説明

透明導電性薄膜並びにこれを有する透明導電性フィルム

【課題】導電性に優れ、尚且つ長期に渡って膜特性を維持することができる、すなわち耐久性に優れた透明導電性薄膜および透明導電性フィルムを提供すること。
【解決手段】共役系導電性高分子およびポリアニオンからなる導電性高分子に、炭素数5以上のアニオンを有する塩を含有させる。特に、炭素数5以上のアニオンの含有量が、導電性高分子の質量を基準として0.1〜80質量%であることが好ましく、さらに、アニオンがフッ素元素もしくはリン元素、またはその両方を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性薄膜並びにこれを有する透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の透明電極や電磁波シールド材として透明導電性フィルムが好適に用いられている。かかる透明導電性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)等の透明基材フィルムの少なくとも片面に、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)、InとSnOの混合焼結体(ITO)等を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のドライプロセスによって設けたものがよく知られている。
【0003】
しかし、通常透明導電性フィルムは、ウェブ状での連続加工や打ち抜き加工があり、また、表面加工中も曲げられた状態で用いられたり、保管されたりするため、上記ドライプロセスにより得られる透明導電性フィルムは、該加工工程や保管している間にクラックが発生して表面抵抗が増大することがあった。
【0004】
一方、透明基材フィルムの上に導電性高分子を塗布すること(ウェットプロセス)によって形成される透明導電塗膜層は、膜自体に柔軟性があり、クラックなどの問題は生じがたい。また、導電性高分子を塗布することによって透明導電性フィルムを得る方法は、ドライプロセスとは異なって製造コストが比較的安く、またコーティングスピードも一般的に速いので生産性に優れるという利点もある。このような導電性高分子の塗布によって得られる透明導電性フィルムにおいては、これまで一般的に用いられてきたポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等は、開発の初期段階では高い導電性が得られなかったため、帯電防止用途などに使用が限定されていたり、導電塗膜層自体の色相が問題となったりしていた。しかし、最近では製法の改良などによりこれらの問題も改善されてきている。例えば、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリアニオン存在下で酸化重合することによって得られるポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリアニオンとからなる導電性高分子(特許文献1)は、近年の製法の改良(特許文献2〜5)などにより、高い光線透過率を保ったまま非常に低い表面抵抗を発現している。
【0005】
また、上記のような共役系導電性高分子の薄膜中に、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−1−メチルピロリジウムクロライドや、トリフルオロメタンスルホニル基を有する電解質を含有させることで、導電性を向上する検討がなされている。(特許文献6〜8、非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−313521号公報
【特許文献2】特開2002−193972号公報
【特許文献3】特開2003−286336号公報
【特許文献4】特開平10−88030号公報
【特許文献5】特開2004−58648号公報
【特許文献6】特開2007−96016号公報
【特許文献7】特開2009−205970号公報
【特許文献8】WO2006/14701号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem. Mater., 2007, 19, 2147-2149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方で、透明導電性フィルムが電子材料として使用されるにあたり、透明導電層が長期に渡ってその膜特性を維持できることが重要であるが、添加する塩が極性剤であると、それによって透明導電層が変質、吸湿等を起こし長期の安定性が低下するという懸念がある。
【0009】
そこで本発明は、導電性に優れ、尚且つ長期に渡って膜特性を維持することができる、すなわち耐久性に優れる透明導電性薄膜およびこれを有する透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、導電性高分子を用いた透明導電性薄膜中に、特定のアニオンを有する塩を含有させることにより、上記課題が解決されることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、共役系導電性高分子およびポリアニオンからなる導電性高分子と、炭素数5以上のアニオンを有する塩とを含有する透明導電性薄膜である。
また本発明は、炭素数5以上のアニオンの含有量が、導電性高分子の質量を基準として0.1〜80質量%であること、アニオンがフッ素元素もしくはリン元素、またはその両方を含有することのうち、少なくともいずれか1つの態様を具備することによって、さらに優れた透明導電性薄膜を得ることができる。
