説明

透明電極構造体およびそれを用いたタッチパネル

【課題】十分な導電性を得ることができ、透明性および柔軟性に優れ、量産に適し、かつ、低コスト化が可能な、ポリチオフェン系導電性高分子の透明電極用の透明導電膜、それを含む透明電極、その透明電極が設けられた透明電極構造体、およびその透明電極構造体を含むタッチパネルを提供する。
【解決手段】透明基材上に透明電極が設けられた、電気的接続構造に用いられる透明電極構造体であって、該透明電極は少なくとも一層の透明導電膜を含み、該透明導電膜はポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、高極性化合物、イオン性液体または電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有するポリチオフェン系導電性高分子膜であり、該ポリチオフェン系導電性高分子膜は膜厚方向の導電性を有することを特徴とする透明電極構造体、およびその透明電極構造体を含むタッチパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗膜方式タッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、キーボードやマウスを使うことなく、直感的で優れた入力インターフェイスを実現するものである。近年、携帯電話やPDA、ペン入力PCなどの携帯情報端末の普及に伴い、これらの装置にダイレクトに情報を入力できるタッチパネルの需要が高まっている。
【0003】
タッチパネルの種類としては、位置検出方式の違いから、抵抗膜方式、静電容量方式、赤外線方式、超音波方式、電磁誘導方式、静電結合方式等があるが、現在、PDAやペン入力PCのタッチパネルには、主に抵抗膜方式が用いられている。
【0004】
[従来の抵抗膜方式タッチパネル]
抵抗膜方式タッチパネルの透明電極を構成する透明導電膜の材料としては、ITO(インジウムスズ酸化物、InとSnOの混合焼結体)が主に採用されてきた。
【0005】
[ITO透明導電膜]
ところが、ITOには、次に述べるような問題点がある。
第一の問題点は、ITO透明導電膜(以下、単に「ITO膜」という。)そのものの機械的特性によるものである。ITO膜は、もろいセラミックスの薄膜であり、PETフィルムその他の可とう性樹脂フィルムに比べると柔軟性が劣る。そのため、ITO膜を可とう性樹脂フィルム上に成膜した透明導電性フィルムは、ITO膜にクラックや傷が発生しやすく、曲げられた状態での保管もしくは流通、または透明電極板製造プロセスにおける連続加工もしくは打ち抜き加工によって、ITO膜の劣化が生じる場合があった。また、タッチパネルの入力動作の繰り返しによって、ITO膜に微小な割れが生じ、特性が劣化するという問題があった。
【0006】
第二の問題点は、ITO膜の成膜にはスパッタリング法その他ドライプロセスを使用するために低コスト化が困難であるということである。これに対しては、現在、ウェットプロセスの開発が進められている。
【0007】
第三の問題点は、ITO膜の原料であるインジウム資源の枯渇である。需要増大と相まって、インジウムの取引価格上昇を招いている。この問題に対しては、現在、インジウムの回収・再資源化や、酸化亜鉛系等のインジウムを使用しない材料を使用した透明導電膜の開発が進められている。
【0008】
第四の問題点は、インジウム化合物の毒性である。従来、インジウム化合物は無毒性であると考えられてきたが、近年、ITO焼結体の粉じんやインジウム化合物に起因すると考えられる健康障害が発生している。
【0009】
ITOには、以上のような問題点があることから、将来的な需要増大、低コスト化の要求に対応できないおそれがある。これらの諸問題を解決すべく、代替材料、代替プロセス等の開発が活発化してきている。その中で、性能、量産性、コスト等を総合的に考えて、抵抗膜方式タッチパネル用の透明導電膜材料としては、ポリチオフェン系導電性高分子が性能、量産性、コスト等の点から検討されている。
【0010】
[ポリチオフェン系導電性高分子]
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下「PEDOT」ともいう。)に代表されるポリチオフェン系導電性高分子は、優れた導電性を有する高分子として知られている。導電性高分子は、金属導電体にない柔軟性および透明性を活かして、透明導電膜に成膜され、主に液晶、タッチパネル等の表示デバイス用透明配線部材や電磁遮蔽膜としての応用が検討されている。特に、透明導電膜表面から導通をとる用途においては、導電性高分子の柔軟性および透明性を活かせると考えられている。
【0011】
しかし、ポリチオフェン系導電性高分子膜の導電性の改良は、従来、導電性高分子を使用して構成される透明導電膜の水平方向の導電性に照準を合わせて行われてきたので、透明導電膜の膜厚方向の導電性の改良については顧みられることがなかった(例えば、特許文献1〜3)。そのため、透明導電膜の膜厚方向の導電性が極めて悪く、応用範囲が限定されている。
【0012】
なお、ポリチオフェン系導電性高分子は、水、溶剤等への可溶性付与の目的で、およびドーパントとして、ポリスチレンスルホン酸(以下「PSS」ともいう。)のような高分子電解質を大量に添加して使用している。例えば、市販品の、PEDOTとPSSとを含有する、PEDOT/PSS水分散液であるCLEVIOS P(H.C.スタルク社)は、PEDOT/PSS質量比=1/2.5で含有し、PEDOTがカチオン、PSSがアニオンとなっている。
【0013】
特許文献1には、PEDOT/PSS水分散液に過塩素酸リチウム(LiClO)等の電解質塩を配合した導電性高分子組成物から成膜した、水平方向の導電性が改良された透明導電膜およびそれを用いたFFC(フレキシブルフラットケーブル)、FPC(フレキシブルプリント基板)等のフレキシブル部材が記載されている。しかし、膜厚方向の導電性についての記載はまったくない。
【0014】
特許文献2には、PEDOT/PSS水分散液に炭酸エステル等の高極性化合物を配合した導電性高分子組成物から成膜した、水平方向の導電性が改良され透明導電膜およびそれを用いたFFC(フレキシブルフラットケーブル)、FPC(フレキシブルプリント基板)等のフレキシブル部材が記載されている。しかし、膜厚方向の導電性についての記載はまったくない。
【0015】
特許文献3には、PEDOT/PSS水分散液にテトラフルオロホウ酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムを配合することによって導電率が顕著に大きくなった導電性高分子組成物(混合物)、その組成物を含む部品、およびその部品の製造方法が記載されている。ポリチオフェン系導電性高分子膜(コーティング)の表面抵抗率(単位:Ω/□)が顕著に低下することが記載されている。しかし、膜厚方向の導電性についての記載はまったくない。
【0016】
ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性の悪さは、その成膜時に、重力偏析により、ポリチオフェン系導電性高分子を実質上含有しない表面層(「上層」または「PSS層」ともいう。)とそれを含有する内部層(「下層」または「PEDOT層」ともいう。)との二層が形成され、表面層が極めて体積抵抗率が大きな高抵抗層または絶縁層となっていることによるものであると考えられている。
【0017】
すなわち、ポリチオフェン系導電性高分子の一次粒子よりも、PSSの方が小さいため、ポリチオフェン系導電性高分子膜を成膜したときに、大きなポリチオフェン系導電性高分子が膜の下部に沈殿し、表面層にはポリチオフェン系導電性高分子が実質上存在しないPSSリッチな状態となる。PSSの導電性は極めて低いため、表面層は高抵抗層または絶縁層となる。その結果として、透明導電膜の膜厚方向の導電性が極めて悪くなってしまう(非特許文献1)。
【0018】
そのような事情のため、ポリチオフェン系導電性高分子膜を抵抗膜方式タッチパネルの透明電極としてそのまま適用することができなかった。
【0019】
図5〜7を参照しながら説明する。
マトリクス型抵抗膜方式タッチパネル101は、上部透明樹脂フィルム102、その上に形成された上部透明電極103、下部透明ガラス基板105およびその上に形成された下部透明電極104が、上部透明電極103と下部透明電極104とが所定の間隔(1mm以下、通常、5〜100μm程度。)を保ちながら対向し、かつ、上部透明電極103と下部透明電極104とでグリッドを形成するように配置されている(図5)。タッチパネル上面、すなわち、上部透明樹脂フィルム102の上面を押圧すると、上部透明電極103と下部透明電極104とが接触し、電気的に導通することによって電流が流れ、タッチパネル上の押圧位置が特定される。
【0020】
しかし、透明電極として、ポリチオフェン系導電性高分子膜を採用すると、上述したように、成膜時に、ポリチオフェン系導電性高分子リッチなポリチオフェン層123(126)と、PSSリッチなPSS層124(125)とが形成され、図6に示すタッチパネルを押圧し、図7に示すように上部電極と下部電極とが接触しても、PSS層124(125)がバリアとなってしまうため、上部電極と下部電極との間に電気的導通が得られず、ポリチオフェン系導電性高分子膜を抵抗膜方式タッチパネルの透明電極として採用することができなかった。
【0021】
上記したように、従来のポリチオフェン系導電性高分子膜の表面層は膜厚方向の電気伝導率が極めて小さい高抵抗層または絶縁層である。しかし、PSSリッチな低導電性の表面層が存在しても、それを貫通してポリチオフェン系導電性高分子リッチな高導電性の内部層にまで達する導体をポリチオフェン系導電性高分子膜に分散させれば、膜厚方向の高い導電性を得ることができる。
【0022】
例えば、特許文献4には、PEDOT/PSS水分散液にカーボンナノチューブ(以下「CNT」という。)を配合した導電性高分子組成物から成膜した透明導電膜、それを有する透明導電性フィルムおよびそれを使用したタッチパネルが記載されている。しかし、CNTの分散制御・固定には濃度、塗布法の厳密な制御が必要であり、量産に向かず、低コスト化が困難であると考えられる。また、導電性を高めようとCNT含有量を増加すると、透明電極の透明性に悪影響を与え、タッチパネルの光透過性を悪化させるおそれがある。さらに、CNTにはアスベストと同様の健康障害の発生のおそれが指摘されている。
