説明

透析用剤の容器および透析液の調製方法

【課題】 廃棄時にかさ張らない袋状の透析用剤の収容容器において、その構成を簡潔にすると共に、容器から溶解槽へと透析用剤を投入する際の埃等の浸入、及び透析用剤の周囲への飛散を確実に防止する。
【解決手段】 内部に固形型透析用剤を封入する袋状の容器である。前記容器11の一端部に設定した開封部に向かって次第に拡径するテーパ状の注入部14を形成する。このテーパ状の注入部は、その内周面を、溶解槽の投入口に設けられるテーパ状の受口部21の外周面に嵌合するように形成し、容器の注入部と溶解槽の受口部とが密接に嵌合するように図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工透析に適用する固形型透析用剤を収容する袋状の容器と、この容器を使用した透析液の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状あるいは顆粒状の固形型透析用剤は、液体型透析用剤に比較して運搬作業の負担が軽く、保管スペースの節約にもなることから、近年多く用いられている。固形型透析用剤は、透析治療にあたり、例えば自動溶解装置に投入してこれを精製水に溶解することで透析液を調製する。この固形型透析用剤を収容する容器には、主にボトル状のものと袋状のものとがある。特許文献1はボトル状容器の一例を、特許文献2は袋状容器の一例を、それぞれ示している。
【0003】
透析用剤の自動溶解装置には、主にボトル状容器が用いられている。ボトル状容器を自動溶解装置にセットすれば、全自動で透析液の調製が可能であり、手作業で透析液を調製する場合に比較して能率よく清浄な透析液が得られ、医療従事者の作業負担も軽減される。このような自動溶解装置に適用するボトル状容器は、例えばその注ぎ口に二重にシールが施されており、運搬時等に外気に露出する可能性の有る外側シールを剥がしたうえで自動溶解装置に装着することで、埃や不純物が付着するのを防止するようにしている。自動溶解装置内では、注ぎ口の内側シールが自動的に開封され、透析用剤を溶解するための循環回路がアダプタを介してボトル状容器に接続される。循環回路はポンプを介してボトル状容器と溶解槽との間で精製水を循環させる閉回路を形成するようになっており、これにより外気に触れることなく、清浄な条件下でボトル状容器内の透析用剤を溶解して、透析液を調製することができる。なお、このとき調製される透析液は通常は原液であり、透析治療への使用にあたっては、さらに精製水で所定倍率に希釈する(以下「透析液」とは、このような希釈して用いる原液である場合を含む)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−340447号公報
【特許文献2】特開2007−313089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したようなボトル状容器は、例えば高密度ポリエチレンなど剛性の高い材料で形成されているので、使用後空になっても、つぶして容量を小さくし難く、ゴミとして処分する際にかさ張るという問題がある。これに対して、袋状の容器は、可撓性を有するシート状材料で形成されているので、使用後に扁平に潰すことができ、かさ張ることなく、廃棄処分も容易である。
【0006】
その一方、固形型透析用剤を袋状の容器に収容した場合には、次のような使用上の問題を生じる。即ち、医療従事者が手作業で一袋ずつ開封して溶解槽に透析用剤を投入して透析液を調製する場合には、投入する透析用剤が周辺に飛び散らないように慎重に作業をする必要があり、それでもある程度の用剤の飛散は避けられない。また、透析用剤を投入する際、溶解槽の投入口は開放状態にあるので、容器の開封部に付着していたチリや周囲の埃などが溶解槽内に浸入することがある。さらに、袋状の容器を用いて透析用剤を溶解槽に自動投入する場合にも、回転刃などから成るカッターによって開封する際に、容器内の透析用剤が周囲に飛散するので、作業後に清掃を行う必要を生じる。
【0007】
このような問題点を解消した袋状の容器として、本出願人は、特許文献2に示したようなものを提案している。これは、可撓性を有するシート状材料からなる袋状容器の底部を二重構造としたものである。透析用剤に接している内側の底部は、開封前には外側の底部に覆われており、外部に露出することがない。透析用剤を溶解槽に投入する際には、外側の底部を開封したうえで、内側の底部をカッター等で切り開くことにより、清浄な内側底部の切開部を通して溶解槽に透析用剤を注ぎ入れることができる。このとき、内側底部は開封前から清浄に保たれており、その周囲は外側底部の開封部分に覆われた態様で透析用剤の投入がなされるので、容器の外側面に付着していたチリや周囲の埃などが溶解槽の内部に侵入するおそれがない。また、内側底部をカッターで切開して透析用剤を溶解層に自動投入するようにした場合に、外側底部の開封部分が内側底部を覆っているので、切開時に透析用剤が周囲に飛散するのを防止することができる。
