説明

透明材、その製造方法及び部材

【課題】本発明は、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を主要構成成分とする透明材であり、更に詳しくは、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、フレキシブルであり、耐水性を有し、無機層状化合物粒子の積層を高度に配向させた透明な新素材・新技術を提供するものである。
【解決手段】テトラフェニルホスホニウムイオンにより変性された粘土を主要構成成分とする材料であって、全光線透過率が80%を超えることを特徴とする透明材。前記透明材はテトラフェニルホスホニウム変性粘土のみから構成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を主要構成成分とする透明材であり、更に詳しくは、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、フレキシブルであり、耐水性を有し、無機層状化合物粒子の積層を高度に配向させた透明材、その製造方法及び部材に関するものである。包装材、封止材、ディスプレイ材の技術分野において、従来透明で、柔軟で、耐水性が高く、しかも高温下で使用可能な耐熱性材料の開発が強く要請されている。これを踏まえ、本発明は熱安定性が高く、しかも、柔軟性及び耐水性に優れた透明な新素材・新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイは、モバイル性や省スペースの面より、従来のブラウン管方式から液晶方式(LCD)に急激に変わりつつある。更に次世代ディスプレイとして、自発光デバイスであり、明るさ、鮮やかさ、消費電力の点でも優れた有機EL方式のものが生産され始めている。これらは従来のブラウン管方式のものと比べればモバイル性や省スペースの面で格段に優れているが、基板としてガラスが使用されているために、比較的重量があり、また、割れるという問題も有している。
これらの問題点を解決するため、一部の液晶方式のものではフィルム基板(プラセルと呼ばれている)が使用されている。しかしながら、次世代ディスプレイとして脚光を浴びている有機ELディスプレイの場合、低抵抗な透明導電膜が必要とされているが、透明導電膜を低抵抗にする為には250℃を超える熱処理による焼結が不可欠である。また、太陽電池パネルにもガラス基板から軽くて、割れにくいフィルム基板の利用が注目されている。この場合、透明性、耐候性はもちろんのこと、耐熱性の要求も高まってきている。しかし、従来のプラスチック基板ではこのような特性を満足するものが無い。これらの要求を満たし得る材料としては粘土薄膜が注目されている。
【0003】
粘土薄膜は、透明性をもち優れたフレキシビリティーを有し、粒子が層状に緻密に配向している構造を有しているので、ガスバリア性に優れ、主成分が無機物である為に非常に耐熱性に優れた材料である(特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板として使用する場合、いくつかの問題が存在する。
一つは耐水性の問題である。一般的に用いられる粘土は層間に親水性の陽イオンを含んでおり、吸湿性の高い物質である。このため、水分による劣化が懸念される有機ELディスプレイや太陽電池のフィルム基板としては適さない。耐水性を上げる対策の一つとして層間への撥水剤添加が考えられるが、吸水性を制御した場合、全く水分がなくなると膜が柔軟性を喪失してしまい、柔軟性を保つ程度の水分を保持しようとすると、急激な加熱による水分の沸騰の為膜を破壊する結果となってしまう。もう一つの耐水化の方法として粘土層間に含まれる親水性陽イオンを疎水性陽イオンに交換した有機修飾粘土を用いる方法がある。しかしながら従来有機修飾粘土を作製する際に使用される四級アンモニウムイオンに代表される疎水性陽イオンは熱分解を起こしやすく、粘土が有する耐熱性を十分に発揮することができないという問題を有していた。
【0004】
また、有機修飾粘土は一般的に、膨潤性粘土の表面にある親水性イオンと有機イオンのイオン交換を行った後、洗浄、乾燥、及び粉砕の工程を経て粉末状粘土を得る方法で製造されている。更に、この有機修飾粘土を用いて粘土薄膜を形成するには、有機修飾粘土を有機溶剤に分散させる必要がある。得られた有機修飾粘土の有機溶剤への分散度合いは、親水性イオンとイオン交換する有機イオンに含まれる、炭素量、芳香環の量に従って異なり、芳香環が多く、炭素量が少ないと有機溶剤中での分散が困難となる。しかしながら、有機イオンが芳香環を持たず、炭素量が多いと、膨潤性粘土が持つ耐熱性という特徴を犠牲にせざるを得ないという問題がある。最近、イオン液体によるイオン交換を行うことにより作成された有機修飾粘土を用いて粘土薄膜が作成されているが、その耐熱性と熱分解温度は300℃に留まっている。(特許文献3および特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−104133号公報
【特許文献2】特開2007−63118号公報
【特許文献3】特開2008−266124号公報
【特許文献4】特開2009−137833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、無色透明で、耐水性で、しかも、優れたフレキシビリティーを有し、300℃を超える高温度条件下で使用できる新しい膜を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)テトラフェニルホスホニウムイオンにより変性された粘土を主要構成成分とする材料であって、全光線透過率が80%を超えることを特徴とする透明材。
(2)テトラフェニルホスホニウム変性粘土のみから構成される前記(1)に記載の透明材。
(3)自立膜として利用可能な機械的強度を有する前記(1)に記載の透明材。
(4)テトラフェニルホスホニウム変性粘土が、天然粘土あるいは合成粘土を用いたものである前記(1)に記載の透明材。
(5)テトラフェニルホスホニウム変性粘土に用いられる粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの一種以上である、前記(1)に記載の透明材。
