説明

透明膜形成液状抗菌剤組成物

【課題】
刺激性が低く、対象に散布した場合の透明性及び透明性の持続性が高く、かつ抗菌効果の持続性も高い透明膜形成液状抗菌剤組成物において、溶媒臭が低く、安全性の高い透明膜形成液状抗菌剤組成物を提供すること。
【解決手段】
疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、水及びアルコール系溶媒を含有する透明膜形成液状抗菌剤組成物であって、アルコール系溶媒が組成物全体に対して5質量%以上30質量%未満であることを特徴とする透明膜形成液状抗菌剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び抗菌効果の持続性に優れた透明膜形成液状抗菌剤組成物に関し、より詳細には、アルコール成分の含有量が低いため、溶媒臭が低減され、かつ、安全性の高い透明性及び抗菌効果の持続性に優れた透明膜形成液状抗菌剤組成物及び透明膜形成液状抗菌剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の住環境は、エアコンによる冷暖房効率の向上や、花粉の室内への進入を防ぐ等の観点から、高度に密閉化されている。そのため、浴室内や台所まわり、窓のサッシといった水分の多い場所にあっては、真菌や細菌などの菌類が繁殖し易く、このような菌類の繁殖を防止するべく、様々な抗菌剤がこれまでに開発されてきた。
【0003】
しかし、浴室内や台所まわり、窓のサッシ等の場所は水分に曝されやすいため、それらの場所に抗菌剤を散布・塗布しても、水分によって抗菌成分が溶出してしまい、抗菌効果があまり持続せず、持続的な効果を得るためには、抗菌剤をかなり頻繁に散布しなければならなかった。そこで、抗菌剤の持続性を向上させる試みがなされてきた。例えば特許文献1には、防カビ成分に加えて、撥水性被膜形成成分として、炭素鎖長10〜14のジアルキルジメチルアンモニウム塩を配合することによって、防カビ剤の防カビ効果の持続性を向上させることが記載されている。しかし、抗菌剤の持続性は十分とはいえなかった。
【0004】
また、防カビ剤としてよく用いられるチアベンダゾール等は、アルコールや水等の溶媒への溶解度が低いので、適当な溶媒に単に溶解させてその溶解液を散布・塗布しても、すぐに析出して白濁してしまうため、持続的な防カビ効果を得ることはより困難であった。加えて、特に屋内用途では、チアベンダゾール等の析出・白濁は、清潔感を損われた印象を見る者に与えるため、実用上の使用感には問題があった。
【0005】
一方、特許文献2には、藻類・カビ類が繁殖して生物汚染が進んでいる建築物外装部材に、少ない工程で短時間かつ経済的に塗布でき、生物汚染した部分を容易に改修しうる水系防藻(カビ)塗料として、「合成樹脂ラテックスを主成分とする建築物外装部材用の水系防藻(カビ)塗料であって、樹脂固形分100重量部に対して0.01〜10重量部の防藻剤又は防カビ剤、及び0〜5重量部の増粘剤を配合し、かつ樹脂固形分濃度を1〜30重量%に調整することを特徴とする水系防藻(カビ)塗料」が記載されている。
特許文献2には、該塗料を透明塗膜とし得ることが記載されているが、これは樹脂固形分濃度を低く抑えて膜厚を薄くすることによりなし得る(特許文献2の段落番号0031の記載参照)ものである。
【0006】
発明者らはすでに、透明性及び抗菌効果の持続性が高い透明膜形成液状抗菌剤組成物を提案しており(特許文献3)、実施例には、組成物全体に対して49.6〜99.6wt%のエタノールを含有する組成物が記載されている。かかる組成物は、高い透明性や持続抗菌性を示すものの、溶媒含量が高いために溶媒臭(アルコール臭)があるという問題があった。また、引火性液体であるアルコールの含量が高いために、安全性の問題も懸念されていた。
【0007】
このような状況下において、透明性及び透明性の持続性が高く、かつ抗菌効果の持続性も高い透明膜形成抗菌剤組成物において、溶媒臭が低く、安全性の高い透明膜形成抗菌剤組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−230976号公報
【特許文献2】特開2003−292868号公報
【特許文献3】WO2008/004677号公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、刺激性が低く、対象に散布した場合の透明性及び透明性の持続性が高く、かつ抗菌効果の持続性も高い透明膜形成液状抗菌剤組成物において、溶媒臭が低く、安全性の高い透明膜形成液状抗菌剤組成物を提供することにある。以下、「透明膜形成液状抗菌剤組成物」を、単に「抗菌剤組成物」という。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、疎水性部位を有する有機ポリマーと、抗菌成分と、水及びアルコール系溶媒とを含有する抗菌剤組成物において、予め、疎水性部位を有する有機ポリマーと抗菌成分とアルコール系溶媒とを含有する溶解液を作成しておき、該溶解液を水に分散させることで、アルコール系溶媒の含量を低減した抗菌剤組成物を作製でき、かかる方法によって、溶媒臭が低く、安全性の高い抗菌剤組成物を得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、水及びアルコール系溶媒を含有する透明膜形成液状抗菌剤組成物であって、アルコール系溶媒が組成物全体に対して5質量%以上30質量%未満であることを特徴とする透明膜形成液状抗菌剤組成物や、
