説明

透明導電膜形成用組成物、透明導電膜、及び反射防止フィルム

【課題】長期に亘り経時的に安定した導電特性を示し、塗装スピードを低下させることなく、30℃×RH85%の高湿度条件においても良好な成膜性を示し、各種基材の表面に適用されて透明性、膜硬度、耐擦傷性及び帯電防止機能に優れた透明導電膜を形成し得る透明導電膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】導電性金属酸化物、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び分散媒を含み、前記分散媒が少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒Aと少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒Bとを含有する導電特性に優れた透明導電膜形成用組成物であり、また、前記導電性金属酸化物の一部に代えて非導電性高屈折率金属酸化物を含む導電特性及び高屈折率特性に優れた透明導電膜形成用組成物であり、また、この透明導電膜形成用組成物を用いて作製された透明導電膜及び反射防止フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜形成用組成物、及びこの透明導電膜形成用組成物を用いて形成された透明導電膜及び反射防止フィルムに関し、より詳しくは、保存安定性に優れて長期に亘り経時的に安定した導電特性を示し、また、塗装スピードを低下させることなく、30℃×RH85%の高湿度条件においても良好な成膜性を示し、更に、プラスチック、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材の表面に適用されて透明性、膜硬度、耐擦傷性及び帯電防止機能に優れた透明導電膜を形成し得る透明導電膜形成用組成物、及び、該組成物を用いて形成された透明性、膜硬度、耐擦傷性及び帯電防止機能に優れた透明導電膜、及び該組成物を用いて作製された反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種基材の表面の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材や、印刷インクのバインダー材として、優れた塗工性を有し、かつ、各種基材の表面に硬度、耐擦傷性、耐摩耗性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性、塗膜面の外観等に優れた硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要求されている。
【0003】
また、フラットパネルディスプレイ、タッチパネル、プラスチック光学部品等への用途においては、上記要求に加えて、透明性に優れ、かつ、帯電防止機能を有する透明導電膜等の硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要求されている。
【0004】
更に、液晶ディスプレイ、陰極管表示装置等の画像表示装置及び光学製品においては反射防止膜(硬化膜)が使用されている。この反射防止膜には、高い透明性及び低い反射率の特性に加え、耐擦傷性及び埃やゴミ等の異物の付着を防止する機能が要求されている。そのため、反射防止膜の高屈折率層には、高い透明性及び高い屈折率特性に加え、優れた耐擦傷性及び帯電防止特性が求められている。
【0005】
そして、このような硬化膜に帯電防止機能を付与する手段としては、硬化性組成物中に界面活性剤、導電性ポリマー、又は主として金属酸化物からなる導電性微粒子等を添加する方法が知られており、特に永久帯電防止効果を有する膜を作製するという目的を考慮した場合には、導電性微粒子を添加する方法が一般的となっている。また、このような導電性微粒子を添加する方法としては、樹脂溶液又は溶剤中にキレート剤を配合し、その配合物中に無機酸化物を分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
また、本発明者らは、主として分散処理過程で使用される金属製機器や塗布機材の腐食を防止するため、キレート剤に代えて金属錯体を配合する方法を提案している。(特願2009-217,991号参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-139,847号公報
【特許文献2】特開2001-139,889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような透明導電膜形成用組成物において、その生産性を向上させるためには、長期保管した際における保存安定性に優れており、長期に亘って導電特性の変動がないことが必要である。
【0009】
また、このような透明導電膜形成用組成物を用いて形成される透明導電膜や反射防止フィルムに対して、鉛筆硬度2H以上の高い膜硬度を付与させるためには、約2μm以上のdry膜厚を必要とするが、このような2μm以上のdry膜厚を得るための塗装においては、雰囲気の湿度が高くなると、形成される透明導電膜に白化現象が起こり易いという問題がある。この白化現象は、透明導電膜形成用組成物塗布後の溶剤の揮発時に発生する蒸発潜熱により、大気中の水分が硬化途中の塗膜表面に凝縮し、塗膜成分の一部が析出するものである。そこで、この白化現象を解決する手段として、25℃×RH30%以下という低湿度条件下での塗装、表面調整剤の添加、あるいは、高沸点溶剤の添加の方法がよく採用されているが、低湿度条件下で塗装する方法では塗装条件が制限されて生産性が低下し、また、表面調整剤を添加する方法では基材及び上塗り層との密着性不良が生じ易く、更に、高沸点溶剤を添加する方法では塗装スピードが低下して生産性が低下するという別の問題が発生する。
【0010】
そこで、本発明者らは、このような問題を解決すべく鋭意検討した結果、意外なことには、導電性金属酸化物(又は、導電性金属酸化物及び非導電性高屈折率金属酸化物)、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、及び光重合開始剤を、少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒(分散媒A)及び、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒(分散媒B)を含む混合分散媒中に分散させることにより、長期に亘り経時的に安定した導電特性を示し、しかも、30℃×RH85%以上という高湿度条件においても良好な成膜性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、長期に亘り経時的に安定した導電特性を示し、塗装スピードを低下させることなく、30℃×RH85%以上の高湿度条件においても良好な成膜性を示し、更に、プラスチック、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材の表面に適用されて透明性、膜