(6)テトラフェニルホスホニウム変性粘土におけるテトラフェニルホスホニウムイオンが30重量%未満である前記(1)に記載の透明材。
(7)厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きいことを特徴とする前記(1)に記載の透明材。
(8)円、正方形、長方形等の任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である前記(1)に記載の透明材。
(9)紫外可視分光器による500nmの光透過率が80%以上であることを特徴とする、前記(1)に記載の透明材。
(10)大気下で、400℃加熱後、紫外可視分光器による500nmの光透過率が70%以上であることを特徴とする、前記(1)に記載の透明材。
(11)熱重量分析において、350℃から650℃の温度範囲における重量減少が乾燥固体基準で30%未満であることを特徴とする、前記(1)から(10)のいずれかに記載の透明材。
(12)曲げ半径4mmでクラックが発生しない、前記(1)から(11)のいずれかに記載の透明材。
(13)40℃、相対湿度90%における吸湿率が5%未満である、前記(1)から(12)のいずれかに記載の透明材。
(14)水を主体とする液体に粘土を分散させる第1工程とテトラフェニルホスホニウムイオンを粘土を分散させた液体に投入し、粘土の層間に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム変性粘土を得た後、水と極性溶媒の混合溶液により副生電解質を除去する第2工程と、第2工程で得られた水と極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させ、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液とすることを特徴とする前記(1)から(13)のいずれかに記載の透明材の製造方法。
(15)前記分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの表面が平坦な支持体に塗布し、分散媒である液体を除去し、膜状に成形し、剥離することにより自立膜とすることを特徴とする前記(1)から(14)のいずれかに記載の透明材の製造方法。
(16)前記水と極性溶媒の混合溶液の重量比が90/10〜10/90である、前記(14)に記載の透明材の製造方法。
(17)前記極性溶媒がアセトニトリル、エタノール、メタノール、プロパノールおよびイソプロパノールの少なくとも1つを含む前記(14)に記載の透明材の製造方法。
(18)前記有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよび1−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つを含む前記(14)に記載の透明材の製造方法。
(19)テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液を調製した後、それを脱気処理することを特徴とする、前記(14)に記載の透明材の製造方法。
(20)前記(1)から(13)のいずれかに記載の透明材を構成要素として含むことを特徴とする部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明により(1)テトラフェニルホスホニウム変性粘土粒子の配向が揃った透明なテトラフェニルホスホニウム変性粘土からなる膜材料を提供することができる。(2)該テトラフェニルホスホニウム変性粘土からなる透明材は、自立膜として用いることができ、例えば、300℃を超える高温においても化学的に安定で透明性を保つため、柔軟なディスプレイ材料・包装材料・太陽電池などの各種透明基板材料などとして用いることができるという格別の効果が奏される。(3)柔軟性、耐熱性、軽量性、耐水性の要件を全て満たすことができる新規透明材を提供することができる。(4)無色透明であり、内部の視認が可能な透明材が得られる。(5)前記に示した種々の特性により多くの製品に利用することができる。たとえば電子デバイス用フィルム基板、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム、電子デバイス用封止フィルム、レンズ フィルム、導光板用フィルム、プリズムフィルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、 タッチパネル用透明フィルム、各種機能性フィルムの基板フィルム、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・ CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等として用いることも可能である。また、他部材との多層化により高いガスバリア性・水蒸気バリア性を実現でき、液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板として好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の透明材(TPP−SA)の200℃、300℃、350℃、400℃加熱後の可視紫外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の透明材(TPP−SA)のX線回折チャートを示す図である。
【図3】本発明の透明材(TPP−SA)の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の透明材(TPP−HE−SA)の200℃、300℃、350℃、400℃加熱後の可視紫外吸収スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の透明材(TPP−HE−SA)のX線回折チャートを示す図である。
