説明

透明導電膜構造体とその製造方法およびタッチパネル

【課題】タッチパネル用構造体として適用された際に透明導電膜の存在に起因して表示装置の視野が妨害される弊害を解消した透明導電膜構造体とその製法等を提供する。
【解決手段】透明基板とこの基板上に設けられた回路パターン形状を有する透明導電膜とで構成される透明導電膜構造体であって、透明導電膜の外縁近傍領域に、透明導電膜を貫通すると共に上記外縁と平行に設けられた複数のスリット群と非スリット群とで構成された屈折率緩衝部を有し、この屈折率緩衝部はその幅方向に亘って上記外縁と平行でかつ幅寸法が互いに同一の単位領域により区画されており、屈折率緩衝部における単位領域の屈折率が、透明基板と略同一の屈折率を有する最外側の単位領域から透明導電膜と略同一の屈折率を有する最内側の単位領域に向かって連続的に変化していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板とこの基板上に設けられた回路パターン形状を有する透明導電膜とで構成される透明導電膜構造体に係り、例えば、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置等の表面に組み込まれるタッチパネル用構造体として適用された際、透明導電膜の存在に起因して表示装置の視野が妨害されてしまう弊害を解消できる透明導電膜構造体の改良とその製造方法およびタッチパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、入力装置として「キーボード」が利用され、「キーボード」のキーを人間が操作することで数値や文字を機器に入力していた。しかし、近年、スマートフォン等の携帯電話や携帯電子文書機器、自動販売機、カーナビゲーション、コンビニエンスストアのレジスター等において、人間−マシンインターフェースとしての「タッチパネル」が普及し始めている。そして、「タッチパネル」を用いた手法、すなわち、表示装置の画面に出ている選択肢上に指等を当てることで意志を装置内に伝えられる手法は、細かな機械操作が苦手な人にも直感的で分り易いため、それ程複雑でない入力用途には最適な手法である。更に、最近では、複数本の指を使用して表示画面を拡大し、あるいは、本の頁をまるで捲るような操作も可能となっており、遊び心が豊富な用途も登場してきている。
【0003】
そして、「タッチパネル」には、大きく分けて抵抗型と静電入力型が存在する。上記「抵抗型のタッチパネル」は、ガラス、透明フィルム等の透明基板と、この基板上に設けられたX座標(またはY座標)検知電極シート並びにY座標(またはX座標)検知電極シートと、これ等シートの間に設けられた絶縁体スペーサーとで主要部が構成されている。そして、上記X座標検知電極シートとY座標検知電極シートは空間的に隔たっているが、ペン等で押さえられたときに両座標検知電極シートは電気的に接触してペンの触った位置(X座標、Y座標)が判るようになっており、ペンを移動させれば、その都度座標を認識して、最終的に文字の形入力が行なえる仕組みとなっている。他方、「静電容量型のタッチパネル」は、絶縁シートで隔離されたX座標(またはY座標)検知電極シートとY座標(またはX座標)検知電極シートが透明基板上に設けられ、更に、これ等の上にガラス等の絶縁体が配置された構造を有している。そして、ガラス等の上記絶縁体に指を近づけたとき、その近傍のX座標検知電極、Y座標検知電極の電気容量が変化するため、位置検知を行なえる仕組みとなっている。
【0004】
上記「静電容量型のタッチパネル」では、入力操作を指で行なうことが多いため、検知電極(透明電極)のサイズは指サイズよりやや小さめに設定され、多くは5mm程度の矩形状に形成されている。そして、X座標検知電極(透明電極)とY座標検知電極(透明電極)は、これ等電極サイズより細長い配線パターン形状の透明配線部を介して電気的に繋がった構造になっている。以下、説明を簡略化するため、X軸方向に2本の回路を有し、Y軸方向に1本の回路を有した簡単な構造体(2×1)を図1に示す。上記X座標検知電極(透明電極)、Y座標検知電極(透明電極)および透明配線部で構成された図1に示す構造体(2×1)において、例えば、上下方向に配列されたY座標検知電極(透明電極)に透明配線部を介して交流を流すと、左右方向に配列されたX座標検知電極(透明電極)にも少しの交流電流が検知される。そして、電極の近くに指等の導電体を近づけるとキャパシタが構成され、その近くの電極同士の結合が強くなって流れる電流が多くなるため、位置の同定が可能となる。このような構造体において、矩形状をした検知電極(透明電極)のサイズは指サイズよりやや小さい程度でよく、これ以上の過度な分解能を要しない。そして、矩形状をした検知電極(透明電極)のサイズは、上述したように、通常、1辺5mm程度である。
