説明

透明導電膜の製造方法

【課題】優れた特性を有する透明導電膜を簡便な製造プロセスにて安価に製造することができる透明導電膜の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素ドープ酸化スズ膜からなる透明導電膜を透明基板100の被成膜面101上に形成するに際して、加熱部14において被成膜面101の温度が500℃以上となるように透明基板100を加熱し、成膜部15において透明導電膜の原料溶液を被成膜面101に対して噴霧して透明導電膜を成膜し、熱処理部16において透明導電膜を400℃以上500℃以下の大気雰囲気中において5分以上45分以下にわたって熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の製造方法に関し、より特定的には、薄膜太陽電池の透明基板上に設けられる透明導電膜としてのフッ素ドープ酸化スズ膜(FTO(Fluorine doped Tin Oxide)膜)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜として、酸化スズ膜や酸化亜鉛膜、酸化インジウム膜等が知られている。このうち、酸化スズ膜は、他の膜に比較して廉価に製造できるばかりでなく化学的にも安定であるため、特に薄膜太陽電池の透明基板上に設けられる透明導電膜として好適に利用されている。
【0003】
一般に、薄膜太陽電池における光電変換率を高めるために重要となる透明導電膜の特性としては、シート抵抗、光透過率およびヘイズ率が挙げられる。ここで、ヘイズ率は、透過光の散乱の程度を示す指標であり、全透過率に対する拡散透過率の割合(百分率)で表わされ、透明導電膜の結晶化によって形成される膜表面の微細なテクスチャー(凹凸)構造によって決定される。
【0004】
シート抵抗は、光電変化で発生した電流が透明導電膜を通過する際に消費されてしまうことを防ぐべく、より小さい値を示すことが好ましい。光透過率は、透明導電膜に入射した光がより多く光電変換層に到達することとなるように、より高い値を示すことが好ましい。ヘイズ率は、透明導電膜に入射した光が反射を繰り返すことによって透明導電膜内に閉じ込められることとなるように、より高い値を示すことが好ましい。
【0005】
このような観点から、薄膜太陽電池に用いられる透明導電膜の特性としては、好ましくは、シート抵抗が12Ω/□以下で、光透過率が80%以上で、ヘイズ率が7%〜15%程度であることが要求される。
【0006】
しかしながら、要求されるこれら3つの特性は、いずれかの特性を充足するように透明導電膜の成膜条件を調整すると他の特性が充足されないこととなってしまう、いわゆるトレードオフの関係にある。たとえば、透明導電膜の膜厚を厚くすると、シート抵抗は小さくなり、ヘイズ率は高くなるものの、光透過率が大幅に低下してしまうこととなってしまう。このように、これら3つの特性を同時に充足する透明導電膜を実現することは極めて困難であった。
【0007】
一方で、透明導電膜の成膜後において特定の熱処理を行なうことにより、透明導電膜のシート抵抗や透過率を変化させることができることが知られている。
【0008】
たとえば、特開昭63−170813号公報(特許文献1)には、透明導電膜の成膜後において、大気雰囲気中において成膜温度よりも高温の温度条件にて透明導電膜の熱処理を行なうことにより、光透過率を向上させることができることが開示されている。
【0009】
また、特開昭63−184210号公報(特許文献2)には、透明導電膜の成膜後において、窒素ガスまたは水素ガス等の還元性雰囲気中においてに熱処理を行なうことにより、シート抵抗および光透過率を向上させることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−170813号公報
【特許文献2】特開昭63−184210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示の如くの手法を採用した場合には、以下に示すような問題が別途生じてしまうことになる。
【0012】
特許文献1に開示の手法は、成膜温度よりも高温の温度条件にて透明導電膜の熱処理を行なうものであるため、極端に生産性が悪くなり、製造コストが大幅に増加してしまう問題がある。また、特許文献1には、成膜直後に比較して、熱処理後において透明導電膜の光透過率に改善が見られることについてはその記載がなされているものの、シート抵抗やヘイズ率についても改善がなされるのかあるいは維持されるかについては一切言及がなされていない。
【0013】
特許文献2に開示の手法は、還元性雰囲気中にて透明導電膜の熱処理を行なうものであるため、透明導電膜中におけるキャリア密度が増加してシート抵抗が低下することにはなるものの、当該キャリア密度の増加に伴い、光透過率が低下してしまうことが懸念される。また、還元雰囲気中で熱処理を行なうためには、水素または窒素等のガスを大量に使用することが必要になり、製造コストが大幅に増加してしまう問題も生じてしまう。
