説明

透明導電膜付基材、及び、有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】強度の高い透明導電膜付基材及び電気的信頼性のある有機EL素子を提供する。
【解決手段】透明導電膜付基材は、透明基材1の表面に、加水分解性シラン化合物の縮合物及びバインダ樹脂を含み、前記バインダ樹脂に対する前記加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量が5〜30質量%である樹脂マトリクス3と、金属ナノワイヤ2とから形成される透明導電層4が、塗布により形成されている。加水分解性シラン化合物は、SiR(Rは加水分解性官能基)であることが好ましい。有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記の透明導電膜付基材を含むものである。無機のネットワークが形成され、透明導電膜の強度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜付基材、及び、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜付基材として、金属ナノワイヤとバインダ樹脂とからなる導電膜を透明基材の表面に形成したものが知られている。例えば、特許文献1には、銀ナノワイヤを含む樹脂を基材の上に塗布・乾燥し、透明導電性塗膜を形成したものが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−505358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の塗布型の透明導電膜付基材においては、金属ナノワイヤを含有する透明導電膜の強度が低いという問題があった。
【0005】
例えば、透明導電膜付基材を有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)に用いる場合、有機EL素子の作製においては、透明導電膜により構成される透明電極の表面に有機層を塗布して積層させることが多い。しかしながら、有機層が水系の場合、透明導電膜の強度が弱いと、透明電極と有機層が交じり合ったり、透明電極の樹脂が傷ついたりする可能性がある。また、有機EL素子の作製には、透明導電膜の洗浄、透明電極のパターニング等、透明導電膜に負荷のかかる工程が多い。透明導電膜の強度を高めるためにオーバーコートを設けることが考えられるが、一般的にオーバーコート層の導電率は低いため、オーバーコート層を設けた透明導電膜付基材の表面抵抗値が著しく低下してしまうという問題が生じる。特に、有機EL素子の場合においては、透明電極である透明導電膜の表面にオーバーコート層を設けると、オーバーコート層の導電率が低いため、有機層との電気的接続に障害が発生するおそれがある。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、強度の高い透明導電膜付基材及び電気的信頼性のある有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る透明導電膜付基材は、透明基材の表面に、加水分解性シラン化合物の縮合物及びバインダ樹脂を含み、前記バインダ樹脂に対する前記加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量が5〜30質量%である樹脂マトリクスと、金属ナノワイヤとから形成される透明導電層が、塗布により形成されているものである。
【0008】
上記の透明導電膜付基材にあっては、前記加水分解性シラン化合物は、SiR(Rは加水分解性官能基)であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の透明導電膜付基材を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂マトリクス中に強度の高い無機のネットワークが形成されていることにより、表面抵抗値を低下させることなく透明導電膜の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】透明導電膜付基材の実施の形態の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、透明導電膜付基材の形態の一例である。この透明導電膜付基材は、透明基材1の表面に、加水分解性シラン化合物の縮合物及びバインダ樹脂を含む樹脂マトリクス3と、金属ナノワイヤ2とから形成される透明導電層4が、塗布により形成されている。
【0013】
透明基板1としては、その形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。透明基材1の形状としては、例えば平板状、シート状、フィルム状などが挙げられ、また構造としては、例えば単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、適宜選択することができる。
【0014】
透明基材1の材料については、特に制限はなく、無機材料及び有機材料のいずれであっても好適に用いることができる。透明基材1を形成する無機材料としては、例えば、ガラス、石英、シリコンなどが挙げられる。また有機材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
金属ナノワイヤ2は、金属がナノレベルの微細なワイヤ状となったものである。金属ナオワイヤ2を用いることにより、金属ナノワイヤ2の接触部分で金属同士の接点を設けることができ、少ない配合量で高導電性を達成することが可能となる。
【0016】
