説明

透明耐熱難燃フィルム

【課題】 高い透明性、耐熱性及び難燃性を有する透明耐熱難燃フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の透明耐熱難燃フィルムは、熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂により形成された透明耐熱保護層を有する。前記透明耐熱保護層の屈折率が1.40〜1.43の範囲にあるのが好ましい。また、前記透明耐熱保護層の厚みが1〜100μmの範囲にあるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明耐熱難燃フィルムと、それを用いた燃焼防止フィルム及び光学用フィルム、並びに前記透明耐熱難燃フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性の樹脂を用いた透明フィルムは、ポリエステルやポリカーボネートなどの非晶質性のポリマーから、ポリプロピレン(PP)やシクロアルカン系などの脂肪族炭化水素系のポリマーなど多種多様にあり、様々な用途で用いられている。熱可塑性の樹脂はその名の通り、融点以上に加熱すると溶融するため、フィルムの耐熱性は理論上、その融点以下となり、耐熱性の求められる用途には使用できないという課題がある。一方、熱硬化性の樹脂はポリイミドやポリアミド、エポキシ、シリコーン樹脂など耐熱性の高い材料が一般的に知られている。しかし、熱硬化性の樹脂は一般的に透明性に劣るものが多い。いずれにしてもこれらの樹脂は一般的に燃えやすい材料であり、難燃性を付与するためには、難燃剤等を添加する必要があり、透明性を確保するのが非常に難しいという問題がある。
【0003】
一方、これらのフィルムは表面の平滑性を保つため、また耐擦傷性や耐汚染性を向上させるために、ハードコート層などの保護層が塗工されている。特許文献1には、低分子量のシロキサンオリゴマーの縮合物を紫外線硬化することによりハードコート層を設ける方法が提案されている。しかし、このような保護層を有するフィルムは、ハードコート性・耐熱性に優れるものの、フィルムの融点以上の温度にさらされると、ハードコート層の分子量が低いため、表面は硬いが機械的強度に劣り、樹脂の融点以上ではフィルムの形状を維持できないという課題がある。
【0004】
特許文献2では、耐摩耗性と屈曲性に優れたハードコートフィルムとして、ウレタン‐アクリレート系を提案している。このハードコートフィルムは、ハードコート層の伸び率や、加工性、鉛筆硬度等に優れているものの、ウレタン‐アクリレート系は耐熱性に問題があり、200℃以上の高温では黄変するという欠点がある。また、難燃性も確保できない。
【0005】
特許文献3では、反応性のアクリル基をシリカ粒子表面に処理してなるハードコートフィルムを提案している。このハードコートフィルムは、耐擦傷性に優れているが、屈折率が1.53と比較的高めであるため、表面反射率低減効果はそれほど期待できない。また、アクリル由来の部分が200℃以上の高温に長時間さらされると、やはり変色してしまうという課題があり、これも難燃性を確保することは難しい。
【0006】
以上のように、ハードコート層などの保護層を用いて、フィルムの耐熱性向上や難燃性、防汚性等の特性をバランスよく確保することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−106103号公報
【特許文献2】特開2005−305383号公報
【特許文献3】特開2004−149631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、高い透明性、耐熱性及び難燃性を有する透明耐熱難燃フィルム、及びこれを用いた燃焼防止フィルム、光学用フィルム、並びに前記透明耐熱難燃フィルムの工業的に効率のよい製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂フィルムの片面、あるいは両面に、耐熱性や透明性、難燃性に優れたシリコーン樹脂をベースとしながら、これに無機酸化物粒子を含有させ、前記シリコーン樹脂を前記無機酸化物粒子にて架橋させた架橋構造体を含む透明耐熱保護層を設けると、もとの熱可塑性樹脂フィルムの耐熱性、透明性、難燃性、防汚性等を著しく改善させることができることを見出した。本発明は、これらの知見をもとに、さらに研究を重ねて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂により形成された透明耐熱保護層を有する透明耐熱難燃フィルムを提供する。
【0011】
前記透明耐熱保護層の屈折率は、1.40〜1.43の範囲にあるのが好ましい。
【0012】
前記透明耐熱保護層の厚みは、1〜100μmの範囲にあるのが好ましい。
【0013】
前記透明耐熱難燃フィルムにおいては、前記無機酸化物粒子が、その一次粒子径が1〜100nmの範囲にあり、その表面電位がpH2〜5の範囲にあるコロイダルシリカであり、該コロイダルシリカ表面のシラノール基が前記ポリシロキサン樹脂と化学結合して該ポリシロキサン樹脂を架橋していてもよい。
【0014】
また、前記ポリシロキサン樹脂が、分子内にアルコキシシリル基及びシラノール基から選択された少なくとも1種の反応性基を有しており、該反応性基の総含有量が8〜48重量%であるポリシロキサン樹脂であり、該ポリシロキサン樹脂が前記無機酸化物粒子と化学結合により架橋されていてもよい。
【0015】
本発明は、また、前記の透明耐熱難燃フィルムを用いた燃焼防止フィルムを提供する。
【0016】
本発明は、さらに、前記の透明耐熱難燃フィルムを用いた光学用フィルムを提供する。
【0017】
本発明は、さらにまた、熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂を含むシリコーン樹脂組成物から形成された透明耐熱保護層を設けることを特徴とする透明耐熱難燃フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の透明耐熱難燃フィルムによれば、熱可塑性樹脂フィルムの表面に特定のシリコーン樹脂組成物から形成された透明耐熱保護層を有するので、非常に高い透明性、耐熱性及び難燃性を有する。また、高い防汚性をも有する。さらに、上記透明耐熱保護層を設けることにより、もとの熱可塑性樹脂フィルムよりも優れた透明性、耐熱性、難燃性、防汚性、表面硬度、曲げ強度等を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の透明耐熱難燃フィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の透明耐熱難燃フィルムは、熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面(好ましくは両方の面)に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂により形成された透明耐熱保護層を有する。