【0005】
ところで、ガラス等の透明基板と、基板上に設けられたX座標検知電極(透明電極)並びにY座標検知電極(透明電極)と、これ等電極を電気的に繋げる配線パターン形状の透明配線部とで構成されるタッチパネル用構造体の概略拡大斜視図を図2に示す。
【0006】
尚、タッチパネル用構造体を簡略化するため、図2においては、片方の透明電極(例えばX座標検知電極)のみを示している。
【0007】
そして、図2に示すタッチパネル用構造体に対し、例えば真上から光が照射されたときのタッチパネル用構造体からの反射を検討する。すなわち、図3の符号丸1と丸2で示すように、真上から光が照射されたときの透明導電膜(例えば、ITOにより構成された透明電極や透明配線部)と透明基板(例えばSiO2により構成)からの反射を考えた場合、透明導電膜を構成するITOの屈折率は約2程度、透明基板を構成するSiO2の屈折率は1.6程度であることから、透明導電膜と透明基板とで反射率は異なる。
【0008】
すなわち、透明導電膜と透明基板の各反射率(R)は以下の数式により求められる。
【0009】
反射率(R)=(n0−n12/(n0+n12
ここで、上記n0は第一媒体(例えば空気なら屈折率は1)の屈折率、上記n1は第二媒体(図3に示すタッチパネル用構造体では、透明導電膜を構成するITOおよび透明基板を構成するSiO2)の屈折率である。
【0010】
そして、ITOで構成された透明導電膜からの反射量と、SiO2で構成された下地部である透明基板からの反射量が異なるため、上記タッチパネル用構造体を真上から見た場合、ITOで構成された透明導電膜の外縁部が際立って見えてしまう。
【0011】
特に、美しい画像が表示される表示装置の表面にタッチパネル用構造体が組み込まれているような場合、ITOで構成される透明導電膜(透明電極や透明配線部)の存在が視認されて目障になるため、表示装置の視野が妨害されてしまう問題を生ずる。
【0012】
そこで、この問題を回避するため、従来からいくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1には、タッチパネル用構造体のフィルム基材(透明基板)にアンダーコート層を設け、このアンダーコート層を介して透明導電膜(ITO)が形成されることを特徴とした透明導電性フィルムが開示されている。しかし、光学薄膜理論に基づいたこの手法、すなわち、透明導電膜(ITO)の下地に数層の誘電体層(アンダーコート層)を積層する手法は、透明導電膜の膜厚を制限してしまい電気抵抗の調整が困難となる問題を有していた。特に、透明導電膜の膜厚が薄くなる程、電気抵抗が大きくなるため、電気抵抗の調整は極めて困難であった。透明導電膜以外の反射率調整用膜についても、同様に、実効的膜厚に制限ができてしまう。更に、多層の膜(アンダーコート層)を形成することは、広幅フィルム上への成膜、高速成膜に大きな制約となるため、歩留まり低下の原因になる問題も有している。
【0013】
また、特許文献2では、透明基板上に透明導電膜を一様に成膜し、かつ、この透明導電膜に対し、導電性を必要としない部分にレーザー光を照射してその部位を絶縁膜化し、これにより屈折率が近似しかつ凹凸差のない透明電極基板(タッチパネル用構造体)を製造する方法が開示されている。しかしこの方法では、導電膜として使用しない部分にも導電膜と同じ材料が用いられるためコスト面で問題があった。また、大面積の透明導電膜に対してレーザー光を照射する処理工程は生産性に劣るため、生産面での問題もあった。
【0014】
更に、特許文献3では、透明基板上に設けた酸化亜鉛膜(透明導電膜)におけるパターン端面の形状が、透明電極面に対し45度以下の傾きを持つ積層体(タッチパネル用構造体)を開示している。しかし、透明電極の膜厚が薄くなるにつれて、連続的に厚さを変化させて45度以下の傾きを持たせる加工は困難が伴うため、加工面で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−076432号公報
【特許文献2】特開平06−202126号公報
【特許文献3】特開2010−158786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、タッチパネル用構造体として適用された際に透明電極や透明配線部等を構成する透明導電膜の存在に起因して表示装置の視野が妨害されてしまう弊害を解消できる透明導電膜構造体とその製造方法およびタッチパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記課題を解決するため本発明者が鋭意研究を行なったところ、透明電極や透明配線部等を構成する透明導電膜の外縁近傍領域に、透明導電膜を貫通しかつ外縁と平行に設けられた複数のスリット群と非スリット群とで構成される屈折率緩衝部を形成した場合、透明導電膜の外縁部が目立たなくなることを見出すに至った。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
