説明

透明熱可塑性樹脂組成物および樹脂成形品

【課題】透明性、靱性、表面硬度に優れた透明熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル化合物に由来する構造単位64〜84質量%とシアン化ビニル化合物に由来する構造単位16〜36質量%を含有する共重合体A(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位1〜55質量%、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位0〜36質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位45〜90質量%を含有する共重合体B(但し、これら3つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)と、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位70〜100質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体に由来する構造単位0〜30質量%を含有する共重合体C(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)とを含有し、A/B/Cの割合が3〜70/3〜70/3〜70(質量比)であり、厚さ2.4mmの樹脂単独成形品について測定した全光線透過率が70%以上であり、Hazeが20%以下である透明熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明熱可塑性樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)に代表される、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体からなる共重合体は、透明性および靱性に優れており、OA機器分野、電気・電子機器分野などで一般に使用されているが、表面硬度が十分とは言えない。そのため、成形品の組み立てラインへの輸送、製品の市場への郵送などに際して特別の梱包材を使用する、個別に包装する、速度を落とす等、多大な手間とコストが必要となる場合がある。
【0003】
従来、表面硬度を改良して耐傷付性を付与する手段として、樹脂組成物の一成分として(メタ)アクリレート樹脂を使用する方法が知られている(例えば特許文献1及び2)。そこで、前記の問題を解決するため、AS樹脂に(メタ)アクリレート樹脂を配合する方法が考えられる。また、上記の教示に倣って共重合成分として(メタ)アクリレートを使用する方法も考えられる。しかしながら、AS樹脂に(メタ)アクリレート樹脂を単に配合たげでは、透明性の低下を招くことがあり、また、靱性が不十分な場合がある。また、(メタ)アクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体(MAS樹脂)は、表面硬度に優れるものの、靭性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291158号公報
【特許文献2】特開2009−67970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、透明性、靱性、表面硬度に優れた透明熱可塑性樹脂組成物、及びその熱可塑性樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、AS樹脂とMAS樹脂と(メタ)アクリレート樹脂とで樹脂組成物を調製し、この際、使用するAS樹脂およびMAS樹脂のアクリロニトリル(AN)成分の含有量を特定範囲に調節するならば、意外にも、透明性、靱性および表面硬度を同時に改良し得るとの知見を得、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位64〜84質量%とシアン化ビニル化合物に由来する構造単位16〜36質量%を含有する共重合体A(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位1〜55質量%、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位0〜36質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位45〜90質量%を含有する共重合体B(但し、これら3つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)と、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位70〜100質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体に由来する構造単位0〜30質量%を含有する共重合体C(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)とを含有し、A/B/Cの割合が3〜70/3〜70/3〜70(質量比)であり、厚さ2.4mmの樹脂単独成形品について測定した全光線透過率が70%以上であり、Hazeが20%以下であることを特徴とする透明熱可塑性樹脂組成物に存する。
【0008】
そして、本発明の第2の要旨は、上記の透明熱可塑性樹脂組成物から成ることを特徴とする樹脂成形品に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、透明性、靱性、表面硬度に優れた透明熱可塑性樹脂組成物、及びその熱可塑性樹脂成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1は、本発明の樹脂組成物に一層高度な透明性を付与する観点から決定された、共重合体A中のシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量(質量%):AN(A)と共重合体B中のシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量(質量%):AN(B)との好ましい関係を示すグラフであり、横軸はAN(A)の質量%、縦軸はAN(B)の質量%を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。本発明の透明熱可塑性樹脂組成物を単に「樹脂組成物」と略記する。また、便宜上、共重合体体中の各「単量体に由来する構造単位」を単に「単量体」として表現することがある。
【0012】
本発明で使用する共重合体Aは、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物を含有する単量体組成物(A)を重合して得られる。
