説明

透明樹脂成形体並びに光学レンズ及び光学フィルム

【課題】優れたリフロー耐熱性と光学特性とを兼ね備えた透明樹脂成形体を提供するとともに、さらにこの透明樹脂成形体よりなり、耐熱性と光学特性に優れた光学レンズ及び光学フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含有する成形材料を成形するとともに、前記熱可塑性樹脂を架橋して得られる樹脂成形体であって、前記熱可塑性樹脂は、その厚さ2mmの成形体における600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上となる樹脂より選ばれ、かつ前記樹脂成形体を、200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上であることを特徴とする透明樹脂成形体、及びこの透明樹脂成形体により形成された光学レンズ及び光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品中に実装される光学レンズや光学フィルムの形成に用いられる透明な樹脂成形体、並びに、該透明樹脂成形体より形成される光学レンズ及び光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化、高性能化に対応するため、搭載される電子部品の小型化が進められている。それとともに電子部品を回路基板へ実装する方法としては、高い実装密度が得られ生産効率も良い方法である、所謂ハンダリフローが一般的になりつつある。さらに近年は、環境問題から融点の高い鉛フリーハンダの使用が望まれているので、ハンダリフローでも、220〜270℃という高温での加熱が行われるようになってきている。そこで、前記電子部品にもこの高温に耐えられる耐熱性が望まれている。
【0003】
前記電子部品の中には、光学レンズや透明フィルム等の透明性を必要とする部材を組み込んだ部品が含まれる。従来、これらの透明性を必要とする部材には、無機ガラスや透明な熱可塑性樹脂の成形体が使用されていた。(非特許文献1)
【非特許文献1】「ここまできた透明樹脂」(株)工業調査会、第48頁、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、無機ガラスは比重が大きく、又、脆いため破損しやすい、破損面が鋭角である等の欠点を有しており、かつ成形に時間がかかるという問題もある。一方、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂は、軽量かつ力学特性に優れ加工性にも優れるが、耐熱性や光学特性(透明性や変色性等)の面ではガラスより劣るという問題があった。このため、これらの熱可塑性樹脂を使用した場合は、鉛フリーハンダを使用したハンダリフローでの高温に耐えられる十分な耐熱性(以下、リフロー耐熱性と言う。)を有する樹脂成形体は得られていない。
【0005】
前記の樹脂より耐熱性が優れる樹脂としては、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等を挙げることができる。しかしこれらから得られる樹脂成形体は、可視光域(380〜740nm)では透明性が低くかつ樹脂がベンゼン環を含むために複屈折が高いとの問題があった。
【0006】
本発明は、優れたリフロー耐熱性と光学特性とを兼ね備えた透明樹脂成形体を提供することを課題とする。本発明はさらに、この透明樹脂成形体よりなり、耐熱性と光学特性に優れた光学レンズ及び光学フィルムも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、可視から近赤外の範囲において高い透過率を有する架橋性の熱可塑性樹脂を含有する成形材料を原料とするとともに、この熱可塑性樹脂を架橋して得られた樹脂成形体であって、可視から近赤外の範囲において高い透過率を有するものにより、前記の課題が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、請求項1として、
熱可塑性樹脂を含有する成形材料を成形するとともに、前記熱可塑性樹脂を架橋して得られる樹脂成形体であって、
前記熱可塑性樹脂は、その厚さ2mmの成形体における600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上となる樹脂より選ばれ、かつ
前記樹脂成形体を、200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上であることを特徴とする透明樹脂成形体を提供する。
【0009】
ここで熱可塑性樹脂は架橋されるものであるので、架橋性の熱可塑性樹脂である。架橋性の熱可塑性樹脂とは、その主鎖又は側鎖に架橋を形成することができる部分(架橋サイト)を有する熱可塑性樹脂、すなわち加熱や電離放射線照射、UV照射等により架橋反応を起こす能力を有する熱可塑性樹脂を言う。
【0010】
この架橋性の熱可塑性樹脂を含む成形材料を成形後、加熱や放射線照射等を施すことにより、架橋された成形体を得ることができる。成形方法は特に制限されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、プレス成形法、押出成形法、ブロー成形法、真空成形法等が挙げられる。フィルム状に成形する場合は、Tダイを用いた押出成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法、プレス、キャスティング、熱成形等を用いることもできる。
【0011】
