説明

透明電極パターン形成方法および有機電界発光素子並びにその製造方法

【課題】トップエミッション型有機電界発光素子作製において、配線抵抗の低抵抗化、高い可視光透過性を実現する透明電極成膜技術の確立が重要な課題となる。本発明は透明電極成膜において有機薄膜上に透明電極をスパッタリング法により直接成膜するのではなく、ITO簡易剥離法により形成した透明電極と有機薄膜を形成した支持基板とを貼り合せることで素子作製を行う方法を提供する。
【解決手段】ITO簡易剥離法及び本方法により作製した2枚の支持基板を貼り合せることで素子作製を行う方法であって、有機薄膜上に直接スパッタリング法により透明電極形成を行う必要がないことから、素子のスパッタダメージがフリーとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明電極パターン形成方法および有機電界発光素子並びにその製造方法に関する。該透明導電パターン膜の応用分野としては、有機電界発光素子をはじめ、光通信、半導体レーザー、各種ディスプレイ、記録メディア、民生用機器(デジタルカメラ、プロジェクター、携帯電話、レンズ、ミラー、ランプ等)などが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
上部光取り出し型及び両面光取り出し型の有機電界発光素子では、透明導電膜形成により金属薄膜からなる陰極の保護と配線抵抗の低抵抗化を図る。また、透明導電膜そのものを陰極とした場合、下地の発光層の保護や電子注入障壁低減を目的として、発光層と透明導電膜との間にバッファー層を挟持する。透明導電膜形成には従来から行われている蒸着法、並びに近年光通信関連で利用されているプラズマやイオンビームによるアシスト蒸着法やイオンプレーティング法、イオンビームスパッタ法などが主に使用されており、その他としてsol/gel法、スプレー法などの湿式法を用いる場合もある。
【0003】
一方、半導体やフラットパネルディスプレイ、電子部品などの薄膜製造工程における量産装置に使用されている方式としてスパッタリング法がある。スパッタリング法は成膜速度や膜組成などが安定しており、また大面積基板への均一な成膜が可能であるため、量産化に適した方式として広く利用されている。更に膜厚及び導電性・透明性の均一性が高く、微細エッチング特性にも優れることから、主流ともなっている。
【0004】
スパッタリング法の特徴としては、以下のことが挙げられる。一般的に基板に入射する粒子のエネルギーが50eV程度以上になると、粒子が基板内に入り込んだり、基板を構成する原子が叩き出されたり、あるいは基板に欠陥を発生させるなどにより、薄膜の不純物汚染やラフネスなどの問題を引き起こす。逆に蒸着法のように熱的なエネルギーのみで成膜する場合には入射粒子のエネルギーは0.1eVという低いオーダーであり、基板表面で十分なマイグレーション(泳動)ができなくなり、粒子付着による堆積膜は疎で基板−膜界面の接合強度は小さく、不安定なものになる。
【0005】
基板に堆積されるスパッタ粒子は同じ物理的蒸着手法である真空蒸着法に比べ、粒子エネルギーが極めて大きく(蒸着法では0.1eV程度であり、これに対しスパッタリング法では600eV程度)、有機薄膜上に成膜を行った場合、高エネルギー粒子である反跳Arプラズマ、γ電子、ターゲット粒子などの飛散・衝突により膜の分子構造破壊などを引き起こして、有機発光材料本来の発光ポテンシャルが低下する懸念がある。
【0006】
特に、スパッタプロセスには電極材料が絶縁材料の場合、RFマグネトロンスパッタを用いている。RFマグネトロンスパッタは、陰極(Target)にRF電圧をフローティング状態で印加すると正イオンのチャージアップが打ち消され、陰極表面には直流の自己バイアス電圧が発生し、この電圧によってイオンが加速され、スパッタすることが可能になる。
【0007】
RFマグネトロンスパッタは電流密度が高く、600eVもの高エネルギーでイオンが電子をたたくので、絶縁材料を高速でスパッタできる。また、低圧力のためスパッタされた粒子の平均自由行程も長く、陰極と対向配置の基板上にスパッタ粒子を捕集して薄膜を堆積させることができる。しかし、高エネルギープロセスのため、有機薄膜上への成膜の場合、低パワーによる長時間成膜を行わなければならず、更に下地の有機薄膜に反跳Arプラズマやγ電子、更には加速されたTarget粒子が衝突し、大きなダメージを与え
るという問題を有している。
【0008】
以下公知の文献を記す。