[2]有機ポリマーが、親水性部位を有するモノマーと疎水性部位を有するモノマーとの共重合ポリマーであることを特徴とする前記[1]の透明膜形成液状抗菌剤組成物や、
[3]有機ポリマーが、スチレンマレイン酸共重合体であることを特徴とする前記[1]又は[2]の透明膜形成液状抗菌剤組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、
[4]抗菌成分の20℃の水100gに対する溶解度が、0.2g以下であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかの透明膜形成液状抗菌剤組成物や、
[5]抗菌成分が、チアベンダゾール及びイマザリルからなる群から選ばれる1種又は2種を含むことを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかの透明膜形成液状抗菌剤組成物や、
[6]さらに界面活性剤を含有することを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかの透明膜形成液状抗菌剤組成物に関する。
【0013】
さらに、本発明は、
[7](A)疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分及びアルコール系溶媒を含有する溶解液を作製する工程、(B)工程(A)で得た溶解液を水に分散させる工程、を有することを特徴とする、疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、水及びアルコール系溶媒を含有する透明膜形成液状抗菌剤組成物の製造方法や、
[8](B)工程が、水を攪拌下、水に工程(A)で得た溶解液を添加する工程であることを特徴とする、前記[7]の製造方法や、
[9]透明膜形成液状抗菌剤組成物が、前記[1]〜[6]のいずれかの透明膜形成液状抗菌剤組成物であることを特徴とする、前記[7]又は[8]の製造方法に関する。
【0014】
さらに、本発明は、
[10]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物を、窓用透明膜形成液状抗菌剤組成物、台所用透明膜形成液状抗菌剤組成物及び浴室用透明膜形成液状抗菌剤組成物のいずれかとして使用する方法、
[11]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物が、容器に収容されてなることを特徴とするスプレー型抗菌剤に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の抗菌剤組成物は、対象に散布した場合の透明性や抗菌効果の持続性が高く、また、溶媒含量が低いため、製造時や使用時において溶剤臭が低く、安全性が高い。さらに、本発明の製造方法によって抗菌性組成物を好適に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の抗菌剤組成物は、疎水性部位を有する有機ポリマーと、抗菌成分と、水と、アルコール系溶媒とを含有する組成物であって、アルコール系溶媒が組成物全体に対して5質量%以上30質量%未満であることを特徴とする。
【0017】
(疎水性部位を有する有機ポリマー)
本発明の疎水性部位を有する有機ポリマー(以下、「有機ポリマー」ということがある。)の疎水性部位としては、特に制限されないが、例えばアルキル基;ビニル基、ビニリデン基、エチニル基等のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の縮合多環フェニル基;ビフェニル基、ターフェニル基等の鎖状多環フェニル基;その他の非極性基等を例示することができる。
【0018】
本発明の有機ポリマーは、親水性部位を有していなくてもよいが、より優れた透明性、透明性の持続性、及び抗菌効果の持続性の観点から、さらに親水性部位を有していることが好ましい。
親水性部位としては、特に制限されないが、例えばカルボキシル基及びその金属塩若しくはアミン塩;スルホン酸基及びその金属塩若しくはアミン塩;スルホアミド基;アミド基;アミノ基;イミノ基;ヒドロキシ基;4級アミノ基;オキシアミノ基;ジアゾニウム基;グアニジン基;ヒドラジン基;リン酸基;ケイ酸基;アルミン酸基;ニトリル基;チオアルコール基;その他の極性基等を挙げることができ、中でもカルボキシル基、スルホン酸基、スルホアミド基、アミド基、アミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、4級アミノ基、オキシアミノ基、ジアゾニウム基、グアニジン基、ヒドラジン基、リン酸基、ケイ酸基、アルミン酸基、ニトリル基、及びチオアルコール基からなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上を好ましく例示することができる。