架橋させて得られる成形体は、耐熱性、剛性に優れ、又、耐クリープ性や耐摩耗性が良好である。架橋される前の段階では成形が容易であるので、この段階で所定の成形を行い、成形後加熱や放射線照射等を施して架橋することにより、容易に優れた特性を有する成形体を得ることができる。
【0012】
架橋の方法としては、加熱による方法、電子線や他の放射線を用いて架橋する方法等が挙げられる。電子線や他の放射線を用いて架橋する方法は、成形時の温度、流動性の制限を伴わず、制御が容易であるため好ましい。放射線としては、電子線の他、γ線等を挙げることができる。架橋の程度は特に限定されず、目的とする樹脂成形体に応じて設定される。
【0013】
本発明の透明樹脂成形体を、200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの、600〜1000nmの範囲での平均透過率は、60%以上である。200℃で10分間の加熱は、耐ハンダリフローを考慮した条件である。この平均透過率が60%未満となる場合は、ハンダリフロー後の透明性が低い問題がある。
【0014】
なお、厚さ2mmのガラスのこの範囲での平均透過率は80%以上であるので、透明樹脂成形体を200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの、600〜1000nmの範囲での平均透過率が、80%以上の透明樹脂成形体が好ましい。
【0015】
前記の平均透過率を有する透明樹脂成形体の中でも、200℃で10分間加熱したときの全光線透過率が、透明樹脂成形体の厚さが2mmのとき、60%以上であるものは、可視光域での透明性が高く、好ましい。全光線透過率とは、透明性を表す指標であり、その測定は、JIS K 7361に規定される測定法を用いて行い、可視光線の範囲において、入射光量Tと試験片を通った全光量Tとの比の百分率で示される。
【0016】
一方、透明樹脂成形体を、200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの、700〜1100nmの範囲での平均透過率が、60%以上である透明樹脂成形体は、近赤外域での透明性が高く、近赤外用として好ましく用いられる。
【0017】
本発明の透明樹脂成形体は、270℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることが好ましい(請求項2)。270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上とすることにより、室温からリフロー温度を越える高温まで満足する剛性が得られる。従って、リフロー加熱時でも熱変形の問題が生じにくい。より好ましくは、270℃での貯蔵弾性率は1MPa以上であり、熱変形の問題がより生じにくく、より優れた成形体が得られる。
【0018】
ここで、貯蔵弾性率とは、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する一項(実数項)であり、粘弾性測定器(DMS)により測定した値である。より具体的には、アイティー計測制御製DVA−200による粘弾性測定器により10℃/minの昇温速度にて測定される値である。
【0019】
前記のように本発明の透明樹脂成形体は、架橋性の熱可塑性樹脂より得られるが、この熱可塑性樹脂は、その樹脂より厚さ2mmの成形体を作製したときの該成形体の600〜1000nmの範囲での平均透過率が60%以上となる樹脂より選ばれる。ここで、樹脂とは、ポリマーを主体とするものであるが、オリゴマーやモノマーを含んでいてもよい。好ましくは、重量平均分子量が5000以上のものである。この熱可塑性樹脂を使用することにより、200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの、600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上である透明樹脂成形体を得ることができる。
【0020】
具体的には、熱可塑性樹脂としては、透明ポリアミド、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル、アクリル、ポリカーボネート及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる樹脂が好ましく例示される(請求項3)。
【0021】
中でも、熱可塑性樹脂としては、主分極率0.6×10−23以下の化学結合のみからなるモノマーにより構成されるものが好ましい(請求項4)。このモノマーとしては、主分極率が化学結合に対する方向により異なっている場合は、そのいずれの方向についても0.6×10−23以下の化学結合のみからなるものが好ましい。主分極率0.6×10−23を越える化学結合を含むモノマーが、熱可塑性樹脂の構成モノマーに含まれると、光弾性定数が高くなり、成形や応力による複屈折が大きくなり、鮮明な像が得られにくい等の問題が生じやすくなる。
【0022】
透明ポリアミドは、特開昭62−121726号公報、特開昭63−170418号公報、特開2004−256812号公報等に開示されているが、これらは、芳香環、脂環等の環を有するモノマーを用いて得られるものであり、非晶性で、かつガラス転位点の高いポリアミドである。
【0023】
透明ポリアミドは、例えばジアミンとジカルボン酸とを縮合して得ることができるが、ここで用いられるジアミンとしては、