硬度、耐擦傷性及び帯電防止機能に優れた透明導電膜を形成し得る透明導電膜形成用組成物を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、このような透明導電膜形成用組成物を各種基材の表面に適用して形成され、透明性、膜硬度、耐擦傷性及び帯電防止機能に優れた透明導電膜や反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、導電性金属酸化物、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び分散媒を含み、前記分散媒が少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒Aと少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒Bとを含有することを特徴とする透明導電膜形成用組成物であり、また、この発明において、導電性金属酸化物100質量部当り、β-ジケトンを含む金属錯体の含有量が3〜450質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が14〜10000質量部であり、及び分散媒の含有量が60〜70000質量部であって、また、光重合開始剤の含有量が前記活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り0.1〜20質量部であり、かつ、分散媒Aと分散媒Bとの質量比(A/B)が90/10〜10/90であることを特徴とする透明導電膜形成用組成物である。
【0014】
また、本発明に係る上記の透明導電膜形成用組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られる透明導電膜は、好ましくは、屈折率が1.45〜1.90の範囲内であり、光透過率が75%以上であり、ヘーズが1.5%以下であり、かつ、表面抵抗値が1×1012Ω/□以下であることを特徴とする。
【0015】
そして、本発明において、透明導電特性に加えて高屈折率特性が求められる場合には上記の透明導電膜形成用組成物において配合される導電性金属酸化物の一部に代えて屈折率1.8以上3.0未満の高屈折率金属酸化物を用いることができる。この場合には、導電性金属酸化物、屈折率1.8以上3.0未満の高屈折率金属酸化物、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び分散媒を含み、前記分散媒が少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒Aと少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒Bとを含有することを特徴とする透明導電膜形成用組成物であり、また、この発明において、導電性金属酸化物と非導電性高屈折率金属酸化物との合計100質量部当り、β-ジケトンを含む金属錯体の含有量が3〜450質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が14〜10000質量部であり、及び分散媒の含有量が60〜70000質量部であって、また、光重合開始剤の含有量が前記活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り0.1〜20質量部であり、かつ、分散媒Aと分散媒Bとの質量比(A/B)が90/10〜10/90であることを特徴とする透明導電膜形成用組成物である。
【0016】
また、本発明に係る上記の非導電性高屈折率金属酸化物配合の透明導電膜形成用組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られる透明導電膜は、高屈折率特性を有するものであり、好ましくは、屈折率が1.55〜1.90の範囲内であり、光透過率が80%以上であり、ヘーズが1.5%以下であり、かつ、表面抵抗値が1×1012Ω/□以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、(1)長期に亘り経時的に安定した導電特性を示し、塗装スピードを低下させることなく、30℃×RH85%以上という高湿度条件においても良好な成膜性を示す透明導電膜形成用組成物が提供され、また、(2)該透明導電膜形成用組成物から得られる透明性、膜硬度、耐擦傷性及び帯電防止機能に優れた透明導電膜が提供され、更に、(3)該透明導電膜を用いて作製した反射防止フィルムが提供される。更にまた、非導電性高屈折率金属酸化物配合の透明導電膜形成用組成物を用いることにより、透明導電特性に加えて高屈折率特性をも備えた透明導電膜形成用組成物、透明導電膜、及び反射防止フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
本発明の透明導電膜形成用組成物は、導電性金属酸化物、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒(分散媒A)及び少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒(分散媒B)を含有するものである。
【0019】
ここで、本発明の透明導電膜形成用組成物で用いる導電性金属酸化物については、その形状等において特に限定されるものではないが、その導電性としては体積抵抗率として107Ω・cm以下、好ましくは103Ω・cm以下であるのがよく、また、その大きさについては、一次粒子径で、通常1nm以上500nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下であるのがよい。この導電性金属酸化物の体積抵抗率が107Ω・cmを超えると目的を達成するのに必要な導電性が得られ難くなるという問題が生じ、また、一次粒径が1nm未満では鉛筆硬度及び耐擦傷性が顕著に低下し、500nmを超えると透明導電膜が得られ難くなる。
【0020】
このような導電性金属酸化物としては、上記の目的を達成できるものであれば特に限定されず、市販品等の公知のものを用いることができる。例えば、ITO、ATO、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモン酸亜鉛、五酸化アンチモン等の金属酸化物を用いることができる。ここで、酸化錫については、リン等の元素をドープしたものを用いることもでき、また、酸化亜鉛については、ガリウムやアルミニウムをドープしたものを用いることもできる。これらの導電性金属酸化物はその1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