【図6】本発明の透明材(TPP−HE−SA)の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の透明材はテトラフェニルホスホニウムイオンにより変性された粘土を主要構成成分とする材料であって、全光線透過率が80%を超えることを特徴とする透明材である。本発明では、粘土を分散させた水を主成分とする液体に、テトラフェニルホスホニウムイオンを投入して該粘土の層間に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム変性粘土を得た後、水と極性溶媒の混合溶液によりハロゲン化ナトリウムなどの副生電解質を除去し、その水と極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液を得た後、この分散液を、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムなどの表面が平坦な支持体に塗布し、無機層状化合物粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に成形した後、これを必要に応じ乾燥・加熱・冷却するなどの方法により支持体から剥離することにより、無機層状化合物粒子が配向し、透明性が高く、耐水性に優れ、柔軟性に優れ、耐熱性も高い無機層状化合物膜が得られる。
【0011】
本発明の透明材はテトラフェニルホスホニウム変性粘土のみから構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の透明材は自立膜として利用可能な機械的強度を有することを特徴とする。
【0013】
本発明で用いるテトラフェニルホスホニウム変性粘土としては、天然あるいは合成の粘土、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの一種以上、あるいはそれらの混合物が例示される。更に好適には2種類以上の合成粘土を混合することにより、透明性、柔軟性のより高い透明材の作製が可能である。例えば合成サポナイトと合成ヘクトライトがあげられる。その際テトラフェニルホスホニウム変性粘土におけるテトラフェニルホスホニウムイオンが30重量パーセント未満であることが望ましい。
【0014】
本発明の透明材は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。
【0015】
本発明の透明材は、好適には、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きい。
【0016】
本発明の透明材の光透過性は、可視光(波長500nm)の光透過率が80%以上であり、400℃加熱処理後の可視光の光透過率が70%以上であり、面積は100cm×40cm以上に大面積化することが可能であり、曲げ半径4mmでクラックが発生しない柔軟性と、40℃、相対湿度90%における吸湿率が5%未満である耐水性を有する。
【0017】
次に本発明の透明材の製造方法について説明する。本発明は、透明材の製造方法であって、水を主体とする液体に粘土を分散させる第1工程とテトラフェニルホスホニウムイオンを粘土を分散させた液体に投入し、粘土の層間に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム変性粘土を得た後、水と極性溶媒の混合溶液により副生電解質を除去する第2工程と、第2工程で得られた水と極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させ、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液とすることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の透明材は、前記分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの表面が平坦な支持体に塗布し、分散媒である液体を除去し、膜状に成形し、剥離することにより自立膜とすることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の透明材の製造方法の第1工程は、水を主成分とする液体に粘土を分散させることを特徴とする。なお、水を主成分とする液体とは、イオン交換水、蒸留水などの水を50重量パーセント以上含有する液体である。前記液体は全て水であってもよい。前記液体は水の他に、水と任意の割合で混合可能な極性溶媒と任意の割合で混合しても良い。上記水の量は粘土100重量部に対して200〜200000重量部であることが好ましく、1000〜100000重量部であることがより好ましい。上記水以外の液体の量は粘土100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましく、1〜10重量部であることがより好ましい。
また、これらの液体に粘土を分散させるには、回転式攪拌機、及び振とう式攪拌機などを用いることが好ましい。
【0020】
本発明の透明材の製造方法の第2工程は、テトラフェニルホスホニウムイオンを、粘土を分散させた液体に投入し、粘土の層間に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム変性粘土を得た後、イオン交換された親水性陽イオンを除去することを特徴とする。本発明で用いる粘土は、板状の無機化合物粒子が層状に配向することが可能な粘土である。その粒子の層間にはナトリウムに代表される親水性陽イオンが存在し、この陽イオンは他の陽イオンとイオン交換が可能である。そこでテトラフェニルホスホニウムイオンを用いてイオン交換を行い、有機溶媒への分散が可能なテトラフェニルホスホニウム変性粘土とする。
