透明導電膜及び透明導電膜付き基板
【課題】実用上十分な導電性、透過率、を有し、低屈折率であり、且つ低温で成膜可能な結晶構造のZnO系透明導電膜、及び該ZnO系透明導電膜をフィルム上に成膜した透明導電膜付き基板を提供する。
【解決手段】アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方が1から10wt%の範囲で含まれた酸化亜鉛からなり、透明基板上に形成された透明導電膜であって、透明導電膜は、可視光域における透過率が85%以上であり、波長550nmにおける屈折率が1.75〜1.80の範囲にあり、比抵抗が8.0×10−4Ω・cm以下であることを特徴とする。
【解決手段】アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方が1から10wt%の範囲で含まれた酸化亜鉛からなり、透明基板上に形成された透明導電膜であって、透明導電膜は、可視光域における透過率が85%以上であり、波長550nmにおける屈折率が1.75〜1.80の範囲にあり、比抵抗が8.0×10−4Ω・cm以下であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜及び透明導電膜付き基板に係り、特に、液晶表示素子、プラズマ発光素子等の表示装置に用いられる透明電極や太陽電池用透明電極として有用な、高導電性、高透過性を有し、低屈折率であると共に、低温域で成膜可能である透明電導膜及び透明導電膜付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は可視光域で高い透過率と高い導電性を併せもつものであり、液晶表示素子、プラズマ発光素子、EL(エレクトロ・ルミネッセンス)素子等の表示素子用透明電極や、太陽電池、TFT(薄膜トランジスタ)、その他各種受光素子の透明電極に利用されている。
従来、透明導電膜としてはガラス基板上に堆積した、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)、あるいは、錫をドーパントとして含む酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等が知られており、特に錫を添加した酸化インジウム(以下ITOと記載)は高導電性、即ち低抵抗の膜が容易に得られることから各種の機器に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ITO等の酸化インジウム系材料の場合、希少金属のインジウムが高価であること、インジウム元素が環境や人体に悪影響を与えるような毒性を有する成分を含むこと等の難点があり、近年、非インジウム系の透明導電膜材料が求められている。そして、非インジウム系の材料としては、資源として豊富に埋蔵されていて比較的に安価であり、人体にも優しい酸化亜鉛(ZnO)系材料が注目されている。
【0004】
ところで、上記のような透明導電膜の製法は、スパッタリング、蒸着等の物理蒸着法(ドライプロセス)と塗布による方法(ウェットプロセス)とに大別される。ドライプロセスの中でもスパッタリングによる成膜方法が、近年の技術進歩に伴い、装置の小型化、成膜工程の簡略化、及びそれに伴うコストダウンも可能であることから最も広く採用されており、ZnO系透明導電膜の成膜においても同様である。また、スパッタリングにおいては、300〜500℃程度の高温で成膜する方が膜の結晶性が向上して緻密になり、且つ性能も安定するというのが一般的な傾向であり、成膜時の基板温度を300℃以上に設定されることが多い。
【0005】
透明導電膜の特性としては、可視光領域での高透過性と高導電性(低比抵抗)が最も重要な指標であり、ZnO系透明導電膜についても、この二つをともに実用レベルとして充分な性能とするべく、技術開発が進められてきた。特に、透明導電膜が成膜された基板全体の透過性を考慮した場合、基板と透明導電膜の界面での反射を抑えるためには、膜の屈折率は基板(ガラスあるいはフィルム)の屈折率に近い方が有利である。しかし、これらの基板の屈折率は通常のZnO系透明導電膜の屈折率よりも低いため、ZnO系透明導電膜を低屈折率とすることも課題となっていた。
一方で、表示素子等において、軽量化、形状加工の容易さ、取り扱いの容易さから、透明基板をガラスから樹脂フィルムに置き換える動きが顕著である。しかし、基板としてフィルムを用いると、基板が堪えうる温度で成膜しなければならないため、200℃近辺以下の温度での成膜が要求される。
【0006】
上記の問題を踏まえ、何らかの工夫を加えて、比較的低温でのスパッタ法で、高透過性と高導電性を両立させるZnO系透明導電膜を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1,2,3参照)。
【0007】
特許文献1では、150℃の成膜温度で比抵抗が10−4Ω・cm台、可視光透過率が85%以上のZnO膜を実現しているが、屈折率に関しては何も言及されていない。特許文献1では、通常のマグネトロンカソードに加えて、ターゲット面に垂直でマグネトロン磁界と逆方向の磁界を加える方法が開示されているが、この方法を実現するためには、成膜装置を変更する必要があり、製造工程が複雑となる。
特許文献2では、ZnにGaを添加したターゲットを用い、基板温度200℃において比抵抗が3.5×10−4Ω・cmの酸化亜鉛系透明導電膜積層体が得られることが開示されている。しかし、酸化亜鉛系透明導電膜積層体の可視光透過率については、基板を含めて80%以上との記載があるだけで、酸化亜鉛系透明導電膜積層体の詳細な物性値は不明である。また、特許文献1と同じく、酸化亜鉛系透明導電膜積層体の屈折率については言及されていない。
