説明

透明導電膜及びその製造方法

【課題】膜厚が薄く、低抵抗率及び高透過率を有する透明導電膜を提供する。
【解決手段】基板上に設けられる、酸化インジウム錫膜からなる透明導電膜であって、膜厚が8〜20nmの範囲であり、X線回折法における(222)面のピーク強度Iと(400)面のピーク強度Iとの比I/Iが0.1〜1.0の範囲であり、抵抗率が1.5×10−4Ωcm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜及びその製造方法に係り、特に、膜厚が薄い場合において抵抗率が小さく、且つ光の透過率が高い透明導電膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、電子手帳等の携帯端末(PDA、Personal Digital Assistant)、ゲーム機、カーナビゲーション、パーソナルコンピュータ、券売機、銀行の端末等の電子表示機器分野において、その表示装置やセンサーの電極には、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、等に他の元素を添加した酸化物により形成される透明導電膜や、銅やその合金等により形成される金属膜が用いられている。特に透明導電膜は、電子表示機器の表示装置に設置されるタッチパネルの構成要素であることから、その需要が高まっている。
【0003】
透明導電膜の中でも、インジウム(In)−錫(Sn)の酸化物(ITO,Indium Tin Oxide)による透明導電膜は、抵抗値が比較的低く、可視領域での光の透過率が高く、且つエッチングが容易であることから、多くの電子表示機器に使用されている。
【0004】
そして、上述の電子表示機器分野においては、特に透明導電膜の電気的特性の向上が求められている。つまり、その表示装置に使用される液晶パネルの高精細化に伴い、画素ピッチの縮小に対応して透明導電膜の低抵抗化が必要となってきており、具体的には、抵抗率が1×10−4〜1×10−5Ωcm程度の透明導電膜が求められている。
【0005】
特許文献1には、フォロカソード型イオンプレーティングにより、(222)面のピーク強度Iと、(400)面のピーク強度Iの比I/Iが6〜100の範囲であり、抵抗率が0.8×10−4〜3.5×10−4Ωcmの範囲であり、移動度が30〜50cm/Vsecの範囲であり、波長550nmの光の透過率が80〜100%の範囲であるITO膜が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、カソード上のターゲット表面平行磁界強度を6000e以上に保持し、そのターゲットに直流電界と高周波電界を重畳して印加し、250V以下のスパッタ電圧でスパッタすることにより、透明導電膜を製造する技術が提案されており、この技術により抵抗率が1.25×10−4〜1.9×10−4ΩcmのITO膜が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3831433号公報
【特許文献2】特許第2936276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、ITO膜等の透明導電膜において、低抵抗化と同時に薄膜化、すなわち膜厚を薄くすることもまた重要な因子とされている。しかし、透明導電膜を含む薄膜分野では、薄膜の膜厚が薄い程抵抗値が高く、熱、湿度、及び薬液への耐久性が低いという問題点がある。一般に成膜とは、基板上に薄膜材料の分子を積んでいく工程であるが、基板との格子間隔の不整合等により、成膜初期段階から材料固有の結晶格子を形成することは難しい。したがって、ある程度の分子層を積み上げた後、すなわち膜厚が厚くなった後に、固有の結晶構造を呈し、電導度が高くなるという、薄膜成膜の基本的な課題ともいえる。特に透明導電膜は、金属薄膜と比較して膜厚に対する導電度の依存性が大きく、膜厚が薄いと、抵抗値が極端に大きくなる。したがって、透明導電膜は、その膜厚を少なくとも数十nm程度まで厚くし、安定した物性を維持できる膜厚で使用される。
【0009】
また、透明導電膜の中でも、特にITO薄膜は、その光学的特性に関し、400nm以下の波長領域において光の吸収が大きく、それに伴い、淡い茶色の透過色を呈するため、透明性が低下するという問題点がある。さらに、光の吸収に加えて、光の干渉による着色(干渉色)が起こるという問題点もある。これらの呈色や着色は膜厚が厚くなるほど著しくなるため、透過率が低下し、透明性がさらに損なわれることとなる。
【0010】
