説明

透明性防滑シート

【課題】適度の摩擦抵抗を発揮して歩行者に安心感を与えることができる、透明性防滑シートを提供する。
【解決手段】施工面に敷設して滑り止め効果を発揮する透明性防滑シートとして、施工面11を透視する透明性を有するプラスチックフィルム類から成る基材シート14と、粉砕されたガラス粒子16から成り、上記基材シートの表面に固着した防滑材層とを具備し、上記防滑材層は、大きさが100〜800μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子16の混合物によって構成され、防滑材層の表面がガラス粒子の異なる粒度による凹凸構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工面に敷設して滑り止め効果を発揮する透明性防滑シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、都市部の歩道や歩行スペースを始めとして、歩行者の利用する環境には必ずしも十分と言えないにしてもおおむね良好な状態にあり、部分的に不十分な箇所も日々改良が施されている状況と言って良い。しかしながら、平生は何も危険がないように思えても、水の濡れると非常に滑りやすくなると言うような箇所は少なからず見受けられ、そうした箇所には取り立てて危険な箇所という認識がないだけに、却って好ましくないと言える。屋外と屋内との境界にあたる 例えば、駅などのコンコース、道路舗装のアスファルトやコンクリートと歩道の陶磁器製タイルのように摩擦抵抗の急変する場所、或いはプールや噴水の近くなど水に濡れやすい場所では、水濡れによって危険性が著しく変化するため対策を講じる必要がある。
【0003】
このような場合、従来は上記のような危険個所に、例えば帯状のゴム片を適当な間隔で設置して滑り止めとすることも行われているが、ゴム片も濡れると滑りやすくなるため対策として十分とは言えない。関連する技術について見ると特開2003−89168号があり、そこでは廃タイヤなどの使用済みゴム製品の粉砕物をシート材表面に満遍なく付着させるとともに、さらにその上に同じ粉砕物を付着させて構成した滑り止めシートが開示されている。この場合、二重の粉砕物層による耐久性の向上を期待できるけれども、ゴム製品の粉砕物によって得られる摩擦抵抗はゴム片による場合と本質的に変わらないから、ゴム片を用いる従来の方法と効果に差はないと考えられる。
【0004】
これに対して特開平6−57715号は、支持シートの表面に設けた第1、第2接着剤層に粉砕粒体を一部が露出するように埋設し、粉砕粒体の表面に光反射膜を有するガラス微球を接着させた反射性滑り止めシート材を開示している。この発明において滑り止め作用を行う粉砕粒体は汚泥溶融スラグ冷却固形物から成り、実施形態の例には#24粒度の粉砕粒体を使用すると記載されている。しかし、粉砕粒体はガラス微球に対して図2などに非常に大きく図示されていることから、シート材の表面は相当ごつごつした表面になると考えられる。また、粉砕粒体の表面を覆うガラス微球は直径40〜50ミクロンと記載されているが、球体であるため、それ自体が滑り止めとなるわけではないから、条件によっては粉砕粒体の摩擦抵抗を相殺する可能性も否定できない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−89168号
【特許文献2】特開平6−57715号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、適度の摩擦抵抗を発揮して歩行者に安心感を与えることができる、透明性防滑シートを提供することである。また、本発明の他の課題は、屋外と屋内との境界や道路舗装のアスファルトやコンクリートとタイル歩道の陶磁器ように摩擦抵抗の急変する場所、或いは水に濡れやすい場所においても水濡れによって滑り易さを増すことがないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、施工面に敷設して滑り止め効果を発揮する透明性防滑シートとして、施工面を透視する透明性を有するプラスチックフィルム類から成る基材シートと、粉砕されたガラス粒子から成り、上記基材シートの表面に固着された防滑材層とを具備し、上記防滑材層は、粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成され、防滑材層の表面がガラス粒子の異なる粒度による凹凸構造を有しているものとするという手段を講じたものである。
【0008】
透明性を有するプラスチックフィルム類は少なくないが、しかし、本発明に用いるものは施工面を透視する透明性を有するプラスチックフィルム類であるから、施工面の表示や模様などを明確に透視できる必要があり、この要求から不透明度の高いプラスチックフィルム類は好ましくない。なお、プラスチックフィルム類というのは、一般的に、百分の一インチを境により厚いものがシートと呼ばれ、より薄いものがフィルムと呼ばれることが多いのに対して、本発明における基材シートはその境界に位置するので両方を含むことを意味するために「類」と言うものである。