特許文献3ではZnO系透明導電膜の屈折率を制御する方法を開示しており、屈折率1.61と、通常1.8〜1.9とされる屈折率と比較して顕著に低下した低屈折率膜が開示されている。しかし、当該低屈折率膜の比抵抗、透過率に関しては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−214306号公報
【特許文献2】特開2009−199986号公報
【特許文献3】特開2010−43334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
透明導電膜の実用上の基準としては、比抵抗10−4Ω・cm台以下、可視光域での透過率85%以上が高導電性、高透過率の目安である。そして、透明導電膜の屈折率に関しては、基板がガラス、あるいはフィルムを用いることが一般的であることから、1.8以下が好ましい。上述のように、導電性、透過率、屈折率のいずれかにおいて、実用上の基準を満たす透明導電膜は特許文献1,2,3において開示されているものの、特許文献1,2,3において開示された透明導電膜は、導電性、透過率、屈折率のすべてにおいて、実用上の基準を満たすものではない。そしてさらに、導電性、透過率、屈折率のすべてにおいて実用上の基準を満たし、且つ低温成膜可能な透明導電膜が望まれていた。したがって、このような透明導電膜が得られていないことから、ZnO系透明導電膜が上記の特性を有するための結晶構造がどのようなものであるかについての解明も進んでいなかった。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、実用上十分な高導電性、高透過率、を有し、且つ通常用いられる基板の屈折率に近い低屈折率を備えたZnO系透明導電膜を提供することにある。そして、本発明の他の目的は、フィルム基板に適用可能な230℃以下の低温での成膜条件において、複雑な成膜装置及び方法を用いることなく(通常のスパッタ技術の枠内で)、実用上十分な高導電性、高透過率、を有し、且つ通常用いられる基板の屈折率に近い低屈折率を備えたZnO系透明導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方が1〜10wt%の範囲で含まれた酸化亜鉛からなり、透明基板上に形成された透明導電膜であって、該透明導電膜は、可視光域における透過率が85%以上であり、波長550nmにおける屈折率が1.75〜1.80の範囲にあり、比抵抗が8.0×104Ω・cm以下であること、により解決される。
【0012】
本発明のZnO系透明導電膜は、アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方を含むターゲットを用いたスパッタリング法によって得られるものであり、導電性、透過率ともにITO膜と同等かそれ以上となっている。比抵抗は、最も大きい室温成膜の場合でも8.0×10−4Ω・cm以下であり、100〜230℃での成膜では6.0×10−4Ω・cmを下回る。この範囲の成膜温度を採用すれば、薄膜太陽電池用透明導電膜に求められるシート抵抗の大きさ、10Ω/□に対して、本発明によるZnO系透明導電膜は膜厚が600nm(nmは0.001μm)、すなわち1μm以下の膜厚で前記要求を満たすことが可能であり生産性に有利である。加えて、特に短波長側での透過率は有意に高い。また、屈折率が低いことからガラス又はフィルム基板との界面での反射が少なく、結果として透明導電膜付き基板の透過率を向上させ、表示装置用透明電極として優れた特性を有している。
【0013】
このとき、単位結晶格子のc軸方向の格子定数が5.23〜5.28Åの範囲にあり、a軸方向の格子定数が3.24〜3.26Åの範囲にあり、密度が5.55〜5.65g/cm2の範囲にあると好ましい。
本発明のZnO系透明導電膜は、a軸方向の格子定数は従来例と同等であるのに対して、c軸方向の結晶成長が進み、c軸方向の格子定数は有意に増大している。即ち、柱の高さが高くなったより明確な柱状結晶構造を呈している。その構造に対応して密度が低くなっており、空間的には空隙部が増した構造となっている。物質の屈折率は、ローレンツ・ローレンツの式に示されるように、物質を構成する原子、あるいは分子(イオン)の原子屈折の和で決まる。ここで原子屈折とは個々の原子の分極率とその原子の単位体積当たりの個数との積で表わされる。本発明によるZnO系透明導電膜は密度が低く、前記個々の原子の単位体積当たりの個数が小さい。その結果、より小さい屈折率が得られ、これが高透過率に寄与している。空隙が多いにも係わらず、通常透明導電膜として電流が流れるa軸方向の格子定数に対しては従来例と同等であることから、導電性が低下しないという、極めて特異な結晶構造が実現されており、前記の特性を実現している。
【0014】
また、キャリア濃度が1.0×1021/cm3より大きく、バンドギャップが3.93〜4.00eVの範囲にあると更に好ましい。
バンドギャップが従来技術により得られた透明導電膜のバンドギャップよりも大きく、短波長側での透過率が向上する。
【0015】
さらにまた、成膜時の前記透明基板の温度を230℃以下として、スパッタリング法により形成されると好ましい。
このように、透明導電膜を低温で成膜できることからフィルム基板への適用が可能となる。また、液晶表示装置のカラーフィルタや半導体のPN接合上に成膜する場合にも好適である。
【0016】
前記課題は、請求項4に記載の透明導電膜が形成された透明導電膜付き基板であって、
前記透明基板は、樹脂フィルムであること、により解決される。