また、本発明において、透明導電特性に加えて高屈折率特性が求められる場合に、上記の導電性金属酸化物の一部に代えて屈折率1.8以上3.0未満の非導電性高屈折率金属酸化物を用いることができる。この非導電性高屈折率金属酸化物は、形成される透明導電膜の屈折率を制御するためのものであり、屈折率が1.8以上3.0未満、好ましくは2.0以上2.8以下の非導電性高屈折率金属酸化物が用いられ、また、その大きさについては、一次粒子径で、通常1nm以上500nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下であるのがよい。なお、個々の非導電性高屈折率金属酸化物の屈折率は材料固有の値であり、種々の文献に記載されている。ここで、屈折率が1.8未満の金属酸化物を用いた場合には高屈折率の透明導電膜が得られず、また、屈折率が3.0を超える高屈折率金属酸化物を用いた場合には透明導電膜の透明性が低下する傾向がある。また、高屈折率金属酸化物の一次粒径が1nm未満では鉛筆硬度及び耐擦傷性が顕著に低下し、500nmを超えると透明膜が得られ難くなる。
【0022】
この目的で用いられる非導電性高屈折率金属酸化物については、目的を達成できるものであれば特に限定されず、市販品等の公知のものを用いることができる。好適に用いられる非導電性高屈折率金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム(n=2.4)、酸化チタン(n=2.76)及び酸化セリウム(n=2.2)等を挙げることができ、これらはその1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
そして、このような非導電性高屈折率金属酸化物配合の透明導電膜形成用組成物において、導電性金属酸化物に対する非導電性高屈折率金属酸化物の配合比率については、この非導電性高屈折率金属酸化物配合の透明導電膜形成用組成物を用いて形成される透明導電膜に求められる導電性及び屈折率に応じて適宜選択できるものであるが、導電性金属酸化物と非導電性高屈折率金属酸化物との質量比(導電性物/高屈折率)で、通常30/70〜90/10の範囲内であるのがよく、好ましくは35/65〜85/15の範囲内であるのがよい。導電性金属酸化物と非導電性高屈折率金属酸化物との質量比(導電性物/高屈折率)が30/70より低いと形成される膜の屈折率は高くなるが、導電性が低下する傾向がある。反対に90/10より高い場合、形成される膜の導電性は高くなるが、高屈折率膜は得られ難くなる。
【0024】
本発明において、β-ジケトンを含む金属錯体は、透明導電膜形成用組成物における導電性金属酸化物や非導電性高屈折率金属酸化物の分散剤として機能し、この透明導電膜形成用組成物に優れた保存安定性を付与する。この金属錯体としては、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、錫、及び白金からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属と、β-ジケトンからなる群より選ばれた配位子とで形成された金属錯体を用いることができ、また、透明導電膜形成用組成物の保存安定性の観点からは、系中の水分と反応するアルコキシドを含まない金属錯体を用いることがより好ましい。
【0025】
また、これらの金属錯体については、透明導電膜形成用組成物に色味を生じさせないものが適しており、この観点からは、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム、及び錫からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属と、β-ジケトンからなる群から選ばれる配位子、好ましくはピバロイルトリフルオルアセトン、アセチルアセトン、トリフルオルアセチルアセトン、及びヘキサフルオルアセチルアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の配位子とで形成された金属錯体を用いることが好ましい。これらの金属錯体は、既にβ-ジケトンが金属に配位した状態であり、分散過程で使用される金属製機器や塗布機材を腐食することは殆どない。
【0026】
なお、透明導電膜形成用組成物の保存安定性をより向上させる目的で、分散助剤として更に他の分散剤を添加してもよい。この目的で用いられる分散助剤については特に限定されるものではなく、例えば、リン酸エステル系分散剤を挙げることができる。
【0027】
本発明においては、分散媒として少なくとも2種類の分散媒が用いられ、その一方は少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒(分散媒A)であり、また、他方は少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒(分散媒B)であり、必要により第三の分散媒を配合してもよい。ここで、カルボニル基を有する分散媒Aはβ-ジケトンを有する金属錯体に対して高い親和性を示し、また、ヒドロキシル基を有する分散媒Bは導電性金属酸化物微粒子表面の官能基の活性を抑えて分散後の凝集を防止する作用を発揮し、これによって、透明導電膜形成用組成物に対して長期に亘る安定した導電特性と高湿度下での良好な成膜性とが与えられる。
【0028】
このような分散媒Aとしては、好ましくは沸点が200℃以下のものであり、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることができ、特にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンを用いることが好ましい。また、分散媒Bとしては、好ましくは沸点が200℃以下のものであり、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができ、特にイソプロパノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを用いることが好ましい。これら分散媒A及びBは、透明導電膜形成用組成物の用途等に応じて、成膜時の乾燥温度を考慮し選択されることが好ましく、また、2種類以上の分散媒Aを用いることもできるし、2種類以上の分散媒Bを用いることもできる。
【0029】
また、本発明において、使用する上記2種類の分散媒A及びBの混合割合については、透明導電膜形成用組成物の用途等によって適宜選択できるものではあるが、分散媒Aと分散媒Bとの質量混合比(A/B)が、通常、90/10〜10/90の範囲、好ましくは85/15〜15/85の範囲であることが好ましい。分散媒Aの混合割合が90/10より高い場合には分散媒Bの添加効果が小さくなり、長期に亘る保存安定性が得られ難くなり、反対に、10/90より低い場合には分散媒Aの添加効果が小さくなり、長期に亘る安定した導電特性及び高湿度下における成膜性が低下する。
【0030】
なお、本発明において、上記の分散媒A及びB以外に必要に応じて分散媒として用いられる第三の分散媒としては、これら分散媒A及びBと混合し得るものであって、分散媒Aと金属錯体との親和性及び分散媒Bによる導電性金属酸化物微粒子表面の官能基の活性抑制作用を妨げないものである限り、特に制限されるものではなく、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド類、トルエン、m-キシレン等の炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いる活性エネルギー線硬化性化合物としては、ラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー等を挙げることができる。