【0023】
また、高抵抗の表面層を貫通する導体を分散させるのではなく、表面層の一部を物理的に破壊することによって膜厚方向の導電性を得る方法も提案されている。
【0024】
例えば、特許文献5には、PEDOT/PSS水分散液にモンモリロナイト等の粘度系鉱物(無機フィラー)を配合したポリチオフェン系導電性高分子組成物から成膜した透明導電膜およびそれを有する座標入力装置(タッチパネル)が記載されている。透明導電膜表面に凹凸を設けることにより、高抵抗のPSS層を突破しようというものである。しかし、接触面積の低下により接点抵抗の改善には限界がある。
【0025】
上述のように、特許文献4および5には、ポリチオフェン系導電性高分子膜の高抵抗の表面層を突破することによって、透明導電膜の膜厚方向の導電性を得ることが記載されている。
【0026】
これに対して、表面層の膜厚方向の導電性を向上させることによって、透明導電膜の膜厚方向の導電性を得ることも検討されている。例えば、PEDOT/PSS水分散液に導電粒子(導電性フィラー)を配合し、ポリチオフェン系導電性高分子膜を成膜することが考えられる。しかし、導電粒子表面にPSSリッチな高抵抗層が形成されてしまうため、十分な導電性を得ることができない。また、例えば、ポリチオフェン系導電性高分子膜の表面に、金属等の導電性膜をさらに形成する方法も考えられる。しかし、ポリチオフェン系導電性高分子膜の柔軟性および透明性を著しく損なうため、本末転倒である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2007−96016号公報
【特許文献2】特開2007−131682号公報
【特許文献3】特表2008−535964号公報
【特許文献4】特開2008−50391号公報
【特許文献5】特開2008−233993号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Timpanaro, S.、ほか4名,「Morphology and conductivity of PEDOT/PSS films studied by scanning-tunneling microscopy」Chemical Physics Letters,2004年,第394巻,339-43頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
そこで、本発明は、十分な導電性を得ることができ、透明性および柔軟性に優れ、量産に適し、かつ、低コスト化が可能な、ポリチオフェン系導電性高分子の透明電極用の透明導電膜、それを含む透明電極、その透明電極が設けられたタッチパネル用透明電極構造体、およびそのタッチパネル用透明電極構造体を含むタッチパネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれる少なくとも1種類を表面層に含有して用いると、表面層そのものの導電性を向上させることができ、ポリチオフェン系導電性高分子の透明導電膜の膜厚方向の導電性を改良できることを知得した。
【0031】
すなわち、以下に掲げる発明が提供される。
〔1〕透明基材上に透明電極が設けられた、電気的接続構造に用いられる透明電極構造体であって、
該透明電極は少なくとも一層の透明導電膜を含み、
該透明導電膜は
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、
高分子電解質(b)と、
高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)と
を含有するポリチオフェン系導電性高分子膜であり、
該ポリチオフェン系導電性高分子膜は膜厚方向の導電性を有することを特徴とする、電気的接続構造に用いられる透明電極構造体。
〔2〕透明基材と該透明基材上に設けられた透明電極とを有する第一の透明電極構造体と、透明基材と該透明基材上に設けられた透明電極とを有する第二の透明電極構造体とを、スペーサを介して、透明電極どうしが対向するよう配置してなり、第一の透明電極構造体の透明電極と第二の透明電極構造体の透明電極とを接触することによって両透明電極の電気的な接続を得ることができる抵抗膜方式タッチパネルにおいて、
第一の透明電極構造体が上記〔1〕に記載の透明電極構造体である抵抗膜方式タッチパネル。
〔3〕さらに、第二の透明電極構造体が上記〔1〕に記載の透明電極構造体である、上記〔2〕に記載の抵抗膜方式タッチパネル。
〔4〕透明基材の上にポリチオフェン系導電性高分子組成物を塗布する塗布工程と、
該ポリチオフェン系導電性高分子組成物からポリチオフェン系導電性高分子膜を膜厚方向の重力偏析を許しながら成膜する成膜工程と
をこの順に具備する透明電極構造体の製造方法であって、
該ポリチオフェン系導電性高分子組成物が
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、
高分子電解質(b)と、
高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)と
を含有するポリチオフェン系導電性高分子組成物である、透明電極構造体の製造方法。
〔5〕透明基材の上にポリチオフェン系導電性高分子(a)と高分子電解質(b)とを含有するポリチオフェン系導電性高分子組成物を塗布する塗布工程と、
該ポリチオフェン系導電性高分子組成物からポリチオフェン系導電性高分子膜を膜厚方向の重力偏析を許しながら成膜する成膜工程と、
該ポリチオフェン系導電性高分子膜に高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)をドープするドーピング工程と
をこの順に具備する透明電極構造体の製造方法。
〔6〕ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有する透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物であって、
該ポリチオフェン系導電性高分子(a)100質量部に対して、該高分子電解質(b)50質量部以上と、該ドーパント(c)として高極性化合物1.25質量部以上、イオン性液体6.8×10質量部以上または過塩素酸リチウム1.2×10質量部以上、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミド5.5×10質量部以上もしくはリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルフォン)イミド2.7質量部以上とを含有する、透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物。
〔7〕ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有する透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物であって、
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有する透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物であって、
該ポリチオフェン系導電性高分子(a)と該高分子電解質(b)とを、ポリチオフェン系導電性高分子(a)/高分子電解質(b)≦2の質量比で、合わせて1.2〜1.4質量%含有する水分散液に、該ドーパント(c)として、該組成物中に、高極性化合物0.01質量%以上、イオン性液体20質量%超または過塩素酸リチウム30質量%超、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミド2質量%超もしくはリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルフォン)イミド0.01質量%以上を含有するように添加して得られる、透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物。
〔8〕上記〔6〕または〔7〕に記載の透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物を用いて得られる、抵抗膜方式タッチパネル用の抵抗膜。
〔9〕上記〔6〕または〔7〕に記載の透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物を用いて得られる、抵抗膜方式タッチパネル用の透明電極。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、十分な導電性を得ることができ、透明性および柔軟性に優れ、量産に適し、かつ、低コスト化が可能な、ポリチオフェン系導電性高分子の透明電極用の透明導電膜、それを含む透明電極、その透明電極が設けられたタッチパネル用透明電極構造体、およびそのタッチパネル用透明電極構造体を含むタッチパネルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の透明電極構造体の構造を表す模式図である。
【図2】図2は、本発明の抵抗膜方式タッチパネルの断面を表す模式図である。
【図3】図3は、本発明の抵抗膜方式タッチパネルのタッチ面を指(またはペン)でタッチしたときの本発明の抵抗膜方式タッチパネルの断面を表す模式図である。
【図4】図4は、実施例1,2で使用する膜厚方向電気伝導率測定装置を表す模式図である。
【図5】図5は、マトリクス型抵抗膜方式タッチパネルを表す模式図である。
【図6】図6は、タッチパネル非押圧時の、上部透明電極と下部透明電極とが接触していない状態のタッチパネルを表す模式図である。
【図7】図7は、タッチパネル押圧時の、上部透明電極と下部透明電極とが接触している状態のタッチパネルを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[透明電極構造体および抵抗膜方式タッチパネルの構造]