金属ナノワイヤ2の平均直径は、透明性の観点から200nm以下であることが好ましく、導電性の観点から10nm以上であることが好ましい。平均直径が200nm以下であれば光散乱の影響を軽減でき、平均直径がより小さい方が光透過率低下やヘイズ劣化を抑制することができるため好ましい。一方、平均直径が10nm以上であれば導電体としての機能を有意に発現でき、平均直径がより大きい方が導電性を向上するため好ましい。従って、より好ましくは20〜150nmであり、40〜150nmであることがさらに好ましい。
【0017】
金属ナノワイヤ2の平均長さは、導電性の観点から1μm以上であることが好ましく、凝集による透明性への影響から100μm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜50μmであり、3〜50μmであることがさらに好ましい。
【0018】
金属ナノワイヤ2の平均直径及び平均長さは、SEMやTEMを用いて十分な数のナノワイヤについて電子顕微鏡写真を撮影し、個々の金属ナノワイヤ像の計測値の算術平均から求めることができる。金属ナノワイヤ2の長さは、本来直線状に伸ばした状態で求めるべきであるが、現実には屈曲している場合が多いため、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いて金属ナノワイヤの投影径及び投影面積を算出し、円柱体を仮定して算出する(長さ=投影面積/投影径)ものとする。計測対象の金属ナノワイヤ数は、少なくとも100個以上が好ましく、300個以上の金属ナノワイヤ2を計測するのが更に好ましい。
【0019】
金属ナノワイヤ2の製造手段には特に制限は無く、例えば、液相法や気相法などの公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限は無く、公知の製造方法を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法として、Adv.Mater.2002,14,P833〜837や、Chem.Mater.2002,14,P4736〜4745等を挙げることができる。また、Auナノワイヤの製造方法として、特開2006−233252号公報等を、Cuナノワイヤの製造方法として、特開2002−266007号公報等を、Coナノワイヤの製造方法として、特開2004−149871号公報等を挙げることができる。特に、上記のAdv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にかつ大量にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、金属ナノワイヤ2の製造方法として好ましく適用することができる。
【0020】
樹脂マトリクス3は、バインダ樹脂を含むものであり、好ましくは、重合性又は架橋性の有機樹脂により構成されるバインダ樹脂を含んでいる。樹脂マトリクス3を構成するための樹脂成分に重合や架橋によりマトリクスを形成する有機樹脂バインダが用いられることにより、透明導電膜の強度が向上する。透明な導電膜を形成するためには、バインダ樹脂はバインダ透明樹脂であることが好ましい。
【0021】
バインダ樹脂としては、例えば、付加重合型樹脂、ラジカル重合型樹脂、縮重合型樹脂、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂などを用いることができる。
【0022】
具体的には、付加重合型樹脂、ラジカル重合型樹脂及び縮重合型樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びその部分又は全部ケン化物、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のアクリロニトリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−メタクル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル重合体、ポリメタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル重合体、それらの共重合体や他の共重合成分を加えた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂等が挙げられる。
【0023】
このうちバインダ樹脂として、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロース等のセルロース樹脂を用いることが好ましい。セルロース樹脂は接着性を有しており、透明基材1に対し強力に接着する透明導電層4を形成することができる。また、セルロース樹脂は水系のため金属ナノワイヤ2の分散液と親和性が高い。また、セルロース樹脂は水酸基を有しており加水分解性シラン化合物と反応して強固な複合マトリクスを形成し得る。また、セルロース樹脂は温和な条件で塗布・乾燥することができる。
【0024】
熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を使用することができ、これらの熱硬化性樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤を加えて使用することもできる。
【0025】
電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー、及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものを使用することができる。さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂とするには、この中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類などを例示することができる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、チオキサントンなどを例示することができる。
