透明非帯電性ポリマ樹脂およびその製造方法
【課題】透明で、かつ、梱包用材料等として十分な機械的強度を有し、10−11S/cm以上の導電率を有する非帯電性ポリマ樹脂が従来なかった。
【解決手段】透明非導電性ポリマ相2aと電解質塩が溶解したイオン伝導性ポリマ相3aが互いに相分離した共連続構造を形成し、それぞれのポリマ相が樹脂全体にわたって立体的なネットワーク構造を形成する透明非帯電性ポリマ樹脂1aを製造する。透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、前記した共連続構造によって、透明非導電性ポリマ相2aの透明性と機械的特性に起因する性質およびイオン伝導性ポリマ相3aの導電性に起因する性質を合わせ持つ。
【解決手段】透明非導電性ポリマ相2aと電解質塩が溶解したイオン伝導性ポリマ相3aが互いに相分離した共連続構造を形成し、それぞれのポリマ相が樹脂全体にわたって立体的なネットワーク構造を形成する透明非帯電性ポリマ樹脂1aを製造する。透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、前記した共連続構造によって、透明非導電性ポリマ相2aの透明性と機械的特性に起因する性質およびイオン伝導性ポリマ相3aの導電性に起因する性質を合わせ持つ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気から被梱包製品を保護する梱包材等に用いられる、透明であり、かつ、非帯電性のポリマ樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマ樹脂材料は、誘電体のため静電気の発生により帯電する。そのため、通常のポリマ樹脂材料からなる梱包材により、電子部品等が梱包されると、静電気の影響を受けて、被梱包製品に定格以上の電圧がかかり、非梱包製品である電子部品が誤作動したり、あるいは、破壊したりする場合がある。そこで、静電気から保護する必要のある電子部品等を梱包するために用いられる梱包用ポリマ樹脂材料には、梱包材自体の帯電を防止する特殊なポリマ樹脂材料が用いられている。そのようなポリマ樹脂材料として、ポリマ樹脂フィルムの表裏の面に金属の薄膜のコーティングをしたものやカーボンブラックや金属粉末等の導電性物質を混合したポリマ樹脂材料が従来からある(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】赤松 清 監修、「帯電防止材料の技術と応用」、シーエムシー出版、2002年発行、p.87〜100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ポリマ樹脂フィルムの表裏の面に金属薄膜をコーティングした梱包用材料の場合、梱包材に形成されている表裏の金属薄膜間で電荷が蓄積される場合があり、帯電防止の点から完全でないし、梱包材に金属薄膜を形成するのは製造コストが上がり望ましくない。
【0004】
カーボンブラックや金属粉末といった導電性物質をポリマ樹脂材料に少量添加することにより、帯電防止に十分な10−2S/cm程度の導電率にポリマ樹脂材料の導電率を上げることができる。しかし、この種のポリマ樹脂材料中の導電性物質は、単に樹脂中に保持されているだけなので、梱包された製品の輸送中等に被梱包製品にカーボンブラック等の導電性物質が付着するおそれがあるという問題がある。
【0005】
また、これらの従来の導電性を付与した非帯電性ポリマ樹脂材料はいずれも非透明なので、これらの樹脂フィルムで被梱包製品を梱包した場合、被梱包製品を識別することができないため、税関等の製品検査で常に開梱して検査しなければならないという問題がある。
【0006】
透明でかつ帯電防止作用のあるポリマ樹脂材料も開発されている。しかし、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂材料の導電率は、10−12S/cm台以下である。そのため十分な帯電防止効果を有するものでなかった。十分な帯電防止効果を発揮するには、ポリマ樹脂材料の導電率が10−11S/cm以上であることが望ましい。
【0007】
図12は、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1bは、図12に示すような、いわゆる海島構造といわれる構造である。すなわち、立体的に連続したネットワーク構造の透明非導電性ポリマ相2bの中に、孤立した島状の塊となっているイオン伝導性ポリマ相3bが形成されているものである。透明非帯電性ポリマ樹脂1bは、比較的機械的強度の高い透明非導電性ポリマ相2bが透明非帯電性ポリマ樹脂1b全体にわたって、連続した立体的なネットワーク構造を形成しているので、透明性を有し、また機械的特性も優れる。しかし、イオン伝導性ポリマ相3bを微細にして均一に分散させても、電気伝導は、導電率が極めて低い透明非導電性ポリマ相2bを必ず経由するので、ポリマ樹脂材料全体の導電率を10−11S/cm以上にすることが困難であった。また、イオン伝導性ポリマ相3bを連続した立体的なネットワーク構造にして、透明非導電性ポリマ相2bを島状の塊として分散させるポリマ樹脂を作製することもできるが、そのようなポリマ樹脂の機械的強度は、イオン導電性樹脂相3bの機械的強度が低いので、実用上不十分なものになる。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、10−11S/cm以上の導電率を有し、十分な非帯電効果を有するとともに透明で、かつ、梱包用材料等として十分な機械的強度を有するポリマ樹脂材料およびそのフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、互いに相分離したイオン伝導性ポリマ相と透明非導電性ポリマ相の混合体からなるポリマ樹脂材料であって、前記イオン伝導性ポリマ相に電解質塩が溶解していること、前記イオン伝導性ポリマ相と前記透明非導電性ポリマ相が共連続構造を形成し、それぞれのポリマ相が前記ポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成していること、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であること、および、室温における直流導電率が10−11S/cm以上であることを特徴とする。ここで、共連続構造とは、複数の相分離したポリマ相の混合体よりなるポリマ樹脂材料において、各ポリマ相が立体的に連続したネットワーク構造を形成しているポリマ相の混合構造をいうものである。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、透明非導電性ポリマ相とイオン伝導性ポリマ相が共連続構造を形成しているため、透明非導電性ポリマ相とイオン伝導性ポリマ相のそれぞれの相がポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成している。そのため、透明非導電性ポリマ相の作用により、ポリマ樹脂全体としての透明性および梱包材等として実用上十分な機械的強度が確保される。それと同時に、ポリマ樹脂の電気伝導の経路が、導電率の低い透明非導電性ポリマ相を電気伝導の経路とすることなく、ポリマ樹脂材料全体にわたるネットワーク構造を形成している導電率の高いイオン伝導性ポリマ相のみにより構成される。その結果、ポリマ樹脂材料全体として透明であるとともに、比較的高い導電率が得られ電子部品等の被梱包製品を静電気から保護するのに十分な非帯電性を透明非帯電性ポリマ樹脂材料が有する。
【0011】
請求項2に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項1に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記イオン伝導性ポリマ相は式(1)で示されるポリエチレングリコールメタクリレートよりなり、前記電解質塩がLi+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)から選ばれる少なくとも1種以上の陰イオンからなることを特徴とする。
【0012】
【化1】
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、イオン伝導性ポリマ相となる式(1)で示されるポリエチレングリコールメタクリレートに溶解している電解質塩の作用により、イオン伝導性ポリマ相の導電率が向上する。その結果、前記した共連続構造の作用とあいまって、ポリマ樹脂材料全体の導電率が向上する。
【0014】
請求項3に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記透明非導電性ポリマ相がポリメタクリル酸メチルよりなることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ポリメタクリル酸メチルの作用により、ポリマ樹脂材料全体が比較的機械的強度が高くなり、かつ、透明になる。
【0016】
請求項4に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において 前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがHであり、nが9以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において 前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがCH3であり、nが7.8以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項4および請求項5に記載の発明によれば、ポリマ樹脂材料のイオン伝導性ポリマ相の割合が比較的低い場合でも、ポリマ樹脂材料全体として透明であるとともに、比較的高い導電率が得られる。
【0019】
請求項6に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記透明非導電性ポリマ相がスチレンアクリロニトリルランダム共重合体よりなることを特徴とする
【0020】
請求項7に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記透明非導電性ポリマ相が非晶性のポリ乳酸よりなることを特徴とする
【0021】
請求項6および請求項7に記載の発明によれば、ポリマ樹脂材料のイオン伝導性ポリマ相の割合が比較的低い場合でも、ポリマ樹脂材料全体としての導電率が比較的高くすることできる。その結果、ポリマ樹脂材料の非帯電性が向上する。
【0022】
請求項8に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法は、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒とポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルポリマが溶解した溶媒と、Li+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなる電解質塩が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる液体と、を混合してスラリを作製し、このスラリを基材にキャストして加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマ同士を重合させることを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法は、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒と、NaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液とを混合してスラリを作製し、このスラリを基材にキャストし、100℃以上かつ160℃以下の温度で、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させたこと、を特徴とする