透明基板と、この透明基板上に設けられた回路パターン形状を有する透明導電膜とで構成される透明導電膜構造体において、
上記透明導電膜の外縁近傍領域に、透明導電膜を貫通すると共に上記外縁と平行に設けられた複数のスリット群と非スリット群とで構成された屈折率緩衝部を有しており、この屈折率緩衝部は、その幅方向に亘って上記外縁と平行でかつ幅寸法が互いに同一の単位領域により区画されており、上記屈折率緩衝部における単位領域の屈折率が、透明基板と略同一の屈折率を有する最外側の単位領域から透明導電膜と略同一の屈折率を有する最内側の単位領域に向かって連続的に変化していることを特徴とする。
【0019】
但し、上記透明導電膜の外縁と垂直な方向を屈折率緩衝部並びに単位領域の幅方向とし、かつ、各単位領域の屈折率は以下に定める「空間屈折率」とする。
【0020】
「空間屈折率」=
(透明導電膜の屈折率)×(単位領域内の非スリット部総面積/単位領域総面積)
+(透明基板の屈折率)×(単位領域内のスリット部総面積/単位領域総面積)
【0021】
次に、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る透明導電膜構造体において、
各単位領域の上記幅寸法が、0.1mm以下に設定されていることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1〜2のいずれかに記載の発明に係る透明導電膜構造体において、
上記屈折率緩衝部の幅方向外側から内側へ向かうに従い、各単位領域内における非スリット部総面積の割合が連続的に大きくなるように設定されていることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る透明導電膜構造体において、
上記屈折率緩衝部の幅寸法が、0.1mmを越え3mm以下に設定されていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る透明導電膜構造体において、
上記単位領域における非スリット部の幅方向の縦断面構造が、略矩形状を有していることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係る透明導電膜構造体において、
上記透明導電膜がITOであることを特徴とする。
【0022】
次に、請求項7に係る発明は、
請求項1に記載の透明導電膜構造体の製造方法において、
化学エッチング法によりスリット群と非スリット群とで構成される屈折率緩衝部を形成することを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
静電容量型タッチパネルにおいて、
請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜構造体が適用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
透明基板とこの透明基板上に設けられた回路パターン形状を有する透明導電膜とで構成される本発明に係る透明導電膜構造体は、
上記透明導電膜の外縁近傍領域に、透明導電膜を貫通すると共に上記外縁と平行に設けられた複数のスリット群と非スリット群とで構成された屈折率緩衝部を有しており、この屈折率緩衝部は、その幅方向に亘って上記外縁と平行でかつ幅寸法が互いに同一の単位領域により区画されており、上記屈折率緩衝部における単位領域の屈折率が、透明基板と略同一の屈折率を有する最外側の単位領域から透明導電膜と略同一の屈折率を有する最内側の単位領域に向かって連続的に変化していることを特徴としており、透明導電膜の外縁近傍領域に設けられた上記屈折率緩衝部の作用により透明導電膜の外縁部が目立ち難くなる効果を有している。
【0024】
また、本発明に係る透明導電膜構造体の製造方法は、
スリット群と非スリット群とで構成される屈折率緩衝部を化学エッチング法により形成することを特徴としており、上記屈折率緩衝部を形成するときのエッチング処理と、透明導電膜の回路パターンを形成成するときのエッチング処理とを同時に行なうことが可能なため、作業工数を増やす必要がない効果を有している。
【0025】
更に、本発明に係る透明導電膜構造体においては、屈折率緩衝部の作用により透明導電膜の外縁部が目立ち難いため、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表面に組み込まれるタッチパネル用構造体として適用した場合、透明導電膜の存在に起因して表示装置の視野が妨害されてしまう弊害を解消できる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】静電容量型タッチパネル用構造体の作用を示す概略説明図。
