説明

透明難燃性フィルム

【課題】難燃性および透明性に優れるフィルムを提供する。
【解決手段】合成樹脂100重量部に対して、平均粒子径(D50)が20〜800nmである三酸化アンチモンを0.01〜5重量部含有させる。三酸化アンチモンに加えて、難燃可塑剤が含有されていることが好ましく、その添加量は、合成樹脂100重量部に対して1〜60重量部程度である。難燃可塑剤は、特にリン酸エステル系難燃可塑剤であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己消化性(難燃性)を有し、透明性に優れるものであり、例えば、工場内における間仕切り、カーテンおよびシャッター、塗装ブース用、太陽光や雨よけ用のオーニングやテント等に使用される透明難燃性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
難燃性フィルムは、使用時に難燃性を発現させるために、フィルムを構成する樹脂中にハロゲン系難燃剤等を充填したものが使用されていた(特許文献1等)。これらのハロゲン系難燃剤は少量の添加でも難燃性を有し、かつ透明性に優れるため有用である。しかしながら、ハロゲン系難燃剤は環境汚染を引き起こす恐れがあるため、ハロゲン系以外の難燃剤の使用が求められている。
ハロゲン系難燃剤に変わる難燃剤として、無機系難燃剤が単独または複合的に使用されている。無機系難燃剤は、十分な難燃性を有し、有害なガスの発生がなく環境面において優れるものであるが、透明性の面で不十分であり、透明性を要求される用途において使用することができない問題があった。
【0003】
また、リン酸エステル系可塑剤や含塩素系可塑剤(塩素化パラフィン)等の難燃可塑剤を用いて難燃性を付与する技術も知られている(特許文献2等)。難燃可塑剤は非常に有用なものであるが、ブリードアウトし易かったり耐候性および耐寒性が低下したりするため、高充填することが難しく、使用用途が限られてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−268125号公報
【特許文献2】特開平11−58630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、難燃性フィルムの有する上記問題を解決するために種々検討し、通常、難燃助剤として使用されることが多い三酸化アンチモンに着目した。そして、小粒径の三酸化アンチモン使用すると、難燃性および透明性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような知見の下、成し得たものであり、以下を要旨とする。
(1)合成樹脂100重量部に対して、平均粒子径(D50)が20〜800nmである三酸化アンチモンを0.01〜5重量部含有してなる透明難燃性フィルム。
(2)合成樹脂100重量部に対して難燃可塑剤が1〜60重量部含有されていることを特徴とする(1)に記載の透明難燃性フィルム。
(3)前記難燃可塑剤がリン酸エステル系難燃可塑剤であることを特徴とする(2)に記載の透明難燃性フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の透明難燃性フィルムは、透明性に優れるため、用途が限られなく広く使用できるものである。加えて、耐候性および耐寒性、ブリード性においても優れるため、屋外の使用についても十分耐えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の透明難燃性フィルムは、合成樹脂100重量部に対して、平均粒子径20〜800nmの三酸化アンチモンを0.01〜5重量部配合されてなる。
【0010】
本発明における、三酸化アンチモンの平均粒子径とは、D50(メジアン径、累積50%値での粒子径)であり、粒度分布計(日機装株式会社製、Microtrac MT3300−2)を用いレーザー回折・散乱法にて測定されたものである。
【0011】
本発明において使用される合成樹脂は特に限定されず、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等種々の合成樹脂が使用できるが、塩化ビニル系樹脂が好ましく使用される。塩化ビニル系樹脂からなるフィルムは一般に可塑剤等の液状添加剤を使用するため、後述の三酸化アンチモンのマスターバッチ化(分散液化)が容易であり、三酸化アンチモンを配合系に均一に混合することができる。また、塩化ビニル系樹脂は塩素を多く含むため、他の樹脂と比べて自己消化性が高い。
【0012】