【0021】
図1は本発明の透明耐熱難燃フィルムの一例を示す概略断面図である。この例では、透明耐熱難燃フィルム3は、熱可塑性樹脂フィルム1の片面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂により形成された透明耐熱保護層2を有している。なお、熱可塑性樹脂フィルム1の両面に該透明耐熱保護層を有していてもよい。
【0022】
[熱可塑性樹脂フィルム]
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムとしては、熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性のものであれば特に限定されない。このような熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、非晶性ポリエステルフィルム[非晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等]、非晶性ポリオレフィンフィルム[4−メチルペンテン(共)重合体フィルム等]、環状ポリオレフィンフィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、スチレン系樹脂フィルム(ポリスチレンフィルム、ABS樹脂フィルム、AS樹脂フィルム等)、アクリル樹脂フィルムなどが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよく、積層フィルムであってもよい。前記熱可塑性樹脂フィルムとしては無延伸フィルムであるのが好ましい。
【0023】
なお、前記熱可塑性樹脂フィルムは非晶質であることから、結晶化度は、例えば、20%以下である。前記熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率(厚さ100μm)は、例えば80%以上、好ましくは85%以上である。また、前記熱可塑性樹脂フィルムの厚みとしては、用途等に応じて適宜選択できるが、上限は、通常250μm(未満)、好ましくは150μm(未満)、さらに好ましくは100μm(未満)であり、下限は、例えば5μm、好ましくは10μm、さらに好ましくは15μmである。
【0024】
なお、熱可塑性樹脂フィルムの両面うち、透明耐熱保護層を形成する側の表面は、密着性の点から、剥離処理が施されていないのが好ましい。
【0025】
[透明耐熱保護層]
本発明において、透明耐熱保護層は、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂により形成された層である。無機酸化物粒子とポリシロキサン樹脂とは化学結合により結合しているのが好ましい。
【0026】
無機酸化物粒子としては、粒子表面に反応性官能基を有する無機酸化物粒子であればよく、例えば、シリカ(SiO2あるいはSiO)、アルミナ(Al23)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化チタン(チタニア、TiO2)、ジルコニア(ZrO2)などが挙げられる。これらの中でも、特にシリカが好ましい。無機酸化物粒子は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記反応性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、イソシアネート基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル型不飽和基、ハロゲン原子、イソシアヌレート基などが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシル基が好ましい。シリカ粒子表面のヒドロキシル基はシラノール基として存在する。
【0028】
無機酸化物粒子の平均粒子径(一次粒子径)としては、上限は、例えば1000nm、好ましくは500nm、さらに好ましくは200nm、特に好ましくは100nmであり、下限は、例えば1nmである。なお、平均粒子径は、動的光散乱法などにより測定することができる。
【0029】
無機酸化物粒子の粒度分布は狭い方が望ましく、また、一次粒子径のまま分散している単分散状態であることが望ましい。さらに、無機酸化物粒子の表面電位は、酸性領域(例えば、pH2〜5、好ましくはpH2〜4)にあるのが好ましい。ポリシロキサン樹脂との反応時にそのような表面電位を有していればよい。
【0030】
前記無機酸化物粒子としては、コロイド状の上記無機酸化物粒子を用いるのが好ましい。コロイド状の無機酸化物粒子としては、例えば、コロイド状シリカ(コロイダルシリカ)、コロイド状アルミナ(アルミナゾル)、コロイド状酸化スズ(酸化スズ水分散体)、コロイド状酸化チタン(チタニアゾル)などが挙げられる。
【0031】
コロイダルシリカとしては、例えば、特開昭53−112732号公報、特公昭57−9051号公報、特公昭57−51653号公報などにも記載されるように、二酸化ケイ素(無水ケイ酸)の微粒子(平均粒子径が、例えば、5〜1000nm、好ましくは、10〜100nm)のコロイドなどが挙げられる。
【0032】
また、コロイド状シリカは、必要により、例えば、アルミナ、アルミン酸ナトリウムなどを含有することができ、また、必要により、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や、有機塩基(例えば、テトラメチルアンモニウムなど)などの安定剤を含有することもできる。
【0033】
このようなコロイド状シリカは、特に制限されず、公知のゾル−ゲル法など、具体的には、例えば、Werner Stober et al;J.Colloid and Interface Sci., 26, 62−69(1968)、Rickey D.Badley et al;Langmuir 6, 792−801(1990)、色材協会誌,61 [9] 488−493(1988)などに記載されるゾル−ゲル法などにより、製造することができる。
【0034】
コロイダルシリカは表面処理を施していない裸の状態であることが好ましい。コロイダルシリカには、表面官能基としてシラノール基が存在する。