【0013】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられ、これらは二種以上を併用してもよい。これらの中ではスチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。一方、シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が挙げられ、これらの中ではアクリロニトリルが好ましい。
【0014】
共重合体Aの芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、64〜84質量%、好ましくは67〜82質量%、更に好ましくは70〜80質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、16〜36質量%、好ましくは18〜33質量%、更に好ましくは20〜30質量%、特に好ましくは21〜27質量%である(なお、上記の2種類の構造単位の含有量の合計を100質量%とする)。
【0015】
芳香族ビニル化合物の含有量が64質量%未満(シアン化ビニル化合物の含有量が36質量%超過)の場合は、最終目的物である樹脂組成物の色調および透明性が低下し、芳香族ビニル化合物の含有量が84質量%超過(シアン化ビニル化合物の含有量が16質量%未満)の場合は、樹脂組成物の靭性が低下する。
【0016】
共重合体Aの重量平均分子量は、通常50,000〜200,000、好ましくは70,000〜180,000である。重量平均分子量が50,000未満の場合は最終目的物である樹脂組成物の靭性が低下し、200,000超過の場合は樹脂組成物の成型性が低下する傾向がある。重量平均分子量は、例えば、溶媒としてテトラヒドロフランを使用したGPC法によって測定することが出来る。
【0017】
共重合体Aの製造の際、最終目的物である樹脂組成物の透明性を阻害しない範囲で芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物の他に共重合可能な単量体を使用することが出来る。共重合可能な単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステルや同様な置換体のメタクリル酸エステル以外の単量体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル酸類;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体などが挙げられる。これらの中では、N−フェニルマレイミド又はグリシジルメタクリレートが好ましい。これらの単量体の使用量は、通常10質量%未満、好ましくは5質量%未満、更に好ましくは3質量%未満である。
【0018】
本発明で使用する共重合体Bは、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する単量体組成物(B)を重合して得られる。
【0019】
単量体組成物(B)における香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物としては、単量体組成物(A)におけるのと同様のものが使用される。一方、(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミノアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル挙げられる。これらの中ではメチルアクリレート又はメチルメタクリレートが好ましい。
【0020】
重合体Bにおける芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、1〜55質量%、好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは15〜35質量%、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有は、0〜36質量%、好ましくは0〜31.5質量%、更に好ましくは4〜25質量%、特に好ましくは6.5〜19.5質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位は、45〜90質量%、好ましくは55〜80質量%、更に好ましくは62〜72質量%である(なお、上記の3種類の構造単位の含有量の合計を100質量%とする)。
【0021】
芳香族ビニル化合物の含有量が1質量%未満の場合は、最終目的物である樹脂組成物の色調および透明性が低下し、芳香族ビニル化合物の含有量が55質量%超過の場合は、脂組成物の靭性および透明性が低下する。シアン化ビニル化合物の含有量が36質量%超過の場合は、樹脂組成物の色調および透明性が低下する。(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有量が45質量%未満の場合は、最終目的物である樹脂組成物の表面硬度および透明性が低下し、(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有量が90質量%超過の場合は、樹脂組成物の靭性および透明性が低下する。
【0022】
共重合体Bの重量平均分子量は、通常40,000〜180,000、好ましくは60,000〜160,000である。重量平均分子量が40,000未満の場合は最終目的物である樹脂組成物の靭性が低下し、180,000超過の場合は成型性が低下する傾向がある。
【0023】
また、共重合体Bの製造の際、最終目的物である樹脂組成物の透明性を阻害しない範囲で、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物の他に、共重合可能な単量体を共重合することが出来る。共重合可能な単量体としては、単量体組成物(A)における「共重合可能な単量体」の中から適宜選択することが出来る。これらの単量体の使用量は、通常10質量%未満、好ましくは5質量%未満、更に好ましくは3質量%未満である。
【0024】
本発明で使用する重合体Cは、(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合して得られるが、原料単量体は(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体を併用した単量体組成物(C)でもよい。(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、単量体組成物(B)において使用したのと同様なものが使用される。一方、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が挙げられる。
【0025】