【0008】
この発明は、このような袋状の透析用剤の容器およびこの容器を使用した透析液の調製方法をさらに改良したものである。即ち、この発明では、袋状の容器から溶解槽へと透析用剤を投入する際の埃等の浸入、および透析用剤の周囲への飛散をより確実に防止することを目的としている。また、この発明では、袋状の透析用剤収容容器の構成をより簡潔にすることをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1は、可撓性を有するシート状材料からなり、内部に固形型透析用剤を封入する袋状の透析用剤の容器であって、前記容器の内側から容器の一端部に設定した開封部に向かって次第に拡径するテーパ状の注入部を形成し、このテーパ状の注入部は、その内周面を、溶解槽の投入口に設けられるテーパ状の受口部の外周面に嵌合するように形成してあることを特徴とする透析用剤の容器である。
【0010】
請求項2は、前記請求項1において、そのテーパ状の注入部を、横断面形状が略楕円形に形成された前記テーパ状の受口部に対応する寸法に形成してあることを特徴とする透析用剤の容器である。
【0011】
請求項3は、前記請求項1または請求項2において、そのテーパ状の注入部の細径部を、前記テーパ状の受口部の内径よりも小としてあることを特徴とする透析用剤の容器である。
【0012】
請求項4は、前記請求項1から請求項3において、そのテーパ状の注入部の細径部よりも容器内側に向かって次第に拡径するテーパ状の傾斜部を形成してあることを特徴とする透析用剤の容器である。
【0013】
請求項5は、前記請求項4において、その注入部と傾斜部との間に、内径が変化しない直線状通路部を形成してあることを特徴とする透析用剤の容器である。
【0014】
請求項6は、前記請求項1から請求項5の何れかに記載の袋状の容器に密封された透析用剤を溶解槽に投入して透析液を調製する方法であって、
前記容器を、その注入部が上向きになるように正立させた状態で、容器内部の透析用剤よりも上方かつ注入部よりも下方の空間部分を容器両外側面からクランプで挟み込む工程、
前記クランプで挟み込む工程の後に、前記容器の注入部を開封する工程、
前記容器の注入部を開封する工程の後に、前記容器の注入部を、その内周面が、溶解槽に連通するテーパ状の受口部の外周面に嵌合するように、結合する工程、
前記容器を溶解槽の受口部に結合する工程の後に、前記容器を倒立状態に保持し、前記クランプを開放して、容器内の透析用剤を溶解槽内に投入する工程、
とを有することを特徴とする透析用剤の調製方法である。
【0015】
請求項7は、前記請求項6における、容器を溶解槽の受口部に結合する工程を、前記溶解槽に上向きに開口するように設けられた受口部に対して、前記容器を倒立させて行うようにしたことを特徴とする透析用剤の調製方法である。
【0016】
請求項8は、前記請求項6において、前記受口部は、前記溶解槽に対して着脱自在に構成され、溶解槽から離脱させた受口部を、正立状態の容器に結合した後、容器を倒立させて、前記溶解槽の投入口に連結することを特徴とする透析用剤の調製方法である。
【0017】
請求項9は、前記請求項6において、前記受口部は、フレキシブルホースを介して上下方向に向きを変えられるように溶解槽に連結され、下向きにした受口部を、正立状態の容器に結合した後、容器を倒立させて、フレキシブルホースを介して容器内の透析用剤を溶解槽に投入することを特徴とする透析用剤の調製方法である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1以下の各請求項に記載の透析用剤の容器および調製方法によれば、袋状の容器の内側から容器の一端部に設定した開封部に向かって次第に拡径するテーパ状の注入部を形成し、このテーパ状の注入部の内周面が、溶解槽の投入口に設けられるテーパ状の受口部の外周面に嵌合するようにしたことから、前記テーパ状の注入部と受口部とが隙間無く嵌合し、しかもテーパ面同士の嵌合であるので、注入部と受口部のそれぞれの中心が一致するように正確に位置決めされる。
【0019】