【0035】
また、このようなコロイダルシリカとしては、市販品を用いることができ、具体的には、例えば、商品名「スノーテックス−XL」、「スノーテックス−YL」、「スノーテックス−ZL」、「PST−2」、「スノーテックス−20」、「スノーテックス−30」、「スノーテックス−C」、「スノーテックス−O」、「スノーテックス−OS」、「スノーテックス−OL」、「スノーテックス−50」(以上、日産化学工業社製)、商品名「アデライトAT−30」、「アデライトAT−40」、「アデライトAT−50」(以上、日本アエロジル社製)などが挙げられる。これらの中でも、商品名「スノーテックス−O」、「スノーテックス−OS」、「スノーテックス−OL」などが特に好ましい。
【0036】
また、上記のコロイダルシリカ以外のコロイド状の無機粒子としても、市販品を用いることができ、具体的には、例えば、商品名「アルミナゾル100」、「アルミナゾル200」、「アルミナゾル520」(以上、日産化学工業製)などのアルミナゾル(ヒドロゾル)、例えば、商品名「TTO−W−5」(石原産業社製)や商品名「TS−020」(テイカ社製)などのチタニアゾル(ヒドロゾル)、例えば、商品名「SN−100D」、「SN−100S」(以上、石原産業社製)などの酸化スズ水分散体などが挙げられる。
【0037】
本発明では、無機酸化物粒子が、その一次粒子径が1〜100nmの範囲にあり、その表面電位がpH2〜5の範囲にあるコロイダルシリカであって、該コロイダルシリカ表面のシラノール基がポリシロキサン樹脂と化学結合して該ポリシロキサン樹脂を架橋しているのが好ましい。
【0038】
本発明において、前記ポリシロキサン樹脂としては、無機酸化物粒子表面の官能基に対して反応性を有するポリシロキサン化合物であれば特に限定されない。前記ポリシロキサン化合物としては、なかでも縮合反応性シリコーン樹脂が好ましい。縮合反応性シリコーン樹脂としては、例えば、基本構成単位がD単位及びT単位である縮合反応性基含有ポリシロキサン(以下、「D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサン」と称する場合がある)、基本構成単位がT単位である縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサン(以下、「縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサン」と称する場合がある)などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記縮合反応性シリコーン樹脂のなかでも、特に、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとの組合せが好ましい。D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとを組み合わせることにより、形成されるシートにおいて、耐熱性及び強度と、柔軟性とを高いレベルで両立させることができる。
【0040】
前記縮合反応性基としては、シラノール基、アルコキシシリル基(例えば、C1-6アルコキシシリル基等)、シクロアルキルオキシシリル基(例えば、C3-6シクロアルキルオキシシリル基等)、アリールオキシシリル基(例えば、C6-10アリールオキシシリル基等)などが挙げられる。これらの中でも、シラノール基、アルコキシシリル基、シクロアルキルオキシシリル基、アリールオキシシリル基が好ましく、特に、シラノール基、アルコキシシリル基が好ましい。
【0041】
本発明において、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンは、具体的には、基本構成単位として、下記式(1)で表されるD単位と、下記式(2)で表されるT単位とを含有する。
【化1】

【0042】
上記式(1)中、R1は、同一又は異なって、飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基から選択される1価の炭化水素基を示す。式(2)中、R2は、飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基から選択される1価の炭化水素基を示す。
【0043】
前記R1、R2における飽和炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の炭素数3〜6のシクロアルキル基などが挙げられる。また、前記R1、R2における芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基などが挙げられる。
【0044】
1、R2としては、好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基であり、さらに好ましくは、メチル基である。
【0045】
式(1)で表されるD単位は、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサン中において、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。また、式(2)で表されるT単位は、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサン中において、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0046】
また、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンは、対応するシリコーン単量体の部分縮合物[例えば、ジアルキル(又は、アリール)ジアルコキシシラン等の2官能のシリコーン単量体と、アルキル(又は、アリール)トリアルコキシシラン等の3官能のシリコーン単量体との部分縮合物]であって、その構成単位中に、D単位、T単位、及び下記式(3)
−OR3 (3)
で表される基を含有する。式(3)で表される基はケイ素原子に結合しており、分子末端に存在する。
【0047】
前記R3は、飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基から選択される1価の炭化水素基を示す。飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、上記式(1)中のR1における飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基と同様のものが挙げられる。R3としては、好ましくは飽和炭化水素基であり、さらに好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0048】