このように、透明導電膜は230℃以下という低温で成膜可能であることから、ガラス等と比較して耐熱温度が低いフィルム状基板に対しても成膜することができる。その結果、透明導電膜を備えた透明導電性フィルム、とすることができる。透明導電膜付き基板は、フレキシブル、且つ軽量であるため、持ち運び可能な表示装置等への応用が広がる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のZnO系透明導電膜は、膜自体として実用上十分な高導電性、高透過率、を有しており、また低屈折率を備えていることから、基板界面での反射が少なくなり、電気抵抗の小さい透明導電膜付き基板を得ることができる。このように、導電性、透過率、屈折率においてすべて実用上の基準値を満たす透明導電膜を作成可能であるため、液晶表示素子、プラズマ発光素子等の表示装置用透明電極あるいは太陽電池用透明電極として用いれば、それらの性能を顕著に向上させることができる。
更に、実用上十分な高導電性、高透過率、低屈折率を備えると共に、低温で成膜可能であることから、耐熱性の低いフィルム上にもZnO系透明導電膜を成膜することができるため、透明導電性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の透明導電膜の比抵抗を示すグラフ図である。
【図2】本発明の透明導電膜の分光特性(透過率)を示すグラフ図である。
【図3】本発明の透明導電膜の屈折率を示すグラフ図である。
【図4】本発明の透明導電膜のc軸格子定数を示すグラフ図である。
【図5】本発明の透明導電膜のa軸格子定数を示すグラフ図である。
【図6】本発明の透明導電膜の密度を示すグラフ図である。
【図7】本発明の透明導電膜の単位格子の体積を示すグラフ図である。
【図8】本発明の透明導電膜のキャリア濃度を示すグラフ図である。
【図9】本発明の透明導電膜の移動度を示すグラフ図である。
【図10】本発明の透明導電膜のバンドギャップを示すグラフ図である。
【図11】本発明の透明導電膜の波長380nmにおける消衰係数を示すグラフ図である。
【図12】本発明の透明導電膜の波長400nmにおける消衰係数を示すグラフ図である。
【図13】本発明の透明導電膜を発光体基板の透明電極とした場合の透過率シミュレーションである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る透明導電膜を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0020】
図1乃至図12は本発明の二つの実施形態の透明導電膜に関して、特性および結晶構造の成膜温度による挙動を従来例との比較で示したものである。図1乃至図13は、本発明の実施形態に係る透明導電膜に関するもので、図1は比抵抗を示すグラフ図、図2は分光特性(透過率)を示すグラフ図、図3は屈折率を示すグラフ図、図4はc軸格子定数を示すグラフ図、図5はa軸格子定数を示すグラフ図、図6は密度を示すグラフ図、図7は単位格子の体積を示すグラフ図、図8はキャリア濃度を示すグラフ図、図9は移動度を示すグラフ図、図10はバンドギャップを示すグラフ図、図11は波長380nmにおける消衰係数を示すグラフ図、図12は波長400nmにおける消衰係数を示すグラフ図、図13は本発明の透明導電膜を発光体基板の透明電極とした場合の透過率シミュレーションである。
【0021】
[実施形態1]
本発明の透明導電膜は、ガラス基板上にスパッタ法により作成される。成膜条件の詳細は以下の通りである。
ガラス基板として、コーニング社製、品番1737、寸法が10cm×10cm×厚み1.1mmのものを用いた。成膜前に、超音波を加えたアルカリ洗浄、純水洗浄を行い、その後乾燥させた。
スパッタリングターゲットには、ZnOにガリウム(Ga)をGa2O3換算で5.7wt%含む、Ga添加ZnO(GZOと称される)のターゲット(AGGセラミックス社製)を用い、マグネトロンスパッタ装置によって成膜した。なお、ガリウムの含有比率はこれに限定されるものではなく、透明導電膜中に1〜10wt%の範囲で含まれていればよい。また、ガリウムでなく、アルミニウムが添加されたZnOとしてもよい。膜厚は150nmとした。
成膜前真空度が7×10−6Torrになるまでターボ分子ポンプにより排気し、ArとH2の混合ガスを1mTorr導入してスパッタリングを実施した。このときのArとH2混合比は95:5とした。
スパッタリングは、直流(DC)電源に周波数13.65MHzの高周波(RF)を重畳させた電源で行った。それぞれの電力の比は、1kW:1kWとした。成膜時の基板温度をシースヒータ出力の調整により制御し、230℃以下、すなわち、室温(約20℃)、100℃、150℃、180℃、200℃、230℃、の6条件で成膜した。得られたサンプルを、成膜時の基板温度の低い方から順に実施例(a)1〜(a)6とした。
【0022】
[実施形態2]
スパッタガスをArのみとし、他は実施形態1と同一の条件で基板温度150℃、230℃の2条件で得られたサンプルを実施例(b)1、(b)2とした。
【0023】
[比較例]
従来技術に係わる比較例として、スパッタ電源;DC、スパッタガス;Arとし、温度を、室温(約20℃)、100℃、150℃、180℃、200℃、230℃、の6条件で成膜したサンプルを比較例1〜6とした。
【0024】
実施例、及び比較例の成膜条件の一覧を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
本発明の実施形態1、2に係る実施例(a),(b)と、それに対する従来技術による比較例について、図表を参照して詳細に説明する。
図1は成膜温度(成膜時の基板温度)を横軸、比抵抗を縦軸とし、比抵抗の挙動を示している。なお、比抵抗は抵抗率計で測定した。
実施例(a),(b)(実施形態1,2)では、低温側で比抵抗が上昇する傾向はあるものの、比較例とは有意な差があり、実施例(a),(b)は比較例と比較して、比抵抗が小さくなることが示された。実施例(a)では、室温(20℃)成膜でもITO膜と同等の10−4Ω・cm台を実現している。より詳細には、比抵抗が8.0×10−4Ω・cm以下であり、表示装置等のデバイスに組み立てたとき、消費電力の少ない機器とすることができる。
