説明

透明高分子組成物及び光学部材

【課題】優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率を有する透明高分子組成物と光学部材を提供する。
【解決手段】光触媒活性を有する無機微粒子(A)と透明高分子(B)を含む透明高分子組成物であって、紫外線を照射することによりその屈折率を制御することが可能である透明高分子組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材等に用いられる透明高分子組成物(透明樹脂組成物)に対する分散性に優れ、その透明性や光学特性を確保しつつ、屈折率を高めることが可能な表面修飾無機微粒子、およびこれに紫外線を照射して屈折率を調整することが可能である透明高分子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄やハロゲン原子またはベンゼン環などを高分子の側鎖や主骨格に導入することによって、透明高分子の高屈折率化は行われてきた。しかし、透明高分子の屈折率は最大で1.8程度と限界があり、また、吸湿率、屈折率温度依存性、複屈折率などの光学特性が低下する場合があった。そこで種々の光学特性を付与しながら、より高屈折率化が可能な手法として、微粒子を透明高分子と共に組成物に分散させる試みが近年盛んに行われている。
【0003】
ところが高い屈折率の微粒子をそれより屈折率の低い透明高分子に分散させて高屈折率化を行う場合、微粒子の粒子径や分散性に十分配慮する必要がある。一般に、光の波長より十分に小さい微粒子が完全に独立して分散された場合のみ、優れた透明性が実現することが予想されている。
【0004】
しかし、実際には、粒径が光の波長より十分に小さい微粒子、特に粒径が100nm以下の微粒子を透明高分子組成物中に分散させると、微粒子が容易に凝集を起こして組成物の透明性は低下する。また、高屈折率化が期待されるチタンなどの金属酸化物の微粒子に関しては、凝集力が大きいことから、光学用途の条件を満たすような透明性を維持しながら、これを高充填分散することは従来困難であったが、特許文献1に開示された手法により、様々な樹脂への高充填分散が可能になりつつある。
【0005】
上記手法によれば、分子量の大きくない修飾分子と高分子量の修飾高分子の両方で表面を修飾した無機微粒子は、透明高分子組成物中において、高充填しても凝集することなく、優れた分散性を示し、高い透明性と屈折率を有する透明高分子組成物を得ることができることが分かった。
【0006】
ところで、ある配合量で上記無機微粒子を透明高分子組成物中に混合すると、その時点で屈折率は決まってしまい、その後、屈折率を変化させることは困難であった。このため、反射防止膜などの屈折率が異なる二層以上の多層構造や光ファイバーなど屈折率の分布が中心部と周辺部で異なるような傾斜構造のものを構成させるためには、複数回の塗膜工程などが必要となっていた。
【特許文献1】特願2006−001366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記を鑑みて、本発明は、優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率を有する透明高分子組成物及び光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本研究者らは、表面修飾無機微粒子が、透明高分子組成物中において、高充填しても凝集することなく、優れた分散性を示し、高い透明性と屈折率を有する透明高分子組成物を得ることができるということを見出し、また、光触媒活性を有する無機微粒子を用いると、紫外線照射によりこの微粒子を含有する透明高分子組成物の屈折率を低減させることがわかり、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
1. 光触媒活性を有する無機微粒子(A)と透明高分子(B)を含む透明高分子組成物であって、紫外線を照射することによりその屈折率を制御することが可能である透明高分子組成物。
2. 前記無機微粒子(A)が、チタンを含有する酸化物であることを特徴とする項1に記載の透明高分子組成物。
3. 前記無機微粒子(A)の平均粒子径が1〜50nmであることを特徴とする項1または2に記載の透明高分子組成物。
4. 前記無機微粒子(A)が、分子量1000未満である修飾分子(a)と重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)の両方で表面を修飾してなることを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の透明高分子組成物。
5. 前記無機微粒子(A)の表面を修飾している、前記分子量1000未満である修飾分子(a)と前記重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)の割合がモル比で1000:1〜1:10000であることを特徴とする項4に記載の透明高分子組成物。
6. 前記重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)が、前記透明高分子(B)と相溶する高分子であることを特徴とする項4または5に記載の透明高分子組成物。
7. 前記無機微粒子(A)の含有量が0.1〜95重量%であることを特徴とする項1〜6のいずれかに記載の透明高分子組成物。
8. 膜厚100〜1000nmの薄膜としたときのヘイズが、濁度計による測定で1.0%以下であることを特徴とする項1〜7のいずれかに記載の透明高分子組成物。