重合体Cにおける(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位の含有量は、70〜100質量%、好ましくは85〜99.5質量%、更に好ましくは90〜99.5質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体に由来する構造単位の含有量は、0〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%である(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)。(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有量が70質量%未満の場合、最終目的物である樹脂組成物の表面硬度が低下することがある。
【0026】
重合体Cの重量平均分子量は、通常50,000〜400,000、好ましくは70,000〜350,000である。重量平均分子量が上記範囲にあると、最終目的物である樹脂組成物の成形加工性に優れ、しかも、得られる成形品の耐衝撃性と靭性に優れる。重合体Cとしては、全体としての重量平均分子量が上記範囲に入るものであれば、異なる重量平均分子量を有するアクリル系樹脂の2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明において、共重合体Aのシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量(AN(A)%)と共重合体Bのシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量(AN(B)%)との関係は、最終目的物である樹脂組成物に一層高度な透明性を付与する観点から、以下の式(1)を満足するのが好ましく、以下の式(2)を満足するのが更に好ましく、以下の式(3)を満足するのが特に好ましい。
【0028】
[数1]
3/2×AN(A)−29 ≦ AN(B) ≦ 3/2×AN(A)−18 (1)
3/2×AN(A)−26 ≦ AN(B) ≦ 3/2×AN(A)−20 (2)
3/2×AN(A)−25 ≦ AN(B) ≦ 3/2×AN(A)−21 (3)
【0029】
なお、上記の式(1)の範囲は、図1中においてアルファベットa〜eで囲まれた領域として表すことが出来る。
【0030】
更に、本発明において、共重合体Aの溶解度パラメーター(SP(A))と共重合体Bの溶解度パラメーター(SP(B))との関係は、最終目的物である樹脂組成物に透明性を付与する観点から、以下の式(i)を満足するのが好ましく、以下の式(ii)を満足するのが更に好ましく、以下の式(iii)を満足するのが特に好ましい。
【0031】
[数2]
|SP(A)−SP(B)|≦ 0.30 (i)
|SP(A)−SP(B)|≦ 0.25 (ii)
|SP(A)−SP(B)|≦−0.20 (iii)
【0032】
同様に、共重合体Bの溶解度パラメーター(SP(B))と共重合体Cの溶解度パラメーター(SP(C))との関係は、以下の式(iv)を満足するのが好ましく、以下の式(v)を満足するのが更に好ましく、以下の式(vi)を満足するのが特に好ましい。
【0033】
[数3]
|SP(B)−SP(C)|≦ 0.6 (iv)
|SP(B)−SP(C)|≦ 0.5 (v)
|SP(B)−SP(C)|≦ 0.4 (vi)
【0034】
本発明において重合体の溶解度パラメーター(SP値)とは、以下の式(I)に従い計算により求めたものである。
【0035】
[数4]
SP=a×SP+a×SP+a×SP+・・・ (I)
【0036】
式(I)中、SP1、SP2およびSP3は各重合体の単量体成分に含まれる単量体を単独で重合した際に得られるそれぞれのホモポリマーのSP値を表し、「POLYMER HANDBOOK FORTH EDITION」に記載されている値を引用した値である。また、a、aおよびaは各重合体を形成するのに使用した単量体成分に含まれる単量体のそれぞれの質量分率を表す。なお、ホモポリマーのSP値(cal/cm1/2として上記の文献に記載される値の中の、ポリスチレン:9.1、ポリアクリロニトリル:12.5、ポリメチルメタクリレート:9.3を使用した。
【0037】
共重合体Aの代表例はAS樹脂であり、共重合体Bの代表例はMAS樹脂であり、重合体Cの代表例はメチルメタクリレート樹脂(MMA樹脂)であり、何れも、それ自体は製造方法を含め良く知られて樹脂であり、本発明においては、例えば、公知の乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法に従って上記の各共重合体を容易に得ることが出来る。これらの重合法における単量体組成物(A)〜(C)の組成は、本発明で使用する共重合体A〜Cを得ることが出来れば任意に選択することが出来る。また、共重合体の組成分析は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、NMRなどを使用して行うことが出来る。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、共重合体Aと共重合体Bと重合体Cから調製されるが、表面硬度は共重合体B又は共重合体Cの増加に伴い向上する傾向にあり、靱性は共重合体Aの増加に伴い向上の傾向する傾向がある。
【0039】
本発明の樹脂組成物において、前記の各共重合体の割合(質量比)、すなわち、A/B/Cは、3〜70/3〜70/3〜70、好ましくは10〜60/10〜60/10〜60、更に好ましくは20〜55/20〜55/15〜55である。上記の範囲において、表面硬度と靱性がバランスした上で共に良好であり、しかも、優れた透明性が得られる。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、厚さ2.4mmの樹脂単独成形品について測定した全光線透過率が70%以上であり、Hazeが20%以下である。全光線透過率は、好ましくは75%以上であり、更に好ましくは85%以上である。また、Hazeは、好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。本発明の樹脂組成物は、上記の特性を有することにより、鮮やかな色や深みのある色への着色も可能となり、意匠性に優れる。なお、「樹脂単独成形品」とは、樹脂以外の成分、例えば、以下に説明する添加剤や着色剤を含まない成形品を意味する。
【0041】
本発明の樹脂組成物においては、公知の添加剤、例えば、可塑剤、滑剤(例えば、高級脂肪酸およびその金属塩、高級脂肪酸アミド類など)、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジブロプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等)、帯電防止剤(例えば、ポリアミドエラストマー、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩共重合体、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体など)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフル又は部分エステル、脂肪酸とポリグリコールとのフル又は部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系など)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することが出来る。これらの添加剤は二種以上を併用してもよい。