【0014】
したがって、本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた特性を有する透明導電膜を簡便な製造プロセスにて安価に製造することができる透明導電膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意研究を行なった結果、透明導電膜としてのフッ素ドープ酸化スズ膜の製造に際して、成膜後の熱処理を大気雰囲気中にて行なった場合にも、特定の条件下において当該熱処理を行なうことにより、形成される透明導電膜の光透過率およびヘイズ率が低下することなく、シート抵抗を小さくすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明に基づく透明導電膜の製造方法は、フッ素をドープした酸化スズ膜からなる透明導電膜を透明基板の被成膜面上に形成するものであって、上記被成膜面の温度が500℃以上となるように上記透明基板を加熱しつつ、上記透明導電膜の原料溶液を上記被成膜面に対して噴霧することにより、上記被成膜面上に上記透明導電膜を成膜する工程と、上記被成膜面上に成膜された上記透明導電膜を400℃以上500℃以下の大気雰囲気中において5分以上45分以下にわたって熱処理を行なう工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、上記本発明に基づく透明導電膜の製造方法にあっては、上記透明導電膜の原料溶液が、フッ素原子をスズ原子に対して22at.%以上の濃度で含有するとともに、水およびメタノールを溶媒として含有することをさらに特徴としていてもよい。
【0018】
また、上記本発明に基づく透明導電膜の製造方法にあっては、上記熱処理を行なう工程が、上記透明導電膜を成膜する工程に引き続いて行なわれ、上記透明導電膜を−20℃/分以下の温度勾配にて徐冷することで実施されることをさらに特徴としていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた特性を有する透明導電膜を簡便な製造プロセスにて安価に製造することが可能になる。すなわち、本発明に基づく透明導電膜の製造方法に従って製造された透明導電膜は、低シート抵抗でかつ高光透過率および高ヘイズ率を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における透明導電膜の製造方法において使用される製造装置の模式図である。
【図2】実施例および比較例において使用した試験用成膜装置の概念図である。
【図3】実施例1ないし3および比較例1ないし3における透明導電膜の製造条件および各種特性の測定結果を示す表である。
【図4】実施例3における透明導電膜の光透過率の分光特性を示すグラフである。
【図5】比較例3における透明導電膜の光透過率の分光特性を示すグラフである。
【図6】熱処理の時間および熱処理の温度と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験1の結果を示すグラフである。
【図7】熱処理の時間およびフッ化アンモニウムの添加量と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験2の結果を示すグラフである。
【図8】熱処理の温度およびフッ化アンモニウムの添加量と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験3の結果を示すグラフである。
【図9】熱処理の際の徐冷処理における温度勾配と透明基板の反り量との関係を検証した検証試験4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、まず、量産に適した連続式の成膜装置を利用して薄膜太陽電池の透明基板上に透明導電膜を製造するケースにおいて本発明を適用した場合を例示して説明を行ない、その後、実施例および比較例ならびに本発明を完成させるに際して実施した各種検証試験について具体的に説明を行なうこととする。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における透明導電膜の製造方法において使用される製造装置の模式図である。本発明に基づいた透明導電膜の製造方法は、典型的には、図1に示される連続式の成膜装置10を用いることで実現される。なお、本発明に基づいた透明導電膜の製造方法は、連続式の成膜装置を用いる以外にも、バッチ式等、他の形式の成膜装置を用いた場合にも実現することができる。
【0023】