6〜14個のC原子を有する分枝鎖状又は非分枝鎖状の脂肪族ジアミン、例えば1,6−ヘキサメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,12−デカメチレンジアミン;
6〜22個のC原子を有する環状脂肪族ジアミン、例えば4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルプロパン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサン、2,6−ビス(アミノメチル)−ノルボルナン、又は3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン;
8〜22個のC原子を有する芳香脂肪族ジアミン、例えばm−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン又はビス(4−アミノフェニル)プロパン等、を挙げることができる。
【0024】
又、ジカルボン酸としては、
6〜22個のC原子を有する分枝鎖状又は非分枝鎖状の脂肪族ジカルボン酸、例えばアジピン酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、2,4,4−トリメチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,12−ドデカン二酸;
6〜22個のC原子を有する環状脂肪族ジカルボン酸、例えばシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、4,4′−ジカルボキシルジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジカルボキシルジシクロヘキシルメタン、4,4′−ジカルボキシルジシクロヘキシルプロパン、又は1,4−ビス(カルボキシメチル)シクロヘキサン;
8〜22個のC原子を有する芳香脂肪族ジカルボン酸、例えば4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸;
8〜22個のC原子を有する芳香族ジカルボン酸、例えばイソフタル酸、トリブチルイソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタリンジカルボン酸、1,5−ナフタリンジカルボン酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸、ジフェン酸、又はジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等、を挙げることができる。
【0025】
透明ポリアミドは、又、ラクタムの開環重合やω−アミノカルボン酸の縮合等によっても得ることができる。このとき用いられる原料モノマーとしては、
6〜12個のC原子を有するラクタムもしくは相応するω−アミノカルボン酸、ε−カプロラクタム、ε−アミノカプロン酸、カプリルラクタム、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノウンデカン酸、ラウリンラクタム、又はω−アミノドデカン酸等、を挙げることができる。
【0026】
本発明に使用可能な透明ポリアミドのより具体的な例としては、
テレフタル酸、及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンと2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンとの異性体混合物からなるポリアミド、
イソフタル酸及び1,6−ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド、
テレフタル酸/イソフタル酸、及び1,6−ヘキサメチレンジアミンからなるコポリアミド、
イソフタル酸、及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタム又はカプロラクタムからなるコポリアミド、
1,12−ドデカン二酸又は1,10−ドデカン二酸、及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、場合によってはさらにラウリンラクタム又はカプロラクタムからなる(コ)ポリアミド、
イソフタル酸、及び4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタム又はカプロラクタムからなるコポリアミド、
1,12−ドデカン二酸、及び4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンからなるポリアミド、
テレフタル酸/イソフタル酸混合物、及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタムからなるコポリアミド、等を挙げることができる。
【0027】
又、透明ポリアミドは、本発明の範囲内で多数の異なるポリアミドの配合物であってよい。配合物自体が透明であれば、この配合物成分に結晶性のものが含まれていてもよい。透明ポリアミドの具体的商品例としては、透明ナイロン12(商品名グリルアミドTR−55、TR−90(エムスケミー・ジャパン製))等が挙げられる。これらの透明ポリアミドは、耐UV性に優れており、キセノンの発光等によるUVに対しても、変色や変形等を生じにくい。
【0028】
環状ポリオレフィンとは、環状オレフィンモノマーを含む単量体を重合して得ることができるポリオレフィン系樹脂である。環状オレフィンモノマーとは、特開平8−20692号公報等により公知のものであって、例えば、シクロペンテン、2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン系化合物が好ましく挙げられる。
