説明

透明誘電体薄膜の形成方法

【課題】1.5〜2.0の間で所望の屈折率を示すSi系薄膜を、安定的に得ることが可能な透明誘電体薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】スパッタリング法を用いて基材上に薄膜を形成する方法において、真空チャンバー内にSiターゲットを設置する工程、該真空チャンバー内を減圧する工程、減圧後の該真空チャンバー内に反応性ガスとしてN及びCOを含有するスパッタガスを導入する工程、を有し、(CO2流量/全スパッタガス流量)で表される流量比を制御することにより薄膜の屈折率を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明誘電体薄膜の形成方法に関するものであり、特にSi系薄膜において屈折率を変化せしめる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiOやSi等を主成分とするSi系薄膜は、可視光透過性、絶縁性、ガスバリア性等が優れており、また、所定の屈折率を示すことから、反射防止膜やバンドパスフィルターといった光学薄膜、ゲート絶縁膜、有機ELディスプレイのバリア膜等の透明誘電体薄膜に広く用いられている。
【0003】
上記のようなSi系薄膜を得る方法として、工業的にはスパッタリング装置を用いて薄膜を形成する方法が広く採用されている。
【0004】
例えば特許文献1では、SiO薄膜を高い成膜速度で得るために、CO及び/又はCOの反応性ガスの存在下で金属ターゲットをスパッタガスによりスパッタリングし、当該スパッタリング中の反応モードを酸化モードとして基板上に前記金属の酸化物からなる透明薄膜を成膜することを特徴とするスパッタ成膜方法が開示されている。なお、形成された薄膜は、COガスの流量に関わらず屈折率が1.4〜1.5を示すものであった。
【0005】
また、特許文献2では、光吸収の小さいSiON薄膜を高い成膜速度で得るために、Siターゲットを用い、NガスとOガスと不活性ガスとの混合ガス中でECRスパッタリングを行う方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、光記録媒体のハードコート層としてSiOCN薄膜を用いており、該薄膜を得るために、SiとCを主成分とするスパッタリングターゲットを用い、酸素と窒素を含むガス中でスパッタリングによって形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−270279号公報
【特許文献2】特開2003−262750号公報
【特許文献3】特開2008−152839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SiO膜の屈折率は約1.46、Si膜の屈折率は約2.0を示すものであるが、Si系薄膜において、屈折率がSiO膜とSi膜との間の値(例えば1.7程度)を示すような薄膜が求められており、様々な方法が検討されている。
【0009】
また、例えば特許文献2では、ECRスパッタリング法で成膜時のスパッタガスをN/(O+N)=0〜0.8の混合ガスとすることで、屈折率が1.64〜1.75を示すSiON膜を得ている。上記の方法では、酸素ガスを特定の流量としたとき、屈折率が急激に変化する遷移領域を示し、該遷移領域において窒素ガスを混合することで所望の屈折率を示す薄膜を形成している。しかし、酸素ガスの流量を1sccm増減させるだけで、窒素ガスの混合割合に対する屈折率の挙動が変化してしまうことから、酸素ガスの流量を厳密にコントロールする必要があり、量産機のような大型の設備では適用し難かった。
【0010】
特許文献2に開示されている通り、一般的にSi等の金属ターゲットとOガスとを用いて反応性スパッタリングを行う場合、遷移領域が存在することが知られている。上記のような遷移領域では、ターゲット表面の酸化状態が急激に変化するため、成膜速度が遅くなり生産性が低下するばかりでなく、所望の屈折率や膜厚を示す薄膜が得られなくなり、そのため、NとOとの混合ガスを用いる方法では、前述したような屈折率が1.7程度の膜を安定的に得るのは難しかった。
【0011】
一方で、特許文献3では、SiCターゲットを用いて酸素と窒素とを含むスパッタガスによりスパッタリングし、SiOC膜又はSiOCN膜を得ている。該薄膜の屈折率は1.5〜1.8程度の範囲で変化しているが、SiCターゲットはSiターゲットに比べて高価であり、Siターゲットを用いる場合よりも生産コストが上昇してしまうことから、生産コストの面で改善が必要であった。なお、特許文献3では、OとNとを含むスパッタガスを適切な条件に設定するとしているが、具体的な数値に関する記載は見当たらないため、これを実施するのは容易ではないと推察される。