【特許文献1】特開2001−176670号公報
【特許文献2】特開2005−122910号公報
【特許文献3】特開2005−142079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機電界発光素子作製において、配線抵抗の低抵抗化、高い可視光透過性を実現する透明電極成膜技術の確立が重要な課題となる。本発明は有機電界発光素子および支持基板へのスパッタダメージがフリーとなる透明電極パターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、支持基板上に透明電極パターンを形成する方法において、仮支持基板上に透明電極パターン形成する工程と、樹脂平板からなる支持基板上に紫外線硬化型接着剤を塗布する工程と、前記仮支持基板上にある透明電極パターンと前記支持基板上にある紫外線硬化型接着剤とを圧着させる工程と、前記支持基板側もしくは仮支持基板側から紫外線を照射する工程と、前記仮支持基板を剥離する工程を含むことを特徴とする透明電極パターン形成方法としたものである。
【0011】
本発明の請求項2の発明は、前記透明電極形成材料がITOもしくはIZOであり、仮支持基板上に透明電極形成材料をスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング温度が50〜300℃であることを特徴とする請求項1記載の透明電極パターン形成方法としたものである。
【0012】
本発明の請求項3の発明は、前記透明電極形成材料がITOもしくはIZOであり、仮支持基板上に透明電極形成材料をスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング時の放電パワーが300〜1000Wであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透明電極パターン形成方法としたものである。
【0013】
本発明の請求項4の発明は、前記透明電極形成材料がITOもしくはIZOであり、仮支持基板上に透明電極形成材料をスパッタリング法で成膜する際の、スパッタチャンバー内のプロセスガスがAr/O2であり、該プロセスガスの流量比が100:1〜200:1であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明電極パターン形成方法としたものである。
【0014】
本発明の請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の透明電極パターン形成方法により形成された樹脂平板からなる支持基板上の透明電極パターン上に、少なくとも有機発光層を配し、該有機発光層上部に電極を有し、該電極層上部に封止基板を有していることを特徴とするフレキシブル有機電界発光素子としたものである。
【0015】
本発明の請求項6の発明は、前記樹脂平板が透明電極パターン形成面に酸化シリコン膜、窒化シリコン膜もしくは酸窒化シリコン膜からなるパッシベーション膜を有し、該パッシベーション膜上に透明電極パターンが形成されていることを特徴とする請求項5記載のフレキシブル有機電界発光素子としたものである。
【0016】
本発明の請求項7の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の透明電極形成法により形成された樹脂平板からなる2つの支持基板上の透明電極パターンが対向し、該対向した透明電極間に少なくとも有機発光層を有することを特徴とする透明フレキシブル有機電界発光素子としたものである。
【0017】
本発明の請求項8の発明は、請求項7記載の透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法であって、一方の支持基板上の透明電極パターン上部に有機発光層を形成し、該透明電極上に少なくとも有機発光層が形成された支持基板と、もう一方の透明電極パターンを有する支持基板を熱圧着により貼り合せたことを特徴とする透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法としたものである。
【0018】