【0042】
また、意匠性を付与する目的で、公知の着色剤、例えば、無機顔料、有機系顔料、メタリック顔料、染料を添加することが出来る。
【0043】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、酸化亜鉛系顔料、カドミウム系顔料などが挙げられる。
【0044】
有機顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジアリリド顔料、縮合アゾ顔料どのアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、等のフタロシアニン系顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料などが挙げられる。
【0045】
メタリック顔料としては、例えば、リン片状のアルミのメタリック顔料、ウェルド外観を改良するために使用されている球状のアルミ顔料、パール調メタリック顔料用のマイカ粉、その他ガラス等の無機物の多面体粒子に金属をメッキやスパッタリングで被覆したもの等が含まれる。
【0046】
染料としては、例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン/ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン/インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン/オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、ペリレン染料、ペリノン染料などが挙げられる。
【0047】
上記の着色剤は、二種以上を併用してもよい。例えば黒色に着色したい場合は、赤、緑、黄色などの染料を組み合わせて黒色を発色することにより、より深みのある黒色を発現することが出来る。
【0048】
着色剤の使用量は特に制限されないが、本発明の効果を高める観点から、無機顔料、有機顔料、カーボンブラックの総量は、通常0.3質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。
【0049】
また、有機染料の総量は、通常0.1〜2質量%、好ましくは0.1〜1質量%、更に好ましくは0.2〜0.5質量%である。斯かる条件により、通常の透明樹脂と変わらない様な深みのある色調を発現することが出来る。0.1質量%未満の場合は色調の発現が不足し、2質量%超過の場合は、コスト高となるばかりでなく、成形時にモールドデポジット等で外観不良現象が発生し易い。
【0050】
なお、ここで言う、無機顔料、有機顔料、有機染料の分類は、ポリオレフィン等衛生協議会発行のポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準(第2部ポジティブリスト、2−3色材)第8版に記載されている分類に基づくものであるが、カーボンブラックを含めて使用出来る染顔料の種類を限定するものではない。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、前記の各成分を溶融混合することにより得られる。溶融混合には、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機;単軸押出機、2軸押出機などの連続式混練機が使用される。また、混練の順序は、特に制限されず、例えば成分の全量を一括して混練する方法などが挙げられる。
【0052】
本発明の樹脂組成物の成形には、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形、プレス成形などを採用することが出来る。また、射出成形や射出圧縮成形の場合の金型温度は、特に制限されないが、樹脂注入時の金型キャビティの表面温度として、通常50℃以上、更に好ましくは60℃以上、特に好ましくは70℃以上である。このように金型温度を高くすることにより、曇りが消えて色調の発現に好ましい傾向がある。金型キャビティの表面温度の上限は通常100℃である。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を超えない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において部及び%は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例及び比較例中の各種測定は、下記の方法に拠った。
【0054】
(1)全光線透過率およびHaze:
射出成形機(日本製鋼社製「J−35AD」)を使用し、シリンダー温度:210℃、金型温度:50℃にて、5cm×9cm、厚み2.4mmの平板を射出成形した。この平板を使用し、日本電色工業社製の「NDH2000」により、ASTM D1003に準じて全光線透過率およびHazeを評価した。
【0055】
(2)表面硬度(耐傷付き性):
上記(1)と同様に平板を作成し、東測精密工業株式会社製往復動摩擦試験器を使用し、綿帆布かなきん3号、垂直荷重500gで試験片表面を500往復摩擦後、当該表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0056】
○:傷が観察されない。
△:傷が僅かに観察される。
×:傷が明確に観察される。
【0057】
(3)靱性:
上記(1)において平板5枚を射出成形する際に突き出し時の平板表面を以下の基準で評価した。
【0058】
○:5枚全てが割れず、ヒビも観察されない。
△:5枚中1〜4枚が割れる、或いはヒビが入った。
×:5枚全部が割れる、或いはヒビが入った。
【0059】
(4)外観:
上記(1)の平板について以下の基準で評価した。
【0060】
○:白スジが認められない。
×:ゲート付近から外周に向かって白スジが認められた。
【0061】
<共重合体A:AS樹脂の製造>
公知の乳化重合法により、表1に記載の共重合体:A−1〜5を製造した。共重合体の組成分析はフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって行った。以下に、共重合体(A−1)の製造例を示す。
【0062】
アクリロニトリル24部、スチレン76部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、及びジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を混合して、単量体混合物を調製した。
【0063】