【図2】タッチパネル用構造体の概略拡大斜視図。
【図3】図2に示すタッチパネル用構造体の概略断面図。
【図4】実施の形態に係る透明導電膜構造体の屈折率緩衝部における構成を示す幅方向の縦断面図。
【図5】他の実施の形態に係る透明導電膜構造体の屈折率緩衝部における構成を示す幅方向の縦断面図。
【図6】屈折率緩衝部が形成された透明導電膜構造体の部分拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
ITO(Indium tin oxide)等で構成された透明導電膜は、文字通り透明であることから目に見えない膜であるが、実際に透明基板上に成膜してパターン等を形成した場合、透明導電膜と基板との屈折率の差により反射率が異なるため形成された回路パターン等が視認されてしまう。
【0029】
このため、透明電極や透明配線部等の回路パターン形状を有する透明導電膜と透明基板とで構成される透明導電膜構造体について、この構造体を、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表面に組み込まれるタッチパネル用構造体として適用した場合、表示装置に表示された画面と、透明導電膜構造体における透明導電膜の回路パターン(すなわち、透明電極や透明配線部等の回路パターン)が重なって視覚されてしまうことから、視認性に問題があった。
【0030】
そこで、上記問題を解決する本発明に係る透明導電膜構造体においては、透明導電膜の外縁近傍領域に、透明導電膜を貫通しかつ外縁と平行に設けられた複数のスリット群と非スリット群とで構成される屈折率緩衝部が設けられている。尚、上記屈折率緩衝部のスリット群と非スリット群は、透明基板上に設けられた透明導電膜の外縁近傍を化学エッチング法等によりエッチング加工して形成されている。
【0031】
そして、上記屈折率緩衝部は、その幅方向に亘って上記外縁と平行でかつ幅寸法が互いに同一の単位領域により区画されており、上記屈折率緩衝部における単位領域の屈折率が、透明基板と略同一の屈折率を有する最外側の単位領域から透明導電膜と略同一の屈折率を有する最内側の単位領域に向かって連続的に変化していることを特徴とする。
【0032】
ここで、上記透明導電膜の外縁と垂直な方向を屈折率緩衝部並びに単位領域の幅方向としており、かつ、各単位領域の屈折率は以下に定める「空間屈折率」とする。
【0033】
「空間屈折率」=
(透明導電膜の屈折率)×(単位領域内の非スリット部総面積/単位領域総面積)
+(透明基板の屈折率)×(単位領域内のスリット部総面積/単位領域総面積)
【0034】
ところで、人間の目で知覚可能な幅寸法は約0.1mmと言われている。このため、幅寸法がそれぞれ0.1mm以下に設定された単位領域で屈折率緩衝部をその幅方向に亘って区画した場合、各単位領域の屈折率は、上記「スリット部」と「非スリット部」の屈折率(すなわち、透明基板と透明導電膜の屈折率)の算術平均として表すことができる。すなわち、屈折率緩衝部の屈折率は、「非スリット部」の透明導電膜と「スリット部」の透明基板との中間の屈折率(すなわち、上記定義された「空間屈折率」)をとる。
【0035】
そして、屈折率緩衝部における幅方向のより内側に位置する単位領域において透明導電膜である「非スリット部」の割合を多くし、反対に、屈折率緩衝部における幅方向のより外側に位置する単位領域において透明基板である「スリット部」の割合を増やすことで、透明導電膜から透明基板に向かって「空間屈折率」を徐々に変化させることができる。
【0036】
ここで、上記「空間屈折率」が、透明導電膜における屈折率の値から透明基板における屈折率の値に向かって滑らか(連続的)に変化する調整方法を説明する。
【0037】
まず、透明基板上に高屈折率の透明導電膜が形成された場合、上記高屈折率部(屈折率=nH)から低屈折率部(屈折率=nL)まで屈折率が線形に減少する範囲(すなわち、屈折率緩衝部)をL0とする。
【0038】
そして、この範囲(屈折率緩衝部)がN等分に区画されると、各区間(単位領域)の幅寸法はL0/Nとなり、区間(単位領域)kにおける「空間屈折率」をnkとすると、
k=nH−(nH―nL)・k/N (但し、k=0,1,2,……,N)
となる。
【0039】
そして、区間(単位領域)kにおける高屈折率部(屈折率=nH)の幅寸法(非スリット部の幅寸法)bk、低屈折率部(屈折率=nL)の幅寸法(スリット部の幅寸法)akとすると、
k=[(N−k)/N]×(L0/N)
k=(k/N)×(L0/N)
k+bk=L0/N:定数
