説明

透明導電性フィルム

【課題】フィルム基材上にインジウムスズ酸化物膜を形成した透明導電性フィルムにおいて、インジウムスズ酸化物の結晶化処理を、フィルム基材の耐熱温度以下の低温で、短時間で行ない、表面抵抗値が低い透明導電性フィルムを提供する。
【解決手段】透明導電性フィルム10は、2つの主面をもつフィルム基材11と、フィルム基材11の一方の主面に形成された透明導電膜12を備える。透明導電膜12は、フィルム基材11側から、第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15が、この順に積層された3層膜である。第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズ含有量より少ない。第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズ含有量より少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)膜を用いた透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板上に、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)の3層膜を有する透明電極板が知られている(例えば、特許文献1:特開平8−43840)。特許文献1の透明電極板においては、1層目と3層目のインジウムスズ酸化物の酸化スズ(SnO)含有量が、2層目のインジウムスズ酸化物の酸化スズ含有量より多い。これによって、透明電極板の表面抵抗値を低くすることができる。
【0003】
インジウムスズ酸化物のスパッタリング膜は非晶質であるため、そのまま(as deposition)では表面抵抗値が高い。表面抵抗値を低くするため、インジウムスズ酸化物を加熱処理(結晶化処理)して、結晶化させる必要がある。特許文献1において、結晶化処理の温度と時間は、例えば、200℃、60分である。
【0004】
しかし、ガラス基板の代わりにフィルム基材を用いる場合、フィルム基材の耐熱性が低いため、ガラス基板の場合のような高い温度(200℃程度)で結晶化処理をすることができない。そのため、フィルム基材を用いた場合、従来のインジウムスズ酸化物の3層膜の構成では、インジウムスズ酸化物の結晶化処理ができない、あるいは、結晶化処理に非常に時間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−43840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フィルム基材上にインジウムスズ酸化物膜を形成した透明導電性フィルムにおいて、インジウムスズ酸化物の結晶化処理を、フィルム基材の耐熱温度以下の低温(例えば、140℃)で、短時間(例えば、60分)で行ない、表面抵抗値を低く(例えば、200Ω/□(ohms per square)以下)することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の透明導電性フィルムは、2つの主面をもつフィルム基材と、フィルム基材の一方の主面に形成された透明導電膜を備える。透明導電膜は、フィルム基材側から、第一のインジウムスズ酸化物層、第二のインジウムスズ酸化物層、および第三のインジウムスズ酸化物層が、この順に積層された3層膜である。第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量より少ない。第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量より少ない。
(2)本発明の透明導電性フィルムにおいて、第一のインジウムスズ酸化物層の厚さは第二のインジウムスズ酸化物層の厚さより薄い。第三のインジウムスズ酸化物層の厚さは第二のインジウムスズ酸化物層の厚さより薄い。
(3)本発明の透明導電性フィルムにおいて、第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は1重量%〜5重量%である。第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は6重量%〜15重量%である。第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は1重量%〜5重量%である。
(4)本発明の透明導電性フィルムにおいて、第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量と第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量の差は3重量%〜10重量%である。第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量と第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量の差は3重量%〜10重量%である。
(5)本発明の透明導電性フィルムにおいて、第一のインジウムスズ酸化物層の厚さは1nm〜10nmである。第二のインジウムスズ酸化物層の厚さは10nmを超え30nm以下である。第三のインジウムスズ酸化物層の厚さは1nm〜10nmである。
(6)本発明の透明導電性フィルムにおいて、第二のインジウムスズ酸化物層の厚さと第一のインジウムスズ酸化物層の厚さの差は2nm〜20nmである。第二のインジウムスズ酸化物層の厚さと第三のインジウムスズ酸化物層の厚さの差は2nm〜20nmである。
(7)本発明の透明導電性フィルムにおいて、透明導電膜の第一のインジウムスズ酸化物層、第二のインジウムスズ酸化物層、および第三のインジウムスズ酸化物層は、それぞれ、インジウムスズ酸化物の非晶質層を加熱処理により結晶化させた結晶質層である。
(8)本発明の透明導電性フィルムにおいて、透明導電膜の厚さ(第一のインジウムスズ酸化物層の厚さ+第二のインジウムスズ酸化物層の厚さ+第三のインジウムスズ酸化物層の厚さ)は、14nm〜50nmである。
(9)本発明の透明導電性フィルムにおいて、フィルム基材の材料はポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、またはポリカーボネートである。
