説明

透明電気伝導性ポリマー

【課題】 高い純度でポリ(9−アミノアントラセン)を製造する。
【解決手段】 アントラキノンを含まない又は実質的に含まないポリ(9−アミノアントラセン)(P9−AA)、そのような素材の製造方法及び種々の酸化状態にあるP9−AA、並びにある置換された9−アミノアントラセン類及びそのポリマー類、9−アミノアントラセンとアニリンとのポリマー類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式(I)
【化1】

で示される9−アミノアントラセン(以下、9−AAという)から製造されるポリ(9−アミノアントラセン)類(以下、P9−AAsという)及びその製造に関する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
化学酸化法(chemical oxidative techniques)を用いて、9−AAを重合するという本発明者らの最初の試みは、幾つかは良好であり幾つかは不良という種々の結果を与えた。多くの月数を要する研究の後、1−アミノアントラセンで起こることとは反対に、9−AAの化学酸化重合は、比較的不溶性の副生成物のアントラセン(以下、AQという)を製造することを認識するに至った。これは、反応において再利用され得ず、P9−AAから除去することが難しい。
【0003】
さらなる拡張的な探索の後、発明者らは、P9−AA及び未反応の9−AA(それは溶解除去され再利用される)を製造し、そして反応生成物がAQを含まない、空気酸化法(aerial oxidation procedure)を考案した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、P9−AAを高い純度で製造することを可能にする。これは、多くの有用な特性及び用途を有する。しかしながら、P9−AAとAQとの混合物も、多くを要求しない適用(less demanding applications)には有用であり得る。
【0005】
従って、本発明は、より好ましくない形態において、そのような混合物にも及ぶ。
P9−AAは、少し着色した、透明の、電気伝導性であり、商業的に入手可能であり環境にとって無害の有機溶媒の範囲で充分に溶解性がある。P9−AAには、例えばディスプレイにおいて、例えば電界発光及び液晶表示装置、そしてある程度、電気磁気シールド・ウィンドウに拡張的に用いられている透明被膜として、多くの用途が見出されている。
【0006】
P9−AAとAQとの混合物は、要求される電気伝導量(volume conductivities)が10−3〜10−6S cm−1のオーダーである場合、静電気シールドにおける用途、及び速すぎもせず遅すぎもしない速度(rate)で電気を帯びた素材(material)上の電荷を散逸させることを望む場合、及び要求される電気伝導量が10−6〜10−9
cm−1のオーダーである場合の静電気の散逸における用途が見出される。そのような混合物は、ある物品又は表面に適用した場合、その表面に荷電するのを防ぐ、そして電気伝導量が10−10〜10−12S cm−1のオーダーである場合、帯電防止素材としての用途が見出される。
【0007】
特に、本発明は、少し着色した、透明の(100ナノメーターの厚さでの400〜800nmの範囲で、少なくとも50%の透過率)、そして電気伝導性である9−アミノアントラセンポリマー類に関する。電気伝導性として我々が意味するポリマーは、ここで定義される四探針法(four probe method)によって測定したときに、少なくとも1×10−6S cm−1の電気伝導度を示す。
【0008】
アニリンのポリマー類及びその応用は、古くから知られていた。ポリ(2−アミノアントラセン)(以下、P1−AAという)も、最近、Takakazu Yamamotoら、Macromolecules, 1993, 第26巻、6992〜6997頁に記載されている。これらのポリマー類は、ポリ(アニリン)と類似の構造を有し、青みがかった黒色、茶色から茶黒色まで変化する暗色の粉末類である。Yamamotoは、P1−AAは1×10−4S cm―1のオーダーの電気伝導性を有すると述べている。P1−AAは、蟻酸、DMF、DMSO及びNMPなどの有機溶媒に溶解し、クロロホルム及びTHFにわずかに溶解し、メタノール、エタノール、シアン化メチル、ベンゼン及びトルエンに不溶であるとYamamotoは述べている。Yamamotoは、P1−AAの透明性については示していない。
【0009】
本発明者らは、電気伝導性と同時に光透過性を要求される場合に用いることができる改善された電気伝導性、充分な透明性、及びさらに溶媒法によってフィルムなどの有用な構造物にするのを促進する溶解性を有する電気伝導性ポリマーを開発することを目的としてきた。P1−AAに対し、我々は、9−アミノアントラセンが重合され(好ましくは空気酸化又はある電気化学的方法によって)少し着色した(オフホワイト、クリーム、淡い黄など)、透明の(ここでは、100ナノメーターの厚さでの400〜800nmの範囲において、少なくとも50%の透過率を意味する)、電気伝導性ポリマー類を驚くべきことに発見した。
【0010】
特に、純粋なポリ(9−アミノアントラセン)(以下、P9−AAという)が、少し着色した、改善された電気伝導性を示し、例えば、フィルムに形成されるのに充分な溶解性を有する電気伝導性ポリマーであることが、本発明者らによって見出された。より高い電気伝導性を含むこの特性の組み合わせは、その材質を表示装置、例えばCRT、LCD等の透明被膜として用いるのに好適にする。現在のところ、高価なインジウム錫酸化物(ITO)素材がこの種の適用に用いられている。P9−AAの低い電気伝導性は、また、低いレベルの電気伝導性のみを必要とするコンピューター部品等に対する静電気シールドに用いるのに適している。従って、P9−AAとAQとの混合物のようなP9−AAの希釈された形態は、そのような適用に用いることができる。
【0011】
これらのポリマー類は、現在透明被膜に採用されている透明ITOフィルムを超える特別な利点を示す。ITO被膜は、その表面が曲げられると、その電気電気伝導性の殆ど又は全てを失う。しかしながら、本発明のポリマー類は、曲げられた時でも、その電気伝導性を保持する。
【0012】
本発明の一つの局面によれば、1680cm−1におけるIRピーク及びAQの特徴である1300及び1350cm−1の間に4つのピークの固まりが存在しないことによって証明されるように、9−AAが重合して、AQを含まない又は実質的に含まないP9−AAが製造される。
【0013】
本発明はまた、0〜1.0のの酸化状態、及び次の0の酸化状態での式(II)及び1.0の酸化状態での式(III)を有するP9−AAにも及ぶ。
【化2】

(式中、nは10〜100までの整数、好ましくは50〜80、例えばおよそ70である。)
【0014】
オリゴマー類として言及される、低いnの値、例えば2〜10を有するポリマー類は、高い溶解性を有するが、熱安定性は低い。
【0015】
本発明はまた、0.25〜0.75の間の酸化状態、下記の0.25の酸化状態での式(IV)、0.5の酸化状態での式(V)及び0.75の酸化状態での式(VI)を有するP9−AAにも及ぶ。
【化3】