【0024】
請求項8および請求項9に記載の発明によれば、ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体からなる透明非導電性ポリマ相とポリエチレングリコールメタクリレートからなるイオン伝導性ポリマ相が互いに相分離した状態の混合体を形成するとともに、それぞれのポリマ相がポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成する。その結果、透明であり梱包材等として十分な機械的強度を有し、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1bよりも導電率が高い透明非帯電性ポリマ樹脂材料を製造できる。
【0025】
請求項10に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法は、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、ポリ乳酸が溶解した溶媒にNaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液を加えて混合したものを基材にキャストし、100℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させ、さらに170℃以上の温度で熱処理後に急冷して前記ポリ乳酸を非晶性にしたたこと、を特徴とする。
【0026】
請求項10に記載の発明によれば、非晶性の170℃以上の温度で熱処理後に急冷することにより急冷する熱処理を行うことにより、ポリ乳酸を非晶性にするとともに透明にし、ポリ乳酸とする透明非帯電性ポリマ樹脂を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、透明でありながら従来の透明非帯電性ポリマ樹脂よりも導電率が高く、10−11S/cm以上の導電率を有する樹脂が製造でき、この樹脂を梱包材に用いれば、被梱包製品を静電気から効果的に保護することができる。また、同時に透明であるため梱包状態の被梱包製品を識別することができるので、税関等における製品検査において、開梱する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の最良の実施の形態について、図1乃至図12を参照して、詳細に説明する。図1は、本発明にかかる透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。本発明にかかる透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、図1に示すように、互いに相分離した透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aが混在する混合ポリマからなるポリマ樹脂材料である。イオン伝導性ポリマ相3aには電解質塩が溶解している。イオン伝導性ポリマ相3aは、電解質イオンが電気伝導のキャリアとして働くため導電率が高いポリマ相である。
【0029】
図1に示す本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aにおいて、透明非導電性ポリマ相2aおよびイオン伝導性ポリマ相3aのそれぞれの相は、ポリマ樹脂材料全体にわたって、立体的に連続して繋がっているネットワーク構造を形成しているものである。このようなポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続して繋がっている、前記した各ポリマ相のネットワーク構造は、単一あるいは複数である。透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aのいずれのポリマ相にも、図12に示す海島構造のような孤立した島状の塊になっているポリマ相は、存在してもかまわないが必要ではない。図1は透明非帯電性ポリマ樹脂1aの一断面なので、透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aのそれぞれのポリマ相において分離して見える部分があるが、実際には、それぞれのポリマ相は前記した立体的に連続したネットワーク構造の一部である。したがって透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aは、前記した共連続構造を形成している。
【0030】
本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、透明非導電性ポリマ相2aおよびイオン伝導性ポリマ相3aが極めて微細な共連続構造を形成していることにより、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、しかも室温における直流導電率が10−11S/cm以上という特性を発現している。このような極めて微細な共連続構造を実現し、前記特性を発現するように、本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aにおいて、透明非導電性ポリマ相2aおよびイオン伝導性ポリマ相3aの相対的な重量比率は定まる。
【0031】
透明非導電性ポリマ相2aは、波長400nmから800nmの可視光の平均透過率が十分高い。透明非導電性ポリマ相2aの導電率は極めて低いものであり、その導電率は10−12S/cm台以下である。また透明非導電性ポリマ相2aは機械的強度が比較的高い。透明非導電性ポリマ相2aを構成するポリマ材料の例として、式(2)で示されるポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」という)、式(3)で示されるスチレンアクリロニトリルランダム共重合体(以下「SAN」という)、式(4)で示されるポリ乳酸(以下「PLLA」という)等がある。これらのポリマ材料の室温での導電率は、10−12S/cm台以下であり、波長400nmから800nmの可視光の平均透過率は85%以上である。
【0032】
【化2】
【0033】
【化3】
【0034】
【化4】
【0035】
イオン伝導性ポリマ相3aは、イオン伝導のキャリアとなる電解質塩とそれを溶解しているポリマ材料からなるものである。前記した電解質塩としては、Li+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体型陽イオンの少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなる電解質塩を用いることができる。これらのうち、陽イオンとして使用可能であるイオン性液体には、次の式(5)乃至(12)により表される化合物イオン(式中、Rは水素原子、または置換または未置換の炭化水素基を示す)が挙げられる。
【0036】
【化5】
(式中、nは1以上の整数である。)
前記式(5)で表されるイオン性液体型陽イオンの具体例として、式(6)で表されるイオン性液体である1-エチルー3−メチルイミダゾリウムBF4塩(EImBF4)の陽イオンが挙げられる。
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
【化9】
【0041】
【化10】
【0042】
イオン伝導性ポリマ相3aは、前記した電解質塩を溶解するポリマ材料よりなるものである。このようなポリマ材料の一例としては、式(1)で表されるポリエチレングリコールメタクリレート(以下「PMEO」という)がある。
【0043】
式(1)で示されるPMEOの側鎖の末端基であるRは、HまたはCH3である。RがHの場合は、側鎖の長さに対応するnが9以下であることが望ましい。また、RがCH3の場合は、nが7.8以下であることが望ましい。nが小さい方がPMEOをイオン伝導性ポリマ相2aとして構成する、透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率が低くなるからである。ここで、PMEOの側鎖の長さに対応するnの値は、重合後に得られたPMEOポリマにつき測定により求められる値であり、各PMEOポリマについての平均値である。
【0044】
前記した電解質塩のうち、特に本発明のイオン伝導性ポリマ相を構成するものとして望ましい電解質塩は、ポリマ樹脂には溶解し、吸湿性を低くすることができる水に溶けにくいものである。たとえば、KClO4は、水には比較的溶けにくいが、前記した式(1)で示されるPMEOには、比較的よく溶解し、水に対してよりも多く溶解する電解質塩である。また、KClO4は、PMEOのモノマである式(13)で示されるエチレングリコールメタクリレート(以下「MEO8」という)にも溶解する。
【0045】
【化11】
【0046】
図1に示す透明非帯電性ポリマ樹脂1aの全体で、透明非導電性ポリマ相2aは前記したように立体的に連続なネットワーク構造を形成している。透明非導電性ポリマ相2aが本来持つ、透明でありかつ機械的強度に優れるという特性と前記した透明非導電性ポリマ相2aの透明非帯電性ポリマ樹脂1a中での構造に起因して、透明非帯電性ポリマ樹脂1aは波長400nmから800nmの可視光の平均透過率が50%以上である。
【0047】
透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率は、その内部全体に立体的に連続しているネットワーク構造を形成しているイオン伝導性ポリマ相3aの導電性によって決まる。すなわち、透明非帯電性ポリマ樹脂1aの主要な電気伝導は、導電率の低い透明非導電性ポリマ相2aを介すことなく、比較的導電率の高いイオン伝導性ポリマ相3aのみを通っておきるものである。そのため、図12に示す従来の帯電防止用ポリマ材料のように、イオン伝導性ポリマ相3a間に介在する、導電率が低い透明非帯電性ポリマ樹脂1aを通しての電気伝導のポリマ材料全体の導電率への寄与は無視できる。その結果、透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率は、図12に示す従来の海島構造の透明非帯電性ポリマ樹脂1bよりも高くすることができる。本発明の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率は、10−11S/cm以上である。導電率が10−11S/cm以上の透明非帯電性ポリマ樹脂1aを梱包材として用いる場合、被梱包製品を静電気から保護可能である。
【0048】
以下、本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの製造方法について説明する。図2(a)乃至(d)は、本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法の概略を示す図である。本実施形態の透明非帯電性ポリマ1aの製造方法を、透明非導電性ポリマ相2a用材料として式(1)で表されるPMMAを用い、イオン伝導性ポリマ相3a用材料として式(9)で表されるPMEOを用いる場合を例として以下説明する。
【0049】
イオン伝導性ポリマ相3aが式(1)で示されるPMEOからなる場合、まず、図2(a)に示すように、PMMAを溶媒に溶解した溶液11にPMEOのモノマである式(11)で示されるMEO8に前記した電解質塩を溶解した溶液12を添加する。ここで電解質塩は、Li+、Na+、K+、NH4+並びに式(5)乃至式(12)で示されるイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなるものである。PMMAを溶かす溶媒として、クロロホルム、アセトン、ベンゼン、クロロベンゼン、クロロへキサン、ジオキサン、塩化メチレン、キシレン等を用いることができる。
【0050】
次に、図2(b)に示すように、溶液11と溶液12の混合液を、スターラ14aで十分に混合して、その中に含まれるPMMAと前記した電解質塩が溶解したMEO8が均一に分散したスラリ13にする。次に、図2(c)に示すように、スラリ13を内側に溝のある基材であるテフロン(登録商標)板15にキャストして、表面をスキージ16でならす。
