説明

透明導電性基板及びその製造方法並びにその製造装置

【課題】絶縁性の透明部材上に、透明導電体として比抵抗がITO膜と同等レベルにあるFTO膜を配してなる透明導電性基板を提供する。
【解決手段】本発明に係る透明導電性基板10は、透明部材からなる被処理体11の一方の面11aに、比抵抗が4.0×10−4Ωcm以下であるフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体12を配したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性基板及びその製造方法並びにその製造装置に係る。より詳細には、耐熱性や光透過性に優れるとともに、スズドープ酸化インジウム(ITO)膜と同等の導電性を兼ね備えたフッ素添加酸化スズ(FTO)膜からなる透明導電体を有する透明導電性基板及びその製造方法並びにその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性基板は、例えば、絶縁性の透明部材(例えばガラス)の表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)や酸化スズ(TO)などの半導体セラミックスの薄膜を形成することにより導電性を備えたガラスであり、光学的に透明な性質を保ちつつ、電気を流す性質も有する。これらの中でも、特にITOが透明導電膜として広く知られており、パソコン、テレビ、携帯電話などの液晶ディスプレイや太陽電池の透明電極に応用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、ITO膜は、高価であるとともに資源として希少なインジウムを主原料としていることから、近年の使用量増加に伴う(原料の)価格高騰や安定供給への要請もあり、ITO膜の代替となる透明導電膜の開発が期待されていた。
【0004】
この期待に応えるべく、本発明者らは、成膜法にスプレー熱分解(Spray Pyrolysis Deposition:SPD)法を用いて、インジウムを含まずスズを主原料としたフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜の製造技術の検討を進めてきた(例えば、非特許文献1を参照)。SPD法とは、原料となる金属塩化物をエタノールなどの溶媒に溶かし、加熱したガラス基板上にスプレーして噴き付ける方法である。この方法は、大気中において成膜が可能なことから、スパッタ法やCVD法などの真空プロセスを用いる成膜法に比べて、極めて安価に製造できるという利点がある。また、FTO膜は、資源量が豊富で価格の安定しているスズを主原料とするため、ITO膜に比べて安価で提供することが可能となる。
【0005】
従来、SPD法により形成したFTO膜の導電性(比抵抗:約10×10−4Ωcm)は、各種の成膜法により形成したITO膜(比抵抗:約1.5×10−4Ωcm)に比べて一桁程度(5倍以上)大きなものであった。その反面、FTO膜はITO膜に比較して耐熱性(加熱による抵抗値の増加が小さい)や耐薬品性、耐候性の面では優れるという長所をもつことが知られている。
【0006】
つまり、FTO膜はITO膜に比べて電気抵抗値が大きく、またその分、膜厚を厚くする必要があるため透過性の低下を招くというデメリットはあるものの、加熱による抵抗値の増加が小さいことから、シリコン太陽電池や色素増感型太陽電池など好適に使用されていた。しかしながら、太陽電池における発電効率のさらなる向上を図るためには、電気抵抗値の小さな透明導電膜が好ましいことから、ITO膜レベルの比抵抗を備えたFTO膜の開発が期待されていた。
【特許文献1】特許第2516688号公報
【非特許文献1】後藤ほか:透明導電ガラス,フジクラ技報,第106号,pp.57−61,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、絶縁性の透明部材上に、透明導電体として比抵抗がITO膜と同等レベルにあるFTO膜を配してなる透明導電性基板を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、ITO膜と同等レベルの比抵抗を持つように、FTO膜からなる透明導電体を被処理体をなすガラス基材上に形成できる透明導電性基板の製造方法を提供することを第二の目的とする。
さらに、本発明は、ITO膜と同等レベルの比抵抗を持つように、FTO膜からなる透明導電体をガラス基材(被処理体)上に形成可能とする手段を備えた透明導電性基板の製造装置を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る透明導電性基板は、透明部材からなる被処理体の一方の面に、比抵抗が4.0×10−4Ωcm以下であるフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を配したことを特徴とする。