(式中、pは2〜25の整数、好ましくは10〜20、例えばおよそ15〜20である。)
【0016】
本発明のP9−AAは、改善された電気伝導性を示し、それ故、EMI、RFI(電磁妨害、無線干渉)、シールド素材及び電界発光及び透明電極としての液晶表示システムなどの表示システムなどの薄膜技術において有用である。
本発明のP9−AAはまた、直接に、化学的又は電気化学的に、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート又はポリプロピレンのような多孔質ポリマー・フィルム上に蒸着され、及び/又は多孔質ポリマー・フィルム中にしみ込ませることができる。そのようにして形成された部品の表面は、永久に電気伝導性であり、良好な帯電防止特性を有する。
【0017】
この表面は、着色された染料又は色素によって染色され、着色によって帯電防止特性は損なわれない。この方法は、複合材料(composites)から織られた帯電防止床及びマットを可能にする。
【0018】
さらに、タルク又はマイカのような非電気伝導性素材は、本発明のP9−AAで化学的に又は電気化学的に被覆される。そのような被覆された粉末は、電気伝導性ポリマー複合材料形成のための充填物(フィラー)として有用である。
さらに、溶媒溶解性ポリマー類の溶液は、非電気伝導性表面上に噴霧され、そこから溶媒が蒸発したとき、電気伝導性になる。得られたフィルムは、表示装置に用いることができる。
【0019】
P9−AAは、他のポリマー類(又は結合剤(binder))と共に用いることができる。P9−AA−結合剤混合物(blend)は、5〜70重量%のP9−AAと95〜30重量%の他のポリマー類からなる。そのP9−AAが混合されるポリマー類は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ポリエチレンテレフタレート又はポリ(エチレン・オキサイド)である。
【0020】
これらの混合物は、充分な電気伝導性を有し、低濃度のP9−AAでの良好な帯電防止特性を与える。より高い濃度では、混合物は、シールドに有用な電気伝導性レベルを有する。
【0021】
さらに、P9−AAは、混合物に所望の電気的特性を直ちに付与し、そしてアルキルアンモニウム塩とは異なり、そのポリマーに電気伝導性を付与するために湿気を必要としない。
【0022】
電気伝導性接着剤は、本発明のP9−AAを用いて形成できる。
【0023】
本発明の純粋なP9−AAは、空気酸化によって製造される。例えば空気の存在下、緩和な塩基性条件、例えば5%アンモニア溶液を用いて、一定時間にわたりpH8〜10の範囲での酸性溶液の中和工程を経た後、溶液をpH5〜6.5の範囲に、少なくとも2時間維持することによって、9−AAが酸化され、9−アミノアントラセン・塩酸塩からポリマーを得る。
【0024】
その溶液を、5〜6.5、好ましくは5.5〜6.2、より好ましくは5.8〜6.0の範囲のpHで維持し、そしてそのpHに維持しながら、18時間までの長時間が反応生成物のIRスペクトルで検出されるAQの生成なしに使用できるが、空気中で、好ましくは室温で、少なくとも2時間、好ましくは少なくとも3時間、例えば3〜6時間攪拌する。
【0025】
空気中での攪拌は、緩和な酸化的条件を構成するだけであり;反応生成物中の検出されうるAQの生成を起こさせない限り、より酸化的な条件を排除することを目的としない。
【0026】
本発明の好ましい特定の形態におては、9−アミノアントラセンを、濃塩酸の存在下、水和化(hydrated)塩化錫及び酢酸と反応させ、9−アミノアントラセン・塩酸塩の水溶液を製造し、その溶液を空気中、室温で攪拌しながら、5%アンモニア水をpHが1.8〜2.0になるまでゆっくりと加え、その溶液をこのpHで少なくとも5分間攪拌した後、さらに5%アンモニア水をpH5.8〜6.0の範囲になるまでゆっくりと加え、攪拌をそのpHで3〜6時間続けた後、さらに5%アンモニア水を加えて攪拌を続けながらpHを8.5〜9.0の範囲にし、析出する黄色固体を回収する。
【0027】
反応は、好ましくは水中、単一の有機溶媒中、有機溶媒の混合物中又は水−溶媒混合物中のいずれかで、スラリー又は分散液も使用できるが、望ましくは9−AAが完全に溶解する選ばれた溶媒系中で行う。
【0028】
製造されたP9−AAの純度は、得られた赤外線(IR)スペクトルを精査することによって決定できる。本発明者らは、9−AAの重合への競合反応が起き、それがAQの製造であることを見出した。この化合物のIRスペクトルは、1680cm−1(シャープ)のピーク及び1300及び1350cm−1の間のピークの特色ある固まりによって特徴付けられる(AQに対するIRスペクトル、図5参照)。
【0029】
純粋なP9−AAの試料に対するIRスペクトルは、AQのこれらの特徴的なピークを示さず、このことは、反応の間に工程で起きているのは、そのポリマーの製造のみであって、競合生成物AQの製造ではないことを示している。
【0030】
本発明の第2の局面によれば、P9−AAとAQとの混合物が提供される。好ましくは、AQに対するP9−AAの比率が35:65〜99.99:0.01の範囲である。より好ましくは、それが35:65〜50:50の範囲であり、そしてそれはP9−AAの実質的な希釈において良好な電気伝導性を与え、従って経費的利点がある。75:25及びそれを越えるP9−AA対AQの割合も、良好な電気伝導性を与える。混合物は、例えば上述した空気酸化によって製造された純粋なP9−AAとAldrich Chemicals社製の99%の純度で得られる純粋なAQとの組み合わせによって得られる。
【0031】
別に、P9−AAは、モノマー9−AAを、そのモノマーより高い酸化電位を有する酸化剤によって、対イオン(counterions)を与える酸HXの存在下又は対イオンを与える酸化剤それ自身を用いるかのいずれかで酸化することによって製造されるが、これは副生成物としてAQを製造しない。酸化は、触媒の存在又は不存在下に、単一相又は複数相反応として行われる。この工程は、ここでは「化学酸化重合」と呼ぶ。
【0032】
再度、反応は、P9−AAのスラリー又は分散液でも使用できるが、望ましくはP9−AAが完全に溶解する選ばれた単一有機溶媒中、有機溶媒の混合物中又は水−溶媒混合物中のいずれかで行うのが好ましい。
【0033】
酸化剤の濃度は、9−AAモノマー濃度の0.5〜4倍の範囲が好ましい。この化学酸化重合は、室温及び110℃の間の温度で行うのが好ましい。
【0034】
好適な酸化剤の例として、塩化鉄(III)、二硫酸アンモニウム、過酸化水素、テトラフルオロ硼酸ニトロソニウム、モリブデン(V)、ルテニウム(III)、マグネシウム(III)、セリウム(IV)、銅(II)及び鉄(III)/鉄(II)、モリブデン(V)/ルテニウム(III)混合系も挙げられ、それらは塩化物類、カルボン酸塩類など、例えば酢酸塩又は硝酸塩などの塩の形で用いることができる。
【0035】
この方法によるP9−AAの製造は、P9−AAとAQとの競合反応が起こるので、これら2つの混合物を製造する。
【0036】
モノマー9−AAもまた、好適な有機溶媒中に溶解された薄膜としてキャスティング(casting)することによって重合される。酸化剤は、モノマーフィルムを、酸化剤の溶液によって洗浄又は濡らすことによってそのモノマーに適用されるか、又は酸化剤がフィルム上に被覆されてその後乾燥、例えば真空乾燥される複数層フィルムを製造する。本発明のこの薄いフィルム態様においては、酸化剤はモノマーと混合され、その後混合物が薄いフィルムとして被覆される。さらなる技術は、物品、例えばポリマーからなる織物やフィルムなどをそのモノマーの溶液で、例えばその素材をモノマー溶液に浸積し、その後そのモノマー被覆素材を酸化剤の溶液に浸積し、次いで被覆され酸化された素材を乾燥してその表面上の又はその素材の構成要素、例えば織物の繊維の表面上の電気伝導性ポリマー被覆にそれを残すことによって被覆することを含む。再度、これらの技術はP9−AA及びAQの混合物を製造する。
【0037】
化学重合はまた、酸化剤によって被覆された担体上のモノマー又はその逆のもの(vice versa)を蒸気蒸着することによって行うことができる。
【0038】
電気化学重合は、種々の条件下で行われる。重合が起こる電極は、用いられる電解質中で不活性な電気伝導体からなっているのが好ましく、その例としては白金、グラファイト、インジウム錫酸化物、タングステン、チタニウム、ニオビウム、ニッケル及び鉛からなるもの、例えば白金化チタニウムである。
【0039】
電気化学重合において用いられる支持電解質の陰イオンは、対イオン、Cl、Br、SO2−、BF、PF、HPO、HPO、ClO、スルホン酸アリール、アレン・ジカルボキシレート、アレン・カルボキシレート、ポリスチレン・スルホネート、ポリアクリレート、C−Cアルキルスルホネート、ビニール・スルホネート、ビニール・ベンゼン・スルホネート、セルロース・スルホネート、セルロース・スルフェート又はパーフルオロ化ポリアニオン(perfluorinated poly anion)のいずれかが挙げられる。
【0040】
ポリマーは、一定電位又は一定電流での電気重合によって、又は反復循環ボルタンメトリー(repetitive cyclic voltammetry)などの電位動的法(potential dynamic method)によって得られる。
【0041】
電気化学重合は、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、ニトロメタン、ニトロベンゼン、プロピレン・カーボネート、ジクロロエタン、N−メチルピロリドン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチル・スルホキサイド、ジクロロベンゼンなどの極性有機溶媒、例えば1,4−ジクロロベンゼン又はトリクロロベンゼン又はこれら二つ又はそれ以上の混合物中で行う。有機溶媒中での重合は、ピリジンなどのプロトン吸収剤の存在下に行う。特に好ましい系では、我々は、溶媒として1,2−ジクロロベンゼン、支持電解質としてテトラブチルアンモニウム・パークロレートを用いてきた。このような電気重合は、一定電流及び一定電位の両方で行われてきた。
【0042】
他の電気化学重合条件は、水性媒体、例えば水性酸性媒体を含む。
電気化学重合は−80℃と50℃の間の温度で行うのが好ましい。
【0043】
本発明の第3の局面は、P9−AA類の前駆体、つまり下記式(VII)
【化4】