本発明の請求項9の発明は、請求項5乃至7いずれかに記載のフレキシブル有機電界発光素子または透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機発光層形成材料を溶媒に溶解又は分散させ有機発光インキとし、該有機発光インキを用いてオフセット印刷法により有機発光層をパターン形成したことを特徴とするフレキシブル有機電界発光素子の製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の透明電極パターン形成方法および有機電界発光素子並びにその製造方法は上記のような構成であるから、(1)スパッタリングによる樹脂平板からなる支持基板の損傷を回避でき、(2)ITO膜上に形成する有機物の面が平滑である、透明電極パターン形成方法および有機電界発光素子並びにその製造方法とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に透明電極パターンの形成方法について示す。
【0021】
本発明に用いられる透明電極形成材料としてはインジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等が挙げられる。
【0022】
ITOはIndium tin oxideと呼ばれているが、その母結晶はIn23である。Snを酸化物換算で5〜10wt%添加した組成のITO(In23:Sn)は絶縁体のように透明でありながら、導電性が高く(103S/cm)、吸収も少ない。透明性と導電性は互いに関係があるが、1対1の対応があるわけではない。透明性はIn23結晶の構造的な完全性が高く、バンドギャップ内の電子捕獲準位が非常に少ないということであるが、それは結晶内の原子が結晶系の座標点(格子点位置)に正しく、過不足なく位置しているか否かで決まることである。In23試薬は黄白色であり、酸素をわずかに含む(分圧で10-1Pa以下)雰囲気中で蒸着またはスパッタ成膜すれば透明導電膜を得る。しかし、化合物としては酸素を手放しやすく、真空中加熱や数%の水素を含むような還元雰囲気中での加熱によって容易に還元され、還元が進めば青黒から黒、更に茶褐色にまで変色していく。導電性は母結晶のIn原子やSn原子で置換してやるか、酸素原子を必要十分に与えない条件の下で成膜することで発現する。
【0023】
ITOの透明性の物理的意味は半導体としてのバンドギャップが可視域の短波長限界400nm付近にあることに帰せられる。しかし、これだけでは不十分で、高い透明性を確保するにはバンドギャップ内に常温で電子が常駐するような準位が少ないか無視できるということである。このようなバンドギャップ内準位は酸素空孔や、In位置に置換したSn原子以外のIn、Sn原子または原子集団(クラスター)による格子欠陥に由来するものであり、母結晶自体が良質の結晶格子を形成しやすいものでなくてはならない。酸化性が極度に弱い雰囲気で成膜しない限り、In23はこの要件を満たす。実際、In23
ガラス基板温度を300℃程度にしておけば、酸素がやや不足した雰囲気条件であっても、厚さ数十nmの段階から半値幅の狭い良く整ったX線回折パターンを示す。この結晶化しやすい特徴はSnを添加していっても、数十%程度までは失われない。SnO2膜やZnO膜とは大きく異なる特徴である。
【0024】
本発明における仮支持基板としては、表面平滑性に優れている必要があり、金属、ガラス、テフロン(登録商標)、雲母などを用いることができる。金属、ガラス、雲母はへき開面性を有し平滑性に優れる。また、テフロン(登録商標)は、仮支持基板上に形成された透明電極パターンを支持基板上に転写する際のはく理性に優れるという特長を持つ。
【0025】
本発明における支持基板に用いられる可とう性を有する樹脂平板に求められる性能は、(1)光学的に異方性がなく、等方であること、(2)着色がなく、可視光領域(320〜720nm)において透明性が高いこと、(3)表面の平坦性が良いこと、(4)パネル加工工程での熱負荷に耐えられる耐熱性が良いこと、(5)可とう性が高いこと(ハンドリング可能)、(6)UVカット処理(400nm付近の光学波長を吸収する着色剤が含有)がなされていないことが挙げられる。これら要求性能を満たす樹脂平板材料として、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、環状非晶質オレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂や多官能アクリレート、多官能ポリオレフィン、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂があり、これらを好適に用いることができる。代表的な樹脂平板の物性をまとめたものを表1に示す。
【0026】
本発明に用いられる樹脂平板の物性比較
【0027】