そして、ラジカル重合性モノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレートや、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アリルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレートや、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の三官能以上の(メタ)アクリレートや、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、アクリロニトリル、アリルアルコール等のその他のラジカル重合性モノマーを挙げることができる。
【0032】
また、ラジカル重合性オリゴマーの具体例としては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、オリゴ(メタ)アクリレート、アルキド(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するプレポリマーを挙げることができる。特に好ましいラジカル重合性オリゴマーは、ポリエステル、エポキシ、ポリウレタンの各(メタ)アクリレートである。本発明において、活性エネルギー線硬化性化合物はその1種のみを単独で用いることも、また、2種以上を併用することもできる。
【0033】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、光重合開始剤(光増感剤)が含有されるので、少量の活性エネルギー線の照射で透明導電膜形成用組成物を硬化させることができる。
【0034】
本発明で用いる光重合開始剤(光増感剤)としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p-クロロベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4-メチルジフェニルサルファイド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1等を挙げることができる。光重合開始剤はその1種のみを単独で用いることも、また、2種以上を併用することもできる。
【0035】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、各成分の配合割合は透明導電膜形成用組成物の用途に応じて適宜設定できるが、導電性金属酸化物100質量部当り(また、透明導電特性の他に高屈折率特性が求められる場合には、導電性金属酸化物と非導電性高屈折率金属酸化物の合計100質量部当り)、β-ジケトンを含む金属錯体の含有量が3質量部以上450質量部以下、より好ましくは7質量部以上200質量部以下であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が14質量部以上10000質量部以下、より好ましくは35質量部以上2000質量部以下であり、分散媒の含有量が60質量部以上70000質量部以下、より好ましくは100質量部以上50000質量部以下であるのがよく、かつ、活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り、光重合開始剤の含有量が好ましくは0.1質量部以上20質量部以下、より好ましくは1質量部以上15質量部以下であるのがよい。
【0036】
β-ジケトンを含む金属錯体の量が上記の下限値より少ない場合には導電性金属酸化物粒子及び非導電性高屈折率金属酸化物粒子の分散が不良となる傾向があり、上記の上限値より多い場合にはβ-ジケトンを含む金属錯体が分散媒中に溶解せず、沈殿が生じることがある。分散媒の量が上記の下限値より少ない場合にはβ-ジケトンを含む金属錯体の溶解及び金属酸化物粒子の分散が不十分となる傾向があり、上記の上限値より多い場合には透明導電膜形成用組成物の濃度が薄すぎて実用的でなくなる。活性エネルギー線硬化性化合物の量が上記の下限値より少ない場合には透明性が低下する傾向があり、上記の上限値より多い場合には膜硬度及び耐擦傷性が不十分となる。また、光重合開始剤の量が上記の下限値より少ない場合には光硬化性組成物の硬化速度が低下する傾向があり、上記の上限値よりも多くてもそれに見合った効果が得られない。
【0037】
更に、本発明の透明導電膜形成用組成物には、その目的を損なわない範囲内で、上記以外の慣用の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、重合禁止剤、硬化触媒、酸化防止剤、カップリング剤等を挙げることができる。
【0038】
本発明の透明導電膜形成用組成物は、分散媒の一部にβ-ジケトンを含む金属錯体を溶解し、得られた金属錯体を含む分散媒中に導電性金属酸化物、更には高屈折率特性が求められる用途の場合に配合される非導電性高屈折率金属酸化物を分散させ、次いで、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び残りの分散媒を添加し、十分に攪拌させることにより製造することができる。また、分散媒中にβ-ジケトンを含む金属錯体を溶解し、得られた金属錯体を含む分散媒中に導電性金属酸化物、非導電性高屈折率金属酸化物、活性エネルギー線硬化性化合物及び光重合開始剤を同時に添加し、分散させて製造することもできる。
【0039】
また、非導電性高屈折率金属酸化物が配合される場合には、非導電性高屈折率金属酸化物、金属錯体及び一部の分散媒からなる分散液と、導電性金属酸化物、金属錯体及び一部の分散媒からなる分散液とを予め調製し、次いでこれらの分散液を混合し、得られた混合分散液中に活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び残りの分散媒を添加し、十分に攪拌させることにより製造することができる。また、非導電性高屈折率金属酸化物、金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び一部の分散媒からなる分散液と、導電性金属酸化物、金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び残りの分散媒からなる分散液とを予め調製し、これらの分散液を混合し、十分に攪拌させることにより製造することも可能である。
【0040】
ここで、分散時の分散媒については、分散媒Aと分散媒Bの比率が最終的に90/10〜10/90の範囲となるように設定すればよく、また、分散操作を行う前にプレ分散操作を行うとなおよい。このプレ分散操作は、β-ジケトンを含む金属錯体を溶解した分散媒中に、導電性金属酸化物や、高屈折率特性が求められる用途の場合に配合される非導電性高屈折率金属酸化物を分散させる際に、ディスパー等で撹拌しながら、これら導電性金属酸化物や非導電性高屈折率金属酸化物を徐々に加えていき、導電性金属酸化物や非導電性高屈折率金属酸化物の塊が目視で確認されなくなるまでよく撹拌することにより行われる。