(式中、R及びR‘はH又はある特定された基である)
で示される9−アミノアントラセン(以下、9−AAという)誘導体、対応するポリ(9−アミノアントラセン)類及びそれらの製造に関する。このポリマー類は、少し着色しており、透明で、電気伝導性であり商業的に入手可能な環境に無害な有機溶媒にかなり溶解する。これらのポリマー類には、多くの用途、例えば帯電防止適用及び電磁的及び静電気シールドウィンドウにおける用途が見出されている。
【0044】
特に、本発明は、少し着色した、透明の(100ナノメーターの厚さで、400〜800nmの範囲で少なくとも40%の透過率)ある置換された9−AAポリマー類に関し、そしてそれらは選択された適用に好適なレベルで電気伝導性である。例えば、10−12〜10−10S cm−1の電気伝導度は、帯電防止適用に適しており、一方、静電気的シールド/スクリーニングには、10−6〜10−3の範囲の電気伝導度が必要である。ポリマー類の好適なドーピングは、電気伝導性を高めるのに用いることができる。
【0045】
出願人は、4,5−ジクロロ−9−アミノアントラセンが、英国特許庁によって引用されたケミカル・アブストラクト、No.95:203132、そしてそれがI. I. Schuster, J. Org. Chem. 1981, 46、5110-5118頁の要約であること、から公知化合物であることを知っている。
【0046】
本発明の第3の局面によれば、置換された9−AA部分は、一般式(VII)
【化5】

(式中、RはR‘と同一又は異なっていてもよく、水素原子(R=R’=Hのときは、この化合物は9−AAである)、又はCH、CHCH−、−OCH、−OCHCH、−CHOCH、−CHOCHCHOCH、メトキシエトキシエトキシメチル、アリールオキシメチル、フェニル、Cl、Br、CN又はNO、−CHCOOR又は−CHNHCOR”(ここで、R”はC−Cアルキル又はフェニル又はビフェニル基である)である、但しR及びR’は両者共に水素ではない。)
で示される。
【0047】
本発明はまた、酸化状態0〜1.0及び下記の0の酸化状態での式(VIII)及び1.0の酸化状態での式(IX)を有するポリ(9−アミノアントラセン)類(以下、P9−AAsという)に及ぶ。
【化6】

(式中、R及びRは同一又は異なっていてもよく、R1‘及びR2’は同一又は異なっていてもよく、R及びRと同一又は異なっていてもよく、nは10〜100、好ましくは50〜80の範囲の整数、例えばおよそ70である。)
【0048】
小さいnの値、例えば2〜10を有するポリマー類、そしてそれらはオリゴマーと呼ばれるが、より高い溶解性を有するが、熱安定性は低い。
【0049】
好ましくは、R=R=R=R=H及びR1’=R2’=R3’=R4’=CH、CHCH−、−OCH、−OCHCH、−CHOCH、−CHOCHCHOCH、メトキシエトキシエトキシメチル、アリールオキシメチル、フェニル、Cl、Br、CN又はNO、−CHCOOR又は−CHNHCOR”(ここで、R”はC−Cアルキル又はフェニル又はビフェニル基である)である。
【0050】
本発明はまた、0.25〜0.75の間の酸化状態、及び下記の0.25の酸化状態での式(X)、0.5の酸化状態での式(XI)及び0.75の酸化状態での式(XII)を有するP9−AAsに及ぶ。
【0051】
【化7】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びRは同一又は異なっていてもよく、R1’、R2’、R3’、R4’、R5’、R6’、R7’及びR8’は同一又は異なっていてもよく、R、R、R、R、R、R、R及びRと同一又は異なっていてもよく、pは2〜25、好ましくは10〜20の範囲の整数、例えばおよそ15〜20である。)
【0052】
好ましくは、R=R=R=R=R=R=R=R=Hであり、R1’=R2’=R3’=R4’=R5’=R6’=R7’=R8’=CH、CHCH−、−OCH、−OCHCH、−CHOCH、−CHOCHCHOCH、メトキシエトキシエトキシメチル、アリールオキシメチル、フェニル、Cl、Br、CN又はNO、−CHCOOR又は−CHNHCOR”(ここで、R”はC−Cアルキル、フェニル又はビフェニル基である)である。
【0053】
好ましい置換位置は、B環(上記式(VII)中のアミノ基の右側の環)の2位である。
【0054】
本発明の2−置換9−AAモノマー類は、2−置換アントラセン類から、制御された緩和な条件下での9位での立体選択的ニトロ化及び好適な還元剤による還元を経て製造される。このニトロ化は、分子中の他の位置よりもむしろ9位での優先的なニトロ化を保証するために緩和である必要がある。Nガスによるニトロ化はもう一つの有用な技術である。
【0055】
【化8】

本発明のポリ(9−アミノアントラセン)(以下、P9−AAという)誘導体は、電気伝導性であり、透明であり、それ故、EMI、RFI(電磁妨害、無線干渉)シールド素材として、そして静電気シールド/スクリーニング適用及び帯電防止適用としての薄膜技術において有用である。
【0056】
ある9−AA誘導体(例えば2−メチル−9−アミノアントラセン及び2−エチル−9−アミノアントラセン)は、かなり溶解性、つまり有用な典型的有機溶媒類(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFP)、蟻酸及びトリフルオロ酢酸(TFA))に、少なくとも0.8%(m/v)溶解する。これは、結合剤(binders)(つまり溶解する他のポリマー類)と共に又はそれ無しに作られる被覆組成物を可能にする。このポリマー−結合剤混合物は、5〜70重量%のP9−AA誘導体及び95〜30重量%の他のポリマーを含む。このP9−AA誘導体が混合されてもよいポリマーは、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンオキサイドである。
【0057】
これらの混合物は、充分な電気伝導性を有しP9−AA誘導体の低い濃度では良好な帯電防止特性を与える。その高い濃度では、混合物は、シールドとして有用な電気伝導性のレベルを有する。
【0058】
さらに、P9−AA誘導体は、所望の電気的特性を直ちに混合物に付与し、アルキルアンモニウム塩とは異なり、ポリマーに電気伝導性を付与するために湿気を必要としない。
【0059】
電気伝導性接着剤は、本発明のP9−AA誘導体を用いて製造される。
【0060】
本発明のP9−AA誘導体は、化学的に及び/又は電気化学的に直接に、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート又はポリプロピレンなどの多孔質ポリマーフィルム蒸着され、及び/又は多孔質ポリマーフィルム中に染み込む。そのように形成された構成物の表面は、永久的に電気伝導性であり、良好な帯電防止特性を有する。
【0061】
この表面は、着色染料又は顔料で塗られ、帯電防止特性を損なうことなく色修飾される。この方法は、そのような複合材料から織られた帯電防止床及びマットを可能にする。
【0062】
さらに、タルク又はマイカなどの非電気伝導性素材は、本発明のP9−AA誘導体によって、化学的又は電気化学的のいずれかによって被覆される。そのように被覆された粉末は、電気伝導性ポリマー複合材料の形成のための充填物として有用である。
【0063】
さらに、溶媒溶解性ポリマー類の溶液は、その後そこから溶媒が蒸発したときに電気伝導性となる非電気伝導性表面上に噴霧することができる。
【0064】
本発明のP9−AA誘導体は、モノマー9−AA誘導体を、このモノマーよりも高い酸化準位を有する酸化剤によって、対イオンを提供する酸HXの存在下又はそれ自身が対イオンを提供する酸化剤の存在下のいずれかで、酸化することによって製造される。酸化は、触媒の存在下又は不存在下に、そして単一相又は複数相反応として行われる。
【0065】
反応は、9−AA誘導体が完全に溶解するように選ばれた、単一の有機溶媒中、有機溶媒の混合物中又は水−溶媒混合物中で行うのが好ましい。
酸化剤の濃度は、9−AAモノマーの濃度の0.5〜4倍の範囲が好ましい。
化学重合は、室温と110℃の間の温度で行うのが好ましい。
【0066】
好適な酸化剤の例としては、塩化鉄(III)、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、テトラフルオロ硼酸ニトロソニウム、モリブデン(V)、ルテニウム(III)、マグネシウム(III)、セリウム(IV)、銅(II)及びまた、鉄(III)/鉄(II)、モリブデン(V)/ルテニウム(III)混合系中が挙げられ、そしてそれらは、ハロゲン化物、カルボン酸塩などの塩の形態、例えば酢酸塩又は硝酸塩の形で用いられる。
【0067】
モノマー9−AA誘導体は、好適な有機溶媒中に溶解された薄膜にキャスティングされることによっても重合される。酸化剤は、酸化剤溶液中でモノマーフィルムを担持する物品を洗浄又は濡らすことによってモノマーに適用するか、又は酸化剤は、例えば真空乾燥によって乾燥された後に複数層フィルムを製造するフィルムの上に被覆される。
【0068】
さらなる技術は、例えばモノマーの溶液によるポリマーの物品、例えば織物又はフィルムを、例えばその素材をモノマー溶液に浸積し、その後酸化剤の溶液中にモノマー被覆された素材を浸積し、次いで被覆され、酸化された素材を乾燥することによって、電気伝導性ポリマー被覆をその表面に残すか、又は素材、例えば織物の繊維の構成要素の表面に残すことを含む。
【0069】
化学重合は、モノマーの酸化剤又はその代替物で被覆された担体上にモノマーを蒸気蒸着することによっても成される。
【0070】
本発明のポリマーは、種々の条件下に電気化学的にも製造される。重合が起きる電極は、用いる電解質中で不活性な電気伝導体からなっているのが好ましく、その例としては、白金、グラファイト、インジウム錫酸化物、タングステン、チタン、ニオブ、ニッケル又は鉛からできたものであり、例えば白金化チタンである。
【0071】
電気化学重合のための支持電解質の陰イオンは、対イオン、Cl、Br、SO2−、BF、PF、HPO、HPO、ClO、アリール・スルホネート、アレン・ジカルボキシレート、アレン・カルボキシレート、ポリスチレン・スルホネート、ポリアクリレート、C1−C6アルキル、スルホン酸塩、ビニル・スルホネート、ビニル・ベンゼン・スルホネート、セルロース・スルホネート、セルロース・スルフェート又はパーフルオロ化ポリアニオンのいずれかが挙げられる。
【0072】
ポリマーは、一定電位での、又は一定電流又は反復循環ボルタンメトリーなどの電位動的法(Potential dynamic method)による電気重合によって得られる。
【0073】
電気化学重合は、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ポリプロピレン・カーボネート、ジクロロエタン、N−メチルピロリドン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド又はジクロロベンゼンなどの極性有機溶媒中、例えば1,4−ジクロロベンゼン又はトリクロロベンゼン又はこれら2つ又はそれ以上の混合物中で行う。有機溶媒中での重合は、ピリジンのようなプロトン吸収剤の存在下に行うことができる。他の電気化学重合条件は、水性媒体、例えば水性酸性媒体を含む。電気化学重合は、―80℃及び50℃の間の温度で行うのが好ましい。
【0074】
第4の局面における本発明は、9−アミノアントラセン(以下、9−AAという)とアニリンとの共重合体及びそれらの製造に関する。共重合体は、少し着色しており、透明で、電気伝導性であり、商業的に入手可能であり環境に無害な有機溶媒の範囲でかなり溶解性である。これらの共重合体は、例えば透明被膜、表示装置に広く用いられ、例えば電界発光及び液晶表示装置及びある程度の電磁シールドウィンドウ及び静電気シールド適用の用途が見出される。
【0075】
特に、本発明のこの第4の局面は、少し着色しており、透明で、適切にドープされたとき、及びここで定義した四探針法によって測定したときに少なくとも1×10−6S cm−1の電気伝導度を示す、ある共重合体に関する。
【0076】
出願人は、英国特許庁が引用した三つの雑誌記事を知っている。すなわち、A. Everaertsら、Polym. Prepr. (Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem.) 24 (7), 1703-16頁(1986)(以下、Everaertsという);P. A. Williamsら, Macromolecules 1993, 26, 5820-5821頁(以下、Williamsという)及びH. W. Booneら、Polym. Prepr. (Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem.) 37 (1) 676-7頁(1996)。
【0077】
本発明者らは、電気伝導性だけでなく、溶媒法による、フィルムのような有用な構造に作り上げるのを促進する溶解性に加えて、光透過性を要求される場合に使用できる充分な透明性を有する電気伝導性共重合体の開発を目指してきた。P1−AAと対照的に、驚くべきことに、9−AAとアニリンとの共重合体が少し着色しており(オフホワイト、クリーム及び淡い黄色)、透明で、電気伝導性ポリマーであることを、我々は発見した。
【0078】
これらの共重合体は、現在透明被膜として採用されている透明なインジウム錫酸化物(ITO)フィルムよりも特に利点を示す。ITO被膜は、表面が曲げられるとその電気伝導性を失う。しかしながら、本発明の共重合体は、曲げてもその電気伝導性を維持する。
【0079】
この本発明の第4の局面によれば、9−AAとアニリンとの共重合体が製造される。
【0080】
本発明はまた、一般式(XVI)
【化9】