9. 膜厚100〜1000nmの薄膜としたときの、波長400〜800nmにおける屈折率が1.60〜2.80であることを特徴とする項1〜8のいずれかに記載の透明高分子組成物。
10. 紫外線照射後の屈折率が照射前より0.1以上小さくなることを特徴とする項1〜9のいずれかに記載の透明高分子組成物。
11. 項1〜10のいずれに記載の透明高分子組成物を用いたことを特徴とする光学部材。
【0010】
なお、本発明において、「透明」という用語は、光学用途に使用できる程度に光が透過することを意味し、具体的には、波長400〜800nmにおける光の透過率が90%以上で、かつヘイズが1%以下であることが望まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率を有する透明高分子組成物を得ることができ、さらに光触媒活性を有する分散性に優れた無機微粒子を適用することにより、紫外線照射による屈折率制御が可能な透明高分子組成物と光学部材を提供することが可能となる。
【0012】
また、本発明の透明高分子組成物は、具体的には、カメラや眼鏡用のレンズ、光記録・些再生用機器のピックアップレンズ、フィルムレンズのハードコート材、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、CRTディスプレイの反射防止層やELディスプレイの輝度向上層等の光学部材(光学用材料)として好適に使用することができる。また、本発明の透明高分子組成物は、屈折率制御が容易なため、従来の光学用透明高分子では対応できなかった用途にも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明における光触媒活性を有する無機微粒子(A)は一種類以上の金属を含有する酸化物、硫化物で、光触媒活性を有するものであればよいが、好ましくは、紫外線領域である200〜400nmに吸収があるものである。具体的に含有されている金属はチタン、亜鉛、すず、タングステン、鉄、ニオブ、ストロンチウム、バリウム、タンタル等を挙げることができる。また、ここでいう光触媒活性とは、紫外線照射により活性化された触媒により、有機物の酸化反応が著しく促進される効果のことである。さらに、この酸化反応は照射する紫外線量に比例して激しく起こり、有機物が分解して気化したり、一もしくは二酸化炭素や水まで酸化されたりすることが知られている。
【0014】
光触媒活性を有する物質のなかで、活性が大きく安価なものとして、チタン含有の酸化物がさらに好ましい。さらに好ましくは二酸化チタンを挙げることができる。結晶構造はアナターゼ、ルチル、ブルックカイト等が知られているが、特に限定されるものではない。
【0015】
また、上記無機微粒子(A)の構造としては、例えば、上記金属1種類以上による結晶構造を形成するもの、または1種類の無機微粒子(A)に他の無機物を1種類以上の被覆したコア−シェル構造などが挙げられる。
【0016】
上記無機微粒子(A)の粒子径は、平均粒子径として1nm以上50nm以下であることが好ましい。特に、透明高分子組成物中の光路長が長くなる場合には、より高い透明性を実現するために、1nm以上20nm以下であることが望ましい。なお、上記平均粒子径は、球状、棒状、不定形などの形状が含まれる上記無機微粒子(A)の中から無作為に選ばれた少なくとも百個以上の粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)によりそれぞれの粒子像の面積を測定し、これと同面積の円の直径をもって粒子径とし、公知の統計処理により平均粒子径を算出する。
【0017】
また、光散乱による透明性の低下を防ぐためには、50nm以上の粒子径をもつ粒子が観察されないことが好ましい。特に、より高い透明性を実現するためには20nm以上の粒子径をもつ粒子が観察されないことが望ましい。
【0018】
本発明の透明高分子組成物は、上記無機微粒子(A)と透明高分子(B)とを共に組成物中に分散してなることを特徴するものである。ただし、上記無機微粒子(A)は、それ自体だけで透明な薄膜を形成することができる。薄膜を形成する方法に特に制限はないが、表面が有機物で修飾されているため、有機溶媒に分散させると透明な分散液を得て、スピンキャスト等により高い透明性と高い屈折率をもつ薄膜を形成させることができる。一方、上記無機微粒子(A)の表面を、分子量1000未満である修飾分子(a)と重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)の両方で修飾すると、透明高分子(B)に分散させることで、無機微粒子(A)をより高充填した透明高分子組成物を与えることができる。
【0019】
上記分子量1000未満の修飾分子(a)による修飾は、主に、無機微粒子(A)同士が直接接触して不可逆な凝集が生じることを防ぐために行うものであるが、この修飾のみを施した無機微粒子を透明高分子組成物中に高充填で分散させると、透明高分子との相溶性に限界が生じ、結果として組成物中で凝集体を形成してしまい、組成物の透明性が低下してしまう。そこで、本発明では、分子量1000未満の修飾分子(a)により、無機微粒子(A)同士の凝集を防ぎ、その上でさらに重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)により、無機微粒子(A)と透明高分子との相溶性を高め、透明高分子組成物における無機微粒子のさらなる高充填分散を実現した。
【0020】
また、上記修飾高分子(b)は、本発明の透明高分子組成物において上記無機微粒子(A)と共に分散させる透明高分子(B)と相溶する高分子であることが好ましい。なお、本発明において「相溶する」とは、両高分子を直接混合又は混錬する方法、一旦溶媒に溶解したのち混合して溶媒を留去する方法で混合した後の混合物が優れた透明性を有していることを意味している。