【0029】
具体的には、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロ−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ−3−ドデセン、8−ヘキシルテトラシクロ−3−ドデセン、2,10−ジメチルテトラシクロ−3−ドデセン、5,10−ジメチルテトラシクロ−3−ドデセン、1,4:5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−2,3−シクロペンタジエノナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4:5,10:6,9−トリメタノ−1,2,3,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a−ドデカヒドロ−2,3−シクロペンタジエノアントラセン等が挙げられる。さらに、シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物、その前記と同様の誘導体や置換体を挙げることができる。
【0030】
環状ポリオレフィン系樹脂は、前記の環状オレフィンモノマーを含む単量体を重合して得ることができる。重合反応に供される単量体には、前記の環状オレフィンモノマー以外の単量体を含んでいてもよい。前記の環状オレフィンモノマー以外の単量体としては、環状オレフィンモノマーとの共重合可能な不飽和基を持つ単量体が使用され、具体的には、
エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−イコセン等のα−オレフィン類;
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸類;
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類;
マレイン酸ジメチル、フマール酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル類;
無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸無水物類;
ビニルアルコール、酢酸ビニル等のビニルアルコールやビニルエステル類;
スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類が例示される。
【0031】
より具体的には、環状ポリオレフィン系樹脂は、例えば、前記の環状オレフィンモノマーと他の単量体をランダム付加共重合する方法や、他の単量体とともに環状オレフィンモノマーを開環重合し開環重合体に水素添加する方法等により製造することができる。用いる触媒や溶媒、反応温度等の重合の条件は、特開平8−20692号公報等に記載の公知の条件を採用することができる。
【0032】
このようにして得られるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、下記の構造式(1)又は(2)で表わされる樹脂が挙げられる。
【0033】
【化1】

【0034】
式中、R、R及びXは、水素原子、炭化水素基、又は、ハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
【化2】

【0036】
式中、R〜R12は、水素原子又は炭化水素基、Xは、水素原子、炭化水素基、又は、ハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換炭化水素基である。環状オレフィンの具体的商品例としては、アペル6013T(三井化学製)等を挙げることができる。
【0037】
フッ素樹脂としては、フッ化ポリイミド、フッ化アクリレート、フッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を挙げることができる。
【0038】
アイオノマー樹脂としては、オレフィン系アイオノマー(例えば、三井デュポンポリケミカル製の商品名「ハイラミン」、デュポン製の商品名「サーリン」)やフッ素系アイオノマー(例えば、ダイキン製のETFEアイオノマー)等を挙げることができる。
【0039】
透明ポリアミドを架橋すると吸水率が低下する。又、アイオノマーやポリアミドは極性を有するため、メッキや蒸着の密着強度を高くすることができる。従って、反射鏡や光電変換部品等の用途、レンズ部品に回路を形成したりする用途に好適に用いられる。
【0040】
本発明の透明樹脂成形体は、さらに補強材として充填剤、特にフィラーを含有することが好ましい(請求項5)。充填剤を含有することにより、270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上とするために必要な加熱量(加熱温度、時間)や放射線の照射量を低減することができるとともに、成形性や耐熱性が向上する。
【0041】
フィラーとしては、成形体の透明性を損なわないためにも、その屈折率が樹脂に近い所謂透明フィラーを使用することが望ましい。透明フィラーの一例として、透明ガラス繊維が挙げられる。添加量は、樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部が好ましく、より好ましくは1〜50重量部である。又、充填剤の粒子径が光の波長以下であるフィラー、ヒュームドシリカ、ナノ金属フィラーやナノコンポジッドフィラーを使用することもできる。有機フィラーの例としては、バイオナノファイバー(京都大学)を挙げることもできる。