(式中、nは4〜50、好ましくは8又は10〜40、より好ましくは10〜25の範囲の整数であり、例えば15〜20である。)
で示される共重合体に及ぶ。
【0081】
小さいnの値、例えば2〜4を有するモノマー、そしてそれらはオリゴマーと呼ばれるが、高い溶解性を有するが、熱安定性は低い。
【0082】
本発明のこの局面の共重合体は、電気伝導性を有し、EMI、RFI(電磁妨害、無線干渉)シールド素材として、薄膜技術においてに有用であり、透明電極としての電界発光及び液晶表示システムなどの表示システムにおいて有用である。
【0083】
本発明のこの局面のある共重合体は、かなり溶解性である。つまり有用な典型的な有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFP)、蟻酸及びトリフルオロ酢酸(TFA))に、少なくとも1%(m/v)溶解する。これは、結合剤(binders)(すなわち、溶解性の他のポリマー)と共に又はそれ無しで被覆組成物を作ることを可能にする。共重合体−結合剤混合物は、5〜70重量%の共重合体と95〜30重量%の他のポリマーを含む。共重合体が混合されるポリマーは、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンオキサイドである。
これらの混合物は、充分な電気伝導性を有し、低い共重合体の濃度において良好な帯電防止特性を与える。より高い濃度では、混合物は、シールドに有用な電気伝導性のレベルを有する。
【0084】
電気伝導性接着剤は、本発明の共重合体を用いて製造される。
【0085】
本発明の第4の局面の共重合体はまた、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート又はポリプロピレンなどの多孔質ポリマーフィルム上に化学的に及び/又は電気化学的に直接蒸着することができ、及び/又は多孔質ポリマー中に染み込ませることができる。そのようにして形成された部材の表面は、永久的に電気伝導性であり、良好な帯電防止特性を有する。
【0086】
この表面は、着色染料又は顔料によって彩色され、その帯電防止特性が損なわれることなく色修飾される。この方法は、その複合材料から織られる帯電防止床及びマットを可能にする。
【0087】
さらに、タルク又はマイカのような非電気伝導性素材は、本発明の共重合体によって、化学的に又は電気化学的に被覆される。そのような被覆された粉末は、そこから溶媒が除去されたとき電気伝導性になる、非電気伝導性表面上に噴霧できる。得られるフィルムは、表示装置に用いることができる。
【0088】
本発明の第4の局面の共重合体は、9−AAとアニリンとを、適当な酸化剤を用いて共重合させることによって製造される。好ましくは、酸化剤は、過硫酸アンモニウムである。典型的には、9−AAを適当な溶媒に溶解する。この溶液を室温で攪拌し、水中のアニリンと酸の混合物を加える。9−AA:アニリンの異なるモル比、好ましくは1:5〜20:1、より好ましくは1:2〜8:1、最も好ましくは1:2〜2:1の範囲とする。水中の過硫酸アンモニウムを加え、溶液をそれが均一になるまで攪拌する。溶液が着色するまで攪拌する。それは典型的には少なくとも6時間を要する。その後濾過し、水、メタノールで洗浄し、数時間、例えば5〜6時間、50℃で真空中で乾燥する。
【0089】
共重合体をドープし、その電気伝導性を高める。好適なドーパント(dopants)としては、カンファースルホン酸(CSA)、5−スルホサリチル酸(5−SSA)、塩酸(HCl)及びフッ化硼素酸が挙げられ、例えばHBFである。
【0090】
本発明は、種々の方法によって実用化され、数多くの特定の態様が記載され、伴われる実施例に言及しながら本発明を具体的に示す。そしてそれは、好結果の本発明で用いるためのモノマーの合成、それから作られるポリマー類、種々の重合方法及びポリマー類のドーピングのための技術を示す。ポリマー類のドーピングは、電気伝導性を増加させるための通常の技術である。
【実施例】
【0091】
以下の実施例1及び2は、モノマー9−AAの製造に関し;実施例3〜9は、空気酸化及び電気化学的手段によるモノマー類の重合に関する。実施例10〜12は、9−AAポリマー類のドーピングに関する。実施例13〜21は、P9−AAとAQとの混合物に関する。
【0092】
全ての反応工程及び特性の測定は、特に断らない限り、室温及び常圧で行われる。
【0093】
ポリマー類の電気伝導度は、試料ポリマーの標準ディスク(standard disc)に関して四探針法によって測定された。この方法は次のとおりである。粉末化されたポリマーを均一厚さの薄いペレットに圧縮する。線状スプリング荷重四探針電気伝導度セル(linear spring loaded four probe conductivity cell)を用いて電気伝導度を測定する。外側の2つの電極を用い、電流(I)を測定し、内側の2つを横断して電位(V)を測定する。そして、以下の式に従って電気伝導量を計算する:
【0094】
【数1】