【0041】
また、導電性金属酸化物や非導電性高屈折率金属酸化物の分散操作は、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル等を用いて行うことができる。分散操作の際に、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ等の分散ビーズを用いることが好ましい。ビーズ径は、特に限定されないが、通常0.05〜1mmφ程度であり、好ましくは0.1〜0.65mmφである。
【0042】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、使用する導電性金属酸化物や非導電性高屈折率金属酸化物の粒子径がメジアン径で好ましくは120nm以下、更に好ましくは80nm以下であるのがよい。メジアン径がそれ以上であると、透明導電膜形成用組成物から得られる透明導電膜のヘーズが高くなる。
【0043】
本発明の透明導電膜形成用組成物は、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材の表面に塗布し又は印刷し、硬化させて、これら基材の表面に透明導電膜を形成することができ、例えば、プラスチック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック容器、建築内装材としての床材、壁材、人工大理石等においてその傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材として、また、フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜として、更に、各種基材の接着剤、シーリング材として、更には、印刷インクのバインダー材等として、各種の用途に用いられ、特に反射防止膜の高屈折率膜を形成する組成物として好適に用いることができる。
【0044】
基材への透明導電膜形成用組成物の塗布又は印刷は、常法に従って、例えば、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷等の手法で行うことができる。必要により加熱して分散媒(溶媒)を蒸発させ、塗膜を乾燥させ、次いで、活性エネルギー線(紫外線又は電子線)を照射する。活性エネルギー線源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザー、LED等の紫外線源、並びに電子線加速装置を使用することができる。活性エネルギー線の照射量は、紫外線の場合には50〜3000mJ/cm2、電子線の場合には0.2〜1000μC/cm2の範囲内が適当である。この活性エネルギー線の照射により、上記活性エネルギー線硬化性化合物が重合し、導電性金属酸化物や必要に応じて添加される非導電性高屈折率金属酸化物の粒子が樹脂で結合された透明導電膜が形成される。この透明導電膜の膜厚については一般的に0.1μm以上10.0μm以下、好ましくは0.2μm以上5.0μm以下の範囲内であることが好ましい。透明導電膜はその膜厚が0.1μmより薄いと導電性及び膜硬度が低下するという問題があり、反対に、10.0μmより厚くなると透明性が低下するという問題が発生し易くなる。
【0045】
本発明の透明導電膜形成用組成物を硬化させて得られる透明導電膜は、導電性金属酸化物や必要に応じて添加される非導電性高屈折率金属酸化物の微粒子が透明導電膜内で均一に分散していて、屈折率の制御が可能で、透明性が高く、ヘーズが低く、また、表面抵抗値が低いという特徴を有する。具体的には、主として高導電特性が求められて導電性金属酸化物のみが用いられた場合には、通常、屈折率が1.45〜1.90であり、光透過率が75%以上であり、ヘーズが1.5%以下であり、かつ、表面抵抗値が1012Ω/□以下であり、また、高導電特性に加えて高屈折率特性が求められて、導電性金属酸化物及び非導電性高屈折率金属酸化物が用いられた場合には、通常、屈折率が1.55〜1.90であり、光透過率が80%以上であり、ヘーズが1.5%以下、且つ表面抵抗値が1012Ω/□以下である。ここで、屈折率を制御するためには、透明導電膜形成用組成物中に配合される非導電性高屈折率金属酸化物及び導電性金属酸化物の量と活性エネルギー線硬化性化合物の量との比率を調整すればよい。高導電特性及び高屈折率特性を備えた該透明導電膜は、特に導電性反射防止材やディスプレイの表示面等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。なお、実施例及び比較例において「部」は全て「質量部」である。
【0047】
[実施例1〜10及び比較例1〜4]
実施例及び比較例で使用した成分は以下の通りである。
<導電性金属酸化物>
ATO(屈折率2.0、粉体抵抗10Ω・cm、一次粒子径0.03μm)
酸化錫(屈折率2.0、粉体抵抗50Ω・cm、一次粒子径0.03μm)
酸化亜鉛(屈折率2.0、粉体抵抗100Ω・cm、一次粒子径0.04μm)
五酸化アンチモン(屈折率1.64、粉体抵抗100Ω・cm、一次粒子径0.05μm)
【0048】
<非導電性高屈折率金属酸化物>
酸化ジルコニウム(屈折率2.4、一次粒子径0.02μm)
酸化チタン(屈折率2.76、一次粒子径0.02μm)
【0049】
<β-ジケトンを含む金属錯体>
ジルコニウムアセチルアセトナート〔Zr(C5H7O2)4
ジブチル-錫ビスアセチルアセトナート〔(C4H9)2Sn(C5H7O2)2
亜鉛アセチルアセトナート〔Zn(C5H7O2)2
チタンアセチルアセトナート〔Ti(C5H7O2)4
【0050】
<分散助剤>
BYK-142(NV. 60%以上;ビックケミージャパン社製商品名)
<活性エネルギー線硬化性化合物>
多官能(メタ)アクリレートモノマー〔日本化薬社製商品名:KAYARAD DPHA;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの質量比60対40の混合物〕
<光重合開始剤>
IRGACURE 184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製商品名)
【0051】
<透明導電膜形成用組成物及びこれを用いた透明導電膜の作製>
実施例1
ペイントシェーカーの混合容器内に、表1に示すように、100部のATO(導電性金属酸化物)に対して、20部のジブチル-錫ビスアセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、75部のシクロヘキサノン(分散媒A)、75部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(分散媒B)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。次に、この分散液に23部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、及び49部のシクロヘキサノン(分散媒A)、及び49部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(分散媒B)を加え、実施例1の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。