本発明の請求項2に係る透明導電性基板は、請求項1において、前記透明導電体は、5.0Ω/□以下のシート抵抗を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係る透明導電性基板の製造方法は、スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を形成する透明導電性基板の製造方法であって、支持手段に載置され、所定の温度範囲に加熱された前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミストを吐出手段から噴霧する際に、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度をmol/L単位において、0.4以上1.0以下とし、前記被処理体上に前記透明導電体を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に係る透明導電性基板の製造装置は、スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を形成する透明導電性基板の製造装置であって、前記被処理体を載置する支持手段と、前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミストを噴霧する吐出手段と、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を調整する濃度制御手段と、前記被処理体の温度を調整する温度制御手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係る透明導電性基板は、透明部材からなる被処理体の一方の面に、比抵抗が4.0×10−4Ωcm以下であるフッ素添加酸化スズ膜(FTO膜)からなる透明導電体を配した構成からなる。
上記透明導電体を構成するFTO膜は、従来のFTO膜と比較して比抵抗が半減以下であり、ITO膜とほぼ同等のレベルにあることから、例えば太陽電池の窓極用基板として本発明に係る透明導電性基板を適用した場合、従来より薄い膜厚にて十分な導電性が確保されるので、これに伴って高い透過性も兼ね備えることができる。ゆえに、本発明は、薄型化と発電効率の向上とを両立できる太陽電池をもたらす。また、このFTO膜は従来同様、ITO膜に比較して耐熱性(加熱による抵抗値の増加が小さい)や耐薬品性、耐候性の面で優れているので、たとえばスパッタ法やCVD法、あるいはSPD法において高温プロセスに耐えられるという長所も維持されている。さらに、上記透明導電体は、高価なInを含まず、安価にかつ安定して供給可能な材料からなるFTO膜のみによって構成されているので、低コスト化とともに製造の安定性も図れる。なお、比抵抗が小さなFTO膜は、シート抵抗も抑制され、5.0Ω/□以下という極めて小さな数値となる。
【0012】
本発明の請求項3に係る透明導電性基板の製造方法は、スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を形成する透明導電性基板の製造方法であって、特に、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度をmol/L単位において、0.4以上1.0以下とし、前記被処理体上に前記透明導電体を形成する。フッ素原料の濃度をこのような特定の範囲とした原料溶液を用い、被処理体上に薄膜を形成する製法は、前述したように、たとえばガラス基材からなる被処理体上に、比抵抗が従来より大幅に低いFTO膜をもたらす。また、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を変化させるだけで、得られるFTO膜の比抵抗を自由に変更できることから、たとえば膜厚方向において濃度変調(制御)した原料溶液を用いることにより、見かけ上は単層のFTO膜であっても、その深さ方向に異なる導電特性をもつように透明導電体を設計することも可能となる。
【0013】
本発明の請求項4に係る透明導電性基板の製造装置は、スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜(FTO膜)からなる透明導電体を形成する製造装置であって、特に、FTO膜形成用の原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を調整する濃度制御手段を備えたことにより、前述したように、たとえばガラス基材からなる被処理体上に、比抵抗が従来より大幅に低いFTO膜をもたらす製法を実施できる。その際、この濃度制御手段は、ミストを噴霧する吐出手段とは別体をなす構成の他に、吐出手段と一体をなす構成、たとえば吐出手段の一部として内蔵されるような構成、であってもよい。後者とした場合には、フッ素原料の濃度の調整が即座に、成膜プロセス(吐出状況)へ反映されることから高精度の膜質(導電性)制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る透明導電性基板の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る透明導電性基板の一例を示す概略断面図である。