【0019】
本発明に用いる有機ポリマーとして、より具体的には、親水性部位を有するモノマーと疎水性部位を有するモノマーとの共重合体や、親水性部位及び疎水性部位を有するモノマーの重合体等を挙げることができる。
なお、透明性及び透明性の持続性がより高く、かつ抗菌効果の持続性もより高い膜が得られる観点から、親水性部位を有するモノマーと疎水性部位を有するモノマーとの共重合体は、両モノマーのランダム共重合体又は交互共重合体であることが好ましい。
【0020】
親水性部位を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのモノ又はジカルボン酸モノマー、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキエチルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミドなど水酸基含有モノマー、スチレンスルホン酸ナトリウム、スルホン化イソプレンなどスルホン酸基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド化合物モノマー等を挙げることができ、中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸モノマーを好ましく挙げることができ、マレイン酸、イタコン酸などのジカルボン酸モノマーをより好ましく挙げることができる。
なお、本発明に用いる親水性部位を有するモノマーは、モノマーの状態では親水性部位を有していなくてもよく、抗菌剤組成物中に含まれる有機ポリマーの状態で親水性部位を有していればよい。例えば、無水マレイン酸モノマーは、親水性部位を有さないが、抗菌剤組成物中に含まれる有機ポリマーの状態において、無水マレイン酸の酸無水物基が加水分解により開環し、親水性部位であるカルボキシル基が生成していれば、親水性部位を有する有機ポリマーであるといえる。
マレイン酸、イタコン酸などのジカルボン酸モノマーの場合、有機ポリマーの状態でカルボキシル基を1つ、エステルを1つ有していればよいが、より優れた本発明の効果を得る観点から、カルボキシル基を2つ有していることが好ましい。
【0021】
疎水性部位を有するモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環含有モノマー等を挙げることができ、中でもスチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーを好ましく挙げることができ、スチレンをより好ましく挙げることができる。
【0022】
親水性部位及び疎水性部位を有するモノマーとしては、例えば、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−イソプロペニルピロリドン、N−イソプロペニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン等を挙げることができる。
【0023】
本発明に用いる有機ポリマーとして、具体的には、スチレンマレイン酸共重合体やその誘導体を好ましく例示することができる。スチレンマレイン酸共重合体としてはスチレン:マレイン酸の比率が3:1〜1:1の化合物が好ましく用いられ、より好ましくは(1〜2.5):1の化合物が用いられる。スチレンマレイン酸共重合体の誘導体とは、スチレンマレイン酸共重合体から誘導可能な化合物であって、本発明において、スチレンマレイン酸共重合体と同様に用いうるものを意味し、例えば、スチレン無水マレイン酸共重合体とアルコールを反応させることにより、無水マレイン酸部分の酸無水物基が開環され、モノエステル/モノカルボン酸基となっている共重合体や、スチレンマレイン酸共重合体の芳香族基の適当な位置に、スルフォニル基等の置換基を有する共重合体や、スチレン無水マレイン酸共重合体の無水マレイン酸部分がアミンによりイミド化された共重合体や、スチレン無水マレイン酸の酸無水物基が開環されて生じたエステル基やカルボン酸基がアミンによりイミド化された共重合体等が含まれる。
本発明に用いるポリマーとして、より具体的には、スチレンマレイン酸コポリマー型(TG−750W:共栄社化学株式会社製)(スチレン無水マレイン酸重合体の無水マレイン酸部分の酸無水物基が開環され、モノエステル/モノカルボン酸基となっている共重合体)や、SMAエステルレジン(サートマー社製)(スチレン無水マレイン酸重合体の無水マレイン酸部分の酸無水物基が開環され、モノエステル/モノカルボン酸基となっている共重合体)や、SMAレジン:アンモニウム塩水溶液(サートマー社製)(スチレン無水マレイン酸重合体の無水マレイン酸部分の酸無水物基が加水分解され、ジカルボン酸基となっている共重合体)等を好ましく例示することができる。
【0024】