【0051】
以上のようにテフロン(登録商標)板15上に形成されたスラリ13の層を加熱して、スラリ13に含まれる前記した溶媒を消散させるとともに、スラリ13に含まれるMEO8の分子同士を重合させてPMEOを形成させる。これによって、透明非導電性ポリマ相2aであるPMMA相とイオン伝導性ポリマ相3aであるPMEO相が、互いに相分離した共連続構造の混合体を形成し、それぞれのポリマ相が混合体全体にわたり立体的に連続なネットワーク構造を形成している透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aができる。製造された透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aは、テフロン(登録商標)板15から容易にはがされる(図2(d)参照)。以上述べた透明非帯電性ポリマ樹脂1aの製造方法は、透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aに限らず、透明非帯電性ポリマ樹脂1aでできたケース等の製造にも適用できるものである。
【0052】
以上説明した本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの製造方法において、PMMAとPMEOの重量比率は、製造されるポリマ樹脂が所定の条件を満たす範囲で適宜選択される。すなわちPMMAからなる透明非導電性ポリマ相2aとPMEOからなるイオン伝導性ポリマ相3aが極めて微細な共連続構造を形成し、透明非帯電性ポリマ樹脂1aが400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、しかも室温における直流導電率が10−11S/cm以上という特性が発現する範囲で、PMMAとPMEOの重量比率は選択される。この重量比率の範囲は、PMEOの末端基RがHまたはCH3によって、また側鎖の長さに対応するnの大小によって変化する。
【0053】
透明非帯電性ポリマ樹脂1aは次のようにしても製造することが可能である。図3は本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図である。この製造方法において、スラリ13の製造は前記した製造方法と同一である。図3に示す製造方法において、容器14中のスラリ13は、スターラ14aで混合されるとともに、一定の速度で回転するキャストロール20上に張られ、キャストロール20およびキャストロール20と同期して回転する送りロール21の回転によって、一定の速度で送られるテフロン(登録商標)ベルト18に、当接して固定されているホッパ17にポンプ19で供給される。ホッパ17に滞留するスラリ13は、テフロン(登録商標)ベルト18に当接しているため、その一部が所定の厚さの層を形成して、一定速度で送られるテフロン(登録商標)ベルト18上に移行する。
【0054】
テフロン(登録商標)ベルト18に移行したスラリ13は、内部にヒータ22aおよびダクト22bを保持する炉22を通る。炉22内でスラリ13に含まれる溶媒が消散するとともに、スラリ13に含まれるMEO8の分子同士が重合され、式(9)で示されるPMEOが形成される。その結果、テフロン(登録商標)ベルト18上に透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aが形成される。透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aは、ファン24で冷却されて、巻き取りロール23により巻き取られる。本製造方法において製造される透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aの厚さは、スラリ13の粘度およびテフロン(登録商標)ベルト18の送り速度を制御することによって、所定の厚さに調整される。本製造方法においては、透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aの厚さを一定に保つためにスラリ13の粘度を一定にする必要がある。そのため、PMMAを溶解する溶媒としては沸点が比較的高く、揮発しにくいクロロベンゼン等が適切である。
【0055】
透明非導電性ポリマ相2a用材料としてSANまたはPLLAを用いる場合、同様な製造方法により透明非帯電性樹脂1aを製造できる。ただし、透明非導電性ポリマ相2a用材料としてPLLAを用いる場合、前記の製造方法により製造された樹脂の透明非導電性ポリマ相2aを構成するPLLAは非透明である結晶性のものである。そのため、PLLAを透明な非晶性のものにするため、前記の製造方法により製造された樹脂をさらに170℃以上の温度で熱処理した後、急冷する必要がある。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明の一実施例として透明非帯電性ポリマ樹脂1aが、透明非導電性ポリマ相2aがPMMA、イオン伝導性ポリマ相3aにKClO4が均一に溶解したPMEOよりなるものを作製した。また、イオン伝導性ポリマ相3aがKClO4の代わりにNaClO4を均一に溶解したPMEOよりなるものも作製した。実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは以下の工程により作製した。
【0057】
実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、次のようにして製造される。まず、式(2)で示されるPMMA(Mw=350,000)を溶媒であるクロロホルムに溶かした図2に示す溶液11を作製する。さらに式(13)で示されるMEO8100モルに対してKClO45モルの割合で混ぜて、KClO4をMEO8中に溶解した図2に示す溶液12を作製する。
【0058】
次に、溶液11に溶液12を添加して、KClO4、MEO8、PMMAおよびクロロホルムを含む、図2に示すスラリ13を作り、スターラ14aで十分に混合する。十分に混合されたスラリ13を所定の溝を有するテフロン(登録商標)板15上にキャストして、スキージ6で表面をならし(図2(c)参照)、120℃で1時間保持して、クロロホルムを消散させるとともにMEO8を重合させて、式(9)で示されるPMEOが形成され、所定厚さの透明非帯電性ポリマ樹脂1aのフィルムができる。本実施例では、120℃でMEO8の重合を行ったが、100℃以上かつ160℃以下ならばこの重合反応は進行する。また、重合を促進するために、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)のようなラジカル重合促進剤を添加すれば40℃以上かつ160℃以下の温度で重合させることができる。PMMAとPMEOの重量比率は適宜変えることができる。KClO4の代わりにNaClO4を均一に溶解したPMEOを用いる場合も同様にして透明非帯電性ポリマ樹脂1aのフィルムが作製される。
【0059】
前記した製造方法で作製された、PMMAとPMEOを用いて製造される透明非帯電性ポリマ樹脂1aの相構造について以下説明する。図4は、PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aのTEM写真である。TEM観察に際し、本実施例の試料薄膜はPMMAに選択的に吸着されるヨウ素により染色されている。そのため、図4のTEM写真において、透明非導電性ポリマ相2aであるPMMAが黒く見える部分であり、白く見える部分が、イオン伝導性ポリマ相3aであるKClO4が溶解したPMEOである。PMEOの側鎖のRはHでn=9である。この透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、PMEOの重量比率は50%であり160℃で重合されて作製されたものである。またの透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、導電率が1.2×10−11S/cmで可視光の平均透過率が54%である。
【0060】
図4のTEM写真からわかるように、PMMAとPMEOから構成される各相は、互いに相分離している。一方PMMAとPMEOから構成される各相の幅はともに可視光の波長より短い約100nm程度である、微細なポリマ相混合構造を形成している。このポリマ相の混合構造は、図12に示す従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1bが有する海島構造でなく、明らかにPMMAのポリマ相とKClO4が溶解したPMEOのポリマ相のそれぞれのポリマ相が、立体的に連続しているネットワーク構造を形成しているものである。これらのポリマ相は、極めて微細な共連続構造を形成している。実施例において、このような極めて微細な共連続構造が形成されたのは、PMMAのポリマの主鎖とPMEOのポリマの主鎖の構造が同じなので、分子間の親和力が比較的大きいためである。
【0061】
PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの特性の測定結果を図5乃至図7を参照して、以下説明する。この実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aにおいて、PMMAとPMEOの重量比率は50:50であり、KClO4が電解質塩としてPMEOに溶解されている。図5は、PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の透光率の測定結果を示す図である。図6および図7は、それぞれPMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の直流導電率の測定結果を示す図および交流導電率の測定結果を示す図である。
【0062】
図5からわかるように、厚さ0.19mmの本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aのフィルムは、可視光領域である400nmから800nmの範囲で、90%以上の透光率を有する。この透過率は、梱包材として使用した場合、梱包された状態の被梱包製品を識別するのに十分なものである。また、本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、梱包用のフィルム材として用いるのに十分な機械的強度を有している。
【0063】
直流導電率および交流導電率の測定は、厚さ0.05mmの試料を用いて行った。直流導電率は試料のフィルムに500Vの直流電圧をかけて、流れる電流を測定することにより行った。図6からわかるように、直流導電率は電圧印加直後に最大となり、時間経過とともに分極の影響により低下するが、電圧印加開始約1分後にほぼ一定になり、2.1×10−8S/cmとなる。PMMA自体の直流導電率は、10−14S/cm台であるから、PMMAに比べると直流導電率は、106倍以上になっている。
【0064】
交流導電率の測定は、100Hzから13Mzまでの周波数範囲で交流複素インピーダンス法により行った。図7からわかるように、室温付近での交流導電率は10−8S/cm台であるが、温度上昇とともに導電率が上がる。この理由は、イオン伝導性ポリマ相3a中に溶解している電解質イオンである、K+およびClO4−の移動が温度上昇とともにイオン伝導性ポリマ相3aの主鎖の熱運動によって促進されるためである。
【0065】
重合温度、PMEOの側鎖、PMEOの重量比率を50%以上で変化させ、PMMAとPMEOを用いて本実施形態の製造方法を用いて、製造した混合ポリマについて、室温における導電率および可視光の透過率を測定した結果を表1に示す。以下、導電率の値は前記した直流導電率の測定値である。
【0066】
【表1】
【0067】