この透明導電性基板10は、ガラスからなる透明基材11、および、その一方の面11aに形成されたフッ素添加酸化スズ膜(FTO膜)からなる透明導電体12から概略構成されている。
【0016】
そして、本発明の透明導電性基板10は、図2に示すように、透明導電体12を構成するFTO膜[試料A(SPD法)と呼ぶ]の比抵抗が4.0×10−4Ωcm以下であることを特徴とする。従来、FTO膜としては10×10−4Ωcm前後の比抵抗を有するもの[試料B(熱CVD法)と呼ぶ。]が知られ、入手も可能であったが、比抵抗が小さいことで多用されているITO膜[試料C(スパッタ法)と呼ぶ。比抵抗:約1.5×10−4Ωcm]に比べて一桁程度(5倍以上)大きなものであり、使い勝手がよくなかった。これに対して、本発明に係る透明導電性基板10が備えるFTO膜(試料A:図2の○印)は、領域Bにおいてその比抵抗が4.0×10−4Ωcm以下であることから、従来のFTO膜(試料B:図2のメッシュゾーン)に比べて2倍以上の導電性能を備えていることが分かる。
【0017】
【表1】

【0018】
また、図2から明らかなように、本発明に係るFTO膜(試料A)は、後述する製造方法の制御(原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度調整)により、領域B(F濃度が0.4〜1.0[mol/L])においては、2.8[×10−4Ωcm]という極めて低い比抵抗(F濃度0.8[mol/L]の場合)が得られた。この結果から、本発明に係るFTO膜はITO膜レベルの低抵抗化が図れることが確認された。
【0019】
なお、本発明の製造方法によれば、原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を領域A(F濃度が0〜0.4[mol/L])とした場合には、FTO膜の比抵抗を約10倍の範囲(4〜14[×10−4Ωcm])に亘って線形に制御することができる。一方、原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を領域C[F濃度が1.0[mol/L]を越える領域]とした場合には、原料溶液が十分に溶解しないため芳しくない。
【0020】
これに加えて、本発明に係るFTO膜(試料A)は、従来のFTO膜(試料B)と同様の透過率も兼ね備えている。移動度においては、従来のFTO膜(試料B)や従来のITO膜(試料C)と同等か、またはそれ以上の数値が確認された。
【0021】
以上の結果より、本発明に係るFTO膜を備えた透明導電性基板は、例えば太陽電池の窓極用基板として利用する場合、従来より薄い膜厚にて十分な導電性が確保されるとともに、これに伴って高い透過性も兼ね備えることが可能である。よって、本発明は、薄型化と発電効率の向上とを両立できる太陽電池をもたらす。
【0022】
また、このFTO膜は従来同様、ITO膜に比較して耐熱性(加熱による抵抗値の増加が小さい)や耐薬品性、耐候性の面で優れているので、たとえばスパッタ法やCVD法、あるいはSPD法において高温プロセスに耐えられるという長所も備えている。
【0023】
さらに、上記透明導電体は、高価なInを含まず、安価にかつ安定して供給可能な材料からなるFTO膜のみによって構成されているので、たとえば本発明に係るFTO膜を備えた透明導電性基板を太陽電池に適用した場合には、太陽電池の低コスト化に寄与する。
【0024】
以下では、本発明に係る透明導電性基板の製造装置について説明する。
ここでは、スプレー熱分解法(SPD法)により、被処理体としてガラス基材(透明基材)を用い、その上にFTO膜を作製する場合を例に取り説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図3は、本発明に係る透明導電性基板の製造装置を示す概略構成図である。
この製造装置50は、スプレー熱分解法により被処理体11の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体12を形成する透明導電性基板10の製造装置であって、被処理体11を載置する支持手段51と、被処理体11の一面11aに向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミスト53を吐出口54aから噴霧する吐出手段54と、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を調整する濃度制御手段55と、前記被処理体の温度を調整する温度制御手段52と、を少なくとも備えている。
