説明

透明電極製造方法、透明電極製造装置、及び透明電極

【課題】
低い電気抵抗値を有すると同時に外部からの熱に対して耐熱性を備えてなるような、つまり長期間にわたり安定した性能を発揮できる耐性を備えた透明導電性基材を得られる製造方法、製造装置、及びかかる方法又は装置により得られる透明導電性基材を提供する。
【解決手段】
少なくとも、カソード部と、基材装着部と、高周波印加部と、が設けられており、かつ前記高周波印加部が前記カソード部と前記アノード部との間に設置されてなる、スパッタリング装置を用いてなり、かつ前記カソード部近傍に向けてアルゴンガスを、前記基材装着部近傍又は前記高周波印加部近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性ガスとの混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す成膜雰囲気醸成工程を含んでなる、透明電極製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電性膜が積層されている透明電極の製造方法、製造装置、又は透明電極そのものに関するものであり、具体的には高分子樹脂フィルム又はガラス板の表面にガリウム−酸化亜鉛を用いた透明導電性膜を積層してなる透明電極の製造方法、製造装置、又は透明電極そのものに関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活において今や広く普及しているタッチパネルは、例えば銀行などの現金自動支払機(ATM)や券売機などに広く用いられるが、それにはいわゆる透明導電性膜を積層したガラス板やフィルム(以下これらを総称して「透明導電性膜付基板」と言う。また基板がフィルムの場合は「透明導電性フィルム」とも言う。)が用いられている。具体的には、この透明導電性膜付基板は、光線を透過し、電気も通す、という性質を兼ね備えたものであり、そのような性質を利用してタッチパネルの電極として用いられている。
【0003】
また特に昨今の携帯電話や携帯端末などのいわゆるモバイル機器では軽薄短小化が強く求められるのに伴い、基板としてフィルムが用いられる場面が増大している。そして基板をフィルムとした透明導電性フィルムでは、透明導電性膜として酸化インジウム−酸化スズ(ITO)膜が広く用いられている。
【0004】
このITO膜を積層した透明導電性フィルムは、一般的にはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に対し、スパッタリング法等の物理的蒸着法(PVD)によりITOを積層することにより得られるのが一般的である。
【0005】
しかし従来の、ITOをスパッタリング法により積層した透明導電性フィルムでは、特にITOにより構成される透明導電性層の耐性が常に問題となっていた。即ち、剥離しやすい、クラックが生じやすい、耐擦傷性が低い、等の問題である。そしてこのような問題が生じる透明導電性フィルムは安定した性能発揮ができない、安定度の悪い透明導電性フィルムということが出来る。
【0006】
この点に関しもう少し考察をすると、透明導電性フィルムをタッチパネルに用いた場合、透明導電性フィルムは常に同じ範囲の場所を押下され続けるために押下された部分でクラックが生じてしまったり剥離したりしやすくなってしまい、またITOによる透明導電性層であると擦傷が生じやすいので、やはりその部分からクラックが生じてしまう、等のような状況に陥ってしまうため、結果としてそのようなITOを用いた透明導電性フィルムは耐久性、耐摺動性がさほど高くないものとなってしまい、実際にそれをタッチパネルに用いたとしても性能低下等の問題が生じてしまうのである。
【0007】
さらにこのような透明導電性フィルムをタッチパネルの透明電極として用いる場合にはこれが例えば画像表示装置の表面に位置することで長期間にわたり発熱体と接すること、もしくは環境が高温になることに加え、大気中の水分と接することが考えられるが、その熱および水分に長期間さらされることによりITOの性能が低下してしまい、即ち電気抵抗値が高くなるように変化してしまうことがある。つまり長期間経過するとITO膜の電気抵抗が高くなってしまい、つまりITO膜の導電性が悪くなり、ひいては長期間にわたり安定した性能が求められるタッチパネルにおいて、その性能劣化・低下を招くこととなり、このような耐熱性の点で問題であった。
【0008】
このように、透明導電性膜付基板をタッチパネルの透明電極として用いるためには、繰り返される押下に対する耐性、そして数年間にわたり安定した性能を発揮できる耐性、等が必要なのである。
【0009】