図1に示すように、成膜装置10は、搬送機構11と、加熱炉12と、基板搬入部13と、加熱部14と、成膜部15と、熱処理部16と、基板搬出部17とを備えている。加熱部14、成膜部15および熱処理部16は、搬送機構11によって構成される搬送路上に上流側から下流側に向けてこの順で隣接して設けられており、これら加熱部14、成膜部15および熱処理部16に跨るように加熱炉12が配設されている。基板搬入部13は、加熱炉12の上流側に設けられており、基板搬出部17は、加熱炉12の下流側に設けられている。
【0024】
搬送機構11によって構成される搬送路上には、基板搬入部13において透明基板100が搬入されて載置される。搬送路上に載置された透明基板100は、搬送機構11によって図中に示す矢印方向に沿って搬送される。これにより、透明基板100は、上述した加熱部14、成膜部15および熱処理部16に順次投入される。熱処理部16を通過した後の透明基板100は、基板搬出部17において搬送路上から取り除かれることで搬出される。
【0025】
ここで、透明基板100に対しては、上述した加熱部14、成膜部15および熱処理部16のそれぞれにおいて所定の処理が実施され、これにより透明基板100の上面である被成膜面101上に透明導電膜が形成される。透明基板100としては、薄膜太陽電池の光電変換層における光の吸収域において光を十分に透過することができる基板であればどのようなものでも用いることができ、たとえばガラス基板、樹脂基板等が用いられ、より好適には無アルカリガラス基板が用いられる。また、透明基板100上に形成される透明導電膜は、フッ素をドープした酸化スズ膜であるFTO膜である。なお、透明導電膜の膜厚としては、好適には600nm以上1200nm以下とされる。
【0026】
本発明に基づく透明導電膜の製造方法は、被成膜面101の温度が500℃以上となるように透明基板100を加熱しつつ、透明導電膜の原料溶液を被成膜面101に対して噴霧することにより、被成膜面101上に透明導電膜を成膜する工程と、被成膜面101上に成膜された透明導電膜を400℃以上500℃以下の大気雰囲気中において5分以上45分以下にわたって熱処理を行なう工程とを備えている。このうち、前者の工程が、加熱部14および成膜部15において実施され、後者の工程が、熱処理部16において実施される。以下、これら工程について順に説明する。
【0027】
透明基板100は、加熱部14において透明導電膜の成膜温度である500℃以上にまで加熱される。より詳細には、透明基板100が、加熱部14において、内部が加熱された状態にある加熱炉12内を通過することでその被成膜面101の温度が500℃以上にまで加熱される。このような温度にまで透明基板100を加熱することにより、成膜中に透明導電膜の内部にフッ素が取り込まれても、成膜中もしくは成膜後の徐冷過程において透明導電膜の結晶性を向上させることができるため、光透過率を高めることが可能になる。
【0028】
透明基板100の加熱温度としては、上述したように500℃以上であることが必要であるが、より好ましくは、530℃以上700℃以下とする。透明基板100の加熱温度が500℃未満である場合には、噴霧された原料溶液によって成膜温度が低下してしまい透明導電膜の結晶性が低下するおそれがあり好ましくない。透明基板100の加熱温度が700℃を超えた場合には、原料溶液の液滴が透明基板100の被成膜面101に到達し難くなり、成膜レートが低下するおそれがあり好ましくない。
【0029】
本実施の形態は、透明基板100が加熱炉12を用いた対流熱伝達によって加熱されるように構成された場合を示すものであるが、透明基板100を上述した所定の温度にまで加熱することができるのであれば、他の加熱方法を採用することとしてもよい。たとえば、加熱炉12による加熱に代えて、透明基板100をホットプレート等を用いて直接伝導熱伝達によって加熱してもよいし、透明基板100を赤外ランプ等を用いて対流熱伝達によって加熱してもよい。
【0030】
透明基板100には、成膜部15において透明導電膜が成膜される。より詳細には、成膜部15には、透明基板100が搬送される搬送路に対向するように噴霧機構18が設置されており、当該噴霧機構18にて透明導電膜の原料溶液が霧化されて透明基板100の被成膜面101に向けて噴き付けられることにより、透明基板100の被成膜面101上に透明導電膜が成膜される。
【0031】
透明導電膜の原料溶液としては、四塩化スズ、二塩化スズ、ジブチルスズジアセテート、テトラブチルスズ等のスズを含む有機金属または金属ハロゲン化合物からなる材料を1種または2種以上溶媒に溶解させたものが用いられる。溶媒としては、水、有機溶剤、またはこれらの混合液が用いられる。ここで、有機溶剤としては、たとえばメタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール等が用いられる。また、透明導電膜の原料溶液は、ドーパント剤としてのフッ素化合物を含んでいる。ここで、フッ素化合物としては、フッ化水素、フッ化アンモニウム等が用いられる。
【0032】