表1はPMMAと重量比率が50%以上のPMEOを用いて、作製した混合ポリマについて、室温における導電率および可視光の平均透過率を測定した結果である。表1はPMMAとPMEOを用いて本実施形態の製造方法を用いて、製造した混合ポリマの場合、可視光の平均透過率はPMEOの重量比率に関わらず50%以上であった。また導電率は、PMEOの側鎖の長さnおよびPMEOの重量比率に依存することがわかる。すなわち、nが小さい方がまたPMEOの重量比率が高い方が、導電率が高い。PMEOの重量比率が50%以上の場合、すべて10−11S/cm以上になる。
【0068】
図8は側鎖の末端基RがHでn=9のPMEO(NaClO4溶解)とPMMAを用いて、重合温度を変化させて作製した共連続構造樹脂の導電率測定結果を示す図である。図8はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。導電率が10−11S/cm以上になるのは、重合温度が100℃および130℃のとき、PMEOの重量比率が40%以上の場合であり、この場合が本発明の実施例に相当する。また、重合温度が160℃のとき、本発明の実施例に相当するのは、PMEOの重量比率がそれぞれ50%以上場合である。
【0069】
図9は側鎖の末端基RがHでnを9以下で変化させたPMEO(NaClO4溶解)とPMMAを用いて、160℃の重合温度で作製した共連続構造樹脂の導電率測定結果を示す図である。図9はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。図9はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。本発明の実施例に相当する導電率が10−11S/cm以上になるのは、nが9.0、5.7、3.5にそれぞれのとき、PMEOの重量比率が60%以上、40%以上、20%以上の場合である。したがって、nが小さい方が、すなわちPMEOの側鎖が短い方が、導電率を低下させることが容易である。
【0070】
図10は側鎖の末端基RがHのPMEO(n=9.0)と側鎖の末端基RがCH3のPMEO(7.8)のそれぞれとPMMAを用いて本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。図9はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。本発明の実施例に相当する導電率が10−11S/cm以上になるのは、PMEOの側鎖の末端基RがHでn=9.0のときは、PMEOの重量比率が60%以上の場合である。一方、PMEOの側鎖の末端基RがCH3でn=7.8のときは、本発明の実施例に相当する導電率が10−11S/cm以上になるのはPMEOの重量比率が20%以上の場合である。
【0071】
次に、透明非導電性ポリマ相2a用ポリマ材料として、PLLAおよびSANのそれぞれを用いて作製した実施例について説明する。表2はPLLAとSANのそれぞれと重量比率が50%以上のPMEOを用いて本実施形態の製造方法を用いて、製造した混合ポリマについて、室温における導電率および可視光の平均透過率を測定した結果である。
【0072】
【表2】
【0073】
側鎖のRがHでn=9のPMEOとSANを用いて作製した混合ポリマ樹脂は、可視光の透過率が50%未満であり、本発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料には該当しない。一方、側鎖のRがCH3でn=2のPMEOとSANを用いて作製した混合ポリマ樹脂および側鎖のRがHでn=9のPMEOとPLLAを用いて作製した混合ポリマ樹脂は、可視光の透過率が50%以上であり、また導電率も十分に高く、本発明の実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂材料に該当する。透明非導電性ポリマ相2a用ポリマ材料としてPLLAおよびSANを用いる場合、PMEOの側鎖のRおよびnを適宜選択することにより、本発明の実施例に該当する透明非帯電性ポリマ樹脂材料を作製可能である。
【0074】
以上より、本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは透明であり、かつ、梱包用のフィルム材として十分な機械的強度を有している。また、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1b(図12参照)に比べて、導電率が高く、非帯電性効果に優れる。
【0075】
本発明の実施形態は本実施例に限定されるものではなく、その主旨に反しない範囲で態様を変更できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明にかかる透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。
【図2】(a)乃至(d)は、本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法の概略を示す図である。
【図3】本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図である。
【図4】PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂のTEM写真である。
【図5】PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の光透過率の測定結果を示す図である。
【図6】PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の直流導電率の測定結果を示す図である。
【図7】PMMAとPMEOを用いて、本実施形態の製造方法によりした実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の交流導電率の測定結果を示す図である。
【図8】側鎖の末端基RがHでn=9のPMEOとPMMAを用いて、重合温度を変化させて、本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。
【図9】側鎖の末端基RがHでnを9以下で変化させたPMEOとPMMAを用いて、160℃の重合温度で本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。
【図10】側鎖の末端基RがHのPMEOと側鎖の末端基RがCH3のPMEOのそれぞれとPMMAを用いて本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。
【図11】従来の透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b 透明非帯電性ポリマ樹脂
2a,2b 透明非導電性ポリマ相
3a,3b イオン伝導性ポリマ相
11 溶液(PMMA+溶媒)
12 溶液(電解質塩+MEO8)
13 スラリ(電解質塩+MEO8+PMMA+溶媒)
13a 透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム
14a スターラ
15 テフロン(登録商標)板
16 スキージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気から被梱包製品を保護する梱包材等に用いられる、透明であり、かつ、非帯電性のポリマ樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマ樹脂材料は、誘電体のため静電気の発生により帯電する。そのため、通常のポリマ樹脂材料からなる梱包材により、電子部品等が梱包されると、静電気の影響を受けて、被梱包製品に定格以上の電圧がかかり、非梱包製品である電子部品が誤作動したり、あるいは、破壊したりする場合がある。そこで、静電気から保護する必要のある電子部品等を梱包するために用いられる梱包用ポリマ樹脂材料には、梱包材自体の帯電を防止する特殊なポリマ樹脂材料が用いられている。そのようなポリマ樹脂材料として、ポリマ樹脂フィルムの表裏の面に金属の薄膜のコーティングをしたものやカーボンブラックや金属粉末等の導電性物質を混合したポリマ樹脂材料が従来からある(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】赤松 清 監修、「帯電防止材料の技術と応用」、シーエムシー出版、2002年発行、p.87〜100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ポリマ樹脂フィルムの表裏の面に金属薄膜をコーティングした梱包用材料の場合、梱包材に形成されている表裏の金属薄膜間で電荷が蓄積される場合があり、帯電防止の点から完全でないし、梱包材に金属薄膜を形成するのは製造コストが上がり望ましくない。
【0004】
カーボンブラックや金属粉末といった導電性物質をポリマ樹脂材料に少量添加することにより、帯電防止に十分な10−2S/cm程度の導電率にポリマ樹脂材料の導電率を上げることができる。しかし、この種のポリマ樹脂材料中の導電性物質は、単に樹脂中に保持されているだけなので、梱包された製品の輸送中等に被梱包製品にカーボンブラック等の導電性物質が付着するおそれがあるという問題がある。
【0005】
また、これらの従来の導電性を付与した非帯電性ポリマ樹脂材料はいずれも非透明なので、これらの樹脂フィルムで被梱包製品を梱包した場合、被梱包製品を識別することができないため、税関等の製品検査で常に開梱して検査しなければならないという問題がある。
【0006】
透明でかつ帯電防止作用のあるポリマ樹脂材料も開発されている。しかし、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂材料の導電率は、10−12S/cm台以下である。そのため十分な帯電防止効果を有するものでなかった。十分な帯電防止効果を発揮するには、ポリマ樹脂材料の導電率が10−11S/cm以上であることが望ましい。
【0007】
図12は、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1bは、図12に示すような、いわゆる海島構造といわれる構造である。すなわち、立体的に連続したネットワーク構造の透明非導電性ポリマ相2bの中に、孤立した島状の塊となっているイオン伝導性ポリマ相3bが形成されているものである。透明非帯電性ポリマ樹脂1bは、比較的機械的強度の高い透明非導電性ポリマ相2bが透明非帯電性ポリマ樹脂1b全体にわたって、連続した立体的なネットワーク構造を形成しているので、透明性を有し、また機械的特性も優れる。しかし、イオン伝導性ポリマ相3bを微細にして均一に分散させても、電気伝導は、導電率が極めて低い透明非導電性ポリマ相2bを必ず経由するので、ポリマ樹脂材料全体の導電率を10−11S/cm以上にすることが困難であった。また、イオン伝導性ポリマ相3bを連続した立体的なネットワーク構造にして、透明非導電性ポリマ相2bを島状の塊として分散させるポリマ樹脂を作製することもできるが、そのようなポリマ樹脂の機械的強度は、イオン導電性樹脂相3bの機械的強度が低いので、実用上不十分なものになる。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、10−11S/cm以上の導電率を有し、十分な非帯電効果を有するとともに透明で、かつ、梱包用材料等として十分な機械的強度を有するポリマ樹脂材料およびそのフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、互いに相分離したイオン伝導性ポリマ相と透明非導電性ポリマ相の混合体からなるポリマ樹脂材料であって、前記イオン伝導性ポリマ相に電解質塩が溶解していること、前記イオン伝導性ポリマ相と前記透明非導電性ポリマ相が共連続構造を形成し、それぞれのポリマ相が前記ポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成していること、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であること、および、室温における直流導電率が10−11S/cm以上であることを特徴とする。ここで、共連続構造とは、複数の相分離したポリマ相の混合体よりなるポリマ樹脂材料において、各ポリマ相が立体的に連続したネットワーク構造を形成しているポリマ相の混合構造をいうものである。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、透明非導電性ポリマ相とイオン伝導性ポリマ相が共連続構造を形成しているため、透明非導電性ポリマ相とイオン伝導性ポリマ相のそれぞれの相がポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成している。そのため、透明非導電性ポリマ相の作用により、ポリマ樹脂全体としての透明性および梱包材等として実用上十分な機械的強度が確保される。それと同時に、ポリマ樹脂の電気伝導の経路が、導電率の低い透明非導電性ポリマ相を電気伝導の経路とすることなく、ポリマ樹脂材料全体にわたるネットワーク構造を形成している導電率の高いイオン伝導性ポリマ相のみにより構成される。その結果、ポリマ樹脂材料全体として透明であるとともに、比較的高い導電率が得られ電子部品等の被梱包製品を静電気から保護するのに十分な非帯電性を透明非帯電性ポリマ樹脂材料が有する。