となり、この関係を満たした透明導電膜構造体の「屈折率緩衝部」を図4に示す。
【0040】
また、「空間屈折率」を連続的に変化させるための調整方法(すなわち、屈折率分布の形成方法)については、図4に示す方法以外にもいろいろあり、例えば、図5に示すように、幅wの低屈折率部(スリット部)を1区間に複数個分布させる方法が挙げられる。
【0041】
また、スリット部と非スリット部とで構成される単位領域の断面形状(すなわち、単位領域における非スリット部の幅方向の縦断面形状)については特に制限はないが、加工のし易さを考慮した場合、略矩形状であることが望ましい。また、上記単位領域の幅寸法については、目で知覚できないように0.1mm以下であることが好ましい。
【0042】
次に、上記屈折率緩衝部を単位領域で区切ってみたとき、その「空間屈折率」の変化は滑らか(連続的)に変化することが重要である。このため、隣接する単位領域における「空間屈折率」の差は小さい方が好ましく、通常0.3以下であり、0.1以下であるとより好ましい。更に、屈折率緩衝部における幅方向の最内側における単位領域の屈折率(透明導電膜の屈折率と略同一)から最外側における単位領域の屈折率(透明基板の屈折率と略同一)まで直線的に変化すると、「空間屈折率」の変化が最も平均化されるためより一層好ましい。
【0043】
また、透明導電膜の外縁近傍領域に形成される上記屈折率緩衝部の幅寸法に関しては、0.1mmを越え3mm以下であることが好ましい。幅寸法が0.1mm以下であると、透明導電膜と透明基板との屈折率差が大きい場合に屈折率緩衝部として十分に機能し得ないことがあるからである。また、幅寸法が3mmを越えると、形成される回路パターンの幅に影響を及ぼす場合があるからである。
【0044】
ここで、透明電極を構成する透明導電膜の外縁近傍領域に上記屈折率緩衝部が形成された透明導電膜構造体の一例を図6(A)に示す。尚、この透明導電膜構造体においては、相対向する透明電極の隙間部分(透明電極の外側近傍部位)に上記屈折率緩衝部が形成された構造になっているが、各透明電極の大きさや抵抗値に余裕がある場合には、上記隙間部分に代えて透明電極内側の外縁近傍領域に上記屈折率緩衝部を形成してもよい。更に、図6(B)に示すように上記屈折率緩衝部の各単位領域が接続部を介して互いに電気的に繋がっている構造を採用してもよい。このような構造を採ることで電気量を稼ぐ効果を得ることが可能となる。
【0045】
次に、透明導電膜を構成する材料ついては特に限定されないが、高い透明性と導電性を有するITO(Indium tin oxide)であることが好ましい。また、上記スリット群と非スリット群とで構成される屈折率緩衝部を形成する方法も原則として任意であるが、化学エッチング法により形成することが好ましい。通常、透明導電膜に回路パターン(すなわち、透明電極や透明配線部等の回路パターン)を形成する場合、透明基板上に透明導電膜を一様に形成した後、化学エッチングにより回路を形成することが多い。このため、化学エッチングを用いれば、上記回路パターンを形成すると同時に屈折率緩衝部も形成できることから、処理工程が増えない分、好ましい。そして、化学エッチングに適用されるエッチング剤は、エッチングされる透明導電膜の材質に合わせて適宜選択される。
【0046】
このようにして得られた屈折率緩衝部を有する透明導電膜構造体は、上記屈折率緩衝部の作用により透明導電膜の外縁部が目立ち難いことから、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表面に組み込まれるタッチパネル用構造体として適用された場合、透明導電膜の存在に起因して表示装置の視野が妨害される弊害を解消できるため、例えば、静電容量型タッチパネルに好適に用いられる利点を有している。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0048】
[実施例1]
透明導電膜材料としてITOを使用し、ガラス基板上にスパッタリング法にてITO膜の厚さが約1μmとなるように一様に成膜した。尚、ITO膜の屈折率は2.0、透明基板を構成するガラスの屈折率は1.4であった。
【0049】
次に、一様に成膜された上記ITO膜上に以下に示すパターン加工を可能とするマスクを形成し、このマスクを介し化学エッチング処理して回路パターン形状の「透明導電膜」と、この「透明導電膜」の外縁近傍領域に複数のスリット群と非スリット群とで構成されかつ幅寸法が互いに同一の「単位領域」により区画された「屈折率緩衝部」を形成した。
【0050】
尚、上記「屈折率緩衝部」の幅寸法を1mm(=1000μm)に設定し、かつ、この「屈折率緩衝部」を幅方向に亘り10等分に区画して各「単位領域」の幅寸法を0.1mm(=100μm)に設定すると共に、各「単位領域」は図4に示したように一対の「非スリット部」と「スリット部」とで構成している。
【0051】
また、上記「屈折率緩衝部」における幅方向最内側の「単位領域」について幅寸法90μmの「非スリット部」と幅寸法10μmの「スリット部」とで構成し、これに隣接する「単位領域」について幅寸法80μmの「非スリット部」と幅寸法20μmの「スリット部」とで構成し、以下、幅方向最外側へ向かうに従って「非スリット部」の幅寸法を10μmずつ狭く(「スリット部」の幅寸法は10μmずつ広く)して「屈折率緩衝部」を形成した。
【0052】
また、化学エッチング処理のエッチング液としては、0.1重量%のKHSO4に対し10重量%のHNO3と0.5重量%のH22および水を添加したものを使用した。
【0053】
そして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例1に係る透明導電膜構造体を目視で観察したところ、上記「屈折率緩衝部」の作用により透明導電膜の端部を視認することはできなかった。
【0054】
[実施例2]
上記「屈折率緩衝部」の幅寸法を0.2mm(=200μm)に設定し、「屈折率緩衝部」を幅方向に亘り10等分に区画して各「単位領域」の幅寸法を0.02mm(=20μm)に設定している点を除き実施例1と略同様にして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例2に係る透明導電膜構造体を製造した。
【0055】
尚、この透明導電膜構造体においても、図4に示す一対の「非スリット部」と「スリット部」とで各「単位領域」が構成されている。
【0056】
また、「屈折率緩衝部」における幅方向最内側の「単位領域」について幅寸法18μmの「非スリット部」と幅寸法2μmの「スリット部」とで構成し、これに隣接する「単位領域」について幅寸法16μmの「非スリット部」と幅寸法4μmの「スリット部」とで構成し、以下、幅方向最外側へ向かうに従って「非スリット部」の幅寸法を2μmずつ狭く(「スリット部」の幅寸法は2μmずつ広く)して「屈折率緩衝部」を形成した。
【0057】
そして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例2に係る透明導電膜構造体を目視で観察したところ、実施例1と同様、「屈折率緩衝部」の作用により透明導電膜の端部を視認することはできなかった。
【0058】
[実施例3]
上記「屈折率緩衝部」の幅寸法を2mm(=2000μm)に設定し、かつ、「屈折率緩衝部」を幅方向に亘り20等分に区画して各「単位領域」の幅寸法を0.1mm(=100μm)に設定すると共に、「屈折率緩衝部」における幅方向最内側の「単位領域」については幅寸法5μmである1個の「スリット部」と残り1個の「スリット部」とで構成し、これに隣接する「単位領域」については幅寸法5μmである2個の「スリット部」と残り2個の「スリット部」とで構成し、以下、幅方向最外側へ向かうに従い幅寸法5μmの「スリット部」を順次1個ずつ増やす図5に示した構造を採用している点を除き実施例1と略同様にして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例3に係る透明導電膜構造体を製造した。
【0059】
そして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例3に係る透明導電膜構造体を目視で観察したところ、実施例1と同様、「屈折率緩衝部」の作用により透明導電膜の端部を視認することはできなかった。
【0060】
[実施例4]
上記「屈折率緩衝部」の幅寸法を3mm(=3000μm)に設定し、幅寸法が0.1mm(=100μm)の「単位領域」により「屈折率緩衝部」を区画すると共に、「屈折率緩衝部」における幅方向最内側の「単位領域」については幅寸法が6μmである1個の「スリット部」と幅寸法が94μmである1個の「非スリット部」とで構成し、これに隣接する「単位領域」については上記幅寸法(6μm)の1.1倍(6μm×1.1)である1個の「スリット部」と残り寸法(100μm−6μm×1.1)である1個の「非スリット部」とで構成し、以下、幅方向最外側へ向かうに従って「スリット部」の幅寸法を順次1.1倍に増加させた図4に示す構造を採用している点を除き実施例1と略同様にして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例4に係る透明導電膜構造体を製造した。
【0061】
そして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される実施例4に係る透明導電膜構造体を目視で観察したところ、実施例1と同様、「屈折率緩衝部」の作用により透明導電膜の端部を視認することはできなかった。
【0062】
[比較例1]
上記「屈折率緩衝部」における幅方向最外側の「単位領域」について幅寸法90μmの「非スリット部」と幅寸法10μmの「スリット部」とで構成し、これに隣接する「単位領域」について幅寸法80μmの「非スリット部」と幅寸法20μmの「スリット部」とで構成し、以下、幅方向最内側へ向かうに従って「非スリット部」の幅寸法を10μmずつ狭く(「スリット部」の幅寸法は10μmずつ広く)して「屈折率緩衝部」を形成している点(すなわち、実施例1の「屈折率緩衝部」とは逆パターン)を除き実施例1と略同様にして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される比較例1に係る透明導電膜構造体を製造した。
【0063】
そして、ガラス基板とITOの透明導電膜とで構成される比較例1に係る透明導電膜構造体を目視で観察したところ、比較例1の「屈折率緩衝部」は、実施例1の「屈折率緩衝部」とは異なる逆パターンに設定されて実施例1の「屈折率緩衝部」と同様に作用しないため、透明導電膜の端部が視認されるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る透明導電膜構造体によれば、屈折率緩衝部の作用により透明導電膜の外縁部が目立ち難いことから、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表面に組み込まれるタッチパネル用構造体として適用された場合、透明導電膜の存在に起因して表示装置の視野が妨害される弊害を解消できる。従って、例えば、静電容量型タッチパネルに適用される産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、この透明基板上に設けられた回路パターン形状を有する透明導電膜とで構成される透明導電膜構造体において、
上記透明導電膜の外縁近傍領域に、透明導電膜を貫通すると共に上記外縁と平行に設けられた複数のスリット群と非スリット群とで構成された屈折率緩衝部を有しており、この屈折率緩衝部は、その幅方向に亘って上記外縁と平行でかつ幅寸法が互いに同一の単位領域により区画されており、上記屈折率緩衝部における単位領域の屈折率が、透明基板と略同一の屈折率を有する最外側の単位領域から透明導電膜と略同一の屈折率を有する最内側の単位領域に向かって連続的に変化していることを特徴とする透明導電膜構造体。
但し、上記透明導電膜の外縁と垂直な方向を屈折率緩衝部並びに単位領域の幅方向とし、かつ、各単位領域の屈折率は以下に定める「空間屈折率」とする。
「空間屈折率」=
(透明導電膜の屈折率)×(単位領域内の非スリット部総面積/単位領域総面積)
+(透明基板の屈折率)×(単位領域内のスリット部総面積/単位領域総面積)
【請求項2】
各単位領域の上記幅寸法が、0.1mm以下に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜構造体。
【請求項3】
上記屈折率緩衝部の幅方向外側から内側へ向かうに従い、各単位領域内における非スリット部総面積の割合が連続的に大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の透明導電膜構造体。
【請求項4】
上記屈折率緩衝部の幅寸法が、0.1mmを越え3mm以下に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜構造体。
【請求項5】
上記単位領域における非スリット部の幅方向の縦断面構造が、略矩形状を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜構造体。
【請求項6】
上記透明導電膜がITOであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜構造体。
【請求項7】
請求項1に記載の透明導電膜構造体の製造方法において、
化学エッチング法によりスリット群と非スリット群とで構成される屈折率緩衝部を形成することを特徴とする透明導電膜構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜構造体が適用されていることを特徴とする静電容量型タッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−25616(P2013−25616A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160854(P2011−160854)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】