【0009】
防滑材層を構成する素材は、粉砕されたガラス粒子から成り、このことは本発明における絶対条件である。加えて、上記防滑材層は、粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成され、防滑材層の表面がガラス粒子の異なる粒度による凹凸構造を有していることを特徴とする。即ち、第1に粉砕されたガラス粒子から成るために、その鋭利な角による滑り止め効果を発揮すること、第2に粒度の異なるガラス粒子の共在することによって防滑材層表面にガラス粒子の異なる粒度による凹凸構造が形成されることは、本発明上必要な絶対的要件である。
【0010】
上記防滑材層は、大きさが100〜800μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成される。100μm未満では、合成樹脂や皮革製の靴底を持つ標準的な履物に対して滑り止めの効果を十分に発揮できず、800μmよりも大きくなると、転倒した人の身体に無視できない擦過症を生じさせるなどの問題が出てくるが、上記の範囲であればその恐れがない。ガラスの破片には鋭利で危険という通念があるが、その危険性は800μm以下という粒度によって消失し、靴底などに引っ掛かるという利点は100μm以上という粒度によって維持される。なお、最も好ましいのは、大きさが300〜500μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子の混合物であり、この範囲のガラス粒子は、適度の摩擦が得られ、かつ、擦過症なども軽微で済む。
【0011】
上記ガラス粒子として、本発明では、ガラス製品を加工した際に産出される廃品である切り粉から成る物を使用することができる。ガラス加工の廃品である切り粉から100〜800μmの範囲、より好ましくは300〜500μmの範囲のサイズのものを選別し、これを本発明におけるガラス粒子として使用することができる。切り粉を使用することによって、安価であること、産業廃棄物を資源として利用できること、等の利点を生じる。本発明において、ガラス粒子として使用し得るガラスの種類に特別な制限はなく、窓ガラスから、ガラス器、その他のガラス製品に用いられているあらゆる種類のガラスを使用することができると考えて良い。
【0012】
本発明の透明性防滑シートについては、さらに防滑材層の表面を覆って、降りかかる有機物を分解する自己クリーン性を備えた表面層を具備させることができる。例えば、床や路面に、上記の本発明の透明性防滑シートを敷設した場合、その表面には歩行者から出るあらゆる種類の有機物が降りかかることになるから、これを放置すれば防滑材層表面がそれらで覆われ、汚れるに任せるままとなる。そこで、有機物を水と二酸化炭素に分解する自己クリーン性を備えた表面層を設けることで、汚れの問題を解決することができる。
【0013】
自己クリーン性を備えた表面層を防滑材層表面にじかに形成することも不可能ではないが、防滑材層を上記基材シートの表面に固着する固着手段として、多くの場合合成樹脂を含む接着剤を使用するので、接着剤以下が有機物として分解されることになる。そこで、防滑材層の表面に、それを覆う無機質コーティング層を設け、接着剤さらには基材シートが分解されることを防ぐものである。上記の自己クリーン性を備えた表面層は、例えば光触媒反応によって有機物を分解する二酸化チタン溶液を塗布して形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、粉砕されたガラス粒子から成る防滑材層を有し、防滑材層は、大きさが100〜800μm、好ましくは300〜400μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成され、かつその表面がガラス粒子の異なる粒度に基づく凹凸構造を有しているので、適度の摩擦抵抗によって歩行者に安心感の得られる透明性防滑シートを提供することができる。特に、本発明によれば、屋外と屋内との境界や道路舗装のアスファルトやコンクリートと陶磁器製のタイル歩道のように摩擦抵抗の急変する場所、あるいは水に濡れやすい場所においても、水濡れによって滑り易さを増すことがなく、また、自己クリーン性を備えることによって有機物が分解され汚れを溜めることがないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明に係る透明性防滑シート10の一例を示すもので、図1の断面は図2に一部を拡大して示している。なお、図1は図4の一部に相当する。
【0016】
<例1>
各図において、11は施工面、12は施工面11に設けられている表示であり、施工面11として、陶磁器製のタイル或いはプラスチック製等の床材が想定される。13はシート接着手段、14は施工面11を透視する透明性を有する基材シート、15は防滑材層であり、ガラス粒子16が固着手段17によって基材シート11の表面に固着されたものから成る。上記の内、基材シート14、防滑材層15のガラス粒子16、固着手段17は、本発明の1例としての透明性防滑シート10を構成している。また、その裏面に備えられているシート接着手段13は公知のもので、粘着剤層と、使用時までその粘着面を覆う剥離紙(図示せず)とから成っている。