この袋状の容器の注入部と溶解槽の受口部との密接な嵌合状態にて、例えば容器をその注入部が下向きになるように倒立させて、容器内の透析用剤を溶解槽に投入することにより、溶解槽の投入口よりも外側に透析用剤が飛散するのを確実に防止して、溶解槽の周辺を清浄に保つことができる。
【0020】
また、袋状の容器の注入部を開封して、その埃等が付着していない内周面を受口部の外周面に嵌合する構成としたことから、袋状の容器から溶解槽へと透析用剤を投入する際の埃等の浸入を確実に防止して、清浄度の高い透析液を調製することができる。
【0021】
さらに、この発明に係る袋状の容器の構成は、基本的にその注入部をテーパ状に形成するだけであり、二重底構造のもの等に比較して構成が簡潔であるので、容器としての材料コスト、製造コストを低減することができる。
【0022】
請求項2に記載の透析用剤の容器によれば、前記テーパ状の注入部を、横断面形状が略楕円形に形成された前記テーパ状の受口部に対応する寸法に形成したことから、袋状の容器を開口させるときの注入部の変形を必要最小限にして、これを無理なく受口部に嵌合することができる。
【0023】
請求項3に記載の透析用剤の容器によれば、前記テーパ状の注入部の細径部を、受口部の内径よりも小としたことから、容器内の透析用剤を溶解槽に投入する際に、容器から受口部へと流れる透析用剤は、テーパ状の注入部と受口部との間の嵌合面よりも内側の開口領域を通過する。従って、仮に前記嵌合面に隙間があったとしても、その部分に透析用剤が浸入して無駄を生じるおそれが少ない。
【0024】
請求項4に記載の透析用剤の容器によれば、前記テーパ状の注入部の細径部よりも容器内側に向かって次第に拡径するテーパ状の傾斜部を形成したことから、透析用剤を溶解槽へと投入する際に、この傾斜部が漏斗の役目を成して、容器内部の透析用剤を、テーパ状の注入部へと円滑に流れさせることができる。
【0025】
請求項5に記載の透析用剤の容器によれば、前記注入部と傾斜部との間に、内径が変化しない直線状通路部を形成したことから、透析用剤を溶解槽へと投入する際に、容器内部からテーパ状の注入部へと流れる透析用剤の流れを、この直線状通路部を介して投入方向に沿った流れに整えて、円滑に溶解槽へと流入させることができる。
【0026】
請求項6以下の各請求項に記載の透析用剤の調製方法によれば、容器両外側面からクランプで挟み込む工程の後に注入部の開封および受口部との嵌合を行い、その後にクランプを開放して容器内の透析用剤を溶解槽に投入するようにしたことから、容器注入部に埃や容器内の透析用剤が付着するのを防止して、受口部との間に密接な嵌合状態を形成することができる。これにより、容器内の透析用剤を無駄なく溶解槽に投入できると共に、より清浄な透析液を調製することが可能になる。
【0027】
また、袋状の容器の開封から受口部との嵌合に至るまで、クランプにより透析用剤を封入状態に保てる一方、溶解槽との結合後はクランプを開放するだけで容器内の透析用剤を溶解槽に投入することが可能になる。従って、容器の開封から透析液の溶解までの工程を、袋状の容器においても容易に自動化することができる。
【0028】
さらに、袋状の容器を開封する際にカッターを使用する場合、そのカッターの刃が透析用剤に直接触れることが無いので、透析用剤との接触に起因するカッターの劣化を起こさないという利点もある。
【0029】
特に、請求項7に記載の透析用剤の調製方法によれば、容器を溶解槽の受口部に結合する工程を、前記溶解槽に上向きに開口するように設けられた受口部に対して、前記容器を倒立させて行うようにしたことから、開封状態にある容器の注入部から埃等が浸入するおそれが少なく、より清浄な状態で受口部との嵌合を行うことができる。また、倒立状態で受口部との嵌合を行うので、この嵌合工程後にクランプを開放することで、溶解槽への透析用剤の投入を直ちに行うことができ、能率がよい。
【0030】
ただし、この発明においては、請求項8または請求項9に記載の透析用剤の調製方法のように、袋状の容器を、その注入部が上向きの正立状態にて開封し、受口部と嵌合させる手法を採るようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は、この発明に係る透析用剤の容器の一実施形態の正面図、(b)は同じく側面図である。
【図2】(a)は、前記透析用剤の容器が嵌合する溶解槽の受口部の一実施形態の平面図、(b)は同じく正面断面図である。
【図3】前記容器の注入部と溶解槽の受口部の開口寸法の関係を説明するための、要部の正面断面図である。
【図4】前記容器の注入部と溶解槽の受口部の角度関係を説明するための、要部の正面半断面図である。
【図5】(a)は、前記透析用剤の容器が嵌合する溶解槽の受口部の他の実施形態の平面図、(b)は同じく正面図である。
