説明

透明樹脂複合体、透明複合シートおよび表示素子用透明基板

【課題】複屈折率の上昇を抑えることにより表示性能に優れた透明樹脂複合体および透明複合シートならびに表示素子用透明基板を提供する。
【解決手段】脂環式骨格を有する反応性樹脂前駆体(A)、少なくとも1種以上のフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)およびガラス基材を含む透明樹脂複合体であり、前記反応性樹脂前駆体(A)は、具体例として一般式(2)で示されるものである透明樹脂複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明樹脂複合体、透明複合シートおよび表示素子用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示素子や有機EL表示素子用の表示素子基板(特にアクティブマトリッ
クスタイプ)、カラーフィルター基板、太陽電池用基板等としては、ガラス板が広く用い
られている。しかしながらガラス板は、割れ易い、曲げられない、比重が大きく軽量化に
不向きなどの理由から、近年、その代替としてプラスチック素材が検討されている。プラスチック素材は、割れにくい、曲げやすい、軽いという利点はあるものの、寸法安定性などの点ではガラスに比べて問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、樹脂と無機フィラーとの屈折率を合わせて透明化する
ことが種々検討されている。例えば、特許文献1には、ガラスフィラーと透明樹脂を混合した透明複合フィルムを作製することが検討されている。しかし、ここでは高屈折成分としてビスフェノールA型骨格を有する反応性モノマーを使用しており、複屈折率が高くなり、表示性能が低下する(コントラスト比の低下)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−66931
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、複屈折率の上昇を抑えることにより表示性能に優れた透明樹脂複合体および透明複合シートならびに表示素子用透明基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記[1]〜[7]に記載の本発明により達成される。
【0007】
[1]本発明の透明樹脂複合体は、脂環式骨格を有する反応性樹脂前駆体(A)、少なくとも1種以上のフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)およびガラス基材を含むことを特徴とする。
【0008】
[2]本発明の透明樹脂複合体は、前記反応性樹脂前駆体(A)は、化学式(1)または(2)で示されるものであることが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
[3]本発明の透明樹脂複合体は、前記反応性樹脂前駆体(B)が、化学式(3)または(4)で示されるものであることが好ましい。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
[4]本発明の透明樹脂複合体は、反応性樹脂前駆体(B)の反応基が、エポキシ基またはアクリル基であることが好ましい。
【0015】
[5]本発明の透明樹脂複合体は、前記反応性樹脂前駆体(B)の含有量が、前記反応性樹脂前駆体(A)100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましい。
【0016】
[6]本発明の透明樹脂複合シートは、前記透明樹脂複合体を用いて作製される。
【0017】
[7]本発明の表示素子用樹脂基板は、透明複合シートを用いて作製される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の透明樹脂複合体は、例えば表示基材用シートとして用いた場合、高耐熱性、低複屈折性、高透明性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の透明樹脂複合体は、脂環式骨格を有する反応性樹脂前駆体(A)、少なくとも1種以上のフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)およびガラス基材を含むことを特徴とし、当該特徴により複屈折の上昇を抑制することが可能となり、例えば表示素子用樹脂基板に用いた場合は、コントラスト比のバラつきを抑え表示性能に優れたものとなる。
以下、本発明の各構成要件について詳細に説明する。
【0020】
本発明の透明樹脂複合体に用いる反応性樹脂前駆体(A)は、反応性官能基を少なくとも一つ有する。反応性官能基としては、例えばアクリル基、エポキシ基、ビニル基、シアネート基などが挙げられ、特に反応性の高さからアクリル基、エポキシ基が好ましい。
具体的な構造としては、化学式(1)、(2)が耐熱性の観点から好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
また、官能基を反応させるためには、硬化剤、触媒を添加することが好ましい。硬化剤、触媒を添加することにより、反応性を有する官能基同士の反応が促進される。具体的な硬化剤、触媒については、例えば、アクリル基、ビニル基の場合、ラジカル発生開始剤、アニオン発生開始剤、カチオン発生開始剤などが挙げられ、開始剤の種類によって光または熱エネルギーを付与することで反応が開始される。エポキシ基については、アニオン発生開始剤、カチオン発生開始剤などが主に使用され、これらは開始剤の種類によって光または熱エネルギーを付与することで反応が開始される。
【0024】
(少なくとも1種以上のフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B))
本発明の透明樹脂複合体に用いる少なくとも1種以上のフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)は、透明性、耐熱性に優れており、高屈折率、低複屈折率性を有するため、屈折率を調整するのに適している。
フルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)は、下記化学式(5)の構造を有するため、この前駆体を含有する透明樹脂複合体は特に耐熱性に優れる。
【0025】
【化5】

