説明

透明導電膜とその製造方法、及び透明導電膜形成用塗布液

【課題】
透明性と導電性を兼ね備えたITO透明伝導膜を、塗布法、特にインクジェット印刷法により形成するのに適した透明伝導膜形成用塗布液を提供する。
【解決手段】
透明伝導膜形成用塗布液を、AcAcIn、錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノ−ル及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含み、AcAcInと錫化合物との合計含有量を1〜30重量%、セルロース誘導体の含有量を5重量%以下の組成とすることで、インクジェット印刷に適した低粘性の透明伝導膜形成用塗布液を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜形成用塗布液及び透明導電膜とその製造方法に関する。さらに詳しくは、ガラスやセラミックなどの耐熱基板上に、塗布法、特にインクジェット印刷法を用いて、透明性と導電性を兼ね備えた透明導電膜を低コストかつ簡便に形成できる塗布液、及び該塗布液を用いて形成された透明導電膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、プラズマディスプレイ(PDP)等の表示素子透明電極、タッチパネル、太陽電池等の透明電極、熱線反射、電磁波シールド、帯電防止、防曇等の機能性コーティングに用いられる透明導電膜の形成材料として、錫ドープ酸化インジウム(以下、「ITO」と表記する場合がある)が知られている。
【0003】
ITO透明導電膜の製造方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着法等の物理的手法が広く用いられている。これらの方法は、透明性と導電性に優れた均一なITO透明導電膜を基板上に形成することができる。しかしながら、これに使用する膜形成装置は真空容器をベースとするため非常に高価であり、また基板成膜毎に製造装置内の成分ガス圧を精密に制御しなければならないため、製造コストと量産性に問題がある。
【0004】
上記の問題に対処する製造方法として、インジウム化合物と錫化合物を溶剤に溶解させた透明導電膜形成用塗布液を用いる方法(以下、「塗布法」と表記する場合がある)が行われている。この方法では、透明導電膜形成用塗布液の基板上への塗布、乾燥、焼成という簡単な製造工程でITO透明導電膜が形成される。
【0005】
上記の塗布法では、インジウム化合物及び錫化合物を含む塗布液として、従来例えば特許文献1には、ハロゲンイオンまたはカルボキシル基を含む硝酸インジウムとアルキル硝酸錫の混合液が、特許文献2には、アルコキシル基などを含む有機インジウム化合物と有機錫化合物の混合物、特許文献3には、硝酸インジウムと有機錫化合物の混合物、特許文献4には、硝酸インジウム、硝酸錫等の無機化合物混合物、特許文献5には、ジカルボン酸硝酸インジウムなどの有機硝酸インジウムとアルキル硝酸錫などの有機硝酸錫の混合物、特許文献6には、アセチルアセトンを配位した有機インジウム錯体と錫錯体からなる混合溶液、特許文献7には上記と同様の有機化合物混合溶液、特許文献8にも同様な有機化合物混合物がそれぞれ開示されており、これらの特許文献に見られるように、従来の塗布液の多くはインジウム、錫の硝酸塩、ハロゲン化物からなる有機または無機化合物、あるいは金属アルコキシドなどの有機金属化合物等が用いられている。しかし、硝酸塩やハロゲン化物を用いた塗布液は、焼成時において窒素酸化物や塩素などの腐食性ガスが発生するため、設備腐食や環境汚染を生ずるといった問題がある。また金属アルコキシドを用いた塗布液では、原料が加水分解し易いため、塗布液の安定性に問題がある。
【0006】
特許文献9には、これらの問題点を改良した塗布液としてアセチルアセトンインジウム、アセチルアセトン錫、ヒドロキシプロピルセルロース、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノールと二塩基性酸エステル及び/又は酢酸ベンジルを含有する透明導電膜形成用塗布液が開示されている。この塗布液は、アセチルアセトンインジウム、アセチルアセトン錫の混合溶液にヒドロキシプロピルセルロースを含有させることによって塗布液の基板に対する濡れ性を改善すると同時に、粘性剤であるヒドロキシプロピルセルロースの含有によって塗布液の粘度を高めに調整し、スピンコート、ワイヤーバーコート、ディップコート、スクリーン印刷等の各種塗布を可能にしている。
【0007】
更に同様の改良塗布液として、特許文献10には、有機インジウム化合物(アセチルアセトンインジウム、オクチル酸インジウム)と、有機錫(アセチルアセトン錫、オクチル酸錫)と、有機溶剤とを含み、その有機溶剤に、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノールを溶解したアセチルアセトン溶液、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノールを溶解したアセチルアセトン溶液をアルコールで希釈した液を用いる透明導電膜形成用塗布液も開示されている。この塗布液は、成膜は基材を45〜60℃の温度に加熱して行われるが、比較的低粘度であるので作業性は良好で、かつ得られた膜は、導電性、光透過性もよい。
【0008】