すなわち、透明導電膜はその厚さが数十nm程度又はそれ以上の厚さである時、抵抗値が小さくなり、その値が安定するが、膜厚の増加に伴い、薄膜における光の吸収が大きくなり、透過率が低下する。一方、膜厚が薄くなるほど光の吸収が小さく、透過率が向上するが、抵抗値が増大し、さらにその抵抗値が安定して一定にならない。したがって、透明導電膜の膜厚が薄い場合、その用途が限定されるという問題点がある。
【0011】
この点に関して、特許文献1では、抵抗率が0.8×10−4〜3.5×10−4Ωcmの範囲であり、波長550nmの光の透過率が80〜100%の範囲であるITO膜が開示されているが、その膜厚は150nm程度であり、膜厚が150nmよりも薄いITO膜(特に膜厚が20nm以下のITO膜)の電気的特性及び光学的特性は示されていない。また、特許文献2においては、抵抗率が1.25×10−4〜1.9×10−4ΩcmのITO膜が開示されているが、その膜厚及び光学的特性に関しては記載されていない。
【0012】
本発明の目的は、膜厚が薄い場合であっても、低抵抗率を維持することが可能であり、且つ光の透過率が高い透明導電膜を提供することにある。また、本発明の他の目的は、膜厚が薄い場合であっても、低抵抗率及び高透過率を維持する透明導電膜の製造方法であって、再現性の高い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、本発明の透明導電膜によれば、基板上に設けられる酸化インジウム錫(ITO)膜からなる透明導電膜であって、膜厚が8〜20nmの範囲であり、X線回折法における(222)面のピーク強度Iと(400)面のピーク強度Iとの比I/Iが0.1〜1.0の範囲であり、抵抗率が1.5×10−4Ωcm以下であること、により解決される。
【0014】
このように、透明導電膜の膜厚が8〜20nmの範囲であり、膜厚が薄い場合、干渉色により透明性が低下するといった影響を受けることがない。また、膜厚が薄い場合であっても、X線回折法における(400)面に由来する回折ピーク強度が強いため、その抵抗率は低く、具体的には1.5×10−4Ωcm以下であり、良好な電気的特性を有する。したがって、従来技術による透明導電膜の光学的特性と電気的特性を大幅に改良した透明導電膜とすることができる。
【0015】
このとき、請求項2のように、350〜700nmの範囲の波長の光に対する透過率が、85%以上であると好適である。
このように本発明の透明導電膜は、可視光領域の全域を含む広い波長範囲において、高い透過率を有する。特に、波長が短い範囲の光に対しても従来技術と比較して高い透過率を有する。したがって、従来技術では透過性が低い波長範囲の光も充分に透過させることができるため、波長範囲の制限をうけることなく、波長を制御する光学部材において導電性を付与した設計が可能となる。
【0016】
また、請求項3のように、前記基板として、ガラス基板又は樹脂基板を用いると好ましい。
このとき、透明導電膜の成膜時に、基板温度を少なくとも230〜250℃の範囲まで昇温することができるため、得られる透明導電膜の結晶性が向上し、その結果、抵抗率が小さい透明導電膜を得ることができる。
【0017】
また前記課題は、本発明の透明導電膜の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透明導電膜の製造方法であって、前記基板を、酸化インジウム錫(ITO)のターゲットを有するスパッタ装置内に設置し、キャリアガス中に含まれる酸素の流量が0.1〜1.0%の範囲、前記基板温度が230〜250℃の範囲、前記ターゲットの表面磁場が600〜800Gの範囲とし、DC電源に、対DC電力比が、0.5〜2.0の範囲であるRF電力を重畳して印加し、スパッタリングを行うこと、により解決される。
【0018】
このとき、通常のスパッタリング装置を用いて、抵抗率が小さい透明導電膜を得ることができる。また、ターゲットの表面磁場、キャリアガスの組成比、スパッタ時の電力を上述の範囲とすることで、再現性よく、抵抗率が小さい透明導電膜を得ることができる。
また、膜厚が薄いため、干渉色による影響が少なく、透明性の高い透明導電膜を得ることができる。さらに、得られる透明導電膜はその抵抗率が小さいため、透明性が高く、且つ抵抗率が小さい透明導電膜を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1の透明導電膜によれば、透明導電膜の膜厚が薄い場合、干渉色により透明性が低下するといった影響を受けることがなく、良好な光学的特性を有する。また、膜厚が薄い場合であっても、抵抗率が低いため、良好な電気的特性を有する。