【0026】
本発明の透明樹脂複合体に用いるフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)の反応性官能基としては、例えばアクリル基、エポキシ基、ビニル基、シアネート基などが挙げられ、特に反応性の高さからアクリル基、エポキシ基が好ましい。また、官能基を反応させるためには、硬化剤、触媒を添加することが好ましい。硬化剤、触媒を添加することにより、反応性を有する官能基同士の反応が促進される。具体的な硬化剤、触媒については、例えば、アクリル基、ビニル基の場合、ラジカル発生開始剤、アニオン発生開始剤、カチオン発生開始剤などが挙げられ、開始剤の種類によって光または熱エネルギーを付与することで反応が開始される。エポキシ基については、アニオン発生開始剤、カチオン発生開始剤などが主に使用され、これらは開始剤の種類によって光または熱エネルギーを付与することで反応が開始される。
【0027】
特に、樹脂複合体に高耐熱性、および高透明性や低複屈折性等の光学特性を付与するという観点からは、化学式(3)または(4)で示されるようなフルオレン骨格を有するものが好ましい。
【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
また、フルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体は、前記反応性脂環構造を有する反応性樹脂前駆体に対して0.1重量部ないし10重量部以下であることが望ましい。フルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体の配合量がこの範囲であれば成形が容易である。
【0031】
(ガラス基材)
本発明で用いるガラス基材としては、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスパウダー、ミルドガラスやガラス繊維、あるいはガラスクロスやガラス不織布などのガラス繊維集合体などがあげられ、中でも線膨張係数の低減効果が高いことから、ガラスクロス、ガラス不織布などのガラス繊維集合体が好ましく、複合体の線膨張率を抑え寸法精度を安定させるという観点からはガラスクロスが最も好ましい。
【0032】
ガラス基材の種類としては、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、クオーツ、低誘電率ガラス、高誘電率ガラスなどが挙げられ、中でもアルカリ金属などのイオン性不純物がすくなく入手の容易なEガラス、Sガラス、Tガラス、NEガラスが好ましい。
【0033】
ガラス基材の複合体全体の重量に対して配合量は1〜90重量%が好ましく、より好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%である。ガラス基材の配合量が前記範囲であれば成形が容易で、複合化による線膨張の低下の効果が認められる。
【0034】
ガラス基材の屈折率は特に限定されないが、樹脂組成物の屈折率制御が容易な1.50〜1.60であるのが好ましい。特にガラス基材の屈折率が1.50〜1.58の場合には、ガラスのアッベ数に近い樹脂組成物が選択できるので特に好ましい。樹脂組成物とガラスとのアッベ数が近いと広い波長領域で屈折率が一致し、広範囲で高い光線透過率が得られる。
【0035】
本発明の透明樹脂複合体においては、ガラス基材と樹脂とが密着しているほど、表示素子用プラスチック基板など透明樹脂複合体の透明性がよくなるため、ガラス基材表面をシランカップリング剤などの公知の表面処理剤で処理するのが好ましい。具体的には、エポキシ基あるいはアクリル基を有するシラン化合物で処理するのが好ましい。
【0036】
本発明の透明樹脂複合体には、必要に応じて、透明性、耐溶剤性、耐熱性等の特性を損なわない範囲で、熱可塑性又は熱硬化性のオリゴマーやポリマーを併用してよい。これら熱可塑性または熱硬化性のオリゴマーやポリマーを併用する場合は、全体の屈折率がガラスフィラーの屈折率に合うように組成比を調整する必要がある。
【0037】
また、本発明の透明樹脂複合体中には、必要に応じて、透明性、耐溶剤性、耐熱性等の特性を損なわない範囲で、少量の酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、他の無機フィラー等の充填剤等を含んでいても良い。
【0038】