ところで、近年、塗布法による透明導電膜形成に際して微細パターンを解像度よく塗布形成する方法として、インクジェット印刷法が盛んに研究されており、これに用いる塗布液として、インク吐出性に優れ、かつ成膜性が良好でハジキ(濡れ性不良のために塗布液が印刷パターンから縮小してしまうこと)や、にじみ(過度の濡れ性のため塗布液が印刷パターンから広がってしまうこと)などの欠陥を生ずることなく、なおかつ透明性や導電性などの膜特性に優れるものが望まれていた。
【0009】
しかしながら、前述の特許文献9による透明導電膜形成用塗布液では、塗布液の粘度が高いために、成膜に際してインクジェット印刷法を適用しようとするときにインク吐出性に最適とされる5〜20mPa・s程度の粘度のものを得ることができず、インクジェット印刷装置のノズル詰まりを起こすので好ましくなかった。また、もう一方の特許文献10による透明導電膜形成用塗布液は、塗布液の粘度は低いものの、溶剤として高価なアセチルアセトンを多量に用いる必要がありコスト面から好ましくなく、更にこの塗布液は成膜時に塗布する基材を45℃以上に加熱しないとハジキを生じたりして成膜性が低下するし、またエチルアルコール等の低沸点溶剤を用いて乾燥速度を高めているためやはりインクジェット印刷装置のノズル詰まりを起こしたりする等の問題があり、いずれの塗布液もインクジェット印刷には適用できなかった。
【特許文献1】特開昭57−138708号公報
【特許文献2】特開昭61−26679号公報
【特許文献3】特開平4−255768号公報
【特許文献4】特開昭57−36714号公報
【特許文献5】特開昭57−212268号公報
【特許文献6】特公昭63−25448号公報
【特許文献7】特公平2−20706号公報
【特許文献8】特公昭63−19046号公報
【特許文献9】特開平6−203658号公報
【特許文献10】特開平6−325637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、塗布法、特にインクジェット印刷法によって、透明性と導電性を兼ね備えたITO透明導電膜を低コストかつ簡便に形成できるような透明導電膜形成用塗布液、およびこの塗布液を使用した透明導電膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の透明導電膜形成用塗布液は、アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含有する透明導電膜形成用塗布液であって、アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物との合計含有量が1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、セルロース誘導体の含有量が5重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の透明導電膜形成用塗布液において、前記アセチルアセトンインジウムと前記有機錫化合物の含有割合はアセチルアセトンインジウム/有機錫化合物重量比で95/5〜80/20程度賭することが好ましい。
【0013】
また本発明の透明導電膜形成用塗布液において、前記有機錫化合物は、特にアセチルアセトン錫、オクチル酸錫、2−エチルヘキサン酸錫、酢酸錫、ブトキシ錫から選択された少なくとも1種類以上であることが好ましい。
【0014】
さらに本発明の透明導電膜形成用塗布液において、前記セルロース誘導体は、エチルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【0015】
さらにまた本発明の透明導電膜形成用塗布液において、前記ジエチレングリコール誘導体は、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートから選択された少なくとも1種類以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の目的を達成するための透明導電膜の製造方法は、アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含有する透明導電膜形成用塗布液であって、アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物との合計含有量が1〜30重量%、セルロース誘導体の含有量が5重量%以下である透明導電膜形成用塗布液を基板上に塗布・乾燥した後、300℃以上の温度で焼成することを特徴とする。この場合に、塗布液の基板上への塗布をインクジェット印刷で行えば、微細で解像度の高い印刷塗布膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電膜形成用塗布液は、アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含有するものであり、塗布法、特にインクジェット印刷を適用した塗布法に好適な低粘度と優れた成膜性(印刷性)及び液安定性を有している。また、この塗布液を基板上に塗布、乾燥、焼成して得られる透明導電膜は優れた透明性と良好な導電性を有するため、LCD,ELD,PDPなどの各種ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池等の透明電極に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明では、インジウム化合物としてアセチルアセトンインジウム(以下AcAcInと記す場合がある)、有機錫化合物として例えばアセチルアセトン錫(以下AcAcSnと記す場合がある)、バインダーとしてセルロース誘導体、溶剤としてアルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含有する透明導電膜形成用塗布液を用いることで、基板上への塗布法としてインクジェット印刷法を採用した場合においても容易にITO透明導電膜の形成を図ることができる。