イオン交換の方法は、第1工程で粘土を液体に十分に分散させた後、この分散液にテトラフェニルホスホニウムイオンを添加し、回転式攪拌機等で分散液が均一となるまで攪拌してテトラフェニルホスホニウム変性粘土とする。この時、添加するテトラフェニルホスホニウムイオンは、粘土イオン交換量の1〜10倍相当量程度であると好ましく、1〜5倍程度であると特に好ましい。用いるテトラフェニルホスホニウムイオンが粘土イオン交換量の10倍相当量を越えた場合は、有機物が過剰に粘土薄膜に取り込まれ、形成した粘土薄膜の熱分解特性が悪化しやすい。一方、粘土イオン交換量が1倍相当量未満の場合では十分なイオン交換ができずナトリウムイオンが粘土層間に残留し粘土薄膜として加工した際、十分な疎水性を得ることができにくい。ここで言うイオン交換量とは乾燥粘土100g中 に保持されているすべての交換性陽イオンのミリグラム当量(meq)で表すことができ、ICP発光分析、硝酸アンモニウム溶液浸出法やメチレンブルー吸着法を用いて測定することができる。なおmeq/100gを、cmol(+)/kgで表すこともできる。
【0021】
攪拌により生成したテトラフェニルホスホニウム変性粘土を自然沈降させ、その後、親水性イオンを含有する上澄み液を除去する。上澄み液を取り除く方法の例としては、遠心分離や吸引濾過等の方法が挙げられる。
上澄み液除去後のテトラフェニルホスホニウム変性粘土100重量部に対して、水と極性溶媒の混合溶液を1000〜10000重量部の割合で添加し、攪拌し、再びテトラフェニルホスホニウム変性粘土を沈降させて上澄み液を取り除く。これを何度か繰り返し、上澄み液中の親水性イオン濃度が100ppm以下、好ましくは1ppm以下となるまでテトラフェニルホスホニウム変性粘土の洗浄を行う。この際の水と極性溶媒の質量比の好適範囲が90/10〜10/90であり更に好ましくは60/40〜40/60である。この時、極性溶媒の割合が低すぎる場合、十分な洗浄効果が得られず結果的に膨大な時間をかけて洗浄を繰り返さなければならない。また、後記する第2工程で得られた水と極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させ、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液とする第3の工程の際に凝集が起こる為に均一な分散液を作製できず、結果的に透明材の作製が不可能となる。洗浄方法に関しては、このようなデカンテーションの繰返しという方法のほかにも、例えば、吸引濾過もしくは遠心分離を行いながら連続的に水とアルコール類の混合溶液を注入する連続式洗浄なども可能である。ここで、親水性イオン濃度が100ppmを越えた場合は透明材として加工した際に、疎水性を得難い。
【0022】
本発明の透明材の製造方法の第3工程は、第2工程で得られた水と極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を、有機溶媒に添加し、水と極性溶媒と有機溶媒の混合溶媒中にテトラフェニルホスホニウム変性粘土を分散して、粘土分散液を得る。すなわち下記に示す従来技術で必要とされる乾燥工程を経ずに、粘土分散液を得ることを特徴としている。
一般的には粘土分散液は以下のような方法で得られている。すなわち、得られた有機修飾粘土の水分を乾燥により完全に除去して固形分とし、該固形分を粉砕して粘土粉末を得る。そして、得られた粘土粉末を有機溶剤に添加し、膨張、すなわち膨潤させ、粘土分散液を得ていた。
このような従来の方法の場合、粘土粉末を有機溶剤中で膨張可能であるものとする為に、イオン交換の際の有機オニウムイオンとして、芳香環の数が少なく炭素量の多いイオン、例えばジメチルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩を用いていた。これは、有機オニウムイオンの炭素量を減少させ、芳香環の数が増加すると、溶剤への膨潤が劣り、充分な分散液を得ることができない為である。従って、従来の粘土分散液では耐熱性の低い粘土薄膜しか得られていなかった。
【0023】
そこで本発明の透明材の製造方法の第3工程では、第2工程で得られた水と極性溶媒を含んだテトラフェニルホスホニウム変性粘土はそのまま有機溶媒に添加される。そして、水と極性溶媒、有機溶媒の混合液中で、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を膨潤させ、分散して、均一な粘土分散液を得る。
用いる有機溶媒は、テトラフェニルホスホニウム変性粘土が分散するものであれば特に限定されないが、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよび1−メチル−2−ピロリドンなどの極性溶媒を使用すると好ましい。
このとき、テトラフェニルホスホニウム変性粘土100重量部に対し、有機溶媒が50〜10000重量部であると好ましく、500〜1000重量部であると更に好ましい。有機溶媒が10000重量部を越えた場合は固形分が少なくなり分散液に粘性が得られず塗膜が困難となりやすい。一方、50重量部未満の場合ではテトラフェニルホスホニウム変性粘土が十分に分散されず、非常に高粘度となり均一な透明材の形成が困難となりやすい。
【0024】
本発明の透明材の製造方法の第4工程は第3工程で得られたテトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液を、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムなどの表面が平坦な支持体に塗布し、分散媒である液体を除去し、膜状に成形し、必要に応じて剥離することにより透明な自立膜とすることを特徴とする。
この時、薄膜形成に用いる基材は、表面が分散液の流出がない程度の平坦で粘土乾燥温度での変形が無く、乾燥後の透明材の剥離が容易であれば特に限定は無く必要に応じて選択できる。中でも比較的安価で利用しやすいポリエチレンテレフタレートフィルムや、ポリプロピレンフィルム、テフロン(登録商標)フィルムなどの撥水性材料のほか、チタニアコーティングなどの撥水処理を行った材料が好適に用いられる。支持体表面はできる限り平坦であることが望ましい。平坦でない場合には、膜表面に支持体表面の荒れが転写され、光が表面散乱する原因となる。
【0025】
テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む分散液を、事前に脱気処理しない場合は、得られる透明材に気泡に由来する孔ができ易くなるという問題が生ずる場合がある。また、乾燥条件は液体分を蒸発によって取り除くに十分であるように設定される。このとき、温度が低すぎると、乾燥に時間がかかるという問題がある。また、温度が高すぎると、分散液の対流が起こり、粘土粒子の配向度が低下するという問題がある。本発明の、透明材の厚さについては、分散液に用いる固体量を調整することによって、任意の厚さの透明材を得ることができる。
【0026】
このように、本発明の膜材料は、粘土粒子の積層が高度に配向し、自立膜として用いることが可能であり、フレキシビリティーに優れ、ピンホールが存在せず、300℃を超える高温においても高い光透過度を保持し、さらに耐水性を保持することを特徴とするものである。また、本発明の膜材料は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。更に、本発明の膜材料は、好適には、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cm2よりも大きい。
【0027】
したがって、本発明の透明材は、フレキシビリティーに優れ、耐水性に優れた透明自立膜として広範に使用することができる。例えば、300℃を超える高温においても化学的に安定で透明性を保つ、柔軟なディスプレイ材料・包装材料・透明基板材料などとして用いることができる。更に、本発明の無機層状化合物膜は、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム、電子デバイス用封止フィルム、レンズ フィルム、導光板用フィルム、プリズムフィルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、 タッチパネル用透明フィルム、各種機能性フィルムの基板フィルム、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・ CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等として用いることも可能である。
【0028】
上記透明材を他部材に貼り付ける一例として、多層化が例示される。つまり、透明材を他の材料から作製された膜Bと多層化することにより、気体バリア性能及び機械的強度を向上させて用いることが可能である。例えば、無機層状化合物複合膜とプラスチック膜の一種としてフッ素樹脂フィルムを接着剤によって貼り合わせて多層化した膜が例示される。フッ素樹脂フィルムは低透湿性であることから、フッ素樹脂フィルムと無機層状化合物複合膜との多層膜は高遮湿性及び高ガスバリア性の膜として利用可能である。ここで、膜Bの材質としては、粘土膜との多層膜の成形性が良好であれば、特に制限はないが、好適には、例えば、金属箔、薄板硝子、各種プラスチック膜、紙などが例示される。更に、無機層状化合物複合膜を含む三層以上の多層膜を用いることも可能である。
【0029】
透明な耐熱性フィルムとしては、薄板ガラスがあるが、これは薄くても0.4mm程度が限界である。一方、本無機層状化合物複合膜は、0.2mmから3マイクロメートル程度まで薄く作製することが可能であり、デバイス全体のフレキシビリティー及び軽量化を図ることができる。
【0030】
フレキシブルデバイス材料や電子デバイス材料としては、膜のフレキシビリティーが重要な特性である。本層状化合物複合膜は、半径4mmに曲げてもクラックなど発生せず、フレキシブルデバイスに広範に使用が可能であることを特徴とする。
【0031】
本発明の膜は、フレキシビリティー、加工性に優れていることから、ロールトゥロールプロセスの適用も可能と考えられる。
【0032】
本発明の膜は他材料への接着が容易であり、一般的な接着剤を用いることが可能であり、表面コーティングが可能であり、表面コーティング及びラミネートすることにより、水蒸気バリア性・耐水性の向上が可能である。
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(1)テトラフェニルホスホニウム変性粘土の作製
合成サポナイト粘土(クニミネ工業株式会社製、商品名スメクトンSA)10gを蒸留水1000cmに分散させた。次にこの分散液に市販のテトラフェニルホスホニウムブロミド特級試薬を10g混合し、ホモジナイザーで2時間攪拌することにより、均一な分散液を調整した。この分散液を6000回転、10分間遠心分離機にかけ固液分離した。分離した上澄み液を除去した後全体量が500cmとなるように蒸留水/エタノール=50/50混合溶液を加え攪拌した。攪拌後に再び遠心分離機により同条件で固液分離を行い、分離された上澄み液を再び除去した。以上の攪拌と遠心分離を上澄み液のナトリウムイオン濃度が1ppm以下になるまで繰り返し行った。以上の操作で得られた固形物は、固形分10%の水とエタノールを含んだゲル状のテトラフェニルホスホニウム変性粘土であった。
【0035】
(2)透明材の製造
上記により得られたゲル状のテトラフェニルホスホニウム変性粘土40gにN,N−ジメチルホルムアミド60gを加えプラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともにいれ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ2mmのポリプロピレンフィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製スクレーパーを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成形した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な透明材を得た。生成した変性粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた透明材(TPP−SA)を得た。
【0036】
(3)透明材の特性
TPP−SAの柔軟性をマンドレル試験JIS K5600−5−1に基づき評価を行ったところ、半径4mmに曲げてもクラックなどが発生せず、なんらの欠陥も生じなかった。可視紫外分光光度計により測定された、この膜の波長500nmにおける光透過率は82%であった。また、400℃加熱後の光透過率は78%であった(図1)。この膜のJIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に基づく全光線透過率は90%でありヘーズ(曇値)は50%であった。