【表1】

本発明におけるUV硬化型接着剤は、その設計材料と反応機構から代表的には、アクリル系ラジカル硬化型とエポキシ系カチオン硬化型に分類され、有機EL素子作製用としては、密着性が極めて強固な点からエポキシ系カチオン硬化型が用いられる。UV硬化型接着剤に求められる性能は、(1)シールの脱泡性、シール形状の保持が良好であること、(2)低温硬化性(デバイスの耐熱性で100℃以下)、速硬化性が良好であること、(3)ギャップ精度が良好であること、(4)接着剤成分が全て反応し(低アウトガス性→硬化工程で発生しないこと、樹脂中の水分、光重合開始剤の切片、樹脂成分中の不純物などが主要因)、剥離接着性(トレードオフ)が良好であること、(5)低透湿性が優れること、(6)低収縮性が優れること(歪の小さい硬化収縮による密着性の保持)、(7)樹脂基板との密着性が良好なこと、などが挙げられる。本発明に用いられるUV硬化型接着剤の物性をまとめたものを表2に示す。
【0028】
本発明に用いられるUV硬化型接着剤の物性比較
【0029】
【表2】

本発明に係る透明電極パターン形成方法について図を用いて説明する。図1は、本発明の透明電極パターン形成方法の例を、模式的に示した説明図である。図1に示すように透明電極材料をスパッタリング法により、仮支持基板6上でマスキングしてパターン5形成し、底部支持基板2とする(図1(a))。また、仮支持基板一面にマスキングを使用せずに透明電極材料を形成したあと、フォトリソ法により、透明電極パターンを形成することも可能である。マスキングにより透明電極パターンを形成した場合、フォトリソ法と比較して、レジスト材料を用いる必要がないため透明電極表面のレジスト汚染がないという利点、また、現像液を用いる必要がないという利点を有する。
【0030】
次に、UV硬化型接着剤4を塗布法により支持基板3上に形成し、上部支持基板1とする(図1(b))。次ぎに、透明電極パターン5を有する仮支持基板(底部支持基板2)
とUV硬化接着剤4を有する支持基板3(上部支持基板1)を圧着7させ、これにハロゲン化物や水銀を光源とするUVランプにより紫外線8を照射することで、接着剤4を硬化させる(図1(c))。その後、仮支持基板6のみ剥離し、上部支持基板1に電極パターンを形成する(図1(d))。図2は、上部支持基板と底部支持基板を貼り合わせてから、剥離9する方法を模式的に示した説明図である。前記のように、上部、底部支持基板を貼り合わせ(図2(a))てから、仮支持基板6を剥離するとき、図2(b)に示すように比較的底部の曲率半径(R≧2inch)の大きな押し当て治具10で上部支持基板1を押えることにより、仮支持基板6のみを効率的に剥離することが可能となる。
【0031】
本発明において、スパッタリング時の基板温度を50〜300℃とすることで、膜のシート抵抗を制御することが可能となる。基板温度が50℃に満たない場合、結晶粒径が大きくなってしまいシート抵抗値が上昇してしまう。また、基板温度が300℃を超える場合においても、シート抵抗値が上昇してしまう。基板温度をコントロールする方法としては、スパッタチャンバー内の基板クランプユニットにヒーター材を設置し、シーケンサー等で昇降温をコントロールすることにより、スパッタリング時の基板温度を50〜300℃の範囲で制御することできる。
【0032】
本発明におけるスパッタリング時の放電パワーを300〜1000Wとすることで仮支持基板と膜の密着性を制御することが可能となる。上記範囲を満たすことにより、仮支持基板と透明電極の間で所望の密着強度とすることができる。プロセスガス(Ar、O2)をグロー放電によりプラズマ化させる際の放電パワーをコントロールすることにより、スパッタ粒子の運動エネルギーを制御して、かつ基板に入射するスパッタ粒子のマイグレーション(泳動)現象をコントロールしながら、仮支持基板と膜の密着性を制御することができる。
【0033】
本発明におけるスパッタチャンバー内のプロセスガス(Ar、O2)流量比は、100:1〜200:1であることが好ましい。プロセスガスの流量比を制御することで、膜のシート抵抗及び光線透過率を制御することが可能となる。すなわち、プロセスガスであるO2流量を最適化させることで、In23結晶内の座標点(格子点位置)に置換もしくは侵入するO原子数をコントロールすることが可能となり、膜の透明性及び導電性を制御でき、所望の膜のシート抵抗及び光線透過率を得ることができる。
【0034】
次の本発明のフレキシブル有機電界発光素子およびその製造方法について示す。
【0035】