かかる透明導電膜の原料溶液としては、上記有機金属または金属ハロゲン化合物を0.1mol/L〜0.3mol/L程度の濃度で溶媒に溶解させたものであることが一般的であるが、この濃度に限定されるものではない。なお、透明導電膜の原料溶液は、上記以外にも、界面活性剤やpH調整剤等の他の添加物をさらに含んでいてもよい。
【0033】
噴霧機構18は、透明導電膜の原料溶液とキャリアガスとを混合して噴霧する二流体スプレーノズルからなる。噴霧機構18は、原料溶液を0.1μm以上数十μm以下の平均粒子径の液滴に霧化し、これを透明基板100の被成膜面101に噴き付ける。このとき、霧化された原料溶液の液滴は、高圧のキャリアガスの気流に乗って透明基板100の被成膜面101に噴き付けられる。なお、キャリアガスとしては、圧縮空気、窒素、水素、水蒸気、酸素、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0034】
本実施の形態は、二流体スプレーノズルを用いて透明導電膜の原料溶液を霧化して透明基板100の被成膜面101に噴き付けることにより、透明基板100の被成膜面101上に透明導電膜が成膜されるように構成されたスプレー方式を採用した場合を示すものであるが、この他にも超音波振動子等を用いて透明導電膜の原料溶液を霧化してこれを透明基板100の被成膜面101に噴き付けるミスト方式を採用することとしてもよい。
【0035】
ここで、ミスト方式は、たとえば超音波振動子を用いて透明導電膜の原料溶液に超音波を印加することによりその液面から液滴を発生させるものであるが、発生した液滴自体には運動エネルギーがないため、これをキャリアガスを用いて透明基板100の被成膜面101に噴き付けるようにするものである。なお、キャリアガスとしては、上述したスプレー方式において用いられるものと同様のものが利用できる。かかるミスト方式を採用した場合には、微細でかつ比較的均一な粒子径の液滴を発生させることが可能になるため、液滴の搬送中において液滴同士が凝縮し難くなるというメリットが得られる。
【0036】
被成膜面101上に透明導電膜が成膜された透明基板100には、熱処理部16において所定の熱処理が施される。ここで、所定の熱処理とは、被成膜面101上に成膜された透明導電膜を400℃以上500℃以下の大気雰囲気中において5分以上45分以下にわたって晒す処理である。より詳細には、被成膜面101上に透明導電膜が成膜された透明基板100が、熱処理部16において、内部が所定の温度に加熱された状態にある大気が導入された加熱炉12内を通過することにより、その被成膜面101上に成膜されている透明導電膜が上記温度条件および上記時間条件のもとに晒される。
【0037】
このような熱処理を施すことにより、熱処理前(すなわち成膜直後)における透明導電膜に比較して、熱処理後における透明導電膜のシート抵抗が、その光透過率を維持したまま、またそのヘイズ率の低下が抑制されつつ、低抵抗化されることになる。したがって、当該熱処理を施すことにより、低シート抵抗でかつ高光透過率および高ヘイズ率を有する透明導電膜の製造が可能になる。
【0038】
ここで、当該熱処理部16においては、上記温度条件および時間条件を満たす範囲内であれば、透明導電膜が成膜された透明基板100を一旦所定温度にまで冷却した後に再度加熱する再加熱処理であってもよいし、透明導電膜が成膜された透明基板100を徐々に冷却する徐冷処理であってもよい。特に、徐冷処理を採用した場合には、透明導電膜を成膜する工程に引き続いて熱処理が実施されることになるため、透明導電膜の製造に要するタクトタイムを短縮化することが可能となって生産性が大幅に向上するとともに、透明基板100に反り等の変形が生じることが抑制可能となる。
【0039】
徐冷処理にて上記熱処理を実施する場合、たとえば成膜直後の透明導電膜が500℃である場合には、一例として−20℃/分の温度勾配で5分間にわたって熱処理を行なうこととすれば、熱処理後の透明導電膜の温度は400℃となり、上記温度条件および時間条件を充足することになる。また、たとえば成膜直後の透明導電膜が490℃である場合に、他の例として−2℃/分の温度勾配で45分間にわたって熱処理を行なうこととすれば、熱処理後の透明導電膜の温度は400℃となり、上記温度条件および時間条件を充足することとなる。
【0040】
以上において説明したように、本実施の形態における透明導電膜の製造方法を採用することにより、大気雰囲気中にて熱処理を行なうことで足りるため、窒素ガスまたは水素ガス等の還元性雰囲気中にて熱処理を行なう場合に比べて製造コストの削減が可能になるとともに、成膜温度以下の温度での熱処理で足りるため、成膜温度以上の熱処理を実施する場合に比べて生産性が悪化することがなく製造コストの増加を抑制することができる。
【0041】