図2には、150℃で成膜した実施例(a)3と比較例3のガラス基板上での分光特性の比較を示した。実施例(a)3において特に短波長側で透過率が向上していることが分かる。より詳細には、可視光域(430nm〜850nm)において、透過率が85%以下である。この領域で透過率に差があると、表示装置において、人間の視感度との関係から、透過率の差以上に明るさが顕著に感じられる。
【0027】
図3には、実施例(a),(b)及び比較例の透明導電膜に関し、分光エリプソメータにより求めた波長550nmにおける屈折率の成膜温度による挙動を示す。屈折率は成膜温度が低くなると上昇する傾向があるが、実施例(a),(b)ではその傾向が小さく、室温成膜の比較例では屈折率が1.9まで上昇するのに対して、実施例(a)では1.8以下を保っており、より詳細には、1.75〜1.80の範囲である。透明基板に用いられるガラス、フィルムの屈折率は一般的に1.5〜1.6の範囲にあるが、実施例(a)の透明導電膜は、基板の屈折率との差が小さいことで界面での反射が抑えられ、透明導電膜付き基板としての透過率を向上させることができる。
【0028】
図4、図5にはそれぞれ、X線回折装置(XRD)での測定結果から求めた、結晶のc軸、a軸の格子定数を、成膜時の基板温度を横軸にして示したグラフ図である。本発明のZnO系透明導電膜は、c軸方向に顕著に結晶が成長し、特に成膜温度の低温域で比較例との差が大きい。一方、a軸方向の格子定数は比較例と同等である。
図6に密度、図7に単位格子の体積を同様のグラフで示した。本発明のZnO系透明導電膜は、c軸方向に優先的に結晶成長する結果として、柱状で結晶内に間隙が多い構造となり、単位格子の体積は大きくなる。その結果、密度は比較例よりも小さくなる。一般に、間隙が多く密度が小さい結晶の場合、通常は導電性が低下する、即ち比抵抗が上昇すること多いが、後述のように、本発明の実施例において、比抵抗は従来技術による比較例よりも低下している。即ち、若干間隙の多い構造でありながら、導電性が向上するという、特異な結晶構造を有しているといえる。
このとき、図4、図5において示されるように、単位結晶格子のc軸方向の格子定数は5.23〜5.28Åであり、a軸方向の格子定数が3.24〜3.26Åである。そして、図6に示されるように、密度は5.55〜5.65g/cm3である。a軸及びc軸の格子定数と密度が前記の範囲にあることが、後述するように、電気的、光学的特性に寄与していると考えられる。
【0029】
図8にはキャリア濃度、図9には移動度についての比較を示した。これらはホール効果測定法により測定した。本発明の実施例(a)のキャリア濃度は、低温域で若干減少する動きはあるが、成膜温度による変化はそれほど大きくない。一方、比較例では、キャリア濃度が低温側で大きく減少している。そして、図9より、本発明の実施例(a),(b)に関し、移動度は従来例よりも若干低下していることが示されているが、図8より、キャリア濃度の向上(より詳細には、キャリア濃度が1.0×1021cm−3よりも大きい)により従来技術による比較例に優る高導電性(低比抵抗)を実現していると考えられる。
【0030】
図10には成膜時の基板温度と、分光透過率より算出した透明導電膜のバンドギャップとの関係を示した。バンドギャップにおいても特に低温域で実施例(a),(b)と比較例との差が大きく、成膜時の基板温度が200℃以下である時、比較例のバンドギャップは急激に低下するのに対して、実施例(a),(b)ではほぼ一定である。この差は、図2において実施例(a)3が短波長側で光の吸収が少なく、透過率が高くなっていることと対応している。このとき、具体的には、バンドギャップは3.93〜4.00eVである。
【0031】
図11、図12は、それぞれ波長380nm、400nmにおける、分光エリプソメータで求めた消衰係数を示すグラフ図である。比較例のデータにバラツキが見られるが、実施例(a),(b)は比較例に対して有意に小さな値であり、その差は380nmの方が顕著である。この消衰係数の差も短波長側で透過率が高いことの一因となっている。
【0032】
図13は、実施例(a)3と比較例3に関して、図2の分光特性をベースにして、有機EL素子を形成した場合を想定した透過率をシミュレーションした結果である。本シミュレーションでは、ガラス基板、ZnO系透明導電膜、有機発光層の3層を積層した構造とし、有機発光層の屈折率を1.7と設定している。実施例(a)3では、屈折率が低いことによる効果として透過率が向上しており、350〜700nmでの透過率平均では、2.6%程度、特に、350〜550nm(可視域に於ける短波長域)の透過率平均では、15.5%向上している。このことにより、表示装置(有機EL素子、液晶素子等)においては、短波長域での透過率向上に伴う青色の輝度が増加し、全体的に明るく、且つ、きれいな白色表示が可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜及び透明導電膜付き基板に係り、特に、液晶表示素子、プラズマ発光素子等の表示装置に用いられる透明電極や太陽電池用透明電極として有用な、高導電性、高透過性を有し、低屈折率であると共に、低温域で成膜可能である透明電導膜及び透明導電膜付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は可視光域で高い透過率と高い導電性を併せもつものであり、液晶表示素子、プラズマ発光素子、EL(エレクトロ・ルミネッセンス)素子等の表示素子用透明電極や、太陽電池、TFT(薄膜トランジスタ)、その他各種受光素子の透明電極に利用されている。