また請求項2の発明によれば、可視光領域全域を含む幅広い波長範囲の光に対する透過率が高い。したがって、本発明の透明導電膜は、導電性を有する光学部材を設計する上で有用である。
さらにまた、請求項3の発明によれば、透明導電膜の成膜時、基板温度を高温で保持することができる。したがって、得られる透明導電膜の結晶性が向上し、導電性の良い透明導電膜を提供することができる。
さらに請求項4の透明導電膜の製造方法によれば、透明導電膜の成膜条件を適切に制御することにより、再現性よく、電気的及び光学的特性の良好な透明導電膜を得ることができる。また、膜厚が薄い場合であっても、抵抗率が低く、電気的及び光学的特性の良好な透明導電膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1a乃至4に係るXRDパターン図である。
【図2】本発明の実施例1a乃至4に係る光特性のグラフ図(リファレンス:空気)である。
【図3】本発明の実施例1a乃至4に係る光特性のグラフ図(リファレンス:ガラス)である。
【図4】本発明の実施例1a乃至5及び比較例1乃至6に係る膜厚と抵抗率の関係を示すグラフ図である。
【図5】比較例1乃至5に係るXRDパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る透明導電膜を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0022】
図1は本発明の実施例1a乃至4に係るXRDパターン図であり、図2は本発明の実施例1a乃至4に係る光特性のグラフ図(リファレンス:空気)であり、図3は本発明の実施例1a乃至4に係る光特性のグラフ図(リファレンス:ガラス)であり、図4は本発明の実施例1a乃至5及び比較例1乃至6に係る膜厚と抵抗率の関係を示すグラフ図であり、図5は比較例1乃至5に係るXRDパターン図である。
【0023】
一般に、透明導電膜の電気的特性を向上させるためには、抵抗率を小さくして電気伝導度を大きくし、導電性を高める必要がある。透明導電膜の抵抗率を小さくするためには、キャリア密度(n)を最大限に増加させ、ホール移動度(μ)を大きくすることが必要である。
【0024】
透明導電膜の中でも、ITO膜は縮退したn型の半導体特性を持つことで知られており、この薄膜の電気的特性は、主としてイオン化不純物散乱と中性不純物散乱が支配的である。キャリア密度(n)を増加させるためには、酸素欠損量とドーピング量を増大させることが必要であり、ITO膜においては、成膜中の酸素分圧の最適化による酸素空孔形成と、より多くの錫(Sn)原子をインジウム(In)サイトに置換させることにより達成される。
【0025】
一方、ITO膜の抵抗率は、成膜時の基板温度に依存し、基板温度が高いほど抵抗率の値は小さくなる。また、低温で成膜した後、200〜300℃でアニールすることにより得られる薄膜の抵抗率を小さくすることができる。このように、ホール移動度(μ)を高めるためには、成膜時の基板温度を可能な限り高くしてInの格子欠陥や、Sn及びSnOの不安定な結合状態を少なくし、結晶性を向上させる必要がある。この時、正規の格子点に入るイオンを増加させるために伝導電子の散乱が減少してキャリアが増加する。しかし、必要以上に酸素濃度を高めると酸素空孔が減少するためキャリアが減少する。
【0026】
すなわち、ホール移動度(μ)とキャリア濃度(n)と、成膜条件を検討することにより、最適な関係を見出すことが重要となる。
【0027】
一般的には、透明導電膜のスパッタ時、ターゲット表面を高磁場とすることで、カソードの電圧を低くして、得られる薄膜の抵抗率を小さくすることができる。また、DC電力にRF電力を重畳させることで、さらにカソード電圧を低くすることができ、抵抗率を小さくすることが可能となる。
【0028】
本発明の透明導電膜は、プレナーマグネトロン型のスパッタ装置を用い、ターゲット表面磁場が600〜800Gとなるようにして成膜される。より具体的には、スパッタ装置の内部に配設されたマグネットの磁力強度を高めて600〜800Gとするか、又はターゲット表面との距離を調整することにより、ターゲット表面磁場が600〜800Gとなるように制御する。
【0029】
この時、磁場強度を強くすると、スパッタリング効率を向上させることができるが、強磁場条件下においては、マグネットの材質変更によるマグネットの水分劣化が大きくなったり、強磁場が故に周囲の磁場遮蔽や取り扱い負荷が増大したりする等の問題が発生するため、略700G程度とし、過度に強磁場条件としない方が好ましい。
