説明

透明導電膜の製法

【課題】
酸化インジウムをターゲットに用い、ガラス基板を非加熱の状態で、スパッタリング法によって酸化インジウム膜を形成した透明導電性基板は、該透明導電性基板を様々な温度で加熱処理すると、比抵抗が大きく変化してしまうという欠点を有していた。
【解決手段】
酸化インジウムターゲットを用いてスパッタリング法で非加熱のガラス基板上に酸化インジウム導電膜を成膜するときに、酸素ガスの量が2.5容積%以下のアルゴンガス雰囲気中で酸化インジウム膜を成膜し、酸化インジウムの成膜後、該酸化インジウムの成膜されたガラス基板を100〜200℃の温度で加熱処理し、酸化インジウムのシート抵抗を、50〜150Ω/□とする酸化インジウム膜の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウムからなる透明導電膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜として酸化インジウム薄膜が知られている。酸化インジウム膜は、金属インジウムを酸素雰囲気中で物理蒸着法によって基板に成膜するか、酸化インジウムをスパッタリング法で基板に成膜するなどの方法で作製される。
【0003】
特許文献1(特開昭48−26025号報)には、金属インジウムを酸素雰囲気中で蒸発させて、200℃〜400℃に加熱した基板に酸化インジウムの膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開昭51−70492号報)では、酸化インジウムのターゲットを用い、スパッタリング法により350℃に加熱したガラス基板に成膜することにより、膜抵抗が70Ω/□の酸化インジウム薄膜が得られることが開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、スパッタリング法で、酸素濃度を変えたアルゴンガス雰囲気中て成膜された、酸化スズの含有量の異なる酸化インジウムの比抵抗が示されて、酸化スズを含有しない酸化インジウムの膜は、非加熱のガラス基板と200℃に加熱されたガラス基板に成膜されており、非加熱の基板に成膜された酸化インジウム膜の比抵抗4×10−4〜3×10−3Ω・cmと、200℃に加熱された基板に成膜された酸化インジウムの比抵抗6×10−3〜3×10−2Ω・cmとが示されている。
【特許文献1】特開昭48−26025号公報
【特許文献2】特開昭51−70492号公報
【非特許文献1】K.Utsumi,H.Iigusa,R.Tokumaru,P.K.Songand,Y.Shigesato,Thin Solid Films Vol.445(2003),P229.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化インジウムターゲットを用いてスパッタリング法で非加熱のガラス基板上に酸化インジウム導電膜を成膜する場合、酸素ガス量の増加に伴い、成膜される酸化インジウム膜のキャリア密度は低下し、移動度は増加する。
【0007】
比抵抗は、キャリア密度と移動度との積に反比例するので、低抵抗酸化インジウム薄膜を得るためには、酸素ガスの量を最適化する必要がある。
【0008】
しかし、最適とする酸素ガスの量で成膜して得られる酸化インジウム薄膜は、高温で加熱処理すると、キャリア密度が減少するとともに、移動度も減少してしまうため、加熱処理後、急激に抵抗が大きくなってしまう。
【0009】
従って、酸化インジウムをターゲットに用い、ガラス基板を非加熱の状態で、スパッタリング法によって酸化インジウム膜を形成した透明導電性基板は、該透明導電性基板を様々な温度で加熱処理すると、比抵抗が大きく変化してしまうという欠点を有していた。
【0010】
本発明の目的は、酸化インジウム透明導電膜の抵抗が、加熱処理により、急激に大きくなるという欠点を解消し、実用可能な酸化インジウム透明導電膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の透明導電膜の製法は、酸化インジウムターゲットを用いてスパッタリング法で非加熱のガラス基板上に酸化インジウム導電膜を成膜する透明性導電膜の製法において、酸素ガスの量が2.5容積%以下のアルゴンガス雰囲気中で、酸化インジウム膜が成膜され、酸化インジウムの成膜後、該酸化インジウムの成膜されたガラス基板を100〜200℃の温度で加熱処理し、酸化インジウムのシート抵抗を、50〜150Ω/□とすることを特徴とする透明導電膜の製法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸化インジウム透明導電膜は、熱処理による抵抗変化が小さい低抵抗の透明導電膜を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
酸化インジウム薄膜は、スパッタリング法により、ガラス基板に成膜される。ターゲットには酸化インジウムを用いる。
【0014】
図1に、スパッタリング法による成膜装置の断面図を示す。スパッタリング装置において、ガラス基板3は、回転機構を有する基板ホルダー2に保持される。
【0015】
ガラス基板に対向してターゲット1が配置される。ターゲットには酸化インジウムを用いる。