【図6−1】この発明に係る透析用剤の調製方法の一実施形態を示す第一の工程図である。
【図6−2】この発明に係る透析用剤の調製方法の一実施形態を示す第二の工程図である。
【図7】前記透析用剤の調製方法の実施形態において、容器を外側面からクランプで挟み込んでいる状態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<袋状の容器の実施形態>
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1の(a)は、透析用剤を収容する袋状の容器の一実施形態の正面図、(b)は同じく側面図である。なお、図の(b)は構造説明のために、透析用剤収容時の、容器が膨らんだ態様を想定して描いてある。
【0033】
前記袋状の容器11は、その全体が可撓性を有するシート材から形成してあり、2枚の矩形状シート材からなる略筒状の胴部12と、この胴部12内の下部に内側向きに折り曲げる態様で設けた底部13とを備えている。可撓性を有するシート材としては、例えばポリエステルのラミネートフィルム材やポリエチレンフィルムなど可撓性のある合成樹脂シート材を使用することができる。より具体的には、例えば厚さ10〜50μmのポリエステルフィルムと、厚さ10〜50μmの酸化ケイ素蒸着ポリエステルフィルムと、厚さ50〜100μmのポリエチレンフィルムとを積層したラミネートフィルム、あるいは厚さ10〜100μmのポリエチレンフィルムなどである。
【0034】
この実施形態では、2枚のシート材を重ね合わせ、図の(a)に太線で示した所要箇所を互いに溶着(接着または融着する場合を含む。以下同様。)することで袋状の容器11を形成している。
【0035】
即ち、両シート材の左右側縁の封止部S1,S1を溶着して、略円筒状の胴部12を形成すると共に、上端縁の封止部S2を溶着して、開封箇所となる胴部12の上端を封止している。また、胴部12の下端内側に内側向きに折り曲げた態様のシート材を配置して底部13とし、底部13は、その両下縁部を胴部12の2枚のシート材の下縁部に沿って溶着して封止部S3とすると共に、その下方部分の正面視がテーパー形となるように底部3のシート材の両側下部を胴部12の2枚のシート材と共に下部内側方向へ向けて斜めに溶着して封止部S4,S4を形成している。
【0036】
さらに、前記上端縁の封止部S2の左右端付近からそれぞれ内側下方に向けて封止部S5,S5を溶着し、これら一対の封止部S5,S5により、胴部12の上端縁から下方に向かって次第に径が小さくなるテーパ状の注入部14を形成している。この注入部14から下方には、互いに平行な一対の封止部S6,S6を溶着して、所定の長さにわたり一定の内径を有する直線状通路部15を形成し、さらに、この直線状通路部15に続くように、下部外側方向に向いた一対の封止部S7,S7を溶着して、下方に向かって次第に内径が大きくなる傾斜部16を形成している。
【0037】
前記封止部S7,S7の外側の端部は、容器胴部12を形成する左右側縁の封止部S1,S1と繋がっており、これにより、胴部12内は、開封端となる上端縁から下方に向かって、注入部14、直線状通路部15、傾斜部16が一連に連結した構成となっている。
【0038】
前記各封止部S1〜S7のうち、上端縁の封止部S2は、他の封止部を溶着して形成した袋状の容器に透析用剤を収容したのちに溶着されて、袋状の容器に収容された透析用剤として製品となる。
【0039】
図の(a)に1点鎖線L1で示したのは、傾斜部16の最大内径部である。これよりも下方の胴部12内は略円筒状をしており、透析用剤はこの円筒状部分に収容されるように、袋状の容器11の容量を決めてある。なお、透析用剤や容器容量の具体例については後述する。
【0040】
図の(a)に1点鎖線L2で示したのは開封のための切り離し箇所を示しており、前記封止部S2よりもやや内側域に設定してある。袋状の容器11には、前記の線L2に沿って多数の微小孔を形成するなどして、直線状に開封できるように図ることが望ましい。なお、全自動処理においては、注入部14および封止部S2の部分を自動機で挟んでから引っ張り、線L2に沿って切り離すか、またはカッターで切除して開封する。
【0041】
なお、この袋状の容器11の、袋としての基本構造および製造法は任意であり、前述したような複数のシート材を用いた構造および製造方法に限られるものではない。例えば、予め筒状に加工されたシート材の両端開口部を封止することで袋状の容器を形成するようにしてもよい。
【0042】