このようなD・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンとしては、例えば、アルコキシシリル基(例えば、C1-6アルコキシシリル基)含有ポリメチルシロキサン、アルコキシシリル基(例えば、C1-6アルコキシシリル基)含有ポリメチルフェニルシロキサン、アルコキシシリル基(例えば、C1-6アルコキシシリル基)含有ポリフェニルシロキサンなどが挙げられる。これらのD・T単位アルコキシシリル基含有ポリシロキサンは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンの中でも、好ましくは、C1-6アルコキシシリル基含有ポリシロキサンであり、さらに好ましくは、メトキシシリル基含有ポリシロキサン又はエトキシシリル基含有ポリシロキサンであり、特に好ましくは、メトキシシリル基含有ポリメチルシロキサン又はエトキシシリル基含有ポリメチルシロキサンである。
【0050】
このようなD・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンの縮合反応性基(例えば、アルコキシシリル基)の含有量としては、上限は、例えば30重量%、好ましくは25重量%であり、下限は、例えば8重量%、好ましくは10重量%、さらに好ましくは12重量%である。縮合反応性基(例えば、アルコキシシリル基)の含有量は、TGA(示差式重量減少測定装置)にて、室温から300℃まで昇温したときの重量減少の割合から求めることができる。
【0051】
D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンの数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算)としては、上限は、例えば6000、好ましくは5500、さらに好ましくは5300であり、下限は、例えば800、好ましくは1000、さらに好ましくは1200である。
【0052】
D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンとして、商品名「X−40−9246」、「X−40−9250」(以上、信越化学工業社製)などの市販品(D・T単位アルコキシシリル基含有ポリシロキサン)を用いることもできる。
【0053】
本発明において、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンは、具体的には、基本構成単位として、前記式(2)で表されるT単位を含有する。式(2)で表されるT単位は、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサン中において、それぞれ、同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、同一である。
【0054】
また、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンは、対応するシリコーン単量体の部分縮合物[例えば、アルキル(又は、アリール)トリアルコキシシラン等の3官能のシリコーン単量体の部分縮合物]であって、その構成単位中に、T単位、及び下記式(4)
−OR4 (4)
で表される基を含有する。式(4)で表される基はケイ素原子に結合しており、分子末端に存在する。
【0055】
前記R4は、飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基から選択される1価の炭化水素基を示す。飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、上記式(1)中のR1における飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基と同様のものが挙げられる。R4としては、好ましくは飽和炭化水素基であり、さらに好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0056】
縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンは、ランダム型、ラダー型、カゴ型などのいずれであってもよいが、柔軟性の観点からは、ランダム型が最も好ましい。これらの縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンの中でも、好ましくは、C1-6アルコキシシリル基含有ポリシルセスキオキサンであり、さらに好ましくは、メトキシシリル基含有ポリシルセスキオキサン又はエトキシシリル基含有ポリシルセスキオキサンであり、特に好ましくは、メトキシシリル基含有ポリメチルシルセスキオキサン又はエトキシシリル基含有ポリメチルシルセスキオキサンである。
【0058】
このような縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンの縮合反応性基(例えば、アルコキシシリル基)の含有量としては、上限は、例えば50重量%、好ましくは48重量%、さらに好ましくは46重量%であり、下限は、例えば10重量%、好ましくは15重量%、さらに好ましくは20重量%である。縮合反応性基(例えば、アルコキシシリル基)の含有量は、TGA(示差式重量減少測定装置)にて、室温から300℃まで昇温したときの重量減少の割合から求めることができる。
【0059】
縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンの数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算)としては、上限は、例えば6000、好ましくは3500、さらに好ましくは3000であり、下限は、例えば200、好ましくは300、さらに好ましくは400である。
【0060】
縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとして、商品名「KC−89」、「KR−500」、「X−40−9225」(以上、信越化学工業社製)などの市販品(アルコキシシリル基含有ポリシルセスキオキサン)を用いることもできる。
【0061】
このほか、分子内(末端)に反応性のシラノール基を有するポリシロキサン化合物として、商品名「X−21−3153」、「X−21−5841」(以上、信越化学工業社製)などの市販品を用いることもできる。