【0011】
請求項2に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項1に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記イオン伝導性ポリマ相は式(1)で示されるポリエチレングリコールメタクリレートよりなり、前記電解質塩がLi+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)から選ばれる少なくとも1種以上の陰イオンからなることを特徴とする。
【0012】
【化1】
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、イオン伝導性ポリマ相となる式(1)で示されるポリエチレングリコールメタクリレートに溶解している電解質塩の作用により、イオン伝導性ポリマ相の導電率が向上する。その結果、前記した共連続構造の作用とあいまって、ポリマ樹脂材料全体の導電率が向上する。
【0014】
請求項3に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記透明非導電性ポリマ相がポリメタクリル酸メチルよりなることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ポリメタクリル酸メチルの作用により、ポリマ樹脂材料全体が比較的機械的強度が高くなり、かつ、透明になる。
【0016】
請求項4に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において 前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがHであり、nが9以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において 前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがCH3であり、nが7.8以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項4および請求項5に記載の発明によれば、ポリマ樹脂材料のイオン伝導性ポリマ相の割合が比較的低い場合でも、ポリマ樹脂材料全体として透明であるとともに、比較的高い導電率が得られる。
【0019】
請求項6に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記透明非導電性ポリマ相がスチレンアクリロニトリルランダム共重合体よりなることを特徴とする
【0020】
請求項7に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料は、請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、前記透明非導電性ポリマ相が非晶性のポリ乳酸よりなることを特徴とする
【0021】
請求項6および請求項7に記載の発明によれば、ポリマ樹脂材料のイオン伝導性ポリマ相の割合が比較的低い場合でも、ポリマ樹脂材料全体としての導電率が比較的高くすることできる。その結果、ポリマ樹脂材料の非帯電性が向上する。
【0022】
請求項8に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法は、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒とポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルポリマが溶解した溶媒と、Li+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなる電解質塩が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる液体と、を混合してスラリを作製し、このスラリを基材にキャストして加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマ同士を重合させることを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法は、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒と、NaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液とを混合してスラリを作製し、このスラリを基材にキャストし、100℃以上かつ160℃以下の温度で、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させたこと、を特徴とする
【0024】
請求項8および請求項9に記載の発明によれば、ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体からなる透明非導電性ポリマ相とポリエチレングリコールメタクリレートからなるイオン伝導性ポリマ相が互いに相分離した状態の混合体を形成するとともに、それぞれのポリマ相がポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成する。その結果、透明であり梱包材等として十分な機械的強度を有し、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1bよりも導電率が高い透明非帯電性ポリマ樹脂材料を製造できる。
【0025】
請求項10に記載の発明の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法は、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、ポリ乳酸が溶解した溶媒にNaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液を加えて混合したものを基材にキャストし、100℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させ、さらに170℃以上の温度で熱処理後に急冷して前記ポリ乳酸を非晶性にしたたこと、を特徴とする。
【0026】
請求項10に記載の発明によれば、非晶性の170℃以上の温度で熱処理後に急冷することにより急冷する熱処理を行うことにより、ポリ乳酸を非晶性にするとともに透明にし、ポリ乳酸とする透明非帯電性ポリマ樹脂を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、透明でありながら従来の透明非帯電性ポリマ樹脂よりも導電率が高く、10−11S/cm以上の導電率を有する樹脂が製造でき、この樹脂を梱包材に用いれば、被梱包製品を静電気から効果的に保護することができる。また、同時に透明であるため梱包状態の被梱包製品を識別することができるので、税関等における製品検査において、開梱する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の最良の実施の形態について、図1乃至図12を参照して、詳細に説明する。図1は、本発明にかかる透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。本発明にかかる透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、図1に示すように、互いに相分離した透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aが混在する混合ポリマからなるポリマ樹脂材料である。イオン伝導性ポリマ相3aには電解質塩が溶解している。イオン伝導性ポリマ相3aは、電解質イオンが電気伝導のキャリアとして働くため導電率が高いポリマ相である。
【0029】
図1に示す本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aにおいて、透明非導電性ポリマ相2aおよびイオン伝導性ポリマ相3aのそれぞれの相は、ポリマ樹脂材料全体にわたって、立体的に連続して繋がっているネットワーク構造を形成しているものである。このようなポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続して繋がっている、前記した各ポリマ相のネットワーク構造は、単一あるいは複数である。透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aのいずれのポリマ相にも、図12に示す海島構造のような孤立した島状の塊になっているポリマ相は、存在してもかまわないが必要ではない。図1は透明非帯電性ポリマ樹脂1aの一断面なので、透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aのそれぞれのポリマ相において分離して見える部分があるが、実際には、それぞれのポリマ相は前記した立体的に連続したネットワーク構造の一部である。したがって透明非導電性ポリマ相2aとイオン伝導性ポリマ相3aは、前記した共連続構造を形成している。
【0030】
本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、透明非導電性ポリマ相2aおよびイオン伝導性ポリマ相3aが極めて微細な共連続構造を形成していることにより、400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、しかも室温における直流導電率が10−11S/cm以上という特性を発現している。このような極めて微細な共連続構造を実現し、前記特性を発現するように、本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aにおいて、透明非導電性ポリマ相2aおよびイオン伝導性ポリマ相3aの相対的な重量比率は定まる。
【0031】
透明非導電性ポリマ相2aは、波長400nmから800nmの可視光の平均透過率が十分高い。透明非導電性ポリマ相2aの導電率は極めて低いものであり、その導電率は10−12S/cm台以下である。また透明非導電性ポリマ相2aは機械的強度が比較的高い。透明非導電性ポリマ相2aを構成するポリマ材料の例として、式(2)で示されるポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」という)、式(3)で示されるスチレンアクリロニトリルランダム共重合体(以下「SAN」という)、式(4)で示されるポリ乳酸(以下「PLLA」という)等がある。これらのポリマ材料の室温での導電率は、10−12S/cm台以下であり、波長400nmから800nmの可視光の平均透過率は85%以上である。
【0032】
【化2】
【0033】
【化3】
【0034】
【化4】
【0035】