【0095】
実施例1及び2−モノマーの製造
【0096】
実施例1
9−ニトロアントラセンの製造
【化10】

【0097】
アントラセン(10.0g、0.056モル)を、機械的攪拌基付きの三つ口の丸底フラスコ中の氷酢酸(40ml)に懸濁し、20〜25℃に維持した。濃硝酸(70重量%、比重1.42)(4.0ml)を15分間かけて、激しく攪拌しながら滴下し、フラスコの温度を30℃未満に維持した。1時間後、濃塩酸(50ml)及び氷酢酸(50ml)の混合物を透明の溶液にゆっくりと加えた。淡い黄色の9−ニトロ−10−クロロ−9,10−ジヒドロアントラセンが分離し、そしてそれを吸引濾過し、25mlの氷酢酸で洗浄し、洗浄液が中性になるまで水で十分に洗浄した。生成物を漏斗から回収し、温かい(60〜70℃)10%水酸化ナトリウム溶液によってすりつぶし、吸引濾過した。黄色の粗9−ニトロアントラセンを洗浄液が中性になるまで温水で洗浄し、固体を空気乾燥した。この固体を氷酢酸から再結晶した。収量9.8g(78%)
【0098】
IR:γmax(臭化カリウムディスク):1520(N=O)、1450、1380、1320、900、840及び730cm−1(9−ニトロアントラセンのIRスペクトルである図1参照)。
δ(270 MHz)H NMR(ppm):8.35(s、1H)、7.85(m、4H)、7.51(t、2H、J 7.6 Hz)、7.39(t、2H、J 7.5 Hz)。
13C NMR(δ ppm):143.9(1C、CNO)、130.4(2C)、128.7(2C)、128.2(2C)、125.9(2C)、122.3(2C)及び121.1(2C)。
【0099】
実施例2
9−アミノアントラセンの合成
氷酢酸(200ml)中の9−ニトロアントラセン(9.98g;0.045モル)(実施例1で製造したもの)を、完全に溶解するまで70〜80℃で1時間30分加温した。この均一溶液に、塩酸(150ml)中の塩化錫(II)(42.5g;0.224モル;5モル当量)を70℃で、滴下漏斗を通して加えた。濃塩酸中の塩化錫(II)の約75mlを加えた後、黄色の沈殿物の形成が始まった。塩化錫溶液の残りを加え、溶液を80℃でさらに半時間攪拌し、その後室温まで冷却した。薄い黄色の固体を濾過し、少量の濃塩酸で洗浄し、吸引乾燥した。
【0100】
9−アミノアントラセン・塩酸塩のIR(臭化カリウムディスク):γmax 3380、3260、1680、1610、1485、1385、1160、800及び735cm−1(9−アミノアントラセン塩のIRスペクトルである図2参照)。1680cm−1のピークは、アミノ塩を特徴付けるものであるが、1300及び1350cm−1の間の4つのピークの特徴的な固まりが存在しないことは、AQが存在しないことを確認するものである。(さらに、分析は、この塩が実際には、塩酸塩よりもむしろ四塩化錫塩であることを明らかにする。)
【0101】
生成物を、5%水酸化ナトリウム溶液と共に室温で約15分間攪拌した。粒状の茶色の固体を平底のガラス棒ですりつぶした。中和された黄色の固体を吸引濾過し、多量の蒸留水で充分に洗浄した。9−AAを50℃で6時間真空乾燥した。生成物の薄層クロマトグラフィー(t.l.c.)は、生成物が純粋であることを示した。
【0102】
IR(臭化カリウムディスク):γmax 3380、3060、1630(d)、1600、1370、1320(C−N)及び730cm−1(9−AAのIRスペクトルである図3参照)。
H NMR(300 MHz)、δ:4.79(br s、2H、NH)、7.39(m、4H)、7.85(s、1H)及び7.90(dd、4H、J 1.3及び8.3 Hz);マススペクトル m/z(質量/電荷)(%):193(100、M)、179(6)及び165(21)。
【0103】
実施例3〜9−ポリマー類の製造
【0104】
実施例3
空気酸化によるP9−AAの合成
典型的な工程:
実施例2で中間体として製造された9−AA塩(10.0g;0.044モル)を機械的に攪拌しながら、5%アンモニアをゆっくりと加えた。溶液のpHを1.5〜2.0の範囲にすると、混合物は、暗緑色になった。この懸濁液を、このpHで15分間攪拌した後、さらにpHが5.8〜6.0の範囲になるまでアンモニアを加えた。
【0105】
この溶液を、攪拌しながら3時間、pH5.8〜6.0に維持した。(穏和な酸性pHに溶液を維持するこの工程は、少なくとも2時間そして好ましくは少なくとも3時間、例えば3〜6時間、室温で行えば、充分にポリマーが製造され、色の変化は必ずしも観察されないことを、我々は見出した。)
【0106】
その後、さらに過剰になるまでアンモニア溶液を加え、溶液のpHを8.5〜9.0の範囲にした。着色した溶液は、次いで黄色に変わり、黄色の固体が形成された。この固体を吸引濾過し、蒸留水で充分に洗浄し、真空下に乾燥し、60℃で6時間乾燥した。収率は8.8gであった。
【0107】
黄色の固体(5.0g)をクロロホルム(200ml)に入れ、4時間還流し、室温まで冷却し、不溶性の固体を濾過により除いた。その固体を、再度クロロホルム(150ml)中にとり、さらに3時間還流し、吸引濾過により除いた。濾液を一緒にし、ロータリー・エバポレーターで除去した。両方の生成物は、真空下に50℃で6時間乾燥した。クロロホルム不溶性の白色固体(3.4g)は、P9−AAであると同定され、クロロホルム溶解画分から得られた固体は、中性の9−AA(1.4g)と同定された。
【0108】
P9−AAの電気伝導度は、四探針法で測定したところ、1.3×10−3から8.5×10−4S cm−1であった。ガラス顕微鏡スライド上でのメタノール性塩酸から作られるP9−AAの薄膜フィルムは、400〜800nm領域で52%の透過率を示した(薄膜フィルムの厚さは7μmであった)。これは比較的厚いフィルムであり、厚さ100nmでの、透過率はより高いことが期待できる。この薄膜フィルムの電気伝導量は9.2×10―3S cm−1であった。
【0109】
この純粋なP9−AAの熱重量分析は、600℃、窒素下で、14%の重量損失を示した。
【0110】
溶解性は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)及び1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFP)中で0.75%であった。P9−AAは、狭い質量分布を示し、数平均(M)及び重量平均(M)分子量は、それぞれジメチルホルムアミド中でのゲル浸透クロマトグラフィー(標準としてポリスチレン)で測定したところ約27,000であり、1に近似した多分散(polydispersity)を示した。
【0111】
P9−AAのIR(臭化カリウムディスク)スペクトル(図4参照)は、γmax:3000(br、NH)、1635(C=N)、1400(C−H)及び600(Ar)cm−1においてブロードな吸収を示した。それらの全てが、AQの存在の特徴である(図5参照)、1680cm−1におけるピーク及び1300と1350cm−1の間のピークの固まりの何れも無いことに注意すべきである。従って、P9−AA生成物は競合生成物AQを含まないと結論できる。
【0112】
固体状態のH NMRは、それ程有益ではないが、固体状態13C NMRは、δppm:65.0、72.9、88.5、97.6、104.9、118.9、127.6及び166.7においてブロードなシグナルを示した。
【0113】
実施例4
クロロホルム中、塩化鉄(III)を用いた9−AAの化学酸化重合
9−AA(0.5g、2.59ミリモル)(実施例2参照)を、乾燥クロロホルム/メタノール混合物(2:1;75ml)中に溶解し、乾燥クロロホルム(50ml)中の無水塩化鉄(III)(1.68g;10.36ミリモル)の攪拌溶液に加えた。その溶液を攪拌し、窒素下で8時間還流した後、室温で一晩攪拌した。溶媒の殆どを蒸発により除去し、メタノール(200ml)を残渣に注いだ。分離した固体を吸引濾過した。生成物を再度メタノール−水(1:1;50ml)中に取り、6時間還流した。冷却された溶液を濾過し、洗浄液が、その固体がイオンを含まないことを示す、チオシアン酸アンモニウムで着色しなくなるまで、冷メタノールで充分に洗浄した。重合生成物を真空下に、50℃で乾燥した(収量:0.1g)。
【0114】
図6から、1680cm−1のピーク、及びその混合物中にAQが存在することを示す1300及び1350cm−1の間の4つのピークの特徴的な固まりがあることが分かる。しかしながら、この混合物の電気伝導性、溶解性及び透過性特性は、帯電防止表面被覆としての用途に好適である。
【0115】
電気伝導度は、2.0×10−4S cm−1であり、透過率は可視領域において80%であった。溶解性は、DMF、NMP及びHFP中で0.75%であった。
【0116】
実施例5
メタノール中での塩化鉄(III)を用いる9−AAの化学酸化重合
メタノール(100ml)中の無水塩化鉄(III)の懸濁液に、メタノール(50ml)中の9−AA(1.0g;0.0052モル)(実施例2参照)をゆっくりと加えた。この溶液を室温で18時間攪拌した後、6時間還流した。この溶液を室温まで冷却すると、淡い緑黄色固体が析出した。これを濾過し、再度メタノール(100ml)中にとり、4時間還流した。淡い茶色の固体を濾過し、真空下に、50℃で6時間乾燥した。収量:0.16g。