なお、上述した透明導電膜の原料溶液としては、フッ素原子をスズ原子に対して22at.%以上の濃度で含有するとともに、水およびメタノールを溶媒として含有するものを用いることが特に好適である。このような原料溶液を用いて上述した本実施の形態における透明導電膜の製造方法に従って透明導電膜を製造することにより、熱処理後の透明導電膜のシート抵抗が、熱処理前における透明導電膜のシート抵抗に比べて大幅に低抵抗化することになり、薄膜太陽電池に用いられる透明導電膜の特性に対する要求である、シート抵抗が12Ω/□以下で、光透過率が80%以上で、ヘイズ率が7%〜15%程度であるという要求が、すべて充足されることになる。
【0042】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。図2は、後述する実施例および比較例において使用した試験用成膜装置の概念図である。以下において説明する実施例および比較例においては、成膜装置として図2に示す試験用成膜装置20を使用して透明基板100の被成膜面101上に透明導電膜を成膜し、その後に実施される熱処理については、図1において示した熱処理部16において用いられている如くの加熱炉であるマッフル炉を使用した。
【0043】
図2に示すように、試験用成膜装置20は、ホットプレート21と、スプレーノズル22と、溶液貯留部26とを主として備えている。ホットプレート21は、その載置面に載置された透明基板100を直接伝導熱伝達によって加熱するためのものであり、透明基板100を成膜温度である500℃以上にまで加熱する。溶液貯留部26は、透明導電膜の原料溶液200を貯留するための部位である。
【0044】
スプレーノズル22は、上述した二流体スプレーノズルからなり、キャリアガスが導入されるキャリアガス導入管23と、原料溶液200が導入される原料溶液導入管24とにそれぞれ接続されている。原料溶液導入管24は、上述した溶液貯留部26に接続されており、当該原料溶液導入管24には、送液ポンプ25が付設されている。送液ポンプ25は、溶液貯留部26に貯留された原料溶液200を原料溶液導入管24を介してスプレーノズル22に供給するためのものである。
【0045】
また、ホットプレート21は、図示しない駆動機構によって走査可能に構成されており、スプレーノズル22から噴霧される液滴の噴き付け方向と直交する方向に移動可能に構成されている。
【0046】
当該試験用成膜装置20においては、ホットプレート21上に透明基板100が載置され、当該透明基板100の被成膜面101の温度が所定の成膜温度に達するようにホットプレート21にて透明基板100が加熱され、さらにホットプレート21を走査しつつ、スプレーノズル22を用いて透明導電膜の原料溶液200が霧化されて透明基板100の被成膜面101に噴き付けられ、これにより透明基板100の被成膜面101上に透明導電膜が製造される。
【0047】
以下に示す実施例および比較例においては、上記試験用成膜装置20を用いて成膜された透明導電膜を一旦室温にまで冷却し、その状態において透明導電膜の膜厚、シート抵抗、光透過率、ヘイズ率についてそれぞれ測定を行ない、その後、当該透明導電膜を透明基板ごと上述したマッフル炉に投入して再加熱処理を実施することで上記所定の熱処理を施し、その後にこれを室温にまで冷却して上記の各種項目についてそれぞれ再度測定を行なった。なお、シート抵抗の測定には四端子法を用い、光透過率およびヘイズ率の測定には分光ヘイズメータを利用した。
【0048】
実施例1ないし3および比較例1ないし3においては、原料溶液200として、溶媒としての水100mLに対し、塩化スズ・5水和物およびフッ化アンモニウムの濃度がそれぞれ0.9mol/Lとなるように、これらを混合して調製し、さらにこれにpH調整剤として35%塩酸を10mL混合したものを用いた。透明基板100としては、無アルカリガラス基板を使用し、その被成膜面101の温度が530℃となるようにホットプレート21で加熱した。
【0049】
実施例1および比較例1においては、成膜時において透明基板100を搬送することなく静止させて(すなわち、透明基板100の搬送速度を0mm/秒として)透明導電膜を成膜した。実施例2および比較例2においては、成膜時において透明基板100の搬送速度を3mm/秒として透明導電膜を成膜した。実施例3および比較例3においては、成膜時において透明基板100の搬送速度を10mm/秒として透明導電膜を成膜した。
【0050】
マッフル炉を用いた熱処理の際には、マッフル炉内の温度が480℃となるように設定を行ない、透明導電膜が成膜された透明基板100が当該マッフル炉を15分かけて通過するように設定した。なお、実施例1ないし3においては、マッフル炉内の雰囲気を大気雰囲気とし、比較例1ないし3においては、マッフル炉内の雰囲気を窒素雰囲気とした。
【0051】
図3は、上述した実施例1ないし3および比較例1ないし3における透明導電膜の製造条件および各種特性の測定結果を示す表である。また、図4は、実施例3における透明導電膜の光透過率の分光特性を示すグラフであり、図5は、比較例3における透明導電膜の光透過率の分光特性を示すグラフである。