【0026】
図3に示した濃度制御手段55としては、例えば、溶液混合法やミスト混合法等が挙げられる。
吐出手段54は、空気(Airと表示)を取り込む第一導入路54αと、濃度制御手段55によってフッ素原料の濃度が調整された原料溶液を取り込む第二導入路54βとを備えている。例えば、矢印αの方向に空気を、矢印βの方向に原料溶液を導入し、これらを混ぜ合わせてミスト(「液滴とエアーの混合物」を指す)化を図った上で、吐出口54aを通して被処理体11の一面11aに向けて噴霧する。
【0027】
その際、被処理体11は、所定の温度に加熱された状態に保持されていることが好ましく、保持温度としては250〜500[℃]の範囲が好ましい。このように被処理体11の温度を制御するためには、図3に示したような温度制御手段52、すなわち支持手段51に内蔵された形態のもの(例えば、シーズヒータやホットプレート等)の他に、支持手段51とは別体をなす形態のもの(例えば、ランプや加熱雰囲気等)を使用してもよい。
【0028】
また、被処理体11の一面11aに向けて放射状に噴霧されたミスト(図3の斜線部分)53を安定させるとともに、フッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体12の堆積(成膜)面を安定させる上からも、この製造装置50には吐出手段54と被処理体11との間の空間56を包み込むように配置されるフード57を備える構成が好ましい。これにより、外気の影響が遮断され、適切な成膜条件の制御性が向上するので、量産する際に、所望の特性を有するフッ素添加酸化スズ膜(FTO膜)を、広い面積に亘って確実に製造可能となる。このようなフード57は、その内部空間から装置の外部へ原料溶液が飛散し、無駄な使用量が増加するのを防ぐ働きもすることから、フード57は原料溶液の利用効率の向上に寄与する。
【0029】
本発明に係る透明導電性基板の製造方法は、スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を形成する透明導電性基板の製造方法であって、特に、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度をmol/L単位において、0.4以上1.0以下とし、前記被処理体上に前記透明導電体を形成することを特徴とする。
【0030】
以下では、上記構成からなる本透明導電性基板の製造方法について、具体的な事例を挙げて説明する。
FTO膜を形成するための原料溶液は、濃度制御手段55において調整した。
例えば、原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度をmol/L単位において0.8とする場合には、塩化スズ(IV)・五水和物7.01[g]に対してエタノール30[%]水溶液100[ml]の割合で溶解し、これにフッ化アンモニウム2.96[g]の飽和水溶液を加え、この混合物を超音波にて溶解することにより調整した。
図2の実験結果を得る際には、上記フッ化アンモニウムの数値を0〜3.70[g]範囲で変更することにより、フッ素原料の濃度(図2の横軸:F濃度)を0〜1.0[mol/L]とした原料溶液を、濃度制御手段55において作製した。
【0031】
空気(Air:矢印α)を導入するとともに、濃度制御手段55から原料溶液(矢印β)を吐出手段54の中に導入し、ミストを形成した後、吐出口54aから被処理体11の一面11aに向けて噴霧することにより、被処理体11上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体12を作製した。ここで、被処理体11としては、ガラス基材(SCHOTT社製、型番:8330、サイズ:100×100×1.1[mm])を用いた。その際、被処理体11の温度は420[℃]に保持し、10分間成膜することにより、膜厚が1100[nm]のFTO膜を形成した。
【0032】
なお、このときの成膜条件としては、ノズル口径が0.3[mm]、ノズル−基板間の距離が600[mm]、噴霧圧力が約0.06[MPa]とした。また、必要に応じて、吐出手段54が内蔵する加熱手段(不図示)により、噴霧される前のミスト温度は、20〜100[℃]の範囲で調整した。
【0033】
以上の製法により得られた透明導電性基板について、透明導電体をなすFTO膜の導電特性として、シート抵抗、比抵抗、キャリア密度、及び移動度を、光学特性として透過率を、それぞれ測定した。
図2は、比抵抗のF濃度依存性を示すグラフである。本発明に係る製法によると、FTO膜は比抵抗において3つ領域に区分されることが分かった。
【0034】
領域A(F濃度が0〜0.4[mol/L])は、F濃度の増加に伴い、比抵抗が減少傾向を示す領域である。このF濃度範囲でFTO膜を作製することにより、FTO膜の比抵抗を約10倍の範囲(4〜14[×10−4Ωcm])で作り分けることができる。ゆえに、用途先に応じて、所望の比抵抗を有する透明導電性基板の提供が可能となる。