【0012】
そこで本発明は、1.5〜2.0の間で所望の屈折率を示すSi系薄膜を、安定的に得ることが可能な透明誘電体薄膜の形成方法を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が鋭意検討した結果、COガス(以下、酸化ガスと記載することもある)はOガスと比較して酸化力が弱いにも関わらず、Nガスを含むスパッタガスに混合することで、形成される薄膜の屈折率を変化させるのが可能であることがわかった。さらに、上記酸化ガスの混合割合を増加させるに従って、形成される薄膜の窒化が抑制され、屈折率が約1.8、約1.7、約1.6、約1.5、と段階的に変化し、従来の遷移状態に見られたような急激な屈折率の変化を示さないことから、薄膜の窒化を抑制するだけでなく、酸化をも制御することが可能であることが明らかとなった。
【0014】
すなわち本発明は、スパッタリング法を用いて基材上に薄膜を形成する方法において、真空チャンバー内にSiターゲットを設置する工程、該真空チャンバー内を減圧する工程、減圧後の該真空チャンバー内に反応性ガスとしてN及びCOを含有するスパッタガスを導入する工程、を有することを特徴とする透明誘電体薄膜の形成方法である。
【0015】
また、本発明の形成方法によって形成される透明誘電体薄膜は、SiNO又はSiNOCを主成分とすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の形成方法によって形成される前記透明誘電体薄膜の屈折率は、1.9〜1.48であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の形成方法は、前記スパッタガスにおいて、{(CO又はCO流量/全スパッタガス流量)×100}で表される流量比が1〜80体積%であることが好ましい。上記流量比が1体積%未満であるとき屈折率は1.9を超え、酸化ガスを導入する効果が小さくなり、また80体積%を超えると、形成される薄膜の屈折率は1.5程度で、屈折率の変化は非常に微少なものとなることから、より効果的に本発明の形成方法を適用するには、COガスの流量比を上記範囲とすることが好ましい。また、該流量比をより好ましくは5〜60体積%としてもよい。
【0018】
また、本発明の形成方法における前記スパッタガスは、Ar、Xe、Ne、及びKrからなる群から選ばれる1種以上のガス、ならびに前記反応性ガスからなることを特徴とする。
【0019】
前述したように反応性ガスは酸化ガスとNからなり、該反応性ガスは{(全反応性ガス流量/全スパッタガス流量)×100}で表される流量比が5〜90体積%であることが好ましく、より好ましくは5〜70体積%としてもよい。反応性ガスの流量比が5体積%未満であると膜が着色することがあり、90体積%を超えると屈折率が変化しなくなることがある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の透明誘電体薄膜の形成方法を用いれば、1.9〜1.48の間で所望の屈折率を示すSi系薄膜を得ることが可能となる。また、本発明の好適な形成方法は、スパッタガスを厳密にコントロールする必要がなく、さらに、使用する反応性ガスはCO、Nであることから安価で取扱いも容易であり、量産機等の大型設備にも適用することができる。さらに、本発明の好適な形成方法は、反応性ガスとしてCOガスを利用することで、ターゲット表面の酸化が抑制されることから、ターゲットの表面状態が不安定となる遷移領域が存在せず、安定的に、なおかつ高い成膜速度で成膜することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】スパッタリング装置の概略を示した平面図である。
【図2】COガス又はOガスの流量比と放電電圧との関係を示した図である。
【図3】COガス又はOガスの流量比と成膜速度との関係を示した図である。
【図4】COガス又はOガスの流量比と屈折率との関係を示した図である。
【図5】COガスの流量比と消衰係数との関係を示した図である。
【図6】COガス流量比10体積%で得られたサンプルを光電子分光法により分析した結果を示した図である。
【図7】実施例2の反射防止膜の分光反射率特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の透明誘電体薄膜の形成方法は、例えば図1に示したようなスパッタリング装置を用いて次の手順で行うことが可能である。
【0023】
まず、Siターゲットを裏側にカソードマグネット4が設置されたターゲット1として設置する。この時Siターゲットは特に何も添加されていないSiターゲットでもよく、また、P、B等が添加されたものでもよい。なお、図1にはターゲット1が2つ記載されているが、ターゲットの個数は所望の薄膜に応じて決定されればよい。