【0042】
充填剤の含有量が0.1重量部未満の場合は、加熱量や電子線等の照射量を高める必要があり、その結果、成形体の着色等の問題が生じやすくなることに加え脆くなる傾向にある。充填剤の含有量が50重量部を越える場合は、得られる成形体が脆くなる傾向がある。
【0043】
本発明の透明樹脂成形体はさらに架橋助剤を含有してもよい。架橋助剤の併用下に架橋することにより、架橋を促進し優れた耐熱性や剛性が得られるので好ましい。
【0044】
架橋助剤としては、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレート又はメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。架橋を促進し優れた耐熱性や剛性が得るための方法としては、架橋助剤の併用の他にも、熱可塑性樹脂の主鎖への2重結合の導入、反応性置換基の導入等を挙げることができる。
【0045】
本発明の透明樹脂成形体には、本発明の趣旨が損なわれない範囲で、他の成分、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候性安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤等を添加することができる。
【0046】
本発明の透明樹脂成形体は、耐熱性とともに光学特性に優れているので、光ディスク、光学レンズ、光学フィルム、プリズム、光拡散板、光カード、光ファイバー、光学ミラー、液晶表示素子基板、導光板等の各種光学材料として好適に用いることができる。中でも、レーザービームプリンター用Fθレンズ、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ファインダーレンズ、ピックアップレンズ、コリメートレンズ、プロジェクションテレビ用投影レンズ、OHP用投影レンズ、ストロボ用フレネルレンズ、LED用のレンズやポッティング、赤外通信用レンズ等の光学レンズ(請求項6)、偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散シート、プリズムシート、集光シート、レンチキュラーレンズ等の光学フィルム(請求項7)に特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の透明樹脂成形体は、鉛フリーのハンダを使用したリフローやITOの蒸着にも耐えられる優れた耐熱性を有し、かつ高い透明性も有するので、電子部品に組み込まれる部材であって透明性を必要とするものの材料として好適に用いられる。特に、光学レンズ、光学フィルムを構成する光学材料や、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
次に、本発明を実施するための最良の形態につき実施例により説明する。なお、本発明は、ここに述べる実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り他の形態への変更も可能である。
【実施例】
【0049】
実施例1〜8及び比較例1〜2
架橋性の熱可塑性樹脂として、
a.透明ポリアミド樹脂
a−1.グリルアミドTR−90(エムスケミー・ジャパン製):
Tg=155℃、600〜1000nmでの平均透過率(厚さ2mm)91%
a−2.グリルアミドTR−55(エムスケミー・ジャパン製):
Tg=160℃、600〜1000nmでの平均透過率(厚さ2mm)91%
b.環状ポリオレフィン樹脂
b−1.アペル6013T(三井化学製):
Tg=145℃、600〜1000nmでの平均透過率(厚さ2mm)90%
を用いた。
【0050】
前記架橋性の熱可塑性樹脂のそれぞれに、表1に示す配合割合(全て重量部)で以下に示す成分を配合し、射出成形により5cm×7cm×厚さ2mmのプレート(試料)を成形した。
ガラス繊維(商品名:ECS03T−287/PL、日本電気硝子製)
架橋助剤
イ.DA−MGIC:ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(四国化成工業製)
ロ.TDI500:トリメチロールプロパントリアクリレート(大日本インキ化学工業製)
ハ.TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成製)
【0051】
成形後、表1に示す照射量の電子線を前記試料に照射し架橋を行った。その後、下記の方法で、前記試料について、リフロー耐熱、透過特性(透過率)、全光線透過率、貯蔵弾性率(270℃)を測定した。その結果を、表1に併せて示す。
【0052】
[測定法]
リフロー耐熱:
試料を、260℃の恒温槽に1分放置し、変形の有無を確認し、以下の基準に基づき結果を表1に示した。
○:変形しない。
△:変形するが形状を維持する。
×:完全に溶融する。
【0053】
透過特性(透過率):
熱可塑性樹脂として透明ポリアミド樹脂(グリルアミドTR−90)を用い架橋助剤としてTAICを配合した実施例1及び実施例7の試料を、150℃の雰囲気での4時間放置、30℃で湿度70%の雰囲気での72時間放置及び260℃半田槽への1分浸漬の順で処理した後、その波長300nm〜1200nmの範囲での透過率を測定した。その結果を図1(実施例1)及び図2(実施例7)に示す(図中では熱処理後として示す。)。又、前記の処理前の試料についても同様に透過率の測定を行い、その結果も図1(実施例1)及び図2(実施例7)に示す(図中では熱処理前として示す。)。