本発明において、三酸化アンチモンは上記合成樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部配合される。0.01重量部未満であると、難燃性が発現しにくい。反対に5重量部を超えると、難燃性付与効果は飽和するばかりでなく、透明性が悪化する。
【0013】
三酸化アンチモンの平均粒子径は20〜800nmであり、好ましくは20〜400nmである。
三酸化アンチモンの平均粒子径が上記下限未満であると、粒子の凝集エネルギーが高くなり均一分散性が低下するため好ましくない。また、上記上限を超えると、透明性が損なわれる。
三酸化アンチモンは、平均粒子径が20〜800nmである市販品(例えば、日本精鉱社製、PATOX−U)を用いてもよいし、一般に流通する大きな粒径(1μm〜5μm程度)の三酸化アンチモンを粉砕処理して用いてもよい。
なお、本発明の三酸化アンチモンの平均粒子径は20〜800nmと小粒径であるため、得られるフィルムの紫外線領域の光透過率が低くなり、この紫外線カット効果により、耐候性の向上が発現すると考えられる。
また、三酸化アンチモンの添加により、透明難燃フィルムを成形する樹脂組成物の流れ性が良好になるため、得られる透明難燃フィルムの視認性が向上するという効果もある。
【0014】
本発明においては、難燃性のさらなる向上のために、難燃可塑剤を用いてもよい。難燃可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、含塩素系可塑剤(塩素化パラフィン)等が挙げられるが、環境規制がないためリン酸エステル系可塑剤が好ましい。リン酸エステル系可塑剤としては、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、クレジルフェニルフォスフェート、キシレニルジフェニルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ジメチルメチルホスフェート、トリアリルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリスβ−クロロプロピルホスフェート、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル類、含ハロゲンリン酸エステル等が挙げられる。
難燃可塑剤が合成樹脂100重量部に対して1〜60重量部配合されることが好ましい。1重量部未満であると、難燃効果が発現しにくい。反対に、60重量部を超えると溶融張力低下のため成形が困難となる場合があり、また、難燃性向上には寄与するものの、強度低下のみならずブリードアウトや耐候性および耐寒性が悪化する傾向にあり、屋外の使用には不向きになる。
【0015】
本発明においては、必要に応じて、難燃可塑剤以外の可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤等の種々の添加剤を使用することができる。特に合成樹脂として塩化ビニル系樹脂を用いる場合は、難燃可塑剤以外の可塑剤(以下、単に「可塑剤」ともいい、「可塑剤」中に「難燃可塑剤」は含まない)を併用してもよい。可塑剤は塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1〜60重量部配合されることが好ましい。
【0016】
本発明の透明難燃性フィルムは、カレンダー成形法、押出成形法、インフレーション成形法等により成形される。透明難燃性フィルムの厚みは、0.05〜3.0mmであることが好ましい。0.05mm未満であるとフィルムの強度が低下する傾向にあり、3.0mmを超えると透明性が損なわれる傾向にある。
【0017】
本発明の透明難燃性フィルムの成形にあたっては、三酸化アンチモンをあらかじめ少量の樹脂や難燃可塑剤、可塑剤中に分散させておくこと(マスターバッチ化すること)が好ましい。本発明の三酸化アンチモンは小粒径であり、比較的使用量も少ないため、フィルム組成物中に均一分散しにくい傾向にあるが、あらかじめ少量の樹脂や難燃可塑剤、可塑剤中に分散させておくと、三酸化アンチモンはフィルム組成物中に均一に分散される。また、マスターバッチ化することにより、三酸化アンチモンの凝集を抑制することができるとともに、フィルム成形時における組成物の流れ性が向上するため、フローマークや三酸化アンチモンの凝集粒のない表面性状に優れたフィルムを得ることができる。
【0018】
本発明の透明難燃性フィルムは、片面または両面に印刷を施してもよい。例えば導電性塗料で印刷を施した場合、工場やサーバールーム等のクリーンルームでの使用に好適である。また、本発明の透明難燃性フィルムは、単独で使用しても他の部材と積層して使用してもよい。

