする、上記透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記オリゴマー析出ブロック層の層厚が、5〜100nmであることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記炭素含有酸化珪素蒸着膜中の炭素含有率が5〜50原子%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
85℃、85%RHの条件下に1000時間曝した後のヘイズ値が、1.0%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
85℃、85%RHの条件下に曝す前の導電性薄膜層の表面抵抗値が500〜10,000Ω/□であり、該条件下に1000時間曝した後の表面抵抗値の変化率が、50%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
透明基材フィルムの両面に、プラズマCVD法によって炭素含有酸化珪素蒸着膜を積層し、次いで、そのいずれか一方の面に、導電性微粒子からなる薄膜を積層することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムからなる透明電極を含むことを特徴とするタッチパネル。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムからなる透明電極を含むことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−252814(P2012−252814A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122993(P2011−122993)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】