(透明樹脂複合体の成形方法)
透明樹脂複合体の成形方法に制限はなく、例えば、反応性樹脂前駆体とガラスフィラーとを直接混合し、必要な型に注型したのち架橋させてシートなどとする方法、反応性樹脂前駆体を溶剤に溶解しガラスフィラーを分散させキャストした後、架橋させてシートなどとする方法、反応性樹脂前駆体をガラスクロスやガラス不織布に含浸させたのち架橋させてシートなどとする方法等々が挙げられる。また、架橋するための熱エネルギー、活性エネルギー線等を与える方法としては、バッチ式で与える方法、ベルトコンベア中で連続的に与える方法などが挙げられるが、連続的に架橋することで、前記樹脂組成物とガラス基材の複合体の透明性は高くなる。
【0039】
(透明樹脂複合体の使用方法)
本発明の透明樹脂複合体は、シート状に成形し、例えば表示素子用の光学シートとして使用することができる。
【0040】
本発明の透明樹脂複合体を、例えば表示素子用の光学シートとして用いる場合、シートの厚さは好ましくは5〜2000μmであり、より好ましくは10〜1000μmである。シートの厚さがこの範囲にあると平坦性に優れ、ガラス基板と比較して基板の軽量化を図ることができる。
【0041】
本発明の透明樹脂複合体を前記光学用として用いる場合、30〜150℃におけるガラス転移温度(Tg)が200℃以上、より好ましくは220℃以上であることが好ましい。この複合体組成物を成形したシートをアクティブマトリックス表示素子樹脂基板に用いた場合、この下限値以下であると、その製造工程において反りやアルミ配線の断線などの問題が生じる恐れがある。
【0042】
この複合体組成物を表示素子用のシートとして使用とする場合、平滑牲を向上させるために両面に樹脂のコート層を設けても良い。かかる樹脂は優れた透明性、耐熱性、耐薬品性を有していることが好ましく、具体的には多官能アクリレートやエポキシ樹脂などが好ましい。コート層の厚みは0.1〜50μmが好ましく、0.5〜30μmがより好ましい。
【0043】
本発明の表示素子用のシートは、必要に応じて水蒸気や酸素に対するガスバリア層や透明電極層を設けても良い。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに
より限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
反応性樹脂前駆体(A)として前記化学式(2)の構造を有し、「−Y−」が「−C(CH−」である脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダイセル化学工業製、E−DOA、以下「反応性樹脂前駆体A1」という)と、反応性樹脂前駆体(B)として前記化学式(3)の構造を有するフルオレン骨格グリシジル型エポキシ樹脂前駆体(PG−100、大阪ガスケミカル株式会社製、以下「反応性樹脂前駆体B1」いう)と、芳香族スルホニウム系熱カチオン硬化剤(三新化学工業株式会社製、SI−100L、以下「硬化剤1」という)とを表1に示す割合で混合し、樹脂材料を調製した。その後、Tガラス系ガラスクロス(厚さ100μm)に上記樹脂材料を含浸し、脱泡した。この樹脂材料を含浸したガラスクロスにポリイミドフィルムを貼り合わせた後、1m/minとなるように加熱アニール炉を通し、昇温速度が10℃/min、最終温度が180℃となるように連続的に硬化を行い、ポリイミドフィルムを剥離して厚さ0.1mmの透明シートを得た。
【0046】
[実施例2−4]
ワニス成分を、表1に示した通りの処方とした以外は、実施例1と同様のガラスクロス、作製方法により作製した。なお、実施例2ないし4において用いた反応性樹脂前駆体(A)は、前記化学式(2)の構造を有し、「−Y−」が単結合である脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダイセル化学工業株式会社製、E−BP、以下「反応性樹脂前駆体A2」」という)である。
【0047】
実施例2および4では、硬化剤として芳香族スルホニウム系熱カチオン硬化剤(三新化学工業株式会社製、SI−120L、以下「硬化剤2」という)。を用いた。
【0048】
実施例4において使用した反応性樹脂前駆体(A)は、下記化学式(6)の構造を有する脂環式エポキシ樹脂前駆体(ダイセル化学工業株式会社製、「セロキサイド2021p」、以下「反応性樹脂前駆体A3」という)である。
【0049】
【化6】

