説明

透明導電性積層体およびその製造方法

【課題】異なる組成のスパッタリングターゲットを使用して、インラインで積層し、短時間の加熱処理で結晶性を有することができ、低抵抗の透明導電膜を有した透明導電性積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】透明導電膜はIn、Sn、Oを主成分とし、Snの含有量が1重量%以上4重量%以下であるインジウム・スズ複合酸化物からなる第一透明導電膜3aと、同じくIn、Sn、Oを主成分とし、Snの含有量が4重量%超え、10重量%以下であるインジウム・スズ複合酸化物からなる第二透明導電膜3bで形成され、前記第一及び第二透明導電膜の膜厚がそれぞれ10nm以上30nm以下であり、両者の透明導電膜の合計厚みが20nm以上40nm以下であり、真空中で加熱温度が120℃以上200℃以下であり、加熱時間が1分以上、30分以下の条件で加熱処理することで前記第一及び第二透明導電膜のいずれも結晶化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性積層体およびその透明導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ画面を指で触れ、またはペンで押圧するだけで入力できるようにした透明なタッチパネルが普及している。この種のタッチパネルの電極として使用される透明導電性基材は基本的にガラスもしくは高分子フィルムに導電膜を積層した構造である。近年では、可撓性、加工性に優れ、軽量である等の利点を備えることから特にポリエチレンテレフタレートをはじめとする高分子フィルムを使用した透明導電性フィルムが使用されている。
【0003】
また、タッチパネルの方式には静電容量方式や光学式等の多様な方式が存在する。その中でも、透明導電フィルムが使用されるタッチパネルにあっては、上下の電極が接触することでタッチ位置を特定する抵抗膜式や静電容量の変化を感知する静電容量方式がある。この種のタッチパネルでは、携帯用端末装置及び携帯ゲーム機等のディスプレイ前面に使用されるために、ディスプレイの表示を損なわない透過・反射特性が必要となる。
【0004】
特に、透明導電性フィルムは、スマートフォンやスレートPCに搭載されるタッチパネルでの市場が伸びており、この場合、主に静電容量方式が採用されている。また、静電容量方式に使用される透明導電性フィルムでは、導電膜をパターニングする必要があるため、導電膜の有無が目立たないような工夫が必要であり、また、抵抗膜式と比較して低抵抗であることが要求されている。
【0005】
現在、導電膜には、導電性が良好で、しかも可視光波長域での透光性が良好であることから主にITO膜が使用されている。低抵抗の導電膜を得るためにITO膜自体の膜厚を厚くすることで対応可能であるが、膜厚が厚くなる分透過率が低下するといった光学特性上の問題もあり、一定の膜厚以下で抵抗値と光学特性の両立を図るためにはITO膜が結晶化していることが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−244771号公報
【特許文献2】特開2008−71531号公報
【特許文献3】特開2004−149884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3等の方法では、SnO含有量の異なる透明導電膜を積層して結晶化させているが、結晶化のために長時間の加熱を行わなければならなかった。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、Snの含有量の異なる透明導電膜を積層し、成膜雰囲気ガスのO濃度が低くても結晶化し易く、真空中で短時間の加熱で結晶性を得られる低抵抗な透明導電性積層体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、透明基材の少なくとも一方の面に透明導電膜を形成した透明導電性積層体であり、透明導電膜はIn、Sn、Oを主成分とし、Snの含有量が1重量%以上4重量%以下であるインジウム・スズ複合酸化物からなる第一透明導電膜と、同じくIn、Sn、Oを主成分とし、Snの含有量が4重量%超え、10重量%以下であるインジウム・スズ複合酸化物からなる第二透明導電膜で形成され、前記第一透明導電膜及び前記第二透明導電膜の膜厚がそれぞれ10nm以上30nm以下であり、両者の透明導電膜の合計厚みが20nm以上40nm以下である関係を有し、真空中で加熱温度が120℃以上200℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下の加熱条件において加熱処理することで前記第一透明導電膜と前記第二透明導電膜のいずれも結晶化することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の透明導電性積層体において、前記透明基材と前記第一透明導電膜の間に、金属又は無機化合物を有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の透明導電性積層体において、前記透明基材の一方の面又は両方の面に、前記透明基材と接するハードコート層を設け、前記ハードコート層の膜厚が1μm以上8μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記第一透明導電膜と前記第二透明導電膜がロールトゥロール方式で前記透明基材を搬送しながら、スパッタリング法を用いて真空中で連続的に形成され、成膜雰囲気ガスにはAr、Oが用いられ、Oの体積割合が0.1以上5%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体を製造する方法である。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記加熱処理がロールトゥロール方式により行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる組成のスパッタリングターゲットを使用して、透明導電膜をインラインで積層し、短時間の加熱処理で透明導電膜が結晶性を有することができ、静電容量式タッチパネルに適した低抵抗の透明導電膜を有した透明導電性積層体の製造を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る透明導電性積層体の断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る透明導電性積層体の断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係る透明導電性積層体の断面図である。
【図4】透明導電性積層体の加熱処理装置の概略的説明図である。
【図5】実施例1及び2で得られた透明導電性積層体の分析結果を示す図。
【図6】実施例1及び2で得られた透明導電性積層体の加熱後の分析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いながら説明する。本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の透明導電性積層体の断面図である。図1において、1は、透明導電性積層体を示している。この透明導電性積層体1は、透明基材2の一方の面に第一透明導電膜3aを設け、この第一透明導電膜3aの上に第二透明導電膜3bを設けてなる積層構造のものである。
【0018】
図2は、本発明の他の実施形態の透明導電性積層体の断面図である。この透明導電性積層体は、図1に示した透明導電性積層体1の透明基材2の一方の面と、この面に設けられた第一透明導電膜3aとの間に密着層4を設けた構成になっている。
【0019】
図3(a)(b)は、本発明の更に他の実施形態の透明導電性積層体を示す断面図である。これらは、図1に示した透明導電性積層体1の透明基材2の一方の面に設けられた第一透明導電膜3aあるいは図2に示した密着層4と、透明基材2との間にハードコート層5を設けた構成となっている。また、図2(b)のように、透明基材2の第一透明導電膜3aや密着層4を設けていない面にもハードコート層5を設けるようにしてもよい。
【0020】
図4は、本発明に係る透明導電性積層体を加熱処理する加熱処理装置7の構成を概略的に示す説明図である。この加熱処理装置7はロールトゥロール方式で透明導電性積層体1を搬送するようになっており、この透明導電性積層体1が搬送される経路の途中箇所にはヒーター6を設置し、このヒーター6により搬送される透明導電性積層体1を任意の温度で加熱処理が行えるようになっている。また、装置内の圧力は図示しない真空ポンプにより大気圧から0.1Paまで調整が行えるようになっている。
【0021】
本発明で用いる透明基材2は、樹脂からなるプラスチックフィルムが用いられる。このプラスチックフィルムとしては、成膜工程および後工程において十分な強度があり、表面の平滑性が良好であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。その厚さは部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10μm以上200μm以下程度のものを用いる。
【0022】
透明基材2に含有される材料としては、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、易接着剤などを使用するようにしてもよい。また、各層との密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理などを施してもよい。
【0023】
本発明でのハードコート層5は、透明導電性積層体1に機械的強度を持たせるために設けたものである。ハードコート層5として用いられる、例えば樹脂としては、特に限定しないが、透明性と適度な硬度と機械的強度を持つ樹脂が好ましい。具体的には3次元架橋の期待できる3官能以上のアクリレートを主成分とするモノマー又は架橋性オリゴマーのような光硬化性樹脂が好ましい。
【0024】
上記3官能以上のアクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリエステルアクリレートなどが好ましい。特に好ましいのは、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレートおよびポリエステルアクリレートである。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても構わない。また、これら3官能以上のアクリレートの他にエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリオールアクリレートなどのいわゆるアクリル系樹脂を併用することが可能である。
【0025】
上記架橋性オリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどのアクリルオリゴマーが好ましい。具体的にはポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ポリウレタンのジアクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなどがある。
【0026】
上記ハードコート層5は、その他に粒子、光重合開始剤などの添加剤を含有するものでもよい。
【0027】
添加する粒子としては、有機又は無機の粒子が挙げられるが、透明性を考慮すれば、有機粒子を用いることが好ましい。有機粒子としては、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂などからなる粒子が挙げられる。
【0028】
上記粒子の平均粒径としては、ハードコート層5の厚みによって異なるが、ヘイズ等の外観上の理由により、下限として2μm以上、より好ましくは5μm以上、上限としては30μm以下、好ましくは15μm以下のものを使用する。また、粒子の含有量も同様の理由で、樹脂に対し、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0029】
また、ハードコート層5に光重合開始剤を添加する場合、ラジカル発生型の光重合開始剤として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類、アセトフェノン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、などのアセトフェノン類、メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類、チオキサントン、2、4−ジエチルチオキサントン、2、4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類、ベンゾフェノン、4、4−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類及びアゾ化合物などがある。これらは単独または2種以上の混合物として使用でき、さらにはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸誘導体などの光開始助剤などと組み合わせて使用することができる。
【0030】
上記光重合開始剤の添加量は、主成分の樹脂に対して、0.1重量%以上5重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。下限値未満では、樹脂層の硬化が不十分となり好ましくない。また、上限値を超える場合は、樹脂層の黄変を生じたり、耐候性が低下したりするため好ましくない。光硬化型樹脂を硬化させるのに用いる光は、紫外線、電子線、あるいはガンマ線などであり、電子線あるいはガンマ線の場合、必ずしも光重合開始剤や光開始助剤を含有する必要はない。これらの線源としては、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプや加速電子などが使用できる。
【0031】
また、ハードコート層5の厚みは、特に限定されないが、0.5μm以上15μm以下の範囲が好ましい。また、透明基材2と屈折率が同じかもしくは近似していることがより好ましく、1.45以上1.75以下程度が好ましい。
【0032】
ハードコート層5の形成方法は、主成分である樹脂等を溶剤に溶解させ、ダイコーター、カーテンフローコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、スピンコーター、マイクログラビアコーターなどの公知の塗布方法で形成する。
【0033】
溶剤については、上記の主成分の樹脂等を溶解するものであれば、特に限定しない。具体的には、溶剤として、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0034】
密着層4を形成する材料としては、金属またはその酸化物、硫化物、フッ化物等の無機化合物を用いることができる。実用上は酸化珪素、酸化アルミニウムなどが特に好適に用いられる。
【0035】
第一透明導電膜3a及び第二透明導電膜3bは、In、Sn、Oを主成分とし、それらの混合酸化物、さらには、その他必要に応じて、Al、Zr、Ga、Si、W等の添加物を含有させることができる。目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。現在のところ、最も信頼性が高く、多くの実績のある材料は酸化インジウムスズ(ITO)である。
【0036】
密着層4および第一透明導電膜3a及び第二透明導電膜3bの製造方法としては、大面積に均一な膜質の薄膜を形成するために、プロセスが安定し、薄膜が緻密化するスパッタリング法が用いられ、不活性ガスと酸素との混合ガスを成膜雰囲気ガスとして用い、透明基材2上に積層される。
【0037】
第一透明導電膜及び第二透明導電膜を形成するために用いられる成膜雰囲気ガスの酸素の体積割合は、0.1%以上5%以下であることが好ましい。特に、基材からの還元性ガス成分の影響を受けやすい第一透明導電膜を十分結晶化させるためには多くの酸素を供給することが好ましく、酸素の体積割合は1.5%以上5%以下であることがより好ましい。酸素の体積割合が0.1%未満であると加熱後に抵抗値が急増してしまうことと、透過率の低下を引き起こす。5%を超えると、加熱後に抵抗値が急増してしまい、要求する抵抗値の透明導電性積層体を得られない。
【0038】
もっとも、一般的な透明導電膜である酸化インジウムスズ(ITO)を第一透明導電膜3a及び第二透明導電膜3bとして用いる場合、酸化インジウムにドープされる酸化スズの含有比はデバイスに求められる仕様に応じて、任意の割合を選択する。透明導電膜を結晶化させるために用いるスパッタリングターゲット材料は、第一透明導電膜には酸化スズの含有比が1重量%以上4重量%以下であることが好ましい。第二透明導電膜には酸化スズの含有比が4重量%超え、10重量%以下であることが好ましい。本発明の場合においては、結晶性の制御及び抵抗値を考慮すると、第二透明導電膜は5重量%以上7重量%以下が特に好ましい。
【0039】
第一透明導電膜3aと第二透明導電膜3bの膜厚に関しては共に10nm以上30nm以下であり、両者の透明導電膜の合計厚みが20nm以上40nm以下である関係を有する必要がある。このような厚さ関係を有したときに、真空中での短時間加熱処理による結晶化が可能であり、静電容量方式に適した150Ω/□以下の抵抗値で、高透過率の透明導電膜を形成することができる。
【0040】
第一透明導電膜、第二透明導電膜の膜厚が10nm未満になると連続膜にならず、結晶化しなくなり、また、30nmを超えると透過率の低下やITO特有の黄色味が目立ち、パターニング跡が目立ちやすくなる。第一透明導電膜と第二透明導電膜の合計厚みが20nm未満であると抵抗値が高くなり、40nmを超えると透過率の低下をきたす。
【0041】
本発明の実施の形態に係る透明導電性積層体1は、タッチパネルであれば、結晶性、抵抗値を考慮すると静電容量方式のタッチパネルに好適に用いることができるが、その限りではなく、例えば、可撓性を要求される抵抗膜式タッチパネルやフレキシブルディスプレイ用の電極等として用いることも出来る。
【0042】
透明導電層の加熱処理としてはロールトゥロール方式で搬送され、搬送スピードを0.1から20m/minの範囲で調整し、加熱処理時間を調整できることが好ましく、透明導電性積層体が搬送される経路中に透明導電性積層体の表面温度が25℃から200℃の範囲で調整が可能な熱源を有することが好ましい。熱源については圧力が大気圧から0.1Paの範囲で使用できれば種類は限定されず、一例として、IRヒーターが挙げられる。これにより透明導電層の特性によって加熱温度及び加熱時間を任意に選択し、透明導電層の結晶化を行うことが出来る。
【実施例】
【0043】
次に、実施例及び比較例について説明する。
【0044】
<実施例1>
透明基材として厚さ125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、両面にハードコート層を塗布した。透明基材1の一方の面に密着層、第一透明導電膜、第二透明導電膜を順にマグネトロンスパッタリング法によりインラインで成膜を行い、第一透明導電膜と第二透明導電膜の膜厚をそれぞれ15nmとして透明導電性積層体を作製した。第一透明導電膜の成膜には成膜雰囲気ガスの酸素の体積割合を3.0%、第二透明導電膜の成膜雰囲気ガスの酸素の体積割合を1.0%とした。第一透明導電膜にはSnの含有割合が3重量%のITO、第二透明導電膜にはSnの含有割合が5重量%のITO、密着層には酸化珪素を使用した。次に作製した透明導電性積層体を加熱処理装置に設置し、装置内圧力を0.5Pa、ヒーター温度を140℃、加熱時間を3分とし、ロールトゥロールで加熱処理を行った。
【0045】
<実施例2>
第一透明導電膜の成膜には成膜雰囲気ガスの酸素の体積割合を1.5%、第二透明導電膜の成膜雰囲気ガスの酸素の体積割合を0.5%としたこと以外は実施例1と同様な構成、成膜条件で透明導電性積層体を作製した。次に作製した透明導電性積層体を加熱処理装置に設置し、装置内圧力を0.5Pa、ヒーター温度を140℃、加熱時間を3分とし、ロールトゥロールで加熱処理を行った。
【0046】
<比較例1>
第二透明導電膜にSnの含有割合が3重量%のITOを使用していること以外は実施例1と同様な構成、成膜条件で透明導電性積層体を作製した。作製した透明導電性積層体を加熱処理装置に設置し、装置内圧力を0.5Pa、ヒーター温度を140℃、加熱時間を3分とし、ロールトゥロールで加熱処理を行った。
【0047】
<比較例2>
第一透明導電膜の膜厚を5nm、第二透明導電膜を25nmとしたこと以外は実施例1と同様な構成、成膜条件で透明導電性積層体を作製した。作製した透明導電性積層体を加熱処理装置に設置し、装置内圧力を0.5Pa、ヒーター温度を140℃、加熱時間を3分とし、ロールトゥロールで加熱処理を行った。
【0048】
得られた透明導電性積層体を下記評価方法にて評価した。
【0049】
[評価方法1]
透明導電膜の結晶性:加熱処理装置により加熱処理する前、加熱処理後の透明導電性積層体の透明導電層部分についてX線回折装置(リガク社製)を用いて分析し、結晶化を確認した。
【0050】
透明導電膜の抵抗値:三菱化学アナリテック社製の表面抵抗測定装置Loresta GPを用いて抵抗値を4端子法で測定した。
【0051】
実施例1及び2で得られた透明導電性積層体はX線回折装置での分析結果より、図5に示すように、加熱処理前では、酸化インジウムのピークが見られないが、加熱処理後は、実施例1、2両者の透明導電性積層体とも(222)面のピークが観測され結晶化されていることが確認された。また、図6で示す結果から示されるように、加熱後の抵抗値も130Ω/□前後の値が得られている。比較例1、2では(222)面のピーク自体は観測されるが抵抗値が170Ω/□前後の値に留まっている。これにより、異なる組成のスパッタリングターゲットを使用して、酸素の体積割合が低くても、短時間の加熱処理で透明導電膜が結晶性を有することができ、静電容量式タッチパネルに適した低抵抗の透明導電膜を有した透明導電性積層体の製造を行うことが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、電子機器のディスプレイ上に入力デバイスとして取り付けられる透明なタッチパネルや、フレキシブルディスプレイの電極などに用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1 …透明導電性積層体
2 …透明基材
3a…第一透明導電膜
3b…第二透明導電膜
4 …密着層
5 …ハードコート層
6 …ヒーター
7 …加熱処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一方の面に透明導電膜を形成した透明導電性積層体であり、透明導電膜はIn、Sn、Oを主成分とし、Snの含有量が1重量%以上4重量%以下であるインジウム・スズ複合酸化物からなる第一透明導電膜と、同じくIn、Sn、Oを主成分とし、Snの含有量が4重量%超え、10重量%以下であるインジウム・スズ複合酸化物からなる第二透明導電膜で形成され、前記第一透明導電膜及び前記第二透明導電膜の膜厚がそれぞれ10nm以上30nm以下であり、両者の透明導電膜の合計厚みが20nm以上40nm以下である関係を有し、真空中で加熱温度が120℃以上200℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下の加熱条件において加熱処理することで前記第一透明導電膜と前記第二透明導電膜のいずれも結晶化することを特徴とする透明導電性積層体。
【請求項2】
前記透明基材と前記第一透明導電膜の間に、金属又は無機化合物を有することを特徴とする請求項1に記載の透明導電性積層体。
【請求項3】
前記透明基材の一方の面又は両方の面に、前記透明基材と接するハードコート層を設け、前記ハードコート層の膜厚が1μm以上、8μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性積層体。
【請求項4】
前記第一透明導電膜と前記第二透明導電膜がロールトゥロール方式で前記透明基材を搬送しながら、スパッタリング法を用いて真空中で連続的に形成され、成膜雰囲気ガスにはAr、Oが用いられ、Oの体積割合が0.1から5%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理がロールトゥロール方式により行われることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−73851(P2013−73851A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213408(P2011−213408)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】