【0062】
本発明において、前記ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン樹脂)全体に占める、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンの総量の割合は、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0063】
本発明では、前記ポリシロキサン樹脂が、分子内(末端)にアルコキシシリル基及び/又はシラノール基を有しており、それらの基(アルコキシシリル基、シラノール基)の総含有量が8〜48重量%であるポリシロキサン樹脂であって、該ポリシロキサン樹脂が前記無機酸化物粒子と化学結合により架橋されているのが好ましい。前記アルコキシシリル基、シラノール基の総含有量の上限は、より好ましくは30重量%であり、下限は、より好ましくは10重量%である。
【0064】
本発明では、特に、曲げ強度、難燃性等の観点から、縮合反応性シリコーン樹脂として、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンを用いるか、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとを併用するのが好ましい。この場合、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとの割合[前者/後者(重量比)]としては、上限は、例えば4.9、好ましくは3、さらに好ましくは2であり、下限は、例えば0、好ましくは0.02である。D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンの比率が高くなりすぎると、有機基含量が増えるので、着火、延焼しやすくなる場合がある。
【0065】
[無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂]
本発明において、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂中の無機酸化物粒子の含有量(或いは、透明耐熱保護層中の無機酸化物粒子の含有量)は適宜選択できるが、上限は、例えば30重量%、好ましくは20重量%、さらに好ましくは15重量%であり、下限は、例えば1重量%、好ましくは2重量%、さらに好ましくは3重量%である。無機酸化物粒子の含有量が少なすぎると、透明耐熱保護層の機械的強度が低下しやすく、無機酸化物粒子の含有量が多すぎると、透明耐熱保護層が脆くなりやすい。いずれの場合も、最終的に得られる透明耐熱難燃フィルムの曲げ強度が低下しやすくなり、該フィルムの透明耐熱保護層にクラックが入りやすくなる。
【0066】
前記のように、ポリシロキサン樹脂と無機酸化物粒子は化学結合により結合しているのが好ましい。このような無機酸化物粒子含有ポリシロキサン樹脂は、以下のようにして製造することができる。
【0067】
前記無機酸化物粒子含有ポリシロキサン樹脂は、例えば、前記無機酸化物粒子と縮合反応性基を有するポリシロキサン樹脂(好ましくは、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサン、又はD・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサン及び縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサン、或いはこれらとシラノール基を有するポリシロキサン樹脂)とを、溶媒中、好ましくは酸の存在下で反応させることにより製造できる。なお、ポリシロキサン樹脂は、無機酸化物粒子の粒子表面の反応性官能基と反応可能な官能基を有している。無機酸化物粒子の粒子表面の反応性官能基がシラノール基の場合は、前記縮合反応性基が該シラノール基と反応する。
【0068】
前記溶媒としては、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール;これらの混合液などが挙げられる。これらのなかでも、水とアルコールの混合溶媒が好ましく、さらに好ましくは、水と2−プロパノールとの混合溶媒、水と2−プロパノールと2−メトキシエタノールとの混合溶媒である。
【0069】
前記酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸;酢酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸などが挙げられる。これらのなかでも、無機酸が好ましく、特に硝酸が好ましい。これらの酸は水溶液として使用することができる。酸の使用量は、反応系のpHを2〜5(好ましくは、2〜4)程度に調整できる量であればよい。
【0070】
反応の方法としては特に限定されず、例えば、(i)無機酸化物粒子と溶媒との混合液中にポリシロキサン樹脂と溶媒との混合液を添加する方法、(ii)ポリシロキサン樹脂と溶媒との混合液中に無機酸化物粒子と溶媒との混合液を添加する方法、(iii)溶媒中に、無機酸化物粒子と溶媒との混合液、及びポリシロキサン樹脂と溶媒との混合液をともに添加する方法等のいずれであってもよい。
【0071】
なお、ポリシロキサン樹脂として、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとを併用する場合には、無機酸化物粒子と、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンと縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンとの混合物とを反応させてもよく、また、無機酸化物粒子に、まず、D・T単位縮合反応性基含有含有ポリシロキサンを反応させ、次いで、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンを反応させてもよく、さらには、無機酸化物粒子に、まず、縮合反応性基含有ポリシルセスキオキサンを反応させ、次いで、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサンを反応させてもよい。本発明において、無機酸化物粒子に、まず、縮合反応性基シリル基含有ポリシルセスキオキサンを反応させ、次いで、D・T単位縮合反応性基含有ポリシロキサン及び/又はシラノール基を有するポリシロキサン樹脂を反応させる方法を採用すると、極めて高い耐熱性及び強度と、非常に優れた柔軟性とを併せ持つ透明耐熱難燃フィルムを得ることができる。