【0052】
図3に示すように、実施例1ないし3および比較例1ないし3のいずれにおいても、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜のシート抵抗が低抵抗化していることが確認された。また、実施例1ないし3および比較例1ないし3のいずれにおいても、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜のヘイズ率の低下が抑制されていることが確認された。
【0053】
一方で、実施例1ないし3においては、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜の光透過率が維持されているのに対し、比較例1ないし3においては、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜の光透過率が低下していることが確認された。これは、実施例3においては、図4に示すように、熱処理の前後において透明導電膜の光透過率の分光特性に特段の変化が見られないのに対し、比較例3においては、図5に示すように、熱処理の前後において透明導電膜の光透過率の分光特性に変化が見られる結果と合致するものである。すなわち、比較例3においては、熱処理後において、長波長域および短波長域においてそれぞれ光透過率に大きな減衰が見られる。
【0054】
以上の結果より、成膜後の熱処理を比較例1ないし3の如く還元性雰囲気中において行なうよりも、実施例1ないし3の如く大気雰囲気中において行なうことにより、透明導電膜の光透過率の低下が抑制できることが確認された。すなわち、実施例1ないし3の如く大気雰囲気中において所定の条件にて成膜後の透明導電膜の熱処理を行なうことにより、低シート抵抗でかつ高光透過率および高ヘイズ率を有する透明導電膜の製造が可能になることが確認された。
【0055】
次に、熱処理の時間および熱処理の温度と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験1について説明する。図6は、熱処理の時間および熱処理の温度と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験1の結果を示すグラフである。
【0056】
当該検証試験1は、上述した試験用成膜装置20を用いて成膜を行なうことにより、透明導電膜が成膜された透明基板をサンプルとして複数準備し、これを上述したマッフル炉を用いて異なる熱処理の時間および異なる熱処理の温度にて熱処理し、それぞれのサンプルについて熱処理後の透明導電膜のシート抵抗を測定することで行なった。
【0057】
各サンプルにおいては、原料溶液200として、溶媒としての水70mLに対し、塩化スズ・5水和物の濃度が0.9mol/Lとなり、フッ化アンモニウムの濃度が0.3mol/Lとなるように、これらを混合して調製し(すなわち、原料溶液200が、フッ素原子をスズ原子に対して33at.%の濃度で含有することとなるように調製し)、さらにこれにpH調整剤として35%塩酸を30mL混合し、加えてこれに溶媒としてのメタノールを2.5mL混合したものを用いた。透明基板100としては、無アルカリガラス基板を使用し、その被成膜面101の温度が540℃となるようにホットプレート21で加熱した。なお、これら各サンプルに対しては、成膜時において透明基板100を搬送することなく静止して透明導電膜を成膜した。
【0058】
各サンプルに対するマッフル炉における熱処理においては、大気雰囲気中にてその熱処理を行なうこととし、熱処理の時間を5分、15分、30分、45分、60分、90分に振り分けるとともに、熱処理の温度を480℃と500℃とに振り分けた。なお、上記以外の各種条件については、上述した実施例1ないし3の場合と基本的に同様である。
【0059】
図6に示すように、480℃および500℃のいずれの温度条件にて熱処理を行なった場合にも、熱処理の時間を5分以上45分以下とすることにより、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜のシート抵抗が低抵抗化することが確認された。なお、その詳細についてはここでは説明を省略するが、これら5分以上45分以下にわたって熱処理を行なった各サンプルにおける透明導電膜の熱処理後における光透過率は、いずれも81−81.5%であり、そのヘイズ率は、いずれも10−12%であった。
【0060】
以上の結果より、成膜後の熱処理の時間としては、これを5分以上45分以下とすることが、透明導電膜のシート抵抗の低抵抗化に大きく寄与するものと判断される。
【0061】