従来、透明導電膜としてはガラス基板上に堆積した、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)、あるいは、錫をドーパントとして含む酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等が知られており、特に錫を添加した酸化インジウム(以下ITOと記載)は高導電性、即ち低抵抗の膜が容易に得られることから各種の機器に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ITO等の酸化インジウム系材料の場合、希少金属のインジウムが高価であること、インジウム元素が環境や人体に悪影響を与えるような毒性を有する成分を含むこと等の難点があり、近年、非インジウム系の透明導電膜材料が求められている。そして、非インジウム系の材料としては、資源として豊富に埋蔵されていて比較的に安価であり、人体にも優しい酸化亜鉛(ZnO)系材料が注目されている。
【0004】
ところで、上記のような透明導電膜の製法は、スパッタリング、蒸着等の物理蒸着法(ドライプロセス)と塗布による方法(ウェットプロセス)とに大別される。ドライプロセスの中でもスパッタリングによる成膜方法が、近年の技術進歩に伴い、装置の小型化、成膜工程の簡略化、及びそれに伴うコストダウンも可能であることから最も広く採用されており、ZnO系透明導電膜の成膜においても同様である。また、スパッタリングにおいては、300〜500℃程度の高温で成膜する方が膜の結晶性が向上して緻密になり、且つ性能も安定するというのが一般的な傾向であり、成膜時の基板温度を300℃以上に設定されることが多い。
【0005】
透明導電膜の特性としては、可視光領域での高透過性と高導電性(低比抵抗)が最も重要な指標であり、ZnO系透明導電膜についても、この二つをともに実用レベルとして充分な性能とするべく、技術開発が進められてきた。特に、透明導電膜が成膜された基板全体の透過性を考慮した場合、基板と透明導電膜の界面での反射を抑えるためには、膜の屈折率は基板(ガラスあるいはフィルム)の屈折率に近い方が有利である。しかし、これらの基板の屈折率は通常のZnO系透明導電膜の屈折率よりも低いため、ZnO系透明導電膜を低屈折率とすることも課題となっていた。
一方で、表示素子等において、軽量化、形状加工の容易さ、取り扱いの容易さから、透明基板をガラスから樹脂フィルムに置き換える動きが顕著である。しかし、基板としてフィルムを用いると、基板が堪えうる温度で成膜しなければならないため、200℃近辺以下の温度での成膜が要求される。
【0006】
上記の問題を踏まえ、何らかの工夫を加えて、比較的低温でのスパッタ法で、高透過性と高導電性を両立させるZnO系透明導電膜を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1,2,3参照)。
【0007】
特許文献1では、150℃の成膜温度で比抵抗が10−4Ω・cm台、可視光透過率が85%以上のZnO膜を実現しているが、屈折率に関しては何も言及されていない。特許文献1では、通常のマグネトロンカソードに加えて、ターゲット面に垂直でマグネトロン磁界と逆方向の磁界を加える方法が開示されているが、この方法を実現するためには、成膜装置を変更する必要があり、製造工程が複雑となる。
特許文献2では、ZnにGaを添加したターゲットを用い、基板温度200℃において比抵抗が3.5×10−4Ω・cmの酸化亜鉛系透明導電膜積層体が得られることが開示されている。しかし、酸化亜鉛系透明導電膜積層体の可視光透過率については、基板を含めて80%以上との記載があるだけで、酸化亜鉛系透明導電膜積層体の詳細な物性値は不明である。また、特許文献1と同じく、酸化亜鉛系透明導電膜積層体の屈折率については言及されていない。
特許文献3ではZnO系透明導電膜の屈折率を制御する方法を開示しており、屈折率1.61と、通常1.8〜1.9とされる屈折率と比較して顕著に低下した低屈折率膜が開示されている。しかし、当該低屈折率膜の比抵抗、透過率に関しては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−214306号公報
【特許文献2】特開2009−199986号公報
【特許文献3】特開2010−43334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
透明導電膜の実用上の基準としては、比抵抗10−4Ω・cm台以下、可視光域での透過率85%以上が高導電性、高透過率の目安である。そして、透明導電膜の屈折率に関しては、基板がガラス、あるいはフィルムを用いることが一般的であることから、1.8以下が好ましい。上述のように、導電性、透過率、屈折率のいずれかにおいて、実用上の基準を満たす透明導電膜は特許文献1,2,3において開示されているものの、特許文献1,2,3において開示された透明導電膜は、導電性、透過率、屈折率のすべてにおいて、実用上の基準を満たすものではない。そしてさらに、導電性、透過率、屈折率のすべてにおいて実用上の基準を満たし、且つ低温成膜可能な透明導電膜が望まれていた。したがって、このような透明導電膜が得られていないことから、ZnO系透明導電膜が上記の特性を有するための結晶構造がどのようなものであるかについての解明も進んでいなかった。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、実用上十分な高導電性、高透過率、を有し、且つ通常用いられる基板の屈折率に近い低屈折率を備えたZnO系透明導電膜を提供することにある。そして、本発明の他の目的は、フィルム基板に適用可能な230℃以下の低温での成膜条件において、複雑な成膜装置及び方法を用いることなく(通常のスパッタ技術の枠内で)、実用上十分な高導電性、高透過率、を有し、且つ通常用いられる基板の屈折率に近い低屈折率を備えたZnO系透明導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方が1〜10wt%の範囲で含まれた酸化亜鉛からなり、透明基板上に形成された透明導電膜であって、該透明導電膜は、可視光域における透過率が85%以上であり、波長550nmにおける屈折率が1.75〜1.80の範囲にあり、比抵抗が8.0×104Ω・cm以下であること、により解決される。