【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0020】
<実施例1〜10、比較例1〜5>
表1に記載の配合からなる樹脂組成物を用い、175℃×10分間カレンダー機で混練り後厚さ0.2mmのフィルムを得た。
なお、三酸化アンチモン1〜3については、可塑剤中に分散させた後、樹脂組成物中に添加した。分散条件は、三酸化アンチモン30重量%、可塑剤70重量%である。三酸化アンチモン4については、粉体原料のまま添加した。
【0021】
各実施例および比較例の配合から得られたフィルムについて、以下の測定・評価を行なった。
【0022】
<難燃性>
JIS A 1322に準拠して測定(1分接炎、接炎後3秒)し、以下の基準で評価した
◎・・・炭化面積が15cm未満
○・・・炭化面積が15cm以上30cm未満
×・・・炭化面積が30cm以上
【0023】
<透明性>
JIS K 7105に準拠し、ヘイズメーターを用いて測定し、以下の基準で評価した。
○・・・30%未満
△・・・30%以上50%未満
×・・・50%以上
【0024】
<平滑性>
表面粗さ(Ra)を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・0.15μm未満
×・・・0.15μm以上
【0025】
<耐候性>
サンシャインウェザー(63℃200hr)後の黄変の有無を評価した。
○・・・黄変なし
△・・・若干の着色が見られる
×・・・黄変が見られる
【0026】
<ブリード性>
ポリスチレン板に、得られたフィルムを載せ、荷重3kg/20cm、試験条件60℃×24時間でフィルムの重量減少量を測定した
○・・・重量減少量が1g/m未満
△・・・重量減少量が1g/m以上2g/m未満
×・・・重量減少量が2g/m以上
【0027】
【表1】



【0028】
表中;
塩化ビニル系樹脂:重合度1050
ポリエチレン系樹脂:塩素化ポリエチレン
三酸化アンチモン1:平均粒子径(D50)=300nm
三酸化アンチモン2:平均粒子径(D50)=40nm
三酸化アンチモン3:平均粒子径(D50)=1800nm
三酸化アンチモン4:平均粒子径(D50)=300nm
難燃可塑剤:トリクレジルホスフェート
可塑剤1:DOP
可塑剤2:トリメリット酸エステル(DIC社製、モノサイザーW700)
熱安定剤:バリウム/亜鉛化合物(アデカ社製、アデカスタブKKL213)
・ 三酸化アンチモン1〜3については、三酸化アンチモン600g、可塑剤(DIC社製、モノサイザーW700)1400gをホモミキサー(プライミクス社製 T.K.HOMOMIXER MARK−2 Model2.5)を用い、回転数10,000rpm、混合時間60minにてプレ撹拌し、その後ビーズミル分散機(日本コークス社製 MSC−100ZZ)を用いて、粉砕と分散を行い、分散液化させた。ビーズミル分散条件としては、分散メディアに直径0.1mmのジルコニアビーズを用い、回転数1960rpm、流量1L/min.にて180min.循環させた。
・ 三酸化アンチモンの平均粒子径は粒度分布計(日機装株式会社製 Microtrac MT3300−2)を用い、測定した。
【0029】
実施例1〜10は、表1からわかるように難燃性、透明性および平滑性に優れたフィルムが得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂100重量部に対して、平均粒子径(D50)が20〜800nmである三酸化アンチモンを0.01〜5重量部含有してなる透明難燃性フィルム。
【請求項2】
合成樹脂100重量部に対して難燃可塑剤が1〜60重量部含有されていることを特徴とする請求項1に記載の透明難燃性フィルム。
【請求項3】
前記難燃可塑剤がリン酸エステル系難燃可塑剤であることを特徴とする請求項2に記載の透明難燃性フィルム。


【公開番号】特開2012−102303(P2012−102303A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254418(P2010−254418)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】