【0052】
次に、この実施例1の光硬化性組成物を膜厚75μmのPETフィルム(東洋紡社製商品名:A4300;光透過率91%、ヘーズ0.5%)上にロールコーターを用いて30℃、RH85%の条件下に塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、空気中で高圧水銀灯を用いて300mJ/cm2の光を照射し、厚さ3μmの透明導電膜を作製した。この際、透明導電膜の作製は、光硬化性組成物の調製直後、調製6ヵ月後、及び調製9ヶ月後に行い、その保存安定性を調べた。
結果を表1に示す。
【0053】
実施例2

表1に示すように、ペイントシェーカーの混合容器内に、酸化錫(導電性金属酸化物)100部に対し、20部のジブチル-錫ビスアセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、75部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、75部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(分散媒B)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。この分散液に、23部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、49部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、及び49部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(分散媒B)を加え、実施例2の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0054】
実施例3
表1に示すように、ペイントシェーカーの混合容器内に、酸化亜鉛(導電性金属酸化物)100部に対し、5部の亜鉛アセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、90部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、60部のイソブタノール(分散媒B)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。この分散液に、23部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、59部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、及び39部のイソブタノール(分散媒B)を加え、実施例3の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0055】
実施例4
表1に示すように、ペイントシェーカーの混合容器内に、ATO(導電性金属酸化物)50部及び酸化ジルコニウム(非導電性高屈折率金属酸化物)50部の合計100部に対し、10部のジルコニウムアセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、45部のシクロヘキサノン(分散媒A)、105部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(分散媒B)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。この分散液に、23部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、29部のシクロヘキサノン(分散媒A)、及び69部のプロピレングリコールモノメチルエーテル(分散媒B)を加え、実施例4の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0056】
実施例5
表1に示すように、ペイントシェーカーの混合容器内に、五酸化アンチモン(導電性金属酸化物)70部及び酸化チタン(非導電性高屈折率金属酸化物)30部の合計100部に対し、10部のチタンアセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、105部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、45部のイソプロパノール(分散媒B)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。この分散液に、33部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、3.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、80.5部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、及び34.5部のイソプロパノール(分散媒B)を加え、実施例5の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0057】
実施例6
表1に示すように、ペイントシェーカーの混合容器内に、五酸化アンチモン(導電性金属酸化物)40部及び酸化ジルコニウム(非導電性高屈折率金属酸化物)60部の合計100部に対し、25部のジルコニウムアセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、5部のBYK-142(分散助剤)、105部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、45部のイソブタノール(分散媒B)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。この分散液に、20部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.0部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、80.5部のメチルイソブチルケトン(分散媒A)、及び34.5部のイソプロパノール(分散媒B)を加え、実施例5の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0058】
比較例1