本発明の透明電極構造体および抵抗膜方式タッチパネルの構造を説明する。
本発明の透明電極構造体は、透明基材上に透明電極を設けた構造を有する。また、公知の透明電極構造体と同様に、透明基材にアンダーコートまたはプライマーをコーティングし、その上に透明電極を設けてもよい。本発明の透明電極構造体に設けられる透明電極は少なくとも一つの透明導電膜を含み、その透明導電膜の少なくとも一つはポリチオフェン系導電性高分子組成物から成膜したポリチオフェン系導電性高分子膜である。
【0035】
図1は本発明の透明電極構造体の構造を表す模式図である。簡単のため、透明電極は単一のポリチオフェン系導電性高分子膜からなるものとして表現している。大きさはスケール通りではない。
【0036】
図1を参照しながら本発明の透明電極構造体を説明する。
本発明の透明電極構造体1は、最も単純な形態では、透明基材4上に透明電極となるポリチポリチオフェン系導電性高分子膜5を形成した構造を有する。
【0037】
ポリチオフェン系導電性高分子膜5は、ポリチオフェン系導電性高分子組成物からウェットプロセスで成膜される際に、重力偏析により、ポリチオフェン系導電性高分子(a)リッチで高分子電解質(b)およびドーパント(c)を含有するB層3(「下層」、「内部層」または「ポリチオフェン層」ともいう。)と、高分子電解質(b)リッチでドーパント(c)を含有するがポリチオフェン系導電性高分子(a)を実質上含有しないA層2(「上層」、「表面層」または「高分子電解質層」ともいう。)との二層に分かれる。
【0038】
A層2とB層3との界面は、一般に、平面ではなく、また明瞭でもない。重力偏析は、無重力または微小重力の下で行わない限り起こるので、地球上で特別な工程を用いないで成膜する場合には、重力偏析を許すことになる。
【0039】
A層およびB層の存在は、例えば、STM(走査型トンネル顕微鏡)およびAFM(原子間力顕微鏡)を使用して、非特許文献1に記載の方法に従って観察することができる。また、A層の厚さは数nmから最大でも膜厚の約1/2程度までなので、A層にポリチオフェン系導電性高分子が実質上含有されないことは、X線光電子分光分析その他の組成分析方法によって確認することができる。
【0040】
次に、本発明の抵抗膜方式タッチパネルの構造を説明する。
図2は、本発明の抵抗膜方式タッチパネルの構造を表す模式図である。大きさはスケール通りではない。
【0041】
図2を参照しながら本発明の抵抗膜方式タッチパネルを説明する。
抵抗膜方式タッチパネル11は上部電極板(可動電極板)12と下部電極板(固定電極板)13とが、スペーサ(絶縁層)14を介して相対して貼り合わせられた構造となっている。なお、上部および下部が絶対的な配置をいうものではないことは当業者が理解するところである。
【0042】
上部電極板12は上部透明基材15とその上に設けられた上部透明電極16とを構成要素として含み、下部電極板13は下部透明基材18とその上に設けられた下部透明電極17と、必要な場合には下部透明電極17上に設けられるドットスペーサ19とを構成要素として含む。タッチパネルの大きさによっては、ドットスペーサを設けなくともよいことは当業者が理解するところである。
【0043】
上部電極板12と下部電極板13とは、上部透明電極16と下部透明電極17とが対峙するように対向して貼り合わせられる。上下電極間距離は1mm以下、好ましくは数十nm〜数百nm、より好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは5〜100μmである。
【0044】
ドットスペーサ19は、誤入力または常時ON状態の防止をすることができ、かつ、その存在がパネルに表示される画像を阻害しない等、タッチパネルの機能を損なわないための条件を満たせばよいが、例えば、高さ5〜10μm、直径50μm以下とすることが好ましい。
【0045】
上部透明基材15としては、可とう性の観点から樹脂フィルムを使用することが好ましく、樹脂フィルムの中でもPETフィルムが好ましい。
下部透明基材18としてはガラス基板、プラスチック基板または樹脂フィルムのいずれも好ましく使用することができる。
【0046】
本発明においては、上部透明電極16を本発明に係るポリチオフェン系導電性高分子膜を含む透明電極とすることが好ましい。下部透明電極17は本発明に係るポリチオフェン系導電性高分子膜を含む透明電極としてもよいし、従来公知の透明導電膜を含む透明電極としてもよい。従来の透明電極としては、例えば、ITO透明電極を好ましく例示することができる。
【0047】
マトリクス(デジタル検出)型抵抗膜方式タッチパネルにあっては、上部透明電極16と下部透明電極17とでグリッドを構成するように上下電極を設けることが好ましく、アナログ検出型抵抗膜方式タッチパネルでは、上下電極とも画像を表示する「可視領域」のほぼ全域にわたり設けることが好ましい。
【0048】
次に、本発明の抵抗膜方式タッチパネルの原理について説明する。
図2は指(またはペン)22が本発明の抵抗膜方式タッチパネル11のタッチ面(「表面」または「上面」ともいう。)を押圧していない状態を示している。この場合には、上部透明電極16と下部透明電極17とが分離しているので、上下電極間は電気的な導通をしない。また、上部電極板12または下部電極板13がある程度たわんでも、ドットスペーサ19により、上部透明電極16と下部透明電極17とが分離した状態に保たれる。
【0049】
図3は、抵抗膜方式タッチパネル(押圧時)21は、本発明の抵抗膜方式タッチパネル11のタッチ面(「表面」または「上面」ともいう。)を指(またはペン)22で押圧している状態を表す模式図である。この場合には、上部透明電極16と下部透明電極17とが接触し、上下電極間で電気的な導通をする。
【0050】
マトリクス(デジタル検出)型抵抗膜式タッチパネルにおいては、電気的な導通があった電極を特定することによって、タッチされた座標を特定する。なお、ここで、導通とは、電極間抵抗が10KΩ以下となることをいう。
一方、アナログ検出型抵抗膜式タッチパネルにおいては、上部透明電極16および下部透明電極17の抵抗に関して分圧比が測定され、タッチされた位置が算出される。
【0051】
本発明のポリチオフェン系導電性高分子膜は、作動力(ON荷重)1g以上、好ましくは10g〜250gの押圧をしたとき、電極間抵抗が10KΩ以下、好ましくは1KΩ以下となることが望ましい。
【0052】
本発明の抵抗膜方式タッチパネルは、指入力またはタッチペン入力のどちらでも使用することができるが、ユーザビリティの観点からは指入力で使用することが好ましい。
【0053】
[抵抗膜方式タッチパネルの製造方法]
本発明の抵抗膜方式タッチパネルの製造プロセスの概略を簡単に説明する。
本発明の抵抗膜方式タッチパネルは、従来公知の抵抗膜方式タッチパネルの製造プロセスをほとんど変更なく利用することができる。
【0054】
本発明の抵抗膜方式タッチパネルの製造方法は、概略を述べると、上部電極板(可動電極板)を製造し、下部電極板(固定電極板)を製造し、これら2つを貼り合わせるというものである。上部電極板または下部電極板のうち一方または両方が本発明の透明電極構造体である。
【0055】
なお、上部電極板とはタッチパネルの上部に配置される、上部透明基材と上部透明電極を構成要素として含む電極板であり、下部電極板とはタッチパネルの下部に配置される、下部透明基材と下部透明電極とドットスペーサとを構成要素として含む電極板である。
【0056】
タッチ面の可とう性と上部透明電極の柔軟性を確保する意味から、上部電極板を、透明基材としてプラスチックフィルムを使用した本発明の透明電極構造体とすることが好ましい。以下に、本発明の抵抗膜方式タッチパネルの製造方法の例を説明するが、製造方法の態様はこの例に限定されるものではなく、従来公知の製造方法に準じて行うことができる。
【0057】
上部電極板の好ましい製造プロセスについて説明する。
(a1)可とう性樹脂フィルム(PETフィルムが好ましい。)上に本発明のポリチオフェン系導電性高分子組成物(液状またはペースト状)を印刷または塗布し、加熱硬化させてポリチオフェン系導電性高分子膜を成膜する。
マトリクス検出型にあっては、電極パターンを形成するように成膜し、アナログ検出型にあっては、可視領域のほぼ全域に成膜する。
(a2)可視領域(画像を表示する部分)以外の部分に銀インキを印刷して平行電極と引きまわし回路を形成する。
(a3)形成された銀回路を覆うように絶縁インキを印刷して絶縁層を形成する。
(a4)上下電極板を貼り合わせるための糊を印刷し、プレス機により外径を打ち抜いて上部電極板とする。
【0058】
次に、下部電極板を従来公知のITO/ガラス基板を用いる製造プロセスについて説明する。下部電極板も本発明の透明電極構造体としてもよい。
(b1)ガラス基板上にITO膜をスパッタリング法または真空蒸着法により成膜したもの(ITO/ガラス基板)を準備する。
(b2)上部電極板と同様にITOエッチング用レジストを印刷する。
(b3)エッチングをして周辺の銀インキ印刷回路の部分のITO膜を除去する。
(b4)ドットスペーサを印刷・焼成する。
(b5)可視領域(画像を表示する部分)以外の部分に銀インキを用いてITO/PETフィルムで形成した方向と垂直方向となるように平行電極と引きまわし回路を形成する。
(b6)絶縁インキを印刷して絶縁層を形成する。
(b7)異方性導電ペースト(ACP)を印刷してFPC(フレキシブルプリント回路)接続部を形成する。その後、所定の大きさにITO/ガラス基板をスクライバを用いて切断し、下部電極板とする。
【0059】
最後に、上部電極板と下部電極板との貼り合わせプロセスについて説明する。
(c1)上部電極板に印刷した糊と下部電極板を貼り合わせることにより、両電極板を所定の間隔に保持しながら接合する。
(c2)引き出し線用のFPCをACPと熱圧着させることにより上下電極板間およびFPCとの回路を接続する。
(c3)検査を行う。
(c4)タッチパネルが完成となる。
【0060】
[組成物および成膜方法]
〈1.ポリチオフェン系導電性高分子(a)〉
ポリチオフェン系導電性高分子(a)は、従来公知のものを用いることができる。例えば、下記式(1)で表される繰り返し単位を主成分として含むものを使用することができる。
【0061】
【化1】