有機ポリマーの分子量は、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば数平均分子量が1,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、3,000〜100,000の範囲内であることがより好ましい。
また、有機ポリマーの20℃における水への溶解度は5〜5000ppmであることが好ましく、10〜2000ppmであることがより好ましい。
有機ポリマーとして、複数の有機ポリマーを混合して使用することも好ましく行なわれるが、その場合は、少なくとも1種類の有機ポリマーの20℃における水への溶解度が5〜5000ppmであることが好ましく、溶解度が5〜5000ppmの樹脂の有機ポリマー全体中に占める重量割合は30%以上であることがより好ましい。
【0025】
(抗菌成分)
本発明に用いる抗菌成分としては、公知の防カビ成分、抗細菌成分、抗酵母成分、抗ウイルス成分等を挙げることができ、例えば、水への溶解度が0.2g以下で、エタノールへの溶解度が0.2g以上、好ましくは0.5g以上であり、かつ、常温で固体である抗菌成分は溶解して使用することができる。
なお、本願明細書における「抗菌成分の水への溶解度」や「抗菌成分のエタノールへの溶解度」とは、それぞれ、20℃の水100gへの溶解度、20℃のエタノール100gへの溶解度を表す。水への溶解度が0.2g/100g以下でエタノールへの溶解度が0.2g/100g以上である抗菌成分は、本発明に用いる有機ポリマーとの相溶性がより高く、透明性のより高い塗膜が得られる。
【0026】
上記抗菌成分として、特に防カビ成分を好適に例示することができる。防カビ剤のうち、溶解して使用することができる防カビ剤としては、チアベンダゾール(TBZ)、3−ヨード−2−プロパギルブチルカルバメイト、1,2−ベンゾトリアゾリン−3−オン、ジヨードメチル−p−トリルスルフォン、2,3,5,6テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン、1−(2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(2−プロペニルオキシ)エチル)−1H−イミダゾール(イマザリル)等を具体的に例示することができるが、中でも、チアベンダゾール、イマザリルが好ましく、チアベンダゾールがより好ましい。
また、抗細菌・抗酵母成分としては2,4,4’−トリクロロ−2’−ハイドロキシジフェニルエーテル、1,2−ベンゾチアゾロン−3、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド,2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−5,5’−ジメチルヒダントインを具体的に例示することができる。
【0027】
(水、アルコール系溶媒)
本発明の抗菌剤組成物には、水及びアルコール系溶媒が含有される。
水としては、超純水、蒸留水、イオン交換水、水道水、市水、工業用水等のいずれを用いても良く、適宜選択しうる。
アルコール系溶媒におけるアルコールは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられるが、エタノールを用いることが好ましい。アルコールは、1種単独でもよいし、2種以上のアルコールを含んでいてもよい。
【0028】
(組成物)
本発明の抗菌剤組成物は、水及びアルコール系溶媒の混合溶媒が溶媒成分であり、該溶媒成分に、疎水性部位を有する有機ポリマーと抗菌成分とが溶解及び/又は混合されているが、溶媒成分のうち、アルコール系溶媒は組成物に対して5質量%以上30質量%未満であることが好ましく、7質量%以上27質量%未満であることがより好ましく、10重量%以上25重量%未満であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の抗菌剤組成物は、塩化ビニル基板へスプレー塗布して形成した厚さ20〜300nmの膜の、塗布から24時間後のヘイズ率が5.0以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下である。
なお本明細書において、ヘイズ率は、厚さ0.5mmの透明塩化ビニール板(アクリサンデー社製、透明硬質塩化ビニール板、ヘイズ率:1.0〜1.3)にスプレー塗布した塗膜を室温で24時間乾燥させたサンプルを日本電色工業株式会社製の装置により測定された数値である。
形成された塗膜のヘイズ率が5.0以上であると塗布面が白色に着色し美観を損ねるとともに、この様な塗膜は水と接触した場合、早期に抗菌成分が溶出してしまい抗菌効果を持続させる有効期間が短くなる。
【0030】
本発明の抗菌剤組成物中の有機ポリマーの含有割合としては、所望の透明性及び性能が得られる限り特に制限されるものではないが、抗菌剤組成物全量に対して0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.2〜1重量%の範囲内とすることができる。
【0031】