【0030】
透明導電膜の抵抗率は、上述のように、膜厚依存性が大きいため、各膜厚帯における最適化が必要である。抵抗率を小さくするためには、少なくともDC電力とRF電力の比、酸素量及び基板温度を適正な範囲で制御する必要があり、特に膜厚が薄い領域においては、これらの制御が重要である。以下に、DC電力とRF電力の比、酸素量及び基板温度等の成膜条件を詳細に説明する。
【0031】
DC電力にRF電力を重畳させると、ターゲット表面近傍のプラズマ密度の向上とターゲット表面でのインピーダンスの低下が起こりカソード全体の電圧低下がおこる。電圧低下により基板へ入り込むプラズマダメージが低下し、RF電力重畳での高密度プラズマにより酸素とITOの反応が促進され、結晶成長に寄与する。
【0032】
本発明の透明導電膜の製造時、そのDC電力とRF電力の比は、DC電力を1とした時、RF電力が0.5〜2.0の出力となるように、DC電力にRF電力を重畳させると好ましい。このようにDC電力とRF電力の比率を制御することにより、再現性よく同質の透明導電膜を製造することが可能となる。また、上記の比率でDC電力にRF電力を重畳させて成膜することにより、ホール移動度(μ)が高く、キャリア濃度(n)の高い透明導電膜を得ることができる。
【0033】
また、成膜時の基板温度は、200〜300℃、好ましくは230〜250℃の範囲とすることが好ましい。この時、上述のように、高温であると透明導電膜の結晶性が向上し、低抵抗化することができるが、昇温可能な温度の上限は用いる基板の耐熱性に依存し、適当な温度が選択される。
【0034】
用いられる基板の材料として、ガラス、樹脂基板等を用いることができる。樹脂基板としては、耐熱性の高い樹脂を用いることができ、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を用いることができる。
【0035】
また、基板の材料として、ガラス素材、樹脂素材を各種複合した素材でも構わない。また、基板の形状としては、表面が平滑で、形が崩れずに取り扱いができるものであれば、折り曲げが可能な薄いフィルムを用いることができるなど、特に限定はない。
【0036】
用いられるターゲットは、In,Sn,Zn,Cd−Sn,Cd−In等の金属ターゲット、又はこれら酸化物の焼結体ターゲットに、必要に応じてドナーとなる元素を添加したものが用いられる。したがって、本発明の透明導電膜は、用途により、錫を2.5〜15重量%添加したITOの他、ITOにGa,Geを添加したものとすることも可能である。
【0037】
本発明の透明導電膜を成膜する際、透明導電膜の成膜前にスパッタ装置内を排気し、減圧を行うが、装置内の圧力は1×10−4Pa程度とすることが好ましい。また、装置内の排気後に導入されるキャリアガス中の酸素量は、同時に用いられる不活性ガスに対して流量比が0.1%以上1%以下であると好ましい。特に、不活性ガスと酸素との流量比が、300:1程度(酸素量:0.33%)であると好ましい。この時、不活性ガスとしてはアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等を用いることができるが、これらの中でもArが好ましい。
【0038】
本発明の透明導電膜の性質及び製造方法に関して以下、図1〜5に基づいて説明する。
【0039】
(実施例1a:膜厚8.4nm、実施例1b:膜厚10.0nm)
十分に洗浄されたガラス基板(コーニング社製、No.1737)を、プレナーマグネトロン型スパッタ装置の基板ホルダーに保持し、装置内を1×10−4Paまで排気した後、不活性ガスとしてArと反応ガスとして酸素を300:1(酸素量:0.33%)の流量比となるように導入した。また、ターゲットとして、InにSnOを10重量%添加した焼結体(密度:99%)を用いた。その後、装置内の全圧力を0.1〜0.9Pa程度に保持し、基板温度を230℃となるように加熱した。
【0040】
この時、DC電力とRF電力の比率が1:1となるように重畳してスパッタリングし、上述の各膜厚近傍を目標値としてITO膜を成膜した。この時、磁場強度の強いマグネットに交換し、ターゲット表面磁場は略700Gであり、DC電力とRF電力はカソードに接続してあり、投入電力比率はそれぞれ自由に制御可能となるように配設されている。
【0041】
成膜後、ITO膜が成膜された基板をスパッタ装置から取り出し、得られたITO膜について、後述の各種測定を行った。
【0042】