そこで上述したような耐久性、耐熱性における問題を解決するために、例えば特許文献1においては、ITOではなく酸化亜鉛系物質を用いた透明導電性基板を製造するための酸化亜鉛系透明導電性基板の製造方法が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2007−115656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この特許文献1に記載の発明によれば、熱変形もなく透明で導電性が良好な透明導電性基板が得られるが、かかる酸化亜鉛系物質を透明電極とした透明導電性基板を実際にタッチパネルの構成部材として用いると、前述したITOの場合において生じた諸問題は未だ充分に解決されないことがわかった。即ち、製造時において熱変形がなくとも、実際に長時間の使用を想定した場合、透明電極膜にクラックが生じてしまうこと、発熱体に長期間接することにより酸化亜鉛系物質による透明電極の電気抵抗値が高くなってしまう、という問題に対し充分に解決できていないのである。またその製造方法に用いる装置の構成よりロール・ツー・ロールと呼ばれる連続した製造が出来ない点も実際の製造速度、製造コスト等を考えると必ずしも有利とは言えない。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来のITOを積層してなる透明導電性基材に比して低い電気抵抗値を有すると同時に外部からの熱に対して耐熱性を備えてなるような、つまり長期間にわたり安定した性能を発揮できる耐性を備えた透明導電性基材を得られる製造方法、製造装置、及びかかる方法又は装置により得られる透明導電性基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の製造方法に関する発明は、少なくとも、カソード部と、基材装着部と、高周波印加部と、が設けられており、かつ前記高周波印加部が前記カソード部と前記アノード部との間に設置されてなる、スパッタリング装置を用いた、透明電極製造方法であって、前記透明電極製造方法が、少なくとも、前記カソード部近傍にターゲットを、前記基材装着部に基材を、それぞれ設置した状態において、前記カソード部近傍に向けてアルゴンガスを、前記基材装着部近傍又は前記高周波印加部近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性ガスとの混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す成膜雰囲気醸成工程と、前記高周波印加部に対し周波数10MHz以上30MHz以下の周波数を印加する高周波印加工程と、前記成膜雰囲気醸成工程と、前記高周波印加工程と、を実行しつつ、スパッタリングを実行するスパッタリング工程と、を備えていること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の透明電極製造方法であって、前記高周波印加部が誘導結合プラズマコイルであること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の透明電極製造方法であって、前記ターゲットが、酸化亜鉛を含有してなる酸化亜鉛系物質であること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の透明電極製造方法であって、前記酸化亜鉛系物質が、ガリウム−酸化亜鉛(GZO)であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに1項に記載の透明電極製造方法であって、前記反応性ガスが水素または酸素であること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項6に記載の製造装置に関する発明は、少なくとも、カソードを発生するカソード装置と、基材を装着するための基材装着装置と、前記カソード装置と前記アノード装置との間に設置されてなり、かつ周波数10MHz以上30MHz以下の周波数を印加する工程を行う高周波印加装置と、前記カソード部近傍にターゲットを、前記基材装着部に基材を、それぞれ設置した状態において、前記カソード装置近傍に向けてアルゴンガスを、前記基材装着装置近傍又は前記高周波印加装置近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性ガスとの混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す工程を行う成膜雰囲気醸成装置と、前記成膜雰囲気醸成装置と、前記高周波印加装置と、における工程を実行しつつ、スパッタリングを実行するスパッタリング装置と、を備えてなること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の透明電極製造装置であって、前記高周波印加装置が誘導結合プラズマコイルであること