【0021】
また、上記修飾高分子(b)における高分子鎖は、直鎖型や枝分かれ型などがあるが、特に制限はない。高分子鎖の形成方法も同一のモノマーを重合したもの、または異なる2種類以上のモノマーを重合したもののどちらでもよい。ただし、本発明の表面修飾無機微粒子を透明高分子と共によく分散させるためには、上記修飾高分子(b)の重量平均分子量が1000〜1000000であることが好ましい。
【0022】
上記無機微粒子(A)の表面を修飾している、前記分子量1000未満である修飾分子(a)と前記重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)の割合は、無機微粒子(A)が透明高分子(B)と共に分散する限り特に制約はないが、具体的には、修飾分子(a)と修飾高分子((b)がモル比で1:0.1〜1:10000であることが好ましい。無機微粒子(A)を透明高分子組成物中に高充填分散させる場合には、修飾分子(a)に対する修飾分子(b)の割合が少ないことが望ましい。
【0023】
本発明における透明高分子(B)は、光学用途として一般に用いられ、その成形物または硬化物が透明性を有するものであれば特に制限はない。具体的には、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリシクロオレフィン、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリ−1、2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1、3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1、3−ブタジエン、ポリ−1、3−ブタジエンなどの(ジ)エン類、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテルなどのポリエーテル類、ポリビニルアセテート 、ポリビニルプロピオネートなどのポリエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、ポリスルフィド等が挙げられ、これらは単独又は2種以上併用して用いることもできる。
【0024】
上記の他にも、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体変性物、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸塩共重合体、アクリル酸エステル系ゴム、ポリイソブチレン、アタクチックポリプロピレン、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、エチレンセルロース、ポリアミド、シリコーン系ゴム、ポリクロロプレン等の合成ゴム類、シリコーン、ポリビニルエーテル等が適用可能であり、これらは単独あるいは2種以上併用して用いることもできる。
【0025】
さらに、上記透明高分子(B)に官能基を導入しておいて、本発明の表面修飾無機微粒子と複合化した後、官能基間の反応を起こして、透明高分子(B)のネットワーク化を図ることができる。あるいは、上記無機微粒子(A)と上記透明高分子(B)と共に、様々な反応重合性分子単独あるいは2種以上併用して用いることができる。この場合、反応重合性分子は、当該分子同士で高分子量化もしくはネットワーク化することができる。このように、本発明の透明高分子組成物は、前述の通り、本発明の表面修飾無機微粒子と透明高分子(B)を含むことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の透明高分子組成物は、例えば、本発明の表面修飾無機微粒子を任意の溶媒に分散させたものと透明高分子(B)を任意の溶媒に溶解したものを混合する方法や溶融混錬法などにより作製することができる。また、透明高分子(B)が、透明樹脂である場合には、先に述べた二つの方法に加え、モノマー溶液中に本発明の表面修飾無機微粒子を分散させた後、熱や光などでモノマーを重合させることで透明樹脂組成物の硬化物を製造することができる。なお、本発明の透明高分子組成物の形態は、液状(ワニス状)であっても固形状(硬化物)であってもよい。また、用途に応じて、薄膜状にすることもできる。
【0027】
また、本発明の表面修飾無機微粒子を含む透明高分子組成物中の含有量には特に制限はないが0.1〜95重量%であることが好ましい。この含有量は透明高分子組成物を空気雰囲気下、900度まで昇温速度10〜50度/分で加熱し熱分解して得られる残渣より正確に測定できる。
【0028】
また、本発明の透明高分子組成物は、膜厚100〜1000nmの薄膜としたときのヘイズが、濁度計による測定で1%以下であることが好ましく、また、膜厚100〜1000nmの薄膜にしたときの、波長400〜800nmにおける屈折率が1.60〜2.80であることが好ましい。なお、これらの物性の測定方法は以下の実施例で詳述する。
【0029】
本発明の透明高分子組成物に400〜800nmの紫外線を照射すると、照射部分の屈折率が低下する。これは、光触媒活性を有する上記無機微粒子(A)の周辺部分の高分子の酸化反応が促進し、分解もしくは気化することによって空隙が生じ、屈折率の低下をもたらすためである。照射する紫外線に制限はないが、一般に市販されているような高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ等の紫外線を発生させるものであればよい。
【0030】