【0117】
図7は、再び1680cm−1におけるピーク及び混合物中のAQの存在を示す1300及び1350cm−1の間の4つのピークの固まりを示した。
電気伝導度、溶解性及び透過率データを表1に示す。
【0118】
P9−AAを5−スルホサリチル酸(100mg)と共にすりつぶし、電気伝導度を、上述した四探針法によって標準圧縮ディスクに関して測定した。電気伝導度は1.2×10−4S cm−1であり、透過率は72%であった。溶解性は、DMF、NMP及びHFP中で1.2%であった。
【0119】
実施例6
硫酸鉄(II)及び過酸化水素を用いる9−AAの化学酸化重合
三つ口フラスコ中のアセトニトリル(100ml)及び9−AA(1.0g;0.0052モル)(実施例2参照)の混合物に、蒸留水(100ml)及び濃硫酸(3.0ml)をゆっくりと加えた。この均一溶液に、室温で、FeSO・7HO(100mg;0.36ミリモル)を、激しく攪拌して加え、次いで30%H(2.0ml)を加えた。溶液は、赤味がかったオレンジ色になった。反応混合物を続けて22時間激しく攪拌した。分離した固体を濾過し、水でよく洗浄し、真空下、50℃で6時間乾燥した。得られた収量:0.19g。
図8、IRスペクトル、は、1680cm−1でのピーク及びAQの特徴である1300及び1350cm−1の間の4つのピークの固まりを示す。
【0120】
ポリマーは、5−スルホサリチル酸によってドープされ、四探針法によって3.1×10−5S cm−1の電気伝導度を与えた。
透過率及び電気伝導度データを表1に示した。溶解性は、DMF、NMP及びテトラフルオロ酢酸(TFA)中で2.2%であった。
【0121】
実施例3と比較すると、実施例4、5及び6の工程は、浪費生成物(waste product)、AQを製造するという欠点を有し、そしてそれは再利用できず、さらに出発物質9−AAよりもずっと価値が低い。
【0122】
さらに、AQは、9−AAよりもはるかに溶解性が低く、それ故AQによって汚染された9−AAは、未反応の出発物質9−AAを含むP9−AAよりもはるかに精製することが難しい。従って、実施例4、5及び6のルートによって作られたP9−AAが、実施例3によって作られたP9−AAよりも、不純物の量が多く、より制御し得ないというリスクがある。
【0123】
比較例1
1−アミノアントラセンの化学酸化重合
350mlの丸底フラスコ中のCHCN(80ml)と1−アミノアントラセン(0.27g、1.4ミリモル)との混合物に、蒸留水(80ml)及び硫酸(0.68ml、12ミリモル)を滴加した。得られた溶液を30℃に維持しながら、粉状のFeSO・7HO(10mg、0.036ミリモル)を、激しく攪拌しながら加えた後、31%H(0.5ml、4.5ミリモル)をゆっくりと溶液に加えた。反応混合物を、22時間空気中、30℃で引き続き攪拌し、茶色の固体を沈殿させた。この生成物を氷水で冷却し、固体を濾過し、メタノール、28%アンモニア水及びメタノールで数回洗浄した。最後に、動的真空(dynamic vacuum)中、室温で乾燥し、茶色の固体としてポリ(1−アミノアントラセン)(P1−AA)を収率90%で得た。
【0124】
図9は、P1−AAのIRスペクトルを示し、1680cm−1にピークが無く、1300及び1350cm−1の間の4つのピークの固まりが無い。
【0125】
電気伝導度は、1.0×10−5S cm−1であり、透過率は、1.5ミクロン厚で32%であった。溶解性は、NMP、DMF及びHFP中で0.6%であった。
【0126】
ポリマーは、5−スルホサリチル酸によってドープされ、四探針技術を用いて1.8×10−5S cm−1の電気伝導度を与えた。電気伝導度及び透過率データを、表1に示した。
【0127】
実施例7
9−AAの電気重合
9−AA(0.05M)の電気重合を、ニトロベンゼン中、0℃で、支持電解質としてテトラブチルアンモニウム・パークロレート[NBuClO](0.05M)を用いて行った。
【0128】
9−AA(0.39g)及び[NBuClO](7.0g)を、ニトロベンゼン(40ml)中に溶解し、氷水浴中で冷却した。3×3cmプラチナ・フラッグ電極を陽極として用い、プラチナ・ワイヤー電極を陰極として用い、Ag/AgClに対して0.85Vの一定電位を、ミニスタット・プレシジョン・ポテンシオスタット(Ministat Precision Potentiostat)を用いて6時間供給した。析出した(deposited)ポリマーを担っている陽極をクロロホルムで洗浄し、乾燥し、ポリマーを電極からこすり落とした。電解質溶液をさらに同様の方法で18時間電気重合させた。
【0129】
図10は、この一定電位での電気重合によって製造された生成物のIRスペクトルを示す。これから分かるように、1680cm−1でのピークが無く、1300及び1350cm−1の間の4つのピークの固まりが無い。これは、生成物中にAQが存在しないことを示している。
【0130】
テトラブチルアンモニウム・パークロレート[NBuClO]のIRスペクトルは図11として含まれている。再度、1680cm−1においても、1300〜1350cm−1の範囲でもピークが無いことに注意すべきである。これら二つの領域がAQの存在又は不存在を決定するために用いられているので、これは顕著である。
【0131】
電気伝導度を標準四探針技術を用い、集めたP9−AAからの圧縮ディスクについて測定したところ、<10−8S cm−1の値が得られた。
【0132】
実施例8
一定電流での9−AAの電気化学重合
0.482g(0.025M)の9−AA及び3.42g(0.1M)のテトラブチルアンモニウム・パークロレート[NBuClO]を混合した。これをo−ジクロロベンゼン100mlに加え、ポリマーが析出する電極として3cmのITOプレートプラチナ・ワイヤー・カウンター電極を用い、0.5mAの一定電流を用いて電気重合した。図14は、P9−AAの析出の時間クロノ(chrono)電位差(potentiometric)図表プロットである。それは、ポリマーフィルムの析出の間の一定電流での時間に対する電圧の変化を示している。図12は、400及び500nm厚での2つの試料に対する透過量(transmission value)を示す。(原子力顕微鏡(Atomic Force microscope)によって測定された)厚さ500nmのフィルムは、400〜800nmの範囲で、透過率80%を示した(図12参照)。電気伝導量は、P9−AA析出表面に適用された標準四探針セルを用い、非陽子化された(unprotonated)形態において0.1 S cm−1であった。
【0133】
実施例9
電極の働きをする3×3cmプラチナ・フラッグ(実施例7におけるのと同様)を用いて、実施例8を繰り返した。ベージュ/クリーム固体を掻き取り、臭化カリウムディスクを用いてIRスペクトルをとった(図13参照)。ポリマーがAQを含まず、1680cm−1におけるピーク及び1300及び1350cm−1の間のピークの固まりが無いことが観察されるであろう。ドープされていないP9−AAは、上述したように、圧縮されたディスクでの標準四探針法によって測定された、9.6×10−3〜8.1×10−4S cm−1の大きな(bulk)電気伝導性を有する。その素材は、アセトン中及びアセトニトリル中で約2%(w/v)の溶解性を有していた。
【0134】
実施例10〜12−P9−AAのドーピング
【0135】
実施例10
カンファースルホン酸による
P9−AA(0.30g)(実施例4のように作られた)を、メタノール−水(2:1;30ml)中で、1モル当量のカンファースルホン酸(0.36g)と共に6時間還流し、室温で一晩攪拌した。析出した淡い黄色の粉末を、濾過し、メタノールで洗浄し、真空下、80℃で4時間乾燥した。ドープされたポリマーの電気伝導性は、上記した標準圧縮ディスクでの四探針法によって測定され、1.5×10−3S cm−1であった。
【0136】
実施例11
パラ−トルエンスルホン酸による
P9−AA(0.30g)(実施例4のように作られた)を、メタノール−水(2:1;30ml)中で、1モル当量のp−トルエンスルホン酸(0.29g)と共に6時間還流し、室温で一晩攪拌した。固体を実施例10で記載したように後処理(worked up)をした後、電気伝導度を上記のように測定した。圧縮ディスクの電気伝導度は、2.6×10−4S cm−1であった。
【0137】
実施例12
5−スルホサリチル酸による
粉状のP9−AA(0.18g)(実施例4のように作られた)を、室温で、アセトン(25ml)中の5−スルホサリチル酸・2HO(0.47g)と一晩攪拌した。ドープされたポリマーを、吸引濾過し、真空下、50℃で4時間乾燥した。電気伝導度は、標準圧縮ディスクでの標準四探針法によって測定し、1.2×10−4S cm−1であった。
【0138】
表1は、種々のポリアミノアントラセン類の電気伝導度、透過率及び溶解性の値をまとめたものである。
【0139】
【表1】