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項6又は請求項7に記載の透明電極製造装置であって、前記ターゲットが、酸化亜鉛を含有してなる酸化亜鉛系物質であること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の透明電極製造装置であって、前記酸化亜鉛系物質が、ガリウム−酸化亜鉛(GZO)であること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項6ないし請求9のいずれか1項に記載の透明電極製造方法であって、前記反応性ガスが水素または酸素であること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項11に記載の透明電極は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の透明電極製造方法によって、若しくは請求項6ないし請求項11のいずれか1項に記載の透明電極製造装置によって得られてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本願発明に係る透明電極製造方法であれば、ターゲット付近にアルゴンガスを、基板近傍に反応ガスを導入させることにより、ターゲットの表面状態を変化させることなく反応性スパッタリングを実行することができ、好適である。またスパッタリング中にターゲット−基板間に高周波による誘導結合プラズマを発生させ、これをアシストとして用いることができるので、反応ガスとの反応性を向上させ、その結果得られる透明導電膜における電気抵抗値を低くすることが出来る。さらに誘導結合プラズマを用いることで透明導電膜の膜質を改善し、湿度に対して変化の少ない膜を形成すること、さらに膜の抵抗値の均一性を向上させることが出来るようになり、またかかる製造方法により得られる透明電極は、安定した透明電極とすることが出来る。そして本願発明に係る製造装置であれば上記のような性質を有する透明電極を容易に製造することが出来るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0026】
(実施の形態1)
本願発明に係る透明電極製造方法につき第1の実施の形態として説明するが、その前にかかる透明電極に用いる基材は透明高分子樹脂フィルムを用いることとし、以下の説明においては透明導電性フィルムを念頭に行うこととする。但し以下の説明は基本的に基材をフィルムに限定するものではなく、例えばガラス板であっても同様に考えることが可能であることを予め断っておく。
【0027】
本実施の形態に係る透明電極製造方法は、少なくとも、カソード部と、基材装着部と、高周波印加部と、が設けられており、かつ前記高周波印加部が前記カソード部と前記アノード部との間に設置されてなる、スパッタリング装置を用いた、透明電極製造方法であって、前記透明電極製造方法が、少なくとも、前記カソード部近傍にターゲットを、前記基材装着部に基材を、それぞれ設置した状態において、前記カソード部近傍に向けてアルゴンガスを、前記基材装着部近傍又は前記高周波印加部近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性ガスとの混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す成膜雰囲気醸成工程と、前記高周波印加部に対し周波数10MHz以上30MHz以下の周波数を印加する高周波印加工程と、前記成膜雰囲気醸成工程と、前記高周波印加工程と、を実行しつつ、スパッタリングを実行するスパッタリング工程と、を備えていること、を特徴とするものである。
【0028】
以下順次説明をしていくが、まず最初に本実施の形態に係る透明電極製造方法に用いられる材料につき説明をする。
【0029】
まず基材となる高分子樹脂よりなる透明基材フィルムは、当然透明度に優れるものであればよく、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、等の樹脂フィルムを用いるとよく、本実施の形態においてはPENフィルムを用いることとする。またその厚みは、本実施の形態に係る透明導電性フィルムを用いる装置等において必要とされる透明導電性フィルムの厚みに応じた厚みであればよく、例えばタッチパネルの透明電極として用いるのであれば、基材フィルムの厚みは10μm以上200μm以下であると好ましいものとすることができる。
【0030】
次にこの高分子樹脂による基材フィルムの表面に積層されてなる導電性層につき説明する。
【0031】
この導電性層は透明基材フィルムの表面に積層されており、本実施の形態により得られる透明電極基板において導電性を司る部分となるが、その材料として本実施の形態では、例えばガリウム、インジウム、アルミニウム、ホウ素、およびその酸化物、を添加した酸化亜鉛系物質であることが好ましく、本実施の形態では酸化ガリウム−酸化亜鉛(GZO)を用いることとする。