【0062】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、C〜C20−アルキル基もしくはアルキルオキシ基または1〜8個の酸素原子もしくは硫黄原子が挿入されたC〜C20−アルキル基もしくはアルキルオキシ基、または、RおよびRが、一緒になって、任意に置換されていてよいC〜C20−ジオキシアルキレン基もしくはC〜C20−ジオキシアリーレン基を示す。
【0063】
前記C〜C20−アルキル基は、例えば、n−ノナデシル基およびn−エイコシル基を例示することができる。
【0064】
前記C〜C20−アルキルオキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、1−メチルブチルオキシ基、2−メチルブチルオキシ基、3−メチルブチルオキシ基、1‐エチルプロピルオキシ基、1,1−ジメチルプロピルオキシ基、1,2−ジメチルプロピルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2‐エチルヘキシルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、n−トリデシルオキシ基、n−テトラデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基およびn−エイコシルオキシ基を例示することができる。
【0065】
好ましくは、下記式(2)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン系導電性高分子を使用することができる。
【0066】
【化2】

【0067】
式(2)中、Aは、任意に置換されていてよいC〜C−アルキレン基またはC〜C12−アリーレン基、好ましくは任意に置換されていてよいC〜C−アリーレン基を示す。
【0068】
式(2)中、Rは、直鎖状または分枝鎖状の任意に置換されていてよいC〜C18−アルキル基、好ましくは、直鎖状もしくは分枝鎖状の任意に置換されていてよいC〜C14−アルキル基、任意に置換されていてよいC〜C12−シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC〜C14−アリール基、任意に置換されていてよいC〜C18−アラルキル基または任意に置換されていてよいC〜C−ヒドロキシアルキル基、より好ましくは任意に置換されていてよいC〜C−ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を示す。
【0069】
式(2)中、Xは、0〜8の整数、好ましくは0〜6の整数、より好ましくは0または1を示す。Rは、Aがアルキレン基またはアリーレン基であるとき、AにX個結合してもよい。RおよびAは、RがAに結合しているとき、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0070】
前記C〜C−アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基およびn−ペンチレン基を例示することができる。
【0071】
前記C〜C12−アリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ベンジリデン基およびアントラセニリデン基を例示することができる。
【0072】
前記C〜C18アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2-−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2‐エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基またはn−オクタデシル基を例示することができる。
【0073】
前記C〜C12−シクロアルキル基は、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基およびシクロデシル基を例示することができる。
【0074】
前記C〜C14−アリール基は、例えば、フェニル基およびナフチル基を例示することができる。
【0075】
前記C〜C18−アラルキル基は、例えば、ベンジル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基およびメチシル基を例示することができる。
【0076】
より好ましくは、下記式(3)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン系導電性高分子を使用することができる。
【0077】
【化3】

【0078】
式(3)中、RおよびXは、式(2)中のRおよびXと同じ内容を示す。
【0079】
本発明において使用するポリチオフェン系導電性高分子は、上記式(1)〜(3)で表される繰り返し単位を1種類以上含む重合体であればよく、繰り返し単位を2種類以上含む共重合体であってもよい。
【0080】
さらに、ポリ系導電性高分子のモノマーは、1つ以上の光学異性体を光学異性体を有してもよく、ラセミ体、エナンチオマー的に純粋なもしくはジアステレオマー的に純粋な化合物、またはエナンチオマー濃縮されたもしくはジアステレオマー濃縮された化合物であってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
【0081】
特に好ましくは、下記式(4)で表される繰り返し単位(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含むポリチオフェン系導電性高分子(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン);PEDOT)を使用することができる。
【化4】