【0037】
(4)透明材の耐水性
TPP−SAを24時間蒸留水に浸透した。この処理の後、肉眼でピンホール・クラックの発生などの異常は観察されなかった。また、110℃で一晩乾燥後の透明材を2cm角に切り出し40℃、相対湿度90%のオーブンに24時間投入後の透明材の重量変化は5%以下であった。
【0038】
(5)透明材の構造
TPP−SAのX線回折チャートを図2に示す。このX線回折チャートにおいて極めてシャープな底面反射ピーク001が観測され、その角度から算出された層間隔はd=1.88nmであった。加えて、他のシャープな高次ピークがd=9.40(002)等に観察されていることから、TPP−SAにおいて粘土層状結晶が配向して積層していることが分かる。
【0039】
TPP−SAの熱分析(昇温速度5℃毎分、大気下)を行った。TG曲線から室温から200℃までに、吸着水の脱水による重量減少が観察され、また、350℃から650℃にかけて有機物の熱分解に伴う重量減少が約20%観察された。
【0040】
TPP−SAの断面の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。テトラフェニルホスホニウム変性粘土の板状結晶は、膜に平行に配向し、積層している構造が分かる。この構造が透明材のフレキシビリティーおよび透明性に寄与すると考えられる。
【0041】
(6)透明材の耐熱性
TPP−SAを電気炉で加熱した。室温から200℃、300℃、350℃、400℃の各温度まで昇温速度5℃毎分、大気下で昇温した。所定温度到達後直ちに電気炉から取り出し速やかに室温で放冷した。この加熱処理の後、肉眼でピンホール・クラックの発生などの異常は確認されなかった。また、各温度で加熱処理後のTPP−SA膜の波長500nmにおける光透過率はそれぞれ82%(200℃)、82%(300℃)、80%(350℃)、78%(400℃)となり400℃においても70%以上の高い光透過率を示すことが分かった。(図1)
【実施例2】
【0042】
(1)テトラフェニルホスホニウム変性粘土の作製
合成サポナイト(クニミネ工業株式会社製、商品名スメクトンSA)4gと合成ヘクトライト(ロックウッドアディティブス社製、商品名ラポナイトS482)6gを混合し、蒸留水1000cmに分散させた。次にこの分散液に市販のテトラフェニルホスホニウムブロミド特級試薬を10g混合し、ホモジナイザーで2時間攪拌することにより、均一な分散液を調整した。この分散液を6000回転、10分間遠心分離機にかけ固液分離した。分離した上澄み液を除去した後全体量が500cmとなるように蒸留水/エタノール=50/50混合溶液を加え攪拌した。攪拌後に再び遠心分離機により同条件で固液分離を行い、分離された上澄み液を再び除去した。以上の攪拌と遠心分離を上澄み液のナトリウムイオン濃度が1ppm以下になるまで繰り返し行った。以上の操作で得られた固形物は、固形分10%の水とエタノールを含んだゲル状のテトラフェニルホスホニウム変性粘土であった。
【0043】
(2)透明材の製造
上記により得られたゲル状のテトラフェニルホスホニウム変性粘土40gにN,N−ジメチルホルムアミド60gを加えプラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともにいれ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ2mmのポリプロピレンフィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製スクレーパーを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成形した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な透明材を得た。生成した変性粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた透明材(TPP−HE−SA)を得た。
【0044】
(3)透明材の特性
TPP−HE−SAの柔軟性をマンドレル試験JIS K5600−5−1に基づき評価を行ったところ、半径4mmに曲げてもクラックなどが発生せず、なんらの欠陥も生じなかった。可視紫外分光光度計により測定された、この膜の波長500nmにおける光透過率は91%であった。また、400℃加熱後の光透過率は88%であった(図4)。この膜のJIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に基づく全光線透過率は91%でありヘーズ(曇値)は12%であった。
【0045】
(4)透明材の耐水性
TPP−HE−SAを24時間蒸留水に浸透した。この処理の後、肉眼でピンホール・クラックの発生などの異常は観察されなかった。また、110℃で一晩乾燥後の透明材を2cm角に切り出し40℃、相対湿度90%のオーブンに24時間投入後の透明材の重量変化は5%以下であった。
【0046】
(5)透明材の構造
TPP−HE−SAのX線回折チャートを図5に示す。このX線回折チャートにおいて極めてシャープな底面反射ピーク001が観測され、その角度から算出された層間隔はd=1.87nmであった。加えて、他のシャープな高次ピークがd=9.55(002)等に観察されていることから、TPP−SA−HEにおいて粘土層状結晶が配向して積層していることが分かる。
【0047】
TPP−HE−SAの熱分析(昇温速度5℃毎分、大気下)を行った。TG曲線から室温から200℃までに、吸着水の脱水による重量減少が観察され、また、350℃から650℃にかけて有機物の熱分解に伴う重量減少が約20%観察された。
【0048】
TPP−HE−SAの断面の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。テトラフェニルホスホニウム変性粘土の板状結晶は、膜に平行に配向し、積層している構造が分かる。この構造が透明材のフレキシビリティーおよび透明性に寄与すると考えられる。