領域B(F濃度が0.4〜1.0[mol/L])は、F濃度の増加に伴い、比抵抗が僅かに減少傾向を示し、比抵抗が4[×10−4Ωcm]以下のFTO膜が得られる。特に、F濃度が0.8[mol/L]のとき比抵抗は2.8[×10−4Ωcm]となり、ITO膜レベルに近づく。
領域C(F濃度が1.0[mol/L]を越える領域)は、原料溶液が十分に溶解しないため、安定した成膜が困難となる。
【0035】
したがって、本発明に係る透明導電性基板の製造方法は、FTO膜の形成に用いる原料溶液のF濃度に強く依存しており、F濃度を0.4〜1.0[mol/L]の範囲としてFTO膜(例えば、試料A)を作製すれば、従来のFTO膜(試料B)に比べて比抵抗が極めて低く、ITO膜(試料C)レベルのFTO膜を安定して製造できる。
【0036】
なお、上述した製造方法の説明においては、FTO膜がその厚さ方向において均質な単層膜の事例について述べたが、本発明に係る製造方法は、成膜中にF濃度を自由に変更・制御することも容易にできるので、FTO膜の機能が発揮されるならば、その厚さ方向において組成変調あるいは導電特性が変調するような単層膜であっても構わない。また、利用形態によっては、ITO膜と組合せて多層膜化を図ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、絶縁性の透明部材上に、透明導電体として比抵抗がITO膜と同等レベルにあるFTO膜を配してなる透明導電性基板が得られる。このFTO膜は、ITO膜に比較して優れた耐熱性や耐薬品性、耐候性も併せてもつ。また、高価なInを含まないことから、ITO膜より安価にかつ安定して供給可能である。
このような利点を勘案すると、本発明に係る透明導電性基板は、耐高温プロセス性能とともに優れた導電性能(シート抵抗や比抵抗が低いこと)が求められる、各種の太陽電池や液晶、PDPなどの用途等に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る透明導電性基板の一例を示す断面図である。
【図2】F濃度を変えて作製したFTO膜の比抵抗を示すグラフである。
【図3】本発明に係る透明導電性基板の製造装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 透明導電性基板、11 被処理体、12 透明導電体(FTO膜)、50 製造装置、51 支持手段、52 温度制御手段、53 ミスト、54 吐出手段、55 濃度制御手段、56 空間、57 フード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材からなる被処理体の一方の面に、比抵抗が4.0×10−4Ωcm以下であるフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を配したことを特徴とする透明導電性基板。
【請求項2】
前記透明導電体は、5.0Ω/□以下のシート抵抗を有することを特徴とする請求項1に記載の透明導電性基板。
【請求項3】
スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を形成する透明導電性基板の製造方法であって、
支持手段に載置され、所定の温度範囲に加熱された前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミストを吐出手段から噴霧する際に、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度をmol/L単位において、0.4以上1.0以下とし、前記被処理体上に前記透明導電体を形成することを特徴とする透明導電性基板の製造方法。
【請求項4】
スプレー熱分解法により被処理体の一面上にフッ素添加酸化スズ膜からなる透明導電体を形成する透明導電性基板の製造装置であって、
前記被処理体を載置する支持手段と、前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミストを噴霧する吐出手段と、前記原料溶液に含有されるフッ素原料の濃度を調整する濃度制御手段と、前記被処理体の温度を調整する温度制御手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする透明導電性基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−242340(P2007−242340A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61017(P2006−61017)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】