ペイントシェーカーの混合容器内に、表1に示すように、100部の酸化亜鉛(導電性金属酸化物)に対して、20部の亜鉛アセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、150部のイソブタノール(分散媒)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。次に、この分散液に23部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、及び98部のイソブタノール(分散媒)を加え、比較例1の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0059】
比較例2
ペイントシェーカーの混合容器内に、表1に示すように、100部のATO(導電性金属酸化物)に対して、20部のジブチル−錫ビスアセチルアセトナート(β-ジケトンを含む金属錯体)、10部のBYK-142(分散助剤)、150部のメチルイソブチルケトン(分散媒)、及び800部の0.60mmφガラスビーズを仕込み、7時間混練した。混練終了後、ガラスビーズを取り除いて導電性金属酸化物微粒子の分散液を得た。次に、この分散液に23部のKAYARAD DPHA(活性エネルギー線硬化性化合物)、2.3部のIRGACURE 184(光重合開始剤)、及び98部のメチルイソブチルケトン(分散媒)を加え、比較例1の透明導電膜形成用光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚さ3μmの透明導電膜を作製し、また、その保存安定性を調べた。
【0060】
<評価方法>
(1) 金属酸化物粒子のメジアン径(nm)
上記の実施例1〜6及び比較例1、2で作製した透明導電膜形成用組成物に分散している金属酸化物の粒子のメジアン径を、作製直後、3ヶ月後(40℃保管)、6ヶ月後(40℃保管)、9ヶ月後に、以下の条件で測定した。
使用測定機器:日機装社製 Microtrac粒度分布計
測定条件:温度 20℃
試料:サンプルを分散媒で5%濃度に希釈した後、測定
データ解析条件:粒子径基準、体積基準
【0061】
(2) 透明導電膜形成用組成物の透過率(%)及びヘーズ(%)
上記の実施例1〜6及び比較例1、2で得られた透明導電膜について、透過率及びヘーズを東京電色技術センター製の測定機器TC-HIII DPKを用いて測定した。測定値は基材を含んだ値である。
【0062】
(3) 表面抵抗値(Ω/□)
上記の実施例1〜6及び比較例1、2で得られた透明導電膜について、三菱化学社製の測定機器ハイレスタIP MCP-HT260を用いて測定した。
【0063】
(4) 鉛筆硬度
鉛筆硬度の測定方法はJIS K5600-5-4に準じて行った。
【0064】
(5) 耐擦傷性
耐擦傷性については、スチールウール#0000を250g荷重で10往復させた後、以下の基準により、傷の程度を目視にて判定した。
A:ほとんど傷が認められない。
B:少し傷が認められる。
C:明らかな傷が認められる。
D:CとEの中間
E:多数の傷が認められる。
【0065】
(6) ブラッシング(膜白化)評価
成膜後の膜の外観を下記の基準により、目視にて評価した。
×:風紋状の白化あり
○:風紋状の白化なし
【0066】
(7) 屈折率
上記の実施例1〜6及び比較例1、2で得られた透明導電膜について、アタゴ社製のアッベ屈折計DR-M4を用い、20℃で測定した。
【0067】
上記の各々の測定の結果、及び評価の結果を表1に示す。
【表1】

【0068】
表1に示す結果から明らかなように、分散媒A及び分散媒Bを含む分散媒を用いた実施例1〜6の場合には、30℃、RH85%という高湿度条件で透明導電膜を形成したにもかかわらず、透明導電膜の白化が発生せず、透過率80%以上、ヘーズ1.5%以下、表面抵抗値1×1012Ω/□以下、鉛筆硬度2H、及び耐擦傷性が良好な透明導電膜が得られた。しかも、これら透明導電膜形成用組成物は、その保存安定性が良く、9ヵ月後においても特性の安定した透明導電膜が得られた。一方、分散媒Aを使用しなかった比較例1の場合には高湿度条件で得られた透明導電膜に白化現象が認められ、また、分散媒Bを使用しなかった比較例2の場合には分散安定性が低下し、6ヵ月後にメジアン径が増大し、得られた透明導電膜の透明性が低下した。
【0069】
<反射防止フィルムの作製>
次に、上記実施例1〜6及び比較例1、2で得られた各透明導電膜の上に、バーコーターを用いて、中空シリカ微粒子分散活性エネルギー線硬化性化合物塗料を塗布し、硬化することにより、各透明導電膜上に低屈折率膜が積層された反射防止フィルムを作製した。膜厚については、乾燥膜厚が550nmで最小反射率を示すように調整した。
【0070】
<最小反射率の測定>
上記実施例1〜6及び比較例1、2の透明導電膜形成用組成物を用いて作製された反射防止フィルムの裏面をサンドペーパーで荒らし、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(日本分光社製U-BEST 50)により、400〜700nmの正反射スペクトルを測定した。そして、測定された反射スペクトルから反射率の極小値を読み取り、最小反射率とした。
【0071】
最小反射率の測定結果は、実施例1〜3、実施例6の透明導電膜形成用組成物を用いて作製された反射防止フィルムの最小反射率が1.0%であって、実施例4、5の透明導電膜形成用組成物を用いて作製された反射防止フィルムの最小反射率が0.9%であって、目標の最小反射率1%以下の反射防止フィルムが得られた。
これに対して、比較例1の透明導電膜形成用組成物を用いて作製された反射防止フィルムの最小反射率は1.5%であって、比較例2の透明導電膜形成用組成物を用いて作製された反射防止フィルムの最小反射率は1.0%であり、比較例1の場合には所望の反射防止フィルムが得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属酸化物、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び分散媒を含み、前記分散媒が少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒Aと少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒Bとを含有することを特徴とする透明導電膜形成用組成物。
【請求項2】
分散媒Aが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項3】
分散媒Bが、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項4】
導電性金属酸化物が、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモン酸亜鉛、及び五酸化アンチモンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項5】