ただし、照射する範囲としない範囲をマスク等して区別すると屈折率がこのなる2層構造やパターンの形成が可能である。また、照射強度を調整することで、透明高分子組成物中の照射された紫外線量を制御し、組成物中で屈折率を傾斜させることができる。より多く紫外線が照射された場所はその量に比例して屈折率の低下量も大きくなるためである。このようにして屈折率傾斜材料の設計も可能である。
【0031】
これらの紫外線による屈折率調整は、透明高分子組成物が高い透明性を有していることによって初めて可能である。また、この際、ヘイズの上昇や透過率の低下は起きない。これは上記無機微粒子(A)の周辺部でのみ空隙ができたため、粒子の凝集や樹脂の不透明化といった現象が起きないためである。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
<実施例1>
(酸化チタン微粒子の合成例)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコにトリオクチルホスフィンオキシド5.0g(アルドリッチ製、分子量=386.63)、四塩化チタン0.76g(和光純薬工業製)、ノルマルヘプタデカン30.0g(和光純薬工業製)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら摂氏280度まで加熱した。280℃に到達後、この温度を維持しながらテトライソプロポキシチタン1.14g(和光純薬工業製)を加えた。そのまま5分間攪拌した後、放冷したところ、沈殿が析出した。傾斜して上澄み液を除き、沈殿を2−プロパノール、アセトンの順で洗浄して、分子量1000未満の修飾分子により修飾された酸化チタン微粒子(平均粒径14nm)0.33gを沈殿として得た。
【0033】
(修飾高分子合成例1)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコに4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(和光純薬工業製)3.34g、塩化チオニル(和光純薬工業製)10mlを加え窒素雰囲気下で30分間還流させた。還流後0℃に冷却したヘキサン80mlを加えたところ、沈殿が析出した。傾斜して上澄みを除き、再び0℃に冷却したヘキサン80mlを沈殿に加え激しく振り、沈殿を濾別して減圧乾燥して2.71gの生成物(I)(下記化学式(I))を得た。さらに100ml三つ口フラスコに上記で得た生成物(I)0.18g、THF30ml、メタクリル酸メチル(和光純薬工業製)6.0gを加え、アルゴンバブリングして溶存酸素を除いた。攪拌しながらアルゴン雰囲気下、70℃で5時間加熱した後、放冷して末端官能ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMA)修飾高分子(II)(下記一般式(II)、重量平均分子量36600)のテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
(修飾高分子による微粒子の修飾処理例1)
上記酸化チタン微粒子の合成例で得た酸化チタン微粒子0.20gをテトラヒドロフラン5.0mlに分散させた分散液と、上記修飾高分子合成例1で得た末端能PMMA修飾高分子のテトラヒドロフラン溶液1.0mlを、還流コンデンサーを備えた30ml二つ口フラスコに加え、窒素雰囲気下で加熱して8時間還流させた。その後、放冷して室温に戻し、内容物をメタノール20ml中に滴下したところ、沈殿が生成した。この沈殿を濾別して0.18gのPMMA修飾酸化チタン微粒子の固体を得た。
【0037】
(透明高分子組成物作製例1)
上記処理例1で得たPMMA修飾酸化チタン微粒子0.18gをトルエン1.0mlに分散させた分散液とPMMA(三菱レイヨン製、分子量=40000、屈折率1.49)0.100gをトルエン5.0mlに溶解したPMMAトルエン溶液を混合し、これをスライドガラス上およびシリコンウエハー上にスピンコートして厚み300nm〜800nmの透明高分子組成物を作製した。
【0038】
<比較例1>
(修飾酸化ジルコニウム微粒子合成例)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコにトリオクチルホスフィンオキシド20.0g(アルドリッチ製、分子量=386.63)、四塩化ジルコニウム1.16g(アルドリッチ製)、テトライソプロポキシジルコニウム1.56g(アルドリッチ製)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら摂氏340度まで加熱した。340℃に到達後、そのまま2時間攪拌した後、放冷して室温とした。ついでアセトン50mlを加えたところ、沈殿が生成した。傾斜して上澄み液を除き、沈殿をアセトンで洗浄して、分子量1000未満の修飾分子により修飾された酸化ジルコニウム微粒子(平均粒径4nm)0.54gを沈殿として得た。
【0039】
(修飾高分子による微粒子の修飾処理例2)
上記酸化ジルコニウム微粒子合成例で得た修飾酸化ジルコニウムナノ粒子0.54gをテトラヒドロフラン5.0mlに分散させた分散液と、上記修飾高分子合成例1で得た末端能PMMA修飾高分子のテトラヒドロフラン溶液1.0mlを、還流コンデンサーを備えた30ml二つ口フラスコに加え、窒素雰囲気下で加熱して8時間還流させた。その後、放冷して室温に戻し、内容物をメタノール20ml中に滴下したところ、沈殿が生成した。この沈殿を濾別して0.50gのPMMA修飾酸化ジルコニム微粒子の固体を得た。
【0040】
(透明高分子組成物作製例2)