本発明の抗菌剤組成物中の抗菌成分の含有割合としては、所望の防カビ性能が得られる限り特に制限されないが、抗菌剤組成物全量に対して0.01〜10重量%、より好ましくは0.03〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜3重量%、より好ましくは0.07〜1重量%の範囲内とすることができる。
【0032】
本発明の抗菌剤組成物中の有機ポリマーと抗菌成分との配合比は、有機ポリマーと抗菌成分との重量比を1:50〜50:1、より好ましくは1:10〜10:1、さらに好ましくは2:1〜5:1、より好ましくは2.5:1〜3.5:1の範囲内とすることができる。
【0033】
本発明の抗菌剤組成物の水の含有割合は、組成物全体から前記のアルコール系溶媒、有機ポリマー及び抗菌成分、さらに、任意成分を含む場合には任意成分を除した残部である。
【0034】
(任意成分)
本発明の抗菌剤組成物は、疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、水及びアルコール系溶媒以外に、任意の成分を含んでいてもよい。そのような任意成分として、例えば界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、撥水成分等を例示することができる。界面活性剤をさらに含んでいると、抗菌剤組成物をより均一に溶解・分散させることができ、透明性の持続性及び抗菌効果の持続性に資する。レベリング剤を含んでいると、塗膜の表面張力を均一化し、浮まだらやハジキを防止して被塗物への濡れ性を向上させることができる。消泡剤を含んでいると、塗膜表面の泡残りを防止することができる。
【0035】
また、上記界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤等の界面活性剤を挙げることができる。非イオン界面活性剤としては、アルキロールアマイド型;ペグノールL−4、ペグノールTH−8、ペグノールL−9A、ペグノールL−12S、ペグノールL−20S、ペグノールT−6、ペグノールTE−10A、ペグノールST−7、ペグノールST−9、ペグノールST−12、ペグノールO−6A、ペグノールO−107、ペグノールO−16A、ペグノールO−20、ペグノールO−24、ペグノールC−18、ペグノールS−4D、ペグノールHC−10(東邦化学工業株式会社製)、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709(花王株式会社製)等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル型;グリセリンエステル型;P.O.Eソルビット脂肪酸エステル型;ソルビタン脂肪酸エステル型;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型;ペポールA−0638、ペポールB−181、ペポールB−182、ペポールB−184、ペポールB−188、ペポールBEP−0115(東邦化学工業株式会社製)等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル型;低臭化ポリエーテル、ニューカルゲンCP120、CP−15−150、CP−15−200、D−945、D−935(竹本油脂株式会社製)等の非イオン界面活性剤を挙げることができる。陰イオン界面活性剤を使用した場合には持続性の低下が懸念され、陽イオン界面活性剤を使用した場合には樹脂との相互作用により性能低下が懸念されることから非イオン界面活性剤を使用することが望ましい。
【0036】
また、上記レベリング剤としてはニューカルゲンD−1420、ニューカルゲンA−28−B(いずれも竹本油脂株式会社製)、消泡剤としてはニューカルゲン1028PB、パイオニンK−17(いずれも竹本油脂株式会社製)等の公知の剤を使用することができる。
【0037】
また、上記撥水成分としては、メガファックF−475(大日本インキ株式会社製)、メガファックF−480SF(大日本インキ株式会社製)、メガファックF−470(大日本インキ株式会社製)、メガファックF−482(大日本インキ株式会社製)等のフッ素系界面活性剤や、ディックガードF−90N(大日本インキ株式会社製)、ディックガードTE−5A(大日本インキ株式会社製)、ディックガードF−445(大日本インキ株式会社製)等のフッ素系繊維加工剤を好適に例示することができる。また、この他に、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、変性シリコーンオイル又はそれらのエマルジョンを好適に例示することができる。
【0038】
(製造方法)
本発明の抗菌剤組成物の製造方法は、(A)疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分及びアルコール系溶媒を含有する溶解液を作製する工程、及び、(B)工程(A)で得た溶解液を水に分散させる工程を有することを特徴とし、疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、アルコール系溶媒としては前記のものを使用することができる。