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置などを備えた、容量10Lのガラス製反応器に水150部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部を仕込み、攪拌しつつ、窒素気流下で、内温を55℃まで昇温した。55℃に達した時点で、上記単量体混合物及び、24部の水に、エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム・二水塩0.09部、硫酸第一鉄七水和物0.003部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部、を溶解した水溶液を5時間にわたって連続添加した。
【0064】
単量体混合物の添加開始時点から1時間後までに内温を67℃に昇温し、その後67℃を保持した。連続添加終了後、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.05部を添加し、更に1時間内温を保持し、重合反応を終了した。この共重合体ラテックスを、塩化カルシウムを用いて凝固し、水洗、乾燥し、粉末状の共重合体A−1を得た。
【0065】
<共重合体B:MAS樹脂の製造>
公知の乳化重合法により、表1に記載の共重合体:B−1〜6を製造した。共重合体の組成分析はフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって行った。以下に、共重合体(B−1)の製造例を示す。
【0066】
メタクリル酸メチル68部、アクリロニトリル10部、スチレン22部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、及びジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を混合して、単量体混合物を調製した。以降、共重合体(A−1)の製造例と同様に操作して粉末状の共重合体B−1を得た。
【0067】
<共重合体C:MMA樹脂>
次の市販の樹脂を使用した。
(C−1):三菱レイヨン社製「アクリペットVH001」(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=99/1(質量比),Mw=97,000)
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1:
共重合体(A−1)33質量部、共重合体(B−1)33質量部、共重合体(C−1)34質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、一軸押出機(日本プラコン社製「DMG」、L/D=32、)を使用し、シリンダー設定温度210℃、スクリュー回転数80rpm、混練樹脂の吐出速度18kg/hrの条件で混練して樹脂ペレットを得、各特性の評価を行った。評価結果を表2−1に示す。
【0070】
実施例2〜9及び比較例1〜6:
表2−1及び表2−2に示す組成割合で各成分を配合し、実施例1と同様にして樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表2−1及び表2−2に示す。
【0071】
【表2−1】

【0072】
【表2−2】

【0073】
表2−1及び表2−2から次のことが明らかである。
【0074】
(1)実施例1〜11に示すように、本発明の透明熱可塑性樹脂組成物は、透明性、表面硬度、靭性に優れた成形物を提供することができる。特に、実施例2は、式(3)、式(iii)及び式(vi)を満足することにより、実施例1及び3に比し、透明性に特に優れる。
【0075】
(2)これに対し、比較例1〜4は、透明性に劣る。本発明で規定する範囲外の共重合体Aが配合された比較例5は透明性に劣り、共重合体B及び重合体Cが配合されていない比較例6は表面硬度に劣り、共重合体A及び重合体Cが配合されていない比較例7は靭性に劣り、共重合体A及びBが配合されていない比較例8は靭性に劣る。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位64〜84質量%とシアン化ビニル化合物に由来する構造単位16〜36質量%を含有する共重合体A(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位1〜55質量%、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位0〜36質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位45〜90質量%を含有する共重合体B(但し、これら3つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)と、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位70〜100質量%、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体に由来する構造単位0〜30質量%を含有する共重合体C(但し、これら2つの構造単位の含有量の合計を100質量%とする)とを含有し、A/B/Cの割合が3〜70/3〜70/3〜70(質量比)であり、厚さ2.4mmの樹脂単独成形品について測定した全光線透過率が70%以上であり、Hazeが20%以下であることを特徴とする透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体Aのシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量(AN(A)%)と共重合体Bのシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量(AN(B)%)との関係が以下の式(1)を満足する請求項1に記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
[数1]
3/2×AN(A)−29 ≦ AN(B) ≦ 3/2×AN(A)−18 (1)
【請求項3】
共重合体Aの溶解度パラメーター(SP(A))と共重合体Bの溶解度パラメーター(SP(B))との関係が以下の式(i)を満足し、共重合体Bの溶解度パラメーター(SP(B))と共重合体Cの溶解度パラメーター(SP(C))との関係が以下の式(iv)を満足する請求項1又は2に記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
[数2]
|SP(A)−SP(B)|≦ 0.3 (i)
|SP(B)−SP(C)|≦ 0.6 (iv)
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の透明熱可塑性樹脂組成物から成ることを特徴とする樹脂成形品。

【公開番号】特開2011−132353(P2011−132353A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292474(P2009−292474)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】