さらに本発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、上記いずれかの透明導電性薄膜を有する透明導電性フィルムを包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性に優れ、尚且つ耐久性に優れる透明導電性薄膜を提供することができる。またこれを用いた透明導電性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[導電性高分子]
本発明における導電性高分子は、共役系導電性高分子とポリアニオンとからなる。
(共役系導電性高分子)
本発明における共役系導電性高分子は、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロールまたはこれらの共重合体のうち少なくとも1種類以上をその構造に含むものである。この共役系導電性高分子のいずれかを含んでいれば良く、共重合体、ブレンド、ハイブリッドのような形態でも構わない。
【0014】
これらのうち、本発明における共役系導電性高分子としては、下記一般式
【化1】

で表される繰返し単位からなるからなるポリカチオン状のポリチオフェン(以下、“ポリ(3,4−ジ置換チオフェン)”)が好ましい。上記式中、RおよびRは、相互に独立して水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されていてもよい炭素数が1〜12のアルキレン基を表す。RおよびRが一緒になって形成される、置換基を有していてもよい炭素数が1〜12のアルキレン基の代表例としては、1,2−アルキレン基(例えば、1,2−シクロヘキシレン、2,3−ブチレンなど)があげられる。この1,2−アルキレン基は、α−オレフィン類(例えば、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンおよびスチレン)を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導される。RおよびRが一緒になって形成される炭素数が1〜12のアルキレン基の好適な置換基は、メチル基、エチル基およびプロピル基が好ましく、エチル基が特に好適である。
【0015】
(ポリアニオン)
本発明においては、上記共役系導電性高分子は、ポリアニオンを含んだ複合化合物(以下、導電性高分子と呼称する場合がある。)として用いられる。
かかるポリアニオンとしては、高分子状カルボン酸類(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸など)、高分子状スルホン酸類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)などがあげられる。これらの高分子状カルボン酸およびスルホン酸類は、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えばアクリレート類およびスチレンなどとの共重合体であってもよい。これらのポリアニオンのなかで、ポリスチレンスルホン酸、およびその全部もしくは一部が金属塩であるものが、導電性の向上効果を大きくするという観点から特に好適である。なお、かかるポリアニオンの数平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲が適当であり、特に2,000〜500,000の範囲が好ましい。
【0016】
[塩]
本発明の透明導電性薄膜は、その導電性および耐久性を向上させる目的で、後述するアニオン及びカチオンからなる塩を含有する。塩の含有量は、塩を構成するアニオンが導電性高分子の質量に対して0.1〜80質量%となる量が好ましい。含有量を上記数値範囲とすることによって、導電性および耐久性の向上効果を大きくすることができる。含有量が0.1質量%未満の場合は、導電性および耐久性の向上効果が小さくなる傾向にあり、80質量%を越える場合は、透明導電性薄膜を形成するためのコーティング組成物を基材フィルムのごとく基体上に塗工して透明導電性薄膜を形成する際に、透明導電性薄膜の膜硬度や透明性が低下する傾向にある。このような観点から、含有量は、さらに好ましくは、塩を構成するアニオンが導電性高分子の質量に対して0.1〜60質量%となる量であり、特に好ましくは20〜55質量%である。
【0017】
かかる塩は、1種を単独で使用することもできるし、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。塩は、その製造方法について特に制限されず、例えば、従来公知の製造方法によって得られたものを用いればよい。本発明の透明導電性薄膜は、後述するアニオンを有する塩を必須成分として含有するが、2種類以上の塩を用いる場合においては、そのうちの少なくとも1種が本発明が規定するアニオンを有する塩であればよく、この塩の含有量が、上記数値範囲となるようにすればよい。
【0018】
以下、本発明における塩を構成するアニオンおよびカチオンについて説明する。
(アニオン)
本発明における塩を構成するアニオンは、炭素数5以上のアニオンである。アニオンがこのような態様であると、透明導電性薄膜の導電性および耐久性を高くすることができる。このように、炭素数5以上のアニオンとすることによって、かかるアニオンの疎水性が高くなる傾向にあり、それにより上記作用効果を奏すると推測される。このような観点から、かかる炭素数は6以上が好ましく、7以上がさらに好ましい。炭素数の上限は特に限定されないが、塩の安定性の観点から12以下が好ましい。
【0019】
また、かかるアニオンは、骨格にフッ素元素を含むと、アニオンの化学的安定性及び疎水性をさらに高めることが可能となり、透明導電性薄膜の導電性および耐久性の向上効果を大きくすることができる。また、アニオン中心にリン元素を含む態様が、より高い導電性および耐久性が得られることから好ましい。本発明におけるアニオンとしては、フッ素元素とリン元素との両方を含む態様が特に好ましい。
【0020】