次に、熱処理の時間およびフッ化アンモニウムの添加量と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験2について説明する。図7は、熱処理の時間およびフッ化アンモニウムの添加量と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験2の結果を示すグラフである。
【0062】
当該検証試験2は、フッ化アンモニウムの添加量が異なる原料溶液を使用して上述した試験用成膜装置20を用いて成膜することにより、透明導電膜が成膜された透明基板をサンプルとして複数準備し、これを上述したマッフル炉を用いて異なる熱処理の時間にて熱処理し、それぞれのサンプルについて熱処理後の透明導電膜のシート抵抗を測定することで行なった。
【0063】
各サンプルにおいては、上述の検証試験1において使用した透明導電膜の原料溶液200におけるフッ化アンモニウムの濃度を異ならしめることとした。具体的には、フッ化アンモニウムの濃度が、それぞれ0.1mol/L、0.2mol/L、0.3mol/Lとなるように原料溶液200を調製した(すなわち、原料溶液200が、フッ素原子をスズ原子に対してそれぞれ11at.%、22at.%、33at.%の濃度で含有することとなるように調製した)。
【0064】
各サンプルに対するマッフル炉における熱処理においては、大気雰囲気中にてその熱処理を行なうこととし、また熱処理の温度を480℃とし、熱処理の時間を5分、15分、30分、60分、90分に振り分けた。なお、上記以外の各種条件については、上述の検証試験1の場合と基本的に同様である。
【0065】
図7に示すように、フッ化アンモニウムの添加量を異ならしめた場合のいずれにおいても、熱処理の時間を5分以上45分以下とすることにより、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜のシート抵抗が低抵抗化することが確認された。以上の結果より、フッ化アンモニウムの添加量に依らず、成膜後の熱処理の時間としては、これを5分以上45分以下とすることが、透明導電膜のシート抵抗の低抵抗化に大きく寄与するものと判断される。
【0066】
なお、本検証試験2においては、フッ化アンモニウムの濃度を0.1mol/Lとしたサンプルについては、熱処理後の透明導電膜のシート抵抗の最小値が13Ω/□を超えることとなったため、これでは上述した透明導電膜の要求特性を充足することができないこととなる。これに対し、フッ化アンモニウムの濃度を0.2mol/L、0.3mol/Lとしたサンプルについては、熱処理後の透明導電膜のシート抵抗の最小値がそれぞれ11Ω/□、9Ω/□を下回ることが確認された。したがって、上述した透明導電膜の要求特性を充足するためには、フッ化アンモニウムの濃度を0.2mol/L以上とする(すなわち、原料溶液200が、フッ素原子をスズ原子に対して22at.%以上の濃度で含有する)こととなるように透明導電膜の原料溶液を調製することが好ましいと判断される。
【0067】
次に、熱処理の温度およびフッ化アンモニウムの添加量と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験3について説明する。図8は、熱処理の温度およびフッ化アンモニウムの添加量と透明導電膜のシート抵抗との関係を検証した検証試験3の結果を示すグラフである。
【0068】
当該検証試験3は、フッ化アンモニウムの添加量が異なる原料溶液を使用して上述した試験用成膜装置20を用いて成膜することにより、透明導電膜が成膜された透明基板をサンプルとして複数準備し、これを上述したマッフル炉を用いて異なる熱処理の温度にて熱処理し、それぞれのサンプルについて熱処理後の透明導電膜のシート抵抗を測定することで行なった。
【0069】
各サンプルにおいては、上述の検証試験1において使用した透明導電膜の原料溶液200におけるフッ化アンモニウムの濃度を異ならしめることとした。具体的には、上述の検証試験2の場合と同様に、フッ化アンモニウムの濃度が、それぞれ0.1mol/L、0.2mol/L、0.3mol/Lとなるように原料溶液200を調製した(すなわち、原料溶液200が、フッ素原子をスズ原子に対してそれぞれ11at.%、22at.%、33at.%の濃度で含有することとなるように調製した)。
【0070】
各サンプルに対するマッフル炉における熱処理においては、大気雰囲気中にてその熱処理を行なうこととし、また熱処理の時間を15分とし、熱処理の温度を400℃、440℃、480℃、520℃に振り分けた。なお、上記以外の各種条件については、上述の検証試験1の場合と基本的に同様である。
【0071】
図8に示すように、フッ化アンモニウムの添加量を異ならしめた場合のいずれにおいても、熱処理の温度を400℃以上480℃以下の温度にて行なうことにより、熱処理後において、熱処理前に比べて透明導電膜のシート抵抗が低抵抗化することが確認された。以上の結果および上述した検証試験1の結果より、フッ化アンモニウムの添加量に依らず、成膜後の熱処理の温度としては、これを400℃以上500℃以下とすることが、透明導電膜のシート抵抗の低抵抗化に大きく寄与するものと判断される。