【0082】
〈2.高分子電解質(b)〉
高分子電解質(b)としては、アニオン性の高分子であれば特に限定されず、塩または誘導体であってもよい。例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のカルボン酸類を有する高分子電解質、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等のスルホン酸類を有する高分子電解質を例示することができる。
カルボン酸類およびスルホン酸類を有する高分子電解質は、一種類のアニオン性モノマーからなる単独重合体であってもよいし、二種類以上のアニオン性モノマーからなる共重合体であってもよいし、さらには、アニオン性モノマーと当該アニオン性モノマーと共重合可能な非アニオン性モノマーとの共重合体であってもよい。このような非アニオン性モノマーとしては、例えば、アクリレートモノマー、スチレンモノマー等を例示することができる。高分子電解質が共重合体である場合には、少なくとも一種類のアニオン性モノマーが共重合成分として含まれていればよい。
【0083】
《2−1.ポリスチレンスルホン酸またはその塩もしくは誘導体》
ポリスチレンスルホン酸またはその塩もしくは誘導体(以下、単に「ポリスチレンスルホン酸」と表記する場合がある。)としては、従来公知のポリスチレンスルホン酸またはその塩もしくは誘導体を使用することができる。
【0084】
好ましいポリスチレンスルホン酸は、下記式(5)で表される繰り返し単位を含むポリスチレンスルホン酸である。
【0085】
【化5】