工程(A)の溶解液にはさらに必要に応じて水、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤等の成分を含有させることもできる。工程(A)において水を含有する溶解液を作製する場合、最終的な抗菌剤組成物に含有される水の0〜50%、好ましくは5〜30%を投入することができる。
工程(A)の溶解液の作製には、公知の条件及び方法が使用できる。例えば攪拌混合装置を用いることができ、具体的にはマグネティックスターラー、ミキサー、ホモジナイザー、攪拌翼攪拌機等を用いることができる。
【0039】
工程(B)は、工程(A)で得られた溶解液を水に分散させる工程であるが、必要に応じて、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤等の一部又は全部を工程(A)で得られた溶解液と同時に分散させてもよいし、予め水と上記剤の一部又は全部を混合した液に、工程(A)で得られた溶解液を分散させてもよい。
分散には公知の条件及び方法が使用でき、具体的には工程(A)で挙げたものと同様のものを使用することができ、水を攪拌下に、工程(A)で得た溶解液を水に添加して分散させる方法が好ましい。
【0040】
(使用方法)
本発明の菌発生防止方法としては、本発明の抗菌剤組成物を、窓のゴムパッキン;浴室内の天井、壁面、排水口付近、タイルの目地;洗面台;等のカビなどの生え易い箇所に塗布する方法であれば特に制限されない。
本発明の抗菌剤組成物は、防カビ剤を有効成分とする組成物の場合には、窓のゴムパッキン;浴室の天井、壁面、排水口付近、タイルの目地;洗面台等のカビの生えやすい箇所に塗布して、カビの発生を防止する目的で使用される。抗細菌・抗酵母剤を有効成分とする組成物の場合には、トイレの床や壁、便器の内壁面や外壁面に塗布して、飛散した尿が腐敗して悪臭を発生することを防止したり、あるいは、生ごみの集積場所の周辺の床に塗布して、生ごみから流出する液体が腐敗し悪臭を発生することを防止する等、細菌、酵母の繁殖による臭気や不衛生状態を防止する目的で使用される。
塗布方法としては、具体的には、スプレー吹き付け法、エアゾール吹き付け法、印刷法、シート成形法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、バーコーター法、メイヤーバー法、刷毛塗装方法、ローラー塗装方法等を例示することができるが、スプレー吹き付け法が好ましい。抗菌剤組成物の塗布量及び抗菌剤組成物により形成される被膜の厚さは特に制限されないが、好ましくは被膜厚を5〜500nmの範囲内、より好ましくは20〜300nmの範囲内とすることができる。
【0041】
本発明のスプレー型抗菌剤は、本発明の抗菌剤組成物が容器に収容されてなるものであれば特に制限されず、該容器としては内容物をスプレーしうる容器であれば特に制限されない。大面積を塗布する際には、スプレー回数増加による作業者への負荷が大きくなるためスポンジ等で塗り広げたり、スポンジに薬剤を染み込ませて使用することもできる。
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[抗菌剤組成物]
第1表に示す組成の、実施例1〜9及び比較例1〜17の抗菌剤組成物を調製した。
各抗菌剤組成物は次の方法によって製造した。
調製法a:エタノール100gに所定量の樹脂、抗菌剤、界面活性剤を溶解させた。これを室温下、マグネティックスターラーで攪拌している所定量の水へゆっくりと滴下し抗菌剤組成物を得た。
調製法b:エタノール100gに水30g、所定量の樹脂、抗菌剤、界面活性剤を溶解させた。これを室温下マグネティックスターラーで攪拌しながら所定量より30g少ない水へゆっくりと滴下し抗菌剤組成物を得た。
調製法c:エタノール200gと所定量の水を混合させたものに所定量の樹脂、抗菌剤、界面活性剤を添加し室温下、マグネティックスターラーで攪拌することで抗菌剤組成物を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
表中、樹脂Aはスチレンマレイン酸共重合体樹脂{数平均分子量7200、共重合比2.2:1(スチレン:マレイン酸、モル比)}、樹脂Bはスチレンマレイン酸樹脂{数平均分子量60100、共重合比1.0:1(スチレン:マレイン酸、モル比)}である。
界面活性剤AはニューカルゲンCP−120(竹本油脂社製)、界面活性剤BはニューカルゲンCP−15−200(竹本油脂社製)である。
【0046】
[試験例1]保存安定性
抗菌剤組成物調製直後の安定性を評価した。抗菌剤組成物調製時の攪拌停止1時間後に溶液状態を目視により観察した。下記基準により評価した。
○:透明液、△:やや濁り有り、×:白濁し沈降成分生成
抗菌剤組成物調製直後の安定性評価において、白濁及び沈降成分生成のなかったものについて、バイアル瓶に5gを計り取り保存安定性試験を実施した。試験条件及び評価基準は次のとおりである。