【0049】
(6)透明材の耐熱性
TPP−HE−SAを電気炉で加熱した。室温から200℃、300℃、350℃、400℃の各温度まで昇温速度5℃毎分、大気下で昇温した。所定温度到達後直ちに電気炉から取り出し速やかに室温で放冷した。この加熱処理の後、肉眼でピンホール・クラックの発生などの異常は確認されなかった。また、各温度で加熱処理後のTPP−HE−SA膜の波長500nmにおける光透過率はそれぞれ90%(200℃)、90%(300℃)、89%(350℃)、88%(400℃)となり400℃においても70%以上の高い光透過率を示すことが分かった。(図4)
【実施例3】
【0050】
実施例2においてテトラフェニルホスホニウム変性粘土作製時に合成サポナイト(クニミネ工業株式会社製、商品名スメクトンSA)3gと合成ヘクトライト(ロックウッドアディティブス社製、商品名ラポナイトS482)7gにした以外は同様にして厚さ約40マイクロメートルの均一な透明材を得た。
【実施例4】
【0051】
実施例2においてテトラフェニルホスホニウム変性粘土作製時に合成サポナイト(クニミネ工業株式会社製、商品名スメクトンSA)5gと合成ヘクトライト(ロックウッドアディティブス社製、商品名ラポナイトS482)5gにした以外は同様にして厚さ約40マイクロメートルの均一な透明材を得た。
【実施例5】
【0052】
実施例2においてテトラフェニルホスホニウム変性粘土作製時に合成サポナイト(クニミネ工業株式会社製、商品名スメクトンSA)6gと合成ヘクトライト(ロックウッドアディティブス社製、商品名ラポナイトS482)4gにした以外は同様にして厚さ約40マイクロメートルの均一な透明材を得た。
【0053】
上記のように得られた実施例3〜5で作製した透明材について、実施例1,2と同様の特性を測定しその結果を表1に記した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜5の結果から明らかなように、実施例1の合成サポナイト粘土のみをイオン交換したテトラフェニルホスホニウム変性粘土から作製した透明材に比べて、実施例2〜5のように合成サポナイト粘土と合成ヘクトライト粘土の2種類の合成粘土混合物をイオン交換したテトラフェニルホスホニウム変性粘土から作製した透明材は、基本特性に変化は無く、HAZEが半分程度に低減され、透明性がより高くなることが確認された。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、攪拌と遠心分離を繰り返して得られたゲル状の水とエタノールを含んだゲル状のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を110℃で、含水率0.1%になるまで乾燥させた後、カッターミルで乾燥物を50マイクロメーター程度に粉砕して粘土固形物を得た。得られた粘土固形物5gにN,N−ジメチルホルムアミド95gを加えプラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともにいれ、25℃で2時間激しく振とうしたが得られた溶液は一部沈殿が見られ、均一な分散液を得ることができなかった。次にこの溶液を、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この溶液を、厚さ2mmのポリプロピレンフィルムを貼り付けた金属板に塗布し、自然乾燥により溶媒分を除去したが、白色の小片や粉末がポリプロピレンフィルム上に散在しており、透明材は得られなかった。
また固形物のX線回折を行ったところ底面反射ピーク001が観測され、その角度から算出された層間隔はd=1.88nmであったがピーク強度は非常に弱く、002などのほかのピークもほとんど観察されないことから粘土層状結晶が配向して積層していないことが分かる。
さらに、白色小片の断面を走査型電子顕微鏡により観察を行った結果、明らかに透明材のような積層構造ではなく、凝集物であることが確認できた。
【0057】
[比較例2]
比較例1で使用したN,N−ジメチルホルムアミドの代わりにエタノールを用いた以外は同様にしたところ、得られた溶液は一部沈殿が見られ、均一な分散液を得ることができなかった。この溶液を比較例1と同様にして透明材の形成を行ったが、白色粉末がポリプロピレンフィルム上に散在しており、透明材は得られなかった。
【0058】
[比較例3]
合成サポナイト(SA;クニミネ工業株式会社製、商品名スメクトンSA)4gを蒸留水96cmに加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともにいれ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ2mmのポリプロピレンフィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製スクレーパーを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な透明材を得た。生成した変性粘土膜をトレイから剥離して、透明な薄膜を得た。
この透明な薄膜を2cm角に切り出し24時間蒸留水に浸透すると、薄膜は完全に蒸留水に溶解しており浸水前の形状を維持することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上詳述したように、本発明は、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を主要構成成分とする膜であることを特徴とする透明材であり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、テトラフェニルホスホニウム変性粘土粒子の配向積層を高度に向上させた膜材に係るものであり、本発明の透明材は、自立膜として用いることが可能であり、また、300℃を超える高温条件化で使用が可能であり、かつ、耐水性に優れ、フレキシビリティーに優れており、さらに、ピンホールの存在しない緻密な材料であるといった特徴を有するものである。