【0026】
樹脂マトリクス3を形成するバインダ樹脂成分としては、上記した付加重合性の樹脂、ラジカル重合性の樹脂、縮重合性の樹脂、熱硬化型の樹脂、電離放射線硬化型の樹脂、から選ばれる2種類以上のものを併用してもよい。
【0027】
樹脂マトリクス3は加水分解性シラン化合物の縮合物を含有している。加水分解性シラン化合物は、加水分解によりシロキサン結合を形成する珪素化合物である。加水分解性シラン化合物としては、下記の一般式(I)で表されるものを用いることができる。
【0028】
SiY4−n (I)
ここで、Xは炭素数1〜9の置換又は非置換の一価の炭化水素基を示し、Yは加水分解性官能基を示し、nは0〜2の整数(0、1又は2)を示す。
【0029】
一般式(I)においてXを構成する炭素数1〜9の置換又は非置換の一価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基などのアラルキル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル元のようなハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基等の置換炭化水素基などを例示することができる。これらの中でも、合成の容易さ、あるいは入手の容易さから炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基が好ましい。
【0030】
一般式(I)においてYを構成する加水分解性官能基としては、アルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基(−O−N=C−R(R’))、エノキシ基(−O−C(R)=C(R’)R”)、アミノ基、アミノキシ基(−O−N(R)R’)、アミド基(−N(R)−C(=O)−R’)(これらの基において、R、R’、R”は、例えば、それぞれ独立に水素原子又は一価の炭化水素基等である)等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さからアルコキシ基が好ましい。
【0031】
一般式(I)の加水分解性シラン化合物としては、例えば、一般式(I)中のnが0〜2の整数である、ジ−、トリ−、テトラ−の各官能性のアルコキシシラン類、アセトキシシラン類、オキシムシラン類、エノキシシラン類、アミノシラン類、アミノキシシラン類、アミドシラン類等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さからアルコキシシラン類が好ましい。
【0032】
一般式(I)において、n=1のオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0033】
また、n=2のジオルガノジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等を例示することができる。
【0034】
そして、一般式(I)の加水分解性シラン化合物としては、n=0でありY=Rである下記の加水分解性シラン化合物が好ましい。
【0035】
SiR
ここで、Rは加水分解性官能基である。
【0036】
このような4官能(n=0)のシラン化合物を用いると、ネットワーク密度が高まり強固な導電膜を形成することがさらに可能になる。
【0037】
特に、上式のRがアルコキシル基であることが好ましく、このようなn=0のテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等を例示することができる。
【0038】
なお、本明細書においては、加水分解性シラン化合物は、上記の加水分解性シラン化合物を比較的少ない数で縮合させた部分加水分解物(オリゴマー)であってもよい。例えば、加水分解性シラン化合物の2〜10量体などが挙げられる。このような加水分解性シラン化合物オリゴマーも加水分解性能を有しており、加水分解反応により縮合物を形成することができる。
【0039】
加水分解性シラン化合物は、ゾル−ゲル系材料であってよい。ゾル−ゲル系材料であることによって、ポリシロキサン構造を容易に形成することができる。
【0040】
また、加水分解性シラン化合物の縮合物は、その部分加水分解縮合物であってよい。すなわち、全ての加水分解性官能基が加水分解反応(縮合反応)に用いられてなくてよい。
【0041】
金属ナノワイヤ2と樹脂マトリクス3とから構成される透明導電層4を形成するには、金属ナノワイヤ2が樹脂溶液に分散された分散溶液を用いる。樹脂溶液は、バインダ樹脂と加水分解性シラン化合物(又はその部分加水分解物)とが、溶媒などにおいて混合されたものである。溶媒としては、水や、アルコールなどの有機溶剤を用いることができる。水と有機溶剤の混合溶媒を用いてもよい。特に金属ナノワイヤ2を分散させるためには水系の溶媒を用いることが好ましい。そして、樹脂溶液に金属ナノワイヤ2を配合して混合することにより、金属ナノワイヤ2が分散された分散溶液を調製することができる。
【0042】
バインダ樹脂成分、及び、加水分解性シラン化合物(又はその部分加水分解物)の配合比としては、バインダ樹脂成分を100質量部としたときに、加水分解性シラン化合物(又はその部分加水分解物)を5〜30質量部となるように配合する。すなわち、樹脂マトリクス3においては、バインダ樹脂に対する加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量が5〜30質量%である。バインダ樹脂に対する加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量が5質量%以上になることにより、透明導電層4にさらに十分な強度を与えることができる。また、バインダ樹脂に対する加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量が30質量%以下になることにより、金属ナノワイヤ2の凝集が起こって導電率や透過率の低下が生じることを十分に防ぐことができる。