【0016】
真空チャンバー7には、マスフローコントローラー5、開閉バルブ6、真空ポンプ4が連結されている。マスフローコントローラー5からは、Arガスと酸素ガスとが真空チャンバー内に供給される。マスコントローラーからのガス供給量と、真空チャンバーと真空ポンプを連結している開閉バルブ6の調節により、真空チャンバー7内の圧を調整する。真空チャンバー7内の圧は、およそ0.5Pa程度にすることが好ましい。
【0017】
酸素ガスのArガスに対する量を変化させて、酸化インジウムの薄膜をガラス基板に成膜し、成膜後加熱処理を行ったところ、図2に示すような結果が得られた。
【0018】
シート抵抗の変化が少なく、低抵抗の、加熱処理による変化の少ない酸化インジウム薄膜が得らるためには、図2から、加熱処理温度を200℃で、酸素ガスの量が2.5%以下とするとが望ましい。
【0019】
なお、酸素ガスの量は、(酸素ガスの流量(sccm))/((酸素ガスの流量(sccm))+(Arガスの流量(sccm)))×100(%)で算定される値である。
【0020】
また、図2において、加熱処理温度が250℃を越えると、酸素ガスの量が2.5%以下の場合でも、シート抵抗が大きく変化するようになる。
【0021】
図3は、酸素ガスの量が3.0%以下で、加熱処理温度が250℃以下の場合のシート抵抗を示すもので、シート抵抗は50〜150Ω/□の間で変化が小さく、この図3からも、シート抵抗の変化の少ない酸化インジウム薄膜を得るには、加熱処理温度を200℃以下とし、酸素ガスの量を2.5%容積以下とすることが、望ましい。
【0022】
図4は、酸素ガスの量を0.0%として成膜した酸化インジウム膜の加熱処理によるシート抵抗を示すもので、酸素ガスの量を0%として成膜される酸化インジウム薄膜は、350℃以下の加熱処理で、シート抵抗は50〜150Ω/□の範囲にあり、ほとんどシート抵抗が変わらず、従って、酸素ガスの量を0%として作製される酸化インジウム薄膜でなる透明導電膜は、350℃以下の加熱処理に対して安定したシート抵抗となる。
【実施例】
【0023】
実施例1
スパッタ装置として、図1に示すDCマグネトロンスパッタ装置を用いた。該スパッタ装置は、3インチφの円形ターゲット1と、回転機能付きの基板ホルダー2を有している。ターゲット1には市販の酸化インジウムターゲット(相対密度99.4%)を用い、ガラス基板3にはSiOコート付きのソーダライムガラスを用いた。
【0024】
チャンバー7内の真空排気にはターボ分子ポンプ4を用い、成膜中のチャンバ−7内の圧力は、開閉バルブ6の調節により一定に保った。
チャンバー内の雰囲気ガスは、マスフローコントローラー5によりアルゴンガスと酸素ガスの導入量を制御して、酸素ガス量/(Arガス量+酸素ガス量)=2.5容積%で成膜した。
【0025】
ガラス基板上に成膜した酸化インジウム膜は、150±10nmの膜厚で作製し、ガラス基板を非加熱で行い、チャンバー7内の圧力は0.5Paとした。
【0026】
成膜後200℃の温度で加熱処理した。本実施例の酸化インジウム膜のシート抵抗は、116Ω/□で安定シート抵抗のものが得られた。
【0027】
比較例1
実施例と同様の条件で酸化インジウム膜を成膜した後、ガラス基板を250℃で加熱処理したところ、シート抵抗は1010Ω/□となり、200℃で加熱処理した実施例1に比べシート抵抗が大きく、安定したシート抵抗の酸化インジウム膜が得られなかった。
【0028】
比較例2
酸素ガスの量を2.0%とした他は実施例と同じ条件で酸化インジウム膜を成膜した後、250℃で加熱処理したところ、シート抵抗は350Ω/□となり、比較例1と同様に、安定したシート抵抗の酸化インジウム膜が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】スパッタリング装置の概略断面図。
【図2】加熱処理温度に対するシート抵抗の変化を示すグラフ。
【図3】酸素ガスの量に対するシート抵抗の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0030】
1 ターゲット
2 基板ホルダー
3 ガラス基板
4 真空ポンプ
5 マスフローコントローラー
6 開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウムターゲットを用いてスパッタリング法で非加熱のガラス基板上に酸化インジウム導電膜を成膜する透明性導電膜の製法において、酸素ガスの量が2.5%容積以下のアルゴンガス雰囲気中で、酸化インジウム膜が成膜され、酸化インジウムの成膜後、該酸化インジウムの成膜されたガラス基板を100〜200℃の温度で加熱処理し、酸化インジウムのシート抵抗を、50〜150Ω/□とすることを特徴とする透明導電膜の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−99976(P2006−99976A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281176(P2004−281176)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】