イオン伝導性ポリマ相3aは、イオン伝導のキャリアとなる電解質塩とそれを溶解しているポリマ材料からなるものである。前記した電解質塩としては、Li+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体型陽イオンの少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなる電解質塩を用いることができる。これらのうち、陽イオンとして使用可能であるイオン性液体には、次の式(5)乃至(12)により表される化合物イオン(式中、Rは水素原子、または置換または未置換の炭化水素基を示す)が挙げられる。
【0036】
【化5】
(式中、nは1以上の整数である。)
前記式(5)で表されるイオン性液体型陽イオンの具体例として、式(6)で表されるイオン性液体である1-エチルー3−メチルイミダゾリウムBF4塩(EImBF4)の陽イオンが挙げられる。
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
【化9】
【0041】
【化10】
【0042】
イオン伝導性ポリマ相3aは、前記した電解質塩を溶解するポリマ材料よりなるものである。このようなポリマ材料の一例としては、式(1)で表されるポリエチレングリコールメタクリレート(以下「PMEO」という)がある。
【0043】
式(1)で示されるPMEOの側鎖の末端基であるRは、HまたはCH3である。RがHの場合は、側鎖の長さに対応するnが9以下であることが望ましい。また、RがCH3の場合は、nが7.8以下であることが望ましい。nが小さい方がPMEOをイオン伝導性ポリマ相2aとして構成する、透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率が低くなるからである。ここで、PMEOの側鎖の長さに対応するnの値は、重合後に得られたPMEOポリマにつき測定により求められる値であり、各PMEOポリマについての平均値である。
【0044】
前記した電解質塩のうち、特に本発明のイオン伝導性ポリマ相を構成するものとして望ましい電解質塩は、ポリマ樹脂には溶解し、吸湿性を低くすることができる水に溶けにくいものである。たとえば、KClO4は、水には比較的溶けにくいが、前記した式(1)で示されるPMEOには、比較的よく溶解し、水に対してよりも多く溶解する電解質塩である。また、KClO4は、PMEOのモノマである式(13)で示されるエチレングリコールメタクリレート(以下「MEO8」という)にも溶解する。
【0045】
【化11】
【0046】
図1に示す透明非帯電性ポリマ樹脂1aの全体で、透明非導電性ポリマ相2aは前記したように立体的に連続なネットワーク構造を形成している。透明非導電性ポリマ相2aが本来持つ、透明でありかつ機械的強度に優れるという特性と前記した透明非導電性ポリマ相2aの透明非帯電性ポリマ樹脂1a中での構造に起因して、透明非帯電性ポリマ樹脂1aは波長400nmから800nmの可視光の平均透過率が50%以上である。
【0047】
透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率は、その内部全体に立体的に連続しているネットワーク構造を形成しているイオン伝導性ポリマ相3aの導電性によって決まる。すなわち、透明非帯電性ポリマ樹脂1aの主要な電気伝導は、導電率の低い透明非導電性ポリマ相2aを介すことなく、比較的導電率の高いイオン伝導性ポリマ相3aのみを通っておきるものである。そのため、図12に示す従来の帯電防止用ポリマ材料のように、イオン伝導性ポリマ相3a間に介在する、導電率が低い透明非帯電性ポリマ樹脂1aを通しての電気伝導のポリマ材料全体の導電率への寄与は無視できる。その結果、透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率は、図12に示す従来の海島構造の透明非帯電性ポリマ樹脂1bよりも高くすることができる。本発明の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの導電率は、10−11S/cm以上である。導電率が10−11S/cm以上の透明非帯電性ポリマ樹脂1aを梱包材として用いる場合、被梱包製品を静電気から保護可能である。
【0048】
以下、本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの製造方法について説明する。図2(a)乃至(d)は、本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法の概略を示す図である。本実施形態の透明非帯電性ポリマ1aの製造方法を、透明非導電性ポリマ相2a用材料として式(1)で表されるPMMAを用い、イオン伝導性ポリマ相3a用材料として式(9)で表されるPMEOを用いる場合を例として以下説明する。
【0049】
イオン伝導性ポリマ相3aが式(1)で示されるPMEOからなる場合、まず、図2(a)に示すように、PMMAを溶媒に溶解した溶液11にPMEOのモノマである式(11)で示されるMEO8に前記した電解質塩を溶解した溶液12を添加する。ここで電解質塩は、Li+、Na+、K+、NH4+並びに式(5)乃至式(12)で示されるイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなるものである。PMMAを溶かす溶媒として、クロロホルム、アセトン、ベンゼン、クロロベンゼン、クロロへキサン、ジオキサン、塩化メチレン、キシレン等を用いることができる。
【0050】
次に、図2(b)に示すように、溶液11と溶液12の混合液を、スターラ14aで十分に混合して、その中に含まれるPMMAと前記した電解質塩が溶解したMEO8が均一に分散したスラリ13にする。次に、図2(c)に示すように、スラリ13を内側に溝のある基材であるテフロン(登録商標)板15にキャストして、表面をスキージ16でならす。
【0051】
以上のようにテフロン(登録商標)板15上に形成されたスラリ13の層を加熱して、スラリ13に含まれる前記した溶媒を消散させるとともに、スラリ13に含まれるMEO8の分子同士を重合させてPMEOを形成させる。これによって、透明非導電性ポリマ相2aであるPMMA相とイオン伝導性ポリマ相3aであるPMEO相が、互いに相分離した共連続構造の混合体を形成し、それぞれのポリマ相が混合体全体にわたり立体的に連続なネットワーク構造を形成している透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aができる。製造された透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aは、テフロン(登録商標)板15から容易にはがされる(図2(d)参照)。以上述べた透明非帯電性ポリマ樹脂1aの製造方法は、透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aに限らず、透明非帯電性ポリマ樹脂1aでできたケース等の製造にも適用できるものである。
【0052】
以上説明した本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの製造方法において、PMMAとPMEOの重量比率は、製造されるポリマ樹脂が所定の条件を満たす範囲で適宜選択される。すなわちPMMAからなる透明非導電性ポリマ相2aとPMEOからなるイオン伝導性ポリマ相3aが極めて微細な共連続構造を形成し、透明非帯電性ポリマ樹脂1aが400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、しかも室温における直流導電率が10−11S/cm以上という特性が発現する範囲で、PMMAとPMEOの重量比率は選択される。この重量比率の範囲は、PMEOの末端基RがHまたはCH3によって、また側鎖の長さに対応するnの大小によって変化する。
【0053】
透明非帯電性ポリマ樹脂1aは次のようにしても製造することが可能である。図3は本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図である。この製造方法において、スラリ13の製造は前記した製造方法と同一である。図3に示す製造方法において、容器14中のスラリ13は、スターラ14aで混合されるとともに、一定の速度で回転するキャストロール20上に張られ、キャストロール20およびキャストロール20と同期して回転する送りロール21の回転によって、一定の速度で送られるテフロン(登録商標)ベルト18に、当接して固定されているホッパ17にポンプ19で供給される。ホッパ17に滞留するスラリ13は、テフロン(登録商標)ベルト18に当接しているため、その一部が所定の厚さの層を形成して、一定速度で送られるテフロン(登録商標)ベルト18上に移行する。
【0054】
テフロン(登録商標)ベルト18に移行したスラリ13は、内部にヒータ22aおよびダクト22bを保持する炉22を通る。炉22内でスラリ13に含まれる溶媒が消散するとともに、スラリ13に含まれるMEO8の分子同士が重合され、式(9)で示されるPMEOが形成される。その結果、テフロン(登録商標)ベルト18上に透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aが形成される。透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aは、ファン24で冷却されて、巻き取りロール23により巻き取られる。本製造方法において製造される透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aの厚さは、スラリ13の粘度およびテフロン(登録商標)ベルト18の送り速度を制御することによって、所定の厚さに調整される。本製造方法においては、透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム13aの厚さを一定に保つためにスラリ13の粘度を一定にする必要がある。そのため、PMMAを溶解する溶媒としては沸点が比較的高く、揮発しにくいクロロベンゼン等が適切である。
【0055】
透明非導電性ポリマ相2a用材料としてSANまたはPLLAを用いる場合、同様な製造方法により透明非帯電性樹脂1aを製造できる。ただし、透明非導電性ポリマ相2a用材料としてPLLAを用いる場合、前記の製造方法により製造された樹脂の透明非導電性ポリマ相2aを構成するPLLAは非透明である結晶性のものである。そのため、PLLAを透明な非晶性のものにするため、前記の製造方法により製造された樹脂をさらに170℃以上の温度で熱処理した後、急冷する必要がある。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明の一実施例として透明非帯電性ポリマ樹脂1aが、透明非導電性ポリマ相2aがPMMA、イオン伝導性ポリマ相3aにKClO4が均一に溶解したPMEOよりなるものを作製した。また、イオン伝導性ポリマ相3aがKClO4の代わりにNaClO4を均一に溶解したPMEOよりなるものも作製した。実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは以下の工程により作製した。
【0057】
実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、次のようにして製造される。まず、式(2)で示されるPMMA(Mw=350,000)を溶媒であるクロロホルムに溶かした図2に示す溶液11を作製する。さらに式(13)で示されるMEO8100モルに対してKClO45モルの割合で混ぜて、KClO4をMEO8中に溶解した図2に示す溶液12を作製する。
【0058】