【0043】
樹脂溶液への金属ナノワイヤ2の配合量は、透明導電層4を形成した際に、透明導電層4中に金属ナノワイヤ2が0.1〜90質量%含有されるように、マトリクス形成用樹脂成分に対する配合量を調整して設定するのが好ましい。透明導電層4中の金属ナノワイヤ2の含有量が0.1質量%以上になることにより導電性を確実に付与することが可能となる。一方、金属ナノワイヤ2の含有量が90質量%以下になることにより、透明導電層4を形成する樹脂マトリクス3で金属ナノワイヤ2を十分に保持することができる。これらの観点から、透明導電層4中の金属ナノワイヤ2の含有量は、特に、30〜80質量%含有されるようにするのが好ましい。
【0044】
透明基材1の表面に透明導電層4を形成するにあたっては、上記の金属ナノワイヤ2を配合した樹脂溶液を塗布して乾燥・硬化させる。硬化する際、光硬化性のポリマーを使用した場合には光を照射したり、熱硬化性のポリマーを使用した場合には加熱したりすることができる。これにより、図1のような透明導電層4を形成した透明導電膜付基材を作製することができる。このとき、樹脂マトリクス3中には、バインダ樹脂による有機マトリクスと、加水分解性シラン化合物による無機マトリクスとが複雑に絡み合った混合マトリクスが形成されている。
【0045】
一般に、金属ナノワイヤ2を用いた塗布型の透明導電層4においては、金属ナノワイヤ2が水系で合成されるため、バインダ樹脂として水溶性の樹脂が用いられている。そして、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系といった強度の高い熱硬化性の樹脂は水に不溶であることが多く、一般的には、強度の低い熱可塑性樹脂が用いられている。したがって、金属ナノワイヤ2を用いた、従来型の塗布型の透明導電層4は強度が低いものであった。しかしながら、上記のような透明導電層4においては、樹脂マトリクス3中に加水分解性シラン化合物の縮合物を含むことで、有機のネットワークとともに、有機のネットワークに比べて非常に強度の高い無機のネットワークが形成される。そのため、透明導電層4の強度が高くなり、オーバーコート層などを設けなくてもよく、表面抵抗値を低下させることなく強度を向上させることができるものである。
【0046】
樹脂溶液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスト法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法などが挙げられる。また透明導電層4の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01〜100μm程度の範囲が好ましい。
【0047】
透明基材1の表面に形成される透明導電層4は、含有される金属ナノワイヤ2によって高い電気伝導性を有する。透明導電層4の表面抵抗値は、1.0×10Ω/□以下が好ましく、1.0〜10Ω/□の範囲がより好ましい。この表面抵抗値は、例えば四端子法により測定することができる。また透明導電層4は可視光領域(400nm〜800nm)での透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。この透過率は、例えば、分光光度計((株)日立ハイテクフィールデング製「U−4100」)や、紫外可視分光計(日本分光株式会社製「V−560」)などにより測定することができる。
【0048】
透明導電層4内において金属ナノワイヤ2は、均一に分散されて配置していてもよいし、偏在して配置していてもよい。図1では、金属ナノワイヤ2が透明導電層4の表面側に偏在した形態が図示されている。また、金属ナノワイヤ2の一部が、透明導電層4の表面に露出していたり、透明導電層4の表面から突出していたりしてもよい。金属ナノワイヤ2が表面側に配置されることにより導電性がさらに高められる。
【0049】
上記のように形成される透明導電膜付基材は、可視光領域において高い透明性を有すると共に、表面抵抗が小さく、導電性に優れているので、配線材料、電極材料、導電性フィルムなどに好適であり、例えば、有機EL素子、光学フィルタ、配線材料、電極材料、電磁波遮蔽膜、光センサ、記録材料、などに適用することができる。
【0050】
このうち特に、透明導電膜付基材を透明電極付き基材として用いて有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を形成することが好ましい。有機EL素子の作製においては、透明導電膜により構成される透明電極の表面に有機層を塗布して積層させることが多いが、有機層が水系の場合、透明導電膜の強度が弱いと、透明電極と有機層が交じり合ったり、透明電極の樹脂が傷ついたりする可能性がある。また、透明導電膜の洗浄、透明電極のパターニング等、透明導電膜に負荷のかかる工程が多い。しかしながら、上記の透明導電膜付基材によれば、強度が高いので、有機EL素子の作製の際に傷ついたりすることを抑制することができ、有機EL素子の電気的信頼性を向上することができるものである。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
金属ナノワイヤ2として銀ナノワイヤを用いた。この銀ナノワイヤは、公知論文「Materials Chemistry and Physics vol.114 p333-338 “Preparation of Ag nanorodswith high yield by polyol process”」に準じて作成したものである。この銀ナノワイヤは、平均直径が150nmであり、平均長さが5μmであった。
【0052】