前記の袋状の容器11内に収納する透析用剤は、溶解時における化学反応を防止するためにA剤とB剤との2種類に分けて提供される。A剤はブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの成分を含んだ薬剤であり、B剤は炭酸水素ナトリウムを主成分とする薬剤である。そして、透析液を調製するには、例えばA剤を2682.0g、B剤を661.6g使用する。したがって、容器11は、透析液の調製に必要な前記何れかの使用量を収納可能な容量に設定している。例えば、A剤用の容器11の容量は約3リットル(幅約23cm、高さ約40cm)、B剤用の容器11の容量は約1リットル(幅約13cm、高さ約23cm)に設定する。また、これにより、容器11を見ただけでA剤かB剤かを容易に識別することができる。
【0043】
次に、前記袋状の容器11を、溶解槽に結合する部分の構成について説明する。図1の(b)に想像線(2点鎖線)で示したのは、前記袋状の容器11の上端部を開封して、テーパ状の注入部14の開口端を外側に開いた状態を示している。この状態で、注入部14はその平面形状が略楕円形をなすテーパ形状となる。この形状に対応するように、溶解槽(図示せず)の透析用剤の投入口には、図2に示したような受口部21が設けられる。
【0044】
図2の(a)は、前記受口部21の平面図、(b)は同じく正面断面図である。この受口部21は、図示したように、外形形状としては、上方に向かって細径となるテーパ形状をなし、平面形状としては略楕円形である。この場合、前記楕円形状の長径と短径の比は、約2対1としてある。この受口部21の細径部よりも内側は、軸方向に貫通した通路部22となっており、この通路部22を介して前記袋状容器11からの透析用剤を溶解槽へと流れ込ませる。なお、この受口部21の材質としては、粉末状の透析用剤や埃が付着しにくいように、例えばセラミクスなどの帯電性の低い材料を用いることが望ましい。
【0045】
図3は、前記容器11と受口部21とを結合した状態を示している。前述したようにして容器11を開封し、テーパ状の注入部14を開口させたうえで、内周面に、受口部21の外周面が嵌合するように、容器11を倒立状態にして結合させる。このとき、容器注入部14と受口部21とは、互いにテーパ面同士で嵌合するので、それぞれの中心が一致するように正確に位置決めされながらしっかりと嵌合する。
【0046】
この実施形態では、前記嵌合部分の横断面形状を略楕円形に設定してあることから、シート材から形成した袋状の容器11を開口させたときのテーパ状注入部14の変形量を必要最小限にして、無理なく受口部21に嵌合させることができる。
【0047】
また、この実施形態では、図3に示したように、前記嵌合状態において、袋状の容器11の直線状通路部15(または注入部14の細径部)の内径d1が、受口部21の通路部22の内径d2よりも小となるようにそれぞれの寸法を設定してある。この図は、正面視により通路部22の長径部分での寸法関係を示しているが、もちろんそれぞれの開口領域の全周にわたって、直線状通路部15の内径が通路部22の内径よりも小さくなるようにしてある。このようにしたことにより、容器11内の透析用剤を溶解槽に投入する際に、容器11から受口部21へと流れる透析用剤は、テーパ状の注入部14と受口部21との間の嵌合面よりも内側の開口領域を通過することになる。従って、仮に前記嵌合面に隙間があったとしても、その部分に透析用剤が浸入して無駄を生じるおそれが少なくなる。
【0048】
図4は、前記容器11のテーパ状の注入部14と受口部21の寸法設定の一例である。容器11は、その注入部14を開封する前の平坦な状態を示しており、この状態で封止部S2と封止部S5とがなす角度θ1が約45度となるように、前記封止部S5を形成してある。これに対して、前述したように、長径と短径の比が約2対1となるような横断面形状とした受口部21においては、長径方向の端部にて、その外周面が水平線となす角度θ2を、約50度以上に設定することで、注入部14とのあいだで適切な嵌合状態が得られる。
【0049】
なお、受口部21には、図示したように通路部22の上端開口縁部に沿って面取部23を形成してある。この面取部23は、袋状の容器11から落下してきた透析用剤が受口部21の開口縁部付近に落下してきた場合に、これを通路部22内に向けて案内することで、透析用剤が注入部14と受口部21との間の隙間に浸入するのを防止する作用を奏する。
【0050】