(実施例2:膜厚20.8nm、実施例3:膜厚14.7nm、実施例4:膜厚48.5nm、実施例5:膜厚100nm)
十分に洗浄されたガラス基板(コーニング社製、No.1737)を、プレナーマグネトロン型スパッタ装置の基板ホルダーに保持し、装置内を1×10−4Paまで排気した後、不活性ガスとしてArと反応ガスとして酸素を300:1(酸素量:0.33%)の流量比となるように導入した。また、ターゲットとして、InにSnOを10重量%添加した焼結体(密度:99%)を用いた。その後、装置内の全圧力を0.1〜0.9Pa程度に保持し、基板温度を250℃となるように加熱した。
【0043】
この時、DC電力とRF電力の比率が1:1となるように重畳してスパッタリングし、上述の各膜厚近傍を目標値としてITO膜を成膜した。この時のターゲット表面磁場は略700Gであり、DC電力とRF電力はカソードに接続してあり、投入電力比率はそれぞれ自由に制御可能となるように配設されている。
【0044】
成膜後、ITO膜が成膜された基板をスパッタ装置から取り出し、得られたITO膜について、後述の各種測定を行った。また、分析条件は実施例1a及び1bと共通である。
【0045】
(比較例1:膜厚9.9nm、比較例2:14.5nm、比較例3:22.5nm、比較例4:48.2nm、比較例5:95.5nm、比較例6:膜厚205nm)
十分に洗浄されたガラス基板(コーニング社製、No.1737)を、プレナーマグネトロン型スパッタ装置の基板ホルダーに保持し、装置内を1×10−4Paまで排気した後、不活性ガスとしてArと反応ガスとして酸素を300:1の流量比となるように導入した。また、ターゲットとして、InにSnOを10重量%添加した焼結体(密度:99%)を用いた。その後、全圧力を0.1〜0.9Pa程度に保持し、基板温度を250℃となるように加熱した。
【0046】
この時、DC電力が1kWとなるようにしてスパッタリングし、上述の各膜厚近傍を目標値としてITO膜を成膜した。この時のターゲット表面磁場は略700Gである。
【0047】
成膜後、ITO膜が成膜された基板をスパッタ装置から取り出し、得られたITO膜について、後述の各種測定を行った。また、分析条件も実施例1a〜4と共通である。
【0048】
(XRD測定)
実施例1a〜4及び比較例1〜5で得られたITO膜に関し、X線回折測定を行い、結晶性を評価した。なお、X線回折測定は以下の条件で行った。実施例1a〜4に関し、得られたXRDパターン図を図1に示す。また、図5には比較例1〜5のXRDパターン図を合わせて示す。
・測定装置:Smart.Lab.RIGAKU製
・ターゲット:Cu
・光学系:集中法
・管電圧・管電流:40kV,30mA
・測定モード:ステップ・θ-2θ連動・通常
・アットネーター:Open
・測定角度:15〜70°
・入射スリット:1.5mm
・ステップ角:0.04°
・受光スリット:1.5mm
・計数時間:4°/min
・測定温度:室温
【0049】
その結果、図1において、実施例1a〜4のXRDパターン図では、2θ=30°付近に(222)面に帰属される回折ピーク、また、2θ=35°付近に(400)面に帰属される回折ピークが観測された。なお、図1は各膜厚のITO膜に関するXRDパターンを、それぞれ間隔をあけて示したものである。
【0050】
一般に、(400)面の回折ピーク強度が強いほど、そのITO膜は低抵抗化する傾向があることが知られている。従来技術によるITO膜を測定した比較例1〜5のXRDパターン図(図5)と比較して、本発明の実施例1a〜4によるITO膜のXRDパターン図(図1)では、(400)面の回折ピーク強度が強く、且つ膜厚が8nm(より具体的には8.4nm)と薄い場合であってもそのピークが観測される。
したがって、本発明によるITO膜は、低い抵抗率を有することが明確である。
【0051】
一方、図5において、従来技術による比較例1〜5のXRDパターン図では、2θ=35°付近の(400)面に帰属される回折ピークが小さく、膜厚が約50nm(より具体的には48.2nm)以上の時に観測されるようになることが明らかとなった。したがって、従来技術によるITO膜は、少なくとも50nm程度(より具体的には48.2nm)以上の膜厚を有していないと、その抵抗率が大きくなってしまうことが、XRDパターン図からも明確である。
【0052】
比較例1〜5との対比において、実施例1a〜4のように、本発明のITO膜は膜厚が十分に薄い場合であっても、低い抵抗率を保持していることが、X線回折により示された。
【0053】
また、実施例1a〜4の各ピークの詳細と、(222)面のピーク強度と(400)面のピーク強度の比を表1に示す。また、比較例1〜5の各ピークの詳細と、(222)面のピーク強度と(400)面のピーク強度の比をそれぞれ表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
その結果、実施例1a〜4では(222)面のピーク強度Iと(400)面のピーク強度Iの比、すなわちI/Iが0.1〜1.0の範囲であることが示された。一方、従来技術により成膜された比較例1〜5では、I/Iが少なくとも1より大きく、(400)面のピーク強度が弱いことが示された。上述のように、(400)面のピークが大きい時、低抵抗化する傾向があることが知られているが、(400)面のピーク強度に関し、より具体的には、I/Iが0.1〜1.0の範囲という閾値を定めることができる。
【0057】
(透過率測定)
実施例1a〜4で得られたITO膜に関し、光の透過率を測定した。透過率は日立電子製自記分光測定器(U−4100)で計測し、リファレンスを空気としたものを図2に、リファレンスをガラスとしたものを図3に示す。なお、図2及び図3中には膜厚を示したが、各膜厚は実施例1a〜4の膜厚であり、それぞれ順に8.4、10.0、14.7、20.8、48.5nmのITO膜の光の透過率を示している。
【0058】
その結果、実施例1a〜4は、リファレンスを空気とした時、可視光領域全域、すなわち波長が350nm〜700nmの範囲において、光の透過率が70%以上であることが示された。また、膜厚が8.4〜14.7nmのITO膜(実施例1a〜2)では、透過率が75%以上であることが示された。さらにリファレンスがガラスである時(図3)は、波長が350nm〜700nmの範囲において、膜厚が8.4〜14.7nmのITO膜(実施例1a〜2)は85%以上の透過率を有することが示された。
【0059】
また、紫外光領域、すなわち波長が300nm程度の短波長領域において、膜厚が8.4〜14.7nmのITO膜(実施例1a〜2)では、透過率が65%以上であることが示された。したがって、本発明のITO膜は紫外光領域における透過を必要とする分野、例えば滅菌、触媒、描画等で紫外光を必要とする分野においてもまた有用である。
【0060】
上述の測定結果より、本発明のITO膜において、その膜厚を十分に薄くすることにより、紫外光領域を含む、全波長領域の光の透過率を向上させることが可能であることが示された。これは、膜厚が厚いために生じる干渉色や薄膜の吸収による呈色が、膜厚を薄くすることにより軽減されたためである。
【0061】
(抵抗率計算)
抵抗値は三菱油化製4端針製テスタ(ロレスタAP)により測定し、膜厚はアルバック製の触針式膜厚計(DEKTAK)で測定した。得られた抵抗値R(Ω)及び膜厚d(nm)を基に、以下の式1を用いて抵抗率ρ(Ωcm)を算出した。
ρ=d×10−7×R ・・・(1)
実施例1a〜5及び従来技術による比較例1〜6のITO膜の抵抗率を図4及び表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
その結果、同程度の膜厚の時、実施例1a〜5は、従来技術による比較例1〜6と比較して、抵抗率が小さいことが示された。また、本発明の実施例において、膜厚が8.4nmという薄い場合であってもその抵抗率は小さく、1.2×10−4Ωcmであった。それ以外の膜厚でも、本発明によるITO膜は、その膜厚が同程度の従来技術による比較例1〜6と比較して、抵抗率が小さく、1.5×10−4Ωcm以下である。したがって、本願発明のITO膜は、特に膜厚が8〜20nm(より具体的には、8.4〜20.8nm)の範囲では、従来技術により成膜されたITO膜と比較して、抵抗率が小さいことが示された。
【0064】
(ホール移動度、キャリア濃度、ホール係数測定)
また、実施例1a〜4に関し、ホール移動度(μ)、キャリア濃度(n)、ホール係数を、東洋テクニカ製RESITEST8200により測定した。その結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
その結果、ホール移動度(μ)は36.4〜43.7cm/Vsの範囲、キャリア濃度(n)は1.20×1021〜1.54×1021cm−3の範囲、ホール係数4.0〜5.2cm/Cの範囲のITO膜が得られたことが示された。
【0067】
したがって、上述の各種測定より、本発明のITO膜は可視光領域全域を含む広い波長範囲、すなわち波長350〜700nmの範囲で十分な光透過率を有し、膜厚が薄い場合であっても、その抵抗率は十分に小さい値を有することが示された。