(10)本発明の透明導電性フィルムにおいて、フィルム基材の厚さは10μm〜200μmである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、フィルム基材上にインジウムスズ酸化物膜を形成した透明導電性フィルムにおいて、インジウムスズ酸化物の結晶化処理を低温(例えば、結晶化温度140℃)、短時間(例えば、結晶化時間60分)で行ない、表面抵抗値を低く(例えば、200Ω/□以下)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の透明導電性フィルムの断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の透明導電性フィルム]
本発明の透明導電性フィルム10は、図1に示すように、2つの主面をもつフィルム基材11と、フィルム基材11の一方の主面に形成された透明導電膜12を備える。透明導電膜12は、フィルム基材11側から、第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、および第三のインジウムスズ酸化物層15が、この順に積層された3層膜である。
【0011】
本発明に用いられる第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、および第三のインジウムスズ酸化物層15は、それぞれ、酸化インジウム(In)に酸化スズ(SnO)がドープされた化合物層である。本発明に用いられる透明導電膜12において、第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズ含有量より少ない。また、第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズ含有量より少ない。
【0012】
本発明の透明導電性フィルム10においては、例えば、140℃、60分という低温・短時間の加熱処理(結晶化処理)により、表面抵抗値を200Ω/□以下とすることができる。さらに、表面抵抗値を100Ω/□〜150Ω/□まで低くすることも可能である。
【0013】
本発明の透明導電性フィルム10が投影型静電容量方式タッチパネルに用いられる場合、透明導電性フィルム10の透明導電膜12は、好ましくはパターニングされる。フィルム基材11上には、透明導電膜12のパターンを埋設するように、粘着剤層が設けられる。このような構成によれば、多点タッチ入力の検出が可能になり、誘電率を調整して、検出性能を高くすることができる。
【0014】
[フィルム基材]
本発明に用いられるフィルム基材11は、透明性と耐熱性に優れたものが好ましく、そのような性能を備えたものであれば、材質は限定されない。フィルム基材11の厚さは、品質の良い透明導電膜12を作製する観点から、好ましくは10μm〜200μmであり、より好ましくは20μm〜50μmである。フィルム基材11の材料は、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、またはポリカーボネートである。フィルム基材11は、その表面に易接着層やハードコート層を備えていてもよい。
【0015】
[透明導電膜]
本発明に用いられる透明導電膜12は、フィルム基材11側から、第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、および第三のインジウムスズ酸化物層15がこの順に積層された3層膜である。本発明に用いられる第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15は、それぞれ、酸化インジウム(In)に酸化スズ(SnO)がドープされた化合物層である。
【0016】
第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズ含有量より少ない。また、第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズ含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズ含有量より少ない。
【0017】
本発明に用いられる透明導電膜12の第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15は、それぞれ代表的には、インジウムスズ酸化物の非晶質層を加熱処理(結晶化処理)により結晶化(多結晶)させた結晶質層である。
【0018】
本発明に用いられる透明導電膜12の厚さ(第一のインジウムスズ酸化物層13の厚さ+第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さ+第三のインジウムスズ酸化物層15の厚さ)は、好ましくは14nm〜50nmであり、さらに好ましくは18nm〜41nmである。
【0019】
一般的に、インジウムスズ酸化物層は、酸化スズの含有量が多いほど表面抵抗値が低くなるが、反面、結晶化温度が高くなり結晶化時間が長くなる傾向がある。ところが、本発明の透明導電性フィルム10は、酸化スズの含有量が多い第二のインジウムスズ酸化物層14を、酸化スズの含有量が少ない第一のインジウムスズ酸化物層13、および酸化スズの含有量が少ない第三のインジウムスズ酸化物層15で挟む構造である。第一のインジウムスズ酸化物層13および第三のインジウムスズ酸化物層15は酸化スズの含有量が少ないため、結晶化温度が低く結晶化時間が短い。第二のインジウムスズ酸化物層14は酸化スズの含有量が多いため単独では結晶化温度が高く結晶化時間が長い。しかし第二のインジウムスズ酸化物層14は結晶化温度が低く結晶化時間が短い第一のインジウムスズ酸化物層13および第三のインジウムスズ酸化物層15に挟まれて積層されている。そのため第二のインジウムスズ酸化物層14は、第一のインジウムスズ酸化物層13および第三のインジウムスズ酸化物層15の影響を受けて、単独の場合より結晶化温度が低くなり、結晶化時間が短くなる。これにより、本発明の透明導電性フィルム10においては、第二のインジウムスズ酸化物層14の結晶化温度を低くし、結晶化時間を短縮することができる。
【0020】
詳しくは、フィルム基材11側に、酸化スズの含有量が少ない第一のインジウムスズ酸化物層13を設けることにより、成膜過程(スパッタリング)において、フィルム基材11から発生する揮発成分が、透明導電膜12の結晶化を妨げることが防止できる(酸化スズの含有量が少ないと揮発成分による結晶化の阻害を受けにくい)。また、空気に接する側に、酸化スズの含有量が少ない第三のインジウムスズ酸化物層15を設けることにより、透明導電膜12の結晶化が始まるまでの時間を短縮することができる(酸化スズの含有量が少ないと結晶化しやすい)。その結果第二のインジウムスズ酸化物層14を含む透明導電膜12全体の結晶化が促進され、低温、短時間の結晶化処理により、表面抵抗値を低くすることができる。
【0021】
酸化スズの含有量(重量%)は、{酸化スズの重量/(酸化インジウムの重量+酸化スズの重量)}×100(%)で表わす。第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズの含有量は、好ましくは1重量%〜5重量%であり、より好ましくは2重量%〜4重量%である。第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズの含有量は、好ましくは6重量%〜15重量%であり、より好ましくは8重量%〜12重量%である。第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズの含有量は、好ましくは1重量%〜5重量%であり、より好ましくは2重量%〜4重量%である。
【0022】
第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズの含有量と、第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズの含有量は、同一でもよいし、異なっていてもよい。第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズの含有量と第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズの含有量の差は、好ましくは3重量%〜10重量%であり、より好ましくは5重量%〜8重量%である。第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズの含有量と第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズの含有量の差は、好ましくは3重量%〜10重量%であり、より好ましくは5重量%〜8重量%である。
【0023】
第一のインジウムスズ酸化物層13の厚さは、好ましくは1nm〜10nmであり、より好ましくは1.5nm〜8nmである。第一のインジウムスズ酸化物層13の厚さは、第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さより薄いことが好ましい。第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さは、好ましくは10nmを超え30nm以下であり、さらに好ましくは12nm〜30nmであり、より好ましくは15nm〜25nmである。第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さは、第一のインジウムスズ酸化物層13の厚さおよび第三のインジウムスズ酸化物層15の厚さより厚いことが好ましい。第三のインジウムスズ酸化物層15の厚さは、好ましくは1nm〜10nmであり、より好ましくは1.5nm〜8nmである。第三のインジウムスズ酸化物層15の厚さは、第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さより薄いことが好ましい。
【0024】
第一のインジウムスズ酸化物層13の厚さと、第三のインジウムスズ酸化物層15の厚さは、同一でもよいし、異なっていてもよい。第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さと第一のインジウムスズ酸化物層13の厚さの差は、好ましくは2nm〜20nmであり、さらに好ましくは5nm〜20nmであり、より好ましくは10nm〜17nmである。第二のインジウムスズ酸化物層14の厚さと第三のインジウムスズ酸化物層15の厚さの差は、好ましくは2nm〜20nmであり、さらに好ましくは5nm〜20nmであり、より好ましくは10nm〜17nmである。
【0025】
第一のインジウムスズ酸化物層13の酸化スズの含有量と厚さ、第二のインジウムスズ酸化物層14の酸化スズの含有量と厚さ、第三のインジウムスズ酸化物層15の酸化スズの含有量と厚さを上記の範囲、および上記の差とすることにより、透明導電膜12の結晶化がより促進され、より低温、より短時間の加熱処理により、表面抵抗値を低くすることができる。
【0026】
[製造方法]
本発明の透明導電性フィルム10の製造方法の一例を説明する。まず、500m〜5,000m巻の長尺のフィルム基材11のロールをスパッタリング装置内に入れる。フィルム基材11のロールを一定速度で巻き戻しながら、スパッタリング法により、フィルム基材11の片面に、第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15を連続的に形成する。
【0027】
スパッタリング法においては、低圧気体(例えば低圧アルゴンガス)中で発生させたプラズマ中の陽イオンを、インジウムスズ酸化物の焼成体ターゲット(負電極)に衝突させ、焼成体ターゲット表面から飛散した物質をフィルム基材11上に付着させる。この際、スパッタリング装置内に、酸化スズの含有量の異なるインジウムスズ酸化物の焼成体ターゲットを、少なくとも3個設置することにより、3層のインジウムスズ酸化物層(第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15)を連続的に形成することができる。スパッタリング後(熱処理前)の第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15は、いずれも非晶質層である。
【0028】
3層のインジウムスズ酸化物層(第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15)が形成された長尺のフィルム基材11は、一旦、巻回してロールにされる。
【0029】
長尺のフィルム基材11のロールは、巻き戻されながら、加熱オーブン内に連続的に搬送されて、3層のインジウムスズ酸化物層(第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15)が加熱処理される。加熱温度(結晶化温度)は、好ましくは140℃〜170℃であり、加熱時間(結晶化時間)は、好ましくは30分〜60分である。加熱処理によって、第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15は、非晶質から結晶質に変化する。
【0030】
このようにして、フィルム基材11側から、第一のインジウムスズ酸化物層13、第二のインジウムスズ酸化物層14、第三のインジウムスズ酸化物層15がこの順に積層された透明導電膜12を有する、長尺の透明導電性フィルム10が得られる。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
厚さ23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、メラミン樹脂を含む熱硬化性樹脂のアンダーコート層(厚さ30nm)が形成された、長尺のフィルム基材のロールを準備した。この長尺のフィルム基材のロールを、アルゴンガス80体積%と酸素ガス20体積%からなる、ガス圧0.4Paの雰囲気のスパッタリング装置にセットした。
【0032】
長尺のフィルム基材のロールを一定速度で巻き戻しながら、フィルム基材の片側表面に、第一のインジウムスズ酸化物の非晶質層(酸化スズの含有量3.3重量%、厚さ5.2nm)、第二のインジウムスズ酸化物の非晶質層(酸化スズの含有量10重量%、厚さ15.6nm)、第三のインジウムスズ酸化物の非晶質層(酸化スズの含有量3.3重量%、厚さ5.2nm)を順次形成し、トータル厚さ26nmの透明導電膜を形成した。
【0033】
3層のインジウムスズ酸化物の非晶質層からなる透明導電膜が形成された長尺のフィルム基材を、一旦巻回してロールにした。このロールを巻き戻しながら、140℃の加熱オーブン内に連続的に搬送して、加熱処理(結晶化処理)を行なった。
【0034】
この結果、長尺のフィルム基材上に透明導電膜を有する透明導電性フィルムを得た。透明導電膜は、フィルム基材側から、第一のインジウムスズ酸化物層(結晶質層)、第二のインジウムスズ酸化物層(結晶質層)、第三のインジウムスズ酸化物層(結晶質層)がこの順に積層された3層膜である。第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの重量%、厚さは、加熱処理前と同じである。第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの重量%、厚さは、加熱処理前と同じである。第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの重量%、厚さは、加熱処理前と同じである。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値および結晶化時間を、表1に示す。
【0035】
[実施例2]
第一のインジウムスズ酸化物の非晶質層の厚さを6.5nmとし、第二のインジウムスズ酸化物の非晶質層の厚さを13nmとし、第三のインジウムスズ酸化物の非晶質層の厚さを6.5nmとした。これ以外は実施例1と同様の方法により透明導電性フィルムを作成した。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値および結晶化時間を、表1に示す。
【0036】
[実施例3]
第一のインジウムスズ酸化物の非晶質層の厚さを7.8nmとし、第二のインジウムスズ酸化物の非晶質層の厚さを10.4nmとし、第三のインジウムスズ酸化物の非晶質層の厚さを7.8nmとした。これ以外は実施例1と同様の方法により透明導電性フィルムを作成した。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値および結晶化時間を、表1に示す。
【0037】
[比較例1]
第一のインジウムスズ酸化物の非晶質層の酸化スズの含有量を10重量%、厚さを5.2nmとした。第二のインジウムスズ酸化物の非晶質層の酸化スズの含有量を3.3重量%、厚さを15.6nmとした。第三のインジウムスズ酸化物の非晶質層の酸化スズの含有量を10重量%、厚さを5.2nmとした。透明導電膜のトータル厚さ26nmは実施例1と同じである。上記以外は、実施例1と同様の方法により、透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値を表1に示す。比較例1の透明導電膜は結晶化しなかった。
【0038】
[比較例2]
透明導電膜を3層から2層に変更した。第一のインジウムスズ酸化物の非晶質層(フィルム基材に接する層)の酸化スズの含有量を3.3重量%、厚さを15.6nmとした。第二のインジウムスズ酸化物の非晶質層(空気に接する層)の酸化スズの含有量を10重量%、厚さを10.4nmとした。透明導電膜のトータル厚さ26nmは実施例1と同じである。上記以外は、実施例1と同様の方法により、透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値および結晶化時間を、表1に示す。
【0039】
[比較例3]
透明導電膜を3層から1層に変更した。インジウムスズ酸化物の非晶質層の酸化スズの含有量を10重量%、厚さを26nmとした。透明導電膜の厚さ26nmは実施例1と同じである。上記以外は、実施例1と同様の方法により、透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値を表1に示す。比較例3の透明導電膜は結晶化しなかった。
【0040】
[比較例4]
透明導電膜を3層から1層に変更した。インジウムスズ酸化物の非晶質層の酸化スズの含有量を3.3重量%、厚さを26nmとした。透明導電膜の厚さ26nmは実施例1と同じである。上記以外は、実施例1と同様の方法により、透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムの、表面抵抗値および結晶化時間を、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
[評価]
表1に示すように、本発明の透明導電性フィルムの実施例1〜3において、第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量より少ない。また、第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は、第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量より少ない。さらに、第一のインジウムスズ酸化物層の厚さは、第二のインジウムスズ酸化物層の厚さより薄い。また、第三のインジウムスズ酸化物層の厚さは、第二のインジウムスズ酸化物層の厚さより薄い。これらの総合的な効果によって、本発明の透明導電性フィルムは、低温の加熱結晶化処理でも、短時間で表面抵抗値を低くすることができた。
【0043】
[測定方法]
[表面抵抗値]
一般的な4端子法を用いて、表面抵抗値を測定した。
[結晶化時間]
表面抵抗値がほぼ一定となる時間を結晶化時間と考えた。
[酸化スズの含有量]
スパッタリング装置に設置したインジウムスズ酸化物の焼成体ターゲットの酸化スズ含有量を、インジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量とした。
[膜厚]
透過型電子顕微鏡(日立製作所製H-7650)を用いてインジウムスズ酸化物層の断面を観察し、インジウムスズ酸化物層の膜厚を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の透明導電性フィルムの用途に制限は無いが、投影型の静電容量方式タッチパネルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
10 透明導電性フィルム
11 フィルム基材
12 透明導電膜
13 第一のインジウムスズ酸化物層
14 第二のインジウムスズ酸化物層
15 第三のインジウムスズ酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの主面をもつフィルム基材と、前記フィルム基材の一方の主面に形成された透明導電膜を備えた透明導電性フィルムであって、
前記透明導電膜は、前記フィルム基材側から、第一のインジウムスズ酸化物層、第二のインジウムスズ酸化物層、および第三のインジウムスズ酸化物層が、この順に積層された3層膜であり、
前記第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量は、前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量より少なく、
前記第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量は、前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズ含有量より少ないことを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記第一のインジウムスズ酸化物層の厚さは前記第二のインジウムスズ酸化物層の厚さより薄く、前記第三のインジウムスズ酸化物層の厚さは前記第二のインジウムスズ酸化物層の厚さより薄いことを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は1重量%〜5重量%であり、
前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は6重量%〜15重量%であり、
前記第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は1重量%〜5重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量と前記第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量の差は3重量%〜10重量%であり、
前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量と前記第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量の差は3重量%〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記第一のインジウムスズ酸化物層の厚さは1nm〜10nmであり、前記第二のインジウムスズ酸化物層の厚さは10nmを超え30nm以下であり、前記第三のインジウムスズ酸化物層の厚さは1nm〜10nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
前記第二のインジウムスズ酸化物層の厚さと前記第一のインジウムスズ酸化物層の厚さの差は2nm〜20nmであり、
前記第二のインジウムスズ酸化物層の厚さと前記第三のインジウムスズ酸化物層の厚さの差は2nm〜20nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
前記透明導電膜の前記第一のインジウムスズ酸化物層、前記第二のインジウムスズ酸化物層、および前記第三のインジウムスズ酸化物層は、それぞれ、インジウムスズ酸化物の非晶質層を加熱処理により結晶化させた結晶質層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
前記透明導電膜の厚さ(前記第一のインジウムスズ酸化物層の厚さ+前記第二のインジウムスズ酸化物層の厚さ+前記第三のインジウムスズ酸化物層の厚さ)は、14nm〜50nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項9】
前記フィルム基材の材料が、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、またはポリカーボネートであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項10】
前記フィルム基材の厚さは10μm〜200μmであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の透明導電性フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−93310(P2013−93310A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189458(P2012−189458)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【特許番号】特許第5190554号(P5190554)
【特許公報発行日】平成25年4月24日(2013.4.24)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】