【0140】
表1に関する注:
C=電気伝導度(S cm−1
T=400〜800nmの範囲での薄いフィルムの透過率(%)
S=溶解性(% ポリマーの質量/溶媒の体積)
5−SSA=5−スルホサリチル酸
CSA=カンファースルホン酸
p−TSA=p−トルエンスルホン酸
(1) DMF中、NMP中及びHFP中での溶解性
(2) DMF中、NMP中及びTFA中での溶解性
(3) アセトン中及びアセトニトリル中での溶解性
(4) 測定せず
【0141】
実施例13〜21−P9−AAとAQとの混合物の製造
【0142】
純粋なAQ(Aldrich Chemicals社製、99%)の電気伝導量を、標準圧縮ディスクによる標準四探針法によって測定し、それは、10−8S cm−1未満、すなわち測定不能であり、0.1マイクロアンペア〜1ミリアンペアの範囲のいかなる電流又は0.1ミリボルトから30ボルトの範囲での電位で読みとれなかった。
【0143】
空気酸化されたP9−AAの新たに製造した試料を実施例3の方法によって作り(従ってAQを含まない)、1.46×10−3S cm−1の電気伝導量を有していた。これを、純粋なAQ粉末とよく混合して標準ディスクに圧縮し、この混合物の電気導電量を標準四探針法を用いて測定した。表2に、P9−AA及びAQの混合されている重量割合、室温(20℃)での平均電気伝導度を示し、この混合物のIRスペクトルを特定した。
【0144】
【表2】

表2からわかるように、AQの存在はAQ含有量が65重量%に達した場合でさえ、AQとP9−AAの混合物の電気伝導性を顕著に減少させない。このことは、P9−AAとAQの間に電荷移動効果(charge transfer effect)があることを示している。ある電荷移動効果は、35と50%のP9−AAで起こり(電気伝導度を増加する)、もう一つは50と70%のP9−AAで起こる(電気伝導度を減少させる)。混合物組成に対する電気伝導度の直線及び半対数プロットを、図17及び18として示した。
【0145】
「期待されるプロット(expected plot)」を記載した曲線は、AQが純粋に希釈効果を有するならば期待されるものである。
【0146】
以下の実施例22〜25は、2−アルキル置換−9−アミノアントラセン類の製造に関し;実施例26及び27は、化学的手段によるモノマー類の重合に関する。
【0147】
実施例−モノマー類の製造
【0148】
実施例22
2−エチル−9−ニトロアントラセンの合成
【化11】

【0149】
2−エチルアントラセン(3.0g;0.0145モル)(Aldrich社製)を酢酸(30ml)に懸濁させた。フラスコを20〜25℃の水浴に浸し、70%濃硝酸(1.1ml;比重1.42;0.017モル)を、5分間にわたって激しく攪拌しながらパスツール・ピペットでゆっくりと加えた。混合物を25℃で4時間攪拌した。この透明な均一混合物に、滴下漏斗を通して、濃塩酸(10ml)及び酢酸(10ml)の混合物を、激しく攪拌しながら加えた。明るい黄色の固体(2−エチル−9−ニトロ−10−クロロ−9,10−ジヒドロアントラセン)が析出し、吸引濾過した。その固体を、酢酸(15ml)及び水で洗浄液が中性になるまで洗浄した。生成物を回収し、温かい(60〜70℃)10%水酸化ナトリウム溶液(25ml)ですりつぶした。黄色のニトロアントラセンを吸引濾過し、(3×10ml)の10%水酸化ナトリウム溶液で処理した。生成物を最後に洗浄液が中性になるまで温水で充分に洗浄し、真空下に乾燥した。収量:2.84g(78%)。(CDCl中での)H NMR及び13C NMRは、主生成物及び二種の少量生成物の存在を示した。従って、生成物をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー[溶媒:エーテル−石油エーテル(40〜60℃)1:1]によって精製し、結晶性の黄色固体を得た。
【0150】
IR、γmax(臭化カリウムディスク):2960、1630、1420、1280、900、780及び750 cm−1
H NMR(300MHz)δ:1.34(3H、t、CH)、2.86(2H、q、CH)、7.42(1H、d、J8.9Hz)、7.52(1H、t)、7.62(1H、dd)、7.67(1H、s、1−H)、7.97(3H、m)及び8.54(1H、s、5−H)。
【0151】
実施例23
2−メチル−9−ニトロアントラセンの合成
【化12】

【0152】
実施例1と同様の工程を用いて2−メチルアントラセン(Aldrich社製)のニトロ化を行い、2−メチル−9−ニトロアントラセンを黄色固体として得た。2−メチルアントラセン(2.0g;0.010モル)を氷酢酸(25ml)に懸濁し、この攪拌溶液に、濃硝酸(0.6ml;0.014モル)を加えた。溶液を、溶液が透明になるまで20〜25℃の水浴中で4時間攪拌した。この透明溶液に、濃塩酸及び酢酸の混合物(20ml;1:1)を滴下漏斗を通して、15分かけて加えた。黄色固体が析出した。この溶液をさらに30分攪拌し、吸引濾過した。生成物を実施例1で記載したのと同様の方法で処理し、2−メチル−9−ニトロアントラセンを黄色固体として得た(1.8g;73%)。
【0153】
H NMR(300MHz)、δ:2.55(3H、s、CH)、7.35(1H、d、3−H、J8.7Hz)、7.50(1H、t)、7.61(1H、t)、7.65(1H、s、1−H)、7.90(1H、t)、8.0(1H、d、4−H、J8.7Hz)及び8.50(1H、s、5−H)。
質量スペクトル m/z(%):237(100、M)、226(12)、208(11)、207(35)、191(34)、189(53)、178(24)、176(15)及び165(15)。
【0154】
濾液からさらに回収された生成物は、二つの生成物の混合物を含んでいた。この生成物を、シリカゲルによるカラムクロマトグラフィー[溶媒:エーテル−石油エーテル(40〜60℃)1:1]によってさらに精製し、純粋な生成物を得た。この生成物は上記と同じNMRを有する。
【0155】
実施例24
2−エチル−9−アミノアントラセンの合成
2−エチル−9−ニトロアントラセン(2.55g;0.01モル)(実施例1参照)を酢酸(20ml)に溶解した。この50℃で透明な溶液に、濃塩酸(25ml)中の塩化錫(II)(9.6g;0.051モル)を加えた。この溶液を50℃で15分攪拌し、室温まで冷却した。沈殿した黄色固体を濾過し、水で洗浄した後、10%水酸化ナトリウム溶液で中和した。アミノ誘導体を水で充分に洗浄し、空気中で一晩乾燥した後、真空下50℃で5時間乾燥した。収量1.98g(88%)。生成物は茶色に変色し、わずかにねばねばしていた。
生成物のIRスペクトルを図19に示す。
【0156】
実施例25
2−メチル−9−アミノアントラセンの合成
実施例24に記載したのと同様に塩化錫(II)(3.64g;0.0192モル)によって、2−メチル−9−ニトロアントラセン(0.91g;0.00038モル)(実施例2参照)の還元を行い、9−アミノ誘導体を茶色の粉末(0.49g;62%)を得た。薄層クロマトグラフィーによって、この化合物が純粋であることが示された。
【0157】
実施例26及び27−ポリマー類の製造
【0158】
実施例26
クロロホルム中塩化鉄(III)を用いる2−エチル−9−アミノアントラセンの重合
クロロホルム(100ml)中の塩化鉄(III)(5.58g;0.034モル)の懸濁液に、2−エチル−9−アミノアントラセン(1.90g;0.0086モル)を加えた。この溶液を室温で一晩攪拌した後、5時間還流した。冷却された溶液をメタノール(300ml)中に注ぎ、2時間攪拌した。分離した黒色がかった固体を濾過し、メタノールで洗浄した。残渣を再度メタノール(150ml)及び濃塩酸(2ml)の混合物中に取り、18時間還流した。固体を濾過し、真空下40℃で6時間乾燥した。収量は1.27g(67%)であった。上記した四探針技術を用いた標準圧縮ディスクの電気伝導度は7.5×10−6S cm−1であった。
【0159】
透過率は44%であり、溶解性はNMP及びDMF中で1%であった。この化合物のIRスペクトルを図20に示す。
【0160】
実施例27
2−メチル−9−アミノアントラセンの重合
2−メチル−9−アミノアントラセン(1.80g;0.0087モル)をクロロホルム(50ml)に溶解し、滴下漏斗を通してクロロホルム(100ml)中の無水塩化鉄(III)(5.64g;0.035モル)に滴加した。この溶液を攪拌し、窒素雰囲気下で6時間還流した後、室温で一晩攪拌した。溶媒の殆どを蒸発により除去し、残渣をメタノール(300ml)に注いだ。分離した黒色がかった固体を濾過し、再度メタノール−水(1:1)で6時間還流し、室温で一晩攪拌した。この固体を吸引濾過し、水、次いでメタノールで洗浄し、真空下60℃で5時間乾燥した。収量は0.21gであった。圧縮ディスクの電気伝導度は7.0×10−6S cm−1であった。
【0161】
透過率は56%であり、溶解性はTFA中で0.8%であった。
表3は、化学的に重合されたポリマー類の電気伝導度性、透過率及び溶解性の値をまとめたものである。
【0162】
【表3】