上記処理例2で得たPMMA修飾酸化ジルコニウム微粒子0.20gをトルエン1.0mlに分散させた分散液とPMMA(三菱レイヨン製、分子量=40000、屈折率1.49)0.100gをトルエン5.0mlに溶解したPMMAトルエン溶液を混合し、これをスライドガラス上およびシリコンウエハー上にスピンコートして厚み300nm〜800nmの透明高分子組成物を作製した。
【0041】
<評価>
(1)紫外線照射
ウシオ電機(株)製SP−7−250UBを用いて、365nmにおける表面での強度が5000mW/cmとなる条件下で紫外線照射を行った。
(2)屈折率及び透過率
実施例1及び比較例1で作製した各透明組成物薄膜について、日本分光製紫外可視近赤外分光計により400nm〜800nmにおける屈折率及び光の透過率を調べた。屈折率の算出方法は文献(東京大学出版会、薄膜・光デバイス、吉田貞史 矢島弘義著)中の透明膜の屈折率と膜厚を求める方法に拠った。結果を図1に示す。
【0042】
(3)ヘイズ
実施例1、比較例1で作製した各透明高分子組成物薄膜について、日本電色工業製ヘイズメーターNDH2000によりそれぞれのヘイズを調べた。結果を下記表1に示す。
○:ヘイズ1%以下
×:ヘイズ1%以上
(4)透過率
実施例1、比較例1で作製した各透明高分子組成物薄膜について、日本分光製紫外可視近赤外分光計により400nm〜800nmにおける光の透過率を調べた。なお、スライドガラスの透過率が91%である。結果を下記表1に示す。
○:透過率が90%以上
×:透過率が90%未満
(5)作製した各透明組成物薄膜について、エスエスアイ・ナノテクノロジー製TG/DTA6300で透明高分子組成物中の無機物の重量比を測定した。結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(6)粒子観察
実施例1、比較例1で合成した酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子について、日立製作所製H−9000NAR型透過型電子顕微鏡(TEM)で粒子の形状、大きさを測定した。結果を図2に示した。図2のTEM写真において、左側は酸化チタン、右側は酸化ジルコニウムである。
【0045】
評価結果より、優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率を有する透明高分子組成物を得ることができ、さらに光触媒活性を有する分散性に優れた無機微粒子を適用することにより、紫外線照射による屈折率制御が可能な透明高分子組成物と光学部材を提供することが可能となることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】照射時間と屈折率変化の関係を示すグラフである。
【図2】合成した酸化チタン微粒子と酸化ジルコニウム微粒子のTEM写真である(左:酸化チタン、右:酸化ジルコニウム)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒活性を有する無機微粒子(A)と透明高分子(B)を含む透明高分子組成物であって、紫外線を照射することによりその屈折率を制御することが可能である透明高分子組成物。
【請求項2】
前記無機微粒子(A)が、チタンを含有する酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の透明高分子組成物。
【請求項3】
前記無機微粒子(A)の平均粒子径が1〜50nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の透明高分子組成物。
【請求項4】
前記無機微粒子(A)が、分子量1000未満である修飾分子(a)と重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)の両方で表面を修飾してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項5】
前記無機微粒子(A)の表面を修飾している、前記分子量1000未満である修飾分子(a)と前記重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)の割合がモル比で1000:1〜1:10000であることを特徴とする請求項4に記載の透明高分子組成物。
【請求項6】
前記重量平均分子量1000以上である修飾高分子(b)が、前記透明高分子(B)と相溶する高分子であることを特徴とする請求項4または5に記載の透明高分子組成物。
【請求項7】
前記無機微粒子(A)の含有量が0.1〜95重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項8】
膜厚100〜1000nmの薄膜としたときのヘイズが、濁度計による測定で1.0%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項9】
膜厚100〜1000nmの薄膜としたときの、波長400〜800nmにおける屈折率が1.60〜2.80であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項10】
紫外線照射後の屈折率が照射前より0.1以上小さくなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれに記載の透明高分子組成物を用いたことを特徴とする光学部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−88353(P2008−88353A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273007(P2006−273007)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】