【0054】
全光線透過率:
200℃で10分間加熱した後の試料(厚さ2mm)について、JIS K 7361に準拠して、可視光線の範囲において入射光量Tと試験片を通った全光量Tとの比を百分率で示す。
貯蔵弾性率:
200℃で10分間加熱した後の試料について、アイティー計測制御製DVA−200による粘弾性測定器により、10℃/minの昇温速度にて測定した270℃での貯蔵弾性率。
【0055】
【表1】

【0056】
架橋助剤を配合せず、電子線照射も行わなかった比較例1〜2では、架橋がされていない結果、260℃で溶融してしまい、リフロー耐熱性に劣っている。これに対し、表1の結果より明らかなように、電子線照射をして架橋を行った実施例1〜8では、リフロー耐熱性に優れている。又、実施例5と実施例6の比較より明らかなように、無機フィラーの配合によりリフロー耐熱性は向上する。
【0057】
表1に示されるように、実施例1及び実施例7の成形体では全光線透過率は約80%以上であり、無機ガラスに匹敵する優れた透明性が得られている。又、図1、図2より
(1)実施例1の試料については約450nm、実施例7の試料については約470nmより長波長側で、熱処理後の試料についても透過率が60%を越えており、可視領域のほぼ全域にわたり優れた透過率が得られている、
(2)特に、いずれの試料についても約600nmより長波長側かつ約1000nmより短波長側で、熱処理後の試料について透過率が85%を越えており、無機ガラスに匹敵する優れた透過率が得られている、
(3)いずれの試料についても約700nmより長波長側では、熱処理の前後での透過率にほとんど差異はなく、この範囲の透過率については、特に優れたリフロー耐熱性が得られている、
ことが示されている。
【0058】
架橋助剤を配合し、架橋を行った実施例1〜7では、200℃で10分間加熱した後の270℃における貯蔵弾性率は、1MPa以上であり、熱変形の問題を生じない優れた成形体が得られている。電子線を照射し架橋を行っているが、架橋助剤を配合していない実施例8では、270℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa未満であった。一方、架橋がされていない比較例1、2は、260℃、1分で溶融しており、270℃における貯蔵弾性率を測定できなかった。
【0059】
実施例9
実施例1と同じ配合処方の材料を用いて、15mm×7mm×厚さ2mmのフレネルレンズを射出成形した。射出成形後、480kGyの照射量で電子線を照射し架橋を行った。電子線照射された試料をマウンターで実装後、ピーク温度260℃のリフローを行った。このようにして得られた試料について、デジタルカメラのストロボ用として、キセノンを光源として発光試験を行ったところ、ストロボとしての機能を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1の試料についての波長と透過率の関係を示すグラフである。
【図2】実施例7の試料についての波長と透過率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有する成形材料を成形するとともに、前記熱可塑性樹脂を架橋して得られる樹脂成形体であって、
前記熱可塑性樹脂は、その厚さ2mmの成形体における600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上となる樹脂より選ばれ、かつ
前記樹脂成形体を、200℃で10分間加熱し、厚さ2mmとしたときの600〜1000nmの範囲での平均透過率が、60%以上であることを特徴とする透明樹脂成形体。
【請求項2】
270℃での貯蔵弾性率が、0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、透明ポリアミド、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル、アクリル、ポリカーボネート及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明樹脂成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、主分極率0.6×10−23以下の化学結合のみからなるモノマーにより構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の透明樹脂成形体。
【請求項5】
さらにフィラーを含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の透明樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の透明樹脂成形体よりなることを特徴とする光学レンズ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の透明樹脂成形体よりなることを特徴とする光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−88303(P2008−88303A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271121(P2006−271121)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】