したがって、本発明の透明材は、生産あるいは加工時の高温条件に耐える部材であり、フレキシビリティーに優れた透明フィルムとして広範に使用することができる。そのため、本発明の透明材は多くの製品に利用することができる。例えば液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板、電子ペーパー用基板、電子デバイス用封止フィルム、レンズフィルム、導光板用フィルム、プリズムフィ ルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、タッチパネル用フィルム、各種機能性フィル ムの基板、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを 含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等の部材として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフェニルホスホニウムイオンにより変性された粘土を主要構成成分とする材料であって、全光線透過率が80%を超えることを特徴とする透明材。
【請求項2】
テトラフェニルホスホニウム変性粘土のみから構成される請求項1に記載の透明材。
【請求項3】
自立膜として利用可能な機械的強度を有する請求項1に記載の透明材。
【請求項4】
テトラフェニルホスホニウム変性粘土が、天然粘土あるいは合成粘土を用いたものである請求項1に記載の透明材。
【請求項5】
テトラフェニルホスホニウム変性粘土に用いられる粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの1種以上である、請求項1に記載の透明材。
【請求項6】
テトラフェニルホスホニウム変性粘土におけるテトラフェニルホスホニウムイオンが30重量%未満である請求項1に記載の透明材。
【請求項7】
厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の透明材。
【請求項8】
円、正方形、長方形等の任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である請求項1に記載の透明材。
【請求項9】
紫外可視分光器による500nmの光透過率が80%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の透明材。
【請求項10】
大気下で、400℃加熱後、紫外可視分光器による500nmの光透過率が70%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の透明材。
【請求項11】
熱重量測定において、350℃から650℃の温度範囲における重量減少が乾燥固体基準で30%未満であることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の透明材。
【請求項12】
曲げ半径4mmでクラックが発生しない、請求項1から11のいずれかに記載の透明材。
【請求項13】
40℃、相対湿度90%における吸湿率が5%未満である、請求項1から12のいずれかに記載の透明材。
【請求項14】
水を主体とする液体に粘土を分散させる第1工程とテトラフェニルホスホニウムイオンを粘土を分散させた液体に投入し、粘土の層間に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム変性粘土を得た後、水と極性溶媒の混合溶液により副生電解質を除去する第2工程と、第2工程で得られた水と極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム変性粘土を有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させ、テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液とすることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の透明材の製造方法。
【請求項15】
前記分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの表面が平坦な支持体に塗布し、分散媒である液体を除去し、膜状に成形し、剥離することにより自立膜とすることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の透明材の製造方法。
【請求項16】
前記水と極性溶媒の混合溶液の重量比が90/10〜10/90である、請求項14に記載の透明材の製造方法。
【請求項17】
前記極性溶媒がアセトニトリル、エタノール、メタノール、プロパノールおよびイソプロパノールの少なくとも1つを含む請求項14に記載の透明材の製造方法。
【請求項18】
前記有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよび1−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つを含む請求項14に記載の透明材の製造方法。
【請求項19】
テトラフェニルホスホニウム変性粘土を含む均一な分散液を調製した後、それを脱気処理することを特徴とする、請求項14に記載の透明材の製造方法。
【請求項20】
請求項1から請求項13のいずれかに記載の透明材を構成要素として含むことを特徴とする部材。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−46552(P2011−46552A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195070(P2009−195070)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構「ディスプレイ用高耐熱高透明性粘土フィルム基板」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】