このようなアニオンの具体例としては、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェート、テトラシアノボレート、ビス(オキサレート(2−)−O,O’)ボレート、n−ブチルスルフェート、n−ヘキシルスルフェート、オクチルスルフェート、p−トルエンスルホネート、2(2−メトキシエトキシ)エチルスルフェート、パーフルオロブタンスルフォネート等が挙げられる。中でも、特に安定性が高く、耐久性の向上効果が大きいという観点から、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェート、テトラシアノボレートが好ましい。
【0021】
(カチオン)
本発明における塩を構成するカチオンとしては、特に限定されるものではないが、例えばイミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、アンモニウム誘導体、ピロリジン誘導体、スルホニウム誘導体、ホスホニウム誘導体が挙げられる。
【0022】
イミダゾリウム誘導体としては例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリスメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、2,3−ジメチル−1−プロピルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウム、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウム、1−シアノメチル−3−メチルイミダゾリウム、1−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムが挙げられる。
【0023】
ピリジニウム誘導体としては、N−ブチルピリジニウム、N−ブチル−3−メチルピリジニウム、N−(3−ヒドロキシプロピル)ピリジニウム、N−エチル−3−メチルピリジニウム、N−エチル−3−ヒドロキシメチルピリジニウム、N−ヘキシル−4−ジメチルアミノピリジニウム等が挙げられる。
【0024】
アンモニウム誘導体としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル−ジメチル−プロピルアンモニウム、N−エチル−N,N−ジメチル−2−メトキシエチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム、ヒドラジノカルボニルメチルトリメチルアンモニウム、エチルジメチル−(5−ジイソピロピルアミノ−3−オキサペンチル)−アンモニウム、エチル−ジメチル−シアノメチル等が挙げられる。
【0025】
ピロリジン誘導体としては、N−ブチル−N−メチルピロリジニウム、N,N−ジメチルピロリジニウム、N−(メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウム、N−メチル−N−オクチルピロリジニウム、N−ヘキシル−N−メチルピロリジニウム、N−(6−アミノヘキシル)−N−メチルピロリジニウム等が挙げられる。
【0026】
その他のカチオンとしては、グアニジニウム、トリエチルスルホニウム、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム、1−(2−メトキシエチル)−1−メチル−ピペリジニウム、N−(メトキシエチル)−N−メチルモルフォリニウム等が挙げられる。
【0027】
[透明導電性薄膜]
本発明の透明導電性薄膜は、前記導電性高分子と、前記炭素数5以上のアニオンを有する塩とを含有するものである。
【0028】
(厚み)
本発明の透明導電性薄膜の厚みは、20〜1000nmが好ましい。厚みがかかる範囲であると、導電性の向上効果を高くすることができると同時に、透明性をより高くすることができる。このような観点から、厚みは、さらに好ましくは50〜700nm、特に好ましくは100〜600nmである。
【0029】
(添加剤)
本発明の透明導電性薄膜は、本発明の効果を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、造膜剤、架橋剤、溶媒、結合剤、本発明の透明導電性薄膜に含有される塩以外のドーパント、艶消し剤、界面活性剤、塗被助剤、寸法安定性を改善するための樹脂成分、無機成分、増粘剤、増粘防止剤、粘度改質剤、硬膜剤、帯電防止剤、色素、顔料、カブリ防止剤、滑剤、酸化防止剤、接着性付与材等を挙げることができる。添加剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
造膜剤としては、例えば、所謂シランカップリング剤を例示することができる。特に、エポキシ基を有するアルコキシシランが好ましい。造膜剤の添加量は、導電性高分子の質量を基準として、好ましくは0.1〜90質量%、より好ましくは0.2〜80質量%、さらに好ましくは1〜70質量%である。このような造膜剤を用いることによって、透明導電性薄膜を均一に形成することができる。また、耐久性の向上効果を大きくすることができる。
【0031】
界面活性剤を添加する場合は、その添加量は、導電性高分子の質量を基準として、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.2〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜8質量%である。界面活性剤を用いることによって、透明導電性薄膜を均一に形成することができる。
【0032】
[基材フィルム]
本発明においては、基材上に上記透明導電性薄膜を設けて、基材に導電性を付与することができる。