図5には、受口部21の他の形状例を示す。(a)はその平面図、(b)は同じく正面図である。この受口部21は、略楕円形の横断面形状を有するテーパ形に形成されている点で前記のものと概ね共通しているが、図の(a)に示したように、その横断面形状をなす楕円形の長軸方向の両端部をやや鋭角な稜部24としてある点で異なる。このような形状とすることにより、袋状容器11のテーパ状の注入部14を開口させたときに、この注入部14を形成する封止部S5の付近に生じ得るすきまが、前記両端の稜部24によって補填されるので、注入部14と受口部21とを、より密接に嵌合させることができる。
【0051】
この袋状の容器11の注入部14と溶解槽の受口部21とを、袋状の容器11をその注入部が下向きになるように倒立させ、図3に示したような密接な嵌合状態に結合してから袋状の容器11内の透析用剤を溶解槽に投入することにより、溶解槽の投入口よりも外側に透析用剤が飛散するのを確実に防止して、溶解槽の周辺を清浄に保つことができる。また、袋状の容器11の注入部14を開封して、その埃等が付着していない内周面を受口部21の外周面に嵌合する構成としたことから、袋状の容器11から溶解槽へと透析用剤を投入する際の、溶解槽への埃等の浸入を確実に防止して、清浄度の高い透析液を調製することができる。さらに、この袋状の容器11は、基本的にその注入部14をテーパ状に形成するだけであり、二重底構造のもの等に比較して構成が簡潔であるので、容器としての材料コスト、製造コストを低減することができる。
【0052】
一方、この実施形態では、テーパ状の注入部14の細径部および直線状通路部15よりも容器内側に向かって次第に拡径するテーパ状の傾斜部16を形成したことから、透析用剤を溶解槽へと投入する際に、この傾斜部16が漏斗の役目を成して、容器内部の透析用剤を、テーパ状の注入部14へと円滑に流れさせることができる。また、前記注入部14と傾斜部16との間に、内径が変化しない直線状通路部15を形成したことから、透析用剤を溶解槽へと投入する際に、容器胴部12からテーパ状の注入部14へと向かう透析用剤の流れを、この直線状通路部15を介して投入方向に沿った流れに整えて、円滑に溶解槽へと流入させることができる。
【0053】
溶解槽に投入された透析用剤は、溶解槽に注入された精製水に混合撹拌されて溶解し、透析液を形成する。この透析液の具体的な製法を例示すると次のとおりである。まず、前述したA剤をA剤用の溶解槽へ投入して9リットルのA原液を調製し、B剤をB剤用の溶解槽へ投入して11.34リットルのB原液を調製する。次に、A原液:B原液:水=1:1.26:32.74の比率で混合することにより、315リットルの透析液を調製する。
<透析用剤の調製方法の実施形態>
次に、前記袋状の容器11と受口部21とを用いた透析用剤の調製方法の実施形態につき説明する。この調製方法は、袋状の容器11を開封してから、容器内の透析用剤を溶解槽に投入するまでの工程を要点とするもので、透析液を全自動で調製する場合に好適な調製方法である。
【0054】
図6−1から図6−2にわたり、前記調製方法の工程を示す。図中の符号(P1)〜(P6)の数字は工程の順序を示している。図6−1の(P1)は、内部に透析用剤31を収容および封入した容器11を正立状態に保持した状態を示しており、図中の破線は、透析用剤31の収容レベルを示している。透析用剤の収容レベルは、前述したように、傾斜部16の最大内径部、またはそれよりもやや下方になるように設定し、容器11の正立状態では、このレベルよりも上方に透析用剤31が存在しない領域(空間部18)ができるようにしてある。
【0055】
図の(P2)では、前述のように成立状態に保持した袋状の容器11の空間部18を、クランプ32により両側から挟み込む。クランプ32は、例えば図7にも示したように、容器11の幅方向寸法よりも長い、一対の棒状部材32a,32aからなる。このクランプ32は、これら棒状部材32a,32aの間に袋状の容器11の外側を挟み込むことで、胴部12内の透析用剤31が、開封口である注入部14の側に移動しないように一時的に封止する作用を有する。なお、クランプ32は、これを袋状の容器11の製造過程または透析用剤の封入後にて、袋状の容器11に作り付ける態様のものとしてもよい。即ち、例えば合成樹脂材料からなる棒状部材を、袋状の容器11を構成するシート材の表面に接着等により一体的に設けておき、クランプ解除時にはこれを開放または除去するようにするのである。
【0056】
図の(P3)は、前記クランプ32による挟み込みの工程の後に、袋状の容器11の注入部14を開封した状態を示している。この開封操作は、前述したように、容器上端縁の封止部S2よりもやや内側域の部分をカッター等により横方向に切除することで行う。図では、切除する袋の切れ端19を容器11側から完全に切り離した態様で描いてあるが、このようにする代わりに、切れ端19がその端部にて袋状の容器11に連結しているように部分的に切り離すようにしてもよく、このようにすると、切れ端19を使用済みの容器11と一緒に廃棄処分することができるので好都合である。