【0017】
基材シート14の素材は、施工面11を透視する透明性を有するプラスチックフィルム類である。基材シート14は床等に設置して靴底で繰り返し踏まれ、かつまた擦られることを想定して、前述の透明性とともに十分な強度を有するものを必要とする。このようなプラスチックフィルム類としては、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどが適しているが、しかし、これらは価格を考慮しており、価格を考慮する必要がない場合には上記透明性と強度を有するもの全てが対象となる。本例で説明する基材シート14は、ポリエチレンを素材とする厚さ500μmのものである。但し、図2等の図面は説明の便宜上のものであるから、寸法の比率を正しく表してはいない。
【0018】
図示の例において、防滑材層15は大きさが300〜500μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成される。ガラスの種類としてはソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラスの3種類が主なものであるが、本発明はその種類を区別せずに使用することができる。ガラス粒子の内で最大径d1のものを符号16−1、最小径d2のガラス粒子を符号16−2として図2に示している。よって、d1=500μm、d2=300μmであり、この範囲のものが適当な密度で固着手段17のなかに分散状態で固着されている。ガラス粒子16の分散密度は1平方cm当たり1〜100個の範囲で試験をし、良好な結果をえているが、この範囲に限定されるものではない。
【0019】
固着手段17としては、2液性ウレタン系接着剤を使用し、2液の内の1液にガラス粒子16を混合し、塗布ローラーを用いた塗布方法によって基材シート14の表面にガラス粒子16とともに塗布している。固着手段17は、最小径d2のガラス粒子16−2を露出させるとともに、最大径d1のガラス粒子16−1を十分に固定できるように100〜200μm程度の厚さに設定している。なお、2液性のポリウレタンやエポキシ樹脂から成る接着剤を用いず、その代わりに例えば、α−シアノアクリレート系接着剤等を使用することも可能である。
【0020】
<例2>
本発明の透明性防滑シートでは、上記例1における防滑材層15の表面を覆って、降りかかる有機物を分解する自己クリーン性を備えた表面層を具備させることができるので、これを例2として次に説明する。図3は例2の透明性防滑シート20とその敷設部の断面を示しており、施工面11、そこに設けられている表示12、シート接着手段13、基材シート14、ガラス粒子16とその固着手段17から成る防滑材層15までの構成は、前期の例1と同様で良いので図面に符号を援用して説明の代用とし、詳細な説明は繰り返さない。例2において、有機物を分解する自己クリーン性を備えた表面層21は無機質コーティング層22の表面に形成されている。
【0021】
自己クリーン性を備えた表面層21を防滑材層表面に直かに形成することも不可能ではない。しかし、例2では、固着手段17として、上記の合成樹脂を含む接着剤を使用するので、接着剤以下が有機物として分解されるのを防止するため、防滑材層15の表面を無機質コーティング層22によって覆っている。無機質コーティング層22としては、例えば、ガラスコーティングなどと通称されているパーヒドロポリシロキサンと水との化学反応によってシリカガラス(SiO2)の1μm以下という薄い皮膜を形成するものなどを使用することができる。また、自己クリーン性を備えた表面層21としては、例えば、光触媒反応によって有機物を分解する二酸化チタン溶液を塗布して形成する。
【0022】
このように構成されている本発明の透明性防滑シート10、20によれば、特に、ガラス粒子16が粉砕されたものであるので、その鋭利な角が滑り止め効果を発揮し、その大きさが300〜500μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子16−1、16−2の混合物で、かつ、粒度の異なるガラス粒子16の共在することによって防滑材層表面にガラス粒子16−1、16−2の粒度差による凹凸構造が形成される。この凹凸構造は300〜500μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子16−1、16−2が、固着手段17の表面から付き出る量が異なり、ガラス粒子相互の異なる高度差h1、h2、h3のようにばらつきを生じ、その結果得られるものである。ガラス粒子相互の異なる高度差h1〜h3等のばらつきによる凹凸構造は、合成樹脂や皮革製の靴底を持つ標準的な履物に対して十分に滑り止めの効果を発揮する。また、人が転倒した場合でも、凹凸構造によって身体に生じる擦過症は無視できる程度である。