【0024】
次に基材3を基材ホルダー2に保持させた後、メインバルブ6を開放し、真空チャンバー8内を真空ポンプ5を用いて排気する。基材は目的に応じて適宜選択されれば良いが、例えば、高分子や高分子フィルムやガラスが好適に用いられる。高分子の例としては、アクリル樹脂やプラスチック等の合成樹脂が挙げられる。高分子フィルムに特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンナフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂、セルローストリアセテート等が挙げられる。また、いずれのフィルムにおいても、易接着、易滑、コロナ、帯電防止、ハードコート等の表面処理や、紫外線吸収剤等の練りこみが行われていてもよい。ガラスの例としては、石英ガラスや、建築用や車両用、ディスプレイ用に使用されているソーダ石灰ケイ酸塩ガラスからなるフロート板ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス、TFT用ガラス、PDP用ガラス、光学フィルム用基板ガラス等が挙げられる。
【0025】
次に、真空チャンバー8内にガス導入管7よりスパッタガスをマスフローコントローラー(図示せず)により導入し、所定の流量比となるようにそれぞれのガス流量、及び真空チャンバー内の圧力を調整する。前述したようにスパッタガスはNガス及びCOガスと、Ar、Xe、Ne、Krから選ばれる1種以上のガスからなるものである。
【0026】
スパッタガスを流入後、パルスDC電源10の出力電力を所定の値に調整し、プラズマを発生させることによって成膜を行う。なお、成膜中の真空チャンバー8内の圧力は、開閉バルブ6により所定の値に調節し、上記の圧力は所望の膜厚に応じて適宜決定されればよい。さらに、このとき基材ホルダー2は、搬送ロール12上を搬送され、ターゲット1の横を通過することで、所望の薄膜を得る。
【0027】
なお、本発明では、マグネトロンスパッタ、バイアススパッタ、ECRスパッタ、等種々の公知のスパッタ方式が適応可能である。
【0028】
形成する薄膜がSiNOCを主成分とする場合、窒素組成比は1原子%以上60原子%以下、酸素組成比は1原子%以上65原子%以下、炭素の原子組成比は0.05原子%以上8原子%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明により形成される透明誘電体薄膜は、基材上に形成されるものであれば単層でも、複数を積層するものであってもよく、屈折率が異なる薄膜を積層するものであってもよい。なお、「基材上」とは基材に接するものであっても、基材と該透明誘電体薄膜との間に他の膜が介在するものであってもよい。
【0030】
本発明により形成される透明誘電体薄膜は、容易に所望の屈折率とすることが可能であることから、例えば反射防止膜等の光学薄膜として好適に使用することができる。本発明により形成される透明誘電体薄膜を用いた反射防止膜は、好適な可視光反射率を示し、なおかつTiO−SiO混合膜など、反射防止膜の中間屈折率を示す層として従来用いられていたものよりも、成膜速度が速くなることが本発明者の検討により示された。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を検証し、実施した例を説明する。なお、実施例1及び比較例1〜2で得られた膜は、自記分光光度計(日立製作所製U−4000)を用いて膜面反射率、ガラス面反射率および透過率を測定し(測定波長:300〜2500nm)、得られた値から薄膜光学シミュレーションによって屈折率及び消衰係数を評価した。
【0032】
実施例1
図1に示すようなスパッタリング装置を用いて、以下に示したスパッタ条件内でCOガスの流量比を変え、厚み1.1mmのソーダライム板ガラス上に各スパッタ条件毎に透明誘電体薄膜を形成し、複数の透明誘電体薄膜を得た。なお、図1は、該装置を上方から観察したときの要部を示すものである。また、その際のCOガス流量比と波長550nmにおける屈折率との関係を図4に示した。
【0033】
ターゲット1にPを添加したSi(以下「PドープSi」と記載することもある)ターゲットを用い、板ガラス3を基材ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー8内を、真空ポンプ5を用いて排気した。なお、本発明では、ターゲット1、バッキングプレート11、カソードマグネット4の設置数は薄膜の積層数、膜種等に応じて適宜設定される。真空チャンバー8内の雰囲気ガスに、ガス導入管7よりスパッタガスを導入し、成膜中の真空チャンバー8内の圧力は、開閉バルブ6により0.3Paに調節した。更に、電源コード9で接続されたパルスDC電源10の出力電力を2.0kWとした。基材ホルダー2は、搬送ロール12上を搬送され、ターゲット1の横を通過させ、SiNOC膜を得た。