【0012】
本発明のZnO系透明導電膜は、アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方を含むターゲットを用いたスパッタリング法によって得られるものであり、導電性、透過率ともにITO膜と同等かそれ以上となっている。比抵抗は、最も大きい室温成膜の場合でも8.0×10−4Ω・cm以下であり、100〜230℃での成膜では6.0×10−4Ω・cmを下回る。この範囲の成膜温度を採用すれば、薄膜太陽電池用透明導電膜に求められるシート抵抗の大きさ、10Ω/□に対して、本発明によるZnO系透明導電膜は膜厚が600nm(nmは0.001μm)、すなわち1μm以下の膜厚で前記要求を満たすことが可能であり生産性に有利である。加えて、特に短波長側での透過率は有意に高い。また、屈折率が低いことからガラス又はフィルム基板との界面での反射が少なく、結果として透明導電膜付き基板の透過率を向上させ、表示装置用透明電極として優れた特性を有している。
【0013】
このとき、単位結晶格子のc軸方向の格子定数が5.23〜5.28Åの範囲にあり、a軸方向の格子定数が3.24〜3.26Åの範囲にあり、密度が5.55〜5.65g/cm2の範囲にあると好ましい。
本発明のZnO系透明導電膜は、a軸方向の格子定数は従来例と同等であるのに対して、c軸方向の結晶成長が進み、c軸方向の格子定数は有意に増大している。即ち、柱の高さが高くなったより明確な柱状結晶構造を呈している。その構造に対応して密度が低くなっており、空間的には空隙部が増した構造となっている。物質の屈折率は、ローレンツ・ローレンツの式に示されるように、物質を構成する原子、あるいは分子(イオン)の原子屈折の和で決まる。ここで原子屈折とは個々の原子の分極率とその原子の単位体積当たりの個数との積で表わされる。本発明によるZnO系透明導電膜は密度が低く、前記個々の原子の単位体積当たりの個数が小さい。その結果、より小さい屈折率が得られ、これが高透過率に寄与している。空隙が多いにも係わらず、通常透明導電膜として電流が流れるa軸方向の格子定数に対しては従来例と同等であることから、導電性が低下しないという、極めて特異な結晶構造が実現されており、前記の特性を実現している。
【0014】
また、キャリア濃度が1.0×1021/cm3より大きく、バンドギャップが3.93〜4.00eVの範囲にあると更に好ましい。
バンドギャップが従来技術により得られた透明導電膜のバンドギャップよりも大きく、短波長側での透過率が向上する。
【0015】
さらにまた、成膜時の前記透明基板の温度を230℃以下として、スパッタリング法により形成されると好ましい。
このように、透明導電膜を低温で成膜できることからフィルム基板への適用が可能となる。また、液晶表示装置のカラーフィルタや半導体のPN接合上に成膜する場合にも好適である。
【0016】
前記課題は、請求項4に記載の透明導電膜が形成された透明導電膜付き基板であって、
前記透明基板は、樹脂フィルムであること、により解決される。
このように、透明導電膜は230℃以下という低温で成膜可能であることから、ガラス等と比較して耐熱温度が低いフィルム状基板に対しても成膜することができる。その結果、透明導電膜を備えた透明導電性フィルム、とすることができる。透明導電膜付き基板は、フレキシブル、且つ軽量であるため、持ち運び可能な表示装置等への応用が広がる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のZnO系透明導電膜は、膜自体として実用上十分な高導電性、高透過率、を有しており、また低屈折率を備えていることから、基板界面での反射が少なくなり、電気抵抗の小さい透明導電膜付き基板を得ることができる。このように、導電性、透過率、屈折率においてすべて実用上の基準値を満たす透明導電膜を作成可能であるため、液晶表示素子、プラズマ発光素子等の表示装置用透明電極あるいは太陽電池用透明電極として用いれば、それらの性能を顕著に向上させることができる。
更に、実用上十分な高導電性、高透過率、低屈折率を備えると共に、低温で成膜可能であることから、耐熱性の低いフィルム上にもZnO系透明導電膜を成膜することができるため、透明導電性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の透明導電膜の比抵抗を示すグラフ図である。
【図2】本発明の透明導電膜の分光特性(透過率)を示すグラフ図である。
【図3】本発明の透明導電膜の屈折率を示すグラフ図である。
【図4】本発明の透明導電膜のc軸格子定数を示すグラフ図である。
【図5】本発明の透明導電膜のa軸格子定数を示すグラフ図である。
【図6】本発明の透明導電膜の密度を示すグラフ図である。
【図7】本発明の透明導電膜の単位格子の体積を示すグラフ図である。
【図8】本発明の透明導電膜のキャリア濃度を示すグラフ図である。
【図9】本発明の透明導電膜の移動度を示すグラフ図である。
【図10】本発明の透明導電膜のバンドギャップを示すグラフ図である。
【図11】本発明の透明導電膜の波長380nmにおける消衰係数を示すグラフ図である。
【図12】本発明の透明導電膜の波長400nmにおける消衰係数を示すグラフ図である。
【図13】本発明の透明導電膜を発光体基板の透明電極とした場合の透過率シミュレーションである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る透明導電膜を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0020】