【0086】
〈3.ドーパント(c)〉
本発明に係る透明導電膜に使用するドーパント(c)は、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれる。
【0087】
《3−1.高極性化合物》
高極性化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルコール、グリコール、グリセリン、炭酸エステル、ラクタム、アミド、スルホン、スルホキシド、有機リン酸エステル、有機ホスホネート、有機ホスファミド、尿素および尿素の誘導体ならびにこれらの混合物を例示することができる。
【0088】
高極性化合物の中でも、イソプロピルアルコール(アルコール);エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(グリコール);グリセリン(グリセリン);炭酸プロピレン(炭酸エステル);N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン(ラクタム);ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(アミド);テトラメチレンスルホン(スルホン);ジメチルスルホキシド(スルホキシド);ヘキサメチルホスファミド(有機ホスファミド);および1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素(尿素の誘導体)が好ましい。これらは単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0089】
これらの中でも、ポリエチレングリコール、エチレングリコールおよびジメチルスルホキシドがさらに好ましい高極性化合物である。ポリエチレングリコールとしては、PEG200(平均分子量200)が好ましい。
【0090】
《3−2.イオン性液体》
イオン性液体としては、特に限定されないが、イオン性液体のカチオン成分がイミダゾリウムイオンもしくはその誘導体またはアンモニウムイオンもしくはその誘導体であるものが好ましい。ここで、誘導体とは、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基またはアシル基を導入されたもの、水素原子がフッ素原子で置換されたもの等をいう。
【0091】
また、イオン性液体のアニオン成分が、臭化物イオン(Br)、塩化物イオン(Cl)、過塩素酸イオン(ClO)、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(TFSI,(CFSO)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(BETI,(CSO)またはRSO(Rは脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基またはアシル基であり、水素原子はフッ素原子で置換されてもよい。)であるものが好ましい。
【0092】
イオン性液体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI−TFSI)が好ましい。イオン性液体の中でも特に優れた導電性改良効果を奏するからである。
【0093】
《3−3.電解質塩》
電解質塩は特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。
【0094】
好ましいカチオン成分は、Li、Na、K等のアルカリ金属カチオン、Ca2+、Mg2+等のアルカリ土類金属カチオンおよびアンモニウムイオンである。
【0095】
また、好ましいアニオン成分は、臭化物イオン(Br)、塩化物イオン(Cl)、過塩素酸イオン(ClO)、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(TFSI,(CFSO)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(BETI,(CSO)またはRSO(Rは脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基またはアシル基であり、水素原子はフッ素原子で置換されてもよい。)である。
【0096】
電解質塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI,Li(CFSON)またはリチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI,Li(CSON)が好ましく、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI,Li(CFSON)またはリチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI,Li(CSON)がより好ましい。より良好な導電性を得ることができるからである。
【0097】
電解質塩は、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0098】
〈4.ポリチオフェン系導電性高分子組成物〉
本発明の抵抗膜方式タッチパネル用のポリチオフェン系導電性高分子組成物(以下、単に「組成物」または「本発明の組成物」という場合がある。)は、透明電極の製造方法の態様により、
〔I〕ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、ドーパント(c)とを含有するもの、または
〔II〕ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)とを含有するが、ドーパント(c)を含有しないものである。
【0099】
上記〔II〕の組成物は、ポリチオフェン系導電性高分子膜の成膜後にドーパント(c)のドーピングを行う製造方法において使用するものであり、上記〔I〕の組成物はポリチオフェン系導電性高分子膜の成膜後にドーパント(c)のドーピングを行う製造方法において使用することもできるが、通常、成膜後にドーパント(c)のドーピングを行わない製造方法において使用する。
【0100】
上記〔I〕の組成物は、前記ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、前記高分子電解質(b)と、前記ドーパント(c)とを含有する溶液であれば特に限定されない。
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と高分子電解質(b)との含有量は特に限定されないが、質量比で、ポリチオフェン系導電性高分子(a)/高分子電解質(b)が2以下であることが好ましく、1/4以上2以下であることがより好ましい。
【0101】
ドーパント(c)の含有量は、ポリチオフェン系導電性高分子(a)および高分子電解質(b)を含有する水分散液にドーパント(c)を添加して本発明の組成物を構成するとき、その水分散液中のポリチオフェン系導電性高分子(a)および高分子電解質(b)の合計含有量が1.2〜1.4質量%であり、かつ、ポリチオフェン系導電性高分子(a)/高分子電解質(b)≦2の質量比であるとすると、ドーパント(c)が高極性化合物である場合にあっては、微小量(0.01質量%未満)以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上5質量%未満であり、ドーパント(c)がイオン性液体である場合にあっては、20質量%超、好ましくは20質量%超70質量%以下、より好ましくは25〜70質量%、さらに好ましくは25〜40質量%、いっそう好ましくは30〜40質量%であり、ドーパント(c)が電解質塩のLiClO(過塩素酸リチウム)である場合にあっては、30質量%超、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、ドーパント(c)が電解質塩のLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミド)である場合にあっては、2質量%超、好ましくは2質量%超70質量%未満、より好ましくは40〜60質量%、さらに好ましくは50質量%であり、ドーパント(c)が電解質塩のLiBETI(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルフォン)イミド)である場合にあっては、微小量(0.01質量%未満)以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは20〜70質量%、いっそう好ましくは25〜60質量%、より一層好ましくは30質量%である。
【0102】
上記〔I〕の組成物は、また、ポリチオフェン系導電性高分子(a)100質量部に対して、高分子電解質(b)を好ましくは50質量部以上、より好ましくは50〜400質量部含有し、さらにドーパント(c)を、高極性化合物にあっては、好ましくは2.7質量部以上、より好ましくは2.7〜1.4×10質量部、イオン性液体にあっては、好ましくは6.8×10質量部以上、より好ましくは6.8×10〜6.2×10質量部、さらに好ましくは9.0×10〜2.2×10質量部、いっそう好ましくは1.2×10〜1.8×10質量部、電解質塩のLiClOにあっては、好ましくは1.2×10質量部以上、より好ましくは1.8×10質量部以上、さらに好ましくは2.2×10質量部以上、電解質塩のLiTFSIにあっては、好ましくは5.5×10質量部以上、より好ましくは5.5×10〜6.2×10質量部、さらに好ましくは1.8×10〜4.0×10質量部、いっそう好ましくは2.7×10質量部、電解質塩のLiBETIにあっては、好ましくは2.7質量部以上、より好ましくは1.4×10質量部以上、さらに好ましくは3.0×10〜6.2×10質量部、いっそう好ましくは6.7×10〜6.2×10質量部、よりいっそう好ましくは9.0×10〜4.0×10質量部以下、さらにいっそう好ましくは1.2×10質量部含有してもよい。
【0103】
上記〔II〕の組成物は、前記ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、前記高分子電解質(b)とを含有する溶液であれば特に限定されない。
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と高分子電解質(b)との含有量は特に限定されないが、質量比で、ポリチオフェン系導電性高分子(a)/高分子電解質(b)が2以下であることが好ましく、1/4以上2以下であることがより好ましい。
【0104】
上記〔II〕の組成物は、また、ポリチオフェン系導電性高分子(a)100質量部に対して、高分子電解質(b)を好ましくは50質量部以上、より好ましくは50〜400質量部含有する。
【0105】
本発明の組成物は、希釈しまたは濃縮して使用することができる。
【0106】
本発明の組成物の溶媒は水系または溶剤系のどちらであってもよいが、水系であることが好ましい。
【0107】
本発明の組成物は、さらに、成膜性向上の観点から、成膜形成結合剤を含むことができる。そのような結合剤として、水溶性の、または水に分散する親水性ポリマー(例えばゼラチン、ゼラチン誘導体、マレイン酸または無水マレイン酸のコポリマー、ポリスルホン酸スチレン、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルピロリドン)等を例示することができる。また、他の結合剤としては、エチレンが不飽和であるモノマー(例えば、アクリル酸塩(アクリル酸を含む)、メタクリル酸塩(メタクリル酸を含む)、アクリルアミド、メタクリルアミド、イタコン酸と、その半エステルおよびジエステル、スチレン(置換されたスチレンを含む)、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、オレフィン)から調製した添加タイプのホモポリマーやコポリマーの水性エマルジョン、ポリウレタンとポリエステルイオノマーの水性分散液等を例示することができる。
【0108】
本発明の組成物は、さらに、公知のポリチオフェン系導電性高分子組成物に配合することができる添加剤を含有してもよい。そのような添加剤としては、ドーパント、触媒、高分子電解質、イオン交換樹脂、水、アルコール、グリコール類、アミン系溶剤その他溶剤、電解質塩、ワックス、界面活性剤、消泡剤、コーティング助剤、帯電防止剤、増粘剤または粘度調節剤、付着防止剤、融合助剤、架橋剤または硬化剤、可溶性染料および/または固体粒子染料、無光沢ビーズ、無機粒子またはポリマー粒子、接着促進剤、腐食性溶媒または化学的エッチング剤、潤滑剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、その他従来公知の添加物を例示することができる。
【0109】
組成物中のポリチオフェン系導電性高分子(a)、高分子電解質(b)およびドーパント(c)各成分の質量比が、本発明の組成物中のポリチオフェン系導電性高分子(a)、高分子電解質(b)およびドーパント(c)各成分の質量比と同じものであって、本発明の組成物に成膜形成結合剤その他添加剤を配合しもしくは配合しないものもしくは希釈しもしくは濃縮したものまたはこれらと同一視し得る組成物は、各成分の組成物中濃度が相違したとしても、本発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する限り、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。
【0110】
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と高分子電解質(b)とは、水分散液とすることが好ましく、これにドーパント(c)、その他の添加剤を添加して組成物を調製することが好ましい。ポリチオフェン系導電性高分子(a)の安定性と取扱いの利便性の観点からである。
【0111】
本発明の組成物は、例えば、ポリチオフェン系導電性高分子(a)および高分子電解質(b)として、それぞれ、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸(PSS)を使用することが好ましい。この場合には、市販のPEDOT/PSS水分散液を好適に使用することができる。
【0112】
そのような市販のPEDOT/PSS水分散液としては、例えば、CLEVIOS P(H.C.スタルク社、固形分含有量1.2〜1.4質量%、PEDOT/PSS=1/2.5(質量比))を好ましく例示することができる。このような水分散液は、希釈しまたは濃縮したものを用いることもできる。
【0113】
〈5.透明基材〉
本発明の透明電極構造体に使用する透明基材は、透明な基材であれば絶縁基材また導電基材のいずれでもよい。
【0114】
絶縁基材としては、例えば、ガラス、石英その他の無機透明基板を使用することができる。
【0115】
有機基材としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンその他のポリオレインの基板またはフィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリマーその他のポリエステル、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボニル基その他の官能基で一部変成した樹脂またはトリアセチルセルロース等の有機透明基板または有機透明フィルムを使用することができる。
【0116】
導電基材は、例えば、前記の絶縁基材の表面に透明導電コーティングを施したものが挙げられる。
【0117】
透明基材の洗浄、乾燥等前処理は、従来公知の技術を使用することができる。
基材処理は、あらかじめ、易接着処理がなされていたほうが好ましく、それには従来公知の技術を使用することができる。そのような技術としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等を例示することができる。
【0118】
〈6.ポリチオフェン系導電性高分子膜の形成方法〉
透明基材上にポリチオフェン系導電性高分子膜を形成する方法としては、以下の二通りの方法を用いることができる。
《6−1.成膜方法I》
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、ドーパント(c)とを含有する組成物の溶液を使用して、透明基材上に塗布する塗布工程と、塗布した組成物を乾燥する成膜工程とを経ることによってポリチオフェン系導電性高分子膜を透明基材上に成膜することができる。なお、透明基材の塗布面には、アンダーコートまたはプライマー処理を施すことが好ましい。
【0119】
組成物を塗布する塗布工程では、従来公知の塗布方法を用いることができる。具体的には、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、リップダイレクト方、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等を例示することができる。
【0120】
組成物を乾燥して成膜する成膜工程では、従来公知の乾燥方法を用いることができる。
【0121】
《6−2.成膜方法II》
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)とを含有するが、ドーパント(c)を含有しない組成物の溶液を使用して、透明基材上に塗布する塗布工程と、塗布した組成物を乾燥する成膜工程とを経ることによってドーパント(c)を含有しないポリチオフェン系導電性高分子膜(以下「非ドープ膜」という。)を透明基材上に成膜し、さらに、非ドープ膜にドーパント(c)をドープするドーピング工程を経ることによってポリチオフェン系導電性高分子膜を透明基材上に成膜することができる。なお、透明基材の塗布面には、アンダーコートまたはプライマー処理を施すことが好ましい。
【0122】
塗布方法および乾燥方法は、前記した成膜方法Iに記載した方法を用いることができる。
【0123】
膜にドーパント(c)をドープするドーピング工程では、従来公知のドーピング方法を用いることができる。具体的には、例えば、ドーパント(c)を所定濃度となるように溶媒に溶かして、非ドープ膜表面に接触させることによってドーピングをすることができる。
【実施例】
【0124】
〈1.共通操作〉
《1−1.基板洗浄方法》
透明基材としてガラス基板(ガラススライド、25mm×38mm)を用いた。ガラス基板をPiranha(濃硫酸:過酸化水素水(30v/v%)=3:1)で1時間洗浄後、純水で4回すすぎ、さらに純水中超音波で10分間洗浄し、60℃のオーブンで一晩以上乾燥した。
【0125】
《1−2.ポリチオフェン系導電性高分子膜の形成》
ポリチオフェン系導電性高分子(a)としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、高分子電解質(b)としてポリスチレンスルホン酸(PSS)をそれぞれ使用した。
具体的には、PEDOT/PSS水分散液(CLEVIOS P、H.C.スタルク社、固形分1.3質量%、PEDOT:PSS=1:2.5(質量比))を使用した。
【0126】
ドーパント(c)は次の通りである。
高極性化合物として、ポリエチレングリコール(PEG200、平均分子量200)、エチレングリコール(EG)またはジメチルスルフォキシド(DMSO)を使用した。
【0127】
イオン性液体として、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を使用した。
【0128】
電解質塩として、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)またはリチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)を使用した。
【0129】
《《1−2−1.作成方法I》》
前記のPEDOT/PSS水分散液にドーパント(c)を添加し、超音波で10分間以上かくはんして導電性高分子組成物とした。
ガラス基板上に前記の導電性高分子組成物を3000rpmでスピンコートし、ガラス基板を大気下120℃で30分間加熱乾燥し、PSS層とPEDOT層あわせて90nmの膜厚の導電性高分子膜を成膜した。
【0130】
《《1−2−2.作成方法II》》
ガラス基板上に前記のPEDOT/PSS水分散液からなる導電性高分子組成物を3000rpmでスピンコートし、ガラス基板を大気下120℃で30分間加熱乾燥し、PSS層とPEDOT層あわせて90nmの膜厚の導電性高分子膜(ドーパント(c)抜き)を成膜した。さらに前記の高極性化合物、イオン性液体または電解質塩を所定濃度の溶液に調整し、ドーパント(c)抜きの導電性高分子膜の表面に接触させ、PSS層に前記の高極性化合物、イオン性液体または電解質塩を含浸させた。過剰な高極性化合物、イオン性液体または電解質塩を窒素ブローにより除去後、ガラス基板を大気下120℃で30分間加熱乾燥した。
【0131】
<実施例1、2 製造方法>
[実施例1 作成方法I]
{膜厚方向電気伝導率測定(荷重方式)}
(測定方法)
膜厚方向電気伝導率測定用サンプルは、ガラス基板45上に0.2μm厚の金蒸着膜を作成して金電極44とし、その上に作成方法Iに従ってポリチオフェン系導電性高分子膜46を作成した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜46の成膜時に重力偏析によりPSSリッチでPEDOTを実質上含有しないPSS層42とPEDOTリッチなPEDOT層43が形成された。
膜厚方向電気伝導率測定は、図4に示すように、膜厚方向電気伝導率測定装置41を用いて、ポリチオフェン系導電性高分子膜46の膜厚方向の電気抵抗を、PSS層42に接触させた、圧力を印加可能な可動探針47と金電極44と間で測定することにより測定した。PSS層42への荷重は0g〜100gまで増大させ、その抵抗値を抵抗計49でモニタリングした。可動探針47の接触面積は約1mmであった。
【0132】
(測定結果)
いずれのサンプルともに抵抗値は荷重を増大させるに従って減少した。
電気接点では弱い押圧により低い接触抵抗を示すことが望まれるため、ある一定の抵抗値を示した荷重を比較した。
第1表に、各サンプルについて、抵抗値が0.3Ωおよび0.5Ωを示した荷重(単位:g)を示す。
【0133】
【表1】