本発明の有機電界発光素子の構造の例を説明する。図3は、本発明の有機電界発光素子の一実施例の側断面図であり、(a)は、フレキシブル有機電界発光素子で、(b)は、透明フレキシブル有機電界発光素子である。
【0036】
図3(a)で、本発明の透明電極パターン12が形成された支持基板11上に、有機発光層を含む有機薄膜50と、電子注入性保護層13と、金属電極14をこの順に成膜した有機電界発光素子基板とする。次いで、有機電界発光素子基板を可撓性を有する封止基板31で封止した層構成としてフレキシブル有機電界発光素子40とする。なお、電子注入性保護層13は適宜選択される。
【0037】
図3(b)は、一例の透明フレキシブル有機電界発光素子30である。透明フレキシブル有機電界発光素子30は本発明の透明電極パターン12が形成された支持基板11上に、有機発光層を含む有機薄膜50と、電子注入性保護層13を形成し、他の本発明の透明電極パターン12bが形成された支持基板11bを貼り合わせた構造を有している。透明有機電界発光素子は、支持基板が透明性を有することにより支持基板両面から光を取り出すことができる利点がある。なお、電子注入性保護層13は適宜選択される。
【0038】
前記有機発光層を含む有機薄膜50は、正孔注入膜20/正孔輸送膜21/有機発光層22/電子輸送膜23/電子注入膜24の順の層構成され、正孔注入膜側は陽極であり、電子注入膜側は陰極となる構成であり、正孔注入膜、正孔輸送膜、電子輸送膜、電子注入膜は、必要に応じて適宜に選択し形成する。
【0039】
本発明の有機電界発光素子の製造方法について説明する。なお、説明にあたり各膜厚や層構成の具体例を示したが、本発明をなんら制限するものではない。
【0040】
図3(a)におけるフレキシブル有機電界発光素子の製造方法は、本発明の透明電極パターンが形成された支持基板上に、正孔輸送膜への正孔注入効率を高めるため、仕事関数の高いAuやCrなどの金属材料を蒸着(100〜150nm)し、その上に有機薄膜の正孔輸送膜、有機発光層、保護膜の順に蒸着、またはスピンコート成膜(計100〜200nm)する。更に、これら有機発光膜を含む有機薄膜上に仕事関数の小さいMg−Ag(共蒸着)やAlなどの金属材料を蒸着(100〜150nm)し金属電極とし、最後に、可撓性を有する封止基板により封止をおこなうことにより、フレキシブル有機電界発光素子を得ることができる。また、封止基板としては、支持基板に用いられた樹脂平板を好適に用いることができる。
【0041】
また、図3(a)の有機電界発光素子の製造方法において、透明電極パターンが形成された支持基板上に正孔輸送膜と有機発光層を設け、金属電極を形成した封止基板と貼り合せる方法を用いることもできる。
【0042】
図3(a)に示された有機電界発光素子において、透明電極パターン表面の凹凸は光拡散面として利用することができ、光取り出し効率向上を見込むことができる。
【0043】
いずれの方法においても、有機薄膜表面へのスパッタリングする必要がない。
【0044】
図3(b)における透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法は、本発明の透明電極パターンが形成された支持基板上に、正孔輸送膜への正孔注入効率を高めるため、仕事関数の高いAuやCrなどの金属材料を蒸着(100〜150nm)し、その上に有機薄膜の正孔輸送膜、有機発光膜、保護膜の順に蒸着、またはスピンコート成膜(計100〜200nm)する。
【0045】
また、もう一方の透明電極パターンが形成された支持基板上に仕事関数の小さいMg−Ag(共蒸着)やAlなどの金属材料を蒸着(5〜10nm)する。これら2つの基板を貼り合せることにより、透明フレキシブル有機電界発光素子となる。
【0046】
透明フレキシブル有機電界発光素子を製造する際の、透明電極パターンの形成された2枚の支持基板を貼り合せる方法としては、公知のラミネーターを用いることにより、熱圧着で2枚の支持基板を貼りあわせることが可能となる。また、有機発光層を含む有機薄膜をスピンコート法で成膜する場合には、本発明の透明フレキシブル有機電界発光素子はラミネーター、スピンコーターのみで素子作製を行うことが可能となる。
【0047】
前記各々に用いる有機薄膜材料としては、正孔輸送膜ではN,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(3−メチルフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)などが挙げられる。