【0034】
・ スパッタターゲット:PドープSi
・ スパッタガス:反応性ガス(CO、N)、Ar
・ 反応性ガス流量比:70体積%
・ COガス流量比:5〜30体積%
なお、全スパッタガス流量とはスパッタガスとして使用したガスの流量の総和、全反応性ガス流量とは反応性ガスとして使用したガスの流量の総和であり、反応性ガス流量比={(全反応性ガス流量)/(全スパッタガス流量)}×100、COガス流量比={CO流量/(全スパッタガス流量)}×100とした。
【0035】
実施例2
まず、図1に示したスパッタリング装置を用いて、実施例1と同様の方法でガラス上にSiNOC膜を形成した。次に該SiNOC膜上にNb膜、SiO膜をこの順で成膜し、反射防止膜とした。なお、実施例2の反射防止膜の構成を表1に示した。
【表1】

【0036】
得られたサンプルの分光反射率特性について、分光光度計(日立製作所製U−4000)を用いて、膜面側から光を入射し反射率を測定した。反射率測定に際して、サンプルのガラス面の反射成分除去を行った。分光反射率特性の結果を図7に示した。
【0037】
可視光の反射率は0.36%と良好な特性を示した。また、中間屈折率層に本発明の形成方法を用いれば、TiO−SiO混合膜(屈折率1.79)など、従来用いられていた膜を形成する方法に比べ、約4倍の成膜速度となることが分かった。
【0038】
以上より、実施例2は反射防止膜として良好な光学特性を有し、従来の中間屈折率膜を用いた反射防止膜と比較すると、生産性も向上したものであることが明らかとなった。
【0039】
比較例1
反応性ガスとしてCOガスの変わりにOガスを使用し、反応性ガス流量比を70体積%、Oガスの流量比を5〜10体積%とした以外は、実施例1と同様の方法で透明誘電体薄膜を形成した。なお、Oガス流量比={O流量/(全スパッタガス流量)}×100とした。
【0040】
・ スパッタターゲット:PドープSi
・ スパッタガス:反応性ガス(O、N)、Ar
・ 反応性ガス流量比:70体積%
・ Oガス流量比:5〜10体積%
【0041】
比較例2
反応性ガスとしてNガスを使用せず、COガスの流量比を20〜30体積%とした以外は、実施例1と同様の方法で透明誘電体薄膜を形成した。
【0042】
・ スパッタターゲット:PドープSi
・ スパッタガス:反応性ガス(CO)、Ar
・COガス流量比:20〜30体積%
【0043】
図2に、実施例1と比較例1における反応性ガス流量比と放電電圧の関係を示す。反応性ガスにOガスを使用した場合(比較例1)、ターゲット表面の酸化によって放電電圧が急激に減少する遷移領域が存在することが示された。前述したように上記のような遷移領域で安定した成膜を行うのは非常に困難であるとされている。一方、反応性ガスにCOガスを使用した場合(実施例1)、上記で見られたような遷移領域は存在しないことから、ターゲット表面が緩やかに酸化していることがわかり、COガスを用いることでターゲット表面の酸化を容易に制御できることが示された。
【0044】
実施例1において、COガスの流量比を増加させていくに従って成膜速度が高くなり、該流量比を30体積%以上とした際、今度は成膜速度が徐々に低くなる傾向が見られた。これは放電電圧の変化(図2)を併せて鑑みると、反応性ガスの導入量に応じて、薄膜の形成が優勢となる領域と、ターゲット表面の酸化が優勢となる領域とが存在するために、前述したような傾向を示したと考察される。一方で、Oガスを用いた比較例1も同様の傾向を示したが、成膜速度は実施例1の約2/3程度であった。これはターゲット表面の酸化がCOガスを用いることで抑制されたためと考察される。以上から、本願発明はターゲット表面の酸化を抑制し、なおかつ効果的に薄膜を形成することが可能であり、実際にCOガスを用いることでOガスを用いた場合より、成膜速度が約1.5倍高くなることが確認された。
【0045】
図4に実施例1と比較例1〜2で作製したサンプルのCOガス又はOガス流量比と波長550nmにおける屈折率との関係を、図5に実施例1で作製したサンプルのCOガス流量比と消衰係数との関係を示す。比較例1では、Oガス流量比5体積%で屈折率1.65の膜が得られるが、Oガス流量比10体積%では屈折率は1.48に減少し、反応性ガスであるOガス流量の変化に対する屈折率の変化が大きいことから、所望の屈折率を持つ透明誘電体薄膜を得るには、Oガスの厳密なコントロールが必要であることがわかった。
【0046】