β-ジケトンを含む金属錯体が、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、錫、及び白金からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属と、ピバロイルトリフルオルアセトン、アセチルアセトン、トリフルオルアセチルアセトン、及びヘキサフルオルアセチルアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の配位子とで形成された金属錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項6】
金属錯体を形成する金属が、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム及び錫からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属であることを特徴とする請求項5に記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項7】
導電性金属酸化物100質量部当り、β-ジケトンを含む金属錯体の含有量が3〜450質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が14〜10000質量部であり、及び分散媒の含有量が60〜70000質量部であって、また、光重合開始剤の含有量が前記活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り0.1〜20質量部であり、かつ、分散媒Aと分散媒Bとの質量比(A/B)が90/10〜10/90であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られたものであることを特徴とする透明導電膜。
【請求項9】
基材が、PETフィルムであることを特徴とする請求項8に記載の透明導電膜。
【請求項10】
屈折率が1.45〜1.90の範囲内であり、全光線透過率が75%以上であり、ヘーズが1.5%以下であり、かつ、表面抵抗値が1×1012Ω/□以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載の透明導電膜。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物を用いて作製されたものであることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項12】
導電性金属酸化物、屈折率1.8以上3.0未満の非導電性高屈折率金属酸化物、β-ジケトンを含む金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び分散媒を含み、前記分散媒が少なくとも1つのカルボニル基を有する分散媒Aと少なくとも1つのヒドロキシル基を有する分散媒Bとを含有することを特徴とする透明導電膜形成用組成物。
【請求項13】
分散媒Aが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12に記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項14】
分散媒Bが、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12又は13に記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項15】
導電性金属酸化物が、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモン酸亜鉛、及び五酸化アンチモンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項16】
屈折率1.8以上3.0未満の非導電性高屈折率金属酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、及び酸化セリウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項17】
β-ジケトンを含む金属錯体が、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、錫、及び白金からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属と、β-ジケトンからなる群から選ばれる配位子とで形成された金属錯体であることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項18】
金属錯体が、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム、及び錫からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属と、ピバロイルトリフルオルアセトン、アセチルアセトン、トリフルオルアセチルアセトン、及びヘキサフルオルアセチルアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の配位子とで形成されていることを特徴とする請求項17に記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項19】
導電性金属酸化物と非導電性高屈折率金属酸化物との合計100質量部当り、β-ジケトンを含む金属錯体の含有量が3〜450質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が14〜10000質量部であり、及び分散媒の含有量が60〜70000質量部であって、また、光重合開始剤の含有量が前記活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り0.1〜20質量部であり、かつ、分散媒Aと分散媒Bとの質量比(A/B)が90/10〜10/90であることを特徴とする請求項12〜18のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項20】
請求項12〜19のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られたものであることを特徴とする透明導電膜。
【請求項21】
基材が、PETフィルムであることを特徴とする請求項20に記載の透明導電膜。
【請求項22】
屈折率が1.55〜1.90の範囲内であり、全光線透過率が80%以上であり、ヘーズが1.5%以下であり、かつ、表面抵抗値が1×1012Ω/□以下であることを特徴とする請求項20又は21に記載の透明導電膜。
【請求項23】
請求項12〜19のいずれかに記載の透明導電膜形成用組成物を用いて作製されたものであることを特徴とする反射防止フィルム。

【公開番号】特開2012−77101(P2012−77101A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220382(P2010−220382)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】