試験条件:0℃(1ヶ月)、室温(1ヶ月)、40℃(1ヶ月)
評価基準:○:透明液、△:やや濁り有り、×:白濁し沈降成分生成
【0047】
[試験例2]スプレー塗布時の防カビ性能評価
抗菌剤組成物調製直後の安定性評価において白濁及び沈降成分生成のなかったものについて、塩ビ基板へスプレー塗布し室温で24時間乾燥させた。塗布量は20g/mとした。それぞれの塗膜を4cm×7.5cmへ裁断し、所定時間イオン交換水(50mL)へ浸漬させ乾燥後の防カビ性能を評価した。防カビ性能評価はポテトデキストロース寒天培地上に4cm×4cmの試験片を静置し、黒麹カビ胞子と液体培地の混合液を塗布し、25℃で1週間培養したもののカビの発生状況を目視により判断した。カビ発生無しのものを−(マイナス)、カビ発生のみられたものを+(プラス)とした。
【0048】
[試験例3]透明性評価
抗菌剤組成物調製直後の安定性評価において白濁及び沈降成分生成のなかったものについて、塩ビ基板へスプレー塗布し室温で24時間乾燥させた。塗布量は20g/mとした。それぞれの塗膜の透明性を目視により評価した。透明のものを○、白化したものを×とした。
【0049】
[試験例4]エタノール臭気評価
抗菌剤組成物調製直後の安定性評価において白濁及び沈降成分生成のなかったものについて、塩ビ基板へスプレー塗布し室温で24時間乾燥させた。塗布量は20g/mとした。スプレー塗布作業時のエタノール臭気を評価した。作業時、臭気がほとんど気にならないものを◎、やや臭気があるが気にならないものを○、臭気が強いものを×とした。
【0050】
[試験例5]エタノール着火性評価
各抗菌剤組成物を炎に向けてスプレーした際の着火性について評価した。1プッシュにつき約1g噴射するスプレーボトルを使用し、火の点いているガスコンロに対して20cmの距離から1プッシュし炎の変化を目視により観察して下記基準により評価した。着火しないものを○、炎が大きくなったものを×とした。
【0051】
[試験例6]薬液への着火性評価
ガラスシャーレに抗菌剤組成物5mLをいれ、炎を近づけて着火試験をおこなった。着火しないものを○、着火し、燃えたものを×とした。
【0052】
試験例1〜6の結果をまとめて第2表に示す。
【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、水及びアルコール系溶媒を含有する透明膜形成液状抗菌剤組成物であって、アルコール系溶媒が組成物全体に対して5質量%以上30質量%未満であることを特徴とする透明膜形成液状抗菌剤組成物。
【請求項2】
有機ポリマーが、親水性部位を有するモノマーと疎水性部位を有するモノマーとの共重合ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物。
【請求項3】
有機ポリマーが、スチレンマレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物。
【請求項4】
抗菌成分の20℃の水100gに対する溶解度が、0.2g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物。
【請求項5】
抗菌成分が、チアベンダゾール及びイマザリルからなる群から選ばれる1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物。
【請求項6】
さらに界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物。
【請求項7】
(A)疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分及びアルコール系溶媒を含有する溶解液を作製する工程、
(B)工程(A)で得た溶解液を水に分散させる工程、
を有することを特徴とする、疎水性部位を有する有機ポリマー、抗菌成分、水及びアルコール系溶媒を含有する透明膜形成液状抗菌剤組成物の製造方法。
【請求項8】
(B)工程が、水を攪拌下、水に工程(A)で得た溶解液を添加する工程であることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
透明膜形成液状抗菌剤組成物が、請求項1〜6のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物を、窓用透明膜形成液状抗菌剤組成物、台所用透明膜形成液状抗菌剤組成物及び浴室用透明膜形成液状抗菌剤組成物のいずれかとして使用する方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明膜形成液状抗菌剤組成物が、容器に収容されてなることを特徴とするスプレー型抗菌剤。

【公開番号】特開2010−275196(P2010−275196A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126446(P2009−126446)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】