AcAcInとAcAcSnの合計含有量は1〜30重量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは5〜20重量%とするのが良い。含有量が1重量%未満であるとITO膜の膜厚が薄くなり十分な導電性が得られず、30重量%より多いとクラックが発生して導電性が損なわれる。また、AcAcInとAcAcSnの含有割合はAcAcIn/AcAcSn重量比=95/5〜80/20程度が好ましく、この重量比外であるとキャリア密度が減少してITO膜の導電性が急激に悪化するので好ましくない。
【0019】
バインダーとしては、基板に対する濡れ性が改善されると同時に塗布液の粘度調整を行うことができ、焼成温度以下で燃焼する材料であれば良い。このような材料としてセルロース誘導体が有効であり、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等が挙げられるが、中でもエチルセルロースやHPCが好ましい。
HPCを用いれば、5重量%以下の含有量で十分な濡れ性が得られると同時に、大幅な粘度調整を行うことができる。また、HPCの燃焼開始温度は300℃程度であり、従って塗布、乾燥後の基板を300℃以上の温度で焼成すればHPCが熱分解するので、生成するITO粒子の粒成長を阻害せず、良好な導電性を持った膜を形成することができる。HPCの含有量が5重量%より多くなると、塗布液中にゲル状のHPCが残留し易くなり、多孔質のITO膜を形成して導電性が損なわれる。また、セルロース誘導体として、例えばHPCの代わりにエチルセルロースを用いた場合は、塗布液の粘度はHPCを用いた場合の大略1/100とすることができる。
【0020】
溶剤としては、AcAcIn、AcAcSn、HPCを良く溶解するアルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノールと二塩基酸エステル、あるいはアルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノールと酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を用いる。
アルキルフェノール及びアルケニルフェノールとしては、クレゾール類、パラターシャリーブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、カシューナット殻液[3ペンタデカデシールフェノール]等が挙げられ、二塩基酸エステルとしては、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、アジピン酸エステル等が挙げられる。
【0021】
ジエチレングリコール誘導体には、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートから選択された少なくとも1種類以上を用いる。
【0022】
ここで、ジエチレングリコール誘導体を用いる理由は、ジエチレングリコール誘導体の沸点が150〜270℃と比較的高く揮発性が低いため(ジエチレングリコールジメチルエーテル:沸点=160℃、ジエチレングリコールジエチルエーテル:沸点=188℃、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:沸点=247℃)、インクジェット印刷後に塗布液の自然乾燥が進んでノズルの閉塞を起こしにくいという利点があるからである。
【0023】
また、ジエチレングリコール誘導体の、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等は、塗布液に添加された場合でも、AcAcInの溶解性を阻害しにくく、AcAcInの析出が起こりにくいからである。更に、ジエチレングリコール誘導体の粘度は0.9〜4.0mPa・s程度と比較的低いので(ジエチレングリコールジメチルエーテル:0.98mPa・s、ジエチレングリコールジエチルエーテル:1.4mPa・s、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:3.56mPa・s)、多量に添加した場合でも透明導電膜形成用塗布液の粘度を低く抑えることができるからである。
【0024】
尚、N−メチルピロリドン(NMP)、シクロヘキサノン等の溶媒もAcAcInの溶解性を阻害しないが、これらの溶媒の表面張力は34〜42dyn/cmと高いため、透明導電膜形成用塗布液に多量(例えば30%以上)配合すると、印刷・乾燥工程において、ハジキなどの問題を起こす可能性が高くなるので好ましくない。
【0025】
本発明の透明導電膜形成用塗布液は、前記のインジウム化合物、有機錫化合物、バインダーを上述の溶剤に加熱溶解させることによって作製することができる。加熱溶解は、加熱温度を60〜200℃とし、0.5〜12時間攪拌することにより行われる。加熱温度が60℃よりも低いと溶解が進まず、アセチルアセトンインジウムが析出しやすくなり特性が低下してしまい、200℃よりも高いと溶剤の蒸発が顕著となり塗布液組成が変化してしまい好ましくない。また、本発明の透明導電膜は、前記透明導電膜形成用塗布液を基板上に塗布後乾燥、焼成することにより製造することができる。
【0026】