図1乃至図12は本発明の二つの実施形態の透明導電膜に関して、特性および結晶構造の成膜温度による挙動を従来例との比較で示したものである。図1乃至図13は、本発明の実施形態に係る透明導電膜に関するもので、図1は比抵抗を示すグラフ図、図2は分光特性(透過率)を示すグラフ図、図3は屈折率を示すグラフ図、図4はc軸格子定数を示すグラフ図、図5はa軸格子定数を示すグラフ図、図6は密度を示すグラフ図、図7は単位格子の体積を示すグラフ図、図8はキャリア濃度を示すグラフ図、図9は移動度を示すグラフ図、図10はバンドギャップを示すグラフ図、図11は波長380nmにおける消衰係数を示すグラフ図、図12は波長400nmにおける消衰係数を示すグラフ図、図13は本発明の透明導電膜を発光体基板の透明電極とした場合の透過率シミュレーションである。
【0021】
[実施形態1]
本発明の透明導電膜は、ガラス基板上にスパッタ法により作成される。成膜条件の詳細は以下の通りである。
ガラス基板として、コーニング社製、品番1737、寸法が10cm×10cm×厚み1.1mmのものを用いた。成膜前に、超音波を加えたアルカリ洗浄、純水洗浄を行い、その後乾燥させた。
スパッタリングターゲットには、ZnOにガリウム(Ga)をGa2O3換算で5.7wt%含む、Ga添加ZnO(GZOと称される)のターゲット(AGGセラミックス社製)を用い、マグネトロンスパッタ装置によって成膜した。なお、ガリウムの含有比率はこれに限定されるものではなく、透明導電膜中に1〜10wt%の範囲で含まれていればよい。また、ガリウムでなく、アルミニウムが添加されたZnOとしてもよい。膜厚は150nmとした。
成膜前真空度が7×10−6Torrになるまでターボ分子ポンプにより排気し、ArとH2の混合ガスを1mTorr導入してスパッタリングを実施した。このときのArとH2混合比は95:5とした。
スパッタリングは、直流(DC)電源に周波数13.65MHzの高周波(RF)を重畳させた電源で行った。それぞれの電力の比は、1kW:1kWとした。成膜時の基板温度をシースヒータ出力の調整により制御し、230℃以下、すなわち、室温(約20℃)、100℃、150℃、180℃、200℃、230℃、の6条件で成膜した。得られたサンプルを、成膜時の基板温度の低い方から順に実施例(a)1〜(a)6とした。
【0022】
[実施形態2]
スパッタガスをArのみとし、他は実施形態1と同一の条件で基板温度150℃、230℃の2条件で得られたサンプルを実施例(b)1、(b)2とした。
【0023】
[比較例]
従来技術に係わる比較例として、スパッタ電源;DC、スパッタガス;Arとし、温度を、室温(約20℃)、100℃、150℃、180℃、200℃、230℃、の6条件で成膜したサンプルを比較例1〜6とした。
【0024】
実施例、及び比較例の成膜条件の一覧を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
本発明の実施形態1、2に係る実施例(a),(b)と、それに対する従来技術による比較例について、図表を参照して詳細に説明する。
図1は成膜温度(成膜時の基板温度)を横軸、比抵抗を縦軸とし、比抵抗の挙動を示している。なお、比抵抗は抵抗率計で測定した。
実施例(a),(b)(実施形態1,2)では、低温側で比抵抗が上昇する傾向はあるものの、比較例とは有意な差があり、実施例(a),(b)は比較例と比較して、比抵抗が小さくなることが示された。実施例(a)では、室温(20℃)成膜でもITO膜と同等の10−4Ω・cm台を実現している。より詳細には、比抵抗が8.0×10−4Ω・cm以下であり、表示装置等のデバイスに組み立てたとき、消費電力の少ない機器とすることができる。
図2には、150℃で成膜した実施例(a)3と比較例3のガラス基板上での分光特性の比較を示した。実施例(a)3において特に短波長側で透過率が向上していることが分かる。より詳細には、可視光域(430nm〜850nm)において、透過率が85%以下である。この領域で透過率に差があると、表示装置において、人間の視感度との関係から、透過率の差以上に明るさが顕著に感じられる。
【0027】
図3には、実施例(a),(b)及び比較例の透明導電膜に関し、分光エリプソメータにより求めた波長550nmにおける屈折率の成膜温度による挙動を示す。屈折率は成膜温度が低くなると上昇する傾向があるが、実施例(a),(b)ではその傾向が小さく、室温成膜の比較例では屈折率が1.9まで上昇するのに対して、実施例(a)では1.8以下を保っており、より詳細には、1.75〜1.80の範囲である。透明基板に用いられるガラス、フィルムの屈折率は一般的に1.5〜1.6の範囲にあるが、実施例(a)の透明導電膜は、基板の屈折率との差が小さいことで界面での反射が抑えられ、透明導電膜付き基板としての透過率を向上させることができる。
【0028】
図4、図5にはそれぞれ、X線回折装置(XRD)での測定結果から求めた、結晶のc軸、a軸の格子定数を、成膜時の基板温度を横軸にして示したグラフ図である。本発明のZnO系透明導電膜は、c軸方向に顕著に結晶が成長し、特に成膜温度の低温域で比較例との差が大きい。一方、a軸方向の格子定数は比較例と同等である。
図6に密度、図7に単位格子の体積を同様のグラフで示した。本発明のZnO系透明導電膜は、c軸方向に優先的に結晶成長する結果として、柱状で結晶内に間隙が多い構造となり、単位格子の体積は大きくなる。その結果、密度は比較例よりも小さくなる。一般に、間隙が多く密度が小さい結晶の場合、通常は導電性が低下する、即ち比抵抗が上昇すること多いが、後述のように、本発明の実施例において、比抵抗は従来技術による比較例よりも低下している。即ち、若干間隙の多い構造でありながら、導電性が向上するという、特異な結晶構造を有しているといえる。
このとき、図4、図5において示されるように、単位結晶格子のc軸方向の格子定数は5.23〜5.28Åであり、a軸方向の格子定数が3.24〜3.26Åである。そして、図6に示されるように、密度は5.55〜5.65g/cm3である。a軸及びc軸の格子定数と密度が前記の範囲にあることが、後述するように、電気的、光学的特性に寄与していると考えられる。
【0029】
図8にはキャリア濃度、図9には移動度についての比較を示した。これらはホール効果測定法により測定した。本発明の実施例(a)のキャリア濃度は、低温域で若干減少する動きはあるが、成膜温度による変化はそれほど大きくない。一方、比較例では、キャリア濃度が低温側で大きく減少している。そして、図9より、本発明の実施例(a),(b)に関し、移動度は従来例よりも若干低下していることが示されているが、図8より、キャリア濃度の向上(より詳細には、キャリア濃度が1.0×1021cm−3よりも大きい)により従来技術による比較例に優る高導電性(低比抵抗)を実現していると考えられる。
【0030】
図10には成膜時の基板温度と、分光透過率より算出した透明導電膜のバンドギャップとの関係を示した。バンドギャップにおいても特に低温域で実施例(a),(b)と比較例との差が大きく、成膜時の基板温度が200℃以下である時、比較例のバンドギャップは急激に低下するのに対して、実施例(a),(b)ではほぼ一定である。この差は、図2において実施例(a)3が短波長側で光の吸収が少なく、透過率が高くなっていることと対応している。このとき、具体的には、バンドギャップは3.93〜4.00eVである。
【0031】
図11、図12は、それぞれ波長380nm、400nmにおける、分光エリプソメータで求めた消衰係数を示すグラフ図である。比較例のデータにバラツキが見られるが、実施例(a),(b)は比較例に対して有意に小さな値であり、その差は380nmの方が顕著である。この消衰係数の差も短波長側で透過率が高いことの一因となっている。
【0032】
図13は、実施例(a)3と比較例3に関して、図2の分光特性をベースにして、有機EL素子を形成した場合を想定した透過率をシミュレーションした結果である。本シミュレーションでは、ガラス基板、ZnO系透明導電膜、有機発光層の3層を積層した構造とし、有機発光層の屈折率を1.7と設定している。実施例(a)3では、屈折率が低いことによる効果として透過率が向上しており、350〜700nmでの透過率平均では、2.6%程度、特に、350〜550nm(可視域に於ける短波長域)の透過率平均では、15.5%向上している。このことにより、表示装置(有機EL素子、液晶素子等)においては、短波長域での透過率向上に伴う青色の輝度が増加し、全体的に明るく、且つ、きれいな白色表示が可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方が1〜10wt%の範囲で含まれた酸化亜鉛からなり、透明基板上に形成された透明導電膜であって、
該透明導電膜は、
可視光域における透過率が85%以上であり、
波長550nmにおける屈折率が1.75〜1.80の範囲にあり、
比抵抗が8.0×10−4Ω・cm以下であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
単位結晶格子のc軸方向の格子定数が5.23〜5.28Åの範囲にあり、
a軸方向の格子定数が3.24〜3.26Åの範囲にあり、
密度が5.55〜5.65g/cm3の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
キャリア濃度が1.0×1021/cm3より大きく、
バンドギャップが3.93〜4.00eVの範囲にあることを特徴とする請求項2記載の透明導電膜。
【請求項4】
成膜時の前記透明基板の温度を230℃以下として、スパッタリング法により形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の透明導電膜。
【請求項5】
請求項4に記載の透明導電膜が形成された透明導電膜付き基板であって、
前記透明基板は、樹脂フィルムであることを特徴とする透明導電膜付き基板。
【請求項1】
アルミニウム又はガリウムの少なくとも一方が1〜10wt%の範囲で含まれた酸化亜鉛からなり、透明基板上に形成された透明導電膜であって、
該透明導電膜は、
可視光域における透過率が85%以上であり、
波長550nmにおける屈折率が1.75〜1.80の範囲にあり、
比抵抗が8.0×10−4Ω・cm以下であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
単位結晶格子のc軸方向の格子定数が5.23〜5.28Åの範囲にあり、
a軸方向の格子定数が3.24〜3.26Åの範囲にあり、
密度が5.55〜5.65g/cm3の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
キャリア濃度が1.0×1021/cm3より大きく、
バンドギャップが3.93〜4.00eVの範囲にあることを特徴とする請求項2記載の透明導電膜。
【請求項4】
成膜時の前記透明基板の温度を230℃以下として、スパッタリング法により形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の透明導電膜。
【請求項5】
請求項4に記載の透明導電膜が形成された透明導電膜付き基板であって、
前記透明基板は、樹脂フィルムであることを特徴とする透明導電膜付き基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−117093(P2012−117093A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265776(P2010−265776)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
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