【0032】
本実施の形態により得られる透明電極基板の導電性層の厚みは5nm以上1000nm以下であり、この厚みは最終的に設定される透明導電性フィルムの電気抵抗値により決定されればよい。
【0033】
本実施の形態により得られる透明電極基板の導電性層を積層するためにスパッタリング法を実行するに際して提供される成膜雰囲気では、アルゴン−水素混合ガスを使用するものとし、またその際の水素濃度はアルゴン−水素混合ガスにおける体積比で50%以下であるものとする。この条件とする理由については後述する。
【0034】
このような材料を用いて透明導電性フィルムが形成されるのであるが、基材フィルムと導電性層、耐熱導電性層との層間密着力をより一層好適なものとするために、導電性層を積層するに先立って基材フィルム表面にアンダーコート層を積層することが考えられる。
【0035】
アンダーコート層を積層する場合、一般的に公知な素材を用いて積層すれば良く、例えば珪素アルコキシドの加水分解物のアンダーコート剤を、グラビアコーティング法等のいわゆるウェットコーティング法により積層すれば良い。尚、本実施の形態では珪素アルコキシドの加水分解物をグラビアコーティング法により厚み50nmとなるように積層し、これをアンダーコート層とするものである。
【0036】
尚、アンダーコート層を設ける手法以外にも、例えば基材フィルム表面に対しプラズマ処理を施すことによって導電性層等の密着性を向上させる手法も考えられるが、ここではその詳述については省略する。
【0037】
また本実施の形態に係る製造方法により得られる透明導電性フィルムに対し、さらにハードコート性や反射防止性を付与することも考えられる。これらの機能性を付与するためには、基材フィルムの表面であってアンダーコート層、導電性層、耐熱導電性層、を積層しているのとは反対側の表面に従来公知の手法、物質によりハードコート層や反射防止層を積層することで対処することが出来るが、その詳述もまたここでは省略する。
【0038】
本実施の形態に係る透明電極製造方法では以上説明した部材を用いるが、ここでその製造方法につき順次説明をしていく。
【0039】
まず本実施の形態にかかる製造方法ではスパッタリング装置を用いるが、このスパッタリング装置には少なくとも、カソード部と、基材装着部と、高周波印加部と、が設けられており、また高周波印加部がカソード部と基材装着部との間に設置されている。
【0040】
まずカソード部にターゲットを設置するが、前述したとおり本実施の形態ではこのターゲットには酸化亜鉛を用いる。また同時に基材装着部に基材を設置するが、やはり前述した通り本実施の形態ではポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いる。
【0041】
このような状態としたところで、スパッタリングを行うための成膜雰囲気を作り出す成膜雰囲気醸成工程を実行する。これは、カソード部近傍に向けてアルゴンガスを、また基材装着部近傍又は高周波印加部近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性との混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す工程であり、本実施の形態では既述の通り、カソード部近傍に向けてアルゴンガスを、基材装着部近傍に向けてアルゴン−水素ガスを、それぞれ流すものとする。そしてこの成膜雰囲気醸成工程においてこのようなガスを流すことにより、透明電極基板の透明導電成膜が長時間にわたっても安定して成膜することが可能であり、また成膜に際しての反応性も向上させることができる。尚その理由については後述する。
【0042】
そして成膜雰囲気醸成工程を実行しつつ、高周波印加部に対し周波数10MHz以上30MHz以下の周波数を印加する高周波印加工程を開始し、これら2つの工程が開始されると同時にスパッタリングを実行するスパッタリング工程を実行する。
【0043】
ここでスパッタリング法による成膜に関し改めて簡単に説明すると、これはカソード付近に設置されたターゲットに向けて、イオン化させたアルゴンを衝突させることにより、ターゲット表面の原子が弾かれて飛び出し、飛び出した原子が基板に到達し、到達した原子が膜状に積み重なって成膜される、というものである。
【0044】
これが普通のスパッタリング法のごく基本的な構成であるが、その中で飛び出した原子が基板に到達する際の原子の飛び出しをさらに加速させるために、本実施の形態における透明基板製造方法では高周波印加工程を実行しているのである。
【0045】