【0163】
表3に関する注:
C−電気伝導度(S cm−1
T−400〜800nmの範囲での薄いフィルムの透過率(%)
S−溶解性(%ポリマーの質量/溶媒の体積)
(1)−NMP中及びDMF中
(2)−TFA中
【0164】
これらの置換ポリマー類の改善された電気伝導性は、適当な酸ドーパント、例えばカンファースルホン酸、5−スルホサリチル酸、パラ−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフル酸(triflic acid))メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、塩酸及び硫酸によるこれらのポリマー類のドーピングによって得られる。ポリマー類のドーピングは、電気伝導性を増加させるための従来技術である。
【0165】
以下の実施例28及び29は、モノマー9−AAの製造に関し;実施例30〜36は9−AAモノマーとアニリンの共重合に関する。
【0166】
実施例−モノマー類の製造
【0167】
実施例28
実施例1で製造した9−ニトロアントラセンを用いた。
【0168】
実施例29
実施例2で製造した9−アミノアントラセンを用いた。
【0169】
実施例30〜36−共重合体の製造
【0170】
図21から分かるように、ポリアニリンのIRスペクトルは、ノイズが多すぎて明瞭なピークを示すことができない。図22は、9−AAとアニリンとの共重合体のIRスペクトルである。これから分かるように、このスペクトルは、9−AAとアニリンとの共重合体が製造されたことを示す明瞭なピークを有する。
【0171】
実施例30
9−AAとアニリンとの共重合体(比率8:1)
9−AA(1.0g;0.0052モル)を、アセトニトリル(100ml)中に溶解した。この磁石によって攪拌されている溶液に、水(50ml)中のアニリン(0.060g;0.0065モル)及びCSA(2.41g;0.0104モル)を加えた。この溶液が透明になるまで、室温で30分攪拌した。この均一溶液に、水(50ml)中の過硫酸アンモニウム(1.41g;0.0062モル)を加えた。オフホワイトの固体が分離する間、この溶液を室温で3時間攪拌した。これを吸引濾過し、真空下50℃で3時間乾燥した。収量は0.93gであった。
【0172】
この試料の電気伝導度は2.1×10−6S cm−1であった。
【0173】
実施例31
9−AA HClとアニリンとの共重合体(比率1:1)
9−AA HCl(1.0g)をシアン化メチル(50ml)中に溶解した。この懸濁液に、シアン化メチル(10ml)中のアニリン(0.42g)、次いで水(50ml)を加えた。この溶液を室温で2時間攪拌したが、溶液は均一にならなかった。この溶液を1時間加熱した後、室温まで冷却した。この溶液に、水(10ml)中の過硫酸アンモニウム(1.2g)を加え、得られた混合物を20時間攪拌した。
【0174】
溶液は、青黒色になった。ポリマーを濾過し、1.2M塩酸で洗浄し、真空オーブン中で8時間乾燥した。収量は0.725gであった。
このポリマーの電気伝導度は2.2×10−2S cm−1であった。
【0175】
実施例32〜36
9−AAとアニリンとの共重合体類
9−AA(1モル)を適当な溶媒(100ml)−溶媒、9−AA:アニリンの割合及びドーパントの詳細については表4を参照−中に溶解した。この攪拌されている溶液に、室温で、水(50ml)中のアニリン(異なるモル比)と酸(2モル)との混合物を加えた。均一になるまで、この溶液を攪拌した後、水(50ml)中の過硫酸アンモニウム(1.2モル)を加えた。溶液が着色するまで、この溶液を攪拌した。溶液を濾過し、水、メタノールで洗浄し、真空下50℃で5〜6時間乾燥した。圧縮ディスクでの四探針法を用いて電気伝導性を測定した。9−AA塩酸塩を用いないときは、酸を加えなかった。
【0176】
【表4】

【0177】
表4に関する注:
(1)9−アミノアントラセン・塩酸塩を使用した。
(2)恐らく9−AAのホモポリマー
CSA カンファースルホン酸
HBFフッ化硼素酸
5−SSA 5−スルホサリチル酸
【0178】
図22は、実施例36で製造された共重合体のIRスペクトルを示す。1680cm−1におけるピーク及び1300及び1350cm−1の間のピークの固まりは、試料中のアントラキノンの存在を示す。
【0179】
さらに、共重合体の色は、酸化が起きたら直ちに反応を停止させることによってより薄い色に変えられることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】図1は、臭化カリウム(KBr)ディスクでの9−ニトロアントラセンのIRスペクトルである。
【図2】図2は、5%水酸化ナトリウム溶液で中和する前の9−アミノアントラセン・塩酸塩の臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図3】図3は、9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図4】図4は、空気酸化によって製造された9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図5】図5は、AQの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図6】図6は、クロロホルム中での9−AAと塩化鉄(III)との反応によって製造されたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図7】図7は、メタノール中での9−AAと塩化鉄(III)との反応によって製造されたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図8】図8は、9−AAと硫酸鉄(II)及び過酸化水素との反応によって製造されたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図9】図9は、Yamamoto法によって製造されたP1−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図10】図10は、一定電位での電気重合によって製造されたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図11】図11は、電気重合反応における支持電解質として用いたテトラブチルアンモニウム・パークロレート[NBuClO]の臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図12】図12は、一定電流での電気重合によって製造された400及び500nmの厚さの試料の透過率(transmissions)のグラフである。
【図13】図13は、一定電流での電気重合によって製造されたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図14】図14は、堆積物の製造及び一定電流での電気重合のための時間に対し、電位がどのように変動するかを示すグラフ、クロノポテンシオメトリー法(chronopotentiometoric procedure)である。
【図15】図15は、実施例3の方法によって作られたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図16】図16は、表2で特定されたAQの50%と混合されたP9−AAの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図17】図17は、組成物に対するP9−AAとAQとの混合物の電気伝導性の線状プロットであり、その値は表2に示されている。
【図18】図18は、図17に対応する半対数プロットである。
【図19】図19は、2−エチル−9−アミノアントラセンの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図20】図20は、2−エチル−ポリ−9−アミノアントラセンの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図21】図21は、ポリアニリンの臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。
【図22】図22は、ドーパントとして5−SSAを用いた9−AAとアニリンとの共重合体の臭化カリウムディスクでのIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9−アミノアントラセンとアニリンとを酸化剤を用いて共重合させることにより得られる共重合体類。
【請求項2】
9−AA:アニリンの割合が1:5〜20:1の範囲である、請求項1に記載の共重合体類。
【請求項3】
9−AA:アニリンの割合が1:2〜8:1の範囲である、請求項1又は2に記載の共重合体類。
【請求項4】
9−AA:アニリンの割合が1:2〜2:1の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の共重合体類。
【請求項5】
一般式(XVI)
【化1】

(式中、nは4〜50の範囲の整数である)
を有する共重合体。
【請求項6】
9−AAとアニリンとを酸化剤(oxidant)を用いて共重合することを含む、9−AAとアニリンとの共重合体の製造方法。
【請求項7】
酸化剤が過硫酸アンモニウムである、請求項6に記載の9−AAとアニリンとの共重合体の製造方法。
【請求項8】
9−AAを溶媒に溶解し、この溶液に酸中のアニリンと水との混合物を加え、溶液が着色するまで攪拌し、生成した沈殿を濾過し、洗浄し、乾燥して共重合体を得る、請求項6又は7に記載の9−AAとアニリンとの共重合体の製造方法。
【請求項9】
共重合体が、カンファースルホン酸(CSA)、5−スルホサリチル酸(5−SSA)、塩酸(HCl)、HBFなどのフッ化硼素酸又はこれらの混合物によってドープされる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の9−AAとアニリンとの共重合体の製造方法。
【請求項10】
透明電気伝導性被覆としての、請求項1〜5のいずれか1項に記載の9−AAとアニリンとの共重合体の使用。
【請求項11】
静電気シールド素材としての、請求項1〜5のいずれか1項に記載の9−AAとアニリンとの共重合体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−265565(P2006−265565A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155246(P2006−155246)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【分割の表示】特願平10−355459の分割
【原出願日】平成10年12月1日(1998.12.1)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】