【0050】
実施例5において使用した反応性樹脂前駆体(A)は、前記化学式(1)おいて、R,Rがグリシジル型エポキシ基、R〜R,R,R,R,R10が水素原子,「−X−」が「−C(CH−」である脂環式エポキシ樹脂前駆体(三菱化学株式会社製、YX8000、以下「反応性樹脂前駆体A4」という)である。
【0051】
実施例6で使用した反応性樹脂前駆体(B)は、前記化学式(4)においてR21ないしR24、のうち少なくとも一つ、R25ないしR28、のうち少なくとも一つがエポキシ基であり、それ以外は水素原子あるいは有機基である構造を有するフルオレン骨格グリシジル型エポキシ樹脂前駆体(以下「反応性樹脂前駆体B2」という)である。
【0052】
なお、各実施例において、反応性樹脂前駆体A1(ダイセル化学工業製、E−DOA)を使用する際は、樹脂成分とメチルイソブチルケトン(MIBK)の合計重量に対し樹脂成分が80重量%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加した。
【0053】
[比較例1]
反応性樹脂前駆体Bに替え、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学製、エピコート828)を使用した以外は、実施例1と同様のガラスクロスを用いた樹脂シートを作製した。
【0054】
(評価方法)
前記の実施例、比較例にて作製した樹脂シート(表示素子用プラスチック基板)について
、下記の評価方法により各種の特性を測定した。評価結果を表1に示す。
【0055】
(a)耐熱性(Tg)
JIS C6481に準拠し、 セイコーインスツルメンツ(株)製DMS−210型粘弾性測定装置で測定し、1Hzでのtanδの最大値をガラス転移温度(Tg)とした。
【0056】
(b)光線透過率
JIS K7105に準拠し、分光光度計U3200(日立製作所製)で400nmの光線透過率を測定した。
【0057】
(c)光学異方性
各実施例および各比較例で得られた透明複合基板について、それぞれ以下に示す方法で光学異方性を測定した。
まず、透明複合基板をクロスニコルにした偏光顕微鏡で観察した。次いで、偏光顕微鏡の光軸を固定し、光源の強さを一定にした状態で透明複合基板を回転させ、基板の一部分あるいは全体が最も明るくなる角度にセットした。そして、2.4mm×1.8mmの観察部分を画像(画素数640×480)化してパーソナルコンピューターに取り込み、これを各画素が0〜255の階調を持つ白黒画像に変換した。得られた白黒画像中の各画素の階調を総和し、これを光学異方性の評価値とした。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の透明複合体複合体は、高透明性、耐熱性、低複屈折性等に優れるため、例えば、液晶表示素子基板や有機EL素子基板(特にアクティブマトリックスタイプ)に好ましいほか、透明板、光学レンズ、カラーフィルター用基板、太陽電池基板、タッチパネル、光学素子、光導波路、LED封止材などに好ましい。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式骨格を有する反応性樹脂前駆体(A)、少なくとも1種以上のフルオレン骨格を有する反応性樹脂前駆体(B)およびガラス基材を含むことを特徴とする透明樹脂複合体。
【請求項2】
前記反応性樹脂前駆体(A)は、一般式(1)または(2)で示されるものである請求項1記載の透明樹脂複合体。
【化1】


【化2】

【請求項3】
前記反応性樹脂前駆体(B)が、一般式(3)または(4)で示されるものである請求項1または2記載の透明樹脂複合体。
【化3】


【化4】

【請求項4】
前記反応性樹脂前駆体(B)の反応基が、エポキシ基またはアクリル基である請求項3に記載の透明樹脂複合体。
【請求項5】
前記反応性樹脂前駆体(B)の含有量は、前記反応性樹脂前駆体(A)100重量部に対して0.1〜10重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の透明樹脂複合体。
【請求項6】
前記ガラス基材がガラス繊維集合体である、請求項1ないし5に記載の透明樹脂複合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された透明樹脂複合体を用いて作製される透明複合シート。
【請求項8】
請求項7記載の透明複合シートを用いて作製される表示素子用樹脂基板。


【公開番号】特開2013−91710(P2013−91710A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234188(P2011−234188)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】