つまり、この高周波印加工程はカソード部に設置されたターゲットから飛び出した原子が基板設置部に設置された基板に到達する間の移動を加速させるために実行される工程であり、要するに従来のスパッタリングにおける飛び出し速度をより一層加速させ、高速で飛び出すようにしたことにより、基材に到達する時の速度も当然加速されたものとなり、その結果基板表面には高速で原子が次々と到達するので、まず成膜部分が緻密になることが考えられる。そして成膜部分が緻密になるということは、膜の性質を安定させやすく、これが疎である場合に比して緻密であるが故に耐熱性の観点から長期間経過後の性能低下がさほど起こらないものと考えられる。また膜が緻密になるために、比抵抗を低下させることにもなりまた膜の抵抗値分布がより均一になるものと考えられ、また実際にそのように良好なものを得られる。
【0046】
そしてスパッタリング工程実行時における雰囲気を構成するガスとしてアルゴンガスのみならず基板近傍に反応性ガスを流すのは得られる導電層の抵抗値を制御するためであり、そのために基板近傍付近に対してはアルゴンと反応性ガスの混合ガスではなく反応性ガスのみを流すことも考えられ、また有効であるものと考えられるが、これについてはこれ以上の詳述は省略する。
【0047】
また以上の製造方法を実行するためのスパッタリング装置は、従来公知の装置構成に加え、特にカソード部と基材設置部との間に高周波印加装置を設けている点に特徴があるが、例えばこの高周波印加装置として誘導結合プラズマコイルを設置することとし、実際の反応においてこのプラズマコイル中を原子が通過するようにすれば、プラズマコイルにより発生する高周波によって原子速度が加速されて基材表面に到達し蒸着されることになるので、上述した効果をより一層明確に得られるようになる。
【0048】
また本実施の形態に係る透明導電基板の製造方法により得られた透明導電性フィルムの電気抵抗値を60℃−95%RHで250時間放置した後に測定した値Rは、放置前の電気抵抗値をRの比を小さくすることが可能であるが、これは外部からの熱および水分に対し透明導電性フィルムがさほど影響を受けないことを示している。
【0049】
尚、以上はGZO膜を想定して説明をしたが、前述したGZO以外の酸化亜鉛系物質を用いても構わないし、また求められる特性等に応じてこれとは異なる物質で構成することも考えられるが、長期間にわたり耐熱性を維持すると同時に電気抵抗値も上昇しない、という観点からGZOを用いることが好適であることを本願発明に係る発明者は見いだしたのである。
【0050】
またGZOではなくAZOを用いることも考えられるが、この場合、低抵抗化という観点からは好適な選択であると言えるが、耐熱性を維持するという点でGZOを用いた方が優れた結果を示すこと、また周知のことではあるが、AZOを用いる場合は基板温度を200℃程度までに上昇させなければ充分に密着した積層を行うことができないのに対しGZOでは基板温度を常温としたままでも密着性良く積層を実行できる、ということも併せて述べておく。
【0051】
尚、冒頭にも述べたが以上は基材を透明プラスチックフィルムとした場合を想定して説明をしたが、ガラスを用いても同様の効果が得られるものであり、また基材をガラスとした場合の種々積層物に関しても全く同様であることを述べておく。
【実施例】
【0052】
以下、本発明に係る透明基板製造方法につき、さらに実施例により説明する。
【0053】
まず基材として厚み125μmのPENフィルム(帝人デュポン(株)製 製品名「テオネックス」)を用いる。その表面にアンダーコート層として、グラビアコーティング法により厚みが50nmとなるように珪素アルコキシドの加水分解物のアンダーコート剤を積層した。これを用いて実施例及び比較例に係る積層体を製造し、比較をした。
【0054】
(実施例1)
導電性層としてGZOを200nm積層した。
積層の手法としてスパッタリング法を用いた。
スパッタリングを実行するに際して、成膜雰囲気としてアルゴン−水素混合ガスを用いた。尚水素濃度は体積比で15%であった。
また高周波印加部において周波数27.12MHzの高周波を100W印加した。
【0055】
(実施例2)
導電性層としてGZOを200nm積層した。
積層の手法としてスパッタリング法を用いた。
スパッタリングを実行するに際して、成膜雰囲気としてアルゴン−水素混合ガスを用いた。尚水素濃度は体積比で15%であった。
また高周波印加部において周波数13.56MHzの高周波を200W印加した。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様であるが、実施例1において実施した高周波印加工程をこの比較例1では行わなかった。
【0057】
以上得られた透明導電性フィルムそれぞれに対して基材の電気抵抗値を測定した後、90度の温度下で500時間放置し、その後の電気抵抗値を再び測定した。
結果を表に示す。
【0058】