【0057】
図の(P4)は、前記開封工程の後に、袋状の容器11をクランプ32で挟み込んだ状態のまま倒立させ、その注入部14を溶解槽の投入口に連通する受口部21に対向する位置に保持した状態を示している。この倒立状態では、容器内部の透析用剤31が重力により下方に落下しようとするが、前述したように、クランプ32が袋の外側の左右から袋状の容器11を挟み込んでいるので、透析用剤31が注入部14の側へ流れることはない。図7は、前記状態を袋状の容器11の側方から見た様子を示している。なお、前記(P3)の、袋状の容器11を開封する工程は、袋状の容器11を倒立させた後に行うようにしてもよい。
【0058】
図の(P5)は、前記の袋状の容器11を倒立させた状態から、受口部21に向かって下降させ、その注入部14を受口部21に嵌合した状態を示している。図中の符号25は、受口部21を溶解槽の投入口に連通する投入通路を示している。このとき、受口部21に、袋状の容器11の重量がある程度加わるように保持することにより、前述したように、注入部14の内周面と受口部21の外周面との間のテーパ面同士による嵌合に基づき、注入部14と受口部21とはしっかりと密着した状態で結合する。なお、袋状の容器11の注入部14を受口部21に嵌合させるまでの過程で、前記嵌合が可能な程度にまで注入部14を開口させるために、必要に応じて、例えば注入部14の両側面をバキュームエアーで吸引するなどして開口を促すようにしてもよい。また、袋状の容器11を構成するシート材の剛性が不足する場合には、前記嵌合操作に伴い、注入部14にしわが生じるなどの変形を起こすことがある。このような場合を含めて、注入部14と受口部21との嵌合状態をより確実にするためには、受口部21に嵌合した注入部14の周囲を、シリコンゴムなどの弾性体からなるベルトまたは帯状の治具で緊締するようにしてもよい。
【0059】
図の(P6)は、前記の袋状の容器11を受口部21に連結した状態から、クランプ32を開放した状態を示している。クランプ32を開放することにより、それまでクランプ32により封止されていた透析用剤31が自重で下方に流れ出し、袋状の容器11の傾斜部16、直線状通路部15、注入部14、受口部21、投入通路25を通って溶解槽内へと落下する。このとき、容器内部の透析用剤31の落下を促すために、袋状の容器11を外部から加振または加圧するようにしてもよい。
【0060】
このようにして、この調製方法によれば、袋状の容器11の両側面からクランプ32で挟み込む工程の後に注入部14の開封および受口部21との嵌合を行い、その後にクランプ32を開放して容器内の透析用剤31を溶解槽に投入するようにしたことから、容器注入部14に埃や容器内の透析用剤粉が付着するのを防止して、受口部21との間に密接な嵌合状態を形成することができる。これにより、容器内の透析用剤を無駄なく溶解槽に投入できると共に、より清浄な透析液を調製することが可能になる。
【0061】
また、袋状の容器11の開封から受口部21との嵌合に至るまで、クランプ32により透析用剤31を封入状態に保てる一方、溶解槽との結合後はクランプ32を開放するだけで容器内の透析用剤31を溶解槽に投入することが可能になる。従って、袋状の容器11の開封から透析液の溶解までの工程を、袋状の容器11においても容易に自動化することができる。
【0062】
さらに、袋状の容器11を開封する際にカッターを使用する場合、そのカッターの刃が透析用剤31に直接触れることが無いので、透析用剤31との接触に起因するカッターの劣化を起こさないという利点もある。
【0063】
この実施形態では、袋状の容器11を溶解槽の受口部21に結合する工程を、前記溶解槽に上向きに開口するように設けられた受口部21に対して、前記袋状の容器11を倒立させて行うようにしたことから、開封状態にある袋状の容器11の注入部14から埃等が浸入するおそれが少なく、より清浄な状態で受口部21との嵌合を行うことができる。また、倒立状態で受口部21との嵌合を行うので、この嵌合工程後にクランプ32を開放することで、溶解槽への透析用剤31の投入を直ちに行うことができ、能率がよい。
【0064】