【0023】
従って、図4に示したようなスロープ23に、本発明の例1及び例2に示した透明性防滑シート10、20を適用するに当たり、一定の幅Bのシート材としてスロープ23に対して、例えば直交方向に、間に間隔を開けて、或いは開けることなく接着手段13を用いて敷設する。スロープ23には、例えば方向を示す目的で、表示12が設けられていることがあり、或いはまた、美麗なタイル張りになっていることも多いが、本発明の透明性防滑シート10、20は、表示12などを透視する透明性を維持しているので、視認性が損なわれることもない。この透明性は、基本的には基材シート14の透明度によるものであるが、それと同時に、防滑材層15が比較的微細なガラス粒子16から成ることと、ガラス粒子16がシート表面を埋め尽くしているのではなく比較的まばらな密度に散在していることに起因している。
【0024】
本発明の透明性防滑シート10が、例えば、床や路面などの施工面に敷設され、実際に使用される状態になると、その表面には歩行者から出るあらゆる種類の有機物が降りかかることになるから、これを放置すれば防滑材層表面がそれらで覆われ、汚れるに任せるままとなる。そこで、自己クリーン性を備えた表面層21を設けた透明性防滑シート20を使用することで、有機物が水と二酸化炭素に分解されることになり、汚れの問題も解決する。
このように構成された本発明の透明性防滑シートの開発過程において、その技術的効果を確認するために、濡れやすい床に本発明に係る透明性防滑シートを施工し、2ヵ月間余りにわたって試験を行った。その結果、当該防滑シートを施工した箇所における転倒者はほとんどなく、被施工箇所における転倒者と比較した場合著しく少なく、所期の滑り止め効果を奏することが確認された。また、施工箇所の防滑シートに摩擦等を原因とする破損や破れなどの問題は起こらず、耐久性についても問題は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る本発明の透明性防滑シートの例1を示す部分正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】同じく本発明の例2に関する図2と同様の断面図である。
【図4】本発明に係る本発明の透明性防滑シートの使用状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10、20 本発明に係る本発明の透明性防滑シート
11 施工面
12 表示
13 シート接着手段
14 基材シート
15 防滑材層
16 ガラス粒子
17 固着手段
21 表面層
22 無機質コーティング層
23 スロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工面に敷設して滑り止め効果を発揮する透明性防滑シートであって、
施工面を透視する透明性を有するプラスチックフィルム類から成る基材シートと、粉砕されたガラス粒子から成り、上記基材シートの表面に固着された防滑材層とを具備し、
上記防滑材層は、大きさが100〜800μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成され、防滑材層の表面がガラス粒子の異なる粒度による凹凸構造を有して
いることを特徴とする透明性防滑シート。
【請求項2】
施工面に敷設して滑り止め効果を発揮する透明性防滑シートであって、
施工面を透視する透明性を有するプラスチックフィルム類から成る基材シートと、粉砕されたガラス粒子から成り、上記基材シートの表面に固着された防滑材層とを具備し、
上記防滑材層は、大きさが100〜800μmの範囲の粒度の異なるガラス粒子の混合物によって構成され、防滑材層の表面がガラス粒子の異なる粒度による凹凸構造を有し、
さらに防滑材層の表面を覆って、降りかかる有機物を分解する自己クリーン性を備えた表面層を具備している
ことを特徴とする透明性防滑シート。
【請求項3】
防滑材層を構成するガラス粒子は、ガラス製品を加工した際に産出される廃品である切り粉から成る物である請求項1又は2記載の透明性防滑シート。
【請求項4】
粘着剤層と使用時までその粘着面を覆う剥離紙とから成る接着手段を基材シートの裏面に備えている請求項1又は2記載の透明性防滑シート。
【請求項5】
防滑材層の表面にそれを覆う無機質コーティング層が設けられており、自己クリーン性を備えた表面層は、光触媒反応によって有機物を分解する二酸化チタン溶液を、上記無機質コーティング層の表面に塗布して形成されている請求項2記載の透明性防滑シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179194(P2011−179194A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42811(P2010−42811)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(394022277)株式会社スリーケイ (6)
【Fターム(参考)】