次に、溶液11に溶液12を添加して、KClO4、MEO8、PMMAおよびクロロホルムを含む、図2に示すスラリ13を作り、スターラ14aで十分に混合する。十分に混合されたスラリ13を所定の溝を有するテフロン(登録商標)板15上にキャストして、スキージ6で表面をならし(図2(c)参照)、120℃で1時間保持して、クロロホルムを消散させるとともにMEO8を重合させて、式(9)で示されるPMEOが形成され、所定厚さの透明非帯電性ポリマ樹脂1aのフィルムができる。本実施例では、120℃でMEO8の重合を行ったが、100℃以上かつ160℃以下ならばこの重合反応は進行する。また、重合を促進するために、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)のようなラジカル重合促進剤を添加すれば40℃以上かつ160℃以下の温度で重合させることができる。PMMAとPMEOの重量比率は適宜変えることができる。KClO4の代わりにNaClO4を均一に溶解したPMEOを用いる場合も同様にして透明非帯電性ポリマ樹脂1aのフィルムが作製される。
【0059】
前記した製造方法で作製された、PMMAとPMEOを用いて製造される透明非帯電性ポリマ樹脂1aの相構造について以下説明する。図4は、PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aのTEM写真である。TEM観察に際し、本実施例の試料薄膜はPMMAに選択的に吸着されるヨウ素により染色されている。そのため、図4のTEM写真において、透明非導電性ポリマ相2aであるPMMAが黒く見える部分であり、白く見える部分が、イオン伝導性ポリマ相3aであるKClO4が溶解したPMEOである。PMEOの側鎖のRはHでn=9である。この透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、PMEOの重量比率は50%であり160℃で重合されて作製されたものである。またの透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、導電率が1.2×10−11S/cmで可視光の平均透過率が54%である。
【0060】
図4のTEM写真からわかるように、PMMAとPMEOから構成される各相は、互いに相分離している。一方PMMAとPMEOから構成される各相の幅はともに可視光の波長より短い約100nm程度である、微細なポリマ相混合構造を形成している。このポリマ相の混合構造は、図12に示す従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1bが有する海島構造でなく、明らかにPMMAのポリマ相とKClO4が溶解したPMEOのポリマ相のそれぞれのポリマ相が、立体的に連続しているネットワーク構造を形成しているものである。これらのポリマ相は、極めて微細な共連続構造を形成している。実施例において、このような極めて微細な共連続構造が形成されたのは、PMMAのポリマの主鎖とPMEOのポリマの主鎖の構造が同じなので、分子間の親和力が比較的大きいためである。
【0061】
PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aの特性の測定結果を図5乃至図7を参照して、以下説明する。この実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aにおいて、PMMAとPMEOの重量比率は50:50であり、KClO4が電解質塩としてPMEOに溶解されている。図5は、PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の透光率の測定結果を示す図である。図6および図7は、それぞれPMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の直流導電率の測定結果を示す図および交流導電率の測定結果を示す図である。
【0062】
図5からわかるように、厚さ0.19mmの本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aのフィルムは、可視光領域である400nmから800nmの範囲で、90%以上の透光率を有する。この透過率は、梱包材として使用した場合、梱包された状態の被梱包製品を識別するのに十分なものである。また、本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは、梱包用のフィルム材として用いるのに十分な機械的強度を有している。
【0063】
直流導電率および交流導電率の測定は、厚さ0.05mmの試料を用いて行った。直流導電率は試料のフィルムに500Vの直流電圧をかけて、流れる電流を測定することにより行った。図6からわかるように、直流導電率は電圧印加直後に最大となり、時間経過とともに分極の影響により低下するが、電圧印加開始約1分後にほぼ一定になり、2.1×10−8S/cmとなる。PMMA自体の直流導電率は、10−14S/cm台であるから、PMMAに比べると直流導電率は、106倍以上になっている。
【0064】
交流導電率の測定は、100Hzから13Mzまでの周波数範囲で交流複素インピーダンス法により行った。図7からわかるように、室温付近での交流導電率は10−8S/cm台であるが、温度上昇とともに導電率が上がる。この理由は、イオン伝導性ポリマ相3a中に溶解している電解質イオンである、K+およびClO4−の移動が温度上昇とともにイオン伝導性ポリマ相3aの主鎖の熱運動によって促進されるためである。
【0065】
重合温度、PMEOの側鎖、PMEOの重量比率を50%以上で変化させ、PMMAとPMEOを用いて本実施形態の製造方法を用いて、製造した混合ポリマについて、室温における導電率および可視光の透過率を測定した結果を表1に示す。以下、導電率の値は前記した直流導電率の測定値である。
【0066】
【表1】
【0067】
表1はPMMAと重量比率が50%以上のPMEOを用いて、作製した混合ポリマについて、室温における導電率および可視光の平均透過率を測定した結果である。表1はPMMAとPMEOを用いて本実施形態の製造方法を用いて、製造した混合ポリマの場合、可視光の平均透過率はPMEOの重量比率に関わらず50%以上であった。また導電率は、PMEOの側鎖の長さnおよびPMEOの重量比率に依存することがわかる。すなわち、nが小さい方がまたPMEOの重量比率が高い方が、導電率が高い。PMEOの重量比率が50%以上の場合、すべて10−11S/cm以上になる。
【0068】
図8は側鎖の末端基RがHでn=9のPMEO(NaClO4溶解)とPMMAを用いて、重合温度を変化させて作製した共連続構造樹脂の導電率測定結果を示す図である。図8はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。導電率が10−11S/cm以上になるのは、重合温度が100℃および130℃のとき、PMEOの重量比率が40%以上の場合であり、この場合が本発明の実施例に相当する。また、重合温度が160℃のとき、本発明の実施例に相当するのは、PMEOの重量比率がそれぞれ50%以上場合である。
【0069】
図9は側鎖の末端基RがHでnを9以下で変化させたPMEO(NaClO4溶解)とPMMAを用いて、160℃の重合温度で作製した共連続構造樹脂の導電率測定結果を示す図である。図9はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。図9はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。本発明の実施例に相当する導電率が10−11S/cm以上になるのは、nが9.0、5.7、3.5にそれぞれのとき、PMEOの重量比率が60%以上、40%以上、20%以上の場合である。したがって、nが小さい方が、すなわちPMEOの側鎖が短い方が、導電率を低下させることが容易である。
【0070】
図10は側鎖の末端基RがHのPMEO(n=9.0)と側鎖の末端基RがCH3のPMEO(7.8)のそれぞれとPMMAを用いて本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。図9はPMEOの重量比率を変化させて導電率を測定した結果である。本発明の実施例に相当する導電率が10−11S/cm以上になるのは、PMEOの側鎖の末端基RがHでn=9.0のときは、PMEOの重量比率が60%以上の場合である。一方、PMEOの側鎖の末端基RがCH3でn=7.8のときは、本発明の実施例に相当する導電率が10−11S/cm以上になるのはPMEOの重量比率が20%以上の場合である。
【0071】
次に、透明非導電性ポリマ相2a用ポリマ材料として、PLLAおよびSANのそれぞれを用いて作製した実施例について説明する。表2はPLLAとSANのそれぞれと重量比率が50%以上のPMEOを用いて本実施形態の製造方法を用いて、製造した混合ポリマについて、室温における導電率および可視光の平均透過率を測定した結果である。
【0072】
【表2】
【0073】
側鎖のRがHでn=9のPMEOとSANを用いて作製した混合ポリマ樹脂は、可視光の透過率が50%未満であり、本発明の透明非帯電性ポリマ樹脂材料には該当しない。一方、側鎖のRがCH3でn=2のPMEOとSANを用いて作製した混合ポリマ樹脂および側鎖のRがHでn=9のPMEOとPLLAを用いて作製した混合ポリマ樹脂は、可視光の透過率が50%以上であり、また導電率も十分に高く、本発明の実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂材料に該当する。透明非導電性ポリマ相2a用ポリマ材料としてPLLAおよびSANを用いる場合、PMEOの側鎖のRおよびnを適宜選択することにより、本発明の実施例に該当する透明非帯電性ポリマ樹脂材料を作製可能である。
【0074】
以上より、本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂1aは透明であり、かつ、梱包用のフィルム材として十分な機械的強度を有している。また、従来の透明非帯電性ポリマ樹脂1b(図12参照)に比べて、導電率が高く、非帯電性効果に優れる。
【0075】
本発明の実施形態は本実施例に限定されるものではなく、その主旨に反しない範囲で態様を変更できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明にかかる透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。
【図2】(a)乃至(d)は、本実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法の概略を示す図である。
【図3】本実施形態の透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図である。
【図4】PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂のTEM写真である。
【図5】PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の光透過率の測定結果を示す図である。
【図6】PMMAとPMEOを用いて製造した実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の直流導電率の測定結果を示す図である。
【図7】PMMAとPMEOを用いて、本実施形態の製造方法によりした実施例の透明非帯電性ポリマ樹脂の交流導電率の測定結果を示す図である。
【図8】側鎖の末端基RがHでn=9のPMEOとPMMAを用いて、重合温度を変化させて、本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。
【図9】側鎖の末端基RがHでnを9以下で変化させたPMEOとPMMAを用いて、160℃の重合温度で本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。
【図10】側鎖の末端基RがHのPMEOと側鎖の末端基RがCH3のPMEOのそれぞれとPMMAを用いて本実施形態の製造方法により作製した樹脂の導電率測定結果を示す図である。
【図11】従来の透明非帯電性ポリマ樹脂の断面模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b 透明非帯電性ポリマ樹脂