これに対して、袋状の容器11を正立状態、つまりその注入部14を上に向けた状態で、受口部21を嵌合する方法を採ることも可能である。このためには、例えば、受口部21を溶解槽に対して着脱自在に構成し、溶解槽から離脱させた受口部21を、正立状態の袋状の容器11に結合した後、袋状の容器11を倒立させて、前記溶解槽の投入口に連結するようにする。あるいは、受口部21を、フレキシブルホース(図示せず)を介して上下方向に向きを変えられるように溶解槽に連結し、下向きにした受口部21を正立状態の袋状の容器11に結合した後、袋状の容器11を倒立させて、フレキシブルホースを介して容器内の透析用剤を溶解槽に投入するようにする。
【0065】
前述した各実施態様は、この発明の具体的な構成例の一部を示したものに過ぎず、即ちこの発明の内容は、これら実施形態の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0066】
11 袋状の容器
12 容器の胴部
13 容器の底部
S1〜S7 容器の封止部
14 注入部
15 直線状通路部
16 傾斜部
18 空間部
19 切れ端
21 受口部
22 通路部
23 面取り部
24 稜部
25 投入通路
31 透析用剤
32 クランプ
32a クランプの棒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するシート状材料からなり、内部に固形型透析用剤を封入する袋状の透析用剤の容器であって、前記容器の内側から容器の一端部に設定した開封部に向かって次第に拡径するテーパ状の注入部を形成し、このテーパ状の注入部は、その内周面を、溶解槽の投入口に設けられるテーパ状の受口部の外周面に嵌合するように形成してあることを特徴とする透析用剤の容器。
【請求項2】
前記テーパ状の注入部は、横断面形状が略楕円形に形成された前記テーパ状の受口部に対応する寸法に形成してあることを特徴とする請求項1に記載の透析用剤の容器。
【請求項3】
前記テーパ状の注入部の細径部は、前記テーパ状の受口部の内径よりも小としてあることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の透析用剤の容器。
【請求項4】
前記テーパ状の注入部の細径部よりも容器内側に向かって次第に拡径するテーパ状の傾斜部を形成してあることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の透析用剤の容器。
【請求項5】
前記注入部と傾斜部との間に、内径が変化しない直線状通路部を形成してあることを特徴とする請求項4に記載の透析用剤の容器。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5の何れかに記載の袋状の容器に密封された透析用剤を溶解槽に投入して透析液を調製する方法であって、
前記容器を、その注入部が上向きになるように正立させた状態で、容器内部の透析用剤よりも上方かつ注入部よりも下方の空間部分を容器両外側面からクランプで挟み込む工程、
前記クランプで挟み込む工程の後に、前記容器の注入部を開封する工程、
前記容器の注入部を開封する工程の後に、前記容器の注入部を、その内周面が、溶解槽に連通するテーパ状の受口部の外周面に嵌合するように、結合する工程、
前記容器を溶解槽の受口部に結合する工程の後に、前記容器を倒立状態に保持し、前記クランプを開放して、容器内の透析用剤を溶解槽内に投入する工程、
とを有することを特徴とする透析用剤の調製方法。
【請求項7】
前記容器を溶解槽の受口部に結合する工程は、前記溶解槽に上向きに開口するように設けられた受口部に対して、前記容器を倒立させて行うようにしたことを特徴とする請求項6に記載の透析用剤の調製方法。
【請求項8】
前記受口部は、前記溶解槽に対して着脱自在に構成され、溶解槽から離脱させた受口部を、正立状態の容器に結合した後、容器を倒立させて、前記溶解槽に連結することを特徴とする請求項6に記載の透析用剤の調製方法。
【請求項9】
前記受口部は、フレキシブルホースを介して上下方向に向きを変えられるように溶解槽に連結されており、下向きにした受口部を、正立状態の容器に結合した後、容器を倒立させて、前記フレキシブルホースを介して容器内の透析用剤を溶解槽に投入することを特徴とする請求項6に記載の透析用剤の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56093(P2011−56093A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210046(P2009−210046)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】