塗布方法としては、スピンコート、ワイヤーバーコート、ディップコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷といった各種塗布方法が適用できるが、中でも直接微細なパターンを解像度よく形成できる点でインクジェット印刷による塗布法が好ましい。
【0027】
インクジェット印刷では、ノズルからインクを吐出させて基材上に塗膜パターンを形成させるため、塗布液の粘度は5〜20mPa・s程度の範囲に設定する必要がある。また、ノズル部分での溶剤乾燥によるノズル詰まりを防止するため、比較的沸点の高い(例えば、沸点:100℃以上)溶媒を用いる必要がある。
【0028】
基板上に塗布された透明導電膜形成用塗布液の乾燥は、塗布液が塗布された基板を80〜160℃の温度で10〜60分保持することにより行われ、焼成は乾燥後の塗布基板を焼成炉に入れて400〜620℃に加熱し、15〜60分保持することにより行われる。ITO透明導電膜の導電性は、焼成温度が高いほどITO粒子の粒成長が促進されるので向上する。焼成雰囲気については大気雰囲気でも良いが、窒素雰囲気での焼成を併用すればキャリア密度が増加して大幅に導電性が向上するので好ましいことである。
【実施例1】
【0029】
アセチルアセトンインジウム36.4g、アセチルアセトン錫3.6g、パラターシャリーブチルフェノール42.0g、二塩基酸エステル(デュポンジャパン製)14.0gを混合し、130℃に加温して90分間攪拌して溶解させた後、ヒドロキシプロピルセルロース4.0gを加えて90分間攪拌して溶解させ、アセチルアセトンインジウムとアセチルアセトン錫を合計で40重量%含有する透明導電膜形成用塗布原液(以下、A液と称する)を得た。
【0030】
A液25gにジエチレングリコールジメチルエーテル55g、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート20gを加え、よく攪拌・混合して透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液の粘度は9.6mPa・sで、室温に1週間放置しても有機インジウム等の析出も含めインク外観の変化は認められなかった。この透明導電膜形成用塗布液をソーダライムガラス基板上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、十分にインクジェット印刷可能であった。尚、この透明導電膜形成用塗布液の粘度はB型粘度計を用いて測定した。
【0031】
インクジェット印刷での大面積ベタ印刷が容易でなく、後述するこの透明導電膜の特性評価(透過率、ヘイズ、表面抵抗値)のための試料採取が困難であるので、透明導電膜の形成をバーコート塗布法で行いこれを評価試料とした。すなわち、上記透明導電膜形成用塗布液をワイヤーバー#16(Φ0.4mmワイヤー)を用いてソーダライムガラス基板(10cm×10cm×3mm厚さ)上の全面に塗布し、180℃で10分間乾燥した後、大気中550℃で30分間焼成して透明導電膜を得た。この透明導電膜の膜厚は約170nmであった。尚、これらは同様の透明導電膜形成用塗布液を使用しているので、インクジェット印刷法を採用しても、バーコート印刷法を採用しても、得られた透明伝導膜における膜の特性には変わりはない。
【実施例2】
【0032】
バーコート塗布法による特性評価用試料の作製を、大気中550℃で30分間、さらに引き続き窒素雰囲気中550℃で30分間焼成した以外は実施例1と同様に行い、透明導電膜を得た。この透明導電膜の膜厚は約170nmであった。
【実施例3】
【0033】
実施例1のA液25gにジエチレングリコールジエチルエーテル55g、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート20gを加え、よく攪拌・混合して透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液の粘度は10.7mPa・sで、室温に1週間放置しても有機インジウム等の析出も含めインク外観の変化は認められなかった。この透明導電膜形成用塗布液をソーダライムガラス基板上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつ形成された塗布膜にはハジキもなく、インク広がり性も適正で、インクジェット印刷が十分に可能であった。
【0034】
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様にしてバーコート塗布法による透明導電膜を得た。この透明導電膜の膜厚は約170nmであった。
【実施例4】
【0035】
実施例1のA液25gにジエチレングリコールジエチルエーテル75gを加え、よく攪拌・混合して透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液の粘度は10.1mPa・sで、室温に1週間放置しても有機インジウム等の析出も含めインク外観の変化は認められなかった。この透明導電膜形成用塗布液をソーダライムガラス基板上にインクジェット印刷したところ、ノズル詰まりもなくインク吐出性は良好で、かつハジキもなく、インク広がり性も適正で、インクジェット印刷可能であった。
【0036】
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様にしてバーコート塗布法により行い、実透明導電膜を得た。この透明導電膜の膜厚は約170nmであった。
[比較例1]
【0037】