また、比較例2では、COガス流量比30体積%で屈折率1.66の膜が得られたが、消衰係数が0.03と高く、着色した膜が得られた。さらに、COガス流量比20体積%とした場合、消衰係数が0.06と高いことに加えて、屈折率が2.2となり、比較例1と同様に反応性ガスであるCOガス流量の変化に対する屈折率の変化が大きいことがわかった。以上から、反応性ガスがCOガスのみでは、所望の屈折率を得るためにCOガスの厳密なコントロールが必要であり、しかも得られる薄膜は着色してしまうという新たな問題が生じることがわかった。
【0047】
一方、反応性ガスにCOガスとNガスを用いた場合(実施例1)、COガス流量比を5〜30体積%の範囲で変化させることによって、薄膜の屈折率が図4に示すように段階的に変化し、例えば550nmにおいては、1.82、1.69、1.59、1.54と変化した。COガス流量比が10体積%程度変化したとき屈折率は約0.1変化し、比較例1〜2で見られたように、屈折率の急激な変化は見られないことがわかった。また、全ての膜で消衰係数は0.004未満であり、透明な膜が得られた。以上から、COとNとの混合ガスを反応性ガスとして使用することで、容易に、吸収がなく、透明で、所望の屈折率を有する膜が得られることが分かった。
【0048】
また、図6に反応性ガス流量比70体積%、COガス流量比10体積%で得られたサンプルを、X線光電子分光(XPS)装置(日本電子社製JPS−9000MC)を用いて測定し、光電子分光法により分析した結果を示す。
【0049】
p軌道のXPSスペクトルから、上記サンプルではSiのピークとSiOのピークとの間にピークが確認された。ここで、薄膜がSiである場合、図6の実線で示されている束縛エネルギーの位置にピークを示し、これが酸化されるに従って、破線で示されているSiOのピークへと近付く。上記サンプルのピークがSiとSiOとの間に見られたことから形成された薄膜は窒化を制御され、さらに急激な酸化を示していないことから、酸化をも制御されていることが示された。
【符号の説明】
【0050】
1 ターゲット
2 基材ホルダー
3 基材
4 カソードマグネット
5 真空ポンプ
6 メインバルブ
7 ガス導入管
8 真空チャンバー
9 電源コード
10 パルスDC電源
11 パッキングプレート
12 搬送ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法を用いて基材上に薄膜を形成する方法において、真空チャンバー内にSiターゲットを設置する工程、該真空チャンバー内を減圧する工程、減圧後の該真空チャンバー内に反応性ガスとしてN及びCOを含有するスパッタガスを導入する工程、を有することを特徴とする透明誘電体薄膜の形成方法。
【請求項2】
形成される透明誘電体薄膜は、SiNO又はSiNOCを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の透明誘電体薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記透明誘電体薄膜の屈折率は、1.9〜1.48であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明誘電体薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記スパッタガスにおいて、{(CO流量/全スパッタガス流量)×100}で表される流量比が1〜80体積%であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の透明誘電体薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記スパッタガスは、Ar、Xe、Ne、及びKrからなる群から選ばれる1種以上のガス、ならびに前記反応性ガスからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の透明誘電体薄膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の透明誘電体薄膜の形成方法を用いて形成される透明誘電体薄膜。
【請求項7】
請求項6に記載の透明誘電体薄膜を含むことを特徴とする光学薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−208270(P2011−208270A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148298(P2010−148298)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】