【表1】










【0059】
この表及び結果から分かるとおり、積層時において高周波を印加した場合、即ち実施例により得られた透明電極の方が抵抗値の低減および長期間における性能低下が起こりにくいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、カソード部と、基材装着部と、高周波印加部と、が設けられており、かつ前記高周波印加部が前記カソード部と前記アノード部との間に設置されてなる、スパッタリング装置を用いた、透明電極製造方法であって、
前記透明電極製造方法が、少なくとも、
前記カソード部近傍にターゲットを、前記基材装着部に基材を、それぞれ設置した状態において、前記カソード部近傍に向けてアルゴンガスを、前記基材装着部近傍又は前記高周波印加部近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性ガスとの混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す成膜雰囲気醸成工程と、
前記高周波印加部に対し周波数10MHz以上30MHz以下の周波数を印加する高周波印加工程と、
前記成膜雰囲気醸成工程と、前記高周波印加工程と、を実行しつつ、スパッタリングを実行するスパッタリング工程と、
を備えていること、
を特徴とする、透明電極製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透明電極製造方法であって、
前記高周波印加部が誘導結合プラズマコイルであること、
を特徴とする、透明電極製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の透明電極製造方法であって、
前記ターゲットが、酸化亜鉛を含有してなる酸化亜鉛系物質であること、
を特徴とする、透明電極製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の透明電極製造方法であって、
前記酸化亜鉛系物質が、ガリウム−酸化亜鉛(GZO)であること、
を特徴とする、透明電極製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに1項に記載の透明電極製造方法であって、
前記反応性ガスが水素または酸素であること、
を特徴とする、透明電極製造方法。
【請求項6】
少なくとも、
カソードを発生するカソード装置と、
基材を装着するための基材装着装置と、
前記カソード装置と前記アノード装置との間に設置されてなり、かつ周波数10MHz以上30MHz以下の周波数を印加する工程を行う高周波印加装置と、
前記カソード部近傍にターゲットを、前記基材装着部に基材を、それぞれ設置した状態において、前記カソード装置近傍に向けてアルゴンガスを、前記基材装着装置近傍又は前記高周波印加装置近傍のいずれか若しくは双方に向けてアルゴンと反応性ガスとの混合ガス又は反応性ガスのいずれかを、それぞれ流す工程を行う成膜雰囲気醸成装置と、
前記成膜雰囲気醸成装置と、前記高周波印加装置と、における工程を実行しつつ、スパッタリングを実行するスパッタリング装置と、
を備えてなること、
を特徴とする、透明電極製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の透明電極製造装置であって、
前記高周波印加装置が誘導結合プラズマコイルであること、
を特徴とする、透明電極製造装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の透明電極製造装置であって、
前記ターゲットが、酸化亜鉛を含有してなる酸化亜鉛系物質であること、
を特徴とする、透明電極製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載の透明電極製造装置であって、
前記酸化亜鉛系物質が、ガリウム−酸化亜鉛(GZO)であること、
を特徴とする、透明電極製造装置。
【請求項10】
請求項6ないし請求9のいずれか1項に記載の透明電極製造方法であって、
前記反応性ガスが水素または酸素であること、
を特徴とする、透明電極製造装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の透明電極製造方法によって、若しくは請求項6ないし請求項11のいずれか1項に記載の透明電極製造装置によって得られてなること、
を特徴とする、透明電極。

【公開番号】特開2009−199813(P2009−199813A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38673(P2008−38673)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】