【0072】
反応温度としては、上限は、例えば150℃、好ましくは130℃であり、下限は、例えば40℃、好ましくは50℃である。また、反応時間としては、上限は、例えば24時間、好ましくは12時間であり、下限は、例えば1分、好ましくは3分である。
【0073】
反応終了後、必要に応じて、溶媒を留去し、濃度及び粘度を調整することにより、無機酸化物粒子含有ポリシロキサン樹脂を含むシリコーン樹脂組成物を得ることができる。なお、難燃性を向上させるために、無機酸化物粒子含有ポリシロキサン樹脂合成後に、さらに前記無機酸化物粒子(コロイド状シリカやアエロジルなどのシリカ等)を後添加してもよい。また、シリコーン樹脂組成物には、必要に応じて、硬化触媒等の添加剤を添加してもよい。
【0074】
こうして得られるシリコーン樹脂組成物の固形分濃度としては、取扱性、塗工性、含浸性等の観点から、上限は、例えば95重量%、好ましくは90重量%であり、下限は、例えば50重量%、好ましくは60重量%である。
【0075】
[透明耐熱難燃フィルム]
本発明の透明耐熱難燃フィルムは、前記熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂を含むシリコーン樹脂組成物から形成された透明耐熱保護層を設けることにより製造できる。
【0076】
例えば、本発明の透明耐熱難燃フィルムは、前記熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、前記の無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂を含むシリコーン樹脂組成物を塗工して透明耐熱保護層を形成することにより製造できる。
【0077】
前記シリコーン樹脂組成物の塗工方法としては、特に制限はなく、例えば、キスコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、ナイフコーティング、ワイヤーコーティングなどの公知の塗布方法により、直接塗布して、塗膜を形成し、必要に応じて、例えば、80〜150℃程度の温度で乾燥することにより、図1に示されるような、基材1の片面(又は両面)に無機酸化物粒子含有シリコーン樹脂からなる透明耐熱保護層2を有する透明耐熱難燃フィルムを得ることができる。
【0078】
なお、本発明の透明耐熱難燃フィルムは、表面を剥離処理した基材上に、前記の無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂を含むシリコーン樹脂組成物を塗工して透明耐熱保護層を製造し、この透明耐熱保護層を、前記熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層する(ラミネートする)ことにより製造することもできる。
【0079】
透明耐熱保護層2の厚みとしては、上限は、例えば300μm、好ましくは200μmであり、下限は、例えば5μm、好ましくは10μmである。
【0080】
こうして形成された透明耐熱保護層の屈折率は非常に低く、例えば1.45以下(1.40〜1.45程度)であり、通常1.40〜1.43、好ましくは1.40〜1.42、さらに好ましくは1.40〜1.41である。そのため、フィルムの表面反射率を下げることができ、フィルムの見かけの光線透過率を向上できる。
【0081】
本発明の透明耐熱難燃フィルムの厚みとしては、用途に応じて適宜選択できるが、上限は、通常550μm(未満)、好ましくは350μm(未満)、さらに好ましくは155μm(未満)、特に好ましくは105μm(未満)であり、下限は、例えば10μm、好ましくは15μm、さらに好ましくは20μmである。
【0082】
本発明の透明耐熱難燃フィルムは透明性に優れている。透明耐熱難燃フィルムの全光線透過率(厚み:100μm)は、一般に88%以上、好ましくは90%以上である。本発明の透明耐熱難燃フィルムでは、透明耐熱保護層を設けていない元の熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率よりも高くなることが多い。
【0083】
また、本発明の透明耐熱難燃フィルムは耐熱性にも優れている。例えば、透明耐熱難燃フィルムを250℃以上の雰囲気下においても変色や変形が見られない。
【0084】
また、本発明の透明耐熱難燃フィルムの中で、一部の樹脂において、線膨張係数が、透明耐熱保護層を設けていない元の熱可塑性樹脂フィルムの線膨張係数より低くなるという特徴を有する。例えば、透明耐熱難燃フィルムの線膨張係数(ASTEM D696)は、透明耐熱保護層を設けていない元の熱可塑性樹脂フィルムの線膨張係数の90%以下、好ましくは80%以下となる。より具体的にはポリエチレンテレフタレートフィルム(線膨張係数:7×10-5cm/cm・℃程度)に透明耐熱保護層を設けた透明耐熱難燃フィルムの線膨張係数(ASTEM D696)は、3.5×10-5cm/cm・℃〜5.5×10-5cm/cm・℃となる。また、ポリカーボネートフィルム(線膨張係数:6.8×10-5cm/cm・℃程度)に透明耐熱保護層を設けた透明耐熱難燃フィルムの線膨張係数(ASTEM D696)は、5×10-5cm/cm・℃〜6.2×10-5cm/cm・℃となる。
【0085】
さらに、本発明の透明耐熱難燃フィルムは優れた難燃性を有している。例えば、UL94に基づく難燃性の等級は「V−0」以上となる。
【0086】
また、本発明の透明耐熱難燃フィルムにおいては、透明耐熱保護層の表面の鉛筆硬度(JIS K5401)が高く、例えば、「H」以上の硬度を有する。
【0087】
さらに、本発明の透明耐熱難燃フィルムは、曲げ強度にも優れている。例えば、透明耐熱難燃フィルムを曲げ強度試験(180度に曲げた状態で1分間保持する試験)に供した場合、透明耐熱保護層にクラック等の発生は見られない。
【0088】
また、本発明の透明耐熱難燃フィルムの引張り強度(ISO 527)、引張り伸び率(ISO 527)は、透明耐熱保護層を設ける前の元の熱可塑性樹脂フィルムの引張強度、引張伸び率を保持している。
【0089】
また、本発明の透明耐熱難燃フィルムは、表面に特定のシリコーン樹脂層を有するので、防汚性にも優れる。
【0090】
このように、本発明の透明耐熱難燃フィルムは種々の特性、特に、透明性、耐熱性、難燃性、及び防汚性に優れているため、特に、燃焼防止フィルム、光学用フィルム等として有用である。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、それらに何ら制限されるものではない。なお、以下の説明において、「部」および「%」は、特に明記のない限り、重量基準である。なお、フィルムの屈折率はアッベの屈折率計(アタゴ社製)を用いて測定した。