かかる基材としては、プラスチックのシートやフィルム、不織布等、用途に応じて任意のものを用いることができる。本発明においては、基材としてプラスチックのフィルムからなる基材フィルムを用いて、その少なくとも一方の面に上記透明導電性薄膜を設けて、透明導電性フィルムを形成することができる。ここでプラスチックとしては、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、並びにこれらの混合物および共重合体、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂などをあげることができる。これらの中でも、二軸配向したポリエステルフィルムが、寸法安定性、機械的性質、耐熱性、電気的性質などに優れた性質を有することより好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが、高ヤング率である等の機械的特性に優れ、耐熱寸法安定性がよい等の熱的特性にも優れているため好ましい。なかでも、ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを用いることが好ましく、後述する塩を含浸させる方法において、好ましい加熱乾燥条件を採用することが容易であり、導電性および耐久性の向上効果を大きくすることができる。なお、ポリエステルフィルムの厚みは500μm以下が好ましく、これを超える場合には剛性が強くなりすぎて、得られた透明導電性フィルムの取扱い性が低下しやすい。
【0033】
[製造方法]
本発明の透明導電性薄膜は、共役系導電性高分子、ポリアニオン、炭素数5以上のアニオンを有する塩、および必要に応じて使用することができる添加剤を、例えば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機による機械撹拌、撹拌子による撹拌、超音波を利用する撹拌等によって混合することにより得られる、透明導電性薄膜を形成するためのコーティング組成物を、例えば樹脂成形体や前記基材フィルムのごとく基体上に塗布し、乾燥して形成される。または、スピンコート法などにより形成することもできる。
【0034】
上記各成分の混合時に、さらに溶媒を添加することによって、透明導電性薄膜の製膜性を高くすることができる。かかる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルプロピルカーボネートのような炭酸エステル類、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、メチルアセテート、エチルアセテートのようなエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、グリコールエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、これらにフッ素などの置換基を導入した化合物等が挙げられる。溶媒はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
また、共役系導電性高分子、ポリアニオン、および必要に応じて使用することができる添加剤からなる、透明導電性薄膜を形成するためのコーティング組成物を、例えば前記基材フィルムのごとく基体上に塗布し、乾燥して透明導電性薄膜を形成した後に、かかる層を、炭素数5以上のアニオンを有する塩を分散させた分散液で洗浄し、透明導電性薄膜に塩を含浸させることによっても、本発明の透明導電性薄膜を製造することができる。
【0036】
上記分散液における分散媒としては、特に限定はされないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルプロピルカーボネートのような炭酸エステル類、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、メチルアセテート、エチルアセテートのようなエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、グリコールエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトキシド、N−メチルピロリドン等の極性溶媒、これらにフッ素などの置換基を導入した化合物が挙げられる。溶媒はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
分散液における塩の濃度は、5〜50質量%が好ましく、良好に塩を含浸させることができる。このような観点から、濃度は、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0038】
透明導電性薄膜を分散液に含浸する時間は、1〜10分が好ましく、2〜5分がさらに好ましい。含浸した後は、加熱乾燥を行なう。かかる加熱乾燥の条件は、好ましくは温度80〜180℃で5〜120秒、さらに好ましくは温度120〜170℃で10〜40秒である。このような条件で含浸および加熱乾燥を行なうことによって、透明導電性薄膜中の塩の量を好ましい範囲とすることが容易となり、導電性および耐久性の向上効果を大きくすることができる。
【0039】
[透明導電性フィルム]
本発明の透明導電性フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、前記透明導電性薄膜を有するものである。
【0040】
(表面抵抗率)
本発明の透明導電性フィルムは、透明導電性薄膜表面における表面抵抗率が100,000Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗率は、さらに好ましくは10,000Ω/□以下、特に好ましくは5,000Ω/□以下である。表面抵抗率が上記数値範囲にあると、液晶ディスプレイや透明タッチパネル等の透明電極や太陽電池の透明電極、電磁波シールド材として好適に用いることができる。表面抵抗率の下限は、特に制限はなく、低い方が好ましいが、表面抵抗率を低くしすぎるとコストアップとなるため、実質的な下限は5Ω/□以上である。