2a,2b 透明非導電性ポリマ相
3a,3b イオン伝導性ポリマ相
11 溶液(PMMA+溶媒)
12 溶液(電解質塩+MEO8)
13 スラリ(電解質塩+MEO8+PMMA+溶媒)
13a 透明非帯電性ポリマ樹脂フィルム
14a スターラ
15 テフロン(登録商標)板
16 スキージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相分離したイオン伝導性ポリマ相と透明非導電性ポリマ相の混合体からなるポリマ樹脂材料であって、
前記イオン伝導性ポリマ相に電解質塩が溶解していること、
前記イオン伝導性ポリマ相と前記透明非導電性ポリマ相が共連続構造を形成し、それぞれのポリマ相が前記ポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成していること、
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であること、および、
室温における直流導電率が10−11S/cm以上であること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項2】
請求項1に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記イオン伝導性ポリマ相は式(1)で示されるポリエチレングリコールメタクリレートよりなり、
前記電解質塩がLi+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)から選ばれる少なくとも1種以上の陰イオンからなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【化1】
【請求項3】
請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記透明非導電性ポリマ相がポリメタクリル酸メチルよりなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項4】
請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において
前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがHであり、nが9以下であること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項5】
請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において
前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがCH3であり、nが7.8以下であること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項6】
請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記透明非導電性ポリマ相がスチレンアクリロニトリルランダム共重合体よりなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項7】
請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記透明非導電性ポリマ相が非晶性のポリ乳酸よりなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項8】
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、
ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒とLi+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなる電解質塩が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる液体と、を混合してスラリを作製し、
このスラリを基材にキャストして加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマ同士を重合させること、
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法。
【請求項9】
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、
ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒と、
NaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液とを混合してスラリを作製し、
このスラリを基材にキャストし、100℃以上かつ160℃以下の温度で、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させること、
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、
ポリ乳酸が溶解した溶媒にNaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液を加えて混合したものを基材にキャストし、
100℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させ、さらに
170℃以上の温度で熱処理後に急冷して前記ポリ乳酸を非晶性にすること、
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法。
【請求項1】
互いに相分離したイオン伝導性ポリマ相と透明非導電性ポリマ相の混合体からなるポリマ樹脂材料であって、
前記イオン伝導性ポリマ相に電解質塩が溶解していること、
前記イオン伝導性ポリマ相と前記透明非導電性ポリマ相が共連続構造を形成し、それぞれのポリマ相が前記ポリマ樹脂材料全体にわたり立体的に連続しているネットワーク構造を形成していること、
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であること、および、
室温における直流導電率が10−11S/cm以上であること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項2】
請求項1に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記イオン伝導性ポリマ相は式(1)で示されるポリエチレングリコールメタクリレートよりなり、
前記電解質塩がLi+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)から選ばれる少なくとも1種以上の陰イオンからなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【化1】
【請求項3】
請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記透明非導電性ポリマ相がポリメタクリル酸メチルよりなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項4】
請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において
前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがHであり、nが9以下であること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項5】
請求項3に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において
前記ポリエチレングリコールメタクリレートのRがCH3であり、nが7.8以下であること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項6】
請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記透明非導電性ポリマ相がスチレンアクリロニトリルランダム共重合体よりなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項7】
請求項2に記載の透明非帯電性ポリマ樹脂において、
前記透明非導電性ポリマ相が非晶性のポリ乳酸よりなること
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂材料。
【請求項8】
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、
ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒とLi+、Na+、K+、NH4+およびイオン性液体の少なくとも1種以上の陽イオンとClO4―、BF4―、PF6―、AsF6―、CF3SO3―、NO3―、Cl―、Br―、I―、N(RSO2)2―およびC(RSO2)3―(Rは、−CF3、または、−(CF2)nCF3で、n≧1)の少なくとも一種以上の陰イオンからなる電解質塩が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる液体と、を混合してスラリを作製し、
このスラリを基材にキャストして加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマ同士を重合させること、
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法。
【請求項9】
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、
ポリメタクリル酸メチルまたはスチレンアクリロニトリルランダム共重合体が溶解した溶媒と、
NaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液とを混合してスラリを作製し、
このスラリを基材にキャストし、100℃以上かつ160℃以下の温度で、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させること、
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
400nmから800nmの波長範囲の可視光の平均透過率が50%以上であり、室温における直流導電率が10−11S/cm以上である透明非帯電性ポリマ樹脂の製造方法であって、
ポリ乳酸が溶解した溶媒にNaClO4またはKClO4が溶解したエチレングリコールメタクリレートのモノマよりなる溶液を加えて混合したものを基材にキャストし、
100℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、または、ラジカル重合促進剤を添加して40℃以上かつ160℃以下の温度で加熱することにより、前記溶媒を消散させるとともに、前記エチレングリコールメタクリレートのモノマを重合させ、さらに
170℃以上の温度で熱処理後に急冷して前記ポリ乳酸を非晶性にすること、
を特徴とする透明非帯電性ポリマ樹脂フィルムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【公開番号】特開2007−327043(P2007−327043A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123226(P2007−123226)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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