【0092】
合成例1
撹拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた容器に、平均粒子径8−11nmのコロイダルシリカ溶液(商品名:スノーテクスOS、日産化学社製、固形分濃度20%)30g、2−プロパノール30g、2−メトキシエタノール5gを加えた。濃硝酸を加えて液の酸性度(pH)を2〜4の範囲内に調整した。次いで70℃に昇温したのち、分子末端に反応性のメトキシシリル基を有するポリシロキサン化合物(シルセスキオキサン化合物)(商品名:X−40−9225、信越化学社製、メトキシ含有量24%)80gを2−プロパノール80gに溶解した液を、滴下ロートを用いて2時間かけて滴下し、ポリシロキサン化合物(シルセスキオキサン化合物)とコロイダルシリカ粒子表面の反応を行った。
次いで、分子末端に反応性のメトキシシリル基を有する別のポリシロキサン化合物(3官能アルコキシシラン及び2官能アルコキシシランから誘導されるポリシロキサン化合物)(商品名:X−40−9246、信越化学社製、メトキシ含有量12%)40gを2−プロパノール40gに溶解した液を1時間かけて滴下して、前記コロイダルシリカ上のシルセスキオキサン化合物と反応を行った。80℃で1時間加熱撹拌を行った後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去し、次いでトルエンを80g加えて、90℃で1時間加熱撹拌を行った。室温に冷却し、溶媒を留去して粘度調整を行い、透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Aを得た。
上記透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Aを、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「MRF38」、三菱樹脂社製)に、乾燥後の膜厚が100μmになるように塗工し、130℃で10分間加熱してフィルムを作製した。このフィルムの屈折率は1.41であった。
【0093】
合成例2
合成例1と同様の実験装置を用い、コロイダルシリカ溶液の量を60g、初期の2−プロパノールの量を60gに変えた以外は合成例1と同様の処理を行い、透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Bを得た。
上記透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Bを、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「MRF38」、三菱樹脂社製)に、乾燥後の膜厚が100μmになるように塗工し、130℃で10分間加熱してフィルムを作製した。このフィルムの屈折率は1.42であった。
【0094】
合成例3
合成例1と同様の実験装置を用い、X−40−9225の量を80g、これを溶解するための2−プロパノールの量を80g、X−40−9246の量を30g、これを溶解するための2−プロパノールの量を30gに変えるとともに、X−40−9246を含む溶液の滴下終了後、さらに別の反応性のシラノール基を有するポリシロキサン化合物(商品名:X−21−3153、信越化学社製、シラノール基含有量1〜14%)10gを2−プロパノール10gに溶解した液を1時間かけて滴下し、その後、80℃で1時間加熱撹拌を行ったこと以外は、合成例1と同様の処理を行い、透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Cを得た。
上記透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Cを、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「MRF38」、三菱樹脂社製)に、乾燥後の膜厚が100μmになるように塗工し、130℃で10分間加熱してフィルムを作製した。このフィルムの屈折率は1.42であった。
【0095】
比較合成例1
無機酸化物粒子として、平均粒子サイズが約7nmで、且つその粒子表面をヘキサメチルジシラザンで表面処理されたシリカ(商品名:AEROSIL R816、日本アエロジル社製)30gを用い、これを水30gに超音波ホモジナイザーを用いて分散して水分散液を得た。合成例1において、平均粒子径8−11nmのコロイダルシリカ溶液(商品名:スノーテクスOS、日産化学社製、固形分濃度20%)の代わりに、前記水分散液を用いたこと以外は、合成例1と同様の処理を行い、保護層形成用樹脂溶液Dを得た。
上記透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Dを、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「MRF38」、三菱樹脂社製)に、乾燥後の膜厚が100μmになるように塗工し、130℃で10分間加熱してフィルムを作製した。このフィルムは透明性が低く、正確な屈折率は測定できなかった。
【0096】
実施例1
合成例1で得られた透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Aを、乾燥後の膜厚が10μmになるように、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ルミラーS10」、東レ社製、膜厚25μm、屈折率1.57)の両面に塗工し、130℃で10分間加熱乾燥して、透明耐熱保護層を形成し、透明耐熱難燃フィルムA1を得た。
【0097】
実施例2
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの代わりに、ポリカーボネートフィルム(商品名「ラクロンR」、インターナショナルケミカル社製、膜厚30μm、屈折率1.59)の両面に塗工した以外は、実施例1と同様の処理を行い、透明耐熱難燃フィルムA2を得た。
【0098】
実施例3
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの代わりに、シクロオレフィン系フィルム(商品名「アートンF5023」、JSR社製、膜厚30μm、屈折率1.51)の両面に塗工した以外は、実施例1と同様の処理を行い、透明耐熱難燃フィルムA3を得た。
【0099】
実施例4