【0068】
特に膜厚が約15nm(より具体的には、14.7nm)以下の時、波長350〜700nmの範囲において光の透過率は85%以上となり、例えば、得られたITO膜を介してディスプレイを目視する場合、高い視認性を確保することができる。また、その抵抗値及び膜厚の測定により、本発明のITO膜は、膜厚が薄い場合であっても、1.5×10−4Ωcm以下の抵抗率を有し、十分に小さな抵抗率のITO膜を得ることができる。
【0069】
一般に、(400)面の回折ピーク強度が強い場合、そのITO膜が低抵抗化する傾向があることが知られているが、従来技術においては、膜厚が約50nm(より具体的には48.2nm)以上の時、(400)面の回折ピークが顕著になってくることに対し、本発明のITO膜は、膜厚が約8nm(より具体的には、8.4nm)であっても(400)面の回折ピークが観測された。したがって、本発明のITO膜は膜厚が十分に薄い場合であっても、低い抵抗率を保持していることが、抵抗率測定だけでなく、X線回折からも明らかとなった。さらにこの時、(222)面のピーク強度Iと(400)面のピーク強度Iの比が0.1〜1.0であることが示された。
【0070】
これらITO膜の形成方法としては、スパッタリング法により形成することができ、電源、磁場を含めて、基板温度、反応ガス、成膜レートの調整を行い、適当な条件を組み合わせることで膜厚が薄くても良好ITO膜を得ることが可能となる。特に電源は、DC電力を1とした時、RF電力が0.5〜2.0の出力となるように、DC電力にRF電力を重畳させるとよい。また、反応ガスは、不活性ガスに対する酸素を0.1%〜1.0%程度とし、さらに磁場に関し、ターゲットの表面磁場を600〜800Gとすると、上述のITO膜をガラス等の基板上に成膜することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明による透明導電膜は、膜厚が薄い場合であっても、抵抗率が1.5×10−4Ωcm以下という良好な電気的特性を有する。したがって、本発明の透明導電膜は、携帯電話、電子手帳等の携帯端末(PDA、Personal Digital Assistant)、ゲーム機、カーナビゲーション、パーソナルコンピュータ、券売機、銀行の端末等の電子機器分野において、特に薄い膜厚の透明導電膜が必要とされる各種センサーやディスプレイ等に有用であると期待される。
また、本発明の透明導電膜は、可視光領域、紫外光領域、近赤外光領域を含む幅広い範囲にわたって高い透過率を保持しているため、各種光学フィルター、電磁波防止、帯電防止や光電変換素子等のオプトエレクトロニクス分野における利用や応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられる酸化インジウム錫(ITO)膜からなる透明導電膜であって、
膜厚が8〜20nmの範囲であり、
X線回折法における(222)面のピーク強度Iと(400)面のピーク強度Iとの比I/Iが0.1〜1.0の範囲であり、
抵抗率が1.5×10−4Ωcm以下であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
350〜700nmの範囲の波長の光に対する透過率が、85%以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記基板として、ガラス基板又は樹脂基板を用いることを特徴とする請求項2に記載の透明導電膜。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透明導電膜の製造方法であって、
前記基板を、酸化インジウム錫(ITO)のターゲットを有するスパッタ装置内に設置し、
キャリアガス中に含まれる酸素の流量が0.1〜1.0%の範囲、
前記基板温度が230〜250℃の範囲、
前記ターゲットの表面磁場が600〜800Gの範囲とし、
DC電源に、対DC電力比が、0.5〜2.0の範囲であるRF電力を重畳して印加し、スパッタリングを行うことを特徴とする透明導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−18623(P2011−18623A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164172(P2009−164172)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】