【0072】
なお、本検証試験3においても、フッ化アンモニウムの濃度を0.1mol/Lとしたサンプルについては、熱処理後の透明導電膜のシート抵抗の最小値が13Ω/□を超えることとなったため、これでは上述した透明導電膜の要求特性を充足することができないこととなる。これに対し、フッ化アンモニウムの濃度を0.2mol/L、0.3mol/Lとしたサンプルについては、熱処理後の透明導電膜のシート抵抗の最小値がそれぞれ11Ω/□、9Ω/□を下回ることが確認された。したがって、上述した透明導電膜の要求特性を充足するためには、フッ化アンモニウムの濃度を0.2mol/L以上とする(すなわち、原料溶液200が、フッ素原子をスズ原子に対して22at.%以上の濃度で含有する)こととなるように透明導電膜の原料溶液を調製することが好ましいと判断される。
【0073】
次に、熱処理の際の徐冷処理における温度勾配と透明基板の反り量との関係を検証した検証試験4について説明する。図9は、熱処理の際の徐冷処理における温度勾配と透明基板の反り量との関係を検証した検証試験4の結果を示すグラフである。
【0074】
当該検証試験4は、大きさが180mm□で厚さが3.9mmの白板素ガラス基板をサンプルとして複数準備し、これらをマッフル炉を用いて熱処理し、当該熱処理によってサンプルに生じた反りをそれぞれハイトゲージを用いて計測することで行なった。
【0075】
ここで、マッフル炉による加熱は、すべてのサンプルにおいてその表面の最高到達温度が570℃から580℃になるように実施するとともに、その後にマッフル炉中において行なう徐冷処理の際の、サンプルの表面の温度が530℃になるポイントの温度勾配が各サンプルにおいて異なることとなるように、徐冷処理を行なう部分のマッフル炉(すなわち、図1に示す熱処理部16)の温度および当該部分におけるサンプルの静止時間を変化させることで行なった。
【0076】
また、サンプルに生じた反りの計測に際しては、サンプルを定盤に載置し、サンプルの対角を定盤に押し付け、残る角におけるサンプルの上面の高さをハイトゲージを用いて計測し、当該高さの計測を定盤に押し付ける角を変えることで4つの角のそれぞれについて行ない、これら4つの角におけるサンプルの上面の高さとサンプルの厚みとの差分の4点平均をとることで算出した。
【0077】
図9に示すように、温度勾配を−20℃/分以下としたサンプルについては、反り量がいずれも0.1mm以下であり、温度勾配を−30°/分とした場合に比べて反り量が1/3以下に抑制できることが確認された。
【0078】
以上の結果より、成膜後の熱処理において徐冷処理を採用した場合には、当該徐冷処理における温度勾配を−20℃/分以下とすることにより、透明基板100に反り等の変形が生じることが抑制可能になると判断される。
【0079】
今回開示した上記実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0080】
10 成膜装置、11 搬送機構、12 加熱炉、13 基板搬入部、14 加熱部、15 成膜部、16 熱処理部、17 基板搬出部、18 噴霧機構、20 試験用成膜装置、21 ホットプレート、22 スプレーノズル、23 キャリアガス導入管、24 原料溶液導入管、25 送液ポンプ、26 溶液貯留部、100 透明基板、101 被成膜面、200 原料溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素をドープした酸化スズ膜からなる透明導電膜を透明基板の被成膜面上に形成する透明導電膜の製造方法であって、
前記被成膜面の温度が500℃以上となるように前記透明基板を加熱しつつ、前記透明導電膜の原料溶液を前記被成膜面に対して噴霧することにより、前記被成膜面上に前記透明導電膜を成膜する工程と、
前記被成膜面上に成膜された前記透明導電膜を400℃以上500℃以下の大気雰囲気中において5分以上45分以下にわたって熱処理を行なう工程とを備えた、透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記透明導電膜の原料溶液が、フッ素原子をスズ原子に対して22at.%以上の濃度で含有するとともに、水およびメタノールを溶媒として含有する、請求項1に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理を行なう工程が、前記透明導電膜を成膜する工程に引き続いて行なわれ、前記透明導電膜を−20℃/分以下の温度勾配にて徐冷することで実施される、請求項1または2に記載の透明導電膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate