説明

透明性樹脂組成物

【課題】 透明性、耐熱性、靱性、及び溶融加工性に優れ、光学用材料として好適に用いることのできる透明性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 数平均分子量が1×10以上5×10以下である特定の構造を有するN−置換マレイミド・オレフィン共重合体50〜99重量%、及び、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にスチレン・アクリロニトリル共重合体をグラフト化してなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム50〜1重量%からなる透明性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体及びスチレン・アクリロニトリル共重合体によりグラフト化してなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムよりなる組成物に関するものであり、特に透明性、耐熱性、靱性及び溶融加工性に優れた透明性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから光学材料として無機ガラスが使用されてきたが、近年、成形性、軽量性に優れた透明樹脂が無機ガラスに代わる光学材料として使用されている。光学部品の樹脂化は、近年の光を利用した情報関連技術の発展を反映して、例えばLCDなどのフラットパネルディスプレイ用フィルム及びシート、バックライトの導光板、光ディスク、光ファイバー、光導波路などの分野で盛んに検討されている。また、光学以外の分野、例えば電気・電子分野、自動車分野、医療分野、食品包装分野、建設資材分野などでも透明樹脂は広く使用されている。
【0003】
このような透明樹脂としては、例えばポリスチレン(以下、PSと略記する。)、ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと略記する。)、ポリカーボネート(以下、PCと略記する。)、ナイロンなどが挙げられる。
【0004】
一方、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、透明性、低複屈折性、耐熱性、機械強度などに優れるといった特徴を有していることが開示されている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
また、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体及びエラストマーからなる樹脂組成物が、透明性、耐熱性、靱性などに優れるといった特徴を有していることが開示されている(例えば特許文献2参照。)。
【0006】
更に、N−アルキル基置換マレイミド・オレフィン共重合体及びスチレン・アクリロニトリル共重合体からなる樹脂組成物が提案されており、耐熱性に優れ、非常に複屈折が小さいため、光学用途に適した特徴を有していることが開示されている(例えば特許文献3参照。)。
【0007】
また、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂などのスチレン系耐衝撃性樹脂の存在下でスクシンイミド樹脂組成物を製造する方法が開示されている(例えば特許文献4参照。)。
【0008】
【特許文献1】特許第3168466号公報
【特許文献2】特許第3214003号公報
【特許文献3】特許第3414083号公報
【特許文献4】特開2002−3528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、PS、PMMA、およびそれらを含む共重合体や樹脂組成物は透明性に優れるものの耐熱性、靱性が乏しいため、使用できる用途が限定される。また、PCは比較的高い耐熱性を示し靱性も優れるが、複屈折が生じ易いため、光学用途において問題となる場合があり、表面硬度が低く傷つきやすいなどの課題がある。ナイロンは耐熱性、靱性に優れるが、吸水性が高く、剛性、表面硬度が低いなどの問題がある。
【0010】
特許文献1及び3に提案されているN−置換マレイミド・オレフィン共重合体、及び樹脂組成物は、透明性が高く、耐熱性、表面硬度、剛性が優れるなどの特徴を有するが、靱性が乏しいため、成形時あるいは成形後のハンドリング性などに課題が残った。
【0011】
特許文献2に提案されている樹脂組成物は、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体及び該共重合体との屈折率差が0.01以内であるエラストマーとからなり、高い透明性が得られるが、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体中におけるエラストマーの分散粒子径、及び分散状態を良好なものとするための方法については何ら記載されておらず、必ずしも満足な透明性が得られないことが課題であった。
【0012】
特許文献4は、品質に優れたスクシンイミド樹脂組成物を生産効率良く製造する方法に関するものであり、スクシンイミド樹脂組成物の透明性及び靱性とスチレン系樹脂との関連性については何ら記載されておらず、場合によっては不透明になることもあった。
【0013】
そこで、本発明は、透明性、耐熱性、靱性及び溶融加工性に優れた透明性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に関し、鋭意検討した結果、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体及び特定の分子構造を有するグラフト変性ゴムからなる樹脂組成物が高い透明性を有し、耐熱性、靱性に優れ、さらに溶融加工性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記一般式(I)で示される単位40〜60モル%と下記一般式(II)で示される単位60〜40モル%からなり、数平均分子量が1×10以上5×10以下であるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体50〜99重量%、及び、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にスチレン・アクリロニトリル共重合体をグラフト化してなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム50〜1重量%からなることを特徴とする透明性樹脂組成物に関するものである。
【0016】
【化1】

(ここで、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種以上の有機基を示す。)
【0017】
【化2】

(ここで、R2、R3は各々独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の透明性樹脂組成物を構成するN−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、上記一般式(I)で示される単位40〜60モル%及び上記一般式(II)で示される単位60〜40モル%からなる共重合体であり、数平均分子量1×10以上5×10以下を有するN−置換マレイミド・オレフィン共重合体である。
【0019】
一般式(I)で示される単位のR1は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種以上の有機基であり、これら以外の有機基を有する単位である場合、得られる樹脂組成物の透明性が劣るものとなる。
【0020】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1,2−ジメチルプロピル基等を挙げることができ、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等を挙げることができ、特に耐熱性、靱性のバランスに優れる樹脂組成物となることから一般式(I)で示される単位のR1はメチル基、シクロヘキシル基であることが好ましい。
【0021】
また、一般式(II)で示される単位のR2及びR3は、各々独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、炭素数が6を超える場合、得られる樹脂組成物の耐熱性が劣るものとなる。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができ、その中でも、特に耐熱性、靱性のバランスに優れる樹脂組成物となることからメチル基であることが好ましい。
【0022】
そして、このようなN−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、例えば一般式(I)で示される単位を誘導するマレイミド類と一般式(II)で示される単位を誘導するオレフィン類とのラジカル共重合反応により得ることができる。
【0023】
その際、一般式(I)で示される単位を誘導するマレイミド類としては、例えばN−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド等が例示され、特に耐熱性、靱性のバランスに優れる樹脂組成物が得られることからN−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドであることが好ましい。
【0024】
一般式(II)で示される単位を誘導する化合物としては、例えばイソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン等のオレフィン類が例示でき、このうち特に耐熱性、靱性のバランスに優れる樹脂組成物となることからイソブテンが好ましい。
【0025】
また、本発明に用いられるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体を構成する一般式(I)に示される単位は40〜60モル%の範囲であり、特に耐熱性、靱性のバランスに優れる樹脂組成物となることから45〜55モル%であることが好ましい。ここで、一般式(I)に示される単位が60モル%を越える場合、得られる樹脂組成物は脆くなる。一方、40モル%未満の場合、樹脂組成物の耐熱性が低下する。
【0026】
本発明に用いられるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、数平均分子量が1×10以上5×10以下であり、特に靱性と溶融加工性のバランスに優れる樹脂組成物となることから1×10以上5×10以下であることが好ましい。ここで、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体の数平均分子量が5×10を超える場合、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体の溶融粘度が高くなりすぎるため、樹脂組成物の流動性が乏しくなり、溶融加工性が劣るものとなる。一方、数平均分子量が1×10未満の場合、樹脂組成物の靱性が乏しくなる。ここで、本発明における数平均分子量とは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により求めた標準ポリスチレン換算値のことである。
【0027】
本発明に用いられるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、特に耐熱性、靱性のバランスに優れた樹脂組成物となることから、N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体、N−シクロヘキシルマレイミド・イソブテン共重合体より選ばれる少なくとも1種以上のN−置換マレイミド・オレフィン共重合体であることが好ましい。
【0028】
更に、本発明に用いられるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、必要に応じ本発明の目的を損なわない範囲で他のモノマー成分より誘導される単位を含有するものであってもよく、そのような他のモノマー成分としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸又はそのエステル類;アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸又はそのエステル類;酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピオビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;無水マレイン酸;アクリロニトリルより選ばれる1種以上の化合物が挙げられ、その含有率としては5モル%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明に用いられるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、一般式(I)で示される単位を誘導する化合物及び一般式(II)で示される単位を誘導する化合物を公知の方法により重合することで得ることができる。このような重合方法として、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの方法によっても得ることができ、その中でも特に透明性、色調に優れる樹脂組成物が得られることから沈殿重合法により得られるものであることが好ましい。
【0030】
重合反応の際に用いる重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0031】
溶液重合法、沈殿重合法において用いられる溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;シクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、酢酸イソプロピル、芳香族系溶媒とアルコール系溶媒の混合溶媒などが挙げられる。
【0032】
その際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができるが、一般的には40〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0033】
また、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体は、別法として無水マレイン酸・オレフィン共重合体をアミン化合物を用いて、後イミド化することによっても得ることができる。
【0034】
このような後イミド化反応は、例えば無水マレイン酸・オレフィン共重合体をメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール溶媒;ベンゼン、トルエンなどの芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶媒;芳香族系溶媒とアルコール系溶媒の混合溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの溶媒に溶解あるいは分散させ、アミン化合物と50〜250℃の温度で反応させることによりアミド化反応とイミド化反応を連続的に行う方法、アミン化合物と反応させてアミド体を得た後、該アミド体を加熱して脱水閉環させ、イミド化を行う方法等により製造することができる。
【0035】
アミン化合物としては、例えばメチルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アダマンチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、i−プロピルアミン、i−ブチルアミン、s−ブチルアミン、t−ブチルアミン、1,2−ジメチルプロピルアミンなどが挙げられ、その中でも特に耐熱性、靱性のバランスに優れる樹脂組成物となることから、一般式(I)で示される単位を誘導するアミン化合物としてメチルアミン、シクロヘキシルアミンが好ましい。
【0036】
本発明の透明性樹脂組成物を構成するグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムは、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にスチレン・アクリロニトリル共重合体をグラフト重合してなるグラフト共重合体ゴムである。該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子に該スチレン・アクリロニトリル共重合体をグラフト重合することにより、該グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムと該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体の相溶性が向上し、その結果、該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体中における該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子の分散性が良好なものとなり、その結果として透明性、靱性に優れる樹脂組成物となるものである。なお、ゴム粒子が1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子以外のゴム粒子である場合、得られる樹脂組成物は靱性に劣るものとなる。
【0037】
ここで、グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムを構成する1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子は、透明性樹脂組成物とした際の耐熱性、靱性がより優れたものとなることから、部分的に架橋されたものであることがより好ましい。さらに、該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子は、多官能性ビニルモノマー、すなわちエチレン性不飽和結合を複数個有するモノマーを共重合させたものであっても良く、一般的に、多官能性ビニルモノマーを用いた場合、ゴム粒子の架橋、あるいはグラフト反応が容易となり、樹脂組成物の靱性がより優れたものとなる。
【0038】
また、透明性と靱性に特に優れた樹脂組成物となることから該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子の平均粒子径は0.01〜1μmの範囲にあることが好ましく、特に0.05〜0.8μmの範囲にあることが好ましい。さらに、特に透明性に優れる樹脂組成物となることからN−置換マレイミド・オレフィン共重合体の屈折率に対し、屈折率差が絶対値として0.02以下の1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子であることが好ましく、特に0.01以下の1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子であることが好ましい。
【0039】
該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子における1,3−ブタジエン単量体残基単位とスチレン単量体残基単位の割合は任意であり、その中でも、該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体の屈折率に対し、屈折率差のより小さい1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子となり、特に高い透明性、靱性を有する樹脂組成物となることから、1,3−ブタジエン単量体残基単位/スチレン単量体残基単位=95/5〜70/30(重量%)であることが好ましい。
【0040】
該グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムは、一般的なグラフト共重合体の製造方法として知られている方法により製造することが可能である。例えば上記した1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子、スチレン単量体、アクリロニトリル単量体、ラジカル重合開始剤、溶媒等を仕込み、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法などにより製造する方法が挙げられ、該重合方法の中でも特にグラフト共重合体の製造が容易となることから乳化重合法が好ましい。また、その際に得られるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムは、本発明の目的を実施できる限りにおいて、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子に枝として結合しないスチレン・アクリロニトリル共重合体が混入しているものであってもよい。
【0041】
該グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムにおける1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子、スチレン・アクリロニトリル共重合体の割合は、特に透明性、耐熱性、靱性、溶融加工性のバランスに優れた樹脂組成物となることから、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子20〜95重量%、スチレン・アクリロニトリル共重合体5〜80重量%であることが好ましい。
【0042】
また、スチレン・アクリロニトリル共重合体におけるスチレン単量体残基単位とアクリロニトリル単量体残基単位の割合は任意であり、その中でも、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体とスチレン・アクリロニトリル共重合体の相溶性が優れ、特に高い透明性、靱性を有する樹脂組成物となることから、スチレン単量体残基単位/アクリロニトリル単量体残基単位=60/40〜85/15(重量%)であることが好ましい。
【0043】
本発明の透明性樹脂組成物は、該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体50〜99重量%及び該グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム50〜1重量%からなるものであり、特に耐熱性、靱性、溶融加工性のバランスに優れた透明性樹脂組成物となることから該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体60〜99重量%及び該グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム40〜1重量%からなるものであることが好ましい。ここで、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体が50重量%未満である場合、透明性樹脂組成物の耐熱性、流動性が著しく乏しくなり、溶融成形加工が困難となる場合がある。一方、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体が99重量%を超える場合、樹脂組成物の靱性が乏しくなる。さらに、本発明の透明性樹脂組成物は、特に成形加工性にも優れたものとなることから、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体及びグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムの合計量100重量部に対し、スチレン・アクリロニトリル共重合体1〜60重量部を配合したものであってもよい。
【0044】
本発明の透明性樹脂組成物は、特に透明性、靱性、溶融加工性に優れた樹脂組成物となることから、さらに、該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体100重量部に対し、可塑剤1〜30重量部を含んでなることが好ましく、該可塑剤としては、例えばポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、リン酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤等が挙げられる。
【0045】
ポリエステル系可塑剤としては、一般的にポリエステル系可塑剤として知られているもので良く、例えば脂肪族多塩基酸及び/又は芳香族多塩基酸とポリオールとを縮重合したものが挙げられ、さらに末端キャッピング剤で末端エステル化されたものであっても良い。
【0046】
脂肪族多塩基酸としては、炭素数2〜20の脂肪族多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく、例えばシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジ酸、テトラデカンジ酸、ヘキサデカンジ酸、オクタデカンジ酸等の脂肪族二塩基酸、そのエステルなどを挙げることができ、その他の脂肪族多塩基酸としては、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸等の脂肪族三塩基酸;ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族四塩基酸、等が挙げられ、これら脂肪族多塩基酸のエステル形成性誘導体としては、これら脂肪族多塩基酸の低級アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物等を挙げることができる。これらの脂肪族多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体は、一種のみ用いてもよく、また二種以上併用してもよい。
【0047】
芳香族多塩基酸としては、炭素数8〜20の芳香族多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族二塩基酸またはこれらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、その他にトリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多塩基酸またはこれらのエステル形成性誘導体を挙げることができる。これらは1種のみ用いてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0048】
ポリオールとしては、炭素数2〜20の脂肪族アルコール類が好ましく、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族二価アルコールなどを挙げることができ、その他にグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の脂肪族多価アルコール等も挙げることもできる。これらは1種のみ用いてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0049】
末端キャッピング剤としては、炭素数2〜20の一塩基酸又はそのエステル形成性誘導体、炭素数1〜18の一価アルコールが好ましく、炭素数2〜20の一塩基酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、トルイル酸、イソノナン酸、安息香酸、ドデカン酸、ジメチル安息香酸等の一塩基酸又はそのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、これらの一塩基酸またはエステル形成性誘導体は、一種のみ用いてもよく、二種以上併用してもよい。また、炭素数1〜18の一価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、テトラデカノール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコールなどを挙げることができ、これらの一価アルコールは、一種のみ用いてもよく二種以上併用してもよい。
【0050】
エポキシ系可塑剤として、例えばエポキシ化大豆油、オクチルエポキシステアレートなどを挙げることができる。
【0051】
リン酸系可塑剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどを挙げることができる。
【0052】
トリメリット酸系可塑剤としては、例えばトリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリレートなどを挙げることができる。
【0053】
ピロメリット酸系可塑剤としては、例えば2−エチキシルピロメリレートなどが挙げられる。
【0054】
本発明の透明性樹脂組成物は、該N−置換マレイミド・オレフィン共重合体、該グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム、及び、場合によっては該スチレン・アクリロニトリル共重合体、該可塑剤等を一般的な混合・混練を行うことにより製造することができ、その際の混合・混練の装置としては、例えば単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を挙げることができる。また、溶媒中にそれぞれの成分を溶解あるいは分散させて混合する方法であってもよい。さらに少なくともそれぞれの一成分が存在する中、他成分の原材料から他成分を変性・重合等の方法により製造する方法であってもよい。
【0055】
本発明の透明性樹脂組成物は、製造時や成形加工時の熱履歴に起因する着色や分解、架橋等を抑制するため、フェノール系、リン系、イオウ系、その他の酸化防止剤を必要に応じて含有しても良い。また、これら酸化防止剤はそれぞれ単独で用いてもよく、それぞれを併用して用いても良い。
【0056】
また、本発明の透明性樹脂組成物を光学材料として用いる際には、可視光線、紫外線、赤外線などの光の照射を受けることが予想され、特に高温状況下での光照射による熱着色や光劣化を抑制する目的にて、本発明の透明性樹脂組成物には、例えばヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤などを必要に応じて含有しても良い。
【0057】
更に、本発明の透明性樹脂組成物は、上述の成分以外に、顔料、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、染料、オイルなどを必要に応じて含有しても良い。
【0058】
本発明の透明性樹脂組成物は、従来公知の成形方法により成形体とすることができ、例えば射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト法射出成形、押出成形、多層押出成形、回転成形、熱プレス成形、ブロー成形、発泡成形などの方法により、射出成形体、チューブ、シート、パイプ、ボトルなどに成形することができる。
【0059】
また、本発明の透明性樹脂組成物は、例えば電気・電子機器に使用されるリレー、バーンインソケット、コネクター、センサーハウジング、可変抵抗器、ポリバリコンケース、エアレーション用ボビン、トランジスタ,IC,LSI,LED等の封止材、ICカードのICメモリーの封止材、モーター,コンデンサー,スイッチ,センサー等の封止材、カメラ,VTR,プロジェクター等の映像機器に使用される撮影用レンズ,ファインダー,フィルター,プリズム,フレネルレンズ,ボディ材等、CDプレーヤー,DVDプレーヤー,MDプレーヤー,ゲーム機器等の光記録機器に使用されるカード,ディスク,ピックアップレンズ等、光通信分野で使用される光ファイバー,光スイッチ,光コネクター等、LCD、有機EL、PDP、複写機、プリンター、ファクシミリ、タッチパネル、光ファイル等の情報機器に使用される導光板、ライトガイド、フレネルレンズ、プリズムシート、光拡散シート、透明電極シート基板、ディスプレイの表面保護シート、インクタンク、カバー類、ボディ材等;自動車、電車などの車両分野で使用されるメーター類、ランプ類、レンズ類、ソケット、ヒューズケース、計器カバー等;医療機器分野で使用される眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、内視鏡レンズ、注射器、人口透析器、薬液容器、義歯、アンプルカッター容器等;建材分野における採光窓、ドア、監視カメラレンズ、カーポート、テラス、照明部品等;日用品分野で使用される照明部品、玩具、サングラス、文房具、化粧品容器、釣り具、食品用容器、飲料水用容器等にも用いることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明により得られる透明性樹脂組成物は、透明性、耐熱性、靱性、溶融加工性に優れることから、光学用材料などとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0062】
実施例に示された諸物性は以下の方法により測定した。
【0063】
〜数平均分子量〜
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製、商品名HLC−802A)を用い測定したN−置換マレイミド・オレフィン共重合体の溶出曲線により、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0064】
〜ガラス転移温度〜
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製、商品名DSC2000)を用い、10℃/分の昇温速度にて測定した。
【0065】
〜屈折率〜
ASTM D542に準拠し、測定温度25℃、測定波長589nmの条件で測定した。
【0066】
〜ゴム粒子の平均粒子径〜
レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名LA500)を用いて測定した。
【0067】
〜グラフト変性共重合体ゴムの組成〜
得られたグラフト変性共重合体ゴムをアセトンによって可溶分と不溶分に抽出分別し、可溶分のH−NMRによりスチレン・アクリロニトリル共重合体のスチレン単量体残基単位とアクリロニトリル単量体残基単位の割合を求め、更に不溶分の元素分析により組成を求めた。
【0068】
〜ヘイズ〜
JIS K7136に準拠し、厚さ1mmの試験片を用いて測定した。
【0069】
〜引張破断伸び〜
JIS K7161に準拠し、厚さ4mmの試験片を用いて測定した。
【0070】
〜溶融粘度〜
高化式フローテスター(島津製作所製、商品名CFT−500)を用い、測定温度270℃、荷重150Kg、ノズル径1mmφ、ノズル長さ10mmの条件にて測定した。
【0071】
合成例1(N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体の合成)
ステンレス製オートクレーブに無水マレイン酸・イソブテン共重合体(株式会社クラレ製、商品名イソバン6)100重量部及び溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)500重量部を充填し、室温で攪拌して無水マレイン酸・イソブテン共重合体をNMPに溶解させた。次いで、メチルアミン40重量部を室温で導入した後、80℃に昇温して1時間攪拌することにより無水マレイン酸単位のアミド化反応を行った。引き続き、205℃に昇温し、1時間攪拌することによりイミド化反応を行った後、室温まで冷却し、イソプロパノールを用いて再沈殿処理して共重合体を得た。
【0072】
元素分析、赤外吸収スペクトル測定及び13C−NMR測定から、生成した共重合体はN−メチルマレイミド残基/イソブテン残基=0.50/0.50(モル比)のN−メチルマレイミド・イソブテン共重合体(以下、Aと記すこともある。)であることを確認した。また、数平均分子量は60000であり、屈折率は1.5276であった。
【0073】
合成例2(1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子の合成)
ステンレス製オートクレーブに、脱イオン水180重量部、高級脂肪酸セッケン3.5重量部、水酸化ナトリウム0.08重量部を充填し、窒素置換後、65℃に昇温した。次いで1,3−ブタジエン単量体80重量部、スチレン単量体20重量部及びt−ドデシルメルカプタン0.2重量部からなる単量体混合物の内、30重量%を該オートクレーブ内に添加した後、過硫酸カリウム0.15重量部を添加し、1時間攪拌することにより重合反応を行った。その後、単量体混合物の残りの70重量%を連続的に添加し、添加終了後、75℃に昇温しさらに1時間攪拌することにより重合反応を行い、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子のラテックス(以下、B−1と記すこともある。)を得た。
【0074】
得られた1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子は、平均粒子径0.1μmを有し、屈折率は1.5287であった。
【0075】
合成例3(1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム粒子の合成)
ステンレス製オートクレーブに、脱イオン水200重量部、高級脂肪酸セッケン3.5重量部、炭酸水素ナトリウム1重量部を充填し、窒素置換後、65℃に昇温した。次いで1,3−ブタジエン単量体80重量部、アクリル酸ブチル単量体20重量部からなる単量体混合物の内、20重量%を該オートクレーブ内に添加した後、過硫酸カリウム0.15重量部を添加し、1時間攪拌することにより重合反応を行った。その後、単量体混合物の残りの80重量%を連続的に添加し、添加終了後、75℃に昇温しさらに1時間攪拌することにより重合反応を行い、1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム粒子のラテックス(以下、B−2と記すこともある。)を得た。
【0076】
得られた1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム粒子は、平均粒子径0.1μmを有し、屈折率は1.5046であった。
【0077】
合成例4(アクリル酸ブチル重合体ゴム粒子の合成)
ステンレス製オートクレーブに、脱イオン水200重量部、高級脂肪酸セッケン3.5重量部、炭酸水素ナトリウム1重量部を充填し、窒素置換後、65℃に昇温した。次いで、アクリル酸ブチル単量体100重量部、マレイン酸ジアリル0.6重量部からなる単量体混合物の内、10重量%を該オートクレーブ内に添加した後、過硫酸カリウム0.15重量部を添加し、1時間攪拌することにより重合反応を行った。その後、単量体混合物の残りの90重量%を連続的に添加し、添加終了後、75℃に昇温しさらに1時間攪拌することにより重合反応を行い、アクリル酸ブチル重合体ゴム粒子のラテックス(以下、B−3と記すこともある。)を得た。
【0078】
得られたアクリル酸ブチル重合体ゴム粒子は、平均粒子径は0.1μmを有し、屈折率は1.4896であった。
【0079】
合成例5(グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムの合成)
ステンレス製オートクレーブに、合成例2により得られた1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子のラテックス100重量部に対し、アクリロニトリル単量体15重量部、スチレン単量体35重量部、脱イオン水(ラテックス中の水分を含む)300重量部、不均化ロジン酸カリウム1.5重量部、デキストロース1重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、硫酸第一鉄0.01重量部、t−ドデシルメルカプタン0.3重量部を充填し、窒素置換後、60℃に昇温した。次いで、開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.1重量部を該オートクレーブ内に添加し、重合による発熱が生じた。該発熱が終了した後、さらにアクリロニトリル単量体15重量部、スチレン単量体35重量部、t−ドデシルメルカプタン0.85重量部を連続的に添加し、添加終了後、開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.05重量部を該オートクレーブ内に添加し、30分間攪拌することにより重合反応を完結させた。次いで、重合反応液を硫酸マグネシウム水溶液中に添加・凝固させ、該凝固物を水洗、乾燥することによりグラフト変性共重合体ゴム(以下、C−1と記す。)を得た。
【0080】
得られたC−1は、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子51重量%、該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体26重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体23重量%からなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムであることを確認した。
【0081】
また、該C−1をアセトンによるソックスレー抽出を施すことにより、グラフト化していないアクリロニトリル・スチレン共重合体を抽出除去したグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム(以下、C−1’と記す。)を調製した。
【0082】
合成例6(グラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムの合成)
アクリロニトリル単量体、スチレン単量体、脱イオン水、不均化ロジン酸カリウム、デキストロース、ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、t−ドデシルメルカプタン、クメンハイドロパーオキサイドの配合割合を表1に示した量とした以外は、合成例5と同様の方法により、グラフト変性共重合体ゴム(以下、C−2,3,4,5と記す。)を得た。
【0083】
得られたC−2は、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子50重量%、該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体38重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体12重量%からなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム;C−3は、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子50重量%、該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体26重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体24重量%からなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム;C−4は、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子51重量%、該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体38重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体11重量%からなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム;C−5は、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子66重量%、該1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体26重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体8重量%からなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム、であることを確認した。
【0084】
また、該C−3をアセトンによるソックスレー抽出を施すことにより、グラフト化していないアクリロニトリル・スチレン共重合体を抽出除去したグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム(以下、C−3’と記す。)を調製した。
【0085】
合成例7(グラフト変性1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴムの合成)
ステンレス製オートクレーブに、合成例3により得られた1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム粒子のラテックス100重量部に対し、アクリロニトリル単量体15重量部、スチレン単量体35重量部、脱イオン水(ラテックス中の水分を含む)300重量部、不均化ロジン酸カリウム2.5重量部、デキストロース2重量部、ピロリン酸ナトリウム1重量部、硫酸第一鉄0.01重量部、t−ドデシルメルカプタン0.3重量部を充填し、窒素置換後、60℃に昇温した。次いで、開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.1重量部を該オートクレーブ内に添加し、重合による発熱が生じた。該発熱が終了した後、さらにアクリロニトリル単量体15重量部、スチレン単量体35重量部、t−ドデシルメルカプタン0.85重量部を連続的に添加し、添加終了後、開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.35重量部を該オートクレーブ内に添加し、30分間攪拌することにより重合反応を完結させた。次いで、重合反応液を硫酸マグネシウム水溶液中に添加・凝固させ、該凝固物を水洗、乾燥することによりグラフト変性共重合体ゴム(以下、C−6と記す。)を得た。
【0086】
得られたC−6は、1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム粒子50重量%、該1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体28重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体22重量%からなるグラフト変性1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴムであることを確認した。
【0087】
また、該C−6をアセトンによるソックスレー抽出を施すことにより、グラフト化していないアクリロニトリル・スチレン共重合体を抽出除去したグラフト変性1,3−ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム(以下、C−6’と記す。)を調製した。
【0088】
合成例8(グラフト変性アクリル酸ブチル重合体ゴムの合成例)
ステンレス製オートクレーブに、合成例4により得られたアクリル酸ブチル重合体ゴム粒子のラテックス100重量部に対し、アクリロニトリル単量体15重量部、スチレン単量体35重量部、脱イオン水(ラテックス中の水分を含む)300重量部、不均化ロジン酸カリウム2.5重量部、デキストロース2重量部、ピロリン酸ナトリウム1重量部、硫酸第一鉄0.01重量部、t−ドデシルメルカプタン0.3重量部を充填し、窒素置換後、60℃に昇温した。次いで、開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.1重量部を該オートクレーブ内に添加し、重合による発熱が生じた。該発熱が終了した後、さらにアクリロニトリル単量体15重量部、スチレン単量体35重量部、t−ドデシルメルカプタン0.85重量部を連続的に添加し、添加終了後、開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.35重量部を該オートクレーブ内に添加し、30分間攪拌することにより重合反応を完結させた。次いで、重合反応液を硫酸マグネシウム水溶液中に添加・凝固させ、該凝固物を水洗、乾燥することによりグラフト変性重合体ゴム(以下、C−7と記す。)を得た。
【0089】
得られたC−7は、アクリル酸ブチル重合体ゴム粒子50重量%、該アクリル酸ブチル重合体ゴム粒子にグラフト化したアクリロニトリル・スチレン共重合体15重量%、アクリロニトリル・スチレン共重合体35重量%からなるグラフト変性アクリル酸ブチル重合体ゴムであることを確認した。
【0090】
また、該C−7をアセトンによるソックスレー抽出を施すことにより、グラフト化していないアクリロニトリル・スチレン共重合体を抽出除去したグラフト変性アクリル酸ブチル重合体ゴム(以下、C−7’と記す。)を調製した。
【0091】
実施例1
合成例1により得られたN−メチルマレイミド・イソブテン共重合体80重量%及び合成例5により得られたC−1を20重量%の割合で配合し、30mmφ2軸押出機(株式会社日本製鋼所製、商品名TEX30)に供して押出し、透明性樹脂組成物を得た。得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は154℃、溶融粘度は487Pa・sであった。
【0092】
次いで、得られた透明性樹脂組成物を射出成形機(東芝機械株式会社製、商品名IS50EP)に供し、射出成形して厚み4mmの試験片を得た。また、得られた透明性樹脂組成物を熱プレス成形して厚み1mmの試験片を得た。本試験片を用いて物性を測定した結果を表3に示す。得られた透明性樹脂組成物は透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0093】
実施例2
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例6により得られたC−2とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0094】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は154℃、溶融粘度は783Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0095】
実施例3
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例6により得られたC−3とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0096】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は154℃、溶融粘度は439Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0097】
実施例4
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例6により得られたC−4とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0098】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は154℃、溶融粘度は711Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0099】
実施例5
N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体80重量%の代わりに90重量%、合成例5により得られたC−1を20重量%の代わりに合成例6により得られたC−5を10重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0100】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は156℃、溶融粘度は413Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0101】
実施例6
N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体80重量%の代わりに70重量%、合成例5により得られたC−1を20重量%の代わりに30重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0102】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は150℃、溶融粘度は615Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0103】
実施例7
合成例5により得られたC−1の代わりにC−1’とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0104】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は156℃、溶融粘度は938Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0105】
実施例8
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例6により得られたC−3’とした以外は、実施例1と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0106】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は156℃、溶融粘度は923Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0107】
比較例1
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例7により得られたC−6とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0108】
得られた樹脂組成物のガラス転移温度は154℃、溶融粘度は502Pa・sであり、透明性に劣るものであった。
【0109】
比較例2
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例8により得られたC−7とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0110】
得られた樹脂組成物のガラス転移温度は154℃、溶融粘度は428Pa・sであり、透明性、靱性に劣るものであった。
【0111】
比較例3
N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体を単独で、実施例1と同様の方法により評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0112】
ガラス転移温度は159℃、溶融粘度は322Pa・sであり、靱性に劣るものであった。
【0113】
比較例4
N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体80重量%の代わりに40重量%、合成例5により得られたC−1を20重量%の代わりに60重量%とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0114】
得られた樹脂組成物のガラス転移温度は130℃、溶融粘度は1868Pa・sであり、透明性、耐熱性、流動性に劣るものであった。
【0115】
比較例5
合成例5により得られたC−1の代わりにアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂(ダイセルポリマー株式会社製、商品名セビアン−V、T180)とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0116】
得られた樹脂組成物のガラス転移温度は138℃、溶融粘度は298Pa・sであり、耐熱性、透明性、靱性に劣るものであった。
【0117】
比較例6
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例7により得られたC−6’とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0118】
得られた樹脂組成物のガラス転移温度は155℃、溶融粘度は710Pa・sであり、透明性に劣るものであった。
【0119】
比較例7
合成例5により得られたC−1の代わりに合成例8により得られたC−7’とした以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0120】
得られた樹脂組成物のガラス転移温度は157℃、溶融粘度は639Pa・sであり、透明性、靱性に劣るものであった。
【0121】
実施例9
合成例1により得られたN−メチルマレイミド・イソブテン共重合体75重量%、合成例5により得られたC−1を20重量%及びポリエステル系可塑剤(株式会社クラレ製、商品名クラレポリオールP−530)5重量%を配合し、30mmφ2軸押出機(株式会社日本製鋼所製、商品名TEX30)に供して押出し、透明性樹脂組成物を得た。得られた透明性樹脂組成物はガラス転移温度147℃、溶融粘度241Pa・sであった。
【0122】
得られた透明性樹脂組成物を射出成形機(東芝機械株式会社製、商品名IS50EP)に供し、射出成形して厚み4mmの試験片を得た。また、得られた透明性樹脂組成物を熱プレス成形して厚み1mmの試験片を得た。本試験片を用いて物性を測定した結果を表5に示す。得られた透明性樹脂組成物は透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0123】
実施例10
N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体75重量%の代わりに80重量%とし、合成例5により得られたC−1を20重量%の代わりに合成例6により得られたC−2を15重量%とした以外は、実施例9と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0124】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は149℃、溶融粘度は225Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0125】
実施例11
N−メチルマレイミド・イソブテン共重合体75重量%の代わりに72.5重量%とし、合成例5により得られたC−1を20重量%の代わりに合成例6により得られたC−3を20重量%とし、ポリエステル系可塑剤5重量%を7.5重量とした以外は、実施例9と同様の方法により透明性樹脂組成物を得、その評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0126】
得られた透明性樹脂組成物のガラス転移温度は143℃、溶融粘度は186Pa・sであり、透明性、靱性、耐熱性、流動性に優れるものであった。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【0129】
【表3】

【0130】
【表4】

【0131】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される単位40〜60モル%と下記一般式(II)で示される単位60〜40モル%からなり、数平均分子量が1×10以上5×10以下であるN−置換マレイミド・オレフィン共重合体50〜99重量%、及び、1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子にスチレン・アクリロニトリル共重合体をグラフト化してなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム50〜1重量%からなることを特徴とする透明性樹脂組成物。
【化1】

(ここで、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種以上の有機基を示す。)
【化2】

(ここで、R2、R3は各々独立して水素又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
平均粒子径0.01〜1μmを有する1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子よりなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムであることを特徴とする請求項1に記載の透明性樹脂組成物。
【請求項3】
N−置換マレイミド・オレフィン共重合体の屈折率に対し、屈折率差が絶対値として0.02以下の1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴム粒子よりなるグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明性樹脂組成物。
【請求項4】
N−置換マレイミド・オレフィン共重合体及びグラフト変性1,3−ブタジエン・スチレン共重合体ゴムの合計量100重量部に対し、さらにスチレン・アクリロニトリル共重合体1〜60重量部を配合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体100重量部に対し、可塑剤1〜30重量部を含んでなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明性樹脂組成物。
【請求項6】
可塑剤がポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、リン酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の可塑剤であることを特徴とする請求項5に記載の透明性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−70133(P2006−70133A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254112(P2004−254112)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】