【0134】
第1表において、「PEDOT」は組成物中にドーパント(c)を含有しない比較用サンプルを、「EG」は組成物中に0.5質量%のエチレングリコールを含有する測定用サンプルを、「EMI−TFSI」は組成物中に30質量%のEMI−TFSIを含有する測定サンプルを、「LiTFSI」は組成物中に50質量%のLiTFSIを含有する測定用サンプルを、「LiBETI」は組成物中に50質量%のLiBETIを含有する測定用サンプルを、それぞれ表す。
【0135】
結果をまとめると、ドーパント(c)を含有しないと、100g以上の荷重によっても抵抗値を0.5Ωまたは0.3Ωとすることができなかったが、一方、ドーパント(c)を含有する測定用サンプルでは、荷重5g以下で抵抗値を0.5Ωまたは0.3Ωとすることができ、良好な膜厚方向電気伝導率を得ることができた。
【0136】
[実施例2 作成方法II]
作成方法IIを用いた点を除いて、実施例1と同様に実施した。
【0137】
【表2】

【0138】
結果をまとめると、ドーパント(c)を含有しないと、100g以上の荷重によっても抵抗値を0.5Ωまたは0.3Ωとすることができなかったが、一方、ドーパント(c)を含有する測定用サンプルでは、荷重5g以下で抵抗値を0.5Ωまたは0.3Ωとすることができ、良好な膜厚方向電気伝導率を得ることができた。
すなわち、作成方法Iの代わりに作成方法IIを用いても、膜厚方向導電性を得られることが示された。
【0139】
<実施例3〜9 導電性高分子膜の表面層>
しかし、探針を用いた膜厚方向導電性測定は、応用の実態に合わせて測定できるため簡便であるが、表面形状による表面の絶縁層を破壊したのか、それとも表面層の導電性が向上したのかを分離して議論することが困難な場合がある。
そこで、実施例3〜9では、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、導電性高分子膜表面の絶縁層を破壊するために必要なバイアス電圧を測定することにより、表面の絶縁層の厚さを定量化した。バイアス電圧が低いほど表面の絶縁層が薄いまたは表面層の導電性が向上したことを示している。
【0140】
STMは、通常、非常に鋭く尖った探針を導電性の物質の表面に近づけ、流れるトンネル電流から表面の原子レベルの電子状態、構造等を観察し、表面走査をすることにより、表面形状が得られる。しかし、実施例3〜9においては、STMを用いた測定は、表面走査をせず、基板表面の任意の場所を測定した。すなわち、実施例3〜9に係る測定において、表面から一定の高さになるように探針を保持し、基板とSTMの探針間のバイアス電圧を徐々に上昇させた。電流が流れ始める電圧が、導電性高分子表面の絶縁層をトンネル電流が流れ始める電圧である。絶縁層が同一物質であれば、その電圧は絶縁層の厚みに比例するため、バイアス電流が流れ始める電圧を比較することにより表面の絶縁層の厚みを比較した。
【0141】
[実施例3]
ドーパント(c)として、高極性化合物であるPEG200を使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成は、ガラス基板上に0.2μm厚の金蒸着膜を作成し、その上に上記の作成方法1に従って行った。
STMを用いた測定結果を第3表に示す。
【0142】
【表3】

【0143】
なお、第3表において、PEG200含有量は、PEDOT/PSS水分散液とPEG200との混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0144】
第3表に示す結果から、PEG200添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、PEG200を0.5質量%添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、PEG200を0.01質量%添加時においても導電性向上効果が得られているため、添加量がより少量であっても、導電性向上効果を得られることは容易に理解できる。
【0145】
[実施例4]
ドーパント(c)として、高極性化合物であるEGを使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成方法およびSTMを用いた測定方法は実施例3に記載したのと同様である。
測定結果を第4表に示す。
【0146】
【表4】

【0147】
なお、第4表において、EG含有量は、PEDOT/PSS水分散液とEGとの混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0148】
第4表に示す結果から、EG添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、EGを0.5質量%添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、EGを0.01質量%添加時においても導電性向上効果が得られているため、添加量がより少量であっても、導電性向上効果を得られることは容易に理解できる。
【0149】
[実施例5]
ドーパント(c)として、高極性化合物であるDMSOを使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成方法およびSTMを用いた測定方法は実施例3に記載したのと同様である。
測定結果を第5表に示す。
【0150】
【表5】