メチルセルロース(シグマアルドリッチ社製、M7140)3質量部を水に溶解してメチルセルロース溶液200質量部を調製した。また、水を分散媒として、固形分3.0質量%で銀ナノワイヤを分散した分散液を調製した。そして、前記のメチルセルロース溶液に、この銀ナノワイヤの分散液を100質量部加えてよく混合した。これを溶液(A)とした。
【0053】
また、1.5質量部のIPA(イソプロパノール)、1.2質量部のメチルシリケート(三菱化学社製、MKCシリケート51、酸化物換算質量51%)、及び、0.3質量部の0.1mol/lの塩酸、からなる混合溶液を10分間攪拌し調製した。この混合溶液3.0質量部と前記の溶液(A)300質量部とを混合して、コーティング剤組成物(銀ナノワイヤ含有樹脂溶液)を調製した。
【0054】
次に、得られたコーティング剤組成物をガラス基材(BK7、100×100×0.7mm)の表面に、膜厚が100nmになるようにスピンコーターによって塗布し、常温(23℃)で3分間乾燥した後、120℃で5分間加熱して乾燥した。これにより透明導電膜付基材を得た。
【0055】
なお、この場合、加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量については、添加されたアルコキシシランのうち、最終的に反応して樹脂マトリクス内に残るのは酸化物であるシリカ(SiO)と考えて算出される。すなわち、実施例1のメチルシリケートでは、酸化物換算質量が51%であるので、このメチルシリケートが完全に反応したとして、メチルシリケートの51質量%がシリカ化合物になるという計算となる。よって、表1のように、バインダー樹脂に対するシリカ化合物含有量は20質量%となる。加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量については、他の実施例及び比較例においても、同様に計算される。
【0056】
(実施例2)
1.5質量部のIPA(イソプロパノール)、2.2質量部のエチルシリケート(コルコート社製、エチルシリケート28、酸化物換算質量28%)、0.3質量部の0.1mol/lの塩酸、からなる混合溶液を10分間攪拌し調製した。この混合溶液4.0質量部と前記の溶液(A)300質量部とを混合して、コーティング剤組成物(銀ナノワイヤ含有樹脂溶液)を調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、透明導電膜付基材を得た。
【0057】
(比較例1)
コーティング剤組成物として、実施例1に記載の溶液(A)を用い、実施例1と同様の方法で、このコーティング剤組成物をガラス基材に塗布し、乾燥した。これにより、透明導電膜付基材を得た。
【0058】
(比較例2)
1.5質量部のIPA、0.18質量部のメチルシリケート(三菱化学社製、MKCシリケート51)、及び、0.3質量部の0.1mol/lの塩酸、からなる混合溶液を調製した。この混合溶液1.98質量部と、実施例1に記載の溶液(A)300質量部とを混合して、コーティング剤組成物を調製した。このコーティング剤組成物を、実施例1と同様の方法で、ガラス基材に塗布し、乾燥した。これにより、透明導電膜付基材を得た。
【0059】
(比較例3)
1.5質量部のIPA、2.4質量部のメチルシリケート(三菱化学社製、MKCシリケート51)、及び、0.3質量部の0.1mol/lの塩酸、からなる混合溶液を調製した。この混合溶液4.2質量部と、実施例1に記載の溶液(A)300質量部とを混合して、コーティング剤組成物を調製した。このコーティング剤組成物を、実施例1と同様の方法で、ガラス基材に塗布し、乾燥した。これにより、透明導電膜付基材を得た。
【0060】
(透過率の測定)
分光光度計((株)日立ハイテクフィールデング製「U−4100」)を用いて測定した。
【0061】
(表面抵抗値の測定)
表面抵抗値測定器(三菱化学(株)製「ハイレスタIP MCP−HT260」)を用いて測定した。
【0062】
(耐摩耗性の測定)
スチールウール#0000で硬化被膜を擦り、発生する傷の発生レベルで機械的強度を次のように判定した。
【0063】
A:傷が発生しない
B:傷が僅かに発生する
C:傷が発生する
D:傷が多数発生する
E:膜が剥離する。
【0064】
(結果)
結果を表1に示す。加水分解性シラン化合物を含有していない比較例1では、耐摩耗性が劣っていた。また、加水分解性シラン化合物の含有量が少ない比較例2では、耐摩耗性が若干向上するものの、実施例1ほどの効果は得られなかった。また、加水分解性シラン化合物の含有量が多い比較例3では、耐摩耗性は向上したが、表面抵抗値および透過率が悪化した。これに対し、実施例1、2では、表面抵抗値、透過率、耐摩耗性がすべて良好であった。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1 透明基材
2 金属ナノワイヤ
3 樹脂マトリクス
4 透明導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の表面に、加水分解性シラン化合物の縮合物及びバインダ樹脂を含み、前記バインダ樹脂に対する前記加水分解性シラン化合物の縮合物の含有量が5〜30質量%である樹脂マトリクスと、金属ナノワイヤとから形成される透明導電層が、塗布により形成されている、透明導電膜付基材。
【請求項2】
前記加水分解性シラン化合物は、SiR(Rは加水分解性官能基)である、請求項1に記載の透明導電膜付基材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の透明導電膜付基材を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−185933(P2012−185933A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46676(P2011−46676)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】