【0041】
(導電率)
本発明の透明導電性フィルムは、透明導電性薄膜表面における導電率が5S/cm以上であることが好ましい。導電率は、さらに好ましくは10S/cm以上、特に好ましくは20S/cm以上である。導電率が上記数値範囲にあると、高い導電性が得られるため好ましい。導電率は高い方が好ましく、上限は特に制限は無いが、コストの観点等から実質的には2000S/cm以下である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。
【0043】
(1)表面抵抗率
三菱化学社製Lorester MCP−T600を用いて、JIS K7194に準拠して測定した。測定は任意の5箇所を測定し、それらの平均値を表面抵抗率(Ω/□)とした。
【0044】
(2)厚み測定
フィルムサンプルを長手方向2mm、幅方向2cmに切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂(リファインテック(株)製エポマウント)にて包埋した。包埋されたサンプルをミクロトーム(LEICA製ULTRACUT UCT)で幅方向に垂直に切断、5nm厚の薄膜切片にした。透過型電子顕微鏡(日立S−4300)を用いて、加速電圧100kVにて観察撮影し、写真から各層の厚みを測定した。
【0045】
(3)導電率
上記(1)で得られた表面抵抗率(Ω/□)および上記(2)で得られた透明導電性薄膜の厚み(nm)から以下の式に基づいて導電率を算出した。
1/(厚み×表面抵抗率) × 10 = 導電率(S/cm)
【0046】
(4)透明導電性薄膜の耐久性評価
透明導電性フィルムを温度105℃、相対湿度100%RH下において24時間処理した後、上記(1)と同様の方法で表面抵抗率を測定した。下記式に従って処理前の表面抵抗率に対する処理後の表面抵抗率の変化率を求めて、表面抵抗率の変化率が20%以下であれば合格とした。
変化率(%)
=(|処理後の表面抵抗率−処理前の表面抵抗率|/処理前の表面抵抗率)×100
【0047】
[コーティング組成物の調整]
本実施例においては、以下の材料を使用した。
導電性高分子:共役系導電性高分子としてのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)0.5質量%と、ポリアニオンとしてのポリスチレンスルホン酸(数平均分子量Mn=150,000)0.8質量%とを含んでなる導電性高分子の水分散体(BaytronP:バイエルAG製、固形分濃度1.3質量%)を使用した。
塩:グアニジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェート(メルク株式会社製)を使用した。
造膜剤:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(濃度100質量%)を用いた。
界面活性剤:プラスコートRY−2(互応化学工業製、濃度10質量%)を用いた。
これらの材料を表1に示す比率で混合し、表1に示す溶剤で希釈して、透明導電性薄膜を形成するためのコーティング組成物を得た。
【0048】
[実施例1、比較例1]
マイヤーバーを用いて、基材フィルム(二軸配向PENフィルム、帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名Q65F−100)上に、上記で得られた透明導電性薄膜を形成するためのコーティング組成物を塗工し、150℃で120秒の乾燥を行い、透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、実施例1のコーディング組成物における各成分の固形分比率は、導電性高分子/塩/造膜剤/界面活性剤=100/60/50/7.7であり、透明導電性薄膜におけるアニオンの含有量は、導電性高分子の質量を基準として53質量%となる。また、透明導電性薄膜の厚みは表1に示すとおりであった。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例2]
比較例1で作成したフィルムを、10質量%の塩(グアニジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェート)を含む水溶液中(温度23℃)に3分含浸したのち、150℃で30秒加熱を行なうことで導電フィルムを得た。このフィルムの特性を表2に示す。
実施例2で得られた透明導電性薄膜においては、導電性高分子の質量を基準として25質量%のアニオンが含有されていた。なお、かかる含有量は、TOFSIMSによりN原子を定量することにより求めた。また、透明導電性薄膜の厚みは表2に示すとおりであった。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役系導電性高分子およびポリアニオンからなる導電性高分子と、炭素数5以上のアニオンを有する塩とを含有する透明導電性薄膜。
【請求項2】
炭素数5以上のアニオンの含有量が、導電性高分子の質量を基準として0.1〜80質量%である請求項1に記載の透明導電性薄膜。
【請求項3】
アニオンがフッ素元素もしくはリン元素、またはその両方を含有する請求項1または2に記載の透明導電性薄膜。
【請求項4】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性薄膜を有する透明導電性フィルム。

【公開番号】特開2011−222353(P2011−222353A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91344(P2010−91344)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】