【0151】
なお、第5表において、DMSO含有量は、PEDOT/PSS水分散液とDMSOとの混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0152】
第5表に示す結果から、DMSO添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、DMSOを0.5質量%添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、DMSOを0.01質量%添加時においても導電性向上効果が得られているため、添加量がより少量であっても、導電性向上効果を得られることは容易に理解できる。
【0153】
[実施例6]
ドーパント(c)として、イオン性液体であるEMI−TFSIを使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成方法およびSTMを用いた測定方法は実施例3に記載したのと同様である。
測定結果を第6表に示す。
【0154】
【表6】

【0155】
なお、第6表において、EMI−TFSI含有量は、PEDOT/PSS水分散液とEMI−TFSIとの混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0156】
第6表に示す結果から、EMI−TFSI添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、EMI−TFSIを30〜40質量%添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、EMI−TFSIを20質量%を超えて添加すると導電性向上効果が得られることは、容易に理解できる。
【0157】
[実施例7]
ドーパント(c)として、電解質塩であるLiClOを使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成方法およびSTMを用いた測定方法は実施例3に記載したのと同様である。
測定結果を第7表に示す。
【0158】
【表7】

【0159】
なお、第7表において、LiClO含有量は、PEDOT/PSS水分散液とLiClOとの混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0160】
第7表に示す結果から、LiClO添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、LiClOを40質量%以上添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、LiClOを30質量%を超えて添加すると導電性向上効果が得られることは、容易に理解できる。
【0161】
[実施例8]
ドーパント(c)として、電解質塩であるLiTFSIを使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成方法およびSTMを用いた測定方法は実施例3に記載したのと同様である。
測定結果を第8表に示す。
【0162】
【表8】

【0163】
なお、第8表において、LiTFSI含有量は、PEDOT/PSS水分散液とLiTFSIとの混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0164】
第8表に示す結果から、LiTFSI添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、LiTFSIを50質量%添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、LiTFSIを2質量%を超えて添加すると導電性向上効果が得られることは、容易に理解できる。
【0165】
[実施例9 ポリチオフェン系導電性高分子膜の導電性]
ドーパント(c)として、電解質塩であるLiBETIを使用した。
ポリチオフェン系導電性高分子膜の作成方法およびSTMを用いた測定方法は実施例3に記載したのと同様である。
測定結果を第9表に示す。
【0166】
【表9】

【0167】
なお、第9表において、LiBETI含有量は、PEDOT/PSS水分散液とLiBETIとの混合物中の濃度(単位:質量%)で表している。
【0168】
第9表に示す結果から、LiBETI添加によって、ポリチオフェン系導電性高分子膜の膜厚方向の導電性が向上したことが確認できた。特に、LiBETIを30質量%添加時に最大の導電性向上効果が得られた。
なお、本実施例においては、LiBETIを10質量%添加時においても導電性向上効果が得られているため、添加量がより少量であっても、導電性向上効果を得られることは容易に理解できる。
【符号の説明】
【0169】
1 透明電極構造体
2 A層
3 B層
4 透明基材
5 ポリチオフェン系導電性高分子膜
11 抵抗膜方式タッチパネル
12 上部電極板(可動電極板)
13 下部電極板(固定電極板)
14 スペーサ(絶縁層)
15 上部透明基材
16 上部透明電極
17 下部透明電極
18 下部透明基材
19 ドットスペーサ
20 FPC
21 抵抗膜方式タッチパネル(押圧時)
22 指(またはペン)
23 異方性導電シート
41 膜厚方向電気伝導率測定装置
42 PSS層
43 PEDOT層
44 金電極
45 ガラス基板
46 ポリチオフェン系導電性高分子膜
47 可動探針
48 圧力計
49 抵抗計
50、51 リード線
101 マトリクス型抵抗膜方式タッチパネル
102 上部透明樹脂フィルム
103 上部透明電極
104 下部透明電極
105 下部透明ガラス基板
121 抵抗膜方式タッチパネル(上下ポリチオフェン系導電性高分子膜非接触時)
122 透明樹脂フィルム
123、126 ポリチオフェン層
124、125 PSS層
127 透明ガラス基板
128 スペーサ
129 ドットスペーサ
130 指(またはペン)
131 抵抗膜方式タッチパネル(上下ポリチオフェン系導電性高分子膜接触時)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に透明電極が設けられた、電気的接続構造に用いられる透明電極構造体であって、
該透明電極は少なくとも一層の透明導電膜を含み、
該透明導電膜は
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、
高分子電解質(b)と、
高極性化合物、イオン性液体または電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)と
を含有するポリチオフェン系導電性高分子膜であり、
該ポリチオフェン系導電性高分子膜は膜厚方向の導電性を有することを特徴とする、電気的接続構造に用いられる透明電極構造体。
【請求項2】
透明基材と該透明基材上に設けられた透明電極とを有する第一の透明電極構造体と、透明基材と該透明基材上に設けられた透明電極とを有する第二の透明電極構造体とを、スペーサを介して、透明電極どうしが対向するよう配置してなり、第一の透明電極構造体の透明電極と第二の透明電極構造体の透明電極とを接触することによって両透明電極の電気的な接続を得ることができる抵抗膜方式タッチパネルにおいて、
第一の透明電極構造体が請求項1に記載の透明電極構造体である抵抗膜方式タッチパネル。
【請求項3】
さらに、第二の透明電極構造体が請求項1に記載の透明電極構造体である、請求項2に記載の抵抗膜方式タッチパネル。
【請求項4】
透明基材の上にポリチオフェン系導電性高分子組成物を塗布する塗布工程と、
該ポリチオフェン系導電性高分子組成物からポリチオフェン系導電性高分子膜を膜厚方向の重力偏析を許しながら成膜する成膜工程とをこの順に具備する透明電極構造体の製造方法であって、
該ポリチオフェン系導電性高分子組成物が
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、
高分子電解質(b)と、
高極性化合物、イオン性液体または電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有するポリチオフェン系導電性高分子組成物である、透明電極構造体の製造方法。
【請求項5】
透明基材の上にポリチオフェン系導電性高分子(a)と高分子電解質(b)とを含有するポリチオフェン系導電性高分子組成物を塗布する塗布工程と、
該ポリチオフェン系導電性高分子組成物からポリチオフェン系導電性高分子膜を膜厚方向の重力偏析を許しながら成膜する成膜工程と、
該ポリチオフェン系導電性高分子膜に高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)をドープするドーピング工程とをこの順に具備する透明電極構造体の製造方法。
【請求項6】
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有する透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物であって、
該ポリチオフェン系導電性高分子(a)100質量部に対して、該高分子電解質(b)50質量部以上と、該ドーパント(c)として高極性化合物1.25質量部以上、イオン性液体6.8×10質量部以上または過塩素酸リチウム1.2×10質量部以上、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミド5.5×10質量部以上もしくはリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルフォン)イミド2.7質量部以上とを含有する、透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物。
【請求項7】
ポリチオフェン系導電性高分子(a)と、高分子電解質(b)と、高極性化合物、イオン性液体および電解質塩からなる群から選ばれるドーパント(c)とを含有する透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物であって、
該ポリチオフェン系導電性高分子(a)と該高分子電解質(b)とを、ポリチオフェン系導電性高分子(a)/高分子電解質(b)≦2の質量比で、合わせて1.2〜1.4質量%含有する水分散液に、該ドーパント(c)として、該組成物中に、高極性化合物0.01質量%以上、イオン性液体20質量%超または過塩素酸リチウム30質量%超、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミド2質量%超もしくはリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルフォン)イミド0.01質量%以上を含有するように添加して得られる、透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物を用いて得られる、抵抗膜方式タッチパネル用の抵抗膜。
【請求項9】
請求項6または7に記載の透明電極構造体用ポリチオフェン系導電性高分子組成物を用いて得られる、抵抗膜方式タッチパネル用の透明電極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−108425(P2011−108425A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260311(P2009−260311)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】