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの代わりに、シクロオレフィン系フィルム(商品名「ゼオノア1060R」、日本ゼオン社製、膜厚30μm、屈折率1.53)の両面に塗工した以外は、実施例1と同様の処理を行い、透明耐熱難燃フィルムA4を得た。
【0100】
実施例5
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの代わりに、透明ポリオレフィン系フィルム[ポリ(メチルペンテン)共重合体フィルム](商品名「オピュランX−44B」、三井化学東セロ社製、膜厚25μm、屈折率1.46)の両面に塗工した以外は、実施例1と同様の処理を行い、透明耐熱難燃フィルムA5を得た。
【0101】
実施例6
実施例1において、合成例1で得られた透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Aの代わりに、合成例2で得られた透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Bを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い、透明耐熱難燃フィルムB1を得た。
【0102】
実施例7
実施例1において、合成例1で得られた透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Aの代わりに、合成例3で得られた透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Cを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い、透明耐熱難燃フィルムC1を得た。
【0103】
比較例1
実施例1において、合成例1で得られた透明耐熱保護層形成用樹脂溶液Aの代わりに、比較合成例1で得られた保護層形成用樹脂溶液Dを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い、フィルムD1を得た。
【0104】
<評価>
実施例及び比較例で得られた各透明耐熱難燃フィルム(比較例1はフィルムD1)について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。なお、耐熱性等の評価項目については、透明耐熱保護層を設ける前の熱可塑性樹脂フィルムについても同様の評価を行った。表1の括弧内の数値等は、透明耐熱保護層を設ける前の熱可塑性樹脂フィルムの評価結果を示すものである。
【0105】
(1)全光線透過率
株式会社村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(商品名「HR−100」)を用いて、全光線透過率(%)(厚み:100μmのサンプル)を測定した。
【0106】
(2)耐熱性
各フィルムを10cm×2cmの大きさにカットし、長手方向の端に5gのおもりをつけ、250℃の乾燥機内で1時間つるし、フィルムの変化の有無を目視観察した。表1中、「切断」とは、フィルムが切れたことを意味する。
【0107】
(3)機械的物性
各フィルムを縦5cm、幅1cmにカットして、オートグラフ(SHIMAZU社製)のチャック部に長さ2cmになるようにセットして、300mm/minの速度で引張試験を行い、引張り強度(MPa)、引張り伸び(%)を測定した。
【0108】
(4)難燃性
UL94に基づいて、難燃性を評価した。
【0109】
(5)線膨張係数(cm/cm・℃)
ASTEM D696に準じて、線膨張係数を測定した。
【0110】
(6)鉛筆硬度
JIS K5401に準じて、フィルム表面の鉛筆硬度を測定した。
【0111】
(7)曲げ強度
各フィルムを縦5cm、幅1cmにカットし、長手方向の中央部において、180度に折り曲げた状態で1分間保持し、フィルム上の透明耐熱保護層(保護層)の状態を目視観察した。
【0112】
【表1】

【符号の説明】
【0113】
1 熱可塑性樹脂フィルム
2 透明耐熱保護層
3 透明耐熱難燃フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂により形成された透明耐熱保護層を有する透明耐熱難燃フィルム。
【請求項2】
前記透明耐熱保護層の屈折率が1.40〜1.43の範囲にある請求項1記載の透明耐熱難燃フィルム。
【請求項3】
前記透明耐熱保護層の厚みが1〜100μmの範囲にある請求項1又は2記載の透明耐熱難燃フィルム。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子が、その一次粒子径が1〜100nmの範囲にあり、その表面電位がpH2〜5の範囲にあるコロイダルシリカであり、該コロイダルシリカ表面のシラノール基が前記ポリシロキサン樹脂と化学結合して該ポリシロキサン樹脂を架橋している請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明耐熱難燃フィルム。
【請求項5】
前記ポリシロキサン樹脂が、分子内にアルコキシシリル基及びシラノール基から選択された少なくとも1種の反応性基を有しており、該反応性基の総含有量が8〜48重量%であるポリシロキサン樹脂であり、該ポリシロキサン樹脂が前記無機酸化物粒子と化学結合により架橋されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明耐熱難燃フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明耐熱難燃フィルムを用いた燃焼防止フィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明耐熱難燃フィルムを用いた光学用フィルム。
【請求項8】
熱変形温度が250℃以下で透明な非晶質性の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子が架橋剤として含有されたポリシロキサン樹脂を含むシリコーン樹脂組成物から形成された透明耐熱保護層を設けることを特徴とする透明耐熱難燃フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−103415(P2013−103415A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249152(P2011−249152)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】