【0048】
前記有機発光層では、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)に代表されるキノリノール錯体やπ共役系高分子であるポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレン(PF)などが挙げられる。
【0049】
前記保護膜では、中心金属がアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属からなるアセチルアセトナト錯体、バソクプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bphen)及びこれら誘導体などが挙げられる。
【0050】
次いで、有機電界発光素子の支持基材上へパターン形状の発光媒体層(インキ)の形成方法について説明する。発光媒体層を設ける方法としては、凸版反転オフセット印刷法があり、メカニズムはダイノズル等の供給ユニットからインキを供給しシリコン樹脂製ブランケット(胴)の全面にインキを塗布、パターン形成されたネガ型凸版の凸部へブランケット(胴)からインキを転写する。即ち、ネガ型凸版に余分なインキを転写し、必要な部分のインキをそのままブランケット(胴)に残す方法である。最後にパターン形成されたインキをブランケット(胴)からガラス基板へ転写し、乾燥(焼成)する。
【0051】
他の発光媒体層(インキ)のパターン形成は、オフセット印刷法により、R(赤)色、G(緑)色、B(青)の有機発光媒体の各色インキを用い、基板に支持された金属電極の上方にRパターン形状、Gパターン形状、Bパターン形状に各色インキを塗り分けて形成した後、乾燥(焼成)する。
【0052】
また、本発明のフレキシブル有機電界発光素子、透明フレキシブル有機電界発光素子においては、支持基板上に透明電極パターンを形成する前に酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜からなるパッシベーション膜を形成しても良い。パッシベーション膜を形成することにより、有機電界発光層素子内部への外部からの水分の侵入を防ぐことができ、有機電界発光層の寿命を向上させることができる。また、フレキシブル有機電界発光素子(図3(a))における、封止基板についても、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜からなるパッシベーション膜を形成しても良い。
【0053】
パッシベーション膜はCVD法により形成することが可能となる。CVD法は膜にしたい元素を含む気化させた化合物(ソースガス)をそのまま、あるいは水素・窒素などのキャリアガスと混ぜ、高温加熱した基板表面にできるだけ均一になるように送り込み、基板表面で分解、還元、酸化、置換などの化学反応を起こさせ、基板上に薄膜を作る方法である。ソースガスとしてはハロゲン化物、有機化合物などが用いられる。これらの反応は次の段階を経て起きると考えられる。基板表面への反応ガスの拡散→反応ガスの基板表面への吸着→基板表面での化学反応→副生成ガスの表面からの離脱・拡散退去(排気)。
【0054】
基板上で起きる分解、還元、酸化、置換の各反応を、酸化シリコンを例として次に示す。
(1)SiH4→700〜1000℃→Si+2H2…Si薄膜のための熱分解
(2)SiCl4+2H2→〜1200℃→Si+4HCl…Si薄膜のための還元
(3)SiH4+O2→〜400℃→SiO2+2H2…SiO2薄膜のための酸化
CVD法により形成されたパッシベーション膜は、高温反応ゆえに良質、表面反応ゆえにカバーレッジ(被覆性)が良いなどの特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の透明電極パターン形成方法の例を、模式的に示した説明図である。
【図2】図1の上部支持基板と底部支持基板を貼り合わせてから、剥離する方法を模式的に示した説明図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の一実施例の側断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・・上部支持基板
2・・・・底部支持基板
3・・・・支持基板
4・・・・UV硬化型接着剤
5・・・・透明電極パターン
6・・・・仮支持基板
7・・・・圧着
8・・・・紫外線
9・・・・剥離
10・・・押し当て治具
11・・・支持基板
11b・・支持基板
12・・・透明電極パターン
12b・・透明電極パターン
13・・・電子注入性保護層
14・・・金属電極
20・・・正孔注入膜
21・・・正孔輸送膜
22・・・有機発光層
23・・・電子輸送膜
24・・・電子注入膜
31・・・封止基板
40・・・有機電界発光素子
50・・・有機発光層を含む有機薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に透明電極パターンを形成する方法において、
仮支持基板上に透明電極パターン形成する工程と、
樹脂平板からなる支持基板上に紫外線硬化型接着剤を塗布する工程と、
前記仮支持基板上にある透明電極パターンと前記支持基板上にある紫外線硬化型接着剤とを圧着させる工程と、
前記支持基板側もしくは仮支持基板側から紫外線を照射する工程と、
前記仮支持基板を剥離する工程を含むことを特徴とする透明電極パターン形成方法。
【請求項2】
前記透明電極形成材料がITOもしくはIZOであり、仮支持基板上に透明電極形成材料をスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング温度が50〜300℃であることを特徴とする請求項1記載の透明電極パターン形成方法。
【請求項3】
前記透明電極形成材料がITOもしくはIZOであり、仮支持基板上に透明電極形成材料をスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング時の放電パワーが300〜1000Wであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透明電極パターン形成方法。
【請求項4】
前記透明電極形成材料がITOもしくはIZOであり、仮支持基板上に透明電極形成材料をスパッタリング法で成膜する際の、スパッタチャンバー内のプロセスガスがAr/O2であり、該プロセスガスの流量比が100:1〜200:1であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明電極パターン形成方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の透明電極パターン形成方法により形成された樹脂平板からなる支持基板上の透明電極パターン上に、少なくとも有機発光層を配し、該有機発光層上部に電極を有し、該電極層上部に封止基板を有していることを特徴とするフレキシブル有機電界発光素子。
【請求項6】
前記樹脂平板が透明電極パターン形成面に酸化シリコン膜、窒化シリコン膜もしくは酸窒化シリコン膜からなるパッシベーション膜を有し、該パッシベーション膜上に透明電極パターンが形成されていることを特徴とする請求項5記載のフレキシブル有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の透明電極形成法により形成された樹脂平板からなる2つの支持基板上の透明電極パターンが対向し、該対向した透明電極間に少なくとも有機発光層を有することを特徴とする透明フレキシブル有機電界発光素子。
【請求項8】
請求項7記載の透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法であって、一方の支持基板上の透明電極パターン上部に有機発光層を形成し、該透明電極上に少なくとも有機発光層が形成された支持基板と、もう一方の透明電極パターンを有する支持基板を熱圧着により貼り合せたことを特徴とする透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法。
【請求項9】
請求項5乃至7いずれかに記載のフレキシブル有機電界発光素子または透明フレキシブル有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機発光層形成材料を溶媒に溶解又は分散させ有機発光インキとし、該有機発光インキを用いてオフセット印刷法により有機発光層をパターン形成したことを特徴とするフレキシブル有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−227057(P2007−227057A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44949(P2006−44949)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】