実施例1のA液25gにジプロピレングリコールモノメチルエーテル75gを加え、よく攪拌・混合して透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、塗布液調製直後に、有機インジウムと思われる微細な結晶が析出し、インクジェット印刷、及びバーコート塗布ができなかったため、透明導電膜の特性評価も行えなかった。
[比較例2]
【0038】
実施例1のA液25gにジプロピレングリコールモノプロピルエーテル75gを加え、よく攪拌・混合して透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、塗布液調整直後に、有機インジウムと思われる微細な結晶が析出し、インクジェット印刷、及びバーコート塗布ができなかったため、透明導電膜の特性評価も行えなかった。
【0039】
このようにして得られた各実施例及び各比較例に係る透明導電膜の表面抵抗値を三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)、可視光線透過率とヘイズ値を村上色彩技術研究所製ヘイズメーター(HR−200)により測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
尚、上述の透明導電膜の透過率は、透明導電膜だけの(可視光線)透過率であって、以下の様にして求められている。すなわち、
透明導電膜の透過率(%)
=[(透明導電膜付ガラス基板ごと測定した透過率)/(ガラス基板の透過率)]×100
【0041】
【表1】

【0042】
「評価」
各実施例と各比較例を比べると明らかな通り、各実施例のジエチレングリコール誘導体を含有する透明導電膜形成用塗布液は、塗布液の粘度が9〜11mPa・sとインクジェット印刷に適しており、有機インジウム等の析出も含めインク外観の変化が見られず、かつ、ノズル詰まり、インク吐出出性、ハジキ、インク広がり性等の面から見てインクジェット印刷が可能で、優れた透明導電膜を形成できるのに対し、各比較例の透明導電膜形成用塗布液では有機インジウムと思われる微細な結晶が析出し、インクジェット印刷が行えず、透明導電膜も形成できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明による透明導電膜形成用塗布液は、インクジェット印刷が適用できるので基板上に微細なパターンを解像度良く成膜することができ、かつ得られた透明導電膜の透明性及導電性も良好であるので、精密で、複雑なパターンの要求される液晶ディスプレイ(LCD)、エレクロロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、プラズマディスプレイ(PDP)などの表示素子透明電極、光半導体の透明電極のなどの電子機器の製造に利用可能であり、その他、太陽電池の透明電極、熱線反射シールド、電磁波シールド、帯電防止膜の製造など、広範な利用が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含有する透明導電膜形成用塗布液であって、アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物との合計含有量が1〜30重量%、セルロース誘導体の含有量が5重量%以下、であることを特徴とする透明導電膜形成用塗布液。
【請求項2】
アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物の合計含有量が5〜20重量%であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項3】
アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物の含有割合がアセチルアセトンインジウム/有機錫化合物重量比=95/5〜80/20であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項4】
有機錫化合物が、アセチルアセトン錫、オクチル酸錫、2−エチルヘキサン酸錫、酢酸錫、ブトキシ錫から選択された少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項5】
セルロース誘導体が、エチルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項6】
ジエチレングリコール誘導体が、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートから選択された少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜形成用塗布液を基板上に塗布し、乾燥した後、300℃以上の温度で焼成することを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項8】
上記透明導電膜形成用塗布液の基板上への塗布をインクジェット印刷で行うことを特徴とする請求項7に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の透明導電膜の製造方法で得られた透明導電膜。


【公開番号】特開2006−28